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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1115603
審判番号 不服2002-9607  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-29 
確定日 2005-04-21 
事件の表示 平成6年特許願第309160号「車両用周囲監視装置」拒絶査定不服審判事件〔平成8年6月25日出願公開、特開平8-166448〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年12月13日の出願であって、平成14年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月29日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月28日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成14年6月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年6月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 請求項2に係る補正について
(1)補正後の請求項2に係る発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項2を、「車両の周囲に配置された複数の送受信手段と、送信手段から送信された電磁波が対象物で反射された反射波を受信手段で受信して得た受信信号に基づいて車両周囲の状況を判断する処理手段と、処理手段判断結果を運転者へ知らせる表示手段とを備えた車両用周囲監視装置において、送信手段は搬送波を振幅変調した電磁波を放射し、受信手段は反射波信号を検波した検波信号を出力し、処理手段は搬送波を変調するための変調信号と前記検波信号との位相差に基づいて対象物までの距離を求めるようにしたことを特徴とする車両用周囲監視装置。」と補正することを含むものである。
上記補正は、本件補正前の請求項2に記載した発明の構成のうち、「車両用周囲監視装置」について「車両の周囲に配置された複数の送受信手段と、送信手段から送信された電磁波が対象物で反射された反射波を受信手段で受信して得た受信信号に基づいて車両周囲の状況を判断する処理手段と、処理手段判断結果を運転者へ知らせる表示手段とを備えた」
との限定を付加するものであって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法(以下、「平成6年改正前特許法」という。)第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、第2の項において、「本願補正発明2」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-162397号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「【0001】【産業上の利用分野】この発明は周辺の車両を観測対象とする車載用レーダ装置に関する。」
(b)「【0006】【発明が解決しようとする課題】従来の車載用レーダ装置は以上のように構成されていて、前方の車両を観測対象とし、他の方向は観測していなかったため、運転席からの死角や運転手の見る頻度の少ない左右または後方の車両への対処は成されていなかった。この発明は上記のような課題を解消するために成されたもので、左右後方から来る2輪車を判定し、さらに左右前後の車両の位置、速度、二輪車であるか乗用車であるか大型車であるか等の車種の判定を行い、通常走行時や車線変更時などの安全運転を支援する車載用レーダ装置を得ることを目的とする。」
(c)「【0017】【実施例】実施例1 以下、この発明の一実施例を図1について説明する。図1は本発明の車載用レーダ装置の実施例1を示す構成ブロック図である。図1において、8はレーダ信号を生成する送信手段、9は受信手段、1はアンテナ、10は送受切替器、11は受信手段出力の最大振幅値を検出する強度計測手段、上記1〜5が一組となって任意の方位のビームを形成し、複数のビームを形成するために上記1〜5の組を複数用意する。12は隣接するビームでの信号の利得を調整する利得調整手段、13は隣接するビームでの信号の強度を比較し2輪車か4輪車かなどを判定する車両判定手段、14は表示器である。
【0018】次に動作の概要を説明する。図1において、複数の方位に対するビームを形成するために、複数のアンテナが用意されているが、アンテナの配置は例えば図2のように車両の前後左右に複数用意する。ここで、車両後方のビームのビームパターンを図3に示す。図3(a)は、図2に示した車両後方のビームのビームパターンであるが、図3(b)のようなパターンのビームでも良い。
【0019】図1のいずれの方位のビームに対する場合も、送信手段8では、ミリ波、マイクロ波等のパルス信号を生成し、生成された送信信号は送受切替器10、アンテナ1を経て目標へ放射され、目標で反射された電波はアンテナ1で受信され、受信信号は送受切替器10を経て、受信手段9においてディジタル複素ビデオ信号に変換される。
【0020】つぎに、強度計測手段11において、パルス繰り返し周期内での受信手段出力の最大振幅値を検出する。この最大振幅値を信号の強度とする。ここで、最大振幅値がしきい値以下の場合は0を出力する。
【0021】つぎに、利得調整手段12において、ビームパターンが図3(a)に示すようにビームによって最大利得がx,yのように異なる場合、各ビームの最大利得が一定になるように強度計測手段出力をそれぞれのビームの最大利得で割り標準化する。つまり1/x,1/y倍にする。
【0022】車両判定手段13では、各ビームからの利得調整手段で標準化した信号の強度が0でないとき、そのビームの方位に目標が存在すると判定し、強度が0であった場合は、目標が存在しないと判定する。ここで、ビームパターンが図3(a)に示す形状であるとき、左右いずれかの狭ビームのみで目標が検出されるときは、2輪車の類であると判定し、中央の広ビームで検出されるときは2輪車か4輪車などのいずれかであるとする。また、ビームパターンが図3(b)に示す形状であるとき、任意の1ビームで目標が検出されその両隣のビームで検出されないときは、2輪車の類であると判定し、複数の連続したビームで検出されるときは4輪車の類であると判定する。
【0023】表示器14では、目標が存在すると判定されたビームで目標が2輪車の類であるか4輪車の類であるかを例えば図4のように表示する。
【0024】なお、図1では、各アンテナ毎に、送信手段8、受信手段9、送受切替器10、強度計測手段11を用意したが、アンテナを時分割で切り替え、上記送信手段8、受信手段9、送受切替器10、強度計測手段11を各アンテナで共有しても良い。
【0025】さらに、ここでは、アンテナをそれぞれのビーム毎に用意したが、アレー状に並べた素子アンテナを用い電子的にビームの方向を切り替えるようにしても良い。なお、本願においては、2輪車は2輪車の類を、4輪車は4輪車の類を含むものとする。」
(d)「【0026】実施例2以下、この発明の実施例2を図5について説明する。図5は本発明の車載用レーダ装置の実施例2を示す構成ブロック図である。図5において、8はレーダ信号を生成する送信手段、9は受信手段、1はアンテナ、10は送受切替器、15は受信手段出力の振幅値がしきい値を越える信号の振幅値とその信号の受信時刻から車間距離を求める強度距離計測手段、12は隣接するビームでの信号の利得を調整する利得調整手段、13は隣接するビームでの信号の強度を比較し2輪車か4輪車かなどを判定する車両判定手段、14は表示器である。実施例1と同一構成の上記の送信手段8、受信手段9、アンテナ1、送受切替器10については既に説明してるあので、ここでは説明を省略する。
【0027】強度距離計測手段15の動作について説明する。強度距離計測手段15において、パルス繰り返し周期内での受信手段出力の振幅値がしきい値を越えるとき、パルス信号時からの送れ時間tを計測し、その目標までの距離Rを次式で求める。・・・
【0029】また、この時の信号の振幅値を計測し、信号の強度とする。
【0030】つぎに、利得調整手段12において、ビームパターンが図3(a)に示すようにビームによって最大利得が異なる場合、実施例1の利得調整手段12と同様に各ビームの最大利得が一定になるように強度距離計測手段出力をそれぞれのビームの最大利得で割り標準化する。
【0031】つぎに、目標の距離ごとに用意した車両判定手段13では、それぞれ実施例1と同様に目標の判定を行う。
【0032】表示器14では、目標が存在すると判定されたビームで目標が2輪車であるか4輪車であるかとその距離を、例えば図6のように表示する。
【0033】また、図5では、各アンテナ毎に、送信手段8、受信手段9、送受切替器10、強度距離計測手段15を用意したが、実施例1と同様に、アンテナを時分割で切り替え、上記送信手段8、受信手段9、送受切替器10、強度距離計測手段15を各アンテナで共有しても良い。
【0034】実施例3以下、この発明の実施例3を図7について説明する。図7は本発明の車載用レーダ装置の実施例3を示す構成ブロック図である。図7において、8はレーダ信号を生成する送信手段、9は受信手段、1はアンテナ、10は送受切替器、15は受信手段出力の振幅値がしきい値を越える信号の振幅値とその信号の受信時刻から車間距離を求める強度距離計測手段、12は隣接するビームでの信号の利得を調整する利得調整手段、13は隣接するビームでの信号の強度を比較し2輪車か4輪車かを判定する車両判定手段、16は一定距離に対する目標の強度を求め車種を判定する車種判定手段、14は表示器である。
【0035】実施例2と同一構成の上記の送信手段8、受信手段9、アンテナ1、送受切替器10、強度距離計測手段15、利得調整手段12、車両判定手段13については既に説明してあるので、ここでは説明を省略する。
【0036】つぎに、車種判定手段16の動作について説明する。車種判定手段16では、あらかじめそれぞれの距離での幾つかの車種(大型車、普通4輪車、2輪車等)からの強度のデータを用意しておく。ここで、受信信号は目標の距離の4乗に反比例することから、ある一つの距離でのデータがあればそれぞれの距離のデータを求めることができる。それぞれの距離において、幾つかの車種からの強度のデータと各ビームの信号強度とを比較し、一番近いデータの車種であると判定する。
【0037】表示器14では、目標が存在すると判定されたビームでの距離と車種を、例えば図8のように表示する。車種の表示は、例えば表示のマークを変えたり、色を変えることによって表現する。
【0038】また、図7では、各アンテナ毎に、送信手段8、受信手段9、送受切替器10、強度距離計測手段15を用意したが、実施例1と同様に、アンテナを時分割で切り替え、上記送信手段8、受信手段9、送受切替器10、強度距離計測手段15を各アンテナで共有しても良い。」
(e)図2において、アンテナを、車両の前方に前方用アンテナ、左前方用アンテナ、右前方用アンテナ、左側方に左側方用アンテナ、右側方に右側方用アンテナ、後方に後方用アンテナ、左後方用アンテナ及び右後方用アンテナを配置した構成が見てとれる。

(3)対比
本願補正発明2と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された発明の「アンテナ1」及び「送信手段8」並びに「アンテナ1」及び「受信手段9」は、本願補正発明2の「送受信手段」に相当し、引用例1に記載された発明の「車両判定手段13」は、本願補正発明2の「処理手段」に相当し、引用例1に記載された発明の「表示器14」は、本願補正発明2の「表示手段」に相当するから、両者は、「複数の送受信手段と、送信手段から送信された電磁波が対象物で反射された反射波を受信手段で受信して得た受信信号に基づいて車両周囲の状況を判断する処理手段と、処理手段判断結果を運転者へ知らせる表示手段とを備えた車両用周囲監視装置」である点で一致し、つぎの点で相違する。

相違点A 複数の送受信手段の配置に関し、本願補正発明2は、「車両の周囲に配置」されているのに対して、引用例1に記載された発明は、「送信手段8」及び「受信手段9」の配置については明らかではない点
相違点B 本願補正発明2は「送信手段は搬送波を振幅変調した電磁波を放射し、受信手段は反射波信号を検波した検波信号を出力し、処理手段は搬送波を変調するための変調信号と前記検波信号との位相差に基づいて対象物までの距離を求めるようにしたことを特徴とする」のに対して、引用例1に記載された発明は、そのように構成されていない点

(4)判断
相違点Aについて検討するに、引用例1の段落番号【0018】には、「複数の方位に対するビームを形成するために、複数のアンテナが用意されているが、アンテナの配置は例えば図2のように車両の前後左右に複数用意する。」と記載されており、図2を参照すると、車両の左右方向にはそれぞれアンテナが1つずつ配置されているのに対して、車両の前後方向にはそれぞれ3つのアンテナが配置されていることがみてとれることから、引用例1に記載された発明の「アンテナ1」は、車両の周囲に配置されている」ものと認められる。
そして、段落番号【0017】には、複数のビームを形成するために、送信手段8、受信手段9、アンテナ1、送受切換器10、強度計測手段11を複数組用意する旨記載されていること、及び、本件出願時において、アンテナと送信手段及び受信手段とを一体に構成することは例を挙げるまでもなく従来周知の技術にすぎないから、引用例1記載のアンテナ1の配置にあわせて、送信手段、受信手段を配置して本願補正発明2のごとく構成することは、当業者であれば容易に想到し得る程度のことである。
つぎに、相違点Bについて検討するに、本件出願時において、送信手段により搬送波を振幅変調した電磁波を放射し、受信手段により反射波信号を検波した検波信号を生成し、搬送波を変調するための変調信号と前記検波信号との位相差に基づいて対象物までの距離を求める距離測定装置は、例えば特開昭62-88978号公報に記載されているように従来周知の技術にすぎず、引用例1に記載された発明に、上記従来周知の技術を適用して本願補正発明2のように構成することに格別の困難性はない。
そして、本願補正発明2の作用効果も、引用例1及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとは認めることができない。
したがって、本願補正発明2は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2 請求項3に係る補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項3を、「【請求項3】 駐車しようとする時に代表される低速走行時においては比較的短い周期の搬送波を使用して小突起物をも検知可能とし、高速走行時においては比較的長い周期の搬送波を使用することにより比較的長い距離の比較的大きな物体を検出するように、前記搬送波の変調周期を車速に応じて異ならしめるようにしたことを特徴とする請求項2記載の車両用周囲監視装置。」と補正することを含むものである。
これに対し、本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「【0008】なお、車速に応じてパルス変調または振幅変調の変調周期を異ならしめるようにしてもよい。」、「【0011】パルスの繰り返し周期または振幅変調の変調周期によって最大検出範囲が制限されるが、高速走行時には変調周期を長く設定することで遠方の障害物等を検出可能となる。また、低速走行時には変調周期を短く設定することで、複数の送受信手段によって車両の全周囲を検出するのに要する時間を短縮することができ、障害物等までの距離の変化を速やかに検出し報知させることができる。」、「【0031】図10は車両用監視装置の他の構成例を示す全体ブロック構成図である。この車両用監視装置100は、車速検出手段101で検出した車速情報101aに基づいて送信波のパルス変調周期を異ならしめるようにしたものである。」、「【0032】処理手段102内の検出距離切替手段103は、車速情報101aに基づいて自車の平均車速を算出し、算出した平均車速が予め設定した車速よりも低い場合は近距離検出用の変調周期指令103aを、予め設定した車速を越えている場合は遠距離検出用の変調周期指令103aを出力する。変調信号発生手段104は、近距離検出用の変調周期指令103aの供給された場合はパルス繰り返し周期の短い変調信号104aを生成出力し、遠距離検出用の変調周期指令103aが供給された場合はパルス繰り返し周期の長い変調信号104aを生成出力する。なお、送受信手段106に振幅変調方式を用いる場合は、振幅変調を行なう低周波信号の周期(周波数)を変化させる。」、「【0033】パルスの変調周期または振幅変調の変調周期によって最大検出距離が制限されるが、車速が早い場合は変調周期を長いすることで遠方の障害物等の検出が可能となる。また、低車速の場合は変調周期を短くすることで各送受信手段(レーダ手段)によって車両の全周囲を検出するのに要する時間が短縮することができる。よって、車庫入れや交差点での進路変更時等において障害物等までの距離変化を速やかに検出し報知させることができる。」、「【0039】請求項3に係る車両用周囲監視装置は、パルスの繰り返し周期または振幅変調の変調周期によって最大検出範囲が制限されるが、高速走行時には変調周期を長く設定することで遠方の障害物等を検出可能となる。また、低速走行時には変調周期を短く設定することで、複数の送受信手段によって車両の全周囲を検出するのに要する時間を短縮することができ、障害物等までの距離の変化を速やかに検出し報知させることができる。」と記載されている。 したがって、当初明細書等には、「低速走行時には、搬送波を変調する変調周期を短く設定し、高速走行時には、搬送波を変調する変調周期を長く設定する」ことについては、記載されているものの、「低速走行時においては比較的短い周期の搬送波を使用する」点、「高速走行時においては比較的長い周期の搬送波を使用する」点については、記載されておらず、また、「低速走行時においては比較的短い周期の搬送波を使用して小突起物をも検知可能とする」点についても記載されていない。
そして、これらの点は、当初明細書等に接した当業者にとって自明の事項であるとも認めることができない。
そうすると、本件補正における請求項3に係る補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないから、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定に違反するものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定及び同法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
平成14年6月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明の請求項1ないし3に係る発明(以下、おのおのを「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成14年2月6日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたつぎのとおりのものである。
「【請求項1】 車両の周囲とりわけ車両の前後方向にその他の方向に比して密に配置された複数の送信手段ならびに複数の受信手段と、前記送信手段から送信された電磁波が対象物で反射された反射波を前記受信手段で受信して得た受信信号に基づいて車両の周囲の状況を判断する処理手段と、処理手段の判断結果を運転者へ知らせる表示手段とを備えたことを特徴とする車両用周囲監視装置。
【請求項2】 送信手段は搬送波を振幅変調した電磁波を放射し、受信手段は反射波信号を検波した検波信号を出力し、処理手段は搬送波を変調するための変調信号と前記検波信号との位相差に基づいて対象物までの距離を求めるようにしたことを特徴とする車両用周囲監視装置。
【請求項3】 駐車しようとする時に代表される低速走行時においては比較的短い周期の搬送波を使用して小突起物をも検知可能とし、高速走行時においては比較的長い周期の搬送波を使用することにより比較的長い距離の比較的大きな物体を検出するように、前記搬送波の変調周期を車速に応じて異ならしめるようにしたことを特徴とする車両用周囲監視装置。」

1 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開平6-162397号公報)の記載事項は、前記「第2」の「1(2)」に記載したとおりである。

2 本願発明1と引用例1に記載された発明との対比
本願発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された発明の「アンテナ1」及び「送信手段8」、「アンテナ1」及び「受信手段9」は、本願発明1の「送信手段」、「受信手段」に相当する。
そして、引用例1に記載された発明の「車両判定手段13」は、「各ビームからの利得調整手段で標準化した信号の強度が0でないときのビームの方位に目標が存在すると判定する」ものであるので、本願発明1の「前記送信手段から送信された電磁波が対象物で反射された反射波を前記受信手段で受信して得た受信信号に基づいて車両の周囲の状況を判断する処理手段」に相当し、引用例1に記載された発明の「表示器14」は、本願発明1の「表示手段」に相当する。
したがって、本願発明1と引用例1に記載された発明とは、「複数の送信手段ならびに複数の受信手段と、前記送信手段から送信された電磁波が対象物で反射された反射波を前記受信手段で受信して得た受信信号に基づいて車両の周囲の状況を判断する処理手段と、処理手段の判断結果を運転者に知らせる表示手段とを備えたことを特徴とする車両用周囲監視装置」である点で一致し、つぎの点で相違する。

相違点A 複数の送信手段並びに複数の受信手段の配置に関し、本願発明1が「車両の周囲とりわけ車両の前後方向にその他の方向に比して密に配置されている」のに対して、引用例1に記載された発明は、その点が明らかでない点

3 判断
上記相違点Aについて検討する。
引用例1の段落番号【0018】には、「複数の方位に対するビームを形成するために、複数のアンテナが用意されているが、アンテナの配置は例えば図2のように車両の前後左右に複数用意する。」と記載されており、図2を参照すると、車両の左右方向にはそれぞれアンテナが1つずつ配置されているのに対して、車両の前後方向にはそれぞれ3つのアンテナが配置されていることがみてとれることから、引用例1に記載された発明の「アンテナ1」は、「車両の周囲とりわけ車両の前後方向にその他の方向に比して密に配置されている」ものと認められる。
そして、段落番号【0017】には、複数のビームを形成するために、送信手段8、受信手段9、アンテナ1、送受切換器10、強度計測手段11を複数組用意する旨記載されていること、及び、本件出願時において、アンテナと送信手段及び受信手段とを一体に構成することは例をあげるまでもなく従来周知の技術にすぎないことから、引用例1記載のアンテナの配置にあわせて、送信手段、受信手段を配置して本願発明1のごとく構成することは、当業者であれば容易に想到し得る程度のことである。
また、本願発明1の効果は、当業者が予測し得る程度のものであって格別のものではない。
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、請求の理由において、「請求項1に係る本願発明の特徴は、車両の前後方向に密に配置された複数のレーダを設けたことにある。・・・請求項1に係る本願発明の作用は、車庫入れ等で死角なくコーナーを検出することが可能となり、車庫入れ等の操作が容易となる。・・・上記の本願発明の特徴は、いずれの引例にも開示されておらず、本願発明の構成は充分発明として成立している。また、上記の本願発明の作用もいずれの引例にも示唆されていない。よって、充分特許性を有する発明であると確信する。」、「一方、請求項1に係る本願発明は、車両の周囲とりわけ車両の前後方向にその他の方向に比して密に配置された複数の送信手段ならびに複数の受信手段とを備えており、それにより、車両の全周囲に亘って障害物等を検出し、その検出結果を運転者へ知らせることができ、また、車両の車庫入れ等に対応する比較的小さい突起等の認識ができるものである。そして、その目的とするところは、右左折、車庫入れ等の運転者の認識判断を支援することである。そこで、各レーダ手段は、それぞれの検出範囲が大幅にオーバーラップしない様に配置し、車両の全周囲をカバーする構成となっている。それにより、車両の全周囲に亘って障害物等を検知できる。また、主として車両進行方向および転舵方向(コーナー部)に向けて多数の送受信装置を配置してあるため、車庫入れ等でコーナー部が検出でき、従って、車庫入れ等の操作を容易にするものである。しかしながら、引例1(当審注:「引用例1」と同じ。)では、「車両の車庫入れ等の操作を容易にする構造」を有していない。具体的には、車両コーナー部にレーダーを設置した実施例は明示されておらず、また、前後方向にレーダーを密に設置した実施例もない。また、コーナー部を検出する実施例に記載されていない。よって、引例1から請求項1に係る本願発明の技術的課題を解決することは到底不可能である。また、必然的に、請求項1に係る本願発明の効果を奏するものではない。」と主張している。しかしながら、請求項1には、本願発明1が、「車庫入れ等で死角なくコーナーを検出することが可能となり、車庫入れ等の操作が容易となる。」こと、「右左折、車庫入れ等の運転者の認識判断を支援する」こと、及び「車両の進行方向及び転舵方向(コーナー部)に向けて多数の送受信装置を配置している」ことに対応する構成が記載されておらず、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、しかも引用例1に記載されたものも、図2を参照すれば各ビームにより車両の全周囲がカバーされており、コーナー方向の対象物を検出できるものである。また、引用例1の第6図には、車両周囲に二輪車、四輪車等の対象物が存在する場合に、対象物が検出されたビームと距離等を表示する表示例が記載されており、車両の周囲の状況を運転者に知らせるものである。したがって、請求人の主張は採用できない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものであるから、本願発明2及び3について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-17 
結審通知日 2005-02-22 
審決日 2005-03-07 
出願番号 特願平6-309160
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 572- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 561- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮川 哲伸  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 三輪 学
尾崎 淳史
発明の名称 車両用周囲監視装置  
代理人 下田 容一郎  

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