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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
管理番号 1117934
異議申立番号 異議2003-71685  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-07 
確定日 2005-05-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3364550号「電子写真感光体およびその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3364550号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続きの経緯
出願日:平成7年2月28日(特願平7-39998号)
設定登録日:平成14年10月25日(特許第3364550号)
磯野勇次による異議申立て日:平成15年7月7日
吉田春男による異議申立て日:平成15年7月8日
吉田春男の上申書提出日:平成15年8月8日
取消理由通知日:平成16年5月18日
意見書、訂正請求書提出日:平成16年7月27日
審尋(異議申立人に対し):平成16年8月4日
両異議申立人の回答書提出日:平成16年9月10日
訂正拒絶理由通知日:平成17年1月4日
被請求人の手続補正書提出日:平成17年3月15日

第2.補正の適否及び訂正の適否についての判断
1.訂正請求に対する補正の適否について
特許権者が平成17年3月15日付け手続補正書で求める訂正明細書の補正には、訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載の「電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度が8.3重量%以上12.5重量%以下である」を「電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度が9重量%以上11重量%以下である」と補正する補正事項が含まれている。
上記補正は、訂正請求における特許請求の範囲に係る訂正事項をさらに異なる内容に変更しようとするものであるから、訂正の要旨を変更するものと認める(「訂正の補正に関する運用変更のお知らせ」平成12年3月 特許庁ホームページ掲載参照)。
したがって、上記補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という)附則6条1項の規定により、なお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第131条第2項の規定に違反するものであるから、当該手続補正書による訂正請求書の補正は認められない。

2.訂正の内容
上記のとおり、手続補正書による訂正請求書の補正は認められないから、特許権者が求める訂正の内容は、本件特許明細書を、平成16年7月27日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものと認める。
当該訂正請求には、特許請求の範囲を次のとおりに訂正しようとする訂正事項が含まれている。
「【請求項1】 導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に機能分離して構成した積層型電子写真感光体において、前記電荷輸送層のバインダー樹脂は、130℃以上200℃以下のガラス転移温度を有する第1の樹脂と、0℃以上80℃以下のガラス転移温度を有する第2の樹脂をブレンドした樹脂であって、前記電荷輸送層のバインダー樹脂として前記第2の樹脂を5重量%から40重量%の割合でブレンドしたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 前記バインダー樹脂を構成する第1の樹脂は、粘度平均分子量が30,000以上50,000以下のポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。 【請求項3】 前記バインダー樹脂を構成する第2の樹脂は、粘度平均分子量が20,000以上40,000以下のポリエステル樹脂又は粘度平均分子量が50,000以上80,000以下のアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】 ドラム状導電性支持体の上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に浸漬して構成した積層型電子写真感光体の製造方法において、前記電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度が7重量%以上13重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。」を、
「【請求項1】ドラム状導電性支持体の上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に浸漬して構成した積層型電子写真感光体の製造方法において、前記電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂は、130℃以上200℃以下のガラス転移温度を有しかつ粘度平均分子量が30,000以上50,000以下のポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂である第1の樹脂と、0℃以上80℃以下のガラス転移温度を有する第2の樹脂をブレンドした樹脂であり、前記電荷輸送層のバインダー樹脂として前記第2の樹脂を5重量%から40重量%の割合でブレンドし、前記電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度が8.3重量%以上12.5重量%以下であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】 前記バインダー樹脂を構成する第2の樹脂は、粘度平均分子量が20,000以上40,000以下のポリエステル樹脂又は粘度平均分子量が50,000以上80,000以下のアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。」と訂正する。

3.訂正の適否の判断
上記訂正事項について検討すると、訂正後の請求項1は、訂正前の特許請求の範囲において唯一の「電子写真感光体の製造方法」の発明を記載した請求項4を限定したものと認められるが、訂正後の請求項2は新たな製造方法の発明であって、訂正前の特許請求の範囲に対応関係がある請求項が存在しない。
そうすると、上記訂正事項は、製造方法についての新たな発明を追加するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものではない。また、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正を目的としたものでもない。
したがって、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する改正前特許法第126条第1項ただし書の規定に違反するものであるから、当該訂正請求は認められない。

第3.特許異議の申立てについての判断
1.本件の請求項に係る発明
上記「第2.補正の適否及び訂正の適否についての判断」に示したとおり、本件に係る訂正は認められないから、本件の請求項1ないし4に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】 導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に機能分離して構成した積層型電子写真感光体において、
前記電荷輸送層のバインダー樹脂は、130℃以上200℃以下のガラス転移温度を有する第1の樹脂と、0℃以上80℃以下のガラス転移温度を有する第2の樹脂をブレンドした樹脂であって、前記電荷輸送層のバインダー樹脂として前記第2の樹脂を5重量%から40重量%の割合でブレンドしたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 前記バインダー樹脂を構成する第1の樹脂は、粘度平均分子量が30,000以上50,000以下のポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。 【請求項3】 前記バインダー樹脂を構成する第2の樹脂は、粘度平均分子量が20,000以上40,000以下のポリエステル樹脂又は粘度平均分子量が50,000以上80,000以下のアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】 ドラム状導電性支持体の上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に浸漬して構成した積層型電子写真感光体の製造方法において、前記電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度が7重量%以上13重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
以下、本件の請求項1ないし4に係る発明をそれぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。

2.取消理由の概要
当審で通知した取消理由の理由1は、本件発明1ないし4は、下記の参考資料1ないし4を参酌すると、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1又は2に記載された発明であるか、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反して特許されたものであるというものである。
また、取消理由の理由3は、本件発明1ないし4は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物8に記載された発明であるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるというものである。

刊行物1:特開平6-289629号公報(異議申立人磯野勇次が提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平6-308743号公報(同じく甲第2号証)
刊行物8:特開平5-313383公報
参考資料1:高分子学会編「高分子データハンドブック[応用編]」昭和61年1月30日、培風館、235〜239頁(異議申立人磯野勇次の提出した参考資料1)
参考資料2:特開平5-257415号公報(同じく参考資料2)
参考資料3:「プラスチック事典」1992年3月1日、朝倉書店、493頁(同じく参考資料3)
参考資料4:松金幹夫 他2名著「ポリカーボネート樹脂」昭和44年9月30日、日刊工業新聞社、23頁(同じく参考資料4)

3.刊行物等の記載事項
刊行物8(特開平5-313383公報)には、次の事項が記載されている。
「導電性支持体と感光層を備えた電子写真感光体において、感光層のバインダー樹脂がポリカーボネイト樹脂および化1で示されたユニットで構成された樹脂を含有するか、またはポリカーボネイト樹脂とポリアリレート樹脂および化1で示されたユニットで構成された樹脂を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本発明の目的は感光体を電子写真プロセス内で繰り返し使用するにあたり、高感度で機械的特性と繰り返し特性の優れた電子写真感光体を提供することにある。」(段落【0010】)
「化1のユニットを持つ樹脂は、東洋紡製バイロン290(V-290)として入手することができる。」(段落【0024】)、
「バインダー樹脂100重量部につきこれらポリカーボネイト樹脂、ポリアリレート樹脂と化1のユニットを持つ樹脂の割合は、ポリカーボネイト樹脂および/またはポリアリレート樹脂が95〜50重量部、化1のユニットを持つ樹脂が5〜50重量部である。」(段落【0025】)、
「感光層と導電性支持体の間には感光層から導電性支持体への電荷の注入をコントロールするためにブロッキング層を設けても構わないし、感光層表面には感光体の耐久性を向上させるために表面層を設けても構わない。」(段落【0032】)、
「実施例1
例示化合物P26のビスアゾ顔料1重量部とフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト製PKHJ)0.2重量部とを・・・混合し、・・・分散した。こうして得た顔料分散液を金属アルミニウム薄版(JIS規格 #1050)上に浸漬塗布し、膜厚約0.2μmの電荷発生層を形成した。
次に例示化合物C45で示されるヒドラゾン化合物8重量部、例示化合物PC09のポリカーボネイト樹脂(三菱ガス化学製Z-200)4重量部、ポリアリレート樹脂(ユニチカ製U-ポリマー)4重量部、化1のユニットを持つ樹脂(東洋紡製V-290)2重量部、α-トコフェロール0.1重量部、t-ブチルハイドロキノン0.1重量部及び化5の化合物0.1重量部を、ジクロルメタン200重量部にを溶解させて、上記キャリア発生物質の被膜上に、この溶液を浸漬塗布方法により塗布し、乾燥膜厚20μmの電荷移動層を形成した。
川口製作所製SP-428で感光体の白色連続光における感度を測定した。また。ジェンテック製シンシア90に、この様に作成した感光体を装着し、室温23度、相対湿度55%の条件下で、除電、帯電、露光の10000回の繰り返し試験を行い、この試験によって、感光体の帯電後の電位、残留電位、露光後の電位を測定した。」(段落【0049】〜【0053】)、
「実施例2
電荷移動層用のバインダー樹脂として例示化合物PC01のポリカーボネイト樹脂(帝人化成製K-1300)8重量部、化1のユニットを持つ樹脂(V-290)2重量部とする以外は実施例1と同様に感光体を作成し同様に評価を行った。結果を表15に与えた。
【表15】

」(段落【0054】〜【0055】)。
上記実施例1において、「例示化合物P26のビスアゾ顔料」は電荷発生物質、「例示化合物C45で示されるヒドラゾン化合物」は電荷輸送物質であるから、上記の記載によれば、刊行物8には次の発明が記載されていると認められる。
「導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に機能分離して構成した積層型電子写真感光体において、前記電荷輸送層のバインダー樹脂は、ポリカーボネイト樹脂(帝人化成製「K-1300」)8重量部と樹脂「V-290」2重量部をブレンドした樹脂である電子写真感光体。」

刊行物2(特開平6-308743号公報)には、次の事項が記載されている。
「少なくとも電荷発生層と電荷輸送層を有する積層型の電子写真感光体において、電荷発生層を構成する電荷発生物質を塩素系有機溶剤で処理したことを特徴とする積層型電子写真感光体。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「・・・電荷発生層形成のための塗液を作製した。・・・
これをアルミニウム等の導電性基体上に塗布し、乾燥させて・・・電荷発生層を形成した。塗布は後述する実施例ではスプレーコーティング法を用いたが、これに限定されるものではなく、従来慣用されているその他のコーティング方法、例えば、デップコーティング、・・・等を採択できる。」(段落【0012】〜【0014】)、
「次に電荷輸送物質を樹脂バインダーとともに適当な溶媒に溶解して電荷輸送層形成のための塗液を作製した。・・・これを上記電荷発生層の上に上記記載の各種塗工法を用いて塗布し、乾燥させて・・・電荷輸送層を形成した。」(段落【0015】)、
「実施例1・・・・
改質された無金属フタロシアニン6重量部と熱硬化型ブチラール樹脂・・・をボールミルで2時間分散した。分散後、適当な下引層が施されたアルミドラムに乾燥後の膜厚が0.05〜3μm・・・になるようにスプレー塗工により塗布した後、乾燥し電荷発生層を形成した。更にブタジエン系電荷輸送物質 1,1-ビス(P-ジエチルアミノフェニル)-4,4-ジフェニル-1,3ブタジエン(「T405」(株)アナン)5重量部、ポリカーボネート樹脂(「ユーピロンZ200」三菱瓦斯化学(株))8重量部、ポリエステル樹脂(「バイロン290」東洋紡)4重量部をシクロヘキサノン100重量部で溶解し、上記電荷発生層の上に乾燥後の膜厚が5〜50μm、好ましくは15〜25μmになるようにスプレーで塗布した後、乾燥して電荷輸送層を形成し、積層型の感光体を得た。」(段落【0018】〜【0019】)、
「実施例2
ヒドラゾン系電荷輸送物質 4-ジベンジルアミノ-2-メチルベンズアルデヒド-1,1-ジフェニルヒドラゾン(「CTC191」(株)アナン)8重量部、ポリカーボネート樹脂(「ユーピロンZ200」三菱瓦斯化学)8重量部、ポリエステル樹脂(「バイロン290」東洋紡)4重量部をシクロヘキサノン100重量部で溶解したものを実施例1で得られた電荷発生層上に乾燥後の膜厚が5〜50μm、好ましくは15〜25μmになるようにスプレーで塗布した後、乾燥して電荷輸送層を形成し、積層型の感光体を得た。」(段落【0020】)。
上記実施例1、2におけるポリエステル樹脂「バイロン290」の割合は約33重量%(4/8+4)であるから、これらの記載によれば、刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「アルミドラム上に、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に塗布して構成した積層型電子写真感光体の製造方法において、前記電荷輸送層のバインダー樹脂は、ポリカーボネート樹脂「ユーピロンZ200」と、ポリエステル樹脂「バイロン290」をブレンドした樹脂であって、前記電荷輸送層のバインダー樹脂としてポリエステル樹脂「バイロン290」を約33重量%の割合でブレンドしたものである電子写真感光体の製造方法。」

参考資料2(特開平5-257415号公報)には、「ポリカーボネート樹脂「三菱瓦斯化学製ユーピロンZ-200」(ビスフェノールZ型)」(段落【0057】)と記載されている。

参考資料3(「プラスチック事典」朝倉書店、1992年発行、493頁)には、ポリカーボネートの熱的性質について「ポリエステルカーボネートは共重合組成によっても異なるが,Tg170〜180℃,・・・と耐熱性が高いのが特徴である。」と記載され、表2.12.4には、原料がビスフェノールZであるポリカーボネートのTgは171℃であることが記載されている。

4.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物8に記載の発明を対比する。
a.刊行物8に記載の発明の「ポリカーボネイト樹脂(帝人化成製「K-1300」)」は、本件明細書の実施例6において使用されているものであり、ガラス転移点は152℃であるから、本件発明1の「130℃以上200℃以下のガラス転移温度を有する第1の樹脂」に相当する。
b.刊行物8に記載の発明の樹脂「V-290」は、本件明細書の実施例1等において使用されているものであり、ガラス転移温度は70℃であるから、本件発明1の「0℃以上80℃以下のガラス転移温度を有する第2の樹脂」に相当する。
c.刊行物8に記載の発明において、電荷輸送層中のバインダー樹脂中の樹脂「V-290」の割合は、「パンライトK-1300」8重量部に対して2重量部であるから、バインダー樹脂全体の20重量%である。
したがって、本件発明1と刊行物8に記載の発明は構成に差異がないから、本件発明1は刊行物8に記載された発明である。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において第1の樹脂を「粘度平均分子量が30,000以上50,000以下のポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂である」ものに限定したものであるが、本件明細書には、ポリカーボネート「K-1300」の粘度平均分子量は30,000であると記載されている。
したがって、本件発明2は本件発明1と同様の理由により、刊行物8に記載された発明である。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2において第2の樹脂を「粘度平均分子量が20,000以上40,000以下のポリエステル樹脂又は粘度平均分子量が50,000以上80,000以下のアクリル樹脂」ものに限定したものであるが、刊行物8に記載の発明の樹脂「V-290」は化1に示されるとおりポリエステル樹脂であり、本件明細書には、「V-290」の粘度平均分子量は22,000であると記載されている。
したがって、本件発明2は本件発明1、2と同様の理由により、刊行物8に記載された発明である。

(4)本件発明4について
ア.本件発明1を引用する本件発明4と刊行物2に記載の発明を対比すると、刊行物2に記載の発明の「アルミドラム」は、本件発明4の「ドラム状導電性支持体」に相当し、刊行物2に記載の発明のポリエステル樹脂「バイロン290」は、上記刊行物8に記載されているとおり、本件明細書に記載の「V-290」と同一の樹脂であって、ガラス転移点は70℃であるから、両者は、
「ドラム状導電性支持体の上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とをそれぞれ独立に構成した積層型電子写真感光体の製造方法において、電荷輸送層のバインダー樹脂は、0℃以上80℃以下のガラス転移温度を有する樹脂とその他の樹脂をブレンドした樹脂であって、前記電荷輸送層のバインダー樹脂として前記0℃以上80℃以下のガラス転移温度を有する樹脂を5重量%から40重量%の割合でブレンドした電子写真感光体の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:その他の樹脂が、本件発明4では、本件発明1に記載の「130℃以上200℃以下のガラス転移温度を有する樹脂」であるのに対し、刊行物2記載の発明のポリカーボネート樹脂「ユーピロンZ200」は、このようなガラス転移温度を有するものであるか否か不明な点。
相違点2:本件発明4は、電荷発生層と電荷輸送層が、浸漬して形成されるものであり、電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度を7重量%以上13重量%以下とするのに対し、刊行物2記載の発明の、電荷発生層と電荷輸送層の塗布方法として、刊行物2には「デッピコーティング」すなわち浸漬して形成してもよいことが記載されているが、その際の電荷輸送層塗液中のバインダー樹脂濃度については示されていない点。
イ.上記相違点について検討する。
相違点1について検討すると、参考資料2には「ユーピロンZ200」はビスフェノールZ型のポリカーボネート樹脂であることが示され、参考資料3には、ポリカーボネート樹脂のガラス転移点は170〜180℃であること、ビスフェノールZ型のポリカーボネート樹脂としてガラス転移点173℃のものが示されている。そうすると、刊行物2記載の発明のポリカーボネート樹脂「ユーピロンZ200」のガラス転移点は、130℃以上200℃以下であると認められ、相違点1は実質的な差異ではない。
相違点2について検討すると、ドラム状導電性支持体の上に電荷発生層、電荷輸送層等を浸漬により形成する際、塗液中の固形分濃度や塗液の粘度が高いと塗布に時間がかかり、塗液中の固形分濃度や塗液の粘度が低いと液ダレが大きくなり均一な塗布ができないことは本件出願前周知であり、このため、従来から塗液の成分に応じて固形分濃度や粘度を調整することが行われている。
例えば、異議申立人吉田春男の提出した甲第2号証(特開平3-91757号公報)にはコーティングインク中の固形物の割合が増えると、コーティング浴からのドラムの引き上げ速度を低減する必要があること、固形物の割合と引き上げ速度との関係はコーティングインクの成分により変わることが記載され、同じく甲第4号証(特開平3-87749号公報)には、塗液中の固形分濃度、粘度が高いと塗布速度が遅く生産性が劣り、固形分濃度、粘度が低いと均一な塗膜が得にくくなることが記載されている。
そうすると、刊行物2に記載の発明において、電荷発生層、電荷輸送層等を浸漬により形成する際に、バインダー樹脂の濃度を調整して適当な時間内に均一な塗布ができるようにすることは当然考慮すべきことであり、樹脂の濃度は、使用するバインダー樹脂の粘度や電荷輸送物質その他の固形成分の量等に応じた実験に基づいて適宜決めうることである。
ウ.被請求人は、平成16年7月27日付け特許異議意見書において、「刊行物2は、電荷輸送物用塗液におけるバインダー樹脂濃度について何ら関心を示すものではありません。すなわち、従来技術では、電荷輸送物用塗液においてバインダー樹脂のみの濃度を検討することによって、電子写真感光体の電気特性などを向上させるという技術思想が存しないことは明白であります。・・・本件特許の出願時に、長期的な電気的特性などが向上した電子写真感光体を製造するために、バインダー樹脂単独の濃度を検討することは、異議申立人が多数提出した刊行物には一切記載されておらず」(6頁下から2行〜7頁8行)と主張するので、この点について検討する。
本件明細書には、バインダー樹脂の濃度に関して、
「電荷輸送層塗布溶液中のバインダー樹脂濃度は7重量%から13重量%であり、好ましくは9重量%から11重量%である。バインダー樹脂濃度が9重量%未満では塗液の粘度が低く、均一な膜厚を得るにはドラムの引き上げ速度を速める必要がある。バインダー樹脂濃度が7重量%未満になると粘度はさらに低くなり、均一な膜厚を得ることは難しい。また、11重量%を越えると塗液の粘度が高くなり均一な膜厚を得るためにはドラムの引き上げ速度を遅くする必要がある。13重量%を越えると高粘度のため製造工程上の実用的な速度では均一な膜厚を得ることはできず、ドラムの製造を考慮すると不適である。」(段落【0040】)、
「塗布溶液中のバインダー樹脂濃度を7重量%以上13重量%以下とすることにより、バインダー樹脂濃度が7重量%未満であるときに生じる塗液の粘度が低く均一な膜厚を得るのが困難であるといった問題と、バインダー樹脂濃度が13重量%より大きいときに生じる高粘度であるため、製造工程上の実用的な速度では均一な膜厚を得ることができず、ドラムの製造を考慮すると不適であるという問題とを解決することが可能となる。」(段落【0044】)と記載されているにすぎず、バインダー樹脂のみの濃度が電子写真感光体の電気特性などを向上させることは何ら示されていない。
また、比較例8には、溶剤の量を少なくした場合は、塗液は非常に高粘度で、均一な膜厚にすることができず、画像は全体にわたって濃度ムラが発生していたこと、比較例9には、溶剤の量を多くした場合は、塗液は非常に低粘度で、均一な膜厚にすることができなかったことが示されているが、いずれの場合も固形分濃度全体が変更されており、ドラムの引き上げ速度や塗膜の均一性がバインダー樹脂濃度のみに依存することは示されていない。
結局、本件明細書には、バインダー樹脂濃度を7重量%以上13重量%以下としたのは、ドラムの引き上げ速度や塗膜の均一性を良好な範囲としたものであることが示されているにすぎず、それにより予測できない顕著な効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明4は、刊行物2に記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件請求項4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1ないし4についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、平成6年改正法附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-04-14 
出願番号 特願平7-39998
審決分類 P 1 651・ 121- Z (G03G)
P 1 651・ 113- Z (G03G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 淺野 美奈  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 阿久津 弘
秋月 美紀子
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3364550号(P3364550)
権利者 シャープ株式会社
発明の名称 電子写真感光体およびその製造方法  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 杉山 毅至  
代理人 廣瀬 峰太郎  

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