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審決分類 審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:533  C08L
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1117832
異議申立番号 異議2003-72919  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-03 
確定日 2005-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3411571号「油添加剤及び組成物」の請求項1ないし3、6ないし18に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3411571号の請求項1ないし3、6ないし18に係る特許を維持する。 
理由 【I】手続きの経緯
特許第3411571号の請求項1〜18に係る発明は、平成5年6月29日に国際出願(優先権主張 平成4年6月30日 英国)され、平成15年3月20日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、三洋化成工業株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成16年5月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月8日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。

【II】訂正請求について
1.訂正の内容
(訂正事項a)
特許請求の範囲の請求項1中の「エチレンから誘導された単位に加えて」を、「(a)エチレンから誘導された単位に加えて」と訂正する。
(訂正事項b)
特許請求の範囲の請求項1中の「更なるエチレン-ビニルエステルコポリマー」を、「(b)エチレン-酢酸ビニルコポリマーまたはエチレン-プロピオン酸ビニルコポリマーから選ばれる更なるエチレン-ビニルエステルコポリマー」と訂正する。
(訂正事項c)
特許請求の範囲の請求項4の「【請求項4】ポリマーがエチレン-不飽和エステルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである請求の範囲第1項〜第3項のいずれか1項に記載の組成物。」を、
「【請求項4】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]であって、エチレン-不飽和エステルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである該油溶性エチレンコポリマー;及び(b)更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。」と訂正する。
(訂正事項d)
特許請求の範囲の請求項5の「【請求項5】ポリマーがエチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである請求の範囲第1項〜第3項のいずれか1項に記載の組成物。」を、
「【請求項5】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]であって、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである該油溶性エチレンコポリマー;及び(b)更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。」と訂正する。
(訂正事項e)
特許請求の範囲の請求項10中の「エステル基が12〜20個の炭素原子を有するアルキル基」であるを、「エステル基のアルキル基が12〜20個の炭素原子を有する」と訂正する。
(訂正事項f)
特許請求の範囲の請求項15〜17中の「添加剤組成物を含む」を、「成分(a)及び(b)を含む」と訂正する。
(訂正事項g)
明細書14頁2〜15行(特許公報14欄16〜34行)の「例H ・・・・分子量4250。」を削除する。
(訂正事項h)明細書15頁下から11行(特許公報15欄27行)の「例A〜H」を、「例A〜G」と訂正する。
(訂正事項i)明細書20頁下から11行〜最下行(特許公報21欄の表の下〜22欄の最下行)の実施例39〜32とその下の表の記載を削除する。

2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項a〜bのうち(a)と(b)を用いて成分を記載する訂正は、特許請求の範囲の記載を明確化するためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項bのうち「更なるエチレン-ビニルエステルコポリマー」を「エチレン-酢酸ビニルコポリマーまたはエチレン-プロピオン酸ビニルコポリマーから選ばれる更なるエチレン-ビニルエステルコポリマー」と限定する訂正は、特許明細書の6頁16〜17行(特許公報8欄21〜23行参照)の記載を根拠とするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項c〜dの独立形式とする訂正は、訂正事項a〜bによる請求項1の減縮を請求項4〜5に及ぼさないために必要なものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項eは、炭素数がエステル基を構成するアルキル基の炭素数であることを明確化するためのものであり、また、当該事項は明細書9頁下から6〜5行(特許公報10欄49行〜11欄1行)の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項fは、「添加剤組成物」が「成分(a)及び(b)」であることを明確化するものであり、また、当該事項は明細書11頁下から3〜1行(特許公報12欄31〜34行)の記載を根拠とするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項gは、特許請求の範囲の成分(a)の油溶性エチレンコポリマーに該当しない例Hを削除するためのものであり、訂正事項h〜iは訂正事項gに伴い例Hに関する記載を削除するものであるから、訂正事項g〜iは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a〜iは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【III】特許異議申立てについて
1.訂正後の請求項1〜18に係る発明
訂正後の請求項1〜18に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明18」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする];及び(b)エチレン-酢酸ビニルコポリマーまたはエチレン-プロピオン酸ビニルコポリマーから選ばれる更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。
【請求項2】R3が少なくとも4個の炭素原子を有する線状アルキル基を表す請求の範囲第1項に記載の組成物。
【請求項3】RがHを表す請求の範囲第1項または第2項に記載の組成物。
【請求項4】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]であって、エチレン-不飽和エステルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである該油溶性エチレンコポリマー;及び(b)更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。
【請求項5】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]であって、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである該油溶性エチレンコポリマー;及び(b)更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。
【請求項6】エチレン-ビニルエステルコポリマーが、ワックス核形成剤である請求の範囲第1項〜第5項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】ワックス核形成剤が請求の範囲第1項に記載の油溶性エチレンコポリマーのエステル含量よりも少なくとも2モル%低いエステル含量を有するエチレン-ビニルエステルコポリマーである請求の範囲第6項に記載の組成物。
【請求項8】以下の一般式(A)を有するポリマーをまた含む請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1項に記載の組成物。
一般式(A):

(式中、
D=R11、COOR11、OCOR11、R12COOR11、またはOR11、
E=H、CH3、D、またはR12、
G=HまたはD
J=H、R12、R12COOR11、またはアリール基もしくは複素環基、K=H、COOR12、OCOR12、OR12、またはCOOH、L=H、R12、COOR12、OCOR12、COOH、またはアリール、R11≧C10ヒドロカルビル、R12≧C1ヒドロカルビル、かつm及びnはモル比を表し、mは1.0〜0.4の範囲であり、nは0〜0.6の範囲である)
【請求項9】一般式(A)で表されるポリマーが酢酸ビニルとフマル酸エステルのコポリマーである請求の範囲第8項に記載の組成物。
【請求項10】エステル基のアルキル基が12〜20個の炭素原子を有する請求の範囲第9項に記載の組成物。
【請求項11】エステル基が14個の炭素原子を有するアルコール、または14個及び16個の炭素原子を有するアルコールの混合物から誘導される請求の範囲第10項に記載の組成物。
【請求項12】請求項8に記載の一般式(A)を有するポリマー2種以上の混合物を含む請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】混合物が、(i)C14フマル酸エステル-酢酸ビニルコポリマー及び(ii)C14/C16フマル酸エステル-酢酸ビニルコポリマーを含む請求の範囲第12項に記載の組成物。
【請求項14】無水フタル酸と2モル比の水添牛脂アミンのアミド-アミン塩、またはオルト-スルホ無水安息香酸の相当するアミド-アミン塩をまた含む請求の範囲第1項〜第13項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】油の重量を基準として、0.0005〜1%の合計比率の成分(a)及び(b)を含む請求の範囲第1項〜第14項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】油の重量を基準として、0.001〜0.1%の合計比率の成分(a)及び(b)を含む請求の範囲第15項に記載の組成物。
【請求項17】油の重量を基準として、0.004〜0.06%の合計比率の成分(a)及び(b)を含む請求の範囲第16項に記載の組成物。
【請求項18】請求の範囲第1項〜第14項のいずれか1項に記載の添加剤組成物を含む、燃料油の低温特性改良剤。」

2.特許異議申立ての理由及び取消理由の概要
特許異議申立人は、甲第1〜18号証を提出し、訂正前の請求項1〜3,6〜18に係る発明は、甲第1〜2号証に記載された発明であり、また、甲第1〜18号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3,6〜18に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、明細書の記載が不備であり、訂正前の請求項8,10,13,15〜17に係る特許は、特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきである旨を主張している。
当審が通知した取消理由は、上記特許異議申立人の主張と同趣旨である。
なお、訂正前の請求項1〜3,6,15〜17に係る特許に対して、特許法第17条の2第3項の規定に違反して特許されたものである旨を主張しているが、当該条文は、平成5年6月29日に国際出願された本件特許の特許異議の申立の理由とはならないので採用しない。

3.特許異議の申立の理由及び取消理由に対する判断
(特許法第29条第1項第3号違反について)
刊行物1(特公昭60-17476号公報(特許異議申立人提出の甲第1号証))には、エチレン含有量50〜90重量%でありかつ30℃のベンゼン中における極限粘度が0.08〜0.50dl/gであるエチレン-酢酸-ビニル共重合体に次記一般式

(但しXは水素又はメチル基、Yは

のいずれかであってRは炭素数3〜21のアルキル基、R’は水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)によつて示される不飽和化合物の少くとも1種をグラフトせしめたグラフト共重合体を単独で又は2種類以上を混合して用いる石油類用低温流動性改善剤が記載され(特許請求の範囲)、実施例4には、グラフト共重合体6としてエチレン-酢酸ビニル共重合体にステアリン酸ビニルをグラフトした共重合体を用いることが記載されている。
刊行物1のエチレン-酢酸ビニル共重合体にステアリン酸ビニルをグラフトした共重合体は、本件発明1の成分(a)に相当するものの、本件発明1の成分(b)であるエチレン-酢酸ビニルコポリマーまたはエチレン-プロピオン酸ビニルコポリマーから選ばれる更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを併用することについては記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとはいえない。

刊行物2(特公昭58-39472号公報(同甲第2号証))には、(A)エチレンカルボン酸ビニル共重合体(数平均分子量が500以上であり、共重合体中のカルボン酸ビニル単体の含量が2〜30モル%である)の不飽和ジカルボン酸エステル付加物と(B)エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する燃料油の流動性改良添加剤が記載され(特許請求の範囲第1項及び第7項)、(A)成分におけるカルボン酸ビニルとしては短鎖脂肪酸(C1〜C4)ビニル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、など)、長鎖脂肪酸(C5以上、好ましくはC5〜20)ビニル(ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニルなど)等が挙げられ、これらの混合物も使用できることが記載され(4欄34〜44行参照)、また、(A)成分には未反応のエチレン-カルボン酸ビニルまたは不飽和カルボン酸エステルを含有することがあるが何ら支障なく使用できることも記載されている(7欄37〜40行)。
しかしながら、刊行物2には、本件発明1の成分(b)に相当するエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いることは記載されてはいるものの、(A)成分のカルボン酸ビニルとして混合物を用いた具体例は記載されていないので、(A)成分中に含まれていても支障がない未反応のエチレン-カルボン酸ビニルとして、カルボン酸ビニル単量体を2種類有するものが記載されているとまではいえず、本件発明1の成分(a)に相当するポリマーが記載されているとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるとはいえない。

本件発明2〜3,6〜7は、本件発明1の(a)及び(b)の構造を限定した発明であり、本件発明8〜14は、さらに他の成分を含むことを特定した発明であり、本件発明15〜17は、本件発明1の(a)及び(b)の含有量を特定した発明であり、本件発明18は、本件発明1に記載の添加剤組成物を含む燃料油の低温特性改良剤の発明であるから、本件発明1が刊行物1〜2に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2〜3,6〜18に係る発明も、刊行物1〜2に記載された発明であるとはいえない。

(特許法第29条第2項違反について)
上記したように、刊行物1〜2には、本件発明1の成分(a)または(b)のいずれかに相当する成分が記載されているだけであるから、当該2つの成分を併用することは当業者が容易に想到し得たとはいえない。

刊行物3(特公昭48-15442号公報(同甲第3号証))には、エチレン約40〜89重量%、C2〜C4のモノカルボン酸のビニルエステル約10〜40重量%、及び式

[上記式中、Xは水素又はメチルであり、Yは-OOCR又は-COOR(前記式中、RはC10〜C22のアルキル基である)である]によつて表わされる不飽和エステル約1〜30重量%から成り且つ約1000〜50000の数平均分子量を有する重合体を約0.001〜約2重量含む、約250〜1000。Fの沸点を有する石油留出油が記載され(特許請求の範囲)、他の流動点降下剤を組み合わせて使用し得ることも記載されている(5欄18〜23行)。
刊行物4(米国特許第4087255号明細書(同甲第4号証))には、エチレン、酢酸ビニル及びラウリン酸ビニルの三元共重合体からなる流動点降下剤が記載され(9〜10欄の下のTABLE VIのEXAMPLE IX)、他の流動点降下剤を併用してもよいことが記載されている(5欄21〜25行)。
刊行物5(特開昭58-129096号公報(同甲第5号証))には、エチレン、酪酸ビニル及び酢酸ビニルの三元共重合体からなる低温における目詰り性を改良するための添加剤が記載され(表1〜2)、他の流動点降下剤を併用することも可能であることが記載されている(4頁左上欄最下行〜右上欄3行)。
刊行物6(特公昭48-11561号公報(同甲第6号証))には、エチレン、酢酸ビニル及びベヘン酸ビニルエステルの三元共重合体からなる流動点降下剤が記載され(7頁実施例III)、他の流動点降下剤と共に使用され得ることが記載されている(10欄27〜31行)。
したがって、刊行物3〜6に記載された共重合体は本件発明1の成分(a)に相当するものの、併用し得る他の流動点降下剤の具体例については何ら記載されておらず、本件発明1の成分(b)については記載も示唆もない。

刊行物7(特開昭55-48290号公報(同甲第7号証))には、含ワックス留出燃料油を処理して低温度におけるそれらの流れおよび濾過性を改善するのに有用な添加剤濃厚物であつて、希釈剤油、及び、エチレンと(i)アルキル基中に1〜16個の炭素原子を有するエチレン式不飽和モノ若しくはジカルボン酸アルキルエステル(ii)C1〜C17飽和脂肪酸のビニルエステルとの共重合体である少なくとも1種の流動点降下剤を少なくとも1種の他の添加剤と一緒に含む5〜60重量%の相乗性流れ改善用混合物を含有する添加剤濃厚物が記載され(特許請求の範囲)、ワツクス生長促進剤及びワツクス生長阻止剤として使用する合成重合体物質は2種またはそれ以上の単量体から誘導し得る共重合体であってよいこと(3頁左上欄10〜16行)、及び、実施例には、酢酸ビニル含有量の異なる2種類のエチレン/酢酸ビニル共重合体を混合して用いることが記載されている(第1表、第2表)。
刊行物8(米国特許第3961916号明細書(同甲第8号証))には、燃料油と、(a)不飽和エステル0.3〜12モル%とエチレンとからなるコポリマーであるワックス成核剤と、(b)上記不飽和エステル11〜25モル%とエチレンとからなるコポリマーであるワックス成長アレスターからなる相乗性流動性改良用併用物とからなる燃料油組成物が記載され(請求項1)、ワックス成長促進剤及びワックス成長アレスターとして用いられる合成重合体物質は、2種またはそれより多くの単量体から誘導される共重合体でもよいことが記載されている(2欄38〜44行)。
刊行物9(特開昭55-137193号公報(同甲第9号証))には、大部分の石油中間留油と、数平均分子量約1,000〜4,000の、65〜85重量%のエチレンと、40〜15重量%の一般式・・(構造式省略)・・で表される不飽和モノ(及び(あるいは)ジエステルであるエチレン性不飽和単量体よりなる2種の共重合体a及びbからなる相乗性混合物を含有する低温流動性燃料油が記載され(特許請求の範囲)、上記共重合体は任意の割合の単量体の混合物であってもよいことが記載されている(2頁左下欄6〜12行)。
刊行物10(特開平2-18494号公報(同甲第10号証))には、燃料基油に、エチレンと飽和脂肪酸のビニルエステルの共重合体を3種類含有する燃料油が記載され(特許請求の範囲)、上記共重合体の飽和脂肪酸のビニルエステルコモノマーとして酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の2種類以上を併用して用いてもよいことが記載されている(5頁左上欄19行〜右上欄6行)。
しかしながら、刊行物7〜10はいずれも、エチレンとビニルエステルとの共重合体においてビニルエステル単量体として2種類以上を用いてもよいことが示唆されているにとどまり、実際に、エチレンと2種類のビニルエステルとからなる三元共重合体が記載されているとまではいえない。

刊行物11(特公昭1-42995号公報(同甲第11号証))には、(A)本質的にエチレン3〜40モル比率と、C2〜C16のα-モノオレフィン、塩化ビニル、及び式・・・(構造式省略)・・・のエチレン系不飽和アルキルエステルおよび上記共単量体の混合物から得られる共単量体1モル比率とから成る共重合体から選ばれる、500〜50000の範囲の数平均分子量を有する、油溶性、エチレン主鎖、留出油流動性改良剤組成物、(B)1000〜200000の範囲の分子量を有する油溶性重合体であり、上記重合体の少なくとも10重量%が6〜30個の炭素原子を有うる直鎖アルキル基の形であり、上記重合体が不飽和エステルおよび(または)オレイン部分を含み、上記部分が上記重合体の大重量比率を構成する潤滑油流動点硬化剤、および(C) (A)および(B)とは異なり、式RX(式中、Rは可溶化性炭化水素基であり、Xは極性基である)の極性、油溶性化合物であつて燃料油中の蝋粒子の凝集防止剤として作用する化合物、からなる低温流動性及び低温濾過性の改良された燃料油組成物が記載され(特許請求の範囲第5項)、(A)の共単量体として酢酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ラウリル酸ビニル等の単量体の混合物を用いることが記載されている(7欄23〜44行)。
刊行物12(特開昭62-270687号公報(同甲第12号証))には、使用される流れ向上剤として、エチレンと少くとも1種の第2不飽和単量体(酢酸ビニル、酪酸ビニル等)との共重合体を含む型の使用が好ましいこと、後者の単量体には任意割合のそのような単量体の混合物であることができ、具体例として酢酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ラウリン酸ビニルなどが挙げられている(3頁右下欄最下行〜4頁左下欄5行)。
刊行物13(英国特許第1542295号明細書(同甲第13号証))には、(a)4,000よりも小さい数平均分子量を有する1種またはそれより多くの油溶性エチレン主鎖のポリマーの1重量部当り、(b)1,000〜200,000の範囲内の数平均分子量を有する1種またはそれより多くの油溶性ポリエステルの0.1〜20重量部の相乗性流れ改善用併用物を、全組成物の重量に基づいて0.001〜1重量%の範囲内で含有するワックス含有留出石油燃料であって、エチレン主鎖のポリマーは、エチレンと、C2-C10α-モノオレフィンやモノエチレン製不飽和アルキルエステルコモノマーなど、あるいは、これらの混合物からなる群から選ばれるコモノマーからなるものであることが記載されている(請求項1)。
刊行物13に対応する日本の公開公報である刊行物14(特開昭51-123203号公報(同甲第14号証))にも、刊行物13と同様の内容が記載されている(特許請求の範囲)。
刊行物15(特開昭61-287985号公報(同甲第15号証))には、多割合の石油の中質および/または重質留分からなる燃料油にエチレン性不飽和エステル単量体含有量5〜50重量%、数平均分子量800〜2,900、分子量分布4.0以下であるエチレン-エチレン性不飽和エステル共重合体を10〜2,000ppm添加する燃料油の低温流動性改良方法が記載され(特許請求の範囲第1項)、エチレンと共重合されるエチレン製不飽和エステルのコモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどの脂肪族ビニルエステル、またはアクリル酸メチル等のアクリル酸エステルなどの1種または2種以上が用いられることが記載されている(4頁左上欄2〜15行)。
刊行物16(特開昭57-209995号公報(同甲第16号証))には、石油の中質または/および重質油留分からなる燃料油に残渣油およびエチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸エステルとの共重合体を添加する燃料油の低温流動性改良方法が記載され(特許請求の範囲第1項)、エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸エステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの1種または2種以上が用いられること、および、エチレン共重合体は製造条件を変えて物性を変化させた種類のものとの併用もしくは混合物でもよいことが記載されている(3頁左上欄7行〜右上欄2行)。
刊行物17(特開昭63-113097号公報(同甲第17号証))には、(A)多割合の石油の中質および/または重質留分からなる燃料油に、(B)硫黄分が1.0重量%未満の原油を蒸留して得た残渣油を、10%残油の残留炭素分(JISK2270にて測定)として0.1〜0.4重量%の範囲になる量、および(C)エチレン性不飽和エステル単量体含有量10〜50重量%、数平均分子量800〜5,000であるエチレン-エチレン性不飽和エステル共重合体10〜2,000ppmを配合してなる燃料油組成物が記載され(特許請求の範囲)、エチレンと共重合されるエチレン性不飽和エステルのコモノマーとして、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの1種または2種以上が用いられること、および、エチレン共重合体は製造条件を変えて物性を変化させた種類のものとの併用もしくは混合物でもよいことが記載されている(5頁左下欄12行〜右下欄8行)。
刊行物11〜17も、刊行物7〜10と同様にエチレンとビニルエステルとの共重合体のビニルエステル単量体として2種類以上を用いてもよいことを示唆するにとどまり、実際に、エチレンと2種類のビニルエステルとからなる三元共重合体が記載されているとはいえない。
したがって、刊行物7〜17には、本件発明1の成分(a)に相当する成分が記載されているとはいえない。

刊行物18(国際公開第91/15562号パンフレット(同甲第18号証))には、(a)少なくとも30,000の数平均分子量および50〜85モル%のエチレン含量を有するエチレン-α-オレフィンコポリマー、(b)少なくとも10モル%のエステル含量を有するエチレン-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルコポリマー、並びに(c)コームポリマー からなる燃料油添加剤組成物が記載され(請求項1)、添加剤組成物及び燃料油組成物は、低温流動性を改良するための他の添加剤を含有してもよく、それらの多くは先行技術において使用中であるから又は文献から公知である。それらには、(b)の定義の範囲外に当たるエチレン不飽和-不飽和モノカルボン酸エステルコポリマー、例えば10モル%未満の酢酸ビニル含量を有するエチレン-酢酸ビニルコポリマーが挙げられることが記載されている(10頁19〜27行)。
刊行物18には、(b)として不飽和モノカルボン酸エステルを2種用いた三元共重合体を用いることは記載されていないので、本件発明1の成分(a)については記載されておらず、ただ、本件発明1の成分(b)に相当する、公知の低温流動改良剤である10モル%未満の酢酸ビニル含量を有するエチレン-酢酸ビニルコポリマーを併用してもよいことを示唆するにとどまる。
以上のとおり、刊行物1〜18には、本件発明1の成分(a)あるいは(b)のいずれかが記載されているだけであり、成分(a)と(b)を併用することは記載されておらず、多数存在する低温特性を向上させる成分の中から、相乗的効果を目的として成分(a)と(b)を組み合わせることが当業者にとって容易であるとまではいえない。
そして、本件発明1は、成分(a)と(b)の併用により、訂正明細書に記載のブレンドによりいずれの物質単独よりも低いCFPPを与えるという効果を奏する。
よって、本件発明1は、刊行物1〜18に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることはできたとはいえない。

本件発明2〜3,6〜7は、本件発明1の(a)及び(b)の構造を限定した発明であり、本件発明8〜14は、さらに他の成分を含むことを特定した発明であり、本件発明15〜17は、本件発明1の(a)及び(b)の含有量を特定した発明であり、本件発明18は、本件発明1に記載の添加剤組成物を含む燃料油の低温特性改良剤の発明であるから、本件発明1が刊行物1〜18に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本件発明2〜3,6〜18に係る発明も、刊行物1〜18に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項違反について)
(1)特許異議申立人は、特許請求の範囲の請求項8のR11とR12の定義が不可解であるから、一般式(A)を有するポリマーが何を指すのが全く不明である旨を主張する。
確かに、R11とR12の定義には、それ自体では技術的に不確かな部分があるものの、請求項8の記載全体をみれば、R12COOR11において、R12が2価の炭化水素基であることは、当業者が容易に理解し得る程度の事項であるといえる。
(2)特許異議申立人は、請求項15〜17の「添加剤組成物」に何が含まれるのか不明である旨を主張している。
しかしながら、訂正前の請求項15〜17において引用している請求項の中で「添加剤組成物」との表現を用いているのは、請求項1に記載された「油溶性エチレンコポリマー及び更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物」だけであり、当該添加剤組成物は、訂正後の請求項1では(a)と(b)として記載されているので、訂正前の請求項15〜17における「添加剤組成物」は、訂正後の請求項1の(a)と(b)を意味していたことは明らかであり、訂正後の請求項15〜17においては、「添加剤組成物」は「成分(a)及び(b)」と訂正されたので、訂正後の請求項15〜17の記載は明確である。
(3)特許異議申立人は、本件特許明細書の実施例における例A〜Gのポリマーは、式Iと式IIの単位が異ならないので請求項1の油溶性エチレンコポリマーの範囲外であり、例Hのポリマーは請求項1の「少なくとも5%」の規定の範囲外のものであるから、特許請求の範囲の記載と実施例の記載が一致しない旨を主張している。
しかしながら、例A〜Gは、酢酸ビニルは完全に加水分解されていないので、残存する酢酸ビニルと他のビニルエステル単位を含んでおり、異なる式Iと式IIの単位を含有している。また、例Hは訂正により削除されたので、訂正後の特許請求の範囲の記載と実施例の記載は一致している。
(4)特許異議申立人の、エステル基はアルキル基であり得ず請求項10の記載は不可解であるとの主張は、訂正後の請求項10の記載では解消されている。
(5)特許異議申立人の、請求項13の「C14フマル酸エステル」「C14/C16フマル酸エステル」における「C14」「C14/C16」はフマル酸エステル全体の炭素数を表すものと理解されるが、そうすると請求項8の置換基の定義と矛盾している旨を主張している。
しかしながら、「C14」「C14/C16」はフマル酸エステル全体の炭素数ではなく、フマル酸と反応してエステルを形成するアルコール成分における炭素数を意味するものであることは、請求項11の記載からみても明らかであるから、請求項13と請求項8の記載は矛盾しない。
したがって、訂正明細書の記載が不備であるとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知の理由、特許異議申立ての理由及び証拠によって本件発明1〜3,6〜18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3,6〜18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
油添加剤及び組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする];及び(b)エチレン-酢酸ビニルコポリマーまたはエチレン-プロピオン酸ビニルコポリマーから選ばれる更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。
【請求項2】R3が少なくとも4個の炭素原子を有する線状アルキル基を表す請求の範囲第1項に記載の組成物。
【請求項3】RがHを表す請求の範囲第1項または第2項に記載の組成物。
【請求項4】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]であって、エチレン-不飽和エステルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである該油溶性エチレンコポリマー;及び(b)更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。
【請求項5】(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]であって、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられたものである該油溶性エチレンコポリマー;及び(b)更なるエチレン-ビニルエステルコポリマーを含む燃料油用ワックス成長アレスター添加剤組成物及び燃料油を含むことを特徴とする燃料油組成物。
【請求項6】エチレン-ビニルエステルコポリマーが、ワックス核形成剤である請求の範囲第1項〜第5項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】ワックス核形成剤が請求の範囲第1項に記載の油溶性エチレンコポリマーのエステル含量よりも少なくとも2モル%低いエステル含量を有するエチレン-ビニルエステルコポリマーである請求の範囲第6項に記載の組成物。
【請求項8】以下の一般式(A)を有するポリマーをまた含む請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1項に記載の組成物。
一般式(A):

(式中、D=R11、COOR11、OCOR11、R12COOR11、またはOR11、
E=H、CH3、D、またはR12、
G=HまたはD
J=H、R12、R12COOR11、またはアリール基もしくは複素環基、K=H、COOR12、OCOR12、OR12、またはCOOH、L=H、R12、COOR12、OCOR12、COOH、またはアリール、R11≧C10ヒドロカルビル、R12≧C1ヒドロカルビル、かつm及びnはモル比を表し、mは1.0〜0.4の範囲であり、nは0〜0.6の範囲である)
【請求項9】一般式(A)で表されるポリマーが酢酸ビニルとフマル酸エステルのコポリマーである請求の範囲第8項に記載の組成物。
【請求項10】エステル基のアルキル基が12〜20個の炭素原子を有する請求の範囲第9項に記載の組成物。
【請求項11】エステル基が14個の炭素原子を有するアルコール、または14個及び16個の炭素原子を有するアルコールの混合物から誘導される請求の範囲第10項に記載の組成物。
【請求項12】請求項8に記載の一般式(A)を有するポリマー2種以上の混合物を含む請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】混合物が、(i)C14フマル酸エステル-酢酸ビニルコポリマー及び(ii)C14/C16フマル酸エステル-酢酸ビニルコポリマーを含む請求の範囲第12項に記載の組成物。
【請求項14】無水フタル酸と2モル比の水添牛脂アミンのアミド-アミン塩、またはオルト-スルホ無水安息香酸の相当するアミド-アミン塩をまた含む請求の範囲第1項〜第13項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】油の重量を基準として、0.0005〜1%の合計比率の成分(a)及び(b)を含む請求の範囲第1項〜第14項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】油の重量を基準として、0.001〜0.1%の合計比率の成分(a)及び(b)を含む請求の範囲第15項に記載の組成物。
【請求項17】油の重量を基準として、0.004〜0.06%の合計比率の成分(a)及び(b)を含む請求の範囲第16項に記載の組成物。
【請求項18】請求の範囲第1項〜第14項のいずれか1項に記載の添加剤組成物を含む、燃料油の低温特性改良剤。
【発明の詳細な説明】
本発明は、油組成物、主として燃料油組成物、更に特別には、低温でワックス生成に感受性の燃料油組成物、及びこのような燃料油組成物用の添加剤組成物に関する。
暖房用オイル及びその他の蒸留石油燃料、例えば、ディーゼル燃料は、燃料にその流動能を失わせるゲル構造を形成するような方法で低温でワックスの大結晶として沈殿する傾向があるアルカンを含む。燃料が依然として流動する最低温度が流動点として知られている。
燃料の温度が低下し、流動点に接近するにつれて、燃料を配管及びポンプを通して輸送するのに難点が生じる。更に、ワックス結晶は流動点より高い温度で燃料配管、スクリーン及びフィルターを詰まらせる傾向がある。これらの問題は当業界で良く認められており、燃料油の流動点を低下するための種々の添加剤が提案されており、その多くが商業上使用されている。同様に、生成するワックス結晶のサイズを減少し、またその形状を変化させるためのその他の添加剤が、提案されており、商業上使用されている。一層小さなサイズの結晶が望ましい。何となれば、それらはフィルターを詰まらせそうにないからである。或る種の添加剤は、ワックスが板状体(platelets)として結晶化することを抑制し、またそれに針状の習性をとらせ、得られる針状体はおそらく板状体よりも更にフィルターを通過し易い。また、添加剤は生成した結晶を燃料中に懸濁状態に保つ効果を有することができ、また得られる減少された沈降が閉塞の防止を助ける。
有効なワックス結晶の変性(CFPP及びその他の操作性試験だけでなく、模擬性能及びフィールド性能により測定されるようなもの)は、エチレン-酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニルコポリマー(EVACまたはEVPC)系流動改質剤により達成し得る。
欧州特許出願第45342号明細書には、2-エチルヘキサン酸、アクリル酸、及びフタル酸によるエステル化により変性されたEVACをベースとする低温流動添加剤が記載されている。
“Wissenschaft und Technik”42(6),238(1989)において、M.Ratsch及びM.Gebauerは、とりわけ、n-ヘキサン酸でエステル化されたEVACを含む低温流動添加剤を記載している。
米国特許第3961916号明細書には、ワックス成長アレスター及び核形成剤を含む中間留出流動改質剤が記載されており、前者は高エステル含量を有する低分子量エチレン-ビニルエステルコポリマーであることが好ましく、後者は低エステル含量を有する高分子量コポリマーであることが好ましく、エステルの両方が酢酸ビニルであることが好ましいが、必ずしも酢酸ビニルである必要はない。
ドイツ特許出願第2407158号明細書には、低分子量エチレン-ビニルエステルコポリマーとエチレン-アクリル酸エステルコポリマーの混合物(両者は少なくとも40モル%のエステル成分を含む)を含む中間留出流動改質剤が記載されている。
本発明は、油の低温流動性を改良するのに有効な油、特に、燃料油添加剤を提供することに関するものであり、エチレンと不飽和エステルの少なくとも2種の異なるコポリマーを含む組成物、またはエチレンと少なくとも2種の異なる型の不飽和エステル誘導単位のコポリマーを含む組成物が、従来提案された組成物よりも利点を有する有効な低温流動性改質剤であるという観察に基いている。
第一の局面において、本発明は、(a)エチレンから誘導された単位に加えて、式
-CH2-CRR1- I
の単位及び式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[コポリマー中の式I及び式IIの単位の合計比率は7.5〜35モル%の範囲内であり、夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式OOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、式Iの単位は式IIの単位とは異なり、また式Iが-CH2-CH(OOCH3)-を表す場合、単位Iのモル比率は少なくとも5%であることを条件とする]、または(b)(i)エチレンから誘導された単位に加えて、7.5〜35モル%の式
-CH2-CRR1- I
の単位を有する油溶性エチレンコポリマーと、
(ii)エチレンから誘導された単位に加えて、7.5〜35モル%の式
-CH2-CRR2- II
の単位を有する油溶性エチレンコポリマー[夫々のRは独立にHまたはCH3を表し、かつ夫々のR1及びR2は独立に式COOR3またはOOCR3(式中、夫々のR3は独立にヒドロカルビル基を表す)の基を表し、但し、コポリマー(i)はコポリマー(ii)とは異なり、かつ式I及びIIの両方が-CH2-CH(OOCCH3)-を表さないことを条件とする]
を含む組成物を提供する。
本明細書に使用される“ヒドロカルビル”という用語は、分子の残部に直接結合された炭素原子を有し、かつ炭化水素または主として炭化水素の特性を有する基を表す。これらの中に、脂肪族基(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式基(例えば、シクロアルキルまたはシクロアルケニル)、芳香族基、脂肪族置換芳香族基及び脂環式置換芳香族基、並びに芳香族置換脂肪族基及び芳香族置換脂環式基を含む炭化水素基が挙げられる。脂肪族基は飽和されていることが有利である。有利には、ヒドロカルビル基はせいぜい30個、好ましくはせいぜい15個、更に好ましくはせいぜい10個、最も好ましくはせいぜい8個の炭素原子を含む。
有利には、RはHを表す。
有利には、R3はアルケニル基または上記のように、好ましくは、アルキル基を表し、これは線状であることが有利である。アルキル基またはアルケニル基が、例えば、2-エチルヘキシル基のように分枝している場合、そのα-炭素原子はメチレン基の一部であることが有利である。有利には、アルキル基またはアルケニル基は30個までの炭素原子、好ましくは1個(アルケニルの場合には2個)から14個の炭素原子、更に好ましくは4個から10個までの炭素原子を含む。アルキル基またはアルケニル基の例として、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、並びにペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基及びイコシル基の異性体、好ましくは線状異性体、並びにそれらの相当するアルケニル基、有利にはω-アルケニル基が挙げられる。R1及び/またはR2が式OOCR3のものである場合、R3はペンチルを表すことが最も好ましく、上記のように、n-ペンチルであることが有利である。
シクロアルキル基、アルカリール基及びアリール基として、例えば、シクロヘキシル、ベンジル及びフェニルが挙げられる。
また、一種以上のコポリマーは、上記の式以外の式の単位、例えば、式
-CH2-CRR4- III
(式中、R4は-OHを表す)
の単位、または式
-CCH3(CH2R5)-CHR6- IV
(式中、R5及びR6は夫々独立に水素または4個までの炭素原子を有するアルキル基を示す)の単位を含んでいてもよく、単位IVはイソブチレン、2-メチル-2-ブテンまたは2-メチル-2-ペンテンから誘導されることが有利である。
式IまたはIIの単位は末端単位であってもよいが、内部単位であることが有利である。有利には、式-CRR1-CH2-及び-CRR2-CH2-の単位はそのポリマーの10〜25、好ましくは10〜20、最も好ましくは11〜16モル%に相当する。
コポリマー(a)並びにコポリマーb(i)及び(ii)の夫々は、ゲル透過クロマトグラフィーにより測定して、せいぜい14000、有利にはせいぜい10,000、更に有利には1,400〜7,000、好ましくは2,000〜5,500の範囲、最も好ましくは約4,000の数平均分子量を有することが有利である。好ましい数平均分子量はR3中の炭素原子の数に或る程度依存し、その数が多い程、上記の範囲内の好ましい分子量は高い。有利には、ポリマーb(i)及びb(ii)の数平均分子量はせいぜい2000、更に特別にはせいぜい1000だけ異なる。
R1またはR2がOOCR3を表すポリマーが好ましく、R1とR2の両方が共にOOCR3を表すことが更に好ましい。
同じ添加剤組成物中にポリマー(a)とポリマー(b)の混合物の両方を使用することが本発明の範囲内にある。また、型I及びIIの2種より多い異なる単位を有するポリマー(a)、または2種以上のポリマー(a)の混合物を使用することが本発明の範囲内にある。ポリマー(b)の混合物を使用する場合、ポリマー(b)i中の単位Iはポリマー(b)ii中の単位IIと異なることが有利であるが、単位I及びIIが同じであるコポリマーの混合物を使用することがまた本発明の範囲内にあり、但し、これらのポリマーが少なくとも一つの局面において、例えば、ポリマー中の単位I及びII中の比率、ポリマーの分子量、もしくは分子量分布、ポリマーの直線性、またはポリマー中のその他の単位の存在を異にすることを条件とする。
また、本発明は、添加剤組成物を含む油、並びに油または油と混和性の溶剤と混合して添加剤組成物を含む添加剤濃厚物を提供する。更に、本発明は油の低温特性を改良するための添加剤組成物の使用を提供する。油は原油、即ち、掘削から直接得られた、精製前の油であってもよく、本発明の組成物はその中の流動性改質剤としての使用に適する。
油は潤滑油であってもよく、これは動物油、植物油または鉱油、例えば、ナフサまたはスピンドル油からSAE30、40または50の潤滑油グレードに至る範囲の石油留分、ヒマシ油、魚油または酸化鉱油であってもよい。このような油はその目的とする用途に応じて添加剤を含んでもよい。例は粘度指数改良剤、例えば、エチレン-プロピレンコポリマー、コハク酸系分散剤、金属を含む分散添加剤及び亜鉛ジアルキル-ジチオホスフェート耐磨耗添加剤である。本発明の組成物は流動性改質剤、流動点低下剤または脱ワックス助剤として潤滑油中の使用に適し得る。
油は、燃料油、特に、中間留出燃料油であってもよい。このような蒸留燃料油は一般に110℃〜500℃、例えば、150℃〜400℃の範囲内で沸騰する。燃料油は、大気圧蒸留物または減圧蒸留物、もしくは分解ガス油または直留物及び熱分解及び/または接触分解された蒸留物のあらゆる比率のブレンドであってもよい。最も普通の石油蒸留燃料はケロシン、ジェット燃料、ディーゼル燃料、暖房用オイル及び重燃料油である。暖房用オイルは大気圧直留物であってもよく、またはそれは少量、例えば、35重量%までの減圧ガス油もしくは分解ガス油またはこれらの両方を含んでいてもよい。上記の低温流動性の問題がディーゼル燃料及び暖房用オイルで最も通常に見られる。また、本発明は植物系燃料油、例えば、ナタネ油に適用し得る。
一種以上の添加剤は、周囲温度で油の重量当たりの重量基準で少なくとも1000ppmの程度まで油に可溶性であることが好ましい。しかしながら、添加剤の少なくとも一部が油の曇り点付近で溶液から析出し、生成するワックス結晶を改質するように機能し得る。
本発明の組成物(b)において、ポリマー(i)はエチレン-酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニルコポリマーであることが有利である。有利には、プロトンNMRにより測定されるような100のメチレン単位当たりのメチル基の数により表されるようなポリマーの直線性は1〜15である。
コポリマー、特に、エチレン-酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニルコポリマーは、当業界で知られている方法のいずれかにより、例えば、遊離基開始による溶液重合、またはオートクレーブもしくは管形反応器中で都合よく行われる高圧重合によりつくられてもよい。
また、コポリマーは、エチレン-酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニルコポリマー、またはエチレン-メチルもしくはエチル(メタ)アクリレートコポリマーのケン化及び再エステル化によりつくられてもよい。
コポリマーの別の製造方法は、導入される酸またはアルコールが除去される酸またはアルコールよりも揮発性ではないことを条件として、エステル交換によるものである。
所望により、全ての、または実質的に全ての存在するエステル基が加水分解され、そして所望の鎖置換基により完全に置換されてもよい。また、一部のみが加水分解されてもよく、その結果、得られるポリマーは、例えば、アセテート側鎖及び更に長い長さの鎖を含む。
コポリマー(a)を製造しようとする場合、エステルモノマー(そのポリマーを直接製造しようとする場合)と酸またはアルコール反応体(再エステル化またはエステル交換が行われる場合)の混合物が、これらの物質の反応性の相違を考慮して、適当な比率で使用される。
本発明の実施態様(a)において、単位Iが2:98〜98:2、有利には5:95〜95:5、更に特別には1:10〜10:1の範囲のモル比の-CH2-CH(OOCCH3)-である場合には上記の但し書きに従って、単位I及び単位IIが存在することが好ましい。実施態様(b)において、単位I及び単位IIを含むポリマーは、10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の重量比、更に好ましくは約1:1の比で存在することが有利である。実施態様(a)において、式Iが-CH2-CH(OOCCH3)-を表す場合、単位I対単位IIの比は20:80〜95:5、好ましくは3:1〜1:3の範囲内、更に好ましくは約1:1の比であることが有利である。
添加剤組成物及び油組成物は、低温特性及び/またはその他の特性を改良するためのその他の添加剤を含んでいてもよく、これらの多くは当業界で使用されており、または文献により知られている。
例えば、組成物はまた更に別のエチレン-ビニルエステルコポリマーを含んでいてもよい。上記のように、米国特許第3961916号を参考にして、流動性改質剤組成物はワックス成長アレスター及び核形成剤を含んでいてもよい。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、本件出願人は、本発明の添加剤組成物が主としてアレスターとして作用し、また核形成剤、例えば、1200〜20000の範囲の数平均分子量及び0.3〜12モル%のビニルエステル含量、有利には上記の添加剤組成物中の何れかのエステルの含量よりも低いエステル含量、好ましくは少なくとも2、更に好ましくは少なくとも3モル%低いエステル含量を有するエチレン-ビニルエステル、特に酢酸ビニルの添加により利益を得ると考える。また、添加剤組成物はコームポリマー(くし形ポリマー)を含んでいてもよい。このようなポリマーが“コーム状ポリマー:構造及び性質”N.A.Plat及びV.P.Shibaev,J.Poly.Sci.Macromolecular Revs.,8,117〜253頁(1974)に説明されている。有利には、コームポリマーは、少なくとも25、好ましくは少なくとも40、更に好ましくは少なくとも50モル%の単位が少なくとも6個、好ましくは少なくとも10個の原子を含む側鎖を有するホモポリマーまたはコポリマーである。
好ましいコームポリマーの例として、一般式

のコームポリマーが挙げられる。
(式中、D=R11、COOR11、OCOR11、R12COOR11、またはOR11、E=H、CH3、D、またはR12、G=HまたはDJ=H、R12、R12COOR11、またはアリール基もしくは複素環基、K=H、COOR12、OCOR12、OR12、またはCOOH、L=H、R12、COOR12、OCOR12、COOH、またはアリール、R11≧C10ヒドロカルビル、R12≧C1ヒドロカルビル、かつm及びnはモル比を表し、mは1.0〜0.4の範囲であり、nは0〜0.6の範囲である。R11は10〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表すことが有利であり、一方、R12は1〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表すことが有利である)
コームポリマーは、所望により、または必要により、その他のモノマーから誘導された単位を含んでいてもよい。2種以上の異なるコームポリマーを含むことは本発明の範囲内にある。
これらのコームポリマーは、無水マレイン酸またはフマル酸とその他のエチレン性不飽和モノマー、例えば、α-オレフィンまたは不飽和エステル、例えば、酢酸ビニルとのコポリマーであってもよい。等モル量のコモノマーが使用されることが好ましいが必須ではなく、2対1〜1対2の範囲のモル比が好適である。例えば、無水マレイン酸と共重合し得るオレフィンの例として、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、及び1-オクタデセンが挙げられる。
コポリマーは、あらゆる好適な技術によりエステル化されてもよく、また無水マレイン酸またはフマル酸が少なくとも50%エステル化されることが好ましいが必須ではない。使用し得るアルコールの例として、n-デカン-1-オール、n-ドデカン-1-オール、n-テトラデカン-1-オール、n-ヘキサデカン-1-オール、及びn-オクタデカン-1-オールが挙げられる。また、アルコールは鎖当たり1個までのメチル分枝を含んでもよく、例えば、1-メチルペンタデカン-1-オール、2-メチルトリデカン-1-オールであってもよい。アルコールは直鎖アルコールと単一のメチル分枝アルコールの混合物であってもよい。市販のアルコール混合物ではなく純粋なアルコールを使用することが好ましいが、混合物が使用される場合、R12はアルキル基中の炭素原子の平均数を表す。1位または2位に分枝を含むアルコールが使用される場合、R12はそのアルコールの直鎖の主鎖セグメントを表す。
これらのコームポリマーは、特に、フマレートポリマーまたはイタコネートポリマー及びコポリマー、例えば、欧州特許出願第153176号、同第153177号、及び同第225688号、並びにWO91/16407号明細書に記載されているようなものであってもよい。
特に好ましいフマレートコームポリマーは、アルキルフマレートと酢酸ビニルのコポリマー(この場合、そのアルキル基は12〜20個の炭素原子を有する)、更に特別に、例えば、フマル酸と酢酸ビニルの等モル量の混合物を溶液重合し、得られるコポリマーをアルコールまたはアルコール(これらは直鎖アルコールであることが好ましい)の混合物と反応させることによりつくられたポリマー(この場合、そのアルキル基は14個の炭素原子を有し、またはそのアルキル基はC14/C16アルキル基の混合物である)である。その混合物が使用される場合、それは重量基準で1:1の直鎖C14アルコールと直鎖C16アルコールの混合物であることが有利である。更に、C14エステルと混合C14/C16エステルの混合物が有利に使用し得る。このような混合物において、C14対C14/C16の比は重量基準で1:1〜4:1、好ましくは2:1〜7:2の範囲、最も好ましくは約3:1であることが有利である。
その他の好適なコームポリマーは、α-オレフィンのポリマー及びコポリマー及びスチレンと無水マレイン酸のエステル化コポリマー、並びにスチレンとフマル酸のエステル化コポリマーである。2種以上のコームポリマーの混合物が本発明に従って使用されてもよく、上記のように、このような使用が有利であり得る。
また、添加剤組成物は、極性窒素化合物、例えば、米国特許第4211534号明細書に記載されているもの、特に、無水フタル酸と2モル比の水添牛脂アミンのアミド-アミン塩、またはオルト-スルホ無水安息香酸の相当するアミド-アミン塩を含んでいてもよい。
また、本発明の添加剤組成物は、少なくとも30,000の数平均分子量を有する、エチレンと少なくとも一種のα-オレフィンのコポリマーを含んでいてもよい。α-オレフィンはせいぜい20個の炭素原子を有することが好ましい。このようなオレフィンの例は、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、n-オクテン-1、イソオクテン-1、n-デセン-1、及びn-ドデセン-1である。また、コポリマーは、少量、例えば、10重量%までのその他の共重合性モノマー、例えば、α-オレフィン以外のオレフィン、及び非共役ジエンを含んでいてもよい。好ましいコポリマーはエチレン-プロピレンコポリマーである。この種の2種以上の異なるエチレン-α-オレフィンコポリマーを含むことは、本発明の範囲内である。
エチレン-α-オレフィンコポリマーの数平均分子量は、上記のように、ポリスチレン標準物質に対してゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により測定して、少なくとも30,000、有利には少なくとも60,000、好ましくは少なくとも80,000である。機能上、上限がないが、混合の難点が約150,000より上の分子量で増大された粘度により生じ、好ましい分子量範囲は60,000〜80,000から120,000までである。
有利には、コポリマーは50〜85%のモルエチレン含量を有する。更に有利には、エチレン含量は57〜80%の範囲内にあり、それは58〜73%の範囲内にあることが好ましく、62〜71%であることが更に好ましく、65〜70%であることが最も好ましい。
好ましいエチレン-α-オレフィンコポリマーは、62〜71%のモルエチレン含量及び60,000〜120,000の範囲の数平均分子量を有するエチレン-プロピレンコポリマーであり、特に好ましいコポリマーは62〜71%のエチレン含量及び80,000〜100,000の分子量を有するエチレン-プロピレンコポリマーである。
コポリマーは、例えば、チーグラー型触媒を使用して当業界で知られている方法のいずれかにより調製し得る。ポリマーは実質的に無定形であるべきである。何となれば、高度に結晶性のポリマーは低温で燃料油に比較的不溶性であるからである。
また、添加剤組成物は、気相浸透圧法により測定して、有利にはせいぜい7500、有利には1,000〜6,000、好ましくは2,000〜5,000の数平均分子量を有する更に別のエチレン-α-オレフィンコポリマーを含んでいてもよい。適当なα-オレフィンは先に示されたとおりであり、またはスチレンであり、再度、プロピレンが好ましい。エチレン含量は60〜77モル%であることが有利であるが、エチレン-プロピレンコポリマーにつき、重量基準で86モル%までのエチレンが有利に使用し得る。
また、組成物は、特に、処理される燃料がワックス結晶化核形成剤として作用する高級アルカンを欠いている場合には、有利には鎖中に18〜22個の炭素原子を含む脂肪酸のポリ(エチレングリコール)エステルを含んでいてもよい。
加えて、添加剤組成物及び燃料油組成物は、その他の目的、例えば、粒状物放出の低減または着色及び貯蔵中の沈降形成の抑制のための添加剤を含んでいてもよい。
本発明の燃料油組成物は、本発明の添加剤、即ち、燃料の重量基準で、0.0005%〜1%、有利には0.001〜0.1%の合計比率の上記の成分(a)及び(b)を含むことが有利である。
下記の実施例は本発明を説明する。実施例中、全ての部数及び%は重量基準であり、また数平均分子量は、特にことわらない限り、ゲル透過クロマトグラフィーにより測定される。
例A
35重量%の酢酸ビニルを含み、Mn3,000、分枝度4CH3/100CH2のエチレン-酢酸ビニルコポリマー10kg(3.33モル)を、冷却器を備えたフラスコに仕込み、窒素シール下に攪拌しながら60℃に加熱する。n-ブタノール1.5リットル中のナトリウムメトキシド216g(1モル)、続いてn-ブタノール更に4リットルをそのポリマーに注意して添加する。その溶液は透明からオレンジ色に変化し、その温度は46℃に低下する。次いでその混合物を90℃に加熱し、着色は濃赤色に変化し、2時間にわたって攪拌しながらその温度に保つ。次いでその反応混合物を370mmHgの圧力で104℃に加熱し、酢酸ブチル約4リットルを蒸留して除く。残っている粘稠なポリマーを、水100リットル及びアセトン5リットルを含む酸性(HClの36重量%の溶液150ml)にされた溶媒に90℃で注ぐ。その溶液を3時間攪拌し、固体をpH6で一夜沈降させる。排出後、ポリマーを微細なメッシュ布で濾過し、70℃で乾燥させる。
得られるポリマー(Mn3300、NMRにより測定して85%加水分解されている)20gをトルエン100mlとピリジン10mlの無水混合物に溶解する。トルエン100mlに溶解した塩化ラウロイル30mlを滴下して添加し、その反応混合物を室温で1時間攪拌する。得られる固体を濾別し、溶媒を減圧で除去して粘稠なポリマーを得る。更に120℃で減圧を乾燥して揮発物を除去して、R1が式-OOCR3(R3はn-ウンデシルを表す)の基を表すポリマー21gを得る。収量21g、Mn5000。
例B
ケン化されたポリマー50gを塩化ミリストイルでエステル化した以外は例Aの第二パートを繰り返して、R1が-OOCR3(R3はn-トリデシルを表す)を表すポリマーを得た。収量40g、Mn5000。
例C
エステル化が塩化ヘキサノイルによるものであった以外は例Aの第二パートを繰り返して、-OOCR3中、R3がn-ペンチルを表すポリマーMn3700を得た。
例D
ナトリウムメトキシド19.3g及びn-ブタノール90gを使用して、29重量%の酢酸ビニルを含み、Mn3,300、分枝度CH3/100CH2:4のエチレン-酢酸ビニルコポリマー100gをケン化して、例Aの第一パートの操作を繰り返した。収量:74g、Mn3000、93%加水分解。
得られるケン化ポリマー20gを、トルエン150ml及びピリジン6mlを含む無水溶媒に室温で溶解する。トルエン100ml中の塩化ヘキサノイル10mlを滴下して添加し、その反応混合物を室温で5時間攪拌する。生成物の例Aに記載されたようにして乾燥させ、同様のポリマー20gを得る。
例E
ケン化生成物を塩化n-ヘプタノイルで再エステルした以外は、例Cの操作を繰り返した。
例F
ケン化生成物を塩化n-オクタノイルで再エステルした以外は、例Cの操作を繰り返した。
例G
3リットルの攪拌オートクレーブに、シクロヘキサン636g、酪酸ビニル148.5g及び124℃で97バール(9.7MPa)の圧力を得るのに充分なエチレンを仕込んだ。t-ブチルペルオクトエート18gをシクロヘキサン85mlに溶解し、酪酸ビニル更に351g及び上記の圧力を維持するためのエチレンと共に75分間にわたって計量して入れた。10分間のソーク時間後に、反応器をキシレンでフラッシした。溶媒の蒸発後に、エチレン-酪酸ビニルコポリマー992gを回収した。酪酸ビニル含量36%、Mn2400。
下記の燃料を下記の実施例に記載した試験に使用した。

上記の表中のCFPPは、“Journal of the Institute of Petroleum”,52(1966),173に記載されたようにして測定される。
実施例1〜4
これらの実施例及び以下に番号を付した実施例において、上記の例A〜Gに記載されたようにしてつくられたコポリマーを添加剤組成物中に使用した。その内の幾つかは上記の一種以上の燃料と混合してエチレン/酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニルコポリマーを含む。関係する燃料のCFPPの低下におけるコポリマーの混合物の効力を個々のコポリマー単独の効力と比較した。夫々の場合、効力を重量基準で重量につき測定した。下記の表は、種々の添加剤を示された濃度で使用した場合のCFPP、及び添加剤を含まない同燃料のCFPPを示す。
添加剤(a):エチレン/酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル29%、Mn2,500、分枝(CH3/100CH2)4添加剤(b):例Cの生成物添加剤(a)+(b):等しい重量の(a)及び(b)

実施例5〜8
これらの実施例において、種々の燃料のCFPPの低下を、添加剤を使用して比較した。添加剤(a):エチレン/プロピオン酸ビニルコポリマー、プロピオン酸ビニル含量38重量%、Mn5200、CH3/100CH2:4.7添加剤(b):例Cの生成物添加剤(a)+(b):等しい重量の(a)及び(b)

実施例9〜13これらの実施例において、異なる鎖長の酸により再エステル化された例Aのケン化エチレン/酢酸ビニルコポリマーを単独で使用し、また実施例1〜4で成分(a)として使用した通常のコポリマーと1:1に混合して使用した。燃料番号10、CFPP+3を使用し、処理比率は500ppmであった。

実施例14〜16
実施例9〜13の操作を、100ppmの処理比率で燃料番号8、CFPP-4℃につき繰り返した。

実施例17〜21
これらの実施例において、例Bの生成物を種々の処理比率で種々の燃料中で単独で使用し、また実施例1〜4で成分(a)として使用した通常のコポリマーと1:1に混合して使用した。

実施例22
この実施例において、例Gの生成物であるエチレン-酢酸ビニルコポリマーを燃料10、CFPP+3℃中で500ppmの全処理比率で単独で使用し、また実施例1〜4で成分(a)として使用した添加剤(a)と1:1に混合して使用した。添加剤(a)単独で使用するCFPPは-14℃であり、エチレン-酪酸ビニルコポリマー単独を使用すると、それは-10℃であり、また1:1混合物は-16℃のCFPPを与えた。
実施例23及び24
添加剤(a)として実施例5に使用したエチレン/プロピオン酸ビニルコポリマーをこれらの実施例において単独で使用し、また実施例23では成分(a)としてのエチレン-酢酸ビニルコポリマー、29%の酢酸ビニル、Mn3300と1:1に混合して使用し、また実施例24では成分(a)としての例Gの生成物と1:1に混合して使用した。

実施例25
例Dの生成物(ポリマー(a))及び例Cの生成物(ポリマー(b))を200ppmの処理比率で、また200ppmの全処理比率で等しい比率で、燃料の3種の試料に別々に添加剤する。

結果は、エステルの鎖長が同じである場合でさえも、2種の異なるポリマーの混合物が使用される場合に得られた改良を明らかに示す。
実施例26 実施例1でポリマー(a)として使用したエチレン-酢酸ビニルコポリマーを、燃料中で200ppmの処理比率、または全処理比率で、ポリマー(b)としての例Cの生成物と共に、この実施例でポリマー(a)としてまた使用した。

実施例27〜38
これらの実施例において、下記の表示を使用した。
物質表示例Cの生成物C例Dの生成物D実施例1で成分(a)として使用したコポリマー1夫々、13.5%のVA、Mn5000、及び29%のVA、Mn3300の14%のEVAコポリマーと86%のEVAコポリマーの混合物2個々の表示物質及び夫々のブレンド中で等しい比率のこれらのブレンドを種々の処理比率で種々の燃料中に使用した。表示物質のブレンドは、いずれの物質単独よりも低いCFPPを与えた。

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-16 
出願番号 特願平6-502057
審決分類 P 1 652・ 533- YA (C08L)
P 1 652・ 113- YA (C08L)
P 1 652・ 531- YA (C08L)
P 1 652・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 藤原 浩子
船岡 嘉彦
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3411571号(P3411571)
権利者 エクソン ケミカル パテンツ インコーポレイテッド
発明の名称 油添加剤及び組成物  
代理人 箱田 篤  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 今城 俊夫  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 竹内 英人  
代理人 村社 厚夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 小川 信夫  
代理人 竹内 英人  
代理人 小川 信夫  
代理人 宍戸 嘉一  

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