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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1114656
異議申立番号 異議2003-70155  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-22 
確定日 2005-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3304338号「熱処理装置及び熱処理方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3304338号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3304338号の請求項1及び2に係る発明についての特許出願は、平成2年11月30日に出願された特願平2-339809号の一部を分割して、平成13年9月21日になされ、平成14年5月10日にその特許の設定登録がなされ、その後、高橋学により請求項1及び2に係る発明について特許異議の申立てがなされ、平成16年6月9日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月11日に意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件発明の請求項1及び2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下のとおりのものである。(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)

「【請求項1】 大気圧の水素雰囲気でウェーハに熱処理を行う熱処理装置において、
一旦反応管内を真空引きした後、次に窒素ガスを大気圧に充満させ、しかる後、水素ガスを流入させることを特徴とする熱処理装置。」
「【請求項2】 大気圧の水素雰囲気でウェーハに熱処理を行う熱処理方法において、
一旦反応管内を真空引きした後、次に窒素ガスを大気圧に充満させ、しかる後、水素ガスを流入させることを特徴とする熱処理方法。」

3.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人高橋学は、本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであって、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。
1.甲第1号証:特開昭62-108532号公報
2.甲第2号証:特開昭51-059266号公報
3.甲第3号証:特開昭57-59381号公報

4.取消理由通知の概要
平成16年6月9日付けの取消理由通知の内容は以下のとおりである。
「本件の、次の請求項1及び2に係る特許は、合議の結果、以下の理由によって取り消すべきものと認められます。これについて意見がありましたら、この通知の発送の日から60日以内に意見書の正本1通及びその副本2通を提出して下さい。

理 由

1)本件の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1について
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と、刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1発明」という。)(特に、第3図、第4図及び第2頁の記載参照)とを対比すると、
本件発明1では、「一旦反応管内を真空引きした後、次に窒素ガスを大気圧に充満させ」ているのに対して、刊行物1発明では、反応管に窒素ガスを流入させていること(以下、「相違点1」という。)、及び、本件発明1では、「大気圧の水素雰囲気でウェーハの熱処理を行う」のに対して、刊行物1発明では、水素ガスで熱処理するときの圧力が記載されていないこと(以下、「相違点2」という。)において、両者は相違する。

以下に各相違点について検討する。
相違点1について
熱処理するための容器中に不活性ガス又は処理雰囲気ガスを導入する前に、容器を真空にした後に不活性ガス又は処理雰囲気ガスを導入することは、例えば、刊行物2(特に、第1図及び第2頁右下欄参照)、刊行物3(特に、第1図及び、第3頁の記載参照)に記載されるように従来周知であり、また、熱処理雰囲気ガス導入前の窒素ガス雰囲気の圧力又は熱処理雰囲気ガスとしての窒素ガス圧を常圧とすることは、例えば、刊行物7(特に、第3図及び第2頁右上欄参照)、刊行物6(特に、第1頁右下欄参照)に記載されるように従来周知であるから、刊行物1発明において、窒素ガスを反応管に導入する前に反応管内を真空とするとともに、その後導入する窒素ガスの圧力を大気圧とすることは当業者が容易になしえたものである。

相違点2について
水素雰囲気中で熱処理するときに、大気圧(常圧)で行うことは、例えば、刊行物3(特に、第1図及び、第3頁の記載参照)、刊行物4(特に、第2頁右上欄〜左下欄参照)、刊行物5(特に、第1,3,4図及び、第2頁左下欄、第3頁上段参照)、及び刊行物6(特に、第1頁右下欄参照)に記載されるように従来周知であるから、刊行物1発明において、水素ガスで熱処理する際の圧力を大気圧とすることは、当業者が何ら困難性なくなしえたものである。

したがって、請求項1に係る発明は、当業者が、刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項2について
本件の請求項2に係る発明は、本件発明1と実質的に同一であるから、「請求項1について」に記載した理由と同様な理由により、当業者が、刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、本件の請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

また、異議申立人高橋学の提出した特許異議申立書の「3.申立の理由」(第2頁第1行〜第9頁第3行)(甲第3号証についての記載を除く)も参照されたい。なお、「甲第1号証」及び「甲第2号証」はそれぞれ、「刊行物2」及び「刊行物1」と読み替える。

引用文献等一覧

刊行物1.特開昭51-059266号公報(異議申立人高橋学提出の甲第2号証)
刊行物2.特開昭62-108532号公報(異議申立人高橋学提出の甲第1号証)
刊行物3.特開昭63-226029号公報
刊行物4.特開昭61-171139号公報
刊行物5.特開平 2-177542号公報
刊行物6.特開昭54-127278号公報
刊行物7.特開昭63- 44731号公報 」

5.刊行物記載事項
取消理由通知で引用された各刊行物及び特許異議申立人高橋学提出の甲第3号証(特開昭57-59381号公報)に記載された事項は以下のとおりである。

(1)刊行物1.特開昭51-059266号公報(異議申立人高橋学提出の甲第2号証)
刊行物1には、第3図及び第4図とともに以下の事項が記載されている。
「次に、前記装置に依る作業工程を説明する。・・・第3図は半導体ウエハの挿脱時、第4図は熱処理時を表わしている。また、次に記述する工程では半導体ウエハ13としてシリコン・ウエハを用い、そのシリコン・ウエハを水素雰囲気中で熱処理する場合について説明されているが、これに限らず、他の半導体ウエハ、他のガスを用いる場合においても有用である。
(1) 反応管11中にシリコン・ウエハがセットされていない状態で窒素ガス を流入させる。
(2) 加熱炉12を、第3図に見られる如く、反応管11の右方に設定する。
(3) 蓋体15を開いてウエハ・ホルダ14に従ってシリコン・ウエハを反応 管11の開口近傍、即ち加熱炉12から外れた位置に挿設し、蓋体15を 閉成する。
(4) 窒素ガスを反応管11内に充分流入させ、他のガスを排除する。
(5) 窒素ガスを水素ガスに切換えて窒素ガスの排除を行なう。
(6) 加熱炉12を、第4図に見られる如く、反応管11の左方に移動してシ リコン・ウエハのセット位置に設定し、熱処理を行なう。
(7) 熱処理終了後、加熱炉12を再び第3図に見られる位置に移動して固定 する。
(8) シリコン・ウエハが適当に冷却されてから、水素ガスを窒素ガスに切換 えて水素ガスを十分に排除する。
(9) 蓋体15を開いてウエハ・ホルダ14とともにシリコン・ウエハを取出 す。」(第2頁右上欄第9行〜同頁左下欄第18行)

(2)刊行物2.特開昭62-108532号公報(異議申立人高橋学提出の甲第1号証)
刊行物2には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「・・・その真空予備室8内に挿入されているサセプタ18を、熱処理室7に移動させる。この後、排気用バルブ12を閉じ排気用バルブ14を拡散ポンプ11側を開けるようにしてから、排気用バルブ15を開き本格的な排気を行ない、所望の真空度に達したら排気用バルブ15を閉にしてから不活性ガス注入調節用バルブ16を開にして、例えば不活性ガスとして窒素ガスを熱処理室7に注入させ、それが所定の圧力になってから、ハロゲンランプ20の光及び熱をウェーハ19に照射し熱処理を行なう。」(第2頁右下欄第1〜10行)

(3)刊行物3.特開昭63-226029号公報
刊行物3には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「次に、第1図の同反応炉を用いての本発明の第2の実施例を説明する。
まず、シリコン基板13を石英ボート14へ垂直に立てて、石英管12の入口扉15を開き該石英管12内に挿入する。このとき石英管12中へは第1のガス導入管16より窒素ガスを導入し、シリコン基板13の挿入時に不必要な酸化が進行しないよう配慮する。また同様な配慮およびシリコン基板13の反りを防止するため、反応炉の温度は低温、例えば400〜800℃としておく。
シリコン基板13を搭載した石英ボート14が定位置に挿入されたならば、第1のガス導入管16を閉じ窒素ガスの導入を停止させ、同時に扉15を閉じ、ガス排気管18から石英管12中の窒素ガスを真空に排気する。
石英管12中が真空になったならば、第1のガス導入管16から水素ガスを導入する。このとき扉15は閉じたままとし、水素ガスはガス排気管18から排気する。また、このときの石英管12内は減圧でも常圧でもよく・・・。
その後、反応炉の温度を徐々に、例えば毎分5℃の割合で昇温し、800〜950℃とする。このように水素雰囲気中で熱処理を行うことによってシリコン基板13表面の自然酸化膜を除去することができ、清浄化することができる。」(第3頁左下欄第14行〜同頁右下欄第19行)

(4)刊行物4.特開昭61-171139号公報
刊行物4には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「第1図は本発明の一実施例による半導体装置の製造方法の主要工程段階を示し、図において、21はシリコン基板、22はマスク、23はシリコン基板21の凹部、24は酸素イオン、24aは注入された酸素イオンである。
次に本製造方法について説明する。
まず、シリコン基板21を準備し、その一主面上の凹部となる領域以外の領域にマスク22を形成する。次に、このマスク22越しに酸素イオン24の注入を行なうと、シリコン基板21内部に、注入された酸化イオン24aにより酸化された酸化膜21aとシリコン21とのシリコン・酸化膜界面が形成される。この注入深さはエネルギーを変えることにより任意に設定できる。この状態を第2図(a)に示す。次に、上記マスク22を除去し、水素雰囲気中で、高温(1050℃以上)、かつ常圧・・・でアニールすることにより、上記酸化膜21aを水素還元によるエッチングを行なって除去し、シリコン基板21上に凹部23を形成する。この完成状態を第2図(b)に示す。」(第2頁右上欄第5行〜同頁左下欄第4行)
なお、第2図(a)、第2図(b)は、それぞれ第1図(a)、第1図(b)の誤記である。

(5)刊行物5.特開平2-177542号公報
刊行物5には、第1図及び第4図とともに以下の事項が記載されている。
「実施例1
同一のCZ-シリコン単結晶インゴットの同一領域から複数のシリコンウェハを切り出し、鏡面加工した。これらの鏡面シリコンウェハはnタイプ・・・である。これらの鏡面シリコンウェハを、100%水素雰囲気中において、それぞ1atm、10atm、20atmの加圧条件で、アニール温度を800℃、1000℃、1200℃、1300℃と変化させて1時間アニールした。」(第2頁右上欄第18行〜同頁左下欄第7行)
「第4図から明らかなように、水素雰囲気中で加圧してアニールする場合、同一のアニール温度、アニール時間であれば、圧力が高いほど、シリコンウェハ表面に形成される酸化膜の耐圧特性が良好であることがわかる。」(第3頁右上欄第2〜6行)

(6)刊行物6.特開昭54-127278号公報
刊行物6には、以下の事項が記載されている。
「一般に材料のアニール処理法としては、常圧以上の加熱処理を施こすのが通例である。特に、半導体工業においては半導体処理用構成体(材料)のアニール処理法として、半導体と絶縁体との界面準位を減少する目的で約400℃程度のN2,H2又はN2+H2ガス中で約30分程度の常圧アニールを施こしているのが通例である。」(第1頁右下欄第1〜7行)

(7)刊行物7.特開昭63-44731号公報
刊行物7には、第1図〜第3図とともに以下の事項が記載されている。
「第1図は、本発明の一実施例である水素雰囲気中での熱処理工程を実施する処理装置の構成図、第2図,第3図はそれぞれ処理温度、雰囲気ガスの圧力のそれぞれについて時間変化を示すものである。
・・・
第3図は、ガス圧力の時間経過による変化を示している。処理開始点Eは大気圧の窒素雰囲気であり、Fで水素ガス雰囲気に切りかえると同時にチューブ1内の圧力を増加させていく。3気圧・・・になったGから、第1図bにおける処理終了点Dの30分前、つまり280℃にまで冷却されたH点まで高圧状態を保持する。その後、窒素ガスに切りかえると同時に圧力を低下させ、1気圧になった時点Iで処理を終了する。」(第2頁左上欄第20行〜同頁左下欄第6行)

(8)刊行物8.特開昭57-59381号公報(特許異議申立人高橋学提出の甲第3号証)
刊行物8には、第2図とともに以下の事項が記載されている。
「1000℃に昇温した二重石英管に流量3l/minの窒素ガスを流しておく。初めに、シリコン・ウェハを設置した石英ボートを石英管内に挿入し、窒素(N2)中で10分間アニールする。このとき、Mo薄膜は結晶成長し、アニール前に10〜30nmであった結晶粒径は100〜200nm程度となる。Mo薄膜内に含まれる不純物量は窒素中アニールではほとんど変化せず、例えば酸素の場合、第2図に示すようになる。またMo薄膜の欠陥は、走査型電子顕微鏡観察で検出されない。アニール時間が10分を経過した段階で、300cc/minの水素を石英管内に追加して流し、この状態でさらに10分間アニールする。この窒素、水素混合ガス中(N2/H2)アニールによって、MoゲートMOS素子の可動イオンおよび界面準位が大幅に減少する。」(第2頁右上欄第17行〜同頁左下欄第12行)

6.対比・判断
本件発明1について
本件発明1と、刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1には、本件発明1の「一旦反応管内を真空引きした後、次に窒素ガスを大気圧に充満させ」る点が記載されておらず、この点については、刊行物2ないし8にも記載されていない。
次に、本件発明1と、刊行物3に記載された発明とを比較すると、刊行物3にも、本件発明1の「一旦反応管内を真空引きした後、次に窒素ガスを大気圧に充満させ」る点が記載されておらず、この点については、刊行物1,2、4ないし8にも記載されていない。
本件発明1は、上記構成を備えることにより、「大気圧の水素雰囲気でウェーハに熱処理を行う熱処理装置」において、「シール性が十分に得られ、安全性を向上することができる」という特許明細書記載の顕著な効果が奏せられるものである。
よって、本件発明1は、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

本件発明2について
本件発明2の特徴とする構成は、本件発明1と概ね一致しており、刊行物1ないし8に記載される発明との比較検討は、「本件発明1において」で検討したとおりである。
よって、本件発明2は、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては本件発明1,2についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1.2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1,2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-18 
出願番号 特願2001-289775(P2001-289775)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 河本 充雄
橋本 武
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3304338号(P3304338)
権利者 株式会社日立国際電気
発明の名称 熱処理装置及び熱処理方法  
代理人 橋場 満枝  
代理人 石戸 久子  
代理人 赤澤 日出夫  

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