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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A23K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23K 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A23K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23K |
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管理番号 | 1116185 |
異議申立番号 | 異議2003-71411 |
総通号数 | 66 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-03-04 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-05-26 |
確定日 | 2005-05-09 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第3351531号「特に水生生物のための、低融解温度脂質含有飼料及びその製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3351531号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3351531号の請求項1ないし9に係る発明は、平成6年9月2日(優先権主張1993年9月6日、ノールウェー)を国際出願日として特許出願され、平成14年9月20日にその発明についての特許権の設定登録がなされ、その後、有限会社ツヤチャイルド及び上坂陽子より特許異議の申立てがなされたものである。 2.本件請求項1ないし9に係る発明 本件請求項1ないし9に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】ペレット及び周囲の温度において液体状の脂質を含む飼料において、該脂質が、該ペレットの形態にされた飼料に添加されたものであり、かつ、他の脂質、乳化剤又は他の脂質と乳化剤との混合物により形成される結晶構造内に保持されていることを特徴とする飼料。 【請求項2】該結晶構造が、硬化油により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の飼料。 【請求項3】該硬化油が、硬化ナタネ油であることを特徴とする請求項2に記載の飼料。 【請求項4】該結晶構造が、モノグリセリド、ジグリセリド、もしくはトリグリセリド、またはそれらの混合物により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の飼料。 【請求項5】該結晶構造が、モノグリセリド、ジグリセリド、及び/又はトリグリセリドと混合された硬化油により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の飼料。 【請求項6】該周囲の温度において液体状の脂質が、魚油であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項の飼料。 【請求項7】請求項1ないし6のいずれか1項に記載される飼料の製造方法であって、次の工程(i)〜(iii): (i)脂質と添加成分との加熱された液体状混合物を調製する工程であって、 前記加熱された液体状混合物は、周囲の温度よりも高くに加熱されたものであり、かつ、そのようにして得られた前記加熱された液体状混合物は、該飼料の最も高い使用及び貯蔵温度において少なくとも部分的に結晶化されるものであり、 前記脂質は、周囲の温度において液体状であり、 前記添加成分は、前記脂質と相互作用するものであり、かつ、他の脂質、乳化剤又は他の脂質と乳化剤との混合物から選択されるものである工程、 但し、前記添加成分が周囲の温度において固形物である場合、前記添加成分は、前記脂質と混合される前に、まず、前記周囲の温度よりも高くに加熱し、液体状にすることにより前記加熱された液体状混合物を調製する; (ii)所望する量の前記工程(i)で得られた加熱された液体状混合物が多孔質ペレットに吸収されるまで、前記工程(i)で得られた加熱された液体状混合物を前記多孔質ペレットに添加する工程;並びに (iii)前記工程(ii)で得られた液体状混合物を含有する多孔質ペレットを、周囲の温度に冷却する工程 を含む飼料の製造方法。 【請求項8】前記添加成分が、周囲の温度において固形物であって、かつ、前記加熱された液体状混合物を調製する工程(i)が、前記添加成分及び前記脂質を別個に周囲の温度よりも高くに加熱し、次いで、そのようにして得られた加熱された添加成分及び加熱された脂質を一緒に混合することにより、前記加熱された液体状混合物を調製するものである請求項7に記載される飼料の製造方法。 【請求項9】前記加熱された液体状混合物を調製する工程(i)が、前記脂質および前記添加成分を混合し、次いで、そのようにして得られた混合物を周囲の温度よりも高くに加熱することにより、前記加熱された液体状混合物を調製するものである請求項7に記載される飼料の製造方法。 3.特許異議申立ての理由の概要 3-1.申立人有限会社ツヤチャイルドの申立て理由 申立人有限会社ツヤチャイルド(以下、「申立人A」という。)は、下記の甲第1〜5号証を提出し、本件請求項1ないし9に係る発明は、特許法第36条第4項の規定により、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は取り消されるべきものである旨、主張している。 記 甲第1号証:原田一郎著「油脂化学の知識」初版、株式会社幸書房、昭和43年3月10日、目次、1-6頁、17-31頁、36-54頁、85-95頁、奥付 甲第2号証:刈米孝夫著「界面活性剤の性質と応用」初版、株式会社幸書房、昭和55年9月1日、目次、2-9頁、24-71頁 甲第3号証:「別冊フードケミカル-8、乳化・安定剤総覧」株式会社食品化学新聞社、平成8年3月20日、“乳化剤の特性と応用”村上斎、18-23頁 甲第4号証:「油化学」第26巻、第2号、1977年、“モノグリセリドの多形(第4報)分子鎖長と熱力学量について”丸山武紀他、20-25頁 甲第5号証:「食品乳化剤と乳化技術」工業技術会株式会社・有限会社研修社、1995年7月20日、“第7章 モノグリセリド,有機酸モノグリセリドの食品への応用”夕田光治、94-123頁 3-2.申立人上坂陽子の申立て理由 申立人上坂陽子(以下、「申立人B」という。)は、下記の甲第1号証及び参考資料を提出し、本件請求項1、4、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定により、また、本件請求項1ないし9に係る発明は、特許法第36条第4項及び同条第6項第2号の規定により特許を受けることができないので、その特許は取り消されるべきものである旨、主張している。 記 甲第1号証:特開平3-108454号公報 参考資料:日高徹著「食品用乳化剤」第2版、株式会社幸書房、1991年3月1日、表紙、44-45頁及び奥付 4.各甲号証に記載された事項 4-1.申立人Aが提出した甲第1ないし5号証 [甲第1号証] 甲第1号証には、脂質とは、「油脂(あるいは脂肪)ならびにそれに関連した物質の総称」であること(第1頁末行ないし第2頁1行)、 脂質には、油脂以外に、ロウ、複合脂質(リン脂質、糖脂質、タンパク脂質)なども含まれること(50-54頁)、 脂肪酸が構成成分であることが共通項であるが、脂肪酸にも多くの種類があること(17-24頁)、 油脂、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライドは、それぞれ、脂肪酸の種類、組み合わせ、組成などにより、その性質は大きく異なること(25-30頁、36-49頁)、 硬化油にも硬化の程度が種々あること(85-94頁)が記載されている。 [甲第2号証] 甲第2号証には、乳化剤という定義に属する物質は数多く存在する(2-9頁、24-34頁)こと、それらはそれぞれに特徴のある性質を有していること(35-71頁)が記載されている。 [甲第3号証] 甲第3号証の表1(モノグリセリドの特徴と融点)には、食品に良く利用されるモノグリセリド等が記載されているが、その脂肪酸組成により融点が-22.8-88.5℃もの幅があること(19頁)が示されている。 [甲第4号証] 甲第4号証は、甲第3号証の表1の引用文献である。 [甲第5号証] 甲第5号証には、モノグリセリドについて詳しく記載されており、例えば、106頁5.(1)油脂の可塑化には、「モノグリセリドは融点以上の温度では油脂に自由に溶けるが、融点以下の温度に冷却されると結晶を析出する。」と記載されている。 4-2.申立人Bが提出した甲第1号証 1-a「1.一軸または二軸のエクストルーダーを用いて油脂含有率が10〜50%(重量%)の養魚用ドライペレットを製造する場合において、グリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを油脂に対して0.1〜10%(重量%)添加することを特徴とする養魚用ドライペレットの製造方法。 2.請求項1記載の製造方法によって製造された養魚用ドライペレット。」(1頁左下欄 特許請求の範囲) 1-b「養魚用飼料として、油脂分の添加が魚の増重や飼料効率の改善に有効であることが知られているため、油脂含有率の高いドライペレットが望まれているが、従来の養魚用ドライペレットは強度を確保するためあるいは離油を防止するため油脂含有率が少ないものに留まっていた。そのため投餌時に何らかの方法で油脂含有率を増加させる必要が生じる。油脂分を追加付与するため、例えばドライペレットを多孔質にして投餌前に油に浸積するあるいは油を散布するなどの方法がとられるが、これらは手間が煩雑であるしドライペレットが粉化したり、投餌時に油が分離して水面に浮くなどの欠点がある。」(1頁右下欄13行-2頁左上欄5行) 1-c「ペレットの原料としては魚粉、肉粉、・・・等のタンパク質、・・・等の植物原料、・・・等のビタミン類、・・・等のミネラル類、タラ肝油、スケソウタラ肝油、イワシ油・・・等またそれらの硬化油等の油脂があげられる。」(2頁右上欄17行〜左下欄4行) 1-d「グリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルの添加方法としては原料粉末に混合する、水や油に溶解させるまたは分散させる等の方法があげられるが特に限定をもうけるものではない。」(2頁右下欄8〜12行) 1-e「【作用】 本発明により製造されるドライペレットは油脂含有率が高いため養殖効率が高く、保存中にほとんど離油せず、投餌時に油が水面に浮くこともなくかつ硬くしまったペレットに仕上るため崩壊することがない。」(2頁右下欄18行〜3頁左上欄3行) 1-f「【実施例】 第1、2表記載の処方および下記方法にてドライペレットを製造した。表中の部は重量基準である。 エクストルーダー:・・・二軸エクストルーダー・・・ バレル温度:130℃ スクリュー回転速度:120rpm 原料粉末はスクリューフィーダーにてエクストルーダーに供給した。水は定量ポンプにてバレルに供給した。液体油は定量ポンプにてバレルに供給した。実施例にて用いたグリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルは粉体の場合は原料粉末に混合し、液体やペースト状の場合は水に溶解させて使用した。その後エクストルーダーで造粒したペレットは乾燥させ供試試料とした。続いて上記製造のペレットを下記評価項目にて評価し、その結果を第3表に示した。」(3頁左上欄4行〜右上欄1行) 1-g「第3表より本発明のグリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを使用すれば、離油率も低く強度も十分なドライペレットが得られることがわかる。」(3頁右上欄14〜17行) 1-h「【発明の効果】 本発明によるドライペレットは油脂含有率が高いため、投餌前に油脂を吸収させる必要がなく、保存中や投餌時の離油がほとんどなく、また硬く仕上るため崩壊も少ない。」(4頁右下欄1〜5行) 前記の記載からみて、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」が記載されていると認められる。 「エクストルーダーを用いて、タンパク質、植物原料、ビタミン類、ミネラル類、タラ肝油、スケソウタラ肝油、イワシ油等またそれらの硬化油等の油脂を原料とし、該原料にグリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを添加して製造した養魚用ドライペレット。」 5.特許法第36条について 5-1.申立人Aの申立て理由について [申立人Aの主張] 以下の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成を記載していないから、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 「本件発明においては、「他の脂質」として、硬化ナタネ油の例示が一つあるだけで、脂質のすべて、あるいは、油脂のすべて、あるいはトリグリセライドのすべてが本件発明に適しているのかどうか不明である。また、硬化ナタネ油についても、実際に「飼料」に添加し、かつ、飼料として用いた実施例は示されておらず、どの程度の保持性等があれば、本件発明に該当するのか不明である。 これらの記載からは、実際にどのような脂質をどの程度の量添加すれば、通常の液状油脂を添加した飼料と比べて、油脂の漏出が抑制された優れた飼料となるのかどうか示されているとはいえない。」(特許異議申立書10頁14-22行) 「本件発明の飼料が実際に魚に給餌されたときに、従来の飼料と同等の成長性が見こめる飼料であるのかどうかも具体的には示されていない(本件発明は、公知の知見から利用可能性を述べたに過ぎず、発明が完成しているとはいえないとさえいえる。)。」(同書10頁27行-11頁1行) 「「乳化剤」についても実施例はなく、本件明細書には、モノグリセリドが例示されているだけで、モノグリセリドの脂肪酸組成がどのようなものかも示されておらず、そのモノグリセリドが乳化剤の範疇に入るものかどうかも明らかではない。 -中略- ・・・モノグリセリドと言っても、それぞれに性質を異にするのであるから、本件発明は当業者が過度の試行錯誤なく実施できる程度に開示されているとはいえない。」(同書11頁2-18行) 「脂質と乳化剤の混合物についても、例示されている混合物A+B、A+Cは混合比率も示されていない。 明細書を読むと例示されているモノグリセリドはその脂肪酸の種類も組成も書かれていないし、混合物も混合比率も記載されていない。」(同書11頁19-22行) 「以上のとおり、・・・本件明細書に、実施例に挙げられた魚油と硬化ナタネ油の混合物を用いる飼料のあまり具体的でない製造条件があるだけであり、本件発明に含まれるそれ以外の組み合わせの例を用いる飼料の製造条件が全く記載されていないことは、事実である。数多くの組み合わせの中から本発明の効果を奏する飼料を見つけだすことは多くの試行錯誤を要する。」(同書11頁下から2行-12頁5行) [当審の判断] i.本件明細書の特許請求の範囲に記載されているように、本件発明の「他の脂質」及び「乳化剤」は、周囲の温度において結晶構造を形成してその結晶構造内に液体状の脂質を保持しているものであるから、本件発明の飼料を製造するにあたって、周囲の温度において結晶構造を形成してその結晶構造内に液体状の脂質を保持でき、飼料に適したものであれば、「他の脂質」及び「乳化剤」は特に限定されるものではない。 「他の脂質」及び「乳化剤」については、本件明細書の発明の詳細な説明に、「他の脂質」として硬化ナタネ油を用いる第1の態様が、「乳化剤」としてモノグリセリドを用いる第2の態様とモノ-ジ-グリセリドを用いる第3の態様が記載されている(本件明細書5頁15行-6頁16行 本件特許公報3頁5欄35行-6欄38行)。第1の態様として、約摂氏60度の融点を有する完全に硬化されたナタネ油を魚油に添加する例が、第2の態様として、約摂氏72度の融点を有する飽和した植物油のモノグリセリドを魚油中に添加する例が、第3の態様として、植物油のモノグリセリド約50パーセントを含有するモノ-ジ-グリセリドをカラフトシシャモ油に添加する例が、それぞれ記載されている。 また、本件明細書には、「実験により、融点が摂氏50度より高く、炭素原子20個又はそれ以上を有する脂肪酸を5%より多く含有する脂質が、添加剤成分として機能するために良好に適していることが示された。」(3頁11-14行 本件特許公報2頁4欄41-44行)、「添加剤成分2ないし4パーセントが油中に添加された場合、満足な油の結合が達成される」(5頁11、12行 本件特許公報3頁5欄31-33行)、及び、「硬化ナタネ油及びモノ-ジ-グリセリド及び/又はトリグリセリドの混合物は、カラフトシシャモ油中で結晶化添加剤成分として十分に機能することが実験により示された。」(6頁18-21行 本件特許公報3頁6欄40-43行)と記載されている。 これらの記載を参酌すれば、融点や脂肪酸の炭素原子の数等を考慮して本件発明に適した「他の脂質」及び「乳化剤」を選択し、適宜の量を液体状の脂質に添加して本件発明を製造することは、当業者にとって容易なことである。 ii.脂質と乳化剤の混合物における混合比率については、本件明細書に、「モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドを硬化ナタネ油中に混合する場合は、後者の量を減少させることができ、多孔質ペレット中へのより優れた浸透を奏する。」(6頁21-24行 本件特許公報3頁6欄43-46行)と記載されており、当業者であれば、この記載を参酌して脂質と乳化剤の混合比率を適宜に設定し得るものである。 iii.本件明細書には、「本発明の目的は、低融解温度を有する脂質を含有し、同時に、漏れの危険を減少させる飼料を提供することである。また、更なる目的は、そのような飼料を製造するための方法を提供することである。」(2頁18-21行 本件特許公報2頁4欄23-26行)と、本件発明の目的が記載され、「脂質の漏れ及び損失が非常に低減されたため、本発明に従い製造された魚飼料の栄養価、消化性又は増好性の実質的損失は見られなかった。」(6頁末行-7頁3行 本件特許公報3頁6欄48-50行)と、本件発明の効果が記載されている。 本件発明は、魚の成長性を目的としてはいないから、本件発明の飼料が実際に魚に給餌されたときに、従来の飼料と同等の成長性が見こめる飼料であるかどうか具体的には示されていないからといって、本件発明を当業者が容易に実施することができないとはいえない。 iv.以上のとおりであるから、本件出願が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとする申立人の主張を採用することはできない。 5-2.申立人Bの申立て理由について [申立人Bの主張] 本件特許権者が提出した、平成14年6月18日付け意見書において、引用例1(甲第1号証)に記載の発明に使用されるヘキサグリセリンモノステアレートは、飼料として使用可能なものではなく、本件発明の範囲外であることを明示しているが、本件明細書の請求項1に記載の「乳化剤」は、特段の限定がなされていないから、乳化剤であるヘキサグリセリンモノステアレートを包含している。したがって、実施不可能な態様を含む請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし9に係る発明は不明確であり、また当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明が記載されていないから、特許法第36条第4項及び第6項第2号に違反している。 [当審の判断] 本願は、平成6年改正特許法第36条第6項第2号が適用される平成7年7月1日より前の出願であり、平成6年改正前の特許法第36条第5項第2号が適用されるから、申立人の主張で「特許法第36条第6項第2号」としている条文を「特許法第36条第5項第2号」と読み替えて、以下に述べる。 本件明細書の特許請求の範囲の記載において、「乳化剤」を直接修飾する限定はないが、特許請求の範囲の全体の記載からみて、本件発明の「乳化剤」は結晶構造を形成してその結晶構造内に液体状の脂質を保持しているものであり、結晶構造内に液体状の脂質を保持していないヘキサグリセリンモノステアレートは、本件発明に包含されるものではないから、本件明細書の請求項1に記載の「乳化剤」は、ヘキサグリセリンモノステアレートを包含している旨の申立人の主張は理由がない。また、本件明細書の発明の詳細な説明が、本件請求項1ないし9に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されていない、とする理由もみあたらないから、本件出願が、特許法第36条第4項及び第5項第2号の規定に違反しているとすることはできない。 6.特許法第29条について 6-1.申立人Bの申立て理由について [申立人Bの主張] 甲第1号証に記載のドライペレットは、保存中や投餌時の離油がほとんどなく、また硬く仕上るため崩壊も少ないものであり、かつ本件発明と同様の原料を用いて得られたものであるから、本件発明の飼料と同様に結晶構造が形成されているものといえ、甲第1号証には、本件発明の飼料が実質的に開示されているといえる。 したがって、請求項1、4、6に係る本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定により特許を受けることができない。 [当審の判断] (i)請求項1に係る発明について 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と甲第1号証記載の発明とを対比すると、 甲第1号証記載の発明の「タラ肝油、スケソウタラ肝油、イワシ油」、「養魚用ドライペレット」、「グリセリン脂肪酸エステル」は、本件発明1の「周囲の温度において液体状の脂質」、「ペレットの形態にされた飼料」、「乳化剤」に相当するから、 両者は、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 本件発明1では、「周囲の温度において液体状の脂質が、ペレットの形態にされた飼料に添加されたものであり、かつ、他の脂質、乳化剤又は他の脂質と乳化剤との混合物により形成される結晶構造内に保持されている」のに対して、甲第1号証記載の発明では、周囲の温度において液体状の脂質が、飼料の製造時に、飼料の原料に添加されるものであり、前記液体状の脂質が、乳化剤により形成される結晶構造内に保持されているかどうか不明である点。 前記相違点について検討すると、相違点に係る本件発明1の構成は、周知であるということができず、また、他に当業者が容易に想到することができるとする理由もみあたらない。 そして、本件発明1は、本件明細書に記載された効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、前記甲第1号証に記載された発明であるということも、同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 (ii)請求項4、6に係る発明について 本件請求項4、6に係る発明は、それぞれ、本件発明1に限定事項を付加したものであるから、前記(i)で述べたと同様の理由により、前記甲第1号証に記載された発明であるということも、同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 6-2.申立人Aの申立て理由について [申立人Aの主張] 本件明細書には記載不備があるから、本件請求項1ないし9に係る発明は、出願時の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものを含んでいるといわざるを得ない。 [当審の判断] 前記5.で述べたように、本件明細書には記載不備があるとはいえず、また、本件請求項1ないし9に係る発明が、出願時の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとする理由もみあたらない。 7.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由によっては本件請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件請求項1ないし9に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-04-19 |
出願番号 | 特願平7-508609 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
Y
(A23K)
P 1 651・ 121- Y (A23K) P 1 651・ 113- Y (A23K) P 1 651・ 531- Y (A23K) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
藤井 俊二 |
特許庁審判官 |
渡部 葉子 白樫 泰子 |
登録日 | 2002-09-20 |
登録番号 | 特許第3351531号(P3351531) |
権利者 | ヌートレコ・アクアカルチャー・リサーチ・センター・エーエス |
発明の名称 | 特に水生生物のための、低融解温度脂質含有飼料及びその製造方法 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |
代理人 | 花輪 義男 |
代理人 | 須藤 晃伸 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 橋本 良郎 |