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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1115293
審判番号 不服2003-16304  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-09-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-25 
確定日 2005-04-06 
事件の表示 平成10年特許願第359899号「五層構造電池セパレーター」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月17日出願公開、特開平11-250888〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年12月18日の出願(パリ条約による優先権主張1997年12月19日、米国)であって、平成15年5月23日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月25日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月24日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。

II.平成15年9月24日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年9月24日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.目的違背
上記手続補正(以下「本件補正」という)は、当該補正前の明細書の特許請求の範囲の請求項5(以下「旧請求項5」という)に係る「製造方法」の発明を、「1.0〜1.7mmの範囲のダイギャップを有するダイを使用して」押出成形するステップを含むものに限定して請求項3に係る発明とするとともに、請求項3を引用する請求項4を新たに設ける補正を含むものであって、この補正は旧請求項5に対応する請求項数を増加させるものであるから、特許法第17条の2第4項各号に規定する、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの事項をも目的とするものに該当しない。

2.新規事項の追加
本件補正は、請求項3(旧請求項5)を「ポリエチレンプリカーサーを1.0〜1.7mmの範囲のダイギャップを有するダイを使用して押し出し成形するステップと、ポリプロピレンプリカーサーを1.0〜1.7mmの範囲のダイギャップを有するダイを使用して押し出し成形するステップと、・・・を含んでなり、該セパレーターが厚さ25μm以下・・・を有することを特徴とする五層セパレーターの製造方法。」とする補正事項を含むものであるが、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書」という)には、「40ミル(注:1.0mm)のダイギャップ」を有するダイを使用し、1ミル(注:25μm)未満の五層ポリプロピレン及びポリエチレンプリカーサー(注:五層セパレーター前駆体)を製造することは記載されているが、「70ミル(注:1.7mm)のダイギャップ」は、「より厚い五層プリカーサー」を製造するのに使用されることしか記載されていないから(当初明細書【0015】、【0030】〜【0035】参照)、上記補正事項は当初明細書に記載された範囲内においてされたものではなく、新規事項の追加に該当する。

3.むすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項、及び第4項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第159条第1項の規定により準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願についての当審の判断
1.本願発明
平成15年9月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜7に係る発明は、平成15年5月7日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項2】 5つの微孔質膜が積層構造をなし、第1、第3および第5の膜がポリプロピレンであり、第2および第4の膜がポリエチレンであるとともに、厚さ25μm以下、ガーレー透気度50秒以下、かつ、破壊強度470グラム重以上を有することを特徴とする電池セパレーター。」
(以下、請求項2に係る発明を、「本願発明」という。)

2.引用刊行物の記載
原審における拒絶理由に引用した本願出願前に公知の刊行物:特開平7-307146号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「電池用セパレータ及びその製造方法」に関して、以下の記載がされている。

ア.【0001】:「本発明は・・・微細で均一な孔径を有し、熱による無孔化維持温度領域が広い安全性、信頼性に優れた電池用セパレ-タ及びその製法に関する。更に詳しくは、本発明はポリプロピレンとポリエチレンとが積層された三層以上の積層フイルムを延伸して多孔化してなる電池用セパレ-タに関する。」
イ.【0007】:「本明細書においては多孔質フイルムのガス透過速度又はガス透過率(ガ-レ-値:秒/100cc)が6000を越えた時点を無孔化開始温度或いはSD開始温度と称する。・・・」
ウ.【0016】:「本発明は、多孔化していないポリプロピレンとポリエチレンとが交互に積層された三層以上の積層フイルムを延伸して多孔化した積層多孔質フイルムからなる電池用セパレ-タを骨子とする。積層数は、三層以上で、ポリプロピレンとポリエチレンとが交互に積層されておれば、例えば四層でも五層でもよく・・・」
エ.【0022】:「・・・積層数は前記したように三層以上であれば制限されないが、・・・ 三枚は、特に表と裏がポリプロピレンで真ん中がポリエチレンになるように、即ち外層がポリプロピレンで内層がポリエチレンになるように積層するのが、フイルムのカ-ルがなく、外傷もうけ難く積層多孔質フイルムの耐熱性、機械的強度等がよく、また電池用セパレ-タとしての安全性、信頼性等々の特性を満たす上からも好適である。」
オ.【0032】:「また本発明において、積層多孔質フイルムのガス透過速度は150〜1500、好ましくは300〜800である。電池用セパレ-タとして使用する場合、ガス透過速度が遅すぎると、イオンの流れが抑制され、また速すぎるとイオンの流れが速すぎて故障時の温度上昇を高めることになるので適当ではない。・・・積層多孔質フイルムの全体の厚みは電池用セパレ-タとしての機械的強度、性能、小型化等の面から20〜50μmが適当である。」

3.当審の判断
(1)引用刊行物に記載された発明
引用刊行物には、「微細で均一な孔径を有し、熱による無孔化維持温度領域が広い安全性、信頼性に優れた電池用セパレ-タ・・・更に詳しくは、・・・ポリプロピレンとポリエチレンとが積層された三層以上の積層フイルムを延伸して多孔化してなる電池用セパレ-タ」(摘示ア)に関し、「積層数は、三層以上で、ポリプロピレンとポリエチレンとが交互に積層されておれば、例えば四層でも五層でもよ」い(摘示ウ)と記載されているから、引用刊行物には、「ポリプロピレンとポリエチレンとが、交互に積層された五層の積層フイルムを延伸して多孔化した微細で均一な孔径を有する積層多孔質フイルムからなる電池用セパレ-タ」が、開示されているといえる。また、上記摘示オの「積層多孔質フイルムのガス透過速度は150〜1500、好ましくは300〜800である。電池用セパレ-タとして使用する場合、ガス透過速度が遅すぎると、イオンの流れが抑制され、また速すぎるとイオンの流れが速すぎて故障時の温度上昇を高めることになる」との記載から、引用刊行物記載の電池用セパレーターは適度なガス透過速度を有するものといえ(ただし、摘示イの記載によると、ガス透過速度の測定基準は本願明細書記載のガーレー透気度とは異なる。)、また、同じく摘示オの「積層多孔質フイルムの全体の厚みは電池用セパレ-タとしての機械的強度、性能、小型化等の面から20〜50μmが適当である」との記載から、その厚さは、機械的強度と小型化の両立から、20〜50μmの範囲に選択されたものであるといえる。
そうすると、上記の記載から、引用刊行物には、「5つの微孔質膜が積層構造をなし、第1〜5の膜は交互に積層されたポリプロピレンとポリエチレンであり、適度な機械的強度と両立する20〜50μmの厚さ、適度のガス透過速度を有する電池セパレーター。」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物発明」という。)。

(2)対比
本願発明(前者)と刊行物発明(後者)とを対比すると、両者は、
「5つの微孔質膜が積層構造をなし、第1〜5の膜は交互に積層されたポリプロピレンとポリエチレンであり、厚さが20〜25μmである電池セパレーター。」
である点で一致し、下記の点で相違するものである。

相違点1:前者は、第1、第3および第5の膜がポリプロピレンであり、第2および第4の膜とがポリエチレンであるのに対して、後者は、ポリプロピレン、ポリエチレンのどちらが第1,第3および第5の膜であり、どちらが第2および第4の膜であるか、不明である点。
相違点2:前者は、厚さが25μm以下、ガーレー透気度50秒以下、かつ、破壊強度470グラム重以上を有するセパレーターであるのに対して、後者は、厚さが20〜50μmの範囲を含み、具体的なガーレー透気度、破壊強度が不明である点。

(3)判断
(i)相違点1について
引用刊行物には、五層積層構造のセパレーターである場合、ポリプロピレンとポリエチレンとのどちらを第1,第3および第5の膜とし、どちらを第2および第4の膜とするかについては、具体的に記載されていないが、三層積層構造のセパレーターである場合には、「三枚は、特に表と裏がポリプロピレンで真ん中がポリエチレンになるように、即ち外層がポリプロピレンで内層がポリエチレンになるように積層するのが、フイルムのカ-ルがなく、外傷もうけ難く積層多孔質フイルムの耐熱性、機械的強度等がよく、また電池用セパレ-タとしての安全性、信頼性等々の特性を満たす上からも好適である」(摘示エ)と記載されている。
さらに、本願明細書においても先行技術として引用されている本願出願時公知の米国特許第5691077号明細書(以下「周知文献1」という。記載事項については対応日本出願の公開公報:特開平8-222197号公報参照。)には、「第一及び第三微孔性膜が第二微孔性膜をサンドイッチにした」閉塞式三層バッテリーセパレーターに関し、「第一及び第三膜は、第二膜よりもより強い破壊強度をもっている。・・・第一及び第三膜は、好適にはポリプロピレン製である。第二膜は好適にはポリエチレン製である。」(【0009】)と記載され、また、同じく引用されている特願平7-55550号の公開公報である特開平8-244152号公報(以下「周知文献2」という)にも、ポリプロピレンとポリエチレンとの多孔質膜積層構造よりなる電池用セパレータにおいて、「多孔質内層(ポリエチレン)の両面に、ポリプロピレンから成る多孔質外層が設けられる。この多孔質外層はビッカース硬度が10以上である必要がある。かようなビッカース硬度を有する多孔質外層を設けることにより、電極と重ね合わせてロール状に巻いたり、このロール状体を金属筒状体に押し込んでも、傷や貫通孔を生じ難いものとなる。」(【0021】)と記載されている。
これらの記載からみると、ポリプロピレンとポリエチレンとの積層構造よりなる電池用セパレータにおいて、ポリエチレンよりも破壊強度の優れるポリプロピレンを最外層となるように積層することは、その安全性や信頼性を考慮して、当業者に周知の事項であったといえる。
してみると、刊行物発明における五層の積層構造よりなる電池用セパレータにおいても、最外層がポリプロピレンとなるように交互に積層し、第1、第3および第5の膜をポリプロピレンとし、第2および第4の膜をポリエチレンとすることは、上記周知事項に基づいて当業者が容易になし得たことというべきである。

(ii)相違点2について
電池用セパレーターには、適度の膜厚、ガス透気度、機械的強度が要求されることは、引用刊行物の摘示オに示されるとおりであるところ、上記周知文献1の表7に記載されるように、厚さが約1ミル(25μm)であり、本願明細書に記載されたと同様に定義されるガーレー透気度(【0026】)、及び破壊強度(【0029】)が、それぞれ20〜30秒、480〜500gである三層積層構造の電池用セパレーターは周知である。
そして、三層積層構造のセパレーターに要求される適度な膜厚、ガーレー透気度、及び機械的強度(破壊強度)という条件は、五層積層構造のセパレーターにも同様に求められるものであるといえるから、刊行物発明における五層積層構造のセパレーターにおいて、その厚さ、ガーレー透気度、及び破壊強度を、三層積層構造の場合に周知である上記数値に限定することは、当業者が容易に設定し得る設計的事項にすぎず、そこに格別の臨界的意義を有するものではないといえる。
なお、上記周知文献1,2は、出願人が本願明細書に記載し、その存在を既に知っていた周知の文献であるから、これらを引用して改めて拒絶理由を通知しなかった。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物,2の記載及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-09 
結審通知日 2004-11-12 
審決日 2004-11-25 
出願番号 特願平10-359899
審決分類 P 1 8・ 574- Z (H01M)
P 1 8・ 573- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 561- Z (H01M)
P 1 8・ 571- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 吉水 純子
酒井 美知子
発明の名称 五層構造電池セパレーター  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  

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