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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H03B
管理番号 1114650
異議申立番号 異議2003-72271  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-08 
確定日 2005-03-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3385344号「電圧制御発振器」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3385344号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
特許第3385344号の発明についての出願は、平成10年2月2日に特許出願され、平成15年1月10日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、藤澤正人より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月17日に訂正請求がされた後、訂正拒絶理由が通知され、平成17年1月8日に手続補正書が提出されたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正請求書及び訂正明細書に対する補正の適否について
特許権者は、訂正請求書に対して訂正事項(b-3)及び(b-4)を追加する補正を行い、訂正明細書に対して段落【0033】及び【0034】を補正するものである。
上記訂正請求書に対して訂正事項(b-3)及び(b-4)を追加する補正は、訂正請求書の訂正事項を訂正請求書に添付された訂正明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】及び段落【0039】の訂正に合致するようにするものであるが、上記訂正明細書に対する段落【0033】及び【0034】の補正は、訂正請求書の訂正事項及び補正後の訂正請求書の訂正事項のいずれにも合致しない。
したがって、当該訂正請求の補正は、訂正請求書の要旨を変更するものと認められ、特許法第120条の4第3項において準用する同131条第2項の規定に適合しないので、当該訂正請求の補正は認められない。
(2)訂正の内容
上記訂正請求及び訂正明細書に対する補正は認められないので、特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
・訂正事項(a)
特許請求の範囲
「【請求項1】電圧可変容量素子により発振回路の発振周波数を可変した電圧制御発振器において、電圧可変容量素子を端子間に印加する直流電圧に対して端子間の静電容量がしきい値電圧を基準として階段状に変化する半導体素子とし、前記半導体素子の端子間に発振回路による正弦波状の発振電圧と直流電圧とを印加し、前記発振電圧の一周期における前記しきい値電圧を越える動作域Δθ(rad)を前記直流電圧により制御するとともに前記動作域Δθを通過域として生ずる前記端子間のひずみ発振電流を制御し、前記発振電圧に対する前記ひずみ発振電流の基本波成分を変化させることにより、前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量が可変したことを特徴とする電圧制御発振器。
【請求項2】第1項記載において、前記半導体素子をMOS素子としたことを特徴とする電圧制御発振器。」を
「【請求項1】電圧可変容量素子により発振回路の発振周波数を可変した電圧制御発振器において、前記電圧可変容量素子を端子間に印加する直流電圧に対して端子間の静電容量がしきい値電圧を基準として階段状に変化する半導体素子とし、前記半導体素子の端子間に発振回路による正弦波状の発振電圧と前記直流電圧とを印加し、前記発振電圧の一周期における前記しきい値電圧を越える動作域Δθ(rad)を前記直流電圧により制御するとともに前記動作域Δθを通過域として生ずる前記端子間のひずみ発振電流を制御し、前記発振電圧に対する前記ひずみ発振電流の基本波成分を変化させることにより、前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量を可変し、かつ、前記半導体素子の端子間には前記発振電圧を小さくする振幅制限回路を設けたことを特徴とする電圧制御発振器。
【請求項2】第1項記載において、前記半導体素子をMOS素子としたことを特徴とする電圧制御発振器。」と訂正する。
・訂正事項(b-1)
発明の詳細な説明の段落【0034】
「 これらのことから、0から2πまでにわたって動作域Δθを制御するには、直流電圧V0は、直流合成電圧V01の2倍(2V01)以上が必要になる。逆に言えば、直流電圧V0が、直流合成電圧V01の2倍以下の場合には、0から2πまでにわたる動作域Δθを制御できないことになる。」を「これらのことから、0から2πまでにわたって動作域Δθを制御するには、図から明らかなように2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上が必要になる。逆に言えば、直流電圧V0が、2V1+VT以下の場合には、0から2πまでにわたる動作域Δθを制御できないことになる。」に訂正する。
・訂正事項(b-2)
発明の詳細な説明の段落【0036】
「 このようなことから、制御用の直流電圧V0が一定値であれば、振幅電圧V1及び直流合成電圧V01を相対的に小さくできる。したがって、直流電圧V0を直流合成電圧V01の2倍以上にでき、動作域Δθを0から2πまでにわたって確実に制御できる。なお、振幅制限回路10は、発振回路部2のFETのゲート・ソース間に挿入して、さらに振幅電圧をV1を小さくしてもよい(第14図)。」を「このようなことから、制御用の直流電圧V0が一定値であれば、振幅電圧V1を相対的に小さくできる。したがって、直流電圧V0を2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上にでき、動作域Δθを0から2πまでにわたって確実に制御できる。なお、振幅制限回路10は、発振回路部2のFETのゲート・ソース間に挿入して、さらに振幅電圧をV1を小さくしてもよい(第14図)。」と訂正する。
(3)当審の判断
(イ)訂正事項(b-1)は、明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の記載の段落【0034】の「0から2πまでにわたって動作域Δθを制御するには、直流電圧V0は、直流合成電圧V01の2倍(2V01)以上が必要に成る。」及び「逆に言えば、直流電圧V0が、直流合成電圧V01の2倍以下の場合には、0から2πまでにわたる動作域Δθを制御できないことになる。」という記載を「0から2πまでにわたって動作域Δθを制御するには、図から明らかなように2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上が必要になる。」及び「逆に言えば、直流電圧V0が2V1+VT以下の場合には、0から2πまでにわたる動作域Δθを制御できないことになる。」と訂正することを求めるものである。
しかしながら、「0から2πまでにわたって動作域Δθを制御するには、2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上が必要になる。」及び「逆に言えば、直流電圧V0が2V1+VT以下の場合には、0から2πまでにわたる動作域Δθを制御できないことになる。」は、願書に添付した明細書又は図面に記載されておらず、かつ、これらから、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項ないし自明の事項でもないので、このような訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものに該当しない。
特許権者は、「上記訂正は、「動作域Δθを0から2πまでの全領域で制御する」ための直流電圧V0を明記するものであり、これは本発明の趣旨及び第11図(及び第7図)から自明な事項である。直接的かつ一義的に理解される事項であり、例えば最大の静電容量を得るには、発振電圧(正弦波)の0から2πまでの間これに応じた電流ixを生じさせるため、振幅電圧の極小値をしきい値電圧VT以上にする必要があり、この場合、静電容量(ひずみ電流ix)を制御する直流電圧V0は、少なくとも振幅電圧V1としきい値電圧VTとの和電圧(V1+VT)が必要となる。またこれとは逆に、最小の静電容量を得るには、発振電圧(正弦波)の0から2πまでの間これに応じたひずみ電流ixを0とするため、振幅電圧の極大値をしきい値電圧VT以下にする必要があり、この場合、直流電圧V0は、少なくとも振幅電圧V1としきい値電圧VTとの差電圧(-(V1-VT))が必要となる。したがって、正弦波の0から2π間の動作域θを制御してこれに応じた静電容量を得るには、直流電圧V0は、VTを基準として、和電圧(V1+VT)から差電圧(-(V1-VT))に至るまでの電圧即ち2V1+VTが必要となる。これは、第7図のように、2倍の振幅電圧V1(発振電圧である正弦波となる交流電圧の極大値)がしきい値電圧より小さい場合でも同様であり、正弦波の0〜2π間の動作域Δθを制御できる直流電圧V0は2V1+VTであることは第7図〜第9図からも明白である。」ことを主張している。
しかしながら、第11図及び第7図から判断すると、振幅電圧の極小値及び極大値をしきい値電圧VTとする直流電圧V0は、それぞれ、(VT-V1)及び(VT+V1)であって、その電圧間の幅はVTを中心とする2V1であるから、「0から2πまでにわたって動作域Δθを制御するには、2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上が必要になる。」ことが本発明の趣旨及び第11図(及び第7図)から自明な事項であって、直接的かつ一義的に理解される事項であるという上記主張は採用できない。
(ロ)訂正事項(b-2)は、明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の記載の段落【0036】の「制御用の直流電圧V0が一定値であれば、振幅電圧V1及び直流合成電圧V01を相対的に小さくできる。したがって、直流電圧V0を直流合成電圧V01の2倍以上にでき、動作域Δθを0から2πまでにわたって確実に制御できる。」という記載を「制御用の直流電圧V0が一定値であれば、振幅電圧V1を相対的に小さくできる。したがって、直流電圧V0を2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上にでき、動作域Δθを0から2πまでにわたって確実に制御できる。」と訂正することを求めるものである。
しかしながら、「制御用の直流電圧V0が一定値であれば、振幅電圧V1を相対的に小さくできる。したがって、直流電圧V0を2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上にでき、動作域Δθを0から2πまでにわたって確実に制御できる。」は、願書に添付した明細書又は図面に記載されておらず、かつ、これらから、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項ないし自明の事項でもないので、このような訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものに該当しない。
特許権者は、「直流電圧V0を直流合成電圧V01の2倍以上にでき」を「直流電圧V0を2倍の振幅電圧2V1としきい値電圧VTとの和(2V1+VT)以上にでき」とする補正は段落【0034】の補正に基づくものであると主張しているが、段落【0034】の訂正は上記(イ)のように、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものに該当しないので、上記主張は採用できない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、当該訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3 特許異議の申立てについて
(1)特許異議の申立て、取消理由の概要
異議申立人藤澤正人は、下記の甲第1号証を提出し、請求項1、2に係る発明の特許は、甲第1号証より、特許法第29条の2の規定により違反してなされたものであるから取り消すべき旨主張し、当審が通知した取消理由も同旨である。
甲第1号証:特願平9-106113号(特開平10-303643号公 報)
(平成9年4月23日出願、平成10年11月13日出願公開)
(2)本件発明
上記2で示したように上記訂正は認められないから、本件特許3385344号の請求項1、2に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
請求項1「電圧可変容量素子により発振回路の発振周波数を可変した電圧制御発振器において、電圧可変容量素子を端子間に印加する直流電圧に対して端子間の静電容量がしきい値電圧を基準として階段状に変化する半導体素子とし、前記半導体素子の端子間に発振回路による正弦波状の発振電圧と直流電圧とを印加し、前記発振電圧の一周期における前記しきい値電圧を越える動作域Δθ(rad)を前記直流電圧により制御するとともに前記動作域Δθを通過域として生ずる前記端子間のひずみ発振電流を制御し、前記発振電圧に対する前記ひずみ発振電流の基本波成分を変化させることにより、前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量が可変したことを特徴とする電圧制御発振器。」
請求項2「第1項記載において、前記半導体素子をMOS素子としたことを特徴とする電圧制御発振器。」
(3)請求項1に係る発明について
(イ)引用刊行物に記載の発明
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物(甲第1号証)には、その実施例と図面及びこれに係わる記載を参酌すると、以下のような技術的事項が記載されている。
「コイル及びコンデンサで構成された共振回路に、容量可変手段としてMOSトランジスタによるMOSキャパシタを接続し、前記MOSキャパシタのゲート電圧を制御して発振周波数を可変にする電圧制御発振回路。」(公開公報【特許請求の範囲】の【請求項1】第2頁第1欄第2行〜6行)、「ノードN1には、MOSキャパシタ23を構成するNMOSのゲートが接続され、該NMOSのソース及びドレインが接地されている。ノードN1には、抵抗24を介して制御電圧Vcが印加され、電圧V1が現れる。【0008】図3(a)〜(c)は、図1のVCOの動作波形図である。なお、図3中のVtは、MOSキャパシタ23を構成するNMOSの閾値電圧である。」(公開公報段落【0007】〜【0008】第3頁第3欄第19行〜第4欄第7行)及び「MOSキャパシタ23の容量値C23は、この両端の電極に順方向に印加される電位差がMOSトランジスタの閾値Vtを越えない範囲ではほぼ0である。MOSキャパシタ23の両端の電極の順方向の電位差が閾値Vtを越えると、容量値C23は、例えばゲート酸化膜の誘電率とゲート面積にて決定される固定値となる。【0009】ノードN1の電圧V1は、直流的には制御電圧Vcによって与えられる電位にバイアスされるので、該制御電圧Vcの電位を中心に振幅する。そのため、VCOの発振周波数は、ノードN1の電圧V1によって次式(1)、(2)のように表せる。・・・(1)、(2)式に基づいたノードN1の発振波形の例が、図3(a)に示されている。ノードN1での交流振幅は一定なので、電圧V1は制御電圧Vcの電位によってその直流レベルを制御できる。例えば、制御電圧Vcの電位を図3(a)の状態から上昇させたとすると、発振現象にMOSキャパシタ23の寄与する状態が長くなり、図3(b)に示すように発振周波数は遅くなる。制御電圧Vcの電位を図3(a)の状態から低下させると、発振現象にMOSキャパシタ23の寄与する状態が短くなり、図3(c)に示すように発振周波数は早くなる。従って、制御電圧Vcによって発振出力信号Voの発振周波数が制御される。」(公開公報段落【0008】〜【0009】第3頁第3欄第23行〜第49行)
以上の記載からみて、この刊行物(甲第1号証)には、「容量可変手段により発振回路の発振周波数を可変した電圧制御発振器において、容量可変手段を端子間に印加する直流の制御電圧Vcに対して容量値C23が閾値Vtを基準として階段状に変化するMOSキャパシタ23とし、前記MOSキャパシタ23の端子間に発振回路による正弦波状の発振電圧と直流の制御電圧Vcとを印加し、前記直流の制御電圧Vcを可変にすることにより正弦波状の発振電圧における閾値Vt以上の領域部分の全振幅に対する割合を変化させ、発振現象にMOSキャパシタ23の寄与する状態の長さを可変して周波数を制御する電圧制御発振器。」の発明(以下、刊行物に記載の発明という。)が記載されていると認められる。
(ロ) 対比
請求項1に係る発明と刊行物に記載の発明を対比すると、刊行物に記載の発明の「容量可変手段」、「直流の制御電圧Vc」、「容量値C23」、「閾値Vt」及び「MOSキャパシタ23」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「電圧可変容量素子」、「直流電圧」、「端子間の静電容量」、「しきい値電圧」及び「半導体素子」に相当するものであり、刊行物に記載の発明の「直流の制御電圧Vcを可変にすることにより正弦波状の発振電圧における閾値Vt以上の領域部分の全振幅に対する割合を変化させ」は、請求項1に係る発明の「発振電圧の一周期における前記しきい値電圧を越える動作域Δθ(rad)を前記直流電圧により制御する」に相当すると認められるから、
両者は、
「電圧可変容量素子により発振回路の発振周波数を可変した電圧制御発振器において、電圧可変容量素子を端子間に印加する直流電圧に対して端子間の静電容量がしきい値電圧を基準として階段状に変化する半導体素子とし、前記半導体素子の端子間に発振回路による正弦波状の発振電圧と直流電圧とを印加し、前記発振電圧の一周期における前記しきい値電圧を越える動作域Δθ(rad)を前記直流電圧により制御するとともに前記動作域Δθを通過域として生ずる前記端子間のひずみ発振電流を制御する電圧制御発振器。」で一致するものであり、次の点で一応相違するものである。
<相違点>
請求項1に係る発明では「前記動作域Δθを通過域として生ずる前記端子間のひずみ発振電流を制御し、前記発振電圧に対する前記ひずみ発振電流の基本波成分を変化させることにより、前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量を可変」するのに対し、上記刊行物に記載の発明は、「発振現象にMOSキャパシタ23の寄与する状態の長さを可変して周波数を制御する」ものであるが、「前記動作域Δθを通過域として生ずる前記端子間のひずみ発振電流を制御し、前記発振電圧に対する前記ひずみ発振電流の基本波成分を変化させることにより、前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量を可変」することについて明記されていない点。
(ハ)判断
そこで、上記相違点について検討する。
請求項1に係る発明における、「前記発振電圧に対する前記ひずみ発振電流の基本波成分」及び「前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量」については、「合成電圧VP(交流電圧V1sinωt)の一部がしきい値電圧VTを越えた場合には、しきい値電圧VTを越える部分のみで、静電容量Cは発生する。したがって、静電容量Cの発生時間のみ、交流電圧V1sinωtに応答した回路電流iを生ずる(第9図)。なお、この回路電流iをひずみ電流iXとする。
【0018】ここで、ひずみ電流iXをフーリェ級数に展開すると、(3)式になる。すなわち、基本波成分とその倍調波からなる。但し、θ1は時間tとともにしきい値電圧VTを越える電圧上昇時の通過点を表す、θ2は同電圧下降時の通過点を表す位相(ラジアン、rd)である。
iX=a1cosωt+a2cos2ωt+a3cos3ωt+・・・(3)
θ2-θ1
但し、a1=────・ωCV1

VT-V0 VT-V0
θ1=sin-1─── 、θ2=π-sin-1───・・・(4)
V1 V1
【0019】ひずみ電流iXにおける基本波成分の振幅電圧a1は、前(4)式から明らかなとおり、交流電圧の一周期におけるしきい値電圧VTを越える、交流電圧の動作域及びこれに応答したひずみ電流の通過域Δθ=θ2-θ1(rad)に比例して、その値が大きくなる。すなわち、ゲート・ソース間に静電容量Cを発生させる時間(t2-t1)が長いほど、大きい。 【0020】ここで、MOS素子4のゲート・ソース間に印加した交流電圧V1sinωtと、ひずみ電流iXの基本波成分a1cosωtに基づき、インピーダンスZを求めると(5)式になる。そして、ここでのインピーダンスZは、基本的に容量成分のみなので、Z=1/ωCXとなる。但し、CXは、ひずみ電流iXの基本波成分に対するゲート・ソース間の実効容量(以下、基本波容量とする)である。
1 V1
Z=────=───・・・(5)
ωCX a1
【0021】これを変形して(4)式を代入し、ひずみ電流iXの基本波容量CXを求めると(6)式になる。
a1 θ2-θ1
CX=───=─────・C ・・・(6)
ωV1 2π
【0022】したがって、基本波容量CXは、しきい値電圧VTを越えるひずみ電流iXの通過域Δθ=θ2-θ1に比例して大きくなる。このことから、直流電圧V0により、ひずみ電流iXの通過域Δθを制御すれば、基本波容量CXを可変できる。」(特許公報 段落【0017】〜【0022】第3頁第6欄11行〜第36行)及び「 直流電圧V0により、発振電圧V1sinωtの通過域及びひずみ発振電流iXの通過域Δθを制御して、基本波容量CXを可変する。したがって、水晶振動子1の負荷容量を変化するので、ひずみ発振電流iXの基本波成分である発振周波数fを制御できる。」(特許公報 段落【0030】第4頁第7欄第31行〜第35行)と説明されている。
そうすると、上記刊行物に記載の発明おいて、閾値Vtを超える領域を制御すると発振電圧の実効値電圧が変化するのだから、これに伴い回路電流(ひずみ発振電流に相当する。)が制御され、正弦波状の回路電流の基本波成分が変化することは自明であり、該回路電流の基本波成分の変化によって発振現象にMOSキャパシタ23の寄与する状態の長さを可変して周波数を制御するのであるから、発振電圧に対する回路電流の基本波成分を変化させることにより、前記基本波成分に対する前記端子間の実効容量を可変していることも明らかである。
したがって、この点に実質的な差異は認められず、上記刊行物には、請求項1に係る発明の全ての構成を具備する発明が記載されていると認められる。
上記刊行物は、本件出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものであり、その発明者及び出願人は本件出願の発明者及び出願人と同一とは認められない。
してみると、請求項1に係る発明は、上記刊行物に記載の発明と同一であって、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、当該発明の特許は取り消されるべきものである。
(4)請求項2に係る発明について
上記刊行物には、上記請求項1に係る発明の場合に述べたことに加え、半導体素子をMOSキャパシタ(MOS容量素子に相当する。)としたことが記載されている。
したがって、上記刊行物には、請求項2に係る発明の全ての構成を具備する発明が記載されている。
上記刊行物は、本件出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものであり、その発明者及び出願人は本件出願の発明者及び出願人と同一とは認められない。
そうすると、請求項2に係る発明は、上記刊行物に記載の発明と同一であって、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、当該発明の特許は取り消されるべきものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1,2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-01-24 
出願番号 特願平10-36774
審決分類 P 1 651・ 161- ZB (H03B)
最終処分 取消  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 内田 正和
和田 志郎
登録日 2003-01-10 
登録番号 特許第3385344号(P3385344)
権利者 日本電波工業株式会社 日本電信電話株式会社
発明の名称 電圧制御発振器  

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