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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1119377
異議申立番号 異議2003-71101  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-28 
確定日 2005-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3339752号「レーザ記録装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3339752号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件の出願から本決定に至るまでの主な経緯は次のとおりである。
・平成6年9月8日 本件出願(特願平6-242162号)
・平成14年8月16日 特許第3339752号として設定登録(請求項1乃至3)
・平成15年4月28日 特許異議申立人ペンタックス株式会社より、請求項1乃至3に係る特許に対して特許異議申立
・平成15年6月24日付け 当審にて取消理由通知
・平成15年8月29日 特許権者より意見書及び訂正請求書提出(以下、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)
・平成15年9月4日付け 特許異議申立人ペンタックス株式会社宛て審尋
・平成15年10月1日 特許異議申立人ペンタックス株式会社より回答書提出

第2 訂正の可否の判断

1.訂正の内容

[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1を、本件訂正前の
「【請求項1】 感光ドラム上をレーザ光により主走査方向へ走査して潜像を形成し、該潜像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写するレーザ記録装置において、
感光ドラムと関連する所定位置に配置され、レーザ光を検出してビームディテクト信号を発するレーザ光検出素子と、
該レーザ光検出素子からのビームディテクト信号の開始に基づき前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力するビーム検知手段と、
前記ビーム検知手段の入力又は出力をマスクするマスク手段と、
レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間を設定するマスク時間設定手段とを有し、前記マスク手段が、前記ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に前記ビーム検知手段の入力又は出力をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除することを特徴とするレーザ記録装置。」から
「【請求項1】 感光ドラム上をレーザ光により主走査方向へ走査して潜像を形成し、該潜像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写するレーザ記録装置において、
感光ドラムと関連する所定位置に配置され、レーザ光を検出してビームディテクト信号を発するレーザ光検出素子と、
該レーザ光検出素子からのビームディテクト信号の開始に基づき前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力するビーム検知手段と、
前記ビーム検知手段の入力をマスクするマスク手段と、
レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間を設定するマスク時間設定手段とを有し、前記マスク手段が、前記ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に前記ビーム検知手段の入力をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除することを特徴とするレーザ記録装置。」と訂正する。なお、下線は訂正箇所を示す。

[訂正事項2]
本件訂正前の発明の詳細な説明における【0008】に記載された「入力又は出力」を「入力」と訂正する。

[訂正事項3]
本件訂正前の発明の詳細な説明における【0009】に記載された「ビーム検知手段をマスクする。」を「ビーム検知手段の入力をマスクする。」と訂正する。

[訂正事項4]
本件訂正前の発明の詳細な説明における【0023】に記載された、「ビーム検知手段」を「ビーム検知手段の入力」と訂正する。

2.訂正目的の適否、新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、マスク手段がマスクする対象を「ビーム検知手段の入力又は出力」から「ビーム検知手段の入力」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正事項2〜4に係る訂正は、訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正と整合させるため、発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1〜4は、それぞれ願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)における「BD検知回路34の入力側をマスクするマスク回路38とから成る。」(【0011】)等の記載に基づくものであるから、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされた訂正である。
そして、訂正事項1〜訂正事項4が、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでないことは明らかである。

3.訂正の可否の判断の結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 特許異議申立についての判断

1.本件発明の認定
上記したとおり、本件訂正が認められるから、本件の請求項1乃至3に係る発明(以下、請求項番号に従い「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 感光ドラム上をレーザ光により主走査方向へ走査して潜像を形成し、該潜像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写するレーザ記録装置において、
感光ドラムと関連する所定位置に配置され、レーザ光を検出してビームディテクト信号を発するレーザ光検出素子と、
該レーザ光検出素子からのビームディテクト信号の開始に基づき前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力するビーム検知手段と、
前記ビーム検知手段の入力をマスクするマスク手段と、
レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間を設定するマスク時間設定手段とを有し、
前記マスク手段が、前記ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に前記ビーム検知手段の入力をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除することを特徴とするレーザ記録装置。
【請求項2】 前記ビーム検知手段が、該レーザ光検出素子からの信号を複数回読み出すことにより、前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト信号を出力することを特徴とする請求項1のレーザ記録装置。
【請求項3】 前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間が、1走査期間の1/10以上の長さであることを特徴とする請求項1のレーザ記録装置。」

2.引用刊行物記載の発明

(1)取消理由に引用された、本件出願前日本国内において頒布された刊行物である、特開昭61-159863号公報(特許異議申立人ペンタックス株式会社が提出した甲第1号証。以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載又は図示されている。

(ア)第1ページ右下欄9行〜第2ページ左下欄4行
「〔産業上の利用分野〕
この発明はレーザビームプリンタに関し、特に、レーザビームを検知する光センサと、光センサの出力に対応した電圧を基準電圧と比較する電圧比較器と、電圧比較器の出力変化に応じて画像書込みタイミングを制御する制御回路とを具え、レーザビームの走査により感光体上に画像を記録するようになっているレーザビームプリンタに関するものである。
〔従来技術〕
一般に、レーザビームプリンタは、第4図に示すように、レーザ発振器11から出力されるレーザ光の光軸に沿ってビームエキスパンダレンズ12、光変調器13、ビームエキスパンダレンズ14、シリンドリカルレンズ15、回転多面鏡16、fθレンズ17およびシリンドリカルレンズ18が順に配置され、また、感光体ドラム19の表面における画像の記録の書出し位置を決めるための光センサ1が、感光体ドラム19の側方に設けられ、さらに、前記シリンドリカルレンズ18と感光体ドラム19との間には、感光体ドラム19の周囲の一部に設けられる図示しない現像系におけるトナー等の飛散によって汚れることを防止するための防塵ガラス20が設けられ、これ等で全体の概略が構成されている。このようなレーザビームプリンタにおいて、従来は、第5図に示すように、レーザビームを検知する光センサ1として、高速のホトダイオードを使用し、光センサ1の出力を増幅する増幅器2として、高速のオペアンプまたはビデオアンプを使用し、前記増幅器2の出力電圧を基準電圧と比較する電圧比較器3として、高速のコンパレータを使用し、光センサ1にレーザビームが入射すると、電圧比較器3の出力が「H」から「L」(または「L」から「H」)に変化することによって光センサ1へのレーザビームの入射タイミングを検出し、制御回路4がこの入射タイミングと同期して画像書込みタイミングを決めることにより、ジッタのない画像が得られるようになっていた。しかしながら、このような従来のものにあっては、正常時にはレーザビームの1走査で電圧比較器3から1個のパルスが第6図に示すように発生するが、たとえば、光センサ1の出力や増幅器2の出力に散乱光等による光ノイズに起因したノイズやその他の電気的ノイズが含まれていた場合には、前記電圧比較器3が、いわゆる、チャタリングを起こしてレーザビームの1走査で電圧比較器3から複数個のパルスが第7図に示すように発生してしまい、これが制御回路4に入力されてプリンタの誤動作を生じさせることがあり、この現象は、たとえば、コストの低減をはかるために光センサ1、増幅器2および電圧比較器3に応答速度が比較的遅いものを使用した場合でも生じてしまっていた。」

(イ)第2ページ右下欄13行〜第3ページ右上欄下から2行
「第1図にはこの発明によるレーザビームプリンタの一実施例の要部が示されており、このレーザビームプリンタは、レーザビームを検知する光センサ1と、この光センサ1の出力を増幅して光センサ1の出力に対応した電圧を出力する増幅器2と、この増幅器2の出力電圧を、基準電圧と比較して、光センサ1にレーザビームが入射すると出力が「H」から「L」(または「L」から「H」)に変化する電圧比較器3があり、さらに前記電圧比較器3の後段に、電圧比較器3の最初の出力変化、すなわち、立下り(または立上り)に同期して、レーザビームが光センサ1を横切る時間(すなわち、電圧比較器3の出力パルス幅)より長くかつレーザビームの1走査周期の時間より短い範囲で任意に選定することのできるパルス幅を有する1個のパルスを発生するパルス発生回路5を設け、パルス発生回路5の出力を、その出力パルスの先頭の立下り(または立上り)に同期して画像書込みタイミングを決める制御回路4に入力するようにしたものである。・・・光センサ1の出力や増幅器2の出力に散乱光等による光ノイズに起因したノイズやその他の電気的ノイズが含まれていた場合は、電圧比較器3がいわゆるチャタリングを起こしてレーザビームの1走査で電圧比較器3から複数個のパルスが発生するが、そのうち最初の出力変化すなわち立下り(または立上り)に同期して立下る(または立上る)1個のパルスがパルス発生回路5から出力するため、制御回路4はパルス発生回路5の出力パルスの先頭の立下り(または立上り)に同期して画像書込みタイミングを決めることができ、これにより画像書込みタイミングは光センサ1へのレーザビームの入射タイミングに的確に対応し、かつ、同期することとなり、したがって、レーザビームプリンタの誤動作が生じることはないものであるない。」

(ウ)第2図
第2図からは、電圧比較器3の出力が変化する時点で複数個のパルスが発生していることが看取できる。

まず、レーザビームプリンタを用いて用紙に文書等を印刷するためには、感光体上に書込まれた画像にトナーを付着させ可視画像を形成し、当該画像を用紙に転写させなければならないことは自明であり、引用例1記載のレーザビームプリンタにおいても、用紙に印刷を行うためには当然に同様の動作を行わなければならない。上記(ア)の「感光体ドラム19の周囲の一部に設けられる図示しない現像系」との記載からみても、引用例1記載のレーザビームプリンタが、感光体上に書込まれた画像にトナーを付着させ可視画像を形成し、当該画像を用紙に転写させていることは明らかである。
それ故、これら(ア)〜(ウ)の記載及び図示を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明1」という。)。

「感光体ドラム19上をレーザビームにより走査して画像を記録し、該画像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写するレーザビームプリンタにおいて、
感光体ドラム19の側方に設けられ、レーザビームを検知する光センサ1と、
該光センサ1の出力を増幅して前記光センサ1の出力に対応した電圧を出力する増幅器2と、
該増幅器2の出力電圧を、基準電圧と比較して、前記光センサ1にレーザビームが入射すると出力が「H」から「L」(または「L」から「H」)に変化する電圧比較器3と、
該電圧比較器3の最初の出力変化に同期して立下る(または立上る)、前記レーザビームが前記光センサ1を横切る時間(すなわち、電圧比較器3の出力パルス幅)より長くかつレーザビームの1走査周期の時間より短い範囲で任意に選定することのできるパルス幅を有する1個のパルスを発生するパルス発生回路5と、
該パルス発生回路5の出力パルスの先頭の立下り(または立上り)に同期して画像書込みタイミングを決める制御回路4と、
を有するレーザビームプリンタ。」

(2)また、取消理由に引用された、本件出願前日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-259836号公報(特許異議申立人ペンタックス株式会社が提出した甲第2号証。以下、「引用例2」という。)には次の事項が記載又は図示されている。

(エ)特許請求の範囲
「【請求項1】所定周期でキー入力信号をサンプリングしてそのサンプリングした値と、1サンプル前の値とを比較し、両値が等しいときにカウント値を進め等しくない場合にリセットされるカウンタ回路と、このカウンタ回路のカウント値と、予め定めて設定値とを比較して一致時に一致信号を出力する比較器とを有し、一致信号が出力された時にキー入力信号の値に出力を更新するデジタルフィルタを用いたことを特徴とするチャタリング除去回路。」

(オ)段落番号0001
「【産業上の利用分野】本発明は、機械的スイッチの操作信号であるキー入力信号のチャタリングを除去するチャタリング除去回路に関するものである。」

(カ)段落番号0009
「【実施例】(実施例1)図1は、請求項1記載の発明に対応する実施例であり、この実施例のチャタリング除去回路は3つのD型フリップフロップD1〜D3と、セレクタSCと、排他的オアEORと、アンドゲートAN、オアゲートORと、ノットゲートNTと、アップカウンタ回路CTと、デジタルコンパレータよりなる比較器DCPとで構成されたデジタルフィルタを用いており、5サンプル期間の間同じ入力が与えられたときにキー入力信号の値に出力OUTPUTの値を更新し、チャタリングの影響を除去するようになっている。」

(キ)段落番号0020
「従って、比較器DCPは一致信号EQを”L”のまま維持するため、出力OUTPUTは”H”のまま変化しない。つまりカウンタ回路CTが”4”までカウントしない間にキー入力信号INPUTの値が変化すると、出力OUTPUTの値を更新することができないのである。」

これら(エ)〜(キ)の記載及び図示を含む引用例2の全記載及び図示からみて、引用例2には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明2」という。)。

「所定周期でキー入力信号をサンプリングしてそのサンプリングした値と、1サンプル前の値とを比較し、両値が等しいときにカウント値を進め等しくない場合にリセットされるカウンタ回路と、このカウンタ回路のカウント値と、予め定めて設定値とを比較して一致時に一致信号を出力する比較器とを有し、一致信号が出力された時にキー入力信号の値に出力を更新するデジタルフィルタを用いたことを特徴とするチャタリング除去回路。」

3.本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定
本件発明1と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1における「感光体ドラム19」、「レーザビーム」、「走査して」、「光センサ1」、「感光体ドラム19の側方に設けられ」、「レーザビームプリンタ」は、それぞれ本件発明1における「感光ドラム」、「レーザ光」、「主走査方向へ走査して」、「レーザ光検出素子」、「感光ドラムと関連する所定位置に配置され」、「レーザ記録装置」に相当する。

(2)引用発明1は「感光体ドラム19」上に画像を記録するものであるが、感光ドラムに記録される画像を一般に「潜像」ともいう。それ故、引用例1発明における「画像を記録し」は、本件発明1における「潜像を形成し」に相当する。

(3)引用発明1における「光センサ1」は、レーザビームを検知して出力するものである。それ故、引用発明1における光センサ1の「出力」は、本件発明1における「ビームディテクト信号」に相当する。

(4)引用発明1における「電圧比較器3」は、光センサの出力に対応した出力電圧を基準電圧と比較しており、感光体ドラム19の側方に設けられた前記光センサ1にレーザビームが入射すると出力が「H」から「L」に変化するものであるから、光センサ1の出力(本件発明1における「レーザ光検出素子からのビームディテクト信号」に相当。)の開始に基づき、当該光センサ1へのレーザビームの照射を検知しているということができる。それ故、引用発明1における「電圧比較器3」及びその「出力」は、それぞれ本願発明1における「ビーム検知手段」及び「ビームディテクト検知信号」に相当する。

(5)引用発明1における「パルス発生回路5」は、「電圧比較器3」の最初の出力変化に同期して1個の出力パルスを発生しているため、たとえ「電圧比較器3」の出力にチャタリング等による複数のパルスが重畳していたとしても、「パルス発生回路5」からは「制御回路4」に1個のパルスしか出力されない。すなわち、当該「パルス発生回路5」は、「電圧比較器3」の出力をパルス幅の期間だけマスクする機能を有するということができ、それ故、本件発明1と引用発明1とでは、「ビーム検知手段をマスクするマスク手段」を有することにおいて一致する。

(6)上述するように引用発明1における「パルス発生回路5」は、本件発明1における「マスク手段」に相当する。引用発明1の「パルス発生回路5」が発生するパルスは、「電圧比較器3の最初の出力変化に同期して」立下り(または立上り)、そのパルス幅は「レーザビームが光センサ1を横切る時間(すなわち、電圧比較器3の出力パルス幅)より長くかつレーザビームの1走査周期の時間より短い範囲」に任意に設定されている。
そして、レーザビームが光センサ1を横切る時間(すなわち、電圧比較器3の出力パルス幅)は、レーザビームを検知した際に光センサ1が出力する時間と等しい(この点は、引用例1における第2図にも図示されている。)ことから、「パルス発生回路5」によるマスクは、レーザビームの1走査周期の時間より短い時間に設定されており、かつ電圧比較器3の出力により、光センサ1の出力の開始後であって光センサ1の出力の終了前に始まり、光センサ1の出力の終了後における任意の時間に解除されるということができる。
いま、引用発明1における「光センサ1の出力」及び「電圧比較器3の出力」が、それぞれ本件発明1における「ビームディテクト信号」及び「ビームディテクト検知信号」に相当することは上述のとおりであるから、引用発明1におけるマスクと本件発明1におけるマスクとは、「レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間であって、ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前にビーム検知手段をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除する」ことにおいて一致する。

したがって、両者は、
「感光ドラム上をレーザ光により主走査方向へ走査して潜像を形成し、該潜像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写するレーザ記録装置において、
感光ドラムと関連する所定位置に配置され、レーザ光を検出してビームディテクト信号を発するレーザ光検出素子と、
該レーザ光検出素子からのビームディテクト信号の開始に基づき前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力するビーム検知手段と、
前記ビーム検知手段をマスクするマスク手段と、
該マスク手段のマスク時間はレーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短く、
前記マスク手段が、前記ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に前記ビーム検知手段をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除するレーザ記録装置。」
で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明1では、マスク時間を設定するマスク時間設定手段を有するのに対して、引用発明1では、そのような手段を有するか否か不明な点。

[相違点2]
本件発明1では、ビーム検知手段の入力をマスクしているのに対して、引用発明1では、ビーム検知手段の出力をマスクしている点。

4.相違点についての判断及び本件発明1の進歩性の判断

(1)相違点1について
引用発明1は、「パルス発生回路5」が発生するパルスのパルス幅を任意に選定することのできるものであるから、当然にパルス幅を設定するパルス幅設定手段を有していなければならない。そして、上記3.で述べたとおり「パルス発生回路5」はマスク手段として機能し、発生するパルスの幅がマスク時間に相当するのであるから、引用発明1はマスク時間を設定するマスク時間設定手段を有するということができる。
したがって、この点において両者に実質的な差異はない。

(2)相違点2について
引用発明1は、光センサ1の出力や増幅器2の出力に散乱光等による光ノイズに起因したノイズやその他の電気的ノイズが含まれていた場合に、電圧比較器3がいわゆるチャタリングを起こしてレーザビームの1走査で電圧比較器3から複数個のパルスが発生してしまい、これが制御回路4に入力されてプリンタの誤作動を生じさせるという課題を解決するものである(上記2.(1)(ア)参照。)。そして、引用発明1では、電圧比較器3がチャタリングを起こして複数個のパルスが発生した後の対策として、これら複数個のパルスが制御回路4へ入力しないように電圧比較器3の出力をマスクしている。しかしながら、制御回路4にチャタリング起因の複数パルスを入力させないためには、そもそも電圧比較器3がチャタリングを起こさないように、当該電圧比較器3への入力から、ノイズが含まれるであろう部分を予めマスクして電圧比較器3にノイズを入力させないようにすることも当業者であれば容易に想到できることである。
実際、レーザ記録装置において、ノイズに起因するパルスがビーム検知手段に後続する制御回路に入力しないようにビーム検知手段の入力をマスクすることは、例えば特開昭63-267061号公報(第2ページ右上欄5行〜同欄17行、第2ページ右下欄10行〜第3ページ左上欄1行、第1図及び第2図。「SPD用ゲートG2」が入力をマスクしている。)、特開昭62-145264号公報(第3ページ左下欄7行〜同ページ右下欄14行、第1図及び第2図。「アンドゲート30」が入力をマスクしている。)に記載されるよう従来周知である。そして、引用発明1に当該周知技術を適用して電圧比較器3の入力をマスクする場合においても、例えば電圧比較器3の増幅器2からの入力側にリレーを設け、電圧比較器3の最初の出力変化に同期してリレーを遮断するよう構成する等、当業者であれば両者の組み合わせに必要な電子回路を適宜設計し得るものであるから、引用発明1に当該周知技術を組み合わせることを阻害する要因は見あたらない。
したがって、引用発明1において、電圧比較器3(本件発明1における「ビーム検知手段」に相当。)の入力をマスクすることは、当業者であれば容易に想到できることである。

(3)本件発明1の進歩性の判断
相違点1に係る本件発明1の構成と引用発明1の構成とには実質的な差異がない。また、相違点2に係る本件発明1の構成は当業者にとって想到容易である。さらに、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明1は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

5.本件発明2と引用発明1の一致点及び相違点の認定
本件発明2は、本件発明1の構成すべてを構成とし、さらに「ビーム検知手段」が「レーザ光検出素子からのビームディテクト信号を複数回読み出すこと」により「所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力」するものである。それ故、本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記3.において本件発明1と引用発明1とが一致すると認定した点で本件発明2と引用発明1は一致し、以下の点で相違する。
なお、請求項2における「該レーザ光検出素子」、「前記ビーム検知手段」は、それぞれ請求項1の、ビームディテクト信号を発する「レーザ光検出素子」、ビームディテクト検知信号を出力する「ビーム検知手段」を指すことは明らかであるから、請求項2における「レーザ光検出素子からの信号」は「レーザ光検出素子からのビームディテクト信号」の誤記であり、「ビームディテクト信号を出力する」は「ビームディテクト検知信号を出力する」の誤記であると認定して引用発明1との対比を行った。

[相違点3]
本件発明2では、マスク時間を設定するマスク時間設定手段を有するのに対して、引用発明1では、そのような手段を有するか否か不明な点。

[相違点4]
本件発明2では、ビーム検知手段の入力をマスクしているのに対して、引用発明1では、ビーム検知手段の出力をマスクしている点。

[相違点5]
本件発明2では、ビーム検知手段がレーザ光検出素子からのビームディテクト信号を複数回読み出している。他方、引用発明1では、光センサ1の出力を増幅する増幅器2の出力電圧を、基準電圧と比較して、電圧比較器3(本件発明2における「ビーム検知手段」に相当。)の最初の出力変化に同期して立下る(または立上る)パルスを発生するのであるから、前記電圧比較器3の出力が最初に変化した以降は、光センサ1からの出力(本件発明2における「ビームディテクト信号」に相当。)を読み出していない点。

6.相違点についての判断及び本件発明2の進歩性の判断

(1)相違点3及び相違点4について
相違点3及び4は、本件発明1と引用発明1との相違点1及び2と同一である。そして、相違点1は実質的な差異ではないこと、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易であることは4.(1)及び(2)で述べたとおりであるから、同様の理由により、相違点3に係る本件発明2の構成と引用発明1の構成とには実質的な差異がなく、相違点4に係る本件発明2の構成を採用することは、当業者にとって容易に想到できることである。

(2)相違点5について
引用発明1は、電圧比較器3の最初の出力変化に同期して立下る(または立上る)パルスを発生するものである。しかしながら、引用例1に記載又は図示されるように(上記2.(1)(イ)及び(ウ)参照。)、電圧比較器3の出力が最初に変化する時点はチャタリングによるパルスが発生しやすい時点でもあり、電圧比較器3の最初の出力変化が、電圧比較器3のチャタリングにより生じた可能性もある。引用発明1は、電圧比較器3の出力変化に応じて画像書込みタイミングを決定するのであるから、当該電圧比較器3の出力変化が、感光体ドラム19の側方に設けられた光センサ1へのレーザビーム照射によって生じるものでなければならない。そうすると、電圧比較器3の出力変化がレーザビーム照射によって生じたものであることを確実に検知する必要があることは、当業者であれば容易に想到できることである。
他方、前述の引用発明2は、キー入力信号を複数回読み出すことによりチャタリングを除去するチャタリング除去回路であり、キー入力信号が「Low」から「High」に変化した時点で出力を「Low」から「High」に変化させるのではなく、キー入力信号を複数回サンプリングし、サンプリングした値が全て「High」だった時点で初めて出力を「Low」から「High」に変化させるものである。言い換えれば、キー入力信号の「High」を複数回読み出すことにより、「High」を出力するものということができるのであるから、まさしく相違点5に係る本件発明2の構成を備えており、当該構成によってキー入力信号のチャタリングを除去し、当該キー入力信号が確実に「High」に変化したことを検知することができる。
それ故、引用発明1において、電圧比較器3の出力変化からチャタリングの影響を除去し、当該出力変化がレーザビーム照射によって生じたものであることを確実に検知するという上記課題を解決するため、電圧比較器3の直後に引用発明2のチャタリング除去回路を設けること(この場合、「電圧比較器3」及び「チャタリング除去回路」が全体として本件発明2における「ビーム検知手段」に相当する。)は、当業者であれば容易に想到できることである。

(3)本件発明2の進歩性の判断
相違点3に係る本件発明2の構成と引用発明1の構成とには実質的な差異がない。また、相違点4及び相違点5に係る本件発明2の構成はいずれも当業者にとって想到容易である。さらに、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明2は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

7.本件発明3と引用発明1の一致点及び相違点の認定
本件発明3は、本件発明1の構成すべてを構成とし、さらに「マスク時間設定手段により設定されるマスク時間」を「1走査期間の1/10以上の長さ」としたものである。それ故、本件発明3と引用発明1とを対比すると、上記3.において本件発明1と引用発明1とが一致すると認定した点で本件発明3と引用発明1は一致し、以下の点で相違する。

[相違点6]
本件発明3では、マスク時間を設定するマスク時間設定手段を有するのに対して、引用発明1では、そのような手段を有するか否か不明な点。

[相違点7]
本件発明3では、ビーム検知手段の入力をマスクしているのに対して、引用発明1では、ビーム検知手段の出力をマスクしている点。

[相違点8]
本件発明3では、マスク時間を1走査期間の1/10以上の長さとしているのに対して、引用発明1では、マスク時間に当該条件を課していない点。

8.相違点についての判断及び本件発明3の進歩性の判断

(1)相違点6及び相違点7について
相違点6及び7は、本件発明1と引用発明1との相違点1及び2と同一である。そして、相違点1は実質的な差異ではないこと、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易であることは4.(1)及び(2)で述べたとおりであるから、同様の理由により、相違点6に係る本件発明3の構成と引用発明1の構成とには実質的な差異がなく、相違点7に係る本件発明3の構成を採用することは、当業者にとって容易に想到できることである。

(2)相違点8について
レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短く、かつ、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前にマスクが開始され、前記ビームディテクト信号の終了後にマスクが解除されるという条件を満たす以外に、マスク時間をどの程度に設定するかは、ビーム検知手段におけるビームディテクト信号とチャタリングによるパルスとの判別能力およびビームディテクト信号の終了後以降におけるチャタリングの発生の可能性に基づき、チャタリングによるパルスをビームディテクト信号と誤認して誤動作を起こすおそれをどの程度まで低減するかを考慮して、当業者が適宜決定し得る設計事項である。

(3)本件発明3の進歩性の判断
相違点6に係る本件発明3の構成と引用発明1の構成とには実質的な差異がない。また、相違点7及び相違点8に係る本件発明3の構成は、設計事項或いは当業者にとって想到容易である。さらに、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明3は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1乃至3に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1乃至3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
レーザ記録装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 感光ドラム上をレーザ光により主走査方向へ走査して潜像を形成し、該潜像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写するレーザ記録装置において、
感光ドラムと関連する所定位置に配置され、レーザ光を検出してビームディテクト信号を発するレーザ光検出素子と、該レーザ光検出素子からのビームディテクト信号の開始に基づき前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力するビーム検知手段と、
前記ビーム検知手段の入力をマスクするマスク手段と、
レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間を設定するマスク時間設定手段とを有し、
前記マスク手段が、前記ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に前記ビーム検知手段の入力をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除することを特徴とするレーザ記録装置。
【請求項2】 前記ビーム検知手段が、該レーザ光検出素子からの信号を複数回読み出すことにより、前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト信号を出力することを特徴とする請求項1のレーザ記録装置。
【請求項3】 前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間が、1走査期間の1/10以上の長さであることを特徴とする請求項1のレーザ記録装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、レーザ記録装置に関し、更に詳細には、レーザ光の検出を行うビームディテクト装置を有するレーザ記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図6を参照して従来技術に係るレーザ記録装置について説明する。レーザ装置12からのレーザ光13が、図示しない定速モータにより回転されているボリゴンミラー14へ出射される。ボリゴンミラー14によって偏向されたレーザ光16は、レンズ15を通過して感光ドラム19に照射される。即ち、レーザ装置12からのレーザ光は、感光ドラム19上に主走査される。レーザ光16によって感光ドラム19上に形成された潜像は図示しない現像機によってトナーが付着され可視化され、該感光ドラム19上のトナーは、図示しない転写機によって用紙20に転写される。
【0003】
レーザ光16の一部は、BDミラー17で反射されBDセンサ18に入射される。BDセンサ18は、印字開始位置検出のためのBD(ビームディテクト)信号を図示しないビームディテクト装置(以下BD検知装置と称する)へ出力する。BD検知装置は、BD信号に基づきBD検知信号を発生する。レーザ記録装置は、このBD検知信号に基づき感光ドラム19上の印字開始位置19aを決定し、レーザ装置12に変調信号を与え、該印字開始位置19aから1ライン分の潜像の形成を開始する。このBDセンサ18からのBD信号は、図示しない波形成形回路に加えられ、波形成形されてからBD検知装置に送られる。図7に波形成形されたBD信号の波形と(図7(A))、BD検知装置の検出信号(BD検知信号)の波形(図7(B))とを示す。このようにBD検知装置は、BD信号に基づきBD検知信号を発生する(立ち上げる)。
【0004】
該波形成形回路では、BDセンサ18からのBD信号の開始時に図中fで示すように信号を急峻に立ち下げる波形成形を行う。即ち、波形立ち下がりの時点fが、レーザ記録装置の印字開始位置19aを決定するタイミングとなるため、波形の立ち下がりがなだらかであると、BD検知信号を発生させるタイミングにずれが発生し易くなるからである。例えば、読み出しのサンプリング時間をレーザ記録装置の1ドットの3分の1の周期に設定した場合には、波形の立ち下がりがなだらかなために読み出しが3回分ずれたとするならば、1ドット分その印字がなされるラインにおいて遅れることになり、これは明らかな印字のずれになるからである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、該波形成形回路では、BDセンサ18からのBD信号の開始時に図中fで示すように信号を急峻に立ち下げる波形成形を行うために、BD信号の終了時には図中gで示すように立ち上がりがなだらかになってしまう。このなだらかな立ち上がりの途中において、BD検知装置は、内部に設定されているしきい値のゆらぎ等により、一旦BD信号の無し(ハイレベル)を検出した後、再度BD信号有りを検出する(g’)いわゆるチャタリング等の誤動作を発生することがある。これが、レーザ記録装置による印字開始位置のずれの原因となることがあった。
【0006】
また、BD信号を一回読み出すことによりBD検知信号を発生させる所謂一度読みの場合には、上記なだらかな立ち上がり以外においても、BD検知装置が、電源ライン等からのノイズによってBD検知信号を発生することがあった。他方、このような誤動作によるBD検知信号の発生を防ぐために、長い時間をかけてBD信号を多数回、例えば5回読み出す方法も考えられるが、その読み出しの間にノイズ等でBD信号が読み出せないことがあると、最初から読み出しを開始することになり、発生させるべきタイミングからかなり遅れてBD検知信号を発生させる原因となることが予想された。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、BD検知信号を1回の主走査において1回のみ正確に発生できるレーザ記録装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、感光ドラム上をレーザ光により主走査方向へ走査して潜像を形成し、該潜像にトナーを付着させ可視画像を形成し、用紙に画像を転写する本発明のレーザ記録装置において、感光ドラムと関連する所定位置に配置され、レーザ光を検出してビームディテクト信号を発するレーザ光検出素子と、該レーザ光検出素子からのビームディテクト信号の開始に基づき前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力するビーム検知手段と、前記ビーム検知手段の入力をマスクするマスク手段と、レーザ光の1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間を設定するマスク時間設定手段とを有し、前記マスク手段が、前記ビーム検知手段のビームディテクト検知信号の出力により、ビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に前記ビーム検知手段の入力をマスクし、前記ビームディテクト信号の終了後における前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間の経過で、該ビーム検知手段のマスクを解除することを特徴とする。また、本発明は好適な態様において、前記ビーム検知手段が、該レーザ光検出素子からの信号を複数回読み出すことにより、前記所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト信号を出力する。また更に、本発明は好適な態様において、前記マスク時間設定手段により設定されるマスク時間が、1走査期間の1/10以上の長さに設定されている。
【0009】
【作用】
上記のように構成されたレーザ記録装置では、1走査の開始時にレーザ光検出素子がレーザ光の照射を受けビームディテクト信号を出力する。ビーム検知手段が、このビームディテクト信号を基に所定位置へのレーザ光の照射を検知し、ビームディテクト検知信号を出力する。これに応じて、マスク手段がビームディテクト信号の開始後であってビームディテクト信号の終了前に該ビーム検知手段の入力をマスクする。そして、前記ビームディテクト信号の終了後におけるマスク時間設定手段により設定される1走査期間と対応する該1周期よりも短いマスク時間の経過、即ち、次の走査開始時においてレーザ光検出素子へレーザ光が照射される前に該ビーム検知手段のマスクを解除する。このため、走査開始時のレーザ光検出素子へのレーザ光の照射から、次の走査開始時のレーザ光検出素子へのレーザ光の照射までの間におけるマスク時間、該ビーム検知手段がマスク手段によりマスクされるため、誤動作を生じなくなる。
【0010】
【実施例】
以下、本発明を具体化した実施例を図を参照して説明する。ここで、本発明のレーザ記録装置の機械的構成については、図6を参照して前述した従来技術のものと同様であるので、ここでは図6を用いて説明を行う。図1は、本発明の第1実施例に係るレーザ記録装置のBD検知装置30のブロック図である。BD検知装置30は、BDセンサ18からの信号を基に、印字開始位置を検出するためのBD検知信号を発生して制御装置40側へ送出する。該制御装置40は、このBD検知信号に基づき印字開始位置を決定し、レーザ装置12に変調信号を与え、感光ドラム19上に潜像の形成を開始する。
【0011】
図1に示すようにこのBD検知装置30は、BDセンサ18からの信号を波形成形する波形成形回路32と、この波形成形されたBDセンサ18からの信号を基にBD検知信号を発生するBD検知回路34と、レーザ記録装置1の主走査時間に相当する1.86ms、該BD検知回路34の読み出し周期125ns等を設定するクロック信号を発生するためのクロック回路36と、後述するマスク回路のマスク時間を設定する周期設定回路37と、BD検知回路34の入力側をマスクするマスク回路38とから成る。
【0012】
ここで、上記BD検知回路34と、周期設定回路37と、マスク回路38との回路構成について図2を参照して更に詳細に説明する。BD検知回路34は、波形成形回路からの入力をゲートするアンドゲート35と、アンドゲート35からの出力をラッチする第1フリップフロップ34b、第2フリップフロップ34c、及び第3フリップフロップ34dとから成る。該第1フリップフロップ34b、第2フリップフロップ34c、第3フリップフロップ34dには、周期125nsのクロック信号が加えられるようになっている。周期設定回路37は、カウンタ37aとデェジタルコンパレータ37bとから成り、カウンタ37aは、周期125nsのクロック信号をカウントしてデェジタルコンパレータ37b側へ出力し、該デェジタルコンパレータ37bは、1回の走査時間である1.86msの1/10に相当する0.186msを設定してF端子からパルス信号を送出するように構成されている。マスク回路38は、フリップフロップ38aから成り、該フリップフロップ38aは、BD検知回路34の第3フリップフロップ34dのD端子からの入力をラッチして、E端子(反転出力)から出力し、このラッチ状態を上記該デェジタルコンパレータ37bのF端子からのパルス信号の入力があるまで維持する。
【0013】
次に、本実施例のレーザ記録装置の動作について図1乃至図3及び図6を参照して説明する。ここで、図3は各回路の1走査周期(1.86ms)における波形を示しており、(C)は図1に示す波形成形回路32の出力を、(D)は図2に示すBD検知回路34の第3フリップフロップ34dのD端子出力を、(E)はマスク回路38のフリップフロップ38aのE端子出力を、(F)は周期設定回路37のデェジタルコンパレータ37bのF端子出力を示している。
【0014】
先ず、制御装置40が、図6に示すボリゴンミラー14を等速で回転させると共に、レーザ装置12からレーザ光13を出射させる。ボリゴンミラー14によって偏向されたレーザ光16は、レンズ15を通過してBDミラー17で反射されBDセンサ18に入射される。BDセンサ18は、BD(ビームディテクト)信号を図1に示すBD検知装置30の波形成形回路32側へ出力する。このBDセンサ18からのBD信号は、該波形成形回路32で図3(C)に示すように該BD信号の発生した時点での立ち下がりjが急峻になるよう波形成形されてからBD検知回路34に加えられる。BD検知回路34に加えられた信号は、図2に示すアンドゲート35の第1入力35aに加えられる。ここでは、後述するように第2入力35b側にマスク回路38のフリップフロップ38aからのハイレベルの出力が加えられているため、該第1入力35aに加えられたBD信号は、そのまま第1フリップフロップ34b側に加えられる。この状態で、125nsのクロック信号が印加されると(図3(D)中の(i)で示す) 、該第1フリップフロップ34bは該BD信号をラッチして第2フリップフロップ34cに加える。この状態で、次の125nsのクロック信号が印加されると(図3(D)中の(ii)で示す) 、該第2フリップフロップ34cはBD信号をラッチして第3フリップフロップ34dに加える。更にこの状態で、次の125nsのクロック信号が印加されると(図3(D)中の(iii)で示す) 、該第3フリップフロップ34dはBD信号をラッチしD端子から出力する。これが図3(D)に示すBD検知信号j’となる。即ち、BD検知回路34は、125nsのタイミングでBD信号を3回読みし、3回ともBD信号が有る(図3(C)に示すロウレベルが続く)ときに、制御装置40側へBD検知信号を送出する。
【0015】
このBD検知信号により、制御装置40は、レーザ光がBDセンサ18に照射されたことを認識する。即ち、このBD検知信号が入力されてから所定時間経過後、感光ドラム19上の印字開始位置19aにレーザ光16が照射されるようになるため、制御装置40は、この所定時間の経過時にレーザ装置12に対して印字用の変調を加え、該印字開始位置19aから1ライン分の潜像の形成を開始する。
【0016】
一方、第3フリップフロップ34dのD端子からの出力は、マスク回路38のフリップフロップ38aへ加えられ、該フリップフロップ38aは、E端子(反転出力)からの出力をロウ側へ切り換える(図3(E)参照)。このロウ側に切り換えられた出力は、アンドゲート35の第2入力35bに加えられる。以後、このアンドゲート35は、第1入力35a側からの入力の有無に関わらず、ロウレベルの出力を維持することになる。即ち、マスク回路38からの信号によりBD検知回路34は、マスクされチャタリング等の誤動作を生じなくなる。
【0017】
他方、周期設定回路37のカウンタ37aは、125nsのクロック信号を計数しており、その計数値をデェジタルコンパレータ37bに加えている。このデェジタルコンパレータ37bは、レーザ記録装置の主走査方向への走査の開始(図3(C)に示すjに相当)から、0.186ms経過した時点(図3(F)に示すk)で、F端子からパルス信号を出力する(なお、この0.186msは、前述したように主走査方向への走査時間1.86msの1/10に対応する)。このパルス信号が加えられると、マスク回路38のフリップフロップ38aはクリアされ、E端子からの出力をハイ側へ切り換える(図3(E)参照)。このハイ側に切り換えられた出力は、アンドゲート35の第2入力35bに加えられる。以後、このアンドゲート35は、第1入力35aへBD信号が入力されると、これを第1フリップフロップ34b側へと出力するようになる。即ち、該BD検知回路34は、マスク回路38によるマスクが解除される。これ以降、次のレーザ光の主走査の開始によりBDセンサ18にレーザ光が照射され、上述した動作が繰り返される。
【0018】
次に、本発明の第2実施例について説明する。この第2実施例の回路動作は前述した第1実施例と略同様である。但し、第1実施例においては、BD検知回路34がBD信号を3回読みしたが、この第2実施例においては、BD信号を1回の読み出しで検出する。この第2実施例の構成は、図1を参照して前述した第1実施例と同様であるので図示及び説明を省略し、BD検知回路34と、周期設定回路37と、マスク回路38との回路構成についてのみ図4を参照して説明する。BD検知回路34は、波形成形回路32からの入力をゲートするアンドゲート35と、アンドゲート35からの出力をラッチする第1フリップフロップ34bとから成る。該第1フリップフロップ34bには周期125nsのクロック信号が加えられるようになっている。周期設定回路37は、カウンタ37aとデェジタルコンパレータ37bとから成り、該デェジタルコンパレータ37bは、1回の走査時間である1.86msの9割に相当する1.674msを設定して出力端子からパルス信号を送出するように構成されている。マスク回路38は、フリップフロップ38aから成り、該フリップフロップ38aは、BD検知回路34の第1フリップフロップ34bの出力端子からの信号をラッチして、このラッチ状態を、上記該デェジタルコンパレータ37bからのパルス信号の入力があるまで維持する。
【0019】
この第2実施例において、図6に示すBDセンサ18にレーザ光が入射されると、BDセンサ18が、BD信号をBD検知装置30の波形成形回路32側へ出力する。このBD信号は、波形成形回路32で波形成形されてからBD検知回路34に加えられる。BD検知回路34に加えられた信号は、図4に示すアンドゲート35の第1入力35aに加えられる。ここでは、第2入力35b側にもマスク回路38のフリップフロップ38aからの出力が加えられているため、該第1入力35aに加えられたBD信号は、そのまま第1フリップフロップ34bに加えられる。この状態で、125nsのクロック信号が加えられると、該第1フリップフロップ34bは該BD信号をラッチし、これをBD検知信号として出力する。即ち、BD検知回路34は、125nsのタイミングでBD信号を1回読みして制御装置40側へBD検知信号として送出する。なお、この第2実施例のマスク回路38によるBD検知回路34のマスク及びマスク解除動作は、上述した第1実施例と同様であるので説明を省略する。この第2実施例においては、BD信号を一回読みにより検知するので読み出しが早い利点がある。
【0020】
次に、本発明の第3実施例の構成について図5のブロック図を参照して説明する。ここで、図1を参照して前述した第1実施例と同様なブロックについては、第1実施例と同じ参照符号を用いるとともに説明を省略する。前述した第1実施例においては、マスク回路38によってBD検知回路34の入力側がマスクされたが、この第3実施例においては、BD検知回路34の出力がゲート回路138に加えられ、ゲート時間以外はマスクされる構成になっている。また、前述した第1実施例においては、マスク回路38のマスク時間がクロックを分集する周期設定回路37によって設定されたが、この第3実施例においては、ゲート回路138に対して、制御装置40側からレーザ光による印字実行中は停止信号が与えられ、この印字の完了、即ち、次の走査が開始されレーザ光がBDセンサ18に入射されるタイミングにおいてのみゲート信号が与えられるように構成されている。この第3実施例の構成においても、上述した第1、第2実施例と同様に動作することができる。
【0021】
なお、第1実施例では、BD検知回路34がマスク回路38による主走査時間の1/10に渡ってマスクされる例について説明したが、第1実施例では、BD信号を3回読みしており、ノイズ等によってBD信号が誤って検出される可能性は低いため、図3(C)に示すBD信号の立ち上がりの完了までマスクが成されていれば実用に耐え得る。このため、マスク回路38によるマスクは、主走査時間の1/10程度で十分である。反対に第2実施例においては、BD検知回路34が、BD信号を1回読みしており、上述した立ち上がり時間以外にもノイズ等によってBD信号を誤って検出する可能性があるため、第2実施例に設定されたように主走査時間の9/10に渡ってマスクされることが望ましい。
【0022】
また、上述した第1、第2、第3実施例においては、BD検知信号のマスクが電子回路により行われる例について説明したが、この発明は、ソウトウェアによっても実現し得るものである。
【0023】
【効果】
以上記述したように本発明のレーザ記録装置によれば、走査開始時のレーザ光検出素子へのレーザ光の照射から、次の走査開始時のレーザ光検出素子へのレーザ光の照射までの間におけるマスク時間、ビーム検知手段の入力がマスク手段によりマスクされるため、1回の主走査中に1つのビームディテクト信号のみを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係るBD検知装置のブロック図である。
【図2】図1のBD検知装置の構成を示す回路図である。
【図3】第1実施例のBD検知装置の波形図である。
【図4】本発明の第2実施例のBD検知装置の構成を示す回路図である。
【図5】本発明の第3実施例のBD検知装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来技術及び実施例に係るレーザ記録装置の主要部の機械的構成を示す斜視図である。
【図7】従来技術のBD検知装置の波形図である。
【符号の説明】
18 BDセンサ
19 感光ドラム
20 用紙
30 BD検知装置
34 BD検知回路
37 周期設定回路
38 マスク回路
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-22 
出願番号 特願平6-242162
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B41J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 番場 得造
谷山 稔男
登録日 2002-08-16 
登録番号 特許第3339752号(P3339752)
権利者 ブラザー工業株式会社
発明の名称 レーザ記録装置  
代理人 中山 千里  
代理人 山本 尚  
代理人 松浦 孝  
代理人 中山 千里  
代理人 田辺 政一  
代理人 山本 尚  
代理人 武藤 勝典  
代理人 武藤 勝典  
代理人 田辺 政一  

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