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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E03B
管理番号 1116739
審判番号 無効2003-35400  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-09-24 
確定日 2005-04-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3198479号発明「地下貯水槽等に用いる充填部材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3198479号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1-1)本件特許第3198479号の訂正前の請求項1ないし7に係る発明は、平成8年12月28日に出願され、平成13年6月15日にその発明についての特許の設定登録がされたものである。
(1-2)これに対して、請求人は、「訂正前の本件の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載されたものであり、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。また、訂正前の本件の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明についての特許は無効とすべきである。」旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。
(1-3)被請求人は、平成15年12月15日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち、下記のとおりに訂正することを求めるものである。
訂正事項1:
特許請求の範囲の【請求項1】を「上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と、この支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材を、上下に積み重ねて配列するようにしてなる地下貯水槽等に用いる充填部材。」と訂正する。
訂正事項2:
特許請求の範囲の【請求項2】を削除し、以下、項数を順次繰り上げるとともに、もとの【請求項3】の「請求項2」の記載を「請求項1」と、もとの【請求項4】の「請求項1、請求項2、請求項3」の記載を「請求項1、請求項2」と、もとの【請求項5】の「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4」の記載を「請求項1、請求項2、請求項3」と、もとの【請求項6】の「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4」の記載を「請求項1、請求項2、請求項3」と、もとの【請求項7】の「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6」の記載を「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5」と、それぞれ訂正する。
訂正事項3:
明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0008】を「請求項1に係る発明の地下貯水槽等に用いる充填部材は、上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と、この支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材を、上下に積み重ねて配列するようにしてなるものである。」と訂正する。
訂正事項4:
明細書の発明の詳細な説明の欄の段落番号【0012】の「請求項2に係る発明の地下貯水槽等に用いる充填部材は、請求項1に記載したものにおいて、上記連結要素が、多数の上記嵌合部を一体に連結している連結部を有するというものである。このような充填部材は、」の記載を、「連続要素が、多数の上記嵌合部を一体に連結している連結部を有する充填部材は、」と訂正する。
訂正事項5:
同欄の段落番号【0013】中の「請求項3」の記載を「請求項2」と訂正する。
訂正事項6:
同欄の段落番号【0014】中の「請求項4」の記載を「請求項3」と、「請求項1、請求項2、請求項3」の記載を「請求項1、請求項2」と、それぞれ訂正する。
訂正事項7:
同欄の段落番号【0016】中の「請求項5」の記載を「請求項4」と、「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4」(2箇所)の記載を「請求項1、請求項2、請求項3」と、「請求項6」の記載を「請求項5」と、それぞれ訂正する。
訂正事項8:
同欄の段落番号【0017】中の「請求項7」の記載を「請求項6」と、「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6」の記載を「請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5」と、それぞれ訂正する。

2.訂正の可否に対する判断
上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項2は、訂正事項1の訂正にともない、特許請求の範囲自体の整合を図る明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項3ないし8は、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図る明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これら訂正事項は、段落番号0009及び段落番号0020に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
なお、請求人は、訂正された請求項1の「連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填材」には、本件特許明細書に記載された構成以外に2とおりの構成が考えられる(弁駁書3頁16ないし25行)ことを根拠に、訂正が認められないと主張しているが、訂正された請求項1は、その文脈から、連結要素の嵌合部が、縦横に格子状に配列され、この連結要素の嵌合部が、連結部によって相互に連結されてなると読むべきものであり、請求人主張のように解釈する余地はない。
したがって、これら訂正事項は、特許法第134条第2項に掲げる目的に適合し、同法第134条第5項において準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。

3.本件発明
本件の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)は、上記訂正が認められることから、訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と、この支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材を、上下に積み重ねて配列するようにしてなる地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項2】
上記連結部が通孔を有する踏板部を一体に備える請求項1に記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項3】
上記嵌合部のそれぞれに上向き嵌合部と下向き嵌合部とが同心状に備わっている請求項1、請求項2のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項4】
上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に外嵌合可能な筒状のソケットでなる請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項5】
上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に内嵌合可能な凸部でなる請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項6】
上記支柱要素および上記連結要素のそれぞれが合成樹脂成形体である請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。

4.甲第1号証及び甲第8号証
甲第1号証(特開平8-302692号公報)には、
「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、基礎コンクリートの埋め戻しに使用される埋め戻し用台に関するものである。」、
「【0007】・・・その主たる目的は、材料費が安くて単価を低減することができる埋め戻し用台を提供することにある。【0008】この発明のその他の目的は、平面積及び高さの異なったものを多種類用意する必要がなく、埋め戻し広さ及び埋め戻し深さの変化に容易に対応することができる埋め戻し用台を提供することにある。【0009】・・・ この発明のその他の目的は、降雨時等に埋め戻し箇所に水が浸入しても浮き上がるおそれがなく、上面に敷設した土が流れ落ちるのを防止することができる埋め戻し用台を提供することにある。【0010】この発明のその他の目的は、分解状態で嵩張ることなく簡単に運搬・保管することができる埋め戻し用台を提供することにある。」
「【0014】・・・降雨時等に埋め戻し箇所に水が滲み出してきても、その水が埋め戻し用台の支柱間に入り込むため、埋め戻し用台が浮き上がるおそれはない。従って、埋め戻し用台の浮き上がりにより、上面に敷設した土が流れ落ちるのを防止することができる。」、
「【0017】請求項4に記載の埋め戻し用台においては、各支柱が相互に連結可能な部材により構成されている。従って、長さの異なった支柱を複数種用意する必要がなく、相互に連結可能な部材の連結個数を変更することにより、埋め戻し深さの変化に容易に対応することができる。」、
「【0019】【実施例】以下、この発明の第1実施例を、図1〜図9に基づいて詳細に説明する。図1及び図2に示すように、この実施例の埋め戻し用台21は、天板22と、その天板22の裏面に着脱可能に取り付けられる4本の支柱23と、その支柱23の下端に着脱可能に取り付けられる底板24とから構成されている。天板22及び底板24は共通部品として、再生プラスチック等により四角板状に形成され、その裏面の四隅部には接続筒部25が一体に突設されるとともに、裏面の周縁及び中央には補強リブ26が一体形成されている。各支柱23は再生プラスチック等により円筒状に形成されている。【0020】また、前記天板22及び底板24としては、・・・図6に示すように、各辺の長さを2倍にした平面正方形状のもの22C,24Cとが用意されている。」、
「【0022】・・・この埋め戻し用台21を使用して、基礎コンクリートの埋め戻しを行う場合には、図3に示すように、多数の埋め戻し用台21を基礎コンクリート28の周辺に配置する。その後、埋め戻し用台21の上面にビニールシート29を被覆し、そのシート29の上面に土30を薄く敷設する。」、
「【0029】・・・図10及び図11に示す第2実施例においては、各支柱23が相互に連結可能なパイプ部材34により構成されている。各パイプ部材34の上端には天板22の接続筒部25の内側に嵌合可能な小径部35が形成され、下端にはパイプ部材34の小径部35または底板24の接続筒部25の外側に嵌合可能な大径部36が形成されている。【0030】また、この実施例においては、各支柱23間に間隔を保持するための間隔保持部材37が取り付けられている。この間隔保持部材37は、再生プラスチック等よりなる2個の連結材38を平面十字状に組み付けて構成され、各連結材38の両端には支柱23に嵌合可能な筒部39が形成されるとともに、中央には組み付け用の溝部40が形成されている。」、
「【0035】なお、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
(1)天板22、支柱23及び底板24の形状を適宜に変更すること。
(2)天板22及び底板24に対する支柱23の接続構成を適宜に変更すること。」と記載されている。
また、【図6】には、第1実施例として、天板22C及び底板24Cには、隅部だけでなく中央部に接続筒部25が設けられていることが記載されている。
そして、【図10】には、第2実施例として、底板24の接続筒部25が、支柱23の下端側大径部36に内嵌合可能な凸部でなることが記載されている。
したがって、甲第1号証には、第1実施例として、「上端と下端を備えた棒材でなる複数本の支柱23と、この支柱23の上端または下端にそれぞれ嵌合されて結合される接続筒部25が配列されてなる天板22及び底板24とからなり、基礎コンクリートの周辺に配置する埋め戻し用台21であって、天板22及び底板24の隅部及び中央部に設けた接続筒部25が、支柱23の上端及び下端に外嵌合可能な筒状であり、支柱、天板及び底板が再生プラスチックからなる」発明が記載されていると認められる。
また、第2実施例(図10)として、各支柱23が相互に連結可能な部材により構成されたこと、及び、底板24の接続筒部25が、支柱23の下端部側大径部36に内嵌合可能な凸部でなることが、第5実施例(図14)として、天板22及び底板24に透孔43を設けたことが、それぞれ、記載されていると認められる。

甲第8号証(特開昭63-293233号公報)には、
「1.地面を掘下げてタンク部を構成し、上記タンク部内に、その底部からグランドライン付近まで、複数の区画に仕切った区画枠体を縦横かつ上下に連接して充填し、最上部には、被覆手段を施したことを特徴とする雨水等の貯留浸透タンク。・・・」(特許請求の範囲)、
「本発明は、住宅地その他に於いて必要とされる雨水等の自然水の貯留浸透タンクに関するものである。」(1頁左下欄下から6ないし4行)、
「・・・格子状枠体4、4・・・は、特に第2図に示したように、格子を板状部材で構成し、六個の平面正方形の区画5、5・・・を構成する。この格子状枠体4、4・・・は、プラスチックにより全体を一体に成型する。」(3頁右上欄5ないし9行)と記載されている。

5.対比・判断
(5-1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証の第1実施例として記載された発明(以下、単に、「甲第1号証記載の発明という。)とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「支柱23」、「支柱23の上端及び下端」、「接続筒部25」、「天板22及び天板24」、「天板22及び底板24の接続筒部25以外の部分」、「埋め戻し用台21」は、本件発明の「支柱要素」、「嵌合連結部」、「嵌合部」、「連結要素」、「連結部」、「充填部材」に相当し、また、本件特許明細書の【0023】に記載されているように図4や図5に示された一方のみに嵌合部21Aを有するものも連結要素と呼称していること、甲第1号証記載の発明の充填部材(甲第1号証の埋め戻し用台21が相当。以下、括弧内は同様。)は、支柱要素(支柱23)と連結要素(天板22及び底板24)とからなることから、両者は、「上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と、この支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材。」である点で一致し、以下の相違点を有する。
(相違点1)
本件発明1は、支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される、連結要素の嵌合部が、縦横に格子状に配列され、上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材であるのに対し、甲第1号証記載の発明にはこのような構成が記載されていない点。
(相違点2)
本件発明1の充填部材が地下貯水槽等に用いるのに対して、甲第1号証記載の充填部材は基礎コンクリートの周辺に配置する点。

上記相違点1を検討すると、甲第1号証の第2実施例は、支柱要素が相互に連結可能であることからみて、充填部材を上下に積み重ねて配列するようにしてなる充填部材が記載されているということができ、また、一般に、支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて、支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される、連結要素の嵌合部が、配列されるものは、周知である(例えば、実願昭62-198527号(実開平1-103329号)のマイクロフィルム、実願昭61-108951号(実開昭63-15827号)のマイクロフィルム参照)。
また、甲第1号証には、充填材において、連結要素(22C、24C。図6参照。)の嵌合部(接続筒部25)が隅部だけでなく中央部にも設けたものが記載されており、甲第8号証には、充填材(甲第8号証の格子状枠体4が相当。以下同様。)において支持要素(格子状枠体4の板状部材。第2図参照)を格子状に設けることが記載されている。
したがって、甲第1号証記載の発明において相違点1の本願発明1に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
被請求人は、本件発明1の「複数本の支柱要素と、支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が配列されてなる複数の連結要素とからなる充填部材を、上下に積み重ねて配列するようにしてなる点」(特定構成要件A)により、連結要素を介して上下に積み重ねられた充填部材が一体化し、水平方向のずれの発生を防止する作用効果を奏する旨の主張をする。しかし、既述のように、充填部材を上下に積み重ねることは甲第1号証の第2実施例に記載されているし、支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて、支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される、連結要素の嵌合部が、配列されるものは、上記のとおり、周知であるから、この作用効果はこれらの構成から当業者が予測できる範囲内のものである。
また、被請求人は、本件発明1の「(支柱要素の)嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素」(特定構成要件B)により、多数の嵌合部と連結部とを合成樹脂で一体に射出成形することが可能となる(本件明細書の段落番号0012参照)だけでなく、嵌合部の相互の位置関係が変動せず、また、格子状に配列された嵌合部に嵌合される複数本(少なくとも、縦横に3本ずつ)の支柱要素によって上載荷重に対して大きな対抗力を発揮する作用効果を奏する旨の主張をする。しかし、既述のように、甲第1号証には充填材において連結要素の嵌合部が隅部だけでなく中央部にも設けたものが、また、甲第8号証には充填材において支持要素を格子状に設けることが記載されていることから、この作用効果はこれらの構成から当業者が予測できる範囲内のものである。

上記相違点2を検討すると、本件発明1の充填部材は地下貯水槽等に用いるもので、「等」と記載されている以上、用途は、地下貯水槽に限定されないから、甲第1号証記載の発明において相違点2の本願発明1に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
なお、被請求人は、甲第1号証の「降雨時等に埋め戻し箇所に水が滲み出してきても、その水が埋め戻し用台の支柱間に入り込む」との記載は本件発明1の使用目的を示唆するものではない(答弁書12頁16ないし24行)と主張するが、甲第1号証記載の充填部材も、本件発明1と同様に地下に水溜め空間を設けたことでは共通するから、被請求人の主張は理由がない。

(5-2)本件発明2について
本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記(5-1)に述べた一致点及び相違点の他に、次の相違点を有する。
(相違点)
本件発明が、連結要素の連結部が通孔を有する踏板部を一体に備えるようにしたのに対し、甲第1号証記載の発明がこのような構成を有しない点。
しかしながら、連結要素の連結部が通孔を有する踏板部を一体に備えるようにしたものは、甲第1号証の第5実施例(図14)に記載されているから、甲第1号証記載の発明において相違点の本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(5-3)本件発明3について
本件発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、上記(5-1)及び(5-2)に述べた一致点及び相違点の他に、次の相違点を有する。
(相違点)
本件発明3が、連結要素の嵌合部のそれぞれに上向き嵌合部と下向き嵌合部とが同心状に備わっているのに対し、甲第1号証記載の発明は嵌合部が上向き嵌合部(または下向き嵌合部)である点。
しかしながら、一般に、支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて、連結要素の嵌合部のそれぞれに上向き嵌合部と下向き嵌合部とが同心状に備わっているものは、周知である(例えば、既述の実願昭62-198527号(実開平1-103329号)のマイクロフィルム、実願昭61ー108951号(実開昭63-15827号)のマイクロフィルム参照)から、甲第1号証記載の発明において上記相違点の本件発明3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(5-4)本件発明4について
本件発明4と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、連結要素の嵌合部が、支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に外嵌合可能な筒状のソケットでなる点で一致するとともに、上記(5-1)ないし(5-3)に述べた一致点及び相違点を有するが、相違点については既述のとおりであるから、本件発明4は当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5-5)本件発明5について
本件発明5と甲第1号証記載の発明とを対比すると、上記(5-1)ないし(5-3)に述べた一致点及び相違点の他に、次の相違点を有する。
(相違点)
本件発明5の連結要素の嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に内嵌合可能な凸部でなるのに対し、甲第1号証記載の発明は、連結要素の嵌合部が、支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に外嵌合可能な筒状のソケットでなる点。
しかしながら、甲第1号証の第2実施例(図10)には、連結要素(底板24)の嵌合部(接続筒部25)が、支柱要素(パイプ部材34)の下端部側の嵌合部(大径部36)に内嵌合可能な凸部でなることが記載されており、また、一般に、支柱要素と連結要素とからなる物品を上下に積み重ねて配列するものにおいて、連結要素の嵌合部が、支柱要素の嵌合連結部に内嵌合可能な凸部でなることは周知である(例えば、実願昭56-18856号(実開昭57-131133号)のマイクロフィルム)から、甲第1号証記載の発明において、上記相違点の本願発明5の構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(5-6)本件発明6について
本件発明6と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、支柱要素および連結要素のそれぞれが合成樹脂成形体(プラスチック)である点で一致するとともに、上記(5-1)ないし(5-5)に述べた一致点及び相違点を有するが、相違点については既述のとおりであるから、本件発明6は当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、その出願前に頒布された甲第1号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反したなされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
地下貯水槽等に用いる充填部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と、この支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材を、上下に積み重ねて配列するようにしてなる地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項2】
上記連結部が通孔を有する踏板部を一体に備える請求項1に記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項3】
上記嵌合部のそれぞれに上向き嵌合部と下向き嵌合部とが同心状に備わっている請求項1、請求項2のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項4】
上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に外嵌合可能な筒状のソケットでなる請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項5】
上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に内嵌合可能な凸部でなる請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【請求項6】
上記支柱要素および上記連結要素のそれぞれが合成樹脂成形体である請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5のいずれかに記載した地下貯水槽等に用いる充填部材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、地下貯水槽や地下貯留浸透槽等に設けられる水溜め空間に並べて配備して使用されたり、その水溜め空間内で垂直に延ばして背高状態にして用いられる充填部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
特公平4-26648号公報に、雨水等の貯留浸透施設についての記載があり、この公報に、タンク部内に容器状部材を縦横かつ上下に積み上げることについての記載がある。この容器状部材は、多数の孔を有する底部及び周側壁で構成されており、文字通り、物を入れるバケツ、器、箱といったような容器の形状を有している。このような容器状部材を重ね合わせてタンク内の充填材とする場合、上載荷重に対して大きな強度を示すのは、周側壁が垂直になっている場合である。しかしながら、周側壁が垂直になっている容器状部材は、運搬時や保管時に重ね合わせたとき嵩張って全体の容積が小さくならず、輸送効率や保管効率がきわめて悪く、物流費が高くなるという課題があった。
【0003】
また、上記公報に記載のように、底壁に対して周側壁を鈍角に立ち上げてある場合、すなわち、周側壁を上拡がりに傾斜させた場合、図12のように同一方向で重ねれば1つの容器状部材100に他の容器状部材200の底壁210が入り込み、他の容器状部材200の底壁210が容器状部材100の周側壁120の内面に接する形で重なる。このようにして、複数の容器状部材100,200,300を重ねれば、それらの容器状部材を全体としてコンパクトに梱包でき、持ち運びや保管にきわめて便利である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような容器状部材には、大きな問題があった。すなわち、多数の通水口が開設された多角形の周側壁と底壁とを有する容器状部材は周側壁が傾斜しているため、これらの容器状部材を積み上げたときに大きな上載荷重が加わると周側壁が座屈を生じやすく、仮に周側壁の一部に座屈が生じるとその影響が他の部分にも及んで座屈範囲が短期間で簡単に広がってしまう。このような状況は、周側壁の厚さを厚くすることによって多少は改善されるけれども、本質的な解決策とはなり得ない。
【0005】
本発明は以上の問題に鑑みてなされたものであり、上載荷重に対する大きな対抗力を発揮するものであるにもかかわらず、嵩張らないコンパクトな形に梱包して搬送したり保管したりすることのできる地下貯水槽等に用いる充填部材を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、要求される上載荷重に応じてその耐荷重性を変えることの容易な地下貯水槽等に用いる充填部材を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、施工に際して役立つ足場の踏板としての機能や、当該充填部材をシートで上から覆うときにそのシートを下からバックアップする機能などを備えた地下貯水槽等に用いる充填部材を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明の地下貯水槽等に用いる充填部材は、上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部を備えた棒材でなる複数本の支柱要素と、この支柱要素の上端部側の嵌合連結部および下端部側の嵌合連結部にそれぞれ嵌合されてその嵌合連結部に結合される嵌合部が縦横に格子状に配列され、連結部によって相互に連結されてなる複数の連結要素とからなる充填部材を、上下に積み重ねて配列するようにしてなるものである。
【0009】
この充填部材において、連結要素の嵌合部はたとえば格子状に縦横に配列される。複数の嵌合部がこのように配列された連結要素を備える当該充填部材において、所定本数の支柱要素が用意され、それらの支柱要素のそれぞれの下端部側の嵌合連結部が連結要素の複数の嵌合部にそれぞれ各別に嵌合して連結されると共に、それらの支柱要素のそれぞれの上端部側の嵌合連結部が別の連結要素の複数の嵌合部にそれぞれ各別に嵌合して連結され、これによって立体的に枠組みされた充填部材が組み立てられる。こうして組み立てられた複数の充填部材が、たとえば縦横に並べて配列される。また、上記のようにして組み立てられた充填部材は上下複数段に段積みして用いることも可能である。
【0010】
組み立てられた個々の充填部材は立体的な枠組みを構成している。そのため、その上下の連結要素の相互間や支柱要素の相互間に空間が確保され、その空間が水溜め空間として役立ち、しかも、個々の充填部材を縦横に並べたり上下複数段に段積みしたりした場合には、個々の充填部材の水溜め空間が相互に連通してより大きな水溜め空間を形成する。
【0011】
立体的な枠組みとして組み立てられた充填部材は、それに用いられている複数本の支柱要素を垂直に配備することによって、それらの支柱要素が上載荷重に対して大きな対抗力を発揮する。また、充填部材を組み立てる前の支柱要素や連結要素は別々に取り扱うことができるので、コンパクトな形に梱包して搬送したり保管したりすることができる。また、支柱要素の長さや積み重ね段数を増減することによってその全体高さが増減調節され、1つの連結要素に結合される支柱要素の本数を増減することによって、上載荷重に対する対抗力が調節される。
【0012】
連結要素が、多数の上記嵌合部を一体に連結している連結部を有する充填部材は、多数の嵌合部と連結部とを合成樹脂で一体に射出成形することが可能である。また、上記連結部は、隣接する嵌合部同士を連結するリブとして形成されていても、隣接する嵌合部同士を連結する平板として形成されていてもよい。
【0013】
請求項2に係る発明のように、上記連結部が通孔を有する踏板部を一体に備えることが望ましく、そのようにしておくと、当該充填部材の施工時に、作業者がその踏板部を歩行することができる利便がある。踏板部の通孔は、水の通路として役立つ。通孔を有する踏板部は、格子状のリブや多数の平行なリブなどによって形成することが可能である。
【0014】
請求項3に係る発明の地下貯水槽等に用いる充填部材は、請求項1、請求項2のいずれかに記載したものにおいて、上記嵌合部のそれぞれに上向き嵌合部と下向き嵌合部とが同心状に備わっているというものである。
【0015】
この発明の充填部材によると、連結要素の上向き嵌合部に支柱要素の下端部側の嵌合連結部を嵌合して連結することができ、連結要素の下向き嵌合部に支柱要素の上端部側の嵌合連結部を嵌合して連結することができる。そのため、連結要素を挾んでその上側と下側とにそれぞれ支柱要素を配備することができるようになるので、充填部材を垂直に延ばして背高状態にすることが可能である。
【0016】
請求項4に係る発明の地下貯水槽等に用いる充填部材は、請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載したものにおいて、上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に外嵌合可能な筒状のソケットでなるというものであり、請求項5に係る発明の地下貯水槽等に用いる充填部材は、請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載したものにおいて、上記嵌合部が、上記支柱要素の上端部側の嵌合連結部または下端部側の嵌合連結部に内嵌合可能な凸部でなるというものである。このように、連結要素の嵌合部は様々な形状に形成することができる。
【0017】
請求項6に係る発明の地下貯水槽等に用いる積上げ部材は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5のいずれかに記載したものにおいて、上記支柱要素および上記連結要素のそれぞれが合成樹脂成形体であるというものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1は立体的な枠組みとして組み立てられた本発明の実施の一形態である充填部材Aの一部を概略的に示した斜視図、図2は連結要素20の平面図、図3は図2の連結要素20の一部破断側面図、図4は変形例による連結要素20Aの平面図、図5は図4の連結要素20Aの一部破断側面図、図6は図1の要部を拡大して示した一部省略縦断面図である。
【0019】
この充填部材Aは支柱要素10と連結要素20とからなる。支柱要素10は、その上端部と下端部とにそれぞれ嵌合連結部11,12を備えた棒材でなり、たとえば塩化ビニル樹脂(PVC)で成形された所定長さの所謂PVC管を好適に用い得る。PVC管を支柱要素10として用いる場合、その上端部と下端部とに特別な構造の継手構造を具備させなくても、それらの上端部や下端部がそれぞれ上記嵌合連結部11,12として役立つ。支柱要素10には、PVC管(たとえば市販のVU管、VP管など)の他に、たとえばポリエチレン管やポリプロピレン管などの各種の合成樹脂で成形された管を用いることができ、これらの合成樹脂管は耐水性や耐薬品性、耐久性に富む点で、水に浸かったままになる可能性があり、しかも比較的大きな上載荷重を受ける本発明の充填部材10の構成部材として有益である。支柱要素10を合成樹脂製とする場合、その合成樹脂には無発泡合成樹脂を用いることも、発泡合成樹脂を用いることも可能であり、発泡合成樹脂成形体でなる支柱要素10は、無発泡合成樹脂成形体でなる支柱要素10よりも軽量になって運搬性が向上するという利点がある。さらに、支柱要素10として、合成樹脂廃材を再利用した合成樹脂成形体を用いると、合成樹脂廃材の処分策として有益になるのみならず、価格が安くつくという利点もある。なお、この支柱要素10には、パイプ材のような中空棒材に限らず、中実棒材を用いることも可能である。
【0020】
連結要素20は、複数の嵌合部21を放射方向に延び出たリブ群でなる連結部25によって相互に一体に連結してなる。図2に示した連結要素20において、嵌合部21は9箇所に設けられており、しかもそれらの嵌合部21…が縦横に3つずつ格子状に配列されている。そして、隣接する嵌合部21…同士がリブとして形成された連結部25によって一体に連結されている。
【0021】
図3に示したように、上記連結要素20の個々の嵌合部21は筒状のソケットとして形成されており、しかも、その嵌合部21に、上向き嵌合部22と下向き嵌合部23とが同心状に備わっている。そして、嵌合部21の上向き嵌合部22が、上記した支柱要素10の下端部側の嵌合連結部12に外嵌合可能であり、両者が嵌合することによって上向き嵌合部22と支柱要素10とが容易に抜けないように結合されるようになっている。同様に、嵌合部21の下向き嵌合部23が、上記した支柱要素10の上端部側の嵌合連結部11に外嵌合可能であり、両者が嵌合することによって下向き嵌合部23と支柱要素10とが容易に抜けないように結合されるようになっている。
【0022】
上記連結要素20にはたとえばPVCによる射出成形体を好適に用い得る。連結要素20を成形するための合成樹脂としては、PVCの他にポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂を好適に用いることができ、これらの合成樹脂はPVCと共に、耐水性や耐薬品性、耐久性に富む点で、水に浸かったままになる可能性のある本発明の充填部材10の構成部材として有益である。連結要素20を合成樹脂製とする場合、その合成樹脂には無発泡合成樹脂を用いることも、発泡合成樹脂を用いることも可能であり、発泡合成樹脂成形体でなる連結要素20は、無発泡合成樹脂成形体でなる連結要素20よりも軽量になって運搬性が向上するという利点がある。さらに、連結要素10として、合成樹脂廃材を再利用した合成樹脂成形体を用いると、合成樹脂廃材の処分策として有益になるのみならず、価格が安くつくという利点もある。また、図2の連結要素20は、その連結部25をリブで形成してあるけれども、この連結部25を平板状に形成することも可能であり、その場合には平板状の連結部の所定箇所に開口を開設して連結要素20の軽量化を図ると共に、その開口が水通路として役立つようにしておくことが望ましい。
【0023】
図4や図5に示した変形例による連結要素20Aについても、図2や図3で説明した連結要素20と略同様の構成になっている。すなわち、この連結要素20Aは、複数の嵌合部21Aを放射方向に延び出たリブ群でなる連結部25Aによって相互に一体に連結してなるという点、嵌合部21は9箇所に設けられており、それらの嵌合部21…が縦横に3つずつ格子状に配列されているという点、隣接する嵌合部21…同士がリブとして形成された連結部25によって一体に連結されているという点で、図2や図3で説明した連結要素20と同様である。しかし、この連結要素20Aにおいては、図5に示したように、個々の嵌合部21Aに、上記した上向き嵌合部22や下向き嵌合部23が備わっていない。すなわち、この連結要素20Aの嵌合部21Aは筒状のソケットとして形成されているけれども、そのソケットが単一の挿口を有しているだけである。そして、この嵌合部21Aの軸方向の片面22Aは上記連結部25Aの片面と面一になっている。このような連結要素20Aは、好ましくは充填部材Aの最上部または最下部に配備される。
【0024】
図4や図5で説明した連結要素20Aにおいても、嵌合部21Aが支柱要素10の上端部側または下端部側の嵌合連結部11,12に外嵌合可能であり、両者が嵌合することによってその嵌合部21Aと支柱要素10とが容易に抜けないように結合される。
【0025】
なお、連結要素20Aの材料や成形法については、図2や図3で説明した連結要素20について説明した材料や成形法を同様に採用することができる。連結部25Aを平板状にすることができる点についても同様である。特に、図2や図3で説明した連結要素20を一対の合せ型を用いて射出成形することによって得る場合には、図4や図5で説明した連結要素20Aを、その合せ型の一方の型を平板状の型に置き換えるだけで成形できる利点がある。
【0026】
上記した支柱要素10と連結要素20,20Aとは立体的に枠組みされ、そのように枠組みしたものが充填部材Aとして用いられる。
【0027】
背高の充填部材Aを組み立てる場合には、たとえば所要本数の等長の支柱要素10と、1つまたは2つ以上の上記連結要素20と、一対の上記連結要素20Aとが用いられる。すなわち、図6に示したように、連結要素20の9箇所の嵌合部21のそれぞれに備わっている上向き嵌合部22に支柱要素10の下端部側の嵌合連結部12を嵌合して両者を結合し、連結要素20の9箇所の嵌合部21のそれぞれに備わっている下向き嵌合部23に支柱要素10の上端部側の嵌合連結部11を嵌合して両者を結合すると、同一の嵌合部21に連結された支柱要素10,10が同心配置される。そして、充填部材Aの最上部においては、図6に示したように、連結要素20Aの嵌合部21Aを下向きにして支柱要素10の上端部側の連結嵌合部11に嵌合して両者を結合する。また、図示していないが、充填部材Aの最下部においては、連結要素20Aの嵌合部21Aを上向きにして支柱要素10の下端部側の連結嵌合部12に嵌合して両者を結合する。
【0028】
充填部材Aの高さは、連結要素20を介して支柱要素10を積重ね状に連結することにより高くすることが可能であり、支柱要素10の積重ね段数が多いほど背高になる。また、最も背低の充填部材Aには、所要本数の支柱要素10の上端部側の嵌合連結部11に連結要素20Aの嵌合部21Aを嵌合し、それらの支柱要素10の下端部側の嵌合連結部12に別の連結要素20Aの嵌合部21Aを嵌合することによって組み立てたものが相当する。
【0029】
なお、支柱要素10の上端部側および下端部側の各嵌合連結部11,12と連結要素20,20Aの嵌合部21,21Aとの嵌合箇所を接着剤で接合して両者の結合を強固にしておいてもよく、そのようにしておくと、支柱要素10と連結要素20,20Aとが強固に一体化して強固な枠組みが形成される。
【0030】
この実施形態の充填部材Aは、図1、図2、図4に示したような正方形の連結要素20,20Aと所要本数の支柱要素10とを組み立てて立方体ないし直方体状の枠組みとしたものであるから、個々の充填部材Aを縦横に整然と並べやすい利点がある。また、その充填部材Aを上下に段積みする場合にも、その段積みを行いやすい利点がある。なお、図1には、連結要素20,20Aの連結部25,25Aを形成している一部のリブを省略して示してある。
【0031】
組み立てられた個々の充填部材Aは立体的な枠組みを構成しているので、その上下の連結要素20同士の相互間や、連結要素20と20Aとの相互間などには、複数本の支柱要素10…の相互間に空間が確保される。この空間は、水溜め空間として役立つものであって、個々の充填部材Aを縦横に並べたり上下複数段に段積みしたりした場合には、個々の充填部材Aの水溜め空間が相互に連通してより大きな水溜め空間を形成するようになる。
【0032】
図7は、連結要素20の嵌合部21に備わっている上向き嵌合部22と下向き嵌合部23とを中実円柱状の凸部によって形成した事例を示してある。このような嵌合部21において、その上向き嵌合部22は、同図のように支柱要素10の下端部側の嵌合連結部12に内嵌合可能であり、両者が嵌合することによってその上向き嵌合部22と支柱要素10とが容易に抜けないように結合される。同様に、その下向き嵌合部23は、同図のように支柱要素10の上端部側の嵌合連結部11に内嵌合可能であり、両者が嵌合することによってその下向き嵌合部23と支柱要素10とが容易に抜けないように結合される。この場合にも、嵌合部21とそれぞれの嵌合連結部11,12との嵌合箇所を接着剤で接合して両者の結合を強固にしておいてもよい。
【0033】
図8は連結要素20Bの他の変形例を示している。この連結要素20Bについても、図2や図3で説明した連結要素20と略同様の構成になっている。すなわち、この連結要素20Bは、複数の嵌合部21Bを放射方向に延び出たリブ群でなる連結部25Bによって相互に一体に連結してなるという点、嵌合部21Bは9箇所に設けられており、それらの嵌合部21B…が縦横に3つずつ格子状に配列されているという点、隣接する嵌合部21B…同士が上記連結部25Bによって一体に連結されているという点で、図2や図3で説明した連結要素20と同様である。しかし、この連結要素20Bにおいて、上記連結部25Bが、通孔28を有する踏板部29を一体に備えているという点で、図2や図3で説明した連結要素20と異なっている。図8の連結要素20Bにおいて、通孔28は水の通路として役立ち、また、踏板部29は、その通孔28の大きさが作業者の足が入らない大きさになっており、そのため、施工時に作業者がその上を歩行することに活用することができるので足場代わりになる。さらに、当該充填部材をシートで上から覆うときにそのシートを下からバックアップする作用を発揮する。このような通孔28を有する踏板部29は、当該連結要素20Bを射出成形するときに、連結部25Bや上記嵌合部21Bなどと一体に成形することが可能である。
【0034】
図9は連結要素20Bのさらに他の変形例を示しており、このものにおいては、連結部25Bに備わっている踏板部29が、多数の平行なリブによって形成されており、それらのリブの相互間に形成された隙間が通孔28に相当している。その他の点は、図8のものと同様である。
【0035】
図10は上記充填部材Aを、ゲートボール場などに利用される都市公園などに施工された地下貯水槽Bに用いた事例を概略断面で表した説明図である。
【0036】
図10に示した地下貯水槽Bにおいて、地面を掘り下げることによって地中に凹入状に形成された水溜め空間に、上記した充填部材Aが縦横に密に並べて配列されている。ここで用いられている充填部材Aは、図2や図3で説明した連結要素20を2つ用いて支柱要素10(不図示)を3段に積み重ね、その最上部と最下部とに図4や図5で説明した連結要素20Aを配置した背高のものである。縦横に並べられた多数の背高の充填部材Aは、側部の土圧に対抗させるため、また、できるだけ均等に側部からの圧力を受け得るように、その周囲が腰のある合成樹脂ネット3で包囲されて締め付けられている。この用途に用いる合成樹脂ネット3としては、たとえば、タキロン(株)製「ニューセルフォース」(商品名)であって、ポリエチレンやポリプロピレンなどの延伸された合成樹脂帯体の表面を酢酸ビニルなどでコーティングしたものを格子状に組んで交点を溶着したものを好適に用いることができる。また、縦横に並べられた多数の背高の充填部材Aと上記合成樹脂ネット3との外側および底面には、ゴムシートなどの透水性を持たないシート4が敷設されている。他方、縦横に並べられた多数の充填部材Aの上部には、透水シート51と、その上に敷き詰められた砕石群でなる透水層52と、その透水層52の上に敷き詰められた砂や砂利の層でなるクッション層53と、そのクッション層53の上に敷設された透水性表面層54とが施工されている。なお、6は水の汲上げ用通路である。
【0037】
図11は上記充填部材Aを歩道下などに設けられる雨水浸透槽Cに用いた事例を概略断面で表した説明図である。
【0038】
図11に示した雨水浸透槽Cにおいて、地面を掘り下げることによって歩道下に凹入状に形成された水溜め空間に、上記した充填部材Aが縦横に密に並べて配列されている。ここで用いられている充填部材Aは、図4や図5で説明した連結要素20Aを2つ用いて支柱要素10(不図示)を1段に配列した背低のものである。縦横に並べられた多数の背低の充填部材Aは、部分的に集中圧力を受けないように、その周囲が腰のある合成樹脂ネット3で包囲されて締め付けられている。この用途に用いる合成樹脂ネット3には上記したものと同じ材料を用いてある。充填部材Aの下側には木板71、砂層72、砕石層73などが配備されて貯水性が高められ、また、縦横に並べられた多数の背低の充填部材Aと上記合成樹脂ネット3との外側および底面には、ゴムシートなどの透水性を持たないシート4が敷設されている。他方、縦横に並べられた多数の充填部材Aの上部には、透水シート51と、その上に敷き詰められた砕石群でなる透水層52と、その透水層52の上に敷き詰められた砂や砂利の層でなるクッション層53と、そのクッション層53の上に敷設された透水性表面層54とが施工されている。なお、55は、車道56に設けられた泥溜ますであり、この泥溜ます55で泥土が分離された表面水(雨水など)が水溜め空間に流入するようになっている。
【0039】
図10や図11のように施工された充填部材Aにおいて、その支柱要素10には、比較的大きな上載荷重が加わるけれども、その支柱要素10を垂直に配備しておくことによって、それらの支柱要素10が上載荷重に対して大きな対抗力を発揮するようになる。そのため、充填部材Aの初期の立体的な形状が長期に亘って維持され、良好な水溜め作用が継続して発揮される。
【0040】
図10や図11のように地下貯水層Bや地下浸透槽Cを施工しておくと、透水性表面層54、クッション層53、透水層52などを通過した雨水に含まれる微細な固形物が透水シート51によって雨水から分離された後、その雨水が充填部材Aによって確保された水溜め空間に溜まる。したがって、その水溜め空間に溜まった水を消火用や散水用として利用することができるだけでなく、地下での貯水量が増えるので表面水が水溜まりを形成しにくくなる。
【0041】
なお、図10の地下貯水層Bや図11の地下浸透槽Cにおいて、最上部の連結要素として図8や図9で説明した踏板部29を備えたものを用いると、シート51に加わる荷重がその踏板部29により下から支えられるので、シート51が破断したりするおそれが少ない。
【0042】
上記充填部材Aは、それに用いる支柱要素10の長さや積み重ね段数を増減することによってその全体高さが増減調節される。また、連結要素20,20Aに結合される支柱要素10の本数を増減することによって、上載荷重に対する対抗力を調節することができる。なお、上記充填部材Aに用いる連結要素20,20Aは、その縦横の寸法を500〜1000mm、支柱要素10は、その長さを500〜1000mm、その外周直径を50〜200mm程度にすることが可能であり、このような寸法範囲のものは、図10や図11で説明した地下貯水槽Bや雨水浸透槽Cの充填部材Aとして有益である。連結要素20,20Aや支柱要素10の寸法は上記範囲に限定されるものでないことは勿論である。
【0043】
【発明の効果】
本発明に係る充填部材は、連結要素と支柱要素とを立体的に組み立てることによって形成されるものであり、その連結要素や支柱要素は軽量であり嵩張らないコンパクトな形で搬送することができるものであるから、地下貯水層の施工現場への搬入を容易かつ安価に行うことができる。しかも、連結要素や支柱要素を立体的に組み立てて形成された充填部材では、その支柱要素が垂直に配置されるので、上載荷重に対して大きな対抗力を発揮するようになるので、長期に亘って良好な水溜め作用を発揮する。また、連結要素の連結部に踏板部を具備させたものでは、その踏板部を足場として活用することのできる利便があるほか、その上にシートを配設した場合に、そのシートを下から支える機能を発揮する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
立体的な枠組みとして組み立てられた本発明の実施の一形態である充填部材の一部を概略的に示した斜視図である。
【図2】
連結要素の平面図である。
【図3】
図2の連結要素の一部破断側面図である。
【図4】
変形例による連結要素の平面図である。
【図5】
図4の連結要素の一部破断側面図である。
【図6】
図1の要部を拡大して示した一部省略縦断面図である。
【図7】
連結要素の嵌合部の変形例のその使用状態を示す一部破断側面図である。
【図8】
連結要素の他の変形例を示す平面図である。
【図9】
連結要素のさらに他の変形例を示す平面図である。
【図10】
充填部材の使用状態を概略断面で表した説明図である。
【図11】
充填部材の他の使用状態を概略断面で表した説明図である。
【図12】
従来の容器状部材を重ねた状態の説明図である。
【符号の説明】
A 充填部材
B 地下貯水槽
C 雨水浸透槽
10 支柱要素
11,12 嵌合連結部
20,20A 連結要素
21,21A 嵌合部
22 上向き嵌合部
23 下向き嵌合部
25,25A 連結部
28 通孔
29 踏板部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-04-09 
結審通知日 2004-04-12 
審決日 2004-04-23 
出願番号 特願平8-357555
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (E03B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 山田 忠夫
田中 弘満
登録日 2001-06-15 
登録番号 特許第3198479号(P3198479)
発明の名称 地下貯水槽等に用いる充填部材  
代理人 廣江 武典  
代理人 林 清明  
代理人 林 清明  
代理人 森 治  
代理人 森 治  

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