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審決分類 審判 訂正 判示事項別分類コード:83 訂正する H01R
管理番号 1119974
審判番号 訂正2005-39049  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-02-14 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-03-17 
確定日 2005-06-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3277761号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3277761号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の経緯及び要旨
本件審判の請求は、本件特許に係る異議申立事件(異議2002-72612号事件)の異議決定に対する訴えの提起があった平成16年12月27日から起算して90日の期間内である平成17年3月17日に請求されたものであって、その請求の要旨は、特許第3277761号発明(平成7年7月31日特許出願、平成14年2月15日設定登録)の明細書及び図面を、審判請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおりに訂正することを求めるものである。

(1)訂正の内容
本件審判請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(イ)訂正事項a:特許請求の範囲の減縮に関する訂正事項
特許請求の範囲の減縮を目的として以下の訂正をする。
a-1.特許請求の範囲の請求項1について
特許請求の範囲の請求項1に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

a-2.特許請求の範囲の請求項2について
特許請求の範囲の請求項2に記載された「ポリブロモジフェニルエーテルを除く難燃剤」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤」と訂正する。

a-3.特許請求の範囲の請求項3について
特許請求の範囲の請求項3に記載された「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる1種もしくは複数種の混合物」を、
「エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤」と訂正する。

a-4.特許請求の範囲の請求項5について
特許請求の範囲の請求項5に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

(ロ)訂正事項b:明りょうでない記載の釈明に関する訂正事項
訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の整合を取るため、明りょうでない記載の釈明を目的として以下の訂正をする。
b-1.明細書、段落番号【0013】 第3行ないし第5行、同段落番号【0019】 第4行ないし第6行、同段落番号【0073】 第2行ないし第3行に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-2.明細書、段落番号【0014】 第1行ないし第2行、同段落番号【0033】第2行ないし第3行に記載された「熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-3.明細書、段落番号【0014】 第4行に記載された「この樹脂組成物の架橋体」を、
「このエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-4.明細書、段落番号【0021】 第1行ないし第2行に記載された「このような熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物」を、
「このようなエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-5.明細書、段落番号【0027】 第1行に記載された「これらの方法のいずれでも構わないが、」を、「しかし、」と訂正する。

b-6.明細書、段落番号【0035】 第1行ないし第2行に記載された「第1実施例乃至第4実施例」を、「第1実施例乃至第3実施例および比較例」と訂正する。

b-7.明細書、段落番号【0038】第1行ないし第2行に記載された「第1乃至第4実施例、及び後述する各比較例」を、「各実施例および各比較例」と訂正する。

b-8.明細書、段落番号【0040】 【表1】に記載された「実施例4」を「比較例5」と訂正する。

b-9.明細書、段落番号【0052】 第1行に記載された「第4実施例」を「比較例5」と訂正する。

b-10.明細書、段落番号【0056】 第1行ないし第2行に記載された「第1乃至第4実施例の優秀性を明確にするために、第1乃至第4比較例を示しておく」を、「実施例の優秀性を明確にするために、さらに第1乃至第4比較例を示しておく」と訂正する。

b-11.明細書、段落番号【0071】第1行に記載された「第4実施例」を「第5比較例」と訂正する。

2.当審の判断
2-1.訂正の目的等の適否(第126条第1項ただし書き(減縮、誤記訂正、明りょうでない記載の釈明)、同条第3項(新規事項)、同条第4項(拡張、変更でない))について

(1)訂正事項aについて
(イ)訂正事項a-1は、訂正前の請求項1に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマ」を「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマ」と限定するとともに、当該エラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体を「電離性放射線によって架橋した架橋体」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するといえる。
また、上記限定事項の内の難燃剤に関する事項は、特許明細書の【発明の詳細な説明】の項における【発明の実施の形態】の段落番号【0023】及び【0033】に記載されていたものであり、同上限定事項の内の架橋に関する事項は、同上【発明の詳細な説明】の段落番号【0025】、【0027】、【0039】、【0046】及び【0049】に記載されていたものである。

(ロ)訂正事項a-2は、訂正前の請求項2に記載された「ポリプロモジフェニルエーテルを除く難燃剤」を、当該ポリプロモジフェニルエーテルを除く難燃剤の内の「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するといえる。
また、上記限定事項は、特許明細書の【発明の詳細な説明】の項における【発明の実施の形態】の段落番号【0023】及び【0033】に記載されていたものである。

(ハ)訂正事項a-3は、訂正前の請求項3に記載された「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる1種もしくは複数種の混合物」を、その内の有機系難燃剤である「エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するといえる。
また、上記限定事項は、特許明細書の【発明の詳細な説明】の項の段落番号【0033】、【0037】、【0046】及び【0049】に記載されていたものである。

(ニ)訂正事項a-4は、訂正前の請求項5に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマ」を「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマ」と限定するとともに、当該エラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体を「電離性放射線によって架橋した架橋体」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するといえる。
また、上記限定事項の内の難燃剤に関する事項は、特許明細書の【発明の詳細な説明】の項における【発明の実施の形態】の段落番号【0023】及び【0033】に記載されていたものであり、同上限定事項の内の架橋に関する事項は、同上【発明の詳細な説明】の段落番号【0025】、【0027】、【0039】、【0046】及び【0049】に記載されていたものである。

(ホ)まとめ
以上のとおり、訂正事項a-1ないしa-4は、いずれも特許明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものといえる。

(2)訂正事項bについて
訂正事項b-1ないしb-11は、いずれも、訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、訂正事項aについて上記したとおり、いずれも特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であるといえる。

(3)訂正事項a及びbは実質上特許請求の範囲を変更するものといえるか否か
上記(1)及び(2)で検討したとおり、訂正事項a及びbは、いずれも特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であって、特許明細書の発明の詳細な説明における「発明が解決しようとする課題」及び発明の「効果」の項の記載内容を変更するものでないことも明らかである(ちなみに、後述する丙第1号証は本件発明の実施例の効果を特許明細書に記載されていなかった他の実験例を加えて説明するものであるが、これによって、その記載内容に関して何ら変更のないところの上記本件発明の実施例の構成により奏される効果が実質的に変更されるものでないことも明らかである)。
そして、上述したように、訂正事項a-1は、訂正前の請求項1に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマ」を「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマ」と限定するとともに、当該エラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体を「電離性放射線によって架橋した架橋体」と限定することにより特許請求の範囲の減縮したものであり、また、訂正事項bにより、当該訂正内容に整合させるために発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項の記載を訂正し、同上発明の詳細な説明の「発明の実施の形態」の項に記載されたところのその架橋方法として「いずれでも構わない」とする当初よりその実施例の記載内容と整合していなかった記載を削除するとともに、同上発明の詳細な説明の「実施例」の項に記載されたところの上記訂正事項a-1によって新たに除外されることとなった難燃剤を用いた「第4実施例」を比較例と変更するように訂正したものである。
すなわち、訂正事項a及びbは、特許請求の範囲に記載された発明を減縮し、これに合わせて、訂正前の特許明細書に記載されていた発明の実施例の内から一部の実施例を除外するように訂正したものということができる。
そうすると、上記減縮された訂正後の特許請求の範囲に記載された発明は、訂正前の特許請求の範囲にも記載されていた発明であるといえるし、かつまた、訂正の前後においてその「発明が解決しようとする課題」や「効果」も(上位概念的なものではあるものの)何ら変更されていないといえるのであるから、訂正後の実施例に相当するものが訂正前の実施例に相当するものと比較してより具体的ないし下位概念的な効果において、いいかえれば実施例レベルの効果において異なる部分が存在するとしても、単にこのような異なる部分があるという理由のみによって、訂正事項a及びbが実質上特許請求の範囲を変更するものということはできない(ちなみに、特許請求の範囲を減縮する場合には、当該減縮された点により、訂正の前後において発明の奏するところのより具体的ないし下位概念的な効果において異なる部分が生じることは当然のことである)。

2-2.独立特許要件(第126条第5項)について
(1)訂正後の発明
訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下順に、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

(本件発明1)
「本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、ハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続構造において、
ハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成され、ケーブルのシース材は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体であり、このシース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明2)
「前記シース材の難燃化は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤によってなされる請求項1に記載のハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明3)
「前記難燃剤は、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤である請求項2に記載のハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明4)
「前記熱可塑性ポリエステルエラストマの非晶性ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコールである請求項1乃至3のいずれかに記載のハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明5)
「本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、
ケーブルのシース材は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体であって、
ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によってハウジングを形成するとともに、その溶融成形時にハウジングと前記シース材を接着させてハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続方法。」

(2)本件特許に係る異議決定の取消理由の概要
本件特許に係る異議申立事件(異議2002-72612号事件)における異議決定の取消理由は、訂正前の本件の請求項1〜5に係る発明が、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきであるというものである。

刊行物1:特開平4-359156号公報(周知例)
刊行物2:特開平6-107919号公報(異議申立人の提示した甲第1号証である。)
刊行物3:特開平4-119810号公報(異議申立人の提示した甲第2号証である。)

(3)刊行物に記載された発明
(i)刊行物1
上記刊行物1には、図面の図1〜3とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「この発明は、主として自動車の車輪の回転速度を検出するのに用いる回転センサに関する。」(公報第2頁第1欄の段落【0001】参照)
(ロ)「このセンサは、ベアリングカバーの開口部(口元部)外周に鍔を設けてこの鍔を樹脂モールド体内に埋込んだり、センサ素子部の少なくとも外層部を樹脂又は金属ケースで構成してその外周に上記樹脂モールド体を設けたり、或いは、樹脂モールド体に信号線接続用のコネクタを一体に形成すると信頼性、取扱い性等の面で更に望ましいものになる。」(公報第2頁第2欄の段落【0007】参照)
(ハ)「図1にこの発明の一実施例を示す。回転センサ1は、センサ素子部2の内部にポールピース3、永久磁石4、コイル5を含み、これ等が車輪の回転軸〔図はハブ(図示せず)と一体化したスピンドル25〕と共に回転するセンシングロータ21によって誘起される電圧信号を発生する。そして、その信号がリード線6を経由して端子7に導かれる。…(中略)… また、センサ素子部2の外周部は、センサ素子の構成要素即ち、前述のポールピース3、永久磁石4、コイル5を保護・固定する第1の樹脂9に覆われている。さらに、ベアリングカバー8の開口部には開口封止用の端板ともなる熱可塑性樹脂のモールド体10を設け、このモールド体でセンサ素子部2の外周も完全に覆ってカバー8とセンサ素子部2を一体に結合してある。」(公報第2頁第2欄の段落【0010】〜【0011】参照)
(ニ)「次に、以上の如く構成される回転センサ1は、以下の手順で容易に作れる。…(中略)… 先ず、センサ素子部2を構成する3、4、5の各部品を組み立て、リード線6の接続後に第1の樹脂9で各部品を封止固定する。この後、センサ素子部2とベアリングカバー8をモールド体10の成形金型内に位置決めしてセットし、モールド体となる樹脂を金型に流し入れる。…(中略)… 図2は、この発明の他の実施例である。この回転センサ11は、センサハウジング12を有し、その内部に組込むセンサ素子を、磁気抵抗素子13と永久磁石14で構成した点、素子の発生信号をリード線6を経由してハーネス15で外部に導出するようにした点、ハーネスカバー16も樹脂モールド体10によって一体化した点、及び第1の樹脂9としてシリコンゴムを用いた点が前述の第1実施例と相違するが、作用、効果は、第1実施例と殆ど変わるところがない。」
(ホ)「この発明の回転センサは、センサ素子とベアリングカバーを樹脂モールド体を介して一体化し、この樹脂モールド体によって同時にベアリングカバーの一端の開口を封止するので、製造、組立てが容易になり、耐水性、耐振性等に関する信頼性も向上する。」(公報第3頁第4欄の段落【0019】参照)

上記記載事項(イ)ないし(ホ)並びにその図面に示された内容を総合すると、
上記刊行物1には、次の発明(以下、「従来発明」という。)が記載されているといえる。
(従来発明)
「センサ素子部2を構成する各部品を組み立て、さらに、ハーネス15で外部に導出するようにしたリード線6を接続した後に、該センサ素子部2の外周部を、第1の樹脂9で覆って各部品を封止固定した後、センサ素子部2をモールド体10の成形金型内に位置決めしてセットし、モールド体となる樹脂を金型に流し入れることにより、ハーネスカバー16も樹脂モールド体10によって一体化した構造体。」

(ii)刊行物2
また、上記刊行物2には、次の事項が記載されている。
(イ)「本発明は、製品表面に組成物構成成分のブリードの問題のない耐熱性に優れた難燃性ポリエステルエラストマー組成物およびそれからの成形品、特にチューブ、熱収縮チューブ、絶縁ケーブルに関するものである。」(公報第2頁第2欄の段落【0001】参照)
(ロ)「ポリエステルエラストマーは、引張、衝撃、圧縮等の機械的強度に優れ、また、耐熱性や耐油性等に優れた材料であることから、自動車に用いられる油圧ホース、ジョイントブーツ、空気バネ、ハーネス保護用チューブなどの材料として、あるいは熱収縮ーブなど電子機器の各種の電子部品の構成材料や絶縁ケーブルの外被材料として実用されている。 ポリエステルエラストマーは代表的には結晶性(ハード)セグメントと非晶性(ソフト)セグメントからなるブロック共重合体であって、結晶性セグメントはポリブチレンテレフタレートであるものが多く、非晶性セグメントにポリエーテルを使用したいわゆるポリエーテルタイプと脂肪族ポリエステルを用いたいわゆるポリエステルタイプの2つの種類がある。 ポリエステルエラストマーは、…(中略)…多官能性モノマーを配合して成形し、加速電子線等の電離放射線照射を施して架橋すれば、融点以上に加熱されても溶融変形することのない、耐熱性ポリエステルエラストマー成形品を得ることもできる。」(公報第2頁第1欄の段落【0002】〜【0004】参照)
(ハ)「ところが、ポリエステルエラストマーはそれ自身は難燃性ではないために、難燃性が要求される用途においては、必要に応じて難燃剤が配合されて使用される。…(中略)… 自動車のハーネス保護用チューブなど水平難燃性が要求される用途にも適用し得る難燃性のポリエステルエラストマー組成物を得ることができる。…(中略)… ポリブロモジフェニルエーテル以外の難燃剤、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体やビス臭素化フェニルテレフタルアミド、臭素化ビスフェノール誘導体などの有機系の臭素含有難燃剤、パークロロペンタシクロデカン等の塩素含有難燃剤を使用してポリエステルエラストマーを難燃化する方法も知られている。」(公報第2頁第2欄の段落【0005】〜第3頁第3欄【0008】参照)
(ニ)「本発明者はかかる問題について鋭意検討した結果、ポリエステルエラストマーの難燃剤として、ポリブロモジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド誘導体、臭素化ビスフェノール誘導体、他の有機系の臭素含有難燃剤やパークロロペンタシクロデカン等の塩素含有難燃剤を使用して難燃化した場合においても、カルボジイミド誘導体を配合すれば耐熱老化性が低下する問題を解決できることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させるに至った。」(公報第3頁第3欄の段落【0010】参照)
(ホ)「ポリエステルエラストマーを製造するには、一般に、所望のエラストマー性を附与するように、上記結晶性セグメントと非晶性セグメントとを所望の割合でマルチブロック共重合化できればよく、通常芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および(又は)、脂環族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はその低級アルキルエステル成分(イ)とエチレングリコール、プロピングリコールなどの低分子量グリコール(ロ)および(又は)ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール(ハ)とを、上記のような結晶性セグメントと非晶性セグメントからなるポリエステルエラストマーを形成できる組合せで、常法に従って(エステル交換法、エステル化法、重縮合法など)重縮合触媒の存在下で処理することによりポリエステルエラストマーを得ることができる。」(公報第4頁第5欄の段落【0019】参照)
(ヘ)「具体的には、本発明のポリエステルエラストマー組成物は、公知成形手段例えば押出被覆、押出成形、射出成形、プレス成形などの手段により各種成形品、例えばチューブ、熱収縮チューブ、絶縁ケーブルなどにする。 本発明の場合、得られたポリエステルエラストマー成形品は、耐熱性、耐薬品性などを向上させるために、その後公知の電離性放射線(電子線など)の照射により架橋して、架橋成形品にする。」(公報第4頁第6欄の段落【0026】参照)

(iii)刊行物3
さらに、上記刊行物3には、次の事項が記載されている。
(イ)「ポリアルキレンテレフタレート(アルキレン基の炭素数2〜4)を主体とする樹脂材料(A)と、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主体とする樹脂材料(B)とが二重成形又は二色成形法により一体的に成形されてなる剛性の高い部分と柔軟な部分とを有する複合成形品。」(公報第1頁左下欄の特許請求の範囲の請求項1参照)
(ロ)「本発明は、剛性の高い部分と柔軟な部分とを有する複合成形品及びその製造方法に関し、例えば、振動吸収体、自動車外板の締結部品や一部にソフト感のある部品等、成形品の一部に剛性の高い部分と柔軟な部分とを要する各種機器部品に好適な複合成形品を提供するものである。」(公報第2頁左上欄第7〜12行参照)
(ハ)「結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表されるポリアルキレンテレフタレート系樹脂は機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ、加工性が良好であるがゆえにエンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品等の広汎な用途に使用されている。…(中略)… 一般に2種の材料を一体的に形成する方法としては、樹脂の一次側成形品上に異材質樹脂を二次成形してその界面を融着固定させる二重成形法、あるいは二色成形法により、部分的に異なる材料より成る複合成形品を得ることが知られているが、一般にかかる複合成形品では一次側の樹脂と二次側の樹脂の界面の融着が不充分であり、外力によって剥離しやすく、又そり変形等を生じ易く、使用上一体成形品としての機能を満足しないことが多い。」(公報第頁欄第行参照)
(ニ)「本発明の…(中略)…複合成形品は、上記(A)、(B)2種の樹脂材料を使用して、いわゆる二重成形法又は二色成形法により形成される。成形方法としては射出成形、圧縮成形その他の成形法が適用されるが一般には射出成形が好ましい。樹脂材料(A)又は(B)の何れか一方を予め成形して一次成形品とし、次いでこれに他の樹脂材料を成形して融着し一体化するもので、成形品の形状構造或いは目的とする用途により何れを一次側成形品としてもよいが、…(中略)…好ましい。 この場合、強固に融着させるためには二次成形において、樹脂材料(B)の樹脂温度によって一次側成形品の表層(界面)部が溶融することが必要であり、…(中略)…好ましい。」(公報第6頁左上欄第13行〜右上欄第16行参照)

(4)対比・判断
(i)本件発明1について
そこで、本件発明1と従来発明とを対比すると、その作用ないし構造から見て、後者における「センサ素子部2を構成する各部品を組み立て」たものは前者における「本体装置」に、後者における「樹脂モールド体10」は前者における「本体装置を封止するハウジング」に、後者における「ハーネス15で外部に導出するようにしたリード線6」は前者における「ハウジングを貫いて導出されるケーブル」に、後者における「ハーネス15」の内の「リード線6」を除く被覆部分は前者における「シース材」に、後者における「センサ素子部2」と「ハーネス15」とを「樹脂モールド体10によって一体化した構造体」は前者における「シース材」が「ハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造」に、それぞれ相当するといえるから、両者は、
「本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、ハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続構造において、ケーブルのシース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造」である点で一致(以下、「一致点」という。)し、次の点で相違するといえる。

(イ)相違点1:本件発明1は、「ハウジング」を「ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成」しているのに対して、従来発明はこのような樹脂を用いていない点。
(ロ)相違点2:本件発明1は、「ケーブルのシース材」を、「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」で構成しているのに対して、従来発明ではこのような樹脂組成物の架橋体でリード線の外被材料を形成していない点。
(ハ)相違点3:「シース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着している」という接着態様に関して、本件発明1が上記相違点1及び相違点2において説示したところの樹脂組成物の組合せによる接着態様を用いているのに対して、従来発明はこのような樹脂組成物の組合せによる接着態様を用いていないとともに、ハーネスカバーも併せて接着された接着態様である点。
そこで、上記各相違点につき検討する。

(相違点1について)
ところで、上記相違点1につき、上記刊行物3にも示されるように、エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品等の広汎な用途に、「ポリブチレンテレフタレート樹脂」を用いることは、従来より周知の技術であったと解される(ちなみに、本件特許明細書の段落【0004】にも、従来技術に関して、「このため、ハウジング3の材質には、強靱性等の点で有利なポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等が選定され、ケーブル6のシース材には、耐摩耗性や耐屈曲性等の点で有利なポリウレタン系樹脂が選定されている。」と記載されている)。
してみると、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、上記従来発明におけるハウジングの構成材料を選択するに際して、上記刊行物3に示されるような周知技術を用いることにより、当業者が容易に実施し得た設計的事項であるといえる。

(相違点2及び3について)
上記相違点2につき、上記刊行物2には、自動車に用いられるハーネス保護用チューブや各種電子部品の絶縁ケーブルの外被材料として、耐熱性等を向上する目的で、電離性放射線等によって架橋されるところの難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマーを主体とする樹脂組成物を用いることが開示されている(上記「2-2.」の(3)の(ii)の(ホ)参照)とともに、そのポリエステルエラストマーの難燃剤として、ポリブロモジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド誘導体、臭素化ビスフェノール誘導体、他の有機系の臭素含有難燃剤やパークロロペンタシクロデカン等の塩素含有難燃剤を使用することが併せて開示されている(上記「2-2.」の(3)の(ii)の(ニ)参照)。
また、上記相違点3につき、上記刊行物3には、上記相違点1につき指摘したところの「ポリブチレンテレフタレート樹脂」と熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂材料とを、そのいずれか一方を予め成形して一次成形品とし、次いでこれに他方の樹脂材料を成形して融着し一体的に形成するという接着態様を用いることが併せて開示されている。
ところで、審判請求人は、「気密性を得るための材料の融着性を考慮しなければならない用途については、むしろ不融化、即ち架橋してはならないと考えるのが当業者の考え方である」ということを前提として、「このような電離性放射線による架橋という特別の架橋法を適用した場合でも、特定の難燃剤を用いなければ、高い難燃性と高い気密性、融着性を実現させることができない」旨を主張するとともに、本件発明1の接続構造が奏する効果の顕著性を明確とするために、いいかえれば、本件発明1の接続構造におけるポリエステルエラストマと特定の難燃剤と電離性放射線による架橋という三要素を組み合わせた場合は、他の組み合わせによる効果と比較して顕著な効果が得られることを明確とするために、丙第1号証として実験報告書を提出している。
そこで、丙第1号証である実験報告書を参酌すると、当該実験報告書には、本件発明1の接続構造におけるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、これに上述した三要素の組み合わせに相当ないし対応するものを採用した実験例1〜6及び実験例9〜12のものは、他の組み合わせに相当ないし対応するものを採用した実験例7、8(注:これら実験例は、その難燃剤のみが本件発明1のものと異なる。)、実験例13〜15(注:これら実験例は、その架橋手段のみが本件発明1のものと異なる。)及び表4の比較例(注:この比較例は、ポリエステルエラストマではなく、ポリエチレン系樹脂を用いた点のみが本件発明1のものと異なる。)のものと比較して、防水性(接着性)に関して優れた効果を奏することが示されている。
さらに、その表2を見ると、本件発明1の特定の難燃剤によれば、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られることが併せて示されている。
そうすると、本件発明1のハウジングとケーブルの接続構造において、その接続構造における一方であるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、当該接続構造における他方であるケーブルのシース材につき、上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義は、他の組み合わせを選択した場合には得られないような防水性に関する優れた効果が得られることにあるということができ、また、その内の特定の難燃剤を規定した点は、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られるところの難燃剤に限定することにあるということができる。
そして、上記刊行物1ないし3の記載事項を精査してみても、いずれにも、その接続構造における一方がポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、その他方を上述した三要素の組み合わせを選択した場合に、他の組み合わせを選択した場合には得られないような接着性に関する優れた効果が得られることを示唆ないし教示する記載を見いだすことができないし、また上記したように、刊行物2には、加速電子線等の電離放射線照射を用いて架橋することとともに、そのポリエステルエラストマーの難燃剤として、ポリブロモジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤を用いることが例示されているものの、これは当該ポリブロモジフェニルエーテルを用いた場合のブリードが発生する問題を避けることを説示したものであって、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)が異なる場合にその接着性が劣るものとなるのを避けることを示唆ないし教示するものではない。
してみると、上記相違点2及び3に係る本件発明1の構成は、上記刊行物1ないし3の記載事項からは当業者が予測し得なかった効果を奏するところの上述した組み合わせを選択したものといえるのであるから、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

(ii)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、いずれも本件発明1の構成を全て含むとともに、それぞれ請求項2ないし4に記載された事項を、さらに付加したものといえる。
してみると、本件発明1が上記「(i)本件発明1について」で説示したとおり、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができないのであるから、本件発明2〜4も、同様の理由から、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

(iii)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の「接続構造」に関する発明を、「接続方法」という方法の発明として記載表現したものといえるから、上記「(i)本件発明1について」で説示したのと同様の理由から、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

以上のとおり、本件発明1〜5は、上記刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものということができない。

(5)他の独立特許要件違反の存否について
上記「2.」(4)の(i)の「(相違点2及び3について)」において説示したように、丙第1号証である実験報告書を参酌すると、本件発明1のハウジングとケーブルの接続構造において、その接続構造における一方であるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、当該接続構造における他方であるケーブルのシース材につき、上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義は、他の組み合わせを選択した場合には得られないような防水性に関する優れた効果が得られることにあるということができ、また、その内の特定の難燃剤を規定した点は、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られるところの難燃剤に限定することにあるということができる。
ところが、特許明細書における「発明が解決しようとする課題」や「効果」の項の記載は上位概念的なものであって、上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義が特許明細書に明記されているとは直ちに言い難い。
しかしながら、特許明細書における当初よりその架橋方法に関して実施例らの記載内容と整合していなかった段落番号【0027】の 第1行に記載された「これらの方法のいずれでも構わない」という記載は訂正明細書において削除されており、また、訂正明細書に記載された実施例を見ると、いずれもハウジングとケーブルの接続構造において、その接続構造における一方であるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、当該接続構造における他方であるケーブルのシース材につき、上述した三要素の組み合わせを特定するものとなっており、さらに、その内の特定の難燃剤を用いていない例となったものは、表1及び段落番号【0052】〜【0055】において「比較例5」と訂正され、また段落番号【0071】において、第1乃至第3実施例と比較すると、ポリブロモジフェニルエーテルという難燃剤を用いた比較例5は「その架橋度を高めた樹脂組成物からなるケーブル6の界面での接着が悪く、所定の防水性能を達成することができない」ものであることも併せて説示されている。
そうすると、訂正明細書の記載によれば、本件発明の上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義が防水性に関する優れた効果が得られることにあること及びその内の特定の難燃剤を規定した点が架橋の程度(電離性放射線の照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られるところの難燃剤に限定することにあることは、当業者により実質的に理解できるといえる。
以上のことから、訂正明細書における発明の詳細な説明の記載は、本件発明の上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義につき、上述した三要素の組み合わせ以外のものとの対比説明に関しては丁寧さにやや欠ける点があるといえるものの、当業者がその発明の技術的意義を理解することが困難である程に不備なものであるということもできない。

(6)まとめ
以上のとおり、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものということもできない。

3.むすび
したがって、本件審判請求は、特許法第126条第1項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第2項ないし第5項の規定に適合するものといえる。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハウジングとケーブルの接続構造及び接続方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、ハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続構造において、
ハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成され、ケーブルのシース材は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体であり、このシース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造。
【請求項2】 前記シース材の難燃化は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤によってなされる請求項1に記載のハウジングとケーブルの接続構造。
【請求項3】 前記難燃剤は、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤である請求項2に記載のハウジングとケーブルの接続構造。
【請求項4】 前記熱可塑性ポリエステルエラストマの非晶性ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコールである請求項1乃至3のいずれかに記載のハウジングとケーブルの接続構造。
【請求項5】 本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、
ケーブルのシース材は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体であって、
ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によってハウジングを形成するとともに、その溶融成形時にハウジングと前記シース材を接着させてハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば自動車等の車輪の回転速度を検出する車輪速センサに適用され、この車輪速センサを封止したハウジングと、車輪速センサに接続され、このハウジングから導出されたケーブル間を気密封止するハウジングとケーブルの接続構造及び接続方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の車輪速センサとしては、図1に示すような電磁ピックアップ方式のものが知られている。この方式の車輪速センサ1には、車輪と共に回転する磁性体ロータ2が付随しており、この車輪速センサ1は、、この磁性体ロータ2の回転に応じた磁界の変化を検出する。この車輪速センサ1は、その外側をハウジング3によって覆われ、その内側で、ヨーク4を電磁コイル5の中央に挿入した構造を有する。磁界の変化は、ヨーク4によって感知され、電磁コイル5によって電気信号に変換され、この電気信号がケーブル6を介して外部に出力される。
【0003】
このような車輪速センサ1は、自動車の走行中に被水したり、着氷するといった環境に晒されるため、ハウジング3とケーブル6の接続部には十分な耐久性や防水性が要求される。
【0004】
このため、ハウジング3の材質には、強靱性等の点で有利なポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等が選定され、ケーブル6のシース材には、耐摩耗性や耐屈曲性等の点で有利なポリウレタン系樹脂が選定されている。
【0005】
また、ハウジング3とケーブル6の接続部の防水性を向上させるために、PBT樹脂の射出成形によりハウジング3を形成し、これと同時にハウジング3とケーブル6の間を密着させている。勿論、射出成形の前工程で、ケーブル6の2本の絶縁電線6a,6bを電磁コイル5の各端子5aに接続する。
【0006】
ところが、かかる方法では、射出成形したハウジング3とケーブル6のシース材の界面での気密性が不十分であり、所望の防水性が得られなかった。
【0007】
この問題を解決するために、例えば図2に示す様にケーブル6の外周にゴム製のOリング7を嵌めた後、PBT樹脂を射出成形する方法が行われている。
【0008】
ところが、この方法では、Oリング7がPBT樹脂の射出成形時の成形圧で所定の位置から移動してしまうと言う問題を生じたり、射出成形時の熱でOリングが変質してしまい、反発弾性が低下して所定の防水性が得られないと言う問題を生じた。あるいは、PBT樹脂の射出成形の前に、ケーブル6の外周にOリング7を取り付ける工程を必要とするので、部品点数だけでなく、工程数の増加にもつながり、生産性が低下した。
【0009】
さらに、図3に示す様にケーブル6の外周にシール部材8をモールド成形により配置してから、PBT樹脂を射出成形する方法も提案されている。この方法は、シール部材8の材質として、ケーブル6のシース材と同類のポリウレタン樹脂を適用することで、シール部材8とシース材の密着性を高めて、シース材との気密性を確保するとともに、このシール部材8とハウジング3との界面については、シール部材8の周囲に複数のリブを形成することによって接触面積を増加させ、機械的に気密封止性を確保している。
【0010】
しかしながら、この方法の場合も、部品点数や工程数の増加を伴い、生産性が低下した。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来は、Oリング7やシール部材8を用いて、ハウジング3とケーブル6間の気密性を高めていたが、Oリングの変質を招いて、所定の防水性が得られなかったり、部品点数や工程数の増加を伴い、生産性が低下した。
【0012】
そこで、この発明の課題は、格別の部品を用いずとも、ハウジングの射出成形に伴い、ハウジングとケーブルの間を密着させるだけで、両者間の十分な気密性と耐久性を得ることにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明のハウジングとケーブルの接続構造においては、ケーブルのシース材として、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体を適用している。
【0014】
このエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体は、ケーブルのシース材として要求される耐摩耗性や耐屈曲性等の諸特性を備えているばかりでなく、このエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体を適用すれば、ハウジングの溶融成形に際し、ハウジングとケーブル間を密着させるだけで、両者間の十分な気密性を得ることができ、必要とする防水性能の実現が可能となる。
【0015】
この樹脂組成物の架橋体の難燃化は、例えばポリブロモジフェニルエーテルを除く難燃剤によってなすことができる。
【0016】
この難燃剤として、例えばエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる1種もしくは複数種の混合物がある。
【0017】
また、熱可塑性ポリエステルエラストマとは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等の結晶性ハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリオキシメチレングリコールからなる非晶性ソフトセグメント、もしくはポリカプロラクトングリコール等のポリエステルグリコールからなる非晶性ソフトセグメントとを有するブロック共重合体である。これらの共重合体のうち、非晶性ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコールからなる熱可塑性ポリエステルエラストマは、柔軟性に富むものが市販されており、ケーブルのシース材に好適と言える。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
ここでは、この発明の接続構造及び接続方法を図1に示す車輪速センサ1のハウジング3とケーブル6に適用し、これを1つの実施形態としている。すなわち、このケーブル6のシース材として、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体を適用し、PBT樹脂の溶融成形によって、ハウジング3を形成するとともに、ハウジング3とケーブル6間を密着させている。
【0020】
熱可塑性ポリエステルエラストマは、先に述べた様な結晶性ハードセグメントと、非晶性ソフトセグメントを有するブロック共重合体であり、非晶性ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコールであるものが、ケーブルのシース材に好適である。
【0021】
このようなエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体からなるケーブル6のシース材は、ハウジング3の溶融成形に際し、このハウジング3に接着するので、ハウジング3とケーブル6間の十分な気密性を得ることができ、必要とする防水性能を実現することができる。
【0022】
さて、自動車に使用されるケーブルには、難燃性、耐熱性、耐摩耗性等の特性が要求されている。具体的な要求特性は、JASO(日本自動車連盟)規格D608、JIS C3404、C3005に記載されており、例えばケーブル試料を水平に設置し、バーナーの炎を10秒間当て、炎を取り去った後に30秒以内に消火することが要求される。
【0023】
一方、一般的な熱可塑性ポリエステルエラストマは、可燃性である。このため、この実施形態では、この可燃性の熱可塑性ポリエステルエラストマを難燃化している。この難燃化を行う方法としては、この可燃性の熱可塑性ポリエステルエラストマに対して、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン等の有機系難燃剤や、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤を必要量配合すると言うものが知られている。この方法によって、熱可塑性ポリエステルエラストマを難燃化すれば、ケーブルのシース材の難燃性を実現できる。
【0024】
次に、一般的な熱可塑性ポリエステルエラストマは、その融点が100℃〜220℃である。これに対し、PBT樹脂の成形温度は、240℃〜260℃である。したがって、ハウジング3の射出成形の温度においては、この融点(100℃〜220℃)の熱可塑性ポリエステルエラストマが溶融してしまう。
【0025】
そこで、この実施形態では、この融点(100℃〜220℃)の熱可塑性ポリエステルエラストマを架橋することによって、不融化する。具体的には、この融点(100℃〜220℃)の熱可塑性ポリエステルエラストマに対して、トリメチロールプロパントリメタクリレートや、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の分子内に炭素-炭素二重結合を複数個有する多官能性モノマーを配合し、加速電子線やガンマ線等の電離性放射線を照射し、これにより熱可塑性ポリエステルエラストマを架橋して、不融化している。この融点を高めた熱可塑性ポリエステルエラストマは、PBT樹脂の成形温度240℃〜260℃であっても溶融せず、その形状を保持する。
【0026】
この熱可塑性ポリエステルエラストマを架橋する他の方法としては、有機過酸化物を用いる熱加硫法、熱可塑性ポリエステルエラストマにアルコキシシランを予めグラフトしておき、これを有機錫系化合物等の触媒の存在下に、水あるいは水蒸気に接触させて架橋する所謂シラン架橋法等がある。
【0027】
しかし、架橋処理速度の点から、この実施形態で採用した電離性放射線の照射を用いる方法が有利であり、また簡便で、かつ生産も高い。
【0028】
ところで、熱可塑性ポリエステルエラストマに配合する難燃剤については、先に述べたが、各種の難燃剤のうちには、好ましく無いものがある。例えば、デカブロモジフェニルエーテルや、オクタブロモジフェニルエーテル等のポリブロモジフェニルエーテルを適用した場合は、ハウジング3の溶融成形と同時に、ハウジング3とケーブル6間を封止しても、両者間が十分に接着せず、必要な防水性能が得られない。
【0029】
また、熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋度を高める程、燃焼時の樹脂組成物のドリップ(燃焼溶融物の垂れ落ち)が少なくなり、これによって難燃性が向上するという利点がある。
【0030】
ところが、難燃剤として、上記デカブロモジフェニルエーテルや、オクタブロモジフェニルエーテル等のポリブロモジフェニルエーテルを適用した場合は、燃焼時のドリップが無くなるまで樹脂組成物の架橋度を高めると、接着性が極端に低下して、防水性能の劣化が激しくなるため、ポリブロモジフェニルエーテルを除く難燃剤を使用することがより好ましい。
【0031】
これに対して、この実施形態の様に、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド等を適用した場合は、樹脂組成物の架橋度を高めても、接着性は、殆ど低下せず、防水性能の劣化も無い。
【0032】
すなわち、難燃剤の種類による接着性の優劣の差は、樹脂組成物の架橋度を高める程に顕著になり、接着性を劣化させずに、樹脂組成物の架橋度を高めるには、難燃材の種類を適宜に特定するのが好ましい。
【0033】
このように実施形態においては、ケーブル6のシース材として、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体を適用し、この樹脂組成物に難燃剤を配合している。この難燃剤として、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン等の有機系難燃剤や、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を選択し、これにより難燃性を向上させるだけでなく、ハウジング3の溶融成形に際しては、ケーブル6がハウジング3に十分に密着するようにし、ハウジング3とケーブル6間の十分な気密封止を可能にしている。
【0034】
なお、この実施形態では、車輪速センサを例示しているが、これに限定されるものでなく、本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備えていれば、この発明を適用することができる。
【0035】
【実施例】
次に、図1に示すケーブル6を実施した第1実施例乃至第3実施例および比較例を述べる。
【0036】
なお、これらの実施例、及び後述する各比較例においては、ケーブル6の芯となる各絶縁電線6a,6bの外周を中間層によって被覆してから、この上をシース材によって被覆した。この中間層は、シース材をケーブル3から剥ぎ取り易くするものであって、メルトインデックス(190℃、荷重2160g)が0.2以上の熱可塑性樹脂が好ましく、ここではメルトインデッックス5のエチレン酢酸ビニル共重合体を適用した。このメルトインデックス0.2以上の熱可塑性樹脂は、シース材となる樹脂組成物との後述する共押出しを可能にする。
【0037】
さて、第1実施例では、まず表1に示す主体のポリエステルエラストマと、難燃剤のエチレンビス(テトラブロモフタルイミド)を加圧型ニーダー装置によって混合し、この混合物をフィーダールーダーに投入してペレット化する。
【0038】
ただし、各実施例および各比較例のいずれにおいても、表1の各配合組成物以外に、三酸化アンチモンを15重量部、ジフェニルアミン系酸化防止剤を1重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレートを5重量部だけ配合する。
【0039】
次に、ケーブル6の各絶縁電線6a,6b(商品名イラックスB8;銅合金導体3/20/0.08,絶縁外径1.7Φ,住友電気工業(株)製)を35mmピッチで撚り合わせ、これらの絶縁電線6a,6bの外周に、溶融押出し機(40mmΦ,L/D=24)によって、エチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量20wt%、メルトインデックス5)を主体とする樹脂組成物の中間層を形成し、その外径を4.0mmΦとする。また、表1の各配合組成物からなる混合物を溶融押出し機(60mmΦ,L/D=24)によって共押出して、中間層を被覆するシース材を形成し、その外径を5.0mmΦとする。そして、このシース材に加速電圧が2MeVの電子線を250kGy照射する。
【0040】
【表1】

【0041】
こうして製作したケーブル6の難燃性をJASO D608に記載の方法に準拠して調べた結果、燃焼時間は2秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められず、難燃性に優れることを確認できた。
【0042】
このケーブル6の一端のシース材と中間層を剥ぎ取り、各絶縁電線6a,6bの先端の絶縁体を剥ぎ取り、これらの絶縁電線6a,6bを抵抗溶接によって車輪速センサ1の電磁コイル5の各端子5aに接続してから、この車輪速センサ1の本体とケーブル6を成形金型内に配し、PBT樹脂(商品名PBT5101G-30U;東レ(株)製)を255℃で射出成形して、ハウジング3を形成した。
【0043】
この車輪速センサ1の防水性を次の方法により評価した。まず、この車輪速センサ1を105℃の恒温槽内に30分間入れてから、この車輪速センサ1を図4に示す様に室温の水を貯めた水槽11に20分間浸漬するという手順で、この車輪速センサ1に対して熱衝撃を与え、この後に車輪速センサ1と電極板13間の絶縁抵抗を絶縁抵抗計12によって測定し、この抵抗値を初期のものとして記録する。
【0044】
引き続いて、恒温槽内に30分間入れてから、室温の水を貯めた水槽11に20分間浸漬するというヒートサイクルを300回繰り返し、この後に車輪速センサ1と電極板13間の絶縁抵抗を測定し、この抵抗値を記録した。
【0045】
この結果、初期の抵抗値、及び300回のヒートサイクルを経た抵抗値は、100GΩ以上を共に示していた。したがって、この第1実施例の車輪速センサ1は、十分な防水性能を有していると言える。
【0046】
次に、第2実施例では、第1実施例と同様に、ケーブル6の各絶縁電線6a,6bの外周に、エチレン酢酸ビニル共重合体を主体とする樹脂組成物の中間層を形成し、表1に示す難燃剤にエチレンビス(ペンタブロモベンゼン)を適用したポリエステルエラストマの混合物からなるシース材を形成し、このシース材に電子線を照射した。
【0047】
このケーブル6についても、第1実施例と同様に、その難燃性をJASO D608に記載の方法に準拠して調べた結果、燃焼時間は2秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められず、難燃性に優れることを確認できた。
【0048】
また、このケーブル6を車輪速センサ1に接続し、PBT樹脂を射出成形して、ハウジング3を形成した。そして、この車輪速センサ1についても、第1実施例と同様の手順で、防水性を評価したところ、初期の抵抗値、及び300回のヒートサイクルを経た抵抗値が100GΩ以上を共に示し、十分な防水性能が得られた。
【0049】
更に、第3実施例では、表1に示す様に難燃剤として、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドを適用しており、第1実施例と同様に、ケーブル6の各絶縁電線6a,6bの外周に、中間層を形成し、ポリエステルエラストマと、難燃剤のビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドを混合してなる混合物のシース材を形成し、このシース材に電子線を照射した。
【0050】
このケーブル6についても、その難燃性を調べた結果、燃焼時間は3秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められなかった。
【0051】
また、このケーブル6を車輪速センサ1に接続してから、PBT樹脂を射出成形して、ハウジング3を形成した。この車輪速センサ1についての防水性を評価したところ、初期の抵抗値、及び300回のヒートサイクルを経た抵抗値が100GΩ以上を共に示した。
【0052】
比較例5は、シース材の難燃材としてデカブロモジフェニルエーテルを使用し、第1乃至第3実施例と同じ構造のケーブルを作製して、加速電圧2MeVの電子線を100kGy照射したものである。
【0053】
このケーブルの難燃性をJASO D608に記載の方法に準拠して調べた結果、燃焼時間は18秒と長く、燃焼に伴う燃焼溶融物の落下も認められ、ケーブルの難燃性は第1乃至第3実施例のケーブルに比べ劣っていることがわかった。
【0054】
このケーブルを使用し、PBT樹脂の射出成形によって、センサ部のハウジングの成形とケーブルの一体モールド成形を行った。
【0055】
この成形体の防水性を評価したところ、絶縁抵抗の初期値は100GΩ以上と優れた防水性を示し、また、100回のヒートサイクル後の絶縁抵抗も100GΩ以上と初期の値が低下していないことがわかったが、300回のヒートサイクル後の絶縁抵抗は10kΩ以下に低下し、第1乃至第3実施例よりは防水性が劣ることがわかった。
【0056】
次に、実施例の優秀性を明確にするために、さらに第1乃至第4比較例を示しておく。
【0057】
【表2】

【0058】
まず、第1比較例では、難燃剤としてデカブロモジフェニルエーテルを適用しており、ケーブル6の各絶縁電線6a,6bの外周に中間層を形成し、ポリエステルエラストマと、難燃剤のデカブロモジフェニルエーテルを混合してなる混合物のシース材を形成し、このシース材に電子線を照射した。ただし、この電子線の照射については、照射量を250kGyと多くした。これにより、このシース材の架橋度を高くした。
【0059】
こうしてシース材の架橋度を高めると、このケーブル6の難燃性が向上する。先と同様に難燃性を調べて見ると、燃焼時間は1秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められなかった。
【0060】
しかしながら、このケーブル6を適用した車輪速センサ1について、先と同様に、その防水性を評価したところ、初期の抵抗値が10kΩ以下と極めて低く、防水性能の点で劣る。この抵抗値から、ハウジング3の射出成形に際し、ハウジング3とケーブル6の界面での接着が殆ど進行していないことが判った。
【0061】
第2比較例では、表2に示す様に難燃剤として、先に述べたオクタブロモジフェニルエーテルを適用しており、第1実施例と同様に、ケーブル6の各絶縁電線6a,6bの外周に、中間層を形成し、ポリエステルエラストマと、難燃剤のオクタブロモジフェニルエーテルを混合してなる混合物のシース材を形成し、このシース材に電子線を照射した。ただし、この電子線の照射量を250kGyと多くして、このシース材の架橋度を高くした。
【0062】
このケーブル6についても、その難燃性を調べた結果、燃焼時間は3秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められなかった。
【0063】
ところが、このケーブル6を適用した車輪速センサ1について、その防水性を評価してみると、初期の抵抗値が10kΩ以下と極めて低く、防水性能の点で劣り、ハウジング3とケーブル6の界面での接着が殆ど進行していないことが判った。
【0064】
次に、第3比較例では、表3に示す様に主体のポリエステルエラストマの代りにポリウレタンエラストマを適用するとともに、難燃剤として、デカブロモジフェニルエーテルを適用しており、ケーブル6の各絶縁電線6a,6bの外周に、中間層を形成し、ポリウレタンエラストマと、難燃剤のデカブロモジフェニルエーテルを混合してなる混合物のシース材を形成し、このシース材に電子線を照射した。
【0065】
【表3】

【0066】
このケーブル6について、その難燃性を調べた結果、燃焼時間は1秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められなかった。
【0067】
しかしながら、このケーブル6を適用した車輪速センサ1について、その防水性を評価したところ、初期の抵抗値が10kΩ以下と極めて低く、防水性能の点で劣り、ハウジング3とケーブル6の界面での接着が殆ど進行していなかった。
【0068】
第4比較例では、表3に示す様にポリエステルエラストマの代りにポリウレタン系のものを適用するとともに、難燃剤として、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)を適用しており、ケーブル6の各絶縁電線6a、6bの外周に、中間層を形成し、ポリウレタンエラストマと、難燃剤のエチレンビス(ペンタブロモベンゼン)を混合してなる混合物のシース材を形成し、このシース材に電子線を照射した。
【0069】
このケーブル6については、燃焼時間が3秒で、燃焼に伴うシース材の溶融落下は全く認められない。
【0070】
ところが、このケーブル6を適用した車輪速センサ1について、その防水性を評価してみると、初期の抵抗値が10kΩ以下と極めて低く、ハウジング3とケーブル6の界面での接着が殆ど進行していなかった。
【0071】
第1乃至第3実施例と第5比較例の比較、第1乃至第3実施例と第1及び第2比較例の比較から明らかなように、熱可塑性ポリエステルエラストマの難燃剤として、デカブロモジフェニルエーテルや、オクタブロモジフェニルエーテル等のポリブロモジフェニルエーテルを除く難燃剤を使用することがより好ましい。つまり、これらの難燃剤を適用し、かつ熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋度を高めると、PBT樹脂を射出成形してなるハウジング3と、その架橋度を高めた樹脂組成物からなるケーブル6の界面での接着が悪く、所定の防水性能を達成することができない。
【0072】
また、第3及び第4比較例のように、熱可塑性ポリウレタンエラストマを主体とする樹脂組成物を使用すると、ケーブル6とハウジング3の界面での接着が悪く、所定の防水性能が得られない。
【0073】
【効果】
以上説明したように、この発明においては、ケーブルのシース材として、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体を適用している。この樹脂組成物の架橋体は、ケーブルのシース材として要求される耐摩耗性や耐屈曲性等の諸特性を備えているばかりでなく、ハウジングの溶融成形に伴う、ハウジングとケーブル間の密着だけで、十分な気密性を得ることができる。このため、格別の部品、つまりOリングやシール部材を用いずとも、十分な気密性と耐久性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車輪速センサの一例を示す断面図
【図2】車輪速センサの他の例を示す断面図
【図3】車輪速センサの別の例を示す断面図
【図4】車輪速センサの絶縁抵抗を測定する実験例を示す図
【符号の説明】
1 車輪速センサ
2 磁性体ロータ
3 ハウジング
4 ヨーク
5 電磁コイル
6 ケーブル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-05-30 
出願番号 特願平7-194480
審決分類 P 1 41・ 83- Y (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松縄 正登  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 内藤 真徳
一色 貞好
登録日 2002-02-15 
登録番号 特許第3277761号(P3277761)
発明の名称 ハウジングとケーブルの接続構造及び接続方法  
代理人 神野 直美  
代理人 上代 哲司  
代理人 神野 直美  
代理人 上代 哲司  

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