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審決分類 審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  E02D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E02D
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  E02D
管理番号 1115914
審判番号 無効2004-80112  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-27 
確定日 2005-05-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3449608号発明「地下構造物用錠装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認めない。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.特許出願(特願2000-49847号) 平成12年2月25日
2.設定登録 平成15年7月11日
3.無効審判請求 平成16年7月27日
4.答弁書及び訂正請求 平成16年10月12日
5.上申書(被請求人) 平成16年10月26日
6.弁ばく書 平成16年11月26日
7.口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年1月20日
8.口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年1月28日
9.口頭審理(特許庁審判廷) 平成17年1月28日
10.訂正拒絶理由(口頭審理において通知) 平成17年1月28日
11.意見書、手続補正書、上申書(被請求人) 平成17年2月25日

第2.請求人の主張
請求人が、審判請求書及び弁ばく書において主張する無効理由及び証拠方法は、概ね以下のとおりである。

1.無効理由1(進歩性の欠如)
特許第3449608号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平10-266246号公報)には、以下のA、B、C’、D’、E’、Fの事項が記載されている。
A.地下構造物用蓋1は、円環状の受枠2と、この受枠2の開口部を開閉する蓋本体3とからなり、蝶番で連結されている点。(第3頁第3欄第40〜47行)
B.蓋本体3を落とし込むと係合部53は錠本体10の係止部102に当接して錠本体10を回動させ、蓋本体3をさらに落とし込むと、係止部102は係合部材5内に入り込むようになり、蓋本体3も受枠2に支持されて閉蓋が完了する。蓋本体3を円周方向に回動しながら引き上げると、係合部53は係止部102を通過可能となって解錠状態となる錠本体10を受枠2側に設けてある点。(第4頁第5欄31〜42行及び第4頁第6欄第18〜31行)
C’.錠本体10は上端に、蓋本体3を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより係合部53と係合可能な係止部102を有する錘部101を有する点。(第4頁第5欄第31〜42行)
D’.錠本体10は受枠2の内側に設けてある点。(第2頁第2欄第41〜47行)
E’.錠本体10は、解錠のために蓋本体3が受枠2より上まであげられ、その後蓋本体3に加えられる動きにより係止部102が係合部53から外れ施錠を解除可能に、受枠2に設けられている点。(第4頁第6欄第18〜31行)
F.図6(a)において、錠本体10が時計方向に回動すると、コイルバネ9にはコイルバネ9が捻れることによって錠本体10を押し返す付勢力で錠本体10を施錠姿勢に戻すように作用する点。(第4頁第5欄第18〜22行)

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平11-131515号公報)には、以下のC’の事項が記載されている。
C’.係合部材3は、蓋体2を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体2の周縁部内側に設けられている係合縁5と係合可能なフック3aを有する点。(第3頁第3欄第46行〜第4欄第2行及び第4欄第6〜8行)

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平10-168923号公報)には、以下のD’、Gの事項が記載されている。
D’.施錠鉤15はスライド溝17に案内され、支持軸12により上下方向へ移動可能に設けられている点。(第5頁第7欄第44行〜第8欄第33行)
G.施錠鉤15は、鉤本体15aの上部両側には側部15b,15bを立ち上げている点。

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平11-190038号公報)には、以下のE’の事項が記載されている。
E’.蓋体1が引き上げられると、係合部2aとフック部3の先端3aとが相互に係合して施錠状態になるが、引き上げた状態で蓋体1を水平方向に引き出すと、フック部の先端3aが解錠方向に移動し、さらに水平方向に引き出すと、係合部2aと先端3aとの係合が完全に解除され、開蓋できる点。(第3頁第4欄第18〜30行及び第35〜48行)

(5)対比・判断
ア.請求項1について
請求項1に係る発明は、鉤部16に係合可能な錠止部27が蓋体12の周縁部内側に設けてあるのに対し、甲1では蓋本体3の下面に設けた係合部材5に設けてあり、また鉤部材15が、枠体11の内部に設けられているガイド部19に案内される軸部21,42により上下方向へ移動可能に設けられているのに対し、甲1では、軸8に錠本体10が移動および回動可能に設けてあり、また解錠のため蓋体12が枠体12よりも上までガイド19の範囲であげられ、その後蓋体12に加えられる内外方向への動きにより鉤部16から錠止部分27が外れて施錠を解除可能になるのに対し、甲1では蓋本体3が受枠2よりも上まであげられて錠本体10の係止部102から係合部材5の係合部53が外れて施錠を解除可能になり、甲2では蓋体2の周縁部内側に係合縁5を設けてあり、また甲3では施錠鉤15がスライド溝17に案内される支持軸12により上下方向へ移動可能に設けられており、また甲4では蓋体1を引き上げた状態で蓋体1を水平方向に引き出すと、係合部2aとフック部先端3aとの係合が完全に解除されて開蓋できるのであって、請求項1に係る発明及び甲1ないし4はすべて地下構造物用蓋の施錠構造に関するものであるから、甲1ないし4記載のものを請求項1に係る発明に適用することは、当業者にとって容易である。

イ.請求項2について
請求項2に係る発明は、鉤部材15は蓋体12を施錠状態とする方向へ弾性手段によって付勢されているが、甲1も錠本体10は蓋本体3を施錠状態とする方向へコイルバネ(弾性部材)9によって付勢されている。

ウ.請求項3について
請求項3に係る発明は、鉤部材15は上端に鉤部16を有する縦長の鉤杆17を2個左右に並結した構造を有しているが、甲3も縦長の側部15bを左右に有している。

2.無効理由2(記載不備)
本件特許の請求項1に係る発明で特定される事項の構成要件「ガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向に移動可能に設けられており、」は、発明の詳細な説明に記載されておらず、特許法第36条第6項第1号に違反するので、本件特許は、特許法第123条第1項第3号に該当し、無効にすべきである。
(1)本件の請求項1には、「鉤部材(15)は、・・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、」と記載されており、ガイド部(19)に案内されるのは、軸部(21、42)のみであり、鉤部材(15)が案内されるものではない。そして、鉤部材(15)は、軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に、設けられているのであって、ガイド部(19)に案内されるものではない。
しかし、図1から図6に記載されている本件特許発明の実施例1によれば、「鉤部材15は、左右の側辺部を囲むように枠体11の内側に設けられた左右のガイド部19、19によって上下方向へ移動可能に設けられている(図5参照)。」(本件特許公報第2頁第2欄第44〜47行)と記載され、また、図5によれば、枠体11の内側に設けられている左右のガイド部19、19が鉤部材15の左右の側辺部を囲んで上下方向に移動可能に支持している状態が示されている。
したがって、本件の請求項1の特許発明の「かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、」の記載は、実施例1の記載と明らかに矛盾しているし、しかも請求項1に「軸部(21、42)と記載して、実施例1の軸部が請求項1を含むような表現である。このような点から、本件の請求項1の特許発明は、実施例1の構成を記載しているのではないから、特許発明が、発明の詳細な説明に記載したものと認められない。

(2)本件特許発明の実施例2である図7から図9までの構成は、「軸部42は鉤部材15に設けられていて一体として上下方向へ移動可能である点で相違している。実施例2の場合、ガイド部19に形成されているガイド溝43に、鉤部材15の下端の軸部42を嵌めその溝内で上下方向へ移動可能とされる。」(本件特許公報第3頁第4欄第1〜6行)であって、軸部42と鉤部材15とは一体であり、しかもガイド部19のガイド溝43に軸部42を嵌めて、鉤部材15をガイド溝43内で上下方向へ移動可能にしているのである。
したがって、本件の請求項1の特許発明は、実施例2のみを限定的に記載したものであって、明細書及び図面の大部分である実施例1については、記載されていない。

(3)したがって、本件の請求項1の特許発明は、発明の詳細な説明のごく一部にしか記載されていないので、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること、と規定する特許法第36条第6項第1号に違反する。

3.訂正の適否(特許請求の範囲の実質的変更・拡張の禁止の違背)
平成16年10月12日付けの訂正請求書により訂正請求された訂正は、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものである。
(1)訂正前の請求項1において、鉤部材(15)は「枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられ」た構成であったところ、訂正後では、鉤部材(15)が「枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより上下方向へ移動可能に設けられている」構成となった。
すなわち、訂正前の請求項1によれば、ガイド部(19)に案内されるのは軸部(21、42)のみであり、軸部(21、42)により鉤部材(15)が上下方向へ移動可能に設けられているのに対し、訂正後の請求項1では、鉤部材(15)は、軸部材(20)の軸部(21)を軸承する軸受け部(18)及びガイド部(19)に案内されるものであり、訂正前後では、鉤部材(15)の上下方向へ移動の案内において著しく相違する。
したがって、この訂正は、訂正前の請求項1を減縮するために発明特定事項を直列的に付加するものに該当するものではなく、請求項1に記載された発明特定事項を他のものに入れ替えたというべきであり、特許請求の範囲を実質的に変更するものである。

(2)訂正前の請求項1では、蓋体(12)は、解錠のために「枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」る構成であったところ、訂正後では、蓋体(12)は、解錠のために「枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ」る構成に訂正した。
すなわち、訂正前の請求項1によれば、解錠の際に、蓋体(12)が枠体(11)よりも上に上げられる範囲は、ガイド部(19)の範囲内に限られるのであって、ガイド部(19)の範囲と縦長の軸受け部(18)の範囲を加え合わせた上下方向の範囲にまで蓋体(12)が枠体(11)より上まであげられるものではないが、訂正後の請求項1では、蓋体(12)が枠体(11)よりも上まであげられる範囲は、ガイド部(19)の範囲と縦長の軸受け部(18)の範囲を加え合わせた上下方向の範囲であると解釈されるから、蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで上げられる範囲は、訂正後では、訂正前に比べて拡張される。
したがって、この訂正は、訂正前の請求項1を減縮するために発明特定事項を直列的に付加するものに該当するものではなく、特許請求の範囲を実質的に変更するものである。

第3.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、請求人が主張する無効理由に対して、概ね、次のように反論している。
1.無効理由1(進歩性の欠如)に対して
(1)甲第1号証について
ア.甲第1号証の発明は、枠体側に錠本体10を設け、蓋体側に係合相手を求めている点で本件特許発明のものと共通性を有してはいるが、施錠、解錠の具体的手段が全く相違している。まず、甲第1号証のものは、蓋体の裏面側に係合部材5という別部材を必要とすること、その係合部材5に対して錠本体10を解錠させるには蓋体の上下方向への移動の際に、蓋体を円周方向へ回動する必要があり、蓋体をバール等の工具を用いて開蓋する作業の動作方向を90度変化させなければならないため開蓋操作のスムーズさが損なわれていること等の理由によって本件特許発明1のものとは決定的に相違している。

イ.本件特許発明1は、鉤部材で路面等を傷付けたり、逆に鉤部材が損傷を蒙ったりすることがないように蓋体に鉤部材を備え、錠止部分を蓋体の周縁部内側に設けたものであるのに対し、甲第1号証に記載されたものの場合には、そのような目的、効果は全く達成されない。

ウ.甲第1号証には、本件発明の構成である「開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、」(構成B)、「その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を有し、」(構成C)、「かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、」(構成D)、「解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている」(構成E)が記載されておらず、請求人が主張する甲1号証に記載された構成C’、構成D’、構成E’がどのようなものであるか明らかでない。

(2)甲第2号証について
甲第2号証に記載されたものは、係合縁5との引っ掛かりを外して解錠するためには、マンホール蓋を円周方向へ回動させる必要があり、甲第2号証に構成Cに相当する構成の記載があるとはいえない。

(3)甲第3号証について
甲第3号証に記載されたものにおける内外方向への動きによる解錠とは、当接面15dを支点とする、テコのような回転動作を必要とするもので、本件特許発明の、内外方向の動きがそのまま鉤部(16)を錠止部分(27)から外れるようにした構成とは相違する。
また、本件特許発明3は、鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を2個左右に並結した構造を有するものであるが、甲第3号証の係合爪部16はただ1個あるのみであり、本件特許発明3と相違する。

(4)甲第4号証について
甲第4号証に記載されたものは、錠3を蓋体側に設けている点で本件特許発明と相違しており、操作上の説明が似ているため、請求人は、本件特許発明の構成Eの一部E’が甲第4号証に記載されていると主張しているが、全体的な構成が全く相違する。

2.無効理由2(記載不備)について
(1)訂正前明細書の特許請求の範囲の請求項1には、軸部(21)を設けてある軸部材(20)の記載がなく、そのため、軸部(42)がガイド部材(19)のガイド溝(43)に案内されるのに対して、軸部材(21)が何によって案内されるのかが不明りょうと見なされる原因となっていた。これは、軸部材(20)を含む実施例1と、軸部材(20)を含まない実施例2とを1項目で包括する記載としていたためである。

(2)訂正前明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、軸部(21、42)という記載方法に見られるように実施例1と2を択一的に記載しようとしたものであり、実施例2だけを記載したものではない。

(3)訂正請求した訂正により、鉤部材(15)は上端に鉤部(16)を有しており、枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)が軸受け部(18)に軸承されていること、従って、軸受け部(18)とガイド部(19)の範囲で蓋体(12)が枠体(11)の上まで上げられることが明確となった。

第4.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成16年10月12日付けの訂正請求は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び図面(特許の設定登録時の明細書及び図面であり、本件特許掲載公報のとおり。以下、「本件特許明細書」、「本件特許図面」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)及び図面のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正する。
「【請求項1】 地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有し、下部に軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより上下方向へ移動可能に設けられているとともに、蓋体(12)を施錠状態とする外方へ付勢されており、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」

(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0006】の記載を次のように訂正する。
「[課題を解決するための手段]
前記の課題を解決するため、本発明は開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有し、下部に軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより上下方向へ移動可能に設けられているとともに、蓋体(12)を施錠状態とする外方へ付勢されており、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されているという手段を講じている。」

(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0021】の記載を削除する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の図面の簡単な説明の内、【図7】、【図8】及び【図9】に関する記載を削除する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の図面の簡単な説明の内、【符号の説明】の「21、42軸部」を「21軸部」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許図面の【図7】、【図8】及び【図9】の記載を削除する。

2.訂正拒絶理由通知
平成17年1月28日の口頭審理において通知した訂正拒絶理由通知の内容は概ね以下のとおりである。
(1)訂正の目的要件の違背
a.訂正前の請求項1には、単なる図面の参照番号の記載である(21、42)を除き、格別に不明瞭な記載はない。
そして、請求項1で特定されている「ガイド部に案内される軸部」及び(上下移動の範囲である)「ガイド部の範囲」は、実施例2のみの構成である。
b.したがって、請求項1では文言上、構成は明確であり、その構成は実施例2に基づいている。敢えて不明な点をいうと、実施例1における図面の番号である(21)が実施例2の番号である(42)と併記されていることのみである。
c.また、実施例1では、「軸部は軸受け部に案内される」とともに、「ガイド部には鉤部材が案内され」、上下移動の範囲は「軸受け部の範囲」である。
d.しかし、訂正後の請求項1は、鉤部材が鉤部材自身に形成されている軸受け部に案内され、また、上下移動の範囲が「軸受け部及びガイド部の範囲」とされており、実施例1とも実施例2とも一致しない不明瞭な構成となっている。
e.したがって、請求項1に関する訂正は、特許請求の範囲の減縮にも、明瞭でない記載の釈明にも該当せず、訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きのいずれにも適合しない。

(2)新規事項追加の禁止の違背
上記(1)d.は、基準となる本件特許明細書、本件特許図面に記載されている事項の範囲内のものでなく、特許法第134条の2第5項により準用する同法126条第3項に適合しない。

(3)特許請求の範囲の実質的変更・拡張の禁止の違背
a.訂正前の請求項1では、軸部がガイド部に案内されることが、発明の構成要件であったものが、この構成が訂正後は削除されているため、この点に関しては特許請求の範囲を拡張するものである。
b.訂正前は、上記のとおり、軸部がガイド部に案内されるものであったものが、訂正後は、鉤部材がガイド部に案内されることとなった。これは、特許請求の範囲の変更である。
c.上下移動の範囲が、訂正前は「ガイド部の範囲」であったものが、訂正後は「軸受け部及びガイド部の範囲」となり、しかも、この範囲変更が特許請求の範囲の減縮にも明瞭でない記載の釈明にも該当しないことから、特許請求の範囲の実質的変更または拡張するものである。
d.また、上記a.〜c.を総合していうと、訂正前の請求項1は実施例2に関する構成であったものが、訂正後は、不明瞭な構成の記載はあるものの構成の異なる実施例1の構成とされており、特許請求の範囲の実質的な変更に当たる。
e.したがって、この訂正は、特許法第134条の2第5項により準用する同法126条第4項の規定に適合しない。

3.訂正請求の補正について
(1)手続補正書の内容
平成17年2月25日付けで提出された手続補正書による補正は、本件訂正明細書の内容を以下のとおりに補正しようとするものを含むものである。

特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有し、下部に軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより上下方向へ移動可能に設けられているとともに、蓋体(12)を施錠状態とする外方へ付勢されており、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」と訂正しようとするものを、明瞭でない記載の釈明ないしは特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】 地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有し、下部に枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて上下方向へ移動可能に設けられているとともに、蓋体(12)を施錠状態とする外方へ付勢されており、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)の範囲で上げられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」と訂正しようとするものに補正する。

(2)補正の適否
ア.上記(1)の補正は、請求項1の「(鉤部材は)下部に軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより」の記載を「(鉤部材は)下部に枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて」と補正するものである。(以下、「補正事項1」という。)
また、請求項1の「(蓋体が)軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ、」の記載を「(蓋体が)軸受け部(18)の範囲で上げられ、」と補正しようとするものである。(以下、「補正事項2」という。)

イ.上記補正事項1により、訂正内容は、鉤部材は軸受け部とガイド部に案内されるものであると訂正しようとするものが、鉤部材はガイド部に案内されるものであると訂正しようとするものに補正されている。
したがって、この補正は訂正事項を変更する補正である。

ウ.上記補正事項2により、訂正内容は、蓋体が軸受け部及びガイド部の範囲で上げられるものであると訂正しようとするものが、蓋体が軸受け部の範囲で上げられるものであると訂正しようとするものに補正されている。
したがって、この補正は訂正事項を変更する補正である。

エ.以上のように、この補正は、訂正事項を変更する補正を含むものであるから、請求の要旨変更に当たり(平成8年(行ケ)222号(平成11年6月3日、東京高裁)参照)、特許法第134条の2第5項で準用する同法第131条の2第1項の規定に適合しない。
よって、この訂正請求書の補正を認めることはできない。

4.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的要件の違背
ア.本件特許明細書の請求項1の記載に不明瞭な記載があったかどうかについて検討すると、被請求人は、平成17年2月25日付け意見書の4.訂正拒絶理由解消の事由(2)2)において、本件特許明細書の請求項1の「(鉤部材は)ガイド部19に案内される軸部21、42により上下方向へ移動可能に設けられている」の点は、鉤部材とガイド部と軸部との相互関連構成が不明であるから、鉤部材が蓋体と結合された状態で軸部によってどのように上下移動することとなるのか具体的移動構造が不明であると述べている。
しかしながら、本件特許明細書の請求項1の記載のうち「(鉤部材(15)は)解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている」の記載により、鉤部材と蓋体とが鉤部と錠止部分の係合により結合された状態で、ガイド部の範囲であげられることが明らかであり、「(鉤部材は)枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、」の記載は、鉤部材がガイド部の範囲であげられるための具体的な構成として記載されているものと解され、鉤部材の上下方向の動きがガイド部の範囲によって規定されているためには、「ガイド部に案内される軸部」は少なくとも鉤部材と一体となって上下移動するものであることが一義的に解釈できる。
そうすると、本件特許明細書の請求項1において、鉤部材とガイド部と軸部との相互関連構成を限定する記載がないとしても、上記「(鉤部材は)ガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられている」の意味するところは、蓋体が持ちあげられたときに、鉤部材が蓋体とともに上方向に移動し、鉤部材と一体となって移動する軸部がガイド部に沿って移動することにより、蓋体と鉤部材は、軸部がガイド部の上端に達するまで上方向に移動するものであると合理的に解釈でき、そのように解釈したとしても請求項1全体の記載に何ら矛盾するところがない。
したがって、発明の詳細な説明を参照することなく、本件特許明細書の請求項1に係る発明は、その記載の文言から明確に把握することができるといえる。

イ.請求項1の記載を、上記ア.のように解釈すれば、本件特許明細書の請求項1で特定される発明は、本件特許明細書中の実施例2のものとも矛盾なく、このことから、請求項1の記載は明確であり、本件特許明細書中の実施例2のものに基づいたものであるといえる。
この点について、被請求人は、平成17年2月25日付け意見書の4.訂正拒絶理由解消の事由(2)3)において、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部19に案内される軸部42により」及び「(鉤部材の上下移動の範囲が)ガイド部19の範囲」の記載が、実施例2に特有な構成ではない旨主張している。
すなわち、被請求人は、実施例2の軸部は、鉤部材に一体に形成されており、鉤部材の上下移動に伴って上下移動するに過ぎず、ガイド部が軸部42を案内するものではなく、鉤部材に一体に形成されている軸部が鉤部材を上下移動させるということもないと述べている。
しかしながら、本件特許明細書の【0021】及び図9の記載によれば、実施例2の鉤部材の下端の軸部は、ガイド部に形成されているガイド溝に嵌められたものであり、その溝内で上下方向へ移動可能とされている。これは、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部19に案内される軸部42により」及び(鉤部材の上下移動の範囲が)「ガイド部19の範囲」の記載と何ら矛盾しない。
したがって、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部19に案内される軸部42により」及び(鉤部材の上下移動の範囲が)「ガイド部19の範囲」の記載が実施例2に特有の構成ではないとする被請求人の主張は採用できない。
また、本件特許明細書の請求項1の記載が、本件特許明細書の実施例1に基づくものかどうかについて検討すると、本件特許明細書の【0014】、【0015】及び図1〜6の記載によれば、実施例1において、軸部は軸受け部に案内され、ガイド部には鉤部材が案内されるとともに、上下移動の範囲は軸受け部の範囲である。これは、本件特許明細書の請求項1の「(鉤部材は)枠体の内側に設けられているガイド部に案内される軸部により上下移動可能に設けられており」の記載、及び「解錠のために蓋体が枠体よりも上までガイド部の範囲であげられ」の記載と整合しておらず、本件特許明細書の請求項1の記載が、実施例1に基づくものとすることはできない。
そうすると、本件特許明細書の請求項1で特定される発明は、本件特許明細書中の実施例2のみに基づくものと解さざるを得ない。

ウ.一方、本件訂正明細書の請求項1の記載を検討すると、本件訂正により、請求項1の「(鉤部材は)枠体の内側に設けられているガイド部に案内される軸部により上下方向へ移動可能に設けられており、」の記載が「(鉤部材は)枠体に取り付けられている軸部材の軸部を軸承する当該軸受け部と枠体の内側に設けられているガイド部に案内されることにより上下方向へ移動可能に設けられているとともに、」とされており、これは、特許請求の範囲の減縮に当たらないことが明らかであるとともに、鉤部材が鉤部材自身に形成されている軸受け部に案内されるという不明瞭な記載となっている。したがって、この訂正は、明瞭であった記載を不明瞭な記載とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当しない。
また、本件訂正により、(鉤部材の上下移動の範囲が)「ガイド部の範囲まであげられ、」の記載が「軸受け部及びガイド部の範囲で上げられ、」の記載では、軸受け部及びガイド部で決まる範囲とはどのようなものか不明であり、発明の詳細な説明をみても、実施例1とも実施例2とも一致しない不明瞭なものである。さらに、軸受け部及びガイド部の範囲については、本件特許明細書、本件特許図面に記載されておらず、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部の範囲」が「軸受け部及びガイド部の範囲」の上位概念であったとも解することができない。
そうすると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮にも、明瞭でない記載の釈明にも該当しない。

エ.被請求人は、さらに、平成17年2月25日付け意見書の4.訂正拒絶理由解消の事由(2)3)において、本件特許明細書の請求項1の「軸部(21、42)」の符号について、単なる図面の参照番号ではなく、実施例1と実施例2との相違点に係る事項であり、本件訂正は、実施例1と実施例2を含むものから、実施例2に相当するものを除外し、実施例1に相当するものに限定しようとするものであるから、これは特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると述べている。
ところで、請求項の記載において各構成要素に付される図面上の符号については、特許法施行規則第24条の4による様式第29の2の[備考]14のロ(「請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは、当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる。」)に規定されており、該符号は、請求項の記載の内容を理解するために付される補助的手段にすぎず、特段の事情がない限り、符号の記載のみから、請求項に記載された内容を限定する機能を有するものではない。(後記(4)(サ)(シ)を参照。)
そして、上記「軸部(21、42)」の「21、42」が特許法施行規則第24条の4による所定の様式にしたがって記載されたものであることは明らかであり、本件特許明細書の請求項1に記載された技術内容に不明瞭な点もないから、請求項1の記載において、「軸部」について、実施例1に用いられる「21」と実施例2に用いられる「42」が付されていたからといって、このことから、請求項1に係る発明が実施例1と実施例2を含むものであると解することはできない。
そうすると、本件特許明細書の請求項1の「軸部(21、42)」の符号を根拠に、本件訂正は、実施例1と実施例2を含むものから、実施例2に相当するものを除外し、実施例1に相当するものに限定しようとするものとする被請求人の主張は採用できない。

オ.以上のように、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮にも、明瞭でない記載の釈明にも該当せず、特許法第134条の2第1項ただし書きのいずれにも適合しない。

(2)新規事項追加の禁止の違背
平成17年1月28日口頭審理において通知した訂正拒絶理由通知の新規事項追加の禁止の違背に関するものに応答して、被請求人は、平成17年2月25日付け手続補正書により、請求項1の「(鉤部材は)下部に軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより」の記載を「(鉤部材は)下部に枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて」と補正するとともに、請求項1の「(蓋体が)軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ、」の記載を「(蓋体が)軸受け部(18)の範囲で上げられ、」と補正したが、この補正は、上記3.(2)において、請求の要旨変更に当たるもので、この補正を認めることはできないとされた。
そして、上記訂正拒絶理由通知のとおり、本件訂正明細書の請求項1の「(鉤部材は)かつ枠体(11)に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する当該軸受け部(18)と枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されることにより上下方向へ移動可能に設けられているとともに、」の記載、及び(鉤部材の上下移動の範囲が)「軸受け部(18)及びガイド部(19)の範囲で上げられ、」の記載は、本件特許明細書、本件特許図面に記載されている事項の範囲内のものでなく、特許法第134条の2第5項により準用する同法126条第3項に適合しない。

(3)特許請求の範囲の実質的変更・拡張の禁止の違背
ア.本件訂正により、本件特許明細書の請求項1の「(鉤部材は)ガイド部に案内される軸部により上下方向に移動可能に設けられており、」の「ガイド部に案内される軸部」が削除されている点について、被請求人は、平成17年2月25日付け意見書の4.訂正拒絶理由解消の事由(4)1)において、本件特許明細書の請求項1の記載では、鉤部材、ガイド部、軸部の関連構成が不明であること、及び、軸部はガイド部に案内されて鉤部材を上下移動させるような機能にはなく、鉤部材を枠体側に軸支せしめる構造と鉤部材の上下移動の範囲を規制する構造に関与しているものであること、更に鉤部材がガイド部に案内されて上下移動するものであることが構成の前提となっていることが明らかである旨主張している。
被請求人は、上記主張において、軸部はガイド部に案内されて鉤部材を上下移動させる機能はない(軸部が鉤部材に対し、上昇する力を与えるとの意味と解される。)にもかかわらず、訂正前の記載では、軸部が鉤部材を上昇させている旨を述べており、「(鉤部材は)ガイド部に案内される軸部により上下方向に移動可能に設けられており、」の記載を、軸部が鉤部材を移動させる機能があるものとして解釈するものとしているが、請求項1の記載全体をみても、このように解釈すべき裏付けは見あたらない。
一方、上記(1)ア.において検討したように、「(鉤部材は)ガイド部に案内される軸部により上下方向へ移動可能に設けられている」の意味するところは、蓋体が持ちあげられたときに、鉤部材が蓋体とともに上方向に移動し、鉤部材と一体となって移動する軸部がガイド部に沿って移動することにより、蓋体と鉤部材は、軸部がガイド溝の上端に達するまで上方向に移動するものであると合理的に解釈でき、これは、被請求人が、構成の前提として明らかであるとしている、軸部が鉤部材を枠体側に軸支せしめる構造と鉤部材の上下移動の範囲を規制する構造に関与しているものであること、更に鉤部材がガイド部に案内されて上下移動するものであることと矛盾しない。
したがって、本件訂正による「ガイド部に案内される軸部」の削除が不明瞭な記載の釈明を目的とするものであるとはいえず、この訂正は、特許請求の範囲を実質的に拡張するものである。

イ.本件訂正により、本件特許明細書の請求項1の軸部がガイド部に案内されるものであったものが、鉤部材がガイド部に案内されることとなった点について、被請求人は、平成17年2月25日付け意見書の4.訂正拒絶理由解消の事由(4)2)において、本件特許明細書の請求項1の「軸部がガイド部に案内される」ことが字義どおりの意味で発明の構成要件として特定されているという事情がないから、この訂正が特許請求の範囲の変更には当たらないと述べている。
しかしながら、上記(1)ア.及び(2)ア.において検討したように、請求項1の記載に格別不明瞭な記載はなく、軸部がガイド部に案内されるものであっても何ら不合理ではない。そうすると、この訂正は、特許請求の範囲の実質的変更に当たる。

ウ.本件訂正により、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部の範囲」が「軸受け部及びガイド部の範囲」とされている点について、被請求人は、平成17年2月25日付けの手続補正書により、「軸受け部及びガイド部の範囲」をさらに「軸受け部の範囲」と補正したが、この補正は、上記3.(2)において、要旨変更に当たり、認められないものとされた。
そして、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部の範囲」が「軸受け部及びガイド部の範囲」とされている点について検討すると、上記(2)で検討したように、この補正は本件特許明細書、本件特許図面に記載されている事項の範囲内のものでない。そうすると、軸受け部とガイド部によって規定される範囲がどのようなものか不明ではあるものの、本件特許明細書の請求項1の「ガイド部の範囲」が「軸受け部及びガイド部の範囲」の上位概念であったとはいえず、この訂正は、特許請求の範囲の減縮にも、明瞭でない記載の釈明にも当たらず、特許請求の範囲を実質的に変更または拡張しようとするものであると認められる。

エ.上記ア.〜ウ.を総合すると、本件訂正は、実施例2に基づく構成であったものを、不明瞭な記載はあるものの、実施例1に基づく構成としようとするものであるから、特許請求の範囲の実質的な変更に当たる。

オ.したがって、この訂正は、特許法第134条の2第5項により準用する同法126条第4項の規定に適合しない。

(4)参考判決
明瞭であった記載の訂正が明瞭でない記載の釈明に当たらず、訂正が認められないこと(以下(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)参照)、出願人の意図とは異なった記載を訂正するものであっても訂正が認められないこと(以下(オ)、(カ)参照)、審査段階で請求の記載の不備が看過されて特許となったものであっても訂正が認められないこと(以下(キ)参照)、請求項の記載自体が明確であるときには発明の詳細な説明を参酌しないこと(以下(ク)、(ケ)、(コ)参照)、請求項において使用した符号により発明を限定して解釈しないこと(以下(サ)、(シ)参照)については、以下の例等を参照されたい。

(ア) 昭和41年(行ツ)1号、昭和47年12月14日判決、最高裁、(フエノチアジン誘導体の製造):
「本件における特許請求の範囲の項に示された式(化学式は末尾添付)中の「Aは分枝を有するアルキレン基」とする記載は、それ自体きわめて明瞭で、明細書中の他の項の記載等を参酌しなければ理解しえない性質のものではなく、また、それが誤記であるにもかかわらず、「Aは分枝を有するアルキレン基」とする記載のままでも発明所期の目的効果が失われるわけでなく、当業者であれば何びともその誤記であることに気付いて、「Aは分枝を有することあるアルキレン基」の趣旨に理解するのが当然であるとはいえないというのである。これによると、前記の「Aは分枝を有するアルキレン基」との記載は、上告人の立場からすれば誤記であることが明かであるとしても、一般第三者との関係からすれば、とうていこれを同一に論ずることができず、けつきょく、本件特許発明の詳細な説明の項中にその趣旨を表示された「Aは分枝を有するアルキレン基」と「Aは分枝を有しないアルキレン基」との両者のうち、前者のみを記載したのが本件特許請求の範囲にほかならないのである。」(理由 三)

(イ)平成7年(行ケ)102号、平成8年4月16日判決、東京高裁、(傾斜地利用の汚水処理方法およびその装置):
「以上のとおり、本件発明は、「誘導毛管現象」を惹起せしめることを必須の構成要件とし、「誘導毛管現象」の意味は、訂正前明細書の発明の詳細な説明中で、前記のとおり「不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象」と明瞭に定義されているところ、「誘導毛管現象」の意味を発明の詳細な説明の記載された定義どおりに解釈すると、特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解できず、その実施ができないとか、「誘導毛管現象」との用語を使用したことが一見して誤記に相当するものであることが明らかであるとするなどの事情も見いだせないから、訂正前の本件発明は、「不透水層に沿って流れる飽和浸透水流」の存在を必須の構成要件とするものと解すべきである。」(理由2(1)マル1)

(ウ)平成10年(行ケ)151号、平成11年9月7日判決、東京高裁、(ジョイントシートおよびその製造方法):
「以上のとおり、訂正前の本件特許請求の範囲の記載に不明瞭な点はなく、当該記載は、本件発明の詳細な説明の項に記載される技術的思想を義的に把握することができるものである。
よって、前記(2)の訂正及び(4)の訂正は、本件発明の特許請求の範囲における不明瞭な記載を明瞭にする訂正に該当しない。」(第5当裁判所の判断、4(1))

(エ)平成12年(行ケ)491号、平成14年10月21日判決、東京高裁、(フォイルチューブのパッキング方法及び装置):
「結局、「最終製品温度」の解釈としては、▲1▼の温度、すなわち市場において流通する際の温度しかあり得ず、また、この解釈は、「最終製品温度」との文言が通常観念させるものとも一致し、その点からも妥当といえる。さらに、上記特許異議申立事件において原告が特許庁に提出した平成12年4月27日付け意見書(甲第6号証)に「製品としての溶融性のチーズが最終製品として許容できる温度範囲は、0℃から室温程度であります」(5頁11行目〜12行目)及び「最終製品温度(0℃から室温程度)」(同23行目)との記載があるとおり、原告自身が認識する解釈にも一致するものであり、これ以外の解釈を採る余地はない。したがって、上記「最終製品温度」との記載は、それ自身が明りょうでない記載とはいえない。
・・・そうすると、「液状、半流動状、軟質又は微粉末状の物質」を「溶融性のチーズからなる物質」に限定した場合においても、「最終製品温度に冷却し」を「糊状態になるまで冷却し」に訂正することが、本件訂正を全体として見た場合にも、特許請求の範囲を減縮するものと認めることはできない。
以上検討したところによれば、本件決定の「『糊状態になるまで冷却するため』が、『最終製品温度に冷却するため』を意味するものとは理解することができない」(決定謄本4頁5行目〜7行目)及び「『最終製品温度に冷却するため』を『糊状態になるまで冷却するため』と訂正することは、実質的に特許請求の範囲を拡張することになることは明らかである」(同頁12行目〜14行行目)との判断に誤りはない。」(第5当裁判所の判断、1)

(オ)平成9年(行ケ)64号、平成10年3月17日判決、東京高裁、(脇下汗吸収パッド):
「しかしながら、実用新案法126条1項2号の規定に基づき、明細書の実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明を、誤記を理由に訂正することが認められるためには、当業者において当該実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明をみた場合に明らかに誤記と認め得るものであることを要し、たとえ出願人の意図とは異なった記載がなされてしまった場合であっても、当該実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明の記載の字義どおりに解しても、当業者において、技術的意義を明確に理解でき、当該考案を実施できるときは、誤記を理由に訂正することはできないというべきであって、その場合に、図面の記載のみを根拠に訂正を認めることができないことは訂正制度の趣旨からして明らかである。」(【理由】第2 3)

(カ)平成10年(行ケ)336号、平成12年3月2日判決、東京高裁、(多層セラミック低温形成方法):
「しかしながら、特許請求の範囲の記載に誤記があるか否かは、特許権者の主観的意図にかかわらず、第三者ないし当業者との関係で客観的に判断されるべきところ、本件請求項2及び3における「触媒添加」が誤って記載されたものであり、それが削除された記載が正しいことが本件明細書に接する当業者にとって客観的かつ一義的に明らかであると認めることはできない。」(【理由】2)

(キ)平成16年(行ケ)173号、平成17年1月31日判決、東京高裁、(熱可塑性樹脂とシリコーンゴムとの複合成形体の製造方法):
「また,「但し,一次射出成形後に120℃未満の温度で冷却する工程を含まない」との文言を削除する本件訂正は,誤った記載をその本来の意味内容に正すものであるとは認められないし,不明りょうな記載についてその本来の意味内容を明らかにするものであるとも認められないから,訂正事項aは特許法旧126条1項ただし書にいう「誤記の訂正」にも「明りょうでない記載の釈明」にも該当しない。
なお,原告が主張するように,審査段階において行った補正の違法性が看過されて特許されたという事情があるとしても,そのことによっては,当該補正によって挿入された文言を削除する訂正が直ちに「誤記の訂正」や「明りょうでない記載の釈明」に該当するとはいえない。この点に関する原告の主張も,独自の見解であって,採用することができない。」(第5当裁判所の判断、1(3))

(ク)昭和62年(行ツ)3号、平成3年3月8日判決、最高裁、(トリグリセリドの測定法):
「特許法29条1項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当っては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」(理由 三)

(ケ)平成元年(行ケ)42号、平成2年4月24日判決、東京高裁、(ロール状転写シート):
「考案の要旨の認定は、出願に係る考案が設定登録を受ける要件を具備するか否かを判断する手法として、当該考案の登録請求の範囲に記載された技術的事項を明確にするために行われるものであって、当該考案の登録請求の範囲の記載からその技術的事項が明確である限りその記載に従って考案の要旨を認定すべきであり、明細書の考案の詳細な説明に記載された事項や願書添付図面の記載からその要旨を限定的に解釈することはできないというべきである。」(理由 二 1)

(コ)平成4年(行ケ)116号、平成5年12月21日、東京高裁、(銅合金の製造方法):
「ところで、発明の要旨の認定、すなわち特許請求の範囲に記載された技術的事項の確定は、まず、特許請求の範囲の記載に基づくべきであり、その記載が一義的に明確であり、その記載により発明の内容を的確に理解できる場合には、発明の詳細な説明に記載された事項を加えて発明の要旨を認定することは許されず、特許請求の範囲の記載文言自体から直ちにその技術的意味を確定するのに十分といえないときにはじめて発明の詳細な説明中の技術的課題(目的)、実施例等に関する記載を参酌することができるにすぎないと解される。」(第三 争点に対する判断 一 取消事由2について)

(サ)昭和52年(行ケ)192号、昭和55年5月22日、東京高裁、(映画・及びテレビ撮影カメラ用バリオ対物レンズ駆動装置)
「しかしながら、本来、実用新案登録請求の範囲の記載にあたって、図面中の符号を用いるのは、その考案の技術的創作の内容をより理解しやすくするための補助的手段にすぎない。(実用新案法施行規則第2条に基づく様式3[備考]12ロ参照。)から、当該考案の要旨となる技術内容が符号を用いて図示されたもののみに限定解釈されるべきものではない。考案の技術的創作の内容は、実用新案登録請求の範囲に記載された文言に基づいて合理的に解釈認定されるべきものであり、その記載に矛盾や不明瞭な点があればともかく、実用新案登録請求の範囲における記載文言上、不明瞭なところがなく、考案の技術思想を理解できる場合には、考案の要旨を実施例についての説明もしくはそこに図示された具体的構成のみに限定して解釈認定することは許されないところである。」(理由 2 1’(原告主張の特徴(1)について)

(シ)昭和59年(行ケ)168号、昭和60年10月23日判決、東京高裁、(二重ヒンジ連結対および中央焦点調節装置を持つ双眼鏡)
「そこでまず、実用新案登録請求の範囲に記載の符号について考えるに、実用新案法成功規則2条による様式第三の備考12のロには、『「実用新案登録請求の範囲」の記載の内容を理解するため必要があるときは、当該願書に添付した図面において使用した符号をかつこをして用いる。』と規定されている。このことからすると、実用新案登録請求の範囲の文言下にかつこをもつて付加された符号は、他に特段の事情がない限り、これに記載された内容を理解するための補助的機能を有するにとどまり、その範囲を越えて右符号のみから、実用新案登録請求の範囲に記載された内容を限定するような機能までは有しないものと解すべきである。」(理由 二 2 相違点その二について(二))

第5.無効理由2についての判断
平成16年10月12日付けの訂正請求による明細書の訂正は認められないから、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の「鉤部材(15)は、・・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、」の点が、発明の詳細な説明に記載したものであるかどうかについて検討する。
本件特許明細書の請求項1の記載は、上記第4.4.(1)ア.において検討したように格別不明瞭な記載はなく、上記第4.4.(1)イ.において検討したように、本件特許明細書の請求項1で特定される発明は、本件特許明細書中の実施例2のものに基づくものと解することができるから、本件特許明細書の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
したがって、請求人が無効理由2(記載不備)で主張する理由によって、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものとすることはできない。

第6.無効理由1についての判断
1.本件発明
平成16年10月12日付けの訂正請求による明細書の訂正は認められないから、本件特許の請求項1ないし請求項3(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、同様に請求項2以下も、「本件特許発明2」等という。)に係る発明は、本件特許明細書及び本件特許図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を有し、かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。
【請求項2】
鉤部材(15)は蓋体(12)を施錠状態とする方向へ弾性手段によって付勢されている請求項1記載の地下構造物用錠装置。
【請求項3】
鉤部材(15)は上端に鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を2個左右に並結した構造を有している請求項1又は2記載の地下構造物用錠装置。」

2.甲第1号証
請求人が提出した甲第1号証である特開平10-266246号公報(以下、「甲第1号証」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
先ず本発明の地下構造物用蓋の施錠構造の実施例を図1〜図6を用いて説明する。地下構造物用蓋1は、下水道等の地下構造物へ通じる縦孔等の地上部に設けられる略円環状の受枠2と、この受枠2の略円環状の開口部を開放あるいは閉止可能に閉塞する蓋本体3とから成り、受枠2と蓋本体3とは受枠2の蝶番受座4に設けた蝶番(図示せず)で連結し、蓋本体3の、蝶番とは反対側周縁には袋状バール穴15が設けてある。」(【0007】)

イ.「蓋本体3をさらに降ろすと、図8に示すように、係合部材5下端の係合部53は、錠本体10の係止部102に当接し、そのままコイルバネ9の付勢力に抗して錠本体10をその錘部101を凹部6内に背壁66側へ押し込むようにして回動させ(図8(a))、当該係止部102を通過しようとする。
蓋本体3をさらに降ろして落とし込むと、図6(a)に示すように、係合部53は係止部102を通過する。その際に錠本体10は、自重およびコイルバネ9の付勢力で施錠姿勢に戻って係止部102は係合部材5内に入り込むようになり、蓋本体3も受枠2に支持されて閉蓋が完了する。そして、この状態から開蓋しようとして、蓋本体3を引き上げると、図9に示すように、係合部53が係止部102に当接して錠本体10を図で反時計方向に回動させようとするが、このとき錠本体10の頭部103が固定具7の当接面72aに当たるためその回動は阻止され、係合部53は係止部102によって係止され施錠状態となる。」(【0017】、【0018】)

ウ.「上記の施錠状態から開蓋する場合は、専用バールで蓋本体3と受枠2との食い込みを解除した後、図10(c)に示すように、蓋本体3(係合部材5)を矢印A方向に回動させる。この円周方向の回動により、係合部材5の側壁54aが錠本体10の側面10a(係止部102の側面)に当接し、側壁54aの円周方向の回動に応じて錠本体10はコイルバネ9の復元力に抗して施錠位置から解錠位置方向に移動される(図10(b))。
蓋本体3を円周方向に回動しながら少し引き上げると、図11(a)に示すように、係合部53が錠本体10の係止部102に当接して錠本体10を反時計方向に回動させようとする。この場合は、図11(b)に示すように、錠本体10の上方には固定具7に形成した傾斜面7cが位置してその傾斜面7cに錠本体7の頭部102が当接するため、さらに矢印A方向への蓋本体3(係合部材5)の回動と引き上げとを続けると(図11(c))、それに応じて錠本体10の回動範囲が広がる。そして、図12(c)に示す矢印A方向への蓋本体3(係合部材5)の回動により、錠本体10が傾斜面7cから抜けきると(図12(b))、係合部53は係止部102を通過可能となり(図12(a))、解錠状態となる。
係合部53が通過すると、錠本体10は、コイルバネ9の復元力で軸8に沿って施錠位置に移動するが、その際に錠本体10の頭部103は解錠位置から施錠位置に向けて下降する傾斜面7cに当接しながら、また錠本体10自身も自重で軸回りに回動しつつ、施錠位置までスムーズに戻り、錠本体10は施錠位置で垂下して静止し、施錠姿勢をとる。
その後、蓋本体3を、蝶番(図示せず)を中心として水平旋回または垂直反転させることによって開蓋が完了する。このとき、蓋本体3には錘部101を有する錠本体10が設けられていないことから、必要以上に蓋本体3が重くないため、水平旋回または垂直反転の操作が容易となる。
このように、本実施例では、蓋本体3を円周方向に回動させて錠本体10を施錠位置から解錠位置に移動させた後、上方に引き上げなければ開蓋できないようにしたので、第三者は容易に解錠できず、施錠を確実なものとすることができる。」(【0020】〜【0023】)

これらの記載と図面の記載からみて、甲第1号証には、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。

「地下構造物の受枠の開口部を閉じるための蓋本体が蝶番によって受枠に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋本体を施錠するために設けられた錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋本体を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる錠本体を受枠側に設け、その錠本体は、蓋本体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋本体の周縁部に設けられている、係合部と係合可能な係止部を有し、 蓋本体を周方向に回動させて錠本体を施錠位置から解錠位置に移動させた後、上方に引き上げて施錠を解除するように構成されている地下構造物用錠装置。」
(以下、「甲第1号証発明」という。)

3.甲第2号証
請求人が提出した甲第2号証である特開平11-131515号公報(以下、「甲第2号証」という。)には、以下の記載がある。

ア.「本発明に係る地下構造物用蓋の蓋体2は、図2(a)および図2(b)に示すように、袋穴状の開蓋工具係止部2bの両側面下部に係合部材3と係合する係合縁5、係合を解除するために用いられる斜面7、係合を確実にするための係合部材受けのテーパー部が一体鋳造品として形成されている。なお、係合縁5の高さは同じく図示を省略した地下構造物用蓋の蓋体2の下面に形成されている補強用リブの高さよりも低く設定される。これにより、係合縁5が破損したり、あるいは保存・運搬時に障害とならない。
施錠過程を図3により説明する。地下構造物用蓋は、その蓋体2の係合縁5から最も離れた位置に設けられている、図示を省略したヒンジ機構を中心に開閉する。係合縁5が係合部材3の上部と接触すると、係合縁5の押圧力および係合部材3の上部に形成された斜面により係合部材3がピン3bを中心としてマンホール内側に回動する(図3(a))。なお、係合部材3の円滑な回動を行わせるために、係合縁5と係合部材3の上部との接点Aが、図3(a)に示すように、常に係合部材3の上部円弧の頂点Bより左側に位置するように制御部材3cを設定することが好ましい。次いで、枠体1に嵌合した蓋体2は、フック3aと係合縁5とが係合し得る状態となり、施錠される(図3(b))。フック3aと係合縁5とは、所定の裕度を有して係合されているので、例えば揚圧により蓋体2が持ち上げられた場合でも内圧を逃がす空隙部6を形成することができる(図3(c))。
次に、解錠過程を図4を参照して説明する。図4は、マンホール内側より見た施錠時および解錠時の係合部材3の移動および回動を示す図である。係合部材3は、係合部材受け部1aに凹設されたピン支持孔1cに回動可能に支持されている。また、図3(a)に示すように、係合部材3のフック3aの先端部3eと接して蓋体2の内面に斜面7が形成されている。たとえばマンホール蓋を円周方向に回動させることにより、斜面7に接しているフック3aの先端部3eが斜面7を滑ることにより内側方向に後退する。図4において、係合部材3が3´の位置に後退する。その結果、フック3aと係合縁5との係合状態が解除され、枠体1と蓋体2とが解錠される。」(【0012】〜【0014】)

この記載と図面の記載からみて、甲第2号証には、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。

「地下構造物の枠体の開口を閉じるための蓋体がヒンジ機構によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体を施錠するために設けられた施錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる係合部材を枠体側に設け、その係合部材は上端に、蓋体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体の周縁部内側に設けられている、係合縁と係合可能なフックを有し、蓋体の周方向の移動により、フックが枠体の内周面に対して直角であって内側方向に後退することで、係合部材と係合縁との係合を解除するように構成されている地下構造物用錠装置。」
(以下、「甲第2号証発明」という。)

4.甲第3号証
請求人が提出した甲第3号証である特開平10-168923号公報(以下、「甲第3号証」という。)には、以下の記載がある。
ア.「(実施例)図1は、本発明に係る地下構造物用蓋の施錠構造の断面図を示す。図1において地下構造物用蓋1は、受枠2と蓋本体3とにより構成された平面視円形としており、その上面が地上面(GL)と面一をなして設置されている。受枠2は、その内周上面をテーパ状とした蓋本体3との嵌合面2aを形成し、蓋本体3は、縁巻3aの外周面をテーパ状に縮径して嵌合面2aに当接させている。この蓋本体3は、蝶番構造(図示せず)により受枠2に開閉可能に連結されており、受枠2に対して蓋本体3を持ち上げながら手前側に斜め上方に持ち上げ、水平旋回または反転させることで、開蓋可能としている。そして、受枠2と蓋本体3との間には、前記蝶番構造と反対側の位置に受枠2側に設けた係止手段5と蓋本体3側に設けた施錠手段6とからなる施錠構造4が設けられている。」(【0013】)

イ.「次に、図6乃至図8により施錠構造4の動作を説明する。先ず、図6(a)〜(f)を参照して地下構造物内部に発生した乱流揚圧が蓋本体3に作用して押し上げるときの施錠構造4のロック動作について説明する。図6(a)は、蓋本体3が受枠2に嵌合支持されている状態を示す。施錠鉤15は、自重により棚部8に載置され、係合爪部16が凹部7内に入り込み、係止部9の下方において該係止部9と対向している。この状態において、支持軸12の下面が施錠鉤8のスライド溝17の下端面よりも僅かに上方に位置し、該支持軸12の上部が下傾動不能部17cに位置していることから、施錠鉤15の傾動が防止される。」(【0024】)

ウ.「次に、図7(a)〜(f)を参照して蓋本体3を開蓋する場合の施錠構造4の解錠動作について説明する。作業者は、図1において、蓋本体3のバール孔3cに図示しない専用のバールの先端を挿入して受枠2と蓋本体3との食い込みを解除し、図7(a)に矢印Bで示すように該蓋本体3を手前側に引き寄せながら斜め上方に引き上げると、支持軸12は、蓋本体3が斜め上方に引き上げられるに伴い施錠鉤15のスライド溝17内を下傾動不能部17cの内面17aを摺動しながら上方に移動し、第1傾動部18の傾斜面18bを滑動して該第1傾動部18内に入り込む。一方、施錠鉤15は、未だ棚部8上に載置されており、係合爪部16が係止部9と対向し、当接部15dが係止部9の端面に当接している。
蓋本体3が更に斜め上方に引き上げられると、第1傾動部18に形成した円弧状の上面18aが支持軸12に形成した曲面12dに対して摺動しながら(b)図に示すように支持軸12が施錠鉤15を持ち上げ始める。このとき施錠鉤15は、第1傾動部18を力点、係止部9の端面に当接している当接面15dを傾動支点として図中反時計方向に回動する力を受け、前側下端縁が棚部8を滑動しながら後方(反時計方向)に傾動する。蓋本体3が更に斜め上方に引き上げられると(c)図に示すように施錠鉤15は、更に傾動し、係合爪部16が凹部7から抜け出して係止部9との係合を不能とされる。このとき施錠鉤15の前側上端縁が嵌合面2aに当接して施錠鉤15の傾動が安定して保持される。
施錠鉤15は、蓋本体3が斜め上方に引き上げられるに伴い(d)図に示すように当接部15dが係止部9の端面から嵌合面2aに当接し、該嵌合面2aを摺動しながら前記傾動状態を保持したまま引き上げられる。そして、係合爪部16は、係止部9と僅かな間隙を存して該係止部9の内側(受枠2の内方寄り)を通り抜ける。
蓋本体3が更に斜め上方に引き上げられ、(e)図に示すように施錠鉤15の当接部15dが受枠2の嵌合面2aから外れると、係合爪部16が嵌合面2aと当接しながら引き上げられ、(f)図に示すように受枠2の上端に載置される。以後、蓋本体3は、通常の開蓋操作により、水平旋回または反転によって開蓋される。」(【0027】〜【0030】)

これらの記載と図面の記載からみて、甲第3号証には、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。

「地下構造物の受枠の開口を閉じるための蓋本体が蝶番構造によって受枠に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋本体を施錠するために設けられた施錠構造であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋本体を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる施錠鉤を蓋本体側に設け、その施錠鉤は、蓋本体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、受枠の周縁部内側に設けられている、係止部と係合可能な係合爪部を有し、かつ施錠鉤に設けられているスライド溝に案内される支持軸により蓋本体に設けられたブラケットに対して上下方向へ移動可能に設けられており、解錠のために蓋本体が受枠よりも上までスライド溝の範囲であげられ、その後蓋本体に加えられる内外方向への動きにより施錠鉤から係止部が外れ施錠を解除可能に、蓋本体側に軸支されている地下構造物用錠装置。」
(以下、「甲第3号証発明」という。)

5.甲第4号証
請求人が提出した甲第4号証である特開平11-190038号公報(以下、「甲第4号証」という。)には、以下の記載がある。
ア.「本発明の施錠装置の解錠・施錠方法について図により順に説明する。図2はマンホール蓋体1を、ヒンジ機構を中心に約1度引き上げた状態、図3は約4度引き上げた状態、図4は約4度引き上げた状態で水平に引き出しを開始した状態、図5は水平引き出しが完了した状態、図6はその完了した状態でさらに上方に引き上げた状態をそれぞれ示す図である。なお、図7は閉蓋時の施錠状態を示す図である。蓋体1が引き上げられると係合部2aに半円曲面部3bが当接する(図2)。その後、続けて引き上げられると、錠3の図面左方向への付勢力Fにより半円曲面部3bのS字型形状に沿って錠3が回転移動する。さらに引き上げが続くと係合部2aとフック部3の先端3aとが相互に係合し、施錠状態となる(図3)。本発明は、図1に示すように閉蓋時においては、係合部2aとフック部の先端3aとが相互に係合していないが、マンホール蓋体が揚圧などにより持ち上げられたとき、あるいは人為的に上に引き上げられたときは、図3に示すように施錠状態となる。
つぎに、引き上げられた状態で蓋体1を水平方向、すなわち図4における左側方向に引き出すと、断面S字型形状の半円曲面部3bに沿ってフック部先端3aが後退する。これは、半円曲面部3bに沿って支軸1bを中心に錠3が回転するためである。このため、フック部の先端3aが解錠方向に移動する(図4)。
さらに、水平方向に引き出すと、錠3の回動制御部3dが蓋体1の裏面に当接し、引き出しが完了すると共に、係合部2aとフック部の先端3aとの係合が完全に解除される(図5)。なお、係合部2aとフック部の先端3aとの係合が解除された段階では、やや上向けた状態で水平方向に引き出すこともできる。最後に図5に示す状態で蓋体1を引き上げることにより開蓋が完了する(図6)。」(【0017】〜【0019】)

この記載と図面の記載からみて、甲第4号証には、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。

「地下構造物の枠体の開口を閉じるための蓋体がヒンジ機構によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体を施錠するために設けられた施錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる錠を蓋体側に設け、その錠は下端に、蓋体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、枠体の周縁部内側に設けられている、係合部と係合可能なフック部を有し、解錠のために蓋体が枠体面より上まであげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きによりフック部から係合部がはずれ施錠を解除可能に、蓋体側に軸支されている地下構造物用錠装置。」
(以下、「甲第4号証発明」という。)

6.対比、判断
(1)本件特許発明1
(1-1)本件特許発明1と甲第1号証発明、甲第2号証発明の対比
本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明の「受枠」、「開口部」、「蓋本体」、「蝶番」、「錠本体」、「係合部」、「係止部」は、それぞれ本件特許発明1の「枠体」、「開口」、「蓋体」、「ヒンジ装置」、「鉤部材」、「錠止部分」、「鉤部」に相当する。
また、本件特許発明1と甲第2号証発明とを対比すると、甲第2号証発明の「係合部材」、「係合縁」、「フック」は、それぞれ本件特許発明1の「鉤部材」、「錠止部分」、「鉤部」に相当する。

したがって、本件特許発明1と、甲第1号証発明、甲第2号発明とは、

「地下構造物の枠体の開口を閉じるための蓋体がヒンジ装置によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体を施錠するために設けられた施錠装置であって、開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材を枠体側に設け、その鉤部材は上端に、蓋体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体の周縁部(甲第2号証においては周縁部内側)に設けられている、錠止部分と係合可能な鉤部を有する地下構造物用錠装置。」の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

[相違点]
本件特許発明1の鉤部材は、枠体の内側に設けられているガイド部に案内される軸部により上下方向へ移動可能に設けられており、解錠のために蓋体が枠体よりも上までガイド部の範囲であげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きにより鉤部から錠止部分が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されているのに対し、甲第1号証発明の受枠、甲第2号証発明の枠体の内側には、本件特許発明1のガイド部に相当する構成が設けられていないとともに、甲第1号証発明の錠本体及び甲第2号証発明の係合部材は、軸部に相当する構成を備えておらず、したがって、甲第1号証発明の錠本体、甲第2号証発明の係合部材は、ガイド部に案内される軸部により上下方向へ移動可能な構成とはなっておらず、さらに、甲第1号証発明は、解錠のために錠本体が、蓋本体を周方向に回動させて錠本体を施錠位置から解錠位置に移動させた後、上方に引き上げて施錠を解除するように構成されており、甲第2号証発明は、解錠のために蓋体の周方向の移動により、フックが枠体の内周面に対して直角であって内側方向に後退することで、係合部材と係合縁との係合を解除するように構成されている点。

(1-2)相違点の判断
ア.本件特許発明1は、枠体の内側に設けられたガイド部と、ガイド部に案内される軸部により、鉤部材が上下方向へ移動可能に設けられており、解錠の際には、蓋体及び蓋体に係合する鉤部材が枠体の上までガイド部の範囲であげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きにより鉤部から錠止部分が外れ施錠を解除可能に、鉤部材が枠体側に軸支されている。
一方、甲第1号証発明及び甲第2号証発明は、ガイド部と軸部との介在により錠本体が上下方向へ移動可能な構成とはなっておらず、また、甲第1号証発明では、解錠のための操作は、【0020】〜【0023】及び図10〜12の記載にあるように、蓋本体を円周方向に回動させ、錠本体の上方を固定具に形成した傾斜面に当接させながら、さらに回動と引き上げを行い、錠本体を固定具の傾斜面から抜くことにより、係合部と係止部との係合状態が解除され、解錠状態となるものであり、甲第2号証発明では、【0014】及び図4の記載にあるように、マンホール蓋を円周方向に回動させることにより、蓋体の内面に設けられた斜面に接しているフックの先端部が斜面を滑ることにより後退し、フックと係合縁との係合状態が解除されるものである。
そうすると、本件特許発明1の地下構造物用錠装置は、解錠操作を引きあげと内外方向との連続操作により行おうとするものであり、枠体内側のガイド部、鉤部材の軸部の構造はそのために採用された構成であって、鉤部材が蓋体と係合した状態で上昇することで、その後の蓋体の内外方向の動きで解錠できるものである。一方、甲第1号証発明及び甲第2号証発明の地下構造物用蓋の施錠構造は、解錠操作を蓋体の回動により行おうとするものであり、そのための構造として本件特許発明1とは異なる特有の構成を備えている。

イ.本件特許発明1のガイド部と軸部に一見すると類似するスライド溝と支持軸を備えた甲第3号証発明があり、これは、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる施錠鉤を蓋本体側に設け、その施錠鉤は、蓋本体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、受枠の周縁部内側に設けられている、係止部と係合可能な係合爪部を有し、かつ施錠鉤に設けられているスライド溝に案内される支持軸により蓋本体に設けられたブラケットに対して上下方向へ移動可能に設けられているものであり、甲第3号証発明の「受枠」、「蓋本体」、「施錠鉤」、「係止部」、「係合爪部」、「スライド溝」、「支持軸」は、それぞれ本件特許発明1の「枠体」、「蓋体」、「鉤部材」、「錠止部分」、「鉤部」、「ガイド部」、「軸部」に相当する。
しかしながら、甲第3号証発明は、施錠鉤は蓋本体側、係止部が枠体側に設けられている点で、本件特許発明1とも甲第1号証発明、甲第2号証発明とも相違しており、また、甲第3号証発明のスライド溝は、施錠鉤に設けられており、スライド溝に案内される支持軸は、蓋本体に設けられたブラケットに設けられている点で本件特許発明1とは相違する。甲第3号証発明の解錠操作は、本件特許発明1と類似するものの、そのための具体的な構造は著しく相違している。すなわち、甲第3号証の【0027】〜【0030】及び図7(a)〜(f)に記載されているように、開蓋を行うために、蓋本体を斜め上方に引き上げ、支持軸12とスライド溝17内上部に形成された第1傾動部18とが摺動しながら支持軸12が施錠鉤を押し上げ、蓋本体が更に斜め上方に引き上げられると、施錠鉤は、更に傾動し、係合爪部が凹部から抜け出して係止部との係合を不能とするものである。
そこで、甲第1号証発明、甲第2号証発明に、甲第3号証発明を適用することにより、本件特許発明1の構成とすることが、当業者にとって容易か否かについて検討すると、甲第1号証発明、甲第2号証発明は、受枠側に錠本体を設け、蓋本体側に係合部を設けたものであって、蓋本体の回動操作により開蓋を行うものであり、甲第3号証発明は、蓋本体側に施錠鉤を設け、枠体側に係止部を設けたものであって、蓋本体を斜め上方に引き上げることにより施錠鉤にある点を支点として傾動を行わせて開蓋を行うものであり、その具体的な開蓋機構は、本件特許発明1とも甲第1号証発明、甲第2号証発明とも異なるものである。甲第3号証発明においては、図6に示されるように、蓋本体が上昇してスライド溝と支持軸が相対移動し、さらに、蓋本体とともに施錠鉤が上昇しようとすると、係止部と係合爪部が係止して、施錠が行われ、解錠は不可能なものであって、解錠するためには、上記の傾動作用を不可欠としている。すなわち、甲第3号証発明を、甲第1号証発明、甲第2号証発明に適用したとしても、本件特許発明1のような解錠機構とはならない。
そうすると、両者はそれぞれ異なる特有の構造と該特有の構造によって規定される特有の開蓋機構を備えるものであるといえ、これらの特有の構造と開蓋機構は一体不可分のものであり、それぞれの構成の一部を取り出して組み合わせることは技術的に困難であるといわざるを得ない。
したがって、甲第1号証、甲第2号証に接した当業者が、さらに、甲第3号証に接するに至っても、本件特許発明1の「枠体の内側に設けられたガイド部と、ガイド部に案内される軸部により、鉤部材が上下方向へ移動可能に設けられており、解錠の際には、蓋体が枠体の上までガイド部の範囲であげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きにより鉤部から錠止部分が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている」構成に辿り着くことができるとは言い難い。

ウ.また、甲第4号証発明は、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる錠を蓋体側に設け、その錠は下端に、蓋体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体の周縁部内側に設けられている、係合部と係合可能なフック部を有し、解錠のために蓋体が枠体面より上まであげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きによりフック部から係合部がはずれ施錠を解除可能に、蓋体側に軸止されているものであり、甲第4号証発明の「錠」、「係合部」、「フック部」は、それぞれ本件特許発明1の「鉤部材」、「錠止部分」、「鉤部」に相当する。
しかしながら、甲第4号証発明は、蓋本体側、係合部が枠体側に設けられている点で本件特許発明1とも甲第1号証発明、甲第2号証発明とも相違する。さらに、甲第4号証発明の解錠操作は、本件特許発明1と類似するものの、そのための具体的な構造は、【0018】、【0019】及び図4〜6に記載されているように、開蓋を行うために、蓋体が引き上げられ、係合部とフック部とが係合した状態で蓋体を水平方向に引き出すと、断面S字状の半円曲面部3aに沿ってフック部が後退し、係合部とフック部との係合を解除するものであるものであり、本件特許発明1とは大きく相違する。甲第4号証発明においても、甲第3号証発明の場合と同じく、フック部の独特の回動を解錠のために不可欠な構成としている。
さらに、甲第1号証発明、甲第2号証発明と甲第4号証発明とは、それぞれ異なる特有の構造によって規定される、異なる特有の開蓋機構を備えるものであるから、これらを組み合わせることは技術的に困難である。
したがって、甲第1号証ないし甲第3号証に接した当業者が、さらに、甲第4号証に接するに至っても、本件特許発明1の「枠体の内側に設けられたガイド部と、ガイド部に案内される軸部により、鉤部材が上下方向へ移動可能に設けられており、解錠の際には、蓋体が枠体の上までガイド部の範囲であげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きにより鉤部から錠止部分が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている」構成に辿り着くことができるとは言い難い。

エ.以上のように、甲第1号証発明ないし甲第4号証発明は、いずれも地下構造物用錠装置という同一の技術分野に属するものであるものの、それぞれ異なる特有の構造により開蓋を行うものであり、これらをいかに組み合わせたとしても、本件特許発明1の構成とすることはできない。
そして、本件特許発明1は、甲第1号証発明ないし甲第4号証発明のいずれとも異なる特有の構成である「外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材を枠体側に設け、その鉤部材は上端に、蓋体を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体の周縁部内側に設けられている、錠止部分と係合可能な鉤部を有する縦長の鉤杆を有し、かつ枠体の内側に設けられているガイド部に案内される軸部により上下方向へ移動可能に設けられており、解錠のために蓋体が枠体よりも上までガイド部の範囲であげられ、その後蓋体に加えられる内外方向への動きにより鉤部から錠止部分が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている」構成を備え、それにより特有の効果である「開蓋した蓋体を旋回して、蓋体の下面が道路等設置部に接触するような状態となっても、蓋体には鉤部材が設けられていないため上記の道路等を傷付けることがなく、かつ鉤部材が損傷を蒙ったりすることがない」という効果、及び「蓋体を上下方向へ移動させ、内外方向へ移動させることにより解錠することができるので、従来の錠装置の或るタイプのように蓋を引き上げながら工具で解錠するというような操作が不要なため作業性が良く、雨水等を地下構造物内へ侵入させることがない」という効果を奏するものであるから、本件特許発明1は、甲第1号証発明ないし甲第4号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件特許発明2及び3
本件特許発明2は、本件特許発明1において、「鉤部材(15)は蓋体(12)を施錠状態とする方向へ弾性手段によって付勢されている」とその構成を更に限定したものに相当し、本件特許発明3は、本件特許発明1または2において、「鉤部材(15)は上端に鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を2個左右に並結した構造を有している」と、その構成を更に限定したものに相当するから、前記「1.本件特許発明1(1-2)判断」で述べたと同様な理由により、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、請求人が無効理由1(進歩性の欠如)で主張する理由によっては、本件特許発明1ないし3が、甲第1号証発明ないし甲第4号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、本件特許発明1ないし3が特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。

第7.むすび
本件特許発明1ないし3についての特許は、請求人が主張した無効理由及び証拠によっては無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2条の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-04 
結審通知日 2005-03-08 
審決日 2005-03-22 
出願番号 特願2000-49847(P2000-49847)
審決分類 P 1 113・ 121- YB (E02D)
P 1 113・ 832- YB (E02D)
P 1 113・ 855- YB (E02D)
P 1 113・ 841- YB (E02D)
P 1 113・ 537- YB (E02D)
P 1 113・ 854- YB (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 佐々木 芳枝
安池 一貴
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3449608号(P3449608)
発明の名称 地下構造物用錠装置  
代理人 加藤 恭介  
代理人 井澤 洵  
代理人 福田 伸一  
代理人 井澤 幹  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 武通  

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