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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A46B
管理番号 1117852
異議申立番号 異議2003-70952  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2005-03-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3333827号「歯ブラシ」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3333827号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3333827号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成6年8月26日に特許出願され、平成14年8月2日にそれらの発明について特許権の設定登録がされ、その後、それらの特許について、特許異議申立人 ライオン株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月5日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
1)訂正内容
特許権者が願書に添付した明細書および図面(以下、特許明細書という。
)について求めている訂正の内容は、別紙のとおりの訂正事項aないし訂正事項dである。

2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、「首部太さ」について「少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなす」と限定するものであり、訂正前の請求項2に係る発明を新たに請求項1に係る発明とするものである。
したがって、訂正事項aは、特許明細書に記載された事項の範囲内において「首部」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正事項aとの整合を図るものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、取消理由3に対応するものであって、図1および図2と図3との間に存在した「植毛台座の長さC」と「植毛台座と首部との接続部」についての不整合を解消するために、図3を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、訂正事項a、bおよびcとの整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当しない。

3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3. 特許異議の申立てについての判断
1)本件発明
上記のとおり、訂正は認められるから、特許第3333827号の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」という。)は、平成16年3月5日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、
植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり、
かつ首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上であり、前記首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなすことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】前記首部太さの幅寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5 〜6.5mm、植毛台座との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状としてなり、
前記首部太さの厚み寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座との接続部での厚みを3.5 〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状としてなる請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】前記植毛台座が、
長さを20.5〜21.5mm、幅を10.5〜11.5mmとし、
先端面を幅2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面から4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面としてなる請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】前記植毛台座が、厚みを5.5mm以下としてなる請求項3記載の歯ブラシ。

2)引用刊行物に記載された発明
当審が平成15年12月24日付けで通知した取消しの理由で引用した刊行物(特開平5-15411号公報)には、図1〜3と共に、以下の事項が記載されている。

(イ)「【従来の技術】近年、歯ブラシは首部を細長く、植毛部を小さくする方向に設計変更されてきており、」(第2頁第1欄第18〜19行)
(ロ)「近年首部を細長く、植毛部を小さくする傾向を満たし、使用性を追及すると同時に、材料物性の限界点を見極め、安全性を確保することが要求されている。」(第2頁第1欄第37〜40行)
(ハ)「図1および図2は本発明に係る歯ブラシの一実施例を示す。同図に示すように、歯ブラシ本体1は植毛部2、首部3および把持部4から形成され、植毛部2の先端から首部3までが直線状に形成されている。そして、首部3と把持部4との接続部をテーパ状に形成してテーパ部5としている。ところで、刷掃時に植毛部2に圧力が加わると、首部3には曲げ応力が発生し、その最大応力が生ずる部分で、破壊(静的・衝撃・疲労)、降伏が生じ易い。これを回避するためには、応力集中が起こらない首部3の形状、すなわち“平等強さのはり”として設計すればよい。しかし、実際の歯ブラシの首部では、使用性の面から細い部分を極力長くすることが求められるとともに、製品としてのデザイン性も加味されなくてはならない。そこで、本実施例では最も応力集中の起こり易い首部3と把持部4との接続部にテーパ部5を設け、断面の急激な変化を避けるようにしている。」(第2頁第2欄第20〜35行)
(ニ)「【0007】また、テーパ部6を除いた首部3の径は極力細く均一にすることが使用性の面で望ましく、図1および図2においては首部3の最小径を4.5mm以下にしてある。そして、図3(B)に示すように首部3は断面四角形の角を面取りして形成してある。これは、同一径であるならば、断面が円形であるよりも、断面2次モーメントの大きい四角形とする方が強度面で有利となるからである。」(第2頁第2欄第36〜43行)
(ホ)「把持部4の一部まで口腔内に入れずに第2大臼歯まで刷掃するためには、植毛部2先端からテーパ部5を含めた首部3までの長さaが60mm以上であることが、使用性の面から好ましい。そして、刷掃のための前後運動や唇の厚さ、第3大臼歯(いわゆる、親知らず)まで考慮するならば、長さaは70〜75mm以上であることが好ましいことが判明した。」(第3頁第3欄第4〜11行)
(ヘ)「表4は、首部は一般形状のまま、細長くした場合と、本実施例における、たわみ量と、耐疲労回数を示す。」(第3頁第4欄第13〜15行)
(ト)
┌────┬──────┬──────┬───────────┐
│ │ 首部形状 │ 実施例 │ 一般形状 │
│項 目 ├──────┼──────┼──────┬────┤
│ │素 材 │PC/PET│PC/PET│PC │
├────┴──────┼──────┼──────┼────┤
│1Kgたわみ量(mm)│ 7.0 │ 12.0 │13.4│
├───────────┼──────┼──────┼────┤
│耐疲労回数(万回) │36.0以上│ 8.6 │35.6│
│ │(破損せず)│ (破損) │(破損)│
└───────────┴──────┴──────┴────┘
(第4頁【表4】)

そして、これら(イ)〜(ト)の記載事項及び図面の内容を総合すると、上記引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。
「歯ブラシ本体1は小さい植毛部2、細長い首部3および把持部4から形成され、前記首部3と前記把持部4との接続部をテーパ状に形成してテーパ部5とし、前記植毛部2先端から前記首部3までの長さaが70〜75mm以上であり、前記テーパ部5を除いた前記首部3の径は極力細く均一にし、最小径が4.5mm以下であり、断面四角形の角を面取りして形成してあり、前記首部の1Kgたわみ量が7.0mmである歯ブラシ。」(以下、引用発明という。)

3) 対比、判断
(1)本件発明1に対して
本件発明1と引用発明とを比較すると、その機能・構造からみて、後者の「植毛部」が前者の「植毛台座」に相当し、同様に「テーパ部5を含む首部3」が「首部」に相当する。ところで、引用発明では、図1および図2の図示内容を参酌すると、テーパ部5を除いた首部3の径はほぼ一定であると言えるし、また、植毛部2先端からテーパ部5を含めた首部3までの長さaが70〜75mm以上であるから、植毛部2先端から45mmの位置は、首部3の略中央部であって、その略中央部の径も首部3の最小径と同様に4.5mm以下であると言える。そして、「径が4.5mm以下」が「幅と厚みともに5.8mm以下」に含まれることから、後者の「テーパ部5を除いた首部3の径は極力細く均一にし、最小径が4.5mm以下であり」は、前者の「植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり」に対応すると言える。さらに、前者においては「前記首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状」であり、後者においては「テーパ部5」を有することから、両者は、「首部の少なくとも一部が、幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなす」点で共通すると言える。してみると、両者は、
「把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、
植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり、
前記首部の少なくとも一部が、幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなす歯ブラシ」点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:前者では「首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上である」と特定しているのに対して、後者ではそのような特定をしていない点。
相違点b:前者では「首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなす」のに対して、後者では「首部3は極力細く均一であって、把持部4との接続部をテーパ状に形成してテーパ部5としている」点。

そこで先ず相違点aを検討する。
本件発明1における「首部及び植毛台座の固有振動数」の技術的意義は、訂正明細書の【0003】(本件特許公報の【0003】参照)に「従来技術において、首部を過度に細くすると、首部及び植毛台座の固有振動数が過度に小さくなり、使用上の応答性が悪くなる。即ち、首部及び植毛台座の固有振動数が過度に小さくなると、刷掃の際に歯列の凹凸により首部及び植毛台座に発生する振動の振幅倍率が大きくなり、口腔内で暴れる如くになる。」と記載され、同書の【0012】(同公報の【0013】参照)には「本発明にあっては、首部太さを単に細くすると首部及び植毛台座の固有振動数が軽減して使い心地が悪くなるので、固有振動数を120Hz以上としながら首部太さを5.8mm以下に細くすることとしたものである。」と記載され、同書の【0033】(同公報の【0034】参照)には「首部の幅A、厚みBを小さくすると、首部及び植毛台座の固有振動数は小さくなる。つまり、首部の太さを細くすると、首部及び植毛台座の固有振動数は小さくなる。この傾向は、首部の長さ方向の太さが変化するような首部に対しても、単純に首部全体の太さを細くするような場合にあてはまる。」と記載されていることからみて、首部太さの下限を規定しようとするものである。すなわち、刷掃時における首部及び植毛台座の口腔内での暴れを抑えるために首部太さを所定値以上とする、すなわち、その剛さを所定値以上としその固有振動数を120Hz以上とするものであると認められる。
一方、引用発明における「1Kgたわみ量7.0mm」の技術的意義は、記載事項(へ)および記載事項(ト)における表4の「実施例、PC/PET、7.0、36.0以上(破損せず)」と「一般形状、PC/PET、12.0、8.6(破損)」からみて、静的強度のみならず、衝撃強度、疲労強度をも含めて首部の安全性を確保する、すなわち、刷掃時における首部及び植毛台座の撓み・振幅を抑えることにあり、刷掃時における首部及び植毛台座の撓み・振幅が「1Kgたわみ量12.0mm」では大きすぎ、「1Kgたわみ量7.0mm」では適切であることから、「1Kgたわみ量7.0mm」は「1Kgたわみ量」の上限値、すなわち、首部太さの下限を規定しているに等しいといえる。また、「1Kgたわみ量」は「剛さk」の逆数1/kであり、訂正明細書の【0026】の【数1】にも示されているように、固有振動数が「剛さk」の平方根に比例するから、「剛さk」を大きくする、すなわち、「1Kgたわみ量」を小さくすることが「固有振動数」を大きくすることとなり、「1Kgたわみ量」を特定することと「首部及び植毛台座の固有振動数」を特定することとが深く関連していることは、当業者ならば十分予測し得る範囲の事項であると言える。
してみると、引用発明において首部太さの下限を規定する条件として、「1Kgたわみ量7.0mm」と特定する代わりに、「首部及び植毛台座の固有振動数を所定値以上」と特定することは、当業者ならば何ら困難性のないことであると認められる。
さらに、訂正明細書に記載された本発明例3は、図4に示されているように首部の幅寸法が植毛台座の側に向けて一定のものであって、先細となるテーパ状をなしていないことから、本件発明1の実施例とは言えないこととなり、この本発明例3の首部の固有振動数のみが120Hzであって、他の発明例の首部の固有振動数は159〜190Hzであることからみて、120Hzの数値に臨界的意義があるとは言えないことは明らかである。また、本件特許の出願日前に公然実施されていたと認められるライオン(株)社製「ビトイーンα」(特許異議申立人の提示した甲第1号証および甲第2号証参照)あるいはライオン(株)社製「EX slimhead 33S」(特許異議申立人の提示した甲第9号証-1〜4および甲第12号証参照)が、120Hz以上の固有振動数を有していることからみても、「120Hz以上」とすることは、何ら格別のものではなく、当業者ならば適宜採用し得る設計的事項に過ぎないと云わざるを得ない。
してみると、引用発明において首部の幅寸法の下限を規定する条件として、「首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上である」とすることは、何ら格別の効果も奏せず、当業者ならば容易に想到し得る程度の事項であると認められる。

次に、相違点bについて検討すると、
「首部が全体としてテーパ状になっている歯ブラシ」は、本件出願前周知である(例えば、特表平1-501448号公報のFIG.2、特表平2-503876号公報のFIG.2あるいは実開平3-72720号公報の第1図(イ)参照)。そして、引用発明の首部3に該周知の歯ブラシの技術を適用して、相違点bにおける本件発明の構成のように形成することは、何ら阻害要因が存在せず、当業者が容易になし得る程度のことに過ぎず、該適用により格別の効果も奏しない。

さらに、相違点aおよび相違点bを合わせ考えても、格別の作用・効果を奏するとは言えない。

以上のことから、本件発明1は、引用発明および上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(2)本件発明2に対して
本件発明2と引用発明とを比較すると、上記相違点aおよび相違点bに加え、さらに、以下の点で相違する。
相違点c:前者においては「前記首部太さの幅寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5 〜6.5mm、植毛台座との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状としてなり、
前記首部太さの厚み寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座との接続部での厚みを3.5 〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状としてなる」のに対して、後者においてはそのような寸法がどうか不明である点。

相違点aおよび相違点bについては、本件発明1に対して(1)において判断したとおりである。そして、相違点cについて検討すると、
刊行物の記載事項(イ)にも記載されているように「首部を細長く、植毛部を小さくする」することは本件出願前周知である。そして、「首部を細長く、植毛部を小さくする」ことを実現するために、相違点cにおける本件発明2に限定されたような首部および植毛台座に関する種々の値を採用することは、何ら格別の効果を奏せず、当業者ならば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

さらに、相違点aないし相違点cを合わせ考えても、格別の作用・効果を奏するとは言えない。

してみると、本件発明2は、引用発明および上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。。

(3)本件発明3に対して
本件発明3と引用発明とを比較すると、上記相違点aおよび相違点bに加え、さらに、以下の点で相違する。
相違点d:前者においては「前記植毛台座が、
長さを20.5〜21.5mm、幅を10.5〜11.5mmとし、
先端面を幅2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面から4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面としてなる」のに対して、後者においてはそのような寸法がどうか不明である点。

相違点aおよび相違点bについては、本件発明1に対して(1)において判断したとおりである。そして、相違点dについて検討すると、
従来の首部を細くした歯ブラシにおいて、その植毛部の長さが15〜30mmである(例えば、特公昭59-37965号公報の第2頁第3欄第41行〜同頁第4欄第1行の記載「一般に、刷毛部の長さは小児用歯ブラシで15〜20mm、成人用歯ブラシで25〜30mmが適当されており」参照)ことからみて、「首部を細長く、植毛部を小さくする」ことを実現するために、相違点dにおける本件発明3に限定されたような植毛台座に関する種々の値を採用することは、何ら格別の効果を奏せず、当業者ならば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。
また、「植毛台座の先端面を平面とする」ことも本件出願前周知(例えば、特表平2-503876号公報のFIG.2あるいは特公昭59-37965号公報の第2図参照)であり、具体的な寸法として「先端面を幅2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面から4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面」とすることも、何ら格別の効果を奏せず、当業者ならば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

さらに、相違点a、相違点bおよび相違点dを合わせ考えても、格別の作用・効果を奏するとは言えない。

してみると、本件発明3は、引用発明および上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(4)本件発明4に対して
本件発明4と引用発明とを比較すると、上記相違点a、相違点bおよび相違点dに加え、さらに、以下の点で相違する。
相違点e:前者においては「植毛台座が、厚みを5.5mm以下としてなる」のに対して、後者においてはそのような寸法がどうか不明である点。

上記相違点a、相違点bおよび相違点dについては、本件発明1、3に対して(1)、(3)において判断したとおりである。そして、相違点eについて検討すると、
刊行物の記載事項(イ)にも記載されているように「首部を細長く、植毛部を小さくする」することは本件出願前周知である。そして、従来の首部を細くした歯ブラシにおいては、植毛部の厚さが6mm程度である(例えば、特開昭63-24906号公報の第3頁左上欄第14行「f=6mm」参照)ことからみて、「首部を細長く、植毛部を小さくする」ことを実現するために、相違点eにおける本件発明4に限定された値を採用することは、何ら格別の効果を奏せず、当業者ならば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

さらに、相違点a、相違点b、相違点dおよび相違点eを合わせ考えても、格別の作用・効果を奏するとは言えない。

してみると、本件発明4は、引用発明および上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、上記引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する
 
別掲 別紙「訂正の内容」
1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、
植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり、
かつ首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上であることを特徴とする歯ブラシ。」を
「【請求項1】把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、
植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり、
かつ首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上であり、前記首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなすことを特徴とする歯ブラシ。」
と訂正する。

2)訂正事項b
特許請求の範囲の旧請求項2は削除し、旧請求項3〜5をそれぞれ新請求項2〜4に改める。

3)訂正事項c
図3を削除し、図4〜図10の図番号を繰り上げ、図3〜図9とする。

4)訂正事項d
(1)訂正事項d-1
段落【0006】の「120Hz 以上であるようにしたものである。」を「120Hz 以上であり、前記首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなすようにしたものである。」と訂正する。
(2)訂正事項d-2
段落【0007】を削除し、段落【0008】以降の段落番号を1つ繰り上げる。
(3)訂正事項d-3
新段落【0007】〜【0010】及び【0015】〜【0017】中の「請求項」なる記載されるに続く項番を1つづつ繰り上げる。
(4)訂正事項d-4
旧段落【0009】(新段落【0008】)の「円弧面としてなるようにしたものである。」を、「円弧面としてなる・・・ようにしたものである。」と訂正する。
(5)訂正事項d-5
旧段落【0011】(新段落【0010】)の丸番号3を丸番号4とし、旧段落【0014】〜【0015】の「(3)上記(1)、(2)より、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた磨き易い歯ブラシとなる。
請求項2に記載の本発明によれば下記(4)の作用がある。
(4)首部太さを植毛台座の側に向けて先細テーパとすることにより、奥歯磨き時に前歯によりあたりにくくすることができる。尚、首部は奥歯の内側面磨き時に前歯に最もあたり易く、この奥歯の内側面磨き時の歯ブラシ姿勢はその幅方向を口腔内の上下方向に向けるものとなるから、先細テーパは首部太さの幅寸法において採用することに特に意味がある。」を新段落【0013】〜【0014】として「(3)首部太さを植毛台座の側に向けて先細テーパとすることにより、奥歯磨き時に前歯によりあたりにくくすることができる。尚、首部は奥歯の内側面磨き時に前歯に最もあたり易く、この奥歯の内側面磨き時の歯ブラシ姿勢はその幅方向を口腔内の上下方向に向けるものとなるから、先細テーパは首部太さの幅寸法において採用することに特に意味がある。
(4)上記(1)〜(3)より、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた磨き易い歯ブラシとなる。 」と訂正する。(なお、丸番号1〜4は、(1)〜(4)にて表記する。)
(6)訂正事項d-6
旧段落【0019】(新段落【0018】)の「図3は植毛台座を示す模式図、図4は固有振動数の計測装置を示す模式図、図5は本発明例と比較例とを示す説明図、図6は各歯ブラシ首部の固有振動数計測結果を示す説明図、図7は異物感評価を示す説明図、図8は応答性評価を示す説明図、図9は磨き易さ評価を示す説明図、図10は本発明例と比較例の総合評価を示す」なる記載を「図3は固有振動数の計測装置を示す模式図、図4は本発明例と比較例とを示す説明図、図5は各歯ブラシ首部の固有振動数計測結果を示す説明図、図6は異物感評価を示す説明図、図7は応答性評価を示す説明図、図8は磨き易さ評価を示す説明図、図9は本発明例と比較例の総合評価を示す」と訂正する。
(7)訂正事項d-7
旧段落【0021】及び【0024】(新段落【0020】及び【0025】)の「図3」なる記載を「図2」に訂正する。
(8)訂正事項d-8
旧段落【0038】〜【0039】の「(3)上記(1)、(2)より、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた磨き易い歯ブラシとなる。
(4)首部太さを植毛台座の側に向けて先細テーパとすることにより、奥歯磨き時に前歯によりあたりにくくすることができる。尚、首部は奥歯の内側面磨き時に前歯に最もあたり易く、この奥歯の内側面磨き時の歯ブラシ姿勢はその幅方向を口腔内の上下方向に向けるものとなるから、先細テーパは首部太さの幅寸法において採用することに特に意味がある。」を新段落【0037】〜【0038】として「(3)首部太さを植毛台座の側に向けて先細テーパとすることにより、奥歯磨き時に前歯によりあたりにくくすることができる。尚、首部は奥歯の内側面磨き時に前歯に最もあたり易く、この奥歯の内側面磨き時の歯ブラシ姿勢はその幅方向を口腔内の上下方向に向けるものとなるから、先細テーパは首部太さの幅寸法において採用することに特に意味がある。
(4)上記(1)〜(3)より、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた磨き易い歯ブラシとなる。 」と訂正する。(なお、丸番号1〜4は、(1)〜(4)にて表記する。)
(9)訂正事項d-9
旧段落【0044】〜【0048】、【0051】及び【0054】(新段落【0043】〜【0047】、【0050】及び【0053】)の図番を1つづつ繰り上げる。
(10)訂正事項d-10
【図面の簡単な説明】の【図3】「図3は植毛台座を示す模式図である。」を削除すると共に、【図4】以降の図番及び説明を1つづつ繰り上げる。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
歯ブラシ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、
植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり、
かつ首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上であり、前記首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなすことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】 前記首部太さの幅寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5〜6.5mm、植毛台座との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状としてなり、
前記首部太さの厚み寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座との接続部での厚みを3.5〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状としてなる請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】 前記植毛台座が、
長さを20.5〜21.5mm、幅を10.5〜11.5mmとし、
先端面を幅2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面から4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面としてなる請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】 前記植毛台座が、厚みを5.5mm以下としてなる請求項3記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は口腔内を刷掃するに好適な歯ブラシに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、特開平5-15411号公報に記載の如く、首部を細長く、植毛台座を小さくすることにより、口腔内の隅々まで刷掃可能とするものが提案されている。これは、刷掃時に口腔内に入る首部、植毛台座を小寸法化し、結果としてそれらの首部、植毛台座が唇、前歯、歯茎等にあたりにくくし、使用上の異物感を感じさせないようにしたものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
然しながら、従来技術において、首部を過度に細くすると、首部及び植毛台座の固有振動数が過度に小さくなり、使用上の応答性が悪くなる。即ち、首部及び植毛台座の固有振動数が過度に小さくなると、刷掃の際に歯列の凹凸により首部及び植毛台座に発生する振動の振幅倍率が大きくなり、口腔内で暴れる如くになる。
【0004】
即ち、本発明者の研究結果によれば、刷掃の際に、歯列の凹凸により首部及び植毛台座に強制振動が発生し、
A:強制振動の振幅、Ast:静たわみ、A/Ast:振幅倍率
ω:強制振動の振動数、ωn:首部及び植毛台座の固有振動数、ω/ωn:振動比
とすると、
振動比=0のとき振幅倍率=1となり応答性良好
振動比=1のとき振幅倍率=∞となり応答性最悪(共振現象)
となる。そして、
ωnの減少→振動比の増大→振幅倍率の増大→口腔内での暴れ(応答性不良)
ωnの増大→振動比の減少→振幅倍率の減少→口腔内での暴れ抑制(応答性良)
となる。
【0005】
本発明は、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた歯ブラシを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の本発明は、把持部に首部を介して植毛台座を支持してなる歯ブラシにおいて、植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さが幅と厚みともに5.8mm以下であり、かつ首部及び植毛台座の固有振動数が厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上であり、前記首部太さが、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状をなすようにしたものである。
【0007】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の本発明において更に、前記首部太さの幅寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5〜6.5mm、植毛台座との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状としてなり、前記首部太さの厚み寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座との接続部での厚みを3.5〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状としてなるようにしたものである。
【0008】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の本発明において更に、前記植毛台座が、長さを20.5〜21.5mm、幅を10.5〜11.5mmとし、先端面を幅2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面から4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面としてなる前記首部太さの幅寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5〜6.5mm、植毛台座との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状としてなり、前記首部太さの厚み寸法が、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座との接続部での厚みを3.5〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状としてなるようにしたものである。
【0009】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の本発明において更に、前記植毛台座が、厚みを5.5mm以下としてなるようにしたものである。
【0010】
【作用】
請求項1に記載の本発明によれば下記▲1▼〜▲4▼の作用がある。
▲1▼首部において植毛台座の先端から45mmの位置は、人の一般的な口腔内サイズにおいて、植毛台座を奥歯まで挿入したときに前歯にあたる部分である。そして、この位置での首部太さを幅と厚みともに5.8mm以下の細径としたから、口腔内での使用時に異物感を与えない。
【0011】
▲2▼首部及び植毛台座の固有振動数を厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上としたから、刷掃の際に歯列の凹凸により首部及び植毛台座に発生する振動の振幅倍率を小さく抑えることが可能になり、応答性が良好になり、口腔内で暴れない。
【0012】
尚、本発明にあっては、首部太さを単に細くすると首部及び植毛台座の固有振動数が軽減して使い心地が悪くなるので、固有振動数を120Hz以上としながら首部太さを5.8mm以下に細くすることとしたものである。
【0013】
▲3▼首部太さを植毛台座の側に向けて先細テーパとすることにより、奥歯磨き時に前歯によりあたりにくくすることができる。尚、首部は奥歯の内側面磨き時に前歯に最もあたり易く、この奥歯の内側面磨き時の歯ブラシ姿勢はその幅方向を口腔内の上下方向に向けるものとなるから、先細テーパは首部太さの幅寸法において採用することに特に意味がある。
【0014】
▲4▼上記▲1▼〜▲3▼より、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた磨き易い歯ブラシとなる。
【0015】
請求項2に記載の本発明によれば下記▲5▼の作用がある。
▲5▼首部太さの幅寸法として、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5〜6.5mm、植毛台座との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状とする。また、首部太さの厚み寸法として、植毛台座の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座との接続部での厚みを3.5〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状とする。これにより、(a)歯の内側磨き時に首部が歯にあたりにくい、(b)歯のどの部分を磨くときにも、首部が唇にあたりにくく、使用上の異物感を感じさせない。
【0016】
請求項3に記載の本発明によれば下記▲6▼の作用がある。
▲6▼植毛台座が、長さを20.5〜21.5mm、幅を10.5〜11.5mmとし、先端面を幅2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面から4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面とすることにより、奥歯の側面磨き時に、植毛台座の先端面回りが歯茎にあたりにくく、使用上の異物感を感じさせない。
【0017】
請求項4に記載の本発明によれば下記▲7▼の作用がある。
▲7▼植毛台座が厚みを5.5mm以下とすることにより、(a)奥歯咬合面磨き時に顎の開きを小さくでき、(b)奥歯外側面磨き時に頬への圧迫を小さくでき、使用上の異物感を感じさせない。
【0018】
【実施例】
図1は本発明の一実施例を示す平面図、図2は図1の側面図、図3は固有振動数の計測装置を示す模式図、図4は本発明例と比較例とを示す説明図、図5は各歯ブラシ首部の固有振動数計測結果を示す説明図、図6は異物感評価を示す説明図、図7は応答性評価を示す説明図、図8は磨き易さ評価を示す説明図、図9は本発明例と比較例の総合評価を示す図表である。
【0019】
歯ブラシ10は、ポリプロピレン、ナイロン6等の合成樹脂からなり、把持部11に首部12を介して植毛台座13を支持する。植毛台座13には、不図示のブリッスルが植毛される。把持部11は、首部12との接続部側に親指当て部14を備えている。
【0020】
然るに、歯ブラシ10は、首部12と植毛台座13の寸法、首部12及び植毛台座13の固有振動数を以下の如くに定めている。
(A)首部12の寸法(図1〜図2)
植毛台座13の先端面13Aから45mmの位置における首部12の太さを、幅A0と厚みB0ともに5.8mm以下(より好適には5.5mm以下)とする。
【0021】
更に、首部12の太さを、少なくとも幅寸法に関して、植毛台座13の側に向けて先細となるテーパ状とする。
【0022】
そして、具体的には、首部12の太さの幅寸法は、植毛台座13の先端面13Aからの距離Lが65〜75mm(本実施例では69.03mm)の位置での幅A1を5.5〜6.5mm(最も好適には6.28mm)、植毛台座13との接続部での幅A2を4.0〜5.0mm(最も好適には4.62mm)とし、それらの中間をテーパ状とするのが良い。
【0023】
また、具体的には、首部12の太さの厚み寸法は、植毛台座13の先端面13Aからの距離Lが65〜75mm(本実施例では69.03mm)の位置での厚みD1を5.0〜6.0mm(最も好適には5.44mm)、植毛台座13との接続部での厚みB2を3.5〜4.5mm(最も好適には3.97mm)とし、それらの中間をテーパ状とするのが良い。
【0024】
(B)植毛台座13の寸法(図1〜図2)
植毛台座13の長さCを20.5〜21.5mm(最も好適には21.17mm)、幅Dを10.5〜11.5mm(最も好適には11.2mm)、先端面13Aを幅E2.0〜3.0mmの平面、先端面と側面における該先端面からの距離Kが4.5〜5.5mm(最も好適には5.0mm)の位置との間をR3mm、R15mm、R5mmの3つの曲率半径の円弧を連ねた円弧面としている。
【0025】
また、植毛台座13は、厚みFを5.5mm以下としている。具体的には、植毛台座13の先端側の厚みF1を5mm、首部12との接続部側の厚みF2を4mmとしている。
【0026】
(C)首部12及び植毛台座13の固有振動数歯ブラシ10において、植毛台座13の質量をm1、首部12の質量をm2、首部の剛さをkとするとき、首部12及び植毛台座13の固有振動数fは、下記(1)式の如くである。
【数1】

【0027】
そして、歯ブラシ10においては、首部12及び植毛台座13の固有振動数を厚み方向の縦振動(f1)と幅方向の横振動(f2)ともに120Hz以上、より好適には150Hz以上としている。
【0028】
尚、首部12及び植毛台座13の固有振動数は図3の計測装置を用いて下記(1)〜(4)により計測した。
【0029】
(1)歯ブラシ10の植毛台座13よりブリッスルを削除し、これと同じ重量の強磁性体板20を同部分に貼り付ける。
【0030】
(2)把持部11の親指当て部14をチャック装置21に固定する。
【0031】
(3)植毛台座13に設けた強磁性体板20の下にソレノイド22を置き、ファンクションジェネレータ23から一定電圧の正弦波を入力すると、ソレノイド22は同正弦波の磁界を発生し、それに伴って植毛台座13に貼り付けられている強磁性体板20を磁力で引張り植毛台座13は上下する。
【0032】
(4)レーザー変位計24の検出ヘッド24Aにより植毛台座13の上下振動を計測し、オシロスコープ25に表示する。この際、入力波形のある周波数のときに振動の変位は急激に大きくなり、この周波数が固有振動数fとなる。そして、歯ブラシ10の首部12が厚み方向に振れるようにチャック装置21に固定されていれば縦振動の固有振動数f1が得られ、首部12が幅方向に振れるようにチャック装置21に固定されていれば横振動の固有振動数f2が得られるものとなる。
【0033】
また、首部の太さと首部及び植毛台座の固有振動数の関係は次のようになる。首部の長さ方向の太さが変化しない、例えば幅A、厚みBの楕円柱状の首部については、首部の長さ一定、首部及び植毛台座のヤング率、比重一定という条件下で、
【数2】
厚み方向の首部の剛さ∝AB3、
幅方向の首部の剛さ∝A3B、
首部の質量∝AB
となる。これらの関係を(1)式にあてはめると、首部の幅A、厚みBを小さくすると、首部及び植毛台座の固有振動数は小さくなる。つまり、首部の太さを細くすると、首部及び植毛台座の固有振動数は小さくなる。この傾向は、首部の長さ方向の太さが変化するような首部に対しても、単純に首部全体の太さを細くするような場合にあてはまる。
【0034】
以下、本実施例の作用について説明する。
▲1▼首部12において植毛台座13の先端面13Aから45mmの位置は、人の一般的な口腔内サイズにおいて、植毛台座13を奥歯まで挿入したときに前歯にあたる部分である。そして、この位置での首部太さを幅と厚みともに5.8mm以下(より好適には5.5mm以下)の細径としたから、口腔内での使用時に異物感を与えない。
【0035】
▲2▼首部12及び植毛台座13の固有振動数を厚み方向の縦振動と幅方向の横振動ともに120Hz以上としたから、刷掃の際に歯列の凹凸により首部12及び植毛台座13に発生する振動の振幅倍率を小さく抑えることが可能になり、応答性が良好になり、口腔内で暴れない。
【0036】
尚、上記実施例にあっては、首部太さを単に細くすると首部12及び植毛台座13の固有振動数が軽減して使い心地が悪くなるので、固有振動数を120Hz以上としながら首部太さを5.8mm以下に細くすることとしたものである。
【0037】
▲3▼首部太さを植毛台座13の側に向けて先細テーパとすることにより、奥歯磨き時に前歯によりあたりにくくすることができる。尚、首部12は奥歯の内側面磨き時に前歯に最もあたり易く、この奥歯の内側面磨き時の歯ブラシ姿勢はその幅方向を口腔内の上下方向に向けるものとなるから、先細テーパは首部太さの幅寸法において採用することに特に意味がある。
【0038】
▲4▼上記▲1▼〜▲3▼より、口腔内で異物感がなく、然も把持部11に加えた操作に対する植毛台座13の応答性が良く、使用感の優れた磨き易い歯ブラシ10となる。
【0039】
▲5▼首部太さの幅寸法として、植毛台座13の先端から65〜75mmの位置での幅を5.5〜6.5mm、植毛台座13との接続部での幅を4.0〜5.0mmとし、それらの中間をテーパ状とする。また、首部太さの厚み寸法として、植毛台座13の先端から65〜75mmの位置での厚みを5.0〜6.0mm、植毛台座13との接続部での厚みを3.5〜4.5mmとし、それらの中間をテーパ状とする。これにより、(a)歯の内側磨き時に首部が歯にあたりにくい、(b)歯のどの部分を磨くときにも、首部が唇にあたりにくく、使用上の異物感を感じさせない。
【0040】
▲6▼植毛台座13が、長さを20.5〜21.5mm、幅を10.5〜11.5mmとし、先端面13Aを幅2.0〜3.0mmの平面、先端面13Aと側面における該先端面13Aから4.5〜5.0mmの位置との間を円弧面とすることにより、奥歯の側面磨き時に、植毛台座13の先端面回りが歯茎にあたりにくく、使用上の異物感を感じさせない。
【0041】
▲7▼植毛台座13が厚みを5.5mm以下とすることにより、(a)奥歯咬合面磨き時に顎の開きを小さくでき、(b)奥歯外側面磨き時に頬への圧迫を小さくでき、使用上の異物感を感じさせない。
【0042】
以下、本実施例の具体的実施結果について説明する。本発明例1、2、3、比較例1、2の各歯ブラシについて、首部及び植毛台座の固有振動数、首部太さ、首部テーパ、材質、異物感評価、応答性評価、磨き易さ評価を試験し、図9の総合評価を得た。
【0043】
(1)首部及び植毛台座の固有振動数(図5、図9)
各歯ブラシの縦振動の固有振動数(f1)、横振動の固有振動数(f2)を前述図4の固有振動数計測装置を用いて計測し、図5の結果を得た。本発明例1の歯ブラシの縦振動の固有振動数(f1)は159.38Hz、横振動の固有振動数(f2)は185.00Hz、本発明例2の歯ブラシの縦振動の固有振動数(f1)は190Hz、横振動の固有振動数(f2)は190Hz、本発明例3の歯ブラシの縦振動の固有振動数(f1)は120Hz,横振動の固有振動数(f2)は120Hzであった。尚、比較例1は首部の固有振動数の点では本発明の範囲内にあり、比較例2はこの点で本発明の範囲外にある。
【0044】
(2)首部太さ(図4、図9)
植毛台座の先端から45mmの位置における首部太さは、本発明例1において幅5.3mmと厚み4.4mmであり、幅と厚みともに5.8mm以下である。また、本発明例2において幅4.5mmと厚み4.5mmであり、幅と厚みともに5.8mm以下である。また、本発明例3において幅と厚みともに5.8mmである。尚、この首部太さの点において、比較例2は本発明の範囲内にあり、比較例1は本発明の範囲外にある。
【0045】
(3)首部テーパ(図4、図9)
本発明例1、2は、首部太さが幅方向、厚み方向ともに、植毛台座の側に向けて先細となるテーパ状を付与されている。尚、首部テーパの点において、比較例2は本発明の範囲内にあり、比較例1は本発明の範囲外にある。
【0046】
(4)材質(図9)
本発明例1、3、比較例1はポリプロピレンからなり、本発明例2はナイロン6からなり、比較例2はポリカーボネイト飽和ポリエステル樹脂からなる。
【0047】
(5)異物感評価(図6、図9)
本発明例1、2は、首部太さと首部テーパとも本発明の範囲内にあることから、口腔内使用時の異物感(邪魔に感ずるか否か)の評価点(スコア)は高い。また、本発明例3は、首部太さが本発明の範囲内にあることから、口腔内使用時の異物感(邪魔に感ずるか否か)の評価点(スコア)は高い。
【0048】
尚、比較例2も、首部太さと首部テーパとも本発明の範囲内にあることから、口腔内使用時の異物感の評価点は高い。
【0049】
これに対し、比較例1は首部太さと首部テーパとも本発明の範囲外にある。このため、比較例1は、口腔内使用時の異物感の評価点は低い。
【0050】
(6)応答性評価(図7、図9)
本発明例1、2、3は、首部の固有振動数(f1,f2)の点で本発明の範囲内にあることから、把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性の評価点は高い。
【0051】
比較例1も、首部の固有振動数(f1,f2)の点で本発明の範囲内にあることから、把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性の評価点は高い。
【0052】
比較例2は首部の固有振動数(f1,f2)の点で本発明の範囲外にあり、応答性の評価は低い。
【0053】
(7)磨き易さ(図8、図9)
本発明例1、2、3は磨き易さの評価が高い。この磨き易さの評価は、比較例2では中位、比較例1では低い。
【0054】
尚、この磨き易さの評価において、本発明例1と比較例2は平均評価点がほぼ同じであるが、標準偏差が大きく違う。歯ブラシの商品として考えるとき、安定した評価を得るためには標準偏差が小さい方が良いので、本発明例1の評価を高くした。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明歯ブラシの材質は、本発明が限定する形状寸法において、本発明が限定する首部の固有振動数を実現できるものであれば、ポリプロピレン、ナイロンに限らず、ポリカーボネイト、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、プロピオネート、ABS樹脂、AS樹脂、飽和ポリエステル樹脂を単独または複数を混ぜてあっても良い。
【0056】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、口腔内で異物感がなく、然も把持部に加えた操作に対する植毛台座の応答性が良く、使用感の優れた歯ブラシを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は本発明の一実施例を示す平面図である。
【図2】
図2は図1の側面図である。
【図3】
図3は固有振動数の計測装置を示す模式図である。
【図4】
図4は本発明例と比較例とを示す説明図である。
【図5】
図5は各歯ブラシ首部の固有振動数計測結果を示す説明図である。
【図6】
図6は異物感評価を示す説明図である。
【図7】
図7は応答性評価を示す説明図である。
【図8】
図8は磨き易さ評価を示す説明図である。
【図9】
図9は本発明例と比較例の総合評価を示す図表である。
【符号の説明】
10 歯ブラシ
11 把持部
12 首部
13 植毛台座
【図面】









 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-28 
出願番号 特願平6-223946
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A46B)
最終処分 取消  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 岡田 孝博
平上 悦司
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3333827号(P3333827)
権利者 花王株式会社
発明の名称 歯ブラシ  
代理人 塩川 修治  
代理人 高橋 詔男  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 柳井 則子  
代理人 坂野 史子  
代理人 塩川 修治  

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