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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E04G
管理番号 1113867
審判番号 無効2002-35466  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-10-29 
確定日 2004-10-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3060175号「壁面の表層剥離方法」の特許無効審判事件についてされた平成15年 6月 9日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成15年(行ケ)第0313号平成15年12月18日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3060175号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成10年11月 6日 特許出願(特願平10-331996号)
平成12年 4月28日 設定登録(第3060175号)
平成14年10月29日 本件無効審判請求
(無効2002-35466号)
平成15年 1月21日 答弁書及び訂正請求書
平成15年 4月22日 弁駁書
平成15年 6月 9日 審決(訂正を認める。特許第3060175号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。)
平成15年 7月16日 東京高等裁判所へ出訴
(平成15年(行ケ)第313号)
平成15年 8月29日 訂正審判請求(訂正2003-39182号)
平成15年11月 6日 訂正2003-39182号の審決
(訂正を認める。)
平成15年12月18日 平成15年(行ケ)第313号判決言渡(無効2002-35466号事件について平成15年6月9日にした審決を取り消す。)
平成16年 1月30日 審尋(請求人宛)
平成16年 2月18日 審尋回答書
平成16年 3月10日 無効理由通知
平成16年 4月14日 被請求人より意見書及び訂正請求書
平成16年 5月25日 弁駁書

2.当事者の主張及び無効理由通知の要旨
(1)請求人の主張
請求人は審判請求書において、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり特許法第29条第1項に該当する、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、もしくは甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから同法第29条第2項に違反し、請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、請求項4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて各々当業者が容易に発明できたものであるから同法第29条第2項に違反し、いずれも特許を受けることができないものである旨主張し、訂正審判(2003-39182号)により訂正後の請求項1に係る発明については、平成16年2月18日付け審尋回答書において、甲第1号証、甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて、請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから各々同法第29条第2項に違反し、いずれも特許を受けることができないものである旨主張する。
(2)被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、請求人主張の無効理由はない旨主張し、無効理由通知後の意見書において、平成16年4月14日付けの訂正請求書による訂正後の請求項1に係る発明は、無効理由において引用した刊行物に記載されておらず、それら引用刊行物を組み合わせて訂正後の発明を想到することはできないものである旨主張する。
(3)無効理由通知の要旨
平成16年3月10日付けでした無効理由通知の要旨は、刊行物として、特公平4-19350号公報(請求人提出の甲第1号証)、特開平6-235512号公報(同甲第2号証)、特開平9-248695号公報(同甲第9号証)、特開平6-190482号公報(同甲第10号証)、特開平6-294220号公報(同甲第4号証)、特開平8-270229号公報(同甲第6号証)を引用して、訂正審判による訂正後の請求項1に係る発明は刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、請求項2に係る発明は刊行物1〜4に記載された発明及び周知技術に基づいて、いずれも当業者が容易に発明できたものであるから特許法29条2項に違反し、同法123条1項8号の規定により無効とすべきものであるというものであった。

3.訂正の適否
(1)平成16年4月14日付け訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1を削除し、請求項2を請求項1として、さらに請求項1を次のように訂正する。
「【請求項1】 建造物の躯体強度を担う壁強度層(Wa)の表面に別素材で表層(Wb)を付着した構造の壁面(W)の表層剥離方法において、壁面(W)は、鉄皮の壁強度層(Wa)の内側表面に耐火材を厚く表層(Wb)として付着させた煙突又は煙道(C)の壁面(W)であり、この壁面(W)を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃(1a)である切断機(1)で壁強度層(Wa)近くまでの深さに、表層(Wb)の内部に鉄筋(Wc)、金網(Wd)があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝(We)を設けて壁面(W)を切溝(We)によって小さな面積の区画に切り分け、
前記縦横の切溝(We)の形成は、煙突又は煙道(C)内に吊り下げられたゴンドラ式足場(3)の上方に水平に設けられた横杆(2d)に、この横杆(2d)に沿って滑って移動可能な吊りフック(2c)を介してバランサー機能を有するバランサー(2)を取付け、バランサー(2)のワイヤ(2a)の下端の連結フック(2b)を、回転刃(1a)が取付けられた保護ケーシング(1c)からコ字状に突出させたワイヤ吊り杵(1e)のワイヤ吊り部(lf,1g)に掛けて切断機(1)をバランサー(2)によって吊り下げて行い、
前記ワイヤ吊り杆(le)は、前記保護ケーシング(lc)から回転刃(la)を含む面に対して横方向に延びる第1の部分と、該第1の部分から前記回転刃(la)を含む面に沿って延びる第2の部分と、該第2の部分から前記保護ケーシング(lc)に向かって延びる第3の部分とでコ字状をなしており、前記ワイヤ吊り杆(le)は、前記第1の部分に設けられた第1のワイヤ吊り部(lf)と、前記第2の部分に設けられた第2のワイヤ吊り部(1g)とを有し、前記縦の切り溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)に設けられた2つのワイヤ吊り部(lf,1g)のうちの一方である前記第1のワイヤ吊り部(1f)に掛けて、切断機(1)の回転刃(1a)を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)の他方である前記第2のワイヤ吊り部(1g)に掛け、切断機(1)を水平にし、水平に切削して形成し、
切断機(1)の保護ケーシング(lc)には、回転刃(la)の外周の回転送り方向に且つ切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズル(li)と、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体(lk)とが取付けられており、該飛散防止体(lk)は、噴水ノズル(li)の反対側の位置において、回転刃(la)を含む面に対して横方向に且つ切断すべき壁面(W)に対向するように、保護ケーシング(lc)に対して取付けられており、前記飛散防止体(lk)によって、切断中、水及び切粉の飛散を防止し、
次に各区画領域の表層部分(Wb)を壁強度層(Wa)から引き剥して壁面(W)の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。」
(イ)訂正事項2
明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落0004を次のとおり訂正する。(当審注:訂正請求書3頁ないし5頁の訂正事項bの記載と訂正明細書の記載とが整合しないため、訂正明細書のとおり認定した。)
「【課題を解決するための手段】かかる課題を解決した本発明の構成は、建造物の躯体強度を担う壁強度層(Wa)の表面に別素材で表層(Wb)を付着した構造の壁面(W)の表層剥離方法において、壁面(W)は、鉄皮の壁強度層(Wa)の内側表面に耐火材を厚く表層(Wb)として付着させた煙突又は煙道(C)の壁面(W)であり、この壁面(W)を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃(1a)である切断機(1)で壁強度層(Wa)近くまでの深さに、表層(Wb)の内部に鉄筋(Wc)、金網(Wd)があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝(We)を設けて壁面(W)を切溝(We)によって小さな面積の区画に切り分け、前記縦横の切溝(We)の形成は、煙突又は煙道(C)内に吊り下げられたゴンドラ式足場(3)の上方に水平に設けられた横杆(2d)に、この横杆(2d)に沿って滑って移動可能な吊りフック(2c)を介してバランサー機能を有するバランサー(2)を取付け、バランサー(2)のワイヤ(2a)の下端の連結フック(2b)を、回転刃(1a)が取付けられた保護ケーシング(1c)からコ字状に突出させたワイヤ吊り杆(1e)のワイヤ吊り部(lf,1g)に掛けて切断機(1)をバランサー(2)によって吊り下げて行い、前記ワイヤ吊り杆(le)は、前記保護ケーシング(lc)から回転刃(la)を含む面に対して横方向に延びる第1の部分と、該第1の部分から前記回転刃(la)を含む面に沿って延びる第2の部分と、該第2の部分から前記保護ケーシング(lc)に向かって延びる第3の部分とでコ字状をなしており、前記ワイヤ吊り杆(le)は、前記第1の部分に設けられた第1のワイヤ吊り部(lf)と、前記第2の部分に設けられた第2のワイヤ吊り部(1g)とを有し、前記縦の切り溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)に設けられた2つのワイヤ吊り部(lf,1g)のうちの一方である前記第1のワイヤ吊り部(1f)に掛けて、切断機(1)の回転刃(1a)を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)の他方である前記第2のワイヤ吊り部(1g)に掛け、切断機(1)を水平にし、水平に切削して形成し、切断機(1)の保護ケーシング(lc)には、回転刃(la)の外周の回転送り方向に且つ切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズル(li)と、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体(lk)とが取付けられており、該飛散防止体(lk)は、噴水ノズル(li)の反対側の位置において、回転刃(la)を含む面に対して横方向に且つ切断すべき壁面(W)に対向するように、保護ケーシング(lc)に対して取付けられており、前記飛散防止体(lk)によって、切断中、水及び切粉の飛散を防止し、次に各区画領域の表層部分(Wb)を壁強度層(Wa)から引き剥して壁面(W)の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法によって達成することができる。」
(ウ)訂正事項3
誤記の訂正を目的として、発明の詳細な説明の段落0006の「連結フック2bをワイヤ吊り杆leのワイヤつり部leに掛け直し」を、「連結フック2bをワイヤ吊り杆leのワイヤ吊り部1gに掛け直し」に訂正する。
(エ)訂正事項4
誤記の訂正を目的として、図6に記載された符号「lf」を「li」に、「2c」を「2d」に、「2d」を「2c」に訂正する。

(2)訂正の適否
上記訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項のワイヤ吊り杆を限定すると共に、噴水ノズルと飛散防止体を限定し、符号を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項を訂正したことによる明細書の記載を整える訂正であるから、明細書の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3、4は明細書の明らかな誤記を訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。
さらに、上記訂正は、いわゆる新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、平成15年改正前の特許法第134条第2項ただし書き、及び、同条第5項において準用する特許法第126条第2項、第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.本件訂正発明
上記のように平成16年4月14日付けの訂正請求は適法なものであるので、訂正後の請求項1に係る発明は、上記訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記3、(1)、(ア)に記載とおりのものと認める。
(以下、請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)

5.当審の判断
(1)平成16年3月10日付け無効理由通知において引用した刊行物に記載された事項
(ア)本件出願前に頒布された刊行物である特公平4-19350号公報(請求人提出の甲第1号証、以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
「煙突、ダクト等の構造物に施工されたライニング材の解体工法に関する」(第1欄第15〜16行)
「建造物内面に施こされる耐熱、耐酸性のライニングは、一般に例えば構造物の鋼板1面に一定間隔でスタツド3を取付け、このスタツド3上に縦筋4、横筋5を溶接して取付け、これにラス6を溶接して取付け、これらを補強材として内蔵させるようにセメント系、その他のモルタルを吹付、固化させているのが普通である。」(第3欄第14〜21行)
「ウオータージエツト7を用いて縦横に格子状にライニング材2を溝堀して鋼板1面まで露出させる。」(第3欄第27〜29行)
「カッター8を用いてラス6、横筋5及び縦筋4を切断し、溝で切られた角形のブロック状の残されたライニング材2を各々独立した状態にする。」(第3欄第33〜36行)
「ブロツクの裏溝個所にバール9の先を挿入し、こじることにより壁面1に残るライニングのブロツクを掻き落す。」(第4欄第3〜6行)
そして、第1図には、厚いライニング材2が示されている。
上記記載を含めた明細書全体の記載及び第1〜6図の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「構造物の鋼板1の表面に別素材でライニング材2を吹付、固化した構造の壁面のライニング材の解体方法において、壁面は、鋼板1の内側表面に耐熱材を厚くライニング材として吹付、固化させた煙突、ダクトの壁面であり、この壁面を、ウオータージエツト7で鋼板1までの深さに、格子状に縦横の溝を設けて壁面を溝によって小さな面積のブロツクに分け、次に、鉄筋、金網をカッターで切断し、次に各ブロツクのライニング材部分を鋼板1から掻き落して壁面のライニング材全体を解体する壁面のライニング材の解体方法。」
(イ)同じく特開平6-235512号公報(同甲第2号証、以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
「カッタによって煙突ライニングに溝を形成する」(段落【0009】)
「煙突ライニングの補修装置10はワイヤロープ12を介してゴンドラウインチ14に接続されており、煙突16内を昇降するように吊り下げられている。」(段落【0019】)
「図2に示すように、補修装置10には、ゴンドラ28と、このゴンドラ28の床30上に設けられ作業台32とが備えられている。また、作業台32に設けられたフレーム34には床30に対してほぼ垂直になるようにシャフト36が設けられており、さらにこのシャフト36には6枚の中空円盤38が嵌入されている。後述する図4に示すように、この中空円盤38の周縁部には4つのカッタ40が取り外し自在に取り付けられており、このカッタ40の取付位置と長さを変えることによって形成される溝の深さを調整するようになっている。」(段落【0020】)
「図3、図4に示すように、床30上には煙突16の内周42に沿ってレール44が設けられており(図4ではレール44を図示していない。)、作業台32にはこのレール44の上を転動する2つのガイドローラ46a、46bと、ガイドローラ46aを回転させるためのモータ48とが設けられている。さらに、作業台32を支えて床30上を回転する2つのゴムローラ50a、50bが設けられている。」(段落【0021】)
「一枚の中空円盤38には複数のカッタ40が取り付けられるので、原動機60でシャフト36を回転させる・・・本実施例では円盤の周縁部にカッタを取り付ける構成にしたが、円盤状カッタをシャフトに嵌入させる構成としても良い。」(段落【0026】)
「煙突16の外周鋼板62の内側に形成された下層ライニング64上に形成されている上層ライニング66に、複数の溝68a〜68cが形成されている状態を示す。隣り合う溝の間隔は隣り合う円盤の間隔と等しくなっており、図6では上方3つの円盤によって形成された溝だけを示している。補修装置10を使用することにより複数の環状の溝68a〜68cを無人で形成でき、ゴンドラ28を徐徐に降下させて環状の溝を連続的に形成させることによって溝の幅を広げ、ライニング66を解体することができる。図4のシャフト36に小さな等間隔で螺旋状にカッタ40を配すれば、連続的に解体する事が出来る。このように溝を形成してライニングを解体するので、発生する騒音が低下し、さらに作業効率が良くなる。」(段落【0027】)
「なお、複数の溝の形成を補修装置10で行い、残りの部分のライニングは従来の方法で除去しても良く、この場合は、溝が形成されているので従来より容易にしかも低騒音で残り部分のライニングが除去されることとなる。」(段落【0028】)
(ウ)同じく特開平9-248695号公報(同甲第9号証、以下、「刊行物3」という。)には、以下の記載がある。
「図1及び図2において、1は図6〜図8に示した吊上げ下継ぎ架設方法のもとで、後述する要領により全高さ仮組み架設した煙突筒身31内を巻上索2により昇降可能に支持して設けたゴンドラである。ゴンドラ1は、放射方向の上梁組み1aと下梁組1bを複数の支柱1cにより一体結合した骨組み構造に構成し、下梁組1b上を床3とし手摺り3aを備え、筒身31と同心のリング状ガイドレール5を上梁組1aから支持材4を介し中間高さ位置に固定して設けている。」(段落【0011】)
「6はリング状ガイドレール5上に係合し走行可能に設けた1台または複数台のツインアーク式自動溶接機、7は床3上に設けた前記自動溶接機6のための溶接用電源装置である。」(段落【0012】)
(エ)同じく特開平6-190482号公報(同甲第10号証、以下、「刊行物4」という。)には、以下の記載がある。
「そしてこの結束機10は、前記バランサー14を天井に配設したレール22に懸吊支持することにより、縦筋16と横筋17との結束位置に応じて移動可能に構成されている。なお縦筋16と横筋17とは、床面と平行に配置した状態で結束作業を行なったり、側壁面と平行に配置した状態で結束作業を行なう場合があり、前記結束機10では、何れの場合にも対応し得るように、図1(a),(b)に示す如く、バランサー14による懸吊状態を変えることができるようになっている。」(段落【0007】)
「前記上部の横材13aに取付板30が立設され、この取付板30にバランサー14が着脱自在に取付けられている。バランサー14は、図1に示す如く、天井に配設したレール22に移動自在に載架した台車31に懸吊支持され、これによりワイヤリール12の支持具13は、前記縦筋16と横筋17との結束個所に応じてバランサー14と共にレール22に沿って移動し得るよう構成される。」(段落【0010】)
【図1】には、バランサー14に吊りフックが設けられ、バランサー14は、台車31を介してレール22に沿って移動可能であり、結束機本体15が側壁面と平行に配置されるようにバランサーのワイヤの下端を、結束機本体15の2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に連結して、床面と平行に配置したり、バランサーのワイヤの下端を結束機本体15の他方のワイヤ吊り部に連結して、結束機本体15を側壁面と平行に配置することが示されている。
(オ)同じく特開平8-270229号公報(同甲第6号証)には、以下の記載がある。
「ベース7には、カッターブレード(カッターディスク)6の回転軸6aを回転させるモータ9と、ブレードの回転軸6aを支承する軸受け部材10と、半円形カバー11とが取り付けられている。」(段落【0010】)
「切断作業中は、冷却水供給管から冷却水をブレードに供給する。この冷却水と、切断によって生じる繰粉は、ブレードの回転により遠心力で回転方向に跳ね飛ばされるが、このカッターディスク装置1には、従来の半円形カバーの他に該半円形カバーの外側を覆うスライド式カバー50が設けられており、その下端部が柔軟なシール材58を介して被切断物表面に接しているので、上記冷却水等の外部への飛散が防止される。」(段落【0019】)

(2)対 比
本件訂正発明と刊行物1(特公平4-19350号公報)記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「構造物の鋼板1」、「ライニング材2」、「吹付、固化」、「ライニング材の解体方法」、「鋼板1」、「耐熱材」、「煙突、ダクト」、「ブロツク」、「掻き落し」、及び、「解体」は、それぞれ本件訂正発明の「建造物の躯体強度を担う壁強度層」、「表層」、「付着」、「表層剥離方法」、「鉄皮の壁強度層」、「耐火材」、「煙突又は煙道」、「区画」、「引き剥し」、及び、「剥離」に相当するから、両発明は、
「建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において、壁面は、鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり、この壁面を、壁強度層近くまでの深さに、格子状に縦横の溝を設けて壁面を溝によって小さな面積の区画に分け、次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離する壁面の表層剥離方法。」
の点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点1:溝を設ける方法に関し、本件訂正発明は、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で、表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して切溝を設けて壁面を切溝によって区画に切り分けるのに対し、刊行物1記載の発明は、ウオータージエツトで溝を形成し、鉄筋、金網はカッターで切断している点。
相違点2:本件訂正発明は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に沿って滑って移動可能に切断機を吊り下げるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのようになっていない点。
相違点3:本件訂正発明は、横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、ワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行うのに対し、刊行物1記載の発明は、そのようになっていない点。
相違点4:本件訂正発明は、ワイヤ吊り杆は、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させ、保護ケーシングから回転刃を含む面に対して横方向に延びる第1の部分と、該第1の部分から前記回転刃を含む面に沿って延びる第2の部分と、該第2の部分から前記保護ケーシングに向かって延びる第3の部分とでコ字状をなしており、前記ワイヤ吊り杆は、前記第1の部分に設けられた第1のワイヤ吊り部と、前記第2の部分に設けられた第2のワイヤ吊り部とを有し、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方である前記第1のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方である前記第2のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成するのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような方法で溝を形成するものではない点。
相違点5:本件訂正発明は、切断機の保護ケーシングには、回転刃の外周の回転送り方向に且つ切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とが取付けられており、該飛散防止体は、噴水ノズルの反対側の位置において、回転刃を含む面に対して横方向に且つ切断すべき壁面に対向するように、保護ケーシングに対して取付けられており、前記飛散防止体によって、切断中、水及び切粉の飛散を防止しているのに対し、刊行物1記載の発明は、そのようになっていない点。

(3)判 断
(ア)相違点1について
刊行物2には、原動機で作動する円盤状カッタ(本件訂正発明の「回転刃」に相当。)でライニング(同「表層」)に溝を形成することが記載されており、その駆動源を空気・油圧・電気とすることは、単なる周知慣用手段の転換にすぎず、コンクリート等と鉄筋を一緒に切断することは本件特許出願前に周知の技術(特開昭61-90874号公報、特開昭52-57580号公報、特開平9-41326号公報)であるから、刊行物1記載の発明の溝形成装置であるウオータージエツトに代え、駆動源を周知の空気・油圧・電気とした円盤状カッタを用い、その際、鉄筋があれば一緒に切断することにより、本件訂正発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(イ)相違点2について
刊行物3には、煙突内の溶接作業において、煙突内に吊り下げられたゴンドラ1(本件訂正発明の「ゴンドラ式足場」に相当する。)の上方に水平に設けられたリング状ガイドレール(同「横杆」)に沿って走行可能な自動溶接機6(「作業機」で本件訂正発明と共通する。)を設けることが記載されており、自動溶接機6は、リング状ガイドレールに沿って吊り下がった状態で走行するものである。
そして、刊行物1記載の溝の形成は、刊行物3記載のものと同様、煙突内で作業機を使用して行うものであるから、刊行物1記載の発明に、刊行物3記載のゴンドラ式足場を用い、その際、作業機を吊り下げ式の切断機とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。
なお、作業機を吊り下げることは、特開平6-190482号公報(刊行物4、請求人提出の甲第10号証)、特開平8-197441号公報(同甲第13号証)にも記載されているように本件特許出願前に周知の事項である。

(ウ)相違点3について
刊行物4には、結束機に関してではあるが、レール22(本件訂正発明の「横杆」に相当する。)に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサー14(同「バランサー」)を取付け、バランサーのワイヤの下端を作業機としての結束機本体15(「作業機械」で本件訂正発明と共通する。)の2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に連結したり、他方のワイヤ吊り部に連結して結束機本体15の向きを変更することが記載されており、また、溝形成装置として回転刃を有するカッターは周知技術であることを考慮すると、刊行物1記載の発明の溝形成装置であるウオータージェットに代えて、刊行物4記載のバランサー機能を有する作業機を用い、その際、作業機を周知の回転刃を有するカッターとすることにより、本件訂正発明の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(エ)相違点4について
本件訂正発明は、ワイヤ吊り杆の構成を相違点4に係る構成としたものであるが、特に「コ字状」とした技術的意義については、明細書において何ら記載されておらず、ワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部1f、1gにおいて切断機の向きを変えることしか記載されていないことから、ワイヤ吊り杆の構成を「コ字状」とした技術的意義は、切断機の吊り下げ位置を変えることができるようにしたことにあると解される。
そして、バランサーのワイヤの下端を作業機のワイヤ吊り部の位置を変えること、及び、回転するカッター(同「回転刃」)に半円形カバー(同「保護ケーシング」)を取り付けることは、本件特許出願前に周知の技術であり(ワイヤ吊り部の位置を変えることは、刊行物4や特開平8-197441号公報(請求人提出の甲第13号証)を、カバーについては、実願昭56-157236号(実開昭58-61171号公報)のマイクロフィルム(同甲第17号証)や特開平8-270229号公報(同甲第6号証)を参照のこと)、吊り下げられた切断機(回転刃を有するカッター)にて縦横の溝を形成する場合に、作業しやすいように、切断機の向きを変えることは当然想定できるものであるから、刊行物1記載の発明のような煙突内の縦横の溝形成作業に当たり、回転するカッターを用いる場合に、バランサーのワイヤの下端に吊り下げられたカッター(作業機)の向きを変えるためにワイヤ吊り部を設けることによって、本件訂正発明の相違点4のようにすることは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明の上記相違点4に係る構成は当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

なお、被請求人は、平成16年4月14日付け意見書において、ワイヤ吊り杆を相違点4に係る構成としたことによって、縦横いずれの方向の切溝を形成する際にも、ワイヤ吊り杆の何れかの部分を、都合よく、作業者が握る部分として利用でき、安全且つ容易に作業を行うことができるという作用効果を奏する旨主張する(意見書21頁21行〜24行)。
しかしながら、当該作用効果は、明細書には全く記載されていない事項であり、吊り杆に関しては、図面に記載された事項以外には、切断機の吊り下げ位置を変える機能以外には何ら記載されておらず、また、被請求人主張の作用効果が当業者にとって当然に予想可能な事項ともいえない(被請求人主張の作用効果を奏するためには、ワイヤ吊り杆の強度が大きいことを要し、また、切溝を形成する際に第2部分を握って大きな力を加えても、回転刃に対して傾けるモーメントが作用するから、切溝を形成するに当たり壁面に効果的に力が作用するとはいえない)から、被請求人主張の上記主張は採用できない。

(オ)相違点5について
回転刃を有する切断機において、回転刃の外周の回転送り方向に且つ切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルを設けることは本件特許出願前に周知の事項(実願昭60-56032号(実開昭61-172796号公報)のマイクロフィルム、特開平3-277509号公報を参照のこと)であり、また、回転刃を有する切断機において、水を噴射させた場合に飛散する水が広がらないようにする手段を設けることは本件特許出願前に周知の事項(特開平8-270229号公報(請求人提出の甲第6号証)、特開平7-106284号公報(同甲第7号証)を参照のこと)であって、さらに、一般に、回転する部材に水がかかった場合に飛散する水が外周に拡がらないように飛散防止体を設けることは例を挙げるまでもなく周知の事項である。
そうすると、刊行物1記載の発明の溝形成手段であるウオータージェットに代えて、回転刃からなる切断機を採用する際に、上記した周知の事項を適用することによって上記相違点5に係る構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(カ)そして、本件訂正発明の構成によってもたらされる効果も、刊行物1〜4記載の発明及び周知技術から当業者が容易に予測しうる程度のものである。

4.むすび
以上のように、本件訂正発明は、刊行物1〜4に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができ、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第8号に該当し無効とすべきものである。
審判に係る費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
壁面の表層剥離方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 建造物の躯体強度を担う壁強度層(Wa)の表面に別素材で表層(Wb)を付着した構造の壁面(W)の表層剥離方法において、壁面(W)は、鉄皮の壁強度層(Wa)の内側表面に耐火材を厚く表層(Wb)として付着させた煙突又は煙道(C)の壁面(W)であり、この壁面(W)を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃(1a)である切断機(1)で壁強度層(Wa)近くまでの深さに、表層(Wb)の内部に鉄筋(Wc)、金網(Wd)があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝(We)を設けて壁面(W)を切溝(We)によって小さな面積の区画に切り分け、
前記縦横の切溝(We)の形成は、煙突又は煙道(C)内に吊り下げられたゴンドラ式足場(3)の上方に水平に設けられた横杆(2d)に、この横杆(2d)に沿って滑って移動可能な吊りフック(2c)を介してバランサー機能を有するバランサー(2)を取付け、バランサー(2)のワイヤ(2a)の下端の連結フック(2b)を、回転刃(1a)が取付けられた保護ケーシング(1c)からコ字状に突出させたワイヤ吊り杆(1e)のワイヤ吊り部(1f,1g)に掛けて切断機(1)をバランサー(2)によって吊り下げて行い、前記ワイヤ吊り杆(1e)は、前記保護ケーシング(1c)から回転刃(1a)を含む面に対して横方向に延びる第1の部分と、該第1の部分から前記回転刃(1a)を含む面に沿って延びる第2の部分と、該第2の部分から前記保護ケーシング(1c)に向かって延びる第3の部分とでコ字状をなしており、前記ワイヤ吊り杆(1e)は、前記第1の部分に設けられた第1のワイヤ吊り部(1f)と、前記第2の部分に設けられた第2のワイヤ吊り部(1g)とを有し、前記縦の切り溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)に設けられた2つのワイヤ吊り部(1f,1g)のうちの一方である前記第1のワイヤ吊り部(1f)に掛けて、切断機(1)の回転刃(1a)を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)の他方である前記第2のワイヤ吊り部(1g)に掛け、切断機(1)を水平にし、水平に切削して形成し、
切断機(1)の保護ケーシング(1c)には、回転刃(1a)の外周の回転送り方向に且つ切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズル(1i)と、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体(1k)とが取付けられており、該飛散防止体(1k)は、噴水ノズル(1i)の反対側の位置において、回転刃(1a)を含む面に対して横方向に且つ切断すべき壁面(W)に対向するように、保護ケーシング(1c)に対して取付けられており、前記飛散防止体(1k)によって、切断中、水及び切粉の飛散を防止し、
次に各区画領域の表層部分(Wb)を壁強度層(Wa)から引き剥して壁面(W)の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼炉、大型燃焼炉等の大型の煙突・煙道・燃焼室の壁面、あるいはビル・コンクリート建造物の垂直躯体壁面に付着させた外装の表層等の表層を剥離する技術であって、表層の張り直し・補修作業において有用な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
大型の煙突の壁は、10mm程の厚みの鋼鉄製の鉄皮の壁強度層の内側に鉄筋と75〜100mm正方のます目の格子状の金網とを入れて耐火材を35〜200ミリの厚みに付着して内側表層を形成している。この耐火材の表層は使用すると劣化するため剥離され、新しく表層を構築する補修が定期的・不定期的になされている。従来、この大型の煙突の表層の剥離作業は煙突内に足場を作り、この足場上でブレーカー・ピッカーを用い表層を削孔と振動とによって小さく破砕して剥離し、鉄筋・金網は破断機又は熔断機で切断して除去していた。この従来の表層の剥離方法では、ブレーカー・ピッカーを使用するので煙突内の作業者にとってきわめて高い騒音を受け、又粉塵が多く、しかも振動の為作業者が白ろう病になるといった作業環境がよいものでなかった。又煙突の外周にも高い騒音を与え周辺の人に迷惑がかかるものとなっていた。又ブレーカー,ピッカーは重たいものであるため、これを持って作業する者の労力負担は大きいものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、騒音・振動が大巾に低くなり、粉塵の発生も少なく、作業も容易で労力の負担が軽減できるという壁面の表層剥離方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決した本発明の構成は、建造物の躯体強度を担う壁強度層(Wa)の表面に別素材で表層(Wb)を付着した構造の壁面(W)の表層剥離方法において、壁面(W)は、鉄皮の壁強度層(Wa)の内側表面に耐火材を厚く表層(Wb)として付着させた煙突又は煙道(C)の壁面(W)であり、この壁面(W)を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃(1a)である切断機(1)で壁強度層(Wa)近くまでの深さに、表層(Wb)の内部に鉄筋(Wc)、金網(Wd)があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝(We)を設けて壁面(W)を切溝(We)によって小さな面積の区画に切り分け、前記縦横の切溝(We)の形成は、煙突又は煙道(C)内に吊り下げられたゴンドラ式足場(3)の上方に水平に設けられた横杆(2d)に、この横杆(2d)に沿って滑って移動可能な吊りフック(2c)を介してバランサー機能を有するバランサー(2)を取付け、バランサー(2)のワイヤ(2a)の下端の連結フック(2b)を、回転刃(1a)が取付けられた保護ケーシング(1c)からコ字状に突出させたワイヤ吊り杆(1e)のワイヤ吊り部(1f,1g)に掛けて切断機(1)をバランサー(2)によって吊り下げて行い、前記ワイヤ吊り杆(1e)は、前記保護ケーシング(1c)から回転刃(1a)を含む面に対して横方向に延びる第1の部分と、該第1の部分から前記回転刃(1a)を含む面に沿って延びる第2の部分と、該第2の部分から前記保護ケーシング(1c)に向かって延びる第3の部分とでコ字状をなしており、前記ワイヤ吊り杆(1e)は、前記第1の部分に設けられた第1のワイヤ吊り部(1f)と、前記第2の部分に設けられた第2のワイヤ吊り部(1g)とを有し、前記縦の切り溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)に設けられた2つのワイヤ吊り部(1f,1g)のうちの一方である前記第1のワイヤ吊り部(1f)に掛けて、切断機(1)の回転刃(1a)を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝(We)は、連結フック(2b)をワイヤ吊り杆(1e)の他方である前記第2のワイヤ吊り部(1g)に掛け、切断機(1)を水平にし、水平に切削して形成し、切断機(1)の保護ケーシング(1c)には、回転刃(1a)の外周の回転送り方向に且つ切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズル(1i)と、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体(1k)とが取付けられており、該飛散防止体(1k)は、噴水ノズル(1i)の反対則の位置において、回転刃(1a)を含む面に対して横方向に且つ切断すべき壁面(W)に対向するように、保護ケーシング(1c)に対して取付けられており、前記飛散防止体(1k)によって、切断中、水及び切粉の飛散を防止し、次に各区画領域の表層部分(Wb)を壁強度層(Wa)から引き剥して壁面(W)の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法によって達成することができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の切断機としては、広く使用されている空気圧で作動する回転刃による切断機を使用するのが、小型で安価で使い易い。この回転刃に向けて噴水し、又水の飛散防止体を取付けることが好ましい。本発明の切断機は、スプリング力でワイヤに吊った物品の重さを略相殺し、上下の吊り下げ位置調整をワイヤ巻取りで行えるスプリングを用いたワイヤ巻取式のバランサーを用いるのが好ましい。これに吊るして所定高さで保持でき、軽い力を上又は下に加えると上下動できるようにすることが切断機を手で支持する必要がないので切断作業の労力を大巾に軽減でき、しかも切断作業を迅速にできるので好ましい。切断機による切溝の深さは、その建造物の壁面の構造で決められ、躯体強度を担う壁強度層の近くまで切断する。表層の内部に鉄筋・金網等があれば一緒に切断機で切断するのが区画された領域の表層ブロックがそのまま外されるので好ましい。切断機による切断される区画領域の面積・切断形状も、壁面・表層によって適切な寸法・形状に決められるが、通常は水平と垂直に切溝を形成して長方形・正方形の格子状のます目にする。ます目の一辺の長さは表層の厚み等によって異なるが10〜40cm程が一般的である。区画領域の表層部分の引き剥し方法は、バールを切溝に挿入して倒し込むことを複数回行うことでこの表層部分(ブロック状)は壁強度層から引き剥される。
【0006】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例は、壁強度層として9mm厚みの鋼鉄製の鉄皮の内側に鉄筋と金網を配置し、これを埋設するように100mm程の厚みで耐火材を吹付して表層を形成した大型煙突の表層剥離方法の例である。切断機としては空気圧で回転刃を高速回転させるエア式切断機を使用し、しかもこれをワイヤ巻取式バランサーで吊り、回転刃付近に噴水ノズルと飛散防止体を取付けた切断機を使用した例である。図1は、実施例の切溝形成工程の説明図である。図2は、実施例の区画領域の表層部分の引き剥し工程の説明図である。図3は、実施例の表層剥離後の状態の壁面の断面図である。図4は、実施例の引き剥された区画領域の表層部分の破砕処理を示す説明図である。図5は、実施例の切断機を示す正面図である。図6は、実施例の切断機を示す側面図である。図7は、実施例の切断機の噴水ノズルと飛散防止体を示す説明図である。図8は、実施例の作業状態を示す説明図である。図中、Cは大型煙突、Wは同大型煙突の壁面、Waは9mm厚みの鋼鉄製鉄皮の壁強度層、Wbは100mm厚みの耐火物の表層、Wcは同表層中の鉄筋、Wdは表層中の一辺が90ミリ正方形の格子状の金網、Weは切溝、Wfは区画領域の表層部分である。又、図中1は切断機、1aは回転刃、1bは同回転刃を回動させるエアモータを内蔵した把手部、1cは回転刃1aを取付けた保護ケーシング、1dは案内車輪、1eは保護ケーシング1cからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆、1f,1gはワイヤ吊り部、1hはエアホース、1iは回転刃1aの外周の回転送り方向に向けて水を噴出する噴水ノズル、1jは同噴水ノズル1iへの給水ホース、1kはゴム製の飛散防止体である。図中2は、一定の高さで吊り保持し、軽い力の上向き、下向きの付加によって高さ保持が解除され上下動できるバランサー機能を有するスプリングを用いたワイヤ巻取式バランサー、2aは同バランサーの巻き取られるワイヤ、2bは同ワイヤ下端の連結フック、2cはウインチ2を保持する吊りフック、2dはウインチ2を水平に保持する足場3上方に架設された横杆、3は煙突C内に垂下されたゴンドラ式の昇降できる足場、4は剥離作業用のバールである。この実施例では、煙突C内にゴンドラ式足場3を吊り下げ、又その上方に水平の横杆2dを設ける。この横杆2dに吊りフック2cを介してバランサー機能を有するバランサー2を取付ける。このバランサー2は横杆2dに沿って吊りフック2cが滑って移動可能となっている。このバランサー2のワイヤ2aの下端の連結フック2bを切断機1のコ字状のワイヤ吊り杆1eのワイヤ吊り部1fに掛けて切断機1をバランサー2によって吊り下げ、切断機1の重さを略相殺し、軽い力で上下移動できるようにしている。この状態で切断機1を作動させ、噴水ノズルから水を噴水しながら回転刃1aを回転させる。切断機1の回転刃1aを縦にし、上方から回転刃1aを回転させながら100mm近い深さで表層Wbの耐火材,鉄筋Wc,金網Wdを切断する。噴水ノズル1iから水が切削部分の回転刃1aに吹付けられることで、回転刃の焼損・過熱を防止するとともに切削された切粉を飛散しないように吸水させて泥状にする。又水及び切粉の飛散は反対側のゴム製の飛散防止体1kによって防止されている(図1,7参照)。所定の高さに足場3を位置させ、縦の切溝Weをまず所定間隔毎に形成する。その後、切断機1を水平にし、連結フック2bをワイヤ吊り杆1eのワイヤ吊り部1gに掛け直し、切断機1を水平にしながらバランサー2を横杆2dに沿って水平に滑らせながら水平に切削して水平の切溝Weを形成する。縦横の切溝Weによって表層Wbを一辺が35cm程の長方体に区画する(図1(b)参照)。その後、バール4を切溝Weに挿入し、同バール4を倒し込んで区画領域の表層部分Wfを鉄皮の壁強度層Waから剥す。バール4によって壁強度層Waは容易に剥離できる(図2参照)。この剥離された表層部分Wfは手で持てる重量であり、その取り外し、移動は容易であり、剥離した表層部分Wfは煙突C外に運び出され、破砕されて、耐火材の破片、鉄筋Wc,金網Wdに分離され廃棄処理される(図4参照)。この切溝Weの形成、剥離、取り外しの工程を煙突Cの内部の壁面Wの上方から足場3を下げながら行って、壁面Wの表層Wb全体の剥離を行う。この実施例では、切断機1を使用するので、ブレーカー,ピッカーに比べ騒音・振動は大巾に低いものに抑えられ、又粉塵の発生を少なく、しかも噴出ノズル1iからの噴水と飛散防止体1kの存在によって粉塵の発生は少ない。又、煙突Cの周辺の騒音は、暗騒音程度で問題になることはないものとなった。
【0007】
【発明の効果】
以上の様に、本発明によれば、切断機を用いて格子状に切溝を設け、区画された小さな区画領域の表層部分を引き剥す工程のものであるため、騒音・振動及び粉塵の発生は大巾に低減でき、作業環境を改善し周辺への騒音問題を解消し、又表層剥離を容易に行えるようにした。特にバランサーを用いればその切断機の使用・操作は容易となり、労力の負担を軽減できる。切断機に噴水ノズルによる放水・飛散防止体を取付ければ粉塵の発生が更に少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例の切溝形成工程の説明図である。
【図2】 実施例の区画領域の表層部分の引き剥し工程の説明図である。
【図3】 実施例の表層剥離後の状態の壁面の断面図である。
【図4】 実施例の引き剥された区画領域の表層部分の破砕処理を示す説明図である。
【図5】 実施例の切断機を示す正面図である。
【図6】 実施例の切断機を示す側面図である。
【図7】 実施例の切断機の噴水ノズルと飛散防止体を示す説明図である。
【図8】 実施例の作業状態を示す説明図である。
【符号の説明】
C 大型煙突
W 壁面
Wa 壁強度層
Wb 表層
Wc 鉄筋
Wd 金網
We 切溝
Wf 表層部分
1 切断機
1a 回転刃
1b 把手部
1c 保護ケーシング
1d 案内車輪
1e ワイヤ吊り杆
1f,1g ワイヤ吊り部
1h エアホース
1i 噴水ノズル
1j 給水ホース
1k 飛散防止体
2 バランサー
2a ワイヤ
2b 連結フック
2c 吊りフック
2d 横杆
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-05-22 
結審通知日 2003-05-27 
審決日 2003-06-09 
出願番号 特願平10-331996
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (E04G)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 木原 裕
伊波 猛
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3060175号(P3060175)
発明の名称 壁面の表層剥離方法  
代理人 中村 稔  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 辻居 幸一  
代理人 佐藤 卓也  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 竹内 麻子  
代理人 西島 孝喜  
代理人 小川 信夫  
代理人 辻居 幸一  
代理人 小島 高城郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 今城 俊夫  
代理人 井野 砂里  
代理人 河合 典子  
代理人 西島 孝喜  
代理人 井野 砂里  
代理人 今城 俊夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 竹内 麻子  
代理人 箱田 篤  
代理人 北村 博  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 村社 厚夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 川成 靖夫  
代理人 北村 博  
代理人 箱田 篤  

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