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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C07C
管理番号 1116222
異議申立番号 異議2000-71142  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-03-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-21 
確定日 2005-03-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第2951400号「フルオロベンゼン誘導体および液晶相」の請求項1ないし20に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成15年2月4日付け異議の決定に対し、東京高等裁判所において、該決定中特許を取り消した部分を取り消す判決(平成15年(行ケ)第269号、平成16年11月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第2951400号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許2951400号の請求項1ないし20に係る発明は、1990年9月3日〔パリ条約による優先権主張1989年9月6日ドイツ(DE)、1989年9月6日ドイツ(DE)、1989年9月7日ドイツ(DE)、1990年3月28日ドイツ(DE)〕を国際出願日として特許出願され、平成11年7月9日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人大日本インキ化学工業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年3月29日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年9月17日に訂正請求がなされ、平成15年2月4日付けで、請求項1ないし16および19、20に係る特許を取り消す、同請求項17、18に係る特許を維持するとの決定がなされた。
これに対して、本件特許の特許権者により、該異議の決定中特許を取り消した部分の取消しを求める訴えが東京高等裁判所に提起された(平成15年(行ケ)第269号)後、請求項1ないし20について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を求める訂正審判の請求がなされ、同請求を訂正2004-39207号事件として審理したところ、平成16年10月8日に、「特許第2951400号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決がなされ、この審決は平成16年10月20日に確定した。そして、東京高等裁判所において、該異議の決定中特許を取り消した部分を取消す判決があり、該判決は確定した。

2.本件発明
本件特許の請求項1ないし18に係る発明は、前記訂正審決により訂正が認められた明細書の記載からみて、訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲(以下、「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1ないし18に記載された以下のとおりである(以下、それぞれ「本件発明1ないし18」といい、それらをまとめて「本件発明」ともいう。)。
「1.式I

〔式中、Rは、Hであり、あるいはRは、炭素原子1〜15個を有するアルキル基またはアルケニル基であり、この基は、非置換であるか、あるいは置換基として1個のCNまたはCF3を有するか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲンを有しており、そしてこれらの基中に存在する1個または2個以上のCH2基は、場合によりそれぞれ相互に独立して、O原子が相互に直接に結合しないものとして、-O-、-S-、

、-CO-、-CO-O-、-O-CO-または-O-CO-O-により置き換えられていてもよく、
A1およびA2は、それぞれ相互に独立して、
(a)トランス-1,4-シクロヘキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個以上のCH2基はまた、-O-および(または)-S-により置き換えられていてもよい)、
(b)1,4-フェニレン基、
(c)1,4-シクロヘキセニレン、1,4-ビシクロ〔2.2.2〕オクチレン、ピペリジン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイルおよび1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイルよりなる群からの基
であり、上記の基(a)および基(b)は、場合によりCNまたはフッ素により置換されていてもよく、
Z1およびZ2は、それぞれ相互に独立して、-CO-O-、-O-CO-、-CH2O-、-OCH2-、CH2CH2-、-CH=CH-、-C≡C-または単結合であり、あるいは基Z1および基Z2のうちの一つはまた、-(CH2)4-または-CH=CH-CH2CH2-であることができ、
Lは、Fであり、
mは、0、1または2であり、
Yは、FまたはClであり、そして
Qは、単結合、-CF2-、-OCF2-または-OCHF-である、ただし、次の化合物を除く、
(a)4-プロピル-4′-(3,5-ジフルオロ-4-デフルオロメトキシフェニル)-トランス,トランス-ビシクロヘキシル
(b)

(r=1又は2;s=0又は1)

(s=0又は1)

(s=0又は1)

(r=1又は2)

(A=単結合、



、又は

)

(A′=

又は

)

(A″=



又は

)
(式中R1はそれぞれ炭素原子1〜10個を有するアルキル基である)
(c)A1およびA2が、同一又は異なって、いずれもトランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、ピリミジン-2,5-ジイル基または1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基であり、かつQ-YがFである化合物、
(d)A2が、1,4-シクロへキセニレン基であり、かつQ-YがFである化合物。〕
で示されるフルオロベンゼン誘導体。
2.式Iで示される化合物を液晶媒体の成分として使用する方法。
3.少なくとも2種の液晶成分を含有する液晶媒体であって、式Iで示される化合物のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする液晶媒体。
4.式I″

〔式中、Rは、Hであり、あるいはRは、炭素原子1〜15個を有するアルキル基またはアルケニル基であり、この基は、非置換であるか、あるいは置換基として1個のCNまたはCF3を有するか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲンを有しており、そしてこれらの基中に存在する1個または2個以上のCH2基は、場合によりそれぞれ相互に独立して、O原子が相互に直接に結合しないものとして、-O-、-S-、

、-CO-、-CO-O-O、-O-CO-または-O-CO-O-により置き換えられていてもよく、
A1およびA2は、それぞれ相互に独立して、
(a)トランス-1,4-シクロヘキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個以上のCH2基はまた、-O-および(または)-S-により置き換えられていてもよい)、
(b)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個または2個のCH基はまた、Nにより置き換えられていてもよい)、
(c)1,4-シクロヘキセニレン、1,4-ビシクロ〔2.2.2〕オクチレン、ピペリジン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイルおよび1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイルよりなる群からの基
であり、上記の基(a)および基(b)は、場合によりCNまたはフッ素により置換されていてもよく、
Z1およびZ2は、それぞれ相互に独立して、-CO-O-、-O-CO-、-CH2O-、-OCH2-、CH2CH2-、-CH=CH-、-C≡C-または単結合であり、あるいは基Z1および基Z2のうちの一つはまた、-(CH2)4-または-CH=CH-CH2CH2-であることができ、
Lは、Fであり、
mは、0、1または2であり、
Yは、FまたはClであり、そして
Qは、単結合、-CF2-、-OCF2-または-OCHF-である、
で示されるフルオロベンゼン誘導体の1種又は2種以上に加え、さらなる構成要素として4〜30種の成分を含有し、さらなる構成要素が下記式1〜5;
R′-L-E-R″ 1
R′-L-COO-E-R″ 2
R′-L-OOC-E-R″ 3
R′-L-CH2CH2-E-R″ 4
R′-L-C≡C-E-R″ 5
式1、式2、式3、式4および式5において、LおよびEは同一または異なることができ、相互に独立して、それぞれ、-Phe-、Cyc-、-Phe-Phe-、-Phe-Cyc-、-Cyc-Cyc-、-Pyr-、-Dio-、-G-Phe-および-G-Cyc-ならびにそれらの鏡像基からなる群からの二価の基であり、Pheは1,4-フェニレンであり(この基は非置換であるか、またはフッ素で置換されている)、Cycはトランス-1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-シクロヘキセニレンであり、Pyrはピリミジン-2,5-ジイルまたはピリジン-2,5-ジイルであり、Dioは1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり、そしてGは2-(トランス-1,4-シクロヘキシル)-エチル、ピリミジン-2,5-ジイル、ピリジン-2,5-ジイルまたは1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり、R′およびR″は相互に独立して、それぞれ、8個までの炭素原子を有するアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニルオキシまたはアルカノイルオキシであるか、または、R″は、-F、-Cl、-NCSまたは-(O)iCH3-(k+l)FkCll(式中、iは、0または1であり、そしてk+lは、1、2または3である)である、
で示される化合物から選択され、
(a)式I″の化合物1種又は2種以上を5〜90%、
(b)R″が-F、-Cl、-NCS又は-(O)iCH3-(k+l)FkCllである式1〜5から選択される化合物を10〜80%(グループB)及び
(c)R′及びR″が夫々互いに独立して、炭素原子1〜8個を有するアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニルオキシ又はアルカノイルオキシである式1〜5から選択される化合物を0〜30%(グループA)含有し、
しきい値電圧が、1.66V以下であることを特徴とする、液晶媒体。
5.さらなる構成要素が7〜25種の成分であることを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
6.さらなる構成要素として、式1〜5のうちの2つから選択される化合物を含有することを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
7.LがCyc又はPheであり、EがPhe-Cycである構成要素を含有することを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
8.LがPheであることを特徴とする、請求項7に記載の液晶媒体。
9.L及びEがCyc、Phe及びPyrからなる群から選択されたものである式1〜5の化合物の1種又は2種以上と、L及びEのうちのひとつの基がCyc、Phe及びPyrからなる群から選択され、他の基が-Phe-Phe-、-Phe-Cyc-、-Cyc-Cyc-、-G-Phe-及び-G-Cyc-からなる群から選択されたものである式1〜5の化合物の1種又は2種以上とを同時に含むことを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
10.式I″の化合物を複数種含有することを特徴とする、請求項4〜9のいずれかに記載の液晶媒体。
11.式I″の化合物を3、4又は5種含有することを特徴とする、請求項10に記載の液晶媒体。
12.L及びEのうちのひとつの基がフッ素で置換された1,4-フェニレンを含む、式1〜5から選択される化合物を含有することを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
13.式I″の化合物とグループBの化合物とからなることを特徴とする、
請求項4に記載の液晶媒体。
14.式I″の化合物と式

(式中Rは直鎖アルキルである)
の化合物とからなるものを除く、請求項4〜13のいずれかに記載の液晶媒体。
15.式I″の化合物を40%より多く含有することを特徴とする、請求項4〜14のいずれかに記載の液晶媒体。
16.式I″の化合物の割合が45〜90%であることを特徴とする、請求項15に記載の液晶媒体。
17.請求項3〜16のいずれかに記載の液晶媒体を含有することを特徴とする、液晶表示素子。
18.誘電体として、請求項3〜16のいずれかに記載の液晶媒体を含有することを特徴とする、電気光学表示素子。」

3.特許異議申立ての理由の概要、及び、当審の取消理由の概要
(1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人大日本インキ化学工業株式会社は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、(a)訂正前の本件請求項請求項1ないし3に係る発明の特許は、特願平2-502987号の公表公報である下記の甲第1号証の記載からみて、本件発明の出願前の特許出願である特願平2-502987号(以下、「先願1」という。)により特許法第29条の2の規定に違反し、又は、(b)本件発明の出願前に頒布された刊行物である下記の甲第2ないし5号証により特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、さらに、(c)訂正前の本件請求項1ないし20に係る発明の特許は、同甲第2ないし5号証により容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反しなされたものであるので、取り消されるべきものである旨主張している。
「特許異議申立の証拠」
甲第1号証:特表平4-504571号公報
(特願平2-502987号の公表公報)
甲第2号証:国際公開第88/08441号パンフレット
(WO 88/08441)
甲第3号証:特表昭62-502264号公報
甲第4号証:特開昭60-226872号公報
甲第5号証:特開昭61-197563号公報

(2)取消理由の概要
当審においては二度の取消理由が通知され、最初の取消理由は、特許異議申立ての理由と同じである。
二度目の取消理由の概要は、引用文献等として下記(イ)〜(ヘ)を提示し、(d)訂正前の本件の請求項1ないし16、19、20に係る発明の特許は、本件発明の出願前の特許出願である下記(イ)の出願(以下、「先願イ」という。)により特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、また、(e)訂正前の本件の請求項1ないし12、19〜20に係る発明の特許は、本件発明の出願前の特許出願に該当する下記(ロ)の出願(以下、「先願ロ」という。)に係る発明と同一の発明を包含するか、訂正前の本件の請求項1ないし5、11〜12、19〜20に係る発明の特許は、本件発明の出願前の特許出願に該当する下記(ハ)の出願(以下、「先願ハ」という。)とに係る発明と同一の発明を包含するものであるから、特許法第39条第1項の規定に違反してなされたものであり、又は、(f)訂正前の本件請求項1ないし20に係る発明の特許は、本件発明の出願前に頒布された刊行物である下記の引用文献(ニ)、(ホ)、(ヘ)により容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反しなされたものであり、さらに、(g)訂正前の本件の請求項1に係る発明について、その明細書の記載が、特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないから、取り消されるべきものであるというものである。
「引用文献等一覧」
(イ)特願平1-54150号(特開平2-233626号公報参照)
(ロ)特願平2-511206号(特許第2935744号公報参照)
(ハ)特願平2-502953号(特表平3-503771号公報参照)
(ニ)国際公開第89/02884号パンフレット
(ホ)特開昭60-226872号公報
(ヘ)特開昭61-197563号公報
(なお、上記引用文献において、(ホ)は異議申立人大日本インキ化学工業株式会社の提出した甲第4号証、(ヘ)は同甲第5号証である。)

4.各甲号証及び引用文献等に記載された事項
(1)特願平2-502987号(先願1;甲第1号証である特表平4-504571号公報参照)
(なお、便宜上、当該当初明細書の該当箇所の後にその公表公報である特表平4-504571号公報の対応箇所も併記した。)
あ.「

式I
(式中、R1及びR2はC1-15のアルキル、アルコキシル、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルコキシル及びアルキニルの中から選択され、R1はCNでもよく、またR2はフッ素又はNCSでもよい。mは0、1又は2であり、但し、R1がアルキル又はアルコキシル、R2がアルキル、アルコキシル、パーフルオロアルキル又はCNならば、mは1又は2である。)で表されるフェニルナフタレン。」(明細書27頁特許請求の範囲の請求項1;公報1頁左欄特許請求の範囲の請求項1 )
い.「液晶特性を有するフェニルナフタレン
本発明は、液晶特性を有する新規フェニルナフタレン、並びに液晶材料及び液晶装置での該フェニルナフタレンの使用に関する。」(明細書1頁1行〜4行;公報2頁右下欄2行〜5行)

(2)国際公開第88/08441号パンフレット(甲2第号証)
(なお、摘示事項は、和訳で示した。)
う.「1.少なくとも二種の液晶成分を含有する誘電体を含む電気光学液晶表示素子であって、スイツチング時間を短縮するために、上記誘電体が式I
R1-(A1-Z1)m- A2-R2 I
[式中基R1および基R2のうちの一つはH、F、Cl、Br、-CNまたは-NCSであり、あるいはC原子1〜15個を有する非置換のまたは置換されているアルキル基であり、この基中に存在する1個または2個のCH2基は、2個のヘテロ原子が相互に直接に結合しないものとして、-O-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-CH ハロゲン-、-CHCN-、-CCH3CN-、-C≡C-および-CH=CH-よりなる群から選ばれる基により置き換えられていてもよく、
基R1および基R2のうちの他の一つはC原子1〜15個を有するパーフルオロアルキル基であり、このパーフルオロアルキル基が少なくとも2個のCF2基を有する場合にこの基中に存在する1個または2個以上のCF2基はまた、2個のヘテロ原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-CH2-、-CH ハロゲン-、-CHCN-、-C≡C-、-CH=CH-、-CH=C ハロゲン-および-C ハロゲン=C ハロゲン-よりなる群から選ばれる基により置き換えられていてもよく、
A1およびA2は相互に独立して、それぞれ1,4-フェニレンであり、この基は非置換であるか、または置換基として1個または2個のF原子および(または)Cl原子および(または)CH2基および(または)CN基を有し、そしてこの基中に存在する1個または2個のCH基はまた、N原子により置き換えられていてもよく、あるいはA1およびA2は、それぞれ、1,4-シクロヘキシレンであり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基はO原子および/または、S原子により置き換えられていてもよく、あるいはA1およびA2 は、それぞれ、ピペリジン-1,4-ジイル、1,4-ビシクロ[2.2.2.]オクチレン、非置換のまたはCN置換されているデカヒドロナフタレン-2,6-ジイルまたは1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイルであり、あるいはA2は、また、単結合であることができ、
mは0、1、2または3であり、そして
Z1は-CO-O、-O-CO-、-OCH2-、-CH2O-、-CH2-CH2-、置換されているエチレンまたは単結合であり、
m=2または3である場合に、基A1およびZ1は同一または異なることができ、ただし、m=0である場合に、2個の基R1およびR2中に存在するC原子の数の合計は少なくとも8である]
で示されるフッ素含有化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする上記電気光学液晶表示素子。」(67頁〜68頁特許請求の範囲の請求項1)

(3)特表昭62-502264号公報(甲第3号証)
え.「1.式I
R1-A1-Z1-A2-R2 I
[式中R1およびR2はそれぞれHまたは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基であり、これらの基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基はまたO原子および(または)-CO-基および(または)-CO-O-基および(または)-CH=CH-基により置き換えられていてもよく、あるいはF、Cl、Br、CNまたはR3-A3-Z2-であり、A1は-A-、A4-Z0-A-または-A-Z0-A4-であり、Aはトランス-1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-シクロヘキセニレン基であり、これらの基は置換されていないかあるいは2-、3-、5-および(または)6-位置に置換基として1個または複数個のFおよび(または)Clおよび(または)Brおよび(または)CNおよび(または)それぞれ1〜10個の炭素原子を有するアルキル基またはフッ素化アルキル基であって、これらの基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基はまたO原子および(または)-CO-基および(または)-CO-O-基により置き換えられていてもよく、そしてこれらのトランス-1,4-シクロへキシレンまたは1,4-シクロヘキセニレン基はまた場合により、1-位置および(または)4-位置に置換基を有することができ、そしてこれらの基中に存在する1個または2個のCH2基は-CO-により置き換えられていてもよく、あるいは式中のR1-A1-はシクロヘキシル基であり、この基は3-位置に置換基としてアルキル基を有し、このアルキル基は1〜10個の炭素原子を有しそしてその基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基はまたO原子および(または)-CO-基および(または)-CO-O-基および(または)-CH=CH-基により置き換えられていてもよく、あるいはこの基は3-位置にCN基を有し、さらにこのシクロヘキシル基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基はまた-O-または-CO-により置き換えられていてもよく、A2、A3 およびA4はそれぞれ1,4-フエニレンであり、この基は置換されていないかあるいは置換基として1個または2個のFおよび(または)Cl原子および(または)CH3 基および(または)CN基を有しておりそしてこの基中に存在する1個または2個のCH基はまたN原子および(または)NOにより置き換えられていてもよく、あるいはA2、A3 およびA4は1,4-シクロヘキシレン基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基はO原子により置き換えられていてもよく、あるいはA2、A3 およびA4は1,3-ジチアン-2,5-ジイル、ピペリジン-1,4-ジイル、1,4-ビシクロ(2,2,2,)-オクチレン、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイルまたは1,2,3,4-テトラ-ヒドロナフタレン―2,6―ジイル基であり、あるいは-A-であり、Z0、Z1 およびZ2はそれぞれ-CO-O-、-O-CO-、-CH2CH2-、-OCH2-、-CH2O-、-CH2CO-、-COCH2-、-CH2CHCN-、-CHCNCH2-または単結合であり、そしてR3 はHまたは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基もまたO原子および(または)-CO-基および(または)-CO-O-基および(または)-CH=CH-基により置き換えられていてもよく、あるいはR3はF、Cl、BrまたはCNである]
で示されるシクロヘキサン誘導体。」(1頁左欄〜2頁左上欄10行特許請求の範囲の請求項1)

(4)特開昭60-226872号公報(甲第4号証)
お.「(1)式I
R1-A1-Z1-A2-R2 (I)
〔式中R1およびR2はそれそれHまたは各場合に1〜10個のC原子を有するアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基あるいはアルコキシカルボニル基であるかまたはF、Cl、Br、CNまたはR3-A3-Z2-であり;A1は-A-、-A4-A-または-A-A4-であり;Aは1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基または1,3-ジチアン-2,5-ジイル基であり;A2 、A3 およびA4はそれぞれ1,4-シクロヘキシレン基、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、1,3-ジチアン-2,5-ジイル基、ペピリジン-1,4-ジイル基あるいは1,4-ビシクロ〔2.2.2〕オクチレン基、または置換されていないかあるいは1個または2個のFおよび(または)Cl原子および(または)CH3基および(または)CN基で置換されている1,4-フエニレン基かピリミジン-2,5-ジイル基かピリダジン-3,6-ジイル基であり;Z1およびZ2はそれぞれ-CO-O-、-O-CO-、-CH2CH2-、-OCH2-、-CH2O-または単結合であり;そしてR3はHまたは各場合に1〜10個のC原子を有するアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基あるいはアルコキシカルボニル基、またはF、Cl、BrまたはCNであって、但し(a)基A2 、A3 および(または)A4の少なくとも一つはラテラル置換基を含有しており;(b)1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基および1,3-ジチアン-2,5-ジイル基はその2位置がアルコキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、F、Cl、Br、CNまたはR3-A3-Z2により置換されていることはなく、そしてピペリジン-1,4-ジイル基はその1位置がこれらの基により置換されていることはなく;(c)A1が-A-である場合には、Z1は-CH2CH2-ではなく;そして(d)A1が-A-A4-ありそして-A2-R2が3-クロル-4-シアノフエニルである場合には、Z1は-CO-O-ではない〕
で示される化合物。」(1頁左欄〜2頁左上欄6行、特許請求の範囲の請求項1)

(5)特開昭61-197563号公報(甲第5号証)
か.「(2)一般式

(式中、nは0または1の整数を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、X1,X2またはX3は水素基、フツ素、塩素もしくは臭素のハロゲノ基、シアノ基またはトリフルオロメチル基を示し、X1、X2およびX3の少くとも一つはトリフルオロメチル基であることを条件とする。)にて表わされるピリミジン誘導体を含有することを特徴とする液晶組成物。」(1頁右欄1行〜下から7行特許請求の範囲の請求項2)

(6)特願平1-54150号(先願イ;特開平2-233626号公報参照)
(なお、便宜上、当該当初明細書の該当箇所の後にその公開公報である特開平2-233626号公報の対応箇所も併記した。)
き.「(1)一般式

(式中Rは1ないし10個の炭素原子を有するアルキル基であり、これらの基中に存在する1個の-CH2-基または隣接していない2個の-CH2-基はO原子および(または)-CO-基および(または)-COO-基および(または)-CH=CH-基に置き換えられてもよい。-A-および-B-は1,4-シクロへキシレン、1,4-フエニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり、lは0、1または2を、mは0、1または2を示しl+m≧1である。Z1およびZ2は-COO-、-OCO-、-CH2CH2-、-OCH2-、-CH2O-、-CH=CH-または単結合であり、Z1、Z2は同じかまたは異つていてもよい。)で表わされることを特徴とするトリフルオロベンゼン誘導体。
(2)請求項(1)記載の化合物を2〜40重量%含有することを特徴とする液晶組成物。」(明細書1頁5行〜2頁6行:特許請求の範囲請求項1及び2(公報1頁特許請求の範囲の請求項1及び2))
く.「本発明は液晶材料の一成分として用いられるトリフルオロベンゼン誘導体、さらに詳しくは、高信頼性を要するパツシブ方式およびアクテイブマトリツクス方式に有用な液晶組成物の一成分として好適な化合物、および該誘導体を含有する優れた特性を有する液晶組成物に関する。」(明細書2頁9行〜14行(公報1頁右欄9行〜14行))
け.「最近これらの問題を解決するべく、末端基あるいは側鎖に1ないし2個のハロゲン原子、特に粘性の面からフツ素原子を導入した化合物が数多く発表されている。
これらの化合物の例としてつぎに示す化合物があげられる。
・・・(化合物の構造式等省略)・・・これらの化合物の多くは、比較的安定で信頼性が高い液晶材料であると報告されているが、Δεは約+3〜+5程度と比較的小さく、また、これらの化合物のみからなる液晶組成物のΔεも小さく駆動電圧を低下させることはできない。
本発明はこれらの問題点を解決することが目的であり、安定性にすぐれかつΔεが正で大きい化合物を提供することである。」(明細書6頁3行〜9頁1行(公報2頁右下欄3行〜3頁左下欄1行))
こ.「本発明によって提供される化合物は誘電率の異方性Δεが大きく、低粘度であるので、これらの化合物を使用することにより得られる液晶組成物の粘度を上昇させることなく、駆動電圧を低下させることが可能となった。」(明細書75頁5行〜9行(公報20頁左上欄5行〜9行))
さ.「本発明によるこれらの液晶組成物は、式Iで示される化合物の少なくとも一種を包含する2〜25種、好ましくは3〜15種の成分からなる。その他の構成成分はネマチック物質、特に・・・フェニルまたはシクロヘキシルシクヘキサンカルボキシレート化合物、フェニルシクロヘキサン化合物・・・の群に属する既知物質から選択するのが好ましい。」(明細書25頁1行〜26頁8行(公報7頁左下欄1行〜右下欄8行))
し.「本発明の液晶組成物の構成成分として適当である最も重要な化合物は式I′で示すことができる。
R′-L-G-E-R″ (I′)
(式中LおよびEはそれぞれ1,4-ジ置換ベンゼン、シクロヘキサン環、
4,4′-ジ置換ビフエニル、フエニルシクロヘキサン、シクロヘキシルシクロヘキサン系、2,5-ジ置換ナフタレン、ジヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、キナゾリンおよびテトラヒドロキナゾリンから形成される群に属する炭素環または複素環系であり、Gは-CH=CH-、-N(O)=N-、-CH=CY-、-CH=N(O)-、-C≡C-、-CH2-CH2-、-CO-O-、-CH2O-、-CO-S-、-CH2S-、
-CH=N-、-COO-Phe-COO-、またはC-C単結合であり、Yはハロゲン、好ましくは塩素または-CN-であり、そしてR′およびR″は18個まで好ましくは8個までの炭素原子を有するアルキル、アルコキシ、アルカノイルオキシ、アルコキシカルボニルまたはアルコキシカルボニルオキシであるが、あるいはこれらの基の一つはCN、NC、NO2、CF3、F、ClまたはBrである。)」(明細書26頁9行〜27頁11行(公報7頁右下欄9行〜8頁左上欄11行))
す.「応用例1

33.33重量部

33.33 〃

33.33 〃
からなる液晶組成物AのN-I点は112.4℃、20℃における粘度は25.7cP、Δnは0.081であり、この液晶組成物をセル厚8.7μmのTNセルに封入しそのしきい値電圧を調べたところ2.56Vであった。この液晶組成物85重量部に本発明の実施例1(化合物No.1)に示した化合物15重量部を加えた液晶組成物のN-I点は、77.7℃、20℃における粘度は17.9cPであった。この液晶組成物を前述のTNセルに封入しそのしきい値電圧を調べたところ、1.94Vに低下した。
応用例2
応用例1で使用した液晶組成物A:85重量部と本発明の実施例4に示した化合物(化合物No.31)15重量部よりなる液晶組成物を調整した。・・・この液晶組成物を前述のTNセルに封入したもののしきい値電圧は2.32Vであった。
応用例3
応用例1で使用した液晶組成物85重量部と実施例6(化合物No.51)に示した本発明の化合物15重量部より液晶組成物を調整した。・・・この組成物を前述のTNセルに封入したもののしきい値電圧は2.12Vであった。
応用例4
応用例1で使用した液晶組成物85重量部と実施例9(化合物No.81)に示した本発明の化合物15重量部より液晶組成物を調整した。・・・この液晶組成物を前述のTNセルに封入したもののしきい値電圧は2.38Vであった。」(明細書73頁1行〜75頁3行(公報19頁左下欄1行〜20頁左上欄3行))

(7)特願平2-511206号(先願ロ;特許第2935744号公報等参照)
(なお当該先願ロに係る特許については、特許異議申立てがなされたが、特許請求の範囲の記載等の訂正を認め特許を維持した異議決定は、確定している。)
せ.「1. 式I

〔式中、nは、0または1であり、Q1およびQ2はHであり、あるいはQ1およびQ2のうちの一つはまた、CH3であることができ、rは0であり、Aは、トランス-1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレンまたは3-フルオロ-1,4-フェニレンであり、Xは、F、Cl、-CF3、-CN、-OCF3または-OCHF2であり、そしてYはFであり、ZはHまたはFである〕で示されるフェニルシクロヘキサン化合物。
・・・
4.式I中、


が、

であることを特徴とする、請求項1記載のフェニルシクロヘキサン化合物。
・・・
7. 少なくとも2種の液晶成分を含有する、電気光学表示体用液晶媒体であって、少なくとも1種の成分が、請求項1に記載の式Iで示されるフェニルシクロヘキサン化合物であることを特徴とする液晶媒体。
・・・
9.液晶セルにもとづく電気光学表示体であって、液晶セルが請求項7に記載の媒体を含有することを特徴とする電気光学表示体。」(訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、4、7、9)

(8)特願平2-502953号(先願ハ;特許第2790221号公報参照)
そ.「【請求項1】式I

I
[式中、基R1およびR2の一方はXであり、他方の基R1またはR2はR-Y-である(但し、
XはH、F、Cl、-CF3、-OCHF2または-OCF3であり、Rはアルキル、フルオロアルキル、アルケニルまたはオキサアルキルであり、そして
YはO、S、-CO-O-、-O-CO-、-O-CO-O-、単結合または、m=1の場合に、選択的にトランス-1,4-シクロヘキシレンまたは

である)、
mは1または2であり、
Phは、それぞれの場合に、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、3-フルオロ-1,4-フェニレンおよび3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンから成る群から選択される同一または異なる基であり、
L3およびL4はそれぞれHであるか、またはこれらの基のどちらか1つはHの代わりにFであり、
L1、L2およびL5はそれぞれHまたはFである]のビフェニリルエタン類。
・・・
【請求項3】式Ib

Ib
(式中、基Rはアルキル、フルオロアルキル、アルケニルまたはオキサアルキルであり、mは1または2であり、
YはO、S、-CO-O-、-O-CO-、-O-CO-O-、単結合または、m=1の場合に、トランス-1,4-シクロヘキシレンに代えられ、
Phは、それぞれの場合に1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、3-フルオロ-1,4-フェニレンおよび3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンから成る群から選択される同一または異なる基であり、
L1、L3およびL4はそれぞれHか、またはこれらの基の1つはFに代えられ、
L2およびL5はそれぞれHまたはFであり、
XはF、Cl、-CF3または-OCF3である。但し、XがFまたは-CF3のとき、mは2か、および/またはL4とL5の少なくとも一つはFである。)のビフェニリルエタン類。
・・・
【請求項11】請求項1記載の式Iの化合物をその成分として使用する液晶相。
【請求項12】少なくとも2種の液晶成分を含んでいる液晶相であって、少なくとも1種の式Iの化合物を含有することを特徴とする液晶相。
【請求項13】請求項12記載の液晶相を含有することを特徴とする液晶ディスプレイ要素。」(1頁〜4頁特許請求の範囲の請求項1、3、11〜13)

(9)国際公開第89/02884号パンフレット(引用文献(ニ))
(摘示事項は和訳で示す。)
た.「式Iで示される置換フエニルトリフルオロメチルエーテル化合物
R1-(A1-Z1)n-A2-Z2-A2-OCF3 I
[式中、R1は、Hであるか、あるいはC原子1〜18個を有するアルキルであり、このアルキル中に存在する1個または2個以上のCH2基はまた、2個のヘテロ原子が相互に直接に結合しないものとして、-E-、-O-、-S-および(または)-CO-により置き換えられていてもよく、あるいはR1はC原子1〜18個を有するパーフルオロアルキルであり、このパーフルオロアルキル中に存在する1個または2個以上のCF2基はまた、2個のヘテロ原子が相互に直接に結合しないものとして、-CH2-、-E-、-O-、-S-および(または)-CO-のより置き換えられていてもよく、Eは、CH=CX、CX=CH、C≡C、CHY、CX-CHまたは
CH-CXであり、 \ /
\ / O
O
Xは、Y、CH3またはHであり、
Yは、CN、NCS、NCOまたはハロゲンであり、
A1およびA2は、それぞれ、相互に独立して、非置換であるかまたは置換基として1個または2個以上のハロゲン原子および(または)CN基および(または)CH3基を有する1,4-フエニレンであり、この基中に存在する1個または2個以上のCH基はNにより置き換えられていてもよく、あるいはA1およびA2は、それぞれ、1,4-シクロヘキシレンであり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は-O-原子および(または)-S-原子により置き換えられていてもよく、あるいはA1およびA2は、それぞれ、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-ビシクロ(2.2.2)オクチレンまたはピペリジン-1,4-ジイルであり、
Z1およびZ2は、それぞれ、-CO-O-、-O-CO-、-CH3O-、-OCH2-、-CH2CH2-、-CH=CH-または単結合であり、
A3は、非置換であるか、または置換基として、1個または2個以上のハロゲン原子および(または)CN基および(または)CH3基を有する1,4-フエニレン基であり、そして
nは0、1または2である、
ただし、n=0または1、R1=アルコキシおよびA1=A2=A3=非置換1,4-フエニレンである場合には、Z2は-CH2O-、-OCH2-、-CH2CH2-、-CH=CH-または単結合である]。
2.液晶相の成分としての、請求項1に記載の式Iで示される化合物の使用。
3.少なくとも二種の液晶成分を有する液晶相であって、請求項1に記載の式Iで示される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする液晶相。
4.請求項3に記載の液晶相を含有することを特徴とする液晶表示素子。
5.請求項3に記載の液晶相を誘電体として含有することを特徴とする電気光学表示素子。」(46頁〜48頁特許請求の範囲)

5.対比・判断
(1)特許法第29条の2の規定違反について
(i)特願平2-502987号(先願1)について
本件発明1は、上記2で述べたように、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された式Iで示される特定のフルオロベンゼン誘導体(以下、「本件化合物I」という。)であり、明細書の記載全体からみて、本件化合物Iの構造として、特に、末端のフェニル基の、3,5位がそれぞれフルオロ基(F基)で置換され、4位が該請求項1で定義されるQ-Yなる極性基(Yは、FまたはClであり、Qは、単結合、-CF2-、-OCF2-または-OCHF-である)で置換されたところの以下の部分構造

(以下、該部分構造を「-Phe-F.Q-Y.F」と略記する)を有する点を特徴とするものである。
ここで、先願1の当初明細書には、その広範な一般式からみて、本件化合物Iを包含しうるフェニルナフタレン(摘示事項あ)及びその液晶特性(摘示事項い)が記載されていると認められが、具体的に上記「-Phe-F.Q-Y.F」を有する本件化合物Iは全く記載されていないうえ、本件化合物Iが記載されているに等しいとする事項の記載もないので、本件発明1は、甲第1号証の当初明細書に記載された発明と同一ではない。
また、本件発明2、3は、いずれも本件化合物Iをその構成要件の一つとする発明であるので、上記と同様の理由により、いずれも先願1の当初明細書に記載された発明と同一ではない。
したがって、上記3.(1)での特許異議申立ての理由(a)は、妥当なものではない。
(ii)特願平1-54150号(先願イ)について
(一)本件発明1及び本件発明2、3について
先願イの当初明細書には、誘電率の異方性Δεが大きく、低粘度であり、安定性にすぐれ、液晶組成物の成分として有能な化合物として、その請求項1に一般式で示されるトリフルオロベンゼン誘導体(以下、「先願イのトリフルオロベンゼン誘導体」という。)が記載されており(摘示事項き〜こ)、また、該トリフルオロベンゼン誘導体を製造する際するに際し、原料(中間体)として、シクロヘキセン誘導体が記載され、実施例において、それらの具体例や物性も記載されている。そして、先願イのトリフルオロベンゼン誘導体及びシクロヘキセン誘導体は、上記「-Phe-F.Q-Y.F」に該当する、末端のフェニル基の3,4,5位がフルオロ基(F基)で置換された部分構造を有するものであるが、本件発明1は、(上記の訂正審判における訂正により)本件の特許請求の範囲の請求項1の式Iで示されるフルオロベンゼン誘導体、即ち本件化合物Iとして、上記先願イのトリフルオロベンゼン誘導体及びその中間体として記載されているシクロヘキセン誘導体全てを除外したものであるので、本件発明1は、先願イの当初明細書に記載された発明と同一ではない。
また、本件発明2、3は、いずれも本件化合物Iをその構成要件の一つとする発明であるので、上記と同様の理由により、いずれも先願イの当初明細書に記載された発明と同一ではない。
(二)本件発明4及び本件発明5ないし16について
本件発明4は、本件の特許請求の範囲の請求項4の式I″で規定されるフルオロベンゼン誘導体((以下、「本件化合物I″」という。)の1種又は2種以上に加え、さらなる構成要素として4〜30種の特定の成分を含有し、しきい値電圧が、1.66V以下であることを特徴とする液晶媒体に係るものである。
ここで、本件化合物I″は、式I″の定義からみて、上記先願イのトリフルオロベンゼン誘導体をも含むものであり、さらに、先願イの当初明細書には、「本発明によるこれらの液晶組成物は、式Iで示される化合物の少なくとも一種を包含する2〜25種、好ましくは3〜15種の成分からなる。その他の構成成分はネマチック物質、特に・・・フェニルまたはシクロヘキシルシクロヘキサンカルボキシレート化合物、フェニルシクロヘキサン化合物・・・の群に属する既知物質から選択するのが好ましい。」(摘示事項さ)が記載されており、しかも、「構成成分として適当である最も重要な化合物」として、本件発明4でさらなる構成要素として選択される特定の成分を包含する化合物(先願イの当初明細書で式I′で示される化合物)(摘示事項し)も記載されている。
しかしながら、先願イの当初明細書には、その液晶組成物(液晶媒体)のしきい値電圧が、1.66V以下であることの明示の記載はないうえ、応用例として具体的に記載されている、本件発明4での式I″で示されるフルオロベンゼン誘導体に該当する化合物を配合した液晶組成物(液晶媒体)のしきい値電圧は、1.94V(応用例1)、2.32V(応用例2)、2.12V(応用例3)、2.38V(応用例4)であって(摘示事項す)、いずれも1.66Vより高い値のものであることからみて、先願イの当初明細書には、しきい値電圧が、1.66V以下の液晶媒体の発明が記載されているとは認められないので、本件発明4は、先願イの当初明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明5ないし16は、本件発明4をさらに限定した液晶媒体に係る発明であるので、上記と同様の理由により、いずれも先願イの当初明細書に記載された発明と同一ではない。
(三)本件発明17、18について
本件発明17、18は、本件発明3ないし16のいずれかに記載の液晶媒体を含有する液晶表示素子及び電気光学表示素子に係るものであるので、上記(一)、(二)で示したのと同様の理由により、本件発明17、18は、いずれも先願イの当初明細書に記載された発明と同一ではない。
以上のとおりであるから、上記3.(2)での取消理由(d)は、妥当なものではない。

(2)特許法第29条第1項の規定違反について
(i)国際公開第88/08441号パンフレット(甲第2号証)、
特表昭62-502264号公報(甲第3号証)、
特開昭60-226872号公報(甲第4号証)、
及び特開昭61-197563号公報(甲第5号証)について
甲第2号証〜甲第5号証に記載されている化合物は、それぞれの化合物の一般式の定義からみて、いずれも本件化合物Iを包含しうるものである(摘示事項う〜か)が、甲第2号証〜甲第5号証のいずれにも、具体的に上記「-Phe-F.Q-Y.F」を有する本件化合物Iは全く記載されていないうえ、本件化合物Iが記載されているに等しいとする事項の記載もないので、本件発明1は、該甲第2号証〜甲第5号証のいずれにも記載された発明とはいえない。
また、本件発明2、3は、いずれも本件化合物Iをその構成要件の一つとする発明であるので、両発明はいずれも、上記と同様の理由により、甲第2号証〜甲第5号証のいずれにも記載された発明とはいえない。
したがって、上記3.(1)での特許異議申立ての理由(b)は、妥当なものではない。

(3)特許法第39条第1項の規定違反について
(i)特願平2-511206号(先願ロ)、
及び特願平2-502953号(先願ハ)について
先願ロには、その定義からみて、本件化合物I及び本件化合物I″を包含しうるフェニルシクロヘキサン化合物が記載されており、末端のフェニル基の3,5位がフルオロ基(F基)で置換された部分構造を有するものも記載されている(摘示事項せ)が、具体的に上記「-Phe-F.Q-Y.F」を有する本件化合物I又は本件化合物I″は全く記載されていないうえ、具体的物性値等を伴わない化合物の例示においてさえ、末端のフェニル基が3置換された化合物は、末端のフェニル基の3,5位がF基で、4位がCN基で置換された部分構造を有するもののみであることからみて、先願ロには、本件化合物I又は本件化合物I″が記載されているとは認められない。
また、先願ハには、その定義からみて、本件化合物I及び本件化合物I″を包含しうるビフェニルエタン類が記載されている(摘示事項そ)が、具体的に上記「-Phe-F.Q-Y.F」を有する本件化合物I又は本件化合物I″は全く記載されていないうえ、具体的物性値等を伴わない化合物の例示においてさえ、末端のフェニル基が3置換された化合物は、末端のフェニル基の3,5位がF基で、4位がCN基で置換された部分構造を有するもののみであることからみて、先願ハにも、本件化合物I又は本件化合物I″が記載されているとは認められない。
したがって、本件化合物I又は本件化合物I″をその構成要件の一つとする、本件発明(本件発明1ないし18)は、上記先願ロ、ハのいずれにも記載された発明とはいえず、先願ロ、ハに係る発明と同一の発明ではない。
よって、上記3.(2)での取消理由(e)は、妥当なものではない。

(4)特許法第29条第2項の規定違反について
甲第2号証〜甲第5号証に記載されている化合物、及び取消理由で引用した国際公開第89/02884号パンフレット(引用文献(ニ))に記載されている化合物は、それぞれの化合物の一般式の定義からみて、いずれも本件化合物I及び本件化合物I″を包含しうるものである(摘示事項う〜か、た)が、甲第2号証〜甲第5号証及び引用文献(ニ)のいずれにも、上記「-Phe-F.Q-Y.F」を有する本件化合物I又は本件化合物I″は記載されておらず、それらの具体的製造例、物性等の記載も全くない。また、それらの化合物が記載されているに等しいとできるものとも認められない。
したがって、広範な一般式に包含される化合物のうち、特に、本件化合物I又は本件化合物I″を選択し製造することは、甲第2号証〜甲第5号証及び引用文献(ニ)それぞれの記載から当業者が容易に導きだせることとは認められないばかりか、該甲第2号証〜甲第5号証及び引用文献(ニ)を総合勘案しても当業者が容易に想到しうるものではない。
そして、本件発明(本件発明1ないし18)は、本件化合物I又は本件化合物I″をその構成要件の一つとすることにより、液晶媒体の成分として適し、特に比較的小さい粘度及び比較的大きい誘電異方性値を同時に有する安定な化合物や有用な液晶媒体、液晶表示素子、電気光学表示素子を提供するという、甲第2号証〜甲第5号証及び引用文献(ニ)から予測しえない本件特許明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第2号証〜甲第5号証、及び引用文献(ニ)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明しえたものではない。
よって、上記3.(1)での特許異議申立ての理由(c)及び3.(2)での取消理由(f)は、妥当なものではない。

(5)特許法第36条第3項、第4項及び5項の規定違反について
訂正審判における訂正及び取消理由に対する意見書の内容からみて、上記取消理由(g)の特許法第36条第3〜5項に係る違反は解消したと認められる。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立ての理由および提出した証拠方法によっては、本件発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-02-04 
出願番号 特願平2-512012
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C07C)
P 1 651・ 531- Y (C07C)
P 1 651・ 161- Y (C07C)
P 1 651・ 534- Y (C07C)
P 1 651・ 121- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 修  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 後藤 圭次
岩瀬 眞紀子
登録日 1999-07-09 
登録番号 特許第2951400号(P2951400)
権利者 メルク・パテント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
発明の名称 フルオロベンゼン誘導体および液晶相  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 葛和 清司  
代理人 高橋 詔男  
代理人 川上 宣男  

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