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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1114582
異議申立番号 異議2003-73439  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-02-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3426333号「塗料用樹脂組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3426333号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3426333号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成6年3月31日に特許出願がされ、平成15年5月9日に、その発明について特許権の設定登録がなされたところ、平成15年12月26日に、全請求項に係る発明の特許について、相沢さつき(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月20日に訂正請求(後日取り下げ)がなされ、その後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年12月9日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正すること、即ち以下の訂正事項a〜bのとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に、「【請求項1】重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、不飽和カルボン酸を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100重量部になるように(A)成分0.1〜30.0重量部、(B)成分0.1〜20.0重量部および(C)成分50.0〜99.8重量部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して0.2〜10.0重量部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物。」とあるのを、「【請求項1】モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100重量部になるように(A)成分0.1〜30.0重量部、(B)成分2〜15重量部および(C)成分56〜96重量部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜5重量部、ヒドロキシル基単量体の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜10重量部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物。」と訂正し、特許請求の範囲の請求項2を削除する。
訂正事項b
(i)明細書の段落【0015】に、「【課題を解決するための手段】本発明は、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、不飽和カルボン酸を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100部(重量部、以下同様)になるように(A)成分0.1〜30.0部、(B)成分0.1〜20.0部および(C)成分50.0〜99.8部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100部に対して0.2〜10.0部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物に関する。」とあるのを、「【課題を解決するための手段】本発明は、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100部(重量部、以下同様)になるように(A)成分0.1〜30.0部、(B)成分2〜15部および(C)成分56〜96部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100部に対して1〜5部、ヒドロキシル基単量体の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100部に対して1〜10部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物に関する。」と訂正する。
(ii)明細書の段落【0016】に、「【作用および実施例】本発明で用いられる合成樹脂エマルジョンは、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、不飽和カルボン酸を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてえられるものである。該エマルジョンは塗料用樹脂組成物そのものまたは塗料用樹脂組成物の主体となるものであって、バインダーとしての働きをするものであり、安定性がよく、しかも光沢、耐水性、顔料分散性および耐候性などのすぐれた塗膜を形成するのに寄与するものである。」とあるのを、「【作用および実施例】本発明で用いられる合成樹脂エマルジョンは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてえられるものである。該エマルジョンは塗料用樹脂組成物そのものまたは塗料用樹脂組成物の主体となるものであって、バインダーとしての働きをするものであり、安定性がよく、しかも光沢、耐水性、顔料分散性および耐候性などのすぐれた塗膜を形成するのに寄与するものである。」と訂正する。
(iii)明細書の段落【0059】の記載において、「実施例1〜56および比較例1〜5」とあるのを、「実施例1〜18および比較例1〜43」と訂正し、「比較例5」とあるのを「比較例43」と訂正する。
(iv)明細書の段落【0083】の【表1】中の記載において、表中の実施例番号「1」ないし「8」を、順に、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」、「1」、「2」、「3」、「比較例4」及び「比較例5」と訂正する。
(v)明細書の段落【0084】の【表2】中の記載において、「実施例番号」とあるのを「比較例番号」と訂正し、表中の番号「9」ないし「16」を、順に、「6」ないし「13」と訂正する。
(vi)明細書の段落【0085】の【表3】中の記載において、「実施例番号」とあるのを「比較例番号」と訂正し、表中の番号「17」ないし「24」を、順に、「15」ないし「21」と訂正する。
(vii)明細書の段落【0086】の【表4】中の記載において、「実施例番号」とあるのを「比較例番号」と訂正し、表中の番号「25」ないし「31」を、順に、「22」ないし「28」と訂正する。
(viii)明細書の段落【0087】の【表5】中の記載において、「実施例番号」とあるのを「比較例番号」と訂正し、表中の番号「32」ないし「39」を、順に、「29」ないし「36」と訂正する。
(ix)明細書の段落【0088】の【表6】中の記載において、表中の実施例番号「40」ないし「47」を、順に、「比較例37」、「比較例38」、「4」、「5」、「6」、「7」、「8」及び「9」と訂正する。
(x)明細書の段落【0089】の【表7】中の記載において、表中の実施例番号「48」ないし「56」を、順に、「10」ないし「18」と訂正する。
(xi)明細書の段落【0090】の【表8】中の記載において、表中の比較例「1」ないし「5」を、順に、「39」ないし「43」と訂正する。
(xii)明細書の段落【0092】の記載において、「比較例6」とあるのを、「比較例44」と訂正する。
(xiii)明細書の段落【0095】の記載において、「比較例7」とあるのを、「比較例45」と訂正し、「比較例6」と2箇所あるのを、それぞれ「比較例44」と訂正する。
(xiv)明細書の段落【0098】の記載において、「比較例8」とあるのを、「比較例46」と訂正する。
(xv)明細書の段落【0101】の記載において、「比較例9」とあるのを、「比較例47」と訂正する。
(xvi)明細書の段落【0105】の【表10】中の記載において、表中の比較例「6」ないし「8」を、順に、「44」ないし「47」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
<訂正事項aについて>
訂正事項aは、訂正前の請求項2を削除するとともに、
ア.訂正前の「重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)」を「モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)」に限定し、
イ.訂正前の「不飽和カルボン酸を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)」を「単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)」に限定するとともに、それぞれが単量体であることを明りょうとし、
ウ.訂正前の「(B)成分0.1〜20.0重量部および(C)成分50.0〜99.8重量部」を「(B)成分2〜15重量部および(C)成分56〜96重量部」に限定し、
エ.訂正前の「(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して0.2〜10.0重量部」を「(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜5重量部、ヒドロキシル基単量体の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜10重量部」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記アは、願書に添付した明細書の段落【0019】に「前記化合物(A)の具体例としては、・・・モノアルコキシシラン;・・・ジアルコキシシラン;・・・モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン;・・・テトラアルコキシシラン;・・・メルカプト基を有するアルコキシシラン;・・・アミノ基を有するアルコキシシランなどがあげられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。」と記載されており、
上記イは、同段落【0025】〜【0026】に、「このような単量体(B)の具体例としては、・・・不飽和カルボン酸;・・・ヒドロキシル基含有単量体などがあげられる。・・・これらの中では、不飽和カルボン酸、ヒドロキシル基含有単量体が少量で添加効果がえられるという点から好ましく用いられる。また、併用するばあい、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有単量体との組み合わせがエマルジョンの安定性を効果的に向上させ、しかも塗膜の各種物性を向上させるという点から好ましい。」と記載されており、
上記ウのうち(C)成分に関しては、同段落【0033】に、「化合物(C)の使用最小量は56部以上、さらには60部以上であるのがエマルジョンの安定性の点から好ましく、また、使用最大量は98.5部以下、さらには96部以下であるのが耐水性、耐候性、光沢の点から好ましい。」と記載されており、
上記ウ及びエの(B)成分に関しては、同段落【0047】に、「前記化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)の最適組み合わせとしては、・・・単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部および2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有単量体1〜10部、・・・の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の光沢、耐候性などの点から好ましく」と記載されていることから、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
<訂正事項bについて>
訂正事項bは、上記訂正事項aとの整合を図り、実施例及び比較例の記載を整理して、明細書の記載を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100重量部になるように(A)成分0.1〜30.0重量部、(B)成分2〜15重量部および(C)成分56〜96重量部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜5重量部、ヒドロキシル基単量体の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜10重量部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物。
なお、以下、訂正後の明細書を単に「特許明細書」という。

(2)申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠方法として下記の甲第1〜6号証を提示して、訂正前の本件請求項1、2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明であるか、または、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、訂正前の本件請求項1、2に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

提示された甲各号証:
甲第1号証:特開昭63-20372号公報
甲第2号証:特開昭62-267374号公報
甲第3号証:特開平5-93071号公報
甲第4号証:特開平4-175343号公報
甲第5号証:特開平4-57868号公報
甲第6号証:特開平4-173807号公報

(3)取消理由の概要
当審の通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
訂正前の本件請求項1、2に係る発明は、異議申立人の提示した甲第1、2、5号証に記載された発明であるか、または、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定に違反するので、これらの発明についての特許は取り消されるべきものである。
また、訂正前の本件明細書の記載は不備があり、特許法第36条に規定する要件を満たしていないので、本件についての特許は取り消されるべきものである。

(4)甲各号証等に記載された事項
甲第1号証:
記載事項1.「1.炭素原子数6〜10のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと該エステル100重量部に対して、ビニルアルコキシシラン類及びグリシドキシアルコキシシラン類から選択される共単量体1〜10重量部とを重合して得られるガラス転位点が-30℃以下の共重合体のエマルションを主要成分として成る水蒸気選択透過性の優れた防水用塗材。
2.共重合体に、更に他のビニル系単量体が、上記エステル100重量部当たり、50重量部以下導入されて成る特許請求の範囲第1項記載の塗材。」(特許請求の範囲第1項、第2項)
記載事項2.「本発明において、主要成分であるエマルション中に含有されるアクリル系共重合体は、後に説明する方法により測定されるガラス転位点(以下、Tgと略記することがある)が、-30℃以下であることが重要であって、Tgがこれより高いと、従来のセメント系リシン仕上材や合成樹脂エマルション系リシン仕上材と同じ程度以上の水蒸気透過性が得られ難く、あるいは同等の水蒸気透過性が得られたとしても、温度の低下と共に該透過性が著しく低減し、また更に、従来の塗膜防水組成物程度の柔軟性が得られないので不都合である。」(2頁左下欄5〜15行)
記載事項3.「また、本発明のアクリレート系エマルションの共重合体には、更に、他のビニル系単量体を50重量部以下導入することができる。かかるビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸,メタクリル酸,イタコン酸,マレイン酸,スチレン,メタクリル酸メチル,アクリロニトリル,酢酸ビニル,エチレンなどを挙げることができる。これらは一種または二種以上を組合せてしようできる。」(3頁右上欄13〜20行)
記載事項4.「実施例1 2-エチルへキシルアクリレート(2-EHA)100重量部とビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン(iso-NA)2重量部を通常の乳化重合法によって重合した樹脂濃度約60重量%の合成樹脂エマルション」(4頁右下欄6〜11行)

甲第2号証:
記載事項5.「(2)式(R1)n-Si-(OR2)4-n(式中R1は炭素数1〜16のアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基;R2は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基;nは1〜3の正の整数)で表されるオルガノアルコキシシランの存在下に少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和単量体を水性媒体中で乳化重合せしめることを特徴とする、オルガノアルコキシシランを含有するビニル樹脂の水性エマルションの製造方法。
・・・
(4)式(R1)n-Si-(OR2)4-n(式中R1は炭素数1〜16のアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基;R2は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基;nは1〜3の正の整数)で表されるオルガノアルコキシシランを含有するビニル樹脂の水性エマルションをビヒクルとして含むことを特徴とする水性塗料組成物。」(特許請求の範囲第2項、第4項)
記載事項6.「そこで水性媒体中でも加水分解されることなく安定にオルガノアルコキシシラン撥水剤を樹脂とともに保持せしめることができるなら、コンクリート等の下地塗装のシーラーとしてもあるいは塗料としても水性塗料系での対応が可能となり、省資源的にもまた、環境汚染防止の点からも極めて望ましいものであることは明らかで、かかる要求に応えることが本発明の目的である。・・・即ち本発明においてはビニル樹脂の水性エマルションに上記撥水剤を添加するのではなく、水性エマルションのエマルション樹脂粒子中に該撥水剤を含有せしめ、かかる撥水剤と水との接触を防げることにより水性媒体中に樹脂と撥水剤とを安定に保持しようとするものである。」(2頁右上欄11行〜同頁左下欄15行)
記載事項7.「α,β-エチレン性不飽和単量体としては通常アクリル樹脂、ビニル樹脂に使用せられる任意の化合物が1種あるいは2種以上の組合せで使用せられるが、それらは下記の如く大別せられる。
I)カルボキシル基含有単量体;例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸など。
II)ヒドロキシル基含有単量体;例えば2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタアリルアルコールなど。
III)含窒素アルキルアクリレートもしくはメタクリレート;例えばジメチルアミノエチルアクリレート、・・・等。
IV)重合性アミド;例えばアクリル酸アミド、・・・など。
V)重合性ニトリル;例えばアクリロニトリル、・・・など。
VI)アルキルアクリレートもしくはメタクリレート;例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルへキシルアクリレートなど。
VII)重合性芳香族化合物;例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレンなど。
VIII)α-オレフィン;例えばエチレン、・・・など。
IX)ビニル化合物;例えば酢酸ビニル、・・・など。
X)ジエン化合物;例えばブタジエン、イソプレンなど。」(2頁右下欄12行〜3頁右上欄6行)
記載事項8.「これらα,β-エチレン性不飽和単量体の乳化重合は常法に従い適当な乳化剤および重合開始剤を用いて水性媒体中で実施され、その際に前記オルガノアルコキシシランを存在させ、エマルション樹脂中に該オルガノアルコキシシランが内包せられた水性樹脂エマルションが作られる。」(3頁右上欄7〜12行)
記載事項9.「実施例3〜9 実施例2と同様の方法で行いモノマー、オルガノアルコキシシランの組成およびモノマー/シランの比を第1表の如く変更してエマルションを得た。
第1表 (重量部)
実施例 3 4 5 6
スチレン 48.8 12.2 54.9 6.1
・・・
アクリル酸2-エチルヘキシル 28 7
アクリル酸2-ヒドロキシエチル 3.2 0.8 10.8 1.2
・・・
メタクリル酸ラウリル 24.3 2.7
デシルトリメトキシシラン 20 80 10 90」(4頁右欄12〜16行、同頁第1表)

甲第3号証:
記載事項10.「【請求項1】(1)一般式R1-Si-(R2)3(式中R1は炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、アリール基またはシクロアルキル基を、R2は1〜8個の炭素原子を有するアルコキシ基、アセトキシ基または水酸基であり、R2はすべてが同一であっても一部または全部が異なっていてもよい。)であらわされる少なくとも1種の化合物(A)と、少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体とラジカル共重合可能な加水分解性シラン化合物(B)と、少なくとも1種のカルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体と、少なくとも1種の他のエチレン性不飽和単量体とを同時に乳化重合して得られたシリコーンを含むシードラテックスと、(2)少なくとも1種のカルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体および少なくとも1種の他のエチレン性不飽和単量体より重合された重合体とからなるシリコーン含有高分子ラテックス。」(特許請求の範囲【請求項1】)
記載事項11.「【産業上の利用分野】本発明は、はっ水性、汚染抑制、耐候性、光沢、光沢保持性、つやの保持、耐水性、密着性に優れた皮膜を形成し得るシリコーン含有高分子ラテックスに関するものである。本発明のシリコーン含有高分子ラテックスは塗料、接着剤、粘着剤、紙加工剤、繊維加工剤などに利用され、とくに塗料用として有用なものである。」(段落【0001】)
記載事項12.「・・・さらに本発明における他のエチレン性不飽和単量体を具体的に示せば、アクリル酸エステル、・・・等があり、さらに種々の官能性単量体例えば・・・(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル・・・等がある。」(段落【0022】)
記載事項13.「【比較例3】第一段階のγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.9部を投入しない以外は実施例1と同様に重合を行ない
・・・
【比較例4】・・・メタクリル酸28部、メタクリル酸メチル461部、アクリル酸ブチル461部、過硫酸アンモニウムの5%水溶液80部の混合物と、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.9部、メチルトリメトキシシラン101.5部の混合物とを反応容器中の温度を80℃に保ったまま4時間かけて流入し」(段落【0039】〜【0040】)
記載事項14.「【表5】各例の暴露時間3000時間後の光沢値と外観
暴露時間 実施例1 ・・・ 比較例3 比較例4
暴露開始時光沢値 85% ・・・ 84% 83%
3000時間後光沢値 78% ・・・ 12% 40%
3000時間のつや外観 ○ ・・・ × △
・・・
【表6】各例の暴露時間3000時間後の光沢値と外観
暴露時間 実施例1 ・・・ 比較例3 比較例4
3000時間後光沢保持率 75% ・・・ 7% 31%
3000時間のつや外観 ○ ・・・ × △」(段落【0049】【表5】、段落【0051】【表6】)

甲第4号証:
記載事項15.「1.水性媒体中において、第一段階としてシードラテックスを得、このシードラテックスと加水分解性シランの存在下に、(a)カルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体0.1〜10重量%、(b)その他のエチレン性不飽和単量体90〜99.9重量%からなる単量体混合物を流入して重合させる第二段階とからなることを特徴とする重合体ラテックスの製造方法。」(特許請求の範囲)
記載事項16.「本発明は、はっ水性、汚染抑制、耐候性、顔料分散性、光沢、耐水性、密着性に優れた皮膜を形成し得る重合体ラテックスの製造方法に関するものである。本発明で製造される重合体ラテックスは塗料、接着剤、粘着剤、紙加工剤、繊維加工剤などに利用され、とくに塗料用として有用なものである。」(1頁左欄下から6〜同頁右欄1行)
記載事項17.「エチレン性不飽和単量体と加水分解性シランとを反応系へ同時に導入するため、比較的ラテックス粒子表面にオルガノポリシロキサンが存在しやすく、皮膜として汚染抑制と柔軟性という相反する性質を発現することを見出しているが、該ラテックスをビヒクルとし、分散剤を添加して無機顔料と混和する場合、ラテックスが凝集したり、凝集せずに混和できても光沢に優れる皮膜を得ることができなかった。」(2頁左上欄6〜15行)
記載事項18.「本発明でエチレン性不飽和単量体とは、カルボキシル基を持たないエチレン性不飽和単量体を言い、アクリル酸エステル、・・・(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、・・・などが含まれる。」(2頁右下欄19行〜3頁右上欄1行)
記載事項19.「本発明の加水分解性シランとは、一般式として・・・で表されるオルガノアルコキシシラン類で・・・アルコキシシラン類の具体例としてメチルトリメトキシシラン、・・・などがとくに好ましく用いられる。また上記式以外のアルコキシシラン類として、エチレン性不飽和単量体と共重合可能なビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、・・・なども用いることができる。・・・これら加水分解性シランの一種または二種以上を併用しても差し支えなく、カルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体およびエチレン性不飽和単量体に共重合可能である加水分解性シランと、他の加水分解性シランとの併用はとくに好ましい。」(3頁右上欄9行〜4頁左上欄3行)
記載事項20.「比較例2 ・・・メタクリル酸11部、メタクリル酸メチル252部、アクリル酸ブチル230部、水330部、・・・の混合液と、γ-メタクリロキシプロピルメトキシシラン2.5部、ジメチルジメトキシシラン25部、メチルトリメトキシシラン25部からなる混合液とを反応容器中へ別々の滴下槽より3時間かけて流入させる。・・・次に、得られた重合体ラテックスを実施例1と同様に塗料を調整し、実施例1と同様の試験を行ったところ、・・・60度-60度鏡面反射率は63.0%、・・・であった。」(6頁左上欄7行〜同頁右上欄18行)
記載事項21.「比較例6 ・・・メタクリル酸18部、メタクリル酸メチル147部、スチレン105部、アクリル酸2-エチルヘキシル230部、水330部、・・・の混合液と、γ-メタクリロキシプロピルメトキシシラン5部、ジメチルジメトキシシラン30部、メチルトリメトキシシラン10部からなる混合液とを反応容器中へ別々の滴下槽より3時間かけて流入させる。・・・次に、得られた重合体ラテックスを実施例1と同様に塗料を調整し、実施例1と同様の試験を行ったところ、・・・60度-60度鏡面反射率は61.0%、・・・であった。」(8頁左上欄5行〜同頁右上欄17行)
記載事項22.「実施例3 ・・・アクリル酸7.5部、メタクリル酸メチル115部、アクリル酸2-エチルヘキシル122.5部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル5部、水150部、・・・の混合液を反応容器中へ2時間かけて流入させる。流入中は反応容器中の温度を82℃に保つ。流入後、そのまま1時間保持する。次に、アクリル酸1部、メタクリル酸メチル124部、アクリル酸2-エチルヘキシル125部、水150部、・・・の混合液と、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3部、ジメチルジエトキシシラン85部、フェニルトリメトキシシラン15部からなる混合液とを反応容器中へ別々の滴下槽より2時間かけて流入させる。・・・次に、得られた重合体ラテックスを実施例1と同様に塗料を調整し、実施例1と同様の試験を行ったところ、・・・60度-60度鏡面反射率は79.0%、・・・であった。」(8頁右上欄18行〜同頁右下欄16行)

甲第5号証:
記載事項23.「(a)アルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体50〜99.5重量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜15重量%、および(c)(a)および(b)成分と共重合可能な他の単量体0〜50重量%[ただし(a)+(b)+(c)=100重量%]からなる単量体を乳化重合することにより得られる共重合体ラテックス100重量部(固形分換算)の存在下、アルコキシシラン化合物0.1〜500重量部の縮合反応を進行させることを特徴とする水性塗料用エマルジョンの製造方法。」(特許請求の範囲)
記載事項24.「本発明は以上の背景のもとになされたもので、特定の共重合体ラテックスの存在下、アルコキシシラン化合物を縮合反応せしめて得られるエマルジョンを水性塗料に用いた場合、塗膜の撥水性、耐水性、耐光性、および無機基材への密着性に優れた性能が得られることを見い出し、本発明に到達した。」(2頁左上欄1〜7行)
記載事項25.「本発明において、用いられる共重合体ラテックスの製造に使用される単量体の(a)成分であるアルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、・・・ヒドロキシ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらのうちでは、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸メチルなどが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することもできる。」(2頁右上欄5行〜同頁左下欄4行)
記載事項26.「これらのアルコキシシラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、・・・ビニルトリメトキシシラン、・・・などを挙げることができる。」(4頁左下欄3行〜同頁右下欄8行)
記載事項27.「比較例7 (1)エマルジョン(ト)の製造方法 アルコキシシラン化合物を共重合体ラテックスの単量体成分と混合した以外は、実施例1と同様にしてアルコキシシラン化合物の存在下に共重合体ラテックスを重合し、エマルジョン(ト)を得た。」(7頁右欄10〜16行)
記載事項28.「表-1
実施例 ・・・ 比較例
1 ・・・ 7
・・・
[塗料としての評価結果]
耐候性 光沢保持率(%) 68 ・・・ 31
黄変度(ΔYI) 4 ・・・ 12
密着性(接着数) 97 ・・・ 8
耐水性 ◎ ・・・ △
撥水性(接触角゜) 88 ・・・ 70」(8頁表-1)

甲第6号証:
記載事項29.「(1)ラテックスにアルコキシシラン化合物を混合し、ラテックス中で該アルコキシシラン化合物中のアルコキシシリル基を加水分解させるとともに、加水分解により発生するアルコールを除去することを特徴とするポリシロキサン含有ラテックス組成物の製造方法。」(特許請求の範囲)
記載事項30.「また、ラテックスに特定のアルコキシシランを混合して使用することが知られているが、時間が経過するにつれて該混合物の粘度が上昇し、あるいは混合物全体が凝集するといった、望ましくない現象が起こる。このため、アルコキシシランを使用直前に混合し、短時間の内に使用しなければならないという制約がある。・・・ラテックス中で該アルコキシシラン化合物中のアルコキシシリル基が加水分解して生成するアルコールを除去すれば、ラテックス組成物の貯蔵安定性及び分散安定性が向上し、・・・」(2頁左上欄15行〜同頁右上欄13行)
記載事項31.「本発明において使用し得るラテックスを構成するポリマー単量体組成は、特に制限されず、以下に例示する(イ)ないし(ヌ)の単量体を、一種類単独で使用し又は任意の組合せで併用することができる。(イ)α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル:例えば(メタ)アクリル酸メチル、・・・等のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル類;・・・例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル類;・・・(ロ)α,β-エチレン性不飽和酸:例えば(メタ)アクリル酸等のα,β-エチレン性モノカルボン酸およびこれらの塩類;」(2頁左下欄4行〜同頁右下欄12行)
記載事項32.「実施例2 ・・・ブタジエン50部、スチレン48部、メタクリル酸2.0部及びアクリル酸ヒドロキシエチル1.0部を仕込み、60℃15時間反応させた。・・・得られたラテックス100部にテトラエトキシシラン50部を徐々に滴下して、実施例1と同様の試験を行った。」(5頁右上欄1〜13行)

(5)対比・判断
ア.特許法第29条第1項違反について
本件発明は、
(i)「モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物」(以下、「本件(A)成分」という。)の存在下、
(ii)「不飽和カルボン酸」(以下、「本件(b)成分」という。)、及び「ヒドロキシル基含有単量体」(以下、「本件(b)’成分」という。)を含む活性水素を含有する重合性単量体(以下、「本件(B)成分」という。)、及び「本件(B)成分と共重合性を有する単量体」(以下、「本件(C)成分」という。)を、
(iii)1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンを含有する塗料用樹脂組成物
を、その必須の構成要件の一つとするものである。
そこで、以下に、甲第1、2、5号証についてそれぞれ検討する。
<甲第1号証について>
甲第1号証には、「アクリル酸アルキルエステル」(本件(C)成分に相当)と、「グリシドキシアルコキシシラン類から選択される共単量体」と、「他のビニル系単量体」とを、通常の乳化重合法で重合して得られるエマルションを主要成分とする防水用塗材が記載されている(記載事項1、4参照)。
しかしながら、上記「グリシドキシアルコキシシラン類から選択される共単量体」は、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物ではあるものの、本件(A)成分に特定された成分ではなく、また、甲第1号証には、「他のビニル系単量体」の具体例として、本件(b)成分に相当する「アクリル酸」は記載されているものの、本件(b)’成分については記載も示唆もされていない(記載事項3参照)。
したがって、本件発明と甲第1号証に記載された発明とは、塗料用樹脂組成物のエマルジョンを調製するための成分が異なっているから、その他の構成要件について判断するまでもなく両者は同一ということはできない。
<甲第2号証について>
甲第2号証には、「オルガノアルコキシシラン」の存在下に、少なくとも1種の「α,β-エチレン性不飽和単量体」を水性媒体中で乳化重合して得られるビニル樹脂の水性エマルションを含む水性塗料組成物が記載されており(記載事項5参照)、「α,β-エチレン性不飽和単量体」として、I)カルボキシル基含有単量体、II)ヒドロキシル基含有単量体、VI)アルキルアクリレートもしくはメタクリレート、及びVII)重合性芳香族化合物などが、計10のグループに大別して示されている(記載事項7参照)。そして、実施例3〜6には、「デシルトリメトキシシラン」(本件(A)成分に相当)の存在下に、「α,β-エチレン性不飽和単量体」として、「スチレン」(上記VIIのもの)と「アクリル酸2-エチルへキシル」あるいは「メタクリル酸ラウリル」(上記VIのもの)(それぞれ本件(C)成分に相当)とともに、「アクリル酸2-ヒドロキシエチル」(上記IIのもの)(本件(b)’成分に相当)を乳化重合して水性エマルションを得たことが記載されている(記載事項9参照)。
しかしながら、甲第2号証には、「α,β-エチレン性不飽和単量体」は、上記のように、10のグループが示されており、I)として本件(b)成分に、II)として本件(b)’成分に、それぞれ相当する成分が例示されているものの、その他に本件(C)成分に相当する成分も多数含まれている。そして、「α,β-エチレン性不飽和単量体」として、それらから1種あるいは2種以上を組み合わせて使用できることが記載されているものの、その具体的組み合わせとしては、先に示した実施例3〜6に、本件(b)’成分と本件(C)成分に相当する成分の組み合わせが記載されているのみで、その他は、本件(C)成分に相当する成分のみの組み合わせが示されるにとどまり、その組み合わせは無数にあるところ、その中から、本件(b)成分、本件(b)’成分及び本件(C)成分の三成分を組み合わせて使用することまでは、記載されているとも示唆されているとも認められない。
したがって、本件発明と甲第2号証に記載された発明は、塗料用樹脂組成物のエマルジョンを調製するための成分が異なっているから、その他の構成要件について判断するまでもなく両者は同一ということはできない。
<甲第5号証について>
甲第5号証には、「アクリル酸アルキルエステル単量体」(本件(C)成分に相当)と、「エチレン系不飽和カルボン酸単量体」(本件(b)成分に相当)を乳化重合して得られる共重合体ラテックスの存在下、「アルコキシシラン化合物」(本件(A)成分に相当)の縮合反応を行って得られる水性塗料用エマルジョンが記載されており(記載事項23参照)、比較例7には、1段で乳化重合してエマルジョンを得たことが記載されている(記載事項27参照)。
しかしながら、甲第5号証には、一段で乳化重合してエマルジョンを得ることについては、比較例7に記載されているのみであり、また、本件(b)’成分に相当する成分については、「アクリル酸アルキルエステル単量体」の一例として記載されているのみであるから(記載事項25参照)から、甲第5号証には、本件(A)成分の存在下、本件(b)成分、本件(b)’成分及び本件(C)成分を一段で乳化重合して得られるエマルジョンが記載されているとはいうことはできない。
したがって、本件発明と甲第5号証に記載された発明は、塗料用樹脂組成物のエマルジョンを調製するための成分及び方法が異なっているから、その他の構成要件について判断するまでもなく両者は同一ということはできない。

よって、本件発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

イ.特許法第29条第2項違反について
本件発明は、上記アに示したように、
(i)本件(A)成分の存在下、
(ii)本件(b)成分及び本件(b)’成分を含む本件B成分、及び本件C成分を、
(iii)1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンを含有する塗料用樹脂組成物
を必須の構成要件としており、そのことにより、
(I)重合性二重結合を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「本件外(A)’成分」という。)を用いる場合の、合成樹脂エマルジョンの安定性が悪くなり、増粘、ゲル化などしやすくなり、造膜温度を高くし、均一な塗膜を形成することが困難となり、塗膜の光沢が低下するという欠点を解消し(特許明細書段落【0020】参照)、
(II)エマルジョンの安定性を効果的に向上させ、塗膜の各種物性を向上させ(同段落【0026】参照)、
(III)2段乳化重合の場合における方法の複雑化を解消するとともに、本件(A)成分を後から添加して縮合反応させる場合にエマルジョンの安定性が悪くなり、経時的に増粘、ゲル化しやすくなり、塗料の安定性が大幅に低下し、耐変色性などの耐候性も不充分となるという欠点を解消する(同段落【0037】〜【0038】参照)というものである。
そして、本件発明の構成を採用することにより、「すぐれた光沢、耐水性、顔料分散性などを呈するだけでなく、長期間にわたる光沢保持性、耐変色性、耐クラック性、耐ブリスター性などの耐候性にすぐれた塗膜を形成することができ、また、安定性がよく、増粘、ゲル化などしにくい。さらには、1段乳化重合という簡単な方法で製造が可能である。」という特許明細書記載の効果を奏するものである(同段落【0106】参照)。
そこで、以下に、甲各号証に記載された発明について検討する。
<甲第1号証について>
甲第1号証に記載された発明は、水蒸気選択透過性の優れた塗膜を形成するために、「アクリル酸アルキルエステル」と「グリシドキシアルコキシシラン類」とを重合して得られるガラス転位点が-30℃以下の共重合体のエマルジョンを主要成分とすることを特徴とするものであって(記載事項2参照)、上記アに示したように、甲第1号証には、本件(A)成分及び本件(b)’成分については記載も示唆もされておらず、その他、本件発明の上記構成、課題及び効果を示唆する記載はない。
<甲第2号証について>
甲第2号証に記載された発明は、水性媒体中でも加水分解されることなく安定にオルガノアルコキシシラン撥水剤と樹脂とを保持することを目的とし、オルガノアルコキシシランの存在下でα,β-エチレン性不飽和単量体の重合を行いエマルション樹脂中にオルガノアルコキシシランが内包せられた水性樹脂エマルションを得るものであるが(記載事項6、8参照)、上記アに示したように、α,β-エチレン性不飽和単量体として、本件発明の組合せを採用することについて記載されているとも示唆されているともいえない。したがって、甲第2号証には、オルガノアルコキシシランと、本件(B)成分及び本件(C)成分のいずれでも良いα,β-エチレン性不飽和単量体を1段で重合すると安定な塗料が得られることが示されているものの、本件発明の上記構成、課題及び効果を示唆する記載があるとはいえない。
<甲第3号証について>
甲第3号証には、「一般式R1-Si-(R2)3で表される化合物」(本件(A)成分に相当)、及び少なくとも1種の「エチレン性不飽和単量体とラジカル共重合可能な加水分解性シラン化合物」(本件外(A)’成分に相当)と、少なくとも1種の「カルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体」(本件(b)成分に相当)と、少なくとも1種の「他のエチレン性不飽和単量体」(本件(C)成分に相当)とを同時に乳化重合して得られたシリコーンを含むシードラテックスと、少なくとも「1種のカルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体」(本件(b)成分に相当)と、少なくとも1種の「他のエチレン性不飽和単量体」(本件(C)成分に相当)より重合された重合体とからなるシリコーン含有高分子ラテックスであって、塗料用として有用なラテックスが記載されている(記載事項10、11参照)。
しかしながら、甲第3号証に記載された発明は、皮膜のつや及び光沢保持性の優れたものとすることを目的として、本件外(A)’成分を必須とし、2段重合によって得られるシリコーン含有高分子ラテックスとしたものである。ところで、甲第3号証の比較例3には、本件外(A)’成分を用いず2段重合したものが、また、比較例4には、本件外(A)’成分を用いて1段重合したものが記載されているが、いずれも長期間経過後のつや及び光沢保持率が劣るもので、本件外(A)’成分を用いることなく1段重合することについては、記載も示唆もされていない(記載事項13、14参照)。また、本件(b)’成分に相当する成分については、「他のエチレン性不飽和単量体」の一例として記載されているのみである(記載事項12参照)。したがって、甲第3号証には、本件外(A)’成分を用い、2段重合によって得られるシリコーン含有ラテックスとすることによって、塗膜のつや及び光沢保持性が優れたものとなることは記載されているものの、本件発明の上記構成、課題及び効果を示唆する記載はない。
<甲第4号証について>
甲第4号証には、第一段階として「シードラテックス」を得、この「シードラテックス」と「加水分解性シラン」の存在下に、「カルボキシル基を持つエチレン性不飽和単量体」(本件(b)成分に相当)及び「その他のエチレン性不飽和単量体」(本件(C)成分に相当)からなる単量体混合物を重合させる第二段階によって製造される重合体ラテックスであって、塗料用として有用なラテックスが記載されており(記載事項15、16参照)、「加水分解性シラン」は、本件(A)成分に相当する成分と、本件外(A)’成分に相当する成分の併用が好ましいことが記載されている(記載事項19参照)。
しかしながら、甲第4号証に記載された発明は、エチレン性不飽和単量体と加水分解性シランとを1段で重合すると、皮膜として耐汚染性と柔軟性という相反する性質は発現できるが、光沢に優れる皮膜を得ることができなかったという欠点を解消することを目的とし、2段重合を採用したものである(記載事項17参照)。ところで、甲第4号証の比較例2及び6には、本件外(A)’成分も用いて1段重合して得られるラテックスが記載されているが、いずれも鏡面反射率が劣るものであり、それ以外に1段で乳化重合することについては記載も示唆もされていない(記載事項20、21参照)。また、本件(b)’成分に相当する成分については、「その他のエチレン性不飽和単量体」の一例として記載されており(記載事項18参照)、実施例3では、シードラテックスを形成するのに、本件(b)成分及び本件(C)成分に相当する成分とともに用いることが記載されているものの(記載事項22参照)、シードラテックスの形成以外で用いたことは記載されていない。したがって、甲第4号証には、エチレン性不飽和単量体と加水分解性シランとの2段重合によって得られるラテックスが、塗膜のつやに関しても優れたものとなることは記載されているものの、本件発明の上記構成、課題及び効果を示唆する記載はない。
<甲第5号証について>
甲第5号証に記載された発明は、特定の共重合体ラテックスの存在下、アルコキシシラン化合物を縮合反応させて得られるエマルジョンを水性塗料に用いることにより、塗膜の撥水性、耐水性、耐候性及び無機基材への密着性に優れた性能を得たものである(記載事項24参照)。また、甲第5号証には、アルコキシシラン化合物として、本件外(A)’成分を併記しており(記載事項26参照)、かつ、1段重合は光沢保持率、耐水性等が悪い比較例として示されているように(記載事項28参照)、本件発明の上記構成、課題及び効果を示唆する記載はない。
<甲第6号証について>
甲第6号証には、「ラテックス」に「アルコキシシラン」(本件(A)成分に相当)を混合し、ラテックス中でアルコキシシラン化合物を加水分解させるとともに、発生するアルコールを除去して得られる皮膜形成用のポリシロキサン含有ラテックス組成物が記載されている(記載事項29参照)。そして、「ラテックス」は、本件(B)成分及び本件(C)成分に相当する成分から選ばれる単量体を重合して得られるものであることも記載されている(記載事項31参照)。
しかしながら、甲第6号証に記載された発明は、ラテックスにアルコキシシランを混合して使用する場合、時間の経過とともに粘度が上昇するなどの欠点を解消することを目的として、ラテックス中でのアルコキシシランの加水分解により発生するアルコールを除去するようにしたものである(記載事項30参照)。甲第6号証の実施例2には、本件(b)成分、本件(b)’成分及び本件(C)成分に相当する成分を反応させてラテックスを得たことが記載されているが(記載事項32参照)、アルコキシシランと1段重合することについては記載も示唆もされていない。したがって、甲第6号証には、本件発明の上記構成、課題及び効果を示唆する記載はない。
<甲第1〜6号証の組み合わせについて>
以上のように、甲第1〜6号証には、本件発明の本件(A)〜(C)成分を組み合わせて用いて、かつ、1段で乳化重合することについては、記載も示唆もされていない。
また、甲第1号証には、本件(A)成分及び本件(b)’成分が記載されておらず、甲第2号証には、本件(b)成分及び本件(b)’成分の組合せが示唆されておらず、甲第3号証は、本件外(A)’成分を必須とし、本件(b)成分及び本件(b)’成分の組合せが示唆されておらず、2段重合するものであり、甲第4号証は、本件(A)成分及び(A)’成分の併用が好ましいもので、2段重合するものであり、甲第5号証は、本件(b)成分及び本件(b)’成分の組合せが示唆されておらず、2段重合するものであり、甲第6号証は、1段重合するものではないところ、甲各号証には、本件外(A)’成分を含有させないことに関する課題を示すものはなく、1段重合において本件(b)成分及び本件(b)’成分を組み合わせることを示唆するものもなく、かつ、2段重合を1段重合にかえるとする動機付けを与えるような記載もない。すなわち、これら甲各号証の記載を組み合わせても、甲各号証に記載された発明における必須成分を除いたり、必須の重合工程を他にかえることを導き出すに足る記載も示唆もない。ましてや、本件(b)成分及び本件(b)’成分のエマルジョン調整用の組成物中における配合比を特定するような記載もない。そして、本件発明は、請求項1記載の構成を採用することによって、甲各号証に記載された発明からは予測し得ない本件明細書記載の上記効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められず、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

ウ.特許法第36条違反について
上記訂正によって、特許法第36条に関する不備は解消された。

エ.異議申立人の主張について
異議申立人は、甲第2号証に記載された発明に対して、本件発明で示される感性による定性試験という厳密ではない貯蔵安定性の効果の差では、選択発明としての特許性はない旨主張している。
しかしながら、そもそも、上記アで示したように、甲第2号証には、本件(A)成分、本件(b)’成分及び本件(C)成分を1段で重合したことは記載されているが、さらに本件(b)成分をも組み合わせて使用することについては記載されているということはできないものであり、甲第2号証に記載された発明は、本件発明と構成において相違するものである。
また、甲第6号証には、本件(A)〜(C)成分のすべてを用いたものが記載されているものの、甲第6号証に記載された発明は、本件(A)成分に相当する成分を後から添加して、発生するアルコールを除去しつつ加水分解させて反応を行うものであり、発生するアルコールを除去することにより、塗料の貯蔵安定性、強度の改良を目的とするものである。したがって、甲第6号証には、全成分を1段で重合することを示唆する記載もなく、また、そのことにより、本件明細書記載の優れた光沢を有するという効果を示す記載もないから、甲第6号証の記載から、甲第2号証に記載された発明において、本件(A)〜(C)成分のすべてを一段で重合することについて、当業者が容易に想到し得たものとすることもできない。そして、本件発明が、甲第2号証に具体的に記載された成分の組み合わせを採用した発明に比べて、貯蔵安定性のみならず優れた光沢を有することは、特許権者が平成16年8月20日付けで提出した特許異議意見書及び実験成績証明書の記載から明らかであるように、本件発明は甲第2号証に記載された発明からは予測し得ない効果を奏するものである。したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塗料用樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100重量部になるように(A)成分0.1〜30.0重量部、(B)成分2〜15重量部および(C)成分56〜96重量部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜5重量部、ヒドロキシル基含有単量体の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100重量部に対して1〜10重量部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、塗料用樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、すぐれた光沢、耐水性などを呈するだけでなく、長期間にわたる光沢保持性、耐変色性、耐クラック性、耐ブリスター性などの耐候性にすぐれ、さらに安定性がよく、増粘、ゲル化などしにくく、たとえば建築物の内壁材、外壁材、自動車、大型構造物、鋼製機器、家電製品、木工製品などの各種塗装に好適に使用しうる塗料用樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術・発明が解決しようとする課題】
近年、環境保全および安全衛生のため、塗料の無公害化が強く要望されており、従来の溶剤型塗料の水系化が行なわれつつある。
【0003】
たとえば、水性(メタ)アクリル系エマルジョン型塗料は、取扱いが容易で、溶剤臭がない、引火爆発の危険性がない、湿潤面に直接塗布できる、さらに、比較的安価であるという特徴をもっている。
【0004】
しかしながら、水性(メタ)アクリル系エマルジョン型塗料のばあい、耐候性が不充分である、溶剤型塗料と比較して光沢が劣る、乾燥が比較的遅いなどの問題を有している。
【0005】
また、溶剤型シリコーンアクリル共重合樹脂塗料は、フッ素樹脂塗料についで耐候性、撥水性、耐汚染性にすぐれているため、広範囲に使用されているが、この塗料の水性化も強く要望されている。
【0006】
しかし、水性化すると、樹脂に含まれるアルコキシシリル基が加水分解してシラノール基が生成するが、生成したシラノール基は経時的に縮合して、塗料の粘度が上昇したり、ゲル化するばあいがあるという問題がある。
【0007】
これらの問題を解決するために、アルコキシシリル基を有さないポリマーのエマルジョンを調製したのちアルコキシシラン化合物を後添加して、それを加水分解させることによって安定なエマルジョンをうる方法(特開平4-173807号公報)や、アルコキシシリル基を有さないポリマーのエマルジョンを調製したのちアルコキシシラン化合物を後添加して加水分解させ、さらに縮合反応させることにより水性塗料用エマルジョンをうる方法(特開平4-57868号公報)が提案されているが、いずれのエマルジョンも安定性がわるく、耐変色性という点でも不充分である。
【0008】
また、重合性二重結合を含有する反応性シランモノマーとエチレン性不飽和モノマーとのラジカル重合、および線状シロキサン前駆体モノマーのカチオン重合を同時に行なってえた水性エマルジョン(特開平2-67324号公報)が提案されているが、エマルジョンの安定性がわるく、それを用いた塗料の塗膜は、初期光沢度が低いという点で不充分である。
【0009】
また、重合性二重結合を含有しないアルコキシシランの存在下で、重合性二重結合を含有する反応性シランモノマーとエチレン性不飽和モノマーとの重合および縮合を同時に行ない、えられたエマルジョンを有機溶剤で転相することによりミクロゲル分散液を製造すること(特開昭60-181173号公報)が提案されているが、塗料の無公害化つまり、溶剤系から水系化への移行に逆行し、しかも工程が複雑であるという点で不充分である。
【0010】
また、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン、重合性二重結合を含有する反応性シランモノマー、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを同時に共重合させてエマルジョンを調製する方法(特開平4-175343号公報の比較例2、特開平5-93071号公報の比較例4)も開示されているが、この方法で調製したエマルジョンのばあい、重合性二重結合を含有する反応性シランモノマーを用いるためにエマルジョンの安定性がわるい、塗膜の光沢が低いという点で不充分である。
【0011】
また、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン、重合性二重結合をもつ反応性シランモノマー、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを同時に共重合させてえられたエマルジョンをシードにして、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを共重合させてエマルジョンを調製する方法(特開平5-93071号公報)も提案されているが、この方法で調製したエマルジョンのばあい、製造方法が複雑なうえにエマルジョンの安定性が不充分であり、造膜性がよくなく、造膜助剤を多く必要とし、したがって塗膜の耐汚染性が低下するという点で不充分である。
【0012】
また、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを共重合させてえられたエマルジョンをシードにして、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン、重合性二重結合をもつ反応性シランモノマー、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを同時に共重合させてエマルジョンを調製する方法(特開平4-175343号公報)が提案されているが、製法が複雑なうえに、この方法でえられたエマルジョンは安定性が不充分であり、造膜性がよくないために造膜助剤を多く必要とし、したがって塗膜の耐汚染性が低下するという点で不充分である。
【0013】
さらに、重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを同時に共重合してえられるエマルジョンをシードにして、エチレン性不飽和モノマーおよびカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマーを共重合させてエマルジョンを調製する方法(特開平5-93071号公報の比較例3)も開示されているが、製法が複雑なうえにこの方法でえられたエマルジョンはアルコキシシランが粒子内部に分布するため、耐候性向上に寄与しにくいという点で不充分である。
【0014】
本発明は前記のごとき問題を解決し、すぐれた光沢、耐水性および顔料分散性などを呈するだけでなく、長期間にわたる光沢保持性、耐変色性、耐クラック性、耐ブリスター性などの耐候性にすぐれた塗膜を形成することができ、さらに、安定性がよく、増粘、ゲル化などしにくい塗料用樹脂組成物を、簡単な製法で提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてなる合成樹脂エマルジョンであって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合が、これらの合計量が100部(重量部、以下同様)になるように(A)成分0.1〜30.0部、(B)成分2〜15部および(C)成分56〜96部の割合であって、(B)成分に含まれる不飽和カルボン酸の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100部に対して1〜5部、ヒドロキシル基含有単量体の割合が(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量100部に対して1〜10部となるように用いて調製したエマルジョンを含有することを特徴とする塗料用樹脂組成物に関する。
【0016】
【作用および実施例】
本発明で用いられる合成樹脂エマルジョンは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メルカプト基を有するアルコキシシラン、およびアミノ基を有するアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)の存在下において、単量体として不飽和カルボン酸およびヒドロキシル基含有単量体を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)およびこれと共重合性を有する単量体(C)を1段で乳化重合させてえられるものである。該エマルジョンは塗料用樹脂組成物そのものまたは塗料用樹脂組成物の主体となるものであって、バインダーとしての働きをするものであり、安定性がよく、しかも光沢、耐水性、顔料分散性および耐候性などのすぐれた塗膜を形成するのに寄与するものである。
【0017】
前記重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物(A)(以下、化合物(A)ともいう)は、反応性の高いSi-O-C結合を1個以上有する化合物である。
【0018】
化合物(A)は水の存在化で加水分解し、ついでSi-O-Si結合を形成するという性質を有する。それゆえ、化合物(A)の存在下で調製した合成樹脂エマルジョンを含有する塗料用樹脂組成物を用いて調製した塗料から形成された塗膜は表面が疎水化され、しかも無機顔料の分散性が向上しているため、光沢、耐水性さらには長期間にわたる光沢保持性、耐変色性、耐クラック性、耐ブリスター性などの耐候性が改善された塗膜を形成することができる。
【0019】
前記化合物(A)の具体例としては、たとえばトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルエトキシシランなどのアルキル基(SiにHが結合しているばあい、本明細書ではアルキル基に準ずるものとして取り扱い、アルキル基の個数に含める、以下同様)および(または)アリール基を3個有するモノアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシランなどのアルキル基および(または)アリール基を2個有するジアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシランなどのモノアルキルまたはモノアリールトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を有するアルコキシシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するアルコキシシラン;N-β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基を有するアルコキシシランなどがあげられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0020】
なお、化合物(A)に類似の化合物である重合性二重結合を含有するアルコキシシラン化合物(たとえばビニルトリエトキシシラン、ビニルエトキシシラン、γ-アクリロキシシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなど)を本発明に用いる合成樹脂エマルジョンの調製時に化合物(A)のかわりにまたは化合物(A)とともに用いると、合成樹脂エマルジョンの安定性がわるくなり、増粘、ゲル化などしやすくなる。また、該エマルジョンの造膜温度を非常に高くし、均一な塗膜を形成することが困難になる。さらに、えられた塗膜の光沢が低下する。
【0021】
前記不飽和カルボン酸を含む活性水素を含有する重合性単量体(B)(以下、単量体(B)ともいう)は、後述する(C)成分とともに共重合体を構成し、共重合体中において化合物(A)の安定性、つまりエマルジョンの安定性を維持する成分である。
【0022】
前記共重合体中に単量体(B)ユニットが含まれるため、合成樹脂エマルジョンの安定性が向上するとともに、化合物(A)の働き(光沢、耐候性など)を増強させる。
【0023】
単量体(B)に含有される活性水素の含有のされ方としては、不飽和カルボン酸に由来する-COOH基が含有される限りとくに限定はなく、たとえば-OH、-COOH、-NH2、-NH-、-CONH2、-NHCH2OHなどの形で含有されるが、耐水性、耐変色性などの点から-OH、-COOHなどの形で含有されるのが好ましい。
【0024】
また、単量体(B)1分子に含有される活性水素の数についてもとくに限定はないが、通常は1〜2個であり、1個であるのが好ましい。
【0025】
このような単量体(B)の具体例としては、たとえば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸などの不飽和カルボン酸;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート、4-ヒドロキシブチルメタアクリレートなどのヒドロキシル基含有単量体などがあげられる。これらの単量体は、単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0026】
これらの中では、不飽和カルボン酸、ヒドロキシル基含有単量体が少量で添加効果がえられるという点から好ましく用いられる。また、併用するばあい、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有単量体との組み合わせがエマルジョンの安定性を効果的に向上させ、しかも塗膜の各種物性を向上させるという点から好ましい。
【0027】
前記共重合性を有する単量体(C)(以下単量体(C)ともいう)は、単量体(B)とともに共重合体を構成し、共重合体中において塗膜の形成に必要な造膜性、柔軟性あるいは硬さ、耐水性などの性質を付与するためのポリマーの骨格となる主成分である。したがって、単量体(C)として好ましいものは、調製される本発明の塗料用樹脂組成物に対する要求性能により異なるため一概に規定することはできないが、たとえば上塗り用塗料の塗料用樹脂組成物として使用するばあいには、光沢、耐水性、耐候性などの性能がよくなるアルキル(メタ)アクリレートなどを主体にすることが好ましく、また、弾性用塗料の塗料用樹脂組成物として使用するばあいには、上塗り塗料の性能に加え、耐伸縮疲労性、耐アルカリ性などの性能がよくなるガラス転移温度の低いアルキルアクリレートなどを主体にすることが好ましい。
【0028】
前記単量体(C)の具体例をタイプ別に示すと、たとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジル(メタ)アクリレートなどの架橋性モノマーなどがあげられる。これらの単量体は、単独で用いてもよいが、前述のごとく各種要求性能を満足させるために2種以上併用するのが一般的である。
【0029】
たとえば耐水性、耐候性という要求性能を満足させるためにはメチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが使用され、光沢、耐水性という要求性能を満足させるためにはスチレン系モノマーなどが使用され、また、耐伸縮疲労性、耐アルカリ性という要求性能を満足させるためにはブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどが用いられる。
【0030】
前記化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)の使用量は、これらの合計量が100部になるように、化合物(A)を0.1〜30.0部、単量体(B)を0.1〜20.0部および単量体(C)を50〜99.8部使用される。
【0031】
化合物(A)の使用量が0.1部より少なくなると、光沢、耐水性、耐候性が不充分となり、30.0部をこえるとエマルジョンの安定性がわるくなり、ゲル化したり、ポリマーが硬くなって造膜性が低下したりする。化合物(A)の使用最小量は1部以上、さらには3部以上であるのが光沢、耐水性、耐候性の点から好ましく、また、使用最大量は27部以下、さらには25部以下であるのがエマルジョンの安定性、造膜性の点から好ましい。
【0032】
また、単量体(B)の使用量が0.1部より少なくなると、合成樹脂エマルジョンおよびそれを使用して作製した塗料の安定性、とくに機械的安定性がわるくなる。また、前記化合物(A)がもたらす光沢、耐水性、耐候性などの物性および合成樹脂エマルジョンの安定性を増強させる効果が充分生じなくなる。他方、20.0部をこえると、合成樹脂エマルジョンは、経時的に増粘およびゲル化しやすくなる。さらに、塗膜の耐水性が低下する。化合物(B)の使用最小量は0.5部以上、さらには1部以上であるのがエマルジョンの安定性、化合物(A)がもたらす塗膜の諸物性の点から好ましく、また、使用最大量は17部以下、さらには15部以下であるのがエマルジョンの粘度安定性、塗膜の耐水性の点から好ましい。
【0033】
さらに、単量体(C)の使用量が50.0部より少なくなると、エマルジョンの安定性がわるくなり、経時的に増粘およびゲル化しやすくなり、99.8部をこえると耐水性、耐候性、光沢がわるくなる。化合物(C)の使用最小量は56部以上、さらには60部以上であるのがエマルジョンの安定性の点から好ましく、また、使用最大量は98.5部以下、さらには96部以下であるのが耐水性、耐候性、光沢の点から好ましい。
【0034】
つぎに、本発明における合成樹脂エマルジョンを、化合物(A)の存在下において、単量体(B)および単量体(C)を1段で乳化重合させてうることについて説明する。
【0035】
本発明における合成樹脂エマルジョンは1段で乳化重合させてえられるものである。
【0036】
1段で乳化重合させる方法には、たとえば化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)を反応容器に仕込み重合させて合成樹脂エマルジョンをうるバッチ重合法、化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)を滴下して、または化合物(A)を含む液中に単量体(B)および単量体(C)を滴下して重合させて合成樹脂エマルジョンをうるモノマー滴下重合法、化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)を乳化させたものを滴下して、または化合物(A)を含む液中に単量体(B)および単量体(C)を乳化させたものを滴下して重合させて合成樹脂エマルジョンをうる乳化モノマー滴下重合法などの各種の方法があるが、乳化重合の最初から最後まで実質的に同じ組成の重合が進む限りいずれの方法によってもよいが、製造時にエマルジョンの安定性を確保するという点からモノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法が好ましい。
【0037】
本発明における合成樹脂エマルジョンを前記のごとき1段乳化重合法によらずに調製するばあい、たとえば最初に化合物(A)の存在下において、単量体(B)と単量体(C)とを乳化重合させてシードエマルジョンをえ、ついで該エマルジョンの存在下に単量体(B)と単量体(C)との比率をかえたものを乳化重合させるというような2段乳化重合法によるばあい、重合方法が複雑になるだけでなく、えられる合成樹脂エマルジョンは、化合物(A)が粒子の中心部付近に多く分布しているために、塗膜にしたばあい、表面に出にくく、塗膜物性の向上に寄与することが少なく、不充分な性能の塗料用樹脂組成物しかえられなくなってしまう。
【0038】
また、本発明においては、化合物(A)の存在下において、単量体(B)および単量体(C)を乳化重合させる点に特徴があり、単量体(B)および単量体(C)を乳化重合させたのちに化合物(A)を添加して縮合反応をさせる方法とは異なる。化合物(A)を後添加して縮合反応をさせる方法では、えられる合成樹脂エマルジョンは安定性がわるくなり、経時的に増粘、ゲル化しやすくなる。この結果、えられた合成樹脂エマルジョンを用いて調製した塗料からの塗膜は、化合物(A)を用いているため初期光沢、耐水性などが向上した塗膜にはなるが、塗料の安定性は大幅に低下し、耐変色性などの耐候性も不充分となるなどの問題を有する。
【0039】
本発明における合成樹脂エマルジョンの調製時には乳化剤が用いられるが、このような乳化剤の具体例としては、たとえばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルなどのアニオン性界面活性剤;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤;ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどの両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン性界面活性剤などがあげられる。これらの中では、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩などのアニオン性界面活性剤が製造時のエマルジョンの安定性、えられる塗料用樹脂組成物の造膜性、塗料の安定性、塗膜の光沢、耐水性、耐候性がよくなるという点から好ましい。
【0040】
前記乳化剤の使用量は、製造時のエマルジョンの安定性、造膜性および塗膜の耐水性、耐汚染性の点から、化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)の合計量100部に対して通常0.05〜10部、好ましくは0.1〜5部である。
【0041】
前記合成樹脂エマルジョンを調製する際に一般に重合開始剤が使用されるが、このような重合開始剤の具体例としては、たとえば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩;2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2´-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、1,1´-アゾビス-1-シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル-2,2´-アゾビスイソブチレート、4,4´-アゾビス-4-シアノバレリックアシッド、2,2´-アゾビス-(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)などのアゾ化合物;過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物などがあげられる。これらの中では、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩が製造時のエマルジョンの安定性の点から好ましい。前記過硫酸塩は、次亜硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸などの還元剤と併用してレドックス系重合開始剤として用いられることが多い。
【0042】
前記重合開始剤の使用量、乳化重合の反応温度および反応時間は、適度に反応が進行し、目的とする合成樹脂エマルジョンがえられるように適宜調整して決めればよい。たとえば重合開始剤の使用量は化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)の合計量100部に対して通常0.05〜2部、好ましくは0.1〜1部である。また、乳化重合の反応温度は、通常は50〜100℃、好ましくは60〜90℃である。また、反応時間は、通常は1〜16時間、好ましくは2〜10時間である。
【0043】
前記のごとき製法でえられた合成樹脂エマルジョンは、中和しなくても安定な分散性を示すが、長期の分散安定性を保つためには、たとえばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類などのアルカリ性化合物または塩酸のごとき無機酸などの酸性化合物を用いてpHを6〜10に調整することが好ましい。
【0044】
このようにしてえられる合成樹脂エマルジョンの固形分濃度は、塗料化のしやすさ、塗膜の厚さ維持、塗料の塗布性などの作業性の点から30〜75%(重量%、以下同じ)であるのが好ましく、さらには35〜65%が好ましい。また、粘度は、塗料化のしやすさ、塗料の塗布性などの作業性の点から50〜30,000mPa・sであるのが好ましく、さらには100〜20,000mPa・sが好ましい。さらに、平均粒子径は0.05〜0.5μm、さらには0.1〜0.3μm程度の微粒子より構成されているのが好ましく、このばあいには被膜形成能がすぐれる。
【0045】
本発明における合成樹脂エマルジョン中の化合物(A)のアルコキシシリル基(-SiOCH3など)の多くは、エマルジョン粒子内部に安定な状態で含有されており、シリル基は塗料の状態では縮合しにくく、したがって塗料は安定に保たれる。
【0046】
以上で合成樹脂エマルジョンについて各構成要因ごとに説明を行なってきたが、総合的な観点からあらためて好ましい発明の態様について述べる。
【0047】
まず、前記化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)の最適組み合わせとしては、化合物(A)がアルキル(C1〜6)トリアルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部、単量体(C)がアルキル(C1〜4)(メタ)アクリレート70〜35部およびアルキル(C4〜12)(メタ)アクリレート24〜40部の組み合わせが、塗料の安定性、造膜性、塗膜の耐水性、耐候性、光沢などの点から好ましく、また、化合物(A)がアルキル(C1〜6)トリアルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部および2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有単量体1〜10部、単量体(C)がアルキル(C1〜4)(メタ)アクリレート73〜30部およびアルキル(C4〜12)(メタ)アクリレート20〜35部の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の光沢、耐候性などの点から好ましく、化合物(A)がジアルキル(C1〜6)ジアルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部、単量体(C)がアルキル(C1〜12)(メタ)アクリレート94〜75部の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の耐水性、耐候性、光沢の点から好ましく、化合物(A)がトリアルキル(C1〜6)アルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部、単量体(C)がアルキル(C1〜12)(メタ)アクリレート94〜75部の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の耐水性、耐候性、光沢の点から好ましく、化合物(A)がテトラアルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部、単量体(C)がアルキル(C1〜12)(メタ)アクリレート94〜75部の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の耐水性、耐候性、光沢の点から好ましく、化合物(A)がアルキル(C1〜6)ジアルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シランまたはジアルキル(C1〜6)アルコキシ(C1〜2のアルコキシ)シラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部、単量体(C)がアルキル(C1〜12)(メタ)アクリレート94〜75部の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の光沢耐候性の点から好ましく、化合物(A)がアミノ基を有するアルコキシシラン5〜20部、単量体(B)が(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸1〜5部、単量体(C)がアルキル(C1〜12)(メタ)アクリレート94〜75部の組み合わせが塗料の安定性、造膜性、塗膜の耐水性、耐候性、光沢の点から好ましい。
【0048】
なかでも化合物(A)がメチルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート62〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート32〜25部の組み合わせがとくに光沢保持率にすぐれ、また初期光沢度、耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がメチルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜15部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜30部、シクロヘキシルメタクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率にすぐれ、また初期光沢度、耐候性、耐水性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がメチルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜10部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜35部、イソボルニルアクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率にすぐれ、また初期光沢度、耐候性、耐水性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がメチルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1〜10部、単量体(C)がメチルメタクリレート60〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート33〜15部の組み合わせが、とくに光沢保持率および塗料の安定性にすぐれ、また初期光沢度、耐候性の点から好ましい。
【0049】
また、化合物(A)がメチルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート62〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート32〜25部の組み合わせがとくに初期光沢度および光沢保持率にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がメチルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜15部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜30部、シクロヘキシルメタクリレート10〜30部の組み合わせがとくに初期光沢度および光沢保持率にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がメチルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜10部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜35部、イソボルニルアクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率および初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がメチルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1〜10部、単量体(C)がメチルメタクリレート60〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート33〜15部の組み合わせが、とくに光沢保持率および塗料の安定性にすぐれ、また初期光沢度、耐候性の点から好ましい。
【0050】
また、化合物(A)がジメチルジメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート62〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート32〜25部の組み合わせがとくに初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がジメチルジメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜15部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜30部、シクロヘキシルメタクリレート10〜30部の組み合わせがとくに初期光沢度および光沢保持率にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がジメチルジメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜10部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜35部、イソボルニルアクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率および初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がジメチルジメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1〜10部、単量体(C)がメチルメタクリレート60〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート33〜15部の組み合わせが、とくに光沢保持率および塗料の安定性にすぐれ、また初期光沢度、耐候性の点から好ましい。
【0051】
また、化合物(A)がフェニルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート62〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート32〜25部の組み合わせがとくに初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がフェニルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜15部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜30部、シクロヘキシルメタクリレート10〜30部の組み合わせがとくに初期光沢度および光沢保持率にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がフェニルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜10部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜35部、イソボルニルアクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率および初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がフェニルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1〜10部、単量体(C)がメチルメタクリレート60〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート33〜15部の組み合わせが、とくに初期光沢度および塗料の安定性にすぐれ、また光沢保持率、耐候性の点から好ましい。
【0052】
また、化合物(A)がフェニルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート62〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート32〜25部の組み合わせがとくに初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がフェニルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜15部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜30部、シクロヘキシルメタクリレート10〜30部の組み合わせがとくに初期光沢度にすぐれ、また光沢保持率、耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がフェニルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜10部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜35部、イソボルニルアクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率および初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がフェニルトリエトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1〜10部、単量体(C)がメチルメタクリレート60〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート33〜15部の組み合わせが、とくに初期光沢度および塗料の安定性にすぐれ、また光沢保持率、耐候性の点から好ましい。
【0053】
また、化合物(A)がN-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート62〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート32〜25部の組み合わせがとくに初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がN-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜15部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜30部、シクロヘキシルメタクリレート10〜30部の組み合わせがとくに初期光沢度および光沢保持率にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がN-フェニルーγ-アミノプロピルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、単量体(C)がメチルメタクリレート64〜10部、2-エチルヘキシルアクリレート20〜35部、イソボルニルアクリレート10〜30部の組み合わせがとくに光沢保持率および初期光沢度にすぐれ、また耐水性、耐候性、塗料の安定性の点から好ましく、化合物(A)がN-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン5〜20部、単量体(B)がメタクリル酸1〜5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1〜10部、単量体(C)がメチルメタクリレート60〜50部、2-エチルヘキシルアクリレート33〜15部の組み合わせが、とくに初期光沢度および塗料の安定性にすぐれ、また光沢保持率、耐候性の点から好ましい。
【0054】
そして、前記の最適組み合わせ組成のおのおのが、前記の第1段の乳化モノマー滴下重合法により製造されることが、エマルジョンの安定性、製造のしやすさ、塗膜の光沢、耐候性などの各種性能の点から好ましい。
【0055】
前記の合成樹脂エマルジョンは、そのまま、または濃度調整のみを行なうことにより塗料用樹脂組成物にすることができ、また、要すれば造膜助剤、粘性調製剤、水などを添加して塗料用樹脂組成物とすることもできる。
【0056】
このように調製された本発明の塗料用樹脂組成物は、このままクリアー塗料として用いてもよく、また顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、カオリン、カーボンブラック、ベンガラ、シアニンブルーなど)、可塑剤、増粘剤などを加えて着色塗料として用いてもよい。また、使用目的に応じて、さらにハロゲン含有リン酸エステル、ハロゲン含有有機硫黄リン化合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの難燃剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;消泡剤、防腐防カビ剤、pH調製剤、造膜助剤、湿潤剤、凍結防止剤、水性塗料などを添加することができる。
【0057】
本発明の塗料用樹脂組成物は安定性がよく、増粘、ゲル化などしにくく、また、すぐれた光沢および耐水性などを呈するだけでなく、長期間にわたる光沢保持性、耐変色性、耐クラック性、耐ブリスター性などの耐候性にすぐれた塗膜を形成することができ、たとえば建築物の内壁材、外壁材、自動車、大型構造物、鋼製機器、家電製品、木工製品などの塗装に用いられるが塗膜に要求される性能、価格の点から、とくに建築物の内外壁材、大型構造物の塗装に好適に用いられる。
【0058】
以下、本発明の組成物を実施例などに基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら制約を受けるものではない。
【0059】
実施例1〜18および比較例1〜43
攪拌機、温度調節器、温度計、還流冷却器、滴下ロートおよびチッ素ガス導入管を備えた反応容器内に、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩(98%水溶液)0.3部および脱イオン水55.1部を仕込み、チッ素ガスを導入しつつ65℃に昇温し、過硫酸アンモニウム0.35部、次亜硫酸ナトリウム0.05部を添加したのち、表1〜8に示す組成の化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)を100部、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩(98%水溶液)3.1部および脱イオン水42.7部からなる混合物145.8部を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下し、65〜70℃で重合および縮合を行なった。滴下終了後、70〜75℃で2.5時間熟成したのち冷却し、25%アンモニア水1.55部を添加してpHを9.0とし合成樹脂エマルジョンをえた。ただし、比較例43のメチルトリメトキシシラン10部は、単量体(B)、単量体(C)を重合したのち、熟成中に30分間かけて連続滴下した。
【0060】
えられた合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度およびpHを以下の方法により測定した。結果を表1〜8に示す。
【0061】
(合成樹脂エマルジョンの物性測定方法)
(1)不揮発分
JIS K 6833に規定の方法に準拠して行なった。
【0062】
(2)粘度
JIS K 6833に規定の方法に準拠し、BM型粘度計を用いて、25℃、12rpmで測定した。
【0063】
(3)pH
JIS K 6833に規定の方法に準拠して行なった。
【0064】
つぎにえられた合成樹脂エマルジョン100部に、表9に示す酸化チタンの含有量が約69%のチタンペースト33.2部および造膜助剤であるジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加し、最低造膜温度を0℃に調整した塗料を調製した。
【0065】
えられた塗料の安定性およびこの塗料を用いてえられた塗膜の物性(初期光沢度、光沢保持率、色差、耐クラック性、耐ブリスター性)を以下の方法により測定した。
【0066】
(塗料の安定性および塗膜の物性評価方法)
(1)塗料の安定性
JIS K 5400に規定の方法に準拠し、塗料を容器に採取して密栓したのち、35℃恒温槽に90日間放置し、粘度の上昇および凝集物の発生の有無を目視観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
A:変化なし
B:少し増粘
C:増粘および凝集物発生
D:ゲル化
【0067】
(2)初期光沢度▲1▼
ガラス板上に乾燥塗膜厚が0.08mmとなるようにアプリケータを用いて塗料を塗布し、20℃、65%RHで7日間乾燥、養生して塗膜を形成した。
【0068】
えられた塗膜をJIS K 5400に規定の方法に準拠し、グロスメータ(日本電色工業(株)製、VG-1型)を用い、60°鏡面の初期光沢度(%)を測定した。
【0069】
(3)初期光沢度▲2▼
溶剤系塩化ゴムプライマーを塗布したフレキシブルボード上に、塗料を刷毛で約100g/m2塗布した。20℃、65%RHで約2時間乾燥後、同じ塗料を刷毛で約100g/m2重ね塗りして、20℃、65%RHで7日間乾燥、養生して塗膜を形成した。この塗膜を初期光沢度▲1▼のばあいと同様の方法で初期光沢度を測定した。
【0070】
(4)光沢保持率
JIS K 5400に規定の方法に準拠して評価した。試料として初期光沢度▲2▼と同様にして形成した塗膜を用い、試験機として促進耐候性試験機(アトラス社製ウエザオメーター、Ci35型)を用い、3.5kWキセノンアーク、ブラックパネル温度63℃、120分中に18分間の水の噴射という条件で実施した。試験後の塗膜の光沢度(G1)(%)と初期光沢度(G0)(%)とから以下の式にしたがって光沢保持率を求めた。
光沢保持率(%)=(G1/G0)×100
【0071】
(5)色 差
JIS Z 8722に規定の方法に準拠し、初期光沢度▲2▼で作製した塗膜の色彩(L0*、a0*、b0*)および前記光沢保持率と同様の促進耐候性試験を行なったのちの塗膜の色彩(L1*、a1*、b1*)を色彩色差計(ミノルタカメラ(株)製、CR-300型)で測定し、以下の式にしたがって色差(ΔE*ab)を求めた。
【0072】
なお、色差は、JIS Z 8730に規定の方法に準じて表示した。
ΔE*ab={(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2}1/2
【0073】
(6)耐クラック性
前記光沢保持率試験後の塗膜の表面を目視観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0074】
A:クラックがまったく発生していない。
【0075】
B:部分的にクラックがわずかに発生している。
【0076】
C:全体的にクラックが発生している。
【0077】
D:全体的にクラックの発生がいちじるしい。
【0078】
(7)耐ブリスター性
前記光沢保持率試験後の塗膜の表面を目視観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0079】
A:ブリスターがまったく発生していない。
【0080】
B:部分的にブリスターがわずかに発生している。
【0081】
C:全体的にブリスターが発生している。
【0082】
D:全体的にブリスターの発生がいちじるしい。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【0092】
比較例44
実施例1と同じ反応容器に、第1段階として脱イオン水50部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの70%水溶液1部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.5部、ついでメタクリル酸2部、メチルメタクリレート20部、ブチルアクリレート20部の混合物を仕込み、チッ素ガスを導入しつつ反応容器中の温度を80℃に昇温し、過硫酸アンモニウム0.2部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1部、メチルトリメトキシシラン10部を反応容器中へ投入し、重合の開始を確認したのち反応温度を85℃にして6時間保った。つぎに、第2段階として水50部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの70%水溶液1部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.5部、メタクリル酸1部、メチルメタクリレート23部、ブチルアクリレート23部、過硫酸アンモニウム0.2部の混合物を反応容器中の温度を80℃に保ったまま滴下ロートを用いて2時間かけて滴下し、さらに2時間80℃に保持したのち室温まで冷却し、25%アンモニア水を添加してpHを8に調整して合成樹脂エマルジョンをえた。
【0093】
つぎにえられたエマルジョンを用いて前記の実施例と同様の方法により最低造膜温度を0℃に調整した塗料を調製した。
【0094】
えられた合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度およびpHさらに塗料の安定性および塗膜の物性(初期光沢度▲1▼、▲2▼、光沢保持率、色差、耐クラック性、耐ブリスター性)を前記の実施例と同様の方法により測定した。結果を表10に示す。
【0095】
比較例45
比較例44において第1段階のγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1部を投入しない以外は比較例44と同様に重合を行ない、室温まで冷却後25%アンモニア水を添加してpHを8に調整して合成樹脂エマルジョンをえた。
【0096】
つぎにえられたエマルジョンを用いて前記の実施例と同様の方法により最低造膜温度を0℃に調整した塗料を調製した。
【0097】
えられた合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度およびpHさらに塗料の安定性および塗膜の物性(初期光沢度▲1▼、▲2▼、光沢保持率、色差、耐クラック性、耐ブリスター性)を前記の実施例と同様の方法により測定した。結果を表10に示す。
【0098】
比較例46
実施例1と同じ反応容器に、脱イオン水30部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの70%水溶液0.1部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.1部の混合物を仕込み、チッ素ガスを導入しつつ反応容器中の温度を80℃に昇温した。ついで水70部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの70%水溶液1.5部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル1部、メタクリル酸3部、メチルメタクリレート43部、ブチルアクリレート43部、過硫酸アンモニウム0.4部の混合物と、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1部、メチルトリメトキシシラン10部の混合物とを反応容器中の温度を80℃に保ったまま滴下ロートを用いて4時間かけて滴下し、さらに2時間80℃に保持したのち、室温まで冷却し25%アンモニア水を添加してpHを8に調整して合成樹脂エマルジョンをえた。
【0099】
つぎにえられたエマルジョンを用いて前記の実施例と同様の方法により最低造膜温度を0℃に調整した塗料を調製した。
【0100】
えられた合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度およびpHさらに塗料の安定性および塗膜の物性(初期光沢度▲1▼、▲2▼、光沢保持率、色差、耐クラック性、耐ブリスター性)を前記の実施例と同様の方法により測定した。結果を表10に示す。
【0101】
比較例47
実施例1と同じ反応容器に、メタクリル酸1.5部、メチルメタクリレート9.5部、ブチルアクリレート7部、脱イオン水48部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの70%水溶液0.2部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸0.2部を仕込みチッ素ガスを導入しつつ反応容器中の温度を80℃に昇温したのち、過硫酸アンモニウム0.1部を添加して1時間保った。これによって第1段階のシードラテックスを調製した。
【0102】
つぎに、メタクリル酸0.5部、メチルメタクリレート37.5部、ブチルアクリレート34.5部、脱イオン水52部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.2部、過硫酸アンモニウム0.2部の混合液と、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部、ジメチルジメトキシシラン4.5部、メチルトリメトキシシラン4.5部からなる混合液とを反応容器中へ別々の滴下槽より3時間かけて流入させた。流入中は反応容器中の温度を80℃に保つ。流入が終了してから反応容器中の温度を85℃にして6時間保った。室温まで冷却後25%アンモニア水溶液を添加してpHを8に調整して合成樹脂エマルジョンをえた。
【0103】
つぎにえられたエマルジョンを用いて前記の実施例と同様の方法により最低造膜温度を0℃に調整した塗料を調製した。
【0104】
えられた合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度およびpHさらに塗料の安定性および塗膜の物性(初期光沢度▲1▼、▲2▼、光沢保持率、色差、耐クラック性、耐ブリスター性)を前記の実施例と同様の方法により測定した。結果を表10に示す。
【0105】
【表10】

【0106】
【発明の効果】
本発明の塗料用樹脂組成物は、すぐれた光沢、耐水性、顔料分散性などを呈するだけでなく、長期間にわたる光沢保持性、耐変色性、耐クラック性、耐ブリスター性などの耐候性にすぐれた塗膜を形成することができ、また安定性がよく、増粘、ゲル化などしにくい。さらには、1段乳化重合という簡単な方法で製造が可能である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-18 
出願番号 特願平6-63540
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C09J)
P 1 651・ 121- YA (C09J)
P 1 651・ 113- YA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉住 和之  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
関 美祝
登録日 2003-05-09 
登録番号 特許第3426333号(P3426333)
権利者 中央理化工業株式会社
発明の名称 塗料用樹脂組成物  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 朝日奈 宗太  

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