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審決分類 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C01G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
管理番号 1114600
異議申立番号 異議2003-70927  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-10 
確定日 2005-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3339076号「ジルコニア微粉末」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3339076号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3339076号の請求項1乃至3に係る発明は、平成4年10月6日(優先権主張 平成3年10月8日、日本)に特許出願され、平成14年8月16日に特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1に係る特許について特許異議申立人 角田篤美及び田中勇より特許異議申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年9月9日に訂正請求がなされたものである。そして、この訂正請求について特許異議申立人両人に対し期間を指定して意見を聞いたところ、何らの回答も得られなかった。さらに、この訂正請求について訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月8日に訂正請求書について手続補正書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.補正の適否についての判断
平成16年12月8日付け手続補正書による補正は、平成15年9月9日付け訂正請求書により請求された訂正事項c及びdを削除するとともに、訂正事項aにおいて請求項1に記載の「電子顕微鏡で測定される平均粒径の比」、「一次粒子」、請求項2に記載の「乾燥紛」、「1830・φ+650≦T≦2750・φ+550」を、それぞれ、「電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比」、「1次粒子」、「乾燥粉」、「1830・φ+650≦T≦2750・φ+650」に補正するものである。
そして、訂正事項c及びdの削除は訂正事項の削除であり、訂正事項aの補正は、訂正事項b、訂正請求書の「(4)訂正の原因」の項において訂正事項aについて記載された事項及び訂正明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、軽微な瑕疵の補正と云えるものである。
よって、この補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合し、認められるべきものである。
2-2.訂正の内容
平成16年12月8日付け手続補正書による補正された平成15年9月9日付け訂正請求書による訂正請求は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を平成16年12月8日付け手続補正書に添付された明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるもので、その内容は以下のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲を「【請求項1】ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが以下の関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるBET比表面積が6〜24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9〜2.1の1次粒子からなることを特徴とするジルコニア微粉末。
1.7/S≦φ≦2.5/S
【請求項2】水和ジルコニアゾルの平均粒径φ(μm)と仮焼温度T(℃)とが以下の関係式を満足する請求項1記載のジルコニア微粉末を製造する方法。
(i)水和ジルコニアゾルの乾燥粉が粒子成長を促進する化合物を含有する場合 600≦T≦1100 かつ、
1000・φ+550≦T≦1830・φ+550 (1)
(ii)水和ジルコニアゾルの乾燥粉が上記の化合物を含まない場合
740≦T≦1200 かつ、
1830・φ+650≦T≦2750・φ+650 (2)」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書【0005】段落の「即ち、本発明は、BET比表面積が6〜28m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比(以下、平均粒径比という)が0.9〜2.1の1次粒子からなるジルコニア微粉末である。」を、「即ち、本発明は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが以下の関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるBET比表面積が6〜24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比(以下、平均粒径比という)が0.9〜2.1の1次粒子からなることを特徴とするジルコニア微粉末である。」と訂正する。
2-3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、次の3つの訂正事項を含むものである。
訂正事項a-1:特許明細書の請求項1に記載されたジルコニア微粉末について「ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが以下の関係式、即ち、1.7/S≦φ≦2.5/S、を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られる」という限定を加える訂正。
訂正事項a-2:特許明細書の請求項1に記載されたジルコニア微粉末のBET比表面積の範囲を「6〜28m2/g」から「6〜24m2/g」とする訂正
訂正事項a-3:特許明細書の請求項2を削除し、同請求項3の項番を繰り上げて請求項2とすると共に引用する請求項を請求項1とする訂正。
そして、訂正事項a-1及び2は、上記のとおりのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、訂正事項a-3は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、上記の訂正事項a-1は、特許明細書の請求項2及び【0010】段落の記載に基づくものであり、訂正事項a-2は、特許明細書の【0007】段落の記載に基づくものであるから、結局、訂正事項aは、特許明細書に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであり、新規事項を追加するものではない。しかも、この訂正事項aは実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
訂正事項bは、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に整合させて発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、訂正事項bは、特許明細書に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであり、新規事項を追加するものではなく、しかも、この訂正事項は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
2-4.独立特許要件
訂正事項aは、特許異議を申し立てられていない特許明細書の請求項2及び3についての訂正である訂正事項a-3を含むものであり、上記のとおり、訂正事項a-3により特許明細書の請求項2は削除されが、同請求項3については引用する請求項の訂正により特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がなされたので、訂正明細書の請求項2に係る発明について独立特許要件の検討を行う。
訂正明細書の請求項2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりのものであって、同請求項1に係る発明の構成要件を全て含むものである。
そして、当該請求項1に係る発明は、下記3-4.で述べるとおり、取消理由で引用した刊行物に記載された発明であるとも取消理由で引用した刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えず、また、下記3-5.で述べるとおり、特許異議申立人が主張する他の理由も採用することができないものである。よって、訂正明細書の請求項2に係る発明も、同様の理由により、取消理由で引用した刊行物に記載された発明であるとも取消理由で引用した刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えず、また、訂正明細書の請求項2に係る発明について特許異議申立人が主張する明細書の記載不備があるとも云えない。
よって、訂正明細書の請求項2に係る発明は、出願の際、独立して特許を受けることができるものである。
2-5.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
特許第3339076号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが以下の関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるBET比表面積が6〜24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9〜2.1の1次粒子からなることを特徴とするジルコニア微粉末。
1.7/S≦φ≦2.5/S」
3-2.取消理由の概要
当審が通知した取消理由は、特許明細書の請求項1に係る発明は、下記刊行物1〜5に記載された発明と同一であるか、下記刊行物1〜5に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるから、請求項1に係る特許は取り消すべきものであるというものである。
刊行物1:日本セラミックス協会学術論文誌、vol.97,1989,第941〜946頁、社団法人日本セラミックス協会、平成元年9月1日発行
(特許異議申立人 角田篤美の提出した甲第1号証)
刊行物2:ジルコニア粉末製造と粉体特性(社団法人粉体粉末冶金協会主催 第10回粉体セミナーテキスト 1986年)、第30〜40頁
(特許異議申立人 田中勇の提出した甲第1号証)
刊行物3:Investigation of the Metastable Tectrabonal Phase in Yttria-Doped Zirconia Powders Prepared by a Sol-Gel Technique 、1992年発行、第45〜47頁(Br.Ceram.Trans.J.,91,45-47,1992)
(特許異議申立人 田中勇の提出した甲第2号証)
刊行物4:スーパーファインセラミックス制御技術ハンドブック、第265〜273頁、1990年4月30日発行、株式会社サイエンスフォーラム
(特許異議申立人 田中勇の提出した甲第3号証)
刊行物5:ファインセラミックカタログ集、第80頁、社団法人日本ファインセラミックス協会、昭和61年12月1日発行
(特許異議申立人 田中勇の提出した甲第4号証)
3-3.刊行物に記載された事項
(1)刊行物1には、「噴霧熱分解微粉末を用いたY-TZPの低温焼結」との表題の下、下記の事項が記載されている。
1-ア.「原料溶液は、ZrO(NO3)2・2H2OとYCl3・6H2Oを体積比で1:1の水-アルコール(・・・)混合溶媒に溶解して調製した。・・・。噴霧熱分解の装置と操作は前報で述べた。合成条件は、特に記さない場合、噴霧空気流量及び溶液流量を・・・とし、2次粒子径の小さい粉末が得られるように設定した。反応管温度は1000℃とした。合成粉末の粉砕は、めのう乳鉢で30分間摩砕することによって行った。仮焼粉末の粉砕は、プラスチック製ポットとジルコニア製ボールを用い、アルコールを媒体とした湿式で12時間行った。」(第942頁左欄14〜25行)
1-イ.「かさ密度は、理論密度を6.094g/cm3とした相対密度で示した。」(第942頁左欄38,39行)
1-ウ.「比表面積の値から換算したBET径は(1)式から求めた。
dBET=6/ρS (1)
ここで、dBET:BET径(μm)、ρ:密度(g/cm3)、S:比表面積(m2/g)」(第942頁左欄43行〜同頁右欄1行)
1-エ.「図2に示した合成条件と同1条件で得た粉末を1200℃で仮焼後粉砕した粉末のTEM及びSEM写真を図4に示す。TEM観察より1次粒子の平均の大きさは、100nm程度であった。」(第943頁右欄9〜12行)
1-オ.「図5に図2に示した合成条件と同1条件で得た粉末について、仮焼温度とBET径及び結晶粒子径との関係を示す。」(第943頁右欄14〜16行)として、第944頁の図5には仮焼温度に対するDBETの値が図示されており、仮焼温度1200℃におけるDBETは、明確ではないものの、108nmであることが窺える。
(2)刊行物2には、「ジルコニア粉末製造と粉体特性」との表題の下、下記の事項が記載されている。
2-ア.「高強度、高靭性ジルコニア用原料粉末の製造法には種々のものが知られているが、代表的なものとしては中和共沈法、加水分解法、アルコキシド法、水熱合成法が挙げられる。次頁にそれらのプロセスのフローシートを示す。」(第32頁下から3行〜下から1行)として、第33頁の図5には、加水分解法等各種製造プロセスのフローシートが記載されている。
2-イ.第34頁の表2には、市販ジルコニア微粉末の粉体特性が記載されており、そのうち「当社品」のBET比表面積が18m2/g、TEM一次粒子径が0.05μmであること、及び、「他社品C」のBET比表面積が24m2/g、TEM一次粒子径が0.04μmであることが記載されている。
(3)刊行物3には、「Investigation of the Metastable Tectrabonal Phase in Yttria-Doped Zirconia Powders Prepared by a Sol-Gel Technique」との表題の下、下記の事項が記載されている。
3-ア.「以下の組成の粉末をゾル-ゲル法で調製した。・・・。粉末は300℃から1700℃までの異なる温度で2時間仮焼された。・・・。粉末の比表面積はBET法により測定され、粒子径は透過電子顕微鏡を用いて測定された。」旨(第45頁右欄18〜35行)
3-イ.第46頁の図2にはZrO2-xYO1.5粉末の仮焼温度に対する比表面積と粒子径の変化が記載されているが、x=0.05,仮焼温度1700℃の粉末の比表面積と粒子径を正確に読みとることはできない。
(4)刊行物4には、「ZrO2系原料粉末」に関し、下記の事項が記載されている。
4-ア.「ジルコニアは、組成によりその特性が異なるため構造材用高強度ジルコニア粉末は,Y2O5などの安定化剤が均一に固溶し、組成が均一でかつ欠陥のない緻密な焼結体が得られることが必要である。・・・。このため、粉末は一般的には湿式の共沈法により合成されている。共沈法には加水分解法、中和沈殿法、熱分解法、水熱合成法、アルコキシド法など多数のものが知られているが、現在工業的に採用されているのは加水分解法、中和共沈法、熱分解法などである。」(第268頁右欄下から10行〜第269頁左欄1行)として、第269頁の図-5には加水分解法によるジルコニア粉末の製法のフローシートが、同頁の表-7には市販ジルコニア粉末の粉体特性が記載されいるところ、表-7には「粉末A」のBET比表面積が15〜17m2/g、1次粒子径が0.05〜1μmであることが記載されている。
4-イ.「6.1 加水分解法
オキシ塩化ジルコニウムの水溶液を加熱すると、微細な単斜晶の水和ジルコニアが生成する事が古くから知られている。また、原料液の濃度やpH、添加物などによって、生成する水和ジルコニアの形状や粒子径が異なることが報告されている。加水分解法は、図-5に示すように・・・水和ジルコニアの微結晶粒子を析出させ、これを乾燥、仮焼、粉砕して粉末とするものである。加水分解法の特徴は、酸性水溶液中に水和ジルコニアの微結晶粒子を直接析出させることにあり、反応条件を選択することにより、粒子径のコントロールが可能であり、凝集の少ない粒子径の揃った分散製の良い粉末が得られやすい。」(第269頁左欄2行〜第270頁左欄10行)
(5)刊行物5には、「ジルコニア」に関し下記の事項が記載されている。
5-ア.第80頁の「2.代表的粉末特性」の表には、品名NS-0Yの粉末は比表面積が27m2/g、一次粒子径が370Åであることが記載されている。
3-4.対比、判断
(1)刊行物1に記載された発明との対比、判断
刊行物1の記載事項1-ア〜オからみて、刊行物1には噴霧熱分解により得られたジルコニア微粉末が記載されていると云える。そして、記載事項1-オのとおり、図5から仮焼温度1200℃におけるDBETは、明確ではないものの、108nmであることが窺え、また、この値と記載事項1-イの理論密度の値を用いて記載事項1-ウの(1)式により計算すると、刊行物1に記載されたジルコニア微粉末のBET比表面積は9.12m2/gであると云える。また、上記記載事項1-オから窺えるDBETに対する記載事項1-エに示されるTEM観察により得られる1次粒子の平均の大きさを計算すると0.93となる。してみると、記載事項1-ア〜オからみて、刊行物1には下記の発明(以下、「刊1発明」という。)が記載されていると云える。
「噴霧熱分解により得られた、BET比表面積が9.12m2/gであり、かつ、TEM観察により得られる1次粒子の平均の大きさ/DBETの比が0.93の1次粒子からなるジルコニア微粉末。」
本件発明1と刊1発明とを対比すると、後者における「TEM観察により得られる一次粒子の平均の大きさ」、「DBET」は、それぞれ、前者における「電子顕微鏡で測定される平均粒径」、「BET比表面積から求められる平均粒径」に相当するから、両者は、
「BET比表面積が9.12m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.93の1次粒子からなるジルコニア微粉末。」で一致し、以下の点で相違する。
(i)本件発明1は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるものであるのに対し、刊1発明は、噴霧熱分解により得られるものである点。
そこで、相違点(i)について検討すると、刊行物1の記載をさらに検討しても、刊1発明のジルコニア微粉末が、上記相違点(i)で挙げた本件発明1の構成要件を満足する条件で得られたジルコニア微粉末と同じものであることを信ずるに足る記載はなく、また、当業者が上記相違点(i)で挙げた本件発明1の構成要件を想到する根拠となる記載もない。
してみると、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
(2)刊行物2に記載された発明との対比、判断
刊行物2の記載事項2-イには、「当社品」としてBET比表面積が18m2/g、TEM一次粒子径が0.05μmであるジルコニア微粉末が、また、「他社品C」としてBET比表面積が24m2/g、TEM一次粒子径が0.04μmであるジルコニア微粉末が記載されている。そして、刊行物1に記載された方法でBET比表面積から平均粒径を求め、該平均粒径に対するTEM一次粒子径を計算すると「当社品」は0.9となり、「他社品C」は1.0となるから、刊行物2には下記の発明(以下、「刊2発明」という。)が記載されていると云える。
「BET比表面積が18m2/g又は24m2/gであり、かつ、TEM一次粒子径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9又は1.0の一次粒子からなるジルコニア微粉末。」
本件発明1と刊2発明とを対比すると、後者における「TEM一次粒子径」、「一次粒子」は、それぞれ、前者における「電子顕微鏡で測定される平均粒径」、「1次粒子」に相当するから、両者は、
「BET比表面積が18m2/g又は24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9又は1.0の1次粒子からなるジルコニア微粉末。」で一致し、下記の点で相違する。
(ii)本件発明1は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるものであるのに対し、刊2発明はどのようにして得られたものか特定がない点。
そこで、相違点(ii)について検討すると、刊行物2には、刊2発明の根拠となる「当社品」及び「他社品C」がどのような方法で得られたものか何等記載がなく、記載事項2-アにジルコニア微粉末を得る方法の一例として加水分解法が記載されているものの、「当社品」及び「他社品C」が加水分解法で得られたものであるとまでは云えない。そして、刊行物2の記載をさらに検討しても、刊2発明のジルコニア微粉末が、上記相違点(i)で挙げた本件発明1の構成要件を満足する条件で得られた本件発明1のジルコニア微粉末と同じものであることを信ずるに足る記載はなく、また、当業者が上記相違点(i)で挙げた本件発明1の構成要件を想到する根拠となる記載もない。
してみると、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるとも、刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
(3)刊行物3に記載された発明との対比判断
刊行物3には、記載事項3-アからみて、ゾル-ゲル法により得られたジルコニア微粉末が記載されていると云える。しかし、記載事項3-イからはx=0.05,仮焼温度1700℃のZrO2-xYO1.5粉末の比表面積と粒子径は明確でない。
よって、刊行物3には下記の発明(以下、「刊3発明」という。)が記載されているとしか認定できない。
「ゾル-ゲル法により得られたジルコニア微粉末。」
本件発明1と刊3発明とを対比すると、
「ジルコニア微粉末。」で一致し、下記の点で相違する。
(iii-1)本件発明1は、BET比表面積が6〜24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9〜2.1の1次粒子からなるものであるのに対し、刊3発明は、かかる特定がない点。
(iii-2)本件発明1は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるものであるのに対し、刊3発明は、ゾル-ゲル法により得られるものである点。
そして、相違点(iii-1)で両者が相違し、刊行物3を検討しても相違点(iii-1)であげた本件発明1の構成要件を当業者が想到し得たとする根拠が見いだせないから、相違点(iii-2)について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物3に記載された発明であるとも、刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
(4)刊行物4に記載された発明との対比、判断
刊行物4の記載事項4-アには、「粉末A」としてBET比表面積が15〜17m2/g、1次粒子径が0.05〜0.1μmであるジルコニア粉末が記載されている。そして、刊行物1に記載された方法でBET比表面積から平均粒径を求め、該平均粒径に対する1次粒子径を計算すると0.7〜1.7となるから、刊行物4には下記の発明(以下、「刊4発明」という。)が記載されていると云える。
「BET比表面積が15〜17m2/gであり、かつ、1次粒子径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.7〜1.7の1次粒子からなるジルコニア粉末。」
本件発明1と刊4発明とを対比すると、後者における「ジルコニア粉末」は、粒子径からみてジルコニア微粉末と云えるから、後者における「1次粒子径」が電子顕微鏡で測定される平均粒径を意味するとしても、両者は、
「BET比表面積が15〜17m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.7〜1.7の1次粒子からなるジルコニア微粉末。」で一致し、下記の点で相違する。
(iv)本件発明1は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるものであるのに対し、刊4発明はどのようにして得られたものか特定がない点。
そこで、相違点(iv)について検討すると、刊行物4には、刊4発明の根拠となる「粉末A」がどのような方法で得られたものか何等記載がなく、記載事項4-ア及びイにジルコニア粉末を得る方法の一例として加水分解法が記載されているものの、「粉末A」が加水分解法で得られたものであるとは云えない。そして、刊行物4の記載をさらに検討しても、刊4発明のジルコニア微粉末が、上記相違点(iv)で挙げた本件発明1の構成要件を満足する条件で得られたジルコニア微粉末と同じものであることを信ずるに足る記載はなく、また、当業者が上記相違点(iv)で挙げた本件発明1の構成要件を想到する根拠となる記載もない。
してみると、本件発明1は、刊行物4に記載された発明であるとも、刊行物4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
(5)刊行物5に記載された発明との対比、判断
刊行物5の記載事項5-アには、「品名 NS-0Y」として比表面積が27m2/g、一次粒子径が370Åであるジルコニア粉末が記載されいる。そして、「比表面積」がBET法により測定されたものであるとすると、その「比表面積」から刊行物1に記載された方法で平均粒径を求め、該平均粒径に対する一次粒子径を計算すると0.9となるから、刊行物5には下記の発明(以下、「刊5発明」という。)が記載されていると云える。
「BET比表面積が27m2/gであり、かつ、一次粒子径/比表面積から求められる平均粒径の比が0.9の一次粒子からなるジルコニア粉末。」
本件発明1と刊5発明とを対比すると、後者における「一次粒子」は前者における「1次粒子」に相当し、また、後者における「ジルコニア粉末」は、粒子径からみてジルコニア微粉末と云えるから、後者における「一次粒子径」が電子顕微鏡で測定される平均粒径を意味するとしても、両者は、
「電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9の1次粒子からなるジルコニア微粉末。」で一致し、下記の点で相違する。
(v-1)本件発明1は、BET比表面積が6〜24m2/gであるのに対し、刊5発明はBET比表面積が27m2/gである点。
(v-2)本件発明1は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるものであるのに対し、刊4発明はどのようにして得られたものか特定がない点。
そして、相違点(v-1)で両者が相違し、刊行物5を検討しても相違点(v-1)であげた本件発明1の構成要件を当業者が想到し得たとする根拠が見いだせないから、相違点(v-2)について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物5に記載された発明であるとも、刊行物5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
(6)本件発明1と刊行物1乃至5に記載された発明との対比、判断
相違点(i)、(ii)、(iii-2)、(iv)及び(v-2)で指摘したように、刊1発明乃至刊5発明のいづれも、本件発明1の構成要件である、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるものである点を備えていないものである。そして、上記(1)、(2)、(4)で述べたように、刊行物1,2及び4には、当業者が本件発明1の上記構成要件を想到する根拠となる記載はなく、また刊行物3及び5の記載をさらに検討しても、本件発明1の上記の構成要件を想到する根拠となる記載は見出せない。
よって、本件発明1の上記構成要件は刊行物1乃至5の記載から当業者が容易に想到し得たものとは云えない。
してみると、刊行物1乃至5を如何に組み合わせても、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは云えない。
3-5.特許異議申立人の他の主張について
特許異議申立人 田中勇は、(1)明細書の発明の詳細な説明には、イットリウムなどの安定化剤を混合しているジルコニア微粉末に関する記載があるのみで、安定化剤のないジルコニア微粉末に関する記載がないこと、及び、(2)明細書の発明の詳細な説明には、BET比表面積並びに電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が請求項1に記載された範囲のジルコニア微粉末を得る粉砕条件が示されていないことを根拠として、本件明細書の発明の詳細な説明には当業者が容易に実施し得る程度に本件発明1が記載されていない旨、主張している。
そこで、これらの点について検討する。
(1)について
ジルコニア微粉末としてイットリウムなどの安定化剤を含むものは本件の出願前広く用いられていたものあり、本件明細書にはかかる安定化剤を含むジルコニア微粉末について、具体的製造条件及び成形性及び焼結性が記載されているのであるから、上記(1)により、本件明細書の発明の詳細な説明には当業者が容易に実施し得る程度に本件発明1が記載されていないとまで云うことはできない。
(2)について
本件明細書【0010】段落にも記載されているとおり、本件発明1は、水和ジルコニアゾルを仮焼して本発明のジルコニア微粉末を得るにあたり、該水和ジルコニアの平均粒径φ(μm)を、0.07〜0.3μmとし、かつ、仮焼して得られるジルコニア微粉末の所望のBET比表面積S(m2/g)との関係が、1.7/S≦φ≦2.5/Sを満足することにより、BET比表面積及び電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が請求項1に記載された範囲のジルコニア微粉末を得るものであり、粉砕条件を制御することによりBET比表面積及び電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が請求項1に記載された範囲のジルコニア微粉末を得るというものではない。したがって、本件明細書に、請求項1に記載された範囲のBET比表面積及び電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比のジルコニア微粉末を製造する粉砕条件が記載されていないことをもって、本件明細書の発明の詳細な説明には当業者が容易に実施し得る程度に本件発明1が記載されていないと云うことはできない。
よって、特許異議申立人 田中勇の上記主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ジルコニア微粉末
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μmが0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが上下の関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるBET比表面積が6〜24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9〜2.1の1次粒子からなることを特徴とするジルコニア微粉末。
1.7/S≦φ≦2.5/S
【請求項2】水和ジルコニアゾルの平均粒径φ(μm)と仮焼温度T(℃)とが以下の関係式を満足する請求項1記載のジルコニア微粉末を製造する方法。
(i)水和ジルコニアゾルの乾燥粉が粒子成長を促進する化合物を含有する場合 600≦T≦1100かつ、
1000・φ+550≦T≦1830・φ+550 (1)
(ii)水和ジルコニアゾルの乾燥粉が上記の化合物を含まない場合 740≦T≦1200かつ、
1830・φ+650≦T≦2750・φ+650 (2)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、成形性がよく、さらに焼結性にも優れたジルコニア微粉末に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ジルコニア微粉末およびその製造方法としては、▲1▼安定化剤の溶解している水和ジルコニア微粒子の懸濁液にアンモニア水を添加して、濾過,水洗,仮焼してジルコニア粉末を得る方法(特開昭63-129017公報)▲2▼ジルコニウム塩水溶液を加水分解処理したあと、沈降法あるいは遠心分離法で粒径0.1〜0.3μmの範囲の水和ジルコニアゾルを分離して、仮焼してジルコニア粉末を得る方法(特開昭58-217430公報)
等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、▲1▼の方法では、平均粒径1μmの水和ジルコニアゾルを原料に用いて800℃の温度で仮焼してジルコニア粉末を得るが、このようにして得られたジルコニア粉末は、1次粒子の内部に多くの気孔が存在するために、成形時にその気孔が原因となって粒子-金型壁面間および粒子間の摩擦が大きくなり、得られる成形体の密度が低くなって、かつ、多数のラミネーション,割れおよびエッジ部の欠けが発生するために成形しにくいものとなる。さらに焼結時には、この気孔に起因する内部欠陥が数多く残って焼結体特性を悪くする。▲2▼の方法で得られるジルコニア粉末は、比較的粒径の大きい水和ジルコニアゾルのみを分離して、該ゾルを1000℃以下の温度で仮焼したものであるが、この方法で得られた粉末は、▲1▼と同様に1次粒子の内部に気孔が残りやすく、上記のとおり、成形しにくく、焼結体特性の低いものとなる。
【0004】本発明では、このような従来方法における欠点を解消した、成形性のよい、即ち、分散性がよくかつ成形体密度が高く、さらに焼結性にも優れたジルコニア微粉末の提供を目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らが、水和ジルコニアゾルまたは該ゾルとジルコニア系セラミックスの製造に常用されるイットリア,カルシア,マグネシア,セリアなどの安定化剤との混合物を仮焼してジルコニア粉末を得る際の水和ジルコニアゾルの微細構造の変化を詳細に検討して、水和ジルコニアゾルの平均粒径と仮焼時のBET比表面積とを制御することにより、1次粒子間の強固な凝集がほとんどない分散性のよいジルコニア微粉末が得られることを見い出し、本発明に到達した。即ち、本発明は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる平均粒径φ(μm)が0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルと、仮焼して得られるジルコニア微粉末のBET比表面積S(m2/g)とが以下の関係式を満足する条件で、水和ジルコニアゾルを乾燥・仮焼して得られるBET比表面積が6〜24m2/gであり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比(以下、平均粒径比という)が0.9〜2.1の1次粒子からなるジルコニア微粉末である。該微粉末を用いて得られる成形体は、高密度であり、かつ、比較的低温で焼結することができる。以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0006】本明細書において、ジルコニア微粉末に係わる「電子顕微鏡で測定される平均粒径」とは、電子顕微鏡写真により観察される個々の1次粒子の大きさを面積で読み取り、それを円形に換算して粒径を算出したものの平均値をいう。「BET比表面積」は、吸着分子として窒素を用いて測定したものをいう。「BET比表面積から求められる平均粒径」とは、粒径形状を球に換算してBET比表面積および理論密度から算出される直径をいう。また、水和ジルコニアゾルに係わる「平均粒径」は、光子相関法によるが、上記のジルコニア微粉末と同様に電子顕微鏡によって測定したものとほぼ同じ値を示す。
【0007】本発明のジルコニア微粉末のBET比表面積は、6〜28m2/gであることを必要とする。ジルコニア微粉末のBET比表面積が6m2/gよりも小さくなると低温側で焼結しにくい微粉末となり、また、28m2/gよりも大きくなると粒子間の付着力が著しい強固な凝集粉末となるために、セラミックス原料粉末に適さないものとなる。BET比表面積のより好ましい範囲は、8〜24m2/g、さらに望ましくは13〜19m2/gである。
【0008】また、本発明のジルコニア微粉末の平均粒径比は、0.9〜2.1でなければならない。この範囲にあれば、電子顕微鏡の観察から粒子間の焼結がほとんど見られず、かつ、粒子内部に存在する気孔が観測されない緻密な1次粒子を形成している。等方性の緻密な1次粒子であればこの比が1となるが、ジルコニア微粉末の粒子形状に歪みがあるため0.9〜2.1で緻密な1次粒子となるのである。この比が0.9よりも小さくなると、電子顕微鏡により1次粒子間のネックが多数観察され;このような硬い凝集粒子を多く含む微粉末を成形すると、えられる成形体中に硬い凝集粒子がそのままの形状で残り、それによって気孔径分布が広がるので成形体密度が低下し;さらに焼結時には、凝集粒子が多数存在することにより不均一収縮が起り、かつ、焼結体中に気孔が数多く残って焼結体特性も低下する。いっぽう、2.1よりも大きくなると、ジルコニア微粉末の分散性が見掛け上はよいものの、1次粒子内部に数多くの気孔が存在するために成形体密度が低下し、さらに焼結時に粒子内部の気孔が残るために焼結体特性も低下する。より好ましい平均粒径比は、1〜1.5である。
【0009】また、上記ジルコニア微粉末のζ電位は、等電点の電位に対して-20〜20mVの範囲にあることが好ましい。ζ電位がこの範囲にあると、1次粒子間の付着力が弱くなって、得られる1次粒子の凝集体あるいは造粒体が軟らかくなるために、成形時にその凝集体あるいは造粒体がさらに潰れやすくなって、いっそう成形性に優れたジルコニア微粉末となるからである。より望ましくは、-10〜10mVである。
【0010】水和ジルコニアゾルを仮焼して本発明のジルコニア微粉末を得るにあたっては、該水和ジルコニアの平均粒径φ(μm)は、0.07〜0.3μmであって、かつ、仮焼して得られるジルコニア微粉末の所望のBET比表面積S(m2/g)との関係が、
1.7/S≦φ≦2.5/S
を満足するものでなければならない。水和ジルコニアゾルの平均粒径が0.07μmよりも小さくなると、得られるジルコニア微粉末のBET比表面積が28m2/gよりも大きくなり、いっぽう、0.3μmよりも大きくなると6m2/gよりも小さくなり;そして、(1.7/S)μmよりも小さくなると、得られるジルコニア微粉末の前記平均粒径比が0.9よりも小さくなり、いっぽう、(2.5/S)μmよりも大きくなると平均粒径比が2.1よりも大きくなって本発明の分散性のよいジルコニア微粉末が得られなくなるからである。より好ましい水和ジルコニアゾルの平均粒径は0.08〜0.25μmであり、さらに望ましくは0.1〜0.15μmである。そして、より好ましい平均粒径比は、
1.9/S≦φ≦2.1/S
である。このBET比表面積を測定する際に、ジルコニア微粉末の不純物含有量が高いときには不純物を除去してから測定するほうがよい。不純物含有量が高くなると、BET比表面積の誤差が多くなって、測定精度が悪くなるからである。ジルコニア微粉末に含まれる不純物は、水洗処理することによって容易に除去することができる。
【0011】上記の水和ジルコニアゾルの平均粒径とジルコニア微粉末のBET比表面積との関係を得るためには、水和ジルコニアゾルに含まれる金属化合物の有無によって、仮焼温度を下記2種の条件で設定しなければならない。水和ジルコニアゾルの乾燥粉が、仮焼時に粒子成長を促進する作用のある化合物、たとえばアルカリ金属化合物を含有しているときには、水和ジルコニアゾルの平均粒径が上記の範囲のいずれであっても、その仮焼温度T(℃)は、600〜1100℃の範囲であって、かつ1000・φ+550≦T≦1830・φ+550を満足するものでなければならない。600℃または(1000・φ+550)℃よりも低くなると、得られるジルコニア微粉末の前記平均粒径比が2.1よりも大きくなり、いっぽう、1100℃または(1830・φ+550)℃よりも高くなると、得られるジルコニア微粉末の前記平均粒径比が0.9よりも小さくなって、本発明の分散性のよいジルコニア微粉末が得られなくなるからである。また、上記化合物を含まない水和ジルコニアゾルの乾燥粉は、その仮焼温度が740〜1200℃であって、かつ、1830・φ+650≦T≦2750・φ+650を満足するように設定する。740℃または(1830・φ+650)℃よりも低く、あるいは1200℃または(2750・φ+650)℃よりも高くなると、上記と同様に、本発明のジルコニア微粉末が得られなくなるからである。ただし、上記の平均粒径の水和ジルコニアゾルを上記の条件で仮焼すれば、通常、1.7/S≦φ≦2.5/Sの関係を満たしたジルコニア微粉末が得られる。上記の仮焼温度の設定条件は、乾燥空気あるいは水蒸気を含む空気とからなる仮焼雰囲気の場合のものである。もっとも、窒素,酸素,二酸化炭素,アルゴン,ヘリウムなどのガスを使用することもできる。また、上記のアルカリ金属化合物としては、ナトリウム,カリウムなどの塩化物,水酸化物,硝酸塩,硫酸塩などを挙げることができる。その最適な含有量は、ジルコニアに対するアルカリ金属の重量比で表した場合、0.005〜2重量%である。
【0012】仮焼温度の保持時間は0.5〜10時間がよく、昇温速度は0.5〜10℃/minが好ましい。保持時間が0.5よりも短くなると均一に仮焼されにくく、10時間よりも長くなると生産性が低下するので好ましくない。また、昇温速度が0.5℃/minよりも小さくなると設定温度に達するまでの時間が長くなり、10℃/minよりも大きくなると仮焼時に粉末が激しく飛散して操作性が悪くなり生産性が低下する。
【0013】上記の水和ジルコニアゾルは、平均粒径が上記の範囲のものとして得られるものであれば、いかなる反応条件で得られたものでもよい。ジルコニウム塩の加水分解反応による場合、得られる水和ジルコニアゾルの平均粒径は、反応終了時の反応液のpHが0.2〜1.3となるように調整することにより、平均粒径0.07〜0.3μmの水和ジルコニアゾルが得られる。このpHすなわち水和ジルコニアゾルの平均粒径を制御する方法としては、例えば、ジルコニウム塩水溶液にアルカリまたは酸などを添加する;陰イオン交換樹脂によりジルコニウム塩を構成している陰イオンの一部を除去することによりpHを調整して加水分解させる;水酸化ジルコニウムと酸との混合スラリーのpHを調整して加水分解させる方法などを挙げることができる。また、加水分解反応を促進させるために、水和ジルコニアゾルを反応液に添加して、加水分解を行ってもよい。このときの水和ジルコニアゾルの添加量は、原料仕込みのZrO2量に対する水和ジルコニアゾルのZrO2量の比率で表した場合、0.5〜20重量%が最適な添加量である。水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどを挙げることができるが、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。水和ジルコニアゾルの平均粒径を制御するために添加するアルカリとしては、アンモニア,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどを挙げることができるが、これらの他に尿素のように分解して塩基性を示す化合物でもよい。また、酸としては塩酸,硝酸,硫酸を挙げることができるが、これらの他に酢酸,クエン酸などの有機酸を用いてもよい。水和ジルコニアゾルの原料として水酸化ジルコニウムを用いる場合、その製造法としては種々の方法を選択することができ、ジルコニウム塩水溶液をアルカリで中和することにより水酸化ジルコニウムを得ることができる。
【0014】この反応によって得られた水和ジルコニアゾル含有液の乾燥方法に制限はなく、例えば、水和ジルコニアゾルを含む懸濁液をそのまま、または該懸濁液に有機溶媒を添加してスプレー乾燥する方法、該懸濁液にアルカリなどを添加して濾過,水洗したあとに乾燥する方法を挙げることができる。また、安定化剤の固溶しているジルコニア微粉末を得るときには、水和ジルコニアゾルの懸濁液に安定化剤、例えば、Y,Ca,Mg,Ceなどの化合物を添加して乾燥してもよく、あるいは加水分解のときに前もって添加してもよい。また、必要に応じて安定化以外の金属化合物、例えば、Al,遷移金属,希土類金属,アルカリ金属,アルカリ土類金属などの化合物も上記と同様に添加してもよい。とくに、アルカリ金属の化合物を添加すると、上記に記述したように、該金属の粒成長の促進作用により比較的低い仮焼温度で緻密な1次粒子が得られるので、仮焼工程の生産効率を向上させるのに有効であり、したがって、水和ジルコニアゾルの平均粒径が0.16〜0.3μmのときには、アルカリ金属化合物を添加して仮焼したほうがよい。
【0015】以上のようにして得られた仮焼粉は、粒子間の強固な凝集がほとんど起こっていないので、容易に粉砕するだけで分散性のよいジルコニア微粉末になる。このときに粉砕により、通常、BET比表面積は仮焼粉のそれに対して0.95〜1.1倍の範囲で変化する。また、粉砕時に必要に応じて焼結助剤として、例えばアルミナなどを添加してもよい。とくに、BET比表面積が6〜12m2/gの上記ジルコニア微粉末は、焼結助剤を添加して、焼結特性を向上させたほうがよい。
【0016】ジルコニア微粉末のζ電位は、それをアルカリまたは酸の水溶液で洗浄しすることによって制御することができる。たとえば、ζ電位が等電点の電位に対して10mVよりも高いときには、ジルコニア微粉末をアルカリ水溶液で洗浄し、水洗し;-10mVよりも低いときには、ジルコニア微粉末を酸水溶液で洗浄し、水洗して-10〜10mVの範囲に入るように調整すればよい。操作は粉砕前に行うのがよい。洗浄および水洗の際の濾過性がよいからである。また、ジルコニア微粉末の製造工程でζ電位の制御を行うこともできる。たとえば、前記の水和ジルコニア含有液を乾燥する際に、アルカリ水溶液を添加して濾過,水洗することによって、不純物の除去とともに、得られるジルコニア微粉末のζ電位を制御することができる。これらζ電位の制御に使用するアルカリとしては、アンモニア,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどを;酸としては、塩酸,硝酸,硫酸,酢酸,クエン酸などを挙げることができる。そのほか、必要に応じて有機系の分散剤,可塑剤などを添加してジルコニア微粉末のζ電位を制御してもよい。
【0017】
【作用】ジルコニウム塩水溶液の加水分解により得られる水和ジルコニアゾルの微細構造は、結晶性のよい超微粒子が凝集した粒子からなっており、その水和ジルコニアゾルを仮焼すると、その微細構造は、粒子形状を保ちながら超微粒子間で焼結して緻密な1次粒子に変化していくことが電子顕微鏡により観察される。このことから電子顕微鏡から求められるジルコニア微粉末の平均粒径とBET比表面積から求められる平均粒径とがある一定の関係を満たすときに分散性のよい、即ち、粒子間の強固な凝集が起こっていないジルコニア微粉末が形成されているものと推察される。
【0018】
【発明の効果】以上、説明したとおり、本発明のジルコニア微粉末は、成形性がよい、即ち、分散性がよくかつ成形体密度が高く、また焼結性にも優れている。
【0019】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。例中、ジルコニア微粉末の電子顕微鏡で測定される平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用い、300個の粒子について画像解析処理して求めた。そのBET比表面積から求められる平均粒径を求めるのに必要なジルコニア粉末の理論密度は、各結晶相の組成をX線回折図形の回折線のピーク強度によって求め、下式によって算出した(いずれの例においても、立方晶は含まれていなかった)。
【0020】理論密度=単斜晶含有率×5.6+正方晶含有率×6.1ジルコニア微粉末の成形は、金型プレスにより成形圧力700kgf/cm2で行った。
【0021】実施例12mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液2リットルに2規定のアンモニア水を500ml添加して、さらに蒸留水を加えて0.4mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液10リットルを調製した。この原料液を攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で120時間おこなった。得られた水和ジルコニアゾルの光子相関法による平均粒径は0.1μmであった。次に、水和ジルコニアゾルを含む懸濁液に塩化イットリウムを49g添加して、加熱濃縮したあとスプレー乾燥させて水和ジルコニアの乾燥粉末を調製した。得られた乾燥粉末を水蒸気分圧30mmHg以上の空気中で、900℃の温度で2時間仮焼した。この仮焼粉を1規定のアンモニア水で洗浄し、さらに蒸留水で水洗して粉砕した。
【0022】得られたジルコニア微粉末は、BET比表面積が20m2/gであり、単斜晶23wt%および正方晶77wt%であって理論密度が6.0であり、また電子顕微鏡により平均粒径は0.05μmであり(すなわち、φ・S=2,平均粒径比=1.2)、分散性のよい粉末であることが観察された。
【0023】次いで、上記で得られたジルコニア微粉末を用いて、成形体を作製したところ、成形体密度は2.69g/cm3であった。この成形体を1400℃の温度で、2時間焼成した。得られた焼結体の密度は、6.07g/cm3であり、曲げ強度は120kgf/mm2であった。
【0024】実施例2粉砕時にアルミナを0.3重量%添加して粉砕を行った以外は、実施例1と同じ条件にしてジルコニア微粉末を得た。このジルコニア微粉末を用いて、成形体を作製したところ成形体密度は2.71g/cm3であり、この成形体を1250℃の温度で、2時間焼成して得られた焼結体の密度は、6.07g/cm3であり、曲げ強度は110kgf/mm2であった。
【0025】実施例32mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液2リットルに2規定のアンモニア水を1リットル添加して、さらに蒸留水を加えて0.4mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液10リットルを調製した。この原料液を攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で110時間おこなった。得られた水和ジルコニアゾルの光子相関法による平均粒径は0.14μmであった。次に、水和ジルコニアゾルを含む懸濁液に塩化イットリウムを49g添加して、加熱濃縮したあとスプレー乾燥させて水和ジルコニアの乾燥粉末を調製した。得られた乾燥粉末を水蒸気分圧30mmHg以上の空気中で、970℃の温度で2時間仮焼した。この仮焼粉を1規定のアンモニア水で洗浄し、さらに蒸留水で水洗して粉砕した。
【0026】得られたジルコニア微粉末は、BET比表面積が14m2/gであり、単斜晶16wt%および正方晶84wt%であって理論密度が6.0であり、また、電子顕微鏡により平均粒径は0.07μmであり(すなわち、φ・S=2,平均粒径比=1.0)、分散性のよい粉末であることが観察された。
【0027】次いで、上記で得られたジルコニア微粉末を用いて成形体を作製したところ、成形体密度は2.78g/cm3であり、1450℃,2時間の焼成条件で得られた焼結体の密度は、6.09g/cm3であり、曲げ強度は125kgf/mm2であった。
【0028】実施例4粉砕時にアルミナを0.3重量%添加して粉砕を行った以外は、実施例3と同じ条件にしてジルコニア微粉末を得た。このジルコニア微粉末を用いて、成形体を作製したところ成形体密度は2.79g/cm3であり、この成形体を1330℃の温度で、2時間焼成して得られた焼結体の密度は、6.08g/cm3であり、曲げ強度は130kgf/mm2であった。
【0029】実施例52mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液2リットルに2規定のアンモニア水1.9リットルおよび0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を0.5リットル添加し、さらに蒸留水を加えて0.4mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液10リットルを調製した。この原料液を攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で100時間おこなった。得られた水和ジルコニアゾルの光子相関法による平均粒径は0.25μmであった。次に、水和ジルコニアゾルを含む懸濁液に塩化イットリウムを49g添加して、加熱濃縮したあとスプレー乾燥させて水和ジルコニアの乾燥粉末を調製した。得られた乾燥粉末を水蒸気分圧30mmHg以上の空気中で、920℃の温度で2時間仮焼した。この仮焼粉を0.1規定のアンモニア水溶液で洗浄し、さらに蒸留水で水洗した。粉砕する前にアルミナを0.3重量%添加して粉砕した。
【0030】得られたジルコニア微粉末は、BET比表面積が8m2/gであり、単斜晶18wt%および正方晶82wt%であって理論密度が6.0であり、また、電子顕微鏡により平均粒径は0.16μmであり(すなわち、φ・S=2,平均粒径比=1.3)、分散性のよい粉末であることが観察された。
【0031】次いで、上記で得られたジルコニア微粉末を用いて成形体を作製したところ、成形体密度は2.72g/cm3であった。この成形体を1370℃の温度で2時間焼成して得られた焼結体の密度は、6.05g/cm3であり、曲げ強度は115kgf/mm2であった。
【0032】比較例1仮焼温度を500℃に設定した以外は、実施例1と同様の条件でおこなった。得られたジルコニア微粉末は、BET比表面積が78m2/gであり、単斜晶35wt%および正方晶65wt%であって理論密度が5.9であり、また、電子顕微鏡で測定される平均粒径は0.1μmであった(すなわち、φ・S=7.8,平均粒径比=7.7)。電子顕微鏡から多数の粒子内部の気孔が確認された。
【0033】次いで、上記で得られたジルコニア微粉末を用いて成形体を作製したところ、成形体密度は2.48g/cm3であった。この成形体を1400℃の温度で2時間焼成して得られた焼結体の密度は、5.91g/cm3であり、曲げ強度は57kgf/mm2であった。
【0034】比較例22mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液1リットルに塩化アルミニウム270gを添加し、蒸留水を加えて0.2mol/lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液10リットルを調製した。この原料液を密閉容器中で、150℃で50時間加水分解反応を行なわせた。得られた水和ジルコニアゾルの光子相関法による平均粒径は0.4μmであった。次に、この水和ジルコニアゾルを含む懸濁液を分画分子量300万の限外濾過膜によって濾過し、水洗して塩化アルミニウムを除去し、塩化イットリウム25gを添加した。さらに、アンモニア水を過剰に添加し、濾過し、水洗し、静置乾燥させて水和ジルコニアの乾燥粉末を調製した。得られた乾燥粉末を水蒸気分圧30mmHg以上の空気中で、1250℃の温度で2時間仮焼して、水洗処理を行ったあと粉砕した。
【0035】得られたジルコニア微粉末は、BET比表面積が3m2/gであり、単斜晶30wt%および正方晶70wt%であって理論密度が6.0であり、また、電子顕微鏡で測定される平均粒径は0.27μmであった(すなわち、平均粒径比=0.8)。
【0036】次いで、上記で得られたジルコニア微粉末を用いて成形体を作製したところ、成形体密度は2.51g/cm3であり、強度が弱く、多数のラミネーションが観察された。この成形体を1500℃の温度で2時間焼成して得られた焼結体の密度は、5.80g/cm3であり、曲げ強度は85kgf/mm2であった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-17 
出願番号 特願平4-267304
審決分類 P 1 652・ 531- YA (C01G)
P 1 652・ 121- YA (C01G)
P 1 652・ 113- YA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中村 泰三
岡田 和加子
登録日 2002-08-16 
登録番号 特許第3339076号(P3339076)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 ジルコニア微粉末  

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