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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1114588
異議申立番号 異議2003-71018  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-05-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2005-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3355610号「スズドープ酸化インジウム膜の高抵抗化方法」の請求項1及び2に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3355610号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯、本件発明
本件特許第3355610号は、平成4年10月28日に出願され、平成14年10月4日にその設定登録がなされ、その後、西田良幸より特許異議の申立がなされ、平成15年10月31日付けで取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成16年1月13日付けで訂正請求書が提出され、再度、平成16年12月16日付けで取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成16年12月21日に訂正請求書が提出されたものである。
なお、平成16年1月13日付けの訂正請求書は取り下げられている。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
本件訂正請求は、平成16年12月21日付け訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりのものであり、次の〈イ〉〜〈ハ〉の訂正を求めるものである。
以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「訂正明細書」という。
〈イ〉特許明細書の請求項1における、
「【請求項1】膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2.0重量%で成膜することを特徴とするスズドープ酸化インジウム膜の成膜方法。」を、
「【請求項1】膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2.0重量%で成膜し、10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内であることを特徴とするスズドープ酸化インジウム膜の成膜方法。」に訂正する。
〈ロ〉特許明細書の請求項2を削除する。
〈ハ〉特許明細書の段落0007における、
「・・・高抵抗な均一性に優れたITO膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。・・・。」を、
「・・・高抵抗な均一性に優れたITO膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。均一式は式1により百分率で表すことができる。
【式1】
シート抵抗の均一性(%)=シート抵抗の均一性(Ω/□)/シート抵抗(Ω/□) ×100 ・・・。」に訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
II-2-1.訂正の目的
上記訂正〈イ〉は、特許明細書の請求項1において、スズドープ酸化インジウム膜の物性を「10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内」と限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正〈ロ〉は、特許明細書の請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正〈ハ〉は、上記訂正〈イ〉で限定する根拠を定義するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、かつ、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、上記訂正事項〈イ〉〜〈ハ〉は、改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合する。
II-2-2.新規事項の有無
上記訂正事項〈イ〉は、特許明細書の【課題を解決するための手段】の項における「本発明者等は・・・高抵抗な均一性に優れたITO膜が得られることを見出し」(段落0007)と同実施例1における「・・・、シート抵抗450Ω/□、・・・、シート抵抗の均一性は±25Ω/□以内であり良好な膜であった。」(段落0021)との記載から自明なこととして導き出せるものであり、上記訂正〈ロ〉は、上記記載、更には、同実施例2〜4のシート抵抗と均一性の値の記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正〈ロ〉は、請求項を削除するだけのものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、上記訂正事項〈イ〉〜〈ハ〉は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされるものであり、新規事項の追加には当たらない。
II-2-3.拡張・変更の存否
上記〈イ〉〜〈ハ〉の訂正は、発明の目的の範囲内で請求項に記載される発明を限定する、ないしは、発明の詳細な説明の記載を明りょうにするだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
II-3.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書は、前記のとおり、平成16年12月21日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正されたものであって、訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、必要に応じて、「本件発明」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2.0重量%で成膜し、10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内であることを特徴とするスズドープ酸化インジウム膜の成膜方法。

IV.特許異議申立の理由及び平成15年10月31日付け取消理由の概要
IV-1.特許異議申立の理由
異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
【理由-1】本件請求項1及び2に係る発明(訂正後の本件請求項1に係る発明)は、甲第1及び2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開昭58-59509号公報〔以下、「引用例1」という〕
甲第2号証:小林茂、「焼結体ターゲット」、SPUTTERING&PLASMA PROCESSES、Vol.2、No.3、1987、第59〜69頁〔以下、「引用例2」という〕
IV-2.平成15年10月31日付け取消理由
本件請求項1及び2に係る発明は引用例1、2及び3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。
本件請求項1及び2に係る発明は引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:上記の甲第1号証
引用例2:上記の甲第2号証
引用例3:特開平4-32106号公報

V.証拠の記載内容
V-A.引用例1(特開昭58-59509号公報)には、図3が掲載され、以下のことが記載される。
(A-1)「真空槽内において、酸化インジウム及び二酸化錫を蒸着物質とする蒸発源を蒸発せしめ、基板上に前記蒸着物質を蒸着する透明導電膜の製造方法において、前記蒸着物質を電子ビーム照射によって昇華させ、活性酸素及び酸素イオンを含む活性ガスの存在下に基板上に蒸着させることを特徴とする透明導電膜の製造方法。」(特許請求の範囲)
(A-2)「本発明の目的は、真空蒸着法による透明導電性ITO膜の製造工程において、基板加熱の必要性を除くことによって、真空中での加熱工程及び冷却工程を不要とし、また基板材料の選択の自由度を大きくし、かつ酸化再処理を要する低酸化物の発生、不純物混入の恐れのない、しかも性能のすぐれた透明導電性ITO膜の生産性の高い製造方法を提供することにある。」(第2頁右下欄第1〜8行)
(A-3)「以上述べたITO膜製造装置に於いて、ポート121に酸化インジウム及び二酸化錫から成る蒸発源例えば二酸化錫0.3〜40重量%を含む酸化インジウムとの混合物を均一に混合し加圧成形した酸化インジウム、二酸化錫タブレット(ITOタブレット)を入れ、・・・グロー放電部141によって活性化して供給し、ベルジャー11内の真空度を・・・にし、電子銃(・・・)からの電子ビームでITOタブレットを照射し、背後電極に前述した印加電圧範囲、好ましくは-1〜-5KVの直流電圧を印加する。ITOタブレットの昇華状況が所定の状態に定率化した時点でシャッタ122を開いて蒸着に入る。尚蒸着源を複数箇設け、各々別個に昇華蒸着させ、複層ITO膜、あるいは膜層上下で連続的に組成変化したITO膜を作成し、ITO膜の構成制御、例えば上層に二酸化錫を多く含ませて耐熱性の向上等を行うことができる。」(第3頁左下欄第3行〜右下欄第1行)
(A-4)「またITOタブレットの組成を変えることによってもITO膜の特性は変化する。第3図にITOタブレットにおいて二酸化錫の含量を変えた時の、膜厚400Åに蒸着したITO膜のシート抵抗及び光透過率の変化を示した。横軸に二酸化錫の含有重量%、縦軸はシート抵抗及び光透過率である。また耐久性試験として300℃、大気中1時間の熱処理結果を併記した。二酸化錫の含量と特性変化は図により明かである。熱処理の影響は二酸化錫が5重量%以下の場合、シート抵抗の劣化が顕著になるが、例えば液晶表示装置の透明電極の熱劣化許容限度1KΩを基準にすると3重量%以上の二酸化錫含有範囲であればよい。
その他の用途についても勘案して、二酸化錫の含有量は0.3〜40重量%、好ましくは5〜25%である。」(第4頁右上欄第8行無いし左下欄第3行)

V-B.引用例2(上記「焼結体ターゲット」)には、Fig.4が掲載され、以下のことが記載されている。
(B-1)「3-1.ITOターゲット
ITO(Indium-Tin Oxide)は液晶等のディスプレイ・デバイスや太陽電池の透明電極を始めとして、オプト-エレクトロニクスの分野で広く用いられている薄膜材料である。」(第63頁第7〜10行)
(B-2)「試験は、・・・とφ4”サイズ・ターゲットを装着した試験装置による基礎的な成膜試験の二通りを行った。・・・・。一方、ターゲットの組成については、従来SnO2を5wt%含むものが一般的であったが、根拠が曖昧で確証が得られていない。そこで、φ4”サイズ・ターゲットを用い、ターゲットの最適組成を求める試験を行った。Fig.4に各基板温度に於ける電気的特性のターゲット組成依存性を示す。基板温度室温時にはSnO25wt%、350℃では7.5wt%、400℃では10wt%のターゲットを用いたとき、最も低抵抗の膜を得ることが出来た。以上より、ターゲット組成は要求される膜特性を得るためには、膜形成条件まで考慮して決定されるべきものであることが解る。」(第63頁下から第3行〜第64頁第4行)

V-C.引用例3(特開平4-32106号公報)には、以下のことが記載される。
(C-1)「このようなITO系透明導電膜は、真空蒸着法、スパッター法、CVD法、スプレー法等により作成できることが知られているとおり材料組成としては酸化インジウムに対しドーパント材として、通常、酸化スズ(SnO2)が0.1〜40wt%程度含まれている。このITO膜は、厳密な作成条件とすることで、表面抵抗数十Ω/□〜数MΩ/□、可視光透過率70〜95%をもつ透明導電膜とできることが知られている。」(第1頁右下欄17行〜第2頁左上欄第5行)

VI.当審の判断(異議申立の理由-1及び取消理由について)
訂正明細書の請求項1の記載及び同発明の詳細な説明の記載(特に、段落0003〜0013)によれば、本件発明は、スズドープ酸化インジウム膜の製造方法において、「膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2重量%で成膜」し、「10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内」のスズドープ酸化インジウム膜を製造するものであり、そのことにより、訂正明細書に記載の有用な効果を奏したというものである。
以下、本件発明と引用例1〜3に記載される発明とを、順次、対比・検討する
引用例1に記載される発明では、前記摘示(A-3)によれば、「二酸化錫の含有量が0.3〜40重量%のスズドープ酸化インジウム-タブレットを用いて、蒸着する、スズドープ酸化インジウム膜を製造する方法」が記載され、また、前記摘示(A-4)とその第3図の記載によれば、「スズドープ酸化インジウム-タブレットにおけるSnO2の含有量が5重量%〜0重量%以下では製造されたスズドープ酸化インジウムのシート抵抗が高くなり、かつ、SnO2の含有量が零に近づくにつれて該シート抵抗がより高くなること」が示唆されているものの、そこでは、「膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2重量%」とすることが具体的に示されるものでなく、また、「10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内」の均一性のスズドープ酸化インジウム膜を得ることが示されるものでもない。
引用例2に記載される発明では、前記摘示(B-1)及び(B-2)とそのFig.4の記載によれば、「インジウム錫酸化物ターゲットのSnO2の含有量が5重量%〜0重量%以下では製造されたスズドープ酸化インジウムのシート抵抗が高くなり、かつ、SnO2の含有量が零に近づくにつれて該シート抵抗がより高くなること」が示唆されているとしても、この引用例2に記載の発明では、「膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2重量%」とすることが具体的に示されるものでなく、また、「10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内」の均一性のスズドープ酸化インジウム膜を得ることが示されるものでもない。
引用例3に記載される発明では、前記摘示(C-1)によれば、「酸化インジウムに対しドーパント材として、通常、酸化スズ(SnO2)が0.1〜40wt%程度含まれており、このITO膜は、厳密な作成条件とすることで、表面抵抗数十Ω/□〜数MΩ/□とできる」ことが示されているとしても、ここでも、「膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2重量%」とすることが具体的に示されるものでなく、また、「10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内」の均一性のスズドープ酸化インジウム膜を得ることが示されるものでもない。
そうすると、本件発明は、「膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2重量%で成膜」し、「10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内」のスズドープ酸化インジウム膜を製造する点で、引用例1、2又は3に記載された発明に対して別異の発明を構成する。また、引用例1〜3に記載の発明からは、当該構成を導き出すための動機づけがない。
したがって、本件発明は引用例1、2又は3に記載された発明であるということはできず、また、本件発明は引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スズドープ酸化インジウム膜の高抵抗化方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】膜中のスズ含有量がインジウムに対して0.05〜2.0重量%で成膜し、10cm角当りのシート抵抗の均一性が±5.5%以内であることを特徴とするスズドープ酸化インジウム膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はスズドープ酸化インジウム膜(以下、ITOと略す)の成膜方法に関するものであり、特にタッチパネルの透明電極として用いられるITO膜の高抵抗で均一性に優れた成膜方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
ITO膜は透明導電膜であり、ガラス基板上に成膜したITOガラスは、例えば液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、面発熱体、タッチパネルの電極等に広く使用されている。この様に広い分野で使用されると、使用目的によってITO膜の抵抗値は種々のものが要求される。すなわち、フラットパネルディスプレイ用のITO膜では低抵抗のものが要求されるが、タッチパネル用のITO膜では逆に高抵抗の膜が要求される。抵抗値をコントロールする方法の中で最も普通に行われる方法は膜厚を変えることであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記のように膜厚を変化させて抵抗値をコントロールすると、当然可視光透過率が変化する。
シート抵抗=比抵抗/膜厚
高抵抗ITOを得ようとする場合は膜厚を薄くする必要があるが、通常の製法で成膜すると200〜1000Ω/□のシート抵抗の膜を得るためには20Å〜100Åの膜厚にする必要があるが、この場合は膜厚を均一にコントロールするのは難しく、面内の抵抗値の均一性は悪くなる傾向にある。また、可視光透過率を所定の値にしようとすると、膜厚が決定され、その膜厚で所定の抵抗値の膜とするためには比抵抗をコントロールすることが必要があった。
【0004】
ITO膜が導電性を発現するメカニズムは、酸化インジウム結晶中の微量の酸素欠陥と、In-O結晶格子にSnが置換して生じる電子がキャリアとなり、それが、電界中で移動することによる。従って、比抵抗(ρ)はキャリア密度(n)と移動度(μ)によって決定され、次式が成り立つ。
ρ=6.24×1018/(n×μ)・・・・・(1)
ここで、ρ:Ωcm,n:cm-3,μ:cm2/V・secである。
【0005】
ITO膜の場合、通常300Å以上の膜厚では100Ω/□以下のシート抵抗の膜となり、キャリア密度として1020〜1021、移動度として20〜50、比抵抗は1×10-4〜3×10-4の値をとる。先に述べたタッチパネル用のITO膜の抵抗値は200〜1000Ω/□程度のものが要求され、この場合、膜厚を考慮すると、均一性に優れた膜を得るためには比抵抗値は5×10-4以上が必要とされるが、この範囲での比抵抗のコントロールは難しかった。
【0006】
本発明は、前述の実情からみてなされたもので、シート抵抗値が200〜1000Ω/□であって、かつ、均一性に優れたITO膜を成膜する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはITO膜を高比抵抗化する方法について鋭意検討した結果、膜中スズドープ量をインジウムに対し0.05〜2.0重量%或いは10〜40重量にすること、また、該方法と酸素を含有雰囲気中で200℃以上の温度で加熱処理を併用することにより高抵抗な均一性に優れたITO膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。均一性は式1により百分率で表すことができる。
【式1】

以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
比抵抗をコントロールする方法は二通りあって、一つは(1)式のキャリア密度をコントロールする方法と、もう一つは移動度をコントロールする方法である。キャリア密度をコントロールする方法としては酸素欠陥量を変化させる方法と、スズドープ量を変化する方法がある。酸素欠陥量は、雰囲気、温度によって変化し、次式に示すように可逆的な反応を利用する。
In2O3→In2O3-X+X/2O2→In2O3・・・・・(2)
この反応は、高温で酸素を含む雰囲気においては酸素欠陥量(X)が減少し、キャリア密度が減少するために高抵抗化し、逆に高温、還元雰囲気では酸素欠陥量が増加し、キャリア密度が増加するために低抵抗化する。
【0009】
スズドープ量とキャリア密度の関係は、Sn=0のときn≒1019であるが、Snが微量ドープされると飛躍的に増加し、Sn=1重量%(In=100)のときn≒2×1020となり、Sn=3〜10重量%のとき最大値n≒1021を示す。更にドープ量が増加するとnは単調減少する傾向を示し、Sn=20重量%のときn≒5×1020となる。
【0010】
移動度(μ)はキャリア(電子又は正孔)の動き易さに対応しており、主として、ITO結晶性に依存する量である。すなわち、結晶性が良好であって、不純物が少なければキャリアの移動度は高い値となるが、一方結晶性が悪く、結晶欠陥、転位、結晶粒界が多いとキャリアがトラップされてしまうために低い値となる。また、不純物はキャリアの移動を阻害する大きな要因であり、通常微量のドープで移動度に大きな影響を与える。
【0011】
Snドープ量と移動度の関係は、Sn微量ドープのとき移動度は40以上の高い値を示すが、2重量%以上のドープ量では単調に減少し、10重量%以上では30以下の値となってしまう。
【0012】
これらの検討結果より、200〜1000Ω/□の均一性に優れたITO膜を得る方法として、Snドープ量をコントロールする方法を見出した。すなわち、均一性を良くするには150Å以上の膜厚が必要であり、このとき比抵抗は3×10-4以上の値でコントロールしなければならない。第一の方法として、Snドープ量がInに対して0.05〜2.0重量%であるITO膜とすること。第二の方法としてSnドープ量がInに対し10〜40重量%であるITO膜とすることで高抵抗の膜となる。
【0013】
Snドープ量がInに対して0.05〜2.0重量%の膜は、キャリア密度が低く移動度が高い膜であり、Snドープ量を0.05%以内の精度でコントロールすることで面内シート抵抗の均一な膜が得られる。Snドープ量が0.1〜1.5重量%の範囲では次の近似式により比抵抗(ρ)を推定することができる。
logρ=-2.83-0.4X・・・・・(3)
但し、ρ:Ωcm X:Inに対するSnのwt%
【0014】
Snドープ量がInに対して10〜40重量%の膜は、キャリア密度が約5×1020個/cm3であり、移動度は30以下の値をとり、比抵抗は5〜8×10-4Ωcmの値となる。この場合Snドープ量は数%オーダーの精度で良く、微量ドープの場合に比べてドープ量の許容範囲が広く成膜し易い条件である。しかしながら、このSnドープ量で8×10-4Ωcm以上の比抵抗を得たい場合は、酸素欠陥量のコントロールにより、高比抵抗化する必要がある。すなわち、成膜したITO膜を、酸素を含む雰囲気中で200℃以上に加熱することで比抵抗をより増加することができる。250℃×30分の処理で約1.5倍、300℃×30分で約2倍、350℃×30分で約2.5倍に増加するので最終的な比抵抗のコントロールが可能となる。
【0015】
ITO膜を成膜する方法としては、一般に知られている方法を採用できる。すなわち、スパッター法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成膜法(CVD法)、パイロゾル法等において、ITO膜中に前記の量Snがドープされるよう成膜することで、高抵抗ITO膜が成膜される。得られる膜の透明性、化学エッチングのし易さなど成膜方法によって条件は異なるが、一般的にLCD用の低抵抗ITO膜を成膜する条件でSnのドープ量を変えることで対処することが可能である。
【0016】
すなわち、スパッター法では、ターゲットのSn組成を変え、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法ではペレットのSn組成を変え、CVD法、パイロゾル法では原料中のSn組成を変えれば良い。その結果いずれの方法を用いて成膜しても、高抵抗の所定の値にコントロールされたITO膜が得られる。
【0017】
また、Snドープ量が10〜40重量%のITO膜で8×10-4Ωcm以上の比抵抗を得たい場合は、スパッター法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法の場合は、成膜終了と共に、真空の成膜室に酸素を含むガスを導入し、所定時間200℃以上の温度で処理することにより、均一性の良好な高抵抗ITO膜を得ることができる。CVD法、パイロゾル法の場合は成膜終了後、酸素含有ガスを成膜室に導入し、所定時間200℃以上の温度で処理することにより、均一性の良好な200〜1000Ω/□のITO膜を得ることができる。なお、Snドープ量が0.05〜2.0重量%の場合も同様にして処理することもできる。
【0018】
通常の方法で得られるITO膜の比抵抗は3×10-4Ωcm以下であり、200〜1000Ω/□の抵抗の膜を得るためには、極端に膜厚を薄くしなければならず、このため均一性の悪い膜しか得られなかった。本発明はSnドープ量を0.05〜2.0重量%又は10〜40重量%にする方法であり、簡単に均一性の良好な高抵抗の膜を得ることができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
実施例1
平均粒径0.2μmのIn2O3粉末と平均粒径0.6μmのSnO2粉末とをInに対して0.4重量%になるよう配合し、ボールミル中で5時間粉砕した後、この混合粉末を800℃、400Kg/cm2の条件でホットプレスして焼結体を得た。これをターゲットとして用い、スパッター成膜を行った。
【0020】
スパッター条件は、RFスパッター装置を用い、ガラス基板上に成膜した。ガラス基板は厚さ1mmで10cm角のソーダライムガラス上に800ÅのSiO2膜がコートされたものを用いた。RF出力200W,ガス組成はAr:O2=98:2、基板温度=300℃、成膜時間4分で行った。
【0021】
得られたITO膜は、膜中のSnをICP発光分光法で分析したところ0.3重量%であり、膜厚250Å、シート抵抗450Ω/□、比抵抗1.1×10-3Ωcmであった。また、シート抵抗の均一性は±25Ω/□以内であり良好な膜であった。
【0022】
実施例2
実施例1において、SnO2粉末の量を30重量%にして焼結体を作製した。これをターゲットとして実施例1と同じ条件でスパッター成膜を行った。得られたITO膜は、膜中のSnをICP発光分光法で分析したところ24.6重量%であり膜厚220Å、シート抵抗350Ω/□、比抵抗7.7×10-4Ωcmであった。また、シート抵抗の均一性は±20Ω/□以内であり良好な膜であった。
【0023】
実施例3
超音波霧化による常圧CVD法(パイロゾル成膜法)によりITO膜を成膜するに際し、インジウム原料としてInCl3のメチルアルコール溶液を使用した。濃度は0.15mol/lで、ドープ用錫原料としてSnCl4のメチルアルコール溶液(濃度は0.2mol/l)を用いInに対して0.65重量%Snを添加した溶液を調製した。基板には厚さ1mmで10cm角のソーダライムガラス上に1000ÅのSiO2膜がコートされたものを用いた。パイロゾル成膜装置に基板をセットし500℃に加熱し、超音波により2ml/min霧化させ基板に導入し、2分間成膜した。
【0024】
得られたITO膜は、膜中のSnをICP発光分光法で分析したところ0.5重量%であり、膜厚200Å、シート抵抗400Ω/□、比抵抗8.0×10-4Ωcmであった。また、シート抵抗の均一性は±20Ω/□以内であり良好な膜であった。
【0025】
実施例4
実施例3においてSnを25重量%添加した溶液を調製し、実施例3と同様の条件で成膜を行った。得られたITO膜は、膜中のSnが19.6重量%であり膜厚240Å、シート抵抗270Ω/□、比抵抗6.5×10-4Ωcmであった。この膜を空気雰囲気中で電気炉にて300℃30分加熱処理を行ったところ、シート抵抗490Ω/□、比抵抗1.2×10-3Ωcmに増加した。また、シート抵抗の均一性は±30Ω/□以内であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、膜中のSnドープ量をコントロールすることで比較的容易に均一性の良好な200Ω〜1000Ω/□のシート抵抗のITO膜を得ることができる。また、該方法と酸素含有雰囲気中で200℃以上の温度で加熱処理することで、より高抵抗の膜を得ることができるので、その実用的価値は極めて大である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-27 
出願番号 特願平4-312940
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03C)
P 1 651・ 113- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 野田 直人
鈴木 毅
登録日 2002-10-04 
登録番号 特許第3355610号(P3355610)
権利者 日本曹達株式会社
発明の名称 スズドープ酸化インジウム膜の高抵抗化方法  
代理人 松橋 泰典  
代理人 松橋 泰典  

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