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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A23K
管理番号 1118559
審判番号 無効2002-35353  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-02-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-08-27 
確定日 2005-04-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2943785号発明「養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2943785号発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2943785号の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載の発明(なお、特許請求の範囲第3項は、同第2項の実施態様項である。)についての出願は、昭和61年1月30日に特許出願された特願昭61ー16739号の一部を、平成10年1月23日に新たな特許出願としたものであって、平成11年6月25日にその発明について特許の設定登録がなされた。
(2)これに対して、請求人ロシュ ビタミン アーゲーにより平成14年8月27日に本件無効の審判の請求がなされ、平成14年11月18日に訂正請求書(後日取り下げ)により、明細書の訂正が請求された。
(3)当審において、平成15年4月3日付けで無効の理由の通知がなされ、その指定期間内である平成15年7月8日に訂正請求書により明細書の訂正が請求された。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a
特許明細書の【発明の名称】「養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料」なる記載を、「養魚用ペレット飼料」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書の特許請求の範囲における、
「【特許請求の範囲】
1.有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する養魚粉末飼料用添加物。
2.有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する養魚用飼料。
3.飼料が粉末飼料である請求項2記載の養魚用飼料。」なる記載を、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有するニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギの養魚用ペレット飼料。」と訂正する。
訂正事項c
特許明細書の段落番号【0001】における、
「本発明は養殖魚類に対してアスコルビン酸活性を有し、かつ飼料中で安定な、特に経時的に安定なアスコルビン酸誘導体を有効成分として含有する養魚粉末飼料用添加物及び該アスコルビン酸誘導体を有効成分として含有する養魚用飼料に関する。」なる記載を、
「本発明は養殖魚類に対してアスコルビン酸活性を有し、かつ飼料中で安定な、特に経時的に安定なアスコルビン酸誘導体を有効成分として含有する養魚用飼料、特に養魚用ペレット飼料に関する。」と訂正する。
訂正事項d
特許明細書の段落番号【0002】9行目における、
「ハマチ稚魚では接餌量減少」なる記載を、
「ハマチ稚魚では摂餌量減少」と訂正する。
訂正事項e
特許明細書の段落番号【0004】における、
「本発明が解決しようとする課題はアスコルビン酸誘導体類を加熱成型機などを用いた養魚用飼料の製造工程でも分解されずに安定に保つことができ、長期にわたる飼料の保存に対しても安定であり、かつ広範な水産魚類に対してアスコルビン酸活性を十分に発現でき得る養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料を提供することにある。」なる記載を、
「本発明が解決しようとする課題はアスコルビン酸誘導体類を加熱成型機などを用いた養魚用飼料の製造工程でも分解されずに安定に保つことができ、長期にわたる飼料の保存に対しても安定であり、かつ広範な水産魚類に対してアスコルビン酸活性を十分に発現でき得る養魚用飼料、特に養魚用ペレット飼料を提供することにある。」と訂正する。
訂正事項f
特許明細書の段落番号【0006】における、
「即ち、本発明は以下に示す養魚粉末飼料用添加物及び養魚飼料からなる。
○1有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する養魚粉末飼料用添加物。
○2有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する養魚用飼料。
○3飼料が粉末飼料である○2記載の養魚用飼料。」なる記載を、
「即ち、本発明は、有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有するニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギの養魚用ペレット飼料に関する。」に訂正する。
訂正事項g
特許明細書の段落番号【0009】における、
「本発明の養魚粉末飼料用添加物には…粉末飼料に添加するものが含まれる。」なる記載を削除する。
訂正事項h
特許明細書の段落番号【0010】における、
「本発明において上記添加物が添加される粉末飼料には上記ねり餌の外、モイストペレットも含まれる。これらの飼料中でアスコルビン酸活性は長期間にわたって持続される。本発明の養魚用飼料は有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルを含有し、アスコルビン酸活性を有するもので、その飼料形態としては上記の固形飼料、粉末飼料であり、その飼料形態はペレット飼料、練り餌及びモイストペレットである。飼料成分は通常用いられている魚粉などの蛋白源、小麦グルテン、α-デンプンなどである。」なる記載を、
「本発明の養魚用飼料は有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有し、アスコルビン酸活性を有するもので、その飼料形態としては上記の固形飼料であり、その使用形態はペレット飼料である。飼料成分は通常用いられている魚粉などの蛋白源、小麦グルテン、α-デンプンなどである。」と訂正する。
訂正事項i
特許明細書の段落番号【0014】の「実施例2」なる記載を、
「参考例」と訂正する。
訂正事項j
特許明細書の段落番号【0017】の「実施例3」なる記載を、
「実施例2」と訂正する。
訂正事項k
特許明細書の段落番号【0017】の2行目「イカ内蔵5%」なる記載を、
「イカ内臓5%」と訂正する。
訂正事項l
特許明細書の段落番号【0018】の「実施例4」なる記載を、
「実施例3」と訂正する。
訂正事項m
特許明細書の段落番号【0023】における、
「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類は養魚飼料に添加し飼料製剤化することができ、長期間の保存に対して安定で広範囲の養殖魚類においてアスコルビン酸活性を発揮することができる。そして、本発明の養魚飼料用添加物及び養魚飼料の使用により養殖魚類の成長率の向上、へい死率の低下、品質の向上などの効果をあげることができる。」なる記載を、
「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類は養魚飼料に添加し飼料製剤化することができ、長期間の保存に対して安定で広範囲の養殖魚類においてアスコルビン酸活性を発揮することができる。そして、本発明の養魚用飼料の使用により養殖魚類の成長率の向上、へい死率の低下、品質の向上などの効果をあげることができる。」と訂正する。
(2)訂正の適否についての判断
上記訂正事項bは、特許請求の範囲第1項及び第3項を削除するとともに、特許請求の範囲第2項における養魚用飼料の投与対象魚種をニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギに特定し、飼料の形態をペレットに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項a、c,e〜j、l、mは、上記特許請求の範囲の訂正にともない、この訂正と発明の詳細な説明とを整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項d、kは、明らかな誤記の訂正であるから、誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、これらの訂正事項は、 願書に添付した明細書の段落【0008】、【0010、】、【0011】、【0017】、【0022】等に記載されている。
そして、これらの明細書の訂正によって、特許請求の範囲が実質上拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、本件訂正請求は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書及び特許法第134条第5項において準用する平成6年法改正前の同法126条第2項の規定に適合しているので、当該訂正を認める。

3.本件特許発明
本件特許発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有するニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギの養魚用ペレット飼料。」

4.引用刊行物記載の発明
当審が平成15年4月3日付けで通知した無効の理由に引用した刊行物a(特開昭52ー136160号公報、甲第1号証)には、
「本発明は広範囲の食品に使用しうる安定な栄養価値のあるビタミンC源として有用なホスホリル誘導体類を製造するためのモノアスコルビル-およびジアスコルビル-2-ホスフエートの合成法に関する。」(2頁右上欄下から5〜1行)、
「L-アスコルビン酸は、それを特定の化学誘導体に変えることによって、酸素および熱に対して一層安定化されうることが知られている。特にL-アスコルベート2-ホスフェートまたはL-アスコルベート2-サルフェートの如きアスコルビン酸の2-位置の無機エステル類は、L-アスコルビン酸のようには容易に酸化されない。さらには、L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる。」(3頁左上欄1〜16行)、
「L-アスコルベート2-ホスフェートを合成するいくつかの方法が過去に提案されてきておりまた該ホスフェートエステルが期待通り高ビタミンC効力を有することが示されている。例えば、・・・は、モルモット(guinea pig)にL-アスコルベート2-ホスフェトマグネシウム塩を給餌または注射すると、モルモットが尿中にL-アスコルベートを排泄することを発表している・・・。L-アスコルベート2-ホスフェートを与えられた動物によつて排泄されたL-アスコルビン酸の量は、当量のL-アスコルビン酸を与えた動物によつて排泄された量と同じであった。これらの結果は、L-アスコルベート2-ホスフェートは腸内で定量的にL-アスコルベートと無機燐酸塩とに変化することを示している。」(3頁左上欄17行〜右上欄13行)、
「従って、本発明の最も重要な目的は、分析化学的に純粋な状態に容易に回収でき、しかも酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステルを高収率で製造するための工業的に使用しうる方法を提供することにある。」(3頁左下欄9〜15行)、
「ホスホリル化反応の完結後、2-ホスフェートモノエステルは、無定形マグネシウム塩の形でまたは結晶性トリシクロヘキシルアンモニウム塩(TCHAP)の形で単離することができる」(5頁右下欄11〜14行)、
「この時点で,単離されたマグネシウム塩は実質的に純粋なL-アスコルベート2-ホスフェートであり」(6頁左上欄14〜16行)、と記載され、
実施例によって製造、単離された化合物として、
第一反応成分として5,6-o-イソプロピリデン-L-アスコルビン酸(IAA)を、第二反応成分としてオキシ塩化燐を用いる製造具体例の実施例1(6頁左下欄14行〜9頁右上欄14行)には、「実質上純粋なマグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェートを自由流動粉末として得た(収率約86%)。」ことが記載され(8頁右下欄7〜9行)、また、このマグネシウム塩を遠心分離捕集した際の上澄液と捕集後のマグネシウム塩を洗浄したエタノール洗液とから、バリウムL-アスコルベート2-ホスフェートが回収されること(第8頁右下欄10〜20行)、さらには、これらを処理して、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェート(TCHAP)を単離、回収することができることが記載され(8頁右下欄末行〜9頁右上欄14行)、
第一反応成分として5,6-o-ベンジリデンL-アスコルビン酸を用いた実施例2(第9頁右上欄15行〜左下欄11行)には、「目的とする塩、L-アスコルベート2-ホスフェート(TCHAP)は、実施例1と実質上同じ収率および純度で得られた。」と記載され(9頁左下欄9〜11行)、
第一反応成分としてL-アスコルビン酸またはD-イソアスコルビン酸を用いた実施例3(第9頁左下欄12行〜右下欄16行)には、マグネシウムL‐アスコルベート2一ホスフェートが5水和物固体基準で計算して収率65%、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェートが収率51%で得られたことが記載され(9頁右下欄9〜16行)、
実施例4(9頁右下欄17行〜10頁右上欄下から15行)では、収率28.9%でバリウムビス-(L-アスコルビル)2,2’-ホスフェートを得たことが記載され(10頁左上欄12〜15行)、
純粋な結晶性TCHAPのトリシクロヘキシルアンモニウム・カチオンを別の所望カチオンに置換して別の誘導体を製造する実施例5(10頁右上欄下から14行〜左下欄6行)には、固体のナトリウムL-アスコルベート2-ホスフェートを収率95%で得たこと、また、置換カチオンとしてバリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどを有する、その他の塩も同様に製造できることも記載されている。

上記「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる。」(3頁左上欄8〜16行)の記載から、「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート誘導体」は、「ビタミンC活性、即ち、アスコルビン酸活性を示す有効成分」として、「魚の餌の補充剤」として用いられることが記載されているものと認められ、「L-アスコルビン酸は、それを特定の化学誘導体に変えることによって、酸素および熱に対して一層安定化されうることが知られている。特にL-アスコルベート2-ホスフェートまたはL-アスコルベート2-サルフェートの如きアスコルビン酸の2-位置の無機エステル類は、」(3頁左上欄1〜6行)の記載からみれば、上記「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート誘導体」は、L-アスコルビン酸の化学誘導体である「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート」自体と指すものと認められる。
そして、「L-アスコルベート2-ホスフェートを合成するいくつかの方法が過去に提案されてきておりまた該ホスフェートエステルが期待通り高ビタミンC効力を有することが示されている。例えば、・・・L-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩(L-アスコルベート2-ホスフェトマグネシウム塩))を」(3頁左上欄17行〜右上欄3行)、「2-ホスフェートモノエステルは,・・・塩(TCHAP)の形で単離することができる」(5頁右下欄11〜14行)および「単離されたマグネシウム塩は実質的に純粋なL-アスコルべート2-ホスフェートであり」(6頁左上欄14〜16行)の記載によれば、刊行物aにおける「L-アスコルベート2-ホスフェート」が、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」をも意味する用語として用いられていることは明らかであり、さらに、「本発明の最も重要な目的は、分析化学的に純粋な状態で容易に回収でき、しかも酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステルを高収率で製造するための工業的に使用しうる方法」(3頁左下欄9〜15行)として具体的に製造され、純粋な状態で回収されているアスコルビン酸のホスフェートエステルは、いずれもその塩類であるから、刊行物aにおいては、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」が、上記「魚の餌の補充剤に用いられる」ものと位置付けられているものと認められ、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」は、「「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩」と同義のものと認められる。
そうすると、刊行物1には、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」が記載されているものと認められる。

同刊行物b(荻野珍吉編「魚類の栄養と飼料」、1及び292〜306頁(昭和55年11月15日(株)恒星社厚生閣発行))には、
「1.1 魚類養殖の現状」として、内水面養殖の主要魚種はウナギ、コイ、ニジマス、アユであること(1頁11行〜17行)、「6.3配合飼料」には、養魚用配合飼料について、「表6・39 配合飼料の使用区分」(292頁)には、現在養殖されている主要魚種のマス、コイ、マダイ、ハマチでは固形のペレットの形態で使用され、「1)配合飼料」の項には、「わが国と米国における代表的な配合飼料の組成を表6・40に示す。わが国の組成では、魚粉が比較的多く」(292頁)と記載され「表6・40配合飼料の組成」(293頁)には、マス、コイを対象魚として魚粉が、マスを対象魚としてビタミン混合が配合されていること、「IIビタミン混合の組成」(294頁)には、ビタミン混合の具体的組成としてマス、ニジマス、キャットフィッシュ(ナマズ)を対象魚とするものにアスコルビン酸を配合する組成があることが記載され、
「2)飼料の製造工程と用途」の項に「ペレット:ペレットは、粉末原料を加圧成型したもので、畜産用配合飼料、原料(ルーサンペレット、ふすまペレットなど)、ドッグフードや養魚飼料などに広く使用されている。その一例を示すと、図6・10のごとくである。まず、配合した粉末餌料を成型機に送り、蒸気を吹き込んででん粉質を糊化させる。この場合、加水度は普通5〜10%である。次いで、厚さ2〜10cmの穴のあいたダイにロールが飼料を押し込み、100〜1000kgの高圧下で押し出す。蒸気と圧縮熱により飼料の温度は70〜100℃に上昇する。押し出された飼料はダイのそばに設置されたナイフで適当な長さに切断される。それを直ちに冷却装置に運び、冷却する。〜固型飼料を製造するときには、どうしても熱が加えられるので、ある程度の変質が起こり、そのため油脂類の添加が限られている。仲川によれば、ビタミンのうちで最も損失の大きいものはビタミンAで、次いでビタミンCである。ビタミンCは、30℃の貯蔵で製造1ヶ月後に20%、4ヶ月後に27%減少した。」(295頁下から8行〜297頁下から7行)と記載されている。

同刊行物c(米康夫編「養魚飼料ー基礎と応用」、111〜114頁(昭和60年4月15日(株)恒星社厚生閣発行))には、
「ハマチ用マッシュには、主成分の魚粉と小麦粉の外に少量の肉骨粉、大豆油かす、コーングルテンミール、トルラ酵母などが配合されており、多孔質ペレットには、魚粉の外に比較的多量のデンプンと少量の小麦グルテンミールが配合されている。高タンパク質のマダイ用ペレットおよびマッシュの主成分は、魚粉、植物性油かす、および小麦粉で、なかには多量のオキアミミールが配合されているものもある。低たんぱく質のマダイ用飼料には、これらの主成分の外に米ぬか油かすが配合されている。」(112頁1〜8行)、
「表11・1に養魚飼料に用いられている原材料の使用量と使用比率を示した。この統計は各魚種の合計であり、海水魚用飼料も含まれている。この数値によると原材料の約50%が魚粉であり、使用比率の年変動は小さい。」(123頁下から8〜6行)と記載され、
「表10・3単独型モイストペレット(F)の配合組成ならびにペレットおよび生餌(R)の化学組成」(114頁)には、北洋および/または沿岸魚粉およびビタミン混合物を飼料に配合すること、「表10・4ビタミン混合物の処方」(115頁)には、アスコルビン酸カルシウムが配合されていることが記載され、
「表11・2ニジマス用配合飼料の組成」(125頁)、「表11・3コイ用配合飼料の組成I.」(126頁)、「表11・4コイ用配合飼料の組成II.」(127頁)、「表11・6アユ用配合飼料の組成」(129頁)には、飼料形態としてペレットが記載され、動物質原材料として、魚粉を配合することが記載され、
「表11・8ビタミン添加量例」(131頁)には、マス、アユ、コイ、ウナギについてのビタミンC(カルシウム塩)の添加量例が記載されている。ハマチを対象とするモイストペレットとして、「表10・2混合型モイストペレットの配合組成および化学組成」(112頁)、「表10・3単独型モイストペレット(F)の配合組成ならびにペレットおよび生餌(R)の化学組成」(114頁)にビタミン混合物を飼料に配合すること、「表10・4ビタミン混合物の処方」には、アスコルビン酸カルシウムが配合されていることが記載されている。

同刊行物d(ChenーHsiung(Eldon)Lee、″SYNTHESES AND CHARACTERIZATION OF L-ASCORBATE PHOSPHATES AND THEIR STABILITIES IN MODEL SYSTEMS″(1976)の内容を撮影したマイクロフィルム(国立国会図書館昭和54年(1979年)3月14日受入:国立国会図書館所蔵マイクロフィルム資料:DI 77ー05510)には、
「序 説 L-アスコルビン酸(ビタミンC)が、ヒト、サル及びモルモットの生育及び健康に必要であることは広く知られている。最近の調査は、また、ビタミンCが魚の食養生の必須要件(dietary requirement)であることを証明している(Halver,1974)。微生物に関し、この点については殆ど知られていない。L-グロノ-β-ラクトンオキシダーゼを欠くため、一定の動物及び魚において食物供給源が、必要である。該酵素は、L-グロノラクトンからその2-又は3-ケト誘導体を生成し、そのケト誘導体は互変異化して、ビタミンCを生成する。」(第16頁 第1行〜第8行)、
「特に、L-アスコルベート2-ホスフェート(この化合物は先の報告者によりL-アスコルベート3-ホスフェートとして間違って特定された)又はL-アスコルベート2-サルフェートのようなL-アスコルビン酸の2-ヒドロキシにおける無機エステルは、脱水アスコルビン酸に、容易に酸化しない。L-アスコルベート2-サルフェートは食物内で非常に安定であることが示されているが(Quadri et al ,1975)、残念なことにこの誘導体は、モルモット用(Campeau et al ,1973)又は霊長類用(Tolbert and Baker,1976)のビタミンCの食物供給源として働かず、それは多分、硫酸誘導体の低い腎臓のしきい値のためであろう。しかし、L-アスコルベート2-サルフェートは、魚用にビタミンCの有効な供給源である(Halver et al,1973)。動物の消化管に存在するホスファターゼが、L-アスコルベート2-ホスフェートを魅力的で安定なビタミンC誘導体としている。L-アスコルベート2-ホスフェートの化学合成が記載され、ホスフェートエステルは、予想通り高いビタミンC効力を有した。E.Cutolo及びA.Larizzaは、マグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェートを給餌又は注入されたL-アスコルベートを排泄することを示した(1961)。動物により排泄されたL-アスコルビン酸の量は、等量のL-アスコルビン酸を投与した動物により排泄される量と同じであった。これらの結果は、消化管中でL-アスコルビン酸と無機ホスフェートに定量的に変換されることを示す。最近、Brinnらは、L-アスコルベート2-ホスフェートが猿において、L-アスコルビン酸に匹敵するビタミンC効力を有することを示した。」(17頁16行〜18頁10行)
「2.4 L-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルベートの空気及び窒素に対する安定性
モデルシステムを用いて、L-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルベートの空気に対する安定性を測定した。沸騰水中及び空気流中では、L-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルベートは、一次速度論で消滅し(78頁の図23)、順に半減期78時間及び8.6時間を有することが見出された。従って、酸素に対して、前者は後者よりも約9倍安定であった。しかし、窒素流下、L-アスコルベート2-ホスフェートは、L-アスコルベートよりも5倍だけ安定であった(第78頁の図23)。すなわち、中庸のpHで空気に対して、L-アスコルベート2-ホスフェートは、L-アスコルベートよりも非常に安定である。」(77頁下から11行〜末行)、
「 6.2 空気又は窒素に対するL-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルべートの安定性
マグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェート(570mg、1.5mMole)又はカリウムL-アスコルベート(322mg、1.5mMole)を、沸騰するまで予め加熱した水100mlに溶解した。還流状態で加熱する間、窒素流又は空気流(1気圧、25°で24ml/分)を、その溶液に通気した。反応混合物のアリコートを時間と共に採取し、L-アスコルベート2-ホスフェートの分析を高圧液体クロマトグラフィー(1.2.3.高圧液体クロマトグラフィー、第84頁)を用いて行った。L-アスコルビン酸の分析は.蛍光分析により行った(Deutsch and Weeks,1965)。」(105頁4〜12行)と記載されている。

5.対比
上記したように、刊行物aには「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」が記載され、「餌」は、飼料であって、補充剤は飼料に配合して用いるものであり、このようなビタミンC源を配合した飼料は、養魚を対象とするものであるから、刊行物aには、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する養魚用飼料」が実質的に記載されているものと認められる。
そこで、本件特許発明と刊行物a記載の発明とを対比すると、両者は、
「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を含有する、アスコルビン酸活性を有する養魚用飼料」である点で一致するが、次の点で相違する。

(相違点)
(1)本件特許発明では、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有する養魚用ペレット飼料としているのに対し、刊行物a記載の発明では、飼料の組成およびその形態は不明な点。
(2)本件特許発明では、養魚として、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、またはウナギと特定されているのに、刊行物aに記載の発明では、対象とする魚種は不明な点。

6.当審の判断
上記相違点について検討する。
相違点(1)について、
刊行物b、cに記載されているように、魚粉を配合した養魚用飼料および飼料の形態をペレットとすることは、周知であって、刊行物b、cには、ビタミンCもペレット飼料の中に配合されること、しかも、刊行物bには、固型(ペレット)飼料を製造するときには熱によってビタミンCの損失があること、固型(ペレット)飼料は、経時的にビタミンCの損失があることが記載されているものと認められ、刊行物aの「L-アスコルビン酸は、それを特定の化学誘導体に変えることによって、酸素および熱に対して一層安定化されうることが知られている。特にL-アスコルベート2-ホスフェートまたはL-アスコルベート2-サルフェートの如きアスコルビン酸の2-位置の無機エステル類は、L-アスコルビン酸のように容易に酸化されない。」および「酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステル」の記載からみれば、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩は、L-アスコルビン酸に比べて、優れた熱安定性と耐酸化性を有するものと認められる。
そうすると、刊行物bには、ペレット製造時にビタミンC(L-アスコルビン酸)が熱により損失し、保存時にも経時的に損失するという問題点(課題)が記載されているから、この課題を解決するように、酸素及び熱に対して優れた安定性を示し、L-アスコルビン酸活性を示す「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類」を魚粉を含む飼料に添加してペレットの形態とすることは当業者であれば容易に想到し得るものである。
相違点(2)について
刊行物bには、養殖の主要魚種として、ウナギ、コイ、ニジマス、アユ、ハマチ、マダイが記載され、ヒメマス、シロザケ、アマゴ、ヤマメも日本における養魚対象魚種としては周知のものであるし、魚にもビタミンC、すなわちL‐アスコルビン酸が必要であることは、刊行物dに「ビタミンCが魚の食養生の必須要件であることを証明している」と記載され、刊行物b、cに、アスコルビン酸またはそのカルシウム塩が配合された養魚用飼料が記載されているから、ビタミンC源を含む養魚用飼料の対象魚種として、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、ウナギを選定して使ってみるようなことは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

そして、本件明細書の実施例2、3、比較試験例2において、L-アスコルビン酸-2リン酸エステルマグネシウム塩が優れた残存率を示すとしても、上記当審の判断の(1)で示したように、ビタミンCの損失を防止することを課題として、L-アスコルビン酸-2リン酸エステルの塩を含む養魚用飼料をペレットとすることは当業者が容易に想到し得るものである以上、その効果の指標は「L-アスコルビン酸-2リン酸エステルの塩」の残存率であるから、上記本件特許発明が優れた残存率を示すとしても、当業者にとって予想外の効果とはいえないし、刊行物aには、「L-アスコルビン酸-2リン酸エステルの塩」を含む養魚用飼料が実質的に記載されている以上、表3で比較されているアスコルビン酸やその誘導体のデータにおいて、「L-アスコルビン酸-2リン酸エステルマグネシウム塩」が他の誘導体よりも優れた効果を奏するとしても、このことをもって顕著な効果とはいえない。
また、本件特許明細書の表1の記載からは、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩添加区は、L-アスコルビン酸欠乏区およびL-アスコルビン酸添加区に比べて死亡率が低下し、変形尾数の出現を完全に抑制していることは認められるが、この効果は、L-アスコルビン酸欠乏区およびL-アスコルビン酸添加区を対照区としているように、魚のアスコルビン酸の摂取量によるものであって、表1の基礎となる実施例1および比較試験例1では、L-アスコルビン酸およびL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩を等モル、すなわち、アスコルビン酸換算で等量となるように基本成分に添加してペレットを製造し、50日前に製造したペレットを給餌しており、表3を参酌すれば、L-アスコルビン酸添加区で給餌しているペレット中のアスコルビン酸の含有量は、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム添加区のペレット中のL-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム含有量に比べて著しく少ないものと認められる。そうすると、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩添加区で優れた効果を示すことは、その塩の高い残存率と、アスコルビン酸活性によるものと認められるから、この効果は、刊行物aの「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩」の優れた熱安定性と耐酸化性および酵素分解によるアスコルビン酸活性の発現から、当業者が容易に予測し得るものである。

7.被請求人の主張について
被請求人は、下記のように主張している。
(1)刊行物aにおいては、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を魚の餌の補充剤として使用し得るものと当業者は理解できず、当業者に何らの示唆も与えるものではない。また、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類が、魚類に対して、医薬効果を有すること立証していないから、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を含有するアスコルビン酸活性を有する養魚飼料は完成された発明として記載されておらず、進歩性判断の契機とすべきではない。
(2)仮に、魚類におけるホスファターゼにより、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類が分解されるとすれば、当業者は、魚粉含有養魚用ペレット飼料においてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類の使用は回避する。
(3)本件発明は、刊行物a〜eに記載から容易に予測できない顕著な効果を奏するものである。

上記主張について検討する。
(1)刊行物aには、「ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは,殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる」(3頁12〜16行)と記載され、「ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素」である酸性ホスファターゼ及びアルカリ性ホスファターゼが魚類にも広く存在することは、甲第18、19号証にも記載されるように、刊行物aの頒布時において技術常識であったことが認められるから、刊行物aの記載及びその頒布時における技術常識を勘案すれば、刊行物aにおいて「L-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩」が期待通りモルモットの体内において「L-アスコルベート」(L-アスコルビン酸)の形に活性化されることが確認されているのと同じように、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」が、ホスファターゼを有する魚の体内でも「L-アスコルビン酸」に開裂されて活性を示すことは、実際にこれを確認した試験例や魚の餌の補充剤として必要な技術的事項等まで具体的に記載されていなくとも当業者においてこれを合理的に理解し得ることであって、刊行物aの「魚の餌の補充剤」に係る記載が、実体を伴った用途として当業者に把握されるものというべきである。
確かに、被請求人が主張するように、ある薬剤がある動物に効果を奏したからといって、他の動物でも同様の効果を奏するとはいえないことはよく知られた事実である。
しかしながら、刊行物aには、「このものは例えば魚の餌の補充剤として用ることが知られている。」と記載されているとおり、刊行物aの頒布前において、ビタミンC誘導体として知られているL一アスコルビン酸の2-ホスフェートが魚の餌の補充剤として用いられていたのである。
そして、このように魚の餌の補充剤として用いられていた以上、L-アスコルビン酸の2-ホスフェートが魚の体内において開裂されてL-アスコルビン酸の形に活性化されるのを当然確認しているというべきである。
そうであれば、被請求人の「L一アスコルベート2-ホスフェートが実際に魚において有効であることを立証する医薬データが必要なことは当然であり、このようなデータのない刊行物aにおいては、・・・アスコルビン酸活性を有する養魚飼料の発明は完成された発明として記載されていないとすべきである」との主張は採用できない。
また、被請求人は、第2答弁書において、刊行物aの「ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性示すと考えられる。」なる記載は、技術常識に基づかない単なる当て推量に等しく、当業者が信ずるに足る記載ではないと主張するが、刊行物aの上記箇所は、魚の餌の補充剤として実際に使用されていた事実を踏まえた上で記載されたものであるとみるのが相当であるので、被請求人の上記主張は採用できない。
したがって、刊行物aに記載の「魚の餌の補充剤」は、特許法第29条第1項第3号でいう「刊行物に記載された発明」というべきであり、この補充剤を添加した飼料も同様である。
(2)について、
被請求人は、刊行物aの「魚の餌の補充剤」を上記(1)のように当業者が認識するとすれば、魚粉はホスファターゼを含んでおり、このホスファターゼにより飼料製造中及び保存中に「L-アスコルビン酸-2リン酸エステルの塩類」は分解されることを予想するから、魚粉を配合した飼料に対し該塩の添加は回避する旨主張しているが、上記主張は、被請求人の推論であって、生体の消化器系内と飼料内とでは、作用環境条件が著しく異なるものであるから、直ちに当業者が上記のような予想するものとは認められないが、仮に、当業者が上記のような予想をするとしても、化学的な技術分野では、実験して証明しなければ、予想の適否を判断できないことは技術常識であることからすれば、当業者は上記予想を実証して、初めて該塩の添加を回避するものであり、単に予想に基づいて、該塩の添加を回避するとはいえないから、被請求人の主張は採用できない。
(3)について、
上記(1)で示したように、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を含有する魚の餌の補充剤」は、刊行物aに明確に記載されているから、この「魚の餌の補充剤」が刊行物a記載されていないことを前提とする被請求人の主張は採用できない。

8.むすび
以上のとおり、本件特許発明は、刊行物a〜dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

なお、被請求人は、審理終結後に審理再開の申立てをするとともに、平成15年12月10日付けで第2答弁書、平成16年1月9日付けで上申書を提出したが、それらの内容を検討しても、上記認定判断を左右するものではなく、審理を再開する必要は認めない。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
養魚用ペレット飼料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有するニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギの養魚用ペレット飼料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は養殖魚類に対してアスコルビン酸活性を有し、かつ飼料中で安定な、特に経時的に安定なアスコルビン酸誘導体を有効成分として含有する養魚用飼料、特に養魚用ペレット飼料に関する。
【0002】
【従来の技術】
L-アスコルビン酸(ビタミンC)は養殖魚類において欠乏または不足すると壊血病症状を呈し死に至る等の重大な被害が発生することが知られている。例えば、1962年に各地のニジマス養魚場で脊椎のわん曲を主徴とする異常魚が多発したが研究の結果アスコルビン酸の不足によることが証明された(日本水産学会第31巻第818頁〜826頁)。さらに昭和42年日本水産学会年会でニジマス、ヒメマスおよびシロザケ稚魚のアスコルビン酸欠乏による変形症の報告がある。また、アユでは食欲不振、軽度の眼球突出、ヒレ基部の出血、えらぶた、下顎部の損傷などの欠乏症、ハマチ稚魚では摂餌量減少、成長停止、脊椎わん曲、体色異変、高へい死率などの欠乏症、ウナギでは食欲低下、成長停滞のほかヒレ、頭部の出血などがおこる。さらにまた、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、ギンザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、ウナギなどの養殖に供される魚類は飼育中のストレスなどで天然魚に比較してアスコルビン酸要求量が高く飼料中のアスコルビン酸が不可欠である。
【0003】
従って、養魚飼料にはアスコルビン酸を含むビタミン類が添加され、給餌されている。ところが、アスコルビン酸は水溶性ビタミンの中でも特に不安定なものであるため、飼料中に添加した場合に分解が起こる。就中、蛋白源である魚粉中では特に不安定であり、ニジマス用飼料のように魚粉が半ば以上を占めるような配合のものでは分解によるビタミンCの力価の低下の問題は非常に大きい。即ち、L-アスコルビン酸は分解されやすく養魚飼料に添加しても速やかに失活し、その効果を持続させることはできない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題はアスコルビン酸誘導体類を加熱成型機などを用いた養魚用飼料の製造工程でも分解されずに安定に保つことができ、長期にわたる飼料の保存に対しても安定であり、かつ広範な水産魚類に対してアスコルビン酸活性を十分に発現でき得る養魚用飼料、特に養魚用ペレット飼料を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の事情に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を養魚飼料中に添加した場合に、極めて安定、特に長期間にわたってアスコルビン酸の力価の低下がほとんどないことを見出し、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を添加した養魚飼料で各魚種を飼育したところ、アスコルビン酸欠乏による脊椎わん曲、眼球突出などの壊血病症状を防止し、へい死率を極端に低下させ、平均体重を増加させるなどの好結果をもたらすことを見出し本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有するニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギの養魚用ペレット飼料に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明で使用されるL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類はL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルと塩を形成するものものであれば良いが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの塩が適当である。アスコルビン酸要求量は魚種や育成段階により異なる。ニジマス、アマゴ、アユ、アマダイ、ハマチなどはアスコルビン酸欠乏症による変形魚が発生する場合が多い。また、ビタミン類は摂取したタンパク質を始めとする各種栄養素の正常な代謝に必要であり、一般に代謝の盛んな若齢期にその要求性が高いが、アスコルビン酸は仔稚魚期における骨格形成に必要な結晶組織コラーゲンの生合成にとって必須である。さらに、ふ化後からアスコルビン酸を含む飼料を摂取するまでの間は産卵前の卵のアスコルビン酸含有量がふ化した仔魚の正常な骨格形成因子となるため、仔稚魚用飼料、親魚用飼料ともにアスコルビン酸の重要性が強調される。
【0008】
本発明のL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類は、例えばニジマス稚魚の場合には飼料1kgあたり2ミリモル以上添加されればコラーゲンの代謝異常に基づく変形魚の発生を予防することができ、負傷、細菌感染にも充分対応できるようになる。L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類はいずれも魚体内の酵素によりL-アスコルビン酸となり、アスコルビン酸活性を発揮する。本発明において、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類の使用量、添加量は、一概には規定し難いが、対象とする養殖魚の種類、使用目的、添加混合されるべき飼料成分、組成その他の要因により決定される。本発明の飼料の対象となる魚種は、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、ギンザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、ウナギ、フグ、ヒラメ、テラピヤ、アジ、シマアジ、マグロ、カツオ、フナが適当である。
【0009】
一般に飼料用添加物を飼料に添加した飼料形態は大別して粉末飼料と固形飼料である(新水産学全集14魚類の栄養と飼料 荻野珍吉編 恒生社 厚生閣版 昭和55年11月15日発行292頁)。そして粉末飼料の使用形態はねり餌、固形飼料の使用形態はペレットである。これらの中でモイストペレットは団塊状をなしているが、軟らかく固形でないので粉末飼料に分類するのが普通である(水産学シリーズ54養魚飼料 基礎と応用 米 康男編1985.4恒生社 厚生閣版発行111頁)。
【0010】
本発明の養魚用飼料は有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有し、アスコルビン酸活性を有するもので、その飼料形態としては上記の固形飼料であり、その使用形態はペレット飼料である。飼料成分は通常用いられている魚粉などの蛋白源、小麦グルテン、α-デンプンなどである。
【0011】
【実施例】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
実施例1及び比較試験例1
白魚粉55%(重量%、以下同じ)、α-ポテトスターチ32%、大豆油5%、マックコラム塩3%、アスコルビン酸を含まないビタミン混合物5%からなる飼料(基本飼料)を調製し、ペレットにしてこれをアスコルビン酸欠乏区飼料とした。この基本飼料成分1kgにさらにアスコルビン酸の2ミリモルを加えて調製し、ペレットにしたものをアスコルビン酸添加区飼料、また基本飼料成分1kgに本発明化合物中のL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩の2ミリモルを加えて調製し、ペレットにしたものを本発明化合物添加区飼料とした。但し、ビタミン混合物5gには塩酸チアミン6mg、リボフラビン20mg、塩酸ピリドキシン4mg、ビタミンB120.009mg、ニコチン酸80mg、塩化クロリン800mg、イノシトール400mg、パントテン酸カルシウム28mg、ビオチン0.6mg、葉酸1.5mg、α-トコフェノール40mg、メマデイオン4mg、カルシフェロール0.05mg、酢酸レチネン20mg、セルローズ3596mgを含む。
【0012】
以上のペレット飼料をニジマスの浮上稚魚に飽食量を給餌し、100日間飼育した。各試験区あたり200尾を飼育し、給餌回数は給餌開始の0〜80日後が1日6回、81〜100日後が1日4回とした。飼料は給餌開始の50日前に調製したものを使用した。経時的に各区のニジマス稚魚の平均体重を調査した。また、各区の生存尾数、変形尾数を経時的に調査し、表1に示した。その結果、平均体重に区間の差はほとんどなかった。しかし、アスコルビン酸欠乏区と比べ、アスコルビン酸類添加区では変形魚の出現数、死亡率が低下し、特にL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩を添加した区では変形尾数の出現を完全に抑えた。
【0013】
【表1】

【0014】
参考例
白魚粉55%、α-ポテトスターチ32%、大豆油5%、マックコラム塩3%、アスコルビン酸を含まないビタミン混合物5%からなる基本組成物を調製し、これをアスコルビン酸欠乏飼料とした。この基本組成物1kgに対しさらにアスコルビン酸の1ミリモルを加えて調製したものをアスコルビン酸添加区飼料、また基本組成物1kgに対し本発明の化合物中のL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩1ミリモルを加えて調製したものを本発明化合物添加区飼料とした。但し、ビタミン混合物5gには塩酸チアミン6mg、リボフラビン20mg、塩酸ピリドキシン4mg、ビタミンB120.009mg、ニコチン酸80mg、塩化クロリン800mg、イノシトール400mg、パントテン酸カルシウム28mg、ビオチン0.6mg、葉酸1.5mg、α-トコフェノール40mg、メマデイオン4mg、カルシフェロール0.05mg、酢酸レチネン20mg、残分としてセルローズ約3600mgを含む。
【0015】
以上の粉末飼料を適量の水を加えてねり餌としニジマスの稚魚に飽食量を給餌し、100日間飼育した。各試験区あたり200尾を飼育し、給餌回数は給餌開始の0〜80日後が1日6回、81〜100日後が1日4回とした。飼料は給餌開始の50日前に調製したものを使用した。経時的に各区のニジマス稚魚の平均体重を調査した。また、各区の生存尾数、変形尾数を経時的に調査し、表2に示した。その結果、平均体重に区間差はほとんどなかった。しかし、アスコルビン酸欠乏区と比べ、アスコルビン酸類添加区では変形尾出現数、死亡率が低下し、特にL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩を添加した区では変形尾数の出現を完全に抑え、生存尾数も高かった。
【0016】
【表2】

【0017】
実施例2
魚粉55%、サケ白子5%、クリルS.W.5%、イカ内臓5%、イカ肝油5%、大豆レシチン4%、バリン0.3%、イソロシン0.2%、コーンスターチ5%、ミネラル混合物5%、グルテン8%、ビタミンCを除いたビタミン混合物5.0%、ω3-HUFA1%、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩0.01%及び残分に大豆粉を添加して100%としこの原料を粉砕後にミキサーで十分混合しカルフォルニア ペレット ミル社製ペレットミル(内部温度70〜100℃)で常法により平均粒径5mmのペレットに加熱成型し100℃で送風乾燥させた。次にこの飼料を粉砕し稚魚用飼料とした。高速液体クロマトグラム法(HPLC法)でL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩を測定したところ添加量の95%が残存していた。
【0018】
実施例3
魚粉35%、コーンミール30%、マックコラム塩3%、ビタミン混合物5.0%、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩0.01%及び残分に大豆粉を添加して100%としこの原料を粉砕後にミキサーで十分混合した後ウエンガー社製エクストルーダーペレットミルによりクッカー水分含量28%に調湿し蒸煮しエクストルーション成型した。この成型物を2段式バンドドライヤーにより温度120〜170℃で乾燥させ平均粒径100mmの水産用魚用エキスパンションペレット飼料を製造した。高速液体クロマトグラム法でL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩を測定したところ添加量の96%が残存していた。
【0019】
比較試験例2
表3に示すL-アスコルビン酸誘導体類0.1ミリモルをそれぞれ実施例3のL-アスコルビン酸-2リン酸エステルマグネシウム塩のみを除いた同じ組成の飼料に同じ製造方法で成型した後粉砕し製造直後の飼料中のL-アスコルビン酸誘導体類の残存率を測定した。次に室温で2週間放置し同様に飼料中のL-アスコルビン酸誘導体類の残存率を測定し、この飼料を平均体重2.6gのハマチ(モジャコ)に投与し3カ月間にわたって飼養試験を実施し試験終了時にハマチの増重率、生残率、肝臓中のアスコルビン酸濃度を測定し、総合評価としてアスコルビン酸誘導体類を添加した飼料のハマチに対する有効性を調べた。
【0020】
【表3】

【0021】
比較試験例3
本発明のL-アスコルビン酸-2リン酸エステルの塩類の養魚類に対するアスコルビン酸への酵素的変換活性を確認するため表4の魚類について以下の実験を行い活性の存在することを確認した。養殖魚類の肝臓と腸を新鮮な状態で摘出し臓器重量を測定し、50倍の冷水を加えて冷温下でホモジナイズし上澄液を取り1:1で混合しこれを酵素液とした。次に0.05%重量のL-アスコルビン酸誘導体類を含むpH5.0、pH7.0及びpH9.0のバッファー溶液8mlの入った試料瓶を35℃に保ち、酵素液2mlを添加して35℃の水浴中で1時間放置した後、異なるpHで反応させた酵素液を1:1:1で混合し酵素反応を止める。解凍直後、2%メタリン酸溶液を加えて50mlとした後、2%メタリン酸で更に50倍に希釈し、その20μlをHPLC分析し残存しているL-アスコルビン酸エステル類の濃度を求め反応前の濃度に対する加水分解率を求めた。その結果50%以上の高い加水分解活性が認められたものについては○を記入し、50%以下のものについては×を記入した。その結果全てのL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類に、試験した全ての魚類の酵素液に対して50%以上の高い加水分解活性が確認された。
【0022】
【表4】

【0023】
【発明の効果】
L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類は養魚飼料に添加し飼料製剤化することができ、長期間の保存に対して安定で広範囲の養殖魚類においてアスコルビン酸活性を発揮することができる。そして、本発明の養魚用飼料の使用により養殖魚類の成長率の向上、へい死率の低下、品質の向上などの効果をあげることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-11-05 
結審通知日 2003-11-10 
審決日 2004-02-19 
出願番号 特願平10-11455
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (A23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長井 啓子坂田 誠  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 鈴木 寛治
渡部 葉子
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2943785号(P2943785)
発明の名称 養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料  
代理人 武井 秀彦  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 津国 肇  
代理人 篠田 文雄  
代理人 吉村 康男  
代理人 武井 秀彦  
代理人 斉藤 房幸  
代理人 吉村 康男  

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