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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1114572
異議申立番号 異議2003-73661  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-05-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3430940号「イソフラボンとペプチドを組み合わせた食品及び飲料」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3430940号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3430940号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成10年11月4日に特願平10-313544号として出願され、平成15年5月23日にその特許の設定登録がなされ、その後、伊藤理恵より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月10日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(a)特許請求の範囲の請求項1に係る「イソフラボンを添加し」を、「乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物と、乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物が添加され」と訂正する。
(b)請求項4を削除する。
(c)段落【0007】の「(1)イソフラボンを添加し」を、「(1)乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物と、乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物が添加され」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)は、イソフラボンについて、「乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物」と限定し、また、ペプチド含有物に関し、「乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項(b)は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項(c)は、上記訂正事項(a)と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、これらの訂正は新規事項に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4、2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.本件の請求項1乃至4に係る発明
上記「II.」で示したように、上記訂正は認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物と、乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物が添加され、乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し0.4%以上、ペプチド含有物が乾燥重量で2重量%以上である食品及び飲料。
【請求項2】イソフラボンが大豆胚軸、その乾熱加熱品、或いはその水溶性溶媒抽出物または有機溶媒抽出物から得られたものである請求項1の食品及び飲料。
【請求項3】ペプチドが分離大豆たん白をプロテアーゼにより加水分解した大豆ペプチドである請求項1または2の食品及び飲料。
【請求項4】Ca(カルシウム)含有素材、ミネラル類、ビタミン類、イソフラボン以外のCa吸収促進又はCa溶出抑制効果を持つ機能性素材等を含む請求項1から請求項3のいずれかに記載の食品及び飲料。」

2.引用例
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(特開平8-214787号公報)には、(イ)「抽出大豆蛋白および分離大豆蛋白の少なくとも一方からなる大豆蛋白に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の蛋白質を加水分解するとともに前記大豆蛋白中のイソフラボン化合物の配糖体を分解して、アグリコンを多量に含むイソフラボン化合物を生成して、前記大豆蛋白を原料とした生成物を製造することを特徴とする大豆蛋白を原料とした生成物の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、(ロ)「本発明において、大豆蛋白とは、大豆から抽出し分離した抽出大豆蛋白および分離大豆蛋白を意味し、大豆蛋白を原料とした生成物とは、前記大豆蛋白を原料とした食品、畜産用飼料および水産養殖用の餌料等を意味する。」(段落【0002】)、(ハ)「また、イソフラボン化合物のエストロゲン作用にも注目されており、骨粗鬆症治療効果や免疫抑制効果があることが確認されている。特に、イソフラボンアグリコンであるゲニステインにはエストロゲン作用があり、この作用により、骨量の減少抑制(骨吸収抑制)が可能となる。」(段落【0012】)、(ニ)「・・・全体の水分が35〜50重量%好ましくは42〜44重量%程度になるように調整しながら両者が均一となるまで混合する。これらの重量比は例えば、抽出大豆蛋白等200gに対して水を200ml加えて撹拌したものに、粉状の抽出大豆蛋白等の50gに麹菌0.3gを混合させるとよい。」(段落【0045】)及び(ホ)「表2は、実施例1として抽出大豆蛋白200gに対して水を200ml加えて撹拌したものに、粉状の抽出大豆蛋白の50gに麹菌(アスペルギルス・ニガー)0.3gを混合させた原料に対して、30℃で48時間の製麹を施し、その生成物の重量と同重量の水を加えて更に50℃で48時間の蛋白質の加水分解を施してなる抽出大豆蛋白におけるイソフラボン化合物の含有量を示し」(段落【0052】)と記載され、さらに、「表2」(段落【0054】)には、(ヘ)「実施例1 抽出大豆蛋白」(単位:mg/100g)の欄に「ダイジン 検出せず」、「ダイゼイン 124」、「ゲニスチン 5.5」及び「ゲニステイン 203」であることが記載されている。
同じく引用した刊行物2(FOOD style 21、1998.6.Vol.2,No.6、49〜52頁)には、「表1 大豆たん白質の成分による分類と構成画分」(〇:製品に含まれる画分 ×:実質的に除去されている画分)として、(ト)「抽出大豆たん白」の欄に「不溶性糖類(繊維質) ×」、「可溶性糖類(大豆ホエー) ◯」、「たん白質 ◯」及び「粗たん白含量(TN×6.25) 60%」、「表2 大豆の生理活性物質」として、(チ)「イソフラボン」の欄に「エステロゲン作用、癌予防、骨粗鬆症」、「■大豆ペプチド■」の項に(リ)「大豆ペプチドは、分離大豆たん白を酵素で低分子化したもので、アミノ酸が平均3〜6個連なったオリゴペプチドである。」(50頁左欄)、(ヌ)「(3)筋力増強 村松らは、大学の柔道選手に対して、食事以外に大豆ペプチド20gを5ヶ月間飲料として与え、ペプチドを摂取していないグループと比較して有意に筋力増強効果が示されたと報告している。」(50頁右欄)、並びに「■大豆イソフラボンとは■」の項に(ル)「(3)大豆イソフラボンと生活習慣病 癌予防以外に、大豆の摂取と生活習慣病予防に関して、表4に示すような効果が報告されている。すなわち、冠状動脈疾患や動脈硬化に対する予防機能、更年期障害や骨粗鬆症の予防効果についても、大豆イソフラボンが関与していると考えられる。」(51頁右欄)と記載されている。
同じく引用した刊行物3(大豆たん白質研究会会誌,Vol.15(1994)51〜56頁)には、「(マウスの)ふくらはぎの筋肉である腓腹筋、太股の筋肉である四頭筋はいずれも大豆ペプチド投与群で有意に重量が大であった。脂肪組織の重量は大豆ペプチド群が著しく少なかった。」(53頁左欄1〜4行)と記載されている。
同じく引用した刊行物5(特開平10-210946号公報)には、「大豆胚軸を食品の乾燥固形分換算で1〜20重量%含有することを特徴とする大豆胚軸利用食品。」(特許請求の範囲の請求項1)、「本発明は、大豆胚軸を食品に添加し加工することにより、食品本来の風味を損なうことなく、大豆胚軸の有効成分であるイソフラボンを含み、苦味が少なく風味の良好な食品を提供することができる。」(段落【0029】)、及び「表1に示すイソフラボンの総含有量は、ビスケット100g中に含まれるイソフラボンの総量(mg)である。」(段落【0014】)と記載され、さらに「表1」には、「実験No.1,2,3」における大豆胚軸量は、それぞれ「7,14,7(g)」であり、イソフラボンの総含量は、「60,121,60(mg)」であることが記載されている。

3.当審の判断
(本件発明1について)
刊行物1の摘示事項(イ)によると、抽出大豆蛋白および分離大豆蛋白の少なくとも一方からなる大豆蛋白に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の蛋白質を加水分解するのであるから、当業者の技術常識に照らし刊行物1に係る生成物には、相当量のペプチドが含まれていることは当業者ならば直ちに理解できることからみて、刊行物1には、アグリコンを多量に含むイソフラボン化合物及びペプチドを含有する上記大豆蛋白を原料とした生成物が記載されているものと認める。
そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1には、上記「生成物」を食品として用いることが記載されていることから、両者は、イソフラボン及びペプチドを含有する食品である点で軌を一にし、ただ、(A)前者では、イソフラボンを「乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物」として添加し、またペプチドを「乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物」として添加しているのに対し、後者では、麹菌処理により所定量のイソフラボン及びペプチドを生成させている点、並びに、(B)前者では、ペプチドに対するイソフラボン含量を「乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し0.4%以上」と限定し、食品に含まれるペプチド含有物の量を「乾燥重量で2重量%以上」と限定しているのに対して、後者では、上記した数値限定について記載されていない点で両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(A)について
一般に、食品等に含まれる特定の成分が持つ機能に着目して、食品素材に所要の上記機能性成分を添加してその成分を強化した食品を製造することは、当該技術分野では極く普通に行われていることであり、かつ、イソフラボン化合物にエストロゲン作用があり、骨粗鬆症治療(予防)効果を有することが刊行物1及び2に記載されていること、及び大豆ペプチドに筋力増強効果あるいは筋肉蛋白質を増加させる効果があることが刊行物2及び3に記載されていることを併せ考慮すると、イソフラボン及びペプチドを含有する食品を製造するにあたって、イソフラボン及び大豆ペプチドの有する上記機能に着目して、イソフラボンをイソフラボン含有物として、またペプチドをペプチド含有物として添加することは、当業者が適宜実施し得ることである。
そして、刊行物5に記載されているように、イソフラボン含有物である「大豆胚軸」には、イソフラボンが8.6〜8.9重量%含まれているのであるから、「乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物」は、格別特異なものではなく普通のものであって、しかも、「乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物」及び「乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物」として添加することについて、本件明細書には何らその意義について記載されていないのであるから、イソフラボンを上記特定含量のイソフラボン含有物として、またペプチドを上記特定含量のペプチド含有物として添加することに格別の困難性は見出せない。
相違点(B)について
刊行物1に記載の発明は、そこに記載の「抽出大豆蛋白を原料とした生成物」をそのまま食品とする実施の態様を含むものと認められるところ、刊行物2の記載によれば、抽出大豆蛋白には粗蛋白が60%含まれていること、及び刊行物1に記載の「抽出大豆蛋白を原料とした生成物」は、抽出大豆蛋白を製麹処理した生成物に加水して生成物中の大豆蛋白を加水分解して得られたものであることを併せ考えると、刊行物1に記載の麹菌処理された生成物には、乾燥重量で2重量%以上のペプチドが含まれていると推認できるから、本件発明1で特定する「ペプチド含有物が乾燥重量で2重量%以上である」点は、両者の実質的な相違点とはいえない。
また、本件発明1で限定する「乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し0.4%以上」という事項についても、かかる数値限定について、本件明細書には、段落【0014】に「イソフラボン含量はペプチドに対し、共に乾燥重量で0.2%以上であるのが良く、好ましくは0.4%以上である。」との記載はあるものの、「0.4%以上」にすれば「0.2%」の場合よりもどのように好ましいのか具体的な開示はなく、また、「実施例」の特に「実施例2」には、「本飲料はペプチドに対してイソフラボン0.3%を含有する。本飲料を200g摂取することにより、大豆ペプチドをたん白質として5.0g、イソフラボンを15mg補給することができ、」(段落【0022】)及び「表3に示す通り、各群の最大回転数を比較すると、C群に比べ、P群は有意に増加した。これにより、大豆ペプチドと大豆イソフラボンを併含する飲食物には人においても筋肉増強効果が認められた。」(段落【0024】)との記載があり、この記載によると、「0.4%以上」でなくても、本件発明に係る効果は奏されるといえる。
すなわち、本件発明1において「乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し0.4%以上」と限定することの意義について、本件明細書には、何ら開示されていないのであるから、結局、ペプチドに対するイソフラボンの添加割合を上記の如く限定することは、当業者が必要に応じ適宜決定し得ることである。
また、本件発明1の「骨の強化とその骨を広く取り巻く筋肉の強化に役立ち得る製品を提供する」(段落0030)という効果について検討すると、刊行物1の摘示事項(ハ)及び刊行物2の摘示事項(チ)によると、イソフラボンには、骨粗鬆症の治療効果や予防効果、すなわち骨を強化する効果があることが、また、刊行物2の摘示事項(ヌ)及び刊行物3の記載によると、ペプチドを投与することにより、骨を広く取り巻く筋肉である腓腹筋や四頭筋を強化できることが、それぞれ本件出願前によく知られていたということができ、また、本件明細書の記載からは、イソフラボンとペプチドとを併用することにより当業者が予測できない相乗的な効果が奏されるとはいえないから、本件発明1に係る効果は、刊行物1ないし3に個々に記載されている効果を相加したものに過ぎず、本件発明1に係る上記効果は、格別顕著なものとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1ないし3、及び刊行物5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたといえる。

(本件発明2について)
本件発明2は、本件発明1に係る「イソフラボン」を「大豆胚軸、その乾熱加熱品、或いはその水溶性溶媒抽出物または有機溶媒抽出物から得られたもの」に限定したものである。
しかるに、刊行物5には、大豆胚軸にイソフラボンが多く含有されていることが記載されているのであるから、結局、本件発明2は、刊行物1ないし3、及び刊行物5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたといえる。

(本件発明3について)
本件発明3は、本件発明1に係る「ペプチド」を「分離大豆たん白をプロテアーゼにより加水分解した大豆ペプチド」に限定したものである。
しかるに、刊行物2の摘示事項(リ)及び(ヌ)には、分離大豆たん白を酵素で低分子化した大豆ペプチドは、筋肉の増強に有用である旨記載されているのであるから、本件発明3は、刊行物1ないし3、及び5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたことになる。

(本件発明4について)
本件発明4は、本件発明1ないし3に係る食品及び飲料に「Ca(カルシウム)含有素材、ミネラル類、ビタミン類、イソフラボン以外のCa吸収促進又はCa溶出抑制効果を持つ機能性素材等」を更に加えたものであるところ、Ca(カルシウム)含有素材及びCa吸収促進又はCa溶出抑制効果を持つ機能性素材は、骨の強化に役立ち得るものとして周知のものであり、またミネラル類、ビタミン類等を添加することも極く普通に行われていることから、本件発明4は、刊行物1ないし3、及び刊行物5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1ないし4に係る発明の特許は、特許法113条2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
イソフラボンとペプチドを組み合わせた食品及び飲料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物と、乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物が添加され、乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し0.4%以上、ペプチド含有物が乾燥重量で2重量%以上である食品及び飲料。
【請求項2】イソフラボンが大豆胚軸、その乾熱加熱品、或いはその水溶性溶媒抽出物または有機溶媒抽出物から得られたものである請求項1の食品及び飲料。
【請求項3】ペプチドが分離大豆たん白をプロテアーゼにより加水分解した大豆ペプチドである請求項1または2の食品及び飲料。
【請求項4】Ca(カルシウム)含有素材、ミネラル類、ビタミン類、イソフラボン以外のCa吸収促進又はCa溶出抑制効果を持つ機能性素材等を含む請求項1から請求項3のいずれかに記載の食品及び飲料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、イソフラボンとペプチドを組み合わせた食品及び飲料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
閉経後の女性ホルモン(エストロジェン)の減少による骨からのCa(カルシウム。以下同様)流出が原因の病気として、骨粗鬆症が問題になっている。骨粗鬆症はCaの流出により骨密度が小さくなる骨疾患の一種で、これを患うと軽い衝撃でも骨折を起こしやすくなる。高齢女性の場合は特に回復が遅いため、一旦骨折を起こすと、最悪の場合は寝たきりになってしまう恐れがある。そこで最近では骨の主要成分であるCaの吸収促進、或いは骨からのCa流出抑制等の効果を持つ機能性素材が開発されている。なかでも体内で女性ホルモン様の働きをし、閉経後女性のホルモン減少による骨量の減少を防ぐと言われている大豆イソフラボンが特に注目を集めている。
【0003】
このような動向に合わせ、骨の強化を謳った飲食品も増加している。例として、
1.骨の主要成分であるCaに着目し、Ca素材のみを添加した物
2.Caの吸収促進素材(ビタミンDやカゼインホスホペプチド等)を1.に追加した物
3.Caの骨からの流出抑制素材(大豆イソフラボン等)を1.又は2.に追加した物
4.Caに関するミネラルバランスを整えるため、マグネシウム等のミネラル類を1.ないし3.に追加した物
5.骨形成を促進すると言われているビタミンKを1.ないし4.に追加した物などのいずれかの区分・観点に立っての商品開発が見られる。
【0004】
上記の骨強化食品は全て、骨の主成分であるCaの吸収促進・流出抑制により骨量を維持し、骨自体を強化させ、骨粗鬆症等の骨疾患、更には骨折を防ぐという考え方に基づいている。しかし、骨粗鬆症、更には骨折を防ぐことを目的とした場合、上記の骨強化食品では以下の点で不充分である。すなわち、
(1)骨自体の強化には、Caの補給・吸収促進・流出抑制だけでなく、もう一つの主成分であるたん白質の補給も必要である。
(2)高齢者の場合、骨折の直接原因は80%が転倒によるものであり、これは足腰の筋力低下によるものである。従って、骨折の防止には骨自体の強化だけでなく、骨を包む筋肉を強化することも必要である。
上記の2点を満たすためには、たん白質の補給が必要である。更に、たん白質源としては、たん白質を加水分解したペプチドの方が、高齢者にも消化・吸収への負担が少なく、骨や筋肉への吸収が早いため、より好ましい。すなわち、前記の5つの区分・観点に無い下記の第6.のものが、上記の(1)、(2)の点からも要望される背景がある。
6.イソフラボン・ペプチドによる骨自体の強化及びペプチド等による骨を包む筋肉の強化を目的とする物、が望まれるであろう。
【0005】
イソフラボン又はペプチドに関する特許公開等は、数多く公開されている。主要な先願として、国際公開WO95/16362号公報では、豆類中のイソフラボン化合物の配糖体を麹菌によって分解してアグリコンを多量に含むイソフラボン化合物を得ることを謳っている。また、特開平10-114653号公報では、イソフラボンを主たる有効成分とすることを特徴とする骨形成促進及び骨塩量減少防止用組成物で骨粗鬆症や骨折などの治療及び予防に有用な、食品又は医薬品に使用することができる組成物を得ることを謳っている。一方、特開平09-216834号公報では、キニノーゲン及び/又はキニノーゲン分解物を有効成分とする骨形成促進又は骨吸収防止剤でそれらの作用を賦与した飲食品、医薬品又は資料の提供を謳っている。しかし、これらの従来技術は本発明に言うイソフラボンとペプチドを併含する食品及び飲料、更には課題とは異なるものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の6.の区分・観点に立って、イソフラボンとペプチドを併含する食品及び飲料で骨の強化とその骨を広く取り巻く筋肉の強化に役立ち得る食品及び飲料の提供が課題である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)乾燥重量でイソフラボン含量が1重量%以上のイソフラボン含有物と、乾燥重量でたん白質含量で50重量%以上のペプチド含有物が添加され、乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し0.4%以上である食品及び飲料、
(2)イソフラボンが大豆胚軸、その乾熱加熱品、或いはその水溶性溶媒抽出物または有機溶媒抽出物から得られたものである上記(1)の食品及び飲料、
(3)ペプチドが分離大豆たん白をプロテアーゼにより加水分解した大豆ペプチドである上記(1)または(2)の食品及び飲料、
(4)Ca(カルシウム)含有素材、ミネラル類、ビタミン類、イソフラボン以外のCa吸収促進又はCa溶出抑制効果を持つ機能性素材を含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の食品及び飲料、を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明すると、本発明はイソフラボンとペプチドを併含する食品及び飲料を提供することに関する。
【0009】
先ず、本発明の用語を説明する。イソフラボンは、イソフラボン類等の有効成分が失われていないイソフラボン等を含むものであればどの様なものでも良い。好ましくは、イソフラボン類等が高含有量のものが良く、とりわけ、大豆胚軸やその加熱処理により風味を改良したもの又はそれらを水・含水アルコール等の水性溶媒で抽出したイソフラボン類等が高含有量の大豆胚軸加工品等が好適である。本発明で言うイソフラボンはダイジン、ゲニスチン、ダイゼイン、ゲニステインの合計量とし、その定量は一定量の供試物をメタノールで還流抽出し高速液体クロマトグラフィ法にて各成分を定量し、その合計量を算出する。ペプチドは、たん白質の加水分解物であるペプチドを含むものであれば、植物性や動物性の素材のどの様なものでも良い。好ましくは、ペプチド類が高含有量のものが良く、とりわけ、大豆たん白質の加水分解物が好適である。本発明で言うペプチドの定量は一定量の供試物を公知のケルダール法又はそれに準じる方法により窒素を定量し窒素係数(6.25)を乗じて算出する。健康食品とは、食品(全ての飲食物を言う。ただし、医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。)の内、栄養成分を補給し、又は特別の保健の用途に適するものとして販売の用に供する食品を言う。
【0010】
大豆由来とは、大豆やその一部分又はそれらの分級・分離・粉砕・混合・加熱・抽出・加水分解・冷蔵・冷凍・乾燥・成形等から選択、組み合わせによる加工処理を指す。大豆由来のイソフラボンは例示として、特公平04-48417号公報(調湿・加熱・剥皮・大豆胚軸採取)、特公平05-33016号公報(アルカリ液浸漬・焙煎・大豆胚軸処理法)、特公平07-238089号公報(多量のイソフラボン化合物を含有するタンパク質単離物及びその製造方法)などがある。大豆由来のペプチドは例示として、特開平07-264993号公報(大豆ペプチド混合物の製造法)、特開平07-284369号公報(ペプチド組成物及びその製造方法)、特開平09-132592号公報(ペプチド結合水解物の製造法及びこれに用いるペプチド結合水解剤)、特表平09-507478号公報(ペプチド生成物の製造法と得られた生成物)などがある。乾燥重量とは、一般の乾燥減量法(105℃で4時間)による乾燥固形分の重量%である。
【0011】
イソフラボンは、エストロゲン(女性ホルモン)と同じ作用を示す植物エストロゲンの一種であり、骨からのカルシウム(Ca。以下、略記する)の溶出を防ぐと言われている。大豆にはイソフラボン成分を多く含んでおり、ダイジン、ゲニスチン、グリスチン等の配糖体とそれらから糖がとれたアグリコンや、配糖体にマロニル基が結合したマロニル体等の形態で存在している。したがって、大豆ペプチドにもイソフラボンが微量含まれているため、これをたん白質源として利用することで更に効果が高くなることが期待される。イソフラボンは日本人で一日平均10〜20mg摂取されているが、骨粗鬆症などの予防には更に一日10〜20mgを追加して摂取するのが望ましいと言われている。
【0012】
たん白質は、Caと同様に骨の主成分であり、骨量を増やすためにはCa強化だけでは不十分であるため、同時にたん白質の摂取も不可欠である。一方、たん白質は、筋肉の構成成分であり、加齢とともに衰える筋肉量を増やすためには、たん白質の摂取が不可欠である。
【0013】
ペプチドは、たん白質が加工されたものとも言え、たん白質の効能と類似する点があるが、特に次の点において優れている。すなわち、通常のたん白質よりも体内への吸収速度が速く、効率的に骨たん白質、筋たん白質の合成に利用される。また、消化・吸収による胃腸への負担が少ないため、高齢者や病人において不足しがちなたん白質源として非常に有効である。たん白質の一日所要量は平均60gであるが、高齢者はたん白質の摂取が下がり気味で、かつ消化・吸収力が低い。従ってたん白質源として消化のよいペプチドを、更に一日に5g程度摂取すれば筋肉の補強に有効であると期待出来る。
【0014】
本発明は、イソフラボンとペプチドを併含し、乾燥重量でイソフラボン含量がペプチドに対し、0.2%以上である食品及び飲料である。上記の様にイソフラボンとペプチドを適当な比率で摂取することにより、効果的に不足分を補給して高齢者の骨折などを防止するのに役立つと考えられる。イソフラボン含量はペプチドに対し、共に乾燥重量で0.2%以上であるのが良く、好ましくは0.4%以上である。0.4%以上の上限については、イソフラボンとペプチドを組み合せる食品及び飲料の種類・摂取量と、人1日栄養所要量の中の摂取割合、などからイソフラボン含量のペプチドに対する%値を設定すれば良い。
【0015】
本発明のイソフラボン含有物は、例えば大豆胚軸等から、更にはその乾熱加熱品、或いはその水溶性溶媒抽出物、有機溶媒抽出物を用いることが出来、これらの製造法は公知の方法によっても良い。本発明のペプチド含有物は、例えば分離大豆たん白をプロテアーゼにより加水分解した大豆ペプチドを用いることが出来、これらの製造法は公知の方法によっても良い。
【0016】
【実施例】
以下に本発明の有効性を実施例と共に示すが、これらの例示によって本発明の技術思想が限定されるものではない。
【0017】
【実施例1】骨強化と筋肉強化の効果
卵巣切除モデルラットを用い、ペプチドとイソフラボンを併含する飲食物の投与によって骨粗鬆症を原因とする骨量減少の抑制効果及び筋肉強化の効果を検討した。
(飼育方法)飼育は卵巣切除モデルラット(15週齢、妊娠可能な週齢)をコントロール群(C群)とイソフラボン・ペプチド摂取群(IP群)とに分け、6匹を1群として、4週間飼育した。C群は固形飼料「MF」(水分7.9%、たん白質23.3%、炭水化物57.7%、オリエンタル酵母工業株式会社製。以下、同様)20gを毎日、経口投与した。IP群は同じ固形飼料に対し、ペプチド含有物・大豆由来の「ハイニュート-DC5」(水分6%、ペプチド75%、イソフラボン0.07%、不二製油株式会社製。以下、同様)をたん白質として3.5重量%、及び大豆胚軸抽出物・イソフラボン含有物「ソヤフラボン-E」(水分5%、イソフラボン含量4%。不二製油株式会社製。以下、同様)をイソフラボンとして10mg重量%それぞれ添加したものを同様に毎日、経口投与した。飼料以外の条件はC群、IP群とも同じにして行った。
(トレーニング方法と筋肉量測定)ラットに1日当たりに決められた運動負荷を与えるため、浴槽内で遊泳運動をさせた。ラットが泳ぐことが出来なくなった時点を最大遊泳時間とした。28日間の飼育終了後、ラットの腓腹筋(ひふくきん)、四頭筋(しとうきん)の重量をそれぞれ測定した。
(骨密度測定)大腿骨を摘出し、その湿重量とピクノメーターにより体積を測定し、骨密度を算出した。筋重量測定及び骨密度の測定結果を表1に示した。
【0018】

p<0.05は、危険率5%で有意差あり。
【0019】
表1の結果より、イソフラボン及びペプチド摂取群は対照群と比較して骨密度及び筋肉量が有意に高くなり、骨強化及び筋肉強化の効果が認められた。
【0020】
【実施例2】飲料調製と筋肉増強効果
表2に示す配合で原料を調合し、UHT殺菌を行い、本発明に言う飲料を調製した。
【0021】

【0022】
本飲料はペプチドに対してイソフラボン0.3%を含有する。本飲料を200g摂取することにより、大豆ペプチドをたん白質として5.0g、イソフラボンを15mg補給することができ、更にカルシウム100mg(日本人1日栄養所要量の1/6)とビタミンD17IU(日本人1日栄養所要量の1/6)も補給することができる様に設定した。試験は大学運動部員10名をパネラーとして、本飲料投与群(P群)と本飲料からペプチド及びイソフラボンを省略した対照群(C群)の2群に分けて行った(各群5名)。各群のパネラーは何れも週3日のウェイトトレーニングを組み入れることにし、P群、C群とも各飲料を1日2回(練習後および就寝前に各1回)、3ヶ月間摂取させた。筋力の測定は「パワーマックスV」(コンビ社製)を用いてパネラーの体重の0.05倍の負荷強度で10秒間を2回全力で漕がせ、その時の最大回転数を求めることで行った。表3に、3ケ月までの各群の最大回転数の測定結果を示した。
【0023】

p<0.1は、危険率10%で有意差あり。
【0024】
表3に示す通り、各群の最大回転数を比較すると、C群に比べ、P群は有意に増加した。これにより、大豆ペプチドと大豆イソフラボンを併含する飲食物には人においても筋肉増強効果が認められた。
【0025】
【実施例3】ペプチド及びイソフラボン併含ゼリー
表4に示す配合で原料を調合し、20g/個のゼリーを調製した。


本ゼリーを5個摂取することにより、表2に示した飲料と同量のペプチド及びイソフラボンを摂取することが出来る。本ゼリーを、栄養補給を目的とした健康食品に応用することが出来る。
【0026】
【実施例4】
ペプチド及びイソフラボン併含クッキー表5に示す配合で原料を調合し、10g/枚のクッキーを調製した。

用いた大豆胚軸粉砕物は、イソフラボン含有物「ソヤフラボン-RS」(水分5%、イソフラボン含量1%。不二製油株式会社製。以下、同様)であった。本クッキーを10枚摂取することにより、ペプチドを3.5g及びイソフラボンを13mg摂取することが出来る。本クッキーは、栄養補給を目的とした健康食品に応用することが出来る。
【0027】
【実施例5】ペプチド及びイソフラボン併含タブレット
表6に示す配合で原料を調合し、1g/粒のタブレットを調製した。


本タブレットを10粒摂取することにより、ペプチドを5.0g及びイソフラボンを15mg補給することが出来、更にカルシウムを80mg補給することが出来る。本タブレットは、栄養補給を目的とした健康食品に応用することが出来る。
【0028】
【実施例6】ペプチド及びイソフラボン併含紅茶飲料
表7に示す配合で原料を調合し、100g/杯の紅茶飲料を調製した。

本紅茶飲料を100g摂取することにより、ペプチドを5.0g及びイソフラボンを15mg補給することが出来る。本紅茶飲料は、栄養補給を目的とした健康食品に応用することが出来る。
【0029】
実施例1及び2の結果より、イソフラボン及びペプチドを併含する食品或いは飲料には、骨粗鬆症を原因とする骨量の減少を抑制することにより、骨自身を強化する効果、更に骨の周りを広く包んでいる筋肉を強化することによって、骨への過重による負担を和らげ、転倒などによる骨折を防止する二重の効果が期待できるものであることが示唆された。
【0030】
【発明の効果】
本発明により、イソフラボンとペプチドを併含する食品及び飲料が得られた。これにより、例えばイソフラボン含有量4重量%の大豆胚軸抽出物0.25部と、ペプチド含有量75重量%の大豆ペプチド6.7部を飲料200部中に配合し、イソフラボン15mg、ペプチド5gを含有する飲料により、骨の強化とその骨を広く取り巻く筋肉の強化に役立ち得る製品が提供できて、高齢化社会にも貢献できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-11-16 
出願番号 特願平10-313544
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 柿沢 恵子
河野 直樹
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3430940号(P3430940)
権利者 不二製油株式会社
発明の名称 イソフラボンとペプチドを組み合わせた食品及び飲料  

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