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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H04N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04N
審判 全部申し立て 特39条先願  H04N
審判 全部申し立て 特29条の2  H04N
管理番号 1119462
異議申立番号 異議2003-73568  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2003-01-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-06-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3469891号「写真自販機および方法」の請求項1から請求項4までに係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3469891号の請求項1から請求項4までに係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3469891号(請求項の数4)は、特願2001-267407号(特願2001-11116号(平成13年1月19日の出願)の一部を分割した平成13年9月4日の出願)の一部を分割した平成14年3月20日の出願(特願2002-77810号)であり、その発明について、平成15年9月5日に特許権の設定の登録があった。
平成15年12月26日付けで、藤倉智徳および細井みよから、それぞれ、特許異議の申立て(各々、全請求項)があった。

2.本件発明
本件特許の請求項1から請求項4までに係る発明(以下、これらを総称して本件各発明ともいう)は、それぞれ、願書に添付した明細書(以下、特許明細書ともいう)の特許請求の範囲の請求項1から請求項4までに記載された下記のとおりのものである。
記(特許請求の範囲の記載)
【請求項1】
使用者を含む被写体を撮影し、その撮影画像に対し、使用者により手書き画像等の第2画像を入力させて合成し、その合成画像が印刷されたシールプリントを、筐体に形成された送出口から送出して販売する写真自販機であって、
上記筐体は、第1筐体部と第2筐体部とが一体に形成された1つの筐体であり、
上記筐体の第1筐体部の前面には、フレームおよびカーテンで箱状に囲われた第1ブースが形成され、上記第1筐体部に、上記第1筐体部前面の第1ブース内の被写体を撮影するカメラが設けられ、
上記第1筐体部の前面のカメラより下側には、上記カメラで撮影された画像を表示する第1ディスプレイが設けられ、
上記筐体の、第1筐体部に隣接されて設けられた第2筐体部の前面には、フレームおよびカーテンで箱状に囲われた第2ブースが形成され、上記第2筐体部の前面に、上記第2ブース内における使用者の操作により手書き画像等の第2画像が入力される第2ディスプレイが設けられ、
上記カメラによる撮影回数が規定の撮影回数に達したときに、上記第1ディスプレイに第2ブースへの移動を案内するメッセージを表示し、第2ディスプレイには上記カメラによる撮影画像を表示して上記使用者による手書き画像等の第2画像を入力させるとともに、
第1の使用者が第1ブースから第2ブースに移動して手書き画像等の第2画像の入力を開始すると、第1筐体部のカメラによる撮影と、第2筐体部の第2ブースでの手書き画像等の第2画像の入力とを同時に行ない得るようになっていることを特徴とする写真自販機。
【請求項2】
上記第2ディスプレイに入力された手書き画像等の第2画像を、カメラによって撮影された撮影画像に合成する画像合成手段と、
上記画像合成手段で合成された撮影画像と第2画像との合成画像をシールプリントとして印刷出力するプリンタと、
上記プリンタにより撮影画像と第2画像との合成画像が印刷されたシールプリントが送出口から送出するようになっている請求項1記載の写真自販機。
【請求項3】
上記送出口は、上記筐体の第2筐体部の側面に設けられている請求項1または2記載の写真自販機。
【請求項4】
使用者を含む被写体を撮影し、その撮影画像に対し、使用者により手書き画像等の第2画像を入力させて合成し、その合成画像が印刷されたシールプリントを、筐体に形成された送出口から送出して販売する写真自販方法であって、
上記筐体は、第1筐体部と第2筐体部とが一体に形成された1つの筐体であり、
上記筐体の第1筐体部の前面には、フレームおよびカーテンで箱状に囲われた第1ブースが形成され、上記第1筐体部に、上記第1筐体部前面の第1ブース内の被写体を撮影するカメラが設けられ、
上記第1筐体部の前面のカメラより下側には、上記カメラで撮影された画像を表示する第1ディスプレイが設けられ、
上記筐体の、第1筐体部に隣接されて設けられた第2筐体部の前面には、フレームおよびカーテンで箱状に囲われた第2ブースが形成され、上記第2筐体部の前面に、上記第2ブース内における使用者の操作により手書き画像等の第2画像が入力される第2ディスプレイが設けられ、
上記カメラによる撮影回数が規定の撮影回数に達したときに、上記第1ディスプレイに第2ブースへの移動を案内するメッセージを表示し、第2ディスプレイには上記カメラによる撮影画像を表示して上記使用者による手書き画像等の第2画像を入力させるとともに、
第1の使用者が第1ブースから第2ブースに移動して手書き画像等の第2画像の入力を開始すると、第1筐体部のカメラによる撮影と、第2筐体部の第2ブースでの手書き画像等の第2画像の入力とを同時に行なうことを特徴とする写真自販方法。

3.特許異議の申立て
特許異議の申立ての理由は、概略、下記のとおりである。
記(藤倉の申立ての理由)
〈理由1〉
対象請求項:請求項1から請求項4まで
違反条項 :特許法第29条第2項
証拠方法 :特開2000-69404号公報(藤倉甲1)
特開2000-229181号公報(藤倉甲2)
特許3021638号公報(藤倉甲3)
特開平8-329167号公報(藤倉甲4)
〈理由2〉
対象請求項:請求項1および請求項4
違反条項 :特許法第36条第6項第2号
証拠方法 :なし
〈理由3〉
本願出願日:平成14年3月20日(分割不適法、遡及の適用なし)
対象請求項:請求項4
違反条項 :特許法第29条の2
証拠方法 :特願2001-52504号(藤倉甲5)
〈理由4〉
本願出願日:平成14年3月20日(分割不適法、遡及の適用なし)
対象請求項:請求項4
違反条項 :特許法第29条第2項
証拠方法 :特願2000-69404号(藤倉甲1)
特許3021638号公報(藤倉甲3)
特開2001-86288号公報(藤倉甲6)
記(細井の申立ての理由)
〈理由1〉
対象請求項:請求項1
違反条項 :特許法第39条第2項
証拠方法 :特願2001-250218号(細井甲1)
〈理由2〉
対象請求項:請求項1および請求項2
違反条項 :特許法第36条第6項第1号又は第2号
証拠方法 :なし
〈理由3〉
対象請求項:請求項1から請求項4まで
違反条項 :特許法第29条第2項
証拠方法 :特開2000-69404号公報(細井甲2)
特開平11-234602号公報(細井甲3)
特許第3021638号公報(細井甲4)
特開2000-229181号公報(細井甲5)
アミューズメント産業(1999年7月)7頁(細井甲6)
アミューズメント産業(1999年9月)113頁(細井甲7)
アミューズメント産業(1997年10月)6頁(細井甲8)
アミューズメント産業(1997年9月)80頁(細井甲9)
アミューズメント産業(1999年5月)135頁(細井甲10)
特開平8-106372号公報(細井甲11)
特開平11-296576号公報(細井甲12)
特開平8-77264号公報(細井甲13)
特許第2939232号公報(細井甲14)
米国特許第5016035号明細書(細井甲15)
特開平10-15239号公報(細井甲16)

4.申立ての理由の検討
(4-1)出願の分割の適法性(藤倉)
分割の適法性につき、下記のとおり、不適法であるとする主張(藤倉申立書17頁)があるので検討する。
記(分割が不適法であるとする理由)
請求項4に係る発明は「方法の発明」であるところ、特願2001-11116号(原出願)および特願2001-267407号(親出願)のいずれも、当初明細書に「方法の発明」についての技術的思想は一切記載も示唆もないから、「方法の発明」を包含するものではない。
(a)請求項4に係る発明の「写真自販方法」は、特許明細書の以下の記載に基づくものである(注:下線は当審決において参考のために付した)。
「【0037】つぎに、本発明の写真自販機を用いた写真自販方法の一例について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。ここで、図4において、「S」はステップを意味する。」(段落0037)
「段落0038から段落0062まで」(注:記載の摘示は省略)
(b)これに対して、原出願(特願2001-11116号)の当初明細書には以下の記載が認められる。
「【0039】上記写真自販機の動作の一例について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。ここで、図4において、「S」はステップを意味する。」(段落0039)
「段落0040から段落0064まで」(注:記載の摘示は省略)
同じく、親出願(特願2001-207407号)の当初明細書には以下の記載が認められる。
「【0039】上記写真自販機の動作の一例について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。ここで、図4において、「S」はステップを意味する。」(段落0039)
「段落0040から段落0064まで」(注:記載の摘示は省略)
(c)ここで、特許明細書の段落0038から段落0062までの記載は、原出願および親出願の当初明細書の段落0040から段落0064までの記載と同じである。そうすると、本件特許出願は、原出願および親出願の中に「写真自販機の動作の一例について」一連の記載があることに基づき、これら出願が「写真自販方法」に係る発明を包含するとして、これら出願の一部を分割したものであることが認められる。
ところで、一般に、装置の動作が「方法の発明」として把握できることは明らかである。本件において、原出願および親出願の中に「写真自販機の動作の一例について」一連の記載がある以上、これら出願は「写真自販方法」(方法の発明)に係る発明を包含すると言うべきである。
(d)分割が不適法であると言うことはできない。
(4-2)特許法第36条(藤倉、細井)
各申立人より、下記(a)から(h)までの主張があるが、いずれも、以下のとおり採用できるものではない。特許法第36条第6項第1号又は第2号の規定を満たしていないとは言えない。
(a)請求項1および請求項4の「筐体に形成された(送出口から送出して販売する写真自販機)」は唐突に現れる用語であり文言上何に関連するのか不明である。(藤倉申立書13頁23行〜14頁1行、16頁8行〜12行)
(a1)「筐体」の語義は「箱形の容器」(新明解「国語辞典」)であり一般用語として定着している。また、特許明細書の段落0015および段落0056の記載によってもその意味は明白である。唐突とも言えない。
発明が明確ではないとは言えない。
(b)請求項1および請求項4の「箱状に囲われた(第1ブース、第2ブース)」の意味が不明である。(藤倉申立書14頁2行〜4行、16頁13行〜15行)
(b1)「箱」の語義として「方形の容器」(新明解「国語辞典」)を挙げることができる。また、特許明細書には第2図を参照して「箱状にフレーム3が組まれ・・・フレーム3で囲われた部分が・・・第1ブース14aを形成し・・」(段落0016)および「上記各フレーム3のうち上側のフレームにはそれぞれカーテン5・・・が吊設され、第1ブース14aおよび第2ブース14bがそれぞれカーテン5で囲われてある程度独立した空間を形成するようになっている。」(段落0017)との記載があるところ、これら記載によっても「箱状に囲われた」の意味は明白である。
発明が明確ではないとは言えない。
(c)請求項4の記載は、「物の発明」である請求項1の写真自販機と実質的に同一であり「方法の発明」としての要件を有していない、「方法の発明」として明確ではない。
(c1)請求項4に記載された「上記カメラにより・・・達したときに・・・メッセージを表示し、・・・第2画像を入力させるとともに、・・・第2画像の入力を開始すると・・・同時に行う」との事項は、「方法の発明」の構成として認められるものである。
請求項4は所謂独立形式の請求項であり、当該請求項の記載の範囲内でその記載要件は判断される。他の請求項と記載が類似していることは何の根拠にもならない。
(d)「一体」(容易には分離できない状態)とは、図1と図2に示されるような形態「第1筐体1aと第2筐体1bの前面壁面および境界部壁面が1枚の板により形成された形態(図2のハッチングの記載参照)」であると認識するのが常識的であるにも関わらず、段落0056の記載は、上記常識的な形態を「一体的」ではないと明示する。かといって実質的な実施形態を開示する訳でもない。請求項1の「第1筐体部と第2筐体部とが一体に形成された1つの筐体」との記載は明確ではない。(細井申立書38頁5行〜39頁22行)
(d1)「一体」(容易に分離できない状態)として、複数の筐体を機械的に結合し、結合したものを新たに「1つの筐体」とする態様や、「1つの筐体」の内部空間を仕切り板などにより分離し、分離した空間のそれぞれを新たに筐体(複数)とする態様などが想定されることは、申立人の主張のとおりである。
しかし、図2(横断面図)がどのような横断面によるものかについては特許明細書に記載がなく(図1では透明板10の高さにおいては第2筐体1bの前面壁面は存在しないにもかかわらず、図2にはハッチング(前面壁面)の表示があることから、単純に水平面を横断面とすることもできない)、ハッチングの記載が「1枚の板」を表すとは直ちには言えない。図1と図2が「1枚の板」により形成された形態であることを前提とする以上、段落0056に関する主張は当を得ない。
(d2)「一体」の語義として「いくつかのものがまとまって1つのものとなること」(新明解「国語辞典」)を挙げることができる。
また、特許明細書には、以下の記載が認められる。
「この写真自販機は、内部および前面に各種の装置が設けられた第1筐体1aと、同じく内部、前面ならびに側面に各種の装置が設けられた第2筐体1bとを備えている。」(段落0015)
「上記第1筐体1aと第2筐体1bとは、隣接して設けられており、」(段落0017)
「また、上記実施の形態では、第1筐体1aと第2筐体1bとを備えた例を示したが、これに限定するものではなく、第1筐体1aと第2筐体1b以外に第3筐体や第4筐体を備えるようにしてもよいし、第1筐体1aと第2筐体1bとを一体的に形成して1つの筐体にすることもできる。」(段落0056)
上記語義および特許明細書の記載に照らせば、実施形態のうち少なくとも1つについては明白である。
発明が明確ではないとは言えない。
(d3)細井は、さらに、「一体に形成」(請求項1)と「一体的に形成」(段落0056)の表現の具体的状態、および、これら相違する表現が同じ状態を指すのか否か、以上が不明であるとも主張するが(申立書40頁5行〜9行)、表現は相違するもいずれも上記(d2)のように理解することができるので、当を得ない。
(e)請求項1の「第1筐体部に隣接されて設けられた第2筐体部」との記載は明確ではない。(細井申立書40頁10行〜41頁10行)
(e1)「隣接されて」は上記(d2)のように理解することができる。
発明が明確ではないとは言えない。
(f)請求項1の「第2画像の入力を開始(すると)」したことを検知する具体的構成や、請求項1の「撮影と・・・第2画像の入力とを同時に行い得る」ための具体的制御について特許明細書には記載がない。(細井申立書41頁11行〜28行、42頁6行〜9行)
(f1)請求項1の記載は、「第2画像の入力を開始(すると)」したことを検知することにより、「撮影と・・・第2画像の入力とを同時に行い得る」ように制御するとの趣旨であることは、特許明細書の段落0044の記載からも明らかである。発明の主要構成は、このような検知および制御の連携にあるのであり、検知および制御の具体にあるのではない。発明の構成としてはかかる連携さえ示されておれば足りるのであり、その限度において一つの発明として成立するものである。
他方、上記連携を構成する個々の手段(検知・制御)につき当業者が容易には実施することができないとする格別の事情は認められない。
上記検知および上記制御について具体的構成の記載がないからといって、開示が不足であるとも、発明が明確ではないとも言えない。
(g)請求項1において、第1の使用者が撮影と第2画像の入力とを同時に行い得るとの作業の実現には、第1の使用者が各ブースを行き来する必要があるところ、そのような行動については特許明細書に記載がない(細井申立書41頁末行〜42頁9行)。
(g1)特許明細書の段落0044にも記載があるとおり、第2の使用者による撮影と第1の使用者による第2画像の入力とを同時に行い得ることが請求項1の記載の趣旨であり、第1の使用者一人が各ブースを行き来するような態様ではない。
請求項1の文脈および上記記載(段落0044)に照らせば自ずと「第2の使用者」の存在は明らかであり、「第2の使用者」の記載がないことをもって発明が明確ではないとは言えない。
(h)請求項2において、「画像合成手段」、「プリンタ」および「請求項1に記載の写真自販機」が並列に記載されており、それらの関係が不明である。特に、「画像合成手段」と「プリンタ」が、「第1筐体部」および「第2筐体部」とどのような関係にあるのか不明である。(細井申立書10行〜23行)
(h1)特許明細書の段落0015から段落0036までには、「画像合成手段」、「プリンタ」、「第1筐体部」、「第2筐体部」および「写真自販機」について相互の関係が記載されている。
確かに、請求項2には、「画像合成手段と、」および「プリンタと、」の記載を受ける記載が見られず、これらの記載と「請求項1に記載の写真自販機」との記載が並列する結果となっている。しかし、上記記載(段落0015から段落0036まで)に照らせば、上記受ける記載として「設けられ」又は「備える」などを補足することにより請求項2に係る発明を理解できることは明らかである。発明が明確ではないとまでは言えない。
(4-3)特許法第39条第2項(細井)
(a)甲第1号証の請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明の「カメラによる撮影回数が規定の撮影回数に達したときに、第1ディスプレイに第2ブースへの移動を案内するメッセージを表示し、」との構成を備えていない。また、甲第1号証の他の請求項(請求項1から請求項8まで)に係る発明も同様に備えていない。
請求項1に係る発明が、甲第1号証に係る各発明と同一であると言うことはできない。
(a1)細井は、上記構成は単なる周知技術の付加であるとしてその証拠に細井甲4(藤倉甲3)を挙げる(申立書37頁2行〜5行)。しかし、同号証の記載「最終的な画像が使用者に容認されると、その意志により追加的なプリントを得るためさらに必要な硬化を投入する機会が与えられる。次いでVDUスクリーン12の指示により使用者はブースを離れ、その外でプリントを受取るように要請される。」(5頁右欄44行〜48行)は、「最終的な画像の容認と必要な硬化の投入」を契機として、「ブースを離れ、その外でプリントを受取るように要請」する内容のメッセージを指示するものであり、メッセージを表示する限りにおいては共通するとしても、メッセージを表示する契機およびその内容において上記構成とは大きく異なるものである。かかる証拠をもって、単なる周知技術の付加とは言えない。
(b)また、請求項1に係る発明は、「第1の使用者が第1ブースから第2ブースに移動して手書き画像等の第2画像の入力を開始する(と)」ことを契機として、撮影と第2画像の入力とを同時に行ない得るようになっているが、甲第1号証に係る各発明は、このような構成(契機)を備えていない。
この点からも、請求項1に係る発明が、甲第1号証に係る各発明と同一であると言うことはできない。
(b1)細井は、上記構成(契機)の意味は不明確であるから(同人の申立て理由2)、同構成を考慮しないとすると同一であると主張するが(申立書36頁21行〜26行)、同構成の意味が明確であることは前記のとおりであるから、当たらない。
(c)細井は、特許明細書には、写真自販機が、2つの筐体(第1筐体部と第2筐体部)で構成されている場合と、1つの筐体(第1筐体部と第2筐体部とが一体に形成される)で構成されている場合との違いについて記載がないので、「第1筐体部と第2筐体部とが一体に形成された1つの筐体」の点の新規性および進歩性は否定されると主張するが(申立書39頁23行〜40頁4行)、この点の検討を待つまでもなく、同一であると言うことができないことは前記のとおりである。
(4-4)特許法第29条の2(藤倉)
本件特許出願につき、その分割が適法であることは前記のとおりである。
特願2001-52504号(藤倉甲5)は本件特許出願後の出願であり特許法第29条の2に規定する「当該特許出願の日前の他の特許出願」に該当しない。同条を適用するための要件を欠いている。
(4-5)特許法第29条第2項(藤倉、細井)
(a)本件各発明の主要構成
(a1)各申立人が提出した証拠方法のいずれにも、本件各発明が備える下記の主要構成は記載されていない。
記(主要構成)
上記筐体の第1筐体部の前面には、フレームおよびカーテンで箱状に囲われた第1ブースが形成され、上記第1筐体部に、上記第1筐体部前面の第1ブース内の被写体を撮影するカメラが設けられ、上記第1筐体部の前面のカメラより下側には、上記カメラで撮影された画像を表示する第1ディスプレイが設けられ、
上記筐体の、第1筐体部に隣接されて設けられた第2筐体部の前面には、フレームおよびカーテンで箱状に囲われた第2ブースが形成され、上記第2筐体部の前面に、上記第2ブース内における使用者の操作により手書き画像等の第2画像が入力される第2ディスプレイが設けられ、(以下、以上を主要構成1という)
第1の使用者が第1ブースから第2ブースに移動して手書き画像等の第2画像の入力を開始すると、第1筐体部のカメラによる撮影と、第2筐体部の第2ブースでの手書き画像等の第2画像の入力とを同時に行ない得るようになっていること(以下、主要構成2という)
(a2)そして、本件各発明は、上記主要構成を備えることにより、特許明細書に記載された「本発明の写真自販機および方法によれば、撮影は第1ブースで行ない、第2画像の入力は第2ブースで行なうことができる。また、撮影手段によって撮影された撮影画像への第2画像の入力を行なうときに、つぎの使用者による撮影が可能になる。このように、撮影と第2画像の入力を異なる場所で同時に行なうことから、顧客は不必要に待たされることによるイライラ感を抱かなくなり、店舗にとっては顧客の回転率が大幅に向上する。また、上記第1筐体部と第2筐体部とが一体の1つの筐体に形成され、上記第1ブースと第2ブースとが隣接させて設けられているため、第1ブースで撮影が終了した使用者は、スムーズに第2ブースに移動して第2画像の入力を行なえる。このため、場所を移動することによる混乱等が少なく、顧客はイライラ感を抱かなくなり、店舗にとっては顧客の回転率が向上する。」(段落0063)との効果を奏するものである。
(a3)以上によれば、本件各発明のいずれも、申立人藤倉が提出した甲第1号証から甲第4号証までおよび申立人細井が提出した甲第2号証から甲第16号証までに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(b)各号証の記載
(b1)藤倉甲1(細井甲2)、藤倉甲3(細井甲4)、藤倉甲4、細井甲3、細井甲6から細井甲16まで、および、藤倉の参考資料(1及び2)は、いずれも、撮影と第2画像の入力とを異なる空間(2つのブース)において行なうものではない。したがって、上記主要構成2の記載も示唆も認められない。
(b2)特開2000-229181号公報(藤倉甲2、細井甲5)
この刊行物には、遊技者Pが、受付ステージ3a(受付装置4、CCDカメラ41)において自己の顔写真を撮影し、その後、遊技者移動領域1内に設置されたプリント出力装置90e(90g)の所まで行き、同装置を操作して遊技者個人の顔写真113と現時点での鳥キャラクタの像114(複数種から選択したもの)とを合成した写真をディスプレイ92に表示させた後、合成写真をプリントしたフォトシールを得ることができる遊技施設について記載されている(段落0061、段落0091、段落0092、図1、図10、図19)。
撮影と第2画像の入力とを異なる空間(受付ステージ3aと移動領域1)において行なう点において、本件各発明との共通を認めることができる。
しかし、この遊技施設はプリント出力装置の使用状況に関わらず遊技者の撮影を許容するものである。すなわち、受付ステージで撮影を終えた遊技者はまず遊技ステージに向かうのであり、いわば付加的サービスであるところのプリント出力装置に向かうことが規定の順路となっている訳ではない。いずれかの遊技者がプリント出力装置を操作するのを待って次の遊技者を撮影することにすれば、本来の遊技「鳥の育成シミュレーション」を楽しむために訪れた遊技者は受付ステージで足止めを余儀なくされ、遊戯施設の稼働率を減退させることにもなりかねない。上記主要構成2を採用することについて阻害要因があると言うべきである。
加えて、移動領域1は遊技者が複数の遊技ステージの間を移動するための領域である。プリント出力装置の設置を専らとした領域でない。受付ステージ3aと移動領域1とを隣接する箱状に囲われたブースとする動機(上記主要構成1)も欠いていると言うべきである。
(b3)藤倉は、請求項1に係る発明について、藤倉甲1(細井甲2)と対比して指摘した相違点1および相違点3(主要構成2と同じ)につき、「上記相違点1、相違点3をまとめると、要するに、上記2つの相違点は、本件発明1は、第1筐体部を撮影用に用い、第2筐体部を手書き入力用に使用するというものであるのに対し、甲第1号証のものは、第2筐体部を有せず、撮影、手書き入力は、1の筐体で行うというものである」としてその容易性を論ずる(申立書11頁1行〜13頁7行)。しかし、このような相違点のまとめ方は、相違点3すなわち上記主要構成2の実質を没却するものであり、当を得ない。
(b4)細井は、細井甲3に開示された「第1ユニット300Aのユーザ(例えば、ユーザA)と、第2ユニット300Bのユーザ(例えば、ユーザB)が、それぞれのユニットで同時に処理を行うことができる」(段落0023、段落0024、図5)構成は上記主要構成2に相当すると主張する(申立書53頁4行〜11行)。しかし、一方のユニットにおける編集処理の開始と他方のユニットにおける撮影処理の開始との関係について言及した記載はなく、上記主要構成2を開示するものではない。
(b5)細井は、細井甲4(藤倉甲3)の「プリンタ24、25の一方が作動され、指示されたカラープリントが作成され、ブース外壁の排出口17から使用者に交付される。この短い待機時間中に他の使用者がブースに入り、撮影装置を使用することができる。」(5頁右欄49行〜6頁左欄2行)の記載は上記主要構成2に相当すると主張する(申立書54頁5行〜9行)。しかし、カラープリントの作成・交付を契機として撮影装置が使用可能となるのであり、上記主要構成2を開示するものではない。
(b6)藤倉甲6は本件特許出願後に頒布された刊行物であり特許法第29条第1項に規定する刊行物に該当しない。同条第2項を適用するための要件を欠いている。

5.むすび
以上のとおり、請求項1から請求項4までに係る特許は、いずれも、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に、請求項1から請求項4までに係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定をする
 
異議決定日 2005-06-07 
出願番号 特願2002-77810(P2002-77810)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (H04N)
P 1 651・ 537- Y (H04N)
P 1 651・ 4- Y (H04N)
P 1 651・ 121- Y (H04N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野村 章子  
特許庁審判長 新宮 佳典
特許庁審判官 藤内 光武
原 光明
登録日 2003-09-05 
登録番号 特許第3469891号(P3469891)
権利者 株式会社メイクソフトウェア
発明の名称 写真自販機および方法  
代理人 森本 直之  

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