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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1117954
異議申立番号 異議2003-71349  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-20 
確定日 2005-04-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第3348923号「ウェハ貼着用粘着シート」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3348923号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.本件発明
本件特許第3348923号(平成5年7月27日出願、平成14年9月13日設定登録)の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、設定登録時の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 基材面上に、粘着剤と放射線重合性オリゴマーとからなる放射線硬化型粘着剤層と、ダイ接着用接着剤層とがこの順に形成されてなるウェハ貼着用粘着シートにおいて、
該放射線硬化型粘着剤層中において、該放射線重合性オリゴマーが、1〜30μmの分散粒径を有し、かつ均一に分散されてなり、
該放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率が1×106(dynes/cm2)〜1×108(dynes/cm2)であることを特徴とするウェハ貼着用粘着シート。」

2.刊行物記載の発明(事項)
これに対し、平成16年8月16日付けで通知した取消しの理由に引用した、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平5-179211号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭63-193981号公報(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されていると認められる。
(1)刊行物1
(ア)第1欄第23-50行
「このため、特開昭60-57642号公報では、ダイシング工程で半導体ウエハを接着保持するとともに、マウント工程に必要なチツプ固着用の接着剤層をも付与するダイシング・ダイボンドフイルムを提案している。
【0004】このダイシング・ダイボンドフイルムは、支持基材上に導電性接着剤層を剥離可能に設けてなるものであり、その接着剤層による保持下に半導体ウエハをダイシングしたのち、支持基材を延伸して形成チツプを接着剤層とともに剥離し、これを個々に回収してその接着剤層を介してリ―ドフレ―ムなどの被着体に固着させるようにしたものである。
【0005】この種のフイルムにおいては、ダイシング不能や寸法ミスなどが生じないように半導体ウエハに対する良好な保持力と、ダイシング後の形成チツプを導電性接着剤層と一体に剥離しうるように良好な剥離性が望まれるが、この両特性をバランスさせることは決して容易なことではなかつた。特に、半導体ウエハを回転丸刃などでダイシングする方式などのように、大きな保持力が要求される場合に、上記特性を満足するフイルムを得ることは困難であつた。
【0006】そこで、このような問題を克服するために、種々の改良法が提案されている。たとえば、特開平2-248064号公報には、支持基材と接着剤層との間に紫外線硬化可能な粘着剤層を介在させ、これをダイシング後に紫外線硬化して、粘着剤層と接着剤層との間の接着力を低下させ、両者間の剥離により形成チツプのピツクアツプを容易にする方法が提案されている。」
上記摘記事項(ア)の記載からみて、刊行物1には、
「支持基材上に、紫外線硬化可能な粘着剤層と、接着剤層とがこの順に形成されてなるウエハ接着保持用ダイシング・ダイボンドフイルム。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)刊行物2
(ア)第1頁左下欄第18行-右下欄第2行
「発明の技術分野
本発明はウエハ貼着用粘着シートに関し、さらに詳しくは、半導体ウエハを小片に切断分離する際に用いられるウエハ貼着用粘着シートに関する。」
(イ)第2頁右上欄第4-16行
「発明の目的
本発明は、・・・粘着シート上に貼着されたウエハをダイシング工程に付した後に、該シートをエキスパンディング工程に付す際に、たとえ粘着剤層中に放射線重合性化合物を共存させて粘着剤層に紫外線などの放射線を照射して粘着剤層を硬化させた後であっても、重合体フィルムなどの基材とともに粘着剤層が充分に伸びて、ピックアップすべきチップ間に充分な間隔を提供でき、このためチップのピックアップ時に誤動作が生じないようなウエハ貼着用粘着シートを提供することを目的としている。」
(ウ)第2頁左下欄第18-20行
「本発明に係るウエハ貼着用粘着シート1は、その断面図が第1図に示されるように、基材2とこの表面に塗着された粘着剤層3とからなっており、」
(エ)第3頁左上欄第7行-右上欄第3行
「粘着剤としてはゴム系あるいはアクリル系粘着剤などの従来公知のものが広く用いられうるが、アクリル系粘着剤が好ましく、具体的には、アクリル酸エステルを主たる構成単量体単位とする単独重合体および共重合体から選ばれたアクリル系重合体その他の官能性単量体との共重合体およびこれら重合体の混合物である。たとえば、モノマーのアクリル酸エステルとして、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸-2-ヒドロキシエチルなど、また上記のメタアクリル酸をたとえばアクリル酸に代えたものなども好ましく使用できる。
さらに後述するオリゴマーとの相溶性を高めるため、メタクリル酸、アクリル酸、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどのモノマーを共重合させてもよい。」
(オ)第3頁左下欄第10行-右下欄第16行
「さらに放射線重合性化合物として、上記のようなアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。・・・
このようなウレタンアクリレート系オリゴマーとして、特に分子量が3000〜10000好ましくは4000〜8000であるものを用いると、半導体ウェハ表面が粗い場合にも、ウエハチップのピックアップ時にチップ面に粘着剤が付着することがないため好ましい。」
(カ)第4頁左上欄第3-11行
「本発明における粘着剤中のアクリル系粘着剤と放射線重合性化合物好ましくはウレタンアクリレート系オリゴマーとの配合比は、アクリル系粘着剤100重量部に対して放射線重合性化合物は50〜900重量部の範囲の量で用いられることが好ましい。この場合には、得られる粘着シートは初期の接着力が大きくしかも放射線照射後には粘着力は大きく低下し、容易にウエハチップを該粘着シートからピックアップすることができる。」
(キ)第6頁左上欄第5行-左下欄第4行
「・・・粘着シート1の粘着剤層3を上向きにし、第3図に示すようにして、この粘着剤層3の上面にダイシング加工すべき半導体ウエハAを貼着する。この貼着状態でウエハAにダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディングの諸工程が加えられる。この際、粘着剤層3によりウエハチップは粘着シートに充分に接着保持されているので、上記各工程の間にウエハチップが脱落することはない。
次に、各ウエハチップを粘着シートからピックアップしてリードフレームにマウンティングするが、この際、ピックアップに先立ってあるいはピックアップ時に、第4図に示すようにして、紫外線(UV)あるいは電子線(EB)などの電離性放射線Bを粘着シート1の粘着剤層3に照射する。
このように粘着剤層3に放射線を照射して放射線重合性化合物を重合硬化せしめると、粘着剤の有する接着力は大きく低下し、わずかの接着力が残存するのみとなる。
・・・
このようにウエハチップA1、A2、……が設けられた部分の粘着剤層3に放射線を照射して、粘着剤層3の接着力を低下せしめた後、この粘着シートをピックアップステーション(図示せず)に移送し、第5図に示すように、ここで常法にしたがって基材2の下面から突き上げ針扞5によりピックアップすべきA1……を突き上げ、このチップA1……をたとえばエアピンセット6によりピックアップし、これを所定の基台上にマウンティングする。このようにしてウエハチップA1、A2……のピックアップを行なうと、ウエハチップ面上には粘着剤が全く付着せずに簡単にピックアップすることができ、汚染のない良好な品質のチップが得られる。」
(ク)第7頁左上欄第3行-右上欄第18行
「実施例1
アクリル系粘着剤(n-ブチルアクリレートと酢酸ビニルとの共重合体)100重量部と、分子量約7000のウレタンアクリレート系オリゴマー(商品名セイカビーム PU-4 大日精化工業社製)50重量部と、硬化剤(エチレンイミン系)5重量部と、UV硬化開始剤(ベンゾフェノン系)2重量部とを混合し、さらにエキスパンディング剤としてのオレイン酸3重量部を添加して、粘着剤層形成用組成物を調整した。
この組成物を基材である・・・フィルムの片面に・・・塗布し、・・・ウエハ貼着用粘着シートを形成した。
得られたウエハ貼着用粘着シートに・・・シリコンウエハを貼付し、ダイシングソーにて・・・切断分離した。次いでこの粘着シートの粘着剤層に紫外線(UV)を空冷式高圧水銀灯(80W/cm、照射距離10cm)により1秒間照射した。
次いで、この粘着シートを全方向に5%伸張(エキスパンディング)した。このようにして粘着シートを伸張したところ、各々のチップ間隔は平均120μm開き、最小でも、100μm以上の間隔を有していた。
この後に行なわれたピックアップ工程でも、上記のようにチップ間隔が十分に開いているため、センサーによるチップの位置決めが容易に行なわれ、ピックアップする際にもチップ同士が接触することなく、スムーズに行なわれ取り出された各チップも、ピックアップの際にワレやカケが発生し不良となるものはなかった。
また剥離されたシリコンウエハの表面(粘着シートが貼られていた側)には、目視したところでは、粘着剤は全く付着していなかった。」
上記摘記事項(ア)-(ク)および第1図、第3-5図の記載からみて、引用例2には、
「ウエハ貼着用粘着シートにおいて、基材面上に、粘着剤とウレタンアクリレート系オリゴマーとからなる放射線硬化型粘着剤層を形成すること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

3.対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「支持基材上」、「接着剤層」、「ウエハ接着保持用ダイシング・ダイボンドフイルム」は、ぞれぞれ前者の「基材面上」、「ダイ接着用接着剤層」、「ウェハ貼着用粘着シート」に相当する。また、紫外線は概念的に放射線に含まれるものであることから、後者の「紫外線硬化可能な粘着剤層」は前者の「放射線硬化型粘着剤層」に相当する。
そうすると、両者は、
「基材面上に、放射線硬化型粘着剤層と、ダイ接着用接着剤層とがこの順に形成されてなるウェハ貼着用粘着シート。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉本件発明は、放射線硬化型粘着剤層が粘着剤と放射線重合性オリゴマーとからなるのに対し、刊行物1記載の発明は、放射線硬化型粘着剤層が粘着剤と放射線重合性オリゴマーとからなるのか明らかでない点。
〈相違点2〉本件発明は、放射線硬化型粘着剤層中において、放射線重合性オリゴマーが、1〜30μmの分散粒径を有し、かつ均一に分散されてなり、放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率が1×106(dynes/cm2)〜1×108(dynes/cm2)であるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのようになっているか明らかでない点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
刊行物2には、ウエハ貼着用粘着シートにおいて、基材面上に、粘着剤とウレタンアクリレート系オリゴマーとからなる放射線硬化型粘着剤層を形成する技術が記載されている。また、本件特許明細書等の段落【0033】の記載を参酌するに、当該刊行物2に記載された「ウレタンアクリレート系オリゴマー」が本件発明の「放射線重合性オリゴマー」に相当するものであることは明らかである。
そうすると、刊行物1記載の発明に、ウエハ貼着用粘着シートとして同一の技術分野に属する刊行物2記載の事項を適用し、相違点1に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易になし得るものである。
(2)相違点2について
4.(1)の検討のとおり、刊行物2には、本件発明と同様の構成を有する放射線硬化型粘着剤層が基材面上に形成された、ウエハ貼着用粘着シートが記載されているところ、特許異議申立人日東電工株式会社は、刊行物2に記載された実施例1(2.(2)(ク)参照)について追試を行い、放射線硬化型粘着剤層中におけるウレタンアクリレート系オリゴマーの分散粒径、および放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率を測定し、その結果を甲第6号証に実験成績証明書として提出しているので、その内容について検討する。
刊行物2の実施例1に記載されたウエハ貼着用粘着シートは、アクリル系粘着剤としてn-ブチルアクリレート(アクリル酸エステル)と酢酸ビニルとの共重合体を用いるものであるが、その共重合比について特には記載されていない。一方、刊行物2には、モノマーのアクリル酸エステルと共重合させるその他のモノマーについて、「オリゴマーとの相溶性を高めるため、メタクリル酸、アクリル酸、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどのモノマーを共重合させてもよい。」(2.(2)(エ)参照)と記載されているところ、刊行物2に放射性硬化型粘着剤層に関する一般的技術として例示され、上記異議申立人も提出している甲第4号証(特開昭60-196956号公報、第4欄右上欄第3-6行参照)および甲第5号証(特開昭60-223139号公報、第4頁左上欄第1-4行参照)には、放射線硬化型粘着剤層を構成するアクリル系粘着剤について、アクリル酸ブチル(アクリル酸エステル)と、アクリロニトリルおよびアクリル酸とを、100:10の割合で共重合させる旨記載されている。
そうすると、甲第4および5号証に記載された、アクリル酸エステルとその他のモノマーとの共重合比を参酌し、刊行物2の実施例1について、n-ブチルアクリレート(アクリル酸エステル)と酢酸ビニルとの共重合体の重合比を、それぞれ「100:10」,「100:20」とした追試のサンプル1,2の設定は、妥当なものと云うべきである。
また、刊行物2の実施例1には、分子量約7000のウレタンアクリレート系オリゴマーを用いる旨記載されているのに対し、追試のサンプル1,2では分子量約6700のウレタンアクリレート系オリゴマーを用いている。しかしながら、刊行物2には、ウレタンアクリレート系オリゴマーの分子量について、「ウレタンアクリレート系オリゴマーとして、特に分子量が3000〜10000好ましくは4000〜8000であるものを用いる」(2.(2)(オ)参照)と記載されており、当該記載からみて、分子量約6700は適切な分子量の範囲内のものであり、かつ約7000とほぼ同程度のものである。
そうすると、追試のサンプル1,2に分子量約6700のウレタンアクリレート系オリゴマーを用いたことも特に問題とすべきものではない。
そして、実験成績証明書の追試およびその結果について、特許権者は何ら反論するものではないことを勘案すれば、当該実験成績証明書の内容は信用に足るものと解することが相当である。
そこで、その結果について検討するに、サンプル1,2とも相違点2に係る本件発明の構成をことごとく満たすものである。
そうすると、相違点2に係る本件発明の構成は、本件特許出願時に公然と存在していた、刊行物2に記載された放射線硬化型粘着剤層における放射線硬化型オリゴマーの分散粒径、分散状態、放射線硬化後の弾性率を単に確認したにすぎないものと云うべきであって、4.(1)で検討したとおり、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用した際、自ずと具備するものである。
(3)作用効果について
本件発明の作用効果は、刊行物1記載の発明および刊行物2記載の事項から、当業者が予測できる程度のものあって、格別なものではない。

したがって、本件発明は、刊行物1記載の発明および刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-07 
出願番号 特願平5-184704
審決分類 P 1 651・ 121- Z (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 渡邊 豊英  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 岡野 卓也
豊原 邦雄
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3348923号(P3348923)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 ウェハ貼着用粘着シート  
代理人 谷口 俊彦  
代理人 鈴木 崇生  
代理人 高畑 ちより  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 亨  
代理人 梶崎 弘一  

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