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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G05B
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G05B
管理番号 1119467
異議申立番号 異議2003-73433  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-05-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-06-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3424670号「制御装置、動作パラメータの設定方法及びコンピュータ読取可能な記録媒体」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3424670号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 第1. 手続の経緯
特許第3424670号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成12年11月10日に特許出願がなされ、平成15年5月2日にその発明について特許権の設定の登録がなされた。
その後、その特許について、異議申立人 佐藤 正 により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知されたところ、その指定期間内である平成16年6月7日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、平成16年9月6日に手続補正書が提出されたものである。

第2. 訂正請求に係る訂正について
1. 訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、平成16年9月6日の手続補正により、平成16年6月7日付け訂正請求書に係る訂正事項の補正をしている。
当該訂正事項に対する補正のひとつである請求項1についての補正は、訂正事項a中の「前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段と、ユーザの操作に応答し、前記デフォルト値記憶手段から読出したデフォルト値を、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、前記初期値として前記初期値記憶手段に登録するデフォルト値初期値化手段と、ユーザの操作に応答して前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更する初期値編集手段と、」との訂正事項を、「前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段と、前記初期値登録手段に備えられ、ユーザの操作に応答し、前記デフォルト値記憶手段からデフォルト値を前記初期値記憶手段に読出し、該読出したデフォルト値に対する編集を行って該初期値記憶手段に前記初期値として登録する手段と、」とするものである。
しかし、この補正は少なくとも、「前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、」との発明を特定する事項を削除するものであって、これは即ち、訂正請求時の請求項1に係る発明から一部の特定事項を削除するものであるから、このような請求項の変更は、補正において行えることではなく、訂正請求書の要旨を変更するものである。さらに、この補正は、訂正請求時の訂正項1に係る発明が有していた発明を特定する事項としての「デフォルト値初期値化手段」と「初期値編集手段」との2つの手段を削除し、これら手段が有していた機能を「初期値登録手段」にもたせようとするものであるから、これも、補正において行える事項ではなく、訂正請求書の要旨を変更するものである。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、上記補正は訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反する。

2. 訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。

(1) 訂正事項a
(イ) 【請求項1】について、「ユーザによって予め…初期値記憶手段と、」と「ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に、…」との間に「前記動作パラメータの現在の値を記憶する動作パラメータ記憶手段と、」を挿入し、
(ロ) 「…前記動作パラメータの初期値を登録する初期値登録手段と、」と「前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を用いて、制御対象を制御する制御手段と、」との間を「前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段と、ユーザの操作に応答し、前記デフォルト値記憶手段から読出したデフォルト値を、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、前記初期値として前記初期値記憶手段に登録するデフォルト値初期値化手段と、ユーザの操作に応答して前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更する初期値編集手段と、」に変更し、
(ハ) 「ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値を編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定する手段と、」を「ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値に対する編集を行うことにより、新たな動作パラメータの…」に変更する。
(ニ) 段落【0005】について、「ユーザによって予め…初期値記憶手段と、」と「ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に、…」との間に「前記動作パラメータの現在の値を記憶する動作パラメータ記憶手段と、」を挿入し、
(ホ) 「…前記動作パラメータの初期値を登録する初期値登録手段と、」と「前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を用いて、制御対象を制御する制御手段と、」との間を「前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段と、ユーザの操作に応答し、前記デフォルト値記憶手段から読出したデフォルト値を、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、前記初期値として前記初期値記憶手段に登録するデフォルト値初期値化手段と、ユーザの操作に応答して前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更する初期値編集手段と、」に変更し、
(ヘ) 「ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータの記憶手段に記憶されている前記初期値を編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定する手段と、」を「ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値に対する編集を行うことにより、新たな動作パラメータの…」に変更する。

(2) 訂正事項b
(イ) 【請求項4】を削除し、元の【請求項3】を【請求項4】にするとともに、
(ロ) 【請求項3】として「前記動作パラメータ記憶手段は、バッテリでバックアップされたメモリ装置で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。」を追加する。
(ハ) 段落【0009】を削除し、
(ニ) 段落【0007】の末尾に「前記動作パラメータ記憶手段は、バッテリでバックアップされたメモリ装置で構成されてもよい。」を追加する。

(3) 訂正事項c
(イ) 上記訂正後の【請求項4】について、「複数組の前記初期値を記憶し」を「複数組の前記初期値とその各組の初期値を特定するための識別子とを記憶し、」とし、
(ロ) 「指定する手段」を「前記識別子で指定する手段と、」とし、
(ハ) 「請求項1に記載の制御装置」を「請求項1乃至3に記載の制御装置」に訂正する。
(ニ) 段落【0008】について、「複数組みの前記初期値を記憶してもよい」を「複数組の前記初期値とその各組の初期値を特定するための識別子とを記憶してもよい」とし、
(ホ) 「指定する手段」を「前記識別子で指定する手段と、」と訂正する。

(4) 訂正事項d
(イ) 【請求項6】について、「ユーザの操作に応答して動作パラメータの初期値を初期値記憶手段に登録し」の後を、「前記動作パラメータの現在の値を動作パラメータ記憶手段に記憶して該動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値を用いて制御対象を制御し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段から該デフォルト値を読出し、動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該デフォルト値を前記初期値として前記初期値記憶手段に登録し、ユーザの操作に応答し、前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を、前記初期値記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの初期値に復旧し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値に対する編集を行うことにより、任意の動作パラメータのセットを設定することを特徴とする動作パラメータの設定方法。」に訂正する。
(ロ) 段落【0011】について、「ユーザの操作に応答して動作パラメータの初期値を初期値記憶手段に登録し、」の後を「前記動作パラメータの現在の値を動作パラメータ記憶手段に記憶して該動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値を用いて制御対象を制御し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段から該デフォルト値を読出し、動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該デフォルト値を前記初期値として前記初期値記憶手段に登録し、ユーザの操作に応答し、前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を、前記初期値記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの初期値に復旧し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値に対する編集を行うことにより、任意の動作パラメータのセットを設定することを特徴とする。」と訂正する。

(5) 訂正事項e
(イ) 【請求項7】について、「ユーザが定義する動作パラメータ…初期値記憶手段に登録し、」と「ための処理を実行させるためのプログラム…」との間を「前記動作パラメータの現在の値を動作パラメータ記憶手段に記憶して該動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値を用いて制御対象を制御し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段から該デフォルト値を読出し、動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該デフォルト値を前記初期値として前記初期値記憶手段に登録し、ユーザの操作に応答し、前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を、前記初期値記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの初期値に復旧し、ユーザの操作に応答し、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値に対する編集を行うことにより、任意の動作パラメータのセットを設定する、」に訂正する。

3. 訂正の適否についての判断
(1) 上記訂正事項a(ロ)における、「ユーザの操作に応答し、前記デフォルト値記憶手段から読出したデフォルト値を、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、前記初期値として前記初期値記憶手段に登録するデフォルト値初期値化手段」及び「ユーザの操作に応答して前記初期値記憶手段に登録されている初期値に対する編集を行い、前記動作パラメータの現在の値を変化させることなしに、該初期値を変更する初期値編集手段」に関し、特許権者は、特許明細書及び図面の特に、段落【0035】、【0039】及び図4の記載に根拠をおいて、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてする訂正であると主張する。
しかし、段落【0035】、【0039】、図4の記載、さらに特許明細書及び図面の全体をみても、デフォルト値を初期値として初期値記憶手段に登録すること、初期値記憶手段の初期値を編集すること、については記載があるものの、その登録、編集を行うに、「動作パラメータの現在の値を変化させることなしに」なすこと、については記載も示唆も見いだすことができず、また、自明の事項であるとすることもできない。
この点について、後記「第3 特許異議の申立について」において引用例1となる、特開平10-32984号公報の【0047】には、本件発明の用語に即していうと、この引用例1記載のものにおいて、デフォルト値をそのまま初期値記憶手段に登録することができるが、その際動作パラメータの現在の値もそのデフォルト値に置き換えられるものであるとする趣旨の記載があることからしても、デフォルト値を初期値として初期値記憶手段に登録した際に、動作パラメータの現在の値を変化させないということが自明の事項であるとすることはできない。
したがって、上記訂正事項a(ロ)を含む訂正は、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてしたものではない。

(2) 上記訂正事項a(ホ)、上記訂正事項d(イ)、上記訂正事項d(ロ)、上記訂正事項e(イ)についても、前記(1)で述べたと同様にこれら訂正は、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてしたものではない。

(3) 上記訂正事項b(イ)ないし(ロ)において、「【請求項4】を削除し、元の【請求項3】を【請求項4】にするとともに、【請求項3】として「前記動作パラメータ記憶手段は、バッテリでバックアップされたメモリ装置で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。」を追加する訂正は、少なくとも、【請求項4】のものを【請求項3】のものに訂正する点において、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。

(4) 上記訂正事項cにおいて、「初期値を特定するための識別子」を加える訂正について、特許権者は、特許明細書及び図面の特に、段落【0041】、【0042】及び図6の記載に根拠をおいて、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてする訂正であると主張する。
しかし、そこには、「初期値のセットを番号で指定する」、また、「インデックス」を設け、その「インデックスにより、対応する初期値の番号を選択し」などの記載があり、また、図6に「NO1」、「NO2」などと初期値のセットに「番号」が付されていること、までは認められるものの、「識別子」との用語は存在せず、また、これを示唆する表現も、特許明細書又は図面に見いだすことができない。そして、この「識別子」が「番号」などとは異なる特定の意義を有するものとなることは明らかであるから、この訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてしたものとすることができない。

4. 本件事件においては、審尋を行って、訂正請求についての補正が認められない旨と、別の訂正案の提示を促した。これに対して、特許権者は、回答書において、訂正案を提示した。しかし、この訂正案のものも、ここでの、「3.訂正の適否についての判断」と同様の理由により、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてしたものとすることができないものと判断する。

5. むすび
以上のとおり、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同第126条第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とせず、また、同条第2項の規定に適合しないので、上記訂正は認められない。

第3 特許異議の申立について
1.本件発明
前記「第2 訂正請求に係る訂正について」において示したように平成16年6月7日付けでした訂正は認められないので、本件特許第3424670号の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、便宜的に、請求項を構成要件に分説して、そのそれぞれに、A、B、・・・の符号を付した。)。

「【請求項1】
A. 変更可能な動作パラメータの値を用いて制御対象を制御する制御装置であって、
B. ユーザによって予め設定された前記動作パラメータの初期値を記憶する初期値記憶手段と、
C. ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に、前記動作パラメータの初期値を登録する初期値登録手段と、
D. 前記動作パラメータの現在の値を記憶する動作パラメータ記憶手段と、
E.前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を用いて、制御対象を制御する制御手段と、
F. ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を、前記初期値記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの初期値に変更する復旧手段と、
G. ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値を編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定する手段と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
H. 前記動作パラメータ記憶手段に記憶された前記動作パラメータの現在の値を編集する手段を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
I. 前記初期値記憶手段は、複数組の前記初期値を記憶し、
J.前記復旧手段は、前記初期値記憶手段に記憶された前記複数組の初期値のうちの1つを指定する手段と、該指定された初期値を前記動作パラメータ記憶手段に書き込む手段と、を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
K. 動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段を備え、
L. 前記初期値登録手段は、前記デフォルト値記憶手段に記憶されているデフォルト値を編集して、前記初期値記憶手段に登録する手段を備える、ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の制御装置。
【請求項5】
M. 前記制御装置は、電動機を駆動・制御するインバータ電源装置であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
N. ユーザの操作に応答して動作パラメータの初期値を初期値記憶手段に登録し、
動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値に従って制御対象を制御し、
ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に記憶されている初期値で前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値を書換えて動作パラメータを初期値に復旧し、
ユーザの操作に応答して、復旧した動作パラメータを編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定することにより、任意の動作パラメータのセットを設定する、ことを特徴とする動作パラメータの設定方法。
【請求項7】
O.コンピュータに、
ユーザが定義する動作パラメータを、ユーザの操作に応答して初期値として初期値記憶手段に登録し、
動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータに従って制御対象を制御し、
ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に記憶されている初期値で前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値を書換えて動作パラメータを初期値に復旧し、
ユーザの操作に応答して、復旧した動作パラメータを編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定することにより、任意の動作パラメータのセットを設定する、
ための処理を実行させるためのプログラムを記憶したことを特徴とするコンピュータ読取可能な記録媒体。」

2. 引用刊行物
2.1 引用例1
(1) 取消理由において引用した、特開平10-32984号公報(以下「引用例1」という。)には、その【特許請求の範囲】に、
「【請求項1】 インバータ制御条件を決定するパラメータの設定及び初期化に必要な操作を行うための操作手段と、
負荷に対し可変電圧・可変周波数の交流出力を与えるためのインバータ主回路と、
設定されたパラメータに従い前記インバータ主回路の出力制御を行う制御手段と、
この制御手段による出力制御に供するために前記パラメータの設定値を格納する設定値RAMと、
この設定値RAMと同一の設定値を格納するように設けられた書き込み可能な不揮発性メモリより成る設定値保存手段と、
前記パラメータの初期値を格納して成る初期値定義手段と、
この初期値定義手段に格納された初期値を、前記操作手段の操作に応じて前記設定値RAM及び設定値保持手段へ転送する設定値初期化手段とを備えたインバータ装置において、
前記操作手段を通じて入力されるパラメータの初期値を格納するように設けられた書き込み可能な不揮発性メモリより成る初期値格納手段と、
この初期値格納手段に格納された初期値を、前記操作手段の操作に応じて前記設定値RAM及び設定値保持手段へ転送する補助設定値初期化手段と、
前記初期値定義手段に格納された初期値を、前記操作手段の操作に応じて前記設定値RAM、設定値保持手段及び初期値格納手段へ転送する初期値初期化手段とを備えたことを特徴とするインバータ装置。」
とあり、
(2) さらに、【発明の詳細な説明】には、
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動機の可変速制御に使用されるインバータ装置に関する。」、
「【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1実施例について図1〜図3を参照しながら説明する。
全体の構成例を機能ブロックの組み合わせにより示す図1において、インバータ装置11は、負荷である誘導電動機12を、インバータ主回路13からの可変電圧・可変周波数の交流出力により駆動する構成となっており、当該インバータ主回路13の他に以下に述べるような手段を備えた構成となっている。」、
「【0027】 CPU15は、インバータ主回路13を通じた誘導電動機12の可変速制御を、設定値RAM16から読み出したパラメータの設定値に応じたインバータ制御条件に基づいて監視しながら実行する構成となっている。尚、上記設定値RAM16には、設定表示部14を通じて入力された設定値が格納されるようになっている。」、
「【0030】 CPU15に接続された初期値格納手段としての初期値格納部19は、前記設定値RAM16と同一のアドレス構成とされたもので、インバータ制御条件を決定するためのパラメータの初期値を格納できるようになっている。尚、この初期値格納部19は、例えばEEPROMのような書き込み可能な不揮発性メモリにより構成されたもので、以てユーザー側において複数種類のパラメータ初期値を設定表示部14を通じて格納できるようになっている。」、
「【0032】
また、補助パラメータ初期化手段21は、前記初期値格納部19から読み出したパラメータの初期値を、設定値RAM16及び設定値保存部17へ転送する機能を備えた構成とされている。」、
「【0036】 さらに、初期値格納部19に格納されている初期値は、設定表示部14の操作に応じて補助パラメータ初期化手段21の動作が指示されたときに、設定値RAM16及び設定値保存部17へ転送されるようになっている。
【0037】 CPU15は、設定値RAM16に格納されている設定値に従って出力電圧及び出力周波数などを演算し、その演算結果に基づいてインバータ主回路13を制御することにより誘導電動機12の可変速運転を行うようになっている。」、
「【0044】
上記した本実施例によれば、設定値保存部17中の設定値の編集を行うときには、設定表示部14により編集対象のパラメータの選択及び設定値の書き込みを行う。また、初期値格納部19中の設定値をユーザー側の定義に基づいて編集するときにも、設定表示部14により編集対象のパラメータの選択及び設定値の書き込みを行う。」、
「【0046】
また、インバータ装置11の制御に関する全設定値を、ユーザーが定義した初期値格納部19中の初期値に置き換える場合には、設定表示部14を通じて補助パラメータ初期化手段21に対する動作指令を入力すれば良く、これに応じて、設定値RAM16及び設定値保存部17中の設定値を上記初期値格納部19に格納されている初期値に置き換えることができる。」、
「【0050】 また、上記初期値定義部18にメーカー側で格納された初期値を、初期値初期化手段22を通じて初期値格納部19に転送できる構成となっているから、その初期値格納部19に転送された初期値を、ユーザー側において設定表示部14を通じて編集することができる。従って、メーカー側が設定したインバータ制御条件を、ユーザー側において手直しするという形態で変更することが可能となり、実用上において非常に便利となる。
【0051】 図4及び図5には本発明の第2実施例が示されており、以下これについて前記第1実施例と異なる部分のみ説明する。
図4において、本実施例では、第1実施例における初期値格納部19に代えて、データ別情報保持手段としてのデータ別情報保持部23及びデータ別初期値格納手段としてのデータ別初期値格納部24を設けると共に、同じく補助パラメータ初期化手段21及び初期値初期化手段22に代えて、データ別パラメータ初期化手段25及びデータ別初期値初期化手段26を設けた点に特徴を有する。」、
「【0056】 図5には、パラメータの設定例が示されており、この例では、1点の大分類パラメータの機能名及び設定値の組み合わせ毎に、複数種類の小分類パラメータが割り付けられ、それら小分類パラメータの種類毎に初期値が設定できることを表している。尚、図5中における小分類パラメータ名(23)は、データ別情報保持部23に格納されている情報を示しており、その設定は設定表示部14を通じて行い得るようになっている。また、図5中における初期値(24)は、データ別初期値格納部24に格納されている情報を示しており、これの設定も設定表示部14を通じて行い得るようになっている。
【0057】 このような構成とされた本実施例によれば、ユーザー側において、1点の大分類パラメータついての設定値を設定することにより、多数の小分類パラメータについての初期値を一括して設定することが可能となり、ユーザー側での操作を簡単化できるようになる。
【0058】 つまり、図5の例に示すように、例えば昇降機用設定、ポンプ用設定のように、用途に応じてパラメータの初期値の設定に必要となる複数種類のパラメータの設定値及び初期値を予め用意しておくことにより、用途に対応した1点の設定値を選定するだけで、その用途に応じた複数のパラメータの初期値を設定できるようになり、その設定操作を大幅に簡単化できるようになる。」、
と記載がある。

(3) 特に上記各記載及び図面から、引用例1に開示されている範囲において、次のことが明らかである。
(イ) 【請求項1】、【0001】、【0025】より、インバータ装置において、パラメータは、インバータ制御条件を決定するものであって、その値が変更可能であり、制御対象である電動機を駆動・制御するために用いられるものである。(A、Mに対応)
(ロ) 【0030】より、このインバータ装置において、初期値格納手段としての初期値格納部は、パラメータの初期値を書き込み可能に格納、即ち、記憶・登録できるものであって、ユーザ側において設定表示部を通じて格納、即ち、ユーザの操作に応答して登録できるものである。登録された初期値は、ユーザによって設定されたものということができる。そして、ここにおいて、初期値格納手段と初期値格納部とは、同じものとして記載されているが、初期値格納部から格納機能を切り離して、これを初期値格納手段ということができる。(B、Cに対応)
(ハ) 【0027】、【0037】より、このインバータ装置は、設定値RAMに格納、即ち、記憶されたパラメータの設定値を用いて制御対象である誘導電動機を駆動・制御するものであり、そこに制御手段を有していることは明らかである。また、設定値RAMに記憶されたパラメータの設定値は、誘導電動機を駆動・制御するためのものとなり、これをパラメータの「現在の値」ということができる。(D、E、Mに対応)
(ニ) 【0032】、【0036】、【0046】より、このインバータ装置において、設定表示部の操作に応じて、補助パラメータ初期化手段は、初期値格納部から読み出したパラメータの初期値を設定値RAMに転送できるものであるから、この補助パラメータ初期化手段は、ユーザの操作に応答して、設定値RAMに記憶されているパラメータの「現在の値」を、初期値格納部に記憶されているパラメータの初期値に変更できるものである。この変更を「復旧」ということができる。(Fに対応)
(ホ) 【0044】より、このインバータ装置においては、設定表示部を通じて、即ち、ユーザの操作に応答して、設定保存部中の設定値を編集することができ、また、初期値格納部中の設定値としての初期値を編集することができる。(G、Hに対応)
(ヘ) 【0051】、【0056】ないし【0058】、及び、図5より、このインバータ装置においては、初期値格納部は複数種類のパラメータを設定値及び初期値を予め用意しておくことができるものであり、データ別パラメータ初期化手段は、その1つの設定値を指定することにより複数のパラメータの初期値より指定された初期値を選定できるようになっている。そして、この初期値は設定値RAMに書き込まれるものである。(I、Jに対応)
(ト) 【0050】より、このインバータ装置においては、メーカー側で格納された初期値が格納された初期値定義部が存在し、この初期値は、初期値初期化手段によって、初期値格納部に転送できるようになっている。初期値格納部に転送された初期値は、設定表示部を通じて編集できる。このことから、初期値初期化手段及び設定表示部によって、初期値を、初期値格納部に転送し編集できることになる。(K、Lに対応)

(4) 以上によると、引用例1には、次の発明(以下、本件発明1ないし7に対応させて「引用発明1」などという。)が開示されているということができる。

【引用発明1】: 「変更可能なパラメータの値を用いて制御対象を制御する制御装置であって、
ユーザによって予め設定された前記パラメータの初期値を記憶する初期値格納部と、
ユーザの操作に応答して、前記初期値格納部に、前記パラメータの初期値を登録する初期値格納手段と、
前記パラメータの現在の値を記憶する設定値RAMと、
前記設定値RAMに記憶されている前記パラメータの現在の値を用いて、制御対象を制御する制御手段と、
ユーザの操作に応答して、前記設定値RAMに記憶されている前記パラメータの現在の値を、前記初期値格納部に記憶されている前記パラメータの初期値に変更する補助パラメータ初期化手段と、を備え、
ユーザの操作に応答して、設定保存部中の設定値を編集することができ、初期値格納部中の設定値としての初期値を編集することができる、
制御装置。」
【引用発明2】: (引用例1には、対応する構成の記載がない。)
【引用発明3】: 引用発明1の制御装置に、「前記(データ別)初期値格納部は、複数組の前記初期値を記憶し、
前記補助(データ別)パラメータ初期化手段は、前記初期値格納部に記憶された前記複数組の初期値のうちの1つを指定する手段と、該指定された初期値を前記設定値RAMに書き込む手段と、を備えたもの。」
【引用発明4】: 引用発明1、2又は3の制御装置に、「メーカー側で格納された初期値を記憶する初期値定義部を備え、
初期値初期化手段及び設定表示部は、前記初期値定義部に記憶されている初期値を前記初期値格納部に登録することができ、登録された初期値を編集することができる手段を備えたもの。」
【引用発明5】: 引用発明1ないし4の制御装置が、「前記制御装置は、電動機を駆動・制御するインバータ電源装置であるもの。」
【引用発明6】: 「ユーザの操作に応答してパラメータの初期値を初期値格納部に登録し、
設定値RAMに記憶されているパラメータの現在の値に従って制御対象を制御し、
ユーザの操作に応答して、設定保存部中の設定値を編集して新たな初期値として設定し、前記初期値格納部に記憶されている初期値を編集して新たな初期値として設定し、
また、ユーザの操作に応答して、前記初期値格納部に記憶されている初期値で前記設定値RAMに記憶されているパラメータの現在の値を書換えてパラメータを初期値に復旧することにより、任意のパラメータのセットを設設定する、
パラメータの設定方法。」

2.2 引用例2
(1) 同じく取消理由において引用した、特開平7-271409号公報(以下「引用例2」という。)の【作用】の項には、
「【0012】【作用】
本発明では、油圧ショベル等の油圧システムを電気的に制御するために設けられた電子制御装置によって、当該電子制御装置のメモリ内に用意された制御内容等に基づいて対象となる作業機の作業動作を制御することにおいて、電気的に書換え可能な第2のメモリを設けてこれに制御パラメータを記憶させるようにし、かつ第2メモリの記憶内容を書き換えるための第2の設定器を用意したため、作業現場で作業機ごとの制御パラメータを容易に設定することができる。この場合に、第2の設定器は、電子制御装置を内蔵する制御ボックスに対して取り付け、取り外しが自在な構造とし、メーカ側の作業員のみが行えるようにする。」
との記載がある。
(2)この記載によれば、引用例2には、制御パラメータの値を用いて、制御対象である油圧ショベル等の油圧システムを制御する制御装置において、制御パラメータを直接編集するもの、が開示されているといえる。

2.3 引用例3
(1) 同じく取消理由において引用した、特開平5-281968号公報(以下「引用例3」という。)には、その【従来技術】の項に、
「【0002】【従来の技術】
電子楽器には、種々の楽音制御パラメータが用いられている。これらのパラメータは、音色に応じて所定の値に設定されている。そして、演奏者が音色を選択すると音色に応じた設定値が楽音制御パラメータとして音源に送出され、以後音源はそれらの楽音制御パラメータを用いて動作し、結果として演奏者が選択した音色で楽音が発生される。楽音制御パラメータの設定値は、演奏者の編集により変更することもできる。また、編集した1組の楽音制御パラメータを記憶しておき、所定の操作で読み出せるようにした電子楽器もある。」
との記載があり、さらに、
「【0013】
ROM12は、CPU15が実行するプログラムなどを記憶する。第1のRAM13は、カード5などにより供給された外部からの音色パラメータ(楽音制御パラメータ)を記憶する。第2のRAM14は、パーソナルデータを記憶する。パーソナルデータとは、RAM13に記憶された音色パラメータに代えて差し替えるデータであり、個人性の強いデータである。CPU15は、後述する音色パラメータの差し替え処理を含むこの電子楽器全体の動作を制御する。音源16は、CPU15からの指示にしたがって楽音信号を発生する。サウンドシステム17は、音源16から入力した楽音信号に応じて実際の楽音をスピーカ18から放音する。」
「【0015】
この実施例の電子楽器では、従来より行なわれている音色パラメータの編集(エディット)とともに、パーソナルデータのエディットを行なうことができる。音色パラメータのエディットを行なう状態を音色エディットモード、パーソナルデータのエディットを行なう状態をパーソナルデータエディットモードと呼ぶ。その他のモードとしては、現在設定されている音色パラメータ(RAM13上の音色パラメータまたは差し替えたパラメータ)にしたがって演奏者の演奏操作に応じた楽音を発生する通常モードなどがある。」
「【0018】
図3は、音色エディットモードにおいてLCD8に表示される表示画面例を示す。現在有効な音色パラメータはRAM13に記憶されており、その音色パラメータがエディットの対象となる。41は音色エディットモードに入った直後の表示画面を示す。表示画面41の右上には、現在表示されているページを示す『1』が表示されている。『Voice3 Trumpet3』の表示は、現在RAM13に設定されているエディット対象の音色パラメータが第3ボイスに設定されている第3トランペットであることを示す。『WAVE=Trumpet A』の表示は、波形を表すパラメータとしてトランペットAの波形が設定されていることを示す。
【0019】
『Trumpet A』」の部分には、カーソル(反転表示)45が位置している。YESキー30またはNOキー31を押下することにより、現在カーソルが位置しているパラメータを設定変更することができる。例えば、表示画面41の状態でYESキー30を押下すると『Trumpet A』→ 『Trumpet B』→…というように別の波形へと切替わる。」
と記載がある。

(2) これら記載によれば、引用例3には、楽音制御パラメータの値を用いて、制御対象である電子楽器を制御する制御装置において、楽音制御パラメータを直接編集するもの、が開示されているといえる。

3. 対比・判断
3.1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1において「パラメータ」、「初期値格納部」、「初期値格納手段」、「設定値RAM」及び「補助パラメータ初期化手段」は、それぞれ、本件発明1の「動作パラメータ」、「初期値記憶手段」、「初期値登録手段」、「動作パラメータ記憶手段」及び「復旧手段」に相当するので、両者は、次の点で一致する。

(2) 一致点
「変更可能な動作パラメータの値を用いて制御対象を制御する制御装置であって、
ユーザによって予め設定された前記動作パラメータの初期値を記憶する初期値記憶手段と、
ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に、前記動作パラメータの初期値を登録する初期値登録手段と、
前記動作パラメータの現在の値を記憶する動作パラメータ記憶手段と、
前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を用いて、制御対象を制御する制御手段と、
ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの現在の値を、前記初期値記憶手段に記憶されている前記動作パラメータの初期値に変更する復旧手段と、
を備える制御装置。」

(3) 相違点1
本件発明1は、 「ユーザの操作に応答して、前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている前記初期値(前記復旧手段によって変更されたもの。)を編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定する手段」を有しているのに対して、引用発明1は、そのような手段を有しない点。

(4) 相違点1についての判断
引用発明1のものは、相違点1に対応する手段として、「ユーザの操作に応答して、設定保存部中の設定値を編集することができ、初期値格納部中の設定値としての初期値を編集することができる」ものが存在する。
ところで、本件発明1のものは、ユーザの操作に応答して、動作パラメータ記憶手段に記憶されている、復旧手段によって変更された初期値を編集して新たな動作パラメータの現在の値とすることができるものであるが、引用発明1のものは、設定表示部を通じてのユーザの操作で、初期値格納部に格納されている初期値を設定値RAM及び設定値保存部に記憶することができ、その記憶した初期値を設定値保存部において編集することができ、また、初期値格納部に格納されている初期値を編集して、その結果を設定値RAMに記憶することができるから、その違いは、初期値の編集をどの箇所において行うか、または、どの時点において行うかの点である。
即ち、この違いは、初期値の編集をどこで、いつ行うかの相違にすぎず、いずれにて行わせることも設計的事項である。
また、この点について、復旧手段によって変更された初期値の編集が動作パラメータ記憶手段において行えるということは、別の見方をすれば、実際に制御に係る動作パラメータの現在の値自体を直接編集できるということでもあり、この点においても本件発明1は引用発明1と異なるが、このような思想は、引用例1、2にも開示があるように周知の技術である。
ところで、特許権者は、引用例1、2のものの編集が、それぞれ「メーカ側の作業員が行う」ものである、「パーソナルデータに差し替える」ものであるとして、本件発明1とは異なる旨主張する。しかし、ここで認定する周知の技術とは、「実際に制御に係る動作パラメータの現在の値自体を直接編集」点であり、編集を誰が行うか、どのようなデータを扱うかを問題とするものではないので、具体的にみれば、特許権者が主張するような相違があるとしても、そのことが判断に影響することはない。
いずれにしても、前記相違点は、単に、引用発明1において、その初期値格納部において行える編集を、設定値RAMにおける値に対しても行えるようにしたにすぎず、そのようにすることは困難なことでない。これによって、設定値RAMにて、そこに記憶されている、復旧手段によって変更されたパラメータをユーザの操作に応答して、編集できることとなる。

そして、本件発明1の奏する効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術より当業者が容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明1は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.2 本件発明2について
(1) 対比
本件発明2は、本件発明1に、「前記動作パラメータ記憶手段に記憶された前記動作パラメータの現在の値を編集する手段を備える」との事項が付加されたものであるが、これを引用発明2と対比すると、付加された事項については、これを相違点として次のように認定できる。

(2) 相違点2
本件発明2は、 「前記動作パラメータ記憶手段に記憶された前記動作パラメータの現在の値を編集する手段を備える」との事項を有しているのに対して、引用発明2は、そのような手段を備えていない点。

(3) 相違点2についての判断
「3.1 本件発明1について」の「(4) 相違点1についての判断」にて述べたとおり、引用発明2(引用発明1と同じ)のものにおいて、設定値RAMにて編集を行えるようにすることは格別困難なことでなく、設定値RAMにおける、実際に制御に係るパラメータを、ユーザの操作に応答して、編集できるようにすることは容易に想到できることである。これによって、復旧後の初期値に限らず、編集することができるものとなる。

そして、本件発明2の奏する効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術より当業者が容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明2は、引用例1に記載された発明及び周知技術にに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.3 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に対して、「前記初期値記憶手段は、複数組の前記初期値を記憶し、
前記復旧手段は、前記初期値記憶手段に記憶された前記複数組の初期値のうちの1つを指定する手段と、該指定された初期値を前記動作パラメータ記憶手段に書き込む手段と、を備える」との事項が付加されたものであるが、これを引用発明3と対比すると、「3.1 本件発明1について」における対比から認定された一致点、相違点に加えて、前記付加された事項が一致点に加わるものとして、一致点、相違点を認定することができる。
そうすると、相違点については、本件発明1でした認定と同じものとなり、その判断も同様となる。

したがって、本件発明3は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.4 本件発明4について
(1) 対比
本件発明4は、本件発明1に、「動作パラメータのデフォルト値を記憶するデフォルト値記憶手段を備え、
前記初期値登録手段は、前記デフォルト値記憶手段に記憶されているデフォルト値を編集して、前記初期値記憶手段に登録する手段を備える」との事項が付加されたものとして認定することができるが、この付加された事項について、引用発明4と対比すると、引用発明4の「初期値定義部」、「メーカー側で格納された初期値」、「初期値初期化手段及び設定表示部」は、それぞれ、本件発明4の「デフォルト値記憶手段」、「デフォルト値」、「初期値登録手段」に相当するので、両者は、「3.1 本件発明1について」の対比において認定された相違点に加えて、前記付加された構成における次の点に相違が認められる。

(2) 相違点3
本件発明4において、 「前記初期値登録手段は、前記デフォルト値記憶手段に記憶されているデフォルト値を編集して、前記初期値記憶手段に登録する手段を備え」ているのに対して、引用発明4は、そのような手段を備えていない点。

(3) 相違点3についての判断
引用発明4のものは、相違点に対応する手段として、「初期値初期化手段及び設定表示部は、前記初期値定義部に記憶されている初期値を前記初期値格納部に登録することができ、登録された初期値を編集することができる手段」を備えている。ここで、初期値定義部に記憶されている初期値は、本件発明4の「デフォルト値」に相当するので、引用発明4においては、この「デフォルト値」に相当するものを編集するに、初期値格納部に登録した後に編集をするものとすることができる。
そうすると、この相違点3も、いずれの時点で編集を行うかの相違にすぎず、このような変更は困難なことでない。これによって、初期値定義部にて、そこに記憶されている初期値をユーザの操作に応答して、編集できるようにすることができる。

そして、本件発明4の奏する効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術より当業者が容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明4は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.5 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1に、「前記制御装置は、電動機を駆動・制御するインバータ電源装置であること。」との事項が付加されたものとして認定することができるが、この付加された事項を引用発明5と対比すると、両者相違点がなく、したがって、「3.1 本件発明1について」において認定された一致点、相違点に加えて、前記付加された事項が一致点に加わるものとして、一致点、相違点を認定することができる。
そうすると、相違点については、本件発明1でした認定と同じものとなり、その判断も同様となる。

したがって、本件発明5は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.6 本件発明6について
(1) 対比
本件発明6と引用発明6とを対比すると、引用発明6において「パラメータ」、「初期値格納部」、「設定値RAM」は、それぞれ、本件発明6の「動作パラメータ」、「初期値記憶手段」、「動作パラメータ記憶手段」に相当するので、両者は、次の点で一致する。

(2) 一致点
ユーザの操作に応答して動作パラメータの初期値を初期値記憶手段に登録し、
動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値に従って制御対象を制御し、
ユーザの操作に応答して、前記初期値記憶手段に記憶されている初期値で前記動作パラメータ記憶手段に記憶されている動作パラメータの現在の値を書換えて動作パラメータを初期値に復旧して、任意の動作パラメータのセットを設定する、
動作パラメータの設定方法。

(3)相違点4
本件発明6は、 任意の動作パラメータのセットを設定するに、「ユーザの操作に応答して、復旧した動作パラメータを編集して新たな動作パラメータの現在の値を設定する」ものであるのに対して、引用発明6は、そのようになっていない点。

(4) 相違点4についての判断
引用発明6のものは、復旧の前後に関係なく、「ユーザの操作に応答して、設定保存部中の設定値を編集して新たな初期値として設定し、前記初期値格納部に記憶されている初期値を編集して新たな初期値として設定」することができるものである。
これによれば、相違点は編集をいつの時点で行うかの相違にすぎず、引用発明6において、復旧後に編集ができるようにすることに困難を伴うものではない。

そして、本件発明6の奏する効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術より当業者が容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明6は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.7 本件発明7について
本件発明7は、コンピュータに読取可能なプログラムを記憶した「記録媒体」に係る発明であるが、このプログラム自体は、本件発明6に規定する発明そのものである。
そうすると、発明内容を単にプログラムとしてコンピュータに読取可能に「記録媒体」に記録すること自体は、当業者にとって何の困難もなくなし得ることであるから、当業者が容易に発明をすることができた本件発明6に係る発明特定事項を「記録媒体」にコンピュータ読取可能なようにプログラムとして記憶させることも容易に行える範囲である。

そして、本件発明7の奏する効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術より当業者が容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明7は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4. むすび
以上のとおり、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-04-26 
出願番号 特願2000-344371(P2000-344371)
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (G05B)
P 1 651・ 841- ZB (G05B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 田良島 潔
佐々木 芳枝
登録日 2003-05-02 
登録番号 特許第3424670号(P3424670)
権利者 サンケン電気株式会社
発明の名称 制御装置、動作パラメータの設定方法及びコンピュータ読取可能な記録媒体  
代理人 木村 満  

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