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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B41F |
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管理番号 | 1119376 |
異議申立番号 | 異議2003-70331 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-05-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-02-03 |
確定日 | 2005-04-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3311285号「帯状体へのマーキング方法及びマーキング装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3311285号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件の出願から本決定に至るまでの主な経緯は次のとおりである。 ・平成9年10月27日 本件出願(特願平9-294527号) ・平成14年5月24日 特許第3311285号として設定登録(請求項1及び2) ・平成15年2月3日 特許異議申立人新日本製鐵株式会社より、請求項1及び2に係る特許に対して特許異議申立 ・平成15年4月14日付け 当審にて取消理由通知 ・平成15年6月24日 特許権者より意見書及び訂正請求書提出 ・平成15年8月6日付け 当審にて取消理由通知(以下、「取消理由2」という。) ・平成15年10月14日 特許権者より、平成15年6月24日付け訂正請求を取下る訂正請求取下書、意見書及び訂正請求書提出(以下、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。) 第2 訂正の可否の判断 1.訂正の内容 [訂正事項1] 特許請求の範囲の請求項1及び2を、本件訂正前の 「【請求項1】 帯状体の側端部を切り揃える手段の下流近傍にて帯状体の側端部位置を光学センサを用いて検出し、検出した側端部位置に応じて決定される幅方向位置にマーキングを施すことを特徴とする帯状体へのマーキング方法。 【請求項2】 帯状体の側端部を切り揃える装置の下流近傍に、マーキング装置と光学センサを用いた帯状体の側端部位置検出装置と該検出装置により検出した側端部位置に応じて前記マーキング装置の側端部への位置合わせを行うマーキング位置補正装置とを一体として設置したことを特徴とする帯状体へのマーキング装置。」から 「【請求項1】 幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える手段の下流近傍5m以内にて金属帯の側端部位置を光学センサを用いて検出し、検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置に欠陥位置マーキングを施すことを特徴とする金属帯へのマーキング方法。 【請求項2】 幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える装置の下流近傍5m以内に、欠陥位置マーキングを施すマーキング装置と光学センサを用いた金属帯の側端部位置検出装置と該検出装置により検出した側端部位置に応じて前記マーキング装置の側端部への位置合わせを行うマーキング位置補正装置とを一体として設置したことを特徴とする金属帯へのマーキング装置。」と訂正する。 [訂正事項2] 本件訂正前の発明の名称、発明の詳細な説明における【0001】〜【0003】、【0005】、【0007】、【0009】〜【0011】、【0013】、【0014】及び図面の簡単な説明に記載された「帯状体」を「金属帯」と訂正する。 [訂正事項3] 本件訂正前の発明の詳細な説明における【0001】、【0002】に記載された「鋼帯、金属帯、紙帯など」を「鋼帯など」と訂正する。 [訂正事項4] 本件訂正前の発明の詳細な説明における【0009】に記載された、「つまり、」を「つまり、幅400mmから1200mmの」と訂正し、「近傍」を「近傍5m以内」と訂正し、「検出した側端部位置に応じて決定される幅方向位置にマーキングを施すこと」を「検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置に欠陥位置マーキングを施すこと」と訂正する。 [訂正事項5] 本件訂正前の発明の詳細な説明における【0010】に記載された、「また、」を「また、幅400mmから1200mmの」と訂正し、「近傍」を「近傍5m以内」と訂正し、「マーキング装置と光学センサ」を「欠陥位置マーキングを施すマーキング装置と光学センサ」と訂正する。 2.訂正目的の適否、新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、「帯状体」を「幅400mmから1200mmの金属帯」と限定し、光学センサの検出結果に基づいてマーキングを施すマーキング場所を「側端部を切り揃える手段の下流近傍」から「側端部を切り揃える手段の下流近傍5m以内」と限定し、施すマーキングを「欠陥位置マーキング」と限定し、「マーキング装置」を「欠陥位置マーキングを施すマーキング装置」と限定し、「幅方向位置」を「幅方向端部からのマーキング位置」と限定するものであり、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正事項2〜訂正事項5に係る訂正は、訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正と整合させるため、発明の名称、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明を訂正するものであり、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項1〜5は、それぞれ願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)における「本発明は、鋼帯、金属帯、紙帯などの帯状体側端部に高精度の欠陥位置マーキングを施す技術に関する。」(【0001】)、「帯状体が、幅400mm から1200mm程度の鋼帯の場合においては、トリマとマーキング装置との距離を5m以下とすることがマーキング位置精度から見て好適である。」(【0014】)、「帯状体側端部からのマーキング位置」(【0011】)等の記載に基づくものであるから、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされた訂正である。 そして、訂正事項1〜訂正事項5が、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでないことは明らかである。 3.訂正の可否の判断の結論 以上のとおり、本件訂正請求は、平成15年改正前特許法120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第4項までの規定に適合する。 よって、本件訂正を認める。 第3 特許異議申立についての判断 1.本件発明の認定 上記したとおり、本件訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、請求項番号に従い「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える手段の下流近傍5m以内にて金属帯の側端部位置を光学センサを用いて検出し、検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置に欠陥位置マーキングを施すことを特徴とする金属帯へのマーキング方法。 【請求項2】 幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える装置の下流近傍5m以内に、欠陥位置マーキングを施すマーキング装置と光学センサを用いた金属帯の側端部位置検出装置と該検出装置により検出した側端部位置に応じて前記マーキング装置の側端部への位置合わせを行うマーキング位置補正装置とを一体として設置したことを特徴とする金属帯へのマーキング装置。」 2.引用刊行物記載の発明 取消理由2に引用された、本件出願前日本国内において頒布された刊行物である、特開昭63-180323号公報(以下、「引用例」という。)には次の事項が記載又は図示されている。 (ア)特許請求の範囲 「(1)製缶用金属コイル薄板の搬送ラインに、疵検査装置等の欠陥検査装置を設置し、この検査装置の欠陥部検出信号に基づいて、製缶用金属コイル薄板に存在する欠陥部分を表示するマークを、薄板の端縁部分にインクジェット装置によりドットパターンとしてマーク付けをすることを特徴とする製缶用金属コイル薄板の欠陥部表示方法。」 (イ)第2ページ右下欄11行〜同欄17行 「このインクジェットマークは食品衛生上FDA(米国食品安全衛生局)で認可された安全なものであるが、食品衛生上から製缶用金属コイル薄板の端から10mm以内に精度良くマーク付けすることが必要である。このため、マーク付けをするインクジェット装置は製缶用金属コイル薄板の蛇行に合せて追従する追従装置が設けられている。」 (ウ)第3ページ左上欄2行〜同欄末行 「製缶用金属コイル薄板は、先ず疵検査装置、ピンホール検査装置および板厚計等の欠陥検査装置によって幅方向に区分されて欠陥部分が検出される。この欠陥検査装置が欠陥部分を検出すると、製缶用金属コイル薄板のラインスピードに同期して、下流に配設したインクジェット装置で欠陥部分が通過する瞬間にその薄板の端縁部分の定位置にマーク付けを行う。・・・薄板の端縁部分に付けられる欠陥部分表示のためのマークは、トッド径が0.2〜0.3mφのもので、薄板の端から幅方向10mm以内に1〜10個のドット列とし、コイルの長さ方向に0.3〜2.0mmのドット列間隔で10〜70個のドット列パターンとしてインクジェット装置で一定にマーク付けがなされ、このドット列パターンによってコイルに存在する欠陥部分の幅方向の位置情報も含めて表示するようになっている。」 (エ)第4ページ左上欄1行〜同ページ右上欄12行 「第1図は、製缶用金属コイル薄板の欠陥マーク表示ラインの全体構成図である。製缶用金属コイル2から引き出された例えば鋼板等の薄板1は、・・・デフレクターロール11、12、13、14を通って・・・コイル薄板ジョイント部分切断用カッター5によって所定の長さに切断され、巻取リール6に巻き取られるようになっている。デフレクターロール13、14間には、薄板1の表裏の両面を検査するための欠陥検査装置、例えば疵を検査するための疵検査装置7が配設される。・・・この疵検査装置7の下流のテンションロール16、18(17)間には、薄板1の端縁部分にマーク付けするためのインクジェット装置8がその追従装置8aに取り付けられて配設されている。このインクジェット装置8は、・・・高速でかつ非接触で確実にドット列によるマーク付けが行われる。」 (オ)第4ページ左下欄5行〜第5ページ左上欄12行 「インクジェット装置8の追従装置8aを、第2図のブロック図と第3図の斜視図を参照して説明する。製缶用金属コイル薄板1の矢印Aで示す進行方向と直角に螺軸24をもつXテーブル25が配設され、この螺軸24には追従装置8aが矢印Bで示すように左右に移動可能に取り付けられている。この螺軸24の一端には、駆動用の直流モータ26が取り付けられ、この直流モータ26はDCサーボドライバー回路27を介してコントローラー回路29の入出力装置30に接続している。またこの直流モータ26にはパルス発生器31が取り付けられていて、これもコントローラー回路29の入出力装置30に接続している。上記Xテーブル25上の追従装置8aには、インクジェット装置8と共に、移動する製缶用金属コイル薄板1の端1aを検出するためのCCDカメラからなるイメージセンサー32およびリトラクタ用エアシリンダー37が配設され、このイメージセンサー32はイメージセンサーコントローラー回路33を介して上記コントローラー回路29の入出力装置30と接続している。・・・そして、イメージセンサー32用の光源36が、第3図に示すように、イメージセンサー32と薄板1を挟んで対向する位置に配設されている。また、Xテーブル25はブロック43に取り付けられ、このブロック43は機枠42のアリ溝44に嵌入して左右に移動できるように取り付けられている。そして、ブロック43には一端にハンドル40を有する螺軸41が取り付けられているので、ハンドル40を操作することによって、製缶用金属コイル薄板1の端1aに対するインクジェット装置8の最初の位置設定が容易にできるようになっている。このように構成されているので、製缶用金属コイル薄板1の端1aはイメージセンサー32で検出され、イメージセンサーコントロール回路33、入出力装置30を介してコントローラー回路29に入力され、設定値との比較演算をして移動距離を算出し、DCサーボドライバー回路27を介して直流モータ26に出力してXテーブル25の位置を制御し、インクジェット装置8を薄板1の蛇行に合せて追従し移動させるようになっている。」 ここで、上記(オ)の記載(特に、「製缶用金属コイル薄板1の端1aはイメージセンサー32で検出され、・・・設定値との比較演算をして移動距離を算出し、・・・インクジェット装置8を薄板1の蛇行に合せて追従し移動させる」との記載。)からみて、イメージセンサー32が薄板1の端1aの位置を検出していることは明らかである。 また、上記(オ)には「DCサーボドライバー回路27を介して直流モータ26に出力してXテーブル25の位置を制御し、インクジェット装置8を薄板1の蛇行に合せて追従し移動させる」との記載がある。しかしながら、同じ上記(オ)では「螺軸24をもつXテーブル25が配設され、この螺軸24には追従装置8aが矢印Bで示すように左右に移動可能に取り付けられている。この螺軸24の一端には、駆動用の直流モータ26が取り付けられ、この直流モータ26はDCサーボドライバー回路27を介してコントローラー回路29の入出力装置30に接続している。」と記載され、また、「Xテーブル25はブロック43に取り付けられ、このブロック43は機枠42のアリ溝44に嵌入して左右に移動できるように取り付けられている。そして、ブロック43には一端にハンドル40を有する螺軸41が取り付けられているので、ハンドル40を操作することによって、製缶用金属コイル薄板1の端1aに対するインクジェット装置8の最初の位置設定が容易にできるようになっている。」と記載されていることに鑑みると、「Xテーブル25」の移動は「ハンドル40」によって行われ、「追従装置8a」の移動は「直流モータ26」によって行われると解するべきであり、第2図及び第3図からもこのことが看取できる。そうすると、「DCサーボドライバー回路27を介して直流モータ26に出力してXテーブル25の位置を制御し、インクジェット装置8を薄板1の蛇行に合せて追従し移動させる」は、「DCサーボドライバー回路27を介して直流モータ26に出力して追従装置8aの位置を制御し、インクジェット装置8を薄板1の蛇行に合せて追従し移動させる」の誤記である。 それ故、これら(ア)〜(オ)の記載及び図示を含む引用例の全記載及び図示からみて、引用例には、以下の発明が記載されているものと認める。 「製缶用金属コイル薄板1の端1a位置をイメージセンサー32を用いて検出し、検出した端1a位置から幅方向10mm以内に前記薄板1に存在する欠陥部分を表示するマークを、マーク付けする前記薄板1の欠陥部表示方法。」(以下、「引用発明1」という。) 「製缶用金属コイル薄板1に存在する欠陥部分を表示するマークを、マーク付けするインクジェット装置8と、 前記薄板1の端1a位置を検出するイメージセンサー32と、 前記インクジェット装置8及びイメージセンサー32を配設する追従装置8aと、 前記薄板1の進行方向と直角に螺軸24を有するXテーブル25と、 前記螺軸24の一端に取り付けられた直流モータ26と、 前記イメージセンサー32及び直流モータ26と接続されるコントローラー回路29と、 を有する欠陥表示マーク表示ラインであって、 前記螺軸24には前記追従装置8aが移動可能に取り付けられており、 前記コントローラ回路29は、前記イメージセンサー32により検出した端1a位置から算出した移動距離を前記直流モータ26に出力することにより前記追従装置8aの位置を制御し、前記インクジェット装置8を前記薄板1の蛇行に合せて追従させる欠陥マーク表示ライン。」(以下、「引用発明2」という。) 3.本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定 本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「製缶用金属コイル薄板1」、「端1a」、「イメージセンサー32」、「薄板1に存在する欠陥部分を表示するマークを、マーク付けする」、「製缶用金属コイル薄板1の・・・欠陥部表示方法」は、それぞれ本件発明1における「金属帯」、「側端部」、「光学センサ」、「欠陥位置マーキングを施す」、「金属帯へのマーキング方法」に相当する。 また、引用発明1では、薄板1に存在する欠陥部分を表示するマークを、「検出した端1a位置から幅方向10mm以内」にマーク付けするのであるから、当該「検出した端1a位置から幅方向10mm以内」は、本件発明1における「検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置」に相当する。 したがって、両者は、 「金属帯の側端部位置を光学センサを用いて検出し、検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置に欠陥位置マーキングを施す金属帯へのマーキング方法。」 で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本件発明1では、欠陥位置マーキングを施す金属帯の幅を400mmから1200mmと限定しているのに対して、引用発明1では、金属帯の幅について限定を課していない点。 [相違点2] 本件発明1では、欠陥位置マーキングを施すマーキング場所を、金属帯の側端部を切り揃える手段の下流近傍5m以内とするのに対して、引用発明1では、金属帯の側端部が切り揃えられているか否かが不明であり、それ故、側端部を切り揃える手段と欠陥位置マーキングを施すマーキング場所との配置関係が不明な点。 4.相違点についての判断及び本件発明1の進歩性の判断 (1)相違点1について 製造ラインで取り扱う金属帯の幅は、当該金属帯から製造する製品の種類や加工する製品数(引用例を例にとれば、製缶用金属コイルの幅から何個の缶蓋又は缶胴を打ち抜くのか)等により決定される事項にすぎず、設計事項に属することである。実際、幅400mmから1200mmの金属帯は普通に用いられており、何ら特別のものではない(必要ならば、特開平4-365506号公報(特許異議申立人新日本製鐵株式会社が提出した甲第1号証。【0021】)、特開平8-101141号公報(特許異議申立人新日本製鐵株式会社が提出した甲第5号証。【0015】)参照。)。 (2)相違点2について 金属帯の側端部を切り揃える手段、いわゆるサイドトリマは、金属帯側端部に生じるバリ等の形状不良を取り除く手段として従来周知(特開平5-125450号公報(【0009】及び図1。以下、「周知例1」という。)、実願平5-40816号(実開平7-12959号)のCD-ROM (【0008】及び図1。以下、「周知例2」という。)、特開平6-63643号公報(【0002】及び図5。以下、「周知例3」という。)参照。)である。そして、引用発明1においても、製缶用金属コイル薄板の側端部において形状不良が存在するおそれを否定できないのであるから、引用発明1に当該周知技術を採用することは、設計事項に属する事項である。 次に、金属帯の側端部を切り揃える手段(サイドトリマ)と、欠陥位置マーキングを施すマーキング場所との配置関係を検討すると、周知例1及び周知例2では欠陥検査装置の上流にサイドトリマを配置しているから、欠陥位置マーキングを施すとなれば、必ずサイドトリマの下流となる。また、周知例3では、上流側から順に欠陥検査装置、サイドトリマ、欠陥位置マーキング装置が配置されている。これら周知例を参酌すると、金属帯の側端部を切り揃える手段は、欠陥検査装置の上流・下流いずれでもよいが、少なくとも欠陥位置マーキングを施す場所よりも上流に配置することが通常といえる。そして、金属帯へのマーキング精度を向上させることは自明の課題(必要ならば、上記2.(イ)参照。)であり、そのためには当該金属帯の蛇行が少ない段階でマーキングを施せばよいこと(必要ならば、特開平6-134554号公報(【0014】)参照。)、金属帯の側端部を切り揃える手段は金属帯の幅すなわち側端部位置を決めているのであるから、当該手段に近ければ近いほど金属帯の蛇行が少ないこと、はいずれも当業者にとって自明のことである。それ故、金属帯の側端部を切り揃える手段を設けた場合、当該手段の下流近傍において欠陥位置マーキングを施すようにすることは、当業者であれば容易に想到できることである。 なお、金属帯の側端部を切り揃える手段から下流方向にどの程度離れた場所で欠陥位置マーキングを施すかは、必要なマーキング精度を達成するために許容できる金属帯の蛇行量や、製造ラインに配置する装置数、装置間の干渉・影響度などに鑑みて決定される事項であり、設計事項に属する事項である。 したがって、引用発明1に金属帯の側端部を切り揃える手段を設け、当該手段の下流近傍5m以内にて、欠陥位置マーキングを施すようにすることは、当業者であれば容易に想到できることといわざるを得ない。 (3)本件発明1の進歩性の判断 相違点1及び相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、いずれも当業者にとって想到容易である。また、本件の特許明細書には、幅400mmから1200mmの金属帯を対象とした場合と当該数値範囲以外の幅を有する金属帯を対象とした場合の比較結果も記載されていないし、側端部を切り揃える手段の下流近傍5m以内に欠陥位置マーキングを施す場合と下流側5mを超えて欠陥位置マーキングを施す場合の比較結果も記載されていないから、これら数値を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許である。 5.本件発明2と引用発明2の一致点及び相違点の認定 本件発明2と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「製缶用金属コイル薄板1」、「端1a」、「薄板1に存在する欠陥部分を表示するマークを、マーク付けするインクジェット装置8」、「欠陥マーク表示ライン」は、それぞれ本件発明2における「金属帯」、「側端部」、「欠陥位置マーキングを施すマーキング装置」、「金属帯へのマーキング装置」に相当する。 また、引用発明2における「イメージセンサー32」は光学センサであることは明らかであり、薄板1の端1a位置を検出するものでもあるから、本件発明2における「光学センサを用いた金属帯の側端部位置検出装置」に相当する。 さらに、引用発明2における「直流モータ26」は、イメージセンサー32が検出した端1a位置に基づき算出された移動距離に応じて「Xテーブル25」に備えられた「螺軸24」を回転させ、当該回転によって「追従装置8a」の位置を制御し、「インクジェット装置8」を薄板1の蛇行に合せて追従させるものであるから、「直流モータ26」、「螺軸24」、「Xテーブル25」及び「追従装置8a」は全体として本件発明2における「側端部位置検出装置により検出した側端部位置に応じてマーキング装置の側端部への位置合わせを行うマーキング位置補正装置」に相当する。 したがって、両者は、 「欠陥位置マーキングを施すマーキング装置と光学センサを用いた金属帯の側端部位置検出装置と該検出装置により検出した側端部位置に応じて前記マーキング装置の側端部への位置合わせを行うマーキング位置補正装置を設置した金属帯へのマーキング装置。」 で一致し、次の点で相違する。 [相違点3] 本件発明2では、マーキング装置と側端部位置検出装置とマーキング位置補正装置を一体として設置しているのに対して、引用発明2では、インクジェット装置8(本件発明2における「マーキング装置」に相当。)及びイメージセンサー32(本件発明2における「側端部位置検出装置」に相当。)を追従装置8aに配設し、当該追従装置8aはXテーブル25の螺軸24に移動可能に取り付けられ、当該螺軸24の一端には直流モータ26が取り付けられているが、これら各装置が一体として設置されているか否か不明な点。 [相違点4] 本件発明2では、欠陥位置マーキングを施す金属帯の幅を400mmから1200mmと限定しているのに対して、引用発明2では、金属帯の幅について限定を課していない点。 [相違点5] 本件発明2では、マーキング装置と側端部位置検出装置とマーキング位置補正装置を、側端部を切り揃える装置の下流近傍5m以内に設置するのに対して、引用発明2では、金属帯の側端部を切り揃える装置を有しているか否かが不明であり、それ故、側端部を切り揃える手段とマーキング装置、側端部位置検出装置及びマーキング位置補正装置との配置関係が不明な点。 6.相違点についての判断及び本件発明2の進歩性の判断 (1)相違点3について 「一体」とは「一つのからだ。一つになって分けられない関係にあること。」(新村出編「広辞苑」岩波書店発行)を意味するものである。引用発明2においても、追従装置8a、Xテーブル25、螺軸24及び直流モータ26、インクジェット装置8及びイメージセンサー32は、接着剤やネジ止め等の適切な手段を用いて、それぞれが容易には分離しないよう取り付けられているはずであるから、「一体として設置」しているということができる。それ故、この点について本件発明2と引用発明2の間に実質的な差異はない。 仮に「一体として設置」とは、複数の機能を一つの装置に持たせ、当該一つの装置を設置することであったとしても、複数の機能を一つの装置に持たせることはコンパクト化又は多機能化を図るための常套手段であり、当業者であれば容易に想到できることである。 (2)相違点4及び相違点5について 相違点1及び2と相違点4及び5とは、本件発明1と本件発明2が異なるカテゴリーの発明であることに起因して異なるよう表現されたにすぎない。そして、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することが当業者にとって想到容易であることは4.(1)及び(2)で述べたとおりであるから、同様の理由により、相違点4及び相違点5に係る本件発明2の発明特定事項を採用することは、当業者にとって容易に想到できることである。 (3)本件発明2の進歩性の判断 相違点3に係る本件発明2の発明特定事項は、引用発明2と実質的な差異がないか、あったとしても当業者にとって想到容易である。また、相違点4及び相違点5に係る本件発明2の発明特定事項は、いずれも当業者にとって想到容易である。さらに、これら発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本件発明2は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許である。 第4 むすび 以上のとおり、請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、平成15年改正前特許法第113条2号の規定により取り消されなければならない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 金属帯へのマーキング方法及びマーキング装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える手段の下流近傍5m以内にて金属帯の側端部位置を光学センサを用いて検出し、検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置に欠陥位置マーキングを施すことを特徴とする金属帯へのマーキング方法。 【請求項2】 幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える装置の下流近傍5m以内に、欠陥位置マーキングを施すマーキング装置と光学センサを用いた金属帯の側端部位置検出装置と該検出装置により検出した側端部位置に応じて前記マーキング装置の側端部への位置合わせを行うマーキング位置補正装置とを一体として設置したことを特徴とする金属帯へのマーキング装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、鋼帯などの金属帯側端部に高精度の欠陥位置マーキングを施す技術に関する。 【0002】 【従来の技術】 鋼帯などの金属帯を生産し処理する連続ラインにおいては品質管理を目的としてオンラインで表面欠陥などを検出し、欠陥の位置にマーキングを附すことが行われる。このマーキングは欠陥位置に直接行う場合もあるが、通常は、欠陥位置の幅方向側端部位置に附されることが多く、欠陥検出装置での欠陥信号をトラッキングして後工程のマーキング装置で欠陥位置へのマーキングを行う。そして、別の下工程あるいは客先ラインにおいてこのマーキング部を検出し欠陥部を除外することが行われる。これにより欠陥によって発生する恐れのある穴あきや割れなどの品質トラブルを未然に防止している。この場合、下工程あるいは客先ラインにおいてこのマーキング部を容易に検出可能なように金属帯の幅方向マーキング位置はある一定位置としておく必要がある。ところが金属帯はオンラインでの搬送において横ぶれなどをおこすため、その側端部は常に変動している。この変動に追随してマーキングを行うため、通常マーキング装置には側端部追従装置が備えられている。この側端部追従装置では、例えば光学式のラインセンサを用いて側端部での遮光位置を検出する方法により側端部が検出され、マーキング装置の側端部への追従が行われる。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 ところが、従来のマーキング方法では、金属帯の蛇行や幅変動などが大きく、前述の側端部追従装置の追従限界を超えてしまうことが多い。また、側端部の振れに対する追従のタイムラグや装置の機械的がたのため、微小な変動に追従しきれない場合も多い。さらに、客先からのマーキング位置精度の高精度化の要求も年々厳しくなってきている。 【0004】 従来、客先では欠陥マーキング部を除外して(つまり、マーキングのある部分の幅方向すべての部分を除外して)製品のためのサンプリング(製品用素材の採取)を行ってきた。しかし、素材歩留まりを向上させ、素材の無駄を最小限に抑えたいとの要求から、近年では、欠陥マーキング部においても実際の欠陥部分のみを排除して残りの部分からもサンプリングを行おうとする傾向にある。そのために、たとえばオンラインで除去したマーキング部分の素材をオフラインで手動によりサンプリングすることや、オンラインにおいて欠陥マーキング部では操業を手動にきりかえてサンプリングするなどのことも行われるようになってきており、可能な限りの歩留まり向上が図られている。 【0005】 このとき、サンプリングされた素材にマーキング部分が混入してしまうことは許されず、サンプリングはマーキング部分にかからないように実施する必要がある。そのため、マーキングは、金属帯の側端部にきわめて高精度の位置合わせをして行う必要があり、特に幅方向の位置をより厳密に管理することが要求される。具体的には、サンプリングにはかからない幅方向側端部のごく狭い領域に精度よくマーキングすることが必要とされているのである。 【0006】 しかし、本発明者等の調査によれば、従来の側端部追従をマーキング装置に適用するだけではこの要請に応えるには不十分であることが明らかとなった。つまり、幅方向側端部の狭い領域に精度よくマーキングするためには、マーキングの精度は標準偏差σにて0.5mm以下の高精度が要求されることとなる。一方、従来の側端部追従装置では検出感度や移動機構の機械がたやずれなどの要因から最小設定単位がせいぜい0.5mmまでであり、その精度は総合的に評価すると標準偏差σにて1〜2mm程度となり、本課題を解決するには不十分である。 【0007】 また、ガイド機構に金属帯側端部を沿わせてマーキングすることも考えられるが、ガイドと金属帯側端部には遊び(空間的余裕)をとることが必要であり、むしろ側端部追従装置での追従よりも精度的に悪くなってしまう。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明者等は、以上の詳細な検討に基づき下記のようにすることで上記課題を解決したのである。 【0009】 つまり、幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える手段の下流(金属帯の処理において後工程に位置することを指す。)近傍5m以内にて金属帯の側端部位置を光学センサを用いて検出し、検出した側端部位置に応じて決定される幅方向端部からのマーキング位置に欠陥位置マーキングを施すことを特徴とする金属帯へのマーキング方法により、上記課題を解決したのである。 【0010】 また、幅400mmから1200mmの金属帯の側端部を切り揃える装置の下流近傍5m以内に、欠陥位置マーキングを施すマーキング装置と光学センサを用いた金属帯の側端部位置検出装置と該検出装置により検出した側端部位置に応じて前記マーキング装置の側端部への位置あわせを行うマーキング位置補正装置とを一体として設置して構成した金属帯へのマーキング装置により、上記課題を解決したのである。 【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を図にそって説明する。 図1は、本発明のトリマ一体型マーキング装置を示す模式図である。本実施の形態では、金属帯1の側端部を切り揃える手段であるトリマ3とマーキング装置4が一体となって形成されており、トリマ3のトリミング位置に合わせてマーキング装置4が連動して動くように物理的に連結されて設置されている。これにより、金属帯側端部からのマーキング位置を正確に合わせることが可能となる。金属帯1はトリマ3によりトリミングされてトリマ屑5が排出され所要の幅に切り揃えられてロール2を介して後工程に搬送されていく。このトリマ3は、金属帯側端部を正確に切り揃えられる手段であれば何でも良く、スリッタとかシャー等を適用することもできることは言うまでもない。ここで、マーキング装置によるマーキング位置の側端部からの距離は、マイクロメータ等を用いた図示しない精密な位置あわせ機構により精度よく調整することが可能なように構成している。図1では、トリマ一体型マーキング装置を例示したが、マーキング装置は必ずしもトリマと一体である必要はなく、トリマと同調してその幅方向位置が追従して移動するマーキング装置をトリマの直後(少なくとも1m以内、好ましくは0.5m以内)に設置しても良い。 【0012】 次に、別の実施の形態である図2について説明する。 図2においては、側端部位置検出装置6を備えたマーキング装置4はトリマでのトリミングの後工程として、ロール2の後に設置されており、トリマの下流近傍に配置されている。トリマの下流側ではあるがトリマに近い位置に配置しているため、側端部のトリミング後の横ぶれは十分に小さい(精度目標値以内)範囲に抑えられており、本配置においても精度からみて実用上問題はない。 【0013】 したがって、側端部追従装置は、従来のごとく鋼帯の蛇行を補正しようとするものではなく、金属帯の板幅が変更されるなどの理由でトリム位置が変更された際に、その変更分を自動補正するものである。すなわち、上記変更時に1回動作する程度なので、従来と同じ型のたとえば光学式を用いても累積的誤差なく使用可能なのである。図2では、マーキング装置4を3台配置しているが、これは欠陥種別等によりマーキングする表示パターンを切り替える必要から配置したものである。 【0014】 ここで、金属帯が、幅400mmから1200mm程度の鋼帯の場合においては、トリマとマーキング装置との距離を5m以下とすることがマーキング位置精度から見て好適である。 5m以上の距離がある場合は、トリマの下流においても鋼帯のぶれ(蛇行)が大きくなるため、0.5mm以下の幅精度のマーキングが不可能となる。 【0015】 【実施例】 表1は、従来の側端部追従式マーキング装置と、本発明のトリマ一体型マーキング装置、トリマの下流近傍に配置した側端部追従式マーキング装置(本例では、トリマ位置より下流側5mに配置)のそれぞれにおけるマーキング位置精度の比較例を実験によって得られたデータに基づき示している。ここで、トリマの下流近傍に配置したマーキング装置に用いた側端部追従装置は光学センサを用いるタイプとした。 【0016】 ここで、マーキングの目標位置は、側端部より2.0mmである。又、マーキングのサンプル数はそれぞれ50である。 表1から、従来では1.53mmもあった標準偏差が、本発明では、トリマ一体型マーキング装置では0.05mmとなり、トリマの下流近傍に配置した側端部追従式マーキング装置でも0.35mmであり十分に厳しい要求仕様に合致していることが分かる。 【0017】 【表1】 【0018】 【発明の効果】 本発明により、マーキングの幅方向位置精度を格段に向上させることができるようになった。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明のトリマ一体型マーキング装置を示す模式図である。 【図2】 本発明の別の実施例を示す模式図である。 【符号の説明】 1 金属帯 2 ロール 3 トリマ 4 マーキング装置 5 トリマ屑 6 側端部位置検出装置 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-02-21 |
出願番号 | 特願平9-294527 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(B41F)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 畑井 順一 |
特許庁審判長 |
砂川 克 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 谷山 稔男 |
登録日 | 2002-05-24 |
登録番号 | 特許第3311285号(P3311285) |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | 金属帯へのマーキング方法及びマーキング装置 |
代理人 | 山本 文夫 |
代理人 | 小林 英一 |
代理人 | 名嶋 明郎 |
代理人 | 綿貫 達雄 |
代理人 | 小林 英一 |