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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1117845
異議申立番号 異議2003-72128  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-20 
確定日 2005-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3380370号「塩化ビニル系重合体の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3380370号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 [I]手続の経緯
本件特許第3380370号の請求項1〜4に係る発明は、平成7年5月26日に特許出願され、平成14年12月13日にその特許権の設定登録がなされ、その後、田中英博(以下、「特許異議申立人」という。)より、請求項1〜4に係る発明の特許に対し、特許異議の申立てがなされ、請求項1〜4に係る発明の特許に対し、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月20日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。
[II]訂正請求について
1.訂正の内容
(訂正事項1)
請求項1に記載の「重合体スケール付着防止剤液」を「、
1)ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物、
2)式:

〔上式において、aは0または1であり、;mは0、1、2または3であり、;R1およびR2 は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン、ヒドロカルビル、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシの中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物、
3)ピロガロールとベンズアルデヒドとの触媒存在下での反応により得られる縮合生成物、
4)(a)式

(式中、R1およびR2 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼンと、(b)式

(式中、R3およびR4 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示される多価フェノールとの縮合生成物、又は、
(c)式

(式中、R5およびR6 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示されるアミノフェノールの自己縮合生成物であるポリ芳香族アミン、
5)レゾルシノールの自己縮合生成物、および
6)芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物、
からなる群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物
を含有する重合体スケール付着防止剤液」と訂正する。
(訂正事項2)
請求項2を削除する。
(訂正事項3)
請求項3を請求項2と番号を訂正するとともに、訂正前の請求項3中の「請求項2」という記載を「請求項1」と訂正し、さらに請求項4を請求項3と番号を訂正するとともに、訂正前の請求項4中の「請求項1、2又は3」という記載を「請求項1又は2」と訂正する。
(訂正事項4)
明細書段落【0007】の「重合体スケール付着防止剤液」を「、
1)ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物、
2)式:【化5】

〔上式において、aは0または1であり、;mは0、1、2または3であり、;R1およびR2 は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン、ヒドロカルビル、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシの中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物、
3)ピロガロールとベンズアルデヒドとの触媒存在下での反応により得られる縮合生成物、
4)(a)式
【化6】

(式中、R1およびR2 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼンと、(b)式
【化7】

(式中、R3およびR4 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示される多価フェノールとの縮合生成物、又は、
(c)式
【化8】

(式中、R5およびR6 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示されるアミノフェノールの自己縮合生成物であるポリ芳香族アミン、
5)レゾルシノールの自己縮合生成物、および
6)芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物、
からなる群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物
を含有する重合体スケール付着防止剤液」と訂正する。
(訂正事項5)
明細書段落【0017】の「共役π結合を5以上有する有機化合物」を「前記1)〜6)の化合物群から選ばれる共役π結合を5以上有する有機化合物」と訂正する。
(訂正事項6)
明細書段落【0017】の「含有することが好ましい。」を「含有する。」と訂正する。
(訂正事項7)
明細書段落【0017】の「分子量が1000以上、好ましくは1500以上の化合物であることが好ましい。」を「分子量が1500以上の化合物である。」と訂正する。
(訂正事項8)
明細書段落【0018】の「分子量が1000以上の共役π結合化合物としては、以下の物が例示される。」を「以下、本発明に用いられる分子量1500以上の共役π結合化合物を説明する。」と訂正する。
(訂正事項9)
明細書段落【0018】の「分子量が1000以上のもの:」を「分子量が1500以上のもの:」と訂正する。
(訂正事項10)
明細書段落【0022】の「1-ナフトールとホルムアルデヒド」を「下記式で表される1-ナフトールとホルムアルデヒド」と訂正する。
(訂正事項11)
明細書段落【0022】の「分子量1,000」を「分子量1,500」と訂正する。
(訂正事項12)
明細書段落【0022】の「1-ナフトールは次式で表される化合物の中から選ばれる。」との記載を削除する。
(訂正事項13)
明細書段落【0023】に記載の化学式:


」を



と訂正する。
(訂正事項14)
明細書段落【0026】の「特開昭57-192413及び特公平2-363に記載のフェノール化合物とホルムアルデヒドあるいはベンズアルデヒドとの縮合物の内、分子量が1,000以上のもの:フェノール化合物としては、ピロガロール、ヒドロキシヒドロキノン、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、またはこれらの混合物が好適である。
上記のフェノール化合物とホルマリンあるいはベンズアルデヒドとの縮合生成物は、」
を「特開昭57-192413に記載の、ピロガロールとベンズアルデヒドとの縮合生成物の内、分子量が1,500以上のもの:
ピロガロールとベンズアルデヒドとの縮合生成物は、」と訂正する。
(訂正事項15)
明細書段落【0028】の「縮合反応を行う際のフェノール化合物とホルマリンあるいはベンズアルデヒドの割合は、使用するフェノール化合物、ホルマリンあるいはベンズアルデヒド及び溶媒の種類、反応温度、反応時間等に影響されるが、通常、フェノール化合物1重量部当たり、ホルムアルデヒドあるいはベンズアルデヒドを0.5〜10重量部」を「縮合反応を行う際のピロガロールとベンズアルデヒドの割合は、使用する溶媒の種類、反応温度、反応時間等に影響されるが、通常、ピロガロール1重量部当たり、ベンズアルデヒドを0.5〜10重量部」と訂正する。
(訂正事項16)
明細書段落【0029】の「4)特公昭59-16561に記載のポリ芳香族アミンのうち分子量が1,000以上のもの:
該ポリ芳香族アミンは、下記の化合物のいずれか一つの縮合反応、あるいは2種以上を一緒に反応させることにより得られる。」を「4)特公昭59-16561に記載の、下記ポリ芳香族アミンのうち分子量が1,500以上のもの:
該ポリ芳香族アミンは、下記(a)のポリアミノベンゼンと(b)の多価フェノールとの縮合反応、または(c)の化合物単独の縮合反応をさせることにより得られる。」と訂正する。
(訂正事項17)
明細書段落【0032】〜【0033】の「-NH2であるものであり;および(d)ジフェニルアミン・・・R2およびR3が-Hであるものである。」を「-NH2であるものである。」と訂正する。
(訂正事項18)
明細書段落【0034】の「例えば、有用なポリ芳香族アミンは、・・・もの等である。」を削除するとともに、明細書段落【0034】を明細書段落【0033】に訂正し、明細書段落【0035】を明細書段落【0034】に訂正する。
(訂正事項19)
明細書段落【0036】の「前記の化合物のいずれかが自己縮合せしめられまたは1つまたはそれ以上の他の化合物と反応せしめられる時には、」を「前記の(c)の化合物の自己縮合または(a)の化合物と(b)の化合物との縮合の反応の時には、」と訂正するとともに、明細書段落【0036】を明細書段落【0035】に訂正し、明細書段落【0037】を明細書段落【0036】に訂正する。
(訂正事項20)
明細書段落【0038】の「5)特開昭54-7487に記載の多価フェノールの自己縮合生成物、及び多価ナフトールの自己縮合生成物の群から選定された縮合生成物のうち分子量1,000以上のもの:」を「5)特開昭54-7487に記載のレゾルシノールの自己縮合生成物のうち分子量1,500以上のもの:」と訂正するとともに、明細書段落【0038】を明細書段落【0037】に訂正する。
(訂正事項21)
明細書段落【0038】の「多価フェノールの自己縮合生成物はレゾルシノール、ヒドロキノン、カテコールもしくはフロログルシノールの任意の1種もしくはそれ以上を、触媒なしで又は適当な触媒の存在下に加熱することによって製造される。多価ナフトールの自己縮合物、例えば、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,7-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンなどの自己縮合物についても同じである。多価フェノールもしくは多価ナフトールは、」を「レゾルシノールの自己縮合生成物はレゾルシノールを、触媒なしで又は適当な触媒の存在下に加熱することによって製造される。レゾルシノールは、」と訂正するとともに、明細書段落【0038】を明細書段落【0037】に訂正する。
(訂正事項22)
明細書段落【0039】〜明細書段落【0057】の記載を削除する。
(訂正事項23)
明細書段落【0058】の「10)」を「6)」と訂正するとともに、明細書段落【0058】を明細書段落【0038】に訂正する。
(訂正事項24)
明細書段落「【0059】〜【0070】」の段落番号を「【0039】〜【0050】」と訂正する。
(訂正事項25)
明細書段落【0030】の「【化2】」を「【化10】」に、明細書段落【0031】の「【化3】」を「【化11】」に、明細書段落【0032】の「【化4】」を「【化12】」に訂正する。
(訂正事項26)
明細書段落【0059】の「【化9】」を「【化13】」に訂正するとともに、明細書段落【0059】を明細書段落【0039】に訂正し、明細書段落【0061】の「【化10】」を「【化14】」に訂正するとともに、明細書段落【0061】を明細書段落【0041】に訂正し、明細書段落【0062】の「【化11】」を「【化15】」に訂正するとともに、明細書段落【0062】を明細書段落【0042】に訂正し、明細書段落【0064】の「【化12】」を「【化16】」に訂正するとともに、明細書段落【0064】を明細書段落【0044】に訂正し、明細書段落【0066】の「【化13】」を「【化17】」に訂正するとともに、明細書段落【0066】を明細書段落【0046】に訂正する。
(訂正事項27)
明細書段落【0071】〜明細書段落【0108】の記載を削除する。
(訂正事項28)
明細書段落「【0109】〜【0149】」を「【0051】〜【0091】」と訂正する。
(訂正事項29)
明細書段落【0109】の「芳香族アミン化合物とキノン化合物との縮合物、芳香族アミン化合物と芳香族にニトロ化合物との縮合物、及び」の記載を削除するとともに、明細書段落【0109】を明細書段落【0051】に訂正する。
2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1に記載された「重合体スケール付着防止剤液」を訂正前の明細書段落【0017】〜【0038】、【0058】〜【0070】の記載に基づいて具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
訂正事項2、3は、請求項2を削除するとともに、請求項3、4をそれぞれ請求項2、3に繰り上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
訂正事項4〜12、14〜29は、特許請求の範囲の訂正に伴い生じた発明の詳細な説明の記載との整合性を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。
訂正事項13は、明細書段落【0023】に記載されている化学構造式の置換基(R1)mを(R1)a と訂正するものであるが、置換基R1 の結合位置(1位のOH基に対して3位と固定されている)及びaの定義(aは0または1であり)からして(R1)mは(R1)a の誤記と認められるから、訂正事項13は誤記の訂正を目的とする訂正である。
そして、上記訂正事項1〜29は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[III]特許異議申立てについて
1.訂正後の請求項1〜3に係る発明
訂正後の請求項1〜3に係る発明(以下、「訂正発明1」〜「訂正発明3」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 重合器内で塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体混合物を重合するバッチを繰り返す、ビニル系重合体の製造方法にして、(A)前記単量体又は単量体混合物を、少なくとも内壁面に重合体スケール付着防止性塗膜が形成された重合器内で重合する工程、(B)生じた重合体スラリーを重合器から抜き出す工程、(C)重合器内壁面に、
1)ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物、
2)式:


〔上式において、aは0または1であり、;mは0、1、2または3であり、;R1およびR2 は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン、ヒドロカルビル、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシの中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物、
3)ピロガロールとベンズアルデヒドとの触媒存在下での反応により得られる縮合生成物、
4)(a)式


(式中、R1およびR2 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼンと、(b)式

(式中、R3およびR4 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示される多価フェノールとの縮合生成物、又は、
(c)式

(式中、R5およびR6 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示されるアミノフェノールの自己縮合生成物であるポリ芳香族アミン、
5)レゾルシノールの自己縮合生成物、および
6)芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物、
からなる群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物
を含有する重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程、(D)前記重合に必要な原材料を重合器に仕込む工程、次いで再び前記の工程(A)〜(D)を同様に繰り返すことからなる塩化ビニル系重合体の製造方法において、
(1)前記の重合器の少なくとも内壁面が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなること、及び
(2)前記工程(B)及び工程(C)が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われること、
を特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】 前記重合体スケール付着防止剤がさらに無機コロイド及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記のNi-Cr-Fe系合金が、Ni8〜16重量%、Cr16〜20重量%、Mo2〜3重量%、及びFeを含有してなるNi-Cr-Mo-Fe系合金である請求項1又は2の方法。」
2.取消理由の概要
理由A:訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件出願前に頒布された下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

刊行物1:特公昭51-36312号公報
(特許異議申立人提出の甲第1号証)
刊行物2:特公昭58-8406号公報
(特許異議申立人提出の甲第2号証)
刊行物3:特開昭61-34006号公報
(特許異議申立人提出の甲第3号証)
刊行物4:特公昭52-3832号公報
(特許異議申立人提出の甲第4号証)
3.引用刊行物に記載された事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
「1 塩化ビニル系モノマーを水性媒体中で重合させるに当り、モリブデンおよび/またはモリブデン化合物の環境下におこなうことを特徴とする塩化ビニル系モノマーの重合方法。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明者等はこれら従来の欠点を解決すべく種種研究を重ねた結果、塩化ビニル系モノマーを水性媒体中で重合させるに当り、モリブデンおよび/またはモリブデン化合物の環境下に行うことによつて従来の欠点とされていた反応装置内部における重合体を主体とする物質の付着を実質的に発生させることなく、かつ得られる生成物の物性も向上させることができると云う意想外の効果を奏することを見出した。
本発明においてモリブデンおよび/またはモリブデン化合物の環境下に実施する具体的方法としては、反応系に直接添加して反応を行うかあるいは反応装置内に散布装置を用いて気相部および液相部に散布することによつて達成される。なお散布装置を用いて反応装置内に添加する場合の散布時期としては反応槽内に原料物質等を仕込む前から散布することがより好ましい。さらに他の方法としてはモリブデン化合物が水溶性の場合その水溶液をそのまま反応装置の内壁面に塗布するかあるいは塗布した場合の持続性を付与するために例えば部分ケン化ポリ酢酸ビニル、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質などの定着剤添加したものを塗布してもよい。」(1頁2欄3行〜26行)
「実施例 13〜20
内容積300lのステンレス製オートクレーブ全体に定着剤としてロジン10部、トルエン85部、下記第3表に示した添加物質5部より成る混合液を、その添加物質の塗布量が0.5g/m2 になるように均一に塗布し、70℃で1時間乾燥した後、塩化ビニルモノマー100kg、純水140kg部分ケン化ポリ酢酸ビニル60gおよびジオクチルパーオキシジカーボネート25gを仕込み、58℃で所定の重合率に達するまで重合を行う。なお、塗膜の耐久性を調べるために掃除を全く行わずに20バツチ繰返しおこなつたところ、第3表に示す如き結果を得た。」(4頁7欄29行〜8欄33行)


」(6頁)
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
「1 重合槽内壁および/または重合槽付帯機器の単量体を接触する表面の一部または全部をその表面を鏡面仕上げとなしたフエライト相とオーステナイト相からなる2相ステンレス鋼で構成したことを特徴とする塩化ビニル系単量体の重合用装置。」(特許請求の範囲第1項)
「この2相ステンレス鋼の化学成分は通常Cr含量を17〜30重量%、Ni含量を2〜8重量%含有する。」(2頁3欄20行〜22行)
「以上詳記した本発明方法によればスケールの生成を完全ないし実質的に防止できる。」(3頁6欄12行〜13行)
「本発明の実施に好適な2相ステンレス鋼で商業的に入手が容易な鋼材の名称と、その化学成分を第1表に例示した。また、同表には塩化ビニル系単量体の重合用装置に常用されている一般的なオーステナイト系ステンレス鋼の化学成分を比較のために記した。


」(3頁6欄18行〜39行)
「実施例 1
内容積22m3のグラスライニング製の塩化ビニル系重合体製造用重合槽のバツフル下部(重合反応中、反応液に完全に浸る部分)に、第2表に示した材質および表面仕上げ状態のテストピース(形状:100mm×100mm×2mm)を取付けた。ここで用いたステンレス鋼の化学成分は第1表に示した通りである。該重合槽に脱イオン水10,000kg、平均重合度850ケン化度75%のポリビニルアルコール5.6kg、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートの重塩%トルエン溶液2.8kgを添加し、重合槽内を脱気した後、塩化ビニル単量体7,000kgを仕込み、攪拌下57℃に昇温して重合反応を行つた。重合開始時重合槽内圧力は8.7kg/cm2Gであつたが、7時間後にこれが2kg/cm2低下した時点で重合を停止し、未反応塩化ビニル単量体を回収し、内容物を取出した後、重合槽内を15kg/cm2Gの低圧水で洗浄した。
これら一連の操作を1サイクル平均12時間の週期でくり返し、約6ケ月の間に360バツチの重合反応を行つた。その間、第1表に示した時点にテストピースを取外し、スケール付着情況および腐食状態を評価した後、再度取付けてテストを続行した。」(3頁5欄43行〜4頁8欄8行)
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
「1)塩化ビニル単量体または塩化ビニル単量体と該単量体と共重合し得るビニル系単量体との混合物を水性媒体中で懸濁重合または乳化重合する方法において、
重合器内壁面、並びに重合器付属設備の単量体が接触する部分に共役π結合を5個以上有する芳香族化合物および複素環式化合物から選ばれる少なくとも1種を塗布しておき、
重合過程における反応混合物中の塩素イオン濃度を100ppm以下に制御する、
ことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
2)塩化ビニル単量体または塩化ビニル単量体と該単量体と共重合し得るビニル系単量体との混合物を水性媒体中で懸濁重合または乳化重合する方法において、
重合器内壁面、並びに重合器付属設備の単量体が接触する部分に(イ)共役π結合を5個以上有する芳香族化合物および複素環式化合物から選ばれる少なくとも1種と(ロ)無機化合物の少なくとも1種とを塗布しておき、
重合過程における反応混合物中の塩素イオン濃度を100ppm以下に制御する、
ことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。」(特許請求の範囲第1項、第2項)
「本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関し、特に塩化ビニル等の重合過程における重合器内壁面等へのスケール付着防止の改良に関する。」(1頁右下欄13行〜15行)
「この(ロ)成分の無機化合物としては、・・・などのケイ酸類もしくはケイ酸塩;・・・等から選択される金属の酸素酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物あるいはハロゲン化物等の金属塩;・・・無機のコロイドが例示される。これらの中でも、特にケイ酸塩類、ケイ酸コロイド、水酸化第二鉄コロイド等が好ましい。」(19頁左上欄2行〜右上欄16行)
「実施例1
第1表に示すように、各実験毎に、共役π結合化合物を溶媒に溶解または分散し、必要に応じて同表に示す無機化合物、高分子化合物を添加して塗布液を調製した。各実験の無機化合物、高分子化合物の配合比および塗布液の共役π結合化合物濃度も第1表に示す。塗布液を、内容積1000lのステンレス製重合器の研磨した内壁面および攪拌機等の単量体が接触する部分に塗布し、70℃で20分間乾燥後十分に水洗した。
つぎに、このように塗布された重合器中に塩化ビニル単量体200kg、イオン交換水400kg、部分けん化ポリビニルアルコール44g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース58g、t-ブチルパーオキシネオデカネート60gを仕込み、52℃で7時間重合した。重合終了後、重合物を取り出し、重合器内を0.1m3/m2・hrの流量の水で第1表に記載のように水洗を行った。上記の塗布、仕込みから重合後の水洗までを行う操作を毎バッチおこない、最高200バッチ繰り返し実施した。」(29頁左下欄12行〜右下欄11行)
刊行物4には、以下の事項が記載されている。
「1 塩化ビニル単量体または塩化ビニルを主体とするビニル系単量体混合物をステンレス製重合器を用いて重合開始剤の存在下で重合するにあたり、重合反応系に存在する気相および液相の全物質量に対して全酸素量を5ppm以下に保持して重合を完了させることを特徴とする塩化ビニルまたは塩化ビニルを主体とする単量体混合物の重合方法。」(特許請求の範囲第1項)
「この発明は塩化ビニルまたは塩化ビニルおよびこれと共重合し得る他の単量体との混合物をステンレス製重合器を用いて重合させる方法において、重合器内壁およびそのほか単量体が接触する部分における重合体スケールの付着を防止する方法に関するものである。」(1頁1欄30行〜35行)
「本発明者らは、塩化ビニルまたは塩化ビニルを主体とする単量体混合物をステンレス製重合器を用いて各種方法で重合する場合に、重合器内壁等におけるスケールの付着を防止する方法について鋭意研究した結果、重合器内に存在する酸素が重合体スケール生成の大きな因子の一つであり、この酸素の存在量が微量となればなるほど重合体スケールの生成量が低下すること、さらに詳しくは単に重合系内の気相部あるいは水中に存在する酸素を除去するのみでなく、重合系内の単量体中および懸濁剤、乳化剤あるいはその他の添加剤中に存在する酸素を除去することが有効であることを究明し本発明を完成したものである。」(2頁3欄10行〜22行)
「この第1の発明の実施にあたつては、重合器中への単量体、懸濁剤、乳化剤などの諸原料の仕込みは外部の空気が侵入しないようにして行うことがよく、また、重合器、攪拌機などの洗浄あるいは該重合器の開放などはたとえば不活性ガスでわずかに加圧した状態を保ちながら行うことが好ましい。」(2頁3欄41行〜4欄3行)
「実施例 3
内部に直径600mmのパドル羽根1枚を有する攪拌機を備えた内容積1000lのステンレス製重合器の内面および攪拌機外周面に第3表に示すような有機化合物を溶媒に溶解して0.05g/m2となるように塗布した。
つぎにこの重合器に、メチルセルロース400gを溶解し、あらかじめヘリウムでバブリングした下記の第3表に示すような酸素量の水500kgおよびジイソプロピルパーオキシジカーボネート40gを投入し、-700mmHgまで減圧にしたのち、ヘリウムでバブリングした下記の第3表に示すような酸素量の塩化ビニル単量体200kgを添加し、前記攪拌機を100rpmで回転させ、温度を57℃に昇温して16時間重合を行ない、冷却後、重合物をとりだした。この操作を1回として同様の操作をひきつづき行ない、重合後における重合器壁面の曇り度合(この曇りの発生は次回におけるスケール付着の発生を意味する)を肉眼で判定するか、またはスケール付着が1g/m2を超えるまでの回数を調べたところ、下記の第3表に示すような結果が得られた。」(4頁7欄14行〜8欄24行)
「実施例 5
・・・・・
また、上記の重合器を開放時も空気に接触させることなく、高純度窒素ガスでシールされた状態を保ちながら全く同様の重合を5回行なつた・・・」(6頁11欄11行〜12欄18行)
4.特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人 田中英博は、甲第1〜5号証を提出し、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(理由a)、訂正前の請求項1、4に係る発明は、本件出願の日前の他の出願であって、本件出願後に出願公開された甲第5号証に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1、4に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり(理由b)、さらに、明細書の記載が不備であり、訂正前の請求項2に係る発明の特許は、特許法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由c)から、取り消されるべきである旨を主張している。

甲第1号証:特公昭51-36312号公報
甲第2号証:特公昭58-8406号公報
甲第3号証:特開昭61-34006号公報
甲第4号証:特公昭52-3832号公報
甲第5号証:特開平7-233207号公報(特願平6-321050号の 願書に最初に添付した明細書)
5.甲各号証に記載された事項
甲第1〜4号証には、上記「3.引用刊行物に記載された事項(刊行物1〜4)」に示した事項が記載されている。
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 クローズド化された塩化ビニルの重合において、壁付着防止剤を塗布した重合機で重合を繰り返す操作の過程で重合機に酸素を存在させることを特徴とする塩化ビニルの重合方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「【0003】さらに有効な壁付着防止剤が開発されて塩化ビニルの重合後に重合機を実質的に開放しないで内部を水で洗浄した後、次の重合操作を行ういわゆるクローズド化重合が実施されるようになってきた。
【0004】しかしながら、本発明者らは従来重合機を開放していた場合に有効であった壁付着防止剤によるポリマーの壁付着防止の効果が、クローズド化重合すると壁付着防止剤の効果が低下するという問題点が存在することを見いだした。」(明細書段落【0003】〜【0004】)
「【0013】本発明の方法でクローズド化とは重合反応を終了しスラリーの排出を行った後、重合機内部の気相に塩化ビニルモノマーが残存したままで大気開放することなく次の重合を行うことを意味する。重合機内部を開放することなく重合機内の残存ポリマーを簡単な水洗のみで除去して次の重合操作ができ、・・・合理化できる。大気開放することなくとは例えば重合機のマンホールを開放したり、空気、窒素等の不活性ガスで系内を置換する操作をしないことを意味する。」(明細書段落【0013】)
「【0015】本発明者はこの原因について検討を行い、クローズド化の際に少量の酸素を装入することを検討したところ、驚くべきことにクローズド化の場合に存在させる少量の酸素が壁付着防止剤本来の性能を発揮させるために重要であることを見いだし本発明に到達したものである。」(明細書段落【0015】)
「【0028】本発明の方法で好ましく使用される薬剤はフェノール類とアルデヒド類とを・・・反応して得られたレゾール型初期縮合物、・・・である。」(明細書段落【0028】)
「【0034】本発明の方法では、下記一般式(化1)で示されるジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類との反応生成物もまた壁付着防止剤として好ましく使用される。
【0035】
・・・上記ジヒドロキシビフェニル類の例としては・・・、特に2,2’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。・・・本発明で使用されるジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類との反応物は好ましくは分子量500〜100,000、より好ましくは1,000〜50,000のものが壁付着効果が良好で好ましい。」(明細書段落【0034】【0035】)
「【0060】実施例1
・・・壁付着防止剤Aの溶液をスプレーにて重合反応器の内壁に噴霧して塗布し、重合反応機内を十分に水洗した。次に、後に装入する塩化ビニルモノマーに対して酸素の割合が30wtppmとなるように圧縮空気を重合反応機へ導入し、・・・重合反応を開始した。・・・重合反応機よりスラリーを排出し、・・・PVCスラリーを排出した重合反応機はマンホールの蓋を開けることなくして水洗し、・・・壁付着防止剤Aの溶液を塗布させて次回のバッチ反応の装入を行った・・・」(明細書段落【0060】)
6.取消理由及び特許異議の申立てに対する判断
(1)理由A、理由aに対する判断
【i】訂正発明1について
訂正発明1は、重合体スケール付着防止剤液として、「 1)ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物、
2)式:

〔上式において、aは0または1であり、;mは0、1、2または3であり、;R1およびR2 は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン、ヒドロカルビル、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシの中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物、
3)ピロガロールとベンズアルデヒドとの触媒存在下での反応により得られる縮合生成物、
4)(a)式

(式中、R1およびR2 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼンと、(b)式

(式中、R3およびR4 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示される多価フェノールとの縮合生成物、又は、
(c)式

(式中、R5およびR6 は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示されるアミノフェノールの自己縮合生成物であるポリ芳香族アミン、
5)レゾルシノールの自己縮合生成物、および
6)芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物、
からなる群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物
を含有する重合体スケール付着防止剤液を用いること」(構成要件1)、「重合器の少なくとも内壁面が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなること」(構成要件2)、「生じた重合体スラリーを重合器から抜き出す工程及び重合器内壁面に重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われること」(構成要件3)を構成要件とし、これにより、得られる重合体は初期着色が著しく少なく、有効かつ確実にスケールの付着、特に重合器の気液界面部における重合体スケールの付着を防止することができ、その結果、スケールが製品に混入する恐れがなく、フィッシュアイの発生も少ないため、製品重合体の品質が向上するという効果を奏するものである。
そこで、まず、刊行物1(甲第1号証)を検討するに、刊行物1(甲第1号証)には塩化ビニル系モノマーの重合方法であって、重合体を主体とする物質の反応装置内への付着を防止するため、モリブデンおよび/またはモリブデン化合物を反応装置内壁面へ塗布する方法が記載されており、また、実施例には反応装置(オートクレーブ)内壁面への塗膜の耐久性を調べるため掃除を全く行わずに20バッチ繰り返し行ったこと、オートクレーブ内壁面にNi10〜14%、Cr16〜18%、Mo2〜3%を含有するステンレス製のテストピースを取り付け、テストピースへの付着量を観察したことが記載されている。
しかしながら、刊行物1(甲第1号証)には、訂正発明1の構成要件1である1)〜6)の化合物群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物を重合体スケール付着防止剤として採用する点については記載されておらず、また、そのことを示唆する記載もない。
刊行物2(甲第2号証)には、塩化ビニル単量体の重合用装置であって、単量体と接触する重合槽内壁面をフェライト相とオーステナイト相からなる2相ステンレス鋼で構成すること、2相ステンレス鋼はCrを17〜30重量%、Niを2〜8重量%含有するするものであること、これによりスケールの生成を実質的に防止できることは記載されているものの、重合体スケール付着防止剤により重合器内壁面に塗膜を形成する点については記載もなく、ましてや訂正発明1の構成要件1である1)〜6)の化合物群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物を重合体スケール付着防止剤として採用することについては何等の記載もされていない。さらに、訂正発明1の構成要件3である重合体スラリーを重合器から抜き出す工程及び重合器内壁面に重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われることについても記載も示唆もされていない。
刊行物3(甲第3号証)には、塩化ビニル単量体または塩化ビニル単量体と該単量体と共重合し得るビニル系単量体との混合物を重合する塩化ビニル系重合体の製造方法であって、重合器内壁面の単量体が接触する部分に共役π結合を5個以上有する芳香族化合物および複素環式化合物から選ばれる少なくとも1種を塗布し、重合器内壁面へのスケールの付着を防止することが記載されている。
しかしながら、スケール付着防止剤として用いられる共役π結合を5個以上有する有機化合物が訂正発明1の構成要件1である1)〜6)の化合物群から選ばれるものであって、かつ、分子量が1500以上であること、構成要件2である重合器内壁面の材質が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなること、構成要件3である重合体スラリーを重合器から抜き出す工程及び重合器内壁面に重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われることについては記載も示唆もされていない。
刊行物4(甲第4号証)には、塩化ビニル単量体または塩化ビニルを主体とするビニル系単量体混合物をステンレス製重合器を用いて重合するにあたり、重合器内面への重合体スケールの付着を防止するため、原料の仕込みは外部の空気が侵入しないように行うこと、重合器の洗浄、開放は不活性ガスで加圧した状態下で行うこと、重合器内面に有機化合物を塗布することが記載されているが、訂正発明1の構成要件1である1)〜6)の化合物群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物を重合体スケール付着防止剤として採用すること、構成要件2である重合器内壁面の材質が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなることについては記載も示唆もされていない。
そうすると、刊行物1(甲第1号証)〜刊行物4(甲第4号証)には、重合体スケール付着防止剤として構成要件1である1)〜6)の化合物群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物を用いることについては何等記載も示唆もされていないのであるから、訂正発明1は、刊行物1(甲第1号証)〜刊行物4(甲第4号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、理由A、理由aは採用できない。
【ii】訂正発明2、3について
訂正発明2は、訂正発明1を引用するものであり、訂正発明3は、訂正発明1を引用するか、訂正発明1を引用した訂正発明2をさらに引用するものであり、上記のように訂正発明1が、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえない以上、訂正発明1と同様、訂正発明2、3は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって、理由A、理由aは採用できない。
(2)理由bに対する判断
【i】訂正発明1について
訂正発明1は、上記のとおり(構成要件1)〜(構成要件3)を発明の構成要件として具備するものである。
そこで、本件出願の日前の他の出願であって、本件出願後に出願公開された特願平6-321050号の願書に最初に添付した明細書〔以下、先願明細書(特開平7-233207号公報:甲5号証)という。〕を検討するに、先願明細書には、クローズド化された塩化ビニルの重合において、壁付着防止剤を塗布した重合機で重合を繰り返す操作の過程で重合機に酸素を存在させる塩化ビニルの重合方法が記載されている。そして、壁付着防止剤としては、訂正発明1の構成要件1に相当するジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類との反応物(共役π結合を5個以上有する有機化合物に相当するものと認める)であって、分子量500〜100,000のものが使用されることが記載されている。
しかしながら、先願明細書に記載された発明は重合反応機に圧縮空気を導入し、酸素を積極的に存在させて壁付着防止効果を持続させるものであり、訂正発明1の構成要件3のように重合体スラリーを重合器から抜き出す工程及び重合器内壁面に重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われるものとはその雰囲気条件が全く異なるものである。さらに、構成要件2である重合器内壁面の材質が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなることについては記載も示唆もされていない。
そうすると、訂正発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえず、理由bは採用できない。
【ii】訂正発明2、3について
訂正発明2は、訂正発明1を引用するものであり、訂正発明3は、訂正発明1を引用するか、訂正発明1を引用した訂正発明2をさらに引用するものであり、上記のように訂正発明1が、先願明細書に記載された発明と同一であるといえない以上、訂正発明1と同様、訂正発明2、3は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
よって、理由bは採用できない。
(3)理由cに対する判断
理由cは下記[1]のとおりである。
[1]訂正前の請求項1に記載の発明においては、「重合体スケール付着防止剤」と規定され、訂正前の請求項2に記載の発明においては、重合体スケール付着防止剤に関し、「共役π結合を5個以上有する分子量1000以上の化合物」と規定されているが、その実施例において発明の効果が確認されているのは、僅かに7種類の化合物のみである。従って、訂正前の請求項2は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」とはいえず、(改正前)特許法第36条第4項第1号(特許法第36条第5項第1号の誤記と認める)に規定する要件を満たしていない。
そこで、[1]について検討する。
平成16年12月20日付け訂正請求書により、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1に分子量をさらに限定して組み込まれるとともに、「重合体スケール付着防止剤」は実施例(製造例)に記載されている化合物のみに限定されたことから、当該理由は解消された。
よって、理由cは採用できない。
[5]むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知の理由及び特許異議申立の理由、証拠によっては、訂正発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塩化ビニル系重合体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 重合器内で塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体混合物を重合するバッチを繰り返す、塩化ビニル系重合体の製造方法にして、(A)前記単量体又は単量体混合物を、少なくとも内壁面に重合体スケール付着防止性塗膜が形成された重合器内で重合する工程、(B)生じた重合体スラリーを重合器から抜き出す工程、(C)重合器内壁面に、
1)ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物、
2)式:
【化1】

〔上式において、aは0または1であり;mは0、1、2または3であり;R1およびR2は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン、ヒドロカルビル、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシの中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物、
3) ピロガロールとベンズアルデヒドとの触媒存在下での反応により得られる縮合生成物、
4) (a)式
【化2】

(式中、R1およびR2は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼンと、(b)式
【化3】

(式中、R3およびR4は-H、ハロゲン、-NH2、-OH、または炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示される多価フェノールとの縮合生成物、又は、
(c)式
【化4】

(式中、R5およびR6は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示されるアミノフェノールの自己縮合生成物であるポリ芳香族アミン、
5)レゾルシノールの自己縮合生成物、および
6)芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物、からなる群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物
を含有する重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程、(D)前記重合に必要な原材料を重合器に仕込む工程、次いで再び前記の工程(A)〜(D)を同様に繰り返すことからなる塩化ビニル系重合体の製造方法において、
(1)前記の重合器の少なくとも内壁面が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなること、及び
(2)前記工程(B)及び工程(C)が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われること、
を特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】 前記重合体スケール付着防止剤がさらに無機コロイド及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記のNi-Cr-Fe系合金が、Ni8〜16重量%、Cr16〜20重量%、Mo2〜3重量%、及びFeを含有してなるNi-Cr-Mo-Fe系合金である請求項1又は2の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体混合物の重合方法としては、懸濁重合、乳化重合法、溶液重合法、気相重合法、塊状重合法等が知られている。これらのいずれの重合法においても重合器内の撹拌装置等の単量体が接触する部位に重合体スケールの付着が起こり易い。重合体スケールが付着すると、重合体の収率、重合器冷却能力等が低下するほか、重合体スケールが剥離して目的とする重合体中に混入する結果、重合体を成形することにより得られる成型品の品位が低下するという不利がもたらされる。また、付着した重合体スケールを除去するためには、過大な労力と時間を要するのみならず、この重合体スケール中に未反応の単量体が含まれているので、近年きわめて重大な問題となっている単量体により人体障害の危険性がある。
【0003】
このような重合体スケールの付着を防止する方法として重合器内壁等にスケール付着防止剤を塗布する方法が知られており、種々のスケール付着防止剤が提案されている。例えば、染料または顔料を塗布する(特公昭45-30835)、分子量約250より大の特定構造のポリ芳香族アミンを塗布する(特公昭59-16561)、自己縮合多価フェノールを塗布する(特開昭54-7487)、フェノール化合物と芳香族アルデヒドとの反応生成物を塗布する(特公平2-363)、1-ナフトールとホルムアルデヒドとの反応生成物を塗布する(特開昭57-1641)、更には、重合器内壁面及び重合器付属設備の単量体が接触する部分の表面あらさ1μm以下とし、それらの表面に染料または顔料を塗布する(特公平2-36602)、共役π結合を5個以上有する芳香族化合物又は複素環式化合物を塗布し、かつ重合中の反応混合物の塩素イオン濃度を100ppm以下に制御する(特公平4-30405)、染料または顔料を塗布し重合中の塩素イオン濃度を100ppm以下に制御する(特公平4-30404)、などの諸方法が知られている。特公平4-30405に開示の共役π結合を5個以上有する化合物は分子量が1000未満のものである。
【0004】
これらの方法により同一の重合器を使用して重合体スケールの付着を防止しつつ重合を繰り返し実施するには、一回の重合終了後に重合体スラリーを重合器から抜き出した後、通常水洗してから重合器内壁面等に重合体スケール付着防止剤を塗布し、しかるのちに再度単量体等の原材料を仕込み、次の重合が行われる。その際、重合は重合器を密閉し器外雰囲気から器内を遮断した状態で行われるが、重合体スラリーの抜き出し及び重合体スケール付着防止剤の塗布作業は、通常重合器のマンホールを開け、重合器内を外気に開放した状態で行われている。これらの従来の方法によって重合を100〜200バッチ程度繰り返し行っても、重合器内の重合中に液相と接触する部分(以下、液相部という)には重合体スケールは生じない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの従来の方法には、重合器内壁などの、重合中に気相と液相の界面にあたる部分及びその付近(以下、気液界面部という)には重合体スケールが付着するという欠点がある。気液界面部に一旦重合体スケールが付着すると、重合を繰り返していくにしたがって付着した重合体スケールが徐々に成長していき、ついに剥離して重合体に混入することがある。このように重合体スケールが重合体に混入すると、その重合体をシート等の成形物にしたときに得られる成形物に多くフィッシュアイが発生し、成形物の品質が著しく低下してしまうことになる。したがって、気液界面部への重合体スケールの付着防止は、塩化ビニル系重合体の製造上極めて重要な技術課題となっている。
【0006】
また、重合により得られる重合体をシート等の成形物に加工した場合、得られる成形物には高い白色性が求められる。即ち、重合体に着色剤を何ら添加せずにシート等に成形しても得られる成形物は多少着色される。この着色は初期着色と称され、できる限り少ないことが望まれる。ところが、スケール付着防止剤の塗膜は剥離ないしは溶解して重合体に混入することがあるが、そのスケール付着防止剤が例えば染料や顔料有効成分として含む場合には、成形物の白色度が低下、即ち初期着色が悪化する。
そこで、本発明の課題は、液相部のみでなく気液界面部での重合体スケールの付着も効果的に防止しつつ、初期着色が極めて少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するものとして、以下の製造方法が有効であることを見いだした。
即ち、本発明によれば、重合器内で塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体混合物を重合するバッチを繰り返す、塩化ビニル系重合体の製造方法にして、(A)前記単量体又は単量体混合物を、少なくとも内壁面に重合体スケール付着防止性塗膜が形成された重合器内で重合する工程、(B)生じた重合体スラリーを重合器から抜き出す工程、(C)重合器内壁面に、
1)ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物、
2)式:
【化5】

〔上式において、aは0または1であり;mは0、1、2または3であり;R1およびR2は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン、ヒドロカルビル、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシの中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物、
3) ピロガロールとベンズアルデヒドとの触媒存在下での反応により得られる縮合生成物、
4) (a)式
【化6】

(式中、R1およびR2は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼンと、(b)式
【化7】

(式中、R3およびR4は-H、ハロゲン、-NH2、-OH、または炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示される多価フェノールとの縮合生成物、又は、
(c)式
【化8】

(式中、R5およびR6は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
で示されるアミノフェノールの自己縮合生成物であるポリ芳香族アミン、
5)レゾルシノールの自己縮合生成物、および
6)芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物、からなる群から選ばれる共役π結合を5個以上有し分子量1500以上である有機化合物
を含有する重合体スケール付着防止剤液を塗布し、乾燥して重合体スケール付着防止性塗膜を形成する工程、(D)前記重合に必要な原材料を重合器に仕込む工程、次いで再び前記の工程(A)〜(D)を同様に繰り返すことからなる塩化ビニル系重合体の製造方法において、
(1)前記の重合器の少なくとも内壁面が、Ni8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金からなること、及び
(2)前記工程(B)及び工程(C)が、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行われること、
を特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法が提供される。
【0008】
この方法によれば、重合器に特定の材料が使用され、かつ重合工程のみでなく、(A)〜(D)の全過程を通じて重合器内が器外雰囲気から遮断された状態に維持される。しかも、そのような状態で工程(A)〜(D)からなる重合バッチが繰り返される。その結果、得られる重合体は初期着色が著しく少なく、有効かつ確実にスケールの付着、特に重合器の気液界面部における重合体スケールの付着を防止することができる。
本発明の方法は、上記の工程(A)〜(D)からなる重合バッチを必要な回数繰り返すことからなる。
【0009】
工程(A)
スケール防止性塗膜が少なくとも内壁面に予め形成された重合器内で塩化ビニル単量体又は該単量体を主体とするビニル系単量体混合物を重合する。ここで予め形成されているスケール付着防止性塗膜は、工程(C)に関して詳しく後述するスケール付着防止剤の塗布により形成されたものである。
本発明の重要な特徴の一つは、使用される重合器の材質にある。
【0010】
重合器は、その少なくとも内壁面がNi8〜16%、Cr16〜20%含有するNi-Cr-Fe系合金、好ましくはNi8〜16%、Cr16〜20%、Mo2〜3%及びFeを含有してなるNi-Cr-Mo-Fe系合金からなるものである。
このような合金材料の例としては、例えばSUS-304、SUS-304L、SUS-316、SUS-316L等があり、中でも特に好ましい材料はSUS-316、SUS-316Lである。
【0011】
工程(B)
重合終了後、重合器内に生成した重合体スラリーが重合器から抜き出される。本発明の方法では、この抜き出し工程(B)は、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で(即ち、重合器内を大気に開放することなく)行う必要がある。
具体的には、器内圧力が未だ大気圧に比してある程度高い状態で重合体スラリーをブローダウンタンクに排出するか、あるいは器内を概ね大気圧の圧力状態にあるガスホルダーとつないで大気圧と概ね均圧にしたのち、重合体スラリーを重合器よりブローダウンタンクに排出する。重合体スラリーの排出終了時には、重合器内は塩化ビニル単量体ガス100%で充満している。
【0012】
工程(C)
次に、重合体スケール付着防止性膜の形成が行われる。通常、重合体スケール付着防止剤を少なくとも重合器内壁面に塗布し、乾燥して塗膜を形成する。本発明の方法では、この塗膜形成作業も、工程(B)に引き続き、重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で(即ち、重合器を外気に開放しないで)行われる必要がある。
【0013】
より具体的には、重合器を開放せず、単量体ガスが器内に充満した状態でスケール付着防止剤を塗布するか、または器内に少量残存する重合物を除去するために水洗した後にスケール付着防止剤の塗布を行う。水洗した場合には、器内の塩化ビニル単量体のガス濃度は水の蒸気圧に相当する分圧分だけ低下する。したがって、重合体スケール付着防止剤液を塗布し、塗膜を形成する作業は単量体が重合器内に10〜100%、好ましくは、50〜100%(残部は水蒸気)で満たされた状態で行われる。ただし、最初の重合前の塗布は、重合器内を減圧にした後に行うか、または減圧下で塩化ビニル単量体を少量仕込んで器内を塩化ビニル単量体雰囲気として行うことが望ましい。
【0014】
重合体スケール付着防止剤は、重合器内壁面ばかりでなく、重合器付属設備のスケールが付着する恐れのある部分、即ち重合過程で単量体が接触する部分(接触する可能性のある部分を含む)にも塗布され、塗膜が形成されることが好ましい。重合器付属設備で単量体が接触するものとしては、例えば、撹拌翼、撹拌軸、コンデンサー、ヘッダー、バッフル、サーチコイル、ボルト、ナット等がある。これら付属設備の材質には特に制約はなく、例えばステンレスあるいはグラスライニングしたものを用いることができる。好ましくは、前述のNi8〜16重量%及びCr16〜20重量%を含有するNi-Cr-Fe系合金である。
【0015】
重合器内壁面及び場合により塗膜が形成されるその他の部分は表面あらさ(JIS B0106規定のRmax)が10μm以下であることが好ましく、さらに5μm以下であることがより好ましい。
スケール付着防止剤を重合器内壁面等に塗布する方法は制限されず、例えば特開昭57-61001号、同55-36288号、特公昭56-501116号、同56-501117号、特開昭59-11303号等に記載のN2ガス圧でのスプレー、モノマーガス圧でのスプレー、低圧水蒸気による噴霧等の塗布方法を用いることができる。
【0016】
塗布を行う際の重合器のジャケット温度は、通常10〜95℃の範囲でよく、好ましくは40〜80℃である。
塗布後の乾燥は、ジャケット温度30〜95℃、好ましくは40〜80℃で器内を開放することなく、好ましくは器内を減圧にして乾燥する。
【0017】
塗布に使用される重合体スケール付着防止剤は、有効成分として前記1)〜6)の化合物群から選ばれる共役π結合を5以上有する有機化合物(以下、共役π結合化合物という)を含有する。本明細書において「π結合」とは、二重結合および三重結合を意味し、例えば、C=C、C≡C、N=N、C=N、C=O等が挙げられる。「共役π結合」とは隣接する他のπ結合と相互に共役関係にあるπ結合を意味する。かかる共役π結合化合物の中でもより好ましいものは、共役関係にあるπ結合が5以上連なっているものである。
また、この共役π結合化合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定された分子量が1500以上の化合物である。
【0018】
以下、本発明に用いられる分子量1500以上の共役π結合化合物を説明する。
1)特公平6-62709に記載のジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で縮合反応させて得られた反応生成物の内、分子量が1500以上のもの:
ジヒドロキシビフェニル類の例としては、2,2′-ジヒドロキシビフェニル、2,2′-ジヒドロキシ-5、5′-ジメチルビフェニル、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′、5,5′-テトラメチルビフェニル、2,2′-ジヒドロキシ-5,5′-ジクロロビフェニル、2,2′-ジヒドロキシ-5,5′-ジシクロヘキシルビフェニル、2,2′-ジヒドロキシ-5,5′-ジ-tert-ブチルビフェニル等が挙げられ、なかでも工業的には2,2′-ジヒドロキシフェニルがとくに好適である。
【0019】
アルデヒド類としては、例えばホルマリン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール、フェニルアセトアルデヒド、3-フェニルプロピオンアルデヒド、2-フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられるが、ホルマリン、アセトアルデヒドが工業的、経済的に有利である。
ジヒドロキシビフェニル類およびアルデヒド類は、酸性触媒の存在下で反応して反応生成物を形成する。この反応のために好ましい触媒は、強酸性のものであり、例えば硫酸、塩酸、過塩素酸、P-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオルメタンスルホン酸等が含まれるが、より好ましくは塩酸およびP-トルエンスルホン酸である。
【0020】
より好ましいジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類との反応生成物は、ジヒドロキシビフェニル類に対するアルデヒド類のモル比が1.0よりも大きくない場合に得られる。好ましい範囲は、ジヒドロキシビフェニル類1モルに対し、アルデヒド類のモル比は0.5〜1.0モル、さらに好ましくは0.6〜0.9モルの範囲である。
【0021】
ジヒドロキシビフェニル類とアルデヒド類との反応は、50〜200℃の範囲、反応時間5〜30時間で有利に行われ、さらに好ましくは100〜150℃で行われる。この反応において、一般的な溶剤の存在が望ましい場合もある。好ましい溶剤の例として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロエタン、トリクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
2)特開昭57-164107に記載の、下記式で表される1-ナフトールとホルムアルデヒドを触媒存在下で縮合反応させて得られる縮合反応生成物の内、分子量1,500以上のもの:
【0023】
【化9】

〔上式において、aは0または1であり;mは0、1、2または3であり(好ましくは0、1または2である);R1およびR2は同一であっても相違してもよく、これらはハロゲン(好ましくはCl)、ヒドロカルビル(好ましくは炭素数1〜5のアルキル)、ヒドロキシおよびヒドロカルビルオキシ(好ましくは1〜5個の炭素原子を有するアルコキシル)の中から選ばれる。aまたはmが0であることは置換基がないことを意味する。〕
【0024】
1-ナフトールの例としては、1-ナフトール自身、1,3-ジヒドロキシ-ナフタレン、及び1,5-ジヒドロキシ-ナフタレンおよび1,7-ジヒドロキシ-ナフタレンが挙げられる。
上記の縮合反応を行う媒体としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類及び酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。
【0025】
触媒としては、塩酸等の酸性触媒、NaOH、KOH、NH4OHなどの塩基性触媒等が用いられ、これらは1-ナフトール類1モル当り0.5〜0.9モル添加される。
縮合反応を行う際の1-ナフトール類とホルムアルデヒドの割合は、使用する1-ナフトール類及び溶媒の種類、反応温度、反応時間等に影響されるが、通常、1-ナフトール類1モル当たり、ホルムアルデヒドを0.2〜10モルとすることが好ましく、更に、0.5〜5モルとすることが好ましい。縮合反応は、1-ナフトール類とホルムアルデヒドとを、適当な媒体中、触媒存在下、通常、50〜200℃で1〜30時間、好ましくは70〜150℃で3〜10時間反応させればよい。媒体としては、例えば水、アルコール類、ケトン類、エステル類、等の有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類及び酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。
【0026】
3)特開昭57-192413に記載の、ピロガロールとベンズアルデヒドとの縮合生成物の内、分子量が1,500以上のもの:
ピロガロールとベンズアルデヒドとの縮合生成物は、これらの反応成分を、適当な媒体中、触媒存在下、通常、室温〜200℃で2〜100時間、好ましくは30〜150℃で3〜30時間反応させることにより製造される。
【0027】
上記の縮合反応を行う媒体としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類及び酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。
上記縮合反応を行う媒体のpHは、通常1〜13の範囲であり、pH調整剤は特に制約なく使用することができる。
【0028】
縮合反応を行う際のピロガロールとベンズアルデヒドの割合は、使用する溶媒の種類、反応温度、反応時間等に影響されるが、通常、ピロガロール1重量部当たり、ベンズアルデヒドを0.5〜10重量部とすることが好ましく、更に、0.1〜5重量部とすることが好ましい。
【0029】
4)特公昭59-16561に記載の、下記ポリ芳香族アミンのうち分子量が1,500以上のもの:
該ポリ芳香族アミンは、下記(a)のポリアミノベンゼンと(b)の多価フェノールとの縮合反応、または(c)の化合物単独の縮合反応をさせることにより得られる。
(a)式
【0030】
【化10】

(式中、R1およびR2は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、同一または異なってもよい)
により示されるポリアミノベンゼン、例えばオルソ-、メタ-およびパラフェニレンジアミン;ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、ジアミノフェノール、トリアミノベンゼン、トルエンおよびキシレン;エチル、プロピル、ブチルおよびペンチルジ-およびトリアミノベンゼン等であり、最も好適な化合物は、R1が-Hであり、R2が-H、メチル基、またはエチル基であるものであり;(b)式
【0031】
【化11】

(式中、R3およびR4は-H、ハロゲン、-NH2、-OH、または炭素原子1〜8個を含むアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
にて示される多価フェノール、例えばカテコール、レゾルシノール、クロロレゾルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガロール等;ジヒドロキシトルエンおよびキシレン;トリヒドロキシトルエンおよびキシレン;エチル、プロピル、ブチルおよびペンチルジ-およびトリヒドロキシベンゼン等であり、最も好適な化合物は、R3が-Hであり、R4が-Hまたは-OHであるものであり;(c)式
【0032】
【化12】

(式中、R5およびR6は-H、ハロゲン、-NH2、-OHまたは炭素原子1〜8個を有するアルキル基であり、そして同一または異なってもよい)
にて示されるアミノフェノールおよびアルキル置換アミノフェノール、例えばオルソ、メタ、およびパラ-アミノフェノール;ジアミノ-およびトリアミノ-フェノール;メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびペンチルアミノおよびジアミノフェノール等であり;最も好適な化合物は、R5が-Hであり、R6が-Hまたは-NH2であるものである。
【0033】
前記の式におけるハロゲンは塩素、臭素、沃素または弗素であってよい。
縮合反応によって前記化合物の2つまたはそれ以上を一緒に反応させる時には、少なくとも1つの化合物がアミノ基を有せねばならず、そして2つより多くの化合物が反応に包含される場合には該化合物の少なくとも2つがアミノ基を有することが好適である。
【0034】
特に有用なポリ芳香族アミンは、芳香族ジアミンおよび多価フェノールが一緒に反応せしめられる時に得られるものである。通常、これらの化合物はほぼ等モル比にて一緒に反応せしめられる。しかし、ジアミンまたはフェノールのいずれかを過剰量にて使用することもできる。
【0035】
前記に示される如く、前記の(c)の化合物の自己縮合または(a)の化合物と(b)の化合物との縮合の反応の時には、酸性触媒が使用される。例えば、HCl、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、燐酸、沃素、ベンゼンジスルホン酸、臭化水素(HBr)、沃化水素(HI)、塩化アルミニウム等が使用できる。触媒濃度は、使用される特定の触媒に依存して変化するであろう。しかし化合物が自己縮合せしめられる場合には化合物1モル当り、または1つまたはそれ以上の化合物が反応せしめられる場合にはアミノ化合物1モル当り、約0.005モル〜約0.20モルの触媒濃度が望ましい。
【0036】
単独でまたは他の化合物と反応せしめられる化合物の反応温度は、反応時間および所望の最終製品分子量に依存して変化するであろう。例えば反応成分を315℃まで急速に加熱し次に該温度に種々の時間の間保つことができる。また反応成分を300℃より上の種々の温度に加熱しそして直ぐに冷却することもできる。該後者の方法を用いる場合には、反応時間は0時間として示される。従って反応温度は約250℃〜360℃にて変化しそして反応時間は約0時間〜約3時間にて変化するであろう。好適な反応温度範囲は275℃〜330℃であり、そして反応時間は0時間〜1時間である。
【0037】
5)特開昭54-7487に記載のレゾルシノールの自己縮合生成物のうち分子量1,500以上のもの:
レゾルシノールの自己縮合生成物はレゾルシノールを、触媒なしで又は適当な触媒の存在下に加熱することによって製造される。レゾルシノールは、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下200〜350℃の温度範囲において4〜20時間加熱する。この反応には、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、水酸化ナトリウムなどの種々な触媒を使用できる。使用触媒濃度は縮合させる1又はそれ以上の化合物1モル当り約0.05モル〜0.50モルで充分である。
【0038】
6)特開平5-112603に記載の芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物:
該縮合生成物は、(A)芳香族アミン化合物と(B)キノン化合物と(C)芳香族ヒドロキシ化合物とを縮合することにより得られる物質である。
芳香族アミン化合物(A)は、例えば下記のような一般式(1)〜(3)で表される化合物である。
【0039】
【化13】

〔ここで、R1は-H、-NH2、-Cl、-OH、-NO2、-COCH3、-OCH3、-N(CH3)2又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表し、R2は、-H、-NH2、-OH、-CH3、-COOH、-SO3Hを表す。〕
【0040】
具体的には、アニリン、オルソ,メタもしくはパラ-フェニレンジアミン、オルソ,メタもしくはパラ-アミノフェノール、オルソ,メタもしくはパラ-クロロアニリン、オルソ,メタもしくはパラ-ニトロアニリン、オルソ,メタもしくはパラ-メチルアニリン、N,N-ジメチルパラフェニレンジアミン、4-クロロ-オルソフェニレンジアミン、4-メトキシオルソフェニレンジアミン、2-アミノ-4-クロロフェノール、2,3-ジアミノトルエン、5-ニトロ-2-アミノフェノール、2-ニトロ-4-アミノフェノール、4-アミノ-2-アミノフェノール、オルソ,メタもしくはパラ-アミノサリチル酸等が例示される。
【0041】
【化14】

〔ここで、二つのR1は、同一でも異なってもよく、前記のとおりであり、二つのR2も同一でも異なってもよく、前記のとおりである。〕
具体的には、4-アミノジフェニルアミン、2-アミノジフェニルアミン、4,4′-ジアミノジフェニルアミン、4-アミノ-3′-メトキシジフェニルアミン、4-アミノ-4′-ヒドロキシジフェニルアミン等のジフェニルアミン類が例示される。
【0042】
【化15】

〔ここで、二つのR1は、同一でも異なってもよく、前記のとおりであり、R2も前記のとおりである。〕
具体的には、α-ナフチルアミン、β-ナフチルアミン、1,5-ジアミノナフタリン、1-アミノ-5-ヒドロキシナフタリン、1,8-ジアミノナフタリン、2,3-ジアミノナフタリン等が例示される。
【0043】
キノン化合物(B)は、例えば、オルソ,メタもしくはパラ-ベンゾキノン、トル-パラ-キノン、オルソ-キシロ-パラ-キノン、チモキノン、2-メトキシベンゾキノン、ゲンチシルキノン、ポリポール酸、ユビキノンn等のベンゾキノン類及びこれらの誘導体;6-メチル-1,4-ナフトキノン、2-メチル-1,4ナフトキノン、ナフトキノン、ユグロン、ローソン、ブルンバギン、アルカンニン、エキノクロムA、ビタミンK1、ビタミンK2、シコニン、β,β′-ジメチルアクリルシコニン、β-ヒドロキシイソワレルシコニン、テラクリルシコニン等のナフトキノン類及びこれらの誘導体;テクトキノン、3-ヒドロキシ-2-メチルアントラキノン、アントラキノン、2-ヒドロキシアントラキノン、アリザリン、キサントブルブリン、ルビアジン、ムンジスチン、クリソファン酸、カルミン酸、ケルメシン酸、ラッカイン酸A等のアントラキノン類及びこれらの誘導体;フェナントレンキノン等のフェナントレンキノン類が挙げられる。これらの中で、ベンゾキノン類が特に好ましい。
【0044】
芳香族ヒドロキシ化合物(C)は、例えば一般式(4)、(5)で表される化合物である。
【化16】

〔ここで、R4は、-H、-Cl、-OH、-COCH3、-OCH3、-COOH、-SO3H又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表し、R5は、-H、-Cl、-OH、-OCH3、-OC2H5又は-COOHを表す。〕
【0045】
具体的には、フェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキシヒドロキノン、ピロガロール、オルソ,メタもしくはパラ-クロロフェノール、オルソ,メタもしくはパラ-ヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、(2,5-、2,6-、3,5-)ジヒドロキシトルエン等のフェノール誘導体が例示される。
【0046】
【化17】

〔ここで、R4及びR5は前記のとおりである。〕
具体的には、α-ナフトール、β-ナフトール、(1,3-、1,4-、1,5-、2,3-、2,6-,2,7-)ジヒドロキシナフタリン、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等のナフトール誘導体が例示される。
【0047】
前記した芳香族アミン化合物(A)、キノン化合物(B)及び芳香族ヒドロキシ化合物(C)の縮合は、有機溶媒系媒体中、必要に応じて縮合触媒の存在下で行われる。上記有機溶媒系媒体のpHは1〜13の範囲であり、好ましくは、pH4〜10である。pH調製剤は特に制約されることなく使用することができ、酸性化合物としては、例えば、リン酸、硫酸、フィチン酸、酢酸等が使用され、アルカリ性化合物としては、例えば、LiOH、KOH、NaOH、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NH4OH等のアルカリ金属化合物或いはアンモニウム化合物、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン化合物等が使用される。
【0048】
縮合反応の媒体としては、有機溶媒、例えばアルコール類、ケトン類、エステル類等;水と混和性を有する有機溶媒と水の混合溶媒が好ましい。水と混和性を有する媒体としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類及び酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が使用できる。
【0049】
また、必要に応じて縮合触媒が使用されるが、縮合触媒としては、α,α′-アゾビスイソブチロニトリル、α,α′-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル等のアゾ触媒、ヨウ素、臭素、塩素等の元素ないし分子状の単体ハロゲン、過酸化水素、過酸化ナトリウム、ベンゾイルパーオキサイド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酢酸、キュメンハイドロパーオキサイド、過安息香酸、p-メンタンハイドロパーオキサイド等の過酸化物、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム等の酸素酸あるいは酸素酸塩が例示される。なお、キノン化合物が縮合触媒として作用するので、縮合触媒を使用しなくても縮合反応は行われる。
【0050】
芳香族アミン化合物(A)の少なくとも1種以上、キノン化合物(B)の少なくとも1種以上及び芳香族ヒドロキシ化合物(C)の少なくとも1種以上を、前記した有機溶媒系媒体中で、必要に応じて縮合触媒下、室温〜200℃で0.5〜100時間反応することにより、縮合生成物が得られる。
縮合生成物は芳香族アミン化合物、キノン化合物、芳香族ヒドロキシ化合物の種類、組成比及び反応温度、反応時間に影響されるが、本発明においては、芳香族アミン化合物(A)1モル当たり、キノン化合物(B)を0.03〜1.0モルとすることが好ましい。
【0051】
以上説明した共役π結合化合物の中でも好ましいものは、芳香族アミン化合物とキノン化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との縮合物である。
用いる重合体スケール付着防止剤は、pH7.5〜13.5であることが好ましく、特に、pH8.0〜12.5であることが好ましい。pH調整に使用するアルカリ化合物としては、例えは、LiOH、NaOH、KOH、Na2CO3、Na2HPO4、NH4OH等のアルカリ金属化合物或いはアンモニア化合物、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン化合物等が使用可能である。
【0052】
重合体スケール付着防止剤の調製に使用する溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-プロパノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、2-ペンタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、アセト酢酸メチル等のエステル系溶剤;4-メチルジオキソラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤;フラン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の非プロトン系溶剤等が挙げられる。これらは適宜単独で又は二種以上の混合溶媒として使用される。
【0053】
上記溶媒の中で好ましいものは、水、及び水と混和性を有する遊戯溶媒と水との混合溶媒である。上記した有機溶媒の中で水と混和性を有する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤が挙げられる。水と混和性を有する有機溶媒と水との混合溶媒を使用する場合の有機溶媒の含有量は、引火、爆発等の危険がなく、毒性等の取扱上の安全の問題がない量とするのが好ましく、具体的には、有機溶媒が50重量%以下であることが好ましく、更に、30重量%以下であることが好ましい。
【0054】
スケール付着防止剤を塗布する際の塗布液中の共役π結合化合物の濃度は0.01〜10重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜3.0重量%である。
上記の重合体スケール付着防止剤は、スケールの付着防止効果をより向上させるため、無機コロイド及びアルカリ金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。該添加剤は、恐らく共役π結合化合物と相互作用して、得られるスケール付着防止剤からなる塗膜の表面の親水性を高めたり、重合体スケール付着防止剤の重合器内壁への付着を高めたりする作用があると推定される。
【0055】
無機コロイドとしては、例えば、アルミニウム、トリウム、チタン、ジルコニウム、アンチモン、スズ、鉄等から選択される金属の酸化物及び水酸化物のコロイド、タングステン酸、五酸化バナジウム、金及び銀のコロイド、ヨウ化銀ゾル、セレン、イオウ、シリカ等のコロイド等が挙げられる。これらの中で好ましいものは、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ及び鉄から選択される金属の酸化物及び水酸化物のコロイド、並びにコロイドシリカである。無機コロイドはどのような製造方法で得られたものでもよく、製造方法は特に限定されない。例えば、水を分散媒とする分散法や、凝集法により製造される粒子コロイドでよい。コロイド粒子の大きさは1〜500mμが好ましい。
【0056】
アルカリ金属のケイ酸塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のメタケイ酸塩(M2SiO3)、オルトケイ酸塩(M4SiO4)、二ケイ酸塩(M2Si2O3)、三ケイ酸塩(M3Si3O7)、セスキケイ酸(M4Si3O10)等(なお、ここでMはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を示す。)、並びに水ガラスが挙げられる。
無機コロイド及びアルカリ金属ケイ酸塩は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用可能である。
【0057】
また、無機コロイド及びアルカリ金属ケイ酸塩から選ばれる成分の量は、前記共役π結合化合物1重量部当たり、通常、0.01〜10重量部であり、好ましくは、0.05〜5重量部である。
また、上記の重合体スケール付着防止剤は、重合体スケール付着防止効果をより向上させるため、水溶性高分子化合物を含有することが好ましい。これも、恐らく共役π結合化合物と相互作用して塗膜表面の親水性を高める作用があるためと推定される。
【0058】
水溶性高分子化合物としては、例えば、ゼラチン、カゼイン等の両性高分子化合物;例えば、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸等のアニオン性高分子化合物;例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のカチオン性含窒素高分子化合物;例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ペクチン等のヒドロキシル基含有高分子化合物等が例示される。
さらに、上記の重合体スケール付着防止剤は得られる重合体製品の初期着色が悪化しない程度に染料及び/顔料を含有してもよい。
【0059】
工程(D)
こうして重合体スケール防止性の塗膜が形成された重合器に次重合のための原原材料が通常行われる如く仕込まれる。
次いで、前記の工程(A)〜(D)が必要な回数繰り返される。
本発明の方法は、水性媒体中における塩化ビニル単量体の単独重合および塩化ビニル単量体を含むビニル系単量体混合物(通常、塩化ビニルを50重量%以上含む)の共重合に適用することができる。重合の形式は懸濁重合でも乳化重合でもよい。塩化ビニル単量体との共重合に供し得るビニル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸あるいはそれらのエステルまたは塩、マレイン酸またはフマル酸、およびそれらのエステルまたは無水物、ブタジエン、クロロプレン、イソプレンのようなジエン系単量体、さらにスチレン、アクリロニトリル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテルなどが挙げられる。
【0060】
本発明の方法を実施する際のその他の条件は塩化ビニル単量体又ははそれを主体とするビニル系単量体混合物の水性媒体中での懸濁重合や乳化重合で通常用いられている条件でよい。重合触媒として、例えば、t-ブチルパーオキシネオデカネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、3,5,5-トリメチルヘキサノエルパーオキサイド、α-クミルパーオキシネオデカノエート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4-ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートおよびアセチルシクロヘキシルパーオキサイドのごとき有機過酸化物、α,α′-アゾビスイソブチロニトリル、α、α′-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルのごときアゾ触媒、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムのごとき水溶性過酸化物等が用いることはできる。また、分散剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニルの部分酸化物、ポリアクリル酸、酢酸ビニルと無水マレイン酸の共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのごときセルロース誘導体、およびゼラチンのごとき天然および合成高分子化合物等のごとき懸濁剤、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレートのごときノニオン性乳化剤、ラウリルスルフォン酸ソーダ、アルキルベンゼンスルフォン酸ソーダのごときアニオン性乳化剤等の乳化剤が用いられ、その他添加剤として炭酸カルシウム、酸化チタンなどの充てん剤、三塩基性硫酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ジブチルすずジラウレート、ジオクチルすずメルカプチドなどの安定剤、ライスワックス、ステアリン酸、セチルアルコールなどの滑剤、DOP、DBPなどの可塑剤、トリクロロエチレン、メルカプタン類などの連鎖移動剤、pH調節剤などが重合系に加えられる。本発明の方法によれば、このような触媒、分散剤、添加物の種類によらず、重合体スケールの付着を効果的に防止することができる。
【0061】
【作用】
本発明で重合器の材料として使用される合金材料は重合体スケール付着防止剤に対する吸着性が優れているためにスケール付着防止効果の向上に寄与するものと推定される。また、工程(B)及び(C)を重合器内を器外雰囲気から遮断した状態で行うことがどのようにスケール付着防止の向上に寄与するかは不明である。通常スケール付着防止剤液は重合器が外気に開放された状態で器内に塗布されているので器内は空気で置換されている事実を考慮すると、恐らく本発明の方法によれば、重合器の内壁面に吸着する酸素が減少するか、あるいは塗布剤に吸着する酸素が減少することが関係しているものと推定され、前記の合金材料とともにスケールの付着防止を高めるものと考えられる。
【0062】
【実施例】
以下実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、「部」は重量部を意味する。
縮合生成物の製造
以下の製造例において、得られた縮合生成物の分子量は次のようにして測定した。
・分子量の測定
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により、下記の測定条件で、ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
カラム: ガードカラム
商品名slim-pack GPC-800DP、島津製作所社製
分析カラム
商品名slim-pack GPC-803D、802D、島津製作所社製
移動相: 10mM LiBr/DMF
流量 : 1.0ml/min
検出器: RI
温度 : 60℃
【0063】
製造例1
縮合生成物No.1の製造
耐圧反応器にメタノール30,000モル(960kg)、1,8-ジアミノナフタリン100モル(15.8kg)、パラベンゾキノン50モル(5.4kg)、ピロガロール250モル(31.5kg)を仕込み、撹拌しながら80℃に昇温した。80℃で5時間反応させた後、冷却し、縮合生成物のメタノール溶液を得た。このようにして縮合生成物No.1の溶液を得た。縮合生成物No.1の重量平均分子量は2,000であった。
【0064】
製造例2
縮合生成物No.2の製造
特公平6-62709の製造例3を参照して、スケール付着防止剤を製造した。
耐圧反応器に2,2′-ジヒドロキシビフェニル30モル(5.59kg)、純度95%のパラホルムアルデヒド22.5モル(0.711kg)、パラトルエンスルホン酸0.19kgおよびエチレングリコールジメチルエーテル10Lを仕込み、撹拌しながら130℃に昇温した。130℃で17時間反応させた後、50℃に冷却し、反応混合物を水50L中に投入した。水に投入することにより析出した樹脂をろ過、水洗後乾燥して、5.1kgの2,2′-ジヒドロキシビフェニル-ホルマリン縮合樹脂(縮合生成物No.2)を得た。縮合生成物No.2の重量平均分子量は4300であった。
【0065】
製造例3
縮合生成物No.3の製造
特開昭57-164107の製造例1を参照して、スケール付着防止剤を製造した。
耐圧反応器に1-ナフトール250モル(36.0kg)と1規定NaOH水溶液(NaOH180モル、7.2kg含有)180Lを仕込み、撹拌しながら、70℃に昇温した。次に、反応混合物にホルムアルデヒド(38w/v%水溶液19.75L、250モル)を1.5時間に亘って滴下した。この間反応器の内温が80℃を越えないようにした。次に撹拌を続けながら反応混合物を3時間かけて60℃に冷却した。次に、反応混合物を98℃に昇温し、98℃で0.5時間反応させた。その後反応混合物を冷却し縮合生成物(縮合生成物No.3)のアルカリ性溶液を得た。縮合生成物No.3の重量平均分子量は1500であった。
【0066】
製造例4
縮合生成物No.4の製造
特開昭57-192413の塗布化合物の合成2を参照してスケール付着防止剤を製造した。
耐圧反応器にピロガロール100モル(12.6kg)及び水100Lを仕込み、ピロガロールを水に溶解させた。次に、得られた溶液にベンズアルデヒド200モル(21.2kg)及びりん酸300モル(29.4kg)を加え、それらの混合物を100℃で6時間反応させたところ、水に不溶な赤褐色の生成物が得られた。この水不溶性生成物をエーテルで洗浄後、該水不溶性生成物中からメタノールでメタノール可溶性成分を抽出し、次に抽出液からメタノールを乾燥により除去して残渣として縮合生成物No.4(ピロガロール-ベンズアルデヒド縮合物)を得た。重量平均分子量は4000であった。
【0067】
製造例5
縮合生成物No.5の製造
特公昭59-16561の製造例Iを参照して、スケール付着防止剤を製造した。
耐圧反応器にm-フェニレンジアミン100モル(10.8kg)、レゾルシノール200モル(22.0kg)及び触媒として35%塩酸1.04kg(HClとして10モル)を仕込み、305℃に昇温した。反応容器内の混合物が305℃に達したら、直ちに冷却した。昇温及び反応の過程で生成した水蒸気は除去し、内圧は150kPa以下に保った。冷却後、得られたm-フェニレンジアミン-レゾルシノール縮合物を粉砕して縮合生成物No.5を得た。重量平均分子量は3000であった。
【0068】
製造例6
縮合生成物No.6の製造
特公昭59-16561の製造例VIを参照して、スケール付着防止剤を製造した。
耐圧反応器にp-アミノフェノール100モル(10.9kg)及び30%塩酸0.99kg(HClとして9.5モル)を仕込み、169℃に昇温した。169℃に達したら、キシレン18Lを徐々に添加した。キシレンの添加目的は縮合反応中に生成する水を共沸混合物として除去するためである。次に、反応混合物を222℃に昇温し、222℃で3時間反応させた。反応中に発生するキシレンと水との混合蒸気を除去し、内圧は150KPa以下に保った。3時間の反応後、反応混合物を冷却した。得られた反応生成物は固体であった。次に、該反応生成物を粉砕し微粒状態にした後、水で洗浄し、ろ過しそして乾燥して縮合生成物No.6を得た。重量平均分子量は2500であった。
【0069】
製造例7
縮合生成物No.7の製造
特開昭54-7487の実施例1を参照して、スケール付着防止剤を製造した。
反応器にレゾルシノール200モル(22.0kg)を仕込み、窒素雰囲気下で加熱した。レゾルシノールを300℃に昇温し、300℃で8時間反応させた後、冷却した。得られた固体状の自己縮合レゾルシノールを粉砕して縮合生成物No.7を得た。重量平均分子量は1700であった。
【0070】
実施例1
表1に示す各実験において、同表に示した組成の材料からなる寸法10cm×10cmの正方形で板状の試験片A〜Lを使用した。各実験で、内容積1000リットルの撹拌機付ステンレス製重合器内の液相部及び気-液界面部に試験片を取付けた。次に、試験片及び器内の反応混合物が接触するすべての部分(試験片が取り付けられていない内壁部分、バッフル、攪拌翼等)に、自動塗布装置により縮合生成物No.1の0.5%メタノール溶液を室温で塗布し、50℃で15分間乾燥して塗膜を形成後、水洗した。その後、重合は次のように行った。
【0071】
重合器内を-700mmHgに減圧し、水400kg、塩化ビニル200kg、部分ケン化ポリビニルアルコール250g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース25g及び3,5,5-トリヘキサノイルパーオキサイド70gを仕込み、撹拌しながら66℃で6時間重合した。重合終了後、器内を大気に開放せず外部雰囲気から遮断したまま、重合体スラリーをブローダウンタンクに回収した。次に、器内をやはり外部雰囲気から遮断したまま水洗し、残存樹脂を除去した。
以後、前記縮合生成物No.1のメタノール溶液の塗布、乾燥、水洗、原材料の仕込み、重合、重合体スラリーの回収、そして水洗にいたる一連の操作を一バッチとして200バッチ繰り返した。その間、重合器は開放せず器内を外部雰囲気から遮断した状態が維持された。
【0072】
最終バッチ終了後に重合器内液相部の重合体スケール付着量及び気-液界面部の重合体スケール付着量を下記の方法で測定した。その結果を表1に示す。
・重合体スケール付着量の測定
試験片(10cm×10cm)に付着したスケールをステンレス製のへらで肉眼で確認できる範囲で可能な限り完全に掻き落として、天秤で計量した。その計量値を100倍して1m2当たりのスケール付着量を求めた。
【0073】
【表1】

(注)1) *印を付したNo.の実験は比較例である。
2) Bal.は表示した成分以外の残余成分を示す。
【0074】
実施例2
図1に示す重合装置を用いて以下の実験を行った。図1において、内容積130M3のSUS316L製重合器1には撹拌手段2、加熱・冷却用ジャケット3、マンホール4、及びその他塩化ビニル重合用の重合器に通常備わる付属設備(図示せず)が備わっている。重合器1の上部に接続されたライン5は原材料仕込み用ラインであり、図示のように塩化ビニル単量体(VCM)仕込ライン5a、触媒溶液仕込ライン5b、懸濁剤溶液仕込ライン5c、純水仕込ライン5d等の分岐ラインが接続されている。この仕込ラインには図示の位置にバルブV1、V2、V3、V4及びV5が設けられている。また、重合器1の上部に接続されたライン6は重合器1内の排気、単量体の回収等のために設けられ、分岐したライン7により真空ポンプ12、ガスホルダー13に導かれる。ガスホルダー13から単量体回収ライン8が導出され、該ラインから分岐したライン9はライン6に接続され、後述の均圧操作に用いられる。これらのライン6、7、8及び9には、図示の位置にバルブV6、V7、V8、V9、V10及びV18が設けられている。さらに、重合器1の上部には、重合器内の水洗及びスケール付着防止剤塗布を行うための装置11を介してライン10が接続され、該ライン10には純水供給ライン10a及びスケール付着防止剤供給ライン10bが図示のように接続されている。これらのラインには図示の位置にバルブV14、V15、V16及びV17が設けられている。重合器1の底にはライン14が接続され、これは重合体スラリーをブローダウンタンクへ導くライン14aとスケール付着防止剤液や洗浄水を廃水タンクへ排出するライン14bに分かれている。
【0075】
各実験4〜19において使用した重合体スケール付着防止剤塗布液の組成を表2及び表3に示す。
各実験において、次のようにして塩化ビニル単量体の重合を繰返し行った。
【0076】
まず、重合器のすべてのバルブ及びマンホールを閉とする。
(1)器内の前処理
バルブV6、V8、V9を開として真空ポンプを起動し、重合器内の圧を-700mmHgに減圧した。
バルブV6を閉じて、バルブV14、V15、V17を開としスケール付着防止剤塗布液を重合器の内壁、撹拌手段その他単量体が接触する全面に塗布する。塗布終了後バルブV14、V15、V17を閉としバルブV6を開とし真空ポンプを稼働し、ジャケット温度60℃で-700mmHgに減圧し、塗布液を乾燥する。真空ポンプを停止し、バルブV6、V8、V9を閉じた。バルブV14、V15、V16を開とし器内を水洗し、バルブV11、V13を開とし洗浄水を廃水タンクに送った後、バルブV14、V15、V16、V11、V13を閉じる。
【0077】
(2)仕込み
バルブV1、V2、V3、V4、V5を開き、塩化ビニル単量体100部、純水200部、部分ケン化ポリビニルアルコール0.022部、ヒドロキシメチルセルロース0.028部、t-ブチルパーオキシネオデカネート0.03部を仕込み、バルブV1、V2、V3、V4、V5を閉じる。
(3)重合
仕込んだ原材料を内温52℃で撹拌しながら数時間重合を行うと、器内の圧が5kg/cm2まで降圧する。この時点で重合終了とする。
【0078】
(4)排ガス
バルブV6、V8、V9を開とし、器内圧がほぼ大気圧となるまで、ガスホルダーに排ガスする。その後バルブV8、V9を閉じる。
(5)均圧
バルブV7、V10を開き、均圧をとる。
(6)スラリー抜出し
バルブV11、V12を開き、重合体スラリーをブローダウンタンクに抜出す。
(7)器内第1水洗
バルブV14、V15、V16を開き器内を水洗し、洗浄水をブローダウンタンクに送る。その後バルブV12、V16を閉じる。
【0079】
(8)塗布
バルブV17、V13を開き、スケール付着防止剤塗布液を塗布する。
(9)乾燥
バルブV14、V15、V17、V11、V13、V7、V10を閉じ、バルブV8、V9を開き、真空ポンプを起動し、ジャケット温度60℃で-700mmHgに減圧し、塗布液を乾燥する。その後、真空ポンプを停止し、バルブV6、V8、V9を閉じる。
【0080】
(10)器内第2水洗
バルブV14、V15、V16、V11、V13を開き、器内を水洗し、水洗水をウェストウォータータンクに排出する。
バルブV14、V15、V16、V11、V13を閉じる。
上記の仕込み(2)から重合後の第2水洗(10)までの操作を1バッチとして、最高500バッチ繰返し実施した。
また、第10、30、50、100、200、300、400及び500バッチの各バッチ終了後の重合器内壁の、液相部及び気液界面部におけるスケール付着状態を目視により下記(a)の基準で評価した。さらに最終バッチ終了後については、液相部と、気液の界面部のスケール付着量を下記の方法(b)で求めた。その結果を表4及び表5に示す。
【0081】
(a)重合体スケール付着の評価基準
A:スケールの付着はない
B:砂状のスケールが数%付着
C:部分的にうすくスケールが付着(付着率10%程度)
D:部分的に厚くスケールが付着(付着率10%程度)
E:部分的にうすくスケールが付着(付着率50%程度)
F:部分的に厚くスケールが付着(付着率50%程度)
G:全面にうすくスケールが付着
H:全面に厚くスケールが付着
また、各実験で得られた重合体をシートに成形した場合のフィッシュアイを、下記の方法(c)で測定した。その結果を表6及び表7に示す。
【0082】
(b)重合体スケール付着量の測定法
重合器内壁の所定箇所の10cm四方の区域に付着したスケールをへらで掻き落として、天秤で計量した。その計量値を100倍して、1m2当たりのスケール付着量を求めた。
(c)フィッシュアイの測定
重合体100重量部、ジオクチルフタレート(DOP)50重量部、ジブチルすずジラウレート1重量部、セチルアルコール1重量部、酸化チタン0.25重量部、カーボンブラック0.05重量部の配合割合で調製した混合物を6インチロールを用いて150℃で7分間混練した後、厚さ0.2mmのシートに成形し、得られたシート100cm2当たりに含まれるフィッシュアイの個数を光透過法により調べた。
更に、各実験で得られた重合体をシートに成形した場合の明度指数(L値)の測定を下記の方法で測定した。その結果を表6及び表7に示す。
【0083】
(d)明度指数(L値)の測定
得られた重合体100重量部、安定剤(昭島化学社製、TS-101)1重量部、安定剤(勝田化工社製、C-100J)0.5重量部及び可塑剤としてDOP50重量部を2本ロールミルを用いて160℃で5分間混練した後、厚さ1mmのシートに成形する。次に成形したシートを4×4×1.5cmの型枠に入れ、160℃、65〜70kgf/cm2で0.2時間加熱、加圧成形して測定用試料を作製する。この試料について、JIS Z 8730(1930)に記載のハンターの色差式における明度指数Lを求め、L値が大きい程白色度が高い、即ち、初期着色が低いと評価した。
【0084】
L値は次のようにして求める。
JIS Z 8722の記載に従って、標準光C、光電色彩計(三本電色工業株式会社製、Z-1001DP型測色色差計)を用い、刺激値直読方法により、XYZ表色系の刺激値Yを求める。照明及び受光の幾何学的条件としては、JIS Z 8722の4.3.1項に記載の条件cを採用した。求められた刺激値Yから、JIS Z 8730(1980)に記載の式:L=10Y1/2により、L値が算出される。
[比較例]
使用した重合体スケール付着防止剤塗布液の組成を示す表2の*印を付した実験No.は比較例であり、一部上記の手順に従わなかった。即ち、No.1〜3の実験では、重合終了後、重合反応器を大気に開放してスケール付着防止剤液の塗布を行った。その他については、上記手順に従って塩化ビニル単量体の重合を繰返し行った。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、重合器内の液相部のみでなく気液界面部での重合体スケールの付着も効果的に防止しつつ、初期着色が極めて少ない高品質の塩化ビニル系重合体を製造することができる。また、重合体スケールの付着が効果的に防止される結果、重合器の冷却能力を良好かつ安定して維持でき、スケールが製品に混入する恐れがなく、フィッシュアイの発生も少ないため、製品重合体の品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の方法を実施するために実施例で使用した重合装置の概略を示した図である。
【符合の説明】
1 重合器
5 原材料仕込み用ライン
6 排気、単量体回収用ライン
10 真空ポンプ
11 ガスホルダー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-11 
出願番号 特願平7-152206
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C08F)
P 1 651・ 121- YA (C08F)
P 1 651・ 161- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 邦彦  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 舩岡 嘉彦
大熊 幸治
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3380370号(P3380370)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 塩化ビニル系重合体の製造方法  
代理人 岩見谷 周志  
代理人 岩見谷 周志  

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