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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1117818
異議申立番号 異議2003-72090  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-14 
確定日 2005-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3379119号「インクジェット記録ヘッド及びその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3379119号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3379119号に係る発明についての出願は、平成4年12月3日に特許出願され、平成14年12月13日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、渡辺等よりその特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年3月15日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
1)訂正事項a
特許請求の範囲を次に訂正する。
「【請求項1】ノズル孔からインクを吐出するインクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、分子中にC-F結合を有する撥水撥油材料が溶解した溶液でインクジェット記録ヘッドのノズルプレートへ撥水撥油膜を塗布し、その後、前記撥水撥油膜を加熱し、約185nmの波長を含む紫外線を前記ノズルプレートの裏側から照射して、前記ノズルプレートの裏側および前記ノズル孔内部に形成された前記C-F結合を有する撥水撥油膜を除去することで前記ノズルプレート表面に前記撥水撥油膜を形成し、前記撥水撥油膜が形成された前記ノズルプレートを加熱することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。」
2)訂正事項b
明細書段落【0007】を次に訂正する。
「【課題を解決するための手段】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、分子中にC-F結合を有する撥水撥油材料が溶解した溶液でインクジェット記録ヘッドのノズルプレートへ撥水撥油膜を塗布し、その後、撥水撥油膜を加熱し、約185nmの波長を含む紫外線をノズルプレートの裏側から照射して、ノズルプレートの裏側およびノズル孔内部に形成されたC-F結合を有する撥水撥油膜を除去することでノズルプレート表面に前記撥水撥油膜を形成し、撥水撥油膜が形成されたノズルプレートを加熱することを特徴とする。」

(2)訂正の目的、新規事項の有無、拡張変更の存否の各要件についての判断
上記訂正事項aは、請求項1について、撥水撥油膜の材料、紫外線が含む波長、撥水撥油膜と紫外線との関係、及び加熱処理を含むこと、を願書に添付した明細書又は図面に記載した事項(特に明細書段落【0010】、【0011】、【0018】〜【0028】等参照。)の範囲内で限定すると共に、請求項2〜4を削除するものであり、訂正事項bは訂正された特許請求の範囲に発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.異議申立てについての判断
(1)異議申立ての概要
異議申立人渡辺等は、本件特許に係る発明は、特許法第29条第1項あるいは同第2項の規定により特許を受けることができず、その特許は拒絶をしなければならない出願に対してされたものである旨主張し、証拠として甲第1〜6号証を提出している。

(2)本件請求項1に係る発明
本件請求項1に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記訂正事項a参照。以下、「本件発明」という。)。

(3)甲第1〜6号証とその記載事項又は記載された発明
1)甲第1号証:特開平1-122444号公報
甲第1号証には、図面を含む全記載によれば、対比のためにまとめると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)の記載が認められる。
「ノズル孔11からインクを吐出するインクジェットプリンタに用いるインクジェットヘッドの製造方法において、疎水性のポジ型感光性樹脂12でインクジェットヘッドのノズル板10へ疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を塗布し、その後、前記ノズル板10の裏側から露光し、現像して、前記ノズル孔11を塞いでいる疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を除去することで前記ノズル板10表面に前記疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を形成することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。」
2)甲第2号証:特開平4-289181号公報
光透過性支持体フイルム及び感光性樹脂層等からなるフォトレジストフイルムを用いた画像形成において、感光性樹脂層を銅張積層板上に圧着し、光透過性支持体フイルム上にパターンマスクを密着し、活性光(通常は紫外線)を照射し(露光)、次いでアルカリ水溶液又は有機溶剤を噴霧又は浸漬してレジストパターンを形成し(現像)、更に露呈した銅箔部分に金属メッキを施した後、アルカリ水溶液又は有機溶剤で硬化レジスト部を剥離し(レジスト剥離)、最後に塩化鉄、塩化銅、過酸化水素/硫酸、アルカリ性アンモニア等の溶液で露呈している銅箔部分を除去(エッチング)する方法、又は逆パターンにて現像後にエッチング及びレジスト剥離する方法(段落【0003】等参照)等が記載されている。
3)甲第3号証:特開平1-195053号公報
インクジェットヘッドにおいて、ポジ型とネガ型の2種類の感光性ポリイミド樹脂をそれぞれ塗布又は枠組への流し込みにより50μmの厚さにし、高圧水銀灯を用いてそれぞれの露光パターンでUV露光して約830mJ/cm2のエネルギーを与え、ポジ型樹脂については光化学反応を、ネガ型樹脂については光重合をおこさせ、幅及び深さが約49μmのインク通路用溝を形成する方法(3頁左上欄等参照)等が記載されている。
4)甲第4号証:特開昭59-192577号公報
インクジェット記録装置において、感光性樹脂等からなる薄層材14の表面に写真的な方法で部分的に耐食皮膜を形成した後、プラズマエッチング等によりランド14’のみを残し、不用な部分は除去し、ランドにインク吐出口15を加工してインクノズルを得る方法(2頁右下欄〜3頁左上欄等参照)等が記載されている。
5)甲第5号証:特開昭57-72866号公報
インクジェット記録用ヘッドにおいて、独立したインク通路が形成されている端面に撥水性のフッ素樹脂シート5を接着し、フォトレジストをコートし、インク噴出口6をパターンニングし、酸素雰囲気下でプラズマによりドライエッチングしてインク噴出口を開口し、その後フォトレジストを除去する方法(2頁左上欄等参照)等が記載されている。
6)甲第6号証:特開平4-234663号公報
インク・ジェット・プリントヘッドのチャンネル溝6端面のノズル面にインク撥水材料を塗布する方法において、インク撥水材料がチャンネルに侵入せず且つ壁面をコーティングせずに前面だけをコーティングするように、アレイを介して高速度ガスを吹き込みながら塗布し、その後、湿った雰囲気内で約1000°Cで約45分間加熱する方法(7頁11欄等参照)等が記載されている。

(4)対比・判断
本件発明(前者)と甲1発明(後者)とを対比するに、後者の「インクジェットプリンタ」、「インクジェットヘッド」、及び「ノズル板10」は、それぞれ前者の「インクジェット記録装置」、「インクジェット記録ヘッド」、及び「ノズルプレート」に相当する。
また、後者の「疎水性のポジ型感光性樹脂12」は、「撥水機能を含む塗布材」といえる点で、前者の「分子中にC-F結合を有する撥水撥油材料が溶解した溶液」と共通する。
さらに、後者の「前記ノズル板10の裏側から露光し、現像して、前記ノズル孔11を塞いでいる疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を除去することで前記ノズル板10表面に前記疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を形成する」は、「ノズルプレート表面にのみ撥水機能を含む膜を形成するための処理をする」といえる点で、前者の「前記撥水撥油膜を加熱し、約185nmの波長を含む紫外線を前記ノズルプレートの裏側から照射して、前記ノズルプレートの裏側および前記ノズル孔内部に形成された前記C-F結合を有する撥水撥油膜を除去することで前記ノズルプレート表面に前記撥水撥油膜を形成し、前記撥水撥油膜が形成された前記ノズルプレートを加熱する」と共通する。
これらのことから、両者は「ノズル孔からインクを吐出するインクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、撥水機能を含む塗布材でインクジェット記録ヘッドのノズルプレートへ撥水機能を含む塗布材の膜を塗布し、その後、ノズルプレート表面にのみ撥水機能を含む膜を形成するための処理をすることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>前者が、「撥水機能を含む塗布材」を「分子中にC-F結合を有する撥水撥油材料が溶解した溶液」とし、「ノズルプレート表面にのみ撥水機能を含む膜を形成するための処理をする」を「前記撥水撥油膜を加熱し、約185nmの波長を含む紫外線を前記ノズルプレートの裏側から照射して、前記ノズルプレートの裏側および前記ノズル孔内部に形成された前記C-F結合を有する撥水撥油膜を除去することで前記ノズルプレート表面に前記撥水撥油膜を形成し、前記撥水撥油膜が形成された前記ノズルプレートを加熱する」としているのに対して、後者は、「撥水機能を含む塗布材」を「疎水性のポジ型感光性樹脂12」とし、「ノズルプレート表面にのみ撥水機能を含む膜を形成するための処理をする」を「前記ノズル板10の裏側から露光し、現像して、前記ノズル孔11を塞いでいる疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を除去することで前記ノズル板10表面に前記疎水性のポジ型感光性樹脂12の膜を形成する」としている点。

以下、相違点について検討する。
ノズルプレート表面に形成する膜に、撥水機能に加えて撥油機能も有せしめることは当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることであり、甲第2,3号証からみて、照射光(露光光)を紫外線とすることも適宜の事項といえる。
また、甲第3号証には紫外線を照射してエネルギーを与えるとの記載があることから、照射効率を良くするために、予め加熱によりエネルギーを与えておくことは容易であるといえるし、さらに、甲第6号証には最後に加熱することが記載されている。
しかしながら、甲第6号証の加熱温度が本件発明の実施例における加熱温度に比して一桁高く、加熱する意味が同じとは言い切れない点があり、加えて、本件発明における、撥水撥油材料を分子中にC-F結合を有するものとする点、及び紫外線を約185nmの波長を含むものとする点については、共に、甲第1〜6号証のいずれにも記載がなく、示唆もない。
そして、本件発明は、これらの点が相俟って、例えば実施例2の評価として記載されているように、飛行曲がりの発生がなく良好な特性を示すものである。
そうすると、上記相違点は当業者において容易に想到できることであるとはいえず、しかも、本件発明は、上記相違点に係る構成を備えることで、明細書記載の格別の作用効果を奏するものであるから、甲第1〜6号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録ヘッド及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ノズル孔からインクを吐出するインクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、分子中にC-F結合を有する撥水撥油材料が溶解した溶液でインクジェット記録ヘッドのノズルプレートへ撥水撥油膜を塗布し、その後、前記撥水撥油膜を加熱し、約185nmの波長を含む紫外線を前記ノズルプレートの裏側から照射して、前記ノズルプレートの裏側および前記ノズル孔内部に形成された前記C-F結合を有する撥水撥油膜を除去することで前記ノズルプレート表面に前記撥水撥油膜を形成し、前記撥水撥油膜が形成された前記ノズルプレートを加熱することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、インクジェット記録装置に用いる撥水撥油特性のすぐれたインクジェット記録ヘッド及びその製造方法に関する。
【従来の技術】
インクジェット記録ヘッドにはガラス、金属、樹脂などの材質が用いられている。
しかし、インクジェット記録ヘッドにおいて水性または油性のインクを用いる場合、ノズル表面の撥水性が不十分であるとインクの液滴が付着し易くなり、そのため吐出するインク滴の直進性が損なわれ、印字乱れなどのトラブルによって記録不能となることがある。
そこで従来、インクが吐出する部分であるノズルの表面を、水性または油性のインクの付着をなくすために撥水撥油化処理することが行われており、撥水撥油材料を溶媒へ溶かし溶液へ基材を浸漬して塗布する方法やスプレーで塗布する方法や、特開昭60-183161号、特開昭59-176059号公報のような、真空蒸着やプラズマ重合によりノズル表面に撥水性材料粒子を付着させ撥水化するという方法が提案されている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の技術による撥水撥油処理では、ピンホールなどの欠陥のない平滑な撥水化表面を得ることは必ずしも容易ではない。そのため個々の製品間の特性にばらつきが生じ、さらに経時的にも特性が変化するという課題があった。また真空蒸着法等を用いた場合、大がかりな装置が必要で工程管理が難しく、しかもこの方法では密着強度が不足するため、耐摩耗性の低いものしか得られないという課題があった。また撥水撥油材料を溶かした溶液へ浸漬する方法やスプレーする方法は、工程管理は容易であるが、ノズル内部も撥水撥油膜が塗布されるため、ノズル孔をふさぎ、インクの飛行が阻害されるという課題があった。
本発明は前記課題を解決するものであり、インクジェット記録ヘッドのノズル表面の撥水特性に優れしかもその撥水効果の持続性、耐久性に優れ、長期間にわたって高い印字品質を維持し得るインクジェット記録ヘッドの撥水撥油膜を容易に塗布できる方法及びそのインクジェット記録ヘッドの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、分子中にC-F結合を有する撥水撥油材料が溶解した溶液でインクジェット記録ヘッドのノズルプレートへ撥水撥油膜を塗布し、その後、撥水撥油膜を加熱し、約185nmの波長を含む紫外線をノズルプレートの裏側から照射して、ノズルプレートの裏側およびノズル孔内部に形成されたC-F結合を有する撥水撥油膜を除去することでノズルプレート表面に前記撥水撥油膜を形成し、撥水撥油膜が形成されたノズルプレートを加熱することを特徴とする。
また本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、撥水撥油材料が溶解した溶液でインクジェット記録ヘッドのノズルプレートに撥水撥油膜を塗布し、その後ノズルプレートの裏側からプラズマガスをあてることを特徴とする。
本発明の撥水撥油材料には、撥水撥油性能を有する材料であればよく、弗素、弗素シリコン化合物、シリコーン化合物及びそれらを側鎖にもった高分子化合物がある。また撥水撥油膜の塗布方法は、工程管理を容易にするため、撥水撥油材料を溶解した溶液へ浸漬する方法やスプレーにより塗布する方法を用いる。またインクジェット記録ヘッドのノズルプレート及びノズル表面は、ステンレス、ニッケル、ニッケル合金、ポリサルフォン、ポリカーボネイト等からなる。
本発明のインクジェット記録ヘッドの撥水撥油膜の塗布方法は、ノズル孔をセルフマスクとしてノズルプレートの裏側や内部へ形成された撥水撥油膜を撥水撥油材料分子の中のC-FやSi-O等の結合より大きなエネルギーの紫外線やプラズマガスをあてることにより破壊し、また紫外線照射やプラズマ環境で生ずるオゾンの働きで酸化して、ノズルプレート表面へ限定した撥水撥油膜の塗布を実現するのである。そして紫外線は、約250nm以下の波長が撥水撥油膜分子の中のC-F結合より大きなエネルギーをえられるので望ましい。またノズルプレートの裏側は、撥水撥油処理する必要がないため、撥水撥油材料の消費量を少なくする目的から、ノズルプレートの裏側へ粘着剤のついたテープを貼付して、撥水撥油処理してもよい。
また紫外線やプラズマによる撥水撥油膜の除去方法では、室温でも可能であるが、膜を加熱して紫外線照射することにより除去処理時間が短縮できる。紫外線によるC-F結合等の破壊反応が、外部から熱を加えることにより促進されるためである。そしてその加熱温度は、摂氏150度以上が望ましい。
また本発明では、撥水撥油膜を塗布した後、加熱処理を行うことが望ましい。撥水撥油膜の応力が加熱処理により緩和され、基板と撥水撥油膜の密着性が向上し、耐久性が向上するためである。
また本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、撥水処理を施す前にノズル表面の裏側から表面に向かって気体を放出し、気体を放出した状態を維持しながらノズル表面を撥水撥油材料を溶解した溶液へ浸漬し、その後、前記気体を放出しながら前記ノズル表面を溶液より離し、放置して撥水撥油膜を塗布することを特徴とする。
撥水撥油材料を溶解した溶液は表面張力が非常に低いので、インクジェット記録ヘッドのノズル孔を溶液に接触させると、毛細管現象により、ノズル孔内部へ向かって溶液が浸透し、ノズル内部が撥水撥油処理されてしまう。本発明のノズルの裏側より表面に向かってガスを放出しながら撥水撥油膜を塗布するインクジェット記録ヘッドの撥水撥油膜の塗布方法は、この毛細管現象を防止することができ、ノズル表面のみ撥水撥油処理ができる。
また撥水撥油膜を塗布した後も、ガスを放出する本発明の撥水撥油処理方法は、撥水撥油膜の塗布直後、未乾燥の撥水撥油材料がノズル孔内部へ侵入することを防ぐ作用がある。
また本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクが吐出するノズル孔周辺の表面に撥水撥油膜を塗布することを特徴とする。
【実施例】
以下実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
図1は、本実施例のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。このようにインクジェット記録ヘッドは、第一プレート8と第二プレート9の積層により、インクの供給部1とPZTなどの振動によりインクを吐出する圧力室2とインクが通れる流路3を形成し、流路3と垂直方向にノズル孔6を形成したノズルプレート4を接合した構造である。そして撥水撥油膜は、このノズルプレート4の表面へ塗布する。
図2は、図1のステンレス製のノズルプレート4へ撥水撥油膜5を塗布する本実施例における工程別のノズルプレート断面図である。この図に沿って本実施例を説明する。
まず図2(a)のようなノズル孔6を加工したステンレス製のノズルプレート4を、アルコール溶剤を使い超音波洗浄した。そして次の組成の撥水撥油材料を溶かした溶液へ、ノズルプレート4を浸漬して、図2(b)のように撥水撥油膜5を塗布した。
<組成>
旭硝子社製「サイトップ」 1部
3M社製「フロリナートFC-75」 99部
このときノズル孔6は、撥水撥油膜5でふさがれていた。
続いて、図2(c)のようにノズルプレートの裏側7から約185nmの波長を含む紫外線10を60分照射し、図2(d)のようにノズルプレートの裏側7及びノズル孔6の内部につまった撥水撥油膜を除去した。
最後にこのノズルプレート4を摂氏150度で加熱処理して、インクジェット記録ヘッドを完成させ、インクの飛行特性を評価した。その結果、飛行曲がりの発生がなく良好な印字特性を示した。
(実施例2)
図3は、実施例1と同様のインクジェット記録ヘッド構造で、ニッケル・リン製のノズルプレート14へ撥水撥油膜15を塗布する本実施例における工程別のノズルプレート断面図である。この図に沿って本実施例を説明する。
まず図3(a)のようなノズル孔16を加工したニッケル・リン製のノズルプレート14を、界面活性剤を含む洗剤を使い超音波洗浄した。そして次の組成の撥水撥油材料を溶かした溶液をノズルプレート14の表面へスプレーして、図3(b)のように撥水撥油膜15を塗布した。
<組成>
デュポン社製「AF1600」 2部
3M社製「フロリナートFC-75」 98部
このときノズル孔16は、撥水撥油膜15でふさがれていた。
続いて、図3(c)のようにノズルプレート14をホットプレート17で摂氏150度に加熱し、ノズルプレートの裏側18から約185nmの波長を含む紫外線19を30分照射し、図3(d)のようにノズルプレートの裏側18及びノズル孔16の内部の撥水撥油膜を除去した。
最後にこのノズルプレート14を摂氏180度で加熱処理して、インクジェット記録ヘッドを完成させ、インクの飛行特性を評価した。その結果、飛行曲がりの発生がなく良好な特性を示すことができた。
(実施例3)
図4は、実施例1と同様のインクジェット記録ヘッド構造で、ノズルプレート24へ撥水撥油膜25を塗布する本実施例における工程別のノズルプレート断面図である。この図に沿って本実施例を説明する。
まず図4(a)のようなノズル孔26を加工したニッケル製ノズルプレート24を、アルゴンプラズマを使い洗浄した。そしてノズルプレートの裏側に粘着剤の付いたテープ27を貼付し、図4(b)のように次の撥水撥油材料を溶かした溶液へ、ノズルプレート24を浸漬し引き上げた。
<組成>
信越化学工業社製「KP801M」 10部
3M社製「フロリナートFC-75」 90部
そして粘着剤の付いたテープ27を剥離し、撥水撥油膜25を塗布した。
このときノズル孔26は、撥水撥油膜25でふさがれていた。
続いて、ノズルプレートの裏側から酸素圧が0.2トール、200Wの酸素プラズマを10分あて、図4(c)のようにノズル孔26の内部の撥水撥油膜を除去した。
最後にこの撥水撥油膜を塗布したノズルプレート24を摂氏80度で加熱処理して、インクジェット記録ヘッドを完成させ、インクの飛行特性を評価した。その結果、飛行曲がりの発生がなく良好な特性を示すことができた。
なおプラズマガスには、酸素以外にアルゴン・酸素混合ガスやアルゴンガス等を用いても撥水撥油膜が除去できる。またプラズマの発生条件は、本実施例以外の範囲でも撥水撥油膜除去効果に変わりがなかった。
(実施例4)
図5は、実施例1と同様のインクジェット記録ヘッド構造で、ノズルプレート34へ撥水撥油膜35を塗布する本実施例における工程別のノズルプレート断面図である。この図に沿って説明する。
まず図5(a)のような、ノズル孔36を加工したステンレス製のノズルプレート34を、界面活性剤を含む洗剤を使い超音波洗浄した。そして図5(b)のように治具37へノズルプレート34をセットした。この治具37は、ノズルプレート34の外周部分を両面から樹脂等で密着させ、ノズル孔36のみから加圧されたガスが放出できる構造になっている。
続いて東レダウコーニング・シリコーン社製「SR2410」の溶液へ治具37にセットしたノズルプレート34を、ノズル孔36よりガスを出しながら浸漬し、引き上げて図5(c)のように撥水撥油膜35を塗布した。その後、約1分間ノズル孔からガスを放出しながら放置した。このときノズル孔のつまりは見られず、ノズル形状の変化も見られなかった。
なお放出するガスは、溶液と化学反応しにくい材料がよく、空気、窒素、アルゴン、水素、酸素などがある。
最後にこのノズルプレート34を摂氏100度で加熱処理した後、インクジェット記録ヘッドを完成させ、インクの飛行特性を評価した。その結果、全てのノズルにおいて、飛行曲がりの発生がなく良好な特性を示した。
(実施例5)
図6は、本実施例のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。このように本実施例のインクジェット記録ヘッドは、第一プレート46にインク供給部分41と圧力室42とノズル流路43とノズル孔44を形成し、第二プレート50を積層した構造である。そして撥水撥油膜は、ノズル孔44の表面上へ塗布する。
図7は、撥水撥油膜45を塗布する本実施例における工程別のインクジェット記録ヘッドの上面図である。
まず、図7(a)のようにヘッド組立が終了したポリサルフォン製のインクジェット記録ヘッドを界面活性剤を含む洗剤を使い超音波洗浄し、乾燥させた。そしてシランカップリング剤をインクジェット記録ヘッドのノズル表面へ塗布した。
続いてインク供給部41へチューブ47を通しガスを送り込み、図7(b)のように次の組成の撥水撥油材料を溶媒へ溶解させた溶液48へ、気泡49が出ているノズル孔44表面を浸漬した。
<組成>
旭硝子社製 「サイトップ」 1部
3M社製 「フロリナート FC-75」 9部
その後、図7(c)のようにガスを発生させながら引き上げ、撥水撥油膜45を塗布した。
そして約1分間ノズル孔44からガスを出して放置した。
なお放出するガスは、溶液と化学反応しにくい材料がよく、空気、窒素、アルゴン、水素、酸素などがある。
この撥水撥油膜45を塗布したインクジェット記録ヘッドを加熱処理し、インク飛行特性を評価した。その結果、飛行曲がりの発生がなく良好な特性を示すことができた。
ヘッド材料は、ポリサルフォン以外にガラス、アクリル、ポリカーボネイト等でも同様の良好な印字特性であった。
(比較例)
実施例1記載の撥水撥油膜が、ポリ弗化エチレンの真空蒸着法で形成した以外、実施例1と同様の方法によりインクジェット記録ヘッドを製造した。飛行の曲がりは、全てのノズルにおいて発生しなかった。しかしながら真空蒸着装置は、大がかりで、生産性及び工程管理に問題があった。
また実施例1から実施例5及び比較例のインクジェット記録ヘッドについて、耐薬品性及びゴムこすりによる耐摩耗性を評価した。表1は、○を良好、×を膜の剥離または摩滅として耐薬品性及び耐摩耗性を評価した結果である。
【表1】
このように実施例1から実施例5のインクジェット記録ヘッドは、耐薬品性、耐摩耗性が良好であった。しかし比較例のインクジェット記録ヘッドは、耐薬品性、耐摩耗性が劣っていた。また本実施例は、比較例に比べて工程管理が容易であった。
またこれらの実施例の撥水撥油膜の塗布方法は、再現性があり、製品間の印字品質ばらつきが少なかった。
なお本実施例は、本発明の一部について記したものであり、他の弗素系撥水撥油剤やシリコーン系の撥水撥油剤を用いても、また撥水撥油剤の濃度が異なっても同様の効果がえられた。
【発明の効果】
以上記したように本発明は、撥水撥油材料を溶解した溶液へインクジェット記録ヘッドのノズルプレートを浸漬して撥水撥油膜を塗布し、その後紫外線またはプラズマを前記ノズルプレートの裏側から照射することにより、撥水撥油塗布時に発生したノズル孔のつまりが解消され、撥水撥油処理による印字品質の向上効果を示した。また撥水撥油処理を行う前にノズル表面の裏側から表面に向かって気体を放出し、気体を放出した状態を維持しながらノズル表面を撥水撥油樹脂を溶解した溶液へ浸漬して撥水撥油膜を塗布し、前記気体を放出しながら前記ノズル表面を溶液より離し、放置したことにより、ノズル孔が撥水撥油膜でふさがれることなく撥水撥油膜が塗布でき、撥水撥油処理による印字品質が向上した。さらに製品間の印字品質ばらつきが少なく、また工程管理が容易であった。
さらにこれらのインクジェット記録ヘッドは、耐薬品性と耐摩耗性ともに良好で、長期間に渡って高い印字品質を維持することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1のインクジェット記録ヘッドの斜視図。
【図2】 実施例1における工程別のノズルプレートの断面図。
【図3】 実施例2における工程別のノズルプレートの断面図。
【図4】 実施例3における工程別のノズルプレートの断面図。
【図5】 実施例4における工程別のノズルプレートの断面図。
【図6】 実施例5のインクジェット記録ヘッドの斜視図。
【図7】 実施例5における工程別のインクジェット記録ヘッドの上面図。
【符号の説明】
1 インクの供給部
2 圧力室
3 流路
4 ノズルプレート
5 撥水撥油膜
6 ノズル孔
7 ノズルプレートの裏側
8 第一プレート
9 第二プレート
10 紫外線
14 ノズルプレート
15 撥水撥油膜
16 ノズル孔
17 ホットプレート
18 ノズルプレートの裏側
19 紫外線
24 ノズルプレート
25 撥水撥油膜
26 ノズル孔
27 粘着剤の付いたテープ
34 ノズルプレート
35 撥水撥油膜
36 ノズル孔
37 治具
41 インクの供給部
42 圧力室
43 流路
44 ノズル孔
45 撥水撥油膜
46 第一プレート
47 チューブ
48 撥水撥油材料を溶媒へ溶解させた溶液
49 気泡
50 第二プレート
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-28 
出願番号 特願平4-324432
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B41J)
P 1 651・ 121- YA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 清水 康司
藤井 靖子
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3379119号(P3379119)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェット記録ヘッド及びその製造方法  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  
代理人 藤綱 英吉  
代理人 須澤 修  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 藤綱 英吉  

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