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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1115796
審判番号 不服2002-14139  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-07-25 
確定日 2005-04-28 
事件の表示 平成 7年特許願第169061号「エンジン制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月21日出願公開、特開平 9- 21343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、
(1)平成7年7月4日の出願であって、平成13年9月25日付で手続補正がなされ、平成14年6月14日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成14年6月26日)、
(2)それに対し、平成14年7月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成14年8月26日付で手続補正がなされた、
ものである。

II.平成14年8月26日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年8月26日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】マイクロコンピュータを用いてエンジンを制御するエンジン制御装置において、前記マイクロコンピュータは、乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器を内蔵し、エンジン制御を実施するにあたって前記乗算器を用いて制御量の算出を行うことを特徴とするエンジン制御装置。」と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明(後記III.参照。)を特定するために必要な事項である「ノック検出、及び、自己診断を含む」との限定を削除することを含むものである。
この削除する補正は、直列的に記載された構成要件の一部を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないことは明らかであり、更に、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
したがって、この特許請求の範囲についてする補正は、特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明
平成14年8月26日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項10に係る発明は、平成13年9月25日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は次のとおりである。
「【請求項1】マイクロコンピュータを用いてエンジンを制御するエンジン制御装置において、前記マイクロコンピュータは、乗算器を内蔵し、ノック検出、及び、自己診断を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算器を用いて制御量の算出を行うことを特徴とするエンジン制御装置。」

IV.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された「特開平5-10237号公報」(以下、「刊行物1」という。)には(請求項1では、乗算器を用いて制御量を算出することについて、特定されているが、拒絶理由通知時において、乗算器を用いて制御量を算出することについて特定されていたのは、請求項2、請求項3、請求項4、請求項7、請求項8又は請求項12であるところ、当該請求項2、請求項3、請求項4、請求項7、請求項8又は請求項12に対しては、特開平5-10237号公報が引用文献とされていた。)、
・「本発明は、ノックセンサからの検出出力に基づいてノック発生の有無を判定するエンジンのノック検出方法に関する。」(2頁1欄14〜16行)
・「[制御装置の回路構成]一方、図11において、符号40は、マイクロコンピュータからなる制御装置(ECU)であり、このECU40は、点火時期制御、燃料噴射制御などを行うメインコンピュータ41と、ノック検出処理を行う専用のサブコンピュータ42との2つのコンピュータから構成されている。」(4頁6欄17〜22行)
・「また、上記ECU40内には定電圧回路43が内蔵され、」(4頁6欄23〜24行)
・「上記各ノックセンサ22a,22bは、例えばノック振動とほぼ同じ固有周波数を持つ振動子と、この振動子の振動加速度を検知して電気信号に変換する圧電素子とから構成される共振形のノックセンサであり、エンジンの爆発行程における燃焼圧力波によりシリンダブロックなどに伝わる振動を検出し、その振動波形をノック信号として出力する。」(5頁7欄10〜16行)
・「すなわち、各ノックセンサ22a,22bからの信号を、運転状態に応じたバックグランドレベル加重平均率Xにて統計処理するとともに、該当バンク毎のバックグランドレベル係数KBGJを乗じてバックグランドレベルを設定するため、運転状態及びノック検出位置の相互干渉を受けることなくバックグランドレベルを適切に設定することができ、ノック検出精度を向上することができるのである。」(6頁10欄32〜39行)
・「一方、メインコンピュータ41においては、図4に示す処理手順により、ノック発生の有無に応じて点火時期を制御する。」(7頁11欄7〜9行)
・「その結果、上記メインコンピュータ41から出力される該当気筒の点火時期が、上記サブコンピュータ42にてノック発生なしの判定結果が出力されるまで遅角される。」(7頁11欄22〜25行)
・「また、メインコンピュータ41にてノック判定処理を行っても良く、ノック検出用のECUと点火時期・燃料噴射制御用のECUとを別にしても良い。」(7頁12欄7〜9行)
と記載されている。
上記各記載、及び、第1図ないし第14図の記載からみて、刊行物1には、
マイクロコンピュータを用いてエンジンを制御するエンジン制御装置において、前記マイクロコンピュータは、乗算部を設け、ノック検出を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算部を用いて制御量の算出を行うエンジン制御装置。
及び
マイクロコンピュータからなるECU内に定電圧回路を内蔵せしめること
が記載されていると認められる。
「特開昭56-149642号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、
・「本発明は、部分積結果を利用することによつて、演算速度を向上させることを可能にした乗算器に関するものである。」(1頁下左欄14〜16行)
・「その目的は読出し専用メモリ(ROM)に記憶されている部分積の演算結果を利用して乗数を複数桁ずつまとめて演算操作を行なうことによつて、乗算に要する時間を短縮できる演算回路を提供することにある。」(2頁上左欄16〜20行)
・「11は被乗数であつて2進数“110110”(10進数54)が例示されている。乗数は2進数“101101”(10進数45)が例示されており、これを下位から2桁ずつの部分乗数に分けて、それぞれ12,13,14とする。(b)は第1段階の演算を示し、被乗数11に下位の部分乗数12を乗算して、結果を2桁からなる下位部分15と部分積16とに分ける。(c)は第2段階の演算を示し、被乗数11に中位の部分乗数13を乗算して、これに前回演算における部分積16を加算し、結果を2桁からなる下位部分17と部分積18とに分ける。(d)は第3段階の演算を示し、被乗数11に上位の部分乗数14を乗算して、これに前回演算における部分積18を加算し、加算結果19に前回演算における下位部分17と、前々回の演算における下位部分15とを続けて読んだ2進法“100101111110”(10進法2430)は、乗算結果である。なお第2図においては、被乗数と乗数がともに6桁からなる場合について説明したが、これらはそれぞれ何桁であつてもよいことは言うまでもない。」(2頁上右欄15行〜同頁下左欄14行)
と記載されている。
上記各記載、及び、第1図ないし第3図の記載からみて、刊行物2には、
計算機において、乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器であること
が記載されていると認められる。
「特開昭59-135544号公報」(以下、「刊行物3」という。)には、
・「本発明は複数桁について演算することによりメモリへのアクセス回数を減少し高速演算のできる乗算方式に関する。」(1頁下左欄12〜14行)
・「前述の目的を達成するための本発明の構成は、パック形式の被乗数・乗数の演算方式において、被乗数・乗数の各複数桁について演算した結果を一時的に格納するレジスタを具備し、該レジスタ格納値について桁上げをしながら合成することである。」(2頁上左欄4〜9行)
・「第4図においてMLは乗算器、」(2頁上右欄1〜2行)
・「複数桁単位により演算を行うため、メモリに対し格納・読出しを行うアクセス回数が大いに減少された。従って小型計算機であっても、演算速度の高速化されたものが得られるという効果がある。」(2頁下左欄6〜10行)
と記載されている。
上記各記載、及び、第1図ないし第4図の記載からみて、刊行物3には、
小型計算機において、乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器であること
が記載されていると認められる。

V.対比及び判断
請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「乗算部」と請求項1に係る発明の「乗算器」とは、「乗算部」である点で一致するので、両者は、
マイクロコンピュータを用いてエンジンを制御するエンジン制御装置において、前記マイクロコンピュータは、乗算部を設け、ノック検出を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算部を用いて制御量の算出を行うエンジン制御装置。
の点で一致し、
(イ)請求項1に係る発明では、乗算器を内蔵し、ノック検出、及び、自己診断を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算器を用いて制御量の算出を行うのに対して、刊行物1に記載された発明では、乗算部を設け、ノック検出を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算部を用いて制御量の算出を行う点、
で相違する。
相違点(イ)について検討する。
マイクロコンピュータにおいて、乗算器を内蔵することは、i)設計事項であり、ii)刊行物1にも、「符号40は、マイクロコンピュータからなる制御装置(ECU)であり」(4頁6欄18〜19行)及び「また、上記ECU40内には定電圧回路43が内蔵され、」(4頁6欄23〜24行)と記載され、マイクロコンピュータからなるECU内に定電圧回路を内蔵せしめることが記載されていると認められるので、機能部である乗算器を内蔵せしめることは、当業者が適宜なしえたことであり、iii)しかも、周知である[必要なら、渡邊茂、正田英介、矢田光治編「マイクロコンピュータハンドブック」第1版第1刷 株式会社オーム社 昭和60年12月25日 p.165(例えば、「CPUによっては,演算の種類に応じて特別なハードウェア,たとえば掛算回路などを内蔵するものがあり、演算の高速化を図っている.」〈右欄1〜3行〉との記載がある。)]。
したがって、乗算器を内蔵すること、は当業者が容易に想到し得たことである。
なお、本願明細書においても、その段落【0003】及び段落【0004】に、「【0003】そして、一般のマイクロコンピュータにおいては、周辺機能は内蔵しないが、高速な乗算器の代表例である並列型乗算器を内蔵したものは従来から存在している。しかしながら、これらのマイクロコンピュータは、エンジンの制御には不向きであった。その理由は、前記エンジン制御装置は標準ICのROMを用いることになり、ユーザーによって改造プログラムが比較的容易に組み込まれ、該改造プログラムによってエンジン制御がなされることがあり、この場合には、エンジンが排気の悪化や安全性の低下をきたす傾向があるからである。 【0004】また、前記並列型乗算器は、乗数を複数の部分に分割し、それらの各部分と被乗数を掛けた部分積を求める複数の部分積回路を有し、これら部分積を同時に加算する多入力の加算器よって構成されている。このために前記並列型乗算器は、CPUに匹敵する回路規模となることが多く、大容量のROMと前記並列型の乗算器を同一のマイクロコンピュータに内蔵させることが困難であった。」(3頁10〜23行)と記載され、「マイクロコンピュータにおいては、・・・高速な乗算器の代表例である並列型乗算器を内蔵したものは従来から存在している」こと、「前記並列型乗算器は、乗数を複数の部分に分割し、それらの各部分と被乗数を掛けた部分積を求める複数の部分積回路を有し、これら部分積を同時に加算する多入力の加算器よって構成されている」こと、が主張されているので、マイクロコンピュータにおいて、乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器を内蔵することは、従来から存在していた、と主張されていることになる。
エンジン制御装置において、自己診断を含むエンジン制御装置は、周知である(必要なら、特開平4-331329号公報、特開平7-166953号公報参照。)。
したがって、刊行物1には、乗算部を設け、ノック検出を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算部を用いて制御量の算出を行うことが、記載されていると認められるので、周知事項を適用し、もって、乗算器を内蔵し、ノック検出、及び、自己診断を含むエンジン制御を実施するにあたって前記乗算器を用いて制御量の算出を行うこと、とすることは、当業者が容易に発明し得たことである。
〈効果の予測性〉
発明の効果の予測性について、検討する。
本願明細書の段落【0047】の【発明の効果】の項に「以上の如く構成された本発明は、マイクロコンピュータに乗算器と逓培回路を設けたことにより、プログラムの処理時間を短縮し、単一のマイクロコンピュータにより複数の制御機能あるいは検出処理を可能にした。このため装置自体の小型化が達成できると共に、経済的でもある。」(16頁22〜25行)と記載されている。
更に、本願明細書の段落【0010】に「その目的は、特に、単一のマイクロコンピュータでありながら、複数の制御機能並びに検出機能を容易に実現でき、迅速、確実に処理するエンジン及び自動車の制御装置を提供することである。」(5頁13〜16行)、同段落【0014】に「マイクロコンピュータに、被乗数に乗数の複数桁づつ掛ける乗算器を内蔵することによって、乗算処理時間が短縮され各制御機能及び検出処理の処理時間が短縮され、単一のマイクロコンピュータでこれらの処理が実行可能となった。」(6頁18〜21行)、同段落【0016】に「更にまた、単体のマイクロコンピュータに要する基板面積は、複数のマイクロコンピュータを用いる場合よりも小型にでき、経済的かつ小型にエンジン制御装置を構成することができる。」(7頁4〜6行)、及び、同段落【0026】に「該改造プログラムによる制御がなされることを防ぐために、プログラムの少なくとも一部分をユーザが容易に書き換えることのできない内蔵ROMに格納するべく、前記マイクロコンピュータ200にROM216と乗算器(MUL)220とを内蔵した構成とした。」(9頁22〜25行)との記載がある。
先ず、計算機において、乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器である、とすることについて検討する。
計算機において、乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器である、とすることは、周知である。必要なら、刊行物2、刊行物3、渡邊茂、正田英介、矢田光治編「マイクロコンピュータハンドブック」第1版第1刷 株式会社オーム社 昭和60年12月25日 p.63〜65(例えば「ここで示したアルゴリズムはym,ym-1の2けたの値によりPmを決めたが,ym+1,ym,ym-1の3けたの値により+2・X・2m,X・2m,0,-X・2m,-2・X・2mの1つを選択してPmとし,各Pmの総和を求めて積を算出することもできる.」〈64頁右欄25行〜65頁左欄4行〉との記載がある。)、及び、長尾真 稲垣康善 辻井潤一 中田育男 石田晴久 田中英彦 所真理雄 米澤明憲編「岩波情報科学辞典」第1刷 株式会社岩波書店 1990年5月25日 p.331(「乗算の基本的操作は,被乗数と乗数の一部分(1または複数ビット)の積として得られる部分積の生成と,これら部分積の加算からなる.高速乗算器を実現するためには,部分積の生成機構の数を減らし,かつ個々の機構を単純な構成にしなければならない.その代表的手法が†ブースの方法である.」〈左欄「乗算器 multiplier」の項の5〜10行〉との記載がある。)が参照される。この計算機において、周知である事項は、コンピュータを用いる場合において共通に望まれる作用効果なので、当該事項をマイクロコンピュータを用いてエンジンを制御するエンジン制御装置に適用することは、当業者が容易になしえたことである。
なお、このことは、平成14年8月26日付の手続補正について(特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとし)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討したことになる(他の特定事項については、「IV.対比及び判断」で、既に、検討されている。)。
そこで、プログラムの処理時間の短縮については、周知例である刊行物2にも、「その目的は読出し専用メモリ(ROM)に記憶されている部分積の演算結果を利用して乗数を複数桁ずつまとめて演算操作を行なうことによつて、乗算に要する時間を短縮できる演算回路を提供することにある」(2頁上左欄16〜20行)と記載され、周知例である刊行物3にも、「複数桁単位により演算を行うため、メモリに対し格納・読出しを行うアクセス回数が大いに減少された。従って小型計算機であっても、演算速度の高速化されたものが得られるという効果がある。」(2頁下左欄6〜10行)と記載されている如く、周知の効果であり、予測されるものである。
そして、処理時間が短縮されるならば、単一のマイクロコンピュータでこれらの処理が実行可能となることは、周知のことである[必要なら、特開平5-332194号公報(「このようにクランク角周期を2バイトに抑えることにより演算部分のプログラムは短く簡単になり、処理速度も短縮できる。また、エンジン回転数が高くクランク角周期が短いとき、分解能を小さくするので検出精度も確保でき、マイコンの処理負担を軽減できる。これによって、一つのマイコンでエンジン制御と失火検出をする場合に有利である。」〈5頁8欄21〜27行〉との記載がある。)参照。]。
更に、マイクロコンピュータは、小さくともよいのであるから、小型化でき(刊行物3にも、「小型計算機であっても、演算速度の高速化されたものが得られるという効果がある。」〈2頁下左欄9〜10行〉と記載されている。)、延いては経済的でもあることも当業者が、当然、予測できることである。
ROMにより改造を防止することは、周知である[特開平3-296842号公報(「そのような不正に改ざんや消去などされては困る情報を一度だけ書き込みが可能で書き換えおよび消去の不可能のOTPROM(7)に記憶させ、」(2頁上右欄16〜19行)、「この発明は、ICカードに限らず、不揮発性メモリ内蔵マイコンであればその利用が可能である。」(2頁下左欄5〜6行)、及び「不正に改ざんや消去することを防止できるという効果を奏する。」〈2頁下左欄11〜13行〉との記載がある。)参照。]
しかしながら、被乗数に乗数の複数桁づつ掛ける乗算器、マイクロコンピュータが単一であること、及び、プログラムをROMに格納すること、は特許請求の範囲の請求項1には、記載されておらず、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張とはなりえない。
そして、本願発明の構成によってもたらされる他の効果も、刊行物1に記載された発明、及び周知事項から当業者であれば予測できる程度のものである。

なお、出願人は、「本願の発明の出願前に、エンジン制御に用いられるマイクロコンピュータに乗算器を備えたものが、存在していた訳ではありませんので、前記エンジン制御に用いられる乗算器を備えたマイクロコンピュータは、本願の出願時に新規な構成と云うことができるものであります。」(平成14年10月3日付け手続補正書(方式)7頁3〜7行)、及び、「更に、本願の発明は、前記構成(i)の『エンジン制御装置に乗算器を内蔵したマイクロコンピュータを用いた』構成とした点を前提として、前記乗算器を前記構成(ii)の『乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器』に、構成を具体的に特定したものであり、該特定構成とすることによって、前記(ハ)の作用効果、即ち、『乗算処理時間が短縮され各制御機能及び検出処理の処理時間が短縮される制御が実行可能』を奏するものでありますので、引用例1に記載のエンジンの制御装置から本願の発明の前記構成(i)を前提として前記構成(ii)とすることが、当業者と云えども容易に予測できるものではありません。 更にまた、引用例2〜引用例4には、前記(5)で記載した構成が示されておりますが、本願の発明の前記構成(i)、(ii)については、何らの記載もなく、かつ、示唆もされておりませんので、引用例1に記載のエンジンの制御装置に、引用例2〜引用例4に記載の構成を適用、もしくは、引用例1に記載のエンジンの制御装置と引用例2〜引用例4に記載の構成とを寄せ集めてみたところで、本願の発明が構成される訳でも、本願の発明が容易に予測できるものでもありません。」(平成14年10月3日付け手続補正書(方式)7頁19行〜8頁5行)と主張しているので、検討する。
i)「もの」が存在していることが、進歩性を否定する場合に、必ず必要であるわけではない。勿論、新規性を否定する場合も同様である。
ii)「エンジン制御装置に乗算器を内蔵したマイクロコンピュータを用いた」構成については、刊行物1には、「エンジン制御装置に乗算部を設けたマイクロコンピュータを用いた」構成が記載されており、乗算器を内蔵することは、(a)設計事項であり、(b)刊行物1にも、ECUに機能部を内蔵せしめることが、記載されていると認められるので、当業者が適宜なしえたことであり、(c)しかも、周知事項であり、「乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器」については、「V.対比及び判断」の〈効果の予測性〉について検討した箇所に示したように周知事項であり、「乗算処理時間が短縮され各制御機能及び検出処理の処理時間が短縮される制御が実行可能」については、「V.対比及び判断」の〈効果の予測性〉の項において示した如く、刊行物2には、「その目的は読出し専用メモリ(ROM)に記憶されている部分積の演算結果を利用して乗数を複数桁ずつまとめて演算操作を行なうことによつて、乗算に要する時間を短縮できる演算回路を提供することにある」(2頁上左欄16〜20行)、及び、刊行物3には、「複数桁単位により演算を行うため、メモリに対し格納・読出しを行うアクセス回数が大いに減少された。従って小型計算機であっても、演算速度の高速化されたものが得られるという効果がある。」(2頁下左欄6〜10行)と記載されている如く、周知の効果である。
「乗数の桁数を複数に分割し、被乗数に前記乗数の複数桁ずつを乗算する乗算器」は特許請求の範囲の請求項1には、記載されておらず、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張ではない。

VI.むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明、及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-01 
結審通知日 2005-03-01 
審決日 2005-03-15 
出願番号 特願平7-169061
審決分類 P 1 8・ 572- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 浩所村 陽一  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 亀井 孝志
平城 俊雅
発明の名称 エンジン制御装置  
代理人 平木 祐輔  

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