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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1119409
異議申立番号 異議2003-71045  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-22 
確定日 2005-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3338544号「乾燥方法及び乾燥装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3338544号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3338544号の請求項1および2に係る発明についての出願は、平成6年2月17日に特許出願され、平成14年8月9日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、全ての請求項に係る特許について、異議申立人湯口保浩および高橋友之輔によりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、全ての請求項に係る特許に対して取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月30日に特許異議意見書が提出されるとともに訂正請求がなされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
上記訂正請求による訂正の内容は次のとおりのものである。なお、下線は訂正個所を明確化するために、当審で付したものである。
(1)訂正事項a
本件特許権の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するようにしたことを特徴とする乾燥方法。」から、
「【請求項1】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するとともに、乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止するようにしたことを特徴とする乾燥方法。」に訂正する。
(2)訂正事項b
本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項2を、
「【請求項2】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルとを備えた乾燥装置。」から、
「【請求項2】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルと、スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部とを備えた乾燥装置。」に訂正する。
(3)訂正事項c
本件特許明細書等の段落【0005】(特許掲載公報第3欄第13-17行参照)を、「【課題を解決するための手段】上記課題を解決すべく本発明に係る乾燥方法は、被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するようにした。」から、
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決すべく本発明に係る乾燥方法は、被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するとともに、乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止するようにした。」に訂正する。
(4)訂正事項d
本件特許明細書等の段落【0006】(特許掲載公報第3欄第18-24行参照)を、「また、本発明に係る乾燥装置は、板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられ、その揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルとを備えるようにした。」から、
「また、本発明に係る乾燥装置は、板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられ、その揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルと、スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部とを備えるようにした。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項1に記載された発明の乾燥方法について、「乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止する」との限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、特許明細書等の段落【0010】には、「・・・またスプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケース21の内側壁には上下に離間して2種類のスカート部29,30を設け、・・・」(特許掲載公報第3欄第46-49行参照)と記載されているから、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、訂正事項aの訂正によって発明の目的が変更されるものではないので、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、請求項2に記載された発明の乾燥装置について、「スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部」を備えるとの限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、特許明細書等の段落【0010】には、「・・・またスプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケース21の内側壁には上下に離間して2種類のスカート部29,30を設け、・・・」(特許掲載公報第3欄第46-49行参照)と記載されているから、訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、訂正事項bの訂正によって発明の目的が変更されるものではないので、訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項c,dについて
訂正事項c,dは、いずれも訂正事項a,bで訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性をとるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、上記訂正は特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについての判断
1 特許異議の申立て及び取消しの理由の概要
特許異議申立人湯口保浩は、証拠として、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証:特開昭63-73626号公報(以下、「刊行物1」という。)、甲第2号証:特開平4-304636号公報、甲第3号証:特開平4-287922号公報(以下、「刊行物2」という。)を提出し、本件の請求項1および2に係る特許が特許法第29条の規定に違反してされたものであり、本件の請求項1および2に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
また、特許異議申立人高橋友之輔は、証拠として、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証:実願昭61-88963号(実開昭62-199946号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。)、甲第2号証:特開平2-83927号公報、甲第3号証:特開平4-304636号公報(異議申立人湯口保浩が提出した甲第2号証)、甲第4号証:特開平4-287922号公報(異議申立人湯口保浩が提出した甲第3号証)を提出し、本件の請求項1および2に係る特許が特許法第29条の規定に違反してされたものであり、本件の請求項1および2に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
当審で通知した取消しの理由の概要は、上記特許異議の申立ての理由と同様のものである。

2 本件発明
前記第2の3のとおり訂正が認められたので、本件の請求項1および2に係る発明(以下、「本件発明1および2」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1および2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するとともに、乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止するようにしたことを特徴とする乾燥方法。」
「【請求項2】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルと、スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部とを備えた乾燥装置。」

3 刊行物記載の発明(事項)
刊行物1ないし3には、以下の事項が記載されていると認める。
(1)刊行物1
ア 第3頁左上欄第9-12行
「第1図は本発明の一実施例による乾燥装置の要部を示す断面図である。この実施例では、ウエットケミカルによって洗浄したウエハを回転乾燥させる例について説明する。」
イ 第3頁左下欄第14行-右下欄第1行
「また、前記一対の近接板5の中央部分には、前述のように、それぞれ清浄ガス、すなわち、クリーンエアー9を分散供給する分散孔7,8が配設されている。この分散孔7,8は、クリーンエアー供給部10,11から送り出される矢印で示されるクリーンエアー9を、クリーンエアー供給パイプ12,13を介して供給するようになっている。」
ウ 第3頁右下欄第18行-第4頁左上欄第7行
「排気機構は、前記排気部16,跳ね返り防止筒15,排気パイプ17,吸気孔18,からなり、吸気孔18から空気19を吸い込みつつ排気する。この結果、排気部16の排気動作によって、吸気孔18から吸い込まれた空気19は、排気パイプ17内を通って排気され、排気機構自身が排気流を構成するため、エジェクト作用によって処理室6内の洗浄水粒を含むガスを吸い出し、強制排気を行うようになっている。」
エ 第4頁左下欄第6-13行
「つぎに、所定の回転シーケンスによってスピンチャック2が回転し、ウエハ1の乾燥が行われる。この乾燥時、クリーンエアー9が処理室6の上下部から強制的に供給されるとともに、排気部16によって強制的に排気される。この際、ウエハ1の主面を流れるクリーンエアー9は、ウエハ1の主面に沿って層流となって流れ、跳ね返り防止筒15内に入る。」
オ 第4頁右下欄第8-12行
「このような実施例によれば、つぎのような効果が得られる。
(1)本発明によれば、被処理物であるウエハの主面側および裏面側の処理空間では、ガスは層流となって排気されるため、・・・」
上記摘記事項ア-オおよび第1図の記載からみて、刊行物1には、
「被処理物であるウエハ1の主面に上方から分散孔7を介してクリーンエアー9を供給し、ウエハ1の主面に沿って該クリーンエアー9を流し、ウエハ1の裏面に下方から分散孔8を介してクリーンエアー9を供給し、下方から排出するようにした乾燥方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)刊行物2
ア 第1欄第29-35行
「【産業上の利用分野】この発明は、半導体基板や液晶用ガラス基板等の被処理基板(以下単に基板と称する)を回転させながら、フッ化水素(HF)の水溶液、その他の処理液で基板の表面をエッチングないし洗浄処理し、引き続き純水によるリンス処理及び液切り乾燥する場合に有効な回転式表面処理方法及びその方法を実施するための回転式表面処理装置に関するものである。」
イ 第7欄第39-50行
「【0024】図11〜図12は請求項2の発明を実施するための装置、即ち請求項3の発明に係る実施例装置に関するもので、・・・この実施例装置は、スピンチャック2と、基板Wの上方外側部位に配置された洗浄液供給ノズル5及び純水供給ノズル7と、基板Wの表面に清浄な不活性ガスN2を供給するガス供給ノズル8と、水平回転する基板Wの周囲を囲む飛散防止部材19と、スピンチャック2及び飛散防止部材19を収容する表面処理容器20と、外気取り入れ可能な表面処理容器20の上蓋21と、表面処理容器20の下壁に付設された強制排気口23とを具備して成り、・・・」
ウ 第8欄第18-35行
「【0026】上記洗浄液供給ノズル5及びリンス液供給ノズル7は固定配置され、ガス供給ノズル8はガスノズル移動手段15で水平揺動自在に構成されている。上記ガスノズル移動手段15は図12で示すように、ガス供給ノズル8の揺動アーム9を支える支軸16と、支軸16を水平回転するロータリーアクチュエータ17と、ロータリーアクチュエータ17を介して支軸16を昇降するエアシリンダ18とから成り、第二オーバーラップ工程C1から液切乾燥工程Dにかけて、ガス供給ノズル8を基板Wの回転中心の上側(図11及び図12中の実線位置)に位置させ、それ以外の表面処理工程A〜リンス処理工程Cでは、ガス供給ノズル8を側方(図11中の仮想線位置)との間で待機させるように構成されている。
【0027】これにより、第二オーバーラップ工程C1から液切乾燥工程Dにおいて、清浄な不活性ガスN2が水平回転する基板表面の回転中心に向かって吹き付けられ、・・・」
上記摘記事項ア-ウおよび図8、図9、図11、図12の記載からみて、刊行物2には、
「半導体基板や液晶用ガラス基板等の被処理基板を回転せしめるスピンチャック2と、このスピンチャック2の上方に配置される揺動アーム9と、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が被処理基板の回転中心の真上を通る清浄な不活性ガスN2を供給するガス供給ノズル8とを備えた液切り乾燥する場合に有効な処理装置。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)刊行物3
ア 明細書第1頁第15-18行
「〈産業上の利用分野〉
本考案はスピンドライヤに関し、例えばホトマスクブランクやウェハの乾燥工程に用いるスピンドライヤに関する。」
イ 明細書第4頁第1-8行
「第1図において、底部側に排出口7を有する処理槽2を設け、この処理槽2内に先端部が上記底部側から処理槽2内部に突出するように回転軸4を配置する。この回転軸4の先端部には一体となった被乾燥物保持台3が設けられ、回転軸4の回転で保持台3とホトマスク1を回転させることにより保持台3にセットしたホトマスク1を回転の遠心力により乾燥させる。」
ウ 明細書第4頁第14-19行
「・・・さらに上記処理槽2内には窒素ガス噴出口が設けられているが、ホトマスク1の主面に窒素ガスを噴射する第1噴出口6と、第2図のように保持台3の回転軸4近くに設けられていてホトマスク裏面に窒素ガスを噴射する第2噴出口8とがある。」
エ 明細書第5頁第2-7行
「上記第1噴出口6及び第2噴出口8からの窒素ガスブローはホトマスク主面の乾燥は元より、ホトマスク裏面の乾燥をも促進する。したがって、ホトマスク裏面の乾燥は回転の遠心力に加えて窒素ガスブローにも依存するようになるため、完全な乾燥が得られることになる。」
上記ウおよび第1図の記載から、ホトマスク1の主面に噴射された窒素ガスが、該主面に沿って流れることは明らかであるから、上記摘記事項ア-エおよび第1図からみて、刊行物3には、
「ホトマスクブランクやウェハの主面に上方から窒素ガスを噴射し、主面に沿って窒素ガスを流し、ホトマスクブランクやウェハの裏面に窒素ガスを噴出し、下方から排出するようにした乾燥方法。」(以下、「刊行物3記載の発明」という。)および、
「ホトマスクブランクやウェハの乾燥工程に用いるスピンドライヤにおいて、ホトマスクブランクやウェハの主面および裏面に対して窒素ガスを噴出する第1および第2窒素ガス噴出口6,8を備えること。」(以下、「刊行物3記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

4 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 刊行物1記載の発明との対比
本件発明1と刊行物1記載の発明を対比すると、後者の「被処理物であるウエハ1」は前者の「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物」に、後者の「主面」は前者の「表面」に相当する。また、後者の「クリーンエアー9」はその実施形態からみて前者の「乾燥ガス」に相当する。さらに、後者の「被処理物であるウエハ1の主面に上方から分散孔7を介してクリーンエアー9を供給し」が前者の「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ」に相当し、後者の「ウエハ1の裏面に下方から分散孔8を介してクリーンエアー9を供給し」が前者の「板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し」に相当するものであることは明らかである。
そうすると、両者は、
「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するようにした乾燥方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉本件発明1は、乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止するようにしたのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような構成を有しない点。
相違点1について検討する。
スピン乾燥装置において、回転する被処理物の周囲に上下に離間したスカート部を設け、飛沫のはね返りを防止する技術は、例えば特開昭64-57718号公報に記載されているように従来周知のものである。
また、本件発明1は「上下に離間した2種類のスカート部」をその構成要件とするものであるが、本件特許明細書等にはスカート部の種類について特に記載されておらず、またスカート部の数を2つとしたことの技術的意義についても何ら記載されていない。
そうすると、刊行物1記載の発明に上記従来周知の事項を適用することに格別な困難性は見当たらず、またその適用に際し上下に離間した2種類のスカート部とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項であるから、刊行物1記載の発明に上記従来周知の事項を適用し、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得るものである。
そして、本件発明1の作用効果は、刊行物1記載の発明および従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別なものではない。
イ 刊行物3記載の発明との対比
次ぎに、本件発明1と刊行物3記載の発明を対比すると、後者の「ホトマスクブランクやウェハ」は前者の「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物」に、後者の「主面」は前者の「表面」に、後者の「窒素ガス」は「乾燥ガス」にそれぞれ相当する。また、後者の「ホトマスクブランクやウェハの主面に上方から窒素ガスを噴射し」が前者の「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ」に相当するものであることは明らかである。
そうすると、両者は、
「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するようにした乾燥方法。」である点で一致し、上記相違点1で相違する。
そして、相違点1および作用効果についての検討は、上記「ア 刊行物1記載の発明との対比」のとおりである。

したがって、本件発明1は、刊行物1または刊行物3記載の発明および従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物2記載の発明を対比すると、後者の「半導体基板や液晶用ガラス基板等の被処理基板」は前者の「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物」に、後者の「スピンチャック2」は前者の「スピンナー」に相当する。また、後者の「清浄な不活性ガスN2」はその実施形態からみて前者の「乾燥ガス」に相当するものであることは明らかであるから、後者の「ガス供給ノズル8」は前者の「乾燥ガス噴出ノズル」に相当する。さらに、後者の「液切り乾燥する場合に有効な処理装置」は前者の「乾燥装置」に相当する。
そうすると、両者は、
「ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルとを備えた乾燥装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点2〉本件発明2は、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルを備えたのに対し、刊行物2記載の発明は、そのような構成を備えない点。
〈相違点3〉本件発明2は、スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部を備えたのに対し、刊行物2記載の発明は、そのような構成を備えない点。
相違点2について検討する。
刊行物3には、ホトマスクブランクやウェハの乾燥工程に用いるスピンドライヤにおいて、ホトマスクブランクやウェハの主面および裏面に対して窒素ガスを噴出する第1および第2窒素ガス噴出口6,8を備えることが記載されている。
そうすると、刊行物2記載の発明に刊行物3記載の事項を適用し、上記相違点2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易になし得るものである。
相違点3について検討する。
スピン乾燥装置において、回転する被処理物の周囲に上下に離間したスカート部を設け、飛沫のはね返りを防止する技術は、例えば特開昭64-57718号公報に記載されているように従来周知のものである。
また、本件発明2は「上下に離間した2種類のスカート部」をその構成要件とするものであるが、本件特許明細書等にはスカート部の種類について特に記載されておらず、またスカート部の数を2つとしたことの技術的意義についても何ら記載されていない。
そうすると、刊行物2記載の発明に上記従来周知の事項を適用することに格別な困難性は見当たらず、またその適用に際し上下に離間した2種類のスカート部とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項であるから、刊行物2記載の発明に上記従来周知の事項を適用し、上記相違点3に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易になし得るものである。
そして、本件発明2の作用効果は、刊行物2記載の発明、刊行物3記載の事項ならびに従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別なものではない。

したがって、本件発明2は、刊行物2記載の発明、刊行物3記載の事項ならびに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

5.むすび
以上のとおり、本件の請求項1および2に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対しされたものであるから、取り消されるべきものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
乾燥方法及び乾燥装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するとともに、乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止するようにしたことを特徴とする乾燥方法。
【請求項2】 ガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルと、スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部とを備えた乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は例えばガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物を乾燥させる方法とその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガラス基板の一面にTFT(薄膜トランジスタ)を形成したカラー液晶基板を製作したり、半導体ウェーハ上に各種デバイスを製作するには多くの表面処理工程を必要とする。そして表面処理を行う前または後に被処理物表面にゴミが付着していると、歩留まり低下の原因となるので、従来から表面処理を行う前後には必ず洗浄水で洗浄し、この後乾燥させて次工程へ送るようにしている。
【0003】
斯かる乾燥方法として、自然に乾燥させる常圧乾燥があるが、常圧乾燥による場合には乾燥に要する時間が長いという問題があり、このため乾燥室内の空気を吸引して行う減圧乾燥がある。また、スピンナー上に被処理物を固着し、例えば、3000rpm以上の高速回転により乾燥させる方法もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
減圧乾燥の場合には処理時間は早くなるが、設備が大掛かりとなりパーティクルが発生しやすく且つ装置的に故障の発生要素が多くメンテナンスが面倒である。また、高速回転による乾燥の場合には、板状被処理物の破損を招き、帯電しやすいため板状被処理物にゴミが再付着しダメージを与えるという問題がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく本発明に係る乾燥方法は、被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、板状被処理物の裏面に乾燥ガスを噴出し、下方から排出するとともに、乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部によってスプラッシュバックミストの落下を防止するようにした。
【0006】
また、本発明に係る乾燥装置は、板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられ、その揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る乾燥ガス噴出ノズルと、板状被処理物の裏面に対して乾燥ガスを噴出する乾燥ガス噴出ノズルと、スプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケースの内側壁に設けた上下に離間した2種類のスカート部とを備えるようにした。
【0007】
【作用】
被処理物の表面に流下した乾燥ガスは、板状被処理物の表面に沿って流れる間に被処理物の表面に残る洗浄液を乾燥させ、そのまま下方から排出される。
【0008】
【実施例】
以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る乾燥装置を組み込んだ洗浄乾燥ステーションの平面図、図2は同乾燥装置の平面図、図3は同乾燥装置の縦断面図であり、洗浄乾燥ステーション1には洗浄装置10と乾燥装置20とを配置している。
【0009】
乾燥装置20は図2及び図3に示すように、乾燥ケース21の底部は中央が高く周縁が低くなった傾斜面22となっており、この傾斜面22には板状被処理物としてのガラス基板Wの下面を乾燥させるためのガス噴出ノズル23が設けられ、また底部中央に形成した開口24からスピンナー25がケース21内に臨み、このスピンナー25の上端部にガラス基板Wを受けるチャック26が取り付けられている。
【0010】
チャック26は略十字状をなし、各先部にはガラス基板Wの下面を支持するピン27とガラス基板Wの位置決めを行うピン28が設けられ、またスプラッシュバックミストの落下を防止するために乾燥ケース21の内側壁には上下に離間して2種類のスカート部29,30を設け、更に傾斜面22に設けたセンサ31にてチャック26にガラス基板Wが保持されているか否かを判断するようにしている。
【0011】
また、乾燥ケース21の側方にはアーム32が水平方向に揺動自在に配置されている。そして、このアーム32には空気、窒素ガス等の乾燥に用いるガスを下方または斜め下方に向けて噴出するノズル33が取り付けられている。このノズル33の取り付け位置はノズル33の揺動軌跡がガラス基板Wの回転中心Oの真上を通る位置とされている。
【0012】
一方、洗浄装置10は乾燥装置20とその構成部材の一部を共通にしている。即ち、洗浄ケース11及びこの中に配置されるスピンナーとチャックは同一部材とし、また類似の部材として揺動アーム12を備え、この揺動アーム12の先端に洗浄水に振動を与えつつガラス基板Wに向けて噴出する超音波洗浄ユニット13を設けている。
【0013】
以上において、ガラス基板Wを洗浄装置10の洗浄ケース11内にセットし、ガラス基板Wを100〜400rpmで回転させつつ、アーム12を必要な回数だけ往復揺動させ超音波洗浄ユニット13でガラス基板W表面を洗浄する。
【0014】
次いで、洗浄が終了したら、搬送装置にてガラス基板Wを乾燥装置20のケース21内のチャック26上にセットする。次いで、スピンナー25によってガラス基板Wを1700rpmで回転させつつ、ガラス基板W表面にノズル33から噴出する空気、窒素ガス等の乾燥ガスを真上から流下させ、ガラス基板W表面に沿って乾燥ガスを流してガラス基板W表面に残っている洗浄水を乾燥させ、更に乾燥ガスを下方の排出口34から排出する。このときの乾燥ガスの噴出量は30〜40ml/分程度が好ましく、スピンナーの回転は1000〜2000rpm程度が好ましい。
【0015】
尚、ガラス基板Wの表面のみを乾燥させる場合にはノズル23から乾燥ガスは噴出させない。この場合にはガスの流れは図3の右側に示すようになる。一方、ガラス基板Wの表裏両面を乾燥させる場合にはノズル23からもノズル33と同様に乾燥ガスを噴出させる。この場合にはガスの流れは図3の左側に示すようになる。
【0016】
また、ノズル33の位置は乾燥中ガラス基板Wの回転中心の上方に固定してもよいが、洗浄工程と同様にアーム32を往復揺動させノズル33をガラス基板Wの径方向に移動させつつ乾燥せしめるようにしてもよい。噴出させる乾燥ガスは空気、窒素ガス等のガスであることが好ましく、さらに静電気の発生を抑えるためにイオン化した空気、窒素ガスにすることが好ましい。
【0017】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、回転する板状被処理物の表面に乾燥ガスを流下させ、板状被処理物の表面に沿って乾燥ガスを流し、下方から排出するようにしたので、常圧乾燥であるにも拘らず短時間で乾燥させることができる。また、イオン化した乾燥ガスを用いれば、板状被処理物に回転乾燥時に静電気が発生することがないので、ゴミの再付着が防止され、板状被処理物が半導体用基板であるときには半導体素子にダメージを与えることがない。
【0018】
また、本発明に係る乾燥装置は、板状被処理物を回転せしめるスピンナーと、このスピンナーの上方に配置される揺動アームと、この揺動アームに取り付けられその揺動軌跡が板状被処理物の回転中心の真上を通る窒素ガス等の乾燥ガス噴出ノズルとから構成されるので、構造が簡単でパーティクルが発生しにくくメンテナンスが容易である。更に、乾燥装置を洗浄装置と隣接させ、しかも洗浄装置と乾燥装置の構成に共通箇所を設けることでライン構成上有利となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る乾燥装置を組み込んだ洗浄乾燥ステーションの平面図
【図2】同乾燥装置の平面図
【図3】同乾燥装置の縦断面図
【符号の説明】
1…洗浄乾燥ステーション、10…洗浄装置、20…乾燥装置、21…乾燥ケース、22…傾斜面、23,33…乾燥ガス噴出ノズル、25…スピンナー、26…チャック、32…アーム、W…ガラス基板(板状被処理物)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-17 
出願番号 特願平6-20438
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 充  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 鈴木 孝幸
岡野 卓也
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3338544号(P3338544)
権利者 東京応化工業株式会社
発明の名称 乾燥方法及び乾燥装置  
代理人 小山 有  
代理人 小山 有  

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