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審決分類 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する G03G
管理番号 1118558
審判番号 訂正2005-39048  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-03-15 
確定日 2005-04-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3398767号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3398767号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3398767号は、平成4年2月21日に特許出願され、平成15年2月21日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、特許異議の申立てが異議2003-72503号として請求され、該異議事件につき平成17年1月14日付けで請求項1、2及び5に係る特許を取り消すとの決定がなされたところ、本件の請求人はこれを不服として平成17年2月23日付けで東京高等裁判所に当該審決の取消を求める訴え(平成17年(行ケ)第70号)を提起し、法定期間内である平成17年3月15日に本件訂正審判を請求したものである。

第2 請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、特許第3398767号の明細書を本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することすることを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(A)訂正事項A
特許請求の範囲の請求項1を「【請求項1】導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質及びポリアリレート又はポリカーボネート(ビスフェノールZタイプ)を含有する電荷輸送層とを順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚 」と訂正する。
(B)訂正事項B
特許請求の範囲の請求項3を「【請求項3】導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足し、
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚前
前記電荷輸送層が、少なくとも低分子電荷輸送物質と高分子輸送物質を含有する電荷輸送層であり、かつ下記(2)式を満足する
w2/w1≧0.7 ・・・(2)
式中、w1:電荷輸送層中に含有されるバインダー樹脂および高分子電荷輸送物質の重量の合計
w2:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
ことを特徴とする電子写真感光体。」と訂正する。
(C)訂正事項C
特許請求の範囲の請求項4を「【請求項4】導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足し、
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
前記電荷輸送層が、少なくとも2層以上であり、少なくとも該電荷発生層と接触する電荷輸送層が低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり下記(3)式を満足し、かつ電荷発生層から最も離れた電荷輸送層が下記(4)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
w4/w3>0.7・・・(3)
w4/w3<0.4・・・(4)
式中、w3:電荷輸送層中に含有される物質の重量の合計
w4:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量 」と訂正する。
(D)訂正事項D
段落【0028】の「実施例1」を「参考例1」に、【0029】の「実施例2」を「参考例2」に、【0030】の「実施例3」を「実施例1」に、【0031】の「実施例4」及び「実施例3」を、それぞれ「実施例2」「実施例1」に、【0032】の「実施例5」及び「実施例1」を、それぞれ「実施例3」及び「参考例1」に、【0033】の「実施例6」を「実施例4」に、【0034】の「実施例7」を「参考例3」に、【0035】の「実施例8」を「実施例5」に、【0036】の「実施例1」を「参考例1」に、【0037】の「実施例2」を「参考例2」に、【0038】の「実施例3」を「実施例1」に、【0039】の「実施例4」を「実施例2」に、【0040】の「実施例5」を「実施例3」に、【0041】の「実施例6」を「実施例4」に、【0042】の「実施例9」及び「実施例6」を、それぞれ「実施例6」及び「実施例4」に、【0043】の「実施例7」を「参考例3」に、【0044】の「実施例10」及び「実施例8」を、それぞれ「実施例7」及び「実施例5」に、【0045】及び【0046】の「実施例1〜8、9及び10」をそれぞれ「参考例1、2及び3、実施例1〜5、6及び7」に、【0047】の表1中「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例5」、「実施例6」及び「実施例7」を、それぞれ「参考例1」、「参考例2」、「実施例1」、「「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」及び「参考例3」に、【0048】の「実施例6、8」及び「実施例9、10」を「実施例4、5」及び「実施例6、7」(各々2箇所)に、訂正する。
(E)訂正事項E
【0040】及び【0042】の「変えたた」を「変えた」に、訂正する。

第3 当審の判断
1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項Aは、請求項1に係る発明の電荷輸送層が、電荷輸送物質の他に「ポリアリレート又はポリカーボネート(ビスフェノールZタイプ)」を含有するものに限定し、また、「電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚」に対する「電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚」の比の下限に対する限定を引き上げるものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項Aは、願書に添付した明細書の段落【0008】に「好ましくは、d2/d1>1.3である。」と記載され、【0024】に「電荷輸送層23に用いられるバインダー樹脂としては、ポリカーボネート(ビスフェノールAタイプ、ビスフェノールZタイプ)」、【0030】に「ポリアリレート(ユニチカ:Uポリマー U-100)」、【0031】、【0035】及び【0044】に「ポリカーボネート(Zタイプ・・・)」と記載されていることから、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項Bは、訂正前の請求項1を引用した形式を独立形式の書き換え、また、訂正前の請求項2を引用した記載していた内容を、引用しないで具体的に記載したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項Cは、訂正前の請求項1を引用した形式を独立形式の書き換えたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項Dは、上記訂正事項AないしCで訂正しようとする特許請求の範囲の記載に明細書の記載を整合させる訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項BないしDは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項Eは、明らかな誤記を訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2 独立特許要件について
(1)訂正後の発明
本件訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下、順次「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明5」という)は、審判請求書に添付された(平成17年3月15日付け)全文訂正明細書の特許請求の範囲、請求項1〜5に記載された以下のとおりのものである。
【請求項1】導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質及びポリアリレート又はポリカーボネート(ビスフェノールZタイプ)を含有する電荷輸送層とを順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
【請求項2】 前記電荷輸送層が、少なくとも低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり、かつ下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。 w2/w1≧0.7 ・・・(2)
式中、w1:電荷輸送層中に含有されるバインダー樹脂および高分子電荷輸送物質の重量の合計
w2:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
【請求項3】導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足し、
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚前
前記電荷輸送層が、少なくとも低分子電荷輸送物質と高分子輸送物質を含有する電荷輸送層であり、かつ下記(2)式を満足する
w2/w1≧0.7 ・・・(2)
式中、w1:電荷輸送層中に含有されるバインダー樹脂および高分子電荷輸送物質の重量の合計
w2:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
ことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項4】導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足し、
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
前記電荷輸送層が、少なくとも2層以上であり、少なくとも該電荷発生層と接触する電荷輸送層が低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり下記(3)式を満足し、かつ電荷発生層から最も離れた電荷輸送層が下記(4)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
w4/w3>0.7・・・(3)
w4/w3<0.4・・・(4)
式中、w3:電荷輸送層中に含有される物質の重量の合計
w4:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
【請求項5】請求項1〜4の電子写真感光体を用いた電子写真装置。

(2)刊行物に記載された発明
前記異議の決定において引用された刊行物である特開平3-259268号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、
a.導電性支持体上に中間層と光導電層とを順に設けた電子写真感光体であって、光導電層が電荷発生層と電荷輸送層からなり、電荷発生層中の電荷発生物質と結着剤樹脂の体積比を特定比以上に限定した電子写真感光体(特許請求の範囲第2項)に関する発明が開示され、
b.発明の目的として、帯電性に優れると共に環境依存性が小さくかつ耐久性の優れた電子写真感光体を提供すること(2頁左上欄5〜7行)、
c.電荷発生層として、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、スクエアリック顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、セレン粉末・セレン合金粉末、アモルファスシリコン粉末、酸化亜鉛粉末、硫化カドミウム粉末のごとき電荷発生物質、をポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの結着樹脂溶液中に分散し、これを中間層上に塗工することにより形成される(3頁左上欄11〜18行)こと、
d.電荷輸送層について、α-フェニルスチルベン化合物、ヒドラゾン化合物などの電荷輸送性物質を成膜性のある樹脂例えばポリエステル、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリスチレンなどに溶解させ、これを電荷発生層上に厚さ10〜40μm程度に塗工すればよく、ここで、成膜性樹脂が用いられるのは、電荷輸送性物質が一般に低分子量でそれ自身では成膜性に乏しいためである(3頁右上欄5〜14行)こと、
e.実施例5として、「アルミ蒸着ポリエステルフィルム上に下記の中間層塗工液Cを塗布し、膜厚6.0μmの中間層を形成した。・・・・
次にブチラール樹脂〔エスレックBLS(積水化学製)〕3部をシクロヘキサノン150部に溶解し、これに下記構造式のビスアゾ顔料6部を加え、ボールミルで48時間分散し、更にシクロヘキサノン210部を加え12時間分散した。これを固型分がlwt%になるように更にシクロヘキサノンを加えた。こうして得られた電荷発生層用塗布液を前記中間層上に塗布乾燥し、厚さ約0.2μmの電荷発生層を作成した。
更に、
下記構造式の電荷輪送物質 8部
ポリカーボネート樹脂 10部
[パンライトK-1300(帝人化成製)]
シリコンオイル 0.002部
[KF-50(信越化学工業製)]
を86部のテトラヒドロフランに溶解した。こうして得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に塗布乾燥し、厚さ20μmの電荷輸送層を形成し、電子写真用感光体を作成した。」(4頁右下欄4行〜5頁右上欄4行)こと、
f.「以上得られた感光体を周長460m、巾341mmのエンドレスベルト状に加工し、リコピーFT-2050で5千枚の画像をコピーし、初期と5千枚後の画像品質を評価した。また、画像コピー前と5千枚コピー後に、FT-2050の現像位置に表面電位計を取り付け、露光部と非露光部の表面電位を測定した。」(5頁左下欄1〜7行)こと、が記載されている。

同じく引用された、「電子写真学会誌」 第35巻 第2号 1996 111〜115頁(以下、「参考資料1」という。)には、「積層有機感光体における電荷発生層/電荷輸送層界面の構造」と題する論文が掲載されており、検討に用いた試料として、
g.Al電極を有するポリエステルフィルム上に、フルオレノン・ビスアゾ顔料(CGM)と、ポリビニルブチラール(PVB)を10:4wt.比でテトラヒドロフラン(THF)に分散させた液を塗布・乾燥して電荷発生層(CGL)を形成し、その上にα-フェニルスチルベン化合物(CTM)と、ビスフェノールAタイプ・ポリカーボネート(PC)とを、1:1wt.比、固形分濃度20wt%で含むTHF溶液を塗工して、電荷輸送層(CTL)を設け、積層感光体を作製したこと、(「2.実験」の欄 1〜13行)、
h.測定は、CTLを積層することによるCGL膜厚の変化を調べるために、積層構成サンプルのCGL膜厚を透過型電子顕微鏡で撮影した断面写真によったこと(111頁右欄14〜17行)、
i.結果と考察として、CGLへのCTMのしみ込みは、CTLのウエットな状態で生ずる方が優勢と考えられること(112頁右欄末行〜113頁左欄2行)、
j.「Fig.5に,CTMとPCの比率を変えてCTLを形成した際のCGL膜厚を,感光体の断面TEM写真から求めて示す.このときのCTL塗工液の固形分濃度は,11.6wt%である.PCだけ塗布した場合CGLの厚さは多少は増しているが,低分子CTMだけの場合は3.5倍にまで膨らんでいる.すなわち,PCもCTMもCGLにしみ込むことができるが,CTMの方がしみ込みやすい.さらに,Fig.5において感光体のCGL膜厚とCTL組成との間に直線関係が認められる.この結果は,Fig.5 の挿入図に模式的に示されるように,CTMとPCが独立してCGLにしみ込むことを表している.換言すれば,CTMとPCのしみ込み量に加成則が成り立つことを示している.」(113頁左欄3〜15行)こと、
k.Fig.5として、電荷輸送層中の電荷輸送物質含有量と、電荷発生層の厚さとの関係を示すグラフが記載されている。

同じく引用された、特開平4-37761号公報(以下、「参考資料2」という。)には、帝人化成パンライトK-1300がCTLバインダとしてのビスフェノールAポリカーボネートであること(第15頁左上欄6行〜8行)が記載されている。

(3)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1の「ポリアリレート又はポリカーボネート(ビスフェノールZタイプ)」も、引用刊行物に記載されたポリカーボネート等の成膜性のある樹脂も、電荷輸送層のバインダー樹脂であるから、上記「(2)刊行物に記載された発明」の欄に摘示するとおり、引用刊行物には本件訂正発明1の構成のうち、「導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質とバインダー樹脂を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体」が記載されているものと認められ、以下の点で相違する。
相違点1:本件訂正発明1は、電荷輸送層のバインダー樹脂が「ポリアリレート又はポリカーボネート(ビスフェノールZタイプ)」であるのに対して、引用刊行物には、バインダー樹脂としてポリカーボネートが列記され、実施例では「ポリカーボネート樹脂[パンライトK-1300(帝人化成製)]」用いられているが、ポリアリレート又はポリカーボネートとして特にビスフェノールZタイプについては記載されていない点。
相違点2:引用刊行物には、電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足することについて明記されていない点。
d2/d1>1.3 ・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚

相違点1について検討する。
参考資料2によると、帝人化成パンライトK-1300がCTLバインダとしてのビスフェノールAポリカーボネートであること(第15頁左上欄6行〜8行)が記載されているから、引用刊行物の実施例で具体的の用いられているポリカーボネートが、ビスフェノールZタイプではないことが明らかである。しかしながら、ポリアリレートやビスフェノールZタイプのポリカーボネートは、電荷輸送層のバインダー樹脂として本願出願前に通常用いられているものであるから、引用刊行物記載の発明において、バインダー樹脂として、ポリアリレート又はポリカーボネートの中でも特にビスフェノールZタイプものを用いることは当業者が容易になし得たものといえる。
次に、相違点2について検討する。
参考資料1には、電荷輸送層が、電荷輸送物質であるα-フェニルスチルベン化合物とバインダー樹脂であるビスフェノールAタイプ・ポリカーボネートとを固形分濃度20wt%で含むTHF溶液を電荷発生層の上に塗工したものであり、電荷輸送物質の含有量を増やすと、電荷輸送層を塗工した後の電荷発生層の膜厚が一定の割合で増加することが、Fig.5に記載されている。しかしながら、ビスフェノールAタイプ・ポリカーボネートをビスフェノールZタイプあるいはポリアリレートに代えた場合、Fig.5と同じ割合で電荷輸送層の膜厚が増加するかどうかは、参考資料1の記載からは不明である。
したがって、引用刊行物記載の発明において、上記のとおりバインダー樹脂としてポリアリレート又はビスフェノールZタイプのポリカーボネートを用いることが容易だとしても、電荷発生層の膜厚の増加量については、参考資料1を参照することはできないため、「d2/d1>1.3」であるということはできず、また、「d2/d1>1.3」とすることが当業者が容易になし得たということもできない。
したがって、本件訂正発明1は、引用刊行物に記載された発明であるとも、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件訂正発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて有し、さらに限定を加えるものであるから、上記アと同様の理由で、引用刊行物に記載された発明であるとも、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3及び4は、電荷輸送層が、低分子電荷輸送物質と高分子電荷輸送物質を含有する構成を有するものであるが、引用刊行物にはこの点について記載されておらず、参考資料1、2によっても、本件訂正発明3及び4のこの構成を導き出すに足る記載も存在しないので、本件訂正発明3及び4が、引用刊行物に記載された発明であるとも、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1〜4の電子写真感光体を用いた電子写真装置であるから、上記アないしウと同様の理由で、引用刊行物に記載された発明であるとも、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともはいえない。

(4)独立特許要件についての結論
したがって、本件訂正発明1ないし5は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明ではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子写真感光体及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質及びポリアリレート又はポリカーボネート(ビスフェノールZタイプ)を含有する電荷輸送層とを順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
d2/d1>1.3・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
【請求項2】 前記電荷輸送層が、少なくとも低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり、かつ下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
w2/w1≧0.7・・・(2)
式中、w1:電荷輸送層中に含有されるバインダー樹脂および高分子電荷輸送物質の重量の合計
w2:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
【請求項3】 導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足し、
d2/d1>1.3・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
前記電荷輸送層が、少なくとも低分子電荷輸送物質と高分子輸送物質を含有する電荷輸送層であり、かつ下記(2)式を満足する
w2/w1≧0.7・・・(2)
式中、w1:電荷輸送層中に含有されるバインダー樹脂および高分子電荷輸送物質の重量の合計
w2:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
ことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項4】 導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足し、
d2/d1>1.3・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
前記電荷輸送層が、少なくとも2層以上であり、少なくとも該電荷発生層と接触する電荷輸送層が低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり下記(3)式を満足し、かつ電荷発生層から最も離れた電荷輸送層が下記(4)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
w4/w3>0.7・・・(3)
w4/w3<0.4・・・(4)
式中、w3:電荷輸送層中に含有される物質の重量の合計
w4:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
【請求項5】 請求項1〜4の電子写真感光体を用いた電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は、PPC複写機やレーザープリンターなどに用いられる電子写真感光体の改良に関し、特に高感度で長期繰返し特性が安定している電子写真用感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】 従来より、導電性基体上に電荷発生層と電荷輸送層からなる感光層を設けたいわゆる積層型電子写真用感光体が知られている。この積層型電子写真用感光体は種々の点において単層型の感光体よりも優れているが、さらに高感度化が望まれているのが現状であり、感光体の高感度化に関し種々の観点に基づいて改良が進められている。例えば、特開昭63-281167号公報には電荷発生層中に電荷輸送物質を含有させた積層感光体が開示されているが、電荷発生層用塗工液に電荷輸送物質を添加すると一般的には液工液の分散系がくずれ、分散不安定な状態になりやすく、液寿命(ポットライフ)が短くなり、このため長期にわたり同一の液を使用する浸漬塗工法には適さず、塗工液の経時変化により安定した品質を維持しながら製造することがむずかしい。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】 高感度で残留電位の少ない、かつ高耐久性のある電子写真感光体を提供することを目的とする。特に支持体上に、電荷発生層、電荷輸送層を順に積層してなる積層感光体において電荷輸送物質を含まない電荷発生層塗布した乾燥させた後、電荷輸送層を塗布する方法で、なんらかの手段で電荷輸送中の電荷輸送物質を電荷発生層に移行させことにより上記目的を達成しようとするものである。
【0004】
【課題を解決しようとする手段】 本発明によれば以下の発明が提供される。導電性支持体上に、少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を順に積層してなる電子写真感光体において、該電荷発生層の膜厚が、電荷輸送物質の電荷輸送層から電荷発生層への移行により変化して、下記(1)式を満足することを特徴とする電子写真感光体。
【式1】
d2/d1>1.1・・・(1)
式中、d1:電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚
d2:電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚
【0005】また、前記電荷輸送層が、少なくとも低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり、かつ下記(2)式を満足する構成の電子写真感光体。
【式2】
w2/w1≧0.7・・・(2)
式中、w1:電荷輸送層中に含有されるバインダー樹脂および高分子電荷輸送物質の重量の合計
w2:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
【0006】さらに又、前記電荷輸送層が、少なくとも2層以上であり、少なくとも該電荷発生層と接触する電荷輸送層が低分子電荷輸送物質を含有する電荷輸送層であり下記(3)式を満足し、かつ電荷発生層から最も離れた電荷輸送層が下記(4)式を満足する構成とする電子写真感光体により有効性が増大することを見出した。
【式3】
w4/w3>0.7・・・(3)
w4/w3≦0.4・・・(4)
式中、w3:電荷輸送層中に含有される物質の重量の合計
w4:電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の重量
【0007】積層型有機電子写真感光体においては、その高感度化がポイントになっている。感光体の高感度化技術は、量子効率(キャリア発生効率、キャリア注入効率)を大きくするか、あるいは移動度(キャリア輸送効率)を大きくするかに集約される。本発明者らは、前者に注目して検討を重ねた。その結果、電荷発生層(CGL)のバルク状態により量子効率が大きく変化することを突き止めた。
【0008】すなわち、積層感光体作製時において電荷発生層の膜厚が前記(1)式を満足させることが、高感度化させることの1つの条件であることがわかった。この原因については明らかではないが、おそらく電荷輸送層の成分の一部が電荷輸送層塗工時もしくは電荷輸送層塗工後に、電荷発生層が入り込んでいるためと思われる。好ましくは、d2/d1>1.3である。
【0009】電荷輸送層積層前後での電荷発生層の膜厚については、例えば両者の断面を走査型電子顕微鏡などにより直接観察するか、もしくは写真撮影の後膜厚を測定する事により求めることが出来る。電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚を大きくする方法としては、(i)電荷発生層と接触する電荷輸送層用塗工液の低分子電荷輸送物質濃度が高いこと、(ii)電荷輸送層用塗工液の液粘度が低いこと(固形分濃度が小さいこと)、(iii)電荷発生層と接触する電荷輸送層用塗工液の溶媒が、電荷発生層に含有されるバインダー樹脂を溶解もしくは膨潤変形することのできるものであること、(iv)電荷輸送層を形成した後、該電荷輸送層中に含有される低分子電荷輸送物質の融点以上に加熱処理すること等が挙げられる。
【0010】(i)については、電荷輸送層が単層の場合には、低分子電荷輸送物質濃度が低いと感度が低くなる、残留電位が発生する等の問題点が発生する。前記(2)式を満足させることにより、上記問題点は解決されるものである。但し、あまり低分子電荷輸送物質濃度が高過ぎると、膜の摩耗量が多くなる等の問題が発生する。この場合は、電荷輸送層上に保護層を設けるか、あるいは予備実験により濃度の上限を決定すれば良い。また、ここで言う単層の電荷輸送層とは、低分子電荷輸送物質濃度の異なる数種の塗工液を用い、連続的に塗工を行い、電荷輸送層の低分子電荷輸送物質濃度を連続的に変化させた一つの電荷輸送層を含むものである。この際にも電荷発生層に最も近い(接触する)部位の電荷輸送層には式(2)が適用されるものである。
【0011】電荷輸送層が2層以上の場合には、膜の摩耗性については、最も表面に近い電荷輸送層の耐摩耗性で決定されるため、電荷発生層に接触する電荷輸送層の低分子電荷輸送物質濃度は、かなり高く設定することが可能である。したがって、電荷発生層に接触する電荷輸送層は前記(3)式を満足し、かつ電荷発生層から最も離れた電荷輸送層が前記(4)式を満足させれば良い。
【0012】電荷発生層に接触する電荷輸送層の低分子電荷輸送物質濃度が前記(3)式を満足することにより前記(1)式を大きくしやすい方向となる。また、最も表面に近い電荷輸送層の低分子電荷輸送物質濃度により、耐摩耗性が異なる(濃度が小さいほど摩耗量も小さい)。したがって、前記(4)式を満足させることにより耐摩耗性の優れた感光体を得ることが出来る。この際、前記(3)式に関しては、最も好ましくはw4/w3は1(すなわち、低分子電荷輸送物質のみ)であり、(4)式に関しては、好ましくはw4/w3<0.05である。
【0013】(ii)については、電荷輸送層塗工液の液粘度が低いこと(固形分濃度が小さいこと)により、電荷発生層に電荷輸送層の成分が含浸しやすい条件となる。液粘度の大きさは、およそ150mPa・s以下程度が良好であり、好ましくは100mPa・s以下程度である。実際には、製膜性、生産性、コストなどに影響を及ぼすため、予備的な試験により電荷輸送層用塗工液の液粘度(固形分濃度)を決定すればよい。
【0014】(iii)については、電荷発生層に含有されるバインダー樹脂により、使用する溶媒が異なるため、予備的な試験により溶媒の選択を行なえばよい。もちろん、使用する溶媒は1種類に限定されるわけではなく、2種類以上を混合して用いることも有効な手段である。
【0015】(iv)については、電荷輸送層に含有される低分子電荷輸送物質により、加熱処理温度が異なるため、予備的な試験により温度の設定を行なえばよい。また、低分子電荷輸送物質の種類によっては非常に酸化あるいは分解を起こしやすい材料も存在する。そのような材料を用いる場合には、融点以上の加熱処理を出来るだけ短時間で行なえばよく、その際には加熱温度を2段階以上(例えば、1段階目において、電荷輸送層塗工液の溶媒が乾燥できる温度で行なった後、2段階目で融点以上の加熱処理を短時間おこなう)にすることは有効な手段である。
【0016】さらに、感光体の耐摩耗性については前述のように、最も表面に近い電荷輸送層の耐摩耗性で決定される。一方、電荷輸送層の耐摩耗性については、電荷輸送層中のバインダー樹脂の分子量に大きく影響を受け、分子量が大きいほど耐摩耗性が向上することがわかった。したがって、最も表面に近い電荷輸送層のバインダー樹脂の分子量が20000よりも小さい領域においては摩耗量が多く、実用的ではない。
【0017】これらを突き止めることにより、本発明を完成するに至った。次に、図面を用いて本発明を説明する。図1は、導電性支持体上11上に、電荷発生層21と電荷輸送層23が積層されたものである。図2は、電荷輸送層23が2層以上の多層構造となっている。図3は、電荷輸送層23上に保護層17を設けたものである。図4は、導電性支持体上11と電荷発生層21の間に中間層19を設けたものである。
【0018】導電性支持体11としては、体積抵抗1010Ω以下の導電性を示すもの、例えばアルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、銀、金、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの酸化物を、蒸着またはスパッタリングによりフィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙等に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらをD.I.、I.I.、押出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研磨などで表面処理した管などを使用することが出来る。
【0019】次に電荷発生層21について説明する。電荷発生層21は電荷発生物質を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を用いることもある。バインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが用いられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることが出来る。
【0020】電荷発生物質としては、公知の材料を用いることが出来る。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ材料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが上げられる。これらの電荷発生物質は、単独または2種以上の混合物として用いることが出来る。
【0021】次に、電荷輸送層23について説明する。電荷輸送層23は、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することにより形成できる。電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。電子輸送物質としては、たとえばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロキサントン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、2,6,4-トリニトロ-4H-インデノ〔1,2-b〕チオフェン-4オン、1,3,7-トリニトロジベンゾチオフェン-5,5-ジオキサイドなどの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることが出来る。
【0022】正子輸送物質としては以下に表わされる電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。たとえば、ポリ-N-ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ-γ-カルバゾリルエチルグルメタートおよびその誘導体、ピレン-ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、9-(p-ジエチルアミノスチリルアントラセン)、1,1-ビス-(4-ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、フェニルヒドラゾン類、α-フェニルスチルベン誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナジン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、チオフェン誘導体などが挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることが出来る。
【0023】また、低分子電荷輸送物質としては、上記電子輸送物質および正孔輸送物質の中から低分子化合物が選ばれるものである。
【0024】電荷輸送層23に用いられるバインダー樹脂としては、ポリカーボネート(ビスフェノールAタイプ、ビスフェノールZタイプ)、ポリエステル、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、アルキッド樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、フェノキシ樹脂などが用いられる。これらのバインダーは、単独または2種以上の混合物として用いることが出来る。
【0025】導電性支持体11と電荷発生層21との間に設けられる中間層19は、接着性を向上する目的で設けられ、その材料としてはSiO2、Al2O3、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤などの無機材料やポリアミド樹脂、アルコール可溶性ポリアミド樹脂、水溶性ポリビニルブラチール、ポリビニルブチラール、PVAなどの接着性のよいバインダー樹脂などが使用される。その他、前記接着性のよいバインダー樹脂に、ZnO、TiO2、ZnSなどを分散したものも使用できる。中間層の形成法としては、無機材料単独の場合はスパッタリング、蒸着などの方法が、また有機材料を用いた場合は、通常の塗布法が採用される。なお、中間層の膜厚は5μm以下が適当である。
【0026】保護層17は、感光体表面保護の目的で設けられ、これに使用される材料としてはABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン〜ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、プタジエン-スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂など、またこれらの内、硬化可能な材料と硬化剤との硬化物が挙げられる。保護層には、その他、耐摩耗性を向上する目的でポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂、シリコーン樹脂、およびこれらの樹脂に酸化チタン、酸化錫、チタン酸カリウムなどの無機材料を分散したものなどを添加することが出来る。保護層の形成法としては通常の塗工法が採用される。なお、膜厚0.5〜10μm程度が適当である。
【0027】
【実施例】次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中使用する部はすべて重量部を表わす。
【0028】〔参考例1〕アルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液を順次、ロールコート法により塗布し、乾燥し、それぞれ、0.3μmの電荷発生層、22μmの電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 5部
【化1】

ポリビニルブチラール樹脂 0.5部 (電気化学工業(株):デンカブチラール#4000)
シクロヘキサノン 250部
2-ブタノン 90部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 9部
【化2】

ポリカーボネート 10部 (帝人化成:パンライト K-1300)
塩化メチレン 110部
【0029】〔参考例2〕ハステロイ導電層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液を順次、ロールコート法により塗布、乾燥し、それぞれ、0.4μmの電荷発生層、20μmの電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 5部
【化3】

ポリエステル(東洋紡績:バイロン200) 1部
シクロヘキサノン 300部
テトラヒドロフラン 200部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 7部
【化4】

ポリカーボネート(GE社:レキサン L-141) 10部
テトラヒドロフラン 150部
【0030】〔実施例1〕厚さ0.2mmのA1板(JIS1080)上に、下記組成の下引き層塗工液、電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液を順次、dipping法により塗布し、乾燥しそれぞれ、0.2μmの下引き層、0.3μmの電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔下引き層塗工液〕
可溶性ナイロン(東レ:アミラン CM4000) 2.5部
メタノール 70部
ブタノール 30部
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 10部
【化5】

ポリビニルブチラール(UCC:XYHL) 1部
シクロヘキサノン 500部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 8部
【化6】

ポリアリレート(ユニチカ:Uポリマー U-100) 10部
テトラヒドロフラン 200部
【0031】〔実施例2〕実施例1と同じ支持体上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液を順次、浸積法により塗布し、乾燥しそれぞれ、0.2μmの電荷発生層、25μmの電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 5部
【化7】

ポリカーボネート(Aタイプ) 2部
シクロヘキサノン 100部
テトラヒドロフラン 100部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 8部
【化8】

ポリカーボネート(Zタイプ 分子量20000) 10部
テトラヒドロフラン 200部
【0032】〔実施例3〕参考例1と同じ支持体上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液を順次、ロールコート法により塗布し、乾燥しそれぞれ、0.2μmの電荷発生層、18μmの電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 6部
【化9】

フェノキシ樹脂(UCC:VYHH) 2部
シクロヘキサノン 400部
テトラヒドロフラン 150部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 10部
【化10】

下記構造のポリメチルフェニルシラン 10部
【化11】

テトラヒドロフラン 300部
【0033】〔実施例4〕アルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液1、電荷輸送層塗工液2を順次ロールコート法により塗布乾燥しそれぞれ、0.4μmの電荷発生層、28μmの電荷輸送層1、2μmの電荷輸送層2を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 5部
【化12】

ポリビニルブチラール樹脂 2部 (積水化学工業:エスレック BL-S)
シクロヘキサノン 100部
2-ブタノン 100部
〔電荷輸送層1塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 8部
【化13】

ポリカーボネート(Aタイプ) 2部
塩化メチレン 30部
〔電荷輸送層2塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 8部
【化14】

ポリカーボネート(Aタイプ) 12部
塩化メチレン 100部
【0034】〔参考例3〕アルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液を順次、スプレー法により塗布し、乾燥し、それぞれ、0.3μmの電荷発生層、22μmの電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 5部
【化15】

ポリエステル(東洋紡績:バイロン300) 1部
シクロヘキサノン 300部
テトラヒドロフラン 200部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 9部
【化16】

(MP 139〜140℃)
ポリカーボネート(Aタイプ) 10部 (帝人化成:パンライト K-1300)
テトラヒドロフラン 150部
電荷輸送層を積層し、溶媒を乾燥した後、160℃-20分加熱処理を行ない、本発明の感光体とした。
【0035】〔実施例5〕アルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に、下記組成の電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液1、電荷輸送層塗工液2を順次、ロールコート法により塗布乾燥しそれぞれ、0.2μmの電荷発生層、18μmの電荷輸送層1、5μmの電荷輸送層2を形成し、本発明の電子写真感光体を作成した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 5部
【化17】

シクロヘキサノン 100部
2-ブタノン 100部
〔電荷輸送層1塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 9部
【化18】

ポリカーボネート(Zタイプ 分子量15000) 1部
塩化メチレン 30部
〔電荷輸送層2塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 0.5部
【化19】

ポリカーボネート(Zタイプ 分子量20000) 9.5部
塩化メチレン 100部
【0036】〔比較例1〕参考例1における電荷輸送層塗工液を下記のものに変更し、スプレー法により塗布した以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 9部
【化20】

ポリカーボネート(帝人化成:パンライト K-1300) 10部
塩化メチレン 100部
【0037】〔比較例2〕参考例2における電荷輸送層塗工液を以下のものに変えた以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 5部
【化21】

ポリカーボネート(GE社:レキサン L-141) 10部
テトラヒドロフラン 150部
【0038】〔比較例3〕実施例1における電荷発生層塗工液を下記のものに変更した以外は、全く同様に作製した。
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造の電荷発生物質 10部
【化22】

トルイレンジイソシアネート 0.1部
ポリビニルブチラール(UCC:XYHL) 1部
シクロヘキサノン 50部
【0039】〔比較例4〕実施例2における電荷輸送層塗工液を以下のものに変えた以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 8部
【化23】

ポリカーボネート(Zタイプ 分子量20000) 10部
トルエン 200部
【0040】〔比較例5〕実施例3における電荷輸送層塗工液を以下のものに変えた以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造のポリメチルフェニルシラン(分子量30000) 10部
【化24】

テトラヒドロフラン 300部
【0041】〔比較例6〕実施例4における電荷輸送層1塗工液を以下のものに変えた以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層1塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 0.8部
【化25】

ポリカーボネート(Aタイプ) 2部
塩化メチレン 30部
【0042】〔実施例6〕実施例4における電荷輸送層2塗工液を以下のものに変えた以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層2塗工液〕
下記構造の電荷輸送層物質 15.5部
【化26】

ポリカーボネート(Aタイプ) 9.5部
塩化メチレン 100部
【0043】〔比較例8〕参考例3における加熱処理を行なわない他は、全く同様に作製した。
【0044】〔実施例7〕実施例5における電荷輸送層2塗工液を以下のものに変えた以外は、全く同様に作製した。
〔電荷輸送層2塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 0.5部
【化27】

ポリカーボネート(Zタイプ 分子量15000) 9.5部
塩化メチレン 100部
【0045】参考例1、2及び3、実施例1〜5、6及び7及び比較例1〜6及び8の感光体は、各感光体の特性を静電複写紙試験装置(川口電気製作所:SP-428型)を用いて次のように評価した。まず、-6.5kVの放電電圧にて、コロナ放電を20秒間行ない、次いで暗減衰させて表面電位が-800Vになったところで、4,51uxのタングステン光を照射した。この時の光照射の際、表面電位が-800Vから-400Vになるのに必要な露光量E400(lux・sec)、タングステン光照射20秒間の電位V20(V)を測定した。
【0046】また、電荷発生層の膜厚d1(電荷輸送層積層前の電荷発生層の膜厚)、d2(電荷輸送層積層後の電荷発生層の膜厚)は、以下のように測定した。参考例1、2及び3、実施例1〜5、6及び7及び比較例1〜6及び8の感光体(電荷輸送層積層後)および電荷輸送層積層前の電荷発生層の一部をサンプリングし、樹脂(エポキシ樹脂)中に埋め込み硬化(50℃程度)させた後、ダイヤモンドカッターを用いて超薄切片を作製する。これを走査型電子顕微鏡により観察および写真撮影を行なって、膜厚を測定した。
【0047】結果を表1に示す。
【表1】表1

【0048】実施例4、5および実施例6、7の感光体は、ベルト接合を行なって実装用の感光体とした。両者を複写機マイリコピーM10(リコー社製)に搭載し、2000枚のランニングテストを行なった。その結果、実施例4、5の感光体は2000枚目においても正常な形成した。実施例6、7の感光体は、膜削れによる異常画像(黒スジ、画像濃度低下)が発生した。
【0049】
【発明の効果】本発明により、非常に高感度で、残留電位が少なく、非常に耐摩耗性の高い感光体を容易にかつ安価に得ることが出来る。特に、ポジ-ポジ現像における地肌汚れ、ネガ-ポジ現像における画像濃度低下。更には、黒スジ等の画像欠陥を防止できることが特徴である。
【0050】
【図面の簡単な説明】次に、図面を用いて本発明の説明する。図1は、本発明において使用する感光体の構成例を示す断面図であり、導電性支持体11上に、電荷発生層21と電荷輸送層23が積層されたものである。図2は、電荷輸送層23が2層以上の多層構造となっている。図3は、更に別の構成例を示す断面図であり、電荷輸送層23上に保護層17を設けたものである。図4は、また更に別の構成例を示す断面図であり、導電性支持体11と電荷発生層21の間に中間層19を設けたものである。
【0051】
【図面の付号】
11…導電性支持体
17…保護層
19…中間層
21…電荷発生層
23…電荷輸送層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-04-18 
出願番号 特願平4-72640
審決分類 P 1 41・ 832- Y (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 淺野 美奈  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伏見 隆夫
江藤 保子
阿久津 弘
秋月 美紀子
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3398767号(P3398767)
発明の名称 電子写真感光体及びその製造方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠彦  

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