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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1119427
異議申立番号 異議2003-70844  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-05-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-31 
確定日 2005-04-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3329959号「熱線遮蔽材」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3329959号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3329959号の発明は、平成6年10月24日に特許出願され、平成14年7月19日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 日本ジーイープラスチックス株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成15年10月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月26日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
全文訂正明細書の記載からみて、特許権者が求める訂正の内容は以下のとおりと認められる。
(1)訂正事項(a)
請求項1の
「透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加されていることを特徴とする熱線遮蔽材。」を
「透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層の表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化したことを特徴とする熱線遮蔽材。」と訂正する。
(2)訂正事項(b)
段落【0007】の
「請求項1に係る発明の熱線遮蔽材は、透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加されているというものである。」を
「請求項1に係る発明の熱線遮蔽材は、透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層の表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化したというものである。」と訂正する。
(3)訂正事項(c)
段落【0009】の
「請求項1に係る発明は、合成樹脂層に添加されたパール顔料により熱線を遮蔽し、」を
「請求項1に係る発明は、表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化した合成樹脂層に添加されたパール顔料により熱線を遮蔽し、」と訂正する。
(4)訂正事項(d)
段落【0012】の
「なお、表皮材2を省略することも可能であり、その場合には、パール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層1に、MMAシートを使うことが有益である。」を削除する。
(5)訂正事項(e)
段落【0017】の
「次に、本発明に係る熱線遮蔽材の光学特性と熱線遮蔽効果とに関する」を
「次に、本発明の表皮材を持たないに係る熱線遮蔽材の光学特性と熱線遮蔽効果とに関する」と訂正する
(6)訂正事項(f)
段落【0018】の
「サンプルNo1〜9は本発明品を、サンプルNo10と同11は比較品を示す。」を
「サンプルNo1〜9はパール顔料を添加した熱線遮蔽材を、サンプルNo10と同11はパール顔料を添加していない比較材を示す。」と訂正する
(7)訂正事項(g)
段落【0028】の
「請求項1に係る発明は、合成樹脂層に添加されたパール顔料により熱線を遮蔽し、」を
「請求項1に係る発明は、表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化した合成樹脂層に添加されたパール顔料により熱線を遮蔽し、」と訂正する
(8)訂正事項(h)
段落【0016】の
「流動分布を持つパール顔料」を
「粒度分布を持つパール顔料」と訂正する

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否および特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項(a)は、訂正前の明細書の「パール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層1の表面に表皮材2としてメチルメタクリレート樹脂(MMA)のフィルムを積層一体化してあり、」(段落【0012】)との記載に基づいて、熱線遮蔽材の構造を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
(2)訂正事項(b)〜(g)は、訂正事項(a)による請求項1の訂正に伴って、発明の詳細な説明の対応する記載をこれに整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
(3)訂正事項(h)は、技術的に意味をなさない「流動分布を持つパール顔料」なる記載について、訂正前の明細書の「パール顔料の粒度分布には種々のものがあり」(段落【0016】)等の記載に基づいて「粒度分布を持つパール顔料」と訂正するものであるから、誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
(4)そして、これらの訂正は、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、当該訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層の表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化したことを特徴とする熱線遮蔽材。
【請求項2】5〜60μmの粒度分布を持つパール顔料が0.5〜1.5重量%添加されている請求項1記載の熱線遮蔽材。
【請求項3】合成樹脂層がポリカーボネート樹脂層でなり、その厚みが0.5〜5.0mmである請求項2記載の熱線遮蔽材。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1号証を提出し、概略、次のように主張している。
(1)訂正前の本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
(2)訂正前の本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において通知した取消理由は、上記特許異議申立人の主張と同旨であり、引用した刊行物は以下のとおりである。

刊行物1:特開平6-192552号公報(特許異議申立人の提出した甲第1号証)

4-2-2.刊行物1の記載事項
刊行物1
(ア)「ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、粒子径1〜100μmの雲母粒子の表面に酸化チタンを20〜60重量%コーティングした物体を0.01〜3重量部添加した組成物から成形された板状体であること、を特徴とするポリカーボネート樹脂建築材。」(請求項2)
(イ)「本発明は、アーケード、カーポート等をはじめとする屋外構造物の屋根材や光透過性壁材等の建築材として適用し得るポリカーボネート成形品を得るための、赤外線反射特性を有するポリカーボネート樹脂組成物ならびにこのような樹脂組成物により形成されたポリカーボネート樹脂建築材に関する。」(段落【0001】)
(ウ)「現在、アーケード、カーポートなどの屋根材や光透過性の壁材として、透明または半透明のプラスチック板材が多く使用されている。これら用途にあっては、機械的強度はもとより、耐候性、耐UV性等の各種特性に加えて、可視光線はできるだけ透過させながら赤外線(熱線)透過を低減する特性が要求される。」(段落【0002】)
(エ)「・・・ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、粒子径が5〜50μmであって酸化チタンのコート率が40%である雲母微粒子0.05重量部を十分に混合し、さらに押し出し機により溶融混練してペレットを作成した。
-中略-
このようにして得られたペレットにより、厚さ3mmの試験用プレートを成形し、光学的特性の測定を行なった。」(段落【0010】〜【0012】)
(オ)「本発明にかかる赤外線反射特性を具備する樹脂組成物により成形された建築材によれば、耐久性に優れ、かつ可視光領域の波長に対しては高い透過率を保持しているにもかかわらず、赤外領域に対しては、透過率を低下せしめる効果がある。」(段落【0017】)

4-2-3.対比・判断
(i)本件発明1
刊行物1には、「ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、粒子径1〜100μmの雲母粒子の表面に酸化チタンを20〜60重量%コーティングした物体を0.01〜3重量部添加した組成物から成形された板状体であること、を特徴とするポリカーボネート樹脂建築材」(摘示記載(ア))が記載されており、該建築材が光透過性壁材等に適用されること(摘示記載(イ))、及び、赤外線反射特性を具備する樹脂組成物により成形されており、可視光領域の波長に対しては高い透過率を保持しているにもかかわらず、赤外領域に対しては、透過率を低下せしめる効果があること(摘示記載(オ))も記載されている。
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者はともに、赤外領域に対する透過率が低い材料、即ち熱線遮蔽材である点で一致しており、刊行物1に記載された「雲母粒子の表面に酸化チタンを20〜60重量%コーティングした物体」は、本件訂正明細書の「パール顔料には天然マイカの表面を酸化チタンや酸化鉄などの光屈折率の大きな金属酸化物で被覆した安定した無機パール顔料を好適に使用することができる」(段落【0010】)との記載からみて本件発明1における「パール顔料」に相当するものであり、これを添加したポリカーボネート樹脂組成物から成形された板状体は、可視光領域の波長に対して高い透過率を保持しているところから、本件発明1における「透光性を有する合成樹脂層」に相当するものである。
そうすると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、ともに、
「透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加された熱線遮蔽材」
である点で一致しているが、
(あ)本件発明1が「透光性を有する合成樹脂層の表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化した」ものであるのに対して、刊行物1にはこの点について記載されていない点
で両発明の間には相違が認められる。
そこでこの点について検討すると、取消理由通知で引用した特許異議申立書に記載されているとおり、光劣化を防止するために保護膜を形成することは従来より広く行われている(特許異議申立書第5頁第20〜22行)ことであり、樹脂成形体用の耐候性保護膜材料として、メチルメタクリレート樹脂は当業界で慣用されているもの(例えば、特開平5-78544号公報(請求項2,段落【0009】)、特開平2-208035号公報(請求項1)、特開平3-28252号公報(請求項5,第5頁左上欄第17〜20行)、特開平6-166153号公報(請求項1)及び特開平5-271449号公報(請求項1,段落【0014】)参照。)である。
そして、刊行物1に記載された発明において、このような慣用技術を適用して本件発明1のようにしたことにより、メチルメタクリレート樹脂保護材の周知の機能である耐候性(日光等の外部環境に対する耐性)から予測される以上の作用効果を奏し得たものと解すべき根拠は、本件訂正明細書中の記載からは見いだせない。
したがって、本件発明1における上記(あ)の点に格別の困難性は認められず、本件発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものというほかはない。

(ii)本件発明2
本件発明2は、本件発明1の熱線遮蔽材において「5〜60μmの粒度分布を持つパール顔料が0.5〜1.5重量%添加されている」との限定を付したものであるが、刊行物1には「雲母粒子の表面に酸化チタンを20〜60重量%コーティングした物体」即ちパール顔料の粒子径及び添加量について、「(ポリカーボネート樹脂100重量部に対して)粒子径1〜100μmの雲母粒子の表面に酸化チタンを20〜60重量%コーティングした物体を0.01〜3重量部添加」(摘示記載(ア))と記載されており、添加量の重量部を重量%に換算すると{0.01/(100+0.01)}×100〜{3/(100+3)}×100、即ち、0.01〜2.9重量%となるから、パール顔料の粒度分布及び添加量について、刊行物1には本件発明2の範囲と重複する範囲が記載されている。
そして、刊行物1に記載された範囲内で本件発明2の範囲に限定することは、当業者が実験的に適宜なし得たものというべきであり、本件訂正明細書の記載をみても、この点により特に予測を超える作用効果を生ずるものとも認められない。
したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iii)本件発明3
本件発明3は、本件発明2の熱線遮蔽材において「合成樹脂層がポリカーボネート樹脂層でなり、その厚みが0.5〜5.0mmである」との限定を付したものであるが、刊行物1には上記のように「ポリカーボネート樹脂」を基材樹脂とすること、及び、これにパール顔料を添加した組成物を板状体に成形すること(摘示記載(ア))が記載されており、この板状体の厚さを3mmとした実施例(摘示記載(エ))も示されている。
そうすると、本件発明3における限定事項はいずれも刊行物1に記載されたものであるから、本件発明3もまた、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過処置を定める政令(平成7年政令205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱線遮蔽材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層の表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化したことを特徴とする熱線遮蔽材。
【請求項2】 5〜60μmの粒度分布を持つパール顔料が0.5〜1.5重量%添加されている請求項1記載の熱線遮蔽材。
【請求項3】 合成樹脂層がポリカーボネート樹脂層でなり、その厚みが0.5〜5.0mmである請求項2記載の熱線遮蔽材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、採光材として好適に使用することのできる熱線遮蔽材に関する。
【0002】
【従来の技術】
高い採光性(透光性)の要求される所謂サンルームやカーポートなどの屋根材や側壁材には、透光性に優れた合成樹脂材でなる平板材や波板材などが多く用いられている。この用途に用いられる合成樹脂材には、透明あるいは半透明のものや、無色のもの、無彩色や有彩色のものなどがある。
【0003】
上記のような透光性を持つ合成樹脂材を屋根材や側壁材に用いた場合、特に夏場には、その優れた透光性のために光と共に熱線が透過し過ぎるという状況が生まれ、たとえばサンルームやカーポートにおいては室内温度や車体温度が上がり過ぎることがある。
【0004】
そこで、近時においては、合成樹脂材の透光性をそれほど低下させない範囲でその合成樹脂材をブラウンスモークやグレイスモークなどの色相を持つように着色するといったことが行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、合成樹脂材を着色することによって熱線の遮蔽効果を持たせるという従来の考え方の下では、同時に透光性も低下してしまい、そのために、許容できる程度の熱線遮蔽効果を得ようとすれば、透光性が低くなりすぎて室内が暗くなることを避けられず、そのような製品は需要者に好まれないという問題があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、透光性を有する合成樹脂層にある種の顔料を添加するという手段を採用することによって、透光性がそれほど低下しない割りに高い熱線遮蔽効果の得られるという特性を備えた熱線遮蔽材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明の熱線遮蔽材は、透光性を有する合成樹脂層にパール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層の表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化したというものである。
【0008】
このような熱線遮蔽材においては、請求項2に係る発明のように5〜60μmの粒度分布を持つパール顔料が0.5〜1.5重量%添加されていることが望ましい。また、請求項3に係る発明のように合成樹脂層がポリカーボネート樹脂層でなり、その厚みが0.5〜5.0mmであることが望ましい。
【0009】
【作用】
請求項1に係る発明は、表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化した合成樹脂層に添加されたパール顔料により熱線を遮蔽し、合成樹脂層に添加されたパール顔料の粒子相互間の隙間部分では少なくとも合成樹脂層自体の透光性を確保するという考え方に基づいている。
【0010】
この発明に係る熱線遮蔽材において、パール顔料には天然マイカの表面を酸化チタンや酸化鉄などの光屈折率の大きな金属酸化物で被覆した安定した無機パール顔料を好適に使用することができる。このような無機パール顔料は、それが無機質であることが優れた熱線遮蔽効果を発揮する要因の1つになっていると推定される。
【0011】
合成樹脂層をポリカーボネート樹脂で形成し、5〜60μmの粒度分布を持つパール顔料がその合成樹脂層に0.5〜1.5重量%添加されている所定厚さの平板材や波板材(この項において発明品という)と、従来品である同じ厚さのブラウンスモークに着色された合成樹脂の平板材や波板材との全光線透過率や熱線遮蔽率を比較すると、発明品は従来品よりも全光線透過率が大きいにもかかわらず熱線遮蔽率が大きくなる。なお、透光性の合成樹脂層に上記無機パール顔料を添加した平板材や波板材は、光が無機パール顔料に当たって規則的多重反射を起こし、ソフトな感じのパール光沢を発現する。
【0012】
【実施例】
図1は本発明の第1実施例による熱線遮蔽材Aを示しており、この実施例では、パール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層1の表面に表皮材2としてメチルメタクリレート樹脂(MMA)のフィルムを積層一体化してあり、合成樹脂層1やパール顔料の光劣化を防いでいる。この第1実施例において、上記合成樹脂層1には厚さが0.5〜5.0mm程度、好ましくは0.5〜1.5mmの合成樹脂シート、たとえばポリカーボネート樹脂(PC)シート、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)シート、メチルメタクリル(MMA)シートなどの熱可塑性合成樹脂を材料とするシートが使われている。
【0013】
第1実施例で説明した熱線遮蔽材Aはその肉厚が薄くて可撓性を有するものはガラスや合成樹脂で作られた採光板に貼り付けて使用することが可能である。また、硬くて腰の強いものは、平板材や図3に示したような波板材A’に成形して熱線遮蔽効果に優れる採光材として好適に用いることができる。さらに、肉厚が厚いものは真空または圧空により成形して薄肉となし、天窓用ドームや照明カバーなどの成形品用の材料として好適に用いられる。なお、図3の波板においては、パール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層1の厚さが0.7〜1.5mm、表皮材2としてのMMAフィルムの厚さが30〜300μmになっている。
【0014】
図2は本発明の第2実施例による熱線遮蔽材A”を示しており、この実施例では、パール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層1の表面にメチルメタクリレート樹脂(MMA)のフィルムを積層一体化すると共に、上記合成樹脂層1を透光性の基材3に積層一体化してある。この第2実施例において、表皮材2にはMMAフィルムが使われ、パール顔料が添加された透光性を有する合成樹脂層1には上掲した各種の合成樹脂が使われ、基材3にはPC、PVC、MMAなどから選ばれる透光性に優れる合成樹脂、好ましくは透明な合成樹脂が使われる。基材3を透明にしておくことで、熱線遮蔽剤A”の透光性を低下させることがない。合成樹脂層1と基材3に使われる合成樹脂は同じであっても異なっていてもよい。
【0015】
第2実施例で説明した熱線遮蔽材A”は、第1実施例で説明した熱線遮蔽材Aに基材3を積層一体化したものに相当する。このような熱線遮蔽材A”においては、基材3によって全体厚さが増厚されて強度が高められているので、面積の大きな採光窓、採光用の屋根材や壁材などに用いることが可能であり、好ましくは成形されたドーム状の採光窓として、あるいは折版形の採光用屋根材や壁材として用いられる。
【0016】
ところで、合成樹脂層1に添加するパール顔料としては、市販品を用いることができる。このパール顔料は光を規則的多重反射して人工的にパール光沢を発現させ得るものであり、そのパール光沢は、それが添加される合成樹脂層が透光性に優れているほど顕著に発揮される。このパール顔料は天然マイカの表面を酸化チタンや酸化鉄などの光屈折率の大きな金属酸化物で被覆したものであって、化学的に安定した無機パール顔料である。そして、パール顔料の粒度分布には種々のものがあり、たとえば10〜60μm、10〜50μm、5〜20μm、30〜100μm、40〜200μm、6〜50μm、10〜40μm、15μm以下などの粒度分布を持っており、本発明においては、この中の10〜40μmの粒度分布を持つパール顔料を特に好適に使用することができる。
【0017】
次に、本発明の表皮材を持たないに係る熱線遮蔽材の光学特性と熱線遮蔽効果とに関する調査実験を説明する。
【0018】
表1は厚さ1mmの熱線遮蔽板(表皮材を持たないもの)の光学特性と熱線遮蔽効果についてのテーブル試験結果を示している。表1のサンプルNo1〜13において、合成樹脂にはPCが用いられており、それに添加されるパール顔料の粒度分布と添加量、湿潤剤の添加量を各々示してある。サンプルNo1〜9はパール顔料を添加した熱線遮蔽材を、サンプルNo10と同11はパール顔料を添加していない比較材を示す。なお、表1中の熱線遮蔽効果を示す値は、電気総合研究所より発表されている波長毎の太陽光エネルギー量のグラフを基にしてサンプルの各波長毎の透過率にて透過太陽光エネルギー量を計算し、400〜1000nmの範囲の波長の太陽光エネルギー量総量の比率を求めて、それらの値を(1)式に適用して算出した値である。
【0019】
【表1】
【0020】
【数1】
【0021】
表1によると、合成樹脂としてPCを用いた厚さ1mmの板材においては、パール顔料の添加量の変化に応じて全光線透過率や熱線遮蔽効果が変わることが判る。
【0022】
そして、PC単独のペレットで作製されたNo10のサンプルと市販のブラウンスモーク用PCペレットで作製されたNo11のサンプルとの全光線透過率および熱線遮蔽効果とを考慮すれば、0.5〜1.5重量%、好ましくは0.7〜1.5重量%のパール顔料を添加すればよいことが判る。パール顔料の添加量が0.5重量%より少ないと熱線遮蔽効果が小さくなりすぎ、また、1.5重量%より多いと全光線透過率が少なくなりすぎる。また、どの粒度分布のパール顔料であっても、0.5〜1.5重量%の範囲であれば、全光線透過率はNo11のサンプルと略同等もしくは良好であるにもかかわらず、熱線遮蔽効果が良好であり、透光性を有しかつ熱線遮蔽性を持つことが判る。粒度分布が5μmより小さい範囲にあると、パール顔料の粒径が小さすぎて全光線透過率が少なくなりすぎ、また、60μmより大きい範囲では全光線透過率が大きくなりすぎる上、キラキラと輝くようなパール光沢が認められてその色相が好ましくないものになる。
【0023】
次に、テーブル試験結果を確認するために表1に示したNo5のサンプルと同じ配合よりなる組成物を押出機を用いて波形に成形した厚さ0.7mmのPC波板材(発明品)と、No11のサンプルのペレットを用いたブラウンスモークの色相を持つ厚さ0.7mmのPC波板材(従来品)とを製造し、それらの光学特性と熱線遮蔽効果とを測定すると共に、それらの波板材を用いて同じ形状・大きさのボックスを製作して同じ日の同じ場所での経時的な内部温度を測定することにより熱線遮蔽効果を対比した。表2に発明品と従来品との光学特性と熱線遮蔽効果を示す値などを示し、図4にボックスの内部温度の測定値をグラフ(図表)を表した。ここで用いた発明品と従来品とは共に表面に同厚(極薄)のMMAフィルムを積層一体化してあるけれども、MMAフィルムは全光線透過率にきわめて優れた素材であるので、MMAフィルムを積層したことによって発明品と従来品との全光線透過率や熱線遮蔽効果の相対的な関係が損なわれることはない。なお、図4には気温変化を付記してあり、また、同図中の数値はボックス内の温度を表している。
【0024】
【表2】
【0025】
表2によると、発明品、従来品共に、No5とNo11のサンプル(厚さ1mm)よりも全光線透過率が大きくなっている。これは、発明品や従来品がNo5やNo11のサンプルよりも薄いことによると考えられる。表2には表1で説明したテーブル試験結果と同様の傾向が表れており、発明品は、全光線透過率が高いにもかかわらず、熱線遮蔽効果に優れていることが判る。そして、図4のグラフより明らかなように、市販品と同じ波形板に成形しても発明品は従来品に比べて熱線遮蔽効果に優れ、熱線遮蔽に伴って生じる温度差は3〜10℃に達しており、屋根材などに実際に使用しても十分に熱線を遮蔽できることが判る。一方、全光線透過率については発明品が従来品よりも優れていて、透光性が良く明るいことが判る。
【0026】
実験例で説明した熱線遮蔽材は、PCを合成樹脂層として使用しているので、耐衝撃性などの機械的性質が他の合成樹脂を使用する場合に比べて優れるという固有の性質を有している。そして、PCよりなる合成樹脂層の厚みが0.5〜5.0mmの範囲内である0.7mmであるから、波形材としても十分実使用に耐えるものである。
【0027】
本発明に係る熱線遮蔽材においては、実施例で説明したものの他、次の態様で実施することも可能である。
(1)合成樹脂層が有彩色または無彩色に着色されていること。
(2)熱線遮蔽材を平板材として使用すること。
(3)熱線遮蔽材を波板材として使用すること。
【0028】
【発明の効果】
請求項1に係る発明は、表面に表皮材としてメチルメタクリレート樹脂を積層一体化した合成樹脂層に添加されたパール顔料により熱線を遮蔽し、合成樹脂層に添加されたパール顔料の粒子相互間の隙間部分では少なくとも合成樹脂層自体の透光性を確保するという考え方に基づいている。この点で、合成樹脂層をブラウンスモークなどに着色した従来品のように光の通過を抑制することによって熱線の通過を抑制するという考え方に基づいたものとは技術的に異なっている。
【0029】
そして、請求項1や請求項2に係る発明によれば、熱線遮蔽効果に優れたパール顔料によって透光性の合成樹脂層を通過する熱線が効率よく遮蔽され、その一方で、パール顔料の添加量を適度に抑えることにより透光性の合成樹脂層により大きな全光線透過率が確保されるので、着色といった全光線透過率を大幅に低下させてしまうような手段を使わずに熱線遮蔽効果を高めることが可能になる。
【0030】
また、請求項3に係る発明によれば、合成樹脂層がポリカーボネート樹脂でその厚みが0.5〜5.0mmであるので、ポリカーボネート樹脂が本来的に具有している耐衝撃性などの優れた機械的強度が生かされ、実使用上問題のない熱線遮蔽材が得られる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1実施例による熱線遮蔽材の断面説明図である。
【図2】
本発明の第2実施例による熱線遮蔽材の断面説明図である。
【図3】
本発明の熱線遮蔽材で製作した波板材の説明図である。
【図4】
本発明の熱線遮蔽材の全光線透過率と熱線遮蔽効果を実測値で表した図表である。
【符号の説明】
A 熱線遮蔽材
1 パール顔料が添加された合成樹脂層
【表1】

【表2】

【数1】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-22 
出願番号 特願平6-284095
審決分類 P 1 651・ 113- ZA (C08L)
P 1 651・ 121- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3329959号(P3329959)
権利者 タキロン株式会社
発明の名称 熱線遮蔽材  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 亨  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 高畑 ちより  

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