• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特29条の2  C22C
管理番号 1119483
異議申立番号 異議2003-72545  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-17 
確定日 2005-06-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3398772号「切削加工性を改良したマルテンサイト系ステンレス鋼」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3398772号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3398772号の請求項1〜7に係る発明は、平成6年6月14日(優先日 平成5年6月14日、フランス)に特許出願され、平成15年2月21日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、全請求項に係る特許について愛知製鋼株式会社より特許異議の申立てがなされた。
当審は、特許権者に対し平成16年6月16日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは意見書提出期間の延長について請求がなされただけで、延長期間が経過するまでに前記請求以外に何らの応答もなされていない。

2.本件発明
本件の請求項1〜7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1〜7」という)。
「【請求項1】 重量組成で、
炭素 1.2%以下
珪素 2%以下
マンガン 2%以下
クロム 10.5%≦Cr≦19%
硫黄 0.55%以下
カルシウム 32×10-4%以上
酸素 70×10-4%以上
カルシウムと酸素の含有比Ca/Oは、0.2≦Ca/O≦0.6、
残部鉄およびゲーレナイト(gehlenite)型および/または擬ウォラストナイト(pseudowollastonite)型および/またはアノルサイト(anorthite)型のカルシウムアルミニウムシリケートの介在物からなることを特徴とする切削加工性を改良したマルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項2】 硫黄の含有量が0.035%以下である請求項1に記載の鋼。
【請求項3】 硫黄の含有量が0.15%≦S≦0.45%で、上記鋼が硫黄添加されてたもの(resulphurized)である請求項1に記載の鋼。
【請求項4】 さらにニッケルを6%未満の割合で含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項5】 さらにモリブデンを3%以下の割合で含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項6】 タングステン、コバルト、ニオブ、チタン、タンタル、ジルコニウムおよびバナジウムよりなる群の中から選択される元素を下記の重量比でさらに含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼:
タングステン 4%以下
コバルト 4.5%以下
ニオブ 1%以下
チタン 1%以下
タンタル 1%以下
ジルコニウム 1%以下
バナジウム 1%以下
【請求項7】 ニッケルを2%≦Ni<6%の比率で含み、銅を1%≦Cu≦5%の比率で含む請求項6に記載の鋼。」

3.取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、次の(1)〜(3)のとおりである。
(1)本件発明1〜7は、その出願前に頒布された刊行物1〜5(特許異議申立人が提出した甲第1〜5号証に同じ)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである(取消理由1)。
(2)本件発明1〜5は、本件の出願日前の他の特許出願(以下、「先願」という)であって、その出願後に出願公開された先願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という)に記載された発明と同一と云える。しかも、本件発明1〜5の発明者が上記先願に係る発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願の時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである(取消理由2)。
(3)本件特許明細書は、記載不備が存在するから、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである(取消理由3)

4.引用刊行物等の記載事項
(1)刊行物1:特公昭51-4933号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
(1a)「1 5〜25重量%Crを含有するCr鋼および9〜30重量%Cr、3〜64重量%Niを含有するCr-Ni鋼の熔製中の脱酸の時点でCa脱酸を行ない、Caを0.01%未満含有せしめたことを特徴とする時計部品用快削ステンレス鋼。
2 5〜25重量%Crを含有するCr鋼および9〜30重量%Cr、3〜64重量%Niを含有するCr-Ni鋼の熔製中の脱酸の時点でCa脱酸を行ない、Caを0.01%未満含有せしめ、且つ低融点合金元素であるS、Pb、Se、Te、Bi、Sbなどを単独で0.05〜0.5%、2種以上の複合添加の場合は0.05〜1.0%の範囲で添加せしめたことを特徴とする時計部品用快削ステンレス鋼。」(特許請求の範囲)
(1b)「本発明における第1の材料はステンレス鋼を溶製する際、脱酸を行なっているが、従来はFe-Siを使用して脱酸していたのに対し、Ca-Si、Ca-Al、Ca-C2などのCa合金を添加することによって脱酸を行なうところに特徴があり、」(第1頁右欄第5〜9行)
(1c)「発明者はステンレス鋼がその切削時に工具に対し、大きな切削抵抗を与えることにより普通鋼切削には見られない該材料特有の切削熱の発生とチップすくい面上の切粉の激しい熔着およびクレータ摩耗に着目し、該材料にCa脱酸を適用することにより、チップの熔着およびクレータ摩耗などを著しく減ずることができたものである。
Ca脱酸快削ステンレス鋼の被削性に対する基本的な原理を説明すると例えばバイト切削加工の場合切粉がバイトすくい面上をすべり、切粉中のCaO、SiO2、Al2O3などの酸化物がすくい面に附着する。これらの酸化物が摩擦熱により半熔融状態になり、切粉とバイトチップの接触を防ぎ、いわゆる熔着を防止してクレータ摩耗を著しく減少させるものである。この場合CaOが含まれることにより、酸化物が熔融状態になるものであるが、Fe-Si脱酸ステンレス鋼では酸化物の熔融温度が高過ぎるためバイトすくい面上に熔着を防ぐ被膜が形成されないため、クレータ摩耗が著しく進行するものである。」(第1頁右欄第13〜33行)
(1d)「本発明による第2の快削ステンレス鋼は前述したような方法でCa合金を添加することにより脱酸したCa脱酸ステンレス鋼に対し、Pb、S、・・・、Sbなどの低融点合金元素を単独で0.05〜0.5% 2種以上の複合添加の場合0.05〜1.0%の範囲で添加したことを特徴としている。上記の低融点合金元素であるPb、S、・・・SbなどをCa脱酸ステンレス鋼に添加することによって生ずる効果は低速切削においてCaO、SiO2、Al2O3などの工具すくい面上における附着物が温度上昇不足のため溶融しないかわりに該低融点合金元素が溶融し、切粉と工具すくい面上の溶着を防止し、クレータ摩耗を減少させるものである。」(第2頁左欄第1〜15行)
(1e)「実施例3
マルテンサイト系ステンレス鋼からなる時計部品の巻真に対し、本発明によるCa脱酸ステンレス鋼を適用し、切削加工時におけるバイト寿命を調査した。・・・Ca脱酸ステンレス鋼の化学組成を第7表に示す。・・・本発明によるCa脱酸快削ステンレス鋼のバイト寿命は現流ステンレス鋼の約3倍と著しく向上している。」(第3頁右欄第23行〜第4頁左欄第3行)
(1f)第7表には、Ca脱酸ステンレス鋼の化学成分は、C:0.27%、Si:0.15%、Mn:0.9%、P:0.02%、S:0.19%、Cr:12.8%、Pb:0.13%である旨が記載されている。
(2)刊行物2:特開昭53-103917号公報(同甲第2号証)
(2a)「C 0.60〜0.80%、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr 9.0〜14.0%を基本成分組成として含有すると共に、Mo、Cu、Ni、Co、B、希土類元素、Ti、V、Zr、Nb、W、Ca、S、Pb、Te、Sb、Seのうちから選ばれる何れか1種または2種以上をMoにあっては2.0%以下;Cu、Ni、Coにあってはそれぞれ1.50%以下;Bにあっては0.050%以下;希土類元素にあってはこの群の中から選ばれる何れか1種または2種以上を1.0%以下;Ti、Zr、Nbにあってはそれぞれ0.50%以下;V、Wにあってはそれぞれ1.20%以下;Caにあっては0.010%以下;S、Sbにあってはそれぞれ0.10%以下;Pb、Seにあってはそれぞれ0.15%以下;・・・を含有し残部実質的にFeよりなる転動寿命特性の優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。」(特許請求の範囲第2項)
(2b)「Mo、Cu、Ni、Co、B、希土類元素はそれぞれ温間強度、耐酸化性を向上させる元素であり、またこれら元素中Mo、Cu、Niはさらに耐食性を向上させる元素であるが、Moにあっては2.0%;Cu、Ni、Coにあってはそれぞれ1.50%;・・・よりそれぞれ多くても前記温間強度および耐酸化性が特により良くなることもなく、かつ製造コスト的にも不利であるので、Moにあっては2.0%以下;Cu、Ni、Coにあってはそれぞれ1.50%以下;・・・にする必要がある。」(第4頁右上欄下から第2行〜左下欄第11行)
(2c)「Ca、S、Pb、Sb、Te、Seは微量の添加で被削性の向上に寄与させることのできる元素であるが、Caにあっては0.010%;S、Pb、Sbにあってはそれぞれ0.10%;Teにあっては0.08%;Seにあっては0.15%より多いと転動寿命特性が低下するため、Caにあっては0.010%以下;S、Pb、Sbにあってはそれぞれ0.10%以下;Teにあっては0.08%以下;Seにあっては0.15%以下にする必要がある。」(第4頁左下欄末行〜右下欄第8行)
(3)刊行物3:「PHASE EQUILIBRIA AMONG OXIDES IN STEELMAKING」(1965年発行)第95頁(同甲第3号証)
(3a)Fig.80のCaO-Al2O3-SiO2三元図には、ゲーレナイト(2CaO・Al2O3・SiO2)、擬ウォラストナイト(CaO・SiO2)、及び、アノルサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)は、その融点が、大略1200〜1500℃の範囲内にあり、CaO(融点 〜2570℃)、Al2O3(同 〜2020℃)、SiO2(同 1723℃)や、他の組成の酸化物に比べ、最も低いレベルであることが示されている。
(4)刊行物4:第118・119回西山記念技術講座「ステンレス鋼製造技術の最近の進歩」社団法人日本鉄鋼協会(昭和62年4月30日発行)第10〜13頁(同甲第4号証)
(4a)「図7に各元素の脱酸平衡値を示す。Al、Ti、Siの順に脱酸力が大きい。この中ではTiは他と比較して高価であり、Al、Siが使用できない場合にのみ限定される。ステンレス鋼精錬の脱酸レベルは脱酸元素の選択によって決まり、Ti脱酸で30〜50ppm、Si脱酸で40〜80ppmであり、・・・また到達[O]レベルは実際操業ではスラグ塩基度および鋼浴温度にもかなり影響される。」(第11頁第17行〜下から第5行)
(5)刊行物5:特公昭54-11245号公報(同甲第5号証)
(5a)「高い強度及び硝酸並びに硫酸における腐食と水素脆性とに対して良好な抵抗性の組み合わせを有する時効硬化可能な耐食性マルテンサイト・ステンレス鋼合金において、該ステンレス鋼合金は重量パーセントで
炭素 0.2以下
マンガン 3.5以下
珪素 2.5以下
燐 0.05以下
硫黄 0.5以下
セレン 0.5以下
クロム 13.5〜17
ニッケル 4〜9
モリブデン 0.5〜3
銅 0.75〜3
ニオブ 10×(炭素の重量パーセント)以下
チタン 5×(炭素の重量パーセント)以下
コバルト 6以下
硼素 0.01以下
ジルコニウム、バナジウム、タンタル 1以下
及び実質的に鉄と0.1以下の窒素を始めとする不可避な不純物との残部から成り、・・・耐食性マルテンサイト・ステンレス鋼合金。」(特許請求の範囲)
(5b)「炭素は約0.1%以上でなく、保持され、且つ約0.03%以上の量で存在するときは、重量パーセントでその重量の約10倍のニオブ又はその重量の約5倍に等しい量のチタンが伴われるべきである。上述の割合のニオブとチタンは炭素を安定化するように働くので、最早、オーステナイトを形成する効果はない。使用しうる他の炭素の安定剤は個々に又は合計して1%以下のジルコンバナジウム及びタンタルを含み、炭素含有量の5〜10倍使用される。」(第2頁右欄第31〜40行)
(6)先願:特願平4-295386号〔特開平6-145908号公報(同甲第6号証)参照〕
(6a)「Cr:10〜30%(重量%、以下同じ)を含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金に、Ca:10〜100ppmおよびAl:50〜150ppmを添加するとともにO含有量を50〜150ppmに規制し、原子比でCa/O≧0.5およびAl/O≧0.5の条件をみたすことによって、酸化物系介在物の少なくとも20%をゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2が占めるようにしたことを特徴とするカルシウム快削ステンレス鋼。」(特許請求の範囲の請求項1)
(6b)「本発明のカルシウム快削ステンレス鋼は、基本的には、Cr:10〜30%(重量%、以下同じ)を含有し残部がFeおよび不純物からなる合金に、Ca:10〜100ppm およびAl:50〜150ppmを添加するとともにO含有量を50〜150ppm に規制し、原子比でCa/O≧0.5およびAl/O≧0.5の条件をみたすことによって、酸化物系介在物の少なくとも20%をゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2が占めるようにしたことを特徴とする。この態様に含まれる鋼の基礎となる鋼種は、たとえばJISのSUS403,410,430等のマルテンサイト系、フェライト系のステンレス鋼である。」(段落【0005】〜【0006】)
(6c)「別の態様は、Cr:10〜30%およびNi:6〜20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金に、Ca:10〜100ppmおよびAl:50〜150ppmを添加するとともにO含有量を50〜150ppmに規制し、原子比でCa/O≧0.5およびAl/O≧0.5の条件をみたすことによって、酸化物系介在物の少なくとも20%をゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2が占めるようにしたことを特徴とする。この種の鋼の基礎の例には、JISのSUS201,304,303等のオーステナイト系ステンレス鋼がある。」(段落【0007】〜【0008】)
(6d)「Caの添加によりゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2を生成させるためには、前記したように、Ca:10〜100ppmおよびAl:50〜150ppmを添加し、かつ不純物中のO含有量を50〜150ppmに規制し、かつCa/O≧0.5およびAl/O≧0.5の条件をみたす必要がある。この理由は、図1に示すように、ゲーレナイトの生成が、Ca/OおよびAl/Oがともに0.5より大きい領域に存在するからである。さらに、図1に示した2本の直線にはさまれた領域内に入ること、すなわち
0.7(Al/O)≦(Ca/O)≦1.5(Al/O)+0.25
の条件がみたされれば、Caを含む酸化物系介在物の大部分がゲーレナイトとして存在して好ましいが、酸化物系介在物の20%以上をゲーレナイトが占めていれば、所期の工具潤滑作用が得られる。」(段落【0012】)
(6e)「AOD法によりSUS304を溶製した。脱炭およびクロム還元ののちスラグを除去し、改めてC/S=3.0の強塩基性スラグを用いてスラグ脱酸を行なった。次に、とりべに出鋼時にAl添加、続いてCa添加を行なって、成分を調整した。・・・比較のため、SUS304にAlだけ添加したもの、およびCaだけ添加したものも溶製した。合計5種の試料において、酸化物系介在物に関係する成分の含有量(ppm)は、表1に示すとおりである。
表 1
区 分 No. Ca Al O
実施例 1 59 82 72
〃 2 68 91 89
〃 3 66 103 101
比較例 4 36 19 129
〃 5 5 <20 115 」(段落【0015】〜【0017】)

5.当審の判断
5-1.取消理由1について
(1)本件発明1について
刊行物1の上記(1a)の第1項には、「5〜25重量%Crを含有するCr鋼および9〜30重量%Cr、3〜64重量%Niを含有するCr-Ni鋼の熔製中の脱酸の時点でCa脱酸を行ない、Caを0.01%未満含有せしめたことを特徴とする時計部品用快削ステンレス鋼。」と記載され、また、Ca脱酸快削ステンレス鋼の「被削性に対する基本的な原理」について、上記(1c)には、「バイト切削加工の場合切粉がバイトすくい面上をすべり、切粉中のCaO、SiO2、Al2O3などの酸化物がすくい面に附着する。これらの酸化物が摩擦熱により半熔融状態になり、切粉とバイトチップの接触を防ぎ、いわゆる熔着を防止してクレータ摩耗を著しく減少させるものである。」と記載されているから、上記時計部品用Ca脱酸快削ステンレス鋼は、5〜25重量%のCr等や0.01%未満のCaだけでなく、CaO、SiO2、Al2O3などの酸化物系介在物、及び、酸素をも含むと云える。さらに、上記(1e)には、該Ca脱酸快削ステンレス鋼の実施例について、「マルテンサイト系ステンレス鋼からなる時計部品の巻真に対し、本発明によるCa脱酸ステンレス鋼を適用し、切削加工時におけるバイト寿命を調査した。・・・Ca脱酸ステンレス鋼の化学組成を第7表に示す。・・・本発明によるCa脱酸快削ステンレス鋼のバイト寿命は現流ステンレス鋼の約3倍と著しく向上している。」と記載され、上記(1f)には、その実施例におけるCa脱酸ステンレス鋼の化学成分について、「C:0.27%、Si:0.15%、Mn:0.9%、P:0.02%、S:0.19%、Cr:12.8%、Pb:0.13%」である旨が記載されているから、これらの記載を本件発明1の表現ぶりに則って整理すると、刊行物1には、
「重量組成で、炭素 0.27%、珪素 0.15%、マンガン 0.9%、隣 0.02%、クロム 12.8%、硫黄 0.19%、カルシウム 0.01%未満(100×10-4%未満)、鉛 0.13%、酸素、残部鉄およびCaO、SiO2、Al2O3などの酸化物系介在物からなる切削加工性を改良したマルテンサイト系ステンレス鋼」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。

本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者は、
「重量組成で、炭素 0.27%、珪素 0.15%、マンガン 0.9%、クロム 12.8%、硫黄 0.19%、カルシウム、酸素、残部鉄および介在物からなる切削加工性を改良したマルテンサイト系ステンレス鋼」である点で一致するが、次の点で相違する。
相違点1:
本件発明1は、隣を含むことについて規定していないのに対し、刊行物1発明は、隣を0.02%含む点。
相違点2:
本件発明1は、鉛を含むことについて規定していないのに対し、刊行物1発明は、鉛を0.13%含む点。
相違点3:
本件発明1は、カルシウムを32×10-4%以上、酸素を70×10-4%以上含有し、カルシウムと酸素の含有比Ca/Oが 0.2≦Ca/O≦0.6であり、介在物が、ゲーレナイト(gehlenite)型および/または擬ウォラストナイト(pseudowollastonite)型および/またはアノルサイト(anorthite)型のカルシウムアルミニウムシリケートであるのに対し、刊行物1発明は、カルシウムを100×10-4%未満含有するが、酸素の含有量及びカルシウムと酸素の含有比Ca/Oが明瞭でなく、介在物が、ゲーレナイト(gehlenite)型および/または擬ウォラストナイト(pseudowollastonite)型および/またはアノルサイト(anorthite)型のカルシウムアルミニウムシリケートであるか否かも明瞭でない点。

以下、これらの相違点について検討する。
相違点1について
マルテンサイト系ステンレス鋼は、通常、0.04%未満の燐を不純物として含むものであるし(特許異議申立人が甲第7号証として提出した「JIS G4303」第4頁の表5など参照)、また、本件発明の実施例においても燐を0.022%含有する旨が記載されているから(段落【0026】の表1参照)、この相違点1は、実質的な相違とは云えない。
相違点2について
刊行物1発明は、鉛等の低融点合金元素を含まないCa脱酸快削ステンレス鋼を前提とし、温度上昇不足となる低速切削の場合の被削性を改善するために低融点合金元素である鉛を添加したものと認められるところ(上記(1a)(1d)参照)、高速切削の方が低速切削より切削効率の点で望ましいことは明らかであるから、刊行物1発明において、鉛の添加を省略することは、低速切削の必要性がなく、切削効率の良い高速切削のみを行う場合などにおいて、当業者が容易に想到し得たことと云うべきである。
相違点3について
本件発明1は、「マルテンサイト組成物に可鍛性(malleable) 酸化物を導入することによって、所定の酸化物すなわち図1の三元図で示されるアノルサイト型および/または擬ウォラストナイト型および/またはゲーレナイト型の石灰シリコアルミナート(・・・) が、熱処理後も機械的特性を低下させずにマルテンサイト鋼の主要特徴を保持し、しかも、加工性が大幅に向上するということが分かった。」(段落【0016】)、「マルテンサイト鋼を切削加工した場合には上記の可鍛性酸化物は鋼の切削加工の温度で十分に加熱されて潤滑膜を形成し、この潤滑膜は金属中に存在する酸化物介在物によって連続的に再生産されるということ、そして、この潤滑膜によって工具上での鋼材料の摩擦が低下するので、鋼材料の硬度が高いことに起因する高負荷が軽減されるということが分かった。」(段落【0020】)等の知見を基礎として、前記相違点3の構成要件を採用したものと認められる。すなわち、本件発明1は、図1のCaO-Al2O3-SiO23元図において示される酸化物系介在物を、個々の酸化物CaO、Al2O3、SiO2より融点の低いアノルサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)および/または擬ウォラストナイト(CaO・SiO2)および/またはゲーレナイト(2CaO・Al2O3・SiO2)で示される組成の可鍛性酸化物とすることにより、その可鍛性酸化物が鋼の切削加工の温度で十分に加熱されて潤滑膜を形成し、被削性を改善するものであり、カルシウム含有量、酸素含有量、及び、カルシウムと酸素の含有比は、そのような組成の可鍛性酸化物を形成するために前示の範囲に規定されたものと認められる。
これに対し、刊行物1発明のCa脱酸快削ステンレス鋼の「被削性に対する基本的な原理」は、上記(1c)に記載されたとおり、「バイト切削加工の場合切粉がバイトすくい面上をすべり、切粉中のCaO、SiO2、Al2O3などの酸化物がすくい面に附着する。これらの酸化物が摩擦熱により半熔融状態になり、切粉とバイトチップの接触を防ぎ、いわゆる熔着を防止してクレータ摩耗を著しく減少させる」、「Fe-Si脱酸ステンレス鋼では酸化物の熔融温度が高すぎるためバイトすくい面上に熔着を防ぐ被膜が形成されないため、クレータ摩耗が著しく進行する」が、Ca脱酸ステンレス鋼では、「CaOが含まれることにより、酸化物が熔融状態になる」というものである。
してみると、本件発明1と刊行物1発明は、「酸化物系介在物の組成を、個々の酸化物であるCaO、Al2O3、SiO2や、CaOを含まない組成の酸化物より融点の低い(CaO、Al2O3、SiO2)の介在物組成とすることにより、その酸化物系介在物が鋼の切削加工の温度で十分に加熱されて切粉とバイトチップの接触を防ぐ被膜(すなわち、潤滑膜)を形成し、被削性を改善する」ものである点で共通すると云える。そして、刊行物3に記載されたFig.80のCaO-Al2O3-SiO2三元図には、ゲーレナイト(2CaO・Al2O3・SiO2)、擬ウォラストナイト(CaO・SiO2)、及び、アノルサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)は、その融点が、大略1200〜1500℃の範囲内にあり、CaO(融点 〜2570℃)、Al2O3(同 〜2020℃)、SiO2(同 1723℃)や、他の組成の酸化物に比べ、最も低いレベルであることが示されていることを併せ考慮すると、本件発明1と刊行物1発明とは、「介在物が、ゲーレナイト(gehlenite)型および/または擬ウォラストナイト(pseudowollastonite)型および/またはアノルサイト(anorthite)型のカルシウムアルミニウムシリケートである」点で格別に相違しないか、仮に、相違するとしても、そのような融点の低い介在物組成とすることは、刊行物1の「被削性に対する基本的な原理」についての前記記載、及び、刊行物3の前記記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。
そして、本件発明1における、カルシウム含有量、酸素含有量、及び、カルシウムと酸素の含有比は、前述したように、そのような融点の低い介在物組成を形成するために前示の範囲に規定されたものと認められるところ、刊行物1発明も、そのような融点の低い酸化物系介在物を形成するため、Ca脱酸によりカルシウム乃至CaOを導入していると云える。また、刊行物1発明は、カルシウムの含有量が100×10-4%未満で、本件発明1のものと重複しているし、さらに、刊行物4の上記(4a)には、脱酸されたステンレス鋼の酸素含有量が本件発明1で規定されたと同程度であることが示されていることを併せ考慮すると、本件発明1と刊行物1発明は、カルシウム含有量、酸素含有量、及び、カルシウムと酸素の含有比の点でも格別に相違しないものと認められる。
してみると、前記相違点3は、実質的な相違でないか、または、相違が存在するとしても、当業者が容易に想到し得た程度のものと云うべきである。
以上の相違点1〜3についての検討からみて、本件発明1は、刊行物1、3、4に記載された発明及に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、「硫黄の含有量が0.035%以下である」ことを限定したものである。
しかしながら、マルテンサイト系ステンレス鋼において、耐食性を向上するために硫黄の含有量を低減することは、本件特許の出願前において周知のことであるし、また、硫黄含有量を0.030%以下に規制することは、通常のことである(前記甲第7号証の表5下部の注参照)。さらに、刊行物1発明は、硫黄等の低融点合金元素を含まないCa脱酸快削ステンレス鋼を前提とし、温度上昇不足となる低速切削の場合の被削性を改善するために低融点合金元素である硫黄を添加したものと認められるところ(上記(1a)(1d)参照)、高速切削の方が低速切削より切削効率の点で望ましいことは明らかである。してみれば、刊行物1発明において、硫黄の添加を省略乃至含有量を低減し、不純物レベルの「0.030%以下」とすることは、低速切削の必要性がなく、切削効率の良い高速切削のみを行う場合や、耐食性の向上を課題として、当業者が容易に想到し得たことと云うべきである。
したがって、本件発明2は、刊行物1、3、4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに、「硫黄の含有量が0.15%≦S≦0.45%で、上記鋼が硫黄添加されてたもの(resulphurized)である」ことを限定したものである。
しかしながら、刊行物1発明は、硫黄の含有量が「0.19%」であり、また、上記(1d)の記載からみて、硫黄は添加されたものと云えるから、「硫黄添加されてたもの(resulphurized)である」点でも本件発明3と差異が存在するとは云えない。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同様に、刊行物1、3、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1乃至3を引用し、さらに、「ニッケルを6%未満の割合で含む」ことを限定したものである。
しかしながら、刊行物1に記載されたものは、ニッケルを3〜64重量%の割合で含むものをも対象としているし(上記(1a)参照)、また、マルテンサイト系ステンレス鋼は、通常、0.60%以下のニッケル含有を許容しているから(前記甲第7号証の表5下部の注参照)、刊行物1発明のマルテンサイト系ステンレス鋼において、3〜6%未満乃至0.6%以下のニッケルを含有させることは、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。
したがって、本件発明4は、本件発明1乃至3と同様に、刊行物1、3、4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1乃至4を引用し、さらに、「モリブデンを3%以下の割合で含む」ことを限定したものである。
しかしながら、刊行物2には、マルテンサイト系ステンレス鋼において、温間強度、耐酸化性、耐食性を向上するために、モリブデンを2.0%以下含有させることが記載されているし(上記(2b)参照)、また、マルテンサイト系のステンレス鋼は、0.30〜0.60%程度のMoを含有し得るから(前記甲第7号証の表5参照)、刊行物1発明のマルテンサイト系ステンレス鋼において、モリブデンを2.0%以下の範囲内の量を含有させることは、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。
したがって、本件発明5は、刊行物1〜4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(6)本件発明6は、本件発明1乃至3を引用し、さらに、タングステン、コバルト、ニオブ、チタン、タンタル、ジルコニウムおよびバナジウムよりなる群の中から選択される元素を所定の規定量含有することを限定したものである。
しかしながら、刊行物5の上記(5a)(5b)には、マルテンサイト系ステンレス鋼において、オーステナイト形成元素である炭素の安定剤として、炭素含有量に対し、約10倍のニオブ、約5倍のチタン、5〜10倍のジルコニウム、バナジウム、タンタルを含有させることが記載されているから、刊行物1発明において、1%以下のニオブ、1%以下のチタン、1%以下のジルコニウム、1%以下のバナジウム、1%以下のタンタルの中から選択される元素をさらに含有するよう構成することは、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。
したがって、本件発明6は、刊行物1、3〜5に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(7)本件発明7は、本件発明6を引用し、「ニッケルを2%≦Ni<6%の比率で含み、銅を1%≦Cu≦5%の比率で含む」ことを限定したものである。
しかしながら、前記(4)で述べたように、刊行物1発明のマルテンサイト系ステンレス鋼において、3〜6%未満のニッケルを含有させることは、当業者が容易に想到し得たものと云える。また、刊行物2には、マルテンサイト系ステンレス鋼において、温間強度、耐酸化性、耐食性を向上するために、銅を1.50%以下含有させることが記載されているから(上記(2b)参照)、刊行物1発明のマルテンサイト系ステンレス鋼において、前記ニッケルと共に、銅を1〜1.50%の範囲内の量を含有させることは、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。
したがって、本件発明7は、刊行物1〜5に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。
(8)取消理由1のまとめ
上記(1)〜(7)のとおり、本件発明1乃至7は、刊行物1〜5に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

5-2.取消理由2について
(1)本件発明1について
先願明細書の上記(6a)には、「Cr:10〜30%(重量%、以下同じ)を含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金に、Ca:10〜100ppmおよびAl:50〜150ppmを添加するとともにO含有量を50〜150ppmに規制し、原子比でCa/O≧0.5およびAl/O≧0.5の条件をみたすことによって、酸化物系介在物の少なくとも20%をゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2が占めるようにしたことを特徴とするカルシウム快削ステンレス鋼。」が記載されている。そして、この記載における「原子比」は、上記(6e)の表1における実施例1、比較例等の記載からみて、「重量比」の誤記と認められる。また、Cr、Fe及び不純物のみからなるステンレス鋼は、実際上存在しないし、上記(6b)には、「この態様に含まれる鋼の基礎となる鋼種は、たとえばJISのSUS403,410,430等のマルテンサイト系、フェライト系のステンレス鋼である。」と記載されているから、前記「カルシウム快削ステンレス鋼」が、マルテンサイト系のJIS SUS403を基礎の鋼種とする場合には、JISのSUS403と同様、「0.15%以下のC、0.50%以下のSi、1.00%以下のMn、0.040%以下のP、0.030%以下のS、11.50〜13.00のCr」(特許異議申立人提出の甲第7号証の表5のマルテンサイト系の化学成分参照)を含むものと認められる。そこで、これらを考慮し、本件発明1の表現ぶりに則って整理すると、先願明細書には、
「重量組成で、炭素 0.15%以下、珪素 0.50%以下、マンガン 1.00%以下、クロム 11.50〜13.00%、燐 0.040%以下、硫黄 0.030%以下、カルシウム 10〜100×10-4%、酸素 50〜150×10-4%、カルシウムと酸素の含有比Ca/Oは、Ca/O≧0.5、残部鉄および少なくとも20%をゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2が占める酸化物系介在物からなるカルシウム快削マルテンサイト系ステンレス鋼」という発明(以下、「先願発明」という)が記載されていると云える。
本件発明1と先願発明とを対比すると、先願発明における燐は不純物と云えるし、また、両者は、炭素、珪素、マンガン、クロム、硫黄、カルシウム、酸素の含有量、及び、カルシウムと酸素の含有比Ca/Oにおいて重複するし、さらに、両者は、介在物の全てがゲーレナイト(gehlenite)型である場合も包含するから、両者は、同一と云うべきである。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、「硫黄の含有量が0.035%以下である」ことを限定したものであるが、先願発明は、硫黄の含有量が「0.030%以下」であるから、本件発明2は、本件発明1と同様に、先願発明と同一と云うべきである。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに、「硫黄の含有量が0.15%≦S≦0.45%で、上記鋼が硫黄添加されてたもの(resulphurized)である」ことを限定したものである。
しかしながら、マルテンサイト系のステンレス鋼は、0.15%以上の硫黄を含有し得るし(前記甲第7号証の表5参照)、また、硫黄の含有量が同じであれば、「硫黄添加されてたもの(resulphurized)である」か否かによって、「ステンレス鋼」自体が格別に異なるとは認められないから、本件発明3は、本件発明1と同様に、先願発明と同一と云うべきである。
(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1乃至3を引用し、さらに、「ニッケルを6%未満の割合で含む」ことを限定したものであるが、前記SUS403は、0.60%以下のNiを含有し得るから(前記甲第7号証の表5下部の注参照)、本件発明4は、本件発明1乃至3と同様に、先願発明と同一と云うべきである。
(5)本件発明5について
本件発明4は、本件発明1乃至4を引用し、さらに、「モリブデンを3%以下の割合で含む」ことを限定したものであるが、マルテンサイト系のステンレス鋼は、0.30〜0.60%程度のモリブデンを含有し得るから(前記甲第7号証の表5参照)、本件発明5は、本件発明1乃至4と同様に、先願発明と同一と云うべきである。
(6)取消理由2のまとめ
上記(1)〜(5)のとおりであり、本件発明1乃至5は、先願発明と同一と云うべきである。しかも、本件発明1乃至5の発明者が上記先願に係る発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願の時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないから、本件発明1乃至5に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

5-3.取消理由3について
本件発明1、及び、本件発明1を直接的乃至間接的に引用して記載された本件発明2〜7は、カルシウムを32×10-4%以上含有することを構成要件としているにも拘わらず、発明の詳細な説明の段落【0025】〜【0032】には、その構成要件から逸脱する「Ca 30×10-4%」を含有する鋼Aを実施例とし、該鋼Aは良好に切削されるという本件発明1乃至7の効果を奏した旨が記載されている。そして、このような特許請求の範囲と整合していない発明の詳細な説明の記載では、当業者は、良好な切削を行うためのカルシウムの含有範囲などの構成要件を正確に理解することができないから、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に本件発明1乃至7の実施をすることができる程度に、その目的、構成、効果が記載されているとは云えないと云うべきである。
したがって、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであると云うべきである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至7に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-01-31 
出願番号 特願平6-155171
審決分類 P 1 651・ 531- Z (C22C)
P 1 651・ 121- Z (C22C)
P 1 651・ 16- Z (C22C)
最終処分 取消  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
平塚 義三
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3398772号(P3398772)
権利者 ユージヌ-サボワ イムフィ
発明の名称 切削加工性を改良したマルテンサイト系ステンレス鋼  
代理人 越場 隆  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ