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審決分類 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C08F
審判 訂正 発明同一 訂正する C08F
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C08F
管理番号 1115145
審判番号 訂正2004-39285  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-03 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-12-16 
確定日 2005-02-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3117394号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3117394号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判請求の要旨は、本件特許第3117394号(平成7年10月16日特許出願(優先日 平成6年11月29日 日本))の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。

(1)訂正事項a
請求項1の
「 光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする光学的立体造形用樹脂組成物。」を
「光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる光学的立体造形用樹脂組成物。」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項4を削除する。
(3)訂正事項c
請求項5を繰り上げて請求項4とする。
(4)訂正事項d
新請求項4の
「照射する光が紫外線または紫外線を含む光である請求項4の方法。」を
「請求項1〜3のいずれか1項の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)の照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法。」と訂正する。
(5)訂正事項e
段落【0011】の
「すなわち、本発明は、光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする光学的立体造形用樹脂組成物である。」を
「すなわち、本発明は、光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる光学的立体造形用樹脂組成物である。」と訂正する。
(6)訂正事項f
段落【0012】の
「そして、本発明は、上記の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって光照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法である。」を
「そして、本発明は、上記の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)の照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法である。」と訂正する。
(7)訂正事項g
段落【0039】の
「【実施例】以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されない。以下の例中で「部」は重量部を意味する。」を
「【実施例】以下にHe/Cdレーザー光を用いた造形例を実施例8として示し、併せて、Arレーザー光を用いた造形例を参考実施例として示す。例中で「部」は重量部を意味する。」と訂正する。
(8)訂正事項h
段落【0065】の
「(3) 上記(2)で得られた立体造形物における各貫通孔A〜FのX軸方向の寸法(内径)xとZ軸方向の寸法(内径)yをそれぞれ測定して、両者の比:x/yを求めて、各貫通孔の真円度を調べたところ下記の表4に示すとおりであった。」を
「(3) 上記(2)で得られた立体造形物における各貫通孔A〜FのX軸方向の寸法(内径)xとZ軸方向の寸法(内径)zをそれぞれ測定して、両者の比:x/zを求めて、各貫通孔の真円度を調べたところ下記の表4に示すとおりであった。」と訂正する。

2.合議体の判断
2-1.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、請求項1の記載において、「光エネルギー吸収剤」を「光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光エネルギー吸収剤」とする訂正(以下、「訂正事項a-1」という。)及び「光学的立体造形用樹脂組成物」を「紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる光学的立体造形用樹脂組成物」とする訂正(以下、「訂正事項a-2」という。)を含んでいる。
そこで、訂正事項a-1及び訂正事項a-2の適否について以下に検討する。
(i)訂正事項a-1
訂正前の明細書には、「光エネルギー吸収剤の添加量が、液状光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて、0.001重量%未満であると、本発明の目的が充分に達成されず、寸法精度、寸法安定性、力学的特性などに優れる立体造形物を得ることができなくなる。一方、光エネルギー吸収剤の添加量が液状光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて1.0重量%を超えると、光造形時の樹脂組成物の硬化速度が遅くなって造形速度の著しい低下をきたし、しかも得られる立体造形物の力学的特性が低くなり実用上問題が生ずる。」(段落【0028】)及び「・・・光硬化性樹脂組成物中に上記した所定量の光エネルギー吸収剤を添加することによって、光エネルギー吸収剤が活性エネルギー光線のエネルギーを一部吸収して主にZ軸方向の光エネルギーの進入深度の調節および均一化をもたらして光硬化層の厚さが均一になり、それと共に光エネルギー吸収剤に吸収された光エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されてその熱エネルギーも樹脂の硬化に関与することによって、光エネルギー吸収剤を添加してあるにも拘わらず、樹脂の硬化速度の低減などが生じず、高い造形速度で立体造形物の製造を行っても寸法精度や寸法安定性などの特性に優れる高品質の立体造形物が形成されることによるものと推測される。」(段落【0029】)と記載されており、光エネルギー吸収剤の添加量が規定量以上になると光造形時の樹脂組成物の硬化速度が遅くなること、及び、光エネルギー吸収剤が活性エネルギー光線のエネルギーを一部吸収することが開示されている。
この「活性エネルギー光線」が樹脂組成物の硬化をもたらす光線であることは文脈上明らかであり、樹脂組成物の硬化は光重合開始剤が光エネルギーを吸収することにより生ずることは自明であるから、訂正前の明細書には、光エネルギー吸収剤が、光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収することが実質的に記載されていたものということができる。
そして、訂正事項a-1は、これに基づいて「光エネルギー吸収剤」の特性を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ii)訂正事項a-2
訂正前の明細書には、「照射する光が紫外線または紫外線を含む光である請求項4の方法」(特許請求の範囲の請求項5)及び「本発明では、樹脂を硬化させるための光エネルギーとして、Arレーザー、He-Cdレーザー、キセノンランプ、メタルハライドランプ、水銀灯、蛍光灯などから発生される活性エネルギー光線を用いるのが好ましく、レーザー光線が特に好ましく用いられる。」(段落【0036】)と記載されており、樹脂を硬化させるために紫外線レーザー光を用いることが示されている。
また上記のように、訂正前の明細書には、光エネルギー吸収剤が光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収することが実質的に記載されていたのであり、発明の目的達成のためには、光エネルギー吸収剤を配合した樹脂組成物に対して光重合開始剤が吸収する波長のみを含む光を用いれば足りることも開示されていたものというべきである。そして、単一波長のレーザー光を用いた具体例として「・・・光学的立体造形用樹脂組成物を用い、超高速光造形システム(帝人製機株式会社製「SOLIFORM-500」)に金門電機製の空冷He/Cdレーザー光(出力100mW;波長325nm)をセットし、光照射して、照射エネルギー20mJ/cm2の条件下にスライスピッチ(積層厚み)0.10mm、1層当たりの平均造形時間3分で光造形を行った。」(段落【0008】)との実施例8が示されている。
そうすると、訂正前の明細書には、単一波長の紫外線レーザー光、すなわち、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除いた紫外線レーザー光を照射して光学的立体造形を行うことが実質的に記載されていたものということができる。
そして、訂正事項a-2は、これに基づいて「光学的立体造形用樹脂組成物」の造形手段を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項bは、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項cは、訂正事項bによる請求項4の削除に伴って、請求項の項番を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)訂正事項dは、訂正前の請求項4の「請求項1〜3のいずれか1項の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって光照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法。」を引用して
「照射する光が紫外線または紫外線を含む光である請求項4の方法。」とされていた訂正前の請求項5(新請求項4)において、「照射する光」を紫外線に限定し、さらに「紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)」に限定したものであり、この訂正は、上記(1)の(ii)で訂正事項a-2について述べた理由と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(5)訂正事項e〜gは、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の詳細な説明の対応する記載をこれに整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(6)訂正事項hは、段落【0065】における「X軸方向の寸法(内径)xとZ軸方向の寸法(内径)yをそれぞれ測定して、両者の比:x/yを求めて」という明らかな誤記について、訂正前の図1にZ軸方向の穴の内径が「z」と記載されていること等に基づいて、「X軸方向の寸法(内径)xとZ軸方向の寸法(内径)zをそれぞれ測定して、両者の比:x/zを求めて」と訂正するものであるから、誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(7)訂正事項a〜hはいずれも、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。

2-2.独立特許要件
訂正後の本件発明1〜4(以下、「訂正発明1」〜「訂正発明4」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。

2-2-1.特許法第29条の2違反について
本件特許に対する平成16年9月7日付けの特許異議の決定において、特願平6-32314号(以下、「先願」という。特開平7-238106号公報参照。)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)が引用されている。

(i)先願明細書の記載事項
(ア)「【請求項1】 次の成分(A)〜(C):(A)光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(B)光重合開始剤、(C)成分(B)の光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する紫外線吸収剤を含有する立体造形用光硬化性組成物。
【請求項2】 光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物を重合させるにあたり、光重合開始剤と、当該光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する紫外線吸収剤の共存下に光を照射することを特徴とする立体造形用光硬化性組成物の光硬化促進方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「従って、本発明の目的は、短い照射時間で硬化する光硬化性組成物を提供することにある。」(段落【0006】)
(ウ)「本発明で用いられる成分(C)の紫外線吸収剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができ、具体的には、サリシレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩が好ましい。」(段落【0018】)
(エ)「これらの紫外線吸収剤のうち、サリシレート系化合物、トリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物が好ましく、特にサリシレート系化合物、トリアゾール系化合物またはシアノアクリレート系化合物とニッケル錯塩を組合わせて用いるのが好ましい。」(段落【0021】)
(オ)「成分(C)の紫外線吸収剤は、成分(B)の光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有するものを組合わせて使用することが必要である。前記の光重合開始剤は、大別してG線、H線、i線、エキシマ、ディープUVの波長に吸収が最大になるように設計されたものが広く使用されている。従って、例えば(B)光重合開始剤としてi線に中心吸収のあるものを使用する場合には、(C)紫外線吸収剤としてそれ以外の吸収スペクトルを示すものを使用すれば良い。」(段落【0023】)
(カ)「このように、吸収波長の異なる光重合開始剤と紫外線吸収剤を組合わせて使用することにより、硬化反応が促進される。これは、光重合による硬化反応は、光重合開始剤が、該光重合開始剤の有する吸収波長の光を吸収して開始されるが、この光重合開始剤に吸収されず光重合の開始に関与しなかった波長の光が紫外線吸収剤に吸収され、そのエネルギーによって反応の場が活性化されるためと考えられる。」(段落【0024】)
(キ)「(C)紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、(A)重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部、特に0.1〜5重量部であるのが好ましい。10重量部を超えると、コストの面で不利となり、着色や粘着などが生じる場合がある。また、(C)紫外線吸収剤の配合量は(B)光重合開始剤に対して10重量%以上であるのが好ましく、特に20〜500重量%、さらに20〜100重量%であると、所望の硬化速度を得る上で、経済性の点で好ましい。」(段落【0025】)
(ク)「本発明の組成物を用いて立体物を造形するには、通常の方法に従って、光を照射して組成物を硬化させれば良く、その方法は特に制限されない。例えばまず、液状の光硬化性組成物を深さ方向に移動可能なステージを内部に備えた容器に収容し、該ステージを光硬化性組成物の液表面より僅に沈め、該光硬化性組成物表面にレーザービームを走査させたり、平行光とした紫外線などをフォトマスクなどを用いて目的部に選択的に露光し、1回の露光で所定の硬化層を得る。次いで該ステージを一定の深さで沈め、得られた硬化層上に同様にして硬化層を形成する。」(段落【0029】)
(ケ)「なお、露光の際に使用する光源としては、特に制限されず、様々な発光スペクトルを有するランプ、レーザー等を使用することができ、例えば低圧水銀ランプ、中高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプなどを好適に使用できる。
これらのうち、低圧水銀ランプは、真空紫外領域に発光スペクトルを有しており、250nmに中心スペクトルを有し、他に、365、405、436nmに弱いスペクトルを示す。中高圧水銀ランプは、紫外から可視光領域に吸収を有し、主に365nmに中心スペクトルを示す。他に、540、580、436、405nmなどに吸収を有している。メタルハライドランプは、紫外線として365nm付近を強化したもので、他に弱いが405、436nmに可視光スペクトルを示す。超高圧水銀ランプは、350〜400nmにスペクトル域を有している。」(段落【0030】〜【0031】)
(コ)【表1】には、エポキシアクリレート、イソボルニルアクリレート、ビニルピロリドン混合物からなる光重合性化合物100重量部と光重合開始剤4重量部(計104重量部)に対して「紫外線吸収剤a」を0.1重量部(実施例1)、0.5重量部(実施例2)及び1.0重量部(実施例3)を含む組成物が記載されており、「紫外線吸収剤a」として「2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(TINUVIN 320)」を用いたことが記載されている。(段落【0033】〜【0040】)

(ii)対比判断
(ii-1)訂正発明1について
先願明細書には、その特許請求の範囲の請求項1に、「次の成分(A)〜(C):(A)光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(B)光重合開始剤、(C)成分(B)の光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する紫外線吸収剤を含有する立体造形用光硬化性組成物」(摘示記載(ア))の発明が記載されており、該組成物として通常液状のものが用いられること(摘示記載(ク))も記載されている。また先願明細書には、(C)成分の紫外線吸収剤の配合量について、「(A)重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部、特に0.1〜5重量部であるのが好ましい」(摘示記載(キ))と記載されており、実施例には、光重合性化合物100重量部と光重合開始剤4重量部(計104重量部)に対して紫外線吸収剤を0.1〜1.0重量部含む組成物(摘示記載(コ))が示されている。先願明細書に記載された「(A)光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物」及び「(B)光重合開始剤」は、それぞれ、訂正後の本件発明1の「光重合性化合物」及び「光重合開始剤」に相当するものであり、「(C)成分」である「紫外線吸収剤」と訂正発明1における「光エネルギー吸収剤」とは、実質的に同様の機能を有する薬剤と認められる。
そうすると、訂正発明1と先願明細書に記載された発明とは、ともに、
「光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物」
である点で一致し、光硬化性樹脂組成物の重量に基づく光エネルギー吸収剤の配合量範囲についても重複しているが、次の点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)訂正発明1においては、光エネルギー吸収剤が「光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する」ものであるのに対して、先願明細書に記載された発明における紫外線吸収剤(光エネルギー吸収剤)は、「光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する」ものである点。
(い)訂正発明1においては、光エネルギー吸収剤が「その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものである」としているのに対して、先願明細書にはこのような限定がない点、及び、
(う)訂正発明1においては、光学的立体造形用樹脂組成物が「紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる」ものであるのに対して、先願明細書にはこのような限定がなく、光源として複数の波長を有するものが例示(摘示記載(ケ))されている点。

そこで、これらの相違点の内、まず(あ)の点についてみると、訂正発明1においては、光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光吸収剤を用いることにより、「光エネルギー吸収剤が活性エネルギー光線のエネルギーを一部吸収して主にZ軸方向の光エネルギーの進入深度の調節および均一化をもたらして光硬化層の厚さが均一に」なる(段落【0029】)という効果を奏するものであるのに対して、先願明細書に記載された発明は、紫外線吸収剤(光エネルギー吸収剤)として光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有するものを用いることにより、「光重合開始剤に吸収されず光重合の開始に関与しなかった波長の光が紫外線吸収剤に吸収され、そのエネルギーによって反応の場が活性化される」(摘示記載(カ))という効果を奏するものであって、両者は光エネルギー吸収剤の吸収波長はもとより、それを添加する技術的意味も全く相違するものである。
また、この(あ)の点により、訂正発明1が、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く紫外線レーザー光を照射するのに対して、先願明細書に記載された発明においては、吸収波長が異なる紫外線吸収剤(光エネルギー吸収剤)と光重合開始剤の機能をともに発現させるべく、複数の異なった波長を含む光を照射する必要があるから、紫外線の波長についても(う)のような相違を生ずることとなる。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(ii-2)訂正発明2〜4について
訂正発明2及び3は、訂正発明1を直接又は間接に引用して更に技術的限定を付した光学的立体造形用樹脂組成物に係る発明であり、訂正発明4は、訂正発明1の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて立体造形物を製造する方法に係る発明であるが、上記のように、その前提となる訂正発明1が先願明細書に記載された発明と同一ではない以上、同様の理由により、訂正発明2〜4もまた、先願明細書に記載された発明と同一ではない。

2-2-2.まとめ
したがって、訂正発明1〜4は先願明細書に記載された発明と同一ではなく、また、他に、訂正発明1〜4が特許出願の際独立して特許を受けることができないとすべき理由は見いだせない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項ないし第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学的立体造形用樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】 光エネルギー吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル系化合物およびシアノアクリレート系化合物のうちの少なくとも1種である請求項1の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】 ベンゾトリアゾール系化合物が下記の一般式(I);
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてXは水素原子またはハロゲン原子を示す)
で表されるベンゾトリアゾール系化合物であり;
ベンゾフェノン系化合物が下記の一般式(II);
【化2】

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてaおよびbはそれぞれ独立して0または1を示す)
で表されるベンゾフェノン系化合物であり;
サリチル酸フェニル系化合物が下記の一般式(III);
【化3】

(式中、R5は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基を示す)
で表されるサリチル酸フェニル系化合物であり;そして
シアノアクリレート系化合物が下記の一般式(IV);
【化4】

(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてR8は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基を示す)
で表されるシアノアクリレート系化合物である請求項2の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)の照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学的立体造形用樹脂組成物およびそれを用いる立体造形物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、寸法精度および形状安定性、特に光の照射方向(以下これを「Z軸方向」ということがある)の寸法精度と形状安定性に優れていて、しかも硬度、引張強度、引張弾性率などで代表される物理的特性や力学的特性にも優れる立体造形物を得ることのできる光学的立体造形用樹脂組成物、およびそれを用いる立体造形物の光学的製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液状の光硬化性樹脂に必要量の制御された光エネルギーを供給して薄層状に硬化させ、その上に更に液状光硬化性樹脂を供給した後に制御下に光照射して薄層状に積層硬化させるという工程を繰り返すことによって立体造形物を製造する方法、いわゆる光学的立体造形法が特開昭56-144478号公報によって開示された。そして、その基本的な実用方法が更に特開昭60-247515号公報によって提案されて以来、光学的立体造形技術に関する多数の提案がなされており、例えば、特開昭62-35966号公報、特開平1-204915号公報、特開平1-213304号公報、特開平2-28261号公報、特開平2-80422号公報、特開平2-80423号公報、特開平2-113925号公報、特開平2-145616号公報、特開平2-208305号公報、特開平2-153722号公報、特開平3-21432号公報、特開平3-41126号公報、特開平3-201364号公報、特開平5-5004号公報、特開平5-279436号公報、特開平6-19962号公報、特開平6-228413号公報、特開平6-228271号公報などには光学的立体造形法に係る技術が開示されている。
【0003】
立体造形物を光学的に製造する際の代表的な方法としては、容器に入れた液状光硬化性樹脂組成物の液面に所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定の厚みに硬化させ、次にその硬化層の上に1層分の液状樹脂組成物を供給して同様に紫外線レーザーを照射して前記と同じように硬化させて連続した硬化層を形成させるという積層操作を繰り返して最終的な形状を有する立体造形物を製造する方法が一般に採用されている。そして、この方法による場合は、造形物の形状がかなり複雑であっても、簡単に且つ比較的短時間で目的とする立体造形物を製造することが出来るために近年大きな注目を集めている。
【0004】
そして近年になって、光造形法によって得られる立体造形物が単なるコンセプトモデルから、テストモデル、試作品などへと用途が展開されるようになっており、それに伴ってその立体造形物は寸法精度が高く且つ形状安定性に優れていることが益々要求されるようになっている。しかも、そのような特性と併せて力学的特性などにおいても優れていることが求められている。
光学的立体造形法おいては、光硬化性樹脂組成物として、光重合性化合物、例えば光重合性の変性ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、オリゴエステルアクリレート系化合物、エポキシアクリレート系化合物、エポキシ系化合物、ポリイミド系化合物、アミノアルキド系化合物、ビニルエーテル系化合物の1種または2種以上を主成分としそれに光重合開始剤を添加したものが一般に用いられている。そして、上記で挙げた多数の従来技術(公報類)でも立体造形物の寸法精度、形状安定性、力学的特性の向上などを目的として、光硬化性樹脂組成物に用いる光重合性化合物の種類や光重合開始剤の種類などに関して種々の提案がなされているが未だ目的を充分に達成し得ていない。
【0005】
また、光学的立体造形物の収縮を防止することを目的として、光硬化性樹脂組成物中に可溶性で且つ樹脂組成物の硬化時に分離して別の相を形成する添加剤を含有させておく方法(特開平3-20315号公報)や、光硬化性樹脂組成物中に熱的に凝集し得るポリマー性凝集材料を含有させておく方法(特開平3-104626号公報)などが提案されている。しかしながら、これらの方法による場合は、樹脂組成物の硬化時に別の相を形成し得る添加剤や、熱的に凝集し得るポリマー性凝集材料の選択がむつかしく、またそれらの添加剤やポリマー性凝集材料を光硬化性樹脂組成物中に安定に溶解させておくのが困難である。しかも、それらの添加剤やポリマー性凝集材料は樹脂の硬化時に別の相を形成するために透明な立体造形物が得られないという欠点があり、また相分離のために連続相をきちんと形成させることができず硬化物の機械的強度が低下し充分な効果が得られていないのが現状である。
【0006】
また、光学的立体造形法において、目的とする立体造形物を短い時間で生産性良く得るためには光造形時の反応率を向上させることが必要であり、そのために高い光重合エネルギーの照射が必要となる。しかしながら、照射する光のエネルギーが高い場合は、光の照射方向(Z軸方向)における光の進入深度が必要以上に高くなり過ぎ、且つZ軸方向への光の進入深度の不均一が生じ易くなる。そしてその結果、Z軸方向における樹脂の硬化状態が不均一になって、光照射により形成される硬化樹脂薄層の厚さが均一にならず、そのような厚さの不均一な多数の薄層の積み重ねによって立体造形物が形成されていることにより、得られる立体造形物の寸法精度や形状安定性、特にZ軸方向の寸法精度や寸法安定性が大幅に低下するという問題がある。すなわち、造形時の反応率の向上と得られる立体造形物の寸法精度や形状安定性の向上とは互いに相反する現象となっており、両立が難しい。
【0007】
上記のような状況下に、高エネルギーの光を照射して造形時の樹脂の反応率の向上および造形時間の短縮化を図る一方で、光照射時の光硬化性樹脂組成物中へのZ軸方向の光の進入深度の制御・均一化を達成するための検討および提案が立体造形物の製造装置、光照射時の制御方法、光硬化性樹脂組成物の組成などの点から色々なされている。そして、光照射の際のZ軸方向の光の進入進度の調整・均一化に関する光硬化性樹脂組成物の素材面からの提案としては、Z軸方向に照射された光をX軸、Y軸、その他の方向に偏向(散乱)させ得る偏向物質を光硬化性樹脂組成物に添加する方法(特開平3-15520号公報、特開平3-41126号公報、特開平3-1147732号公報、特開平3-114733号公報)が挙げられる。そしてこの方法による場合は、Z軸方向に進行してきた光が光硬化性樹脂組成物中に含まれる光偏向物質(光散乱物質)に衝突して偏向(散乱)され、それによって光が樹脂のZ軸方向に必要以上に深く進入するのが防止されることにより、従来法に比べてZ軸方向における樹脂の硬化が均一になり易いという特徴を有している。
【0008】
しかしながら、光偏向物質(光散乱物質)を光硬化性樹脂組成物中に添加する上記した従来法による場合は、Z軸方向に進入してきて光偏向物質(光散乱物質)に衝突した光が、立体造形物において目的とされている所定のXY面における境界を超えて偏向(散乱)される結果、光の照射方向と直角なX軸方向やY軸方向またはその他の方向では樹脂の硬化の制御がむつかしくなり余分な光硬化が生じ、XY面での光照射部分と光照射を行うべきでない部分との間の境界が不鮮明になり、その結果、XY面などにおいて良好な輪郭をもった立体造形物が得られないという欠点がある。そしてこの方法による場合に、XY面などに偏向(散乱)される光の量を考慮して光の照射を制御しようとすると、その制御内容が極めて複雑なものとならざるを得ない。また、この方法による場合は、粒状の光偏向物質(光散乱物質)を液状の光硬化性樹脂組成物に予め添加したり、または光硬化時に樹脂マトリックスから相分離し得る物質を添加しているため、透明な立体造形物が得られにくく、立体造形物が着色物である場合はその色調が白っぽく不鮮明になり易いという欠点がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高い寸法精度および良好な寸法安定性を有しており、しかも硬度、引張強度、引張弾性率やその他の力学的特性などにも優れる高品質の光学的立体造形物を、高い造形速度で生産性よく製造することのできる光学的立体造形用樹脂組成物を提供することである。
そして、本発明の目的は、上記した優れた諸特性を有する高品質の光学的立体造形物を、高い造形速度で生産性よく製造することのできる光学的立体造形方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、高エネルギーの光照射による反応率の向上(すなわち造形時間の短縮)と、造形物の寸法精度および寸法安定性の向上という本来互いに両立しにくい特性を同時に満足し得る方策を求めて色々研究を重ねてきた。その結果、光エネルギー吸収剤を所定の量で光硬化性樹脂組成物中に添加すると、全く予想外のことに、樹脂の光反応率(光硬化性の程度)を阻害することなくZ軸方向の光の進入深度を良好に制御することができて、高い造形速度で、寸法精度や形状安定性に極めて優れる立体造形物、特にZ軸方向の寸法精度や形状安定性に極めて優れる高品質の立体造形物が得られることを見出した。しかも、それによって得られる立体造形物は、寸法精度や形状安定性に優れているだけではなく、硬度、引張強度、引張弾性率などの力学的特性などにも優れていることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる光学的立体造形用樹脂組成物である。
【0012】
そして、本発明は、上記の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)の照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる“光エネルギー吸収剤”は、光硬化性樹脂組成物の主要成分である光重合性化合物(重合性のモノマー、オリゴマー、ポリマーなど)および光硬化性樹脂組成物中に含まれる光重合開始剤に比べて、より高い光エネルギーの吸収能を有しており、しかも光重合開始能を持たないか又は殆ど持たない剤である。
光学的立体造形法では、光エネルギーとして紫外線または紫外線を多く含む光が主に用いられていることから、光エネルギー吸収剤としては紫外線の吸収能の高い化合物が好ましく、そのため、本発明では、光エネルギー吸収剤として、光エネルギー吸収剤の1mgをエタノール100mlに溶解し、その溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上である化合物を使用する。
本発明で用いる光エネルギー吸収剤は、上記した性質を持つものである限りは、光硬化性樹脂組成物を構成する光重合性化合物および光重合開始剤の種類や量、照射する光の種類や強さなどに応じて適宜選択して使用できる。
ここで、上記した吸光度は、具体的には次のようにして測定したときの吸光度をいう。
【0014】
光エネルギー吸収剤の吸光度の測定法:
光エネルギー吸収剤の1mgを温度25℃のエタノール100mlに溶解し、その溶液(25℃)の5mlを石英セル(光路長10mm)に充填し、島津製作所製「UV-210A」(分光光度計)を用いて、波長域300〜350nmにおける吸光度を測定する。
【0015】
また、本発明では、光エネルギー吸収剤として、光硬化性樹脂組成物中に均一に溶解し得るものを用いるのが、寸法精度、寸法安定性、力学的特性などに優れる立体造形物を得る上で、更には光学的立体造形用樹脂組成物の取り扱い性などの点からも望ましい。
【0016】
本発明で好ましく用いられる光エネルギー吸収剤の代表としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル系化合物およびシアノアクリレート系化合物を挙げることができ、本発明では光エネルギー吸収剤として、これらの化合物のうちの1種を単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
【0017】
より具体的には、光エネルギー吸収剤として用いるベンゾトリアゾール系化合物としては、下記の一般式(I);
【0018】
【化5】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてXは水素原子またはハロゲン原子を示す)
で表されるベンゾトリアゾール系化合物がより好ましい。
【0019】
そして、上記の一般式(I)で表されるベンゾトリアゾール系化合物のうちのさらに好ましい例としては、2(2’-ヒドロキシ-5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-5’-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2[2’-ヒドロキシ-3’-ブチル-5’-(2’’カルボキシオクチル-エチル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0020】
また、光エネルギー吸収剤として用いるベンゾフェノン系化合物としては、下記の一般式(II);
【0021】
【化6】

(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてaおよびbはそれぞれ独立して0または1を示す)
で表されるベンゾフェノン系化合物がより好ましい。
【0022】
そして、上記の一般式(II)で表されるベンゾフェノン系化合物のうちでもより一層好ましいものの例としては、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノンなどを挙げることができる。
なお、ベンゼン核が水酸基などによって置換されていないベンゾフェノンは、ラジカル重合性の光重合性化合物を含む光硬化性樹脂組成物における光重合開始剤として広く用いられている。しかし、本発明において光エネルギー吸収剤の1種として好ましく用いられるベンゾフェノン系化合物は、上記で説明したように、光重合開始能を持たないベンゾフェノン系化合物をいい、かかる点で光重合開始剤として用いられるベンゾフェノンは本発明でいう光エネルギー吸収剤に範疇には包含されず、光重合開始剤として用いられるベンゾフェノンとは明確に区別される。
【0023】
また、光エネルギー吸収剤として用いるサリチル酸フェニル系化合物としては、下記の一般式(III);
【0024】
【化7】

(式中、R5は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基を示す)
で表されるサリチル酸フェニル系化合物がより好ましい。
そして、上記の一般式(III)で表されるサリチル酸フェニル系化合物のうちの一層好ましい例としては、フェニルサリチレート、p-メチルフェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート、p-t-ブチルフェニルサリチレート、p-ドデシルフェニルサリチレートなどを挙げることができる。
【0025】
また、光エネルギー吸収剤として用いるシアノアクリレート系化合物としては、下記の一般式(IV);
【0026】
【化8】

(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてR8は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基を示す)
で表されるシアノアクリレート系化合物が好ましい。
そして、上記の一般式(IV)で表されるシアノアクリレート系化合物のうちでもより一層好ましいものの例としては、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートなどを挙げることができる。
【0027】
そして、上記した種々の光エネルギー吸収剤のうちでも、2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2[2’-ヒドロキシ-3’-ブチル-5’-(2’’-カルボキシオクチル-エチル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、p-メチルフェニルサリチレート、2-ヒドロキシ-4-オクチロキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが、高い光エネルギー吸収能、光硬化性樹脂組成物中への良好な溶解性、入手容易性などの点から特に好ましく用いられる。
【0028】
そして、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物では、光エネルギー吸収剤の添加量(2種類以上の光エネルギー吸収剤を用いる場合はその合計添加量)が、光エネルギー吸収剤を添加する前の、光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%であることが必要であり、0.005〜0.5重量%であるのが好ましく、0.01〜0.2重量%であるのが更に好ましい。光エネルギー吸収剤の添加量が、液状光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて、0.001重量%未満であると、本発明の目的が充分に達成されず、寸法精度、寸法安定性、力学的特性などに優れる立体造形物を得ることができなくなる。一方、光エネルギー吸収剤の添加量が液状光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて1.0重量%を超えると、光造形時の樹脂組成物の硬化速度が遅くなって造形速度の著しい低下をきたし、しかも得られる立体造形物の力学的特性が低くなり実用上問題が生ずる。
また、光エネルギー吸収剤の添加量を光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤の含有量との関係でみると、光重合開始剤の種類などに応じて異なり得るが、一般に、光学的立体造形用樹脂組成物中に、光重合開始剤1重量に対して光エネルギー吸収剤が0.001〜0.25重量部含まれるようにすると、光重合速度の低下などを招くことなく、寸法安定性、形状安定性、力学的特性などに優れる立体造形物を得ることができるので、好ましい。
【0029】
そして、光硬化性樹脂組成物中に光エネルギー吸収剤を上記の量で添加した本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いると、硬化膜厚に対する光照射エネルギー量の許容範囲が拡大することにより、所望の厚み内でのエネルギー量のコントロールが従来よりも極めて簡単に且つ円滑に行えるようになるため、寸法精度や寸法安定性に優れる立体造形物が得られるようになる。しかも、光化学的な反応率の向上も可能となり、それに伴って立体造形物の力学的特性などの向上をも図ることができる。
そのような優れた効果が得られる理由は充分には明らかではないが、次のような理由によるものと考えられる。
すなわち、光硬化性樹脂組成物中に上記した所定量の光エネルギー吸収剤を添加することによって、光エネルギー吸収剤が活性エネルギー光線のエネルギーを一部吸収して主にZ軸方向方向の光エネルギーの進入深度の調節および均一化をもたらして光硬化層の厚さが均一になり、それと共に光エネルギー吸収剤に吸収された光エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されてその熱エネルギーも樹脂の硬化に関与することによって、光エネルギー吸収剤を添加してあるにも拘わらず、樹脂の硬化速度の低減などが生じず、高い造形速度で立体造形物の製造を行っても寸法精度や寸法安定性などの特性に優れる高品質の立体造形物が形成されることによるものと推測される。
【0030】
本発明では、光硬化性樹脂組成物として、光重合性化合物を主成分として、それと共に光重合開始剤を含有する光硬化性樹脂組成物であって、光学的立体造形技術で用い得ることが知られている従来既知の液状光硬化性樹脂組成物のいずれが使用でき、その種類などは特に制限されない。限定されるものではないが、本発明で用い得る光硬化性樹脂組成物としては、例えば、アクリレート系光硬化性樹脂組成物、ウレタンアクリレート系光硬化性樹脂組成物、エポキシ系光硬化性樹脂組成物、エポキシアクリレート系光硬化性樹脂組成物、ビニルエーテル系光硬化性樹脂組成物などを挙げることができる。その場合に、光硬化性樹脂組成物は前記した光重合性化合物の1種類のみを含有していても、または2種以上を含有していてもよい。そして、光硬化性樹脂組成物中に含まれる光重合性化合物の種類に応じて、光重合開始剤の種類も、例えば、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤の併用というようにそれぞれ異なってくる。
【0031】
何ら限定されるものではないが、本発明で用い得る光硬化性樹脂組成物の例を具体的に挙げると以下のとおりである。
(1) アクリレート系光硬化性樹脂組成物の例としては、単官能、多官能のポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどを主体としてこれに必要に応じて単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマーを混合し、これに光ラジカル重合開始剤を含有させたラジカル重合型の液状光硬化性樹脂組成物が挙げられる。
(2) エポキシアクリレート系光硬化性樹脂組成物の例としては、単官能、多官能のエポキシ(メタ)アクリレートを主体としてこれに必要に応じて単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマーを混合し、これに光ラジカル重合開始剤および必要に応じて光カチオン重合開始剤を含有させた液状光硬化性樹脂組成物が挙げられる。
(3) ウレタンアクリレート系光硬化性樹脂組成物の例としては、単官能、多官能のウレタン(メタ)アクリレートを主体としてこれに必要に応じて単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマーを混合し、これに光ラジカル重合開始剤を含有させたラジカル重合型の液状光硬化性樹脂組成物が挙げられる。
【0032】
(4) エポキシ系光硬化性樹脂組成物の例としては、脂肪族ジエポキシ化合物、脂環族ジエポキシ化合物、芳香族ジエポキシ化合物の1種または2種以上を主体とし、これに必要に応じて単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマーを混合し、これに光カチオン重合開始剤および必要に応じて光ラジカル重合開始剤を含有させた液状光硬化性樹脂組成物が挙げられる。
(5) ビニルエーテル系光硬化性樹脂組成物の例としては、脂肪族ジビニルエーテル化合物、脂環族ジビニルエーテル化合物、芳香族ジビルエーテル化合物などを主体とし、これ光ラジカル重合開始剤を含有させた液状光硬化性樹脂組成物が挙げられる。
(6) また、混在型の光硬化性樹脂組成物の例として、アクリレート系化合物、ウレタンアクリレート系化合物およびエポキシアクリレート系化合物のうちの2者以上を含み、これに光ラジカル重合開始剤および必要に応じて光カチオン重合開始剤を含有させた混在型の液状光硬化性樹脂組成物を挙げることができる。
【0033】
そして、上記した(1)〜(3)および(6)の液状光硬化性樹脂組成物は、枚挙にいとまがないほど極めて多数の刊行物に記載されており、本発明ではそのいずれもが使用できる。また、上記(4)のエポキシ系光硬化性樹脂組成物については、参考までに挙げると、例えば特開平2-28261号公報に記載されており、また上記(5)のビニルエーテル系光硬化性樹脂組成物については参考までに挙げると例えば特開平2-36925号公報、R.J.Brautigam,S.C.L.apln,and J.R.Snyder(1990)Radtech’90 Conf,Papers,Radtech Intl.,Chicagoなどに記載されているが、勿論、それに限定されるものではない。
【0034】
本発明では、光硬化性樹脂組成物として、上記したもののうちでも、上記(3)のウレタンアクリレート系光硬化性樹脂組成物、上記(4)のエポキシ系光硬化性樹脂組成物、または上記(6)のうちのウレタンアクリレート系化合物を含む混在型の光硬化性樹脂組成物を用い、それに前記したトリアゾール系化合物からなる光エネルギー吸収剤を添加して光学的立体造形用樹脂組成物を調製し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光造形を行うと、寸法精度、寸法安定性、力学的特性などの性質に特に優れる立体造形物を得ることができるので、好ましい。
【0035】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、上記した成分以外にも、支障のない範囲の量で、必要に応じてレベリング剤、界面活性剤、有機高分子化合物、有機可塑剤、有機充填剤、無機充填剤等を含有していてもよい。
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物の調製法や混合法は特に制限されず、従来既知の方法にしたがって調製して混合することができる。例えば光重合性化合物を従来法にしたがって調製し、それに光、特に紫外線を遮断した雰囲気下で光重合開始剤を添加して光硬化性樹脂組成物をつくり、それにやはり光を遮断した状態で光エネルギー吸収剤を添加して光学的立体造形用樹脂組成物を調製し、得られた光学的立体造形用樹脂組成物を光を遮断して重合が生じないようにして保存、流通、販売するようにするとよい。
そして、光エネルギー吸収剤を含有する本発明の光学的立体造形用樹脂組成物をポリエチレンなどから製造された光遮断性の容器などに入れて5〜30℃の温度で保存した場合には、一般に、約36〜48ケ月の長期に亙って保存しても物性等の変化が全く生じず、そのような長期保存後に容器より取り出して光造形を行っても、寸法精度、寸法安定性、力学的特性などに優れる目的とする立体造形物を円滑に得ることができる。
【0036】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行うに当たっては、従来既知の光学的立体造形方法および装置のいずれもが使用できる。そのうちでも、本発明では、樹脂を硬化させるための光エネルギーとして、Arレーザー、He-Cdレーザー、キセノンランプ、メタルハライドランプ、水銀灯、蛍光灯などから発生される活性エネルギー光線を用いるのが好ましく、レーザー光線が特に好ましく用いられる。活性エネルギー光線としてレーザー光線を用いた場合には、エネルギーレベルを高めて造形時間を短縮することが可能であり、しかもレーザー光線の良好な集光性を利用して、造形精度の高い立体造形物を得ることができる。
【0037】
上記したように、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行うに当たっては、従来既知の方法や従来既知の光造形システム装置のいずれもが採用でき特に制限されないが、本発明で好ましく用いられる光学的立体造形法の代表例としては、光エネルギー吸収剤を含有する液状の光学的立体造形用樹脂組成物に所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー光線を選択的に照射して硬化層を形成し、次いでその硬化層に未硬化液状組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層する操作を繰り返すことによって最終的に目的とする立体的造形物を得る方法を挙げることができる。また、それによって得られる立体造形物はそのまま用いても、また場合によっては更に光照射によるポストキュアや熱によるポストキュアなどを行って、その力学的特性や形状安定性などを一層高いものとしてから使用するようにしてもよい。
【0038】
その際に立体造形物の構造、形状、サイズなどは特に制限されず、各々の用途に応じて決めることができる。そして、本発明の光学的立体造形法の代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するためのモデル、部品の機能性をチェックするためのモデル、鋳型を制作するための樹脂型、金型を制作するためのベースモデル、試作金型用の直接型などの作製などを挙げることができる。より具体的には、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物、金型、母型などのためのモデルや加工用モデルなどの製作を挙げることができ、高い寸法精度および良好な寸法安定性が強く求められる精密部品用のモデルの作製などに特に大きな威力を発揮する。
【0039】
【実施例】
以下にHe/Cdレーザー光を用いた造形例を実施例8として示し、併せて、Arレーザー光を用いた造形例を参考実施例として示す。例中で「部」は重量部を意味する。
【0040】
《参考例1》[光エネルギー吸収剤の添加前のウレタンアクリレート系光硬化性樹脂組成物の調製]
(1) 攪拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積20リットルの四つ口フラスコに、ビスフェノールAのプロピレングリコール4モル付加物4600部とイソホロンジイソシアネート4420部を入れ、これに40〜50℃でジラウリン酸ジ-n-ブチルスズ2.6部を加えて同じ温度で30分間反応させた。次いで、反応温度を80〜90℃に上げて2時間反応させた後、2-ヒドロキシエチルアクリレート2320部、ハイドロキノンモノメチルエーテル5.5部を加えて同温度で更に2時間反応させ、ビスフェノールAジオール骨格を有するウレタンアクリレートオリゴマーを製造した。
(2) 上記(1)で得たウレタンアクリレートオリゴマー1320部、ポリエチレングリコール200ジアクリレート(新中村化学社製「NKエステルA-200」)1080部及びエチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製「A-TMPT-3EO」)480部を5リットルの容器に仕込み、減圧脱気窒素置換した後、内容物を50℃の温度で約1時間攪拌混合した。
(3) 上記(2)で得られた混合物2880部に、紫外線を遮断した環境下に、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(チバガイギー社製「イルガキュアー651」;光ラジカル重合開始剤)120部を添加し、完全に溶解するまで温度25℃で混合攪拌して(混合撹拌時間約6時間)、ウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物を調製して、紫外線の遮断下に25℃で保存した。
【0041】
《参考例2》[光エネルギー吸収剤を添加する前のエポキシ系光硬化性樹脂組成物の調製]
(1) 攪拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積20リットルの四つ口フラスコに、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート4,000部、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル1,000部、2,2-ビス[4-(アクリロキシジエトキシ)フェニルプロパン(新中村化学社製「NKエステルA-BPE-4」)2,500部、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製「A-TMPT-3EO」)2,500部を加えて20〜25℃の温度で約1時間攪拌混合した。
(2) 上記(1)で得られた混合物3000部に、紫外線を遮断した環境下に、2,2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン(チバガイギー社製「イルガキュアー651」;光ラジカル重合開始剤)60部およびビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート(光カチオン重合開始剤)45部を添加し、完全に溶解するまで温度25℃で混合攪拌して(混合撹拌時間約6時間)、エポキシ系液状光硬化性樹脂組成物を調製し、紫外線の遮断下に25℃で保存した。
【0042】
《参考例3》[光エネルギー吸収剤を添加する前のエポキシ系光硬化性樹脂組成物の調製]
(1) 攪拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積100リットルの容器に、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート15,000部、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレート(新中村化学社製「NKエステルA-BPE-4」;エチレンオキサイド単位4モル付加)5,000部、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレート(新中村化学社製「NKエステルA-BPE-20」;エチレンオキサイド単位20モル付加)4,000部、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学社製「ATM-4E」)3,000部およびジシクロペンタジエニルジアクリレート(新中村化学社製)3,000部を加えて20〜25℃の温度で約1時間攪拌混合した。
(2) 上記(1)で得られた混合物30,000部に、紫外線を遮断した
の環境下に、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製「イルガキュアー184」;光ラジカル重合開始剤)600部、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート(光カチオン重合開始剤)900部およびエチレングリコール600部を添加し、完全に溶解するまで温度25℃で混合攪拌して(混合撹拌時間約6時間)、エポキシ系液状光硬化性樹脂組成物を調製し、紫外線の遮断下に25℃で保存した。
【0043】
《実施例1》
(1) 参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に、0.01部の2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン(光エネルギー吸収剤)を添加して、25℃の温度で均一な液状物が得られるまで約1時間充分に撹拌して、光学的立体造形用樹脂組成物を製造した。
(2) 上記(1)得られた光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、超高速光造形システム(帝人製機株式会社製「SOLIFORM300」)を使用して、水冷Arレーザー光(出力400mW;波長354,365nm;ビーム径0.2mm;液面出力175mW)を照射して、照射エネルギー50mJ/cm2の条件下にスライスピッチ(積層厚み)0.2mm、1層当たりの平均造形時間2分で光造形を行った。
なお、造形に先立ち、硬化深度と照射エネルギーとの関係を調べたところ、下記の表2に示すとおりであった。ここで硬化深度の測定は次のようにして行った。
【0044】
硬化深度の測定法:
硬化深度の測定は、“Rapid Prototyping & Manufacturing,Fundamentals of Stereo-Lithography”Paul F.Jacobs著,Society of Manufacturing Engineers,1992年に示された理論に基づいて測定した。露光量は描画スピードを変化することによりコントロールし、6〜10種類のステップ状硬化物を作製した。この硬化物をピンセットで未硬化液中から取り出し、未硬化樹脂を取り除き、6〜10種類の露光量に対する硬化膜厚を定圧ノギスで測定した。
【0045】
(3) また、上記(1)で得られた光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、上記の(2)で使用したのと同じ超高速光造形システムを使用して、水冷Arレーザー光(出力400mW;波長354.365nm)を照射して、照射エネルギー50mJ/cm2の条件下にJIS K7113に準拠するダンベル試験片[X軸×Y軸×Z軸(厚さ)の最大サイズ:20.0mm×175.0mm×3.0mm]に相当する立体造形物(硬化物)を作製した。
(4) 上記(3)で得られた立体造形物(硬化物)を前記の光造形システムから取り出して、付着している未硬化物をイソプロピルアルコールで洗浄除去して、そのときのショアD硬度(「グリーン硬度」)をJIS K7215に準じて測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(5) 次に、上記(4)で得られた、未硬化物を洗浄除去した後の立体造形物を3KW紫外線ランプを用いて10分間ポストキュアして、そのショアD硬度、引張強度および引張弾性率をJIS K7113に準じて測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(6) また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を下記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0046】
【表1】

【0047】
《実施例2》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に0.05部の2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンを添加して実施例1の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0048】
《実施例3》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に0.1部の2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンを添加して実施例1の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0049】
《実施例4》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に0.05部のp-メチルフェニルサリチレートを添加して実施例1の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0050】
《実施例5》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に0.01部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して実施例1の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0051】
《実施例6》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に0.05部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して実施例1の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0052】
《実施例7》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部に0.1部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して実施例1の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0053】
《比較例1》
参考例1で得られたウレタンアクリレート系液状光硬化性樹脂組成物100部をそのまま用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0054】
【表2】

【0055】
上記の表2の結果から、光硬化性樹脂組成物(ウレタンアクリル系光硬化性樹脂組成物)中に本発明の範囲内の量で光エネルギー吸収剤を添加してなる光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行っている実施例1〜7の場合には、Arレーザー光のような高エネルギー光を使用して光造形を行った際に、Z軸方向の光の進入深度が過度にならないように適当に調節されて、所定の厚みの硬化層を形成させることができ、それによって寸法精度および寸法安定性に優れる立体造形物が得られること、しかも得られた立体造形物は硬度、引張強度、引張弾性率などの力学的特性においても極めて優れていることがわかる。
それに対して、光エネルギー吸収剤を添加していない光硬化性樹脂組成物(ウレタンアクリレート系光硬化性樹脂組成物)をそのまま用いて光学的立体造形を行っている比較例1の場合には、Arレーザー光のような高エネルギー光を使用して光造形を行った際に、Z軸方向の光の進入深度が大きくなり過ぎて、その硬化深度が大きく所定の厚みの硬化層を形成させることができず、それによって寸法精度および寸法安定性に劣ったものになり、しかも得られる立体造形物の硬度、引張強度、引張弾性率などの力学的特性が実施例のものに比べて大幅に劣っていることがわかる。
【0056】
《実施例8》
(1) 参考例2で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物100部に、0.05部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して、25℃の温度で均一な液状物が得られるまで約1時間充分に撹拌して、光学的立体造形用樹脂組成物を製造した。
(2) 上記(1)得られた光学的立体造形用樹脂組成物を用い、超高速光造形システム(帝人製機株式会社製「SOLIFORM-500」)に金門電機製の空冷He/Cdレーザー光(出力100mW;波長325nm)をセットし、光照射して、照射エネルギー20mJ/cm2の条件下にスライスピッチ(積層厚み)0.10mm、1層当たりの平均造形時間3分で光造形を行った。なお、この光造形に先立って硬化深度と照射エネルギーとの関係を実施例1と同様にして調べたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(3) また、上記(1)で得られた光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にして光学的立体造形を行って、得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0057】
《実施例9》
参考例2で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物100部に、0.01部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して、実施例8の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(2)および(3)と全く同様にしてその硬化深度を測定すると共に、Arレーザー光を用いて光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0058】
《実施例10》
参考例2で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物100部に、0.05部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して、実施例8の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にしてその硬化深度を測定すると共に、Arレーザー光を用いて光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0059】
《実施例11》
参考例2で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物100部に、0.1部の2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加して、実施例8の(1)と同様にして光学的立体造形用樹脂組成物を製造し、その光学的立体造形用樹脂組成物を用いて実施例1の(2)および(3)と全く同様にしてその硬化深度を測定すると共に、Arレーザー光を用いて光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0060】
《比較例2》
参考例2で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物100部をそのまま用いて実施例9と全く同様にしてその硬化深度を測定すると共に、光学的立体造形を行って得られた立体造形物の機械的な物性を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた立体造形物(ダンベル試験片)の寸法精度および形状安定性を上記の表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0061】
【表3】

【0062】
上記の表3の結果から、光硬化性樹脂組成物(エポキシ系光硬化性樹脂組成物)中に本発明の範囲内の量の光エネルギー吸収剤を添加してなる光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行っている実施例8〜11の場合には、Arレーザー光やHe/Cdレーザー光のような高エネルギー光を使用して光造形を行った際に、Z軸方向の光の進入深度が過度にならないように良好に調節されて、所定の厚みの硬化層を形成させることができ、それによって寸法精度および寸法安定性に優れる立体造形物が得られること、しかも得られた立体造形物は硬度、引張強度、引張弾性率などの力学的特性においても極めて優れていることがわかる。
それに対して、光エネルギー吸収剤を添加していない光硬化性樹脂組成物(エポキシ系光硬化性樹脂組成物)をそのまま用いて光学的立体造形を行っている比較例2の場合には、Arレーザー光やHe/Cdレーザー光のような高エネルギー光を使用して光造形を行った際に、Z軸方向の光の進入深度が大きくなり過ぎて、その硬化深度が大きく所定の厚みの硬化層を形成させることができず、それによって寸法精度および寸法安定性に劣ったものになり、しかも得られる立体造形物の硬度、引張強度、引張弾性率などの力学的特性が実施例のものに比べて大幅に劣っていることがわかる。
【0063】
《実施例12》
(1) 参考例3で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物1000部に、0.5部の下記の化学式(V)で表される2[2’-ヒドロキシ-3’-ブチル-5’-(2’’-カルボキシオクチル-エチル)フェニル]ベンゾトリアゾール(チバガイギー社製「チヌビン384」)を添加して、25℃の温度で均一な液状物が得られるまで約1時間充分に撹拌して、光学的立体造形用樹脂組成物を製造した。
【0064】
【化9】

【0065】
(2) 上記(1)得られた光学的立体造形用樹脂組成物を用い、超高速光造形システム(帝人製機株式会社製「 SOLIFORM-500」)を使用して、水冷Arレーザー光(出力400mW;波長333,351,364nm)を照射して、照射エネルギー70mJ/cm2の条件下にスライスピッチ(積層厚み)0.1016mm、1層当たりの平均造形時間4分で光造形を行って、X軸×Y軸×Z軸の寸法が50mm×4mm×20mmであって、直径10.000mm〜1.000mmの6個の貫通孔A〜Fが形成されている図1に示す立体造形物(直方体)を製造した。なお、露光量の制御はSOLIFORMシステムの通常条件を用いた。
(3) 上記(2)で得られた立体造形物における各貫通孔A〜FのX軸方向の寸法(内径)xとZ軸方向の寸法(内径)zをそれぞれ測定して、両者の比:x/zを求めて、各貫通孔の真円度を調べたところ下記の表4に示すとおりであった。
【0066】
《比較例3》
参考例3で得られたエポキシ系液状光硬化性樹脂組成物をそのまま用いた以外は実施例12と全く同様にして図1に示す立体造形物を製造し、得られた立体造形物における各貫通孔A〜FのX軸方向の寸法(内径)xとZ軸方向の寸法(内径)zをそれぞれ測定して、両者の比:x/zを求めて、各貫通孔の真円度を調べたところ下記の表4に示すとおりであった。
【0067】
【表4】

1)X軸方向にのみ孔に由来する線が存在し、Z軸方向では孔が全くなく、孔がZ軸方向に完全につぶれていた。
【0068】
上記の表4の結果から、光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行っている実施例12による場合は、特にZ軸方向の光エネルギーの進入深度が過度にならずに良好に調節できて、立体造形物における貫通孔A〜Fの変形(特にZ軸方向のつぶれ)が殆ど生じておらず、目的とする寸法および形状にほぼ一致する立体造形物を、極めて高い寸法精度で且つ良好な寸法安定性で製造できることがわかる。
それに対して、光エネルギー吸収剤を添加していない光硬化性樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行っている比較例3の場合は、Z軸方向の光エネルギーの進入深度の調節が円滑に行われず、立体造形物における貫通孔A〜Fの変形(特にZ軸方向のつぶれ)が大きく、特に孔の直径が小さくなるにしたがってその変形程度が一層大きくなっていて、目的とする寸法および形状に一致する立体造形物が得られないことがわかる。
【0069】
【発明の効果】
本発明による場合は、光硬化性樹脂組成物中に所定量の光エネルギー吸収剤を添加するという極めて簡単な方法で、寸法精度および形状安定性、特にZ軸方向の寸法精度および形状安定性に優れる光学的立体造形物を得ることができる。
しかも、本発明により得られる立体造形物は、高い寸法精度および良好な寸法安定性と共に、硬度、引張強度、引張弾性率などで代表される物理的特性や力学的特性にも極めて優れており、種々の用途に有効に使用することができる。
更に、本発明による場合は光エネルギー吸収剤を添加しているにも拘わらず、従来の光学的立体造形と同様に、高エネルギーの光を用いて、高速で生産性よく立体造形物を製造することができる。
また、本発明による場合は、光偏向物質(光散乱物質)を光硬化性樹脂組成物中に添加する従来法に比べて、X軸およびY軸方向にも目的とする輪郭および寸法を有する立体造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例12および比較例3で製造した立体造形物の構造を示す図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-02-10 
出願番号 特願平7-291699
審決分類 P 1 41・ 856- Y (C08F)
P 1 41・ 161- Y (C08F)
P 1 41・ 841- Y (C08F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 大熊 幸治
船岡 嘉彦
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3117394号(P3117394)
発明の名称 光学的立体造形用樹脂組成物  
代理人 辻 良子  
代理人 辻 邦夫  
代理人 辻 良子  
代理人 辻 邦夫  

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