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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1119393
異議申立番号 異議2003-70720  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-20 
確定日 2005-05-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3326808号「フィルター」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3326808号の訂正後の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.訂正の適否
1-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a〜cのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1の「g/cm3」(2箇所)を、「cm3/cm3」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項2を削除し、それに伴い請求項3を請求項2に繰り上げ、引用項番を訂正する。
(3)訂正事項c
明細書中の「g/cm3」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第1〜2行(2箇所)、第3頁式1)を、「cm3/cm3」と訂正する。
1-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)上記訂正事項aについて
繊維充填密度は、明細書中でW/(V×ρ)とされ(本件特許掲載公報第3頁式1)、W:ウエブ・不織布・フィルターの目付(g/cm2)、V:1m3当たりの体積(cm3/m2)、ρ:繊維の比重(g/cm3)(本件特許掲載公報第3頁第5欄第7〜9行)であるから、繊維充填密度の単位はcm3/cm3となる。したがって、上記訂正事項aは、誤記の訂正を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項bについて
上記訂正事項は請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)上記訂正事項cについて
上記訂正事項cは上記訂正事項aと同じ誤記の訂正を目的とする訂正であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正ずる法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

2.特許異議申立てについて
2-1.取消理由通知の概要
当審の取消理由通知の概要は、(1)請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであり、(2)本件明細書は記載不備であるから、請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第36条第4項及び第5項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、というものである。
2-2.本件発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1、2に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1、2」という。)。
「【請求項1】融点差が20℃以上ある2種以上の熱可塑性樹脂を複合メルトブロ一法により紡糸して得られた平均繊維径が10μm以下である極細複合繊維からなり、繊維間が熱融着されたフィルターにおいて、少なくとも一方の面が凹凸状であり、且つ、フィルターの厚み方向への密度勾配があり、繊維充填密度が、密部では0.02-0.35cm3/cm3、粗部では0.01-0.25cm3/cm3であることを特徴とするフィルター。
【請求項2】フィルターが補強材で補強されたものである請求項1記載のフィルター。」

2-3.特許法第29条第2項違反について(上記2-1.(1))
2-3-1.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:特開昭60-99057号公報:特許異議申立人大和紡績株式会社(以下、「申立人」という)の提出した甲第1号証
(a)「ブローン繊維の凝集し絡み合った塊からなる繊維ウェブであって、ブローン繊維はそれぞれ繊維の横断面の第1部分を通って繊維に沿って縦に延びている第1高分子材料とこの第1高分子材料に接着し且つ繊維の横断面の第2部分を通って繊維に沿って縦に延びている第2高分子材料からなること、該繊維は該第1および第2の高分子材料の重層溶融塊を並んだオリフィスの列から高速ガス流中に押出してその押出された流れがその高速ガス流中で細長化され延伸されて本質的に無限のアスペクト比を有する絡み合った繊維の塊になることによって製造されたことを特徴とする、繊維ウェブ。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「ブローン繊維が平均約10μ以下の直径を有する、特許請求の範囲第1項の繊維ウェブ。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「繊維交差点に於いて高分子材料の融合によって接合されて保形体になっている、特許請求の範囲第1項〜第6項のいずれか一項の繊維ウェブ。」(特許請求の範囲第7項)
(d)「特に独特の例は繊維が一方の成分としてのポリエチレンテレフタレートのような非晶質であるが結晶化できる材料(ポリエチレンテレフタレートはメルトブローン繊維中では非晶性形態で得ることができる)と第2成分としてのポリプロピレンのような熱軟化性ポリマーとからなるようなウエブである。集合ウエブが熱の存在下で成形されまたは順応させられる場合、非晶性ポリエチレンテレフタレートはまずポリプロピレンの軟化点より低い温度で結晶化し、その時点でポリエチレンテレフタレートはポリプロピレンの融点より高い融点を確保する。そうなると、ウエブの温度をさらにポリプロピレンの軟化点以上に上昇させることができ、それによって繊維は繊維の交差点に於けるポリプロピレンの融合によってその交差点で接合する。」(第2頁左下欄第13行〜右下欄第8行)
(e)「この押出された複合繊維は常に半円筒形として配列されているとは限らない。例えば、第1成分がもっと繊維の中心に位置して第2成分が第1成分の周囲を部分的に又は完全に包んでいてもよい。その場合には、第1成分が芯領域になり、そして第2成分が外装になる。2種超の異なる高分子材料が繊維中に、例えば、分離層として、包含されていてもよく、本願では用語「複合(bicomponent)」は2成分より多い成分を有する繊維をも包含すべきものとして使用されている。成分は概して繊維の長さに沿って連続して延びている。」(第3頁左下欄第7行〜第17行)
(f)「このブローン繊維は好ましくはミクロ繊維であり、平均約10μ未満の直径を有している:何故ならば、かかる繊維中の成分はより強く接着し合っているからである。さらに、そのようなサイズの繊維は改善されたろ過効率およびその他の有益な性質を示す。平均5μ未満または1μの直径を有する非常に小さな繊維をブローすることもできるが、もっと大きい繊維例えば平均25μ以上の直径を有する繊維もブローすることができ、それは粗いフィルターウェブのような一定の目的には有効である。」(第3頁左下欄第18行〜右下欄第8行)
(g)「繊維の成分のための高分子材料の代表的な組合わせはポリエチレンテレフタレートとポリプロピレン;ポリエチレンとポリプロピレン;ポリエチレンテレフタレートと鎖状ポリアミド例えばナイロン6;ポリブチレンとポリプロピレン;およびポリスチレンとポリプロピレン、等である。」(第4頁右上欄第19行〜左下欄第4行)
(h)「・・・複合繊維によって与えられる性質の組合わせ例えばポリエチレンテレフタレート繊維の一定の結晶性および造形適性と軟化点に加熱されたポリプロピレンの融着性とによって、繊維間の接合よびウェブの造形が容易に起るので、嵩高で圧降下の低いマスクまたはその他の成形品を製造できる。 」(第5頁右上欄第18行〜左下欄第4行)
(i)「次に実施例によって本発明をさらに説明する。実施例ではジオクチルフタレートエーロゾルに対するろ過品質に関する測定値が報告されているが、それはエア・テクニックス社製Q127DOPペネトロメーターを用いて測定された。 ・・・ろ過指数の品質は繊維ウェブの透過率をウェブによる圧降下mmH2Oで除したものの負の自然対数に等しい。ろ過指数の品質は高い程良い。」(第5頁右下欄第13行〜第6頁左上欄第4行)
(j)第9頁の図2Aおよび図2Bには、ウェブにおける繊維の交差点において、繊維同士が接合している様子が示されている。
(2)刊行物2:特開昭57-75117号公報:申立人の提出した甲第2号証
(a)「流入側の繊維密度が0.01〜0.1、流出側の繊維密度が0.05〜0.4であり、流入側から流出側に至る繊維密度の変化が連続した粗密勾配を有することを特徴とするフィルター。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明は高捕集効率で目詰りの少ない、従って塵埃保持量の大きく寿命の長い高性能フィルターに関するものである。従来、高捕集効率で目詰りの少ないフィルターには繊維の素材や繊維の繊度、繊維密度、厚さなどの異なる不織布を除塵すべき塵燦に応じて流入側を粗な繊維密度に、流出側を密な繊維密度に適宜に組合せた積層フィルターがある。」(第1頁右下欄第2行〜第9行)
(c)「本発明のフィルターは従来の積層フィルターが均一な繊維密度の不織布を多数積層して、階段状の繊維維密度であるのに対し、連続した変化の粗密勾配を有するとともにその形成素材が均質的に分布している単層フィルターであることが特徴である。」(第2頁左上欄第18行〜右上欄第3行)
(d)「本発明における繊維密度とは、フィルターの占める空間体積に対する繊維の占める体積の割合で表示され、その単位はcm3/cm3である。」(第2頁左下欄第7行〜第9行)
(e)「本発明におけるフィルターを構成する繊維の集合体には短繊維ウェブや長繊維ウェブがある。」(第2頁左下欄第13行〜第14行)
(f)「本発明におけるフィルターは、繊維集合体特性としての繊維密度を、流入側から流出側にかけて連続した粗密勾配で制御した単層フィルターであるところが新規であり、加うるに繊維集合体を構成する繊維それ自身の繊維繊度や、繊維断面形状係数である繊維特性は本発明におけるフィルターの高捕集効率で、目詰りが少なく、従って塵埃保持量の大きく寿命の長い性能をより一層効果的に高めるのに又本発明における繊維密度の連続した粗密勾配を保持するために意義あるものなのである。」(第2頁右下欄第9〜19行)
(g)「比較のため、・・・ および6デニールのポリエステル繊維からなる厚さ 2mmの不織布(目付110g/m2)と3デニールのポリエステル繊維からなる厚さ1mmの不織布(目付120g/m2)と1.5デニールのレーヨン繊維からなる厚さ0.5mmの不織布(目付150g/m2)の三層からなる積層フィルターの塵埃捕集性能を前記と同1条件で測定した結果を表2に示した。」(第3頁左下欄下から第7行〜右下欄第5行)
(3)刊行物3:特開昭59-36513号公報:申立人の提出した甲第3号証
(a)「気体や液体中の粒子微粒子を除去するフィルタにおいて、吸入側すなわち表面側のフィルタの構成物の密度が小であって、放出側すなわち裏面側のフィルタの構成物の密度が大のものであって、且つそれが一体となって構成されている事を特徴とした集塵フィルタ。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「気体や液体中の粒子微粒子を除去するフィルタにおいて、フィルタの密度の小の方の側の表面が凹凸を為す状態になっている事を特徴とした上記特許請求の範囲(1)に記載のフィルタ。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「従来も、一枚のフィルタの裏側に細かい目のフィルタを後からはり合わせたフィルタが有ったが目の粗さの異なる二枚のフィルタを先ず作り、その後でそれ等をはり合わせる故に手間が大変にかかりコスト高となった。そして、その上に、そのフィルタの構成物たる繊維の密度はそのフィルタそれぞれにおいて均一である為に、それぞれのフィルタの表側に面する部分の目づまりに依る短寿命化の問題は避けられなかった。これに対して、本発明にかかるフィルタは、1個のフィルタの密度に変化をもたせた故にその欠点を除去し、しかもその製造も単一化出来て省力化された。」(第2頁左上欄第14行〜右上欄第6行)
(d)「第3図は、本発明にかかる集塵フィルタの一実施例の側面図で一部省略されている。・・・ 此の天然繊維1等は、第3図に図示の如く、そのフィルタの空気等の吸入側すなわち表面2側の密度が小であって、その放出側すなわち裏面3側の密度が大となっている。従って、その表面2から吸入された空気等は、その塵等の含有不純物が此のフィルタの構成物である天然繊維1等の全体に平均して吸着される為に、その吸着の効率も上がり、その表面2側の目づまりも起きにくくなった。それ故に、その寿命も倍に伸びることとなった。」(第2頁右上欄16行〜左下欄第8行)
(e)「しかして、此のフィルタの表面2は、第3図に示す如く更に凹凸を為す状態にすれば、その表面積が増えて効率、寿命共に良くなる。」(第2頁左下欄第9〜11行)
(4)刊行物4:特開昭62-289661号公報:申立人の提出した甲第4号証
(a)「ウェブの深さ方向に繊度勾配のある溶融吹込熱可塑性繊維の複合ウェブから形成される濾材であって、組成が同一で繊度が異なる溶融吹込熱可塑性繊維を順次積層状に収集装置に被着させることにより、前記繊度勾配が生じていることを特徴とする濾材。」(特許請求の範囲第5項)
(b)「上記目的は、収集ベルトに沿って隔置した多数のダイヘッドを有する形成ライン上で実施される一般式溶融吹込法により達成される。この結果、該ウェブの第一の(上流側の)層は大きな繊度(超粗大)を有し、従って、孔径は大径粒子が捕捉可能な大きさとなる。中間層は中径粒子が捕捉可能なより小さな繊度(粗大および中繊度)を有する。そして、最終の(下流側の)層は更に小さい繊度(微細)と孔径とを有し、これよりも大きな孔径の層を通過した最少の粒子を捕捉可能としている。その結果、大径及び中径粒子はフィルターの深さ方向に向かって第1及び中間の層により捕捉され、濾材の上流面および微細な最終層の早期閉塞を回避することができる。」(第4頁右下欄第10行〜第5頁左上欄第7行)
(c)「ウェブ12を濾材として使用する場合には、ウェブ12の微細繊維側をフィルターの下流側に使用し、ウェブ12の超粗大繊維側を濾材の上流側に使用する。大径粒子は深さフィルターの超粗大層と粗大層により捕捉されるので、粒子が微細層に移動し微細フィルター層を早期に閉塞してしまうことがない。同様に、中径粒子は中繊度層に捕捉されるので、微細層に移動しこれを早期に閉塞してしまうことがない。」(第6頁右上欄第20行〜左下欄第8行)
(d)第7頁、実験例1において、微細、中繊度、粗大が、それぞれ平均繊度(μm)2.5、5.6、8.1で構成されていることが示されている。(第7頁表)
(5)刊行物5:特開平1-224021号公報:申立人の提出した甲第5号証
(a)「目付が5g/m2〜200g/m2である合成繊維メルトブロー不織布層が少なくとも1層用いられてなる不織布層と、該合成繊維メルトブロー不織布層の布面に対し実質的に平行に存在する賦形物とからなり、該賦形物が山谷折りされてなることにより前記合成繊維メルトブロー不織布が実質的に山谷折り状に賦形されてなることを特徴とするフィルターエレメント。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「賦形物が、金属製の網状物よりなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のフィルターエレメント。」(特許請求の範囲第4項)
(c)「また、本発明において、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系ポリマーからなるスパンボンド不織布層が該メルトブロー不織布層と併用されていてもよい。すなわち、通常、平均繊度が0.005デニール以上、1デニール以下などの細い繊維で構成されている該メルトブロー不織布層は、ダスト付着による目詰りを生じ易く、フィルターの寿命を短くするが、エアーの上流側にカサ高なニードルパンチタイプのスパンボンド不織布層を配置することにより、上記欠点を解消し、フィルターの長寿命化を図ることができる。」(第2頁右下欄第6行〜第17行)
(d)「また、メルトブロー不織布層は、通常破断強力が弱いので、これを補強するために、熱接着タイプのスパンボンド不織布をエアー流最下流側にまたはメルトブロー不織布層の内層に用いることができる。」(第3頁左上欄第1行〜第5行)
(6)刊行物6:特開昭49-6199号公報:申立人の提出した甲第6号証
(a)「主としてランダムに配置された実質的に連続的な合成有機質重合体繊維物質より成り、その厚さにおける少くとも2つの異なる位置において密度が少くとも約10%相違していることを特徴とする自己結合される環状円筒形不織構造体。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「ランダムに配置された合成繊維物質の環状円筒形の自己結合構造体を製造する方法において先ず実質的に連続的なフィラメント形成合成有機質重合体物質を、液相で繊維状物質を形成する条件でフィラメント流として、回転収集装置に向けて押出し、該フィラメント流の方向へ向く主たる力成分をもっている複数の集束するガス流を利用して上記の押出体を細くし、この繊維状物質が該収集装置に衝たる時に粘稠性でその前の層に粘着して自己結合した構造体を形成するようにし、次に、上記の収集装置上に所定の厚さが形成された後に、(i)フィラメント形成物質の温度、(ii)押出速度、(iii)該収集装置の回転速度、(iv)押出装置と収集装置の間隔または(v)収集装置上の遊動ロールの重量の中の少くとも1つが上記の最初の押出に対して変化された条件で上記の物質を押出して、これにより、密度がその直ぐ前の層に対して相対的に異なっている環状層を形成し、その後、この繊維の収集を停止することを特徴とする方法。」(特許請求の範囲第2項)
(b)「環状のフィルターカートリッジを使用する多くの濾過の目的に対して、外部から液体を導入しこれを径方向内方に通過させるのが普通である。このような使用において濾過が進んで固体粒が蓄積するに伴ってこれは最外層内にたまり、内方の層がその容量まで使用されてしまうよりもずっと以前にフィルタを交換しなければならない。それ故、本発明によれば、構造体は環の内側面よりも密度の低い外層または内層を備なえている。このような構成は、収集装置によって収集された構造体の密度が順次に低下するよ効こ押出条件または収集条件を順次に変化することによって達成され、・・・ 」(第3頁右下欄第11行〜第4頁左上欄第13行)
(c)「カートリッジを構成する繊維の実質的に全部が0.5-50ミクロンの範囲内に入る直径を有していて好ましい状態では約1ミクロン-約20ミクロンの範囲内に入る。カートリッジフィルタの如何なる部分でもその密度は重合体基質の密度の50%以下である。・・・好ましくは密度は0.1-0.5gm/ccの範囲にある。」(第6頁右上欄第14行〜左下欄第7行)
(d)「半径方向に沿って外方に向けてフィルタの種々の部分の個々の密度測定を行なった。・・・リングの密度はその重量と計算された容積から計算された。最内部、中央部、最外部のリングの密度はそれぞれ約0.287gm/cc、0.230gm/cc、0.220gm/ccであった。」(第9頁右上欄第9行〜左下欄第3行)
(e)第10頁の第1表には、例1において作製した各サンプルの外側部、中間部、内側部の見掛け密度(g/cc)が示されている。
(f)第14頁の第4表には、例7において作製した各サンプルの外側部、中間部、内側部の見掛け密度(g/cc)が示されている。
(g)第15頁の第5表には、例8において作製した各サンプルの外側部、中間部、内側部の見掛け密度(g/cc)が示されている。
(h)第16頁の第6表には、例9において作製した各サンプルの外側部、中間部、内側部の見掛け密度(g/cc)が示されている。

2-3-2.対比・判断
(1)本件発明1について
刊行物1の上記(1)(a)には、「ブローン繊維の凝集し絡み合った塊からなる繊維ウェブであって、ブローン繊維はそれぞれ繊維の横断面の第1部分を通って繊維に沿って縦に延びている第1高分子材料とこの第1高分子材料に接着し且つ繊維の横断面の第2部分を通って繊維に沿って縦に延びている第2高分子材料からなること、該繊維は該第1および第2の高分子材料の重層溶融塊を並んだオリフィスの列から高速ガス流中に押出してその押出された流れがその高速ガス流中で細長化され延伸されて本質的に無限のアスペクト比を有する絡み合った繊維の塊になることによって製造されたことを特徴とする、繊維ウェブ」記載されている。
上記(1)(b)には、「ブローン繊維が平均約10μ以下の直径を有する」ことが記載されている。
また、上記(1)(c)には、繊維ウエブが「繊維交差点に於いて高分子材料の融合によって接合されて保形体になっている」ことが記載されている。
また、上記(1)(d)、(h)には、繊維間の接合が「ウエブの温度をさらにポリプロピレンの軟化点以上に上昇させることができ、それによって繊維は繊維の交差点に於けるポリプロピレンの融合によってその交差点で接合する」ことや、「加熱されたポリプロピレンの融着性」によって起こることが記載されている。
また、上記(1)(h)には、「嵩高で圧降下の低いマスクまたはその他の成形品を製造できる」ことが記載されている。
これらの記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には「第1および第2の高分子材料の重層溶融塊を並んだオリフィスの列から高速ガス流中に押出してその押出された流れがその高速ガス流中で細長化され延伸されて本質的に無限のアスペクト比を有する、繊維に沿って縦に延びている第1高分子材料とこの第1高分子材料に接着して繊維に沿って縦に延びている第2高分子材料からなるブローン繊維からなり、ブローン繊維径が平均約10μ以下である、繊維間が熱融着されたマスク」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「第1および第2の高分子材料の重層溶融塊を並んだオリフィスの列から高速ガス流中に押出してその押出された流れがその高速ガス流中で細長化され延伸されて本質的に無限のアスペクト比を有する、繊維に沿って縦に延びている第1高分子材料とこの第1高分子材料に接着して繊維に沿って縦に延びている第2高分子材料からなるブローン繊維」、「マスク」は、本件発明1の「2種以上の熱可塑性樹脂を複合メルトブロ一法により紡糸して得られた極細複合繊維」、「フィルター」にそれぞれ相当するから、両者は「2種以上の熱可塑性樹脂を複合メルトブロ一法により紡糸して得られた平均繊維径が10μm以下である極細複合繊維からなり、繊維間が熱融着されたフィルター」という点で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件発明1では、熱可塑性樹脂の「融点差が20℃以上ある」のに対して、刊行物1発明では、その点が記載されていない点
相違点(ロ):本件発明1では、平均繊維径が10μm以下である極細複合繊維からなるフィルターが「少なくとも一方の面が凹凸状であり、且つ、フィルターの厚み方向への密度勾配があり、繊維充填密度が、密部では0.02-0.35cm3/cm3、粗部では0.01-0.25cm3/cm3である」のに対して、刊行物1発明では、その点が記載されていない点
これら相違点のうち相違点(ロ)を検討するが、特に、平均繊維径が10μm以下である極細複合繊維からなるフィルターが「フィルターの厚み方向への密度勾配があり、繊維充填密度が、密部では0.02-0.35cm3/cm3、粗部では0.01-0.25cm3/cm3である」の点について検討する。
刊行物2には、流入側の繊維密度が0.01〜0.1cm3/cm3、流出側の繊維密度が0.05〜0.4cm3/cm3であり、流入側から流出側に至る繊維密度の変化が連続した粗密勾配を有することを特徴とするフィルターが記載されている。
刊行物3には、吸入側のフィルタの構成物の密度が小であって、放出側すなわち裏面側のフィルタの構成物の密度が大の集塵フィルタが記載されている。
刊行物4には、ウェブの深さ方向に繊度勾配のある溶融吹込熱可塑性繊維の複合ウェブから形成される濾材が記載されている。
刊行物6には、その厚さにおける少くとも2つの異なる位置において密度が少くとも約10%相違している自己結合される環状円筒形不織構造体が記載されている。
してみると、フィルター技術において、フィルターの厚み方向への密度勾配をつけることは普通に行われていることがわかる。
ところで、刊行物1には、フィルターの厚み方向への密度勾配については何も教示されていない。
したがって、刊行物1発明において、フィルターの厚み方向への密度勾配をつけることの容易想到性について検討すると、刊行物1には、「粗部」に関連して、「もっと大きい繊維例えば平均25μ以上の直径を有する繊維もブローすることができ、それは粗いフィルターウェブのような一定の目的には有効である。」(上記(1)(f))と記載されている。
してみると、刊行物1では、「粗部」を形成する際に、刊行物1発明の「平均10μ以下」の繊維ではなく、平均10μ以下より太い平均25μ以上の繊維を使用することによって「粗部」を形成することを教示しているとみるべきである。
したがって、刊行物1発明において、フィルターの厚み方向への密度勾配をつけるとしても、「粗部」は平均10μ以下より太い平均25μ以上の繊維を使用するということにならざるを得ない。
つまり、刊行物1の教示するところに従えば、刊行物1発明において、フィルターの厚み方向への密度勾配をつけるとしても、粗部の平均繊維径が10μm以下とはならないということである。
他の刊行物5には、山谷折り状に賦形されたフィルターエレメントが記載されているだけである。
以上のことから、刊行物1〜6を組み合わせても、上記相違点(ロ)の構成は当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
そして、本件発明1は、明細書記載の効果を奏するものと云える。
したがって、本件発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)と同じ理由で、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2-4.特許法第36条違反について(上記2-1.(2))
記載不備を列挙すると、(1)請求項2のフィルターが製造することができるように記載されていない、(2)本件発明1において、繊維充填密度が、g/cm3で表されるものか、cm3/cm3で表されるものか明確でない、というものである。
しかしながら、これらの点は、(1)請求項2を削除する、(2)cm3/cm3と訂正する、という上記訂正によって解消された。

3.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1、2に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願にされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フィルター
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】融点差が20℃以上ある2種以上の熱可塑性樹脂を複合メルトブロー法により紡糸して得られた平均繊維径が10μm以下である極細複合繊維からなり、繊維間が熱融着されたフィルターにおいて、少なくとも一方の面が凹凸状であり、且つ、フィルターの厚み方向への密度勾配があり、繊維充填密度が、密部では0.02-0.35cm3/cm3、粗部では0.01-0.25cm3/cm3であることを特徴とするフィルター。
【請求項2】フィルターが補強材で補強されたものである請求項1記載のフィルター。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は複合メルトブロ-紡糸法により得られた極細複合繊維からなり、濾過面が凹凸状に成形された濾過ライフの長い精密濾過用フイルタ-に関する。
【0002】
【従来の技術】
メルトブロ-法により得られた極細繊維を用いたフイルタ-は、濾過精度が良いので医薬品や電子機器の製造時に用いられる液体のプレフイルタ-として、或はクリ-ンル-ム用エアフイルタ-等として採用されている。特開昭58-89924号公報にはメルトブロ-法により製造した繊維径の異なる複数枚のウエブを、スパンレース法あるいは熱カレンダー法により一旦不織布とし、この不織布を繊維径の順に積層した密度勾配型のフイルタ-が開示されている。このフイルタ-は密度勾配型であるので濾過精度が良いという長所がある。反面、濾過材として用いられている不織布がスパンレース法によるものでは繊維同士は単に絡合しているのみなので、濾過の過程で繊維が脱落したり、あるいは強度不足、形状保持性不足等の課題があり、また熱カレンダー法によるものでは熱圧着過程での繊維の溶融による膜状化、細孔径の不均一化等が発生するので濾過ライフが短く、濾過精度の安定性が劣るという課題がある。
【0003】
特開昭59-80313号公報には、細繊度繊維、太繊度繊維、及び熱融着性繊維からなる混合繊維の混合比を順次変化させて密度勾配型とし、かつ繊維同士を熱融着繊維により接着させたフィルターが開示されている。しかし、このフイルタ-に用いられている細繊度繊維の繊維は、通常の紡糸法により得られた単糸繊度1デニール程度のステ-プルであり、濾過精度もせいぜい20μm程度と劣るので精密濾過用フイルタ-としては使用できない。特開昭53-114976号公報には通常の複合紡糸法により得られた熱融着性複合繊維からなる不織布を、また特開平1-224021号公報には通常のメルトブロ-法により得られた極細繊維からなる不織布を、それぞれ波状に成型したフイルタ-が開示されている。又、特開昭60-99057号公報には、融点の異なる2種の熱可塑性樹脂を用いた複合メルトブロ-紡糸法により得られた極細複合繊維からなり、繊維の交点が熱融着された不織布を顔面に沿うように成型したマスクが開示されている。しかし前記各号公報に開示されたフイルタ-やマスク等は、通常の太繊度ステ-プルを用いたものであつたり、メルトブロ-法極細繊維を用いたものであつても、熱圧着時の単繊維の溶融による膜状化や細孔径の不均一化等の欠点が存在したり、或は密度勾配型ではない、等の理由で濾過ライフや濾過精度が劣るという課題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は濾過ライフが長く、濾過精度がよくしかも形状保持性のよい精密濾過用フイルタ-を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意研究の結果、複合メルトブロー紡糸法により得られた極細複合繊維ウェブを使用し、フィルターの厚み方向に繊維充填密度勾配をつけ、濾過面を凹凸状に成型して表面積を増加させ、且つ繊維の交点を熱融着することにより所期の目的が達成されることを知り本発明を完成するに至った。即ち、(1)本願第1の発明は、融点差が20℃以上ある2種以上の熱可塑性樹脂を複合メルトブロー法により紡糸して得られた平均繊維径が10μm以下である極細複合繊維からなり、繊維間が熱融着されたフィルターにおいて、少なくとも一方の面が凹凸状であり、且つ、フィルターの厚み方向への密度勾配があり、繊維充填密度が、密部では0.02-0.35cm3/cm3、粗部では0.01-0.25cm3/cm3であることを特徴とするフィルターであり、(2)本願第2の発明は、密度勾配が、極細複合繊維の繊維径をフィルターの厚み方向に順次変えながら積層して形成されたものである上記(1)に記載のフィルターであり、
(3)本願第3の発明は、フィルターが補強材で補強されたものである上記(1)に記載のフィルターである。
【0006】
以下本発明を詳細に説明する。本発明のフイルタ-に用いる極細複合繊維には、ポリオレフイン、ポリエステル、ポリアミド等の繊維形成が可能な熱可塑性樹脂の中から、融点が20℃以上異なる2種の樹脂を選び複合メルトブロ-紡糸したものが用いられる。そのような樹脂の組み合わせの例として、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリアミド/ポリエチレンテレフタレ-ト等の組合せを示すことができる。複合形式としては、両樹脂を並列型、或は低融点樹脂を鞘側に、高融点樹脂を芯側に配した鞘芯型、もしくは低融点樹脂を海側に、高融点樹脂を島側に配した海島型が例示できる。繊維同士の接点を低融点の樹脂で接着させる目的でウェブを熱処理する際、高融点の樹脂まで軟化ないし溶融すると繊維が膜状化し易く、フィルターの細孔径の不均一や濾過抵抗の増加を招くので、高融点成分を溶融ないし軟化させることなく、低融点成分による強固な融着を発生させるためには両樹脂の融点差が20℃以上である異が望ましい。又、低融点樹脂と高融点樹脂の複合比は、繊維間の接着を十分な強度のものとするために、重量比で20/80から80/20好ましくは30/70から70/30である。このような繊維を複合メルトブロ-紡糸法で紡糸する方法としては、特開昭60-99057号公報、特開平2-289107号公報に開示されたような複合紡糸口金を用い、複数の熱可塑性樹脂をそれぞれの押出機から紡糸口金に供給し、紡糸口金から押し出された溶融樹脂を高速の熱風で吹き飛ばし、捕集コンベア-上に極細の複合繊維ウエブとして堆積させる方法が利用できる。複合メルトブロ-法では繊維径が樹脂の押出量を増やせば太くなり、熱風の流速を増やせば細くなるので、これらの条件のいずれか一方、或は両方を変化させることにより繊維径が変化したウェブを得ることが出来る。フィルターを構成する繊維は、平均繊維径が10μm以下であることが好ましい。平均繊維径が10μmを超えると濾過精度が10μmより悪くなるので好ましくない。
【0007】
本発明のフイルタ-は、濾過面が凹凸状に成形されており、且つ厚み方向に密度勾配があり、しかも繊維間の交点が熱融着されたものである。本発明でいう凹凸状とは、フィルターの濾過面をマクロ的に観た場合平滑でなく、凹部の底点と凸部の頂点との差が約1mm以上ある何等かの凹凸状を形成した状態をいう。具体的な形状としては、鋭角あるいはU字形に折り曲げた直線状あるいは波状の襞付けされたもの、点状や溝状の独立した凹部が散在したもの等の形が例示できる。このような凹凸構造をとることにより濾材の表面積を増加させ、濾過ライフを長くする。濾過は、凹凸状側を濾過すべき流体の導入側として行う。密度勾配型とは、フイルタ-の厚み方向における繊維充填密度が段階的に、又は連続的に変化した状態をいう。繊維充填密度は下記式1で表わされ、5個の試料の平均値で示す。
繊維充填密度(cm3/cm3)=W/(V×ρ) 式1
W:ウエブ・不織布・フィルターの目付(g/m2)
V:1m2当りの体積(cm3/m2)
ρ:繊維の比重(g/cm3)
繊維充填密度はフィルター全体で約0.01-0.35の範囲であつて、密部では0.02-0.35、粗部では0.01-0.25の範囲にあるものが好ましい。密部の繊維充填密度が0.01未満の場合には精密濾過は不可能であり、0.35を越える場合、濾過すべき流体の通過抵抗が大きくなり過ぎるので何れも好ましくない。
【0008】
本発明のフイルタ-は種々の方法で製造することができる。例えば、融点差が20℃以上あるような2種の熱可塑性樹脂を、複合メルトブロ-法により紡糸して平均繊維径が一定の極細繊維ウェブを得、このウェブを温度や圧力、時間等の加熱条件を変えて繊維充填密度の異なる何種かの熱融着型不織布とした後、この不織布を密度の順に積層し金型や襞付け加工機を用いて表面を凹凸状に成形する方法がある。また、紡糸時の押出量や噴出気体圧力等の紡糸条件を順次変えて平均繊維径の異なる複数の極細繊維ウェブを得、これらを平均繊維径の順に積層し、加熱、成形する方法がある。極細繊維ウェブを捕集コンベア-上に配置された多孔質で凹凸状の成型材上に直接吹き付け堆積させた後、表面側と裏面側の温度条件を変えて加熱して密度勾配をつけ加熱成形する方法、あるいは、捕集コンベアに吹き付けられた気体を捕集コンベア-下部より吸引排気する際にできるウェブの表面側と裏面側の吸引力の差を利用し、裏面側が密、表面側が粗である繊維ウエブを得て加熱成形する方法もある。更に、平均繊維径が順次異なる極細繊維ウェブを紡出し、これを平坦な捕集材上に、または多孔質で凹凸の成型基材上に、繊維径の順に堆積し、その後加熱条件や成型条件を変え成型する方法等がある。又、本発明のフイルタ-において、強度や形状保持性を一層改善する目的でフィルターの何れか一方の表面、又は両面、もしくは内部に補強材を設けることができる。そのような補強材として、スパンボンド法不織布、熱融着型複合繊維製不織布、熱融着型複合モノフイラメント製ネツト、金網等が例示できる。該補強材は繊維径が極細繊維よりも太く且つ通気性のあるものであればよい。該補強材で補強されたものは、低目付フイルタ-であつても成型後の形状保持性が一層良くなり、さらに強度も高いものとなる。
【0009】
以下に本発明を実施例で説明する。なを各例において用いた濾過性能等の測定法を以下に記載する。
濾過精度:30リツトルの水を入れた水槽、ポンプ、及び濾過器からなる循環式濾過試験装置を用いる。濾液排出側にハニカム形金属製補強材を備えた25cm×22cmの大きさの濾過器のハウジングに試料フイルタ-一個を取付、水を毎分10リツトルの流量で循環させながら、水槽にケ-キ(カ-ボランダム#4000)を5グラム添加する。ケ-キ添加より3分後に採取した濾過水100ミリリツトルを、0.6ミクロン以上の粒子を捕集できるメンブレンフイルタ-で濾過する。メンブレンフイルタ-上に捕集された粒子のサイズを粒度分布測定機で測定し、最も大きな粒子のサイズ(最大流出径、ミクロン)を試料フイルタ-の濾過精度とする。
濾過ライフ:前記濾過試験装置に試料フイルタ-一個を取付、水を毎分30リツトルの流量で循環させる。水槽に火山灰土壌下層土粉末(平均粒径12.9ミクロン、粒径が1.0-30ミクロンの範囲ものが99重量%以上)を20グラム添加して循環濾過を続け、水槽内の水が透明になった時点でフイルタ-前後の差圧を測定する。この粉末の添加と差圧の測定の操作を差圧が3kg/cm2になるまで繰り返す。1回目の粉末添加から差圧が3kg/cm2になるまでまでの時間を濾過ライフとした。
平均繊維径:ウェブ、不織布、或はフイルタ-から切取った試料片の走査型電子顕微鏡写真を用いて測定した100本の繊維径の平均値。
【0010】
(実施例1、比較例1)
メルトフロレ-ト120(g/10分:230℃、2160g)、融点163℃のポリプロピレンを第1成分とし、メルトフロレ-ト124(g/10分:190℃、2160g)、融点122℃の線状低密度ポリエチレンを第2成分とし、孔径0.3mm、孔数501の並列型メルトブロ-紡糸口金を用い、複合比1/1(重量比)、紡糸温度を第1成分260℃、第2成分260℃、総吐出量120g/分の条件で複合紡糸し、温度330℃の空気を圧力2.1kg/cm2で導入し金網コンベア-上に吹き付け、目付け130g/m2、平均繊維径1.8μmのウェブを得た。このウェブをカレンダ-ロ-ルを用い温度105℃で熱圧着し、厚み1.17mm、繊維密度0.12の不織布(不織布a)を得た。この不織布とは別に、前記ウェブをフラツトなステンレス板と、山の高さ4mm、山間ピツチ5mmの鋭角の波型のステンレス製コルゲート板にはさみ、温度130℃で4分間加熱処理し、表面が凹凸状で裏面がフラツトな不織布(不織布b)を得た。成型後の不織布は山の高さ4mm、谷部の厚さ1.2mm、繊維密度0.044であつた。不織布aを不織布bのフラツトな面に接するように積層し、熱風型加熱機を用いて温度128℃で1分間加熱して2層が熱融着したフイルタ-を得た。このフイルタ-の凹凸状側の表面積は1.89m2であつた。この凹凸状側を液体の導入側として濾過性能試験を行ったところ、濾過精度は1.0μmで、濾過ライフは14分であつた(実施例1)。一方、比較例として不織布aのみで濾過性能試験を行ったところ、濾過精度は1.1μmであったが濾過ライフは3分であり、濾過ライフが短いものであった(比較例1)。以上の結果より、密度勾配型で且つ濾過面が凹凸状に成形された本願発明のフィルターは、従来のメルトブロー法によるフィルターより濾過精度が良く且つ濾過ライフも長いことが分かる。
【0011】
(実施例2、比較例2)
固有粘度0.59、融点252℃のポリエチレンテレフタレ-トを第1成分とし、メルトフロレ-ト380(g/10分:230℃、2160g)、融点163℃のポリプロピレンを第2成分として用い、実施例1と同じ紡糸装置を用い、複合比1/1(重量比)、紡糸温度を第1成分320℃、第2成分240℃、総吐出量120g/分の条件で並列型に複合紡糸し、温度370℃の空気を圧力0.8kg/cm2で導入して金網コンベア-上に吹き付け、目付け90g/m2、繊維径8.6μmのウェブ(A)を得た。その後空気圧を1.4kg/cm2に上げ、目付け90g/m2、繊維径4.1μmのウェブ(B)を得た。更に空気圧を1.9kg/cm2に上げ、目付け190g/m2、繊維径1.2μmのウェブ(C)を得た。ウェブ(C)をカレンダ-ロ-ルを用い温度155℃で熱圧着し、厚み0.85mm、繊維密度0.19の不織布を得た(不織布C)。つぎに、前記ウェブ(B)とウェブ(A)とを積層し、この積層ウェブをフラツトなステンレス板と山の高さ4mm、山間ピツチ5mmの鋭角の波型のステンレス製コルゲート板にはさみ、温度165℃で5分間加熱処理し、表面(ウエブ(A)側)が凹凸状で裏面(ウェブ(B)側)がフラツトな不織布(不織布D)を得た。成型後の不織布は山の高さ4mm、谷部の厚さ1.3mm、繊維密度0.047であつた。不織布Dの裏面側に不織布Cを積層し、熱風型加熱機を用いて温度172℃で3分間加熱し、繊維径が表面側から裏面側へ太いものから細いものへ3層に順次変化し、且つ繊維同士の接点が熱融着したフイルタ-を得た。このフイルタ-の凹凸状側の表面積は1.89m2であつた。この凹凸状側を液体の導入側とし、濾過性能試験を行ったところ、濾過精度は0.9μm、濾過ライフは11分であつた(実施例2)。一方、比較例として不織布Cのみで濾過性能試験を行ったところ濾過精度は1.1μmであったが、濾過ライフは2分であり、濾過ライフが短いものであった(比較例2)。
【0012】
(実施例3、比較例3)
実施例2で使用したメルトフロレ-ト380のポリプロピレンを第1成分とし、実施例1で使用したメルトフロレ-ト124の線状低密度ポリエチレンを第2成分とし、実施例1と同じ紡糸装置を用い、複合比1/1(重量比)、紡糸温度を第1成分240℃、第2成分240℃、総吐出量120g/分の条件で紡糸し、温度330℃の空気を1.8kg/cm2で導入し金網コンベア-上に配置された成型基材上に吹き付け、目付け420g/m2、平均繊維径2.4μmのウェブを得た。 なお成型基材としては、ポリエチレンテレフタレ-トを芯とし、高密度ポリエチレンを鞘とする単糸繊度800d/fの複合モノフイラメントを、経糸緯糸が共に12本/25mmの密度の平織りし、この織布を山の高さ2.5cm、山間ピツチ2.5cmの波形に加熱成型すると共に繊維間を熱融着させた襞付き網を用いた。なお成型基材に吹き付けられた気流はコンベア-下部の吸引装置により、通常のメルトブロー紡糸より5割吸引量を増して除去した。ウェブが成型基材上に堆積するにつれ。、ウェブの下部は吸引作用により繊維密度が大きく、ウェブの上部は吸引作用が弱く作用するので繊維密度が小さく、全体として密度勾配型のウエブとなった。このウエブを熱風型加熱機を用いて、成型基材ごと温度130℃で5分間加熱処理し、極細繊維の交点及び極細繊維と成型基材の接点が十分に熱融着したフイルタ-を得た。このフイルタ-は平均厚みが1.4cm(モノフイラメントを除く)、山間ピツチ2.5cm、平均繊維充填密度が0.014、山頂部の表面側の繊維密度が0.010、山頂部裏面側の繊維密度が0.021の密度勾配型であつた。このフイルタ-は凹凸部側の表面積が2.24m2であつた。この該フイルタ-の粗密度側を液体の導入側として濾過性能試験を行ったところ、濾過精度は4.0μm、濾過ライフは19分であつた(実施例3)。一方、比較例として成型基材を用いずに、直接金網コンベア-上にウェブを堆積させ、吹き付けた気流はコンベア-下部の吸引装置により通常より吸引力を弱めて吸引除去した。得られたウェブは、目付け420g/m2、繊維径2.4μmであつた。このウエブを熱風型乾燥機を用いて130℃で5分間加熱処理し、極細繊維の交点が十分に熱融着したフイルタ-を得た。このフイルタ-は平均繊維充填密度、表面及び裏面側の繊維充填密度が共に0.014であり、密度勾配のないものであった。このフイルタ-の濾過性能試験を行ったところ、濾過精度は7.9μm、濾過ライフは13分であり、濾過ライフの短いものであった(比較例3)。
【0013】
【発明の効果】
本発明のフイルタ-は、複合メルトブロ-紡糸法により得られた熱融着型で極細の複合繊維で構成され、フィルターの厚み方向に繊維充填密度が変化した密度勾配型であり、且つ繊維同士がその接点で強固に融着されている。しかもこのフイルタ-は濾過すべき流体の導入側が凹凸状に成型されて、濾過面積が増大されている。従つてこのフイルタ-は精密濾過が可能な上に濾過ライフが長い。又モノフイラメントネツト、金網、太繊度糸で構成された不織布、等の補強材で補強されたものは上記効果にプラスし、強度が大である、形状保持性がよい等の効果を併わせ持つ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-04-15 
出願番号 特願平4-58894
審決分類 P 1 651・ 534- YA (B01D)
P 1 651・ 121- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
鈴木 毅
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3326808号(P3326808)
権利者 チッソ株式会社
発明の名称 フィルター  

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