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審決分類 審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日  A01C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
審判 全部申し立て 5項3号及び6項 請求の範囲の記載形式不備  A01C
審判 全部申し立て その他  A01C
管理番号 1119443
異議申立番号 異議2003-72740  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-10-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-07 
確定日 2005-06-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第3418182号「田植機」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3418182号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続きの経緯
特許第3418182号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成7年6月16日に特許出願された特願平7-149959号(以下、「原出願」という。)を基に特許法第44条第1項の規定による特許出願として平成13年3月23日に新たに特許出願された特願2001-84391号であって、平成15年4月11日にその特許権の設定登録がされた。その後、特許異議申立人 井関農機株式会社、三菱農機株式会社による特許異議の申立てがなされ、平成16年10月26日付で本件の請求項1及び2に係る特許を取り消す旨の決定がなされたところ、本件の特許権者はこれを不服として東京高等裁判所(現知的財産高等裁判所)に当該決定の取消を求める訴(平成17年(行ケ)第10039号(旧平成16年(行ケ)第547号))を提起し、その訴訟係属中に本件特許第3418182号につき訂正審判の請求(訂正2005-39015号)がなされ、審理中にその訂正審判の請求が取り下げられ、平成17年2月24日付で新たに訂正審判の請求(訂正2005-39034号)がなされ、同年3月25日付で訂正を認める旨の審決がなされ(同年4月6日確定)、同年4月27日に前記決定を取り消す旨の判決言渡がなされたものである。

第2.特許異議の申立てについての判断
1.本件の請求項1及び2に係る発明
上記訂正審判(訂正2005-39034号)の確定審決により、特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正が認容されたので、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】走行機体(3)に、苗を圃場に植付ける植付アーム(17)を備えた苗植付装置(An)をアクチュエータ(8)により昇降自在に連結し、前記苗植付装置(An)に動力を伝達するとともに前記苗植付装置(An)に動力を伝達する伝動軸(12)が決まった回転位相にある場合のみ切り作動して苗植付装置(An)の前記植付アーム(17)が圃場面と接触しない姿勢で動力を遮断する植付クラッチ(C)を備えて、
中立姿勢(N)より上方操作姿勢(U)及び下方操作姿勢(D)に人為的に操作される操作具(21)を、ステアリングハンドル(20)の下方に備えると共に、
前記操作具(21)を中立姿勢(N)に復帰付勢して構成すると共に、この操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作により、作業高さにある前記苗植付装置(An)をアクチュエータ(8)により所定高さまで上昇させる上昇制御が行われ、前記操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作により、前記所定高さまで上昇させた苗植付装置(An)をアクチュエータ(8)により作業高さまで下降させる下降制御が行われるように構成し、
前記操作具(21)が一度下方操作姿勢(D)に操作されてから再び下方操作姿勢(D)に操作されると、前記植付クラッチ(C)の入り操作の制御が行われるように構成してある田植機。

【請求項2】前記操作具(21)の前記上方操作姿勢への操作による苗植付装置(An)の上昇時に、前記植付クラッチ(C)が切り操作されるように構成してある請求項1に記載の田植機。

2.特許異議申立て理由の概要
2.1.申立人・井関農機株式会社
申立人・井関農機株式会社は、
(1)甲第1号証(特許第3418039号公報)を提示し、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願と同日の特許出願である特願平7-149959号に係る特許第3418039号発明と実質的に同一であるから、その特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであり、
(2)本件特許明細書には記載不備があるから、本件特許は特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであり、
(3)甲第2号証の1(特開平7-46914号公報)、甲第2号証の2(特開平2-100607号公報)、甲第3号証(特開平5-260825号公報)、甲第4号証(特開平5-244804号公報)を提示し、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が甲第2号証の1ないし甲第4号証に記載された各発明に基いて、それぞれ容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである、旨主張している。

2.2.申立人・三菱農機株式会社
申立人・三菱農機株式会社は、
(1)甲第1号証(特開平9-23号公報)、甲第2号証(特開平2-97306号公報)を提示し、本件特許出願は、上昇制御及び下降制御として、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載されていない事項である、任意の高さにある作業装置を予め設定された上限高さまで上昇させる上昇制御と、任意の高さにある作業装置を予め設定された下限高さまで下降させる下降制御とを含むものであるから、特許法第44条第1項の規定による適法な分割出願ではないので出願日はそ及せず、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が甲第1及び2号証に記載された各発明に基いて、それぞれ容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであり、
(2)甲第3号証(特開平7-46914号公報)、甲第4号証(実公昭63-29373号公報)、甲第5号証(特開平5-244804号公報)、甲第6号証の1(実願昭54-317号(実開昭55-101406号)のマイクロフィルム)、甲第6号証の2(実願昭54-32687号(実開昭55-131609号)のマイクロフィルム)、甲第6号証の3(実願昭53-107013号(実開昭55-23077号)のマイクロフィルム)を提示し、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が甲第3号証ないし甲第6号証の3に記載された各発明に基いて、それぞれ容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである、旨主張している。

3.本件特許出願の出願日
上記訂正により、本件特許出願における上昇制御及び下降制御は、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載された事項である、作業高さにある苗植付装置をアクチュエータにより所定高さまで上昇させる上昇制御、所定高さまで上昇させた苗植付装置をアクチュエータにより作業高さまで下降させる下降制御となった。
よって、本件特許出願は、特許法第44条第1項の規定による適法な分割出願であり、その出願日は、平成7年6月16日となる。

4.特許法第39条第2項違反について
(1)同日特許出願の発明
出願ア:特願平7-149959号(特許第3418039号)
(申立人・井関農機株式会社が提示した甲第1号証)

本件特許出願と同日出願である上記出願アに係る特許第3418039号発明は、平成15年4月11日に設定登録がなされ、平成16年8月30日付で訂正請求がなされ、同年10月26日付異議の決定において当該訂正が認められたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「出願ア発明」という。)は、次のとおりのものである。

【請求項1】 走行機体(3)に対してアクチュエータ(8)の駆動で昇降自在に作業装置(A)を連結し、作業高さにある作業装置(A)をアクチュエータ(8)の駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた作業装置(A)を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる操作具(21)を備えた水田作業機であって、前記操作具(21)を中立姿勢(N)と、この中立姿勢(N)から上方に変位した上方操作姿勢(U)と、この中立姿勢(N)から下方に変位した下方操作姿勢(D)とに切換自在、かつ、中立姿勢(N)に復帰付勢して構成すると共に、この操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作を検出して前記上昇制御を行わせ、この操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作を検出して前記下降制御を行わせる制御手段(E)を備え、又、前記操作具(21)の下方操作姿勢(D)への操作で前記下降制御が開始されるとともにフラグの値がセットされ、前記操作具(21)の下方操作姿勢への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具(21)が再度下方操作姿勢(D)に操作された場合には、この操作を検出してフラグの値から前記操作具(21)が再度の下降操作姿勢(D)に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちに走行機体(3)から作業装置(A)に対して動力を伝えるクラッチ機構(C)を入り操作するクラッチ操作手段(F)を備えている水田作業機。

(2)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と出願ア発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の相違点aにおいて相違する。

相違点a:本件発明1は、苗植付装置に動力を伝達する伝動軸が決まった回転位相にある場合のみ切り作動して苗植付装置の植付アームが圃場面と接触しない姿勢で動力を遮断する植付クラッチを備えた田植機であるのに対し、出願ア発明は、作業装置に対して動力を伝えるクラッチ機構を備えた水田作業機である点。

上記相違点aについて検討する。
本件発明1は、出願ア発明が対象とする水田作業機を限定した田植機に関するものであり、クラッチ機構として、田植機に独特な苗植付装置に動力を伝達する伝動軸が決まった回転位相にある場合のみ切り作動して苗植付装置の植付アームが圃場面と接触しない姿勢で動力を遮断する植付クラッチを備えたものであるから、作業装置に対して動力を伝えるクラッチ機構を備えた水田作業機に係る出願ア発明と実質的に同一であるとは認められない。

イ.本件発明2について
本件発明2と出願ア発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点aにおいて相違するので、上記「4.(2)ア.本件発明1について」で説示したと同様の理由により、出願ア発明と実質的に同一であるとは認められない。

5.特許法第29条第2項違反について
(1)刊行物記載の発明
刊行物ア:特開平5-260825号公報
(申立人・井関農機株式会社の提出した甲第3号証)
刊行物イ:特開平7-46914号公報
(申立人・井関農機株式会社の提出した甲第2号証の1、
申立人・三菱農機株式会社の提出した甲第3号証)
刊行物ウ:特開平2-100607号公報
(申立人・井関農機株式会社の提出した甲第2号証の2)
刊行物エ:特開平5-244804号公報
(申立人・井関農機株式会社の提出した甲第4号証、
申立人・三菱農機株式会社の提出した甲第5号証)
刊行物オ:実公昭63-29373号公報
(申立人・三菱農機株式会社の提出した甲第4号証)
刊行物カ:実願昭54-317号(実開昭55-101406号)
のマイクロフィルム(同甲第6号証の1)
刊行物キ:実願昭54-32687号(実開昭55-131609号)
のマイクロフィルム(同甲第6号証の2)
刊行物ク:実願昭53-107013号(実開昭55-23077号)
のマイクロフィルム(同甲第6号証の3)
刊行物ケ:特開平2-97306号公報(同甲第2号証)
刊行物コ:特開平9-23号公報(同甲第1号証:原出願の公開公報)

ア.刊行物アに記載された発明
上記刊行物アには、次の事項が記載されている。
(ア-1)「走行機体に駆動昇降自在に苗植付装置(2)を連結し、走行機体側から植付クラッチ(21)を介して断続自在に前記苗植付装置(2)に動力を供給するよう構成するとともに、前記苗植付装置(2)の左右両側に外方に突出する作用姿勢と機体内方側に引退する格納姿勢とに切り換え自在に一対の線引きマーカ(23R),(23L)を設け、各線引きマーカ(23R),(23L)を格納姿勢でロック保持するロック機構(27R),(27L)を各別にロック解除させて、選択的に線引きマーカ(23R),(23L)を作用姿勢に切り換えるよう構成し、かつ、前記苗植付装置(2)を強制上昇させる状態と接地下降させる状態とに切り換え自在な昇降操作スイッチ(SW1)を備えてある田植機であって、前記昇降操作スイッチ(SW1)の操作形態を判別する操作形態判別手段(C)を備え、この操作形態判別手段(C)の判別結果に基づいて、前記苗植付装置(2)の下降作動に伴って前記植付クラッチ(21)を自動で入り操作させる状態と、クラッチ自動入り操作を牽制する状態とに切り換えるよう構成してある田植機。」(第2ページ第1欄第22〜41行)
(ア-2)「苗植付装置2は前後軸芯Y周りで回動自在にフレーム兼用の植付伝動ケース4に支持され、この植付伝動ケース4に、一定ストロークで往復横移動する苗のせ台5、苗のせ台5の下端部から一株づつ植付け用苗を取り出して圃場に植付ける複数の植付機構6、左右に並列配備した3個の接地フロート7等を備えてなり、油圧シリンダ10の伸縮駆動により昇降作動するよう構成してある。」(第3ページ第4欄第6〜13行)
(ア-3)「操縦部パネル17に設けた押し操作式昇降スイッチSW1により、上昇作動と下降作動とを交互に現出できるよう構成してある。」(第3ページ第4欄第20〜22行)
(ア-4)「制御装置13は以下のように制御を実行する。図4、図5に植付け作業における制御フローチャートを示す。」(第4ページ第5欄第24〜26行)
(ア-5)「〔別実施例〕前記昇降操作スイッチSW1は押し操作式のものに代えて揺動操作式に構成してもよく、このとき前記ステップ5及びステップ9における操作形態の判別は、操作方向の違いによって判別するようにしてもよい。」(第4ページ第6欄第16〜20行)
上記摘記事項(ア-1)ないし(ア-5)並びに図4及び5の記載から、上記刊行物アには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「走行機体に対して油圧シリンダ10の駆動で昇降自在に苗植付装置2を連結し、作業高さにある苗植付装置2を油圧シリンダ10の駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた苗植付装置2を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる昇降操作スイッチSW1を備えた田植機であって、この昇降操作スイッチSW1の一方側への揺動操作を検出して前記上昇制御及び下降制御を行わせ、前記昇降操作スイッチSW1の他方側への揺動操作で前記下降制御に伴って自動的に走行機体から苗植付装置2に対して動力を伝える植付クラッチ21を入り操作させる制御装置13を備えている田植機。」(以下、「刊行物ア発明」という。)

イ.刊行物イに記載された発明
上記刊行物イには、次の事項が記載されている。
(イ-1)「図15に対地作業機の一例である乗用型田植機を示している。」(第3ページ第3欄第23〜25行)
(イ-2)「機体操縦部におけるステアリングハンドル23の左下方側に第2操作具36が設けられ、この第2操作具36は戻し付勢された中立位置から上方側に揺動操作すると、昇降操作スイッチ35が入り作動し、その入り作動毎に、苗植付装置3を接地下降させる状態と、最大上昇位置まで苗植付装置3を上昇させる状態とを交互に現出させることができる。尚、この第2操作具36を中立位置から下方側に揺動操作すると、植付クラッチ12を入り状態に切り換えるためのクラッチスイッチ25を操作するよう構成してある。」(第3ページ第4欄第50行〜第4ページ第5欄第9行)
上記摘記事項(イ-1)及び(イ-2)から、上記刊行物イには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「中立位置と、この中立位置から上方に変位した上方操作姿勢と、この中立位置から下方に変位した下方操作姿勢とに切換自在、かつ、前記中立位置に復帰付勢して構成された第2操作具36を備え、前記第2操作具36の中立位置から上方操作姿勢への操作毎に、苗植付装置3を接地下降させる状態と、最大上昇位置まで前記苗植付装置3を上昇させる状態とを交互に現出させ、前記第2操作具36の中立位置から下方操作姿勢への操作により、植付クラッチ12を入り状態に切り換えるようにした乗用型田植機。」(以下、「刊行物イ発明」という。)

ウ.刊行物ウに記載された発明
上記刊行物ウには、次の事項が記載されている。
(ウ-1)「本発明の実施例を農作業機の1つである乗用型田植機により図面に基づいて説明する。」(第2ページ左下欄第6〜7行)
(ウ-2)「操作レバー(8)を上昇位置(U)に操作すると、制御装置(12)により油圧シリンダ(6)に対する制御弁(9)が作動油供給側に操作され苗植付装置(4)が上昇操作されるのであり、操作レバー(8)を下降位置(D)に操作すると制御弁(9)が排油側に操作されて苗植付装置(4)が下降して行く。又、(N)は中立停止位置である。」(第2ページ左下欄第19行〜右下欄第6行)
(ウ-3)「操作レバー(8)を植付位置(A)に操作すると切換弁(14)がクラッチ入側(14b)(排油側)に操作されて、シフト部材(18)がスプリング(21)の付勢力で紙面右方に移動して行く。この場合に、切換弁(14)からの排油路(23)に絞り部(24)が設けられて、油室(18b)から排油される作動油が絞り作用を受けるようにしている。これにより、シフト部材(18)は紙面左方(植付クラッチ(13)切側)への移動速度よりも低速で紙面右方に移動して行き、シフト部材(18)の凸部(18a)がベベルギヤ(17)の凸部(17a)に咬み合って植付クラッチ(13)が入状態となるのである。」(第3ページ右上欄第19行〜左下欄第11行)
上記摘記事項(ウ-1)ないし(ウ-3)及び第2図の記載から、上記刊行物ウには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「操作レバー(8)の中立停止位置(N)から上昇位置(U)への操作を検出して苗植付装置(4)を上昇させ、この操作レバー(8)の中立停止位置(N)から下降位置(D)への操作を検出して前記苗植付装置(4)を下降させる制御手段を備え、また、操作レバー(8)が下降位置(D)を越えて植付位置(A)に操作された場合には、この操作を検出して走行機体から苗植付装置(4)に対して動力を伝える植付クラッチ(13)を入操作させる切換弁(14)を備えた乗用型田植機。」(以下、「刊行物ウ発明」という。)

エ.刊行物エに記載された発明
上記刊行物エには、次の事項が記載されている。
(エ-1)「【請求項1】 走行機体に駆動機構(10)により昇降自在に苗植付装置(2)を連結し、植付クラッチ(22)入り状態で接地させる植付位置、植付クラッチ(22)切り状態で接地させる下降位置、中立位置及び強制上昇位置の夫々に切り換え操作自在に、前記苗植付装置(2)の人為昇降レバー(16)を設けるとともに、前記苗植付装置(2)を強制上昇させる状態と接地下降させる状態とに切り換え自在な昇降操作スイッチ(SW1)を備えてある田植機の昇降制御装置であって、前記人為操作レバー(16)が植付位置あるいは下降位置に操作されているときにのみ前記昇降操作スイッチ(SW1)による昇降作動を許容するよう構成するとともに、前記苗植付装置(2)が接地下降している状態において前記昇降操作スイッチ(SW1)の操作により苗植付装置(2)を上昇させる上昇制御手段(A)と、苗植付装置(2)が上昇位置にある状態からの昇降操作スイッチ(SW1)の操作に基づいて苗植付装置(2)を下降させる下降制御手段(B)と、前記上昇制御手段(A)の作動に伴って植付クラッチ(22)を切り操作させ、かつ、前記下降制御手段(B)の作動後における昇降操作スイッチ(SW1)の操作に基づいて前記植付クラッチ(22)を入り作動させるクラッチ操作手段(C)とを備えてある田植機の昇降制御装置。」(第2ページ第1欄第2〜24行)
(エ-2)「図4に乗用型田植機を示している。」(第3ページ第3欄第15〜16行)
(エ-3)「苗植付装置2は、・・・操縦部パネル17に設けた押し操作式昇降操作スイッチSW1により、上昇作動と下降作動とを交互に現出できるよう構成してある。」(第3ページ第3欄第19〜36行)
(エ-4)「前記苗植付装置2が接地下降している状態において前記昇降操作スイッチSW1の操作により苗植付装置2を上昇させる上昇制御手段Aと、苗植付装置2が上昇位置にある状態からの昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて苗植付装置2を下降させる下降制御手段Bと、前記上昇制御手段Aの作動に伴って植付クラッチ22を切り操作させ、かつ、前記下降制御手段Bの作動後における昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて前記植付クラッチ22を入り作動させるクラッチ操作手段Cとを備えてある。」(第3ページ第4欄第18〜27行)
上記摘記事項(エ-1)ないし(エ-4)から、上記刊行物エには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「苗植付装置2が接地下降している状態において押し操作式の昇降操作スイッチSW1の操作により苗植付装置2を上昇させる上昇制御手段Aと、前記苗植付装置2が上昇位置にある状態からの前記昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて苗植付装置2を下降させる下降制御手段Bと、前記下降制御手段Bの作動後における前記昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて植付クラッチ22を入り作動させるクラッチ操作手段Cとを備えた田植機。」(以下、「刊行物エ発明」という。)

オ.刊行物オに記載された発明
上記刊行物オには、次の事項が記載されている。
(オ-1)「本考案は、運転席を備えた車体の前部又は後部に、上方ほど車体がわに近付く傾斜姿勢の苗のせ台を備えた苗植付装置を、駆動装置によつて昇降駆動されるリンク機構を介して昇降可能に連結し、前記運転席と前記苗のせ台との間に、予備苗を前記苗のせ台がわに向けて押出し供給操作可能な状態で載置する予備苗のせ台を、その前記苗のせ台がわ端部が前記苗のせ台の上端部に近接する状態に維持されるよう、前記苗植付装置の昇降に連動して前記車体に対して昇降させる状態で設けた乗用型田植機に関する。」(第1ページ第1欄第20行〜第2欄第3行)
(オ-2)「又、電磁力にて短縮状態に操作保持可能な電磁操作式伸縮体16を、前記揺動操作アーム14に対して、それを前記制御用フロート7の下降付勢力に抗して上昇位置Uに強制揺動操作できるように連結し、もつて、前記伸縮体16を短縮状態に切換えることにより、前記苗植付部をストロークエンドまで上昇操作できるように構成してある。」(第2ページ第4欄第3〜9行)
(オ-3)「前記車体の前部に塔載したエンジンEの出力が伝達される走行用ミツシヨンケース22内に、前記苗植付部の駆動を断続する入り姿勢の植付クラツチ(図示せず)を設け、第6図に示すように、電磁力にて短縮状態に操作保持可能な電磁操作式伸縮体23を、前記植付クラツチの揺動操作アーム24に対して、それを付勢力に抗して入り位置(ON)から切り位置(OFF)に揺動操作できるように連結し、もつて、前記伸縮体23を短縮状態に切換えることにより、前記苗植付部を停止できるように構成してある。」(第2ページ第4欄第33〜43行)
(オ-4)「第4図に示すように、前記ステアリングハンドル4の支柱に、前記両伸縮体16,23及び前記両電磁ソレノイド21,21の起動スイツチを内装するスイツチケース25を取付け、スイツチ操作レバー26を、前記ケース25に対して、上方位置Aと下方位置Bとに上下揺動可能に、且つ、下方位置Bにおいて左方位置Lと右方位置Rとに左右揺動可能に枢支し、そして、レバー26を上方位置Aに揺動させると、前記両伸縮体16,23を作動させて前記苗植付部を上昇操作させるとともに前記植付クラツチを切り操作し、下方位置Bに揺動させると、前記両伸縮体16,23の作動を停止させて前記植付部を前記フロート7の情報に基づいて自動昇降操作させるとともに前記植付クラツチを入り操作し、更に、左方位置L又は右方位置Rに揺動させると、前記両電磁ソレノイド21,21の左方のもの又は右方のものを作動させて前記左方又は右方のマーカー17,17を線引き姿勢に切換えるように、前記レバー26と前記ケース25内の各スイツチとを連係し、もつて、1つのレバー26の揺動操作にて、苗植付部昇降操作、植付クラツチ入切操作、マーカー姿勢切換操作を容易且つ迅速に行なえるようにしてある。」(第2ページ第4欄第44行〜第3ページ第5欄第23行)
上記摘記事項(オ-1)ないし(オ-4)から、上記刊行物オには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「ステアリングハンドル4の支柱に取り付けたスイツチケース25に、スイツチ操作レバー26を上方位置Aと下方位置Bとに上下揺動可能に枢支し、前記スイツチ操作レバー26を上方位置Aに揺動させると苗植付部を上昇操作させるとともに植付クラツチを切り操作し、下方位置Bに揺動させると植付部をフロート7の情報に基づいて自動昇降操作させるとともに前記植付クラツチを入り操作するようにした乗用型田植機。」(以下、「刊行物オ発明」という。)

カ.刊行物カに記載された発明
上記刊行物カには、次の事項が記載されている。
(カ-1)「この考案はトラクターの如き移動農機に上下昇降自在に連結したプラウや耕耘機の如き作業機を、運転操作員が指示する所定の地上高さ又は地中深さに調節保持するいわゆるポジションコントロール操作、並びに、畦越え等のための吊上保持の夫々の操作、を夫々可能とした作業機昇降操作装置に関するもので、このポジションコントロール操作と吊上保持操作をこの移動農機の舵取回向操作と並行して容易に行い得るように工夫したものである。」(第1ページ第15行〜第2ページ第4行)
(カ-2)「そして、ポジションコントローラー(14)を内装したコントローラーケース(23)内に回動軸(14a)を中心とする扇形状の吊上保持接点(24)と耕耘作業接点(25)を、ポジションコントローラー(14)の摺動子(14b)の摺接回動角度と同一の範囲にわたつて上下に夫々設け、接触部をのぞかせた接触片(26)の回動基部を前述のピン(19)に嵌入して、接触片(26)と操作レバー(18)の間にピン(19)をまたぐようにしたトグルばね(27)を張設し、コントローラーケース(23)に設けた長方形状の切欠(23a)から突出した操作レバー(18)を第2図(ロ)の実線又は2点鎖線のように上下に回動操作すれば、操作レバー(18)が切欠(23a)の上下端縁に当接した夫々の回動極端位置に達すると共に、接触片(26)は吊上保持接点(24)又は耕耘作業接点(25)に切替回動できるように形成し、操作レバー(18)を同図の2点鎖線で示した作業機吊上保持位置(U)においたときには、吊上保持接点(24)からの出力はリミッタ(28)にて一定の大きさに設定されて比較器(20)に入力し、これにより作業機(4)が地上から最も高くに吊上げされる一定の作業機吊上位置にリフトアーム(6)を吊上保持されるように接続され、又、同図の実線で示す耕耘作業位置(W)に操作レバー(18)を移せば、接触片(26)は耕耘作業接点(25)に当接することになつて摺動子(14b)が指示する高さにまでリフトアーム(6)が直ちに下降することになり、さらにこの耕耘作業位置(W)のまま、操作レバー(18)を回動軸(14a)の廻りに回動操作すれば、前述したようにリフトアーム(6)が上昇し或いは下降して作業機(4)が摺動子(14b)にて指示された所定の耕深を保持することになる耕深調節制御動作が行われるように構成している。」(第5ページ第2行〜第6ページ第12行)
上記摘記事項(カ-1)及び(カ-2)並びに図面の記載から、上記刊行物カには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「操作レバー(18)を上方の作業機吊上保持位置(U)に回動操作すると、作業機(4)が作業機吊上位置に吊上保持され、前記操作レバー(18)を下方の耕耘作業位置(W)に回動操作すると、作業機(4)が下降するようにした移動農機。」(以下、「刊行物カ発明」という。)

キ.刊行物キに記載された発明
上記刊行物キには、次の事項が記載されている。
(キ-1)「車体前部にエンジン(1)を設けると共に、回転式操向用ハンドル(2)、及び、左右一対の操向方向表示ランプ(3a),(3b)を備えた乗用トラクターの後方に、ロータリ耕耘装置(4)を流体圧シリンダ(5)により上下駆動揺動自在なリフトアーム(6)によって昇降自在に連結してあり、車体走行に伴って耕耘を行うと共に、前記シリンダ(5)操作により耕耘深さを調節するようにした乗用型耕耘機を構成してある。」(第2ページ第17行〜第3ページ第5行)
(キ-2)「前記ハンドル(2)に対する支柱(10)部分に、機体上下方に揺動自在な操作具(11)により切換え自在なスイッチ(12)を設けると共に、前記操作具(11)を中立位置(N)にすると、前記制御機構を非自動制御状態にすると共にコントロールバルブ(V)を中立位置にする状態になり、操作具(11)を中立位置(N)から下方に揺動させた自動制御位置(DN)にすると、バルブ操作装置(9)が演算装置(8)の結果に基づいてコントロールバルブ(V)を自動的に操作する状態になり、操作具(11)を中立位置(N)から上方に揺動させた強制上昇位置(UP)にすると、前記制御機構を非自動制御状態にすると共にコントロールバルブ(V)を強制的にリフトアーム上昇側に操作する状態になるべく、前記スイッチ(12)とバルブ操作装置(9)を連係させてある。つまり、作業装置(4)を自動的に対地追従させる時は、前記操作具(11)を自動制御位置(DN)にしておいて、作業装置(4)が自動昇降制御される状態にしておき、旋回時等作業装置(4)を一時的に上昇させる時には、操作具(11)を自動制御位置(DN)から強制上昇位置(UP)に、さらに中立位置(N)に切換えて、作業装置(4)を、人為的に上昇させると共に所望位置で昇降停止させるようにしてある。」(第3ページ第20行〜第5ページ第2行)
上記摘記事項(キ-1)及び(キ-2)から、上記刊行物キには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「操作具(11)を中立位置(N)から下方に揺動させた自動制御位置(DN)にすると、作業装置(4)が対地追従するように自動昇降制御され、操作具(11)を中立位置(N)から上方に揺動させた強制上昇位置(UP)にすると、作業装置(4)を上昇させるようにした乗用型耕耘機。」(以下、「刊行物キ発明」という。)

ク.刊行物クに記載された発明
上記刊行物クには、次の事項が記載されている。
(ク-1)「第1図は、対地作業装置としてのロータリ耕耘装置(1)が、トラクタ(2)の後部に昇降自在に装着された対地作業機を示し、トラクタ(2)に搭載のエンジン(3)の動力で、後部推進車輪(4),(4)、前記ロータリー耕耘装置(1)及び前記ロータリー耕耘装置(1)を昇降させるための単動式油圧シリンダ(5)を駆動する油圧ポンプ(図示せず)等を駆動すべく構成されている。」(第3ページ第16行〜第4ページ第3行)
(ク-2)「又、スイッチ(22a)・・を接点(M)に接続すれは、人為的に発せられる昇降指令によつて昇降させる人為昇降形態が現出される。すなわち、接点(M)に接続されたときには、第2減算器(13)への入力は総て断たれて前述の自動制御が解除されるとともに、切換えスイッチ(20)が接点(L3)又は(L4)に切換操作されると上昇バルブ(16)又は下降バルブ(17)に択一的に通電されることになり、もつて、スイッチ(18)の切換方向及びその操作時間に応じて、耕耘装置(1)が任意に昇降されることになる。」(第7ページ第10〜20行)
(ク-3)「前記揺動操作レバー(24)は第3図に示すように中立保持位置(n)から前後並びに上下に揺動可能であり、前方に揺動した第1操作位置(l1)で前記連動スイッチ(21a),(21b)を接点(L1)に切換え、後方(操縦者側)に揺動した第2操作位置(l2)で連動スイッチ(21a),(21b)を接点(L2)に切換え、又上方に揺動した第3操作位置(l3)で前記切換えスイッチ(20)を上昇用接点(L3)に切換え、下方に揺動した第4操作位置(l4)で切換えスイッチ(20)を下降用接点(L4)に切換えるよう構成され、更に、前記第1操作位置(l1)から下方に揺動した第5操作位置(l5)で前記連動スイッチ(21a),(21b)を接点(L5)に切換えるよう構成されている。 且つ第1,第2操作位置(l1),(l2)ではレバー(24)を自己保持可能であり,第3,4操作位置(l3),(l4)から中立保持位置(n)へは自動復帰され、又、第5操作位置(l5)から第1操作位置(l1)へも自動復帰されるよう構成されている。」(第9ページ第4行〜第10ページ第2行)
(ク-4)「連動スイッチ(22a),(22b),(22c)の接点(M)を選択しておくと、耕耘装置(1)はスイッチ(20)の切換えによつてのみ昇降することになり、レバー(24)を第3操作位置(l3)又は第4操作位置(l4)に揺動保持している間だけ上昇又は下降が行われ、レバー(24)から手を放すと中立保持位置(n)に戻つて昇降が停止する。」(第11ページ第8〜14行)
上記摘記事項(ク-1)ないし(ク-4)から、上記刊行物クには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「中立保持位置(n)へ自動復帰される揺動操作レバー(24)を、上方に揺動した第3操作位置(l3)にすると耕耘装置(1)が上昇し、前記揺動操作レバー(24)を下方に揺動した第4操作位置(l4)にすると耕耘装置(1)が下降するようにした対地作業機。」(以下、「刊行物ク発明」という。)

ケ.刊行物ケに記載された発明
上記刊行物ケには、次の事項が記載されている。
(ケ-1)「(1)走行車両に連結された対地作業機を、操作スイッチの傾倒操作位置に対応させて所望の高さ位置に昇降制御する対地作業機位置制御装置において、
対地作業機の上昇目標位置を設定する上昇位置設定手段と、
対地作業機の下降目標位置を設定する下降位置設定手段と、
操作スイッチが、一旦上昇操作側に傾倒されると、対地作業機が前記上昇目標位置に至るまで対地作業機の上昇バルブを選択して動作させる手段と、
操作スイッチが、一旦下降操作側に傾倒されると、対地作業機が前記下降目標位置に至るまで対地作業機の下降バルブを選択して動作させる手段と、
操作スイッチが前記上昇操作側から下降操作側へ傾倒された場合、および前記操作スイッチが前記下降操作側から上昇操作側へ傾倒された場合のいずれかの場合に、予定の時間だけ前記上昇バルブおよび下降バルブの動作を停止させる手段と、
操作スイッチが前記上昇操作側から下降操作側へ傾倒された状態、および前記操作スイッチが前記下降操作側から上昇操作側へ傾倒された状態のいずれかの状態が前記予定の時間以上継続された場合は、該操作スイッチの傾倒位置に対応して作業機が昇降するように、前記上昇バルブおよび下降バルブを動作させる手段とを具備したことを特徴とする対地作業機位置制御装置。」(第1ページ左下欄第5行〜右下欄第13行)
(ケ-2)「本発明は、トラクタなどの走行車両(以下、単に車両とよぶ)の後部に取付けた、ロータリ耕うん装置などの対地作業機(以下、単に作業機とよぶ)の位置制御装置に関するものであり、特に、操作スイッチによる作業機の昇降方向および作業機の位置調整を簡単に行えるようにした対地作業機位置制御装置に関するものである。」(第2ページ左上欄第9〜15行)
(ケ-3)「車両1には、連結機構部2を介して、耕うん用ロータなどからなる作業機3が連結されている。」(第3ページ左上欄第17〜19行)
(ケ-4)「車両1には運転者の座席17が設けられ、該座席17の近傍には作業機3の昇降を制御するための操作スイッチ18が設けられている。」(第3ページ左下欄第16〜18行)
(ケ-5)「操作スイッチ18は下降側位置Aおよび上昇側位置Dの範囲内で操作される。操作スイッチ18がNの位置では作業機3の昇降は停止される中立状態であり、AおよびB位置では作業機3は下降し、CおよびD位置では作業機3は上昇する。
操作スイッチ18は、該操作スイッチ18に内蔵されたスプリングの作用によって、中立位置N以外の、どの位置に動かされても、運転者が手を離すと中立位置Nに戻るように構成されている。
操作スイッチ18が、BまたはCの位置から中立位置Nに戻されると、作業機3の昇降は停止する。
一方、操作スイッチ18がAおよびD位置からN位置に戻っても作業機3の昇降は停止されない。すなわち、操作スイッチ18が、一旦A位置に操作されると、作業機3は下降限界位置まで下降し、また、D位置に操作されると、作業機3は上昇限界位置まで上昇する。」(第3ページ右下欄第1〜18行)
上記摘記事項(ケ-1)ないし(ケ-5)及び図面の記載から、上記刊行物ケには、以下の発明が記載されているものと認められる。
「操作スイッチ18を中立位置Nに復帰付勢して構成すると共に、この操作スイッチ18の中立位置NからD位置への操作により、任意の高さにある耕うん用ロータを上昇限界位置まで上昇させ、前記操作スイッチ18の中立位置NからA位置への操作により、任意の高さにある前記耕うん用ロータを下降限界位置まで下降させるように構成した耕うん用ロータ位置制御装置。」(以下、「刊行物ケ発明」という。)

コ.刊行物コ
上記第2.3.で述べたように、本件特許出願は、特許法第44条第1項の規定による適法な分割出願であって、出願日はそ及するから、本件特許出願後に公開となった上記刊行物コは、本件特許出願前に頒布された刊行物には該当しない。

(2)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物ア発明とを対比すると、刊行物ア発明における「走行機体」、「油圧シリンダ10」、「苗植付装置2」、「上昇制御」、「下降制御」、「昇降操作スイッチSW1」、「田植機」、「植付クラッチ21」が、本件発明1における「走行機体」、「アクチュエータ」、「苗植付装置」、「上昇制御」、「下降制御」、「操作具」、「田植機」、「植付クラッチ」にそれぞれ対応する。
よって、両者の間には、少なくとも以下の相違点がある。

相違点:操作具の操作に関して、本件発明1においては、上昇制御に対して中立姿勢から上方操作姿勢への操作を行い、下降制御及びクラッチ機構の入り操作に対して中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うのに対し、刊行物ア発明においては、上昇制御及び下降制御に対して一方側への揺動操作を行い、クラッチ機構の入り操作に対して他方側への揺動操作を行う点。

上記相違点について検討する。
刊行物イ発明は、刊行物ア発明と同様に、上昇制御及び下降制御に対して一方側への揺動操作を行い、植付クラッチの入り操作に対して他方側への揺動操作を行うものである。
刊行物ウ発明は、上昇制御に対して中立姿勢から上方操作姿勢への操作を行い、下降制御に対して中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うものであるが、植付クラッチの入り操作については、下降制御のための下降位置(D)を越えて植付位置(A)に操作するものであり、中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うものではない。
刊行物エ発明は、上昇制御、下降制御、植付クラッチの入り操作の全てに対して同様の押し操作を行うものである。
刊行物オ発明は、上昇制御及び下降制御に伴って植付クラッチの入り切り操作が行われるものであり、下降制御とクラッチ機構の入り操作とを、操作具の個別の操作により行うものではない。
刊行物カ発明は、上昇制御に対して上方操作姿勢への操作を行い、下降制御に対して下方操作姿勢への操作を行うものであるが、クラッチ機構に関する操作については不明である。
刊行物キ発明は、上昇制御に対して上方操作姿勢への操作を行い、下降制御に対して下方操作姿勢への操作を行うものであるが、クラッチ機構に関する操作については不明である。
刊行物ク発明は、上昇制御に対して中立姿勢から上方操作姿勢への操作を行い、下降制御に対して中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うものであるが、クラッチ機構に関する操作については不明である。
刊行物ケ発明は、上昇制御に対して中立姿勢から上方操作姿勢への操作を行い、下降制御に対して中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うものであるが、クラッチ機構に関する操作については不明である。
すなわち、上記相違点における本件発明1が有する構成は、上記刊行物イないしケには記載されていない。
また、上記刊行物アないしケには、下降制御、クラッチ機構の入り操作のための操作具の操作を同一のものとし、上昇制御のための前記操作具の操作を異なるものとすることを示唆する記載もないので、上記相違点における本件発明1が有する構成を、上記刊行物ア発明ないし刊行物ケ発明から、当業者が容易に想到することができたとは認められない。
そして、本件発明1は、上記相違点における本件発明1が有する構成により明細書記載の「単純な操作で苗植付装置の昇降が行えると言う良好な面を損なうことなく、誤操作を抑えながら苗植付装置の昇降並びに苗植付装置の駆動を確実に行える」(訂正明細書段落【0010】参照。)という顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は刊行物ア発明ないし刊行物ケ発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成にさらに限定を加えたものに相当するから、上記「5.(2)ア.本件発明1について」で説示したと同様の理由により、刊行物ア発明ないし刊行物ケ発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない。

6.特許法第36条について
(1)第5項第1号について
請求項1の「操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作により、作業高さにある前記苗植付装置(An)をアクチュエータ(8)により所定高さまで上昇させる上昇制御」及び「操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作により、前記所定高さまで上昇させた苗植付装置(An)をアクチュエータ(8)により作業高さまで下降させる下降制御」という記載から、本件発明1の上昇制御、下降制御における苗植付装置(An)の移動範囲は、作業高さから所定高さまでの上昇、所定高さから作業高さまでの下降をそれぞれ意味するものと認められ、任意の高さからの上昇、下降を含むものとは認められない。
よって、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。

(2)第4項について
訂正明細書段落【0020】の「・・・切換レバー21が上方操作姿勢Uに操作された場合には・・・上昇制御が行われ・・・(♯101〜♯105ステップ)」という記載から、制御動作のフローチャートを示した図6において、♯102「レバーを上方に操作?」がYesの場合に♯104「上昇処理」に繋がる流れとなるべきであることは明らかである。
よって、図6の♯102「レバーを上方に操作?」に記載された「Yes」と「No」とが、本来の記載とは逆に記載された誤記であることは明らかである。
したがって、発明の詳細な説明が、本件発明1を当業者が実施できる程度に記載されていないとすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由によっては本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1及び2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-10-26 
出願番号 特願2001-84391(P2001-84391)
審決分類 P 1 651・ 535- Y (A01C)
P 1 651・ 03- Y (A01C)
P 1 651・ 121- Y (A01C)
P 1 651・ 531- Y (A01C)
P 1 651・ 5- Y (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 忠悦  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 渡戸 正義
川島 陵司
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3418182号(P3418182)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 田植機  
代理人 北村 修一郎  

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