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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1115406
審判番号 不服2003-7527  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-01 
確定日 2005-04-14 
事件の表示 平成9年特許願第308459号「電磁波シールド性接着フィルムの製造法及び電磁波遮蔽構成体とディスプレイの製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年5月28日出願公開、特開平11-145677〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本特許出願は、平成9年11月11日の出願であって、平成15年3月18日付けで、拒絶をすべき旨の査定がされたところ、同査定に対して平成15年5月1日付けで審判が請求され、それに伴い、平成15年6月2日付けで手続補正書(以下、この手続補正書を「請求時補正書」という。)が提出された。

第2 請求時補正書によりされた補正の却下の決定
1.補正却下の決定の結論
平成15年6月2日付けの手続補正を却下する。

2.理由
請求時補正書による補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第1項第3号に掲げる場合にされたものであると認められ、同項ただし書きの要件を満たすものである。

(1)請求時補正書による請求項1の補正
特許請求の範囲の請求項1に関しては、平成14年9月17日付けの手続補正が平成15年3月18日付けで決定をもって却下されたから、平成14年2月20日付け手続補正書により補正された下記ア.の請求項1が、請求時補正書により、下記イ.の請求項1に補正されたものと認める。
なお、請求人は、審判請求に伴い上記却下について不服を申し立てているが、審判請求時に請求時補正書により補正が行われているので、審理の対象は、この補正の行われた明細書及び図面であり、請求人の申し立てた不服の当否については、審理の過程で考慮される。(審判便覧61-04、61-05、61-07)

ア.補正前の請求項1
「【請求項1】 プラスチックフィルムに、活性エネルギー線により硬化する接着剤層及び導電性金属層を積層する工程と、その導電性金属層の開口率が50%以上になるようにマイクロリソグラフ法により幾何学図形を描く工程とを含むことを特徴とする電磁波シールド性接着フィルムの製造法。」

イ.補正後の請求項1
「【請求項1】 プラスチックフィルムに、活性エネルギー線により硬化する接着剤層、該接着剤層への貼合せ面が粗化されている導電性材料の金属箔の順になるよう貼り合せて、接着剤層に金属箔の貼合せ面の粗化形状が転写される工程と、貼り合せた金属箔にケミカルエッチング法を使用したフォトリソグラフ法により開口率が50%以上になるようにライン幅が40μm以下、ライン間隔が100μm以上、ライン厚さが40μm以下である幾何学図形を描く工程とを含むことを特徴とする電磁波シールド性接着フィルムの製造法。」

この請求項1についてされた補正は、補正前の請求項1の「プラスチックフィルムに、活性エネルギー線により硬化する接着剤層及び導電性金属層を積層する工程」、及び「その導電性金属層の開口率が50%以上になるようにマイクロリソグラフ法により幾何学図形を描く工程」という技術的事項を、補正後の請求項1の「プラスチックフィルムに、活性エネルギー線により硬化する接着剤層、該接着剤層への貼合せ面が粗化されている導電性材料の金属箔の順になるよう貼り合せて、接着剤層に金属箔の貼合せ面の粗化形状が転写される工程」、及び「貼り合せた金属箔にケミカルエッチング法を使用したフォトリソグラフ法により開口率が50%以上になるようにライン幅が40μm以下、ライン間隔が100μm以上、ライン厚さが40μm以下である幾何学図形を描く工程」に、それぞれ限定的に減縮したものであり、請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題も、補正前後において同一であるものと認められる。
よって、この補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものと認められる。
したがって、次に、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で前項第2号の場合に準用する同法第126条第4項に規定する特許出願の際独立して特許を受けることができるという要件(独立特許要件)を満たしているか否かについて、検討する。

(2)独立特許要件について
ア.本願補正発明
上記補正後の請求項1に係る発明(以下、本願補正発明という。)は、上記(1)イ.において記載されている事項により特定されるとおりのものと認める。

イ.引用刊行物等及びその記載事項
刊行物1:特開平5-251890号公報
刊行物2:特開平2-296398号公報
周知技術例1:特開平7-297592号公報
周知技術例2:特開平7-66549号公報
周知技術例3:特開平7-319151号公報
周知技術例4:特開平8-181412号公報
周知技術例5:特開昭59-11245号公報
周知技術例6:特開平5-16281号公報

(ア)刊行物1の記載事項
(a1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】透明なポリオレフィン高圧プレスシート(1)の片面または2枚の該シート(1),(1)間に、直接または接着剤層(3)を介して導電性網状薄膜シート(2)を積層してなる透視性を有する電磁波シールド性積層構造物。
【請求項2】ポリオレフィン高圧プレスシート(1)が、ポリプロピレンまたはポリエチレンシートを高圧でプレスして得られる可視光線透過率80%以上の透明シートである請求項1記載の積層構造物。
【請求項3】導電性網状薄膜シート(2)が、導電性を有する開孔シートまたは導電性布状物である請求項1記載の積層構造物。
【請求項4】接着剤層(3)がホットメルト型薄層ウエブである請求項1記載の積層構造物。
【請求項5】接着剤層(3)が活性エネルギー線硬化型樹脂層である請求項1記載の積層構造物。」
(a2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、透明なポリオレフィン高圧プレスシートを用いた透視性を有する電磁波シールド性積層構造物に関するものである。」
(a3)「【0012】本発明は、このような背景下において、大サイズにも適合しうる強度および軽量性を有し、耐擦傷性、耐溶剤性、耐洗浄剤性も良好で、さらには透視性およびすぐれた電磁波シールド性を有するプラスチックス製の積層構造物を提供することを目的とするものである。」
(a4)「【0015】ポリオレフィン高圧プレスシート(1)としては、ポリプロピレンまたはポリエチレンシートを超高圧でプレスして得られる透明シートが用いられる。・・・」
(a5)「【0018】導電性網状薄膜シート(2)としては、導電性を有する開孔シートや導電性布状物が好適に用いられる。
【0019】導電性を有する開孔シートは、たとえば、アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅などの金属箔に対し、レジスト膜の設置、露光、現象、エッチング処理、レジスト膜の剥離を順次行うことにより製造される。
【0020】また、適当な基材上にスパッタリング法、真空蒸着法、イオン注入法(イオンプレーティング法を含む)などの真空薄膜形成法によりアルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅、銀、インジウム、スズ、ITOなどの導電性薄膜を形成させた後、上で述べた金属箔に対するのと同様にして開孔することにより、開孔シートを得ることもできる。
【0021】さらにまた、メッキ法の一種である電鋳加工法により開孔シートを製造することもできる。この方法は開孔シートを得る好ましい方法の一つである。
【0022】そのほか、導電性インクを用いて基材上に開孔パターンを印刷することにより形成した印刷膜も用いることができる。この場合、開孔した薄膜を基材から剥離して用いてもよく、基材(ただし透明の基材)上に形成された状態のまま用いてもよい。
【0023】上記開孔シートにおける開孔形状は、正六角形、正三角形、正四角形、長方形、円形、扇形などとするか、あるいはこれらの組み合せとする。
【0024】上記開孔シートの厚さ、孔目の大きさ、線巾、開孔率は、透視性を損なわずかつ電磁波シールド性を確保するに足るように設計する。」
(a6)「【0026】本発明の透視性を有する電磁波シールド性積層構造物は、透明なポリオレフィン高圧プレスシート(1) の片面または2枚の該シート(1), (1)間に、直接または接着剤層(3) を介して導電性網状薄膜シート(2) を積層することにより得られる。
【0027】この場合、ポリオレフィン高圧プレスシート(1)の片面または2枚の該シート(1),(1)間に直接導電性網状薄膜シート(2)を積層すると層間密着性が損なわれることがあるので、その場合は接着剤層(3)を介して導電性網状薄膜シート(2)を積層する。
【0028】接着剤層(3)としては、ホットメルト型薄層ウエブまたは活性エネルギー線硬化型樹脂層を用いることが好ましい。この場合の積層一体化は、熱圧着または活性エネルギー線(紫外線や電子線)の照射または熱圧着により行われる。接着剤層(3)としては、他の接着剤や粘着剤を用いることもできる。なお導電性網状薄膜シート(2)として導電性布状物を用いる場合、該布状物を導電性繊維に熱融着性繊維を混入した繊維原料から製造すれば、積層一体化を特別の接着剤層(3)を用いることなく単に熱圧着により行うことができる。
【0029】ホットメルト型薄層ウエブとしては、熱溶融繊維からなる織布、不織布、編布や、熱溶融性フィルムが用いられる。このウエブの熱溶融温度は、ポリオレフィン高圧プレスシート(1)の耐熱性を考慮して設定する。
【0030】活性エネルギー線硬化型樹脂樹脂としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、アリル基、ビニルエーテル基、グリシジル基などの官能基を有する単官能または多官能の光重合性モノマーまたは/および官能基を有するオリゴマーまたはプレポリマーに、必要に応じ非官能性ポリマーを混合して主剤となし、さらにベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、ケタール系、ベンゾフェノン系などの重合開始剤、その他の添加剤を添加した樹脂組成物が用いられる。」
(a7)「【0032】
【作用】本発明の電磁波シールド性積層構造物は、透明なポリオレフィン高圧プレスシート(1)の片面または2枚の該シート(1),(1)間に、直接または接着剤層(3)を介して導電性網状薄膜シート(2)を積層した構造を有するので、導電性網状薄膜シート(2)によりすぐれた電磁波シールド性が奏される。導電性網状薄膜シート(2)の介在は、ポリプロピレン超高圧圧延シート(1),(1)を強化する役割も果たす。
【0033】導電性網状薄膜シート(2)の存在も、その厚さ、線巾、大きさ、開孔率等に留意すれば、全体がやや灰色がかって見えるだけで事実上孔目や網目は判別できず、透視性を良好にすることができる。
【0034】そしてポリオレフィン高圧プレスシート(1)は、通常のポリプロピレンやポリエチレンシートとは異なりポリカーボネートやポリメチルメタクリレートに勝るとも劣らぬすぐれた透明性を有する上、構造材としての強度を有し、さらには耐擦傷性、耐溶剤性、耐洗浄剤性も良好である。」
(a8)「【0036】実施例1
図1は本発明の電磁波シールド性積層構造物の一例を示した断面図、図2はその分解図である。
【0037】厚さ30μm のステンレススチール箔に対し、レジスト膜の形成、露光、現像、エッチング、レジスト膜の剥離を行うことにより、正六角形の網状に開孔した導電性網状薄膜シート(2)を得た。孔目を形成する1辺の線巾は40μm、孔目1単位の大きさは310μm 、開孔率は56%であった。
【0038】剥離性を有するポリエステルフィルム面に市販の紫外線硬化型接着剤組成物を加温状態で30μm 厚に流延した後、放冷した。これにより、流動性が消失し、若干のタックを有する接着剤層(3)が形成された。
【0039】ついで、この接着剤層(3)上に上記の導電性網状薄膜シート(2)を置き、さらにその上からもう1枚のポリエステルフィルム付き接着剤層(3)の接着剤層(3)側を重ねた。
【0040】このようにして得られた積層物から両面のポリエステルフィルムを剥離除去しながら、2枚のポリオレフィン高圧プレスシート(1),(1)間に挟み込んで圧着した。ポリオレフィン高圧プレスシート(1)としては、チッソ株式会社製の厚さ2mm、可視光線透過率91%のポリプロピレン高圧プレスシートを用いた。
【0041】圧着後、高圧水銀ランプにより両面側から紫外線照射を行った。これにより、ポリオレフィン高圧プレスシート(1)/接着剤層(3)/導電性網状薄膜シート(2)/接着剤層(3)/ポリオレフィン高圧プレスシート(1)よりなる層構成の積層構造物が得られた。(図1〜2参照)
【0042】この積層構造物は、肉眼では全体が少し灰色がかって見えるだけで事実上孔目は判別できず、透視性が良好であった。
【0043】この積層体はすぐれた電磁波シールド性を示し、また強度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐洗浄剤性も良好であり、軽量で大サイズの電磁波シールド材料、殊に電磁波シールド室の仕切り材またはドアの窓材として好適なものであった。」

したがって、刊行物1には、
「ポリオレフィン高圧プレスシートに、活性エネルギー線硬化型樹脂層、及び導電性網状薄膜シート(開孔率が56%で正六角形、正三角形、正四角形、長方形、円形、扇形などとするか、あるいはこれらの組み合せになるように図形が形成された。)の順になるように貼り合せた電磁波シールド性積層構造物」と、その製造方法について記載されている。

(イ)刊行物2の記載事項
(b1)「本発明は遮蔽用ウインドーに関し、特にモアレ模様の発生を防止する電磁気障害/電波障害遮蔽用ウインドーに関する。
本発明を要約すれば、基材の少なくも1つの面に形成された無作為に方向付けられた非直線状の導電性パターンを有する遮蔽用基材が開示される。導電性パターンは優れた電磁気障害/電波障害遮蔽性及びモアレ模様の発生しない視覚的不透明度を備える。導電性パターンは、円形、卵形、楕円形及び多角形のような互いに連結された非直線状の一連の導電性要素から形成される。導電性基材はフオトリソグラフイー方法の使用により形成することができる。」(第3頁左上欄第17行-右上欄第9行)

ウ.本願補正発明と引用刊行物に記載された発明の対比
(ア)本願補正発明と刊行物1記載された発明の対比
刊行物1に記載された発明の「活性エネルギー線硬化型樹脂層」及び「電磁波シールド性積層構造物」は、本願補正発明の「活性エネルギー線により硬化する接着剤層」及び「電磁波シールド性接着フィルム」に相当する。
そして、刊行物1記載の発明の「導電性網状薄膜シート」は、導電性材料で形成されていることが明らかであって、また、刊行物1記載の発明の「ポリオレフィン高圧プレスシート」は、本願補正発明の構成要件であるプラスチックフィルムの一種である。
また、刊行物1には「導電性材料網状薄膜シート」として用いられる開孔シートの開孔形状が、「正六角形、正三角形、正四角形、長方形、円形、扇形などとするか、あるいはこれらの組み合せとする」ことが開示されているが、これらの形状は、本願明細書及び図面の記載を参酌すれば、本願補正発明の「幾何学図形」に相当するものと認められ、刊行物1の実施例の開孔シートの開孔率が56%であることは、本願補正発明の幾何学図形が呈する開口率が50%以上であることに相当する。
したがって、本願補正発明の刊行物1記載の発明の一致点及び相違点は、それぞれ、以下の(イ)及び(ウ)のとおりである。

(イ)一致点
プラスチックフィルムに、活性エネルギー線により硬化する接着剤層、導電性材料の順になるように貼り合せる工程と、導電性材料の金属箔に開口率が50%以上になるように幾何学図形を形成する工程とを含む電磁波シールド性接着フィルムの製造法。

(ウ)相違点
(A)本願補正発明においては、導電性材料の金属箔の接着剤層への貼合せ面が粗化されており、接着剤層に金属箔の貼合せ面の粗化形状が転写されるのに対し、刊行物1記載の発明においては、金属箔の粗化と接着剤層への粗化形状の転写については、特定されていない点。
(B)本願発明においては、プラスチックフィルム、接着剤層、導電性材料の金属箔の順になるように貼り合わせてから、その金属箔に開口率が50%以上になるように幾何学図形を形成するのに対し、刊行物1記載の発明においては、導電性材料の金属箔を、開口率が50%以上になるように幾何学図形を形成してから、プラスチックフィルムに形成された接着剤層に貼り合わせる点。
(C)本願補正発明においては、貼り合せた金属箔に「ケミカルエッチング法を使用したフォトリソグラフ法により開口率が50%以上になるようにライン幅が40μm以下、ライン間隔が100μm以上、ライン厚さが40μm以下である幾何学図形を形成する」のに対して、刊行物1記載の発明においては、「金属箔に対し、レジスト膜の設置、露光、現象、エッチング処理、レジスト膜の剥離を順次行う」技術が用いられ、幾何学図形についてのライン幅、ライン間隔、及びライン厚さについて数値限定はされていない点。

エ.当審の判断
(ア)相違点(A)について
金属箔と接着剤層を積層する際に、金属箔の接着剤層側の面を粗化することは、周知技術(必要であれば、周知技術例1[【0006】の記載等]、周知技術例2[【0002】の記載等]、周知技術例3[【0015】の記載等]、周知技術例4[【0021】の記載等]を参照のこと。)である。
そして、異なる物質を積層する場合、その剥離を防止することは、普遍的な技術的課題であって、刊行物1記載の発明にも内在するものであり、その解決のために、当該周知技術を適用することは、当業者が容易に想到しうる程度のことである。

(イ)相違点(B)について
刊行物2には、基材に形成された導電性基材に、円形、卵形、楕円形及び多角形のような互いに連結された非直線状の一連の導電性要素からなる導電性パターンを形成する技術について記載されており、また、周知技術例5[第2頁右上欄第2-9行の「接着性フィルムの上に導電性薄膜層を設けるには、種々の方法がある。・・・第二に金属箔を接着性フィルムの上にラミネートしたのち、メッシュ状又は帯状にエッチングする方法で・・・」の記載等を参照。]、周知技術例6[【0022】の記載等を参照。]にも、同様の技術が記載されており、基材に着けられた金属層に幾何学図形を形成すること自体、当業者間で周知技術であるものと認められる。
請求人は、審判請求書における本願補正発明と刊行物1記載の発明との差異に関して、「引用文献1[本審決の刊行物1]に記載の方法によれば、透明プラスチック基材に接着剤を介して、網状の薄膜シートを積層することになりますが、この方法において、しわを発生させずに網状の薄膜シートを積層することは、十分な注意が必要で、簡便にはできないため、・・・量産的には好ましくない方法であります。」(請求の理由に対する平成15年6月2日付け手続補正書第4頁第1-5行)と主張するが、本願補正発明が、刊行物1記載の発明に比べて積層が簡便に行えるとしても、それは、刊行物2及び周知技術例5〜6に表れている周知技術の効果としても当業者が十分に予測しうる程度のものであり、本願補正発明が、相違点(B)に係る構成を有することにより奏する格別の効果であるものとは認められない。

(ウ)相違点(C)について
刊行物1には、「金属箔に対し、レジスト膜の設置、露光、現象、エッチング処理、レジスト膜の剥離を順次行う」技術を用いることが記載されており、この技術は一般的にフォトリソグラフ法の範ちゅうに属するものと推認されるところ、刊行物2には、基材の表面に電気導電性パターンを形成するのに、フォトリソグラフ法を利用することが明記されており、これらの事実から、刊行物1記載の発明における金属箔の処理にフォトリソグラフ法を適用することに、格別の困難性はないものと認められる。
また、フォトリソグラフ法のエッチング処理として単に化学的な手法によるケミカルエッチング法を採用することは、当業者の常識の範囲内の事項である。
そして、幾何学図形について、刊行物1の記載事項(a5)の【0024】には、「上記開孔シートの厚さ、孔目の大きさ、線巾、開孔率は、透視性を損なわずかつ電磁波シールド性を確保するに足るように設計する。」と記載されており、その形状について、当業者が適宜選択しうる事項であることが示されており、本願補正発明において、「ライン幅が40μm以下、ライン間隔が100μm以上、ライン厚さが40μm以下」とすることに、臨界的な技術的意義があるとも認められない。(一般に、上限のみあるいは下限のみの数値限定は、0及び無限大を含むため、臨界的意義を認定するのは困難である。)

(オ)当審の判断の総括
上述のとおり、相違点(A)〜(C)は、いずれの点も格別な技術的意義を有するものとはいえない。
請求人は、審判請求書、及び審尋に対する回答書において、本願補正発明において、活性エネルギー線により硬化する接着剤層を採用したことにより、明細書【0027】に記載されている「導電性金属の粗化形状の転写は、接着剤が流動することにより解消され被着体の表面形状に沿って流動するので透明性が発現する」との効果について、特に主張している。
しかしながら、この主張について、上記相違点を含めた複合的な観点から検討しても、本願補正発明には、流動性についての特定はなく、さらに、接着剤は、接着の作用を硬化される以前は、流動性を有することが、技術常識として明らかである(このことは、本願明細書【0007】の記載からも明らかである。)ことから、かかる効果が、接着材層の流動性により奏されるというのであれば、それは、接着剤の一般的な性質によるものであって、当業者にとっては自明な事項に過ぎない。
そして、本願補正発明における接着手段として、活性エネルギー線により硬化する接着剤層が採用されていることと当該効果の関係についても、活性エネルギー線により硬化する接着剤自体、接着剤の大きなカテゴリーの一つであって、広汎に、多様な態様で利用されているものであるから、やはり、その一般的な性質によるものである。
仮に、接着剤が特定の流動性を有することにより、こうした効果を奏し得るとしても、本願補正発明においてそれに関する特定はなく、発明の詳細な説明を参酌しても、【0007】において、硬化度が60%未満であること、回転粘度計により200ポイズ以下の粘度を有するものであれば使用することができるという、接着剤の別段、特異とはいえない性状の範囲内での条件が開示されているのみであって、この条件が、上記の効果を奏するために特に必須であるとの根拠は示されていないし、その根拠が自明なものであるともいえない。
(本願明細書及び図面、あるいは平成17年1月21日に行われた面接において、請求人が当審合議体に説明した内容からは、本願補正発明の電磁波シールド性接着フィルムは、被着体を圧着することにより、初めて接着剤層の流動性が機能して、透明性が発現する効果を奏すると推定されるが、被着体の圧着に関する技術的事項について、本願補正発明においては特定されていない。)
結局、上記相違点、請求人の主張を総合的に検討しても、それらによって奏される効果は当業者が当然に予測できる範囲のものと認められるから、本願発明は、刊行物1〜2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
なお、平成15年3月18日付け補正却下の決定に対して請求人が申し立てた不服について、その不服の理由(請求の理由に対する平成15年6月2日付け手続補正書第8頁第18行-第11頁第17行)をもとに、刊行物2の引用例としての妥当性あるいは不透明化の問題等について考慮しても、当審の本願補正発明に対するこの判断を覆すには至らない。

オ.むすび
以上により、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であると認められる。
したがって、請求時補正書による補正は、その補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において、前項第2号の場合に準用する第126条第4項の規定に違反しているものと認められる。
よって、この補正は、特許法第159条において読み替えて準用する同法第53条の規定により却下すべきものであるから、1.の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2のとおり、請求時補正書による補正が却下されたから、本特許出願の請求項1の発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年2月20日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている上記第2の2.(1)ア.の事項により特定されるとおりのものと認める。

2.引用刊行物等及びその記載事項
刊行物1:特開平5-251890号公報
刊行物2:特開平2-296398号公報
周知技術例1:特開平7-297592号公報
周知技術例2:特開平7-66549号公報
周知技術例3:特開平7-319151号公報
周知技術例4:特開平8-181412号公報
周知技術例5:特開昭59-11245号公報
周知技術例6:特開平5-16281号公報

上記刊行物1〜2及び周知技術例1〜6は、第2で引用されたものと同じものであり、その記載事項等については、第2の(2)イ.の内容を援用する。

3.当審の判断
第2の2.(1)で検討したように、本願補正発明は、本願発明に対して、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項が限定され、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮がされたものである。
そして、本願補正発明は、第2で検討したように刊行物1〜2記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その請求項に記載した発明を特定するために必要な事項についての限定の一部が省かれた構成のみを有する本願発明も、刊行物1〜2記載の発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

4.むすび
したがって、本特許出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本特許出願についての拒絶をすべき旨の査定を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-10 
結審通知日 2005-02-15 
審決日 2005-02-28 
出願番号 特願平9-308459
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介内田 博之中島 成  
特許庁審判長 大野 覚美
特許庁審判官 田々井 正吾
鈴木 久雄
発明の名称 電磁波シールド性接着フィルムの製造法及び電磁波遮蔽構成体とディスプレイの製造法  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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