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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47H
管理番号 1116111
異議申立番号 異議2003-71604  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-07-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-18 
確定日 2005-03-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3367909号「カーテンフック」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3367909号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3367909号に係る出願は、平成11年1月20日の出願であって、平成14年11月8日に特許の設定登録がなされ、その後、東洋紡績株式会社と三光商事株式会社から特許異議の申立がなされ、取消理由通知が通知され、その指定期間内である平成16年3月22日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正事項
(訂正請求書2頁(3)の訂正事項の内容と、訂正明細書の訂正内容は整合しない部分もあるが、訂正明細書にしたがって以下のように認定した。)
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1を、次のように訂正する。
「【請求項1】カーテンへの止着杆を主杆に有する吊り具本体と、フック体からなるカーテンフックであって、その樹脂成分がポリエステルであり、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート系樹脂であり、カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7であるカーテンフック。」
訂正事項b:特許請求の範囲の請求項2を削除する。
訂正事項c:特許請求の範囲の請求項3を、次のように訂正する。
「【請求項2】ポリエステルが共重合ポリエチレンテレフタレートである請求項1記載のカーテンフック。」
訂正事項d:特許請求の範囲の請求項4を削除する。
訂正事項e:特許請求の範囲の請求項5を、次のように訂正する。
「【請求項3】前記樹脂成分の数平均分子量が12,000〜46,000である請求項1記載のカーテンフック。」
訂正事項f:特許請求の範囲の請求項6を、次のように訂正する。
「【請求項4】原料のポリエステルの引張降伏強度が45MPa以上、引張伸度が200%以上、曲げ強度が60MPa以上である請求項1記載のカーテンフック。」
訂正事項g:特許請求の範囲の請求項7を、次のように訂正する。
「【請求項5】カーテンへの止着杆を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成された請求項1記載のカーテンフック。」
訂正事項h:特許請求の範囲の請求項8を、次のように訂正する。
「【請求項6】カーテンへの止着部及び鋸刃状突起を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の上記鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成され、少なくとも上記吊り具本体の成形後のIV値を最大0.7とした請求項3記載のカーテンフック。」
訂正事項i:特許請求の範囲の請求項9を、次のように訂正する。
「【請求項7】ポリエチレンテレフタレート系樹脂であるポリエステル原料を乾燥工程を経てからコールドランナー方式の金型に射出成形して、カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7のカーテンフックを得ることを特徴とするカーテンフックの製造方法。」

3.訂正の適否
上記訂正事項aに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項b、dに係る訂正は、請求項の削除であって、同じく特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項c、e〜iに係る訂正は、訂正事項aに関連してなされた明りょうでない記載の釈明に該当し、いずれの訂正も、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正は、平成15年改正前の特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する特許法第126条第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
申立人東洋紡績株式会社は、証拠として証拠として甲第1号証(実願平1-116962号(実開平7-141号)のCD-ROM)、甲第2号証(実用新案登録第3007930号公報)、甲第3号証(実願平5-26969号(実開平6-79382号)のCD-ROM)、甲第4号証(装研株式会社カタログ「PLASTIC HOOK&PARTS FOR CURTAINプラスチックカーテンフックのご案内」)、甲第5号証(三菱レイヨン株式会社カタログ「DIANITEダイヤナイト(ポリエチレンテレフタレート樹脂)」)、甲第6号証(特開平7-213415号公報)、甲第7号証(日刊工業新聞社「飽和ポリエステルハンドブック」1989年12月22日発行、198〜201頁、208〜213頁)、甲第8号証(東洋紡績株式会社技術資料、成形編「PETバイロペット 成形用熱可塑性PET樹脂」)、甲第9号証(日刊工業新聞社「プラスチック金型ハンドブック」1989年6月30日発行、130〜131頁)、甲第10号証(工業調査会、森隆著「プラスチック射出成形品の設計」1985年6月20日発行、73〜87頁)を提出し、本件請求項1ないし9に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきものであると主張し、申立人三光商事株式会社は、甲第1号証(実願昭63-165825号(実開平2-86377号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(特開平7-213415号公報)、甲第3号証(特開平10-168169号公報)、甲第4号証(「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,SEPTEMER,1984,Vol.24,No.13」 p.1056〜1063)、甲第5号証(朝倉書店「プラスチック事典」1992年3月1日発行、480〜485頁、808〜811頁)、甲第6号証(特開平7-186181号公報)、甲第7号証(特開平6-184291号公報))を提出し、本件請求項1ないし9に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。
(2)本件訂正後発明
本件訂正明細書の請求項1ないし7に係る発明(以下、「訂正後発明1ないし7」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものである。(上記2.訂正事項a,c,e〜i参照)
(3)引用刊行物記載の発明
(ア)当審が先に通知した取消理由通知で引用し、本件特許出願前に頒布された、実願昭63-165825号(実開平2-86377号)のマイクロフィルム(異議申立人三光商事株式会社提出の甲第1号証。以下、「刊行物1」という。)には、6頁3行〜7頁2行に「カーテン吊り具1は、カーテン20に取付けられる弾性合成樹脂製の本体2と、この本体2に対してラチェット式に下方へ移動可能に係合する弾性合成樹脂製のフック体3とから成る。本体2は、略平行して縦方向に伸びる主杆4と挿入杆5とから成り、両者は上端部において連続している。主杆4の左右両側面には、前後に相対向するように縦方向一対のラチェット歯列6,6を備えている。・・・フック体3は、本体2の主杆4を上下に摺動自在に抱持する抱持部8と、図示しないランナの吊り環に掛け止めるための鈎9とを具備している。抱持部8の左右両側壁11の内側には、本体2のラチェット歯列6,6に対応して、夫々前後一対の薄板状ラチェット爪10,10を備えている。」と記載されており、第1図を参照すると、刊行物1には、「カーテンへの挿入杆を主杆に有する本体と、当該本体のラチェット歯列に摺動可能に係合するラチェット爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成された合成樹脂製カーテン吊り具」が記載されている。
(イ)同、特開平7-213415号公報(異議申立人三光商事株式会社提出の甲第2号証。以下、「刊行物2」という。)には、段落【0001】に「【産業上の利用分野】本発明は、カーテンランナーなどの吊下布案内部材と、カーテンなどの各種の幕類とを簡単に連結する合成樹脂製の布吊下連結具に関し、更に詳しくは同連結具に要求される剛性部分とある程度の柔軟性及び靱性を有する弾性部分との双方を備えた合成樹脂製の布吊下連結具に関する。」、段落【0018】に「ここで、本発明の最も特徴とする点は、連結具4の全てを合成樹脂で成形することと、引掛鈎部41及び係着部42に異なる特性を有する第1及び第2の合成樹脂材料を使用する点にある。即ち、本発明では前記引掛鈎部41に所定の剛性を備えた第1の合成樹脂材料を使用する・・・、引掛鈎部41に使用される第1樹脂材料として、ポリアセタール、・・・ポリエチレンテレフタレート(PET)、・・ポリカーボネート(PC)等があり・・・」と記載されている。
(ウ)同、特開平10-168169号公報(異議申立人三光商事株式会社提出の甲第3号証。以下、「刊行物3」という。)には、段落【0002】に「【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂は各種物性に優れ、・・・成形体等に使用されており・・・耐衝撃性、透明性、衛生性等が認められ・・・」、【0021】に「本発明の上記各成分からなるポリエステルの固有粘度は0.5〜1.4dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.55〜1.3dl/gの範囲である。固有粘度が0.5dl/g未満であると成形品としたときの耐衝撃強度が不十分であり、1.4dl/gを超えると高い成形圧を必要とするため安定した成形が困難となる。」、【0027】に「・・・実施例、比較例によって得られたポリエステル樹脂・・・を140℃で6時間真空乾燥した後・・・射出成形機を用いて・・・平板を成形し、該成形品について耐衝撃性、固有粘度の評価を、次のようにして行った。」、【0031】に「(実施例1)テレフタル酸(以下、TPAと略記する。)99.6モル%とエチレングリコール(以下、EGと略記する。)150モル%および安息香酸(以下、BZAと略記する。)0.4モル%を精留塔および撹拌装置を備えた反応容器に入れ、撹拌を行いながら260℃まで徐々に昇温して、留出する水を系外に排出しながらエステル化を行った。反応生成物を重縮合反応容器に移した後ビスフェノールAエチレンオキサイド2付加物(以下、BPEと略記する。)を4モル%添加し、15分間260℃にて保留した後、リン酸トリメチルを対酸成分にして75ppm(10重量%EG溶液)添加した。10分経過後、2酸化ゲルマニウムを対酸成分にして300ppm(0.45重量%EG溶液)添加し、その後真空度1mmHg以下、280℃で2時間30分重縮合を行い、ポリエステルを得た。」と記載されており、【0043】の【表1】には、実施例の成形後の固有粘度の値が、0.61〜0.99(0.74前後が多い)dl/gであると記載されていることを参照すると、刊行物3には、ポリエステル樹脂である、共重合ポリエチレンテレフタレートを乾燥した後射出成形した、成形品の成形後のIV値が0.61〜0.99(0.74前後が多い)である例及び、成形後のIV値ではないが、ポリエステルのIV値が0.5未満であると耐衝撃強度が不十分で、1.4を超えると安定した成形が困難であり、IV値は0.5〜1.4、好ましくは0.55〜1.3がいいと記載されている。
(エ)同、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,SEPTEMER,1984,Vol.24,No.13」 p.1056〜1063(異議申立人三光商事株式会社提出の甲第4号証。以下、「刊行物4」という。)には、特に1060頁左欄に「PET:・・・I.V.-(「=」の誤記と認める。)7.50×10-4(Mn)0.68 (6)」と記載されている。
(4)対比・判断
(ア)訂正後発明1、2について
訂正後発明1を引用してさらに、「ポリエステルが共重合ポリエチレンテレフタレートである」という限定事項を付加した訂正後発明2と、刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明の「挿入杆」、「本体」、「合成樹脂製カーテン吊り具」は、それぞれ、訂正後発明2の「止着杆」、「吊り具本体」、「(樹脂製)カーテンフック」に相当するから、両者は、「カーテンへの止着杆を主杆に有する吊り具本体と、フック体からなる(樹脂製)カーテンフック」の点で一致し、下記の点で相違している。
相違点:訂正後発明2では、樹脂成分がポリエステルであり、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート系樹脂である共重合ポリエチレンテレフタレートであり、カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、合成樹脂製であるがその他の事項は不明である点。
相違点について検討する。
刊行物2には、構成は異なるが、訂正後発明2と同じカーテンフックに相当する布吊下連結具の引掛鈎部にポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が使用されることが記載されており、刊行物1に記載された発明の合成樹脂製カーテン吊り具の樹脂成分としてポリエステルである、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を採用することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。また、刊行物3には、樹脂成分がポリエステルで、ポリエチレンテレフタレート系樹脂である共重合ポリエチレンテレフタレートの成形後のIV値が0.61〜0.99(0.74前後が多い)の例及び、成形後のIV値ではないが、ポリエステルのIV値が0.5未満であると耐衝撃強度が不十分で、1.4を超えると安定した成形が困難であることが記載されており、刊行物3に記載された発明の成形後のIV値の上限は少々大きいが、IV値が大きいと安定した成形が困難であるのだから、刊行物1に記載された発明の合成樹脂製カーテン吊り具のような、複雑な構成の成形品の樹脂成分として、ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を採用するに際し、成形品に要求される強度、成形加工性を考慮して最適なIV値を採用することは、当業者が当然なすべき設計的事項にすぎない。
また、訂正後発明2については、訂正後発明1を引用してさらに、「ポリエステルが共重合ポリエチレンテレフタレートである」という限定事項を付加した訂正後発明2についての検討は、当該限定事項のない上位の訂正後発明1に対しても、同様なことがいえる。
したがって、訂正後発明1、2は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)訂正後発明3について
訂正後発明3は、訂正後発明1を引用してさらに、「樹脂成分の数平均分子量が12,000〜46,000である」という事項を付加したものであるが、上記訂正後発明1、2についての検討事項に加えて、刊行物4には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のIV値と数平均分子量(Mn)との関係式(6)が記載されており、計算すると、数平均分子量が12,000〜46,000であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のIV値は、約0.45〜1.1となるので、刊行物3に記載された発明の共重合ポリエチレンテレフタレートも含まれるから、訂正後発明3は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)訂正後発明4について
訂正後発明4は、訂正後発明1を引用してさらに、「原料のポリエステルの引張降伏強度が45MPa以上、引張伸度が200%以上、曲げ強度が60MPa以上である」という事項を付加したものであるが、上記訂正後発明1、2についての検討事項に加えて、上記限定数値はいずれも、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の通常の範囲の数値であり(必要なら「高分子大辞典」丸善株式会社 平成6年9月20日 p.1030等参照。)、したがって、訂正後発明4は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)訂正後発明5について
訂正後発明5は、訂正後発明1を引用してさらに、「カーテンへの止着杆を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成された」という事項を付加したものであるが、上記訂正後発明1、2についての検討事項に加えて、上記限定事項は、刊行物1に記載されており(刊行物1に記載された発明の「ラチェット歯列」、「ラチェット爪」は、それぞれ、訂正後発明5の「鋸刃状突起」、「係合爪」の相当する。)、したがって、訂正後発明5は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ)訂正後発明6について
訂正後発明6は、訂正後発明1を引用した訂正後発明3を引用しさらに、「カーテンへの止着部及び鋸刃状突起を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の上記鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成され、少なくとも上記吊り具本体の成形後のIV値を最大0.7とした」という事項を付加したものであるが、上記訂正後発明1、2および3についての検討事項に加えて、上記限定事項のうち「カーテンへの止着部及び鋸刃状突起を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の上記鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成され」は、刊行物1に記載されており(刊行物1に記載された発明の「挿入杆」、「ラチェット歯列」、「ラチェット爪」は、それぞれ、訂正後発明6の「止着部」、「鋸刃状突起」、「係合爪」の相当する。)、「少なくとも上記吊り具本体の成形後のIV値を最大0.7とした」という限定事項は、訂正後発明1、2についてで、検討済みの「カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7である」という事項に含まれるから、訂正後発明6は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(カ)訂正後発明7について
訂正後発明7の構成事項のうち、「ポリエチレンテレフタレート系樹脂であるポリエステル原料を成形して、カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7のカーテンフックを得る」ことについては、訂正後発明1、2についてで、検討したとおりであり、「ポリエチレンテレフタレート系樹脂であるポリエステル原料を乾燥工程を経てから射出成形」することは、刊行物3(ポリエステルが共重合ポリエチレンテレフタレートの例ではあるが)にも記載されているように、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を含むポリエステル原料の成形において、乾燥工程を経てから射出成形することは周知技術にすぎない(必要なら、異議申立人三光商事株式会社提出の甲第5号証等を参照)。また、ポリエステルの成形方法として、コールドランナー方式の金型に射出成形することは例をあげるまでもなく周知技術にすぎず、さらに、特許権者が平成16年3月22日付け意見書で述べているように「本願出願時、カーテンフックの成形においてコールドランナー方式及びホットランナー方式のいずれをも選択し得るものである。」(4頁20,21行参照)から、「ポリエチレンテレフタレート系樹脂であるポリエステル原料を乾燥工程を経てからコールドランナー方式の金型に射出成形して、カーテンフックを得ること」は、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
したがって、訂正後発明7は、刊行物1ないし3に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件訂正後発明1ないし7の特許は、平成15年改正前の特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
カーテンフック
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 カーテンへの止着杆を主杆に有する吊り具本体と、フック体からなるカーテンフックであって、その樹脂成分がポリエステルであり、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート系樹脂であり、カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7であるカーテンフック。
【請求項2】 ポリエステルが共重合ポリエチレンテレフタレートである請求項1記載のカーテンフック。
【請求項3】 前記樹脂成分の数平均分子量が12,000〜46,000である請求項1記載のカーテンフック。
【請求項4】 原料のポリエステルの引張降伏強度が45MPa以上、引張伸度が200%以上、曲げ強度が60MPa以上である請求項1記載のカーテンフック。
【請求項5】 カーテンへの止着杆を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成された請求項1記載のカーテンフック。
【請求項6】 カーテンへの止着部及び鋸刃状突起を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の上記鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成され、少なくとも上記吊り具本体の成形後のIV値を最大0.7とした請求項3記載のカーテンフック。
【請求項7】 ポリエチレンテレフタレート系樹脂であるポリエステル原料を乾燥工程を経てからコールドランナー方式の金型に射出成形して、カーテンフックの成形後のIV値が0.5〜0.7のカーテンフックを得ることを特徴とするカーテンフックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステル製のカーテンフックに関し、より詳細には、加工性、強度が優れ、リサイクルが可能で、低公害性のカーテンフックに関する。
【0002】
【従来技術】
従来、カーテンフックは、ポリカーボネート、ポリアセタールなどの強度が優れた樹脂により作製されている。しかし、これらの樹脂によるカーテンフックは、通常の使用状況下ではなんら問題はないが、ポリカーボネートを用いると、ビスフェノールAが溶出するするため、環境的に好ましくないと言われており、また、ポリアセタールを用いると、焼却時にホルムアルデヒドを排出する場合があり、環境的に好ましくないと言われている。そこで、前記樹脂に代えて、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を用いることが提案されている(特開平9-51848号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は、加工性が高く、低公害性であるが、リサイクル性が低い。従って、ポリオレフィン系樹脂を用いた場合は、使用後は通常廃棄されており、リサイクルされない。また、従来の樹脂では透明なカーテンフックを作製できないという問題もあった。
【0004】
従って、本発明の目的は、低公害性であるとともに、リサイクル性が高いカーテンフックを提供することにある。
本発明の他の目的は、加工性に優れたポリエステル製カーテンフックを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、前記特性に加えて、優れた強度を有しているポリエステル製カーテンフックを提供することにある。
本発明の別の目的は、透明なポリエステル製カーテンフックを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリエステルを用いると、低公害性でリサイクル性が高いカーテンフックが得られることを見出し本発明を完成させた。
【0006】
ポリエステル樹脂は、ペットボトルに代表される様に、リサイクル性の高いいわゆる地球環境に優しい素材として注目を集めている樹脂であるが、かかる樹脂は射出成形において成形性に乏しく機械的強度を出しにくい。この点、通常、構造が複雑であり、しかもカーテンの自重とカーテンの開閉力が作用する等強度を格別必要とするカーテンフックには一般的に適用するのが困難である。特に、カーテンへの止着部を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成されたカーテンフックの場合、その構造は複雑であって加工性に乏しく、またフック体の係合爪の先端部にはカーテンの自重及びカーテンの開閉力が作用することから格別強度を必要である。また、フック体の係合爪を吊り具本体の鋸刃状突起上において摺動させる場合、当該係合爪が鋸刃状突起上をアップダウンしながら摺動することから、この際に当該係合爪の根元の部分において負荷が大きく働き、簡単に破壊されてしまう問題もあった。
【0007】
従って、従来、加工性及び強度の点で、ポリエステル樹脂をカーテンフックに適用することは困難であった。
【0008】
しかし、鋭意検討した結果、例えば、ポリエステル原料を乾燥工程を経てからコールドランナー方式の金型に射出成形し、ポリエステル樹脂成分のIV値(固有粘度)を調節することにより、構造が複雑であるラチェット構造のカーテンフックであっても、加工性及び強度のいずれもが良好な商品価値のあるカーテンフックとして、はじめて製造することができることを見出したものである。
【0009】
本発明は、樹脂成分がポリエステルであるカーテンフックである。本発明では、カーテンフックの材料の樹脂成分としてポリエステルを用いているので、リサイクル性が高く、低公害性であり、使用中や焼却時又は焼却後に有害物質を排出しにくい。従って、使用後は容易にリサイクルされることが可能である。特に、カーテンフックを取り付けるカーテン地等もポリエステル材料で構成すれば、カーテン地と共に一緒に廃棄及びリサイクルすることができる点で環境安全性にきわめて優れている。
【0010】
ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート系樹脂を好適に用いることができる。ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレート系樹脂が最もリサイクルされているため、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いると、実質的にリサイクルされやすい。
【0011】
ポリエステルとしては特に共重合ポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。ポリエステルは加工性が低く、射出成形などによる成形は困難な場合がある。しかし、ポリエステルとして共重合ポリエチレンテレフタレートを用いると、ポリエステルの成形性および加工性を高め、カーテンフックへの成形を容易にすることができる。また、優れた強度を有しているカーテンフックが得られる。さらに、射出成形などの成形時に熱にさらされても白化し難く、優れた透明性を有しているカーテンフックを作製することができる。
【0012】
本発明では、樹脂成分がポリエステルであり、カーテンフックのIV値が少なくとも0.45であるカーテンフックが好適に採用される。カーテン吊りのIV値、実質的にはポリエステル樹脂のIV値を少なくとも0.45であるようにして成形すると、カーテンフックの強度を高めることができる。
【0013】
特に、カーテンへの止着部を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成されるカーテンフックの場合、少なくとも上記係合爪を有するフック体のIV値を少なくとも0.45とすることにより、係合爪の強度を高めることができる。また、カーテンの自重及びカーテンの開閉力に対する吊り具本体の曲げ強度、特にカーテンへの止着部(止着杆のU字部)の強度を高めることができる。
【0014】
本発明では、射出成形によりカーテンフックを作製する方法が好適に用いられる。特に射出成形方法として、原料の乾燥工程を経てから射出して成形する方法を好適に採用することができる。このような方法では、容易に原料中の水分を除去してから射出することができるため、成形時のポリエステルの加水分解を抑制又は防止することができ、原料の樹脂成分として用いたポリエステル(特に共重合ポリエチレンテレフタレート)の物性を保持しているカーテンフックを容易に作製することができる。
【0015】
これにより、特に、カーテンへの止着部を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成されるカーテンフックの場合、前記ポリエステルの樹脂成分のIV値の調節と共に、係合爪の強度、及びカーテンの自重及びカーテンの開閉力に対する吊り具本体の曲げ強度、特にカーテンへの止着部(止着杆のU字部)の強度を高めることができる。
【0016】
射出成形ではコールドランナー方式の金型を用いることが好ましい。このような金型を用いるとコストを低減して大量生産を行うことができる。特にポリエステルとして共重合ポリエチレンテレフタレートを用いると、射出成形の際にコールドランナー方式の金型を用いても容易に成形加工を行うことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
ポリエステルは、ポリオール成分(特にジオール成分)、およびポリカルボン酸成分(特にジカルボン酸成分)による重合体であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。なお、前記ポリカルボン酸成分には、ポリカルボン酸のエステル誘導体も含まれる。
【0018】
本発明において、ポリエステルとしては、リサイクルの観点から、ポリオール成分としてエチレングリコールが主成分として用いられ、ポリカルボン酸成分としてテレフタル酸が主成分として用いられているポリエチレンテレフタレート系樹脂が好適である。ポリエステルは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。しかし、リサイクルの観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート系樹脂を単独で用いることが好ましい。
【0019】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂の中でも、共重合ポリエチレンテレフタレートが最適である。共重合ポリエチレンテレフタレートは、ポリオール成分としてのエチレングリコールと、ポリカルボン酸成分としてのテレフタル酸と、これら以外のポリオール成分及び/又はポリカルボン酸成分とを構成単位としている。すなわち、共重合ポリエチレンテレフタレートでは、エチレングリコール又はテレフタル酸の共重合成分として、これら以外のポリオール成分又はポリカルボン酸成分が用いられている。前記共重合成分としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族系ジオール(例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなど)、芳香族系ジオール(例えば、ビスフェノールAなどのビスフェノール系ジオールなど)、脂環族系ジオール(例えば、シクロヘキサンジメタノールなど)、芳香族系ジカルボン酸又はそのエステル誘導体(例えば、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸など)などが挙げられる。共重合成分は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。好ましい共重合成分にはシクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、イソフタル酸などが含まれる。
【0020】
共重合ポリエチレンテレフタレートとしては、例えば、商品名「ユニチカポリエステル樹脂」(ユニチカ株式会社製)などが市販されている。当該「ユニチカポリエステル樹脂」のIV値は約0.55〜0.60である。
【0021】
カーテンフックのIV値(固有粘度)は、少なくとも0.45、好ましくは少なくとも0.50であることが望ましい。カーテンフックのIV値(実質的にはポリエステル樹脂成分のIV値)が0.45未満であると、カーテンフックの強度が低く、カーテンフックとして利用できない場合がある。一方、カーテンフックのIV値の上限としては特に限定されないが、例えば、0.80以下、好ましくは0.70以下である。IV値が高すぎると加工性が低下して、押し出し成形や射出成形(特に射出成形)では成形することが困難になる。特に、カーテンへの止着部及び鋸刃状突起を有する吊り具本体と、当該吊り具本体の上記鋸刃状突起に摺動可能に係合する係合爪を備えたフック体からなるラチェット構造で構成されたカーテンフックの場合、少なくとも上記吊り具本体のIV値を最大0.8とすることにより、上記吊り具本体の鋸刃状突起等の複雑な構造部分を含む場合であっても加工性が向上する。また、係合爪を備えたフック体の加工性も向上する。
【0022】
本発明のIV値(固有粘度)は、溶媒:フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=6/4(重量比)を用いて、溶解温度:80℃、溶解時間:1時間で調製されたサンプルを、測定温度:20℃でウッベローベ型粘度計により測定したものを基準としている。従って、かかる測定条件以外の条件で測定されたIV値では数値が相違する場合もあるが、その相違が前記の通り測定条件の相違である場合は、本発明の測定条件を基準として当該範囲内であるかどうかで判断できるものである。
【0023】
カーテンフック中の樹脂成分の数平均分子量は、特に制限されず、例えば、12,000〜46,000、好ましくは14,000〜30,000程度である。樹脂成分の数平均分子量が12,000未満であると、カーテンフックの強度が低く、カーテンフックとして利用できない場合がある。一方、数平均分子量が高すぎると加工性が低下して、押し出し成形や射出成形(特に射出成形)では成形することが困難になる。
【0024】
なお、原料のポリエステルとしては、引張降伏強度が45MPa以上、好ましくは48MPa以上、さらに好ましくは50MPa以上であることが望ましい。ポリエステルの引張降伏強度の上限値は特に限定されないが、好ましくは70MPa以下、さらに好ましくは60MPa以下である。ポリエステルの引張降伏強度が45MPa未満であると、成形品としてのカーテンフックの強度が低下し、カーテンフックを引張るときに変形しやすくなる。なお、本発明では、引張降伏強度は、「ATSM D638」に準拠して測定される。
【0025】
また、ポリエステルの引張伸度は、200%以上、好ましくは220%以上、さらに好ましくは250%以上であることが望ましい。ポリエステルの引張伸度の上限値は特に限定されない。ポリエステルの引張伸度が200%未満であると、成形品としてのカーテンフックに割れが生じやすくなり、使用中、特にカーテンを引張るときに折れやすくなる。なお、本発明では、引張伸度は、「ATSM D638」に準拠して測定される。
【0026】
ポリエステルの曲げ強度は、60MPa以上、好ましくは63MPa以上、さらに好ましくは65MPa以上であることが望ましい。ポリエステルの曲げ強度の上限値は特に限定されないが、好ましくは90MPa以下、さらに好ましくは80MPa以下である。ポリエステルの曲げ強度が60MPa未満であると、成形品としてのカーテンフックの強度が低下し、カーテンフックを引張るときに変形しやすくなる。なお、本発明では、曲げ強度は、「ATSM D790」に準拠して測定される。
【0027】
ポリエステルにおいて、好ましい溶融粘度としては、250℃で、100〜120Pas(荷重:10Kg、剪断速度:2200s-1)、155〜175Pas(荷重:40Kg、剪断速度:148s-1)、150〜170Pas(荷重:100Kg、剪断速度:625s-1)程度である。
【0028】
なお、本発明のポリエステル製カーテンフックでは、高いリサイクル性及び低公害性を有すると共に、優れた強度及び加工性を有する範囲で、ポリエステルを他の樹脂と混合して用いることができる。
【0029】
本発明のポリエステル製カーテンフックでは、リサイクル性、低公害性、強度及び加工性が優れている範囲で、着色料(顔料など)、充填剤(無機充填剤など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤などの種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0030】
本発明のポリエステル製カーテンフックにおいて、その形状は特に制限されず、カーテンをカーテンレールに吊す機能を有している公知の形状又は構造を採用することができる。カーテンフックの形状としては、例えば、図1に示すような形状などが例示できる。図1において、1はカーテンフック、2は吊り具本体、3はフック体、4は吊り具本体2の主杆、5は吊り具本体2の止着部である。フック体3は吊り具本体2とは分離することができ、フック体3は主杆4に係合して、下方にラチェット式にスライド可能である。
【0031】
図2は図1における吊り具本体2の概略図である。図2(a)は吊り具本体2の側面図であり、主杆4には、フック体3をラチェット式にスライドさせるための鋸刃状突起41が設けられている。主杆4と止着部5との間にカーテンを差し込んで、カーテンフック1をカーテンに備え付けることができる。また、図2(b)は、吊り具本体2を上から見た図である。このように、主杆4は“工”の字の形を有している。
【0032】
図3は図1におけるフック体3の概略図である。図3において、(a)はフック体3の側面図、(b)はフック体3の正面図(フック挿入部32側から見た図)、(c)はフック体3の背面図(フック主幹部33側から見た図)である。図3において、31はフックU字部、32はフック挿入部、33はフック主幹部、34は係合部、35は係合爪である。係合部34は主杆4の形状に対応しており、係合爪35は鋸刃状突起41の形状に対応している。係合部34を主杆4に挿入して、係合爪35を主杆4の鋸刃状突起41に合わせて固定して、フック体3を吊り具本体2に固定する。このとき、フック体3は主杆4に対して目的の位置に固定されるようにスライドさせることができる。
【0033】
もちろん、カーテンフックは、図1のようにフック体が吊り具本体と分離することができる形状のカーテンフックではなく、フック体が吊り具本体と一体的に形成されている形状のカーテンフックや、カーテン上端部に縫着される縫込み片を有する形状のカーテンフックなどであってもよい。
【0034】
本発明のカーテンフックは、ポリエステルを原料としているため、リサイクル性が優れている。特にカーテンの素材としてもポリエステルが用いられていれば、カーテンと共にリサイクルすることが可能である。
【0035】
また、カーテンフックの成形時には、スプルー、ランナーなどとして樹脂の廃材が生じるが、これらの廃材もリサイクル材(「リターン材」と称する場合がある)として利用することができる。従って、本発明では、成形時の樹脂の廃材を大きく低減し、省資源化を図ることができ、資源的な観点からも優れている。
【0036】
リサイクルとしては、そのままリサイクル材を全量用いるのではなく、バージン材と混合してリサイクル材を用いることが好ましい。このようにしてリサイクル材をバージン材と共に用いると、原料のIV値(固有粘度)の低下を抑制することができる。そのため、リサイクル材を用いても、カーテンフックの強度の低下を抑制又は防止することができる。リサイクル材とバージン材との混合割合は特に制限されないが、例えば、リサイクル材の割合は、樹脂成分全量(バージン材とリサイクル材との総量)に対して50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲から選択することができる。
【0037】
リサイクル材は、粉砕した後、充分乾燥して、結晶化させて用いることが好ましい。乾燥が充分でないと、成形時に加水分解によってIV値が低下し、加工性が悪くなり、成形品の強度も低下する。
【0038】
本発明のカーテンフックにおいて、特に共重合ポリエチレンテレフタレートを用いると、成形性、加工性を高めることができ、容易に成形することが可能になる。従って、ポリエステルを原料としているにもかかわらず、射出成形であっても容易に加工して、高い精度で成形することが可能である。カーテンフックは小さいにもかかわらず、細かな形状を有するものもあり、そのような形状であっても射出成形により容易に加工することができる。なお、原料のポリエステルは成形時に乾燥して水分を除去することにより、IV値の低下を抑制又は防止することができる。
【0039】
射出成形方法としては、原料の乾燥工程を経てから射出して成形する方法が好ましい。このような乾燥工程を用いた射出成形方法では、原料中の水分を除去して、乾燥している原料を射出して成形するので、樹脂成分であるポリエステルの射出成形時における加水分解を抑制又は防止することができる。従って、当該方法を採用すると、優れた強度を有しているカーテンフックが作製される。そのため、フック体の係合爪と本体部の鋸刃状突起とのかみあいによって固定されているラチェット構造のカーテンフック(例えば、図1に記載されているカーテンフック)では、当該係合爪部分に格別強度が要求されることから、特に上記構成の射出成形方法により成形することが好ましい。
【0040】
また、射出成形に際しては、コールドランナー方式の金型を用いることが好ましい。コールドランナー方式の金型を採用すると、ポリエステルを用いた場合であっても、容易に成形することができる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
樹脂成分としてポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂」、ユニチカ株式会社製;共重合ポリエチレンテレフタレート)を用い、充分に乾燥させてから、図4に示す構造のカーテンフックを射出成形により作製した。作製条件は、成型機:東芝機械IS-100E、ノズル温度:280℃、シリンダー温度(中部):270℃、金型温度:15℃である。カーテンフックのIV値は0.552であった。
【0042】
なお、上記ポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂」)は、IV値(固有粘度):0.57、引張降伏強度:52MPa(N/mm2)、引張伸度:260%以上、曲げ強度:67MPaである。
【0043】
なお、当該ポリエステルによる射出成形は容易に行うことができ、何ら問題はなかった。また、作製したカーテンフックは細部においても高い精度で成形されていた。さらに、当該カーテンフックは無色透明であった。もちろん、フック体を吊り具本体に係合してスライドさせることが可能であり、スライドさせても係合爪は折れなかった。
【0044】
(実施例2)
樹脂成分としてポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂」、ユニチカ株式会社製;共重合ポリエチレンテレフタレート)を用い、若干乾燥させてから、実施例1と同様の作製条件でカーテンフックを射出成形により作製した。当該カーテンフックのIV値は0.45であった。
【0045】
実施例2で得られたカーテンフックでは、ポリエステルによる射出成形は容易に行うことができ、何ら問題はなかった。また、作製したカーテンフックは細部においても高い精度で成形されていた。さらに、当該カーテンフックは無色透明であった。もちろん、フック体を吊り具本体に係合してスライドさせることが可能であり、スライドさせても係合爪は折れなかった。
【0046】
(実施例3)
樹脂成分としてポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂(インジェクションブローグレード)」、ユニチカ株式会社製、IV値:0.8)を用いて、射出成形により、実施例1と同様の形状のカーテンフックを作製した。作製条件は、成型機:東芝機械IS-100E、ノズル温度:285℃、シリンダー温度(中部):275℃、金型温度:20℃である。当該カーテンフックのIV値は0.78であった。作製作業は困難ながらもカーテンフックを作製することができた。
【0047】
(比較例1)
樹脂成分としてポリカーボネートを用いて、実施例1と同様に、実施例1と同様の形状のカーテンフックを作製した。作製条件は、成型機:東芝機械IS-100E、ノズル温度:270℃、シリンダー温度(中部):260℃、金型温度:80℃である。
【0048】
(比較例2)
樹脂成分としてポリアセタールを用いて、実施例1と同様に、実施例1と同様の形状のカーテンフックを作製した。作製条件は、成型機:東芝機械IS-100E、ノズル温度:190℃、シリンダー温度(中部):180℃、金型温度:60℃である。
【0049】
(比較例3)
樹脂成分としてポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂」、ユニチカ株式会社製;共重合ポリエチレンテレフタレート)を用いたことは実施例1と同じであるが、当該比較例3では前記樹脂成分を室内で1ヶ月放置したものを乾燥させずにそのまま用いて、実施例1と同様の作製条件でカーテンフックを射出成形により作製した。得られたカーテンフックのIV値は0.442であった。このカーテンフックにおいて、フック体を吊り具本体に係合させたところ、係合爪が折れ、フック体を吊り具本体にスライドさせて固定させることができなかった。
【0050】
(比較例4)
樹脂成分としてポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂(ダイレクトブローグレード)」、ユニチカ株式会社製、IV値:1.09)を用いて、射出成形により、実施例1と同様の形状のカーテンフックを作製しようとしたところ、射出成形であっても困難で、作製条件の変更を種々試みたが作製することができなかった。なお、成形機から取り出した樹脂成分のIV値を測定したところ1.02であった。
【0051】
(評価方法)
実施例1および比較例1〜2で作製されたカーテンフックの各部位の引張強度を以下の試験方法により評価した。
(静荷重引張強度試験)
図5〜11に示す本体部2及びフック体3の各部位の各方向における引張降伏強度をASTM D638に準じて、引張試験機(デジタルフォースゲージMFGシリーズ、新光電子株式会社製)を用いて測定した。なお、図4又は図5〜図11に示すカーテンフック1において、フック体3は、吊り具本体2の主杆4と別体に構成されており、主杆4に対して下方にラチェット式にスライド可能に係合させることができる。吊り具本体2では、主杆4と止着部5とは杆U字部6を介して連続的に構成されている。
【0052】
(1)フック体のフックU字部における縦方向の強度
図5(a)はフック体3の側面図である。図5に示すフック体3の部位とは、フック体3のフックU字部31であり、引張る方向は縦方向(矢印の方向、上方向)である。図5(b)に示すように、主杆4と止着部5と結ぶ杆U字部6を固定して、フック体3のフックU字部31を縦方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「フックU字部縦強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0053】
(2)フック体のフック挿入部における前方向の強度
図6(a)はフック体の側面図である。図6に示すフック体3の部位とは、フック体3のフック挿入部32であり、引張る方向は前方向(矢印の方向)である。図6(b)に示すように、主杆4を固定して、フック体3を主杆4に係合させて、フック挿入部32を前方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「フック挿入部前強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0054】
(3)フック体のフック挿入部における横方向の強度
図7(a)はフック体の正面図(フック挿入部の側から見た図)である。図7に示すフック体3の部位とは、フック体3のフック挿入部32であり、引張る方向は横方向(矢印の方向)である。図7(b)に示すように、主杆4を固定して、フック体3を主杆4に係合させて、フック挿入部32を横方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「フック挿入部横強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0055】
(4)フック体のフック主幹部における前方向の強度
図8(a)はフック体の側面図である。図8に示すフック体3の部位とは、フック体3のフック主幹部33であり、引張る方向は前方向(矢印の方向)である。図8(b)に示すように、主杆4を固定して、フック体3を主杆4に係合させて、フック主幹部33を前方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「フック主幹部前強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0056】
(5)フック体のフック主幹部における横方向の強度
図9(a)はフック体の背面図(フック主幹部の側から見た図)である。図9に示すフック体3の部位とは、フック体3のフック主幹部33であり、引張る方向は横方向(矢印の方向)である。図9(b)に示すように、主杆4を固定して、フック体3を主杆4に係合させて、フック主幹部33を横方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「フック主幹部横強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0057】
(6)本体部の止着部における後方向の強度
図10は本体部の側面図である。図10に示す本体部2の部位とは、本体部2の止着部5であり、引張る方向は後方向(矢印の方向)である。図10に示すように、主杆4を固定して、止着部5を後方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「本体部止着部後強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0058】
(7)本体部の止着部における横方向の強度
図11は本体部の背面図(止着部の側から見た図)である。図11に示す本体部2の部位とは、本体部2の止着部5であり、引張る方向は横方向(矢印の方向)である。図11に示すように、主杆4を固定して、止着部5を横方向に引張り、降伏時の強度を測定した。なお、測定結果は表1の「本体部止着部横強度」の欄に示す。なお、測定回数は5回であり、その平均値を表1に示している。
【0059】
【表1】

【0060】
表1より、実施例1に係るカーテンフックは、比較例1に比べて、同等又はそれ以上の強度を有している。より具体的には、実施例1に係るカーテンフックにおいて、フック体のフックU字部における縦方向の強度は、比較例1に係るカーテンフックにおける強度より高い。また、フック体のフック挿入部における前方向及び横方向の強度も、比較例1に係るカーテンフックにおける強度より高い。しかし、フック体の主幹部における前方向及び横方向の強度は、比較例1に係るカーテンフックの強度より若干低いが、ほぼ同等と言え、問題がないレベルである。さらに、本体部の止着部における後方向及び横方向の強度も比較例1に係るカーテンフックにおける強度より同等又はそれ以上である。
【0061】
また、実施例1に係るカーテンフックは、比較例2に係るカーテンフックに比べても、ほぼ同等又はそれ以上の引張強度を有している。なお、比較例2に係るカーテンフックに比べて若干引張強度が低い部位もあるが、実用的には問題がないレベルである。
【0062】
従って、ポリエステルを用いても、優れた加工性で、高い強度を有しているカーテンフックが作製された。また、前記特性に加えて、無色透明のカーテンフックが作製された。
【0063】
(実施例4)
ポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂」、ユニチカ株式会社製、共重合ポリエチレンテレフタレート、IV値:0.57)を用いて実施例1と同様に射出成形してカーテンフック(バージン材による成形品)を作製した。このカーテンフック(バージン材による成形品)のIV値は0.552であった。
【0064】
前記バージン材による成形品を粉砕し、結晶化してリターン材(1回目のリターン材)を調製した。この1回目のリターン材と、前記商品名「ユニチカポリエステル樹脂」のポリエステル(バージン材)とを、1回目のリターン材/バージン材=20/80(重量部)の割合で混合した樹脂(1回目の混合材)を用い、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この1回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.554であった。
【0065】
前記1回目の混合材による成形品を粉砕し、結晶化してリターン材(2回目のリターン材)を調製した。この2回目のリターン材と、バージン材とを、2回目のリターン材/バージン材=20/80(重量部)の割合で混合した樹脂(2回目の混合材)を用い、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この2回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.550であった。
【0066】
前記2回目の混合材と同様にして、3回目の混合材を調製し、この3回目の混合材を用いて、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この3回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.552であった。
【0067】
前記2回目の混合材と同様にして、4回目の混合材を調製し、この4回目の混合材を用いて、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この4回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.553であった。
【0068】
混合樹脂(混合材)によるカーテンフックのIV値は、0.554(1回目の混合材)、0.550(2回目の混合材)、0.552(3回目の混合材)、0.553(4回目の混合材)であり、リターン材を20重量%用いても、IV値にほとんど変化は見られなかった。
【0069】
また、混合樹脂を用いた射出成形は、1回目の混合材〜4回目の混合材すべてで実施例1と同様であり、高い加工性が維持されていた。
【0070】
(実施例5)
ポリエステル(商品名「ユニチカポリエステル樹脂」、ユニチカ株式会社製、共重合ポリエチレンテレフタレート、IV値:0.57)を用いて実施例1と同様に射出成形してカーテンフック(バージン材による成形品)を作製した。このカーテンフック(バージン材による成形品)のIV値は0.552であった。
【0071】
前記バージン材による成形品を粉砕し、結晶化してリターン材(1回目のリターン材)を調製した。この1回目のリターン材と、前記商品名「ユニチカポリエステル樹脂」のポリエステル(バージン材)とを、1回目のリターン材/バージン材=50/50(重量部)の割合で混合した樹脂(1回目の混合材)を用い、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この1回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.555であった。
【0072】
前記1回目の混合材による成形品を粉砕し、結晶化してリターン材(2回目のリターン材)を調製した。この2回目のリターン材と、バージン材とを、2回目のリターン材/バージン材=50/50(重量部)の割合で混合した樹脂(2回目の混合材)を用い、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この2回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.546であった。
【0073】
前記2回目の混合材と同様にして、3回目の混合材を調製し、この3回目の混合材を用いて、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この3回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.548であった。
【0074】
前記2回目の混合材と同様にして、4回目の混合材を調製し、この4回目の混合材を用いて、実施例1と同様にしてカーテンフックを射出成形により作製した。この4回目の混合材によるカーテンフックのIV値を測定したところ、0.540であった。
【0075】
混合樹脂(混合材)によるカーテンフックのIV値は、0.555(1回目の混合材)、0.546(2回目の混合材)、0.548(3回目の混合材)、0.540(4回目の混合材)であり、4回目の混合材であってもカーテンフックのIV値は0.540以上であった。従って、リターン材を50重量%用いても、IV値の低下は小さい。
【0076】
また、混合樹脂を用いた射出成形は、1回目の混合材〜4回目の混合材すべてで実施例1と同様であり、高い加工性が維持されていた。
【0077】
従って、本発明のカーテンフックは、リサイクル性が高く、容易にリサイクルされる。また、リサイクルとしては、バージン材と混合して用いると、特に、リサイクル材の混合割合が50重量%以上であると、混合材(原料)のIV値は0.45以上の範囲に容易に制御される。
【0078】
なお、実施例2及び3に係るカーテンフックの強度は、実施例1とほぼ同等であった。
【0079】
【発明の効果】
本発明のカーテンフックは樹脂成分としてポリエステルを用いているので、低公害性であるとともに、リサイクルされて用いられやすい。特に共重合ポリエチレンテレフタレートを用いると加工性を高めることができる。また、無色透明のポリエステル製カーテンフックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のカーテンフックの形状の1例を示す概略図である。
【図2】図2(a)、(b)は図1の本体部の概略図である。
【図3】図3(a)、(b)、(c)は図1のフック体の概略図である。
【図4】図4は実施例に係るカーテンフックの形状を示す概略図である。
【図5】図5(a)、(b)はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【図6】図6(a)、(b)はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【図7】図7(a)、(b)はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【図8】図8(a)、(b)はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【図9】図9(a)、(b)はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【図10】図10はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【図11】図11はカーテンフックの引張強度試験に関する概略図である。
【符号の説明】
1 カーテンフック
2 吊り具本体
3 フック体
31 フックU字部
32 フック挿入部
33 フック主幹部
34 係合部
35 係合爪
4 主杆
41 鋸刃状突起
5 止着部
6 杆U字部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-15 
出願番号 特願平11-11921
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A47H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 伊波 猛伊波 猛  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 新井 夕起子
▲高▼橋 祐介
登録日 2002-11-08 
登録番号 特許第3367909号(P3367909)
権利者 ユニテックパロマ株式会社
発明の名称 カーテンフック  
代理人 宮崎 伊章  
代理人 宮崎 伊章  

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