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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04G
管理番号 1116188
異議申立番号 異議2003-73340  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-01-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-18 
確定日 2005-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3456417号「既存建築物の制震補強構造」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3456417号の請求項1、2、5に係る特許を取り消す。 同請求項3、4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3456417号に係る出願は、平成10年6月29日の出願であって、平成15年8月1日に特許の設定登録がなされ、その後、平成15年12月18日付で清水建設株式会社から全請求項に係る特許に対し特許異議の申立てられたものであり、当審は、平成16年9月7日付で請求項1ないし5に係る特許に対して取消しの理由を通知したところ、その指定期間内の平成16年11月15日付で特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件請求項1ないし5に係る発明
本件特許3456417号の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件請求項1に係る発明」等という。)は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】既存建築物の柱と梁で囲まれた開口部に制震装置付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、既存の梁の開口部側の面に定着金物を突設し、鉄骨枠組の梁部鉄骨の梁側の面にスタッドを突設し、梁と鉄骨枠組の梁部鉄骨との間に充填材を充填し、柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には充填材のみを充填して構成されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。
【請求項2】 既存建築物の柱と梁で囲まれた開口部に制震装置付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、既存の梁の開口部側の面に定着金物を突設し、鉄骨枠組の梁部鉄骨の梁側の面にスタッドを突設し、梁と鉄骨枠組の梁部鉄骨との間に充填材を充填し、柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には隙間を形成して構成されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。
【請求項3】 既存建築物の柱と梁で囲まれた開口部に制震装置付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、既存の柱の開口部側の面に補強鋼板を添設し、この補強鋼板の開口部側の面にスタッドを突設し、既存の梁の開口部側の面に定着金物を突設し、鉄骨枠組の柱梁側の面にスタッドを突設し、柱の補強鋼板および梁と鉄骨枠組との間に、補強筋を組み込み、充填材を充填して構成されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。
【請求項4】 既存建築物の柱と梁で囲まれた開口部に制震装置付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、既存の柱の開口部側の面に補強鋼板を添設し、この補強鋼板の開口部側の面にスタッドを突設し、既存の梁の開口部側の面に定着金物を突設し、鉄骨枠組の柱梁側の面にスタッドを突設し、柱の補強鋼板および梁と鉄骨枠組との間に、充填材を充填して構成されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。
【請求項5】 充填材に補強繊維混入モルタルを用いることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、または請求項4に記載の既存建築物の制震補強構造。」

3.申立ての理由の概要
申立人清水建設株式会社は、証拠として甲第1号証(小鹿紀英他「弾塑性ダンパを用いた既存RC建物の制震補強構法に関する研究(その1)〜(その4)」 日本建築学会大会学術講演梗概集(関東) 1997年9月 p.895-902)、甲第2号証(社団法人日本コンクリート工学協会編「既存鉄筋コンクリート構造物の耐震補強ハンドブック」 技報堂出版株式会社 1984年10月30日 p.62-65)、甲第3号証(特開平9-317200号公報)、甲第4号証(実願昭53-142922号(実開昭55-59012号)のマイクロフィルム)、甲第5号証(特開平9-13694号公報)、甲第6号証(特開平9-317198号公報)、甲第7号証(特開平2-128035号公報)、甲第8号証(特開昭58-146663号公報)を提出し、本件請求項1ないし5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである旨を申し立てている。

4.取消理由で引用した刊行物に記載の技術事項
(1)当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物1(申立人提出の甲第1号証)には、以下の記載がある。
a).「ここで提案する制震補強構法は、既存建物に制震ダンパ(弾塑性ダンパ)を組込んで建物の耐力を増すとともに、ダンパによる減衰効果で建物の応答低減を図る構法であり、従来型の耐震補強と比較して以下のような特徴がある。○制震補強は、耐震補強に比べて新設補強構面がほぼ半減する。○それにより居住者の生活、業務活動への支障を最小限に留められる。」(第895頁左欄第9行〜第17行)
b).「○No.2(非貫通スリット既存壁=既存壁改良):耐震壁付骨組の柱際に非貫通スリット(残厚30mm)を施したもの。○No.3(弾塑性ダンパ付既存壁=既存壁制震化):耐震壁付骨組に鉛直、水平貫通スリットを施工し、貫通ボルトで固定した弾塑性ダンパ(表裏各1枚:図2)と壁の間にエポキシ樹脂を圧入し、接着施工した試験体。○No.4(弾塑性ダンパ付鉄骨枠組補強=制震構面新設):No.1試験体と同一仕様のオープンフレームに、図3に示す弾塑性ダンパ(表裏2枚ずつ計4枚)を筋かい頂部に取り付けた鉄骨枠組を組み込み、周辺フレームとの接合部をモルタルで充填して既存部との一体化を図った試験体で、接合部には図4に示すアンカー、スタッドおよびスパイラルフープが配される。」(第895頁右欄第16行〜第28行)
c).「3.実験結果 3.1 実験経過:表2,3,4に各試験体の最終崩壊形,損傷過程および主要荷重の一覧を,図1には,8サイクル終了時点の試験体ひび割れ状況を示す。最終崩壊形はNo.1,2,3の外周フレーム部分では曲げ降伏先行型となったが、No.4では曲げ降伏以前に柱がせん断破壊した。」(第897頁左欄第11行〜第16行。)
d).「No.2(非貫通スリット既存壁)試験体:非貫通スリット部分は、加力の早期にクラックが生じた。また、柱のせん断破壊は、実験を通じて生じなかった。従って、骨組の終局強度は柱梁フレームと壁部材を独立に評価できると考えられる。」(第899頁左欄第23行〜第27行)
e).「No.4(弾塑性ダンパ付鉄骨枠組)試験体:No.4試験体の崩壊形は、柱のせん断破壊であり、この時、柱脚の主筋は降伏に達していない(図4参照)。」(第898頁左欄第33行〜第35行)
f).「No.2試験体では、(c)既存壁にコンクリートのみを残した非貫通スリットを設けることで、外周フレームのせん断破壊を防ぐことができる可能性がある。」(第899頁右欄第32行〜第34行)
g).第896頁の図1のNo.4弾塑性ダンパ付鉄骨枠組には、既存フレームを構成する既存RC部材で囲まれた開口部に、ハニカムダンパ(制震ダンパ)付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、鉄骨枠組と既存フレーム間にモルタルを充填した試験体が、また、同図4には、図1のNo.4試験体の枠組鉄骨と既存RC部材の接合部として、既存RC部材の鉄骨枠組側の面に頭付アンカーを突設し、鉄骨枠組の既存RC部材側の面に頭付スタッドを突設し、既存RC部材と鉄骨枠組との間にスパイラルフープを配することが記載されていることが明らかであり、既存RC部材は、既存の柱・梁と解される。

よって、これらの記載を参照すると、刊行物1には、「既存建物の柱と梁で囲まれた開口部に制震装置付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、既存の柱、梁の鉄骨枠組側の面に頭付アンカーを突設し、鉄骨枠組の既存柱梁側の面に頭付スタッドを突設し、既存の柱、梁と鉄骨枠組との間にスパイラルフープを配し、モルタルを充填して構成されている既存建物の制震補強構造」という発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されている。
また、上記c)、e)の記載を参照すると、前記No.4試験体は最終崩壊形が柱のせん断破壊であることが示されている。
一方、第896頁の図1のNo.2非貫通スリット既存壁をみると、既存柱との間に非貫通スリットを設けることが記載されており、上記c)、d)、f)の記載を参照すると、前記No.2試験体はコンクリートのみを残した非貫通スリットを設けることによって、加力の早期にクラックが生じ、柱のせん断破壊を含んだ外周フレームのせん断破壊を防ぐことができる可能性がある旨が記載されている。

(2)同じく刊行物2(申立人提出の甲第2号証)には、以下の記載がある。
「例えば梁下や柱際にスリットを設けることにより,耐力は低くてもダボ筋の変形に起因して大きな変形能力が得られた例・・・や,複数のプレキャスト板を相互に接合せず梁下にのみ接合することにより,プレキャスト板の曲げ変形と接合部鋼材の塑性変形とで大きな変形能力を得た例・・・などである。このような耐震壁は現実にはまだ実用化されていないが,耐震壁にも大きな変形能力を期待するような補強設計が行われるようになるとすれば,こうした工法も用いられることになろう。」(第62頁最下行〜第65頁第5行)

(3)同じく刊行物3(申立人提出の甲第7号証)には、以下の記載がある。
「第1図は鉄筋コンクリート造(RC造)の柱1と梁2とで囲まれた四角形の開口3に鉄骨系耐震構造4を適用した場合を示す。開口3よりも小さな相似形にH形鋼を組むことにより枠部材5を構成している。そして、枠部材5の上辺に位置する上横枠の中央部分ウェブ及び下辺に位置する下横枠の両端部分ウェブをスチフナー6で補強している。さらに、枠部材5の上横枠中央部分に剪断パネル7を垂下固定し、下横枠の両端部から各々斜め上方に立ち上げたブレース8を剪断パネル7の垂下端部に接続固定している。上記構成による鉄骨系耐震構造4は枠部材5内にブレース8を「ハ」の字型に直結せず、束状の剪断パネル7を介した「Y」字型になっており、剪断パネル7の弾力で靭性を高めている。この鉄骨系耐震構造4を開口3に取り付けるに際しては、第2図の如く柱1,梁2にアンカー9を打ち、枠部材5の外周面にスタッド10を取付けた後、枠部材5を開口3内に収め、開口3内のアンカー9とスタッド10との間に無収縮モルタル11を打設して取り付け固定が完了する。」(第2頁右下欄第4行〜第3頁左上欄第4行)
これらの記載および第1,2図を参照すると、刊行物3には、「柱と梁で囲まれた開口に鉄骨枠組ブレース架構を取り付けるに際し、柱、梁の開口側の面にアンカーを突設し、鉄骨枠組の枠部材の外周面にスタッドを突設し、柱、梁と枠部材との間に無収縮モルタルを打設する」ことが記載されている。

(4)同じく刊行物4(申立人提出の甲第3号証)には、図面とともに以下の記載がある。
a).「【特許請求の範囲】【請求項1】鉄筋コンクリート造の既存の建物に適用される耐震補強構造であって、前記建物における互いに相対する一対の柱、両柱に連なる梁および床スラブが規定する空間に配置され該両柱、梁および床スラブに沿って伸びる枠体と、前記枠体内に配置された少なくとも1つの壁体であってその両端部が前記枠体に固定された壁体と、前記枠体と、各柱、前記梁および前記床スラブとの間に充填されたモルタルとを含む、耐震補強構造。」
b).「【0007】本発明にあっては、前記壁体による耐震補強上、前記柱、梁および床スラブへの前記枠体の固定のためのアンカー部材は必要としない。」
c).「【0011】両柱14、梁16および床スラブ18(以下、これらの四者が規定する枠組を便宜上「既存フレーム」という。)が規定する前記立面内の枠体20と、前記既存フレームとの隙間にはモルタル24が充填されている。枠体20は、モルタル24を介して、前記既存フレーム内(前記立面内)に維持され該既存フレームに接している。このため、枠体20および前記既存フレーム相互間での力の伝達が可能である。」

(5)同じく刊行物5(申立人提出の甲第4号証)には、耐震補強ブロックを複数個集合し、相互に接着して構成したブロック群を建築物の架構体の空間部に配設し、架構体とブロック群との間隙部にグラウト材またはセメント材などを充填した軽量耐震壁体に関し、以下の記載がある。
a).「ブロック群と既設の柱、はりとの接合について説明する。(1)、周辺架構すなわち柱、はりと十分に緊結する場合(A)、第5図に柱にスタッドまたはアンカーボルト(35)を設ける場合を示す。・・・(b)図は鋼板(36)にスタッド(35)などを設け柱(21)に無収縮グラウト材、または膨張モルタルを介して鋼板(36)を巻回してスタッド(35)を設けた場合、(c)図は鋼板(38)にスタッド(35)などを設け、接着剤(39)を介して鋼板(38)をボルト(40)にて締付けて柱(21)にスタッド(35)などを設けた場合を示す。」(第7頁第3行〜第14行)
b).「以上説明した手段を用い柱、はりにスタッドなどを設け、さらにブロック群にもスタッドなどを設け、ブロック群と柱、はりの接合をより強力に緊結にした耐震壁を第7図に示す。」(第8頁第1行〜第4行)
これらの記載および、特に第5,7図を参照すると、刊行物5には、「既設建築物の柱と梁とで囲まれた空間部に耐震補強ブロックを複数個集合し、相互に接着して構成したブロック群を配設した軽量耐震壁体において、既設の柱、梁の空間部側の面にスタッドを設けた鋼板をスタッドが空間部に突設するように設け、ブロック群の柱梁側の面にスタッドを突設し、柱、梁の鋼板とブロック群との間にグラウト材またはセメント材などを充填」する構成が記載されている。

(6)同じく刊行物6(申立人提出の甲第6号証)には、以下の記載がある。
a).「【0005】・・・請求項1記載の既存建築物の補強構造においては、既存建築物の梁および柱を含む躯体の開口部に、該躯体の内面に沿って配置される鉄骨枠および該鉄骨枠内に設けられたブレースから成る枠付ブレースを組み込み、前記躯体の内面と前記鉄骨枠との間の空間部にコンクリートが充填されている既存建築物の補強構造において、前記充填されたコンクリートが、高引張強度コンクリートであることを特徴としている。この場合、高引張強度コンクリートとしては、例えば炭素繊維補強コンクリート、鋼繊維補強コンクリート、アミラド繊維補強コンクリート等がある。・・・」
b).段落【0002】、【0003】には、従来の技術として「従来、既存の建築物の耐力を上げる方法として、既存の建築物の梁と柱とで囲まれた開口部内に鉄骨枠とブレースから成る枠付ブレースを組み込む手法がある。図5ないし図7に、枠付ブレースを既存建築物の開口部内に組み込んだ枠付ブレースによる補強構造の従来例を示す。ここで、符号1は梁を、符号2は柱を示している。建築物の梁1及び柱2で囲まれた開口部3内に、ブレース4を鉄骨枠5内に取り付けた枠付ブレース6を接合することにより、梁1と柱2から成る開口部3を補強している。この場合、開口部3と枠付ブレース6の接合部を補強するため、後施工アンカーボルト8を梁1と柱2に打ち込んでいる。さらに、鉄骨枠5の外周に頭付きスタッド9を設け、鉄骨枠5と梁1、柱2との間の空間部10にスパイラル筋11(またはフープ)を配して、空間部10に現場打ちのコンクリート13を打設することにより、枠付ブレース6の鉄骨枠5と既存躯体(柱2、梁1)とを接合している。ここで、アンカーボルト8、頭付きスタッド9およびスパイラル筋11等は、地震発生時において、建築物に地震力が入力された時に、割裂破壊が生じるのを防止するためのものである。この構造においては、地震力は、既存躯体に埋め込んだアンカーボルト8と鉄骨枠5に溶接されたスタッド9、それらを取り巻くコンクリート13を介して、枠付ブレース6へと伝達される。」と、図面とともに記載されている。

5.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と、刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「既存建物」、「頭付アンカー」、「頭付スタッド」、「モルタル」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「既存建築物」、「定着金物」、「スタッド」、「充填材」に相当し、刊行物1記載の発明の「既存の柱、梁の鉄骨枠組側の面に頭付アンカーを突設し、鉄骨枠組の既存の柱梁側の面に頭付スタッドを突設し、既存の柱、梁と鉄骨枠組との間にスパイラルフープを配し、モルタルを充填」と請求項1に係る発明の「既存の梁の開口部側の面に定着金物を突設し、鉄骨枠組の梁部鉄骨の梁側の面にスタッドを突設し、梁と鉄骨枠組の梁部鉄骨との間に充填材を充填し、柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には充填材のみを充填」とはともに、「鉄骨枠組と既存の柱・梁とを接合」で共通するから、両者は、「既存建築物の柱と梁で囲まれた開口部に制震装置付きの鉄骨枠組ブレース架構を組み込み、鉄骨枠組と既存の柱又は梁とを接合して構成されている既存建築物の制震補強構造」の点で一致し、下記の点で相違している。
相違点1:鉄骨枠組と既存の柱又は梁との接合構成が、請求項1に係る発明では、既存の梁の開口部側の面に定着金物を突設し、鉄骨枠組の梁部鉄骨の梁側の面にスタッドを突設し、梁と鉄骨枠組の梁部鉄骨との間に充填材を充填し、柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には充填材のみを充填しているのに対し、刊行物1記載の発明では、既存の柱、梁の鉄骨枠組側の面に頭付アンカーを突設し、鉄骨枠組の既存の柱梁側の面に頭付スタッドを突設し、既存の柱、梁と鉄骨枠組との間にスパイラルフープを配し、モルタルを充填している点。
上記相違点1について検討する。
請求項1に係る発明において、「柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には充填材のみを充填」するのは、本件の特許明細書段落【0024】の特に(3-1)〜(3-4)を参照すると、柱と鉄骨枠組との縁を切ることによって、独立で挙動させ、変形能力に富んだ補強構面とするとともに、柱に耐力以上の応力が集中させないようにし、その結果として柱に応力が集中して剪断破壊などが早期に生じることを解消することにあると解され、一方、上記刊行物1に記載されたNo.2試験体も、同様の理由で、前記柱と前記壁体との間にコンクリートのみを残した非貫通スリットを設けることにより、加力の早期にクラックを生じさせ、前記柱と前記壁体を独立で挙動させ、変形能力に富んだ補強構面とするとともに、柱の剪断破壊などが早期に生じることを解消させるものであることは、当業者にとって明らかである。
そして、上記刊行物1記載の発明は、終局崩壊形として、柱のせん断破壊を起こしており、建築物において、柱のせん断破壊を避けるべきことは当業者にとって明らかであることを考え合わせると、刊行物1記載の発明において、柱と鉄骨枠組との縁を切れやすい構成を採用することは、当業者であれば、当然になしうることである。
さらに、柱と鉄骨枠組との縁を切れやするする目的のために、刊行物1記載の発明の既設の柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間に、非貫通スリットではないが、アンカー部材を用いないことにより、非貫通スリットを設けるのと同様に柱と枠体(請求項1に係る発明の「鉄骨枠組」に相当)との縁が切れやすい刊行物4に記載された発明の「充填材であるモルタルのみを充填する」接合構成を採用することは、当業者が容易になしうる設計的事項にすぎない。また、梁と鉄骨枠組との接合を、スパイラルフープを配さず、梁から突設した定着金物であるアンカーと鉄骨枠組から突設したスタッドと充填材である無収縮モルタルで構成することは、刊行物3に記載されており、これを刊行物1記載の発明に採用することは、当業者が容易に想到する程度のことである。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明が「柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には充填材のみを充填して構成されている」のに対し、「柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には隙間を形成して構成されている」という事項以外は同じ事項により特定される発明である。
そして、上記請求項1に係る発明で検討した相違点1に関する判断に加えて、「柱と鉄骨枠組の柱部鉄骨との間には隙間(スリット)を形成して構成されている」という事項に関しては、非貫通スリットに代えて、刊行物2に記載された「柱際にスリットを設ける構成」を採用することは、当業者が容易になしうる設計的事項にすぎない。

(3)本件請求項3及び4に係る発明について
本件請求項3及び4に係る発明で限定された、「既存の柱の開口部側の面に補強鋼板を添設」する構成について検討すると、該構成は、上記刊行物1ないし6、および、異議申立人の提出したその他の証拠にも記載されていない。
そして、本件請求項3及び4に係る発明は、上記構成を有することにより、「既存の柱1と鉄骨枠組4との縁が切れて、独立で挙動する」という特有の作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項3及び4に係る発明は、上記各刊行物等記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項を引用して、さらに「充填材に補強繊維混入モルタルを用いる」という事項を付加したものであるが、上記請求項1に係る発明で検討した相違点1に関する判断に加えて、充填材に補強繊維を混入する技術は、刊行物6に記載されており、刊行物1記載の発明の充填モルタルに該技術を採用することは適宜なしうることにすぎない。

6.むすび
以上のとおり、本件請求項1、2、5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである。
また、本件請求項3、4に係る発明の特許については、他に取消しの理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-01 
出願番号 特願平10-182360
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (E04G)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 山田 忠夫
特許庁審判官 田中 弘満
高橋 祐介
登録日 2003-08-01 
登録番号 特許第3456417号(P3456417)
権利者 鹿島建設株式会社
発明の名称 既存建築物の制震補強構造  
代理人 高橋 詔男  
代理人 久門 享  
代理人 久門 知  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 青山 正和  

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