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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知 無効としない B21D
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効としない B21D
審判 全部無効 一時不再理 無効としない B21D
管理番号 1118815
審判番号 無効2004-35100  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-02-19 
確定日 2005-06-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第3171696号発明「パイプ曲げ加工方法、及び、その方法の実施に用いるパイプベンダー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 4年10月 5日 特許出願(特願平4-265239号)
平成13年 3月23日 特許権の設定登録
平成16年 2月19日 請求人株式会社コムコによる無効審判請求
平成16年 2月19日 請求人による証人岩本伸一の尋問申出書及び尋問事項提出
平成16年 2月19日 請求人による証人中村幸弘の尋問申出書及び尋問事項提出
平成16年 2月19日 請求人による証人石井 司の尋問申出書及び尋問事項提出
平成16年 2月19日 請求人による検証申出書
平成16年 3月31日 請求人による上申書
平成16年 5月10日 答弁書
平成16年 5月27日 審尋
平成16年 6月15日 請求人による回答書
平成16年 6月28日 請求人による指示説明書
平成16年 6月30日 弁駁書
平成16年 7月16日 証拠調べ(検証)
平成16年 8月 4日 請求人による上申書(証人岩本伸一の尋問申出撤回)
平成16年 8月 4日 請求人による証人香月利夫尋問申出書及び尋問事項提出
平成16年 8月27日 請求人による上申書
平成16年10月 6日 被請求人による口頭審理陳述要領書
平成16年10月12日 請求人による口頭審理陳述要領書
平成16年10月12日 請求人による上申書
平成16年10月12日 第2回口頭審理及び証拠調べ(証人尋問)
平成16年10月13日 録音テープの書面化申出書
平成16年10月19日 被請求人による上申書
平成16年10月26日 請求人による上申書
平成16年10月26日 請求人による陳述要領書
平成16年10月29日 被請求人による上申書
平成16年11月17日 被請求人による上申書
平成16年11月19日 請求人による上申書
平成16年11月19日 請求人による陳述要領書(追完分)
平成16年12月24日 被請求人による上申書
平成16年12月28日 請求人による上申書
平成17年 2月 9日 請求人による上申書

なお、本件特許については、平成15年3月12日付けで株式会社コムコより無効審判(無効2003-35093号、以下、「先の無効審判」という。)の請求がされ、本件審判の請求は成り立たない旨の審決がなされ、この審決は、平成15年11月26日に確定登録されている。

第2 本件発明
本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、設定登録時の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
対象パイプ(P)の管端部を外周側から把持するチャック(1)と、
対象パイプ(P)の曲げ予定部に対する曲げ案内用の円弧状部(2m)を形成した曲げ型(2)と、
対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するクランプ台(3)と、
そのクランプ台(3)のチャック側に位置して対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するプレッシャ台(4)とを備えるパイプベンダーを用いたパイプ曲げ加工方法であって、
対象パイプ(P)の管端面に対して先端を接当作用させる小径の出退扞状具(36)を、前記チャック(1)の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設けておき、
対象パイプ(P)の管芯方向に並ぶ複数の曲げ予定部のうち、チャック側の管端近傍に位置する最終の曲げ予定部以外の曲げ予定部については、
前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに中心軸芯周りで回動させて、曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させ、
それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により曲げ予定部を挟圧保持した状態で、パイプ管端部把持状態の前記チャック(1)により対象パイプ(1)の管端部を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、その曲げ予定部に曲げ加工を施し、
これに対し、最終の曲げ予定部については、
前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに中心軸芯周りで回動させて、最終の曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させた後、
前記チャック(1)のパイプ管端部に対する把持を解除した状態で前記チャック(1)をその中心軸芯方向で前記プレッシャ台(4)との非干渉位置まで引退移動させ、
それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により最終の曲げ予定部を挟圧保持した状態で、作用状態に切り換えた前記出退扞状具(36)により対象パイプ(P)の管端を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、最終の曲げ予定部に曲げ加工を施すパイプ曲げ加工方法。」
「【請求項2】
請求項1に係るパイプ曲げ加工方法の実施に用いるパイプベンダーであって、
対象パイプ(P)の管端部を外周側から把持するチャック(1)と、
対象パイプ(P)の曲げ予定部に対する曲げ案内用の円弧状部(2m)を形成した曲型(2)と、
対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するクランプ台(3)と、
そのクランプ台(3)のチャック側に位置して対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するプレッシャ台(4)とを備える構成において、
対象パイプ(P)の管端面に対して先端を接当作用させる小径の出退扞状具(36)を、前記チャック(1)の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設け、
対象パイプ(P)の管芯方向に並ぶ複数の曲げ予定部に対する順次曲げ加工を自動的に実施するのに、それら複数の曲げ予定部のうち、チャック側の管端近傍に位置する最終の曲げ予定部以外の曲げ予定部については、
前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに中心軸芯周りで回動させて、曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させ、
それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により曲げ予定部を挟圧保持した状態で、パイプ管端部把持状態の前記チャック(1)により対象パイプ(1)の管端部を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、その曲げ予定部に曲げ加工を施し、
これに対し、最終の曲げ予定部については、前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに中心軸芯周りで回動させて、最終の曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させた後、
前記チャック(1)のパイプ管端部に対する把持を解除した状態で前記チャック(1)をその中心軸芯方向で前記プレッシャ台(4)との非干渉位置まで引退移動させ、
それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により最終の曲げ予定部を挟圧保持した状態で、作用状態に切り換えた前記出退扞状具(36)により対象パイプ(P)の管端を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、最終の曲げ予定部に曲げ加工を施すように、
前記チャック(1)、前記曲げ型(2)、前記クランプ台(3)、前記プレッシャ台(4)、並びに、前記出退扞状具(36)を自動操作する制御手段(17)を設けてあるパイプベンダー。」

第3 請求人の主張及び提示した証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1〜30号証を提示し、有限会社試作中村板金に販売された千代田工業株式会社製のCNCパイプベンダー(以下、「1号機」という。)が、キックバー装置が装着されて本件発明1及び2の構成を備えており、上記1号機及びその使用方法が、本件特許出願前に不特定多数の者に対して公開されたから、本件発明1及び2は、本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるとともに公然実施された発明であり、したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第29条第1項第1号及び第2号の規定に違反してされたものであって、無効とすべきである旨を、当該主張を裏付ける論拠として以下1〜3の事項をあげ、主張している。
なお、請求人は審判請求書において、1号機が有限会社試作中村板金に販売されたことをもって、本件発明1及び2が、本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明である旨主張していたが、平成16年6月15日付け回答書において、上記の主張は、有限会社試作中村板金の工場内において谷本隆、吉野隆久、赤池龍記及び佐野信一が1号機及びキックバーを作動させた状態を本件特許出願前に見知した事実をもって、公然知られたものとの主張である旨認めているので、上記のように無効理由を認定した。

1.1号機の製造販売及び1号機の構造について
(1)本件特許出願前に1号機が被請求人において製造され完成した事実がある。(審判請求書第7頁第21〜22行参照。)
(2)1号機が完成した時点では、キックバーは装着されていなかったが、1号機の納入先である有限会社試作中村板金の中村社長の要望によりキックバーを装着することになった。(審判請求書第8頁第26〜29行参照。)
(3)被請求人千代田工業株式会社は、発注者である中村幸弘の希望を取り入れて設計変更した1号機を製造し、平成4年7月末に発注者である有限会社試作中村板金の工場に納入し、平成4年8月1日に検収が行われたことは明らかである。(審判請求書第18頁第25行〜第19頁第2行参照。)
(4)1号機の検収が終わったので、株式会社大旺は、平成4年8月1日付けの「納品書」及び同日付けの「請求書」を有限会社試作中村板金に送り、有限会社試作中村板金は、平成4年8月20日に浜松信用金庫を通して、株式会社大旺に送金し、浜松信用金庫から同日付けの「振込金受領書」を受領した。株式会社大旺から、平成4年8月20日付けの「領収証」が有限会社試作中村板金に届けられた。(審判請求書第19頁第3〜17行参照。)
(5)以上、1号機を注文した者の報告書、1号機の注文を仲介した者の陳述書、1号機を設計した者の報告書、1号機をセットアップした者の「報告書」、1号機の検収票、1号機の購入資金として公的資金の融資を受けたこと、等々の事実が本件特許出願前に行われているということからして、キックバーを装着した1号機が本件特許出願前に被請求人である千代田工業株式会社において製造され、有限会社試作中村板金に販売された事実があることは明らかである。(審判請求書第19頁18〜25行参照。)
(6)有限会社試作中村板金代表取締役中村幸弘の陳述書(甲第23号証)に「1号機は納入されて以来今日まで何らの改造、改変をいたしておりません。」とあるところから、1号機の構造は納入時のままであるものと認められる。(審判請求書第28頁第16〜16行参照。)
(7)有限会社試作中村板金において、1号機の構成各部分を平成15年10月20日に撮影した24枚の写真及び1号機の作動状態をビデオに撮影したCD-ROMによって1号機の構成部材及びパイプ曲げの作業行程は全てが明らかにされ、1号機は本件発明1及び2の構成要件を全て具備しているものであることが明らかである。(審判請求書第29頁第1行〜第41頁第9行参照。)
(8)1号機が本件発明1及び2の構成要件を全て具備しているのは、被請求人が1号機を平成4年7月末日に有限会社試作中村板金に納入した後、被請求人会社の会長から1号機の設計者である岩本伸一に1号機について特許出願をするようにとの指示があり、岩本伸一は1号機の図面を持って北村特許事務所に出願依頼を行ったのであるから、当然である。(審判請求書第50頁第1〜7行参照。)
(9)請求人のところには、1号機の設計図はないが、1号機の同型機の図面を千代田工業株式会社の部品メーカーである株式会社後藤鉄工所から借用した。該図面の設計者は、1号機の設計者と同一人である岩本伸一で、図番001030と記載された図面には「DRAWN 岩本」と記載されており、作図年月日は「DATE 92.09.09」と記載されており、また、図番001032と記載された図面には、「DRAWN 岩本」と記載されており、作図年月日は「DATE 9 2.07.27」と記載されており、何れの図面も本件特許出願前に作図されたものであることが明らかである。そして該図面にはキックバー、キックバーシリンダーが記載されていることが明らかである。(審判請求書第50頁第8〜18行参照。)

2.1号機及びその使用の公開について
(1)有限会社試作中村板金に納入された平成4年7月末前における公開
1)関口拓造及び石川雅晴が千代田工業株式会社の浜松工場に出向いて1号機を見知したという事実は、本件特許出願前で、且つ1号機納入前の平成4年7月末以前であることが明らかである。(審判請求書第22頁第28行〜第23頁第1行参照。)
2)関口拓造は、1号機のキックバーについては「他のメーカーにない特色であり」と充分に認知し、その構造、動きを株式会社オプトンに伝え、1号機と同じキック装置を組み込んだ極小曲げベンダーを、該株式会社オプトンに発注したとあることから、その時点において、本件発明1及び2のキックバー装置の技術は被請求人と同業他社にも伝播されて知り得る状態におかれたものであると云わざるを得ない。(審判請求書第23頁第12〜18行参照。)
(2)有限会社試作中村板金に納入された後、本件特許出願前における公開
1号機が有限会社試作中村板金に納入された後で本件特許出願前に、被請求人の営業担当者や機械商社の株式会社大旺の香月利夫がパイプ加工をしている客を有限会社試作中村板金に案内したことが明らかである。(審判請求書第27頁第23〜25行参照。)

3.公開された内容の守秘義務について
(1)1号機の完成に伴って、当時の被請求人の会長から、被請求人工場に1号機がある間に、数多くの客を案内してテスト曲げを行って積極的にアピールするよう指示がなされ、関口拓造、石川雅晴を含む多数の客を被請求人工場に招き、曲げ加工テストを見せたことが認められる。
被請求人自らがこのように商談の前段階として、積極的に第三者を被請求人工場に招き、製造物を開示した場合にまで、当該第三者が当該製造物について信義則上(若しくは被請求人のいう商慣習ないし社会通念上)秘密保持義務を負担するとすることはできない。(弁駁書第20頁第23行〜第21頁第7行参照。)
(2)そもそも有限会社試作中村板金の1号機を第三者に見せることで1号機をアピールした被請求人が、有限会社試作中村板金を訪れた第三者に対して守秘義務があると主張すること自体失当である。加えて、仮に、有限会社試作中村板金を訪れた第三者に有限会社試作中村板金との間で守秘義務があったとしても、被請求人との間で守秘義務があることにはならない。(弁駁書第28頁第10〜15行)

また、請求人は被請求人の一事不再理に関する主張に対して、以下の旨を述べている。
本件無効審判請求は、先の無効審判と事実を同一にするものである。(第2回口頭審理における請求人の陳述1参照。)
しかしながら、本件無効審判で新たに提出した甲第3号証、甲第7号証、甲第17号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第20号証、甲第23号証、甲第27号証、甲第28号証、検証の結果及び証人尋問での証言は、先の無効審判の審決で明確に認定できないとされた被請求人工場内あるいは有限会社試作中村板金において不特定第三者に公開された1号機と本件発明1及び2との同一性を立証するための証拠であるから、新たな証拠以外の何ものでもない。
したがって、本件の無効審判請求は、一事不再理に該当しない。(弁駁書第6頁第19行〜第15頁第2行参照。)

[書証]
甲第1号証:特許第3171696号特許公報
甲第2号証:岩本伸一作成の平成15年2月17日付け「報告書」
甲第3号証:地裁事件における証人岩本伸一の証人調書
甲第4号証:岩本伸一作成の平成15年5月19日付け「報告書」
甲第5号証:中村幸弘作成の平成15年5月26日付け「報告書」
甲第6号証:石井司作成の平成15年5月15日付け「報告書」
甲第7号証:香月利夫作成の平成15年8月23日付け「陳述書」
甲第8号証:株式会社大旺作成の平成4年3月31日付け「御見積書」
甲第9号証:静岡県知事斉藤滋与史作成の平成4年7月3日付け「中小企業近代化資金貸付内定通知書」
甲第10号証:株式会社大旺作成の平成4年4月12日付け「注文請書」
甲第11号証:大橋・石井作成の平成4年8月1日付け「検収票」
甲第12号証:株式会社大旺作成の平成4年8月1日付け「納品書」
甲第13号証:株式会社大旺作成の平成4年8月1日付け「請求書」
甲第14号証:浜松信用金庫作成の平成4年8月20日付け「払込金受領書」
甲第15号証:株式会社大旺作成の平成4年8月20日付け「領収証」
甲第16号証:株式会社大旺作成の平成4年8月20日付け「領収証」
甲第17号証:関口拓造作成の平成15年11月19日付け「陳述書」
甲第18号証:石川雅晴作成の平成15年12月16日付け「陳述書」
甲第19号証:谷本隆作成の平成15年12月12日付け「陳述書」
甲第20号証:吉野隆久作成の平成15年12月12日付け「陳述書」
甲第21号証:奈須野毅作成の平成15年4月23日付け「報告書」
甲第22号証:中村幸弘が保管していた名刺
甲第23号証:中村幸弘作成の平成15年10月31日付け「陳述書」
甲第24号証:製造年月日を記載の千代田工業株式会社の銘板の写真
甲第25号証:設備近代化資金貸付対象設備と記載した静岡県の銘板の写真
甲第26号証:1号機の本体外観写真
甲第27号証:1号機の構成各部分を撮影した写真24枚
甲第28号証:1号機の作動状態を示すCD-ROM
甲第29号証:図番001030と記載された図面
甲第30号証:図番001032と記載された図面
[人証]
証人:香月利夫
証人:中村幸弘
証人:石井司
[検証]
検証の目的物:検甲第1号証(有限会社試作中村板金の工場内に平成16年7月16日時点設置されていた1号機)の千代田工業株式会社の製造に係るパイプベンダー

第4 被請求人の主張及び提示した証拠方法
被請求人は、証拠方法として乙第1〜31号証を提示し、以下の旨を主張をしている。
〈特許法第29条第1項第1及び2号違反について〉
1.1号機の製造販売及び1号機の構造について
(1)1号機が有限会社試作中村板金に販売された際、キックバーが装着されていたとは到底認められない。
1)キックバーを取り付けるためには、組み付け、テストが必須である。加えて、キックバーが新たな技術であることも考慮すれば、平成4年7月28日に至って初めてキックバー用の油圧シリンダーが被請求人に納品されているにもかかわらず、平成4年8月1日に被請求人から有限会社試作中村板金に納入された極小曲げパイプベンダーが既にキックバーを備えていたという請求人の主張自体極めて非現実的であるといわざるを得ない。(答弁書第26頁第21行〜第27頁第5行参照。)
2)平成4年3月31日付け御見積書によると、SPD-60STパイプベンダーにつき、3000万円(消費税抜き・以下同様)の見積もりがなされている。仮に、請求人が主張するように、有限会社試作中村板金への納入以前に1号機にキックバーが取り付けられたとすれば、これに伴い、1号機の価格が変更され、高くなると考えるのが経験則上合理的である。にもかかわらず何ら変更されていない。この事実は、1号機が有限会社試作中村板金に納入された際に、キックバーが取り付けられていなかったことを推認させるものにほかならなず、それ以外に価格の変更がなされなかったことを合理的に説明できる理由は見当たらない。(答弁書第27頁第6行〜第28頁第4行参照。)
(2)納入販売が本件特許出願前に行われたことは認める。(第2回口頭審理調書及び証拠調べ調書「被請求人2」参照。)
(3)検甲第1号証が本件発明と同一であることは認める。(第2回口頭審理調書及び証拠調べ調書「被請求人3」参照。)
(4)甲第29号証及び甲第30号証にキックバーが記載されていることは認めるが、図面の日付けが真性なものであること、図面に記載のものが曲げテストに用いられたものであることは認めない。(第2回口頭審理調書及び証拠調べ調書「被請求人4」参照。)

2.1号機及びその使用の公開について
(1)有限会社試作中村板金に納入された平成4年7月末前における公開
1)関口拓造の陳述書の内容自体、到底信用に値するものではない。すなわち、関口工業株式会社が株式会社オプトンに極小曲げベンダーを発注したのはこれまで1台だけであり、しかもその時期は平成10年中頃であった。
また、石川雅晴の陳述内容についても、信憑性は極めて乏しいものというほかない。
加えて、1号機にキックバーが取り付けられた時期は、請求人らが提出する各証拠によっても明らかではない。7月末にキックバーの取り付けられた1号機が有限会社試作中村板金に納入されたとすると、28日以降31日までのわずか数日でキックバーの取り付け、テスト、搬入準備、梱包などが行われたことになる。
このような時期にわざわざ関口拓造および石川雅晴を招いて、1号機を見学させ、キックバーの装置の作動状況まで見せたということになり、極めて不合理である。(答弁書第22頁第13行〜第23頁第18行参照。)
2)販売前の曲げテストについて、中村幸弘が立ち会った曲げテストがあったことは認めるが、それ以外の第三者が立ち会った曲げテストがあったことは認めない。(第2回口頭審理及び証拠調べ調書「被請求人1」参照。)
(2)有限会社試作中村板金に納入された後、本件特許出願前における公開
1)有限会社試作中村板金に納入された1号機の極小曲げベンダーにキックバーが取り付けられた時期は不明であり、本件特許出願後に取り付けられたのかあるいは本件特許出願前に取り付けられたのか、その時期を特定する客観的証拠は一切ない。(答弁書第31頁第1〜4行参照。)
2)有限会社試作中村板金において谷本隆、吉野隆久、赤池次長及び佐野課長らが1号機の運転を見た時期であるが、甲第19号証、甲第20号証、甲第21号証のいずれをみても、1号機をみたのが本件特許の出願前なのかあるいは出願後なのかを裏付ける客観的な証拠は皆無である。(答弁書第31頁第5〜11行参照。)
3)甲第22号証は、先の無効審判において提出された甲第14号証からハタニ製作所の羽谷幸祐及び安岡敏郎、吉野工業の吉野隆久の名刺が削除されたものである。そもそも甲第22号証が有限会社試作中村板金の保管していた名刺であることを示す証拠も全くない。殊に、有限会社試作中村板金に見学者が訪れたとする中村幸弘の報告書は、見学の時期と出願日の関係についてはなんら触れていない。
これに関して、本件特許出願後の平成4年11月7日及び同月21日に被請求人現代表者である遠越英行が、それぞれハタニ製作所の2名及びアール工業株式会社の社長他3名を案内して、有限会社試作中村板金において被請求人製造の極小曲げベンダーを見学したことが、被請求人の記録に残っている。いずれも本件特許発明の出願後である。乙第4号証にある名刺には、このときに中村幸弘が入手したものと推測されるハタニ製作所の羽谷幸祐及び安岡敏郎、アール工業株式会社の河野光生の名刺が含まれている。ハタニ製作所の羽谷幸祐、アール工業株式会社の河野光生のともに、有限会社試作中村板金を訪問したのはこのときただ1度だけである。これに対して、他の者の見学が、仮にあったとしても、本件特許出願前であるとする客観的証拠はまったくない。
なお、本件特許出願後に実施された上記ハタニ製作所およびアール工業株式会社の見学のいずれについても、有限会社試作中村板金での見学においては、曲げ加工の「公開運転」及び「技術説明」が行われることなく、その停止状態の極小曲げベンダーの設置状況が示され、それにより曲げ加工された製品(サンプル品)群により、極小曲げの利点が説明されたにとどまるものであって、本件特許発明に係るキックバーについては一切説明されなかった。(答弁書第31頁第12行〜第33頁第1行参照。)

3.公開された内容の守秘義務について
(1)仮に、有限会社試作中村板金に納入された極小曲げベンダーに本件発明1及び2に係るキックバーが付いていたとしても、本件発明1及び2と同一の装置を取引先へ販売する行為は第三者への公表のような行為と異なる取引業者間の行為にとどまるものであって、直ちに本件発明1及び2が公知となるものではない。
加えて、乙第5号証の4.項には、「千代田工業株式会社に当社の一つの歴史として残すため当社と千代田との共願で特許出願をしようと話しかけたところ,当時の取締役であった荒木氏から,特許出願は千代田の単独で行うが,このベンダーを利用する顧客を紹介するから了承してくれと云われたことを覚えております。」と記載されている。この記載からみても、極小曲げベンダーの有限会社試作中村板金への販売により、本件発明1及び2が公知にならないことが、さらに明白である。
また、特許を受ける権利を共有する者の間での特許発明の実施品の譲渡により、本件発明1及び2が「公然知られた」ものにはならないことはいうまでもない。
従って、有限会社試作中村板金は被請求人による本件発明1及び2の特許出願前に本件発明1及び2を公にしない守秘義務を負うものと解すべきである。従って、有限会社試作中村板金に対する極小曲げベンダーの販売により、本件発明1及び2が公知になることはあり得ない。
さらに、中村幸弘が、被請求人に対して「特許の共同出願を持ちかけた」ことは、それ以前に、本件発明1及び2について公知公用となる事情が全く存在しなかったと有限会社試作中村板金が判断した証左である。(答弁書第28頁第11行〜第30頁第7行参照。)
(2)仮に関口拓造あるいは石川雅晴に対する1号機の運転が行われ、その1号機にキックバーがついており、しかも実際に関口拓造及び石川雅晴が本件特許発明及び作動をすべて知覚しうる状態にあったとしても、本件発明1及び2につき公然実施がなされたとはいえない。
本件の場合、キックバーが仮についていたとすれば、まさに製造販売者が新規に開発されたキックバーを含む極小曲げベンダーにつき商談をする場合であって、特許出願も視野に入れていたのであるから、需要者たる関口拓造及び石川雅晴は被請求人のために秘密を保つべき義務を負うものであって、これらの者に対する開示により公然実施されたとはいえない。
仮に、請求人の主張のとおり、関口拓造により1号機のキックバーの構造、動きが株式会社オプトンに伝えられ、本件発明1及び2が公知になったとしても、それは秘密保持義務を負う者が本件発明1及び2を漏洩したものであって、意に反する公知(特許法第30条2項)に該当する。(答弁書第24頁第1行〜第25頁第2行参照。)
(3)仮に、1号機の納入後で本件特許出願前において、有限会社試作中村板金において、谷本隆、吉野隆久、赤池次長及び佐野課長らに対する1号機の運転が行われ、その1号機にキックバーがついていたとしても、実際に谷本隆、吉野隆久、赤池次長及び佐野課長らが本件発明1及び2の構造及び作動をすべて知覚し得る状況であったのか否かにつき、甲第19号証、甲第20号証、甲第21号証には一切触れられていない。(答弁書第33頁第2〜6行)
(4)仮に、1号機の納入後で本件特許出願前において、キックバーがついた状態で有限会社試作中村板金において、谷本隆、吉野隆久、赤池次長及び佐野課長らに対する1号機の運転が行われ、しかも実際に谷本隆、吉野隆久、赤池次長及び佐野課長らが本件発明1及び2の構造及び作動をすべて知覚しうる状況であったとしても、これらの者は有限会社試作中村板金と取引関係にあることから、本件発明1及び2に関し守秘義務を負う。したがって、これらの者に本件発明1及び2の具体的内容が開示されたとしても、関係者に対する開示が行われたに過ぎず、公知公用になったものとはいえない。
さらに、本件特許の共同発明者たる有限会社試作中村板金が、その守秘義務に反して本件特許出願前に本件発明1及び2の公開を行ったとしても、かかる事情は権利者である被請求人の意に反するものであって、本件発明1及び2は公知にならない(特許法第30条第2項)。(答弁書第33頁第9〜19行参照。)

〈一事不再理(特許法第167条)違反について〉
本件無効審判における「平成4年7月末頃被請求人浜松工場において、関口拓造及び石川雅晴の2人を含む不特定多数の者に公開したこと。」(以下、「主張事実B」という。)及び「平成4年8月から同年10月5日の特許出願までの間に、有限会社試作中村板金工場において、谷本隆、吉野隆久、株式会社エッチ・ケー・エス赤池次長、同佐野課長の4人を含む不特定多数の者が、本件発明1及び2に基づくパイプベンダーを見知し、それぞれキックバーについて有限会社試作中村板金中村社長から説明を受けたこと。」(以下、「主張事実C」という。)が、先の無効審判における主張事実と同一であることは明らかであり、また、本件無効審判における「被請求人は、本件発明1及び2に基づくパイプベンダーにつき有限会社試作中村板金から受注し、特許出願前である平成4年7月末に有限会社試作中村板金に納入したこと。」(以下、「主張事実A」という。)は、先の無効審判において直接の無効理由としては主張されていないが、少なくとも主張事実B及び主張事実Cを基礎付ける間接事実として請求人が主張事実を先の無効審判においても主張していたことは明らかである。
そして、請求人が本件無効審判において新たに加えた証拠は、いずれも先の無効審判において提出した証拠と実質的に同じものか、証拠の信用力の補完を意図したものであり、先の無効審判の審判請求以降に、10年以上前の記憶に基づき作成された陳述書若しくは尋問調書、10年以上前の記憶に基づきなされるであろう証人尋問の申し出、あるいは最近作成された写真ないしCD-ROM、現在の有限会社試作中村板金に存在する極小曲げベンダーの検証の申し出であって、証拠の性質上、信用性は低く、出願前の公然実施を直接立証するものではない。そして、これらはいずれも請求人にとり、先の無効審判の段階で容易に入手し、提出し、あるいは申し出可能であったものである。
したがって、本件無効審判請求は、先の無効審判と事実を同一にし証拠を実質的に同一にするものであるから、特許法第167条の規定に違反している。(答弁書第3頁第11行〜第19頁第2行参照。)

[書証]
乙第1号証:無効2003-35093審判請求事件における経過書類一式
乙第2号証:特許登録原簿謄本(特許第3171696号)
乙第3号証:本件無効審判及び先の無効審判における証拠方法の比較表
乙第4号証:先の無効審判において請求人が甲第14号証として提出した名刺
乙第5号証:先の無効審判において請求人が甲第13号証として提出した中村幸弘作成の平成15年2月3日付け陳述書
乙第6号証:先の無効審判において請求人が甲第18号証として提出した写真
乙第7号証:先の無効審判において請求人が甲第19号証として提出した写真
乙第8号証:木村毅作成の平成16年2月14日付け陳述書
乙第9号証:馬場康博作成の平成16年3月30日付け陳述書
乙第10号証:株式会社シンコー製作所作成の納品書控綴り(平成4年5月18日〜同年8月6日、No1115〜No1169)
乙第11号証 の1ないし6:地裁事件における請求人代理人作成の証拠説明書(1)ないし(6)
乙第12号証:地裁事件における第8回口頭弁論調書
乙第13号証:平成16年10月5日付け山口朗作成の陳述書
乙第14号証の1(先の無効審判乙第1号証の1):平成3年12月17日付けSPD-60ST外観図面
乙第14号証の2(先の無効審判乙第1号証の2):平成3年12月13日付けSPD-60ST部分図面
乙第15号証(先の無効審判乙第2号証):HYP-60ST仕様書(平成4年5月印刷)
乙第16号証(先の無効審判乙第3号証):HYP-60STカタログ(平成4年12月印刷)
乙第17号証(先の無効審判乙第4号証):平成4年11月6日付け遠越作成の報告書
乙第18号証(先の無効審判乙第5号証):平成4年11月19日付け遠越作成の報告書
乙第19号証(先の無効審判乙第6号証):昭和53年11月15日付け取引協力契約書
乙第20号証(先の無効審判乙第7号証):平成15年6月4日付け羽谷幸祐作成の陳述書
乙第21号証(先の無効審判乙第8号証):平成15年6月3日付け河野光生作成の陳述書
乙第22号証(先の無効審判乙第9号証):平成15年6月4日付け遠越英行作成の陳述書
乙第23号証:本人調書(遠越英行、平成15年11月6日)
乙第24号証(先の無効審判乙第10号証):名古屋地裁平成6年(ワ)第1811号、平成10年3月18日判決
乙第25号証(先の無効審判乙第11号証):平成15年7月25日付け遠越英行作成の陳述書
乙第26号証(先の無効審判乙第13号証):平成6年3月26日付け取引協力契約書
乙第27号証:平成15年12月8日付け長藤忠義作成の陳述書
乙第28号証:大阪地方裁判所平成14年(ワ)第13022号判決
乙第29号証:地裁事件における平成15年3月26日付け準備書面(第1回)
乙第30号証:地裁事件における平成15年5月2日付け原告準備書面(1)
乙第31号証:地裁事件における平成15年7月16日付け証人尋問申請書(証人香月利夫)

第5 当審の判断
1.特許法第167条違反について
本件の無効理由と確定審決の登録があった先の無効審判の無効理由とは同一の事実に基づくものであると認められる。(なお、このことは請求人も認めている(第2回口頭審理における請求人の陳述1参照。)
そして、先の無効審判において提出されず、本件無効審判で新たに追加された証拠は、甲第3号証、甲第7号証、甲第17号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第20号証、甲第23号証、甲第27号証、甲第28号証、検証結果及び証人中村幸弘、石井司、香月利夫の証言である。
そこで、これらの証拠が実質的に新たな証拠であるか否かについて検討する。
(イ)甲第3号証
甲第3号証の現在有限会社試作中村板金にあるパイプベンダーの構造及び作用に関する陳述内容は、先の無効審判で提出された甲第3号証の記載の不備を補足するものにすぎず、先の無効審判で提出された甲第17号証ないし甲第19号証と実質的に同一である。結局、甲第3号証は、先の無効審判において提出された甲第3号証、参考資料2、及び甲第17号証ないし甲第19号証と実質的に同一であり、新たな証拠とはいえない。
(ロ)甲第7号証
甲第7号証は、先の無効審判における甲第3号証、参考資料1及び甲第14号証の記載に新たな事実を加えるものではなく、これらの証拠の信用力を補強するものにすぎない。
(ハ)甲第17及び18号証
甲第17号証及び甲第18号証は、先の無効審判における甲第3号証及び参考資料3と実質的に同一か、又は、これらの信用力を補強しようとするものにすぎない。
(ニ)甲第19及び20号証
甲第19号証及び甲第20号証は、先の無効審判における甲第3号証、参考資料2及び甲第14号証と実質的に同一である。
(ホ)甲第23号証
甲第23号証は、先の無効審判における甲第13号証、参考資料1、甲第3号証、参考資料2及び甲第14号証と実質的に同一であり、新たな証拠とはいえない。
(ヘ)甲第27及び28号証及び検証結果
甲第27号証、甲第28号証及び検証結果は、先の無効審判における甲第15号証ないし甲第19号証と実質的に同一であり、新たな証拠とはいえない。
(ト)証人石井司、中村幸弘及び香月利夫の証言
証人石井司及び中村幸弘の証言は、先の無効審判における参考資料6、甲第13号証及び参考資料1の信用力を補強するものにすぎず、また、香月利夫の証言も、本件甲第7号証と同様に、先の無効審判における甲第3号証、参考資料1及び甲第14号証の記載に新たな事実を加えるものではなく、これらの証拠の信用力を補強するものにすぎない。
以上のとおりであるから、本件審判請求は、確定登録された先の無効審判と同一の事実及び実質的に同一の証拠に基づいて審判を請求したものと認められる。

2.特許法第29条第1項第1及び2号違反について
仮に、本件無効審判請求が、特許法第167条の規定に違反するものではないとしても、以下の理由により、本件発明1及び2についての特許は、特許法第29条第1項第1及び2号の規定に違反してされたものであるとすることはできない。
まず、1号機にキックバーがいつ取り付けられたのかについて検討する。
(1)販売前の取り付け
乙第10号証は、株式会社シンコー製作所作成の被請求人宛の納品書控の綴りであり、このうち、平成4年7月28日付けNo.1163の納品書控の品名寸法欄に「HC・ZFA・125A140B-100WR」と記載され、平成4年5月18日〜同年7月28日付け、No.1115〜1162には同型のシリンダーが記載されてない。そして、岩本伸一の証言によれば、キックバー用のシリンダーは株式会社シンコー製作所に発注したこと、また、「HC・ZFA・125A140B-100WR」は1号機に取り付けられたキックバーを駆動させるシリンダであること(甲第3号証第24頁第13〜14行、及び第29頁第11〜17行参照。)が認められる。この点については、甲第3号証が請求人側証人の証言調書であるから信用することができる。
したがって、請求人の主張しているシリンダーの納品されたとする平成4年6月半ば〜7月半ばの期間が含まれる納品書控綴りのNo.1115〜1162には同型のシリンダーが記載されてないことから、「HC・ZFA・125A140B-100WR」は、平成4年7月28日に被請求人に初めて納入され、そのシリンダーを組み込んで1号機にキックバーが装着されたのは、同日以降であると解される。
ところで、平成4年8月1日に有限会社試作中村板金の工場で、納入された1号機の検収が行われ、同日までに1号機が有限会社試作中村板金に搬入されたことは争いのない事実である。
また、キックバー装着後の立ち会い曲げテストの際にひねりの部分に問題が生じスラストベアリングを入れたことについては岩本伸一および石井司が証言するところである。
そして、キックバー用シリンダーの納品された時から、1号機にキックバー装置を装着するためには、キックバー、シリンダー、シリンダ取付部品、スラストベアリング等の取り付け、油圧配管の接続、NCデータの調整、テスト、搬入準備などが行われることを考慮すれば、有限会社試作中村板金へ納入設置する7月末日までにキックバー装置を装着することは常識的に不可能であると思われる。
そうすると、販売時点ではキックバーが取り付けられていないと推認できる。
なお、岩本伸一は、7月28日が必ずしも納品した日付けではなく、当時、月末締めの翌10日支払いということで、例えば、月初めに納入したものでも月末にあわてて伝票を入れるということも往々にあった旨証言している(甲第3号証第29頁第18〜26行参照。)が、下記の各証人の証言からはキックバーの取り付け時期は特定できないこと、伝票があわてて入れられたものであるという根拠がないことから、当該岩本伸一の証言は採用することができない。

なお、請求人は、岩本伸一、中村幸弘、石井司、香月利夫の各証言を基に、キックバーは販売前に取り付けられていたと主張するので、以下、検討する。
キックバーの取り付け時期に関する当事者の各陳述内容は次の通りである。
(イ)岩本伸一
・「平成4年7月20日頃」(甲第4号証第2頁第4行)
・「出荷の直前・・・二十六,七,八くらい・・・特定はできない」(甲第3号証第26頁第19〜24行)
(ロ)中村幸弘
・「(キックバーというものがついたけれども、最初はちゃんとは動いていなかったと。・・・)最終的には動くようにはなりました。・・・(それが2回目の立ち会いの曲げテスト・・・2回目の曲げテストはいつごろあったか覚えていますか。)ちょっと記憶が、いつというのは思い出さないのですが。」(本件証人尋問調書証言030〜039)
(ハ)石井 司
・「7月の10日ごろ」(本件証人尋問調書証言021)
(ニ)香月利夫
・「平成4年7月20日過ぎ」(本件証人尋問調書証言107〜109)
このように、キックバーの取り付け時期について最も知悉しているべき岩本伸一及び中村幸弘の陳述内容が不確かであって、しかも4者の各陳述内容が相違する以上、キックバーの取り付け時期についての各陳述内容は信用することはできない。

また、甲第29号証(図番001030と記載された平成4年9月9日付けの図面)及び甲第30号証(図番001032と記載された平成4年7月27日付けの図面)は、これらの図面が1号機の部品を製作した株式会社誠製作所ではなく、株式会社後藤鉄工所から借用した図面である(甲第4号証第2頁第13〜20行参照。)ことから、1号機の構造がこれら図面のものと同一であるとすることはできない。
したがって、1号機に、有限会社試作中村板金への納入当初からキックバーが取り付けられていたとすることはできない。

(2)販売後本件特許出願前の取り付け
検証を行った平成16年7月16日時点でキックバーが取り付けられていることについては、両当事者間に争いはない。
請求人は、中村幸弘、香月利夫、谷本隆、吉野隆久及び奈須野毅の各陳述内容を基に、販売後で本件特許出願前の曲げテストでキックバーが取り付けられていたと主張するので、以下、検討する。
キックバーの取り付け時期に関する当事者の陳述内容は次の通りである。
(イ)中村幸弘
・「納入されてしばらくの間は、株式会社大旺(現在の株式会社ダイオー)の香月社長が大旺の何人ものお客さんを私の工場に連れて来られたので、曲げテストを実演してあげ、キックバーのすぐれていることをお客さんに見せて上げました。」(甲第23号証第1頁第17〜19行)
・「(検収が終わった後、1号機を見に来たお客さんは・・・いつごろ来たか覚えていますか。)入って間もないと思うのですが。・・・日にちまではちょっと覚えていないです。」(本件証人尋問調書証言050〜052)
・「(白山工業さんに具体的にいつ見せたかというのを特定するような資料は手元にはなかったのですね。)それはないです。」(本件証人尋問調書証言279)
(ロ)香月利夫
・「平成4年8月1日に有限会社試作中村板金に1号機を納入した直後から平成4年10月5日までの間、及びその後も、株式会社大旺と取引関係にあったパイプ曲げ加工業者を有限会社試作中村板金に案内し、1号機によるパイプの曲げテストを行っているところを見学させてもらいました。・・・特にキックバー装置を稼働状態で曲げ加工して実際にパイプのロスが小さくなるところを見せ、説明をして貰った事を覚えています。」(甲第7号証第2頁第32行〜第3頁第7行)
・「(・・・アダチベンディングとあるのですが、・・・いつ案内されたか覚えていますか。)それは詳しくはわかりません。、(何か記録に残っていることはないのですか、時期は。)ありません。」(本件証人尋問調書証言131〜133)
・「・・・白山工業です。(これはいつ案内されたか覚えていますか。)これは覚えているのですが、平成4年8月のお盆過ぎだと思います。(それは何か記録に残っているのですか。)残っているというか、暑かったという感じを持っていましたので。(暑かったということで、具体的にはよくわからないということですか。)わかりません。」(本件証人尋問調書証言149〜152)
(ハ)谷本 隆
・「有限会社試作中村板金に行った時期は、・・・8月の盆明けで・・・平成4年は天候が不順で雨が多く、行った日も、蒸し暑い日で10時半頃から12時過ぎまで、曲げ加工の運転を見学させてもらった。キックバーが作動して、曲げ終わりストレートを短く出来ることに感心したことを憶えている。」(甲第19号証第2頁第1〜6行)
(ニ)吉野隆久
・「香月社長から、・・・納人先の有限会社試作中村板金で見て欲しいとさそわれて、・・・キックバーの動きもよく見え、キックバーが作動してストレート部分が短くなることも実演によってよくわかったことを記憶しています。当日は大変蒸し暑い日で平成4年の8月の盆明けのときだったことに間違いはありません。」(甲第19号証第1頁第13行〜第2頁第5行)
(ホ)奈須野毅
・「有限会社試作中村板金殿には、平成4年7月末に機械を納入する事が出来ました。納入後、5日後位(平成4年8月5日頃)と記憶しておりますが、株式会社エッチ・ケー・エスの赤池次長様、佐野課長様を当時、営業担当しておりました、奈須野茂氏(現在の株式会社コムコ東京営業所長)が有限会社試作中村板金殿へ御案内、訪問し、極小曲げ機(HYP-60ST型 )を使用しての曲げ加工を依頼しております。もちろんの事、株式会社エッチ・ケー・エスの赤池次長様や佐野課長様、納入機で加工を行っている現場を、有限会社試作中村板金殿にて良く見ております。その後も、同年8月に赤池次長は2回程度、有限会社試作中村板金殿を訪問している様でしたが、その都度、来客者が有り、極小曲げベンダーを見学しに来ていたと言っておりました。」(甲第21号証第4頁第13〜25行)
このように、各陳述内容からは、販売後のキックバーの取り付け時期について不確かであり、結局、本件出願前に1号機にキックバーが取り付けられたと認めることはできない。

したがって、守秘義務等について検討するまでもなく、本件発明1及び2は、被請求人によって製造され有限会社試作中村板金に販売された1号機の有限会社試作中村板金に納入される前後の曲げテストによって、本件特許出願前に日本国内において公然知られ、もしくは公然実施された発明であるとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件審判請求は、特許法第167条の規定に違反してされた不適法な審判請求であるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-04 
結審通知日 2005-04-06 
審決日 2005-04-19 
出願番号 特願平4-265239
審決分類 P 1 112・ 112- Y (B21D)
P 1 112・ 111- Y (B21D)
P 1 112・ 07- Y (B21D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 岡野 卓也
鈴木 孝幸
登録日 2001-03-23 
登録番号 特許第3171696号(P3171696)
発明の名称 パイプ曲げ加工方法、及び、その方法の実施に用いるパイプベンダー  
代理人 北村 修一郎  
代理人 茂木 鉄平  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 酒匂 景範  
代理人 河宮 治  
代理人 松村 貞男  
代理人 田嶋 春一  
代理人 畑 郁夫  
代理人 平野 惠稔  
代理人 垣内 勇  
代理人 藤本 英二  
代理人 桶谷 和人  
代理人 稲元 富保  

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