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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B21D
審判 全部申し立て 産業上利用性  B21D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B21D
管理番号 1116121
異議申立番号 異議2003-71850  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-10-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-18 
確定日 2005-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3369352号「チタン板のポケットウェーブ防止方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3369352号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3369352号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年3月31日に出願され、平成14年11月15日にその発明について特許権の設定登録(平成15年1月20日特許公報発行)がされた。これに対して、平成15年7月18日に特許異議申立人・株式会社神戸製鋼所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年11月22日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
1.訂正の内容
平成16年11月22日付けの訂正請求書は、本件特許第3369352号の願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
なお、下線は対比の便宜のために当審において付したものである。
(1)訂正事項a
特許明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 冷間圧延後真空焼鈍または連続焼鈍を施し、耐力:150〜400N/mm2,r値:0.5〜3.0,均一伸び:5〜40%の機械強度を持つ純チタン板において、4段以上25段以下のロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に下記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与することを特徴とするロール成形後に発生するチタン板のポケットウェーブ防止方法。
Y={-0.091X+α}≦0.3 ‥‥‥‥‥(1)
α=0.003YS-2.30r-0.002U-0.003W
+3.507 ‥‥‥‥‥(2)
ただし
X:耳波高さ(mm)
Y:ポケットウェーブ急峻度(%)
YS:耐力(N/mm2)
r:r値
U:均一伸び(%)
W:加工度(1ロール当りの曲げ角度)」
と訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書の段落【0008】における、
「多段のロール成形によって70°以上の折曲成形加工を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に下記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与することを特徴とする前項1(原文では丸付き数字)記載のロール成形後に発生するチタン板のポケットウェーブ防止方法」を、
「多段のロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形加工を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に下記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与することを特徴とするロール成形後に発生するチタン板のポケットウェーブ防止方法」と訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の段落【0013】における「およびおよび」を、「および」と訂正する。

(4)訂正事項d
特許明細書の段落【0014】における「図1」を、「図2」と訂正する。

(5)訂正事項e
特許明細書の段落【0022】の【表3】における、「No.8]を削除する。

(6)訂正事項f
特許明細書の段落【0023】における「機械加工によってを」を、「機械加工によって」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
特許明細書には、段落【0009】〜【0011】に、「本発明の素材は、JIS H4600で規定される工業用1種乃至3種の純チタン薄板であって、冷間圧延後、加工性を付与するために真空焼鈍または連続焼鈍を施したものであり、機械的性質として、耐力:150〜400N/mm2 ,r値:0.5〜3.0,均一伸び:5〜40%を有するものを対象とする。
このチタン冷延板(以下単にチタン板又は素材という場合がある。)は屋根板や壁板などの内外装建築部材に加工して用いられるが、この加工は素材を多段すなわち4〜25段程度に多数配置した成形ロールに噛み込ませて行ない、素材の板幅方向端部を曲げ加工し、用途部材に適した形状に成形する。
このようなロール成形加工を行なったチタン板には、ポケットウェーブが発生しやすい。図3はポケットウェーブを模式的に示したものであり、(a)図は部材1両端部を右下より左上に成形した後の形状であり、部材1の中央部にポケットウェーブ2-1〜2-4(n) が発生している状態をあらわしている。また、(b)図は(a)図のA-B線を断面した状態を示し、図中に表示するh-1〜h-4(n) はポケットウェーブ2-1〜2-4(n) のそれぞれに対応する高さであって、この値より下記式に示したポケットウェーブの急峻度(PWH)(%)を求めることができる。」と記載され、段落【0012】〜【0013】に、「このポケットウェーブは部材の中央部に形成される凹凸であり、板表面の明るさ(粗度)によっても異なるが、表面に波状のうねりとなって現れ、部材の外観を著しく損ねる。そのためポケットウェーブの急峻度(PWH)はその値を小さくするほどポケットウェーブの大きさが小さくなり、成形した板は平坦となる。従って、この値が0%となるのが最も好ましいが、通常、0.3%程度までであれば目視でのポケットウェーブが顕著に見られず許容範囲といえる。好ましくは0.2%以下にすべきである。
本発明は部材成形後に発生するポケットウェーブを小さくするため、すなわちポケットウェーブの急峻度を出来るだけ0に近付けるために種々検討した結果、成形加工前の素材に、機械的性質およびおよびロール成形加工度に応じて適度の高さを有する耳波を付与することにより、ポケットウェーブ急峻度を低くすることができることがわかった。」と記載されている。そして、図3には、部材1の両端部に曲面要素を有する折曲成形形状が記載されている。
訂正事項aは、上記記載事項に基づいてなされたものと認められ、特許請求の範囲の請求項1における「折曲成形」をより下位概念である「曲面要素を有する折曲成形」と限定するものである。
したがって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(2)訂正事項b
訂正事項bは、訂正事項aによる請求項1の記載の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の欄の記載との整合性を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

(3)訂正事項c、d、f
訂正事項c、d、fは、それぞれ誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。

(4)訂正事項e
訂正事項eは、表3における数値の誤りを訂正するものであり、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。

そして、訂正事項a〜fは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立の理由の概要
申立人は、下記甲第1〜9号証を提出し、概略、(1)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された経験則(自然法則)に反しており、自然法則を利用したものではないから特許法第29条第1項柱書の要件を満たしていない、(2)本件特許の請求項1の記載は、当業者が発明の技術内容を把握することができず、発明を実施できないから特許法第36条第4項及び第6項第2号の要件を満たしていない、(3)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第3,5号証及び甲第8,9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきである、と主張している。
<甲号各証>
甲第1号証:「塑性と加工」第23巻第259号(1982-8)第7 79-785頁
甲第2号証:「塑性と加工」第23巻第258号(1982-7)第6 64-671頁に代わる特開平8-71655号公報
甲第3号証:特開昭63-115622号公報
甲第4号証:特開平8-53726号公報
甲第5号証:特開平6-154886号公報
甲第6号証:「塑性と加工」第20巻第225号(1979-10)第 933-939頁
甲第7号証:特許第3358699号公報
甲第8号証:特開平9-216004号公報
甲第9号証:「JISハンドブック3非鉄」(財団法人日本規格協会、 2001年1月31日発行)第815-819頁

IV.甲第1〜9号証の記載内容
申立人の引用した甲第1〜9号証には、以下の技術的事項が記載されている。
1.甲第1号証
(1-イ)「(1)ポケットウェーブ
(a)発生機構,条件 コーナ部,またはフランジ部に図2に示すようにロール成形後,長手方向に塑性縮みが残り,塑性縮みを残さない平坦部は,その余分な長さを弾性挫屈で逃げた現象と考えられる.ポケットウェーブが発生している成型品に長手方向塑性縮みが生じていることは2〜3の実験で確かめられている.」(第779頁右欄下から3行〜第780頁左欄第4行)

(1-ロ)「(b)塑性縮みの原因 塑性縮みの残留については二つの原因が議論されている.
一つは図6に示すように,幅方向への強い引張に伴う長手方向の縮みが考えられる」(第780頁右欄第8〜11行)

(1-ハ)「長手方向の塑性縮みの他の一つの原因は、広幅チャンネル形状部品のフランジ立てでねじられる際に見られる.すなわち,図8に示すように,フランジエッジが長手方向に伸ばされる反力としてコーナ部が縮み,その縮みが一部塑性縮みとして残留する.」(第780頁右欄第22〜26行)

2.甲第2号証
(2-イ)「波打ちの発生に関し、「塑性と加工」第23巻第258号(1982-7)第664〜671頁では、多段ロールで金属帯又は金属板を曲げ加工する過程で、折曲げ部が長手方向に収縮することに原因があると報告されている。長手方向に関する折曲げ部の収縮は、曲げ加工を行っていない平坦部に圧縮応力を発生させる。折曲げ部の収縮量増加に伴って平坦部の圧縮応力が大きくなり、結果としてポケットウエーブ,サイドウエーブ等の波打ちが平坦部に発生する。」(段落【0003】)

3.甲第3号証
(3-イ)「部分的に平坦部を有する成形部材をロール成形する場合に、成形初期の段階において、平坦部を除く曲げ成形領域にスタンド間に設けた補助ロールを押しつけてパスラインに変位を持たせて、長手方向の引張り応力あるいは引張り予歪を与えながら成形することを特徴とする広幅断面材のロール成形法。」(特許請求の範囲(1))

(3-ロ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、屋根や外壁などの建材として使用される広幅断面材をロール成形する場合に、ポケットウェーブ(以下ペコと称す)の発生を防止するロール成形法に関する。
〔従来の技術〕
このようなロール成形で加工される建材としては、カラー鉄板が最も多く使われていて、建材のロール成形技術に関しても鉄板を対象とした研究が多くなされており、成形技術の確立および材質改善がはかられている。
ところで、広幅断面材におけるペコの発生原因としては、折曲げ部が長手方向に縮むために、平坦部に圧縮の内部応力が生じてペコが現れてくることが考えられている。」(第1頁左下欄第17行〜右下欄第11行)

(3-ハ)「これに対し、成形技術上のペコ改善策としては、成形ロール段数を増加して1段当たりの成形量を少なくする方法がある。」(第2頁左上欄第13〜15行)

4.甲第4号証
(4-イ)「純チタン薄板の材質は、冷間圧延方向(L方向)に直角な方向(T方向)のr値が薄鋼板に比べて異常に大きい等、薄鋼板の材質と種々の点で異なるので、その知見をそのまま活かせない。」(段落【0002】)

(4-ロ)「本発明者は、鋭意研究した結果、下記の作用によりポケットウェーブが低減するという知見を得た。ロール成形の特徴として、板の端部がT方向に折り曲げられると幅方向には引張応力が発生する。このとき長手方向には圧縮力が発生し、塑性変形域に至ると折り曲げ部は長手方向に縮み、さらに圧縮応力がウェッブ部の挫屈応力を越えるとポケットウェーブが発生すると考えられる。ここで、薄鋼材のT方向のr値は、約1であるが、通常の純チタン薄板のr値は、6〜10で異常に大きい。T方向のr値が大きいと、ロール成形時、長手方向に大きな圧縮力が発生し、折り曲げ部は長手方向に縮みやすく、ポケットウェーブが発生しやすい。それゆえ、本発明においてはT方向のr値を小さく制限した。」(段落【0008】)

5.甲第5号証
(5-イ)「幅厚比の大きい金属パネルが多数の成形ロールを通過して順次変形され、広い平坦な成形面を挟んで該金属パネルが移動する長手方向に沿って延びる折り曲げ部を形成させるようにした連続冷間圧延による金属パネルのロール成形法において、
上記金属パネルを成形ロールに送り込む前の段階で、上記折り曲げ部が形成される曲げ加工部位を該金属パネルの移動方向へ伸ばして長手方向の塑性伸び歪を残留させ、前記成形ロールによって折り曲げ部を形成する際に生じる金属パネルの長手方向の残留塑性縮み歪を、前記曲げ加工部位に残留させた塑性伸び歪によって低減させ、広幅断面材に圧延するとき平坦な成形面にポケットウエーブが発生するのを抑制できるようにしたことを特徴とする幅厚比の大きい金属パネルのロール圧延成形法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(5-ロ)「折り曲げ部3a,3bにおいて、一般的には外側が伸び内側が縮むことになるが、幅厚比の大きい薄い金属パネルの場合には、幅方向の伸びが主体となる。その伸びを発生させる際に、その折り曲げ部3a,3bとその近傍には応力が集中して歪を残留させる。この歪が過大になると、二つの折り曲げ部3a,3bによって画成される平坦面1aに対して面内方向の圧縮力が発生し、平坦部の弾性座屈応力を超えると破線で示したような例えば下方に膨らむ浅い周期的な撓みP(以下、ポケットウエーブという)が生じる。」(段落【0003】)

6.甲第6号証
(6-イ)「3.1 ポケットウェーブ(hw)と材料特性との関係
製造条件の異なる全ての材料を一括して、ポケットウェーブの単位長さ当たりの波の高さ(hw)と材料特性との関係を調べた。hwと良い相関を示した特性値は圧延と直角方向(ロール成形の幅方向)の引張試験における比例限応力(σe)、ひずみ比(νy)および降伏伸び(YE)の三つである。その他の特性値とhwとの関係についても調査したがよい相関は得られなかった。hwとσe、νy、YEとの関係をそれぞれ図5に示す。同図から明らかにσe、YEが大きいほど、νyが小さいほどhwは小さくポケットウェーブが発生しにくいことがわかる。」(第935頁右欄下から2行〜第936頁左欄第9行)

7.甲第7号証
(7-イ)「この様なポケットウエーブの発生を抑制するため、従来は、例えば加藤健三著「冷間ロール成形」(日刊工業新聞社、昭和46年刊、第6.1.7節)に言及されている様に、(1)予め初段の成形ロールで折り目に相当する部分にビード状に凹みをつけて、次のロールで成形する方法、(2)サイドロール、シュー、アイドラロールなどを利用して鋭い曲げ加工を行なうことで曲げ外側での曲げ変形量を抑制する方法が取られてきた。あるいは、(3)ロール成形素材の条の両端を耳波状に圧延しておくことによって、曲げ加工によるロール成形方向の収縮を相殺する、などの方策が取られてきた。」(段落【0006】)

(7-ロ)「原理的にはフレキシブルチューブの様に、曲げ内側では表面の襞が閉口して曲げ半径を小さくし、曲げ外側では逆に襞が開口して曲げ外側部でのTD方向の曲げ変形量を減らす働きの凹みを薄板の表面に付けることで建材用薄板の実質的なr値を小さくすることによりロール成形曲げ部のロール成形長手方向の縮み変形を減らす検討を種々行なった結果から本発明をなすに至ったものである。」(段落【0010】)

8.甲第8号証
(8-イ)「現在、純チタン薄板は、ストリップ圧延にて効率的に製造されている。ストリップ圧延では、チタンの六方晶構造に起因した圧延集合組織が形成され、圧延方向(L方向)と圧延方向に直角な方向(T方向)の材質異方性が顕著である。たとえば、焼鈍ままでは、L方向と比較してT方向の耐力が約50MPaほど高く、L方向と比較してT方向のr値(ランクフォード値)が約10も高い。」(段落【0002】)

(8-ロ)表1には、純チタン板のL方向r値が0.7〜3.0(No.6〜9)であるものが記載されている。

9.甲第9号証
(9-イ)表3には、チタン板の機械的性質として、種類1種のものが、厚さ0.2mm以上、引張強さ270〜410N/mm2、耐力165N/mm2以上、伸び27%以上であることが記載されている。

V.本件発明
前述のとおり、本件訂正が認められたことにより、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 冷間圧延後真空焼鈍または連続焼鈍を施し、耐力:150〜400N/mm2,r値:0.5〜3.0,均一伸び:5〜40%の機械強度を持つ純チタン板において、4段以上25段以下のロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に下記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与することを特徴とするロール成形後に発生するチタン板のポケットウェーブ防止方法。
Y={-0.091X+α}≦0.3 ‥‥‥‥‥(1)
α=0.003YS-2.30r-0.002U-0.003W
+3.507 ‥‥‥‥‥(2)
ただし
X:耳波高さ(mm)
Y:ポケットウェーブ急峻度(%)
YS:耐力(N/mm2)
r:r値
U:均一伸び(%)
W:加工度(1ロール当りの曲げ角度)」

VI.通知した取消しの理由の概要
当審において平成16年9月10日付けで通知した取消しの理由(以下、「取消理由1」及び「取消理由2」という。)の概要は、以下のとおりである。
1.取消理由1(特許法第29条第1項柱書に関して)
本件発明における式(2)によれば、Y(ポケットウェーブ急峻度)と、αを定めるYS(耐力)、r(r値)、W(加工度:1ロールあたりの曲げ角度)等の間には、i)YSが大きくなると、Yも大きくなる、ii)rが大きくなると、Yは小さくなる、iii)Wが大きくなると、Yは小さくなる、という関係が成立しているのに対し、甲第1〜7号証によれば、Y,YS,r,Wの間には、逆の経験則(自然法則)があることが確かめられている。すなわち、弾性限や降伏点(耐力)が大きいほどポケットウェーブが小さく、r値が大きいほどYは大きく、1段あたりの成形量が大きいほどYは大きくなるものである。
したがって、本件発明は、上記経験則(自然法則)に反しており、自然法則を利用したものではなく特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満足していない。

2.取消理由2(特許法第36条に関して)
本件特許明細書には以下に示す記載の不備があり、特許法第36条第4項及び第5項第2号に規定する要件を満足していない。
2-1 取消理由2-1
本件特許明細書には、請求項1における式(2)の正当性を確かめるような実験データが一切示されていない。例えば、図2をみても、y切片たるαが、YS(耐力)、r(r値)、U(均一伸び)、W(加工度)とどのような関係にあるかについては全く示されておらず、また、本件特許明細書では、重回帰計算を行って式(2)を定めたとされているが、たった2つの材質から4つのパラメータを定めることは不可能である。さらに、式(1)のy切片を定めるαは、実施例の欄の結果(No.1〜8)と符合していない。
したがって、当業者は式(2)の技術内容を把握することができず、本件発明は実施できない。

2-2 取消理由2-2
本件の実施例No.8の材質を用いて、耳波高さを本件請求項1に規定するような0.3mmにした場合、ポケットウェーブ急峻度が0.3%とならないことは明白である。
したがって、本件発明は実施不可能な部分を含んでいる。

2-3 取消理由2-3
甲第4、8号証によれば、チタン板のr値は圧延方向(L方向)と板幅方向(T方向)とでは大きく異なる。しかし、請求項1ではr値の方向性を規定しておらず、L方向r値及びT方向r値のいずれを採用すればよいか不明であり本件発明を実施できない。

2-4 取消理由2-4
甲第1〜5号証によれば、耳波を付与することの技術的意義は引張歪みを残留させておく点にあるところ、引張歪みの大きさは、耳波の数、長さ、ピッチが異なれば当然に異なるものであり、単に耳波高さを規定しただけでは本件発明の効果を達成できない。

VII.当審の判断
1.取消理由1について
甲第1〜7号証には、金属板を多段ロールで曲げ加工する過程で、折曲げ部が長手方向に収縮することによりポケットウェーブが発生することが記載されており(上記記載事項(1-イ)〜(7-ロ)参照)、特に、甲第6号証には、比例限応力(σe)等が大きいほど、ポケットウェーブの単位長さ当たりの波の高さhwは小さくなることが記載され(同(6-イ)参照)、甲第4,7号証には、幅方向のr値が大きいほどポケットウェーブが大きくなることが記載され(同(4-ロ)、(7-ロ)参照)、また、甲第3号証には1段当たりの成形量を少なくするとポケットウェーブが小さくなることが記載されている(同(3-ハ)参照)。
一方、本件請求項1に記載された式(2)におけるパラメータであるYS、r、Wの係数の正負は、上記記載事項における、比例限応力、r値、1段当たりの成形量(加工度)とポケットウェーブ急峻度との関係とは逆のものとなっている。
しかしながら、本件発明は、「ロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形を実施する場合」に、上記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与するものであるのに対して、甲第1〜7号証に記載された折曲成形は、必ずしも曲面要素を有する折曲成形のように伸びを伴う成形をも対象としたものとは認められない。
そうすると、曲面要素を有する折曲成形では、甲第1〜7号証に記載された折曲成形における材質及び加工度に関する経験則と同じ傾向を示さない場合もあり得るから、本件発明における式(2)に記載された上記パラメータの係数の正負が上記経験則と反することをもって直ちに本件発明が自然法則を利用した発明ではないと認めることはできない。

2.取消理由2について
2-1 取消理由2-1について
本件特許明細書には、段落【0016】に、「このαは材質(耐力、r値、均一伸び)とロール成形加工度に対して次の式で記述することができることも同時に実験結果の重回帰分析から見いだした。」と記載されている。
ここで、重回帰分析は、実験結果からパラメータの係数を決定する手法として周知のものである。そして、本件特許明細書には、少なくとも表1における二つの材質A,Bの他に、これと異なる6個のデータ(No.2〜7)が表3に記載されており、これらのデータを用いて、あるいは特許明細書には記載されていないデータを用いて上記式(2)におけるパラメータの係数を決定し得るものであることは自明の事項である。
また、重回帰分析においてはデータの個数によりその精度が変化することも広く知られており、式の値と実施例の結果が符合しないことをもって当業者が発明を容易に実施できないとすることはできない。

2-2 取消理由2-2について
訂正により、特許明細書の表3におけるNo.8が削除されたので、取消理由2-2は解消した。

2-3 取消理由2-3について
r値については、圧延方向と板幅方向とでは大きく異なるので、圧延方向r0,45°方向r45,直角方向r90の平均値を用いて評価することが一般的である(必要であれば、「改訂5版金属便覧」(丸善株式会社、平成2年3月31日発行)第530頁右欄第2〜5行参照)。
してみると、請求項及び発明の詳細な説明欄にr値の方向について記載がないことをもって直ちに当業者が発明を容易に実施できないとすることはできない。

2-4 取消理由2-4について
金属板材に耳波を付与する技術分野において、耳波の高さとピッチとの比(急峻度)が所定の範囲内にあることが知られており(必要であれば、特開平5-285542号公報、特開平4-100618号公報、特開平1-241325号公報、特開昭60-158918号公報参照)、耳波の高さを特定すればピッチは所定の範囲に定まることは当業者が容易に理解し得ることであるから、本件発明において、耳波の高さのみを規定していることをもって当業者が発明を容易に実施できないとすることはできない。

3.申立人が主張する特許法第29条第2項違反について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証及び甲第5号証には、耳波を付与することによってロール成形におけるポケットウェーブの発生を防止することが実質的に記載されている(上記記載事項(3-イ)、(5-イ)及び甲第3号証第1,2図を参照)。
また、甲第8号証及び甲第9号証は、本件出願前に頒布された刊行物ではないが、純チタン板のr値が0.7〜3.0、耐力165N/mm2以上、及び板幅方向の伸びが27%以上であるものが記載されている(同(8-ロ)、(9-イ)参照)。
しかしながら、甲第3、5号証及び甲第8、9号証には、いずれもにも、「4段以上25段以下のロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に上記の(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与する」構成について何ら記載されておらず、また示唆する記載も見出せない。
そして、本件発明は、上記の構成を具備することにより、訂正明細書に記載の格別の作用効果(段落【0023】参照)を奏するものと認められる。 したがって、本件発明は、甲第3、5号証及び甲第8、9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

4.まとめ
上記のとおり、本件発明は、自然法則を利用した発明ではないと認めることはできないから、特許法第29条第1項柱書の規定に違反するとすることはできない。また、当業者が本件発明を容易に実施できないとすることはできないから、特許明細書の記載が特許法第36条第4項及び第5項第2号に規定する要件を満たしていないとすることができない。さらに、本件発明が甲第3、5号証及び甲第8、9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するとすることはできない。

VIII.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
チタン板のポケットウェーブ防止方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 冷間圧延後真空焼鈍または連続焼鈍を施し、耐力:150〜400N/mm2,r値:0.5〜3.0,均一伸び:5〜40%の機械強度を持つ純チタン板において、4段以上25段以下のロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に下記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与することを特徴とするロール成形後に発生するチタン板のポケットウェーブ防止方法。
Y={-0.091X+α}≦0.3 ・・・・・・・ (1)
α=0.003YS-2.30r-0.002U-0.003W+3.507
・・・・・・・ (2)
ただし
X:耳波高さ(mm)
Y:ポケットウェーブ急峻度(%)
YS:耐力(N/mm2)
r:r値
U:均一伸び(%)
W:加工度(1ロール当りの曲げ角度)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はチタン冷延板を曲げ加工し、屋根板や壁材等の建築部材、或いはその他機械設備の部材等にロール成形する場合に、ポケットウェーブが発生せず、平坦な成形部材を得る方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チタン材は耐食性に富み、且つ比強度が大きいために、特に腐食環境の厳しい地域での屋根板や壁等の外装部材として適しており、近年この部材に多用されるようになっている。この部材に適用されるチタン材は、冷間圧延した後真空焼鈍または連続焼鈍を施して製造される薄板であるが、部材へのロール成形に際し、急俊な折曲げ加工が行われるため、その材質特性からポケットウェーブという波状の表面欠陥(凹凸)が発生しやすい。
【0003】
ポケットウェーブは板端部を折曲げるロール成形時において、折曲げ部分が部材長手方向に縮もうとする力が働くとき、板中央の平坦部分にこの圧縮による内部応力が生じ、座屈することにより発生すると考えられている。これを防止するために、ロール加工の段数を増やし、1回当たりの加工量を少なくすることにより、歪みを低減する方法や、素材板厚を大きくしたり、板自身の耐力(機械的強度)を向上させ座屈しにくくしてポケットウェーブの発生を抑制する方法があるが、前者の場合は製造工数や設備の増加に繋がりコストアップになり、また、後者の場合は、素材の薄手化に逆行し、これもまたコスト増になる。
【0004】
この様な成形工程上の対策でなく、チタン板自体の材質を改善するために、最終的な特定条件の焼鈍と酸洗により、製品の平均結晶粒径を3〜60μmに調整することにより成形時のポケットウェーブを抑える方法が特公昭64-1546号公報に開示されている。
【0005】
また、特公平6-10329号公報には、冷延-連続焼鈍で平均結晶粒径を5〜28μmとし、焼鈍直後から加工成形間での間に弾性限を越える変形が与えられておらず、少なくとも圧延方向に対して直角方向に変形した際に降伏現象を示す、成形時波打ち状の変形の少ないチタン板が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法は板そのものの材質による制御であり、熱処理或いは成分の調整により作り込みが必要である。従って製鉄所のような大きな工場では、要求に応じて即座に対応することは困難である。また、建築部材には種々の種類および形状があり、それに伴ったロール成形法が実施され、それぞれの加工の程度も異なっている。この様な多くの種類のロール成形に対応するには、上記した先行技術における冶金的方法のみではポケットウェーブの発生を完全に解消するのは難しい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この様な現状から本発明は、従来の問題点をさらに改善するものであり、チタン冷延板に、その機械的性質とロール成形法すなわち加工度に応じてポケットウェーブが最小になるように耳高さを調節した耳波を、適切、且つ簡便に付与する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、冷間圧延後真空焼鈍または連続焼鈍を施し、耐力:150〜400N/mm2,r値:0.5〜3.0,均一伸び:5〜40%の機械的性質を持つ純チタン板において、多段のロール成形によって70°以上の曲面要素を有する折曲成形加工を実施する場合に、ポケットウェーブ急峻度Yが0.3%以下となるように、あらかじめ板の成形方向に対して平行な板端部に下記(1),(2)式を満たすように耳波高さXをチタン板の材質に応じて付与することを特徴とするロール成形後に発生するチタン板のポケットウェーブ防止方法である。
Y={-0.091X+α}≦0.3 ・・・・・・・ (1)
α=0.003YS-2.30r-0.002U-0.003W+3.507
・・・・・・・ (2)
ただし
X:耳波高さ(mm)
Y:ポケットウェーブ急峻度(%)
YS:耐力(N/mm2)
r:r値
U:均一伸び(%)
W:加工度(ロール1段当りの曲げ角度)
【0009】
【作用】
本発明の素材は、JIS H4600で規定される工業用1種乃至3種の純チタン薄板であって、冷間圧延後、加工性を付与するために真空焼鈍または連続焼鈍を施したものであり、機械的性質として、耐力:150〜400N/mm2,r値:0.5〜3.0,均一伸び:5〜40%を有するものを対象とする。
【0010】
このチタン冷延板(以下単にチタン板又は素材という場合がある。)は屋根板や壁板などの内外装建築部材に加工して用いられるが、この加工は素材を多段すなわち4〜25段程度に多数配置した成形ロールに噛み込ませて行ない、素材の板幅方向端部を曲げ加工し、用途部材に適した形状に成形する。
【0011】
このようなロール成形加工を行なったチタン板には、ポケットウェーブが発生しやすい。図3はポケットウェーブを模式的に示したものであり、(a)図は部材1両端部を右下より左上に成形した後の形状であり、部材1の中央部にポケットウェーブ2-1〜2-4(n)が発生している状態をあらわしている。また、(b)図は(a)図のA-B線を断面した状態を示し、図中に表示するh-1〜h-4(n)はポケットウェーブ2-1〜2-4(n)のそれぞれに対応する高さであって、この値より下記式に示したポケットウェーブの急峻度(PWH)(%)を求めることができる。
【数1】

【0012】
このポケットウェーブは部材の中央部に形成される凹凸であり、板表面の明るさ(粗度)によっても異なるが、表面に波状のうねりとなって現れ、部材の外観を著しく損ねる。そのためポケットウェーブの急峻度(PWH)はその値を小さくするほどポケットウェーブの大きさが小さくなり、成形した板は平坦となる。従って、この値が0%となるのが最も好ましいが、通常、0.3%程度までであれば目視でのポケットウェーブが顕著に見られず許容範囲といえる。好ましくは0.2%以下にすべきである。
【0013】
本発明は部材成形後に発生するポケットウェーブを小さくするため、すなわちポケットウェーブの急峻度を出来るだけ0に近付けるために種々検討した結果、成形加工前の素材に、機械的性質およびロール成形加工度に応じて適度の高さを有する耳波を付与することにより、ポケットウェーブ急峻度を低くすることができることがわかった。
【0014】
図2は、表1に示す2種類の材料に関して、種々の大きさの耳波を付与してロール成形を行い、それに対するロール成形後に生じたポケットウェーブを測定し、その測定結果をプロットして示したものである。
【0015】
【表1】

【0016】
これによると、耳波高さXとポケットウェーブ急峻度とは図示の通り直線関係になっていることが分かった。すなわち、最適の大きさの耳波を付与することによりポケットウェーブ急峻度を最小にすることができる。また、その耳波高さとポケットウェーブ急峻度との関係は、材質(耐力、r値、均一伸び)とロール成形加工度(ロール1段当りの曲げ角度)によって異なることも同時に判明した。すなわち、材質(耐力、r値、均一伸び)とロール成形加工度が異なるとポケットウェーブ急峻度を最小にする耳波高さが異なるのである。それはすなわち、耳波高さXとポケットウェーブ急峻度Yとの関係を示す直線が図2に示すように、平行移動するのである。
従って、ポケットウェーブ急峻度(%)と耳波高さ(mm)の関係は実験結果を重回帰分析を行うことにより判明し次式で書き表すことができることを見いだした。
Y={-0.091X+α} ・・・・・・・ (1)
Y:ポケットウェーブ急峻度(%)
X:耳波高さ(mm)
このαは材質(耐力、r値、均一伸び)とロール成形加工度に対して次の式で記述することができることも同時に実験結果の重回帰分析から見いだした。
α=0.003YS-2.30r-0.002U-0.003W+3.507
・・・・・・・ (2)
ただし
YS:耐力(N/mm2)
r:r値
U:均一伸び(%)
W:加工度(ロール1段当りの曲げ角度)
これにより、材質と加工度が決まればポケットウェーブ急峻度を最小にする耳波高さが一意的に決定できるのである。この式を用いてチタンの材質、ロール成形加工度が与えられると、ポケットウェーブを最小にするために必要な耳波高さXを決定することができる。
【0017】
図1に素材(切り板)3に付与する耳波高さE-1〜E-6(n)を模式的に示す。板の中央部は平坦であり、端部のみを伸ばして波状にしている。耳波高さ(EWH)はn個の耳波高さを平均する下記式で求めることができる。
【数2】

【0018】
耳波を付与する方法はチタン板を製造する工程にあるローラーレベラー等で実施すればよく、実質的な付加工程にならない。
【0019】
【実施例】
表2に示す成分からなる純チタン供試材(JIS1種)を用い、0.4mmの板厚に冷間圧延した後真空焼鈍を施し調質圧延において種々の材質(耐力、r値、均一伸び)に造り分けた供試材を用意した。その供試材をロール段数3〜20段からなる種々のロール成形機を用いて成形実験を実施した。
【0020】
表3において、No.1〜4は原板の耳波が0mmであるもので、これを成形したところポケットウェーブ急峻度は0.6〜0.9%と非常に高い数値を示しこれは満足できる水準ではない。それに対しNo.5〜8の実施例では(1),(2)式からポケットウェーブ急峻度を0にする耳波高さを算出し、それに基づき実際に耳波を付与させた後ロール成形を実施した。その結果、ポケットウェーブ急峻度は0.2〜0.3%の値を示し満足できる水準に達した。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、従来におけるような大型設備の設置を伴う冶金的手法に依存することなく、チタン冷延素材に、その機械的性質とロール成形法すなわち加工度に応じてポケットウェーブが最小になるように、加工前の素材端部に適宜の耳高さとなる耳波を成形し、しかもこれを簡単な機械的加工によって付与できる。すなわち平坦度の高いチタン板の供給を要求に応じて即時に対応できるため、その工業的効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のチタン冷延板に付与する耳波の状況と耳波高さを模式的に示す図。
【図2】
耳波高さ(EWH)とポケットウェーブ急峻度(PWH)との関係を示す図。
【図3】
ロール成形後の部材にポケットウェーブが出現した状態とポケットウェーブ急峻度を模式的に示し、(a)は斜視図、(b)はA-B線断面図を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-23 
出願番号 特願平7-76855
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B21D)
P 1 651・ 531- YA (B21D)
P 1 651・ 14- YA (B21D)
P 1 651・ 534- YA (B21D)
最終処分 維持  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 上原 徹
岡野 卓也
登録日 2002-11-15 
登録番号 特許第3369352号(P3369352)
権利者 株式会社忠技研 新日本製鐵株式会社
発明の名称 チタン板のポケットウェーブ防止方法  
代理人 田村 弘明  
代理人 田村 弘明  
代理人 田村 弘明  
代理人 矢葺 知之  
代理人 矢葺 知之  
代理人 菅河 忠志  
代理人 矢葺 知之  
代理人 植木 久一  

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