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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B29C 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 B29C |
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管理番号 | 1116165 |
異議申立番号 | 異議2003-72277 |
総通号数 | 66 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-10-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-09-12 |
確定日 | 2005-03-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3386174号「フッ素樹脂成形品の平滑化方法および平滑成形品」の請求項4、5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3386174号の請求項4、5に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3386174号の請求項4、5に係る発明についての出願は、平成5年4月9日の出願であって、平成15年1月10日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議の申立て(特許異議申立人 三井・デュポンフロロケミカル株式会社。以下、「申立人」という。)がなされ、平成16年11月2日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年1月7日付けで訂正請求及び特許異議意見書の提出がなされたものである。 II.平成17年1月7日付け訂正請求書による訂正の適否について 1.訂正の内容 平成17年1月7日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。 『特許請求の範囲の記載について、 「 【請求項1】 フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより、成形品の表面粗度を500Å以下にすることを特徴とするフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項2】 加圧状態のまま常温まで冷却する請求項1記載のフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項3】 フッ素樹脂成形品がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の成形品である請求項1記載のフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項4】 表面粗度(Ra)500Å以下のフッ素樹脂平滑成形品。 【請求項5】 フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である請求項4記載のフッ素樹脂平滑成形品。」 とあるのを、 「 【請求項1】 フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより、成形品の表面粗度を500Å以下にすることを特徴とするフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項2】 加圧状態のまま常温まで冷却する請求項1記載のフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項3】 フッ素樹脂成形品がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の成形品である請求項1記載のフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項4】 フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより得られる表面粗度(Ra)500Å以下のフッ素樹脂平滑成形品。 【請求項5】 フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である請求項4記載のフッ素樹脂平滑成形品。」 と訂正する。』 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件訂正は、訂正請求書の「(3)訂正の要旨」及び「(4)請求の原因」の記載によれば、請求項1〜3については何ら訂正せず、請求項4を訂正するものであると認められる。また、請求項5については何ら文言上の変更は加えられていないが、請求項4を引用したものであるので、これら請求項4、5について検討する。 (1)請求項4について 請求項4に係る訂正は、訂正前の請求項4に係る発明におけるフッ素樹脂平滑成形品について、訂正前の明細書の段落【0007】、【0008】等に記載されていた具体的な態様に基づき、「フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより得られる」ものであるとして、その製造方法を特定し、発明の構成に欠くことのできない事項として付加したものである。そして、訂正前の請求項4に係る発明におけるフッ素樹脂平滑成形品は、訂正後は、このように製造方法が特定されたことにより、訂正後の明細書の段落【0008】、【0010】、【0018】、【0041】【表7】、【0042】等の記載からみて、従来入手しうるフッ素樹脂成形品から、その結晶化度が上げられ、その結晶子の大きさが小さくされた緻密な表面構造を有したものとして、技術的に限定されたものになっていると解される。 よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項5について 訂正前の請求項5に係る発明は、訂正前の請求項4に係る発明を技術的に限定したものであったのだから、本件訂正は、請求項5の文言について訂正するものではないが、請求項4に係る訂正により実質的な訂正がされているものである。そして、上記「(1)請求項4について」で述べたと同様に、この訂正は、請求項5に係る発明について、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議申立てについて 1.本件請求項に係る発明 上記のとおり訂正は認められるから、本件特許請求の範囲の請求項4、5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明4」、「本件発明5」という。)は、訂正後の請求項4、5に記載された次のとおりのものであると認める。 「 【請求項4】 フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより得られる表面粗度(Ra)500Å以下のフッ素樹脂平滑成形品。 【請求項5】 フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である請求項4記載のフッ素樹脂平滑成形品。」 2.特許異議申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として下記甲第1号証を提示し、訂正前の本件請求項4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してなされたものであり、訂正前の本件請求項4、5に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 甲第1号証:「ウルトラクリーンテクノロジー」半導体基盤技術研究会発行(1990年10月25日) Vol.2,No.4 456-462ページ (井原清彦外2名“半導体用高品質PFA”の項) 3.平成16年11月2日付けの取消理由通知について 内容は、概略以下のとおりである。 『理 由 本件特許の請求項4、5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記(1)の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用刊行物 (1)井原清彦外2名“半導体用高品質PFA” ウルトラクリーンテクノロジー 半導体基盤技術研究会発行(1990年10月25日) Vol.2,No.4 456-462ページ (特許異議申立書の甲第1号証)』 4.甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、以下の(ア)〜(ク)の記載が認められる。 (ア)「半導体関連分野において,フッ素樹脂PFAはその優れた耐熱性,耐薬品性等の性質をいかして,ウエハキャリアやボトルあるいはチューブ等の配管システムとして広く用いられている。しかしながらPFAといえども詳細に見ればいくつかの問題点を有しており,それらはLSIの高密度化・高集積化に伴って顕在化してくる。 我々はPFA素材メーカーとしてこれらの問題点を克服すべく改良検討を進めている,ここでは次の3点について述べる。 ・・・溶出フッ素イオンの低減 ・・・パーティクルの低減 ・・・PFAチューブ内面の凹凸減少」(456ページ左欄「1.はじめに」の項) (イ)「PFAから溶出する・・・溶出フッ素イオン・・・が多いと,ウエハを曇らせたり,・・・悪影響を及ぼすので,可能な限り低減するのが望ましい。 PFAからのフッ素イオンの発生機構を・・・示す。・・・PFAからの溶出フッ素イオンを低減するには,不安定末端基〜COFを何らかの化学的処理により安定化すればよい。安定化方法としては・・・方法等があるが,・・・一般にこれらの末端基の熱安定性は・・・であるが,・・・〜CH2OH基,〜CONH2基,〜CF3基を有するPFAペレットの380℃での熱処理時間と〜COF基の増加量との関係をFig.3に示す。・・・〜CF3が最も安定であることがわかる。」(456ページ左欄〜457ページ右欄「2.PFAの改良」の「2.1 溶出フッ素イオンの低減」の項) (ウ)「低分子量物の除去 PFAから溶出するパーティクルはポリエチレン等の汎用樹脂と比べると比較的多く,超微細回路の要求される高集積LSI製造時においては歩溜り悪化の原因となりうる。したがって,パーティクルの低減が強く要求されているが,・・・低分子量物の除去を目的として,フッ素系樹脂による抽出を行った。実験では,PFAペレットをフッ素系溶媒R-113・・・を用いて・・・抽出し,・・・PFAオリゴマーを除去しえた。・・・PFAから発生するパーティクルを低減するための一手段として,PFA容器を用いて洗浄法の検討を行った。・・・次のような洗浄方法が効果的であることがわかった。・・・フッ素ガスによる表面処理・・・界面活性剤添加による洗浄・・・洗浄効果は・・・HDPEの超純水洗浄よりも高洗浄度を達成しうる。・・・このようにPFA容器の洗浄法を検討した結果,初期効果においてはパーティクルを低減する有効な洗浄法を見いだすことができた。」(457ページ右欄〜458ページ右欄「2.2 パーティクルの低減」の項) (エ)「2.3 PFAチューブ内面の凹凸減少 PFA製チューブは半導体関連の薬液・超純水の配管システムに多く用いられているが,通常このチューブ内面には径10〜50μmの亀甲模様の凹凸が特異的に見られる。・・・チューブ内面にこのような凹凸があると,パーティクルや不純金属分が滞留しやすく,クリーンアップに多大の時間を要したり,また薬液のキャリーオーバーが懸念される。そこで我々は,この凹凸に注目し,その生成原因と減少の可能性を探った。」(458ページ右欄「2.3 PFAチューブ内面の凹凸減少」の項) (オ)「チューブ原料のPFAとしては次の3種を用いた。 S-1:現行品 S-2:末端安定化品 S-3:末端安定化および低分子量物除去品 ・・・押出機を用い・・・チューブを成形した。・・・Fig.9に非接触表面粗さ計データを示す。現行品PFAには径50μm程度の亀甲模様の凹凸が現れたが,末端安定化タイプS-2・S-3には見られなかった。」(461ページ左欄第1行〜右欄第5行) (カ)Fig.9において,非接触表面粗さ計データとして,S-1のRAが240nmであり,S-2のRAが15.9nmであり,S-3のRAが24.8nmであること。(460ページのFig.9) (キ)「ところで,PFAフィルム・・・を330℃の溶融状態から徐冷固化させていったときの偏光顕微鏡写真をFig.10に示す。およそ294℃で生じ始めた小さなPFAの球晶が徐々に大きく成長していき,隣接した球晶がついには重なり合って286℃あたりで固化すると成長は終了する。この成長しきった球晶の直径は20〜50μmであり,チューブ内面の凹凸サイズとほぼ一致することから,PFAチューブ内面の凹凸はPFA球晶に由来すると推察できる。」(462ページ左欄第1〜9行) (ク)「半導体用PFAの問題点として,溶出フッ素イオン,パーティクル,チューブ内面の凹凸の3点に注目し,その改良を検討した。その結果,・・・PFAからの溶出フッ素イオンは,ポリマー末端基を安定化することにより低減することができる。・・・PFAから溶出するパーティクルは,低分子量物を抽出除去することにより低減することができる。またPFA容器のパーティクルは,F2処理や界面活性剤の添加等によりある程度まで低減できる。・・・PFAチューブ内面の凹凸はPFAの球晶に由来し,その生成は原料樹脂により異なる。現時点までの評価では,この凹凸と薬液のキャリーオーバーや溶出パーティクルとの明確な相関は認められていない。」(462ページ「3.まとめ」の項) 5.当審の判断 5-1.当審の通知した取消理由について 5-1-1.甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、上記摘示(エ)より、PFA製チューブ内面の径10〜50μmの亀甲模様凹凸を減少させる可能性について探ることが記載されており、また、上記摘示(オ)、(カ)からすれば、凹凸を減少させたチューブの具体的な製造方法が開示されているとはいえないものの、当業者であればその減少は可能であるといえる程度の記載は認められるから、引用例1には、「チューブ内面の径10〜50μmの亀甲模様の凹凸を減少させたPFA製チューブ」の発明(以下、「引用例発明1」という。)が記載されているものと認められる。 5-1-2.対比、判断 (1)本件発明4について 本件発明4と引用例発明1とを対比する。 PFAが、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のフッ素樹脂であることは技術常識であり、凹凸が減少されたチューブは平滑な成形品であるといえるから、両者は、 「フッ素樹脂平滑成形品」 である点で一致し、 本件発明4のフッ素樹脂平滑成形品は、フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより得られるものであるのに対し、引用例発明1は、その具体的な製造方法は不明であって、製造方法による発明の特定はされていない点(以下、「相違点1」という。)、 フッ素樹脂平滑成形品が、本件発明4では、表面粗度(Ra)500Å以下であるのに対し、引用例発明1では、表面粗度(Ra)500Å以下であるか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)、 で相違している。 (相違点についての判断) 本件発明4のフッ素樹脂平滑成形品では、相違点1に係る製造方法が特定されたことにより、訂正後の明細書の段落【0008】、【0010】、【0018】、【0041】【表7】、【0042】等の記載からみて、従来入手しうるフッ素樹脂成形品から、その結晶化度が上げられ、その結晶子の大きさが小さくされた緻密な表面構造を有したものとして、技術的に限定されたものになっていると解される。 これに対し、引用例発明1では、その具体的な製造方法は不明であるが、PFA製チューブに関し、半導体関連等の分野において高品質化が望まれ、内面凹凸の減少が技術的課題であったことが、甲第1号証の上記摘示(ア)、(エ)から認められ、また、甲第1号証の上記摘示(オ)、(カ)によれば、PFA原料を末端安定化するか、もしくは末端安定化及び低分子量物除去することにより、亀甲模様の凹凸を減少させることが可能であるとされ、甲第1号証の上記摘示(キ)によれば、チューブの凹凸はPFA球晶に由来するものであると推察されていることからすれば、PFA製チューブにおける内面凹凸により表面粗度の減少を図る上では、結晶成長を抑えることが示唆されていると認められるものであって、少なくともフッ素樹脂成形品の結晶化度を上げることについては記載も示唆もされていないと解される。 してみれば、相違点1は実質的なものであり、また、甲第1号証の記載から当業者が容易に想到できるものでもない。 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)本件発明5について 本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに技術的に限定を加えたものであるから、本件発明4が甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない以上、本件発明5についても、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 5-2.異議申立ての理由について 5-2-1.特許法第29条第1項について 上記5-1-2(1)で検討したように、本件発明4と甲第1号証に記載された発明(引用例発明1)とを対比すると、実質的な相違点1で少なくとも相違している。 よって、本件発明4は甲第1号証に記載された発明であるとはいえないものであり、申立人の主張する特許法第29条第1項に係る取消理由は存在しない。また、本件発明5についても、同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 5-2-2.特許法第29条第2項について 上記5-1-2(1)及び(2)で述べたように、本件発明4及び5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえないから、申立人の主張する特許法第29条第2項に係る取消理由は存在しない。 6.むすび 以上のとおり、当審の通知した取消しの理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によって本件発明4及び5についての特許を取り消すことはできず、他に本件発明4及び5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 フッ素樹脂成形品の平滑化方法および平滑成形品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより、成形品の表面粗度を500Å以下にすることを特徴とするフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項2】 加圧状態のまま常温まで冷却する請求項1記載のフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項3】 フッ素樹脂成形品がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の成形品である請求項1記載のフッ素樹脂成形品の平滑化方法。 【請求項4】 フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより得られる表面粗度(Ra)500Å以下のフッ素樹脂平滑成形品。 【請求項5】 フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である請求項4記載のフッ素樹脂平滑成形品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、フッ素樹脂成形品の平滑化方法および平滑成形品に関する。より詳しくは、フッ素樹脂成形品の表面粗度(Ra)を500Å以下にするフッ素樹脂成形品の平滑化方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 フッ素樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、高周波特性などをすべて兼ね備えており、さらにフッ素樹脂特有の非粘着性と低摩擦性をもっているがゆえに、化学工業、電気・電子工業、機械工業はもとより、宇宙開発、航空機産業から家庭用品に至るまで幅広い分野で用いられている。フッ素樹脂のなかでもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)はその耐熱性、耐薬品性がとりわけ優れていることから、半導体製造分野においてウェハーキャリア、ボトル、洗浄槽、フィルター、ポンプやチューブ・継ぎ手などの配管系、あるいは薬品タンク、バルブのライニングなどに必要欠くべからざる材料として好んで使用されている。特に全半導体製造工程中のおよそ2割を占めるウェットプロセスにおいては、強酸・強アルカリなどの反応性に富むきわめて腐食性の高い薬品をかなりの高温で使用するので、ポリエチレンやポリ塩化ビニルといった汎用樹脂やステンレススチールなどの金属材料はこのような用途に用いることができず、現状ではPTFEやPFAなどのフッ素樹脂のみが使用可能なのである。しかるに近年のLSIの高集積化・高密度化に伴い、このように優れたフッ素樹脂といえどもいくつかの問題点を有していることが露呈されてきた。超LSI製造プロセスにおいては、極微量のパーティクル、金属汚染、有機物汚染などのコンタミネーションがその歩留まりに大きく影響するので、ウルトラクリーンな製造プロセスが要求されている。したがって薬液を介し、シリコンウェハーと接する機会の多いこれらフッ素樹脂成形品にも当然のことながら、超清浄性が要求されている。ところが従来入手しうるこれらフッ素樹脂成形品の表面にはかなりの凹凸があり、この凹凸にパーティクル、金属不純物、有機物不純物、これら樹脂の低分子量物(オリゴマー)などが付着してしまう。これらの汚染物は超純水や高純度薬品を用いた洗浄では除去しがたく、ウェットプロセスにおいて長期に亘り、徐々に超純水や高純度薬品中に流出していき、シリコンウェハーを汚染している。またウェット洗浄によりシリコンウェハー上から除去したこれらの不純物がフッ素樹脂表面の凹凸に再付着し、これが再び超純水や高純度薬品中に流出してしまうといった不都合も生じている。すなわちフッ素樹脂成形品表面に凹凸があれば、これらの極微小不純物は吸着脱離を繰り返すため超純水や高純度薬品ひいてはシリコンウェハーを汚染してしまう危険性を有している。 【0003】 ところでPTFEはその溶融粘度が非常に高いため(380℃で1011〜1013ポアズ)、その成形には溶融押出し成形、射出成形などの通常のプラスチック成形は適用できず、原料粉末をあらかじめ適当な圧力で圧縮したのち、これを融点以上に加熱焼結するという特殊な方法がとられている。そこで圧縮成形、ラム押出し成形、ペースト押出し成形、カレンダー成形などで成形されているが、これらの成形法はいずれも溶融による均一化が行なわれないため、成形品中にボイド(空孔)が生じやすく、その表面は凹凸の多い荒れたものとなっている。したがってPTFE成形品の表面粗度は他の熱可塑性樹脂のそれに比べかなり大きく、表面粗度(Ra)は2000Å以上になってしまう。 【0004】 一方、PFAはその溶融粘度が380℃で104〜106ポアズと低く、射出成形、押出し成形、ブロー成形、圧縮成形などの通常のプラスチック成形が用いられている。そして溶融による均一化が行なわれるため、その成形品の表面はPTFEよりも平滑になるものの、直径20〜50μm程度の球晶構造が残存しやすく、表面粗度(Ra)は700Å以上である。 【0005】 このように従来のフッ素樹脂成形品表面は詳細にみれば荒れており、半導体用途として満足しうるものではない。従来から成形品の表面粗度低減のため、成形金型の内表面を平滑化したり、原料樹脂そのものの改良などの検討がなされてきたが、Raが700Å以下の表面はえられなかった。またセラミックスの分野においては、その高密度化、高均質化をねらった成形法として温度1000℃以上、圧力600kg/cm2以上もの高温高圧で成形する方法(いわゆるHIP法)が知られているが、このような苛酷な成形条件ではフッ素樹脂は分解劣化してしまうため、適用しえない。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は半導体製造プロセスへの用途として満足しうるその表面粗度(Ra)を500Å以下にたらしめうるフッ素樹脂成形品の平滑化方法、および表面粗度500Å以下のフッ素樹脂平滑成形品を提供することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明のフッ素樹脂成形品の平滑化方法は、フッ素樹脂成形品を表面粗度(Ra)50Å以下の平滑な成形型に挟み込み、成形温度270〜340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形することにより、フッ素樹脂成形品の表面粗度(Ra)を500Å以下にすることを特徴とする。 【0008】 【作用および実施例】 本発明では、フッ素樹脂成形品をきわめて平滑な(Ra 50Å以下)成形型に挟み込み、しかもその結晶化度を上げ、その結晶子の大きさを小さくするのに最適な加熱加圧条件で圧縮成形するため、緻密な表面構造をうることができ、その結果、その表面粗度(Ra)を500Å以下にすることができる。 【0009】 本発明が対象とするフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)などがあげられる。PTFEには、パーフルオロビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレンなどの他の共単量体を1重量%まで含んだものも含まれる。これらのフッ素樹脂は溶融成形できないか、できても表面の荒れた成形品しかえられないものである。 【0010】 本発明の平滑化方法に供するフッ素樹脂成形品は、どのような成形法で成形されたものでもよい。フッ素樹脂の成形法としては、前記のように、PTFEについては圧縮成形のほかラム押出し成形、ペースト押出し成形、カレンダー成形などがあり、溶融成形可能なPFAなどについては、圧縮成形、射出成形、押出し成形、ブロー成形、トランスファー成形などがある。PTFEの成形品のばあい、前記の成形法で成形したのち焼成したものを用いるのが好ましい。成形品の形状、大きさは、単純表面または単純曲面をもつものであれば任意である。 【0011】 本発明は、かかるフッ素樹脂成形品を平滑な表面を有する成形型に挟み込み、特定の条件で圧縮成形する方法である。 【0012】 成形型は、その表面粗度(Ra)が50Å以下でなければならない。Raが50Åを超えるばあい目的とする平滑化効果がえられない。好ましいRaは30Å以下である。成形型の表面粗度を50Å以下にする方法は、たとえば機械研磨法、化学研磨法、電解研磨法などがあるが、これらに限られるものではない。成形型の好ましい材料としては、たとえばシリコン(シリコンウェハーを含む)、電解研磨されたステンレススチール、ハステロイ、X-アロイ、硬質クロムメッキ鋼などがあげられ、特にシリコンが表面粗度が低く好ましい。この成形型は圧縮成形時に直接成形品に接するものであり、成形品がシート、フィルム、パッキン、丸棒、丸槽、角槽などの単純形状品のばあいは、形状としては単純平面または単純曲面を有する板状のものが好ましい。成形品がウェハーキャリア、フィルターハウジング、ボールバルブなどの複雑形状品のばあいは、硬質クロムメッキ鋼製の通常の射出成形金型の内面にシリコン板をはりつけたものなどを用いればよい。 【0013】 成形型で挟まれたフッ素樹脂成形品はついで圧縮成形される。単純形状品のばあいは、通常の圧縮成形機などを用いて圧縮成形することができる。一方複雑形状品のばあいは、成形品を所望の形状の成形型に挟んだのち、圧縮成形機にセットし、1方向からでなく複数の方向から圧縮することにより圧縮成形される。あるいは、1度ある方向に圧縮された成形を取り出し再び別の方向から圧縮するという操作を繰り返して、1面ずつを順番に平滑化していくことも可能である。チューブ、パイプなどの中空の成形品に対しては、内側に平滑な丸棒成形型を挿入し、外側から平滑な円筒型成形型で圧縮成形するという方法も可能である。 【0014】 成形温度はフッ素樹脂が軟化し始める温度以上で熱分解温度以下であり、フッ素樹脂の種類や分子量などにより、270〜340℃、好ましくは280〜300℃の範囲内で選定する。成形温度が低すぎると溶融および軟化が起らず平滑化が困難となり、高すぎるとフッ素樹脂が分解・劣化してしまう。 【0015】 成形圧力は10kg/cm2以上、好ましくは50〜150kg/cm2である。圧力が小さすぎると冷却過程で成形品が収縮するため、その表面と成形型との接触が不充分となり、目的とする平滑化表面がえられない。 【0016】 成形時間は成形温度、成形圧力、フッ素樹脂の種類、分子量などに合わせて決められるが、2分間以上、通常5分間以上、好ましくは30〜120分間である。短かすぎると溶融および熱軟化が不充分となり目的とする表面粗度がえられない。 【0017】 加圧加熱後、成形品は冷却されるが、この冷却は徐冷でも急冷でもよい。冷却過程において成形品が不均一に収縮するため、冷却は加圧状態のまま常温まで行なうのが好ましい。 【0018】 えられる平滑成形品は、結晶化度が高められかつ結晶子が小さくなっており、またその表面に球晶成長による亀甲模様状の凹凸を有するものはこの凹凸が平滑化されており、表面粗度(Ra)が500Å以下、好ましくは400Å以下のものである。 【0019】 平滑成形品の形状は、原料成形品の形状および成形型の形状により決まるが、通常シート状、フィルム状、円筒状などとすることができる。 【0020】 本発明のフッ素樹脂平滑成形品は、従来えられなかった小さな表面粗度を有しており、平滑な表面が要求される分野、特に半導体製造の分野の治具、装置、設備などの材料として極めて有用である。また、表面にパーティクル、金属不純物、有機物不純物などが付着しにくく、洗浄によりそれらを大幅に除去することができる。また洗浄した後のそれらの再吸着も防ぐことができる。さらにガス透過性、薬液浸透性、耐薬品性も改良される。 【0021】 本発明のフッ素樹脂平滑成形品としては、たとえばウェハーキャリア、ウェハーボックス、キャリア用ハンドル、ボトル、ビーカー、フラスコ、丸槽、角槽、タンク、角バット、トレー、フィルターハウジング、ピンセット、真空ピンセット、スパチュラ、アスピレーター、流量計、ポンプ、パイプ、チューブ、フレキシブルパイプ、熱収縮パイプ、ボールバルブ、ニードルバルブ、コック、接続ジョイント、コネクター、ナット、フィルム、シート、パッキン、丸棒、あるいは薬品タンク、コンテナー、パイプ、バルブ、ポンプなどのライニングなどがあげられる。 【0022】 つぎに本発明の方法および平滑成形品を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。 【0023】 実施例1 厚さ1mmの市販のPTFEシート(Ra 2095Å)を100mmφ円形に切り抜き、その上下を4インチシリコンウェハー(100mmφ円形、鏡面側、Ra 20Å。(株)大阪チタニウム製のP型(100)タイプ)に挟んだ。これをクロムメッキを施したステンレススチール製100mmφの圧縮成形用金型にセットし、あらかじめ表1に示す所定温度に昇温しておいた圧縮成形機(ヒートプレス、(株)神藤金属工業所製)の加熱部に置いた。5分間の予備加熱ののち、同温度を保持したまま50kg/cm2の圧力で1時間加圧した。直ちに冷却部に移し、加圧時の圧力を保持したまま15分間冷却した。ほぼ室温まで冷却されたPTFEシートを取り出し、接触式段差計(日本真空技術(株)製、DEKTAK 3030ST)にて表面粗度(Ra)を測定した。成形温度を変化させたときのRa測定結果を表1に示す。なお、Raの値はシートの上下面任意の各10点ずつ合計20点を測定し、それらの平均値とした(以下の実施例も同様)。 【0024】 【表1】 【0025】 実施例2 実施例1のPTFEシートに代えて、厚さ1mmの市販のPFAシート(Ra 923Å)を用いた。また加圧時間は5分間とし、表2に示す成形温度としたほかは実施例1と同様にして平滑シートをえた。これらのシートのRa測定結果を表2に示す。 【0026】 【表2】 【0027】 実施例3 280℃で5分間加熱したのち、同温度を保持したまま表3に示す圧力で1時間加圧したほかは実施例1と同様にして平滑シートをえた。これらのシートのRa測定結果を表3に示す。 【0028】 【表3】 【0029】 実施例4 実施例2と同じPFAシートを用いたほかは実施例3と同様にして平滑シートをえた。これらのシートのRa測定結果を表4に示す。 【0030】 【表4】 【0031】 実施例5 280℃で5分間加熱したのち、同温度を保持したまま50kg/cm2の圧力で表5に示す時間加圧したほかは実施例1と同様にして平滑シートをえた。これらのシートのRa測定結果を表5に示す。 【0032】 【表5】 【0033】 実施例6 実施例2と同じPFAシートを用い、表6に示す加圧時間としたほかは実施例5と同様にして平滑シートをえた。これらのシートのRa測定結果を表6に示す。 【0034】 【表6】 【0035】 またこのようにして平滑化したPFAシートのX線回折分析を行なった。測定にはモノクロメータ付きX線ディフラクトメータ(理学電機(株)製)を用いた。X線管球の管電圧および管電流はそれぞれ35kV、40mAとし、ターゲットにはコバルト(Co)を用いたが、Co-Kβ線除去のためFeフィルターを併用した。ゴニオメータの発散スリット(DS)、受光スリット(RS)、散乱スリット(SS)はそれぞれ1.00、0.15、1.00mmとし、走査速度1.5°/minで、10〜30°の2θ走査範囲を測定した。図1に実験例6-5でえられた平滑PFAシートの測定結果を示す。 【0036】 図1に示されているように、PFAは半結晶性の樹脂のため、結晶による2θ約20.8°のシャープなピークとその低角度側の非晶質によるブロードなピークをもつ。このシャープなピークの両端の変曲点を直線で結ぶと、結晶によるピーク面積aと非晶質によるピーク面積bに分けられる。そして、PFAの結晶化度を簡易的につぎの式にて求めた。 【0037】 【数1】 【0038】 さらに結晶子の大きさはつぎのScherrerの式にて求めた。 【0039】 【数2】 【0040】 ここで、λは測定X線波長(Co-Kα、1.78892Å)、βは結晶ピークの半値幅(ラジアン)、θは結晶ピークのブラッグ角(ラジアン)、Kは定数で今はβに半値幅を用いているのでK=0.9である。上式にて結晶化度および結晶子の大きさを求めた結果を表7に示す。 【0041】 【表7】 【0042】 このようにシリコンウェハーで挟み込み圧縮成形したPFAシートは、原料シートに比べ結晶化度が上昇し、結晶子のサイズが小さくなる傾向がある。すなわち、本発明により成形されたPFAシートは、より小さな結晶が数多く表面に形成され、緻密な表面構造がえられるため、表面が平滑化されていると考えられる。 【0043】 実施例7 原料のPFAシート(Ra 760Å)と実験例6-5でえられたPFA平滑シート(Ra 94Å)を用いて、PFA表面上の金属不純物の除去試験を行なった。 【0044】 表面金属濃度測定には、全反射蛍光X線分析装置((株)テクノス製、TREX610)を用いたが、蛍光X線強度から単位面積当たりの金属濃度への換算には、PFAの標準汚染試料作成が困難なため、標準汚染シリコンウェハーに対する検量線を借用した。これらのシートを超純水で10分間オーバーフローリンスしたのち、表面金属濃度を測定した。測定後、これらのシートを半導体製造グレードの硫酸:過酸化水素水混合液(体積比4:1)800mlに10分間浸漬し(シリコンウェハー洗浄で通常用いられているいわゆるSPM洗浄)、さらに超純水で10分間オーバーフローリンスした。このSPM洗浄後、再度表面金属濃度を測定した。SPM洗浄前後のFe、Ni、CuのPFAシート表面の濃度変化を表8に示す。なお、表8中、金属除去率はつぎの式にて算出した。 【0045】 除去率(%)=(洗浄前濃度-洗浄後濃度)/洗浄前濃度×100 【0046】 【表8】 【0047】 このように平滑化したPFAシート上の金属不純物は、原料シートよりも除去しやすい。 【0048】 実施例8 実施例7にて予めSPM洗浄を施したPFAの原料シートと平滑シートを用いて金属不純物の再吸着試験を行なった。これらSPM洗浄済みのシートを各1ppmのFe、Ni、Cuで汚染された800mlの超純水中に4日間浸漬した。浸漬後これらを10分間超純水でオーバーフローリンスしたのち、シート表面の金属濃度を全反射蛍光X線分析装置で測定した。この浸漬前後のFe、Ni、CuのPFAシート表面の濃度変化を表9に示す。 【0049】 このように表面粗度の大きい原料シートは金属不純物が再吸着するのに比べ、平滑シートには再吸着は起こらない。 【0050】 【表9】 【0051】 ここに示したように平滑化したPFA表面には金属不純物は吸着しない。さらにたとえ何らかの原因で成形過程、包装過程、使用過程で金属汚染したとしても、実施例7で示したように、SPM洗浄などで容易に洗浄除去できる。 【0052】 従来よりフッ素樹脂表面には(特にボトルなど)金属不純物が微量ながら吸着するといわれていたが、それはRaが700Å以上の粗い表面に起因すると考えられる。本実施例のように平滑化されたフッ素樹脂成形品表面には金属不純物が吸着することはなく、これがフッ素樹脂の本来の性質である。 【0053】 実施例9 実施例7にて予めSPM洗浄を施したPFAの原料シートと平滑シートを用いて、これらシートからシリコンウェハーへの金属不純物移転試験を行なった。これらSPM洗浄済みのシートを予めRCA洗浄を行ない酸化膜および金属不純物を充分に除去しておいたシリコンウェハー(鏡面側、小松電子金属(株)のN型(100)タイプ)と面と面が合うように接触させ、800mlの超純水に10分間浸漬した。この浸漬前後のFe、Ni、Cuのシリコンウェハー表面の濃度変化を表10に示す。 【0054】 このように原料シートに接触させたシリコンウェハーはこのシートにより著しく金属汚染されるのに比べ、平滑シートに接触させたシリコンウェハーの表面金属濃度はほとんど変化せず、汚染されない。 【0055】 【表10】 【0056】 実施例10 原料のPFAシート(Ra 760Å)と実験例6-6でえられたPFA平滑シート(Ra 144Å)を用いて、ヘリウムガス透過性試験を行なった。各々のシートを外径65mmφ、内径30mmφのパッキンに切り抜き、これを図2に示したステンレス・スチール製のフランジ式試験治具にセットし、フランジをボルト・ナットで締め付けた(締め付けトルクは400kg・cm)。試験治具の上側バルブは閉めておき、下側バルブはヘリウムリークディテクター(ANELVA社製、ALCATEL ASM 110 TURBO CL)にステンレス・スチール製チューブでつないだ。ヘリウムリークディテクターにより真空引きを行ない、下側バルブを開いた。試験治具内を充分に真空引きしたのち、試験治具全体にビニール袋をかぶせ、このビニール袋内をヘリウムガスで満たした。ヘリウムガスを導入した時点(測定開始点)から、ヘリウムリークディテクターによりヘリウムリーク速度を飽和状態になるまで測定した。ヘリウムリーク速度の経時変化を図3に示す。平滑シートは原料シートに比べ、ヘリウムリーク速度の立ち上がりが遅くヘリウムガス透過性が小さくなっていることがわかった。 【0057】 実施例11 実施例10で用いたものと同じPFAの原料シート(Ra 760Å)と平滑シート(Ra 144Å)を用いて、酸素ガス放出試験を行なった。各々のシートをASTM-D638記載のTypeVダンベルに打ち抜き、試験片とした。この試験片1枚を片端をAPI-MS(日立東京エレクトロニクス(株)製、超高感度ガス分析装置 UG-302P)につながれたステンレス・スチール製チューブ(内径10.2mm)内に入れた。このチューブの他端からキャリアガスであるアルゴンガス(含有酸素ガス濃度1ppb以下)を1.2リットル/minの流量で流し、チューブ内をアルゴンガスで3分間パージした。このパージ後アルゴンガスをAPI-MSの検出器側に流し始めた時点を測定開始点として、10分おきにこのキャリアガス中の酸素濃度を測定した。この酸素濃度の経時変化を図4に示す。なおこのチューブの外側にはリボンヒーターを巻き、図4に示すように室温から150℃まで昇温したのち、再び室温まで冷却した。図4より、平滑シートからの放出酸素ガス量は原料シートのそれに比べ、半分以下に減少していることがわかった。 【0058】 実施例12 実施例7で用いたものと同じPFAの原料シート(Ra 760Å)と平滑シート(Ra 94Å)を用いて、SPM洗浄時の耐薬品性試験を行なった。各々のシートをASTM-D638記載のTypeVダンベルに打ち抜き、試験片とした。まずこれら試験片を40℃で12時間真空乾燥したのち、この重量を精密天秤にて測定した(この値をxとする)。つぎにこれらの試験片各3枚を半導体製造グレードの硫酸:過硫化水素水混合液(体積比4:1)800mlに10分間浸漬し、さらに超純水で2分間オーバーフローリンスした(この操作をSPM洗浄という)。このSPM洗浄を何回か繰り返したのち、これら試験片を再び40℃で12時間真空乾燥し、この重量を精密天秤にて測定した(この値をyとする)。この際の重量変化率をつぎの式にて求めた。 【0059】 重量変化率(%)=(y-x)/x×100 SPM洗浄回数による重量変化率の変化(試験片3枚の平均値)を図5に示す。 【0060】 図5より、原料シートはSPM洗浄5回時に重量減少が認められた。一方平滑シートは重量変化がほとんどなく、SPM洗浄時における耐薬品性が優れていることがわかった。 【0061】 実施例13 実施例12のSPM洗浄をAPM洗浄に代えて、APM洗浄時の耐薬品性試験を行なった。浸漬薬品を実施例12の硫酸:過酸化水素水混合液からアンモニア水:過酸化水素水:超純水混合液(体積比1:1:5)に代えた(この洗浄をAPM洗浄という)ほかは実施例12と同様にして重量変化率を求めた。APM洗浄回数による重量変化率の変化を図6に示す。 【0062】 図6より、原料シートはAPM洗浄10回時に重量減少が認められた。一方平滑シートは重量変化がほとんどなく、APM洗浄時における耐薬品性が優れていることがわかった。 【0063】 実施例14 実施例12でSPM洗浄された試験片を用いて、これら試験片からの薬品再放出試験を行なった。これら試験片1枚を超純水で予め充分に洗浄した内容積1リットルのポリエチレン製ボトルに入れた。ここに超純水200mlを入れ、1カ月間放置した。放置後、この超純水中の硫酸イオン(SO42-)をイオンクロマトグラフ(横河電機(株)製、IC7000)にて測定した。SPM洗浄回数による放出硫酸イオン量の変化を図7に示す。 【0064】 図7より原料シートは硫酸イオンの放出量が初期値(SPM洗浄なし)より高くなり、SPM洗浄中にシート中に浸透した硫酸イオンが超純水中に放出されてしまうことがあるのが認められた。一方平滑シートはSPM洗浄を何回行なったあとでも、硫酸イオンの放出量は初期値とほとんど変わることなく、薬品の浸透放出といった不都合が生じていないのがわかった。 【0065】 【発明の効果】 本発明のフッ素樹脂成形品の平滑化方法によれば、その表面粗度(Ra)を500Å以下に平滑化することができる。こうしてえられた平滑成形品は、その表面にパーティクル、金属不純物、有機物不純物などが付着にくく、洗浄によりそれらを大幅に除去することができる。また洗浄したのちのそれらの再吸着も防ぐことができる。さらにガス透過性、薬液浸透性、耐薬品性も改良される。 【図面の簡単な説明】 【図1】 実施例6の実験例6-5でえられた平滑PFAシートのX線回折チャートである。 【図2】 実施例10で用いたヘリウムガス透過性試験用フランジ式試験治具の模式図である。 【図3】 PFAの原料シートおよび平滑シートをパッキンとしたときのヘリウムガスリーク速度の経時変化を示すグラフである。 【図4】 温度を150℃まで上げたときのPFAの原料シートおよび平滑シートからの放出酸素ガス量を示すグラフである。 【図5】 PFAの原料シートおよび平滑シートをSPM洗浄したときのSPM洗浄回数による重量変化率の変化を示すグラフである。 【図6】 PFAの原料シートおよび平滑シートをAPM洗浄したときのAPM洗浄回数による重量変化率の変化を示すグラフである。 【図7】 PFAの原料シートおよび平滑シートをSPM洗浄したのち、超純水中に1カ月間放置したときのSPM洗浄回数による放出硫酸イオン(SO42-)量の変化を示すグラフである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-02-24 |
出願番号 | 特願平5-83253 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YA
(B29C)
P 1 652・ 113- YA (B29C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大島 祥吾 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
菊地 則義 滝口 尚良 |
登録日 | 2003-01-10 |
登録番号 | 特許第3386174号(P3386174) |
権利者 | ダイキン工業株式会社 大見 忠弘 |
発明の名称 | フッ素樹脂成形品の平滑化方法および平滑成形品 |
代理人 | 秋山 文男 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |
代理人 | 中嶋 重光 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |
代理人 | 秋山 文男 |
代理人 | 秋山 文男 |
代理人 | 山口 和 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |