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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1119421
異議申立番号 異議2003-70857  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-04-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-01 
確定日 2005-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3331697号「ハードコート層を有する成形品、及びその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3331697号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3331697号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、特願平5-238859号として、平成5年8月31日に出願(優先日:平成4年12月28日、平成5年6月8日、日本)され、平成14年7月26日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、ジェイエスアール株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし2に係る特許について特許異議の申立てがなされ、平成15年8月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年10月31日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
訂正事項a
請求項1の
「表面張力50dyne/cm以上に改質、又は」を削除する。
訂正事項b
請求項3の
「請求項1、または2記載の成形品の製造方法。」を
「(1)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品;又は(2)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品であって、該成形品のシリコーン系ハードコート層が染色されたものである熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法。」に訂正する。
訂正事項c
請求項5の
「請求項1、または2記載の成形品の製造方法。」を
「(1)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品;又は(2)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品であって、該成形品のシリコーン系ハードコート層が染色されたものである熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法。」に訂正する。
訂正事項d
段落【0007】の
「かくして本発明によれば、表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成型品、熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面が50dyne/cm以上になるように改質し、該表面にプライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする該成型品の製造方法、及び熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面に、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、またはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成し、一次プライマー層上にシリコーンハードコート剤用プライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする該成形品の製造方法が提供される。」を
「かくして本発明によれば、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成型品、熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面を表面張力が50dyne/cm以上になるように改質し、該表面にプライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法、及び熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面に、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、またはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成し、一次プライマー層上にシリコーンハードコート剤用プライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法が提供される。」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求に範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1において、熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材が「表面張力を50dyne/cm以上に改質」したものであるか、「・・・一次プライマー層を形成」したものであるかの択一的選択であったものを、その一方の「・・・一次プライマー層を形成」したものだけに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、したがって、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
訂正事項b及びcは、取消理由が通知されていない請求項3〜8について、そのままの範囲を維持するために、従属形式で表現されていたものを独立形式に訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、したがって、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
訂正事項dは、訂正事項a〜cによる特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の項の記載をこれらの訂正と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項a〜c同様特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜2に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明2」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品。
【請求項2】該シリコーン系ハードコート層が染色されたものである請求項1記載の成形品。」
4.特許異議の申立についての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1〜2号証を提出して、概略、次のように主張している。
(1)本件請求項1〜2に係る発明は、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。
4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において、平成15年8月27日付けで通知した取消理由は、上記特許異議申立人の主張(1)と同旨であり、引用した刊行物は以下のとおりである。
(註:上記4-1.及び4-2-1.の「請求項」とは訂正前のものを指す。)
<刊行物>
刊行物1:特開平3-122137号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平4-283245号公報(同、甲第2号証)
4-2-2.刊行物1〜2の記載内容
刊行物1
(1-1)「(A)下記一般式(I)で表わされる少なくとも1種のノルボルネン誘導体よりなる単量体、またはこの単量体およびこれと共重合可能な共重合性単量体を開環重合させて得られる開環重合体を、さらに水素添加して得られる水素添加重合体を主体とする樹脂の成形品表面に、
(B)(a)一般式RSi(OR’)3〔式中、Rは炭素数1〜8の有機基、R’は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示す。〕で表わされるオルガノアルコキシシランまたはこの加水分解物またはこの部分的縮合物100重量部に対し、
(b)親水性有機溶媒に分散されたコロイド状シリカを固形分換算で0〜50重量部、
(c)水0.1〜50重量部、および(d)親水性有機溶媒(ただし、(b)成分に存在する親水性有機溶媒を含む。)100〜1,000重量部を混合してなる組成物を塗布してなる熱可塑性樹脂成形品。」(特許請求の範囲、請求項(1))
(1-2)「[発明が解決しようとする課題]水素添加重合体成形品の有する透明性などの光学的性質を活かすことができ、かつ密着性がよく、耐傷性の優れた膜を形成するコーティング成形品を作成することである。」(第2頁左下欄第9〜13行)
(1-3)「なお本発明の組成物には、必要に応じてその他の充填剤を添加することも可能である。かかる充填剤としては、水に不溶性のものであり、例えば有機もしくは無機顔料などの顔料を挙げることができる。」(第8頁右上欄第11〜15行)
刊行物2
(2-1)「非晶ポリオレフィン重合体よりなり、表面張力が42dyn/cm以上の非晶ポリオレフィンフィルム。](請求項1)
(2-2)「非晶ポリオレフィン重合体よりなるフィルムであって、その少なくとも片面にスルホン酸塩を有するポリマーおよび/またはアクリル重合体からなる層を積層してなる非晶ポリオレフィンフィルム。」(請求項2)
(2-3)「非晶ポリオレフィン重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物、ジシクロペンタジエンとエチレンとの共重合体の水素化物およびノルボルネン重合体の水素化物から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1または2の非晶ポリオレフィンフィルム。」(請求項3)
(2-4)「そこで該非晶ポリオレフィンフィルムの表面張力を42dyn/cm以上、好ましくは45dyn/cm、さらに好ましくは50dyn/cm以上と高くしておくと高湿度下で長時間放置しておいてもベコが生ぜず、平面均一性のよいフィルムのまま保存できる。・・・したがって本発明によって平面均一性にすぐれたフィルムとなるばかりか、接着性にすぐれたフィルム表面となり、他のフィルムや記録層、印刷層などとの接着性にもすぐれる様になる。」(段落【0010】第6〜18行)
(2-5)「また、該非晶ポリオレフィンフィルム面に特定の化合物をコーティング積層することによっても本発明の目的、すなわち、高湿度下においても平面均一性にすぐれたフィルムを得ること、さらには記録層や他のフィルムとの接着性の向上を達成させることが可能となる。」(段落【0011】)
(2-6)「本発明でいうスルホン酸塩を有するポリマーとは、-SO3X基を有するスルホン酸及び/又はその塩を持つポリマーで、代表的なものとして、

の形でアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、あるいはスチレンと共重合したもの、あるいは、

のみからなるポリマー、

で表されるエステル形成性スルホン酸アルカリ金属化合物を種々のポリエステルのジカルボン酸の一部あるいは全部として使用したポリマーなどを挙げることができる。」(段落【0012】〜【0017】)
(2-7)「次にアクリル重合体とは基本式、


〔R:水素又はメチル基、R’は炭素数1〜18のアルキル基〕で示されるアルキルアクリレート、およびアルキルメタクリレート・・・テトラメチロールメタントリアクリレートなどから選ばれた1種又は2種以上の共重合体を意味する。塗膜の吸水性、透明性の点でアルキルメタクリレート/アルキルアクリレート共重合体が好ましく、例えばメチルメタクリレート/エチルアクリレートの共重合体を例示することができる。更に基材との密着性の点でカルボキシル基、あるいはメチロール基含有モノマー、アクリルアミドなどを共重合したアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル共重合体の水分散体が好ましい。」(段落【0025】〜【0027】)
4-2-3.対比・判断
(1)本件発明1について
刊行物1には、ノルボルネン誘導体よりなる単量体、またはこの単量体およびこれと共重合可能な共重合性単量体を開環重合させて得られる開環重合体を、さらに水素添加して得られる水素添加重合体を主体とする樹脂の成形品表面に、一般式RSi(OR’)3〔式中、Rは炭素数1〜8の有機基、R’は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示す。〕で表されるオルガノアルコキシシランまたはこの加水分解物またはこの部分的縮合物、親水性有機溶媒に分散されたコロイド状シリカ、水および有機溶媒を混合してなる組成物を塗布してなる熱可塑性樹脂成形品の発明が記載されている(摘示記載(1-1))。
そこで本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、本件訂正明細書には、本件発明1における熱可塑性ノルボルネン系樹脂として、ノルボルネン系単量体の開環重合体、その水素添加物が記載されており(段落【0009】)、したがって、刊行物1に記載された発明において用いられる「ノルボルネン誘導体よりなる単量体、またはこの単量体およびこれと共重合可能な共重合性単量体を開環重合させて得られる開環重合体を、さらに水素添加して得られる水素添加重合体を主体とする樹脂」は、本件発明1の熱可塑性ノルボルネン系樹脂に相当する。また、本件訂正明細書の記載によれば、本件発明1のシリコーン系ハードコート層を形成するのに用いられるシリコーン系ハードコート剤は、官能基を有するケイ素化合物の加水分解物及びその部分縮合物であるポリシロキサンを主成分として、粒径1〜100μmのシリカ微粒子を水、またはメタノール、エタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系容剤に分散させたコロイダルシリカ、必要に応じて、硬化触媒、溶剤・・・などの添加剤を加えた組成物であり(段落【0039】)、該官能基を有するケイ素化合物は、一般式1:

または一般式2:

(一般式1中のR1、一般式2中のR3は炭素数1〜8の炭化水素、ハロゲン化炭化水素基、または、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、アクリル基、あるいはメタクリル基などを有する有機基を示し、また、一般式1中のR2、一般式2中のR4は炭素、数1〜6の炭化水素基を示し、一般式1中のm、一般式2中のnは0、1、または2であるから(段落【0040】〜【0042】)、本件発明1で用いられるシリコーン系ハードコート剤は、刊行物1に記載された「一般式RSi(OR’)3〔式中、Rは炭素数1〜8の有機基、R’は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示す。〕で表されるオルガノアルコキシシランまたはこの加水分解物またはこの部分的縮合物、親水性有機溶媒に分散されたコロイド状シリカ、水および親水性有機溶媒を混合してなる組成物」に相当する。したがって、両者は、熱可塑性ノルボルネン系熱可塑性樹脂で形成された基材の表面にシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の点で一致し、以下の点で相違する。
(ア)本件発明1においては、熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面とシリコーン系ハードコート層の間にさらに、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層が形成されているのに対し、刊行物1に記載された発明においては上記一次プライマー層が存在しない点、及び
(イ)本件発明1においては、シリコーン系ハードコート層の碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上と特定されているのに対し、刊行物1に記載された発明においてはシリコーン系ハードコート層の碁盤目剥離試験での密着性が特定されていない点。
そこで相違点(ア)について検討すると、刊行物2には、ノルボルネン重合体の水素化物よりなる非晶ポリオレフィンフィルムの少なくとも片面にスルホン酸塩を有するポリマーおよび/またはアクリル重合体からなる層を積層してなる非晶ポリオレフィンフィルムが記載されており(摘示記載(2-2)、(2-3))、このコーティング積層により、高湿度下においても平面均一性にすぐれ、さらには記録層や他のフィルムとの接着性の向上を達成させることが可能となることが記載されている(摘示記載(2-5))。しかしながら、上記スルホン酸塩を有するポリマーとしては、スルホン酸塩を有するスチレンの単独またはアクリル系モノマーやスチレンとの共重合体、エステル形成性スルホン酸アルカリ金属化合物を種々のポリエステルのジカルボン酸の一部あるいは全部として使用したポリマーが記載されているだけであり(摘示記載(2-6))、結局、刊行物2には、本件発明1の一次プライマー層を形成するビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物を積層してノルボルネン重合体の水素化物からなる非晶性ポリオレフィンフィルムの接着性を向上させることについては何ら記載がない。そして、本件発明1は、上記特定の一次プライマー層を形成することにより、訂正明細書記載の所定の効果を奏し得たものであるから、他の相違点について検討するまでもなく、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が本件発明1を容易に発明することができたものということができない。
(2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1をさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては、本件発明1,2についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1,2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハードコート層を有する成形品、及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品。
【請求項2】 該シリコーン系ハードコート層が染色されたものである請求項1記載の成形品。
【請求項3】 熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面を表面張力が50dyne/cm以上になるように改質し、該表面にシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする(1)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品;又は(2)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品であって、該成形品のシリコーン系ハードコート層が染色されたものである熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法。
【請求項4】 基材表面の改質をエネルギー線照射処理により行うことを特徴とする請求項3記載の成形品の製造方法。
【請求項5】 熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面に、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、またはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成し、一次プライマー層上にシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする(1)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品;又は(2)表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品であって、該成形品のシリコーン系ハードコート層が染色されたものである熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法。
【請求項6】 極性基を導入した変性物が-COOH、またはその誘導体を導入した変性物である請求項5記載の成形品の製造方法。
【請求項7】 極性基を導入した変性物がマレイン酸または無水マレイン酸のグラフト付加物である請求項6記載の成形品の製造方法。
【請求項8】 シリコーン系ハードコート層を形成した後、分散染料0.1〜2重量部を水100重量部に分散、溶解させ、60〜100℃に保った染色液に2〜30分間浸漬して染色し、十分に水洗して染色液を除去することを特徴とする請求項3、4、5、6、または7記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂から成る成形品表面とハードコート層の接着性に優れた成形品、表面改質処理とプライマー層形成処理を併用するそのような成形品の製造方法、及び多重プライマー層形成処理を行うそのような成形品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
眼鏡レンズ、自動車用ルームミラーなどでは、表面に傷があると、乱反射等により目に悪い、画像が不正確になるなどの問題が生じるため、硬度の高いガラスか、透明樹脂の表面にハードコート層を設けて表面硬度を上げて用いている。しかし、ガラスには、重く、可撓性がないという欠点があった。
【0003】
樹脂に用いられるハードコート剤はシリコーン系ハードコート剤と有機系ハードコート剤に大別できる。しかし、有機系ハードコート剤は、一般に、硬度が低く、耐摩耗性が悪いため、表面の傷つきやすい成型品に用いるには、性能が不十分であった。
【0004】
近時、熱可塑性ノルボルネン系樹脂は透明性、耐熱性、耐湿性、低複屈折性に優れた光学材料として注目されている。しかし、表面が熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品では、シリコーン系ハードコート剤との濡れが悪く、密着性が不十分であり、硬化した後のハードコート層が成形品から剥がれてしまうという問題があった。また、極性基を有していない熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、耐薬品性が高いため表面処理を行いにくく、薬品処理のみでは、十分に接着性を上げることも困難であった。一方、極性基を含有させて密着性を改良した熱可塑性ノルボルネン系樹脂の場合は、ある程度の密着性を有するハードコート層を形成できる場合があったが、実用上密着性が不十分であり、極性基を含有させることにより耐湿性が低下するため、高温高湿など過酷な条件下では剥離しやすくなる、また、耐薬品性が低下するために一般のシリコーン系ハードコート剤に用いられる溶剤では表面が溶解し透明性が失われやすいなどの問題があった。
【0005】
したがって、従来、成形品表面との接着性に優れたシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品は得られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、熱可塑性ノルボルネン系樹脂から成る成形品とシリコーン系ハードコート層の接着性について鋭意研究の結果、表面改質処理とプライマー層形成処理を併用することにより、または多重プライマー層形成処理を行うことにより、ハードコート層と成形品表面が強固に接着できることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂から成る成型品、熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面を表面張力が50dyne/cm以上になるように改質し、該表面にプライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法、及び熱可塑性ノルボルネン系樹脂基材の表面に、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、またはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成し、一次プライマー層上にシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成し、シリコーン系ハードコート層を形成することを特徴とする表面張力を50dyne/cm以上に改質、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、若しくはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物からなる一次プライマー層を形成した熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の製造方法が提供される。
【0008】
(基材)本発明においては、ハードコート層を形成する基材は、少なくともハードコート層を形成する表面が熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された成形品である。
【0009】
本発明で用いる熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、特開平3-14882号や特開平3-122137号、特開平4-63807号などで公知の樹脂であり、具体的には、ノルボルネン系単量体の開環重合体、その水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加型重合体、ノルボルネン系単量体とオレフィンの付加型重合体、これらの重合体の変性物などが挙げられる。
【0010】
ノルボルネン系単量体も、上記公報や特開平2-227424号、特開平2-276842号などで公知の単量体であって、例えば、ノルボルネン、そのアルキル、アルキリデン、芳香族置換誘導体およびこれら置換または非置換のオレフィンのハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換体、例えば、2-ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、5,5-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-シアノ-2-ノルボルネン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-5-メチル-2-ノルボルネン等;シクロペンタジエンの多量体、その上記と同様の誘導体や置換体、例えば、ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロジシクロペンタジエン、1,4:5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-2,3-シクロペンタジエノナフタレン、6-エチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、1,4:5,10:6,9-トリメタノ-1,2,3,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a-ドデカヒドロ-2,3-シクロペンタジエノアントラセン等;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物、その上記と同様の誘導体や置換体、例えば、1,4-メタノ-1,4,4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロフルオレン、5,8-メタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロ-2,3-シクロペンタジエノナフタレン等;等が挙げられる。
【0011】
ノルボルネン系単量体の重合は公知の方法でよく、必要に応じて、他の共重合可能な単量体と共重合したり、水素添加することにより熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂である熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物とすることができる。また、重合体や重合体水素添加物を特開平3-95235号などで公知の方法により、α,β-不飽和カルボン酸および/またはその誘導体、スチレン系炭化水素、オレフィン系不飽和結合および加水分解可能な基を持つ有機ケイ素化合物、不飽和エポキシ単量体を用いて変性させてもよい。なお、耐湿性、耐薬品性に優れたものを得るためには、極性基を含有しない熱可塑性ノルボルネン系樹脂が好ましい。また、極性基を含有しない熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、本発明の製造方法により、シリコーン系ハードコート層と基材の密着性の改良効果が大きく好ましい。
【0012】
分子量はシクロヘキサンを溶媒とするGPC(ゲル・パーミエション・クロマトグラフィー)分析により測定した数平均分子量で1〜20万が適当である。また、水素添加する場合、耐光劣化性や耐候劣化性を向上させるために、水素添加率は90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。
【0013】
本発明で用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤;フェノール系などの熱劣化防止剤;ベンゾフェノン系などの紫外線安定剤;アミン系などの帯電防止剤;脂肪族アルコールのエステル、多価アルコールの部分エステル及び部分エーテルなどの滑剤;などの各種添加剤を添加してもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂などを混合して用いることもできる。
【0014】
本発明で用いる成形品を成形する方法は、特に限定されない。射出成形、溶融押し出し、熱プレス、溶剤キャスト、延伸など、熱可塑性樹脂の一般の成形方法を用いることができる。ハードコート層を形成する面が熱可塑性ノルボルネン系樹脂から成るものであればよく、他の部分は他の樹脂から成るものや、金属などを挿入して一体に成形したものであっても構わない。
【0015】
(表面改質処理)未処理の熱可塑性ノルボルネン系樹脂の表面張力は、通常、25〜40dyne/cm程度である。本発明の製造方法の一つにおいては、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品のハードコート層を形成しようとする表面を表面張力が50dyne/cm以上、好ましくは60dyne/cm以上、より好ましくは70dyne/cm以上になるように改質する。表面改質処理としては、特に限定されず、その具体例として、エネルギー線照射処理と薬品処理などが挙げられる。
【0016】
エネルギー線照射処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理などが挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理とプラズマ処理、特にコロナ放電が好ましい。エネルギー線照射処理条件は、目的の表面改質がなされる限り、特に限定されず、公知の方法でよい。例えば、コロナ放電処理の場合、特公昭58-5314号公報、特開昭60-146078号公報などで公知の条件でよい。また、プラズマ処理の場合も特公昭53-794号公報、特開昭57-177032号公報などで公知の条件でよい。
【0017】
また、薬品処理としては、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸などの酸化剤水溶液中に、浸漬し、充分に水で洗浄すればよい。浸漬した状態で状態で振盪すると効率的であるが、長期間処理すると表面が溶解するなどの透明性が低下するといった問題があり、特に、極性基を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂においては、用いる薬品の反応性、濃度などに応じて、処理時間などを調製する必要がある。
【0018】
(一次プライマー層形成処理)本発明の製造方法においては、表面改質処理の代わりに、または表面改質処理後に、ハードコート層を形成する基材表面に一次プライマー層形成処理を行う。
【0019】
一次プライマー層を形成するのに用いる一次プライマーは、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体に極性基を導入した変性物、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体の水素添加物に極性基を導入した変性物、またはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入した変性物から成る。
【0020】
本発明で用いる一次プライマーのベースポリマーであるビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体若しくはその水素添加物は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂との密着性に優れている。良好な密着性等の観点からビニル芳香族化合物由来の繰り返し構造単位を好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%、特に好ましくは25〜60重量%含み、また、良好な作業性等の観点から、メルトインデックス(200℃、5kg)が好ましくは0.1〜60g/10min、より好ましくは0.3〜40g/10minのものである。また、長期間の使用での変色を避けるために、共役ジエン類由来繰り返し構造単位中の二重結合が水素添加されているものが好ましく、水素添加率70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0021】
ビニル芳香族化合物としては、スチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、エチルビニルトルエン、第3級ブチルスチレン、ジエチルスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
【0022】
共役ジエン類としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、特に1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0023】
なお、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体若しくはその水素添加物としては、は、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・ランダム共重合体、スチレン・イソプレン・ランダム共重合体等や、これらの水素添加物が例示される。直鎖構造のものでも、分枝構造を有するものでもよい。ランダム共重合体若しくはその水素添加物でもよいが、熱可塑性ノルボルネン系樹脂との密着性の点から、ブロック共重合体若しくはその水素添加物が好ましい。また、ブロック共重合体は、テーパー部分や一部ランダム共重合部分を含有していてもよい。
【0024】
さらに、本発明で用いる別の一次プライマーのベースポリマーであるプロピレン・エチレン共重合体も、熱可塑性ノルボルネン系樹脂との密着性に優れた樹脂である。作業性や熱可塑性ノルボルネン系樹脂との密着性の観点から、プロピレン由来の繰り返し構造単位を好ましくは50〜75モル%、より好ましくは60〜70モル%含有しており、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕は好ましくは0.2〜30dl/g、より好ましくは0.3〜20dl/gであり、X線回析により測定した結晶化度が好ましくは2〜20%、より好ましくは5〜18%である。
【0025】
本発明においては、ベースポリマーに極性基を導入して、一次プライマー層として用いる。導入される極性基としては、-COOHまたはその誘導体が好ましく、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタール酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸等の不飽和カルボン酸;塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、ギリシルマレート等の不飽和カルボン酸のハロゲン化物、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体;等による変性物が挙げられ、密着性に優れることから、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物による変性物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、ナジック酸、無水ナジック酸、マレイン酸、または無水マレイン酸による変性物がより好ましく、特にマレイン酸、または無水マレイン酸による変性物が好ましい。これらの不飽和カルボン酸等を、2種以上を混合して用い、変性してもよい。
【0026】
ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体若しくはその水素添加物またはプロピレン・エチレン共重合体に極性基を導入する方法は、特に限定されないが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン類の共重合体水素添加物を十分に変性することができる点等から、極性基を有する化合物をグラフト付加することが好ましい。グラフト付加させる方法は、特に限定されず、公知の方法でよい。例えば、ラジカル発生剤を加えて溶融混練機中で、または溶媒中で加熱反応させればよい。ラジカル発生剤を用いた場合、一般に未反応のモノマーが多量に残留することがあるが、未反応モノマーは真空乾燥等の方法により、除去することが好ましい。なお、モノマーの付加量はベースポリマー100重量部に対して、1〜15重量部、好ましくは2〜10重量部にする。
【0027】
一次プライマーには、ビニルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤; カーボン、ガラスファイバー、ガラスビーズ等のフィラー;等を添加してもよい。
【0028】
一次プライマー層を形成する方法は特に限定されず、例えば、プライマー溶液をハケ塗り、ディッピング、吹き付け、スピンコート、ロールコーター等の方法で基材表面に塗布し、溶媒を揮発させる。プライマー層中に溶媒が残留していると、本発明の成形品を用いた完成品を高温下で使用する場合などに、フクレ、発泡等の問題を生じることがあるので、溶媒は実質的に残留しないように充分に揮発させることが好ましい。通常、20〜120℃で3分間〜1時間程度乾燥する。
【0029】
溶媒は、基材表面を溶解して変形させたり、変質させたりしない限りにおいて、特に限定されず、通常、基材表面を実質的に侵食しない熱可塑性ノルボルネン系樹脂にとっての貧溶媒を用いる。そのような溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤; 酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸エチル等のエステル系溶剤; 等が挙げられ、これらを単独、または混合して用いる。また、例えば、トルエンやキシレンは熱可塑性ノルボルネン系樹脂の良溶媒であるが、メチルイソブチルケトンのような貧溶媒で70重量%以下に希釈すると、熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品に塗布しても実質的に侵食しない場合があり、このような希釈液は、一次プライマー溶液の溶媒として用いることが可能である。
【0030】
プライマー溶液の濃度は、通常1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%である。濃度が高すぎると粘度が高くなり、濃度が低すぎると所定の厚さに塗ることが困難となり、共に作業性に欠ける。
【0031】
塗布量は溶媒を除去したプライマー層の厚さが1〜20μm、好ましくは2〜15μmになるようにする。
【0032】
(シリコーン系ハードコート剤用プライマー層形成処理)本発明においては、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品表面を表面改質処理後、または一次プライマー層形成処理後、さらにシリコーン系ハードコート剤用プライマー層形成処理をする。
【0033】
本発明で用いるシリコーン系ハードコート剤用プライマーとしては、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどに対してシリコーン系ハードコート剤用のプライマーとして用いられているものであれば、特に限定されずに使用できる。このようなプライマーとして一般的なものは、熱可塑性アクリル樹脂(特開昭52-138565号公報、特公昭61-27184号公報、特公昭61-27185号公報など)であり、耐久性を向上させるためにアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、またはアミド基などを導入したアクリル樹脂(特開昭53-138476号公報、特開昭57-137154号公報、特公昭61-27183号公報など)や、密着性を向上させるためにケイ素原子を含有したアクリル樹脂(特開平1-149879号公報)、エポキシ基含有のアクリル樹脂と紫外線吸収剤の反応物などでもよい。また、アクリル樹脂以外でも、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリオレフィンなども用いられており、エポキシシランとアミノシランの反応物、エポキシシランとアミノシランの付加物をアミド化したもの(特開昭56-16573号公報、特開平1-149879号公報など)なども使用できる。
【0034】
一般には、シリコーン系ハードコート剤用プライマーを溶剤に濃度1〜20重量%程度に溶解してシリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液として用いる。シリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液に用いられる溶剤としては、メタノール、エタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;ブタンジオール、ヘキサンジオール等のグリコール類溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;クロロホルム、塩化メチル等のクロル系溶剤;等を単独で、または混合した溶剤を用いる。
【0035】
この際、一次プライマー層形成処理を行わない場合は、前述の一次プライマー層形成処理において用いた溶媒のように、基材表面を実質的に侵食しない溶媒を選択する必要がある。また、一次プライマー層形成処理を行った場合も、同様に一次プライマー層を実質的に侵食しない溶媒を選択する必要がある。そのため、予め、侵食の有無を調べて、用いる溶媒を決めることが推奨される。
【0036】
なお、シリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液として、市販品のPC-7A(信越シリコーン社製)、PH91(東芝シリコーン社製)、PH93(東芝シリコーン社製)なども使用できる。
【0037】
シリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液の使用方法は、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどに対してシリコーン系ハードコート剤を用いる場合と同様である。例えば、シリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液をロール、ハケ、スプレー等を用いたり、ディッピングなどの方法により塗布し、20〜60℃で10分〜2時間程度乾燥する。通常、乾燥後のシリコーン系ハードコート剤用プライマー層の厚さが1〜20μm程度、好ましくは2〜15μmとなるようにする。
【0038】
(シリコーン系ハードコート剤)本発明においては、表面改質処理とシリコーン系ハードコート剤用プライマー層形成処理を施した後、シリコーン系ハードコード剤を用いて、シリコーン系ハードコート層を形成させる。
【0039】
本発明に用いるシリコーン系ハードコート剤は、特公昭52-39691号公報、特公昭54-28429号公報、特開昭55-94971号公報、特公昭62-5554号公報、特公昭62-9265号公報、特公昭63-9538号公報などで、ケイ素系塗料やコーティング組成物として公知のものである。このハードコート剤は、官能基を有するケイ素化合物の加水分解物及びその部分縮合物であるポリシロキサンを主成分として、粒径1〜100μmのシリカ微粒子を水、またはメタノール、エタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤に分散させたコロイダルシリカ、必要に応じて、硬化触媒、溶剤、シランカップリング剤、硬化促進剤、レベリング剤、すべり向上剤、ぬれ向上剤、平滑剤、増粘剤、着色剤などの添加剤を加えた組成物である。
【0040】
本発明で用いる官能基を有するケイ素化合物は下記一般式1で示される。
【0041】
一般式1:
【化1】
R1mSi(OR2)4-m
または、一般式2:
【化2】
R3nSi(OCOR4)4-n
【0042】
一般式1中のR1、一般式2中のR3は炭素数1〜8の炭化水素、ハロゲン化炭化水素基、または、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、アクリル基、あるいはメタクリル基などを有する有機基を示し、また、一般式1中のR2、一般式2中のR4は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、一般式1中のm、一般式2中のnは0、1、または2である。
【0043】
シリコーン系ハードコート剤に用いられる官能基を有するケイ素化合物として例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0044】
シリコーン系ハードコート剤用溶剤としては、例えば、前述のシリカ微粒子を分散させるのに用いられるアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;蟻酸、酢酸等のアルキルカルボン酸系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;等を単独で、または混合して用いることができる。ただし、特に光学用途に用いる場合、シリコーン系ハードコート剤用溶剤がシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を侵食すると均一性が失われるので、使用したシリコーン系ハードコート剤用プライマーを溶解しない溶媒を選択する。
【0045】
シロキサンは、硬化触媒がなくとも硬化させることが可能であるが、比較的低温でも硬化するように、また、硬化速度を早め硬化効率を上げるために、硬化触媒を添加することが好ましい。硬化触媒としては、酢酸ナトリウム、ギ酸カリウムなどの有機酸アルカリ金属;ジメチルアミンアセテート、エタノールアミンアセテート、ジメチルアニリルホルメートなどのアミンカルボキシレート;酢酸テトラメチルアンモニウム、酢酸ベンジルトリメチルアンモニウムなど第四級アンモニウム塩;オクタン酸スズなどのカルボン酸金属塩;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジンなどのアミン類;などや、水酸化ナトリウムや水酸化アンモニウムなどが例示される。特に、低温で硬化させるためには、第四級アンモニウム塩や有機酸アルカリ金属塩が好ましい。添加量は特に限定されないが、一般には、ハードコート剤の0.01〜0.1重量%程度である。
【0046】
レベリング剤としては、ポリエーテル変性シリコーン化合物やフッ素系レベリング剤が例示される。
【0047】
塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー、浸漬、スピンコート、ロールコーター、ディッピング等が可能である。溶剤を用いた場合は、塗布後、実質的に溶剤が含まれなくなるように、十分に乾燥する。乾燥方法は特に限定されない。
【0048】
この乾燥状態で、ハードコート層の厚さが1〜30μm程度、好ましくは3〜10μmにする。以下の硬化処理を施しても、ハードコート層の厚さは、実質的に変化しない。
【0049】
(硬化方法)本発明においては、シリコーン系ハードコート剤層を硬化させる方法は、特に限定されない。一般的には、80〜140℃、好ましくは100〜120℃で1時間〜2時間加熱して硬化させる。
【0050】
(ハードコート層を有する成形品)本発明のハードコート層を有する成形品はハードコート層と基材の密着性に優れ、碁盤目剥離試験(実用塗装・塗料用語辞典、実用塗装・塗料用語辞典編集委員会編集、昭和58年12月10日、日本塗装技術協会発行、第106頁)で100目中50目以上、好ましくは70目以上、より好ましくは90目以上が剥離しない。また、耐熱性にも優れ、例えば、70℃の温水中に1時間保持した後でも、碁盤目剥離試験で、100目中40目以上、好ましくは60目以上、より好ましくは80目以上が剥離しない。また、テーバー摩耗試験(ASTMD 1044-73)後のヘーズ値が1.0%以下になる。また、鉛筆硬度は2H以上、好ましくは3H以上である。
【0051】
本発明に用いる熱可塑性ノルボルネン系樹脂の内、極性基を含有するものから成る成形品に本発明で行う表面改質処理を行わず、本発明で行うシリコーン系ハードコート剤用プライマー層形成処理のみを行っても、シリコーン系ハードコート層を有する成形品を得ることは可能であるが、密着性が不十分である。また、極性基を含有しない熱可塑性ノルボルネン系樹脂の場合は、本発明の方法によって、初めて、十分な密着性を有するシリコーン系ハードコート層を有する成形品が得られ、その意味で、極性基を含有しないノルボルネン系樹脂において、本発明の効果が大きい。
【0052】
本発明のハードコート層を有する成形品の内、例えば、特公昭60-11727号公報、特開昭61-166861号公報、特開平2-163178号公報、特開平2-261826号公報等で開示されたシリコーン系ハードコート剤のような可染性シリコーン系ハードコート剤を用いて製造されたものは、必要に応じて、いわゆる分散染料を用いてハードコート層を染色することが可能である。
【0053】
分散染料としては、可染性シリコーン系ハードコート剤を用いて製造されたハードコート層を染色できるものであれば、特に限定されず、公知のものでよく、例えば、市販品のブラウン-D(セイコー社製)、サファイヤブルー4G(チバガイギー社製)、MLブルーVF(三井東圧染料社製)、MLレッドVF-2(三井東圧染料社製)、MLゴールドイエローVF(三井東圧染料社製)、MLイエローVF-2(三井東圧染料社製)、ブラウンAF(日本化薬社製)等が挙げられる。
【0054】
染色する方法も染色できる限りにおいては特に限定されない。一般には、分散染料0.1〜2重量部、好ましくは0.2〜1重量部を水100重量部に分散、溶解させ、60〜100℃、好ましくは70〜95℃に保った染色液に、本発明のハードコート層を有する成形品を2〜30分間、好ましくは5〜15分間浸漬して染色し、後処理として、十分に水洗して染色液を除去する。なお、本発明において染色する場合は、一般に、染色処理によるハードコート層と基材の密着性への影響はほとんどなく、通常、密着性は低下しない。
【0055】
(用途)本発明のハードコート層を有する成形品は、一般の窓ガラスやガラス扉等のガラスの代替のほかに、一般の眼鏡や着色されたサングラスなどの眼鏡類;ルームミラー、フェンダーミラー、サンルーフ、キャノピーなどの自動車部品;等、表面硬度と軽量であることが要求される分野でガラスの代替品として用いることができる。
【0056】
【実施例】
以下に参考例、実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、光線透過率は紫外線分光硬度計を用いて400nmの光線の透過率を、表面張力はぬれ指数標準液を用いて、密着性は碁盤目剥離試験により、ヘーズ値はASTMD 1003-61により測定した。また、碁盤目剥離試験、熱水処理、摩耗試験は下記の方法で行った。
【0057】
(碁盤目剥離試験)成形品表面に形成されたハードコート層の上からカッターにより1mm間隔で縦横互いに直角に交わる各11本の切れ目を入れ、1mm四方の碁盤目を100個作り、セロハン粘着テープ(積水化学社製)を貼り、粘着テープを表面に対し垂直な方向に引っ張って剥す。結果は、剥離しなかった目の割合で示す。
【0058】
(熱水処理)70℃に保温した熱水中に1時間保持し、取り出した後、水分を完全に拭き取り、室温になるまで放置した。
【0059】
(テーバー摩耗試験)ASTMD 1044-73に準じ、摩耗輪をCS-10にし、荷重500g、回転数100回転で行った。
【0060】
参考例1
熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂(ZEONEX 280、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度約140℃、数平均分子量約28,000)を金型温度100℃、樹脂温度290℃で射出成形して、3.0mm×90mm×55mmの板を得た。
【0061】
この板の表面張力は32dyne/cmであった。
【0062】
実施例1
参考例1で得た試験片を高周波発信機(コロナジェネレーターHV05-2、Tamtec社製)を、出力電圧100%、出力250Wで、直径1.2mmのワイヤー電極を用い、電極長240mm、ワーク電極間1.5mmで3秒間コロナ放電処理を行い、表面張力が72dyne/cmになるように表面改質した。
【0063】
表面改質した試験片をシリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液PH91(東芝シリコーン社製、アクリル系樹脂とダイアセトンアルコールをエチレングリコールモノエチルエーテルに溶解したもの)にディッピングし、取り出した後、40℃で10分間乾燥し、溶剤を除去してシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成した。なお、この溶剤による試験片の侵食は認められず、シリコーン系ハードコート剤用プライマー層の厚さは約5μmであった。
【0064】
このシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成した試験片をシリコーン系ハードコート剤溶液トスガード510(東芝シリコーン社製、C1〜C20のアルキルを有するポリアルキルシロキサンをエタノール、イソブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、水に溶解したもの)にディッピングし、取り出した後、110℃で2時間保持し、硬化させてハードコート層を形成した。なお、この溶剤によるプライマー層の侵食は認められず、ハードコート層の厚さは約5μmであった。
【0065】
このハードコートされた試験片の光線透過率は91.4%、基材とハードコート層の密着性は100目中100目、熱水処理後でも100目中100目と変わらず、テーバー摩耗試験後のヘーズ値は0.8%であった。
【0066】
実施例2
シリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液としてPC-7A(信越シリコーン製)を、シリコーン系ハードコート剤溶液としてKP-85(信越シリコーン製)を用いる以外は実施例1と同様に試験片にハードコート層を形成した。基材にもプライマー層にも侵食は認められず、プライマー層もハードコート層も厚さは約5μmで
あった。
【0067】
このハードコートされた試験片の光線透過率は91.4%、基材とハードコート層の密着性は100目中100目、熱水処理後でも100目中100目と変わらず、摩耗試験後のヘーズ値は0.8%であった。
【0068】
実施例3
シリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液としてPC-7A(信越化学工業社製)を、シリコーン系ハードコート剤溶液としてKP-64(信越化学工業社製)を用いる以外は実施例1と同様に試験片にハードコート層を形成した。基材にもプライマー層にも侵食は認められず、プライマー層もハードコート層も厚さは約5μmであった。
【0069】
このハードコートされた試験片の光線透過率は91.4%、基材とハードコート層の密着性は100目中100目、熱水処理後でも100目中100目と変わらず、摩耗試験後のヘーズ値は1%であった。
【0070】
実施例4
無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体の水素添加物(タフテック M1913、旭化成製、メルトインデックス値は200℃、5kgで4.0g/10min、スチレン・ブロック含量30重量%、水素添加率80%以上、無水マレイン酸付加量2%)2重量部を、キシレン8重量部とメチルイソブチルケトン40重量部の混合溶媒に溶解し、孔径1μmのテフロンフィルターを濾過して、完全な溶液のみを一次プライマー溶液として調製した。
【0071】
参考例1で得た試験片を一次プライマー溶液中に浸漬し、取り出した後、100℃で10分間乾燥して一次プライマー層を形成した。基材に侵食は認められず、一次プライマー層の厚さは約4μmであった。
【0072】
この試験片をシリコーン系ハードコート剤用プライマー溶液PC-7A中に浸漬し、取り出した後、40℃で10分間乾燥してシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成した。一次プライマー層に侵食は認められず、シリコーン系ハードコート剤用プライマー層の厚さは約4μmであった。
【0073】
このシリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成した試験片をシリコーン系ハードコート剤溶液KP-64(信越化学工業製)にディッピングし、取り出した後、110℃で2時間保持し、硬化させてハードコート層を形成した。シリコーン系ハードコート剤用プライマー層に侵食は認められず、ハードコート層の厚さは約5μmであった。
【0074】
このハードコートされた試験片の光線透過率は91.4%、基材とハードコート層の密着性は100目中100目、熱水処理後でも100目中100目と変わらず、テーバー摩耗試験後のヘーズ値は0.8%であった。
【0075】
実施例5
実施例3で得た試験片を、分散染料カロヤン-ポリエステル ブラウンAF(日本化薬社製)0.5重量部を水100重量部に溶解して90℃に保持した染色液に10分間浸漬して染色し、純水で洗浄して試験片から染色液を除いた。
【0076】
この染色された試験片の光線透過率は64.5%、基材とハードコート層の密着製は100目中100目、熱水処理後でも100目中100目と変わらず、摩耗試験後のヘーズ値は1%であった。また、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した染色前の試験片と染色後の試験片の全光線透過率変化は41.2%であった。
【0077】
比較例1
シリコーン系ハードコート剤用プライマー層を形成しない以外は実施例1と同様に試験片にハードコート層を形成した。
【0078】
このハードコートされた試験片の光線透過率は91.2%、基材とハードコート層の密着性は100目中20目、熱水処理後は100目中0目と密着性がなく、摩耗試験により完全に剥離した。
【0079】
比較例2
コロナ放電処理をしない以外は実施例1と同様に試験片にハードコート層を形成した。
【0080】
このハードコートされた試験片の光線透過率は91.4%、基材とハードコート層の密着性は100目中0目で密着性がなく、摩耗試験により完全に剥離した。
【0081】
【発明の効果】
本発明により、剥離しにくく、また、耐摩耗性に優れたシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品が得られる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-31 
出願番号 特願平5-238859
審決分類 P 1 652・ 121- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
登録日 2002-07-26 
登録番号 特許第3331697号(P3331697)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 ハードコート層を有する成形品、及びその製造方法  
代理人 高畑 ちより  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 鈴木 亨  

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