• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1116201
異議申立番号 異議2003-70052  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-03-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-08 
確定日 2005-04-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3300933号「ルーおよび冷凍調理食品」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3300933号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.本件発明
特許第3300933号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「リゾ化率30%以上の酵素分解レシチンを配合した冷凍調理食品用ルー、ソース、冷凍ルーまたはソース。」

2.引用刊行物記載の発明
先の取消理由通知において引用した刊行物1(特開平2-242643号公報)には、下記の(a)ないし(h)の事項が記載されている。
(a)「本発明は澱粉の老化防止効果が著しく向上した澱粉の老化防止剤並びにこれを含む澱粉質原料及び澱粉含有食品に関する。・・・・・ところが、製造後時間が経過した澱粉糊には、「老化」という現象が見られる。澱粉が老化した場合、一般的に食品が固くなり、又、ゲル化したり離水を起こしたりして商品価値が著しく低下し、さらに消化吸収性も大きく減少する。」(1頁右下欄下5行〜2頁左上欄9行)
(b)「このように、澱粉の老化防止剤は従来から種々検討されているが、実際に産業上使用し易いものはなかった。本発明はこのような事情に鑑み、老化防止効果に優れ、各種の澱粉質原料及び澱粉含有食品に使用することができる澱粉の老化防止剤を提供することを目的とする。・・・・・前記目的を達成するために種々検討を重ねた結果、飽和脂肪酸を主体としたリゾリン脂質を澱粉の老化防止剤として使用したところ、今までにない効果が認められ本発明を完成させた。」(2頁左下欄11行〜右下欄3行)
(c)「上記構造(1)で表されるリゾリン脂質の名称は、リゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、リゾホスファチジルセリン(LPS)、リゾホスファチジン酸(LPA)、リゾホスファチジルグリセロール(LPG)、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)であり、これらリゾリン脂質の製造例を以下に示す。卵黄リン脂質を原料とする場合には、例えば、卵黄リン脂質をホスフォリパーゼA2 活性を有する酵素剤にて処理する方法、又は卵黄リン脂質をホスフォリパーゼA2 で処理した後その脂質成分を抽出する方法を採用すればよい。この際、例えば特開昭62ー262998号公報の実施例1に開示されている方法を採用すると酵素活性が残存していないものとなり、食品の変質等を防ぐ上で好ましい。」(3頁右上欄10行〜左下欄6行)
(d)「そして、かかる澱粉質原料を用いて得られる本発明にかかる澱粉含有食品としては、パン、カステラ、・・・・・フラワーペースト、サラダドレッシング等の乳化食品類、・・・・・を挙げることができる。」(4頁左上欄16行〜右上欄5行)
(e)「<実施例> 製造例1(卵黄由来のリゾリン脂質含有老化防止剤の調製) 鶏卵黄100kgに和光純薬製のパンクレアチン(動物の膵臓から抽出した酵素の混合物)5kgを清水10kgに溶解した液を加え、水酸化ナトリウム液にてpH7.0〜8.0に保ち撹拌しながら、35〜45℃、6時間反応させた。この酵素反応により、卵黄中のホスファチジルコリン(PC)はリゾホスファチジルコリン(LPC)に、ホスファチジルエタノールアミン(PE)はリゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)に変換される。この卵黄液をスプレードライヤーにかけ(吸気温度130〜150℃、排気温度50〜75℃)、水分含量5.2%の乾燥卵黄42.5kgを得た。この乾燥卵黄にエタノール400lを加え、40〜45℃にて10分間撹拌抽出後、濾過し、エタノール抽出液を得た。これを真空濃縮(品温30℃以下)してエタノールを除去し、黄色ペースト状リゾリン脂質含有物19.5kg(収率19.5%)を得た。この脂質の脂質組成を下記の脂質組成分析方法で分析したところ、中性脂質(トリグリセライド、コレステロール)67.9% リン脂質32.1%〔うち、リゾ型(LPC,LPE)30.6%〕であった。」(4頁左下欄3行〜右下欄11行)
(f)「製造例3 製造例1で得られた卵黄リゾリン脂質9kgとグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン)1kgとを約40〜50℃に加温して均一に溶解し、老化防止剤とする。」(5頁右下欄1行〜5行)
(g)「試験例1 第1表に示す配合で、後述の実施例2に準じて各フラワーペーストA、B、Cを製造した。A、B、Cには製造例1で得た卵黄由来のリゾリン脂質含有物が0.1、1.0、5.0%添加してある。・・・・・試験の結果、製造例1の老化防止剤により老化防止効果が認められ、特に低温(5℃)の保存時にその効果が著しかった。」(6頁左上欄7行〜右下欄3行)
(h)第3表には、「無添加」の場合、0℃では4日目に硬化し、8日目に離水すること、5℃では、8日目に硬化し、12日目に離水すること、10℃では、12日目に硬化し、20日目に離水すること、そして、15℃では18日目に硬化すること、また、「添加」の場合、0℃では8日目に硬化し、12日目に離水すること、5℃では14日目に硬化すること、10℃、15℃及び20℃では硬化も離水も生じないことが記載されている。

同じく取消理由通知において引用した刊行物2(特開昭62-296864号公報)には、下記(i)ないし(l)の事項が記載されている。
(i)「小麦粉および油脂を主体とするホワイトソース様食品であって、組織安定剤としてゼラチンを含有し、さらに増粘安定剤として化工澱粉および天然糊料の少なくとも一方を含有していることを特徴とするホワイトソース様食品。」(特許請求の範囲第1項)
(j)「しかしながら、上記冷凍食品(以下、チルド食品も含む)のうち、小麦粉と油脂を主体とし澱粉糊化により発現した滑らかな粘りとこくを特徴とするカレーやグラタンのようなホワイトソース様食品は、冷凍・解凍時に澱粉ゲルの老化および離水が起こりやすいため、冷凍食品化すると、上記本来の風味が損なわれるきらいがあった。」(2頁左上欄6行〜12行)
(k)「本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ホワイトソース様食品の冷解凍時における澱粉ゲルの老化、離水を抑え、しかもホワイトソース等の独特の風味(粘りとこく)を損なわない冷凍食品用のホワイトソース様食品およびその製法の提供を目的とするものである。」(2頁左上欄17行〜右上欄2行)
(l)「その結果、ゼラチンは冷解凍時の離水防止に優れた効果を発揮するが、高温時において、ホワイトソース様食品の澱粉糊液に対して乳化的に作用し、滑らかな食感を助長する反面、澱粉糊液の粘度を著しく低下させるため、ホワイトソース様食品独特のとろりとした粘りを損失させて汁つぽくさせてしまうことを見いだした。そこで、上記ゼラチンの高温時における欠点を補完し、しかも冷解凍時における澱粉ゲルの老化、離水防止に対しても相乗的に作用するような増粘安定剤を、ゼラチンとの組み合わせにおいて種々探究した結果、化工澱粉および天然糊料の少なくとも一方を添加すると、これら増粘安定剤の高温下における粘度保持性によつてゼラチンの上記欠点が補完され、澱粉ゲルの老化、離水防止のみならず高温時の粘り損失をも同時に実現しうるとともに、品温低下時に食感の維持効果が発揮されるようになることを見いだし、本発明に到達したのである。」(2頁左下欄9行〜右下欄7行)

3.対比・判断
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と刊行物1に記載の発明を対比すると、後者の「製造例1で得られた卵黄リゾリン脂質」は、リゾ化率が約95%〔=(30.6/32.1)×100〕と計算されるから、前者の「リゾ化率30%以上の酵素分解レシチン」に相当し、また、前者の「ルーまたはソース」は、本件明細書の記載に徴し、澱粉含有食品といえるから、両者は、リゾ化率30%以上の酵素分解レシチンを配合した澱粉含有食品の点で一致し、澱粉含有食品が、前者では「冷凍調理食品用ルー、ソース、冷凍ルーまたはソース」であるのに対して、後者では、フラワーペーストである点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。
ホワイトルー等のルーやホワイトソース等のソースは、冷凍によって澱粉が老化し、蛋白質が変性し、また氷結晶が成長する等が原因となって、解凍後の食感が悪く、離水現象も多く見られるという問題があったところ、本件発明は、冷凍調理食品用ルーやソースにリゾ化率30%以上の酵素分解レシチンを配合することにより、上記技術的課題を解決したものである。
これに対して、刊行物2には、ホワイトソース様食品を冷凍・解凍した場合に、澱粉ゲルが老化し、離水が生じホワイトソース様食品独特の食感が損なわれることが記載されており、かかる記載からみて、冷凍調理食品用ソースに係る本件発明の上記技術的課題は、本件特許の出願前に既に当業者において公知であったものと認められる。
そして、リゾ化率が約95%のリゾリン脂質含有物を澱粉の老化防止剤としてフラワーペーストに配合すると、0℃或いは5℃といった低温での保存において、フラワーペーストの硬化(澱粉の老化)の進行及び離水の発生を抑制できることが刊行物1に記載されていることからすれば、本件発明に係る上記技術的課題の解決のために、即ち冷凍調理食品用ソースの冷解凍時における澱粉ゲルの老化と離水の発生を抑制する目的で、刊行物1に記載の「製造例1で得られた卵黄リゾリン脂質」を冷凍調理食品用ソースに配合することは、当業者において容易に想到し得ることである。
この点について、特許権者は平成16年7月13日付け意見書において「5℃、0℃においては、第3表では、『硬化』が6日間(8日目→14日目)遅らさせたものの、0℃では『硬化』が4日程度遅らさせたにすぎません。また、第5表によれば、5℃では『硬化』が6日間(13日→7日)遅らさせたものの、0℃では『硬化』に対して全く効果がなく、また離水に対しても全く効果がないことが示されています。さらに、第7表においても、0℃では硬化、離水に対していずれも全く効果がありません。このように、刊行物1には『リゾリン脂質を含有する老化防止』は低温になるほど老化進行を抑制する効果が減少することが示されており、とくに0℃ではその効果が殆んど認められません。」(意見書5頁14行〜23行)と指摘し、刊行物1は冷凍食品における澱粉の老化と離水に対する抑制効果を何ら示唆するものではないとの主旨の主張をしている。
確かに、刊行物1には、フラワーペーストを0℃よりも更に温度の低い冷凍温度にした場合に、刊行物1に係る老化防止剤が澱粉の老化や離水に対してどのような抑制効果を示すのか具体的に言及する記載はないが、刊行物1の第3表の「無添加」の項には、フラワーペーストを低温保存した際に、保存温度が低くなればなるほど(20℃→15℃→10℃→5℃→0℃)、澱粉の老化、離水が進みやすいことが示され、同じく第3表の「添加」の項には、低温保存(20℃→15℃→10℃→5℃→0℃)のそれぞれの温度において、製造例1で得られたリゾリン脂質を添加した場合には、無添加の場合に比べて、フラワーペーストの硬化(澱粉の老化)、離水が抑制されることが記載されており、かかる記載に接した当業者ならば、フラワーペーストを冷凍保存する場合にも、澱粉の硬化、離水に対して一定の抑制効果が期待できると考えるのが普通である。
刊行物1の第5表及び第7表には、特許権者が指摘するとおり、0℃では「添加」と「無添加」との間で澱粉の硬化と離水の発生時期に差がないことが示されているが、そこには同時に20℃、15℃、10℃及び5℃においては、刊行物1に係る老化防止剤を配合することにより、澱粉の硬化、離水の発生を抑制できることが明確に示されており、しかも第5表及び第7表は第3表の場合とは異なるリゾリン脂質を用いた場合の結果であるから、第5表及び第7表に記載の試験データは、当業者が刊行物1の、特に第3表の記載に基づいて上記した抑制効果を期待することを妨げるものではないというべきである。
また、本件発明の効果、すなわち「解凍したのちも離水が少なく、食感がなめらかで舌触りのよいホワイトルー、ブラウンルー等の冷凍ルーまたはホワイトソース、ブラウンソース等の冷凍ソースを提供することができる。」(明細書段落【0031】)という効果については、刊行物1に係る老化防止剤を配合することにより、冷凍調理食品用ソース等の解凍時の離水が少なくなることは、刊行物1の記載から当業者ならば容易に予測できることであり、また、「食感がなめらかで舌触りのよい」についても、澱粉の老化と離水を抑制することにより付与される効果であり、格別な効果とはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1に係る特許は、特許法第113条第2項に該当するので、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-03 
出願番号 特願平4-255307
審決分類 P 1 651・ 121- Z (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 河野 直樹
鵜飼 健
登録日 2002-04-26 
登録番号 特許第3300933号(P3300933)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 ルーおよび冷凍調理食品  
代理人 中島 敏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ