• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 4号2号請求項の限定的減縮  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1119418
異議申立番号 異議2003-71084  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-07-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-28 
確定日 2005-05-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3338756号「半導体装置およびその製造方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3338756号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本件特許第3338756号に係る手続の主な経緯は以下のとおりである。
特許出願(特願平8-349165号) 平成 8年12月27日
特許権設定登録 平成14年 8月 9日
特許異議申立(特許異議申立人:斉藤忠) 平成15年 4月28日
特許異議申立(特許異議申立人:田中智典) 平成15年 4月28日
取消理由通知 平成16年 6月15日(起案日)
特許異議意見書・訂正請求書 平成16年 8月24日

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正事項について
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の「【請求項1】 基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、
前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」を、
「【請求項1】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の「【請求項2】 基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、
前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」を、
「【請求項2】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の「【請求項3】 基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、
前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」を、
「【請求項3】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の「【請求項4】 基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の薄膜トランジスタを有する半導体装置において、
該複数の薄膜トランジスタのチャネル領域は、パルスレーザー光の順次走査照射により結晶化された結晶性ケイ素膜よりなり、前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されることを特徴とする半導体装置。」を、
「【請求項4】 ガラス基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の薄膜トランジスタを有する半導体装置において、該複数の薄膜トランジスタのチャネル領域は、パルスレーザー光の順次走査照射により結晶化された結晶性ケイ素膜よりなり、前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、パルスレーザ光の順次走査照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく前記パルスレーザ光の順次走査照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されることを特徴とする半導体装置。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の「【請求項5】 基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の画素電極を駆動する薄膜トランジスタを有し、各薄膜トランジスタには前記画素電極による液晶容量と並列に補助容量成分が接続されてなる半導体装置において、
膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる下地膜上の結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したことを特徴とする半導体装置。」を、
「【請求項5】 ガラス基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の画素電極を駆動する薄膜トランジスタを有し、各薄膜トランジスタには前記画素電極による液晶容量と並列に補助容量成分が接続されてなる半導体装置において、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であって、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギー照射工程において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる前記下地膜上に形成された結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したことを特徴とする半導体装置。」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の「【請求項6】 基板上に、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、
該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、
該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、
該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」を、
「【請求項6】 ガラス基板上に、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の「【請求項7】 基板上に、膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、
該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、
該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、
該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」を、
「【請求項7】 ガラス基板上に、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の「【請求項8】 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させる工程と、
該結晶化されたケイ素膜に対しエネルギービームを照射して熔融固化させることで、ケイ素膜を再結晶化する工程とを有することを特徴とする前記請求項6あるいは7記載の半導体装置の製造方法。」を、
「【請求項8】 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させる工程と、該結晶化されたケイ素膜に対しエネルギービームを照射して溶融固化させることで、ケイ素膜を再結晶化する工程とを有することを特徴とする前記請求項6あるいは7記載の半導体装置の製造方法。」と訂正する。

2.訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正事項1は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項1-1)と、「前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であること」を「前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であること」に訂正すること(訂正事項1-2)とに区分できる。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項2-1)と、「前記下地膜は、膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」を「前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」に訂正すること(訂正事項2-2)とに区分できる。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項3-1)と、「前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」を「前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」に訂正すること(訂正事項3-2)とに区分できる。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項4-1)と、「前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されること」を「前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、パルスレーザ光の順次走査照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく前記パルスレーザ光の順次走査照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されること」と訂正すること(訂正事項4-2)に区分できる。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項5-1)と、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる下地膜上の結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したこと」を「エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であって、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギー照射工程において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる前記下地膜上に形成された結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したこと」と訂正すること(訂正事項5-2)に区分できる。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項6-1)と、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜を形成する工程」を「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜を形成する工程」と訂正すること(訂正事項6-2)に区分できる。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、「基板」を「ガラス基板」と訂正すること(訂正事項7-1)と、「膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜を形成する工程」を「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜を形成する工程」と訂正すること(訂正事項7-2)に区分できる。
(8)訂正事項8
「熔融固化」を「溶融固化」と訂正するものである。

3.訂正の目的の適否、明細書記載事項の範囲内外及び拡張・変更の有無について
(1)訂正事項(1-1)、訂正事項(2-1)、訂正事項(3-1)、訂正事項(4-1)、訂正事項(5-1)、訂正事項(6-1)及び、訂正事項(7-1)について
これらの訂正事項は、「基板」を「ガラス基板」と訂正するものであって、「基板」として「ガラス基板」を用いることは、特許明細書第11段落、第58段落、第67段落、第69段落、第81段落、第83段落、第94段落及び第96段落に明確に記載されている。
よって、これらの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項1-2について
「前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であること」を「前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であること」に訂正することに関しては、本件特許明細書に、以下のように記載されている。
「上記(1)の方法では、・・・成膜温度が600℃以上と高いので、安価なガラス基板が使用できないというコストの問題もある。」(第8段落)
「上記(2)の方法は、結晶化に際し600℃以上の高温にて数十時間にわたる加熱処理が必要であるため、生産性に非常に乏しい。」(第9段落)
「特に、基板上に複数のTFTを有する液晶表示用アクティブマトリクス基板のような半導体装置では、上記の酸素ドナーはTFT特性をばらつかせる大きな原因ともなる。すなわち、酸素ドナーを発生させる一次原因は、ケイ素膜の溶融固化による結晶化工程であり、上述のように課題として、得られる結晶性ケイ素膜の膜質(結晶性)不均一性がある。特に、ケイ素膜中に取り込まれる上記酸素ドナーの数は、結晶化工程に大きく依存し、より高エネルギーが与えられ結晶化された局所領域では、酸素ドナー濃度が相対的に高くなるため、本来の素子間の特性ばらつきにプラスして、酸素ドナーによるばらつきが加算される。」(第46段落)
「本発明者らが調べたところ、レーザー照射により熔融結晶化された結晶性ケイ素膜の表面ラフネスもまた下地膜による依存性が大きいことがわかった。すなわち、ケイ素膜がレーザー照射によりその融点まで瞬時に加熱される際に、その下層の酸化ケイ素膜にH2OやSiOH基が多量に存在していれば、それらがケイ素膜を通って、雰囲気中に突沸し、それがケイ素膜の表面ラフネスをさらに大きくしていることがわかった。」(第47段落)
「本発明の大まかな主旨は、酸化ケイ素を主成分とする下地膜を有し、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜を活性領域とする薄膜半導体装置において、前記下地膜を、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下、あるいは膜中に含有するSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下となるように構成することである。このような構成でTFTなどの半導体装置を作成すると、素子特性を向上するために、エネルギー密度が250〜400mJ/cm2にエネルギービームの出力アップを図った場合の、活性領域のケイ素膜のN型化現象は低減され、素子特性も安定する。したがって、ケイ素膜に十分なエネルギーを与え結晶化することができるため、活性領域の結晶性が大きく向上し、その結果、電流駆動能力を電界移動度で50〜200cm2/Vsに飛躍的に向上できる。一方、TFTにおいては閾値電圧VTHのマイナスシフト、オフ動作時のリーク電流の増大などの弊害を生じず、従来両立できなかった高性能で且つ高信頼性、高安定性の半導体装置を実現することができる。」(第48段落)
「さらに、図6から、ケイ素膜の比抵抗が完全に飽和するのは、下地膜のH2O濃度が約1×1019個/cm3以下であることがわかる。したがって、下地膜に含有されるH2Oの影響が、素子特性としてほぼ完全に問題なくなるのはこの値以下であり、本発明におけるレーザー結晶化によるケイ素膜の下地酸化ケイ素膜のH2O濃度の、より最適値としては、1×1019個/cm3以下であることが望ましい。H2O濃度は低いほど望ましいが、現実的な作製可能な下限値は1×1017個/cm3程度である。」(第51段落)
「また、図7から、下地膜のSiOH基の濃度もまたケイ素膜の比抵抗に影響を及ぼしていることがわかる。図7から、ケイ素膜の比抵抗と下地膜のSiOH基の濃度の関係は、SiOH基の濃度が約1×1021個/cm3を境にして、これ以上の値では急激な減少傾向を示す。すすなわち、下地膜のSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下であれば、ケイ素膜の抵抗値はほぼ飽和し、イントリンシックに近い状態となり、膜中のキャリャ濃度が極めて少なくなる。さらに、本発明の効果をより引き出すためには、水分(H2O)濃度とSiOH基の濃度を同時制御することが最も有効で、下地膜としての酸化ケイ素膜の水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下で、且つSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下とすることがより望ましい。SiOH濃度は低いほど望ましいが、現実的な作製可能な下限値は1×1018個/cm3程度である。」(第52段落)
「本発明の条件を満たす酸化ケイ素膜の作製方法としては、様々な方法が考えられるが、・・・下記3つの方法が最も優れている。第1の方法として、基板温度150℃以上300℃以下でのスパッタリング法により形成する方法がある。この場合、150℃以下では酸化ケイ素膜の膜質が良くなく膜中H2O含有量が大きくなる。300℃以上では酸素欠損のあるSiが増え、膜中固定電荷密度が大きくなる恐れがある。第2の方法として、SiH4ガスとN2Oガスを材料としてプラズマCVD法により形成し、その後に550℃以上600℃以下の加熱処理を施す方法がある。ここで550℃以下では膜中のH2O、SiOH基が十分に放出されず、600℃以上では基板としてガラスを用いた場合、ガラス基板が軟化する恐れがある。第3の方法として、TEOSなどの有機シラン系ガスと酸素ガスを材料としてプラズマCVD法により形成し、その後に550℃以上600℃以下の加熱処理を施す方法がある。ここで550℃以下では同じく、膜中に存在するH2O、SiOH基が膜外に十分放出されず、600℃以上ではガラス基板が軟化する恐れがある。」(第58段落)
「まず、図1(A)に示すように、ガラス基板101上に例えばスパッタリング法によって厚さ300nm程度の酸化ケイ素からなる下地膜102を形成する。酸化ケイ素膜を形成するときのスパッタリング条件としては、石英ターゲットを用い、基板を200℃に加熱した状態で、Ar/O2混合ガス中にて行った。このときの酸化ケイ素膜の膜中のH2O濃度は、5×1018個/cm3程度であり、SiOH基の濃度は、2×1019個/cm3程度であった。」(第69段落)
「次に、減圧CVD法やプラズマCVD法などによって、厚さ20〜100nm、例えば30nmの非晶質ケイ素(a-Si)膜103を成膜する。プラズマCVD法により前記a-Si膜103を成膜した場合には、その膜中に多量の水素を含有し、後のレーザー照射時の膜剥がれの原因となるため、ここで450℃程度の温度で数時間熱処理を行い、膜中の水素を放出しておく必要がある。」(第70段落)
「その後、図1(B)に示すように、レーザー光107を照射し、a-Si膜103を結晶化する。このときのレーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm、パルス幅40nsec)を用いた。レーザー光107の照射条件は、照射時に基板を200〜500℃、例えば400℃に加熱し、エネルギー密度250〜400mJ/cm2、例えば320mJ/cm2とした。レーザー光107は、基板表面におけるビームサイズが150mm×1mmの長尺矩形状となるように、ホモジナイザーによって成型されており、その長辺方向に対して垂直方向に順次走査した。このときの順次走査に伴うビームのオーバーラップ量は、90%と設定したため、a-Si膜103の任意の一点に対して、それぞれ10回レーザー照射されることになる。この工程により、a-Si膜103はその融点以上に加熱され、溶融し固化することで良好な結晶性を有する結晶性ケイ素膜103aとなる。このときの結晶性ケイ素膜103aの比抵抗を測定すると、5×106Ω・cm程度であった。」(第71段落)
「図5(A)に示すように、ガラス基板301上にプラズマCVD法によって厚さ300nm程度の酸化ケイ素からなる下地膜302を形成する。このときの成膜条件としては、材料ガスとしてシラン(SiH4)と、N2Oを用い、0.5〜1.5Torrの減圧雰囲気、例えば0.8Torrに設定し、基板温度300〜350℃にてRFプラズマにより分解・堆積させた。その後、不活性ガス雰囲気中にて、基板温度500〜600℃、例えば580℃で数時間アニール処理を行った。このようにして得られた膜は、厳密には幾分かのSiOHの成分を有している。上記加熱処理工程において、膜中に含有されるH2Oは放出されると共に、SiOH基の結合も切れてOH成分が膜外に放出される。その結果、得られる酸化ケイ素膜のH2O濃度は、1×1019個/cm3程度に、SiOH基の濃度は、1×1020個/cm3程度になった。そして、酸化ケイ素膜からなる下地膜302上に、減圧CVD法あるいはプラズマCVD法によって、厚さ20〜100nm、例えば50nmの真性(I型)の非晶質ケイ素膜(a-Si膜)303を成膜する。」(第96段落)
よって、上記各段落の記載より、「前記下地膜」は、「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受け」ておらず、「前記エネルギービーム照射時において」、「前記下地膜」が「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であること」は開示されているから、訂正事項1-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項2-2,訂正事項3-2,訂正事項4-2について
(2)で引用した、本件特許明細書の各段落記載事項より、訂正事項2-2に関し、「前記下地膜」は、「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受け」ておらず、「前記エネルギービーム照射時において」、「前記下地膜」が「膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」は開示されており、また、訂正事項3-2に関し、「前記下地膜」は、「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受け」ておらず、「前記エネルギービーム照射時において」、「前記下地膜」が、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」は開示されており、さらに、訂正事項4-2に関し、「前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜」は、「パルスレーザ光の順次照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく前記パルスレーザ光の順次照射時において」、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されること」は開示されているから、訂正事項2-2,訂正事項3-2、及び訂正事項4-2は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)訂正事項5-2について
(2)で引用した、本件特許明細書の各段落記載事項より、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる」下地膜が、「酸化ケイ素を主成分とする下地膜」であること、及び、「結晶性ケイ素膜」が「下地膜上」に形成されたものであることは明らかであって、また、「下地膜上の結晶性ケイ素膜」を「前記下地膜上に形成した結晶性ケイ素膜」とする訂正は、「下地膜」が「基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の画素電極を駆動する薄膜トランジスタ」における「下地膜」であることを明りょうにするために「下地膜」に「前記」を付すと共に、「結晶性ケイ素膜」が「下地膜上」に「形成した」ものであることを明りょうとするために「下地膜上の」を「下地膜上に形成した」と訂正するものであるから、訂正事項5-2は、特許請求の範囲の減縮、又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(5)訂正事項6-2,訂正事項7-2について
(2)で引用した、本件特許明細書の各段落記載事項より、訂正事項6-2に関し、「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく」絶縁膜を「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる」ように「絶縁膜を形成する工程」は開示されており、また、訂正事項7-2に関し、「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく」絶縁膜を「膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる」ように「絶縁膜を形成する工程」は開示されているから、訂正事項6-2及び訂正事項7-2は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(6)訂正事項8について
「熔融固化」が「溶融固化」の誤記であることは明らかであるから、訂正事項8は、誤記の訂正を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、上記訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
(1)特許異議申立人斉藤忠による特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人斉藤忠は、証拠として本願出願前に国内において頒布された
1)甲第1号証 特開平7-099323号公報
1)甲第2号証 Journal of Electrochemical Society, Vol.137,No.7 (1990),p.2209-p.2215
3)甲第3号証 特開平8-069967号公報
4)甲第4号証 特開平7-335904号公報
を提出し、本件請求項1ないし3,請求項6ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、本件請求項1ないし3,請求項6ないし11に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであって(異議理由1)、本件請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1ないし11に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(異議理由2)、さらに、本件請求項1ないし11に係る発明は、発明の構成が明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、本件請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである(異議理由3)と主張している。
(2)特許異議申立人田中智典による特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人田中智典は、証拠として本願出願前に国内において頒布された
1)甲第1号証 特開平5-175502号公報
2)甲第2号証 Applied Surface Science 64(1993)p.175-p.183
3)甲第3号証 Thin Solid Films Vols.290-291(1996) p.427-p.434
4)甲第4号証 特開平8-069967号公報
を提出し、本件請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1ないし11に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(異議理由1)と主張している。

2.取消理由通知の概要
平成16年6月15日付けの取消理由通知の内容は以下のとおりである。
「理由1.特許法第29条違反について
(1)本件の請求項1ないし3及び請求項6ないし11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であって、本件の請求項1ないし3及び請求項6ないし11に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。
よって、本件の請求項1ないし3及び請求項6ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

(2)本件の請求項1ないし11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1ないし8に記載された発明から、当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本件の請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

さらに、特許異議申立人斉藤忠が提出した特許異議申立書の「3.申立ての理由」(第2頁第1行ないし第19頁第1行)及び、特許異議申立人田中智典が提出した特許異議申立書の「3.申立の理由」(第2頁第1行ないし第28頁第9行)も参照されたい。なお、特許異議申立人斉藤忠が提出した甲第1号証ないし甲第4号証は、それぞれ刊行物1ないし刊行物4と読み替えるものとし、特許異議申立人田中智典が提出した甲第1号証ないし甲第4号証及び参考文献1は、それぞれ刊行物5、刊行物6、刊行物3、刊行物7及び刊行物8と読み替えるものとする。



刊行物1.特開平7-099323号公報(特許異議申立人斉藤忠提出の甲第1号証)
刊行物2.Journal of Electrochemical Society, Vol.137,No.7 (1990),p2209-2215(同甲第2号証)
刊行物3.特開平8-069967号公報(同甲第3号証、特許異議申立人田中智典提出の甲第4号証)
刊行物4.特開平7-335904号公報(同甲第4号証)
刊行物5.特開平5-175502号公報(特許異議申立人田中智典提出の甲第1号証)
刊行物6. Applied Surface Science 64(1993)p.175-p.183(同甲第2号証)
刊行物7. Thin Solid Films Vols.290-291(1996) p427-434(同甲第3号証)
刊行物8.特開平4-011722号公報(同参考文献1)

理由2.明細書の記載要件違反について
本件の請求項1ないし11に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明の欄に「発明」として記載されておらず、明細書及び図面の記載が不備であり、また、「発明」の構成が実質的に明確でないから、特許法第36条第4項、同法第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件の請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第36条第4項、同法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
さらに、特許異議申立人斉藤忠が提出した特許異議申立書の「3.申立ての理由」の第19頁第2行ないし同頁第18行の記載も参照されたい。」

3.刊行物記載事項
(1)刊行物1.特開平7-099323号公報(特許異議申立人斉藤忠提出の甲第1号証)
刊行物1には、図6とともに、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 ガラス基板上に下地膜を形成する第1の工程と、
前記ガラス基板をその歪み点以上の第1の温度で熱アニールする第2の工程と、
前記第1の温度から2℃/分以下の速度で歪み点以下の第2の温度まで徐冷する第3の工程と、
前記下地膜上に珪素膜を形成する第4の工程と、
第1の温度を越えない第3の温度にて、基板を熱アニールする第5の工程と、を有する半導体装置の作製方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「【産業上の利用分野】本発明は、ガラス等の絶縁基板、あるいは各種基板上に形成された半導体装置、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)や薄膜ダイオード(TFD)、またはそれらを応用した薄膜集積回路、特にアクティブ型液晶表示装置(液晶ディスプレー)用薄膜集積回路の作製方法に関するものである。」(明細書第1段落)
「【課題を解決するための手段】本発明は、ガラス基板上に下地膜として、プラズマCVD法によって酸化珪素膜、窒化珪素膜、窒化アルミニウムまたはこれらを2層以上重ねた多層膜を形成したのち、基板をその歪み点(歪み温度)以上、好ましくはガラス転移点以上の温度において熱アニールし、その後、2℃/分以下、好ましくは、0.5℃/分以下、より好ましくは0.3℃/分以下の速度で、歪み点以下の温度まで徐冷することによって、ガラス基板自体のその後の熱処理における収縮を抑制する。・・・」(明細書第2段落)
「【作用】上記の如く、ガラス基板に対しては、歪み点以上の温度で熱アニールした後、徐冷する工程を経ると、その後の熱処理工程(結晶化熱アニール等)においても基板の収縮等が生じることは少なく、熱処理工程の前後にパターニングが必要な場合にとって都合が良い。さらに、より歩留り良く、また特性の優れた半導体回路等を形成するには、下地膜は上述のような基板の熱アニールおよび徐冷の工程の前に形成することが好ましかった。例えば、珪素膜に触媒性金属元素(ニッケル等) を選択的に導入し、横方向成長をおこなうと、上記のように歪み点以上の温度で熱アニールされる際に下地膜の応力が緩和され、結晶成長を促進する効果があることが明らかになった。」(明細書第21段落)
「【0063】〔実施例4〕図6を用いて、本実施例を説明する。基板としては、NHテクノグラス社製のNA45ガラス(歪み点610℃)を用いた。ガラス基板601上にプラズマCVD法によって2層の下地膜を形成した。まず、基板上に窒化珪素膜602を1000Å成膜し、さらに酸化珪素膜603を1000Å成膜した。以上の成膜は連続的におこなった。窒化珪素膜602を形成する理由は、ガラス基板からの可動イオン等による汚染をなくすためである。
【0064】さらに、基板を歪み点以上の650℃の一酸化二窒素(N2 O)雰囲気中で1時間アニールした後、0.2℃/分で500℃まで徐冷した。そして、プラズマCVD法によって厚さ300〜800Å、例えば、500Åの非晶質珪素膜604を成膜した。さらに、厚さ1000Åの酸化珪素のマスク605を形成した。そして、酢酸ニッケル水溶液を用いたスピンコーティング法によって、酢酸ニッケル膜606を形成した。ニッケルの濃度は50〜300ppm、例えば、100ppmとした。このとき、酢酸ニッケル膜606は数〜数十Å程度と極めて薄いため膜になってるとは限らない。(図6(A))
【0065】次に550℃、8時間の加熱アニールをおこない、非晶質珪素膜604を結晶化せしめた。この際、矢印で示されるように、基板に対して平行な方向に結晶成長が進行した。次に、マスク605(結晶化アニールの際の保護膜でもある)を除去した後、結晶性の向上のためにレーザー結晶化を施した。KrFエキシマレーザー光(波長248nm)を200〜300mJ/cm2 で照射することによって、結晶性珪素膜607が得られた。(図6(B))
【0066】その後、結晶性珪素膜607をパターニングして、島状の活性層領域611を形成した。この際、図6(B)で608で示された領域が、ニッケルが直接導入された領域であり、ニッケルが高濃度に存在する領域である。また、実施例1および2で示したように結晶成長の終点609、610にも、やはりニッケルが高濃度に存在する。これらの領域は、その間の結晶化している領域に比較してニッケルの濃度が1桁近く高いことが判明している。したがって、本実施例においては、アクティブ素子、例えば画素TFTを形成するための領域である活性層領域はこれらのニッケル濃度の高い領域を避けてパターニングし、ニッケルの高濃度領域を意図的に除去した。活性層のエッチングは垂直方向に異方性を有するRIE法によっておこなった。」(明細書第63〜66段落)
(2)刊行物2.Journal of Electrochemical Society, Vol.137,No.7 (1990),p.2209-p.2215(同甲第2号証)
刊行物2には、Fig.3、Fig.4、Fig.11、Fig.12及びTableVには、酸化珪素膜中のH2O濃度の基となるFTIRスペクトルの3400cm-1付近の吸収、酸化珪素膜中のSiOH濃度の基となるFTIRスペクトルの3650cm-1付近の吸収が示されている。
(3)刊行物3.特開平8-069967号公報(同甲第3号証、特許異議申立人田中智典提出の甲第4号証)
刊行物3には、図4とともに、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 結晶化を助長する金属元素を非晶質珪素膜に選択的に導入する工程と、
前記珪素膜に対してレーザー光または強光を照射する工程とを有することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】 結晶化を助長する金属元素を非晶質珪素膜に選択的に導入する工程と、
前記珪素膜に対してレーザー光または強光を照射する工程と、
前記レーザー光または強光が照射された結晶性珪素膜に対して加熱処理を施す工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の作製方法。」(特許請求の範囲請求項1〜2)
「【0101】〔実施例4〕本実施例においては、実施例2に示すようにニッケルを選択的に導入し、その部分から横方向(基板に平行な方向)に結晶成長した領域を用いて電子デバイスを形成する例を示す。このような構成を採用した場合、デバイスの活性層領域におけるニッケル濃度をさらに低くすることができ、デバイスの電気的安定性や信頼性の上から極めて好ましい構成とすることができる。
【0102】図4に本実施例の作製工程を示す。まず、基板201を洗浄し、TEOS(テトラ・エトキシ・シラン)と酸素を原料ガスとしてプラズマCVD法によって厚さ2000Åの酸化珪素の下地膜202を形成する。そして、プラズマCVD法によって、厚さ500〜1500Å、例えば1000Åの真性(I型)の非晶質珪素膜203を成膜する。次に連続的に厚さ500〜2000Å、例えば1000Åの酸化珪素膜205をプラズマCVD法によって成膜する。そして、酸化珪素膜205を選択的にエッチングして、非晶質珪素の露出した領域206を形成する。
【0103】そして実施例2に示した方法により結晶化を助長する触媒元素であるニッケル元素を含んだ溶液(ここでは酢酸塩溶液)塗布する。酢酸溶液中におけるニッケルの濃度は100ppmである。その他、詳細な工程順序や条件は実施例2で示したものと同一である。この工程は、実施例3または実施例4に示した方法によるものであってもよい。
【0104】この後、線状に形成されたレーザー光を206の領域から図面左の方向に走査させながら照射することで、珪素膜203の結晶化を行う。この線状のレーザー光は、図面奥行き方向に長手方向を有する幅数ミリ〜数センチ、長さ数十センチを有する線状のものを用いる。またこのレーザー光の照射工程は、試料を550℃の温度に加熱しながら行う。
【0105】上記ようなレーザー光の照射を行うことによって、ニッケルに直接接触した領域206を出発点として、矢印で示されるように基板に対して平行な方向に結晶成長が進行する。図において、領域204はニッケルが直接導入されて結晶化した部分、領域203は横方向に結晶化した部分を示す。この203で示される横方向への結晶は、数十μm程度である。(図4(A))」(第101〜105段落)
(4)刊行物4.特開平7-335904号公報(同甲第4号証)
刊行物4には、図5とともに以下の事項が記載されている。
「【0050】以上の工程によって、Nチャネル型TFT227、Pチャネル型TFT228、229を形成することができた。また、TFT229に隣接して容量230(これはゲイト絶縁膜204を誘電体とする)も形成できた。本実施例では、TFT229はアクティブマトリクス回路の画素のスイッチング素子あるいはサンプリングTFTに用いられるTFTを表しており、TFT227、228はその他の論理回路に用いられるTFTを表している。
【0051】図5は本実施例で示したTFTを用いて構成されるアクティブマトリクス回路とそのドライバー回路、その他の回路を基板504上に形成した場合のブロック図を示す。本実施例で示したTFT227、228はそのうちのX/Yデコーダー・ドライバーやCPU、各種メモリーの論理回路に使用される。一方、TFT229はアクティブマトリクス回路の画素のスイッチングTFT501やドライバー回路のサンプリングTFT、各種メモリーのマトリクス素子として用いられる。また、容量230はアクティブマトリクス回路の画素セル502の補助容量503や、各種メモリー回路の記憶素子い用いられる。」(第50〜51段落)
(5)刊行物5.特開平5-175502号公報(特許異議申立人田中智典提出の甲第1号証)
刊行物5には、図4とともに、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 ゲート酸化膜がシリコン原子と水素原子の結合したSiH、SiH2およびSiH3の官能基と、シリコン原子と水酸基が結合したSiOHの官能基を含まない酸化シリコン膜で構成されている薄膜トランジスタ。」(特許請求の範囲請求項1)
「【0008】ところが、APCVD法とPCVD法で形成された酸化シリコン膜をゲート絶縁膜に使用した薄膜トランジスタの特性は、長時間の連続使用により、レーザ結晶化多結晶シリコンをチャンネル層に利用した薄膜トランジスタでも、電気的特性が劣化する問題点があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の点を考慮して、安価なガラス基板が使用できる600℃以下のプロセス温度で、長時間の連続使用に対しても、電気的特性が劣化しない薄膜トランジスタを製造できる酸化シリコン膜のゲート絶縁膜を提供するものである。」(第8〜9段落)
「【0024】次に、図4に示すように、不純物を含んだシリコン層PADと多結晶シリコン層PCSと酸化シリコン層ULIを覆うように、酸化シリコン層GILを120nmの厚みで被着形成する。酸化シリコン層GILの形成方法は、APCVD法で400℃の温度でモノシランと酸素を反応ガスに用いて形成する。次に、酸化シリコン層GILを形成した基板を窒素雰囲気中で600℃の温度で2時間熱アニールを施す。反応ガスにモノシランと酸素を用いて400℃の温度でAPCVD法で形成した酸化シリコン膜を200nmの厚みでシリコン基板上に形成し、FT-IR法で赤外吸収を観測すると、870〜890cm-1にSiH2の振動による吸収と、3600cm-1付近にSiOHの振動吸収が観測される。一方、400℃の温度でAPCVD法で形成した酸化シリコン層を600℃の温度でアニールした場合、上記の赤外吸収が観測されない。
【0025】ゲート絶縁膜の形成方法は上記の方法に限られることはなく、テトラエトキシシランガスを用いたプラズマCVD法による酸化シリコン膜を形成し600℃の温度で2時間窒素雰囲気中でアニールした酸化シリコン膜もSiH2やSiOHの官能基の振動が観測されない。
・・・
【0027】図11に従来の薄膜トランジスタに使用された酸化シリコン膜と、本発明のゲート絶縁膜のために使用される酸化シリコン膜のFT-IRの測定結果を示す。 SiH、SiH2およびSiH3の官能基と、シリコン原子と水酸基が結合したSi-OHの官能基を含まない酸化シリコン膜は上記の方法に限られず、他さまざまな方法があるが、本発明の主旨は、SiH、SiH2およびSiH3の官能基とSiOH官能基を含まない酸化シリコン膜をゲート絶縁膜に用いた薄膜トランジスタの構成と形成方法であり、この理由は実施例の終わりに改めて説明する。 以上の数種の方法によりSiH、SiH2およびSiH3の官能基と、SiOHの官能基を含有しない酸化シリコン層GILを形成することができる。」(第24〜27段落)
(6)刊行物6. Applied Surface Science 64(1993)p.175-p.183(同甲第2号証)
刊行物6には、p.175、Table2及び、「2.4. Infrared spectroscopy」(p.180 右欄〜p.181 右欄)に、シリコン単結晶基板上にプラズマCVDにより堆積された酸化シリコン膜中に含まれるSiOH濃度は、IR測定結果から求めると8.4〜20×1020原子cm-3であることが記載されている。
(7)刊行物7. Thin Solid Films Vols.290-291(1996) p.427-p.434(同甲第3号証)
刊行物7には、p.428左欄、Fig.6及び、p.430左欄〜p.431右欄に、シリコンウエハ上にプラズマCVDにより堆積された酸化シリコン膜中に含まれるSiOH濃度は、FTIR測定からの換算により1020原子cm-3程度含まれていることが記載されている。
(8)刊行物8.特開平4-011722号公報(同参考文献1)
刊行物8には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「基板上に、下地層、非晶質または多結晶半導体膜、および保護膜を順次形成し、半導体膜の上層部分は溶融するが下層部分は溶融しないような強度のレーザ光を照射して、前記半導体膜の下層部分以外を結晶化する半導体結晶化膜の形成方法。」(特許請求の範囲)
「本発明は半導体結晶化膜の形成方法に関し、特に結晶化膜中に混入する不純物を減少せしめた半導体結晶化膜の形成方法に関する。」(第1頁左下欄第12〜14行)
「次に、前記保護膜4上から、レーザ光Rを照射して非晶質または多結晶半導体膜3を結晶化して結晶化膜5を形成する(第1図(b)(c)参照)。・・・この際、非晶質または多結晶半導体膜3の下層部分は溶融しないような状態でレーザ光を照射する。・・・非晶質または多結晶半導体膜3の下層部分が溶融しないような状態でレーザ光を走査すると、非晶質または多結晶半導体膜3の下層に形成した酸化シリコン膜2の構成元素が結晶化膜5中に混入することはなく、結晶化膜5中の酸素原子は1018個cm-3程度となり、半導体膜3を完全に溶融させた場合の酸素濃度は5×1019〜2×1020個cm-3程度であるから、本発明によれば約1桁少なくなる。」(第3頁左上欄第18行〜同頁右上欄第18行)

4.本件発明
上記第2 4.のとおり、訂正請求は容認されたので、本件発明はその訂正請求書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項11に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。」(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項4】 ガラス基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の薄膜トランジスタを有する半導体装置において、該複数の薄膜トランジスタのチャネル領域は、パルスレーザー光の順次走査照射により結晶化された結晶性ケイ素膜よりなり、前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、パルスレーザ光の順次走査照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく前記パルスレーザ光の順次走査照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されることを特徴とする半導体装置。」(以下、「本件発明4」という。)
「【請求項5】 ガラス基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の画素電極を駆動する薄膜トランジスタを有し、各薄膜トランジスタには前記画素電極による液晶容量と並列に補助容量成分が接続されてなる半導体装置において、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であって、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギー照射工程において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる前記下地膜上に形成された結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したことを特徴とする半導体装置。」(以下、「本件発明5」という。)
「【請求項6】 ガラス基板上に、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(以下、「本件発明6」という。)
「【請求項7】 ガラス基板上に、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(以下、「本件発明7」という。)
「【請求項8】 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させる工程と、該結晶化されたケイ素膜に対しエネルギービームを照射して溶融固化させることで、ケイ素膜を再結晶化する工程とを有することを特徴とする前記請求項6あるいは7記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「本件発明8」という。)
「【請求項9】 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、該非晶質ケイ素膜を加熱することにより固相状態において結晶化させる工程は、該非晶質ケイ素膜に、その結晶化を助長する触媒元素を導入した後、行われることを特徴とする前記請求項8記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「本件発明8」という。)
「【請求項10】 前記非晶質ケイ素膜を加熱することにより固相状態において結晶化させる工程は、該非晶質ケイ素膜に、その結晶化を助長する触媒元素を選択的に導入し、加熱処理により、該触媒元素が選択的に導入された領域から、その周辺部へと横方向に結晶成長させることにより行われ、該横方向に結晶成長させた領域を用いて、半導体装置の活性領域を形成することを特徴とする前記請求項9記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「本件発明10」という。)
「【請求項11】 前記エネルギービームは、前記ケイ素膜に照射されるエネルギー密度が250〜400mJ/cm2のパルスレーザーであることを特徴とする前記請求項6あるいは7記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「本件発明11」という。)
5.対比・判断
斉藤忠の異議理由1,異議理由2及び田中智典の異議理由1について
(5-1)本件発明1について
刊行物1の特許請求の範囲請求項1には、「ガラス基板上に下地膜を形成する第1の工程と、前記ガラス基板をその歪み点以上の第1の温度で熱アニールする第2の工程と、前記第1の温度から2℃/分以下の速度で歪み点以下の第2の温度まで徐冷する第3の工程と、前記下地膜上に珪素膜を形成する第4の工程と、第1の温度を越えない第3の温度にて、基板を熱アニールする第5の工程と、を有する半導体装置の作製方法。」が記載されている。
本願発明1と、刊行物1の特許請求の範囲請求項1に記載された製造方法により製造された「半導体装置」(以下、「刊行物1発明」という。)とを比較すると、(相違点a)本願発明1が、ガラス基板の歪み点の600℃以下の温度にて下地膜を熱処理するのに対して、刊行物1発明においては、「前記ガラス基板をその歪み点以上の第1の温度で熱アニールする第2の工程」を備えるから、「ガラス基板上に形成した下地膜」をもガラス基板の歪み点以上の温度でアニール処理されることは明らかであり、また、刊行物1発明における上記ガラス基板の歪み点以上の温度でのアニールは、アニール後に徐冷することにより、その後の熱処理工程(結晶化熱アニール等)における基板の収縮等が生じることを防止するためのものであるから(刊行物1第21段落参照)、刊行物1発明においては、本願発明1の如く、ガラスの歪み点以下、即ち600℃以下の温度で下地膜を熱処理することは、その目的に反する、即ち、目的を達成できない温度範囲での熱処理であり、また、(相違点b)本願発明1では、「酸化ケイ素を主成分とする下地膜」が「エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であること」なる構成を備えるのに対して、刊行物1発明では、上記のように、下地膜の水分濃度について記載も示唆もされていないから、刊行物1発明に基づいて、本願発明1の如く、ガラスの歪み点以下の温度、即ち600℃以下の温度で下地膜を熱処理するとともに、下地膜の水分濃度を上記の如き所定の範囲とすることは、当業者といえども想到することができたものとはいえない。
また、刊行物2に、絶縁膜中のH2O、SiOHの濃度を測定する方法が記載され、刊行物3に、ガラス基板上に形成された酸化膜(絶縁膜)上に更に形成した非晶質珪素膜を珪素結晶膜とするためにニッケル等の触媒を用いることが記載され、刊行物4に、アクティブマトリクス回路の画素セルの補助容量を備えた薄膜半導体集積回路が記載され、刊行物5に、ゲート酸化膜がSiOH基を「含まない」薄膜トランジスタが記載され、刊行物6に、シリコン単結晶上にプラズマCVDにより堆積された酸化シリコン膜中に含まれるSiOH濃度は、IR測定結果から求めると8.4〜20×1020原子/cm3であることが記載され、刊行物7に、シリコンウエハ上にプラズマCVDにより堆積された酸化シリコン膜中に含まれるSiOH濃度は、FTIR測定からの換算により1020原子/cm3程度含まれていることが記載され、刊行物8に、特に結晶化膜中に混入する不純物を減少させるために、基板上の下地層上に形成した非晶質又は多結晶半導体膜を、半導体膜の上層部分は溶融するが下層部分は溶融しないような強度のレーザ光を照射して、半導体膜の下層部分以外を結晶化する半導体結晶化膜の形成方法が記載されている。
ここで、刊行物5に記載される「ゲート酸化膜」は、薄膜半導体素子の活性領域が形成される下地となる「下地膜」ではなく、また、刊行物6に記載される「酸化シリコン膜」の含まれるSiOH濃度が、IR測定結果から求められた8.4〜20×1020原子/cm3であり、刊行物7に記載される「酸化シリコン膜」中に含まれるSiOH濃度が、IR換算で1020原子/cm3程度であるとしても、刊行物6又は刊行物7に記載される「酸化シリコン膜」はシリコン単結晶上に形成されたものであって、本件発明1の、ガラス基板上に形成された酸化ケイ素を主成分とする「下地膜」とは、「酸化シリコン膜」または「下地膜」が形成される基体が異なるから、「酸化シリコン膜」または「下地膜」に含まれるSiOH濃度を単純に比較することはできない。
よって、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5-2)本件発明2について
「(5-1)本件発明1について」の相違点aについては、本件発明2についても同様である。
「(5-1)本件発明1について」に記載される、刊行物1発明との、相違点bに関しては、本件発明1では、下地膜が「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜である」のに対して、本件発明2では、下地膜が「膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜である」と相違するものの、刊行物1〜刊行物8には、薄膜半導体素子の活性領域となる「結晶性を有するケイ素膜」を形成する下地膜に、「SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3」の範囲で含む点については、記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明2は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5-3)本件発明3について
「(5-1)本件発明1について」の相違点aについては、本件発明3についても同様である。
「(5-1)本件発明1について」に記載される、刊行物1発明との、相違点bに関しては、本件発明3では、本件発明1の、下地膜が「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜である」という構成と、本件発明2の、下地膜が「膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜である」という構成をも備えているから、
「(5-1)本件発明1について」及び「(5-2)本件発明2について」における検討を参照すれば、本件発明3の、下地膜が「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であること」は、刊行物1ないし刊行物8に記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明3は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5-4)本件発明4について
「(5-1)本件発明1について」の相違点aについては、本件発明4についても同様である。
本件発明4においては、下地膜が、(a)「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3」、(b)「SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3」の条件(a)と(b)の少なくとも一方の条件を満たす絶縁膜であることが特徴であるから、「(5-1)本件発明1について」及び「(5-2)本件発明2について」での検討を参照すると本件発明4の構成要素である「下地膜」は、刊行物1ないし刊行物8に記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明4は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5-5)本件発明5について
「(5-1)本件発明1について」の相違点aについては、本件発明5についても同様である。
本件発明5においては、下地膜が、(a)「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3」、(b)「SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3」の条件(a)と(b)の少なくとも一方の条件を満たす絶縁膜であることが特徴であるから、「(5-1)本件発明1について」及び「(5-2)本件発明2について」での検討を参照すると本件発明5の構成要素である「下地膜」は、刊行物1ないし刊行物8に記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明5は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5-6)本件発明6について
本件発明6と本件発明1とは、本件発明6が「半導体装置の製造方法」であるのに対して本件発明1が「半導体装置」である点において、相違するものの、ガラス基板の歪み点の600℃以下の温度にて下地膜を熱処理すること、及び、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜」を備える点において、刊行物1に記載される発明と比較した場合の相違点は、共通しているから、「膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜」について記載も示唆もされていない刊行物1ないし刊行物8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明6は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5-7)本件発明7について
本件発明7と本件発明2とは、本件発明7が「半導体装置の製造方法」であるのに対して本件発明2が「半導体装置」である点において、相違するものの、 ガラス基板の歪み点の600℃以下の温度にて下地膜を熱処理すること、及び、 「膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜」を備える点において、刊行物1に記載される発明と比較した場合の相違点は、共通しているから、「膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜」について記載も示唆もされていない刊行物1ないし刊行物8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明7は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5-8)本件発明8について
請求項8は、「請求項6あるいは7」を引用しているものであるから、「(5-6)本件発明6について」または「(5-7)本件発明7について」において検討したとおりである。
(5-9)本件発明9について
請求項9は、「請求項8」を引用し、請求項8は請求項6または7を引用しているから、「(5-6)本件発明6について」または「(5-7)本件発明7について」において検討したとおりである。
(5-10)本件発明10について
請求項10は、「請求項9」を引用し、請求項9は請求項8を引用し、さらに、請求項8は請求項6または7を引用しているから、「(5-6)本件発明6について」または「(5-7)本件発明7について」において検討したとおりである。
(5-11)本件発明11について
請求項11は、「請求項6あるいは7」を引用しているから、「(5-6)本件発明6について」または「(5-7)本件発明7について」において検討したとおりである。
したがって、本件発明1ないし3,本件発明6ないし11は、刊行物1に記載された発明でなく、また、本件発明1ないし11は、刊行物1ないし8に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1ないし11についての特許は、特許法第29条第1項3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
よって、斉藤忠の異議理由1,異議理由2及び田中智典の異議理由1は、理由のないものである。

6.特許異議申立人斉藤忠の異議理由3について
特許異議申立人斉藤忠は、「FTIR測定の結果を正確に濃度で表すことは非常に困難であり、大きな誤差が生ずるのが常態である。加えて、本件特許発明には、FTIR測定の吸収から如何なる方法で水分濃度やSiOH濃度の算出されたかについても何ら開示されていない。即ち、かかる水分濃度とSiOH基の濃度の数値範囲は普遍性がない単なる算出例に過ぎず、請求項1〜11は発明の範囲が不明確で記載不備を有する。」と主張しているが、FTIR法を用いた場合に限らず、測定方法により誤差が生ずるのは当業者にとり技術常識であるところ、本件明細書に記載のSiOH基の絶対濃度および水分濃度の値の有効数字は1桁であり、この程度の範囲においては、測定方法によらず絶対濃度を求めることは可能である。
また、FTIRによる定量分析法は、例えば、異議申立人田中智典が提出した甲第3号証の「Thin Solid Films Vols.290-291(1996) pp.427-434」には、FTIRからSiOHの絶対濃度を求める方法が記載され、同じく甲第2号証の「 Applied Surface Science 64(1993) pp.175-183」には、IRからSiOH基の濃度の求め方が記載されている。
このように、当業者が必要に応じて定量方法を選択して、SiOH基の絶対濃度を求めることはできるのであり、水分濃度についても同様に定量方法を選択して求めることは当業者が適宜なし得ることである。
よって、本件発明1ないし本件発明11の構成は明確であり、本件発明1ないし本件発明11は、特許法第36条第6項第2号に違反するものでなく、異議理由3は理由のないものである。

7.特許異議申立についての判断の結び
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び取消理由によっては本件特許の請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すべきべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体装置およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】 ガラス基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギービーム照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】 ガラス基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の薄膜トランジスタを有する半導体装置において、該複数の薄膜トランジスタのチャネル領域は、パルスレーザー光の順次走査照射により結晶化された結晶性ケイ素膜よりなり、前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、パルスレーザ光の順次走査照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく前記パルスレーザ光の順次走査照射時において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜で構成されることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】 ガラス基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の画素電極を駆動する薄膜トランジスタを有し、各薄膜トランジスタには前記画素電極による液晶容量と並列に補助容量成分が接続されてなる半導体装置において、
エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であって、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく、前記エネルギー照射工程において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3で、且つ、SiOH基の濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる条件若しくはどちらかの一方の条件を満たす絶縁膜よりなる前記下地膜上に形成された結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】 ガラス基板上に、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有する水分(H2O)濃度が1×1017個/cm3〜1×1019個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】 ガラス基板上に、エネルギービーム照射前に600℃以上の温度でのアニールを受けることなく膜中に含有するSiOH基濃度が1×1018個/cm3〜1×1021個/cm3となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させる工程と、該結晶化されたケイ素膜に対しエネルギービームを照射して溶融固化させることで、ケイ素膜を再結晶化する工程とを有することを特徴とする前記請求項6あるいは7記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、該非晶質ケイ素膜を加熱することにより固相状態において結晶化させる工程は、該非晶質ケイ素膜に、その結晶化を助長する触媒元素を導入した後、行われることを特徴とする前記請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】 前記非晶質ケイ素膜を加熱することにより固相状態において結晶化させる工程は、該非晶質ケイ素膜に、その結晶化を助長する触媒元素を選択的に導入し、加熱処理により、該触媒元素が選択的に導入された領域から、その周辺部へと横方向に結晶成長させることにより行われ、該横方向に結晶成長させた領域を用いて、半導体装置の活性領域を形成することを特徴とする前記請求項9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】 前記エネルギービームは、前記ケイ素膜に照射されるエネルギー密度が250〜400mJ/cm2のパルスレーザーであることを特徴とする前記請求項6あるいは7記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶性ケイ素膜を活性領域とする薄膜トランジスタ(以下、TFTという)等の薄膜半導体素子を用いた半導体装置およびその製造方法に関する。特に、液晶表示装置用のアクティブマトリクス基板や薄膜集積回路一般、イメージセンサー、ドライバー内蔵型サーマルヘッドや三次元ICなどに利用できる。
【0002】
【従来の技術】
近年、大型で高解像度の液晶表示装置や、低コスト化のためドライバー回路を同一基板上に形成したモノリシック型のアクティブマトリクス液晶表示装置、薄膜集積回路、高速で高解像度の密着型イメージセンサー、ドライバー内蔵型サーマルヘッド、三次元ICなどへの実現に向けて、ガラス等の絶縁基板上や、絶縁膜上に高性能な薄膜半導体素子を形成する試みがなされている。これらの装置に用いられる半導体素子には、薄膜状のケイ素半導体を用いるのが一般的である。薄膜状のケイ素半導体としては、非晶質ケイ素半導体(a-Si)からなるものと結晶性を有するケイ素半導体からなるものの2つに大別される。
【0003】
非晶質ケイ素半導体は作製温度が低く、気相法で比較的容易に作製することが可能で量産性に富むため、最も一般的に用いられているが、半導体膜の移動度、導電性等の物性が結晶性を有するケイ素半導体に比べて劣るため、今後より高速特性を得るためには、結晶性を有するケイ素半導体からなる半導体装置の作製方法の確立が強く求められていた。尚、結晶性を有するケイ素半導体としては、多結晶ケイ素、微結晶ケイ素、結晶成分を含む非晶質ケイ素等が知られている。
【0004】
これら結晶性を有する薄膜状のケイ素半導体を得る方法としては、次の3つの方法が知られている。
【0005】
(1)成膜時に結晶性を有する膜を直接成膜する。
【0006】
(2)非晶質の半導体膜を成膜しておき、熱エネルギーを加えることにより結晶性を有せしめる。
【0007】
(3)非晶質の半導体膜を成膜しておき、エネルギービームを照射することにより結晶性を有せしめる。
【0008】
しかしながら、上記(1)の方法では、成膜工程と同時に結晶化が進行するので、大粒径の結晶性ケイ素を得ることが難しく、それにはケイ素膜の厚膜化が不可欠となる。だが、厚膜化したからといっても基本的には膜厚と同程度の結晶粒径しか得られず、この方法により良好な結晶性を有するケイ素膜を作製することは原理的にまず不可能である。また、成膜温度が600℃以上と高いので、安価なガラス基板が使用できないというコストの問題もある。
【0009】
上記(2)の方法は、結晶化に際し600℃以上の高温にて数十時間にわたる加熱処理が必要であるため、生産性に非常に乏しい。また、固相結晶化現象を利用するため、結晶粒は基板面に平行に拡がり数μmの粒径を持つものさえ現れるが、成長した結晶粒同士がぶつかり合って粒界が形成されるため、その粒界はキャリアに対するトラップ準位として働き、TFTの移動度を低下させる大きな原因となっている。さらに、それぞれの結晶粒は双晶構造を示し、一つの結晶粒内においても所謂双晶欠陥と呼ばれる結晶欠陥が多量に存在している。
【0010】
このため、現在は上記(3)の方法が主流となっている。上記(3)の方法では溶融固化過程を利用し結晶化するので個々の結晶粒内の結晶性は非常に良好である。また、照射光の波長を選ぶことで、アニールの対象であるケイ素膜のみを効率的に加熱し、下層のガラス基板への熱的損傷を防ぐことができると共に、上記(2)の方法のような長時間にわたる処理が必要でない。装置面でも高出力のエキシマレーザーアニール装置などが開発され、大面積基板に対しても対応可能になりつつある。上記(3)の方法を利用して半導体素子を作製する方法が、特開平4-11722号公報で提案されている。この公報では、下地膜\ケイ素膜\保護膜を積層形成し、ケイ素膜の上層部分は溶融するが下層部分は溶融しないような強度のレーザー光を照射して、ケイ素膜を結晶化している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
薄膜半導体装置に現在要求されている特性レベルを考えると、ケイ素膜の結晶化方法としては、上記(3)の方法が最良である。しかしながら、ケイ素膜自体を瞬時たりとも溶融させるということは、不純物汚染に対しては大きなウイークポイントとなる。特にガラス基板を用いた場合には、ガラス基板中に含まれるアルカリ金属類や、アルミ、ホウ素、ヒ素などの不純物汚染が問題となる。このため、特開平4-11722号公報でも述べられているように、ガラス基板を用いた際には、特に下地膜としてまず酸化ケイ素膜を形成し、その上にケイ素膜を形成してレーザー照射により結晶化している。
【0012】
しかし、これらの方法で不純物汚染はある程度防止できるものの、ケイ素膜がレーザー照射により溶融した際に、ケイ素膜と接している下地膜としての酸化ケイ素(SiO2)膜の上層部分が、同時に溶融してしまう。この結果、特にケイ素膜下層領域においては、下地膜としての酸化ケイ素(SiO2)膜との成分が入り混じり、膜中に多数の酸素原子が取り込まれる。
【0013】
このように多数の酸素原子が混入したケイ素膜を活性領域に用い、半導体素子を作製すると、過飽和の酸素原子が数個集合してクラスターとなり、これがドナーを形成する。イオン化したドナーは、キャリアの散乱中心ともなるため、ケイ素膜そのものの移動度を低下させ、素子特性を悪化させる。このように、ケイ素膜中の酸素ドナーは半導体素子に悪影響を及ぼすため、できる限り低減するべきものである。単結晶シリコン基板を用いたIC製造プロセスでは、酸化膜の形成工程や不純物の拡散工程など1000℃以上の高温処理工程があるため、サーマルドナーは分解してしまう。しかし、特にガラス基板上に半導体装置を形成する場合は、最高が600℃程度のプロセスであり、1000℃以上の高温プロセスが無く、最後までサーマルドナーが残ってしまう。
【0014】
特開平4-11722号公報では、上述の問題点に対して、ケイ素膜結晶化の際のレーザー照射を、ケイ素膜の下層部分は溶融しないような強度(エネルギー)にて行うことで、下層の下地SiO2膜よりの酸素原子の混入を防いでいる。しかしながら、結晶化の際の照射エネルギーに対してケイ素膜の結晶性も向上するため、要求される素子特性が低い場合には有効であるが、より高性能な半導体装置に対する要求に対してはフォローできない。その点で根本的な解決策とはなっておらず、当面の妥協策としての意味合いが強い。
【0015】
実際に、本発明者らが、特開平4-11722号公報により提示されているように、10〜20Wの連続発振アルゴンレーザーを走査速度0.5〜20cm/secで照射して、TFTを作製して評価したところ、液晶表示装置のドライバー回路などの薄膜集積回路を構成する半導体素子としては、十分な性能のものが全く得られないことがわかった。したがって、本発明者らは、より高性能な半導体装置を得るため、前記公報で述べられている範囲外のエネルギー、すなわち、より大きなエネルギーでのレーザー照射を行い、TFTの特性向上を試みた。このとき、前記公報で述べられているような酸素ドナーが原因と思われる移動度の低下は見られず、ケイ素膜結晶化時のレーザー照射エネルギーを大きくしていくにしたがい、逆に移動度が向上した。
【0016】
しかし、ここで新たな問題が生じた。照射エネルギーを大きくし、半導体膜の移動度が向上するにしたがい、TFTのトランジスタ特性がマイナス側にシフトする現象が現れた。この現象は、特開平4-11722号公報で提示されているような低エネルギー照射で結晶化を行った場合には、全く見られなかった現象であり、ケイ素膜結晶化のためのエネルギーをある一定値以上にしたときに初めて顕在化する。このときのケイ素膜を調べたところ、結晶化のための照射エネルギーを大きくするにしたがい、その結晶性は向上するのであるが、ケイ素膜自身がN型化していることがわかった。TFTの活性領域がN型化すると、閾値電圧VTHがマイナス方向にずれ、オフ動作領域でのリーク電流が増大する。しかし、トレードオフの関係で活性領域の結晶性が向上するのでオン特性は向上し、電流駆動能力は増すといった上記の矛盾した現象が見られた訳である。このため、より結晶性を向上させるために、さらなる照射エネルギービームの出力アップを行うことはできず、ケイ素膜のN型化防止のため、比較的低エネルギーでビーム照射を行わざるを得ない。よって、要求される素子特性を満足するだけの十分な高品質結晶性ケイ素膜、そして高性能半導体装置を実現することができなかった。
【0017】
また、同時にこのときのケイ素膜表面のラフネスの大きさも大きな問題となる。すなわち、非晶質ケイ素膜は、強光のエネルギーにより、その融点1414℃以上まで瞬時に加熱され、数十nsec.程度の冷却期間にて室温付近まで冷却され固化される。この際の、あまりにも固化速度が速いので、ケイ素膜は過冷却状態となり、一瞬にして固化される結果、一般的に結晶粒径は100〜200nm程度と非常に小さくなる。この現象は、特に3つの結晶粒がぶつかり合った三極点で顕著となる。この結晶成長に起因する山状の盛り上がりを以後「リッジ」と呼ぶ。
【0018】
図8に、実際に強光照射により結晶化された結晶性ケイ素膜の表面状態の原子間顕微鏡(AFM)像を示す。図8において、X-Y方向のフルスケールは1μmであり、Z方向のフルスケールは50nmである。このような結晶性ケイ素膜により、MOS型トランジスタなど半導体装置の活性領域を作製すると、結晶性ケイ素膜表面のリッジに電界集中が起こる。すなわち、上層の絶縁膜の耐圧低下につながりリーク電流発生の原因となる。したがって、半導体装置としての信頼性が大きく低下し、実用に耐える半導体装置を得ることが非常に困難になる。
【0019】
さらに、エネルギービーム照射による結晶化工程の残る課題として、得られる結晶性ケイ素膜の膜質(結晶性)不均一性がある。すなわち、光源として、基板上のケイ素膜に一括照射できるだけの大面積、高出力のものが無く、小面積のビームを順次走査することで対応しているのが一般的である。したがって、当然のことながら、順次走査に伴う結晶性の不均一性が存在し、それが素子特性にそのまま反映され、素子間の特性ばらつきを生じさせる原因となる。このとき、本来の活性領域結晶性に起因する素子間特性ばらつきにプラスして、上記の活性領域のN型化によるばらつきが加算される訳である。その結果、TFTにおいては、特に閾値電圧VTHが安定せずに素子間で大きくばらつくことになる。このTFTを画素スイッチング素子としたアクティブマトリクス型液晶表示装置においては、結晶化のためのエネルギービーム順次走査に起因するばらつきが、活性領域のN型化により強調されるため、表示(コントラスト)むらが不良として現れていた。
【0020】
さらに、上記の液晶表示装置用アクティブマトリクス基板においては、一般的に液晶容量と並列に補助容量が設けられている。画素電極をスイッチングする画素TFTのチャネル部と共にその補助容量成分として一方の電極として、上記結晶性ケイ素膜を用いた場合、そのリッジによる表面積率の変化のため、容量は設計値からずれることになり、上記TFT素子間の特性ばらつきに加えて、表示むらやフリッカーなどの表示不良を引き起こす原因となる。
【0021】
本発明は、上述のような問題点に鑑みて創出されたものであり、絶縁表面を有する基板上に、高性能で高安定性、且つ高信頼性を有する半導体装置を提供することを目的としたものである。また、結晶性ケイ素膜に複数のTFTを有するアクティブマトリクス基板などの半導体装置においては、上述の順次走査により結晶化される際の素子特性ばらつきを低減し、低コスト化が図れる簡便なプロセスにて、均一性が良好な半導体装置を実現するものである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明は、より大型でより高解像度のアクティブマトリクス液晶表示装置や、同一基板上に駆動用のドライバを作り込むドライバモノリシック型アクティブマトリクス液晶表示装置、高速で高解像度の密着イメージセンサ、ドライバー内蔵型サーマルヘッド、三次元ICなどを実現するために、エネルギービームの順次走査により結晶化された結晶性ケイ素を活性領域に用いた際に生じる、素子特性の不安定性および不均一性の問題点を解決するものである。具体的には、本発明は以下の特徴を有する。
【0023】
(1)基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下となる絶縁膜であることを特徴とする。
【0024】
(2)前記下地膜の膜中に含有する水分(H2O)の濃度が、さらに約1×1019個/cm3以下であることを特徴とする。
【0025】
(3)基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、膜中に含有するSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下となる絶縁膜であることを特徴とする。
【0026】
(4)基板上に、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る結晶性を有するケイ素膜を、活性領域とする薄膜半導体素子が形成された半導体装置であって、前記活性領域は、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜であり、前記下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下で、且つ膜中に含有するSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下となる絶縁膜であることを特徴とする。
【0027】
(5)基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の薄膜トランジスタを有する半導体装置において、該複数の薄膜トランジスタのチャネル領域は、パルスレーザー光の順次走査照射により結晶化された結晶性ケイ素膜よりなり、前記チャネル領域と接して下層に形成された下地膜は、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下絶縁膜で構成されることを特徴とする。
【0028】
ここで、前記複数の薄膜トランジスタは、画素電極を有するアクティブマトリクス基板において、各画素電極をスイッチングする画素スイッチング用の薄膜トランジスタに用いるのが好適である。
【0029】
また、前記複数の薄膜トランジスタは、同一基板上にアクティブマトリクスとドライバー回路とが形成されたドライバーモノリシック型アクティブマトリクス基板において、ドライバー回路を構成する薄膜トランジスタに用いるのが好適である。
【0030】
(6)基板上に構成され、酸化ケイ素を主成分とする下地膜と接して成る複数の画素電極を駆動する薄膜トランジスタを有し、各薄膜トランジスタには前記画素電極による液晶容量と並列に補助容量成分が接続されてなる半導体装置において、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下絶縁膜よりなる下地膜上の結晶性ケイ素膜を用いて、前記薄膜トランジスタのチャネル領域と、その薄膜トランジスタに接続された前記補助容量成分の一方の電極とを構成したことを特徴とする。
【0031】
(7)基板上に、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下となる絶縁膜を形成する工程と、
該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、
該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、
該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0032】
(8)基板上に、膜中に含有するSiOH基濃度が約1×1021個/cm3以下となる絶縁膜を形成する工程と、該絶縁膜上にケイ素膜を形成する工程と、該ケイ素膜にエネルギービームを照射し、溶融固化過程において結晶化させる工程と、該ケイ素膜を活性領域に用いて、薄膜半導体装置を完成させる工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0033】
(9)前記下地膜は基板温度150℃以上のスパッタリング法により形成されるケイ素膜であることを特徴とする。
【0034】
(10)前記下地膜は、SiH4ガスとN2Oガスを材料としてプラズマCVD法により形成され、その後に550℃以上の加熱処理を施された酸化ケイ素膜であることを特徴とする。
【0035】
(11)前記下地膜は、TEOSなどの有機シラン系ガスと酸素ガスを材料としてプラズマCVD法により形成され、その後の550℃以上の加熱処理を施された酸化ケイ素膜であることを特徴とする。
【0036】
(12) 前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させる工程と、該結晶化されたケイ素膜に対しエネルギービームを照射して熔融固化させることで、ケイ素膜を再結晶化する工程とを有することを特徴とする。
【0037】
(13)前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させる工程と、該結晶化されたケイ素膜に対し、エネルギービームを照射して熔融固化させることで、該ケイ素膜を再結晶化する工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0038】
そして、前記下地膜上に非晶質ケイ素膜を形成し、該非晶質ケイ素膜を加熱することにより固相状態において結晶化させる工程は、その結晶化を助長する触媒元素を導入した後、行われることを特徴とする。
【0039】
(14)前記非晶質ケイ素膜を加熱することにより固相状態において結晶化させる工程は、該非晶質ケイ素膜に、その結晶化を助長する触媒元素を選択的に導入し、加熱処理により、該触媒元素が選択的に導入された領域から、その周辺部へと横方向に結晶成長させることにより行われ、該横方向に結晶成長させた領域を用いて、半導体装置の活性領域を形成することを特徴とする。
【0040】
前記触媒元素として、Ni、Co、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、In、Sn、Al、Sbから選ばれた一種または複数種類の元素を用いるのが好ましい。特に、Ni元素を用いることが好ましい。
【0041】
前記ケイ素膜を結晶化するためのエネルギービームとして、波長400nm以下のレーザー光を用いるのが好ましい。前記レーザー光として、波長308nmのXeClエキシマレーザー光を用いるのが好ましい。
【0042】
(15)前記エネルギービームは、前記ケイ素膜に照射されるエネルギー密度が250〜400mJ/cm2のパルスレーザーであることを特徴とする。
【0043】
前記エネルギービームはエキシマレーザー光であって、そのビーム形状が照射面(ケイ素膜表面)において長尺形状となるように設計されており、該ビーム形状の長尺方向に対して垂直方向に順次走査することで、複数の半導体素子の活性領域を同時に結晶化するのが好ましい。
【0044】
以下に上記特徴による作用を説明する。
【0045】
本発明者らが、レーザー照射により溶融結晶化された結晶性ケイ素膜の抵抗値、キャリア濃度を調べたところ、下地膜による依存性が大きいことがわかった。より深く調べると、図6および図7に示すように、下地膜の膜中の水分(H2O)濃度と、SiOH基濃度により、その上層の結晶性ケイ素膜の抵抗値(キャリア濃度)が変化するのがわかった。このときのキャリアタイプをホール効果測定にて調べると明らかにNタイプであり、このNタイプキャリアの発生原因は、ケイ素膜へのレーザー光照射のため下地膜より溶出しケイ素膜中に拡散した酸素クラスターによるサーマルドナーであることが判明した。すなわち、下地膜の酸化ケイ素膜より混入する酸素ドナーは、酸化ケイ素膜の成分酸素よりもむしろ、上層ケイ素膜のレーザー結晶化時に膜中から放出されるH2Oや、不安定な結合状態のSiOH基により主に形成されていることになる。下地膜から来る酸素ドナーの影響は、前記特開平4-11722号公報でも述べられているが、ケイ素膜そのものの移動度の低下現象よりもむしろ、TFTにおいて閾値電圧VTHをマイナス方向にシフトさせ、オフ動作領域でのリーク電流を増大させるといった非常に大きな悪影響を及ぼしていることがわかった。
【0046】
特に、基板上に複数のTFTを有する液晶表示用アクティブマトリクス基板のような半導体装置では、上記の酸素ドナーはTFT特性をばらつかせる大きな原因ともなる。すなわち、酸素ドナーを発生させる一次原因は、ケイ素膜の溶融固化による結晶化工程であり、上述のように課題として、得られる結晶性ケイ素膜の膜質(結晶性)不均一性がある。特に、ケイ素膜中に取り込まれる上記酸素ドナーの数は、結晶化工程に大きく依存し、より高エネルギーが与えられ結晶化された局所領域では、酸素ドナー濃度が相対的に高くなるため、本来の素子間の特性ばらつきにプラスして、酸素ドナーによるばらつきが加算される。その結果、特に閾値電圧VTHが大きくばらつき、TFTを画素スイッチング素子とするアクティブマトリクス型液晶表示装置においては、結晶化のためのエネルギービーム順次走査に起因する素子間特性ばらつきが強調されるため、表示(コントラスト)むらが不良として現れることがわかった。
【0047】
さらに、本発明者らが調べたところ、レーザー照射により熔融結晶化された結晶性ケイ素膜の表面ラフネスもまた下地膜による依存性が大きいことがわかった。すなわち、ケイ素膜がレーザー照射によりその融点まで瞬時に加熱される際に、その下層の酸化ケイ素膜にH2OやSiOH基が多量に存在していれば、それらがケイ素膜を通って、雰囲気中に突沸し、それがケイ素膜の表面ラフネスをさらに大きくしていることがわかった。
【0048】
本発明の大まかな主旨は、酸化ケイ素を主成分とする下地膜を有し、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜を活性領域とする薄膜半導体装置において、前記下地膜を、膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下、あるいは膜中に含有するSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下となるように構成することである。このような構成でTFTなどの半導体装置を作成すると、素子特性を向上するために、エネルギー密度が250〜400mJ/cm2にエネルギービームの出力アップを図った場合の、活性領域のケイ素膜のN型化現象は低減され、素子特性も安定する。したがって、ケイ素膜に十分なエネルギーを与え結晶化することができるため、活性領域の結晶性が大きく向上し、その結果、電流駆動能力を電界移動度で50〜200cm2/Vsに飛躍的に向上できる。一方、TFTにおいては閾値電圧VTHのマイナスシフト、オフ動作時のリーク電流の増大などの弊害を生じず、従来両立できなかった高性能で且つ高信頼性、高安定性の半導体装置を実現することができる。
【0049】
具体的に、本発明者らが行った実験結果を図6および図7に示す。図6は、下地膜(酸化ケイ素膜)の膜中の水分(H2O)濃度に対するレーザー結晶化後のケイ素膜の比抵抗を示したものであり、横軸は下地膜の膜中のH2O濃度(個/cm3)を示し、縦軸はケイ素の比抵抗(Ω・cm)を示す。図7は下地膜(酸化ケイ素膜)のSiOH基の濃度に対するレーザー結晶化後のケイ素膜の比抵抗を示したものであり、横軸は下地膜の膜中のSiOH基の濃度(個/cm3)を示し、縦軸はケイ素の比抵抗(Ω・cm)を示す。実験サンプルは、ガラス基板上に下地膜を形成し、その上に非晶質ケイ素膜を形成した後、レーザー照射を行い、結晶化したものである。使用したレーザー光は波長308nmのXeClエキシマレーザーで、ケイ素膜に照射されるエネルギー密度は330mJ/cm2と、標準よりかなり高いエネルギーで照射を行った。また、酸化ケイ素膜における膜中水分(H2O)濃度およびSiOH基の濃度は、FTIRスペクトルから算出したものであり、H2O濃度は3400cm-1付近のH2OのOH伸縮振動の吸収、SiOH基の濃度は3650cm-1付近のSiOH結合のOH伸縮振動の吸収から計算した。H2Oの存在は、1620cm-1付近のH-O-Hの変角振動による吸収により、別途確認できる。
【0050】
図6から、ケイ素膜の比抵抗は、H2O濃度が約1×1020個/cm3を境にして、これ以上の値では大きく減少する。約1×1020個/cm3以下の値でも、H2O濃度が大きくなるに連れ、緩やかな減少傾向を示すが、H2O濃度が約1×1020個/cm3以上となった際に、その傾きが変化し急激にケイ素膜の比抵抗が減少する。よって、下地膜のH2O濃度が約1×1020個/cm3以下であれば、ケイ素膜の抵抗値は、ほぼ飽和し、その変化が小さくなる。これはイントリンシックに近い状態となり、膜中のキャリャ濃度が極めて少なくなっていることを意味している。また、経験的な値として、結晶性ケイ素膜を活性領域としてTFTを作製した場合、そのケイ素膜の比抵抗が大体1×106Ω・cm以上のときエンハンス型の特性を示し、それ以下の値ではデプレッション型となることが多い。図6より、H2O濃度が1×1020個/cm3のときにそのケイ素膜の比抵抗が大体1×106Ω・cmとなっていることがわかる。
【0051】
さらに、図6から、ケイ素膜の比抵抗が完全に飽和するのは、下地膜のH2O濃度が約1×1019個/cm3以下であることがわかる。したがって、下地膜に含有されるH2Oの影響が、素子特性としてほぼ完全に問題なくなるのはこの値以下であり、本発明におけるレーザー結晶化によるケイ素膜の下地酸化ケイ素膜のH2O濃度の、より最適値としては、1×1019個/cm3以下であることが望ましい。H2O濃度は低いほど望ましいが、現実的な作製可能な下限値は1×1017個/cm3程度である。
【0052】
また、図7から、下地膜のSiOH基の濃度もまたケイ素膜の比抵抗に影響を及ぼしていることがわかる。図7から、ケイ素膜の比抵抗と下地膜のSiOH基の濃度の関係は、SiOH基の濃度が約1×1021個/cm3を境にして、これ以上の値では急激な減少傾向を示す。すすなわち、下地膜のSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下であれば、ケイ素膜の抵抗値はほぼ飽和し、イントリンシックに近い状態となり、膜中のキャリャ濃度が極めて少なくなる。さらに、本発明の効果をより引き出すためには、水分(H2O)濃度とSiOH基の濃度を同時制御することが最も有効で、下地膜としての酸化ケイ素膜の水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下で、且つSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下とすることがより望ましい。SiOH濃度は低いほど望ましいが、現実的な作製可能な下限値は1×1018個/cm3程度である。
【0053】
ケイ素膜の表面ラフネスの値も、上記下地膜の膜中に含有するH2O濃度およびSiOH基の濃度に依存する。具体的には、これらの濃度が高くなるに連れ、表面ラフネスが増大するのであるが、その変動領域は、主に本発明による上記の濃度範囲外にある。したがって、本発明の下地膜を使用することで、従来のレーザー結晶化工程で見られるリッジと呼ばれる結晶粒界部での盛り上がりによる表面ラフネスは低減される。すなわち、リッジは結晶成長過程メカニズムそのものに起因するものではあるが、非晶質ケイ素膜の膜中の水素や下地膜より噴出したH2Oなどの不純物が、それをより顕在化しているのである。実際には、AMF(原子間力顕微鏡)で測定した結果、その平均表面粗さRaは、従来は6〜7nm程度であったのに対し、本発明では4〜5nmに低減されていた。
【0054】
本発明は、特に、複数のTFTを有する半導体装置において有効である。すなわち、パルスレーザー光の順次走査照射により結晶化された結晶性ケイ素膜によりチャネル領域が形成された複数個のTFTにおいては、上述のように、パルスレーザー光の順次走査照射に起因する結晶性ばらつきが存在するが、これにプラスして、下地膜よりケイ素膜中に混入した酸素ドナーによるばらつきが加算されるからである。したがって、本発明を複数個のTFTを有する半導体装置に適用し、チャネル領域下層の下地膜を膜中に含有する水分(H2O)濃度が約1×1020個/cm3以下、あるいは膜中に含有するSiOH基の濃度が約1×1021個/cm3以下となる絶縁膜で構成することにより、高性能で且つ信頼性の高いTFTが得られるだけでなく、TFTの素子間での特性ばらつきが大きく低減できる。
【0055】
さらに本発明の適用装置としては、数10万個以上の非常に多数のTFTをマトリクス状に配置する半導体装置、特に液晶表示用のアクティブマトリクス基板に対して有効である。液晶表示用のアクティブマトリクス基板は、各画素電極に接続されてなる画素スイッチング用TFTにより構成されているが、その特性がばらつくと表示むら(コントラストむら)を引き起こす。人間の目は非常にシビアであり、微妙なTFT特性の違いが各画素電極の電圧変化として現れ、それが表示むらとして識別される。したがって、素子間のTFT特性の均一性は、非常に高いレベルが要求される。本発明は、このような高い均一性が求められる複数のTFT素子に対して非常に有効であり、液晶表示装置で従来見られていたパルスレーザー光の順次走査照射に起因する縞状のコントラストむらを大きく低減することができ、高表示品位の液晶表示装置が実現できるようになる。
【0056】
また、マトリクス状に配列された画素電極をスイッチングする画素TFTに加え、この画素TFTを駆動するドライバー回路を同一基板上に有するドライバーモノリシック型アクティブマトリクス半導体装置においては、画素TFTに加え、そのドライバー回路を構成する複数のTFTにおいても、特にシフトレジスタ回路などで非常に高い特性均一性が要求される。これらのTFTの特性がばらつくと、ライン毎の駆動波形が異なってしまい、この場合も画面上に縞状表示むらが現れる。前述のように人間の目は非常にシビアであり、微妙な表示むらも判別できる能力があるが、本発明をこれらTFTにも適用することで、ドライバー回路を構成する複数のTFTにおいても、基板全体にわたって優れた特性均一性が得られる。その結果、画素TFTを駆動するドライバー回路特性が安定し、液晶表示装置においてドライバー回路特性のばらつきに起因する表示むらなどの不良を低減することができる。
【0057】
さて、本発明は、ケイ素膜のN型化現象を抑えて素子特性の均一性を向上する効果に加えて、前述のようにレーザー結晶化によるケイ素膜の表面ラフネスを低減する効果がある。液晶表示用のアクティブマトリクス基板においては、画素TFTの活性領域と同一層で、画素電極による液晶容量と並列に接続された補助容量(Cs)の一方の電極を構成し、ゲート絶縁膜で容量を形成する方法が用いられている。すなわち、ゲートパルス信号がオフされた際に発生する画素電極部での電圧降下現象を緩和するため、液晶容量と並列に補助容量(Cs)を設けているのであるが、この補助容量(Cs)の容量値の画面内のばらつきは、画面上にフリッカーなどの表面むらを引き起こす原因となる。従来の強光照射により得られる結晶性ケイ素膜を用い、補助容量(Cs)の一方の電極を作製した場合には、リッジによる表面ラフネスの絶対値が大きく、補助容量(Cs)の容量値がばらつき、良好な表示品位の液晶表示装置を得ることは難しかった。それに対して、本発明を用いた場合には、ケイ素膜の表面ラフネスが低減されるため、補助容量(Cs)の容量値のばらつきを抑えることができ、表示むらのない高表示品位の液晶表示装置が得られる。
【0058】
本発明の条件を満たす酸化ケイ素膜の作製方法としては、様々な方法が考えられるが、本発明が特に目的とする液晶表示装置用のアクティブマトリクス基板を対象として考えると、下記3つの方法が最も優れている。第1の方法として、基板温度150℃以上300℃以下でのスパッタリング法により形成する方法がある。この場合、150℃以下では酸化ケイ素膜の膜質が良くなく膜中H2O含有量が大きくなる。300℃以上では酸素欠損のあるSiが増え、膜中固定電荷密度が大きくなる恐れがある。第2の方法として、SiH4ガスとN2Oガスを材料としてプラズマCVD法により形成し、その後に550℃以上600℃以下の加熱処理を施す方法がある。ここで550℃以下では膜中のH2O、SiOH基が十分に放出されず、600℃以上では基板としてガラスを用いた場合、ガラス基板が軟化する恐れがある。第3の方法として、TEOSなどの有機シラン系ガスと酸素ガスを材料としてプラズマCVD法により形成し、その後に550℃以上600℃以下の加熱処理を施す方法がある。ここで550℃以下では同じく、膜中に存在するH2O、SiOH基が膜外に十分放出されず、600℃以上ではガラス基板が軟化する恐れがある。
【0059】
以上3つの方法の何れかで作成することが特に望ましい。これらの方法であれば、本発明における下地膜としての酸化ケイ素膜の条件を十分に満たすことができ、量産性に富み、大型基板上に均一性よく酸化ケイ素膜を形成することができる。
【0060】
本発明は、半導体装置の高性能化と高信頼性、安定性、素子間均一性の両立を目的とするが、よりその効果を高めるために、本発明による下地膜上にまず非晶質ケイ素膜を形成し、加熱することにより固相状態において結晶化させ、その後、エネルギービーム照射し溶融固化させることで、このケイ素膜を再結晶化する方法がより有効である。非晶質ケイ素膜を加熱処理により固相結晶化した結晶性ケイ素膜は、結晶性が悪く、そのままではTFTのチャネル領域としては不適であるが、均一性が良好なため、溶融固化結晶化時の種結晶を作っておくという意味で有効である。次に、この結晶性ケイ素膜にエネルギービームを照射した場合には、その結晶情報をある程度は残した状態で再結晶化され、固相結晶化による良好な均一性が反映される。また、種結晶から再結晶化されるため、非晶質ケイ素膜を直接エネルギービーム照射により結晶化する場合よりも、個々の結晶粒径をより大きくすることができ、半導体装置の高性能化が行える。
【0061】
前記固相結晶化工程は、非晶質ケイ素膜に、その結晶化を助長する触媒元素を導入した後、行われることが望ましい。この方法により、加熱温度の低温化および処理時間の短縮、そして結晶性の向上が図れる。具体的には、非晶質ケイ素膜の表面にニッケルやパラジウム等の金属元素を微量に導入させ、しかる後に加熱することで、550℃、4時間程度の処理時間で結晶化が終了する。これに対し、通常の触媒元素を用いない固相結晶化には、600℃以上で数十時間にわたる熱処理が必要である。また、触媒元素により結晶化した結晶性ケイ素膜は、通常の固相成長法で結晶化した結晶性ケイ素膜の一つの粒内が双晶構造であるのに対して、その粒内は何本もの柱状結晶ネットワークで構成されており、それぞれの柱状結晶内部はほぼ単結晶状態となっている。
【0062】
この触媒元素により結晶化された結晶性ケイ素膜は、エネルギービーム照射による再結晶化工程と非常に相性が良い。エネルギービーム照射による再結晶化工程では、最初の結晶性がある程度反映され、通常の固相結晶化による結晶性ケイ素膜では、双晶構造を反映して、結晶欠陥の多い結晶性ケイ素膜となる。これに対して、触媒元素による固相結晶化ケイ素膜の場合は、エネルギービーム照射による再結晶化によって、それぞれの柱状結晶が結合し、広範囲にわたって非常に結晶性が良好な結晶性ケイ素膜が得られる。
【0063】
さらに、非晶質ケイ素膜の一部に選択的に触媒元素を導入し加熱することで、まず選択的に触媒元素が導入された領域のみが結晶化し、その後、その導入領域から横方向(基板と平行な方向)に結晶成長を行わせることができる。この横方向の結晶成長領域の内部では、成長方向がほぼ一方向に揃った柱状結晶がひしめき合っており、触媒元素が直接導入されランダムに結晶核の発生が起こった領域に比べて、結晶性が良好な領域となっている。よって、この横方向結晶成長領域の結晶性ケイ素膜を、TFTのチャネル領域など半導体素子の能動領域に用いることにより、より半導体装置の高性能化が行える。
【0064】
本発明に利用できる触媒元素の種類としては、Ni、Co、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、In、Sn、Al、Sbを利用することができるが、それらの中でも、特にNiを用いた場合に最も顕著な効果を得ることができる。この理由については、未だよくわかっていないが、一応次のようなモデルを考えている。触媒元素は単独では作用せず、ケイ素膜と結合しシリサイド化することで結晶成長に作用する。そのときの結晶構造が、非晶質ケイ素膜結晶化時に一種の鋳型のように作用し、非晶質ケイ素膜の結晶化を促すといったモデルである。Niは2つのSiとNiSi2のシリサイドを形成する。NiSi2は螢石型の結晶構造を示し、その結晶構造は、単結晶ケイ素のダイヤモンド構造と非常に類似したものである。しかも、NiSi2はその格子定数が5.406Åであり、結晶シリコンのダイヤモンド構造での格子定数5.430Åに非常に近い値をもつ。よって、NiSi2は、非晶質ケイ素膜を結晶化させるための鋳型としては最高のものであり、本発明における触媒元素としては、特にNiを用いるのが最も望ましい。
【0065】
本発明におけるケイ素膜を結晶化するためのエネルギービームとしては、波長400nm以下のエキシマレーザー光を用いることが望ましい。波長が400nm以下であれば、ケイ素膜がその波長域に対して大きな吸収係数を持つため、そのエネルギーを効率的にケイ素膜に与えられ、良好な結晶性ケイ素膜が得られるとともに、下層のガラス基板などへの熱的ダメージも比較的小さくて済む。その中でも、XeClエキシマレーザー光であれば、発振出力が高く、安定性が高いため、そのビームサイズをある程度拡げることができ、大面積基板のケイ素膜のアニール手段としては最も適している。本発明で使用されるレーザー光は、エネルギー密度が250〜400mJ/cm2の高エネルギーのパルスレーザーであることが望ましい。
【0066】
さらに、前記エキシマレーザー光は、そのビーム形状が照射面において長尺形状となるように設計されたものを用い、ビーム形状の長尺方向に対して垂直方向に順次走査することで、複数の半導体素子の活性領域を同時に結晶化することが望ましい。なぜなら、走査照射においては、走査方向に対して垂直方向の均一性は比較的良好なため、その方向へとビームサイズを拡げることで、大型基板などに対して、より均一な処理が可能となり、工程の処理効率も高くなるからである。
【0067】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
本発明を用いた第1の実施例について説明する。本実施例では、本発明を利用し、ガラス基板上に液晶表示装置用のアクティブマトリクス基板を作製する際の工程について説明を行う。このアクティブマトリクス基板においては、各画素をスイッチングするための素子としてN型TFTが形成される。
【0068】
図1は本実施例のアクティブマトリクス基板において、任意のTFTの作製工程を示す断面図であり、(A)→(E)の順にしたがって作製工程が順次進行する。実際には、アクティブマトリクス基板では、基板上に何十万個ものTFTが配置され、同時工程にて形成されるのであるが、本実施例では、説明の簡略上任意の1個のTFTにおいて説明を行う。図1(E)に示すのが、本実施例にて作製したアクティブマトリクス基板での画素TFT121の完成図である。実際には、画素TFT121と同様の工程にて、複数個の画素TFTが基板上に同時形成される。
【0069】
まず、図1(A)に示すように、ガラス基板101上に例えばスパッタリング法によって厚さ300nm程度の酸化ケイ素からなる下地膜102を形成する。酸化ケイ素膜を形成するときのスパッタリング条件としては、石英ターゲットを用い、基板を200℃に加熱した状態で、Ar/O2混合ガス中にて行った。このときの酸化ケイ素膜の膜中のH2O濃度は、5×1018個/cm3程度であり、SiOH基の濃度は、2×1019個/cm3程度であった。
【0070】
次に、減圧CVD法やプラズマCVD法などによって、厚さ20〜100nm、例えば30nmの非晶質ケイ素(a-Si)膜103を成膜する。プラズマCVD法により前記a-Si膜103を成膜した場合には、その膜中に多量の水素を含有し、後のレーザー照射時の膜剥がれの原因となるため、ここで450℃程度の温度で数時間熱処理を行い、膜中の水素を放出しておく必要がある。
【0071】
その後、図1(B)に示すように、レーザー光107を照射し、a-Si膜103を結晶化する。このときのレーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm、パルス幅40nsec)を用いた。レーザー光107の照射条件は、照射時に基板を200〜500℃、例えば400℃に加熱し、エネルギー密度250〜400mJ/cm2、例えば320mJ/cm2とした。レーザー光107は、基板表面におけるビームサイズが150mm×1mmの長尺矩形状となるように、ホモジナイザーによって成型されており、その長辺方向に対して垂直方向に順次走査した。このときの順次走査に伴うビームのオーバーラップ量は、90%と設定したため、a-Si膜103の任意の一点に対して、それぞれ10回レーザー照射されることになる。この工程により、a-Si膜103はその融点以上に加熱され、溶融し固化することで良好な結晶性を有する結晶性ケイ素膜103aとなる。このときの結晶性ケイ素膜103aの比抵抗を測定すると、5×106Ω・cm程度であった。
【0072】
次に、前記結晶性ケイ素膜103aの不要な部分を除去することで、図1(C)に示すような素子間分離を行って、後にTFTの活性領域(ソース領域、ドレイン領域、チャネル領域)を構成する島状の結晶性ケイ素膜108を形成する。
【0073】
引き続いて、図1(D)に示すように、活性領域となる上記島状の結晶性ケイ素膜108を覆うように厚さ20〜150nm、ここでは100nmの酸化ケイ素膜をゲート絶縁膜109として成膜する。酸化ケイ素膜の形成には、ここではTEOS(Tetra Ethoxy Ortho Silicate)を原料とし、酸素とともに基板温度150〜600℃、好ましくは300〜450℃で、RFプラズマCVD法で分解・堆積した。あるいはTEOSを原料としてオゾンガスとともに減圧CVD法もしくは常圧CVD法によって、基板温度を350〜600℃、好ましくは400〜550℃として形成してもよい。
【0074】
引き続いて、スパッタリング法によって、厚さ300〜600nm、例えば400nmのアルミニウムを成膜する。そして、アルミニウム膜をパターニングして、ゲート電極110を形成する。さらに、このアルミニウムの電極の表面を陽極酸化して、表面に酸化物層111を形成する。この状態が図1(D)に相当する。陽極酸化は、酒石酸が1〜5%含まれたエチレングリコール溶液中で行い、最初一定電流で220Vまで電圧を上げ、その状態で1時間保持して終了させる。得られた酸化物層111の厚さは200nmである。なお、この酸化物層111は、後のイオンドーピング工程において、オフセットゲート領域を形成する厚さとなるので、オフセットゲート領域の長さを上記陽極酸化工程で決めることができる。
【0075】
次に、イオンドーピング法によって、ゲート電極110とその周囲の酸化物層111をマスクとして活性領域に不純物(リン)を注入する。ドーピングガスとして、フォスフィン(PH3)を用い、加速電圧を60〜90kV、例えば80kV、ドーズ量を1×1015〜8×1015cm-2、例えば2×1015cm-2とする。この工程により、不純物が注入された領域は後にTFTのソース領域114とドレイン領域115となり、ゲート電極110およびその周囲の酸化物層111にマスクされ不純物が注入されない領域は、後にTFTのチャネル領域113となる。
【0076】
その後、図1(D)に示すように、レーザー光112の照射によってアニールを行い、イオン注入した不純物の活性化を行うと同時に、上記の不純物導入工程で結晶性が劣化した部分の結晶性を改善させる。この際、使用するレーザーとしてはXeClエキシマレーザー(波長308nm、パルス幅40nsec)を用い、エネルギー密度150〜400mJ/cm2、好ましくは200〜250mJ/cm2で照射を行った。こうして形成されたN型不純物(リン)が注入されたソース領域114、ドレイン領域115のシート抵抗は、200〜800Ω/□であった。
【0077】
そして、図1(E)に示すように、厚さ600nm程度の酸化ケイ素膜を層間絶縁膜116として形成する。この酸化ケイ素膜は、TEOSを原料として、これと酸素とのプラズマCVD法、もしくはオゾンとの減圧CVD法あるいは常圧CVD法によって形成すれば、段差被覆性に優れた良好な層間絶縁膜が得られる。
【0078】
次に、層間絶縁膜116にコンタクトホールを形成して、ソース電極117と画素電極120を形成する。ソース電極117は、金属材料、例えば、窒化チタンとアルミニウムの二層膜によって形成する。窒化チタン膜は、アルミニウムが半導体層に拡散するのを防止する目的のバリア膜として設けられる。画素電極120はITOなど透明導電膜により形成される。
【0079】
そして最後に、1気圧の水素雰囲気で350℃、1時間程度のアニールを行い、図1(E)に示すN型の画素TFT121を完成させる。前記アニール処理により、画素TFT121の活性領域/ゲート絶縁膜の界面へ水素原子を供給し、TFT特性を劣化させる不対結合手を低減する効果がある。なお、さらに画素TFT121を保護する目的で、必要な箇所のみSiH4とNH3を原料ガスとしたプラズマCVD法により形成された窒化ケイ素膜でカバーしてもよい。
【0080】
以上の実施例にしたがって作製した各TFTは、パネル内において、電界効果移動度で50〜70cm2/Vs、閾値電圧2〜2.5Vという良好な特性を示した。特に、パネル内でのTFTの閾値電圧のばらつきは、最大最小差で0.5V程度と非常に良好な均一性を示した。その結果、本実施例にて作製したアクティブマトリクス基板を用い、液晶表示パネルを作製し、全面表示を行った結果、TFT特性の不均一性に起因する表示むらは大きく低減され、高表示品位の液晶表示装置が実現できた。
【0081】
(実施例2)
本発明を用いた第2の実施例について説明する。本実施例でも、本発明を利用し、ガラス基板上に液晶表示装置用のアクティブマトリクス基板を作製する際の工程について説明を行う。このアクティブマトリクス基板においては、各画素電極をスイッチングするための素子としてN型TFTが形成され、そのドレイン領域側には画素電極による液晶容量と並列に補助容量(Cs)が設けられている。
【0082】
図2は、本実施例で説明するアクティブマトリクス基板において、任意の一画素部分の構成を示す平面図である。図3は、図2のA-A’で切ったTFTの作製工程を示す断面図であり、(A)→(E)の順にしたがって作製工程が順次進行する。図2および図3(E)が本実施例にて作製した画素TFTおよびその補助容量(Cs)部の完成図であり、スイッチング用のN型の画素TFT221と補助容量(Cs)224を示す。
【0083】
まず、図3(A)に示すように、ガラス基板201上にプラズマCVD法によって厚さ300nm程度の酸化ケイ素からなる下地膜202を形成する。このときの成膜条件としては、材料ガスとしてTEOS(Tetra Ethoxy Ortho Silicate)を原料とし、酸素とともに1Torr程度の減圧雰囲気下、基板温度300〜400℃にてRFプラズマ法で分解・堆積した。その後、不活性ガス雰囲気中にて、基板温度500〜600℃、例えば600℃で数時間アニール処理を行った。上記加熱処理工程において、膜中に含有される水分(H2O)は放出されるとともに、SiOH基の結合も切れてOH成分が膜外に放出される。その結果、加熱処理前の酸化ケイ素膜の水分(H2O)濃度が4×1020個/cm3程度、SiOH基の濃度が3×1021個/cm3程度であったのに対し、加熱処理後の酸化ケイ素膜のH2O濃度は2×1019個/cm3程度に、またSiOH基の濃度は4×1020個/cm3程度に低減された。
【0084】
そして、酸化ケイ素膜の下地膜202上に、減圧CVD法あるいはプラズマCVD法によって、厚さ40nmの真性(I型)の非晶質ケイ素膜(a-Si膜)203を成膜する。プラズマCVD法により前記a-Si膜203を成膜した場合には、その膜中に多量の水素を含有し、後のレーザー照射時の膜剥がれの原因となるため、ここで450℃程度の温度で数時間熱処理を行い、膜中の水素を放出しておく必要がある。
【0085】
その後、図3(A)に示すように、レーザー光207を照射し、a-Si膜203を結晶化する。このときのレーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm、パルス幅40nsec)を用いた。レーザー光207の照射条件は、照射時に基板を200〜500℃、例えば400℃に加熱し、エネルギー密度200〜350mJ/cm2、例えば330mJ/cm2とした。レーザー光207は、基板面に対して順次走査され、a-Si膜203の任意の一点に対して、それぞれ10回レーザー照射されるように走査ピッチを設定した。この工程により、a-Si膜203はその融点以上に加熱され、溶融し固化することで良好な結晶性を有する結晶性ケイ素膜203aとなる。ここで原子間力顕微鏡(AFM)により、結晶性ケイ素膜203aの表面の平均面粗さRaを測定すると、4〜5nm程度であった。
【0086】
次に、前記結晶性ケイ素膜203aの不要な部分を除去することで、図3(B)に示すような素子間分離を行って、後にTFTの活性領域(ソース領域、ドレイン領域、チャネル領域)および補助容量(Cs)の下部電極を構成する島状の結晶性ケイ素膜208を形成する。このときの状態を基板上方より見ると、図2に示されているように、島状の結晶性ケイ素膜208が形成されている。
【0087】
次に、図3(C)に示すように、活性領域となる上記島状の結晶性ケイ素膜208上にフォトレジストを塗布し、露光・現像してマスク204とする。すなわち、マスク204により、後にTFTのチャネル領域となる部分のみが覆われた状態となっている。そして、イオンドーピング法によって、フォトレジストのマスク204をマスクとして不純物(リン)を注入する。ドーピングガスとして、フォスフィン(PH3)を用い、加速電圧を5〜30kV、例えば、15kV、ドーズ量を1×1015〜8×1015cm-2、例えば2×1015cm-2とする。この工程により、不純物が注入された領域は後の画素TFT221のソース領域214となり、また画素TFT221のドレイン領域215と補助容量(Cs)224の下部電極を形成する。フォトレジストのマスク204にマスクされ不純物が注入されない領域は、上述のように後にTFT221のチャネル領域213となる。
【0088】
次に、図3(D)に示すように、フォトレジストのマスク204を除去し、島状の結晶性ケイ素膜208を覆うように厚さ20〜150nm、ここでは100nmの酸化ケイ素膜をゲート絶縁膜209として成膜する。酸化ケイ素膜の形成には、ここではTEOS(Tetra Ethoxy Ortho Silicate)を原料とし、酸素とともに基板温度150〜600℃、好ましくは300〜400℃で、RFプラズマCVD法で分解・堆積した。成膜後、ゲート絶縁膜209自身のバルク特性および結晶性ケイ素膜\ゲート絶縁膜の界面特性を向上するために、不活性ガス雰囲気下で400〜600℃で数時間のアニールを行った。同時に、このアニール処理により、ソース領域214およびドレイン領域215にドーピングされた不純物が活性化され、ソース領域214およびドレイン領域215が低抵抗化された結果、そのシート抵抗は800〜1000Ω/□となった。
【0089】
引き続いて、スパッタリング法によって、厚さ300〜500nm、例えば400nmのアルミニウムを成膜する。そして、アルミニウム膜をパターニングして、ゲート電極210aと補助容量(Cs)224の上部電極210bを形成する。ここでゲート電極210aは平面的に見れば、図2に示すように、第n番目のゲートバスラインを構成しており、補助容量(Cs)部の上部電極210bは第n+1番目のゲートバスラインを構成している。
【0090】
そして、次に図3(E)に示すように、厚さ500nm程度の酸化ケイ素膜を層間絶縁膜216として形成する。この酸化ケイ素膜は、TEOSを原料として、これと酸素とのプラズマCVD法、もしくはオゾンとの減圧CVD法あるいは常圧CVD法によって形成すれば、段差被覆性に優れた良好な層間絶縁膜が得られる。
【0091】
次に、層間絶縁膜216にコンタクトホールを形成して、ソース電極217と画素電極220を形成する。ソース電極217は、金属材料、例えば、窒化チタンとアルミニウムの二層膜によって形成する。窒化チタン膜は、アルミニウムが半導体層に拡散するのを防止する目的のバリア膜として設けられる。画素電極220はITOなど透明導電膜により形成される。このときの状態を基板上方より見れば、図2のようにソース電極217はTFT221に映像信号を伝達するソースバスラインを構成しており、各バスライン間に画素電極220が配置されている。
【0092】
そして最後に、1気圧の水素雰囲気で350℃、1時間程度のアニールを行い、図3(E)に示す画素TFT221を完成させる。前記アニール処理により、画素TFT221の活性領域/ゲート絶縁膜の界面へ水素原子を供給し、TFT特性を劣化させる不対結合手を低減する効果がある。なお、さらに画素TFT221を保護する目的で、必要な箇所のみSiH4とNH3を原料ガスとしたプラズマCVD法により形成された窒化ケイ素膜でカバーしてもよい。
【0093】
以上の実施例にしたがって作製した各TFTは、パネル内において、電界効果移動度で70〜90cm2/Vs、閾値電圧2〜2.5Vという良好な特性を示した。また、各画素TFT221は、パネル内でのTFT閾値電圧のばらつきが0.5V程度と非常に良好な均一性を示すのに加えて、そのチャネル領域213とその補助容量(Cs)224の下部電極においては、その表面平均粗さRaが共に4〜5nm程度に抑えられ、ゲート絶縁膜209を介したリーク電流はほとんどなく、それぞれの容量の不均一性も小さく抑えられる。その結果、本実施例にて作製したアクティブマトリクス基板を用い、液晶表示パネルを作製し、全面表示を行った結果、TFT特性の不均一性に起因する表示むらは大きく低減され、高表示品位の液晶表示装置が実現できた。
【0094】
(実施例3)
本発明を用いた第3の実施例について説明する。本実施例では、アクティブマトリクス型液晶表示装置の周辺駆動回路や、一般の薄膜集積回路を形成するNチャネル型TFTとPチャネル型TFTを相補型に構成したCMOS構造の回路をガラス基板上に作製する工程について、説明を行う。
【0095】
図4は、本実施例で説明するTFTの作製工程の概要を示す平面図である。図5は、図4のB-B’で切った断面図であり、(A)→(F)の順にしたがって工程が順次進行する。図5(F)に示すのが、本実施例によるCMOS回路の完成図であり、N型TFT322とP型TFT323により構成される。
【0096】
まず、図5(A)に示すように、ガラス基板301上にプラズマCVD法によって厚さ300nm程度の酸化ケイ素からなる下地膜302を形成する。このときの成膜条件としては、材料ガスとしてシラン(SiH4)と、N2Oを用い、0.5〜1.5Torrの減圧雰囲気、例えば0.8Torrに設定し、基板温度300〜350℃にてRFプラズマにより分解・堆積させた。その後、不活性ガス雰囲気中にて、基板温度500〜600℃、例えば580℃で数時間アニール処理を行った。このようにして得られた膜は、厳密には幾分かのSiOHの成分を有している。上記加熱処理工程において、膜中に含有されるH2Oは放出されると共に、SiOH基の結合も切れてOH成分が膜外に放出される。その結果、得られる酸化ケイ素膜のH2O濃度は、1×1019個/cm3程度に、SiOH基の濃度は、1×1020個/cm3程度になった。そして、酸化ケイ素膜からなる下地膜302上に、減圧CVD法あるいはプラズマCVD法によって、厚さ20〜100nm、例えば50nmの真性(I型)の非晶質ケイ素膜(a-Si膜)303を成膜する。
【0097】
次に、a-Si膜303上に感光性樹脂(フォトレジスト)を塗布し、露光・現像してマスク304とする。フォトレジストのマスク304のスルーホールにより、領域300においてスリット状にa-Si膜303が露呈される。即ち、図5(A)の状態を上面から見ると、図4のように領域300でa-Si膜303が露呈しており、他の部分はフォトレジストによりマスクされている状態となっている。
【0098】
次に、図5(A)に示すように、基板301表面にニッケルを触媒元素305として薄膜蒸着する。本実施例では、蒸着ソースと基板間の距離を通常より大きくして、蒸着レートを低下させることで、ニッケルよりなる触媒元素305の膜厚が1〜2nm程度となるように制御した。このときのガラス基板301上における触媒元素305によるニッケルの面密度を実際に測定すると、1×1013atoms/cm2程度であった。そして、フォトレジストのマスク304を除去することで、マスク304上のニッケルよりなる触媒元素305がリフトオフされ、領域300のa-Si膜303において、選択的にニッケルのような触媒元素305の微量添加が行われたことになる。そして、これを不活性雰囲気下、例えば加熱温度550℃で16時間アニールして結晶化させる。
【0099】
この際、領域300においては、a-Si膜303表面に添加されたニッケルを核としてガラス基板301に対して垂直方向にa-Si膜303の結晶化が起こり、結晶性ケイ素膜303bが形成される。そして、領域300の周辺領域では、図4及び図5(B)において、矢印306で示すように、領域300から横方向(基板と平行な方向)に結晶成長が行われ、横方向に結晶成長した結晶性ケイ素膜303cが形成される。また、それ以外のケイ素膜の領域は、そのまま非晶質ケイ素膜領域303dとして残る。この横方向結晶成長した結晶性ケイ素膜303c中のニッケル濃度は5×1016atoms/cm3程度であった。なお、上記結晶成長に際し、矢印306で示される基板と平行な方向の結晶成長の距離は、80μm程度であった。
【0100】
その後、図5(C)に示すように、レーザー光307を照射し、ケイ素膜の再結晶化を行う。このときのレーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm、パルス幅40nsec)を用いた。レーザー光307の照射条件は、照射時に基板を200〜500℃、例えば400℃に加熱し、エネルギー密度250〜400mJ/cm2、例えば350mJ/cm2とした。レーザー光307は、基板面に対して順次走査され、ケイ素膜303の任意の一点に対して、それぞれ10回レーザー照射されるように走査ピッチを設定した。この工程により、結晶性ケイ素領域303bおよび303cはその融点以上に加熱され、溶融し固化することで、一部を種結晶として再結合し、さらに良好な結晶性を有する結晶性ケイ素膜303b’および303c’となる。また、a-Si領域303dは、結晶化され結晶性ケイ素膜303aとなる。
【0101】
その後、図5(D)に示すように、結晶性ケイ素膜303c’領域が、後のTFTの活性領域(ソース領域、ドレイン領域、チャネル領域)を構成する島状の結晶性ケイ素膜308n、308pとなるように、それ以外の結晶性ケイ素膜をエッチング除去して素子間分離を行う。
【0102】
次に、島状の結晶性ケイ素膜308n、308pを覆うように厚さ20〜150nm、ここでは100nmの酸化ケイ素膜をゲート絶縁膜309として成膜する。酸化ケイ素膜の形成には、ここではTEOS(Tetra Ethoxy Ortho Silicate)を原料とし、酸素とともに基板温度150〜600℃、好ましくは300〜400℃で、RFプラズマCVD法で分解・堆積した。成膜後、ゲート絶縁膜309自身のバルク特性および島状の結晶性ケイ素膜308n、308p\ゲート絶縁膜309の界面特性を向上するために、不活性ガス雰囲気下で500〜600℃で数時間のアニールを行った。
【0103】
次に、図5(E)に示すように、スパッタリング法によって厚さ400〜800nm、例えば500nmのアルミニウム(0.1〜2%のシリコンを含む)を成膜し、アルミニウム膜をパターニングして、ゲート電極310n、310pを形成する。
【0104】
次に、イオンドーピング法によって、活性領域となる島状の結晶性ケイ素膜308n、308pにゲート電極310n、310pをマスクとして不純物(リン、およびホウ素)を注入する。ドーピングガスとして、フォスフィン(PH3)およびジボラン(B2H6)を用い、前者の場合は、加速電圧を60〜90kV、例えば80kV、後者の場合は、40kV〜80kV、例えば65kVとし、ドーズ量は1×1015〜8×1015cm-2、例えばリンを2×1015cm-2、ホウ素を5×1015cm-2とする。この工程により、ゲート電極310n、310pにマスクされ不純物が注入されない領域は後にTFTのチャネル領域313n、313pとなる。ドーピングに際しては、ドーピングが不要な領域をフォトレジストで覆うことによって、それぞれの元素を選択的にドーピングを行う。この結果、N型の不純物を注入したソース領域314nとドレイン領域315n、P型の不純物を注入したソース領域314pとドレイン領域315pが形成され、図5(E)及び(F)に示すように、N型TFT322とP型TFT323とを形成することができる。この状態を基板上方より見ると図4のようになっており、ここで活性領域を構成する島状の結晶性ケイ素膜308nおよび308pにおいて、矢印306で示した結晶成長方向キャリアの移動方向(ソース→ドレイン方向)は平行となるように配置してある。このような配置を採ることで、さらに高移動度を有するTFTが得られる。
【0105】
その後、図5(E)に示すように、レーザー光312の照射によってアニールを行い、イオン注入した不純物の活性化を行う。レーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm、パルス幅40nsec)を用い、レーザー光の照射条件としては、エネルギー密度250mJ/cm2で一か所につき4ショット照射した。
【0106】
続いて、図5(F)に示すように、厚さ600nmの酸化ケイ素膜を層間絶縁膜316として、TEOSを原料としたプラズマCVD法によって形成し、これにコンタクトホールを形成して、金属材料、例えば、窒化チタンとアルミニウムの二層膜によってTFTのソース電極・配線317、ソースとドレイン電極・配線318、ドレイン電極・配線319を形成する。そして最後に、1気圧の水素雰囲気下で350℃、1時間程度のアニールを行い、N型TFT322とP型TFT323を完成させる。
【0107】
以上の実施例にしたがって作製したCMOS構造回路において、それぞれのTFTの電界効果移動度はN型TFTで150〜200cm2/Vs、P型TFTで100〜130cm2/Vsと高く、閾値電圧はN型TFTで1.5〜2V、P型TFTで-2〜-2.5Vと非常に良好な特性を示す。さらに、繰り返し測定に伴う特性劣化もほとんどなく、信頼性の高いCMOS構造回路が得られた。
【0108】
以上、本発明に基づく実施例3例につき具体的に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0109】
例えば、上記実施例で成説明した酸化ケイ素膜の下地膜の形成方法以外に、スパッタリング法では、単結晶シリコンをターゲットに用い、酸素雰囲気中で行う反応性スパッタリングでも可能であるし、熱CVD法により形成し、成膜後、必要な熱処理を施してもよい。
【0110】
また、a-Si膜の結晶化に際しては、XeClエキシマレ-ザ-を用いたが、それ以外の様々な強光照射により結晶化された場合にも勿論、同様の効果があり、波長248nmのKrFエキシマレーザーや、波長488nmの連続発振Arレーザーなどにおいても同様である。
【0111】
また、上記第3実施例では、固相結晶成長法としては、触媒元素を選択的に導入し、結晶化する方法を用いたが、触媒元素をa-Si膜全面に導入する方法もプロセス簡略化の面で有効である。また、触媒元素を用いず通常の固相結晶成長法を用いても同様の効果が得られる。上記第3実施例では、触媒元素であるニッケルを微量導入する方法として、a-Si膜表面に蒸着法によりニッケル薄膜を形成する方法を採用したが、その他にも様々な手法を用いることができる。例えば、a-Si膜表面にニッケル塩を溶かせた水溶液を塗布する方法や、スパッタリング法やメッキ法により薄膜形成する方法、イオンドーピング法により直接導入する方法なども利用できる。さらに、結晶化を助長する不純物金属元素としては、ニッケル以外にコバルト、パラジウム、白金、銅、銀、金、インジウム、スズ、アルミニウム、アンチモンを用いても効果が得られる。
【0112】
さらに、本発明の応用としては、液晶表示用のアクティブマトリクス型基板以外に、例えば、密着型イメージセンサー、ドライバー内蔵型のサーマルヘッド、有機系EL等を発光素子としたドライバー内蔵型の光書き込み素子や表示素子、三次元IC等が考えられる。本発明を用いることで、これらの素子の高速、高解像度化等の高性能化が実現される。さらに本発明は、上述の実施例で説明したMOS型トランジスタに限らず、結晶性半導体を素子材としたバイポーラトランジスタや静電誘導トランジスタをはじめとして幅広く半導体プロセス全般に応用することができる。
【0113】
【発明の効果】
本発明を用いることにより、エネルギービーム照射による溶融固化過程にて結晶化された結晶性ケイ素膜を素子材料とする半導体装置全般において、従来の問題点を解決でき、高性能で且つ信頼性、安定性の高く、また、複数の素子間の特性均一性が良好な薄膜半導体装置を実現することができる。特に液晶表示装置においては、パネル内において個々のTFTの特性を均一化でき、レーザー順次走査に起因する表示不良のない高表示レベルな液晶表示装置が得られる。さらに、薄膜集積回路を構成するTFTにおいては、要求される高性能で且つ高信頼性を満足し、特にN型TFTとP型TFTを有するCMOS回路では、閾値電圧VTHの絶対値をほぼ同程度にできるため、従来必要であったチャネルドープなどの閾値電圧VTHのコントロールプロセスを行う必要がなくなる。
【0114】
そして、同一基板上にアクティブマトリクス部と周辺駆動回路部を構成するフルドライバモノリシック型のアクティブマトリクス基板を簡便な製造プロセスにて実現でき、モジュールのコンパクト化、高性能化、低コスト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
第1の実施例の作製工程を示す。
【図2】
第2の実施例の概要を示す。
【図3】
第2の実施例の作製工程を示す。
【図4】
第3の実施例の概要を示す。
【図5】
第3の実施例の作製工程を示す。
【図6】
下地膜膜中H2O濃度とケイ素膜抵抗値との関係を示す。
【図7】
下地膜の膜中SiOH基の濃度とケイ素膜抵抗値との関係を示す。
【図8】
レーザー照射により結晶化されたケイ素膜表面のAFM像を示す。
【符号の説明】
101、201、301 ガラス基板
102、202、302 下地膜
103、203、303 非晶質ケイ素(a-Si)膜
204、304 マスク
305 触媒元素
306 矢印
107、207、307 レーザー光
108、208、308 活性領域(島状の結晶性ケイ素膜)
109、209、309 ゲート絶縁膜
110、210a310 ゲート電極
210b 上部電極
111 酸化物層
112、 312 レーザー光
113、213、313 チャネル領域
114、214、314 ソース領域
115、215、315 ドレイン領域
116、216、316 層間絶縁膜
117、217 ソース電極
317 ソース電極・配線
318 ソースとドレイン電極・配線
319 ドレイン電極・配線
120、220 画素電極
121、221 画素TFT
322 N型TFT
323 P型TFT
224 補助容量(Cs)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-04-14 
出願番号 特願平8-349165
審決分類 P 1 651・ 572- YA (H01L)
P 1 651・ 537- YA (H01L)
P 1 651・ 113- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 573- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 岡 和久
橋本 武
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3338756号(P3338756)
権利者 シャープ株式会社
発明の名称 半導体装置およびその製造方法  
代理人 奥田 誠司  
代理人 奥田 誠司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ