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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1117942
異議申立番号 異議2003-70923  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-10 
確定日 2005-05-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3337042号「成形品」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3337042号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続の経緯

本件特許第3337042号は、出願日が、平成6年3月25日であって、平成14年8月9日に特許権の設定登録がなされ、志築正治(以下「申立人1」という。)、及び、東レ株式会社(以下「申立人2」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、特許異議意見書が提出されたものである。

[2]本件発明

本件の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 (A1 )芳香族ポリカーボネートを40重量%以上と(A2 )スチレン系ポリマー、メタアクリル系ポリマーから選ばれた1種以上のポリマーを60重量%以下からなる樹脂組成物100重量部に、(B)炭素繊維2〜15重量部、(C)カーボンブラック0.01〜5重量部配合した組成物からなる表面光沢度60%以上を有する成形品。
【請求項2】 請求項1の組成物からなる電話機部品。」

[3]取消理由の概要

当審が通知した取消理由の概要は、本件発明1、2は、本件特許の出願前に頒布された刊行物1(特開平5-311029号公報:申立人1が提出した甲第3号証)、刊行物2(特開昭55-109637号公報:申立人2が提出した甲第2号証)、刊行物3(特開平5-339485号公報:申立人1が提出した甲第1号証)、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものであるというものである。

[4]刊行物1の記載事項

刊行物1には、以下の記載事項がある。
記載事項a:「(A)芳香族ポリカーボネート樹脂30〜90重量%、(B)ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル及びこれと共重合可能な単量体とを重合して得られるグラフト共重合体10〜70重量%、(C)芳香族ビニル及びこれと共重合可能な単量体とを共重合させて得られる芳香族ビニル系共重合体樹脂0〜60重量%(ただし、(A)〜(C)の総和は100重量%)から成る熱可塑性樹脂組成物100重量部に、(D)臭素含有難燃有機化合物1〜30重量部、(E)難燃助剤1〜12重量部、(F)テトラフルオロエチレン樹脂0〜1.0重量部、(G)ピッチ系炭素繊維0.1部〜50重量部の割合で配合して成ることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
記載事項b:「本発明は、炭素繊維強化難燃熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、詳しくは、高い難燃性、剛性、流動性、耐衝撃性を有し、薄肉成形品を得ることの出来る良好な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。」(段落【0001】)
記載事項c:「(B)グラフト共重合体 本発明において、グラフト共重合体としては、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル及びこれと共重合可能な単量体とを重合して得られるグラフト共重合体を使用する。好ましいグラフト共重合体は、芳香族ビニル単量体40〜80重量%、シアン化ビニル単量体20〜40重量%および必要に応じこれらと共重合可能なビニル単量体0〜30重量%から成る単量体混合物(合計100重量%)30〜80重量部をゴム状重合体20〜70重量部の存在下に重合して得られるグラフト共重合体である。・・・上記の芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体これらと共重合可能なビニル単量体については、後述の(C)芳香族ビニル系共重合体において列挙した単量体を使用することが出来る。」(段落【0007】〜【0008】)
記載事項d:「(C)芳香族ビニル系共重合体 芳香族ビニル系共重合体は、芳香族ビニル及びこれと共重合可能な単量体とを共重合させて得られる。好ましい芳香族ビニル系共重合体は、芳香族ビニル単量体40〜80重量%及びこれらと共重合可能なビニル単量体20〜60重量%から成る芳香族ビニル系共重合体である。・・・芳香族ビニル単量体としては、スチレン、・・・等のスチレン単量体およびその置換単量体が挙げられる。特に、スチレン又はα-メチルスチレンが好適に使用される。
芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、・・・メタクリロニトリル、α-メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、・・・メチルメタクリル酸エステル、エチルメタクリル酸エステル等のメタクリル酸エステル単量体、・・・メタクリル酸等のビニルカルボン酸単量体、・・・メタクリル酸アミド・・・等が挙げられる。特に、・・・メタクリル酸エステル・・・が好適に使用される。」(段落【0010】〜【0012】)
記載事項e:「本発明の熱可塑性樹脂組成物には、・・・等の無機物を併用することも可能である。」(段落【0024】)
記載事項f:「(1)本発明の熱可塑性樹脂組成物は、炭素繊維等の充填材を含有していることにより、寸法安定性に優れ、高い耐熱性と高い剛性を併せ持ち、更に、優れた成形加工性と外観を有する。
(2)本発明の熱可塑性樹脂組成物は、・・・強化剤としてピッチ系炭素繊維を含有していることにより、他の特性を損うことなく薄肉での難燃性を発揮することが出来る。
(3)本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と芳香族ビニル系共重合体樹脂よりなる熱可塑樹脂組成物を含有していることにより、高い剛性と難燃性を維持し」(段落【0037】)

[5]取消理由に対する判断

1.本件発明1について
刊行物1には、記載事項aに記載されたとおりの樹脂組成物が記載され、該樹脂組成物中の(G)成分であるピッチ系炭素繊維は、炭素繊維の下位概念物質である。刊行物1の記載事項bには、該樹脂組成物から薄肉成形品を得ることができることが記載され、記載事項eには、該樹脂組成物に無機物を併用することができることが記載されている。
以上の点からみて、刊行物1には「(A)芳香族ポリカーボネート樹脂30〜90重量%、(B)ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル及びこれと共重合可能な単量体とを重合して得られるグラフト共重合体10〜70重量%、(C)芳香族ビニル及びこれと共重合可能な単量体とを共重合させて得られる芳香族ビニル系共重合体樹脂0〜60重量%(ただし、(A)〜(C)の総和は100重量%)から成る樹脂組成物100重量部に、(G)炭素繊維0.1部〜50重量部、及び、無機物を配合した組成物からなる成形品」の発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、本件発明1と刊行物1の発明を対比すると、前者における(A1)成分は、後者における(A)成分と同じであり、その量は、前者が40重量%以上であり、後者が30〜90重量%であるから、両者は40〜90重量%の範囲で一致している。刊行物1の記載事項c、dに、芳香族ビニルとしてスチレンが記載され、共重合可能な単量体としてメタクリル酸エステル等のメタアクリル系単量体が記載されているから、後者の(B)成分と(C)成分には、それぞれ、スチレン系ポリマーが含まれており、また、メタアクリル系ポリマーが含まれているという見方もできる。そうすると、前者の(A2)成分は、後者の(B)成分と(C)成分を合わせたものに相当している。後者の(B)成分と(C)成分を合わせた量は70〜10重量%であるから、前者の(A2)成分(60重量%以下)とは60〜10重量%の範囲で一致している。前者における(B)成分は、後者における(G)成分と同じであり、その量は、前者が2〜15重量部であり、後者が0.1〜50重量部であり、後者の実施例として(G)成分が14重量部の実施例3と、11重量部の実施例4(いずれも、段落【0034】の【表1】を参照)が記載されていることを考慮すると、2〜15重量部の範囲で一致している。前者における(C)成分は無機物の一種である。
そうすると、両者は「(A1 )芳香族ポリカーボネートを40〜90重量%と(A2 )スチレン系ポリマー、メタアクリル系ポリマーから選ばれた1種以上のポリマーを60〜10重量%からなる樹脂組成物100重量部に、(B)炭素繊維2〜15重量部、(C)無機物を配合した組成物からなる成形品」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:無機物として、前者ではカーボンブラックを使用し、その配合量は樹脂組成物100重量部に対して0.01〜5重量部であるのに対して、後者では無機物がカーボンブラックであるという特定がなく、また、その配合量も特定されていない点。
相違点2:前者の成形品は表面光沢度60%以上を有するのに対して、後者ではそのような特定がなされていない点。
そこで、これらの相違点について検討する。
(1)相違点1について
樹脂組成物をカーボンブラックで着色することは周知技術である(必要ならば、例えば、カーボンブラック協会編「カーボンブラック便覧」初版 昭和46年11月25日 株式会社図書出版社発行 p.360を参照)。また、刊行物3の段落【0015】にポリカーボネート樹脂に他の熱可塑性樹脂を配合した混合樹脂が記載され、段落【0016】に着色剤の配合が記載され、段落【0026】の実施例3等にカーボンブラックの配合が記載されていることからみて、刊行物3にはポリカーボネート樹脂に他の熱可塑性樹脂を配合した混合樹脂をカーボンブラックで着色することが記載されていると認められる。また、刊行物3の実施例3では、ポリカーボネート84部にカーボンブラック1部を配合している。
上記周知技術及び刊行物3の記載からみて、刊行物1の発明における無機物としてカーボンブラックを採用することは当業者にとって容易なものと認められる。カーボンブラックの配合量は、所望の着色の程度を考慮して、あるいは、さらに刊行物3の実施例3の配合量を参考とし、当業者が容易に設定できるものと認められる。したがって、0.01〜5重量部という配合量の特定も容易である。
(2)相違点2について
成形品の表面の光沢度を高い値にすることは、従来から望まれていたことである。しかも、刊行物2の特許請求の範囲の請求項2には表面の光沢度が60%以上の光沢を有する充填材入り熱可塑性樹脂成形品が記載されており、刊行物3にも光沢度が60%以上の充填材入りポリカーボネート樹脂成形品が記載されている(特に、刊行物3の段落【0040】の表1の光沢度の値を参照されたい。)。
してみれば、刊行物1の発明において、相違点1に係る構成を採用した上で、成形品の表面光沢度を60%以上とすることは、当業者が容易に考慮できることと認められる。
以上のとおりであるから、本件発明1は刊行物1〜3に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

2.本件発明2について
本件発明2と刊行物1の発明を対比すると、両者は、上記相違点1、及び、下記相違点3で相違するが、その他の点での相違は認められない。
相違点3:成形品として、前者では電話機部品との特定がなされているが、後者ではこのような特定がなされていない点。
そこで、これら相違点について検討する。
(1)相違点1について
相違点1に対する判断は、上記「1.(1)」に示したとおりであるから、相違点1に係る構成は、周知技術及び刊行物3の記載に基づいて当業者が容易に採用できるものと認める。
(2)相違点3について
電話機の外装のための成形品(以下「電話機筺体」という。)として黒色に着色したプラスチックを使用することは周知である。また、高い剛性や優れた外観等は外装のための成形品にしばしば要求される特性であるところ、刊行物1の発明に係る成形品がそのような特性を有することは刊行物1の記載事項b、fに示されている。
してみれば、刊行物1の発明において、相違点1に係る構成を採用して黒色に着色した上で、成形品として電話機筺体を採用することは当業者にとって容易なものと認められる。そして電話機筺体は電話機部品の一種である。
したがって、本件発明2は、刊行物1、3に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

[6]特許権者の主張に対する判断

特許権者の主張は以下のとおりである。
主張1:刊行物1の段落【0024】の記載は補強材に関するものであるから、カーボンブラックは着想できない。
主張2:カーボンブラックを添加することで表面光沢度が60%以上を有する成形品を作ることは、刊行物1から容易に想到できない。
そこで、これらの主張について検討する。
1.主張1について
刊行物1の段落【0024】には、「無機物を併用することも可能である」と記載されているだけであって、無機物の機能は特定されていないから、これを補強材に限定して解釈することはできない。カーボンブラックは、上記のとおり、周知技術及び刊行物3の記載に基づいて容易に採用できるのであって、単に段落【0024】の記載から容易に採用できる訳ではない。
したがって、主張1は採用できない。
2.主張2について
主張2は、カーボンブラックを添加することにより表面光沢度が60%以上を有する成形品を作ることができる旨の主張と解される。
しかし、本件特許明細書の段落【0007】の「炭素繊維の配合量が2重量部より低いと組成物の剛性改良効果が小さく、15重量部を超えると成形品の光沢度が60%より低くなり不都合である。カーボンブラックの配合量は0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。カーボンブラックが0.01重量部より低いと着色性に劣り、5重量部を超えると組成物の溶融粘度が高くなるので好ましくない。」との記載からみて、光沢度を60%以上とする手段は炭素繊維の配合量の上限の特定にあり、カーボンブラックは着色の為に使用されていると認められる。カーボンブラックの添加が表面光沢度を60%以上とする手段であることは、特許明細書に記載されていないし、また、このことが、特許明細書の記載や技術常識から自明であるとも認められない。
したがって、主張2は、特許明細書の記載に基づく主張ではないから採用できない。
以上のとおりであるから、特許権者の主張はいずれも採用できない。

[7]まとめ

以上のとおり、本件発明1、2は、刊行物1〜3に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-16 
出願番号 特願平6-55785
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 石井 あき子
大熊 幸治
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3337042号(P3337042)
権利者 三菱瓦斯化学株式会社
発明の名称 成形品  

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