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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1119476
異議申立番号 異議2001-70740  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-08 
確定日 2005-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第3086489号「基板上の膜を選択的に加熱する方法」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3086489号の請求項1ないし14に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3086489号の請求項1ないし14に係る発明は、平成3年3月22日(パリ条約による優先権主張1990年3月23日、米国)に特許出願され、平成12年7月7日にその特許の設定登録がなされ、その後、日本真空技術株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成13年5月21日付けで取消理由通知がなされ、平成13年12月3日付けで訂正請求がなされ、平成14年2月21日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、平成14年9月5日付けで意見書が提出されたものである。
そして、平成13年12月3日付けの訂正請求を容認せず、「特許第3086489号の請求項1ないし14に係る特許を取り消す。」との異議決定が平成14年10月9日になされたところ、特許権者はこれを不服として異議決定取消の訴えを東京高等裁判所に提起した(平成15年(行ケ)第68号)。
東京高等裁判所において、平成15年12月17日に、異議決定の明細書記載不備についての判断は誤りであり、この誤りが異議決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、「特許庁が異議2001-70740号事件において平成14年10月9日にした決定を取り消す。」旨の判決の言い渡しがあったので、さらに審理する。
その後、平成16年6月9日付けで再度の取消理由通知がなされたが、その指定期間内において、特許権者は意見書を提出していない。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正は以下のとおりである。
(1)特許請求の範囲に記載の
「【請求項1】 基板上の膜を選択的に加熱する方法にして、
各々異なる光吸収特性を備える基板及び膜を選択する段階と、
上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源により上記膜及び上記基板を照射する段階と、
上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階と、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】 請求項1の方法にして、前記基板が透過性であり、前記膜が不透過性であるように選択する段階を更に備えることを特徴とする方法。
【請求項3】 請求項1の方法にして、基板上の前記膜が平坦なパネルディスプレイに使用されることを特徴とする方法。
【請求項4】 請求項3の方法にして、前記膜が前記照射段階前、非結晶シリコンであり、前記基板がガラスであることを特徴とする方法。
【請求項5】 請求項4の方法にして、前記照射段階が前記非結晶シリコンを結晶化することを特徴とする方法。
【請求項6】 請求項1の方法にして、前記基板上の膜がソーラ電池として使用されることを特徴とする方法。
【請求項7】 請求項6の方法にして、前記膜が硫化カドミウムであり、前記基板がガラスであることを特徴とする方法。
【請求項8】 請求項1の方法にして、前記照射段階がインプラントアニール工程中に行われることを特徴とする方法。
【請求項9】 請求項1の方法にして、前記照射段階が前記基板上に前記膜を蒸着する間に行われることを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項1の方法にして、前記膜が金属であり、前記基板がシリコンであることを特徴とする方法。
【請求項11】 請求項1の方法にして、前記基板に結合された吸熱源を提供する段階を更に備えることを特徴とする方法。
【請求項12】 請求項1の方法にして、前記照射段階が、単一の長いアークガス放電灯により行われ、さらに、高温計により前記膜の温度を検出する段階を備えることを特徴とする方法。
【請求項13】 請求項1の方法により製造されることを特徴とする製品。
【請求項14】 第1の材料に結合された第1の材料を選択的に加熱する方法にして、
上記第2の材料のエネルギ帯城空隙より小さいエネルギ帯域空隙を備える第1の材料を選択する段階と、
上記第1の材料の上記エネルギ帯域空隙より大きく、上記第2の材料の上記エネルギ帯域空隙より小さいエネルギの波長にて最大出力を有する光源によって上記第1及び第2の材料を照射する段階と、
上記第2の材料を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記第1の材料の表面に比較してより狭い幅のバンド状で、上記第1の材料の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階と、
を備えることを特徴とする方法。」を、
「【請求項1】 基板上の膜を選択的に加熱する方法にして、
各々異なる光吸収特性を備える基板及び膜を選択する段階であって、基板はガラス基板であり且つ膜はガラス基板が歪む温度よりも高温度に加熱される必要がある材料からなる、前記基板及び膜を選択する段階と、
光源から放射された光により前記膜及び前記基板を照射する段階であって、前記光は前記膜には実質的に吸収されるが前記ガラス基板には実質的に吸収されないピーク波長のスペクトル分布を有する、前記照射段階と、
前記ガラス基板を前記光源に対して相対移動させて、光源からの光の走査線により前記膜の表面を照射して前記膜及び走査線が相対移動するようにすることにより、前記膜を前記ガラス基板が歪む温度以上の前記高温度になるように加熱するが、前記ガラス基板を該ガラス基板が歪む温度以下の温度に保つ、前記相対移動段階と、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】 請求項1の方法にして、前記ガラス基板が透過性であり、前記膜が不透過性であるように選択する段階を更に備えることを特徴とする方法。
【請求項3】 請求項1の方法にして、ガラス基板上の前記膜が平坦なパネルディスプレイに使用されることを特徴とする方法。
【請求項4】 請求項3の方法にして、前記膜が前記照射段階前、非結晶シリコンであることを特徴とする方法。
【請求項5】 請求項4の方法にして、前記照射段階が前記非結晶シリコンを結晶化することを特徴とする方法。
【請求項6】 請求項1の方法にして、前記ガラス基板上の膜がソーラ電池として使用されることを特徴とする方法。
【請求項7】 請求項6の方法にして、前記膜が硫化カドミウムであることを特徴とする方法。
【請求項8】 請求項1の方法にして、前記照射段階がインプラントアニール工程中に行われることを特徴とする方法。
【請求項9】 請求項1の方法にして、前記照射段階が前記ガラス基板上に前記膜を蒸着する間に行われることを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項1の方法にして、前記ガラス基板に結合された吸熱源を提供する段階を更に備えることを特徴とする方法。
【請求項11】 請求項1の方法にして、前記照射段階が、単一のガス放電灯により行われ、さらに、高温計により前記膜の温度を検出する段階を備えることを特徴とする方法。
【請求項12】 請求項1の方法により製造されることを特徴とする製品。」と訂正する。[以下、訂正事項(1)という。]

(2)特許明細書の第4欄第41行ないし第47行記載の
「【0007】本発明は同時に試料全体を照射する光源を備える一実施例に使用することも出来る。これとは別に、光源は試料ストリップを照射し、光源と試料との間の相対的動きを可能にし、試料を横切って走査線を移動させ得るようにすることも出来る。この実施例の高温計は、光源と整合状態を保ち、該高温計が走査線部分の加熱状態を検出するようにすることが出来る。」を、
「【0007】本発明は同時に試料全体を照射する光源を備える一実施例に使用することも出来る。これとは別に、光源は試料ストリップを照射し、光源と試料との間の相対的動きを可能にし、試料を横切って走査線を移動させ得るようにすることも出来る。この実施例の高温計は、光源と整合状態を保ち、該高温計が走査線部分の加熱状態を検出するようにすることが出来る。上記走査線移動の本発明によれば、次に示す効果がある。光源からの光の所定のピーク波長を有するスペクトル分布が「膜には実質的に吸収されるがガラス基板には実質的に吸収されないようなピーク波長のスペクトル分布」である基本的条件と、光源と膜との相対的移動が、「光源からの光の走査線により前記膜の表面を照射して前記膜及び走査線が相対移動するようにすることにより、前記膜を前記ガラス基板が歪む温度以上の前記高温度になるように加熱するが、前記ガラス基板を該ガラス基板が歪む温度以下の温度に保つ」ような追加的条件との2つの条件下で行われるため、膜は前記高温度まで加熱されて膜の所望の処理(非結晶シリコンの再結晶化等)を行うことが出来、しかもガラス基板は基板の歪みを生ずることはない。」と訂正する。[以下、訂正事項(2)という。]

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
2-1.訂正事項(1)について
イ)請求項1に記載の「上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階」を「前記ガラス基板を前記光源に対して相対移動させて、光源からの光の走査線により前記膜の表面を照射して前記膜及び走査線が相対移動するようにすることにより、前記膜を前記ガラス基板が歪む温度以上の前記高温度になるように加熱するが、前記ガラス基板を該ガラス基板が歪む温度以下の温度に保つ、前記相対移動段階」とする訂正は、【0007】段落及び【0014】段落に基づく訂正であると主張しているが、【0007】段落及び【0014】段落には、「光源と試料が相対移動すること」は記載されているけれども、「前記膜及び走査線が相対移動するようにすることにより、・・・前記ガラス基板を該ガラス基板が歪む温度以下の温度に保つ、」点の記載はない。よって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
ロ)訂正後の請求項11は、特許明細書の特許明細書請求項12に対応すると認められるところ、特許明細書請求項12記載の「長いアークガス放電灯」を訂正後の請求項11にて「ガス放電灯」とする訂正は、「長いアーク」との限定事項を削除することにより特許請求の範囲を実質的に拡張するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。

2-2.訂正事項(2)について
訂正事項2は、光源と膜との相対的移動が、「光源からの光の走査線により前記膜の表面を照射して前記膜及び走査線が相対移動するようにすることにより、前記膜を前記ガラス基板が歪む温度以上の前記高温度になるように加熱するが、前記ガラス基板を該ガラス基板が歪む温度以下の温度に保つ」ような追加的条件を付加する訂正であるが、「前記膜及び走査線が相対移動するようにすることにより、・・・前記ガラス基板を該ガラス基板が歪む温度以下の温度に保つ、」点の記載は特許明細書に記載がない。よって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

3.訂正の適否についての結語
したがって、訂正事項(1)及び(2)からなる上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

第3 異議申立について
1.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証ないし甲第9号証を提示して、請求項1ないし14に係る発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件請求項1ないし14に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許は取り消されるべきものと主張している。
甲第1号証 特開昭58-186950号公報
甲第2号証 特開昭60-223112号公報
甲第3号証 桜井潤治、「赤外線ゴールドイメージ炉を使った再結晶SOIの研究」、真空理工ジョーノルpp.32-33、真空理工株式会社、1987年3月31日
甲第4号証 特開昭60-134413号公報
甲第5号証 特開平 1-235232号公報
甲第6号証 特開昭59-181528号公報
甲第7号証 特開昭58- 97837号公報
甲第8号証 神山雅英他編 薄膜ハンドブックpp.807-808、オーム社、昭和58年12月10日第1版第1刷発行
甲第9号証 特開昭63-265424号公報

2.本件発明
上記第2 3.で示したように上記訂正は認められないから、本件請求項1ないし14に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明14」という。)は、本件特許登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 基板上の膜を選択的に加熱する方法にして、
各々異なる光吸収特性を備える基板及び膜を選択する段階と、
上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源により上記膜及び上記基板を照射する段階と、
上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階と、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】 請求項1の方法にして、前記基板が透過性であり、前記膜が不透過性であるように選択する段階を更に備えることを特徴とする方法。
【請求項3】 請求項1の方法にして、基板上の前記膜が平坦なパネルディスプレイに使用されることを特徴とする方法。
【請求項4】 請求項3の方法にして、前記膜が前記照射段階前、非結晶シリコンであり、前記基板がガラスであることを特徴とする方法。
【請求項5】 請求項4の方法にして、前記照射段階が前記非結晶シリコンを結晶化することを特徴とする方法。
【請求項6】 請求項1の方法にして、前記基板上の膜がソーラ電池として使用されることを特徴とする方法。
【請求項7】 請求項6の方法にして、前記膜が硫化カドミウムであり、前記基板がガラスであることを特徴とする方法。
【請求項8】 請求項1の方法にして、前記照射段階がインプラントアニール工程中に行われることを特徴とする方法。
【請求項9】 請求項1の方法にして、前記照射段階が前記基板上に前記膜を蒸着する間に行われることを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項1の方法にして、前記膜が金属であり、前記基板がシリコンであることを特徴とする方法。
【請求項11】 請求項1の方法にして、前記基板に結合された吸熱源を提供する段階を更に備えることを特徴とする方法。
【請求項12】 請求項1の方法にして、前記照射段階が、単一の長いアークガス放電灯により行われ、さらに、高温計により前記膜の温度を検出する段階を備えることを特徴とする方法。
【請求項13】 請求項1の方法により製造されることを特徴とする製品。
【請求項14】 第1の材料に結合された第1の材料を選択的に加熱する方法にして、
上記第2の材料のエネルギ帯城空隙より小さいエネルギ帯域空隙を備える第1の材料を選択する段階と、
上記第1の材料の上記エネルギ帯域空隙より大きく、上記第2の材料の上記エネルギ帯域空隙より小さいエネルギの波長にて最大出力を有する光源によって上記第1及び第2の材料を照射する段階と、
上記第2の材料を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記第1の材料の表面に比較してより狭い幅のバンド状で、上記第1の材料の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階と、
を備えることを特徴とする方法。」

3.平成16年6月9日付け取消理由通知
平成16年6月9日付けで通知した取消理由通知の内容は以下のとおりである。
「本件の、次の請求項1ないし14に係る特許は、合議の結果、以下の理由によって取り消すべきものと認められます。これについて意見がありましたら、この通知の発送の日から3ヶ月以内に意見書の正本1通及びその副本2通を提出して下さい。

理 由

1)本件の請求項1及び請求項14に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物2に記載された発明であって、本件の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。 よって、本件の請求項1及び請求項14に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
2)本件の請求項1ないし8及び請求項10ないし14に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1ないし8、及び請求項10ないし14に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
3)本件の請求項9及び10に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明の欄に「発明」として記載されておらず、また、その記載も明りょうでないから、明細書及び図面の記載が不備であるため、特許法第36条第4項、同法第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件の請求項9及び10に係る発明の特許は、特許法第36条第4項、同法第36条第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(1)特許法第29条第1項第3号、第2項違反について
請求項1について(その1)
請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と、刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1発明」という。)(特に、特許請求の範囲請求項1、第2図、第2頁右上欄及び左下欄参照)とを対比すると、
本件発明1では、「上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階」を備えるのに対して、刊行物1発明では、前記構成を備えていない点において相違する。
ここで、上記相違点について検討する。
基板上に形成した非単結晶半導体、ポリシリコン膜、非晶質シリコン、多結晶の半導体層をアニールするために、線状とした高圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンロングランプにより走査することは、刊行物2(特に、第1図、第2頁下段及び第3頁上段参照)、刊行物3(特に、第1図、第1〜2頁参照)、刊行物4(特に、特許請求の範囲請求項1、第3,4図、第2頁下段、第3頁及び第4頁左上欄参照)、及び刊行物5(特に、第1図、第1頁左下欄、及び第2頁参照)に記載されているから、刊行物1発明において、基板上に形成した非晶質シリコン膜あるいは多結晶シリコン膜の赤外線加熱のアニールにおいて、刊行物2ないし5に記載されるように、線状の光源を上記膜に対して走査させることにより、本件発明1の如く、「上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する」ことは、当業者が容易になしえたものである。
よって、請求項1に係る発明は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

請求項1について(その2)
本件発明1と、刊行物2に記載された発明(以下、「刊行物2発明」という。)(特に、第1図、第2頁下段及び第3頁上段参照)、とを対比するに、刊行物2発明においては、石英ガラス基板上に形成されたアモルファス構造を含む非単結晶半導体に超高圧水銀灯を線状の照射部により照射しながら走査するのであり、照射光はガラス基板には実質的に吸収されず、アモルファス構造を含む非単結晶半導体には実質的に吸収されることは当業者に明らかであるから、本件発明1における「上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源により上記膜及び上記基板を照射する段階」を、刊行物2発明が備えており、本件発明1と刊行物2発明とは、実質的に同一である。
仮に、刊行物2発明における、超高圧水銀灯の線状の光が、石英ガラス基板に部分的に吸収されることがあるとしても、刊行物3ないし5に記載される如き、キセノンランプ又はハロゲンランプの線状光源、即ち、本件発明1の如き、「上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源」を用いることは、当業者が容易になしえたものである。
よって、請求項1に係る発明は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

請求項2について
請求項2に係る発明は、「前記基板が透過性であり、前記膜が不透過性である」点が、刊行物1、刊行物2及び、刊行物3に記載されているから、当業者が、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項3について
請求項3に係る発明は、刊行物1に「透明基板上に薄膜トランジスタアレイを形成し、液晶ディスプレイを構成したフラットパネル等では、裏面に反射率の良い反射板をセットする事により、コントラストの良い表示を得ることができる。」と記載されているから、当業者が、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項4及び5について
請求項4及び5に係る発明は、「前記膜が前記照射段階前、非結晶シリコンであり、前記基板がガラスであること」及び「前記照射段階が前記非結晶シリコンを結晶化すること」が、刊行物1(特に、特許請求の範囲請求項1参照)及び、刊行物2(特に、第2頁右下欄参照)に記載されているから、当業者が、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項6及び7について
請求項6及び7に係る発明は、「前記基板上の膜がソーラ電池として使用されること」及び「前記膜が硫化カドミウムであり、前記基板がガラスであること」、即ち、ガラス基板上に形成した硫化カドミウムの薄膜を用いて太陽電池(ソーラ電池)と形成した構成が、刊行物6(特に、特許請求の範囲請求項1及び2,第1図、及び第2頁右上欄参照)、刊行物7(特に、特許請求の範囲、第1図、及び第2頁上段参照)、刊行物8(特に、特許請求の範囲請求項1,第2図、及び第2頁右上欄参照)及び、刊行物9(特に、第1図、第1頁右下欄〜第2頁左上欄、第2頁右下欄〜第3頁左下欄参照)に記載されているように従来周知であるから、当業者が、刊行物1ないし9に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項8について
請求項8に係る発明は、半導体薄膜に導入した不純物の活性化のために熱処理(アニール)することは、例えば、刊行物2(特に、第3頁上段参照)及び刊行物10(特に、第1頁右下欄参照)にも記載されるように従来周知であるから、当業者が、刊行物1ないし5及び、刊行物10に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項10について
請求項10に係る発明は、刊行物11には、基板としてシリコンウエハが記載されるとともに、「基板上に形成した金属膜のステップカバレッヂの改善、更には金属膜の結晶粒子を粗大化するための熱処理等がある。・・・赤外線ランプ炉等を用いる・・。」(第1頁右下欄第1〜4行参照)と記載されており、刊行物1ないし2に記載されるアニールを、シリコン基板上に形成した金属膜を対象とするとともに、アニールのための熱源として、刊行物3ないし5に記載される如きキセノンランプ又はハロゲンランプの線状光源を用いることにより、当業者が何の困難性もなくなしえたものであるから、当業者が刊行物1ないし5及び、刊行物11に記載される発明に基づいて容易に発明をすることができたものと認める。

請求項11について
請求項11に係る発明は、薄膜形成基板に冷却手段を備えることが、例えば、刊行物12に「前記基板に結合された吸熱源を提供する段階を更に備えること」が記載されている(特に、第1図及び冷却ガス導入管14参照)ように従来周知であるから、当業者が、刊行物1ないし5、及び刊行物12に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項12について
請求項12に係る発明は、「単一の長いアークガス放電灯」を用いることが、刊行物3,4及び5に記載されており、また、膜の温度を高温計(パイロメータ)により測定することは、例えば、刊行物13(特に、赤外線パイロメータ11参照)及び刊行物14(特に、パイロメータ6に参照)に記載されるように従来周知であるから、当業者が、刊行物1ないし5、及び刊行物13,14に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

請求項13について
請求項3についてを参照されたい。

請求項14について
「第1の材料に結合された第1の材料を選択的に加熱する方法にして」の最初の「第1の材料」は明らかな誤記であるから、「第2の材料」と読み替えると、請求項14に係る発明は、実質的に、請求項1に係る発明と同一であるから、請求項1についてに記載したと同様な理由により、特許を受けることができない。

よって、本件の請求項1ないし8、請求項10ないし14に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
また、本件の請求項1及び請求項14に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

引用文献等一覧
刊行物1.特開昭60-066471号公報
刊行物2.特開昭60-245174号公報
刊行物3.特開昭59-181527号公報
刊行物4.特開昭60-160114号公報
刊行物5.特開昭56-080138号公報
刊行物6.特開平 1-181478号公報
刊行物7.特開平 1-125875号公報
刊行物8.特開昭61-035572号公報
刊行物9.特開昭62-278159号公報
刊行物10.特開平 1-235232号公報(異議申立人日本真空技術株式会社提出の甲第5号証)
刊行物11.特開昭59-181528号公報(異議申立人日本真空技術株式会社提出の甲第6号証)
刊行物12.特開昭60-223112号公報(異議申立人日本真空技術株式会社提出の甲第2号証)
刊行物13.特開昭61-139021号公報
刊行物14.特開昭63-297293号公報

(2)特許法第36条違反について
請求項9について
請求項9において、「請求項1の方法にして、前記照射段階が前記基板上に前記膜を蒸着する間に行われること」とは、基板上に膜を蒸着により形成する工程中において、「上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源により上記膜及び上記基板を照射する」ことを意味していると解されるところ、膜は蒸着により基板上に垂直方向に堆積するのに対して、「上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する」のであるから、光源を走査する際には、バンド状の光源を走査する方向に対して直角の方向における、膜の断面方向について、1回のみバンド状の光源で照射することとなる。即ち、バンド状の光源の照射後に堆積された膜の部分については、バンド状の光源により照射されないことになり、膜は厚さ方向全体に渡りアニール処理されないこととなるから、上記請求項9による、請求項1の方法の技術的限定が技術的にどのようなものであるか明確でなく、詳細な説明においても当業者が請求項9に係る発明を容易に実施できる程度に記載されているとも認められない。
よって、請求項9に係る発明は、特許法第36条第4項、同条第5項第1号及び第2号に規定される要件を満たしているとは認められない。

請求項10について
「請求項1の方法にして、前記膜が金属であり、前記基板がシリコンであることを特徴とする方法」について、どのような光源であれば、金属膜には実質的に吸収されるが、シリコンウエハには実質的に吸収されないピーク波長を備えるかは、発明の詳細な説明には記載がなく、請求項10に係る発明は、明細書に実質的に記載されているものとは認められず、また、当業者が容易に実施できる程度に明細書に記載されているものとも認められない。
よって、請求項10に係る発明は、特許法第36条第4項、同条第5項第1号及び第2号に規定される要件を満たしているとも認められない。

よって、本件の請求項9及び10に係る発明の特許は、特許法第36条第4項、同条第5項第1号及び第2号の規定に違反してなされたものである。」

4.刊行物記載事項
(1)刊行物1(特開昭60-066471号公報)
刊行物1には、第2図とともに以下の事項が記載されている。
「(1) ソーダガラス等の透明基板上に形成する薄膜トランジスタにおいて、該基板上に非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜の島を形成したのちに、不活性ガス雰囲気中で赤外線加熱により、シリコン膜の島をアニールすることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
「周知の如く、赤外線はガラス等の透明基板には吸収されず、半導体薄膜等の不透明な膜に吸収され温度上昇させる。この性質を利用し、透明基板上に、島状に残した半導体薄膜をアニールすることができ、透明基板の温度上昇は起こらない。
第2図(a)(b)(c)により本発明の第1の実施例を説明する。
ガラス基板11上に、非晶質シリコン膜あるいは多結晶シリコン膜の島12を形成する。次に赤外線ランプにより不活性ガス雰囲気中でアニールすると、第2図(b)の様に非晶質シリコン膜あるいは多結晶シリコン膜の結晶が成長し12′となる。次にゲート膜となる酸化シリコン膜13を形成したのちにゲート電極となる多結晶シリコン膜14を形成する。その後イオン打込み法により、ソース・ドレイン拡散層15を形成する。
さらに、層間絶縁膜16を形成したこちに、コンタクトホールを開口し、ソース・ドレイン電極を透明導電膜により形成する。
この様に形成された薄膜トランジスタは、半導体薄膜がアニールされて結晶性が向上しているので、トランジスタのオン-オフ比が6桁以上となる。さらに透明電極を用いている為、基板自体の温度は上昇しないので、ソーダガラス等も用いることができる。」(第2頁右上欄第8行〜左下欄第12行)

したがって、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「ソーダガラス等の透明基板上に非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜の島を形成したのちに、不活性ガス雰囲気中で赤外線ランプからの赤外線加熱により、前記シリコン膜の島をアニールする方法。」
(2)刊行物2(特開昭60-245174号公報)
刊行物2には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「基板(1)として第1図(A)に示すごとく、厚さ1.1mmの石英ガラス基板10cm×10cmを用いた。この上面に、ジシラン(Si2H6)の水銀励起法を用いない光プラズマCVD・・・により水素が1原子%以上の濃度に添加されたアモルファス構造を含む非単結晶半導体(2)を0.2μの厚さに形成した。さらにこの上面に光CVD法により窒化珪素膜(3)をゲイト絶縁膜として同一反応炉内で半導体表面を大気に触れさせることなく積層した。即ちSi2H6とアンモニアまたはヒドラジンとの反応・・・によりSi3N4を水銀増感法を用いることなしに1000Åの厚さに作製した。
この後、IGFを形成する領域(5)を除く他部をプラズマエッチング法により除去した。反応はCF4+O2(5%)で13.56MHz、室温で行った。このゲイト絶縁膜上にN+の導電型の微結晶または多結晶半導体を0.3μの厚さに積層した。このN+の半導体膜をレジスト(6)を用いてフォトエッチング法で除去した後、このレジストとN+半導体のゲイト電極部(4)とをマスクとしてソース、ドレインとなる領域にイオン注入法により1×1020cm-3の濃度に第1図(B)に示すごとくリンを添加し、一対の不純物領域(7),(8)を形成した。
さらにこの基板全体に対し、ゲイト電極のレジストを除去した後、強光(10)の光アニールを行った。即ち、超高圧水銀灯・・・に対し裏面側は放物面の反射鏡を用い前方に石英のシリンドリカルレンズ・・・により線状に照射部を構成した。この照射部に対し基板の照射面を5 〜50cm/分の速度で走査(スキャン)し、基板10cm×10cmの全面に強光が照射されるようにした。
かくするとゲイト電極部はゲイト電極側にリンが多量に添加されているため、この電極は十分光を吸収し多結晶化した。また不純物領域(7),(8)は一度溶融し再結晶化することにより走査する方向即ちX方向に溶融、再結晶がシフト(移動)させた。その結果単に全面に均一に加熱または光照射するのみに比べ、成長機構が加わるため結晶粒径を大きくすることができた。」(第2頁右下欄第10行〜第3頁右上欄第12行)
(3)刊行物3(特開昭59-181527号公報)
刊行物3には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「半導体層にイオン注入した箇所の活性化、ガラス基板上のポリシリコン膜の単結晶化、などにランプアニールが広く利用されている。試料上を全面にアニールするために、線状ランプを試料面上に多数並列配置する方法もあるが、簡便には、単一の線状ランプを被処理面に関して走査する。第1図を参照すると、そのアニール方法を説明する横断面図が示されているが、線状の例えばハロゲンランプ1からの光を円筒楕円鏡2を用いて被処理ウエーハ3に線状に集光し、ウエーハ3をハロゲンランプ1の長軸と直角に移動することによってウエーハ3を全面にアニールされる。」(第1図左下欄第16行〜右下欄第7行)
「第1図を参照して説明する。・・・ハロゲンランプ1は円筒楕円鏡2にセットし・・・点灯し、試料3上に幅1mmの線状に集光させた。試料3は石英ガラス上にCVDポリシリコン膜(厚さ0.5μm)を形成したウエーハであり、これを54mm/秒の速度でランプ1の長軸方向と垂直な方向に移動させ、集光線をウエーハ全面にわたって走査した。」(第2頁左上欄第8〜18行)
(4)刊行物4(特開昭60-160114号公報)
刊行物4には、第3図ないし第5図とともに以下の事項が記載されている。
「(1) 絶縁物層上に形成された多結晶または非晶質の半導体層を有し、この半導体層の上面に絶縁物膜が形成された試料基体を下面から均一に加熱し、上面からは線状に加熱輻射線を照射して、当該照射部位の上記半導体層を溶融させ、その部位を走査移動させて単結晶化するに際して、上記絶縁物膜上の一部を覆い高融点材料からなる所要パターンの反射層を設けることによつて上記反射層の位置,形状によつてその発生位置を制御された結晶粒界に囲まれた半導体単結晶層を得ることを特徴とする半導体単結晶層の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
「しかし、この方法で得られた再結晶化半導体層は、非常に大きな単結晶粒からなるものの・・・。この原因は多結晶シリコン層(4)の厚さ0.5μmに比して線状ヒータ(8)による溶融ゾーン(9)の幅が1〜2mmもあつて広く、実際には厚さに比べて無限大の広さの部分が溶融して液相状態になることにある。・・・
この発明は以上のような点に鑑みてなされたもので、単結晶化すべき多結晶半導体層の上面から線状に加熱輻射線を照射して溶融させ、その部位を走査移動させるようにするとともにその半導体層の上の一部への加熱輻射線を反射する反射層を設けることによつて、半導体層中に所望の熱分布を形成し、所望の領域の単結晶化が可能な方法を提供するものである。」(第2頁左下欄第15行〜第3頁左上欄第3行)
「第3図はこの実施例に用いるゾーンメルテイング装置の構成を示す斜視図で、(13)はキセノン(Xe)ロングアークランプ、(14)は反射鏡である。・・・このような装置を用いて第3図に一点鎖線矢印Lで示すように、Xeロングアークランプ光を線状に集光して照射し、線状の溶融ゾーン(9)を生じさせながら、破線矢印Mのように走査して多結晶シリコン層(4)を単結晶化する。・・・
・・・このとき、隣り合うモリブデン層(10)の下からも結晶成長が開始されており、それぞれの結晶は中央で出会い・・・Xeロングアークランプ(13)による走査に従つて連続的に成長して大面積単結晶層が得られるのである。
・・・実施例では上方からの線状加熱源にXeロングアークランプを用いたが、レーザ光などのその他の光源、ヒータ・・・を用いてもよく、・・・なお、この発明の対象とする半導体はシリコンに限るものでないこともいうまでもない。
〔発明の効果〕
以上説明したように、この発明では、絶縁物層の上に形成された多結晶または非晶質の半導体層を有する試料基体上から線状の加熱輻射線を照射し上記半導体層を溶融させ、その位置を走査移動させて、単結晶化する・・・。」(第3頁右上欄第13行〜第4頁左上欄第8行)
(5)刊行物5(特開昭56-080138号公報)
刊行物5には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「1. 半導体ウエハ又はその表面上の被着層をエネルギービームで照射加熱しながら走査することを含む半導体装置の製法において、前記ビームの断面形状を線状にしたことを特徴とする半導体装置の製法。」(特許請求の範囲第1項)
「・・・半導体ウエハはその表面に・・・パッシベーション膜あるいはポリシリコン層などが形成されていてもよく、ウエハ表面内にはボロン,リンその他の導電型決定不純物をイオン打込み又は拡散してトランジスタ,IC等の回路素子を形成してあってもよい。
線状ビーム形成部12は、連続波として加熱光を放射するロング・アーク・・・Xeランプ14と、このXeランプ14からの光を集光してウエハ面に断面線上の光ビームとして投射する凹面反射鏡などからなる光学系16とを含んでなり、ウエハ面に並行して矢印A方向に往復動自在に配置されている。」(第2頁左上欄第3〜16行)

5.対比・判断
(1)取消理由2)について
まず、上記取消理由2)について検討する。
請求項1について
請求項1に係る発明(「本件発明1」)と刊行物1発明とを対比する。

刊行物1発明の、「ソーダガラス等の透明基板」、「非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜」及び、「ランプ」は、
本件発明1の、「基板」、「膜」及び、「光源」にそれぞれ相当する。
また、アニールが半導体膜等の薄膜を加熱することであることは、当業者にとって明らかであるから、刊行物1発明の「アニールする方法」は、本件発明1の「加熱する方法」に相当する。

そして、刊行物1には、「赤外線はガラス等の透明基板には吸収されず、半導体薄膜等の不透明な膜に吸収され温度上昇させる。この性質を利用し、透明基板上に島状に残した半導体薄膜をアニールすることができ、透明基板の温度上昇は起こらない。」(第2頁右上欄第8〜12行参照)と記載されており、「ソーダガラス等の透明基板上に非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜の島を形成した」のちに、「不活性ガス雰囲気中で赤外線加熱」をすると、透明基板上に形成された非晶質シリコン膜または多結晶シリコン膜が選択的に加熱できること、及び、赤外線が「非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜」には実質的に吸収されるが、透明基板には実質的に吸収されないピーク波長であって、赤外線ランプが赤外線の光源であることは明らかであり、また、「非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜」が島(状)であるか否かにより赤外線ランプからの赤外線を吸収する割合が顕著に異なるものとは認められないから、
刊行物1発明の、「ソーダガラス等の透明基板上に非晶質シリコン膜あるいは、多結晶シリコン膜の島を形成したのちに、不活性ガス雰囲気中で赤外線ランプからの赤外線加熱により、前記シリコン膜の島をアニールする方法」は、
本件発明1の、「基板上の膜を選択的に加熱する方法にして、
各々異なる光吸収特性を備える基板及び膜を選択する段階と、
上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源により上記膜及び上記基板を照射する段階と」を備える方法に相当する。

よって、両者は、
「基板上の膜を選択的に加熱する方法にして、
各々異なる光吸収特性を備える基板及び膜を選択する段階と、
上記膜には実質的に吸収されるが、上記基板には実質的に吸収されないピーク波長を有する光源により上記膜及び上記基板を照射する段階と、
を備えることを特徴とする方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
本件発明1では、「上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する段階」を備えるのに対して、刊行物1発明では、前記構成を備えていない点において相違する。
ここで、上記相違点について検討する。
基板上に形成した非単結晶半導体、ポリシリコン膜、非晶質シリコン、多結晶の半導体層をアニールするために、線状とした高圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンロングランプにより走査することは、刊行物2(特に、第1図、第2頁下段及び第3頁上段参照)、刊行物3(特に、第1図、第1〜2頁参照)、刊行物4(特に、特許請求の範囲請求項1、第3,4図、第2頁下段、第3頁及び第4頁左上欄参照)、及び刊行物5(特に、第1図、第1頁左下欄、及び第2頁参照)に記載されているから、刊行物1発明において、基板上に形成した非晶質シリコン膜あるいは多結晶シリコン膜の赤外線加熱のアニールにおいて、刊行物2ないし5に記載されるように、線状の光源を上記膜に対して走査させることにより、本件発明1の如く、「上記基板を上記光源に対して相対移動させて、走査されている上記膜の表面に比較して狭い幅のバンド状で、上記膜の表面を横切るように移動するバンドにて上記光源を走査する」ことは、当業者が容易になしえたものである。
よって、本件発明1は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項2ないし請求項8及び、請求項10ないし請求項14について
請求項2ないし請求項8に係る発明及び、請求項10ないし請求項14に係る発明は、上記取消理由通知に記載したとおりの理由により、刊行物1ないし14に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、本件の請求項1ないし8及び請求項10ないし14に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)取消理由3)について
次に、上記取消理由3)について検討する。
請求項9及び10について
請求項9及び請求項10に係る発明は、上記取消理由3)に記載されたとおりの理由により、特許法第36条第5項第1号及び第2号の規定される要件を満たしているとは認められないから、請求項9及び請求項10に係る発明の特許は、特許法第36条第5項第1号及び第2号の規定に違反してなされたものである。

(3)むすび
上記取消理由1)について検討するまでもなく、本件の請求項1ないし14に係る発明についての特許は取り消されるべきである。

なお、特許権者は、上記の平成16年6月9日付けの取消理由通知に対して、意見書を提出することなく、何らの反論もしていない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第29条第2項又は同法第36条第5項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件の請求項1ないし14に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-10-09 
出願番号 特願平3-58766
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H01L)
P 1 651・ 534- ZB (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 橋本 武
河本 充雄
松本 邦夫
恩田 春香
登録日 2000-07-07 
登録番号 特許第3086489号(P3086489)
権利者 フォトン・ダイナミックス・インコーポレーテッド
発明の名称 基板上の膜を選択的に加熱する方法  
代理人 社本 一夫  
代理人 増井 忠弐  
代理人 佐久間 滋  
代理人 小林 泰  
代理人 今井 庄亮  
代理人 石島 茂男  
代理人 栗田 忠彦  

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