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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効としない H04N
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない H04N
管理番号 1118562
審判番号 無効2004-80169  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-10-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-29 
確定日 2005-04-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2538163号発明「ファクシミリ送信装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・当事者の主張
(1)本件特許第2538163号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願(以下「本件出願」という。)は、昭和60年8月22日に出願された特願昭60-184825号(以下「原出願」という。)の分割出願として平成4年5月28日に出願され、平成7年12月8日付け手続補正がされた後、平成8年7月8日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
(2)これに対して、請求人は、本件特許発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、
ア 本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。
また、
イ 発明の詳細な説明の記載が当業者が容易に実施できる程度に記載されていないから、本件出願は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないと主張している。
(3)これに対して、被請求人は、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載も示唆もされていないし、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証記載の発明を適用することは当業者に容易ではないから、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明から容易に発明をすることができたものではない旨及び記載不備も無い旨主張している。
(4)さらに、被請求人は、平成16年12月16日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、特許請求の範囲を下記のとおり訂正し、かつこれに整合するように特許明細書段落0006を訂正することを求めるものである。
「【請求項1】ファクシミリ通信の終了時に1通信毎の通信状況を通信管理情報として順次記憶する記憶手段と、
この記憶手段に記憶された1通信の通信管理情報を単位として順次表示する表示手段と、
この表示手段に前記通信管理情報の呼出しを指示する操作手段と、
この操作手段からの指示入力に応じて、通信管理情報を前進あるいは後退移動させ、所望の通信管理情報を表示させる制御手段とを具備し、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された最新の通信管理情報を最初に表示するとともに、通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にしたことを特徴とするファクシミリ装置。」
(5)本件の審理は、職権により書面審理によるものとしこの旨を平成17年1月13日付けで両当事者に通知し、同日付で審尋を発したところ、請求人からは同年2月16日付けで回答書及び証拠方法として甲第4号証及び甲第5号証が提出され、被請求人からは同年2月15日付けで、回答書が提出された。

2.訂正の可否
上記訂正(1.(4)参照。)は、特許請求の範囲の請求項1の制御手段について、「前記記憶手段に記憶された最新の通信管理情報を最初に表示するとともに、」という限定事項を加えるものであり、また、これと整合するように特許明細書の段落0006を訂正するものである。そして、上記限定事項は、特許明細書の段落0012に記載されていたものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.分割要件についての判断
本件出願が特許法44条1項の要件を満たし、したがって同条2項の規定により本件出願が原出願がされた時にされたものとみなすべきか以下検討する。
同条1項は「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定しており、新たな特許出願の対象となる発明は原出願の明細書又は図面に記載されている発明であると解される。そして、分割出願は原出願の出願の時に出願されたものとみなされるという出願の分割の効果を考慮すると、出願の分割の対象となる発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されているかまたは同記載から当業者にとって自明でなければならない。
そこで、上記訂正後の特許請求の範囲の請求項1にかかる発明(以下、「本件訂正発明」という。)が、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「原出願の当初明細書」という。)に記載されているかどうか検討すると、原出願の当初明細書には以下の記載がある。(原出願の当初明細書は特開昭62-45263号公報に記載されているものと同一なので、以下摘記箇所は同公報による。)
ア 「2、特許請求の範囲
1通信毎の通信状況を通信管理情報として記憶部に順次記憶する手段と、前記記憶部に記憶された通信管理情報を操作部からの操作入力によって表示器上に順次表示する手段とを備えたファクシミリ装置。」(1頁左欄4〜9行)
イ 「問題点を解決するための手段
この発明によるファクシミリ装置は、1通信毎の通信状況を通信管理情報として記憶部に順次記憶する手段と、操作部からの操作入力により通信管理情報を表示器に順次表示する手段とを備えている。
作用
ファクシミリ通信が終ると、その通信状況が通信管理情報として記憶部に順次記憶される。操作者が必要な通信管理情報を得たいときは、操作部の操作ボタンを押すことにより、前回の通信管理情報から順に遡って通信管理情報が表示器上に表示され、操作者は、この表示を見ながら必要な通信管理情報を得る。」(2頁左上欄4〜17行)
ウ 「ファクシミリ通信の指示の場合は、MPU11の制御のもとに画信号入出力部14と変復調部13とによって回線18を通じてファクシミリ通信が行なわれる(ステップ30)。通信が終ると、MPU11は、通信開始時刻、通信時間、通信枚数、相手先等の通信状況を通信管理情報記憶部15に記憶させる(ステップ31)。この通信管理情報の登録は、図1に示すように、前回の通信管理情報の終わりを示すマークの次の領域に対して行われ、登録が終るとマークの位置が1つ進められる。」(2頁左下欄13行〜同右下欄3行)
エ 「正常な呼び出し操作が行われた場合は、記録部15から通信管理情報が順次呼び出される。例えば呼び出し操作ボタンを押すと、まず図1に示す通信管理情報の終わりを示すマークの直前の通信管理情報が表示器17に表示され(ステップ28)、その位置をポインターに記録する。操作者が操作部16において前進ボタンを押すと、MPU11は、ポインターを1つ前進させるとともに現在表示されている1つ前の通信管理情報を表示器17に表示する。また操作者が後退ボタンを押すと、MPU11は、ポインターを1つ後退させるとともに現在表示されている1つ後の通信管理情報を表示器17に表示する。このような操作の繰り返しによって、ポインターが最初の通信管理情報記憶領域を越えたり、最後の通信管理情報記憶領域を越えたりした場合には、表示器17に操作エラーの表示をするとともに(ステップ34)、ポインターの値を元に戻して(ステップ35)、再び呼び出し操作を行なう。このような呼び出し操作を繰り返すことによって必要な通信管理情報が得られる。」(2頁右下欄18行〜3頁左上欄18行)
オ 「発明の効果
以上のように、この発明によるファクシミリ装置は、1通信毎の通信状況を通信管理情報として記憶部に順次記憶する手段と、記憶部に記憶された通信管理情報を操作部からの操作入力によって表示器上に順次表示する手段とを備えているので、操作者は表示器上の通信管理情報を見ながら必要な通信管理情報を得ることができ、紙を無駄にすることなく、いつでも繰り返し必要な通信管理情報を得ることができる。」(3頁右上欄14行〜同左下欄3行)
してみると、本件訂正発明の「通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にした」点は、原出願の当初明細書に記載されていない。原出願の当初明細書には、「ポインターが最初の通信管理情報記憶領域を越えたり、最後の通信管理情報記憶領域を越えたりした場合には、表示器17に操作エラーの表示をするとともに(ステップ34)、ポインターの値を元に戻して(ステップ35)、再び呼び出し操作を行なう。」(上記エ参照。)としか記載されておらず、「ポインターの値を元に戻して」の「元」は技術用語ではなく通常の意味である「以前」と解するほかないが、するとどのくらい「以前」なのか、つまり「ポインターが最初の通信管理情報記憶領域を越えたり、最後の通信管理情報記憶領域を越えたりした」直前なのか、それとも「まず図1に示す通信管理情報の終わりを示すマークの直前の通信管理情報が表示器17に表示され(ステップ28)、その位置をポインターに記録する」時点(原出願の出願当初の明細書の図1にはこの位置は「初期値」と記載されており、本件訂正発明の「初期位置」に相当する。)なのか、この語からだけでは特定できない。しかし、一般にエラーが生じた場合に復旧が可能なときにはエラーを生じさせた原因を取消して直前の状態に復帰させることが技術常識であることを勘案すれば、他に特段の記載がない以上、当業者からみれば、上記「ポインターの値を元に戻して」とは、「操作エラー」が生じる直前の状態、つまり「ポインターが最初の通信管理情報記憶領域を越えたり、最後の通信管理情報記憶領域を越えたりした」直前の値に戻すという意味に解さざるを得ないのであり、「初期位置」に戻すことは記載されていないし当業者にとって自明でもないと認められる。
以上のとおり、本件訂正発明は原出願の当初明細書に記載されておらず同記載から自明とも認められないから、本件出願は特許法44条1項の要件をみたさず、その出願日は現実の出願日である平成4年5月28日と認める。

なお、この点について被請求人は回答書において種々反論しているので、以下被請求人の反論について検討する。
(1)被請求人は、「ポインターの値を元に戻して」における、「元」の語義が、はじめ、起源の意である(広辞苑)ことを根拠に反論している(平成17年2月15日付け回答書3頁12行〜4頁12行)。広辞苑第四版(岩波書店)によると、「もと【本・元・原・基】」の見出しの意味として、確かに、「(1)はじめ。起源。」と記載されているが、一方で、同見出しの意味として「(2)以前。」とも記載されている。また、「もと【旧・故・元】」の見出しの意味として「むかし。はじめ。以前。」と記載されており、いずれにせよ、被請求人の主張するように一義的に「はじめ、起源」の意と解すべき根拠にはならない。また、被請求人は「ポインターの初期位置」が表示制御開始の起点たる位置といえるとした上で、ポインターの値が元に戻されるとは、ポインターの値がその起点である「ポインターの初期値」に戻されるものと考えられる旨主張しているが、上述のように「元に戻して」を「起点に戻して」と解する根拠はないのであるから、被請求人の上記主張はその前提を欠くと言うべきである。また、被請求人は、ポインターが戻るべき値は「初期値」以外には記載されていない旨主張しているが、「初期値」に戻ることも記載されていないのであるから、同主張も前提を欠くと言うべきである。
(2)また、被請求人は、最初の通信管理情報の格納位置より先は、記憶領域外で読み出し不可能な領域であり、読み出しポインターは同位置より先には進むことができないことを根拠として、合議体の上記認定が技術意義を誤解するものである旨主張している(同回答書4頁13行〜5頁16行)。しかし、「ポインターの値を元に戻して」とは、ポインターの位置をメモリ空間の中で物理的に進めて戻すことではなく、単にその値として記憶領域外のアドレスとした上でその値を戻すということ、つまりポインタの値の計算をするということであるから、これを不可能とする被請求人の上記主張は根拠がない。
(3)さらに、被請求人は、ファクシミリ装置においては、通信エラーや送受信系の紙ジャム等何らかの動作エラーが発生した場合には、制御動作がリセットされ、それに対応して表示制御もリセットされ、表示は初期表示状態になるのが一般的であることを根拠に上記認定を論難するが、原出願の出願前にも、ファクシミリ装置において、送信中にエラーが発生した場合にはじめから原稿読取をやり直すのではなく、記憶された画像情報を直ちに送信するものはあるから(例えば、特開昭58-81376号公報第2頁左下欄15行〜同右下欄1行参照。)、エラーが発生した場合に常に初期状態に戻すべきという技術常識は認められず、かえって、すべてやり直すのではなく、直前の状態に戻れるのであれば戻るという方が常識的である。してみると、原出願の当初明細書に記載された発明も直前の値に戻せるのであるから、「操作エラーの表示をするとともに」、「ポインターの値を元に戻」すとの記載は、「直前の値に戻す」と解釈せざるを得ない。
上記のとおり、被請求人の上記反論はいずれも採用することができない。

4.平成7年12月8日付け手続補正について
上記3.で検討した「通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にした」点は、平成7年12月8日付け手続補正で加えられたものであるが、本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載は、上記3.で検討した原出願の出願当初の明細書の特許請求の範囲を「【請求項1】ファクシミリ通信の終了時に1通信毎の通信状況を通信管理情報として順次記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶された通信管理情報を表示する表示手段と、この表示手段に前記通信管理情報の呼出しを指示する操作手段と、この操作手段からの操作入力に応じて、前記表示手段に表示された通信管理情報を前進あるいは後退移動させ、所望の通信管理情報を表示させる制御手段とを具備したことを特徴とするファクシミリ装置。」とし、同明細書の問題点を解決するための手段、作用及び発明の効果を上記特許請求の範囲の記載と整合するように書き換え、同明細書の図面の簡単な説明の形式を変えた以外は同一の内容であって、してみれば、3.と同様の理由により、上記補正は本件出願の願書に添付した明細書又は図面の要旨を変更するものと認められる。
したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第2条第2項によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第40条により、本件出願は、上記手続補正について手続補正書を提出した時(平成7年12月8日)にしたものとみなす。

5.本件訂正発明と甲第1号証ないし甲第5号証との対比・判断
甲第1号証には「蓄積記録の再生方式」が、甲第2号証には「小型電子機器の表示サイクル変更方式」が、それぞれ記載されているが、本件訂正発明の構成要件である「通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にした」という構成要件は、いずれの文献にも記載も示唆もされていない。たとえ、甲第3号証に記載された「ワードプロセッサ等の文書名一覧表示方法」を参酌したとしても同様である。
請求人は上記構成要件を含む構成が甲第2号証に記載されていると主張しているが、甲第2号証には「最終レコードまでデータの読出しが終了したか否かを判断する。この判断結果がYESであればステップB4でポインタMPRに「1」をセットした後ステップB5へ進み、」(3頁右上欄17〜20行)としか記載されておらず、確かに本件訂正発明でいう「前進に伴い」、「記憶領域を越えた場合、」「表示位置を初期位置に復帰させ」ることは記載されていると認められるが、「前進あるいは後退移動に伴い、」「記憶領域を越えた場合」に初期位置に復帰させることは記載されていない。
したがって、本件訂正発明が、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
さらに、請求人の提出した甲第4号証、甲第5号証にも上記構成要件は記載も示唆もされていない。甲第4号証は、原出願の出願当初の明細書を開示するものであり、そこに上記構成要件が記載されていないことは、上記3.に示したとおりであるし、甲第5号証には「【0031】また、上記実施例では無限にスクロールが可能なため、40回以上カーソルキーを押下すると読み出しポインタが一回転して最初の表示にもどるが、書き込みポインタの値を参照することにより、それを越えて読み出しポインタを操作することを禁止することで、記録の最初と最後とを容易に確認できるようにすることも可能である。」(3頁4欄9〜15行)と記載されているが、これは、記録の最初と最後ともにそれを越えて読み出しポインタを操作できないということで、最初と最後を越えると直前の値に復帰するということであるから、本件訂正発明でいう「初期位置に復帰させる」ものではない。

なお、上記構成要件の「前進あるいは後退移動に伴い」は、本件訂正発明の構成要件である「通信管理情報を前進あるいは後退移動させ、所望の通信管理情報を表示させる制御手段」の「前進あるいは後退移動させ」に対応することは明らかであるが、これは「前進移動」及び「後退移動」の両者の移動が可能と解すべきで、ただ、両者を同時に行うことはできないので「前進あるいは後退移動」と記載されているものと認める。なぜならば、「前進移動」あるいは「後退移動」のどちらか一方のみが可能と解すると、「後退移動」のみが可能としたときに最新の通信管理情報を最初に表示し、後退移動のみを行っても直ちに通信管理情報の記憶領域を越え、初期位置に復帰することになり、結局最新の通信管理情報しか表示できず、合理的な解釈ができないからである。さらに、特許明細書の発明の詳細な説明にもどちらか一方のみを可能とすることは記載されていない。

6.記載不備についての判断
(1)請求人は、本件特許発明の「初期位置に復帰させ再操作を可能にした」の文言は実施例中に明確に記載されていない旨主張している。(審判請求書9頁21行〜同10頁9行)
しかし、明細書の発明の詳細な説明には当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載すればよい(特許法第36条第4項)のであって、必ずしも文言通りに記載しなければならないものではなく、明細書の他の記載や技術常識を参酌できることは当然である。そして、訂正後の特許明細書には「通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にした」(段落0006)と明記されており、さらに「まず図1に示す通信管理情報の終わりを示すマークの直前の通信管理情報が表示器17に表示され(ステップ28)、その位置をポインターに記録する。」(段落0012)という記載とともに図1には「通信管理情報の終わりを示すマーク」の直前の位置に「現在表示されている位置のポインター(初期値)」と記載されており、してみれば、「ポインターが最初の通信管理情報記憶領域を越えたり、最後の通信管理情報記憶領域を越えたりした場合には、表示器17に操作エラーの表示をするとともに(ステップ34)、ポインターの値を元に戻して(ステップ35)、再び呼び出し操作を行なう。」(段落0012)の「ポインターの値を元に戻して」とは、前記段落0006に明記された「初期位置に復帰させ」に相当することは、当業者にとって明らかである。
(2)また、請求人は図3の記載では「操作がされた後(ステップ27でYES)、実際にその操作に対応する呼び出しおよび表示という正常な動作を必ず行っている(ステップ28)」ことを根拠として「通信管理情報の記憶領域を越えた場合」においても、常に正常な呼び出し及び表示を行っている(ステップ28)点で、本件特許発明が実施例と一致していない旨主張している。(審判請求書10頁10〜26行)
しかし、ステップ27の「呼出操作か?」はその記載通り判断を行っているのであって、そのための「呼出操作」は図3のステップ25に明記されているものである。そして、この操作を「表示ポインターが領域を越えた場合」に行われる操作すなわち「前進ボタンあるいは後退ボタンの押し下げ」をも含むものと解すべき理由はなく、逆に、訂正後の明細書段落0011〜0012には、「操作部16において呼び出し指示がなされ、MPU11がこれを判定すると、操作者は、続いて呼び出し操作を行なう(ステップ25)。MPU11は、まずそれが呼び出し終了の指示かどうかを判定し(ステップ26)、そうである場合には待機状態に戻る。呼び出し終了の指示でない場合は、正常な呼び出しの指示かどうかを判定し(ステップ27)、正常な呼び出しでない場合は操作エラーを表示器17に表示し(ステップ33)、再びステップ25に飛んで呼び出し操作をやり直す。
【0012】
正常な呼び出し操作が行われた場合は、記録部15から通信管理情報が順次呼び出される。例えば呼び出し操作ボタンを押すと、まず図1に示す通信管理情報の終わりを示すマークの直前の通信管理情報が表示器17に表示され(ステップ28)、その位置をポインターに記録する。操作者が操作部16において前進ボタンを押すと、MPU11は、ポインターを1つ前進させるとともに現在表示されている1つ前の通信管理情報を表情報器17に表示する。また操作者が後退ボタンを押すと、MPU11は、ポインターを1つ後退させるとともに現在表示されている1つ後の通信管理情報を表示器17に表示する。」と記載されており、ステップ25の「呼び出し操作」は、段落0012に記載された「通信管理情報の順次呼び出し」の前に行われるものであり、この順次呼び出しの中で行われる「前進ボタンあるいは後退ボタンの押し下げ」をも含むものと解釈することはできない。してみると、「操作がされた後、実際にその操作に対応する呼び出しおよび表示という正常な動作を必ず行っている」という解釈を根拠とする請求人の上記主張はその前提において失当である。
(3)むすび
上記のとおり請求人の主張はいずれも採用することができず、本件出願が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと認めることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ファクシミリ送信装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファクシミリ通信の終了時に1通信毎の通信状況を通信管理情報として順次記憶する記憶手段と、
この記憶手段に記憶された1通信の通信管理情報を単位として順次表示する表示手段と、
この表示手段に前記通信管理情報の呼出しを指示する操作手段と、
この操作手段からの指示入力に応じて、通信管理情報を前進あるいは後退移動させ、所望の通信管理情報を表示させる制御手段とを具備し、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された最新の通信管理情報を最初に表示するとともに、通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にしたことを特徴とするファクシミリ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、通信管理情報表示機能を備えたファクシミリ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来この種の装置は、通信を行なった順にまたは使用者別に日付、時刻、時間、枚数、料金等の通信管理情報を記憶し、これらを必要に応じてハードコピーとして出力していた。ハードコピーの出力形態としては、所定の通信数をまとめて一覧表として出力する場合と、1通信毎に出力する場合とがある。
【0003】また、このようなハードコピー以外に通信結果を確認する方法として、1通信毎に通信結果を表示器上に表示したり、適正に通信された原稿の1ページ毎に済スタンプ等の確認マークを捺印する方法等がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、通信結果をハードコピーで出力する方法は、一覧表として出力する場合は、不要情報がたくさん含まれていることがあって非効率的であり、紙の浪費でもある。また1通信毎に出力する場合は、1枚の紙毎に僅か2,3行程度の記録が行なわれるにすぎないので、やはり紙の浪費である。さらに1通信毎に表示器に表示する方法は、表示がその時限りなので、前回の通信結果を確認することができない。また、通信原稿毎に済スタンプを捺印する方法では、捺印のための特別な機構を必要とし、捺印によって原稿が汚れてしまう問題点がある。
【0005】この発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、紙を無駄にすることなく、必要な通信管理情報をいつでも繰り返し得ることのできる改良されたファクシミリ装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明によるファクシミリ装置は、ファクシミリ通信の終了時に1通信毎の通信状況を通信管理情報として順次記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶された1通信の通信管理情報を単位として順次表示する表示手段と、この表示手段に前記通信管理情報の呼出しを指示する操作手段と、この操作手段からの指示入力に応じて、通信管理情報を前進あるいは後退移動させ、所望の通信管理情報を表示させる制御手段とを具備し、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された最新の通信管理情報を最初に表示するとともに、通信管理情報の前進あるいは後退移動に伴い、通信管理情報の記憶領域を越えた場合、通信管理情報の表示位置を初期位置に復帰させ再操作を可能にしたことを特徴とする。
【0007】
【作用】ファクシミリ通信が終わると、その通信状況が通信管理情報として記憶部に順次記憶される。操作者が必要な通信管理情報を得たいときは、操作部の操作ボタンを押すことにより、前後の通信管理情報を表示器上に自由に表示することができ、操作者は、この表示を見ながら必要な通信管理情報を得る。
【0008】
【実施例】図1には、この発明における通信管理情報の記憶形態の一例が示されている。1通信分の通信管理情報は、1回のファクシミリ通信毎の状況、開始時刻、通信時間、相手先、発呼回数、送信または受信枚数、料金、通信コード、通信時間の合計、送信または受信枚数の合計、通信料金の合計などを含んでいる。これらの情報は、1通信毎に図において上から順次記憶され、前回の通信分の通信管理情報の後に通信管理情報の終りを示すマークが記憶され、今回の通信分の通信管理情報がこのマークの後に記憶されると、このマークはこの通信管理情報の次に移される。
【0009】図2は、この発明によるファクシミリ装置の制御ブロックを示している。制御中枢部であるマイクロ・プロセシング・ユニット(MPU)11には、MPUバス12を通じて、符号復号変調部13、画信号入出力処理部14、通信管理情報記憶部15、操作部16、表示器17が接続されている。変復調部13は、回線18と画信号入出力部14との間でデータと信号の符号,復号,変調,復調を行なう。通信管理時記憶部15では、図1に示すような通信管理時が1通信毎に記録される。操作部16では、ファクシミリ通信が表示器17への通信管理情報の表示かの指示が行なわれるとともに、ファクシミリ操作および通信管理情報の呼び出し操作が行われる。
【0010】図3には、この制御ブロックにおける制御フローが示されている。電源を投入すると、装置は待機状態になる(ステップ21)。次に操作者が操作部16を通じて入力操作を行なうと(ステップ22)、操作信号がMPUバス12を通じてMPU11に入力される。MPU11は、操作信号がファクシミリ通信の指示か(ステップ23)、通信管理情報の呼び出しの指示か(ステップ24)、またはその他の操作かを判定する。ファクシミリ通信の指示の場合は、MPU11の制御のもとに画信号入出力部14と変復調部13とによって回線18を通じてファクシミリ通信が行なわれる(ステップ30)。通信が終ると、MPU11は、通信開始時刻、通信時間、通信枚数、相手先等の通信状況を通信管理情報記憶部15に記憶させる(ステップ31)。この通信管理情報の登録は、図1に示すように、前回の通信管理情報の終わりを示すマークの次の領域に対して行われ、登録が終るとマークの位置が1つ進められる。この処理が終ると、今回登録された通信管理情報が表示器17に表示され(ステップ32)、一定時間後表示が消されて待機状態に戻る。
【0011】操作部16において呼び出し指示がなされ、MPU11がこれを判定すると、操作者は、続いて呼び出し操作を行なう(ステップ25)。MPU11は、まずそれが呼び出し終了の指示かどうかを判定し(ステップ26)、そうである場合には待機状態に戻る。呼び出し終了の指示でない場合は、正常な呼び出しの指示かどうかを判定し(ステップ27)、正常な呼び出しでない場合は操作エラーを表示器17に表示し(ステップ33)、再びステップ25に飛んで呼び出し操作をやり直す。
【0012】正常な呼び出し操作が行われた場合は、記録部15から通信管理情報が順次呼び出される。例えば呼び出し操作ボタンを押すと、まず図1に示す通信管理情報の終わりを示すマークの直前の通信管理情報が表示器17に表示され(ステップ28)、その位置をポインターに記録する。操作者が操作部16において前進ボタンを押すと、MPU11は、ポインターを1つ前進させるとともに現在表示されている1つ前の通信管理情報を表情報器17に表示する。また操作者が後退ボタンを押すと、MPU11は、ポインターを1つ後退させるとともに現在表示されている1つ後の通信管理情報を表示器17に表示する。このような操作の繰り返しによって、ポインターが最初の通信管理情報記憶領域を越えたり、最後の通信管理情報記憶領域を越えたりした場合には、表示器17に操作エラーの表示をするとともに(ステップ34)、ポインターの値を元に戻して(ステップ35)、再び呼び出し操作を行なう。このような呼び出し操作を繰り返すことによって必要な通信管理情報が得られる。
【0013】図4には、ステップ28における通信管理情報の表示例が示されている。Aは、通信日時が5月24日金曜日15時23分、相手先電話番号が4917730、通信枚数が5枚、通信料金が80円であることを示している。この状態から操作部16において前進ボタンを押すと、Bのように1通信前の通信管理情報が表示され、さらに前進操作すると、Cのようなさらに1通信前の通信管理情報が表示される。この状態で後退操作すると、DのようにBと同じ通信管理情報が表示される。
【0014】上記実施例では、通信管理情報の呼び出し結果を単に表示器上に表示するようになっているが、呼び出し結果をハードコピーとして出力できるように構成することは自由である。
【0015】
【発明の効果】以上のように、この発明によるファクシミリ装置は、1通信毎の通信状況を通信管理情報として記憶部に順次記憶する手段と、操作部からの操作入力により1通信を単位として表示器に表示される通信管理情報を前進あるいは後退移動させ、所望の通信管理情報を表示する手段とを備えているので、操作者は他の通信管理情報と混同することなく容易に必要な管理情報を得ることができる。従って、1通信分の通信管理情報を表示することができる表示器を備えていれば、紙を無駄にすることなく、いつでも繰り返し必要な管理情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例における1通信毎の通信管理情報の記憶形態を示す模式図
【図2】この発明の一実施例におけるファクシミリ装置の制御ブロック図
【図3】この発明の一実施例におけるファクシミリ装置の制御フロー図
【図4】この発明の一実施例における通信管理情報の表示例を示す図
【符号の説明】
11 MPU
12 MPUバス
13 符号復号変復調部
14 画信号入出力処理部
15 通信管理情報記憶部
16 操作部
17 表示器
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-03-01 
結審通知日 2005-03-03 
審決日 2005-03-15 
出願番号 特願平4-136661
審決分類 P 1 112・ 121- YA (H04N)
P 1 112・ 531- YA (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷川 洋佐藤 秀一田口 英雄  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 加藤 恵一
深沢 正志
登録日 1996-07-08 
登録番号 特許第2538163号(P2538163)
発明の名称 ファクシミリ送信装置  
代理人 鷲田 公一  
復代理人 清水 和弥  
代理人 酒井 將行  
代理人 高坂 敬三  
代理人 森田 俊雄  
代理人 鳥山 半六  
復代理人 清水 和弥  
代理人 小宮山 展隆  
代理人 椿 豊  
代理人 鷲田 公一  
代理人 深見 久郎  
代理人 塩津 立人  

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