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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1116136
異議申立番号 異議2003-70430  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-12 
確定日 2005-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3316942号「水添石油樹脂の製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3316942号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯

本件特許第3316942号は、出願日が平成5年7月2日であって、平成14年6月14日に特許権の設定登録がなされ、荒川化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、第1回目の取消理由を通知したところ、その指定期間内に意見書が提出されるとともに第1回目の訂正請求がなされ、その後、第2回目の取消理由を通知したところ、その指定期間内に第2回目の訂正請求がなされ、同時に第1回目の訂正請求が取り下げられたものである。

[2]訂正の適否

1.訂正事項
第2回目の訂正請求における訂正事項は以下のとおりである。
訂正事項a-1:特許請求の範囲の請求項1、3を削除する。
訂正事項a-2:特許請求の範囲の請求項2の
「石油樹脂をNi金属を主成分とするNi系触媒存在下、温度270〜300℃,圧力20〜300kg/cm2Gにて、1〜10時間水素化して、軟化点がX-10℃よりも高く、X+10℃以下、水添率が50%以上の水添石油樹脂を製造することを特徴とする方法。
原料石油樹脂軟化点:X(℃) 」を、
「軟化点70〜150℃を有するC5-C9系又はC9系石油樹脂をNi金属を主成分とし、珪藻土担体に担持したNi系触媒存在下、温度270〜300℃,圧力20〜300kg/cm2Gにて、1〜10時間水素化して、軟化点がX-10℃よりも高く、X+10℃以下、水添率が50%以上の水添石油樹脂を製造することを特徴とする方法。
原料石油樹脂軟化点:X(℃) 」と訂正し、項番号を請求項1とする。
訂正事項a-3:特許請求の範囲の請求項4の末尾の「請求項1〜3のいずれかに記載の方法」を、「請求項1に記載の方法。」と訂正し、項番号を請求項2とする。
訂正事項a-4:特許請求の範囲の請求項5の
「石油樹脂が、軟化点70〜150℃を有するC5-C9系又はC9系石油樹脂である請求項1〜4のいずれか記載の方法。」を、
「触媒添加量が2〜4wt%である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。」と訂正し、項番号を請求項3とする。
訂正事項b:段落【0014】の「即ち、軟化点がX-30℃以上,X-10℃以下(X:原料石油樹脂軟化点(℃)),水添率が50%以上の水添石油樹脂を得る時は、反応温度290〜320℃,反応圧力20〜100kg/cm2G,反応時間2〜10時間で行い、軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下,水添率50%以上のものを得る時は、反応温度270〜300℃,反応圧力30〜300kg/cm2G,反応時間1〜10時間で行い、軟化点がX+10℃以上,X+20℃以下,水添率が50%のものを得る時は、反応温度200〜280℃,反応圧力20〜300kg/cm2G,反応時間1〜10時間で行う。上記3つの因子を選択することにより、軟化点、選択率を自在にコントロールでき、目的とする水添石油樹脂を得ることができる。」を、
「即ち、軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下,水添率50%以上のものを得る時は、反応温度270〜300℃,反応圧力30〜300kg/cm2G,反応時間1〜10時間で行う。上記3つの因子を選択することにより、軟化点、選択率を自在にコントロールでき、目的とする水添石油樹脂を得ることができる。」と訂正する。
訂正事項c:段落【0015】の「軟化点がX-30℃以上,X-10℃以下のものを得る時は,反応温度は290〜320℃が好ましい。320℃を越える温度で行うと、得られる水添石油樹脂の軟化点がX-30℃より低くなり、又、熱安定性が著しく劣るものとなる。反応圧力は20〜100kg/cm2Gが好ましい。100kg/cm2Gを越える圧力では、軟化点がX-10℃を越えるものとなり、20kg/cm2G未満では、反応時間が長時間となり好ましくない。」を削除する。
訂正事項d:段落【0017】の「軟化点がX+10℃以上,X+20℃以下のものを得る時は、反応温度は200〜280℃が好ましい。280℃を越える温度では軟化点がX+10℃より低くなり、200℃未満では反応時間が長時間となる。反応圧力は20〜300kg/cm2Gが好ましい。300kg/cm2Gを越える圧力では設備が高価となり、20kg/cm2G未満では反応時間が長時間となる。」を削除する。
訂正事項e:段落【0018】の「触媒添加量は、触媒の種類,活性により異なる。例えば、Ni珪藻土(Ni:50%)触媒では、軟化点がX-30℃以上,X-10℃以下の水添石油樹脂を得る時の触媒添加量は0.5〜2wt%が好ましく、軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下の水添石油樹脂を得る時の触媒添加量は2〜4wt%が好ましく、軟化点がX+10℃以上,X+20℃以下の水添石油樹脂を得る時の触媒添加量は1〜10wt%が好ましい。」を、
「触媒添加量は、触媒の種類,活性により異なる。例えば、Ni珪藻土(Ni:50%)触媒では、軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下の水添石油樹脂を得る時の触媒添加量は2〜4wt%が好ましい。」と訂正する。
訂正事項f:段落【0029】の文頭の「実施例1」を、「参考例1」と訂正する。
訂正事項g:段落【0031】の「実施例2 反応圧力を100kg/cm2Gとした以外は実施例1と同様に行い、軟化点101℃,水添率96.8%,無色透明,無臭の水添石油樹脂を得た。結果を表1に示す。」を削除する。
訂正事項h:段落【0032】の文頭の「実施例3」を、「実施例1」と訂正する。
訂正事項i:段落【0033】の「実施例4 反応温度を250℃,触媒添加量を3.5gとした以外は実施例1と同様に行い、軟化点133℃,水添率97.2%,無色透明,無臭の水添石油樹脂を得た。結果を表1に示す。」を削除する。
訂正事項j:段落【0034】の【表1】中のNoの列の2と4の行全体を削除し、Noの列の「実施例1」なる記載を「参考例1」に、Noの列の「3」なる記載を「実施例1」に訂正する。

2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
訂正事項a-1は、請求項を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものである。
訂正事項a-2は、請求項5の記載に基づき「石油樹脂」を「軟化点70〜150℃を有するC5-C9系又はC9系石油樹脂」に減縮し、段落【0012】、【0018】の記載に基づき「Ni金属を主成分とするNi系触媒」を「Ni金属を主成分とし、珪藻土担体に担持したNi系触媒」に減縮し、訂正事項a-1の請求項の削除に伴い項番号を整理するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮し、明りょうでない記載を釈明するものである。
訂正事項a-3は、訂正事項a-1の請求項の削除に伴い項番号を整理するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載を釈明するものである。
訂正事項a-4は、段落【0018】の記載に基づいて「触媒添加量が2〜4wt%」との限定を付し、訂正事項a-1の請求項の削除に伴い項番号を整理するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮し、明りょうでない記載を釈明するものである。
訂正事項b〜iは、訂正事項a-1〜4の特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが整合しなくなることを解消するための訂正であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載を釈明するものである。
また、訂正事項a〜iは、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明

本件の訂正後の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、訂正明細書の請求項1〜3に記載された下記のとおりのものと認める。
「【請求項1】軟化点70〜150℃を有するC5-C9系又はC9系石油樹脂をNi金属を主成分とし、珪藻土担体に担持したNi系触媒存在下、温度270〜300℃,圧力20〜300kg/cm2Gにて、1〜10時間水素化して、軟化点がX-10℃よりも高く、X+10℃以下、水添率が50%以上の水添石油樹脂を製造することを特徴とする方法。
原料石油樹脂軟化点:X(℃)
【請求項2】石油樹脂の水素化を石油樹脂100重量部に対し、常圧での沸点が実質的に140〜280℃の飽和炭化水素、飽和環状炭化水素、芳香族炭化水素より選ばれた1種以上の溶剤10重量部以上を混合して行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】触媒添加量が2〜4wt%である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。」

[4]特許異議の申立ての理由の概要

特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証(特開平4-239083号公報)、甲第2号証(特公昭50-28967号公報)、甲第3号証(藤本恭宏編集責任「高分子-技術・市場-調査資料 No.64 石油樹脂に関する調査」昭和46年11月15日(株)高分子市場研究所発行)、甲第4号証(特開昭57-51709号公報)、甲第5号証(米国特許第3,040,009号明細書)、甲第6号証(特開平3-197520号公報)、甲第7号証(松田種光外2名編著「溶剤ハンドブック」初版 昭和38年3月5日産業図書株式会社発行 p.70、71、74〜79)、甲第8号証(日本工業規格JIS K 2201)、及び、甲第9号証(「C9C10芳香族の総合調査」昭和45年9月21日 石油化学工業研究所発行 p.1、262〜267)を提出し、次の理由a〜cを主張している。
理由a:訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明であり、訂正前の請求項4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であり、訂正前の請求項5に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証および甲第4号証に記載された発明であるから、これらの発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
理由b:訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第1号証の記載に基づき、訂正前の請求項4に係る発明は甲第1号証および甲第4〜8号証の記載に基づき、訂正前の請求項5に係る発明は甲第4号証および第9号証の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
理由c:訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[5]取り消し理由の概要

当審が通知した第1回目の取消理由は、下記の理由1〜3であり、第2回目の取消理由は下記の理由3である。
理由1:訂正前の請求項2、5に係る発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物1(特許異議申立人が提出した甲第1号証)、及び、刊行物2(同甲第2号証)に記載された発明であるから、訂正前の請求項2、5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
理由2:訂正前の請求項4に係る発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物1〜7(同甲第1〜7号証)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由3:訂正前の請求項1〜5に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[6]特許異議の申立て及び取消理由に対する判断

1.理由a、理由1に対する判断
本件発明1〜3は、軟化点70〜150℃を有するC5-C9系又はC9系石油樹脂を原料とし、該原料石油樹脂の軟化点をX(℃)としたとき、軟化点がX-10℃よりも高く、X+10℃以下で水添率が50%以上の水添石油樹脂を製造することを構成要件として具備している。(以下、該構成要件を「本件軟化点・水添率要件」という。)
そして、本件発明1〜3は、本件軟化点・水添率要件を満たすために、「珪藻土担体に担持したNi系触媒」(以下「本件触媒」という。)を使用し、温度270〜300℃,圧力20〜300kg/cm2Gにて、1〜10時間水素化するという反応条件(以下「本件反応条件」という。)を採用するものである。
そこで、まず、甲第1号証を検討するに、甲第1号証の実施例1(第3頁第4欄第12〜27行)には以下のとおり記載されている。
「実施例1
石油類の熱分解により得られる分解油留分のうち沸点範囲が140〜220℃の留分を分留して得られるインデン含有率が85%に調整した留分100重量部にフェノール5重量部を添加して、三弗化硼素フェノールを0.5wt%加えて30℃で3時間重合した後、苛性ソーダ水溶液で触媒を除去し、次いで水洗して蒸留により未反応油及び低重合物を除去して軟化点135℃、Mn(数平均分子量)710、Mw(重量平均分子量)1180の樹脂(A)を得た。オートクレーブ中、この未水添の樹脂(A)にラネーニッケル触媒1wt%を添加し水素圧50kg/cm2、反応温度290℃にて10時間反応することにより水素化炭化水素樹脂(A-1)を得た。この水素化炭化水素樹脂(A-1)の軟化点は130℃、Mn(数平均分子量)690、Mw(重量平均分子量)1050、水添率は75%であった。」
甲第1号証の実施例1の方法は、本件反応条件を満足しているが、ラネーニッケル触媒を珪藻土担体に担持させていないから、本件触媒を使用していない。したがって、甲第1号証の実施例1の方法は、本件発明1〜3と同一ではない。また、他の甲第1号証の記載をみても、本件発明1〜3が記載されているとは認められない。
甲第2号証の実施例1(第3頁第5欄第22〜31行)には以下のとおり記載されている。
「実施例 1
先ず市販の芳香族炭化水素樹脂(三井石油化学工業株式会社製“パトロジン”#100)500gを同量のシクロヘキサンに溶解し、オートクレーブ中でラネーニツケル触媒20gの存在下、水素圧200kg/cm2、反応温度300℃、反応時間5時間の条件で水素添加した。この後常法によって触媒及び溶剤を除去し軟化点99℃、臭素価5.2色調1以下、芳香環核内水添率90%の水素化物を得た。」(パトロジンはペトロジンの誤記と認める)
甲第2号証の実施例1の方法で原料とされた“ペトロジン”#100は、甲第3号証の記載からみて、C9系石油樹脂油類に該当すると認められ、その標準性状は軟化点が100(±5)℃であるから、甲第2号証の実施例1の方法は本件軟化点・水添率要件と本件反応条件を満足していると認められる。しかし、該方法は、ラネーニッケル触媒を珪藻土担体に担持させていないから、本件触媒を使用していない。したがって、甲第2号証の実施例1の方法は、本件発明1〜3と同一ではない。また、他の甲第2号証の記載をみても、本件発明1〜3が記載されているとは認められない。
甲第4号証には、その実施例4(第7頁)に軟化点97℃の原料から、水添樹脂を得たことが記載されているが、水添樹脂の軟化点は150℃であるから、実施例4の方法は、本件軟化点・水添率要件を満足しない。したがって、この実施例4の方法は、本件発明1〜3と同一ではない。また、他の甲第4号証の記載をみても、本件発明1〜3が記載されているとは認められない。
したがって、理由a、理由1は採用できない。

2.理由b、理由2に対する判断
本件発明1〜3は、本件軟化点・水添率要件を満足させるために、本件触媒と本件反応条件を採用するものである。
そこで、本件発明1〜3が、甲第1〜9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを検討する。
甲第1号証には、石油類の熱分解により得られる分解油留分のうち、140〜220℃の沸点範囲を有する留分を蒸留することにより得たインデン含有率60〜90%の原料油100重量部をフェノール化合物4.0〜10.0重量部の存在下、フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合してなる芳香族系石油樹脂を水素添加して得られる軟化点115〜145℃の水素化炭化水素樹脂が記載され(段落【0005】【0006】を参照)、水素添加触媒としてニッケル等が記載され(段落【0010】を参照)、水素添加の条件として、反応温度40〜400℃、好ましくは150〜300℃、水素圧10〜400kg/cm2、好ましくは30〜250kg/cm2の条件が記載され(段落【0010】を参照)、上記1.に示したとおりの実施例1が記載されているが、本件触媒と本件反応条件の採用により、本件軟化点・水添率要件が満足することは記載されておらず、また、そのことを示唆する記載もない。
甲第2号証には、「もう1つの成分である芳香族炭化水素樹脂の水素化物としては・・・或は石油の分解、改質の際に副生する沸点20〜300℃の、殊に150〜300℃の溜分を重合して得られる樹脂を水素化したものが包含される。・・・水素化は何れも公知の方法で行うことが出来、・・・また水素化はニツケル、・・・の如き金属又はその酸化物等公知の水添用触媒の存在下に50〜500kg/cm2の水素圧で加熱反応させれば良い。本発明に使用される水素化物としては軟化点(環球法)30〜150℃程度、・・・の物性を有するものが望ましく、特に軟化点60〜120℃、・・・のものが最も好ましい。」(第2頁第3欄第26行〜同第4欄第9行)と記載され、上記1.で示した実施例1や、実施例2(第3頁第6欄第29〜42行)が記載されているが、本件触媒と本件反応条件の採用により、本件軟化点・水添率要件が満足することは記載されておらず、また、そのことを示唆する記載もない。
甲第3号証には、ペトロジンについて記載され、甲第4号証には、γ-アルミナ担体上に担持された硫化ニツケル-タングステンもしくは硫化ニツケル-モリブデンからなる水素添加用触媒(特許請求の範囲の請求項1を参照)、水素添加時の温度条件、圧力条件、反応時間(請求項7、及び、第3頁右上欄を参照)、水添樹脂の軟化点が約50〜150℃であること(第3頁右下欄を参照)が記載され、甲第5号証には、石油由来の合成炭化水素樹脂の水素化の際にキシレンやトルエン、通常のミネラルスピリットを使用すること(第1欄第57〜59行を参照)や、水素化触媒として本件触媒を使用すること(第1欄下から第2行〜第2欄第2行を参照)が記載され、甲第6号証には、石油樹脂の種類(第2頁左上欄を参照)、石炭系のクマロン・インデン樹脂の水素化に本件触媒を使用すること(第4頁右上欄を参照)、水素化処理時に溶剤を使用すること(第4頁右上欄、及び、第5頁左下欄の実施例1を参照)が記載され、甲第7号証には各種溶剤の沸点が記載され、甲第8号証には工業ガソリンについて記載され、甲第9号証には石油樹脂や、その原料となる分解油について記載されているが、これら甲第3〜9号証には、本件軟化点・水添率要件を満足せしめる手段について何も記載もしくは示唆するところがない。
以上のとおりであるから、甲第1〜9号証の記載から、本件軟化点・水添率要件を満足せしめる手段として本件触媒と本件反応条件を採用することが容易であったとは認められない。
したがって、本件発明1〜3は、甲第1〜9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、理由b、理由2は採用できない。

3.理由c、理由3に対する判断
(1)理由cは下記aのとおりであり、第1回目の取消理由の理由3は、以下a、bのとおりである。
a.訂正前の特許明細書の実施例1、2の反応条件は、訂正前の請求項1の条件であるとともに、訂正前の請求項2の条件でもあるが、得られた水添石油樹脂の軟化点は訂正前の請求項1のものである。訂正前の特許明細書の実施例3の反応条件は、訂正前の請求項2の反応条件であるとともに、訂正前の請求項3の条件でもあるが得られた水添石油樹脂の軟化点は訂正前の請求項2のものである。
そうすると、訂正前の請求項1〜3は、当業者が実施できるように記載されておらず、また、発明が不明確である。訂正前の請求項4、5も同様である。
b.甲第1号証の実施例1には、訂正前の請求項2に係る発明が記載されているが、その製造条件は、訂正前の請求項1の発明と重複しているから、本件発明1の製造条件では、本件発明1が実施できない場合があることが明らかである。したがって、訂正前の請求項1とそれを引用する請求項4、5には記載不備がある。
そこでa、bについて検討する。
ア.aについて
aは訂正前の特許明細書に訂正前の請求項1〜3に係る発明が記載されていたこと、及び、同明細書に実施例1、2、3が記載されていたことに基づく理由であるが、訂正により、訂正前の請求項1、3に係る発明は削除され、また、特許明細書中の実施例は実施例1(訂正前の実施例3)のみとなったので、この理由は解消している。
イ.bについて
bは訂正前の請求項1に対する理由であり、訂正前の請求項1は削除されたから、この理由は解消している。
(2)第2回目の取消理由における理由3は、第2回目の訂正請求により解消している。
(3)したがって、理由c、理由3は採用できない。

[7]むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由および取消理由によっては本件発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めることはできない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水添石油樹脂の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】軟化点70〜150℃を有するC5-C9系又はC9系石油樹脂をNi金属を主成分とし、珪藻土担体に担持したNi系触媒存在下、温度270〜300℃,圧力20〜300kg/cm2Gにて、1〜10時間水素化して、軟化点がX-10℃よりも高く、X+10℃以下、水添率が50%以上の水添石油樹脂を製造することを特徴とする方法。
原料石油樹脂軟化点:X(℃)
【請求項2】石油樹脂の水素化を石油樹脂100重量部に対し、常圧での沸点が実質的に140〜280℃の飽和炭化水素、飽和環状炭化水素、芳香族炭化水素より選ばれた1種以上の溶剤10重量部以上を混合して行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】触媒添加量が2〜4wt%である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、水添石油樹脂の製造方法に関する。更に詳しくは、石油樹脂を限定された反応条件下で水素化して、軟化点の制御された水添石油樹脂を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油樹脂は、石油ナフサを熱分解又は触媒を用いた接触分解により得られるC4-C6の脂肪族オレフィンのスペント留分や、オレフィン性飽和結合を有するC8以上の芳香族炭化水素のスペント留分に含まれる1種以上の重合性物質をフリーデルクラフツ型触媒や熱により、単独重合又は共重合して得られたC5系,C9系及びC5-C9系共重合石油樹脂,そしてその他、テルペン樹脂,天然ロジン等がある。
【0003】
これら石油樹脂は、粘着性,接着性,他の樹脂との相溶性を有していることから、各種プラスチックス,ゴム,油性物質に混溶され、塗料,印刷インキ,接着剤,粘着剤,トラフィクペイント等の用途に用いられる。
【0004】
しかしながら、石油樹脂は、一般に黄〜薄茶色に着色している上に、独特の臭気を有し、又熱安定性は低く、耐候性も低いといった課題を有する。
【0005】
この課題解決法として、石油樹脂を触媒の存在下で水素添加する方法があり、この方法で得られる樹脂が水添石油樹脂である。この水添石油樹脂は、通常無色透明〜白色であり,臭気がなく,熱安定性,耐候性にも優れた性質を有し、且つ接着性,粘着性も高い。更に、各種プラスチックス,例えばゴム,ポリオレフィン,及びエチレン一酢酸ビニル共重合体などにも優れた相溶性を有す。したがって、食品分野,サニタリー分野等の外,ホットメルト接着剤,印刷用途,各種プラスチックス改質剤等の高品質が要求される分野に広く用いられる。
【0006】
また、水添石油樹脂は用途に応じて、特定の軟化点,水添率を有するものが使用され、その要求グレードは益々多様化している。これまで、C9系水添石油樹脂の製造方法として、特開昭47-26492号公報、特開昭57-212202号公報、特公昭62-61201号公報、特公昭63-35643号公報がある。しかしながら、物性上重要な水添石油樹脂の軟化点をコントロールするための反応条件についての記載はない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、原料の石油樹脂を限定された反応条件下(反応温度,反応圧力,反応時間)で水素化し、所望の軟化点と水添率を有する高品質の水添石油樹脂を経済的に効率良く製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、水素化条件と得られる水添石油樹脂の水添率,軟化点の関係について鋭意検討した。その結果、軟化点を支配する因子は水添率と分子量であり、水素化反応においてこれらをコントロールする因子は反応温度,反応圧力,反応時間であり、これら因子を厳密にコントロールすることにより、目的の水添率,軟化点を有する水添石油樹脂を自在に製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、石油樹脂を水素化触媒存在下、水素ガスにより水素化する方法に於いて、所望の水添率と軟化点を有する水添石油樹脂を反応温度,反応圧力,反応時間の各因子を任意に組み合わせて製造することを特徴とする水添石油樹脂の製造方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明における石油樹脂とは、石油ナフサの熱分解又は触媒を用いた接触分解により得られるスペント留分で、重合性を有するスチレン,α-メチルスチレン,β-メチルスチレン,ビニルトルエン,インデン,ジシクロペンタジエン,アルキルインデン,エチルベンゼン,トリメチルベンゼン,ナフタリン等を主として含むC9留分をフリーデツクラフツ型触媒又は熱により重合して得られるC9系石油樹脂,イソプレン,ペンテン,ペンタジエン,メチルプテン等を主成分とするC5留分を同様に重合して得られるC5系石油樹脂,前記C5留分とC9留分を共重合して得られるC5-C9系石油樹脂,シクロペンタジエンを重合して得られるDCPD系石油樹脂,シクロペンタジエンとスチレンを共重合して得られるDCPD-St系石油樹脂,リモネン,ピネン類を重合して得られるテルペン系石油樹脂,主としてクマロンを重合して得られるクロマン系石油樹脂,そして天然ロジン等であり、いずれも使用できる。
【0011】
中でも、C9系石油樹脂又はC5-C9系石油樹脂が資源的に豊富であり、価格も安価で、且つそれらの水添品は熱安定性が高く、接着力が大きいといった特徴を有することから、好ましい石油樹脂である。更には、軟化点100〜150℃のC9系石油樹脂が好ましい。
【0012】
本発明に於ける水素化触媒としては、ニッケル金属を主成分とし、助触媒成分としてMg,Ca,Ba,Srのアルカリ土類金属より選ばれた1種以上の酸化物,水酸化物,炭酸塩を珪藻土担体に担持した水素化触媒である(特願平3-156053号)。該触媒は、熱によるニッケル粒子のシンタリングを抑制し、叉、通常石油樹脂に含有されるイオウ化合物による触媒被毒を抑制する。その結果、触媒寿命は向上し繰り返し使用ができ、経済性は著しく向上する。
【0013】
本発明は、前記水素化触媒存在下、水素ガスで水素化するが、反応温度,反応圧力,反応時間の3つの因子を組み合わせて軟化点,水添率のコントロールすることが本発明の骨子となる。
【0014】
即ち、軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下,水添率50%以上のものを得る時は、反応温度270〜300℃,反応圧力30〜300kg/cm2G,反応時間1〜10時間で行う。上記3つの因子を選択することにより、軟化点、選択率を自在にコントロールでき、目的とする水添石油樹脂を得ることができる。
【0015】
【0016】
軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下のものを得る時は、反応温度は270〜300℃が好ましい。300℃を越える温度では軟化点がX-10℃より低くなり、270℃未満の温度では軟化点がX+10℃を越える。反応圧力は30〜300kg/cm2Gが好ましい。300kg/cm2Gを越える圧力では設備が高価となり、30kg/cm2G未満では反応時間が長時間となる。
【0017】
【0018】
触媒添加量は、触媒の種類,活性により異なる。例えば、Ni珪藻土(Ni:50%)触媒では、軟化点がX-10℃以上,X+10℃以下の水添石油樹脂を得る時の触媒添加量は2〜4wt%が好ましい。
【0019】
反応形式は、回分式,半回分式,懸濁床連続式いずれでもよい。
【0020】
本発明に使用する溶剤としては、飽和鎖状炭化水素として、n-ノナン,2-メチル-ノナン,3-メチル-ノナン,4-メチル-ノナン,n-デカン,イソ-デカン,2-メチルデカン,3-メチルデカン,4-メチルデカン,n-ウンデカン,2-メチルウンデカン,3-メチルウンデカン,4-メチルウンデカン,n-ドデカン,イソ-ドデカン,2-メチルドデカン,3-メチルドデカン,4-メチルドデカン,5-メチルドデカン,2,3-ジメチルドデカン,2,3,4-トリメチルドデカン,2,3,4,5-テトラメチルドデカン,n-トリデカン,メチルトリデカン,ジメチルトリデカン,トリメチルトリデカン,n-テトラデカン,メチルテトラデカン,ジメチルテトラデカン,トリメチルテトラデカン,ペンタデカン,アルキルペンタデカン,ヘキサデカン,アルキルヘキサデカン,ヘプタデカン,アルキルヘプタデカン,オクタデカン,アルキルオクタデカン,ノナデカン,アルキルノナデカン,エイコサン,アルキルエイコサン等を挙げることができる。
【0021】
飽和環状炭化水素として、トリメチルシクロヘキサン,テトラメチルシクロヘキサン,メチルエチルシクロヘキサン,ビシクロヘキサン,メチルビシクロヘキサン,ジエチルビシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0022】
芳香族炭化水素として、ジエチルベンゼン,トリメチルベンゼン,テトラメチルベンゼン,メチルエチルベンゼン,イソプロピルベンゼン,P-シメン,アミルベンゼン,ナフタリン,アルキルナフタリン,シクロヘキシベンゼン,アルキルシクロヘキシルベンゼン,フルオレン,アルキルフルオレン等を挙げることができる。
【0023】
これらは、1種あるいは2種以上の混合物でも良い。
【0024】
溶剤添加量は、石油樹脂100重量部に対して10〜150重量部が好ましい。更に好ましくは20〜100重量部である。
【0025】
水素化処理後、通常の操作、即ち濾過,蒸留などにより触媒,低沸分,溶剤を除去する。
【0026】
このようにして水添石油樹脂が得られる。
【0027】
本発明で得られる水添石油樹脂は、無色透明であり、耐熱性,耐候性に優れ、且つ粘着性,接着性が大きく、粘着剤,接着剤として、又ゴム,インキ等の添加剤として有用、且つ有効に使用できる価値の高いものである。
【0028】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定するものではない。
【0029】
参考例1
電磁撹拌機及び加熱器を備えた内容積300mlのステンレス製耐圧容器に、市販のC9系石油樹脂(東ソー株式会社製,ペトコール120ARK,軟化点120℃,イオウ含有120ppm,ガードナー色数12)70g,水素化触媒としてNi/珪藻土触媒〔N社製,Ni(50wt%含有)〕0.7g,溶剤として市販パラフィン系炭化水素(I社製,bp:160〜200℃)21gを仕込み、窒素ガス次に水素ガスで置換後、水素加圧した。次に、撹拌,加熱し、温度290℃で8時間保持した。この間、圧力は50kg/cm2Gに維持した。その後、放冷し、反応生成物を取り出し、加圧濾過器を用い、触媒と反応生成物を分離した。次に、反応生成物は、オイルバスにて加熱しつつ、N2ガスを通じ溶剤を除去し、水添石油樹脂を得た。
【0030】
水添石油樹脂を分析したところ、軟化点は99℃,水添率は87.1%で、無色透明,無臭であった。
【0031】
【0032】
実施例1
触媒添加量を2.1g,反応時間を4時間とした以外は参考例1と同様に行い、軟化点118℃,水添率97.7%,無色透明,無臭の水添石油樹脂を得た。結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
【表1】

【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、種々の軟化点を有する石油樹脂から高品質で任意の軟化点,水添率の水添石油樹脂を効率的に製造することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-21 
出願番号 特願平5-164452
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08F)
P 1 651・ 121- YA (C08F)
P 1 651・ 531- YA (C08F)
P 1 651・ 534- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 邦彦  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 石井 あき子
藤原 浩子
登録日 2002-06-14 
登録番号 特許第3316942号(P3316942)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 水添石油樹脂の製造方法  

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