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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B41M
審判 全部無効 2項進歩性  B41M
管理番号 1119976
審判番号 無効2004-80182  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2005-05-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2940928号発明「昇華型被熱転写シート」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2940928号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
出願日:平成元年4月4日(特願平1-83890号)
設定登録日:平成11年6月18日(特許第2940928号)
審判請求日:平成16年10月7日
答弁書、訂正請求書提出日:平成16年12月27日
弁駁書提出日:平成17年3月7日
口頭審理陳述要領書、上申書提出日(被請求人):平成17年3月30日
口頭審理期日:平成17年3月30日

第2 請求人の主張
請求人は、本件の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、さらに弁駁書と共に参考資料を提出して、以下の理由を主張している。
(1)本件の請求項1、3に係る発明は、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であるか、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第2号証又は甲第3号証、及び、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本件明細書には、記載の不備があるから、特許法第36条第4項に規定する用件を満たしていない。
[証拠方法等]
甲第2号証:特開昭63-290790号公報
甲第3号証:特開昭63-222891号公報
甲第4号証:特開昭63-231984号公報
参考文献 :特開昭64-18686号公報

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として答弁書と共に乙第1号証ないし乙第7号証を提出し、さらに上申書と共に試験結果(1)ないし(3)を提出して、訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、甲第2、3号証に記載された発明ではなく、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、明細書の記載不備もないから、請求人の主張は失当であると主張している。
[証拠方法等]
乙第1号証:JIS P8120(1998)
「紙,板紙及びパルプ-繊維組成試験方法」
乙第2号証:JIS P8119(1976)
「紙及び板紙のベック試験器による平滑度試験方法」
乙第3号証:JIS P8119(1998)
「紙及び板紙のベック試験器による平滑度試験方法」
乙第4号証:「紙パ技協誌」第20巻第2号 昭和41年2月発行81〜88頁「ベック平滑度について」
乙第5号証:JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.5-2
乙第6号証:「全自動デジタル型 王研式 透気度・平滑度試験機」カタログ 旭精工株式会社
乙第7号証:「ベック平滑度試験結果について」2004年12月24日 大日本印刷株式会社 情報記録材料研究所 米谷伸二氏作成

第4 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成16年12月27日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という)は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。
a.特許請求の範囲の請求項1に記載の「該基材の少なくとも受容層形成面の平滑度」を「該基材の少なくとも受容層形成面の、王研式透気度平滑度測定機によって測定された平滑度」と訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項1に記載の「1000秒以上である」を「3140秒から7590秒である」と訂正する。
c.特許明細書2頁3欄25〜30行を「即ち本発明は基材と、該基材の片面に設けられ熱転写シートから昇華して移行してくる染料、および/または顔料インキを受容するための受容層を有し、かつ上記基材が発泡体構造を有し、かつ王研式透気度平滑度測定機によって測定された平滑度が3140秒から7590秒であることを特徴とする昇華型被熱転写シートを要旨とするものである。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項について検討すると、訂正事項a、bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項cは、訂正事項a、bにより訂正しようとする特許請求の範囲の記載に、特許明細書の記載を整合させる訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項aないしcは、特許明細書の2頁4欄18〜19行「平滑度の測定は王研式透気度平滑度測定機(旭精工製KY-5型)にて測定した。」及び実施例の記載に基づくものであって願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、同法による改正前の特許法(以下、「平成6年改正前特許法」という)第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。

第5 本件発明
上記第4に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件の請求項1ないし3に係る発明は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】基材と、該基材の片面に設けられ熱転写シートから昇華して移行してくる染料及び/又は顔料インキを受容するための受容層を有する被熱転写シートであり、前記基材が発泡体構造を有し且つ該基材の少なくとも受容層形成面の、王研式透気度平滑度測定機によって測定された平滑度が3140秒から7590秒であることを特徴とする昇華型被熱転写シート。
【請求項2】基材の受容層非形成面側にさらに少なくとも一層の支持体が積層されていることを特徴とする請求項1記載の昇華型被熱転写シート。
【請求項3】基材がポリプロピレンからなることを特徴とする請求項1又は2記載の昇華型被熱転写シート。」
以下、請求項1ないし3に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。

第6 無効理由に対する判断
1.甲第2号証に記載された事項
甲第2号証(特開昭63-290790号公報)には、次の事項が記載されている。
「支持体の表面に画像受容層が設けられた熱転写記録用画像受容シートにおいて、前記支持体として、JIS P-8132で測定したヤング率が26,000Kg/cm2以上である剛性シートの表裏面に、無機微細粉末を含有するポリオレフイン樹脂フイルムの延伸物よりなる内部に微細なボイドを多数有する合成紙が一体に貼合された積層体を用いる特徴とする熱転写記録用画像受容シート。」(特許請求の範囲第1項)
「 本発明は、たとえば熱転写記録用画像受容シート、とくにサーマルヘツド等の電気信号により文字や画像を受容体上に形成するビデオプリンター等に用いるカラーコピーに用いられる熱転写記録用画像受容シートに関する。
本発明の熱転写記録用画像受容シートを用いて感熱転写された複写は、カールが防止され、かつ、表面に印字、印刷されたときの凹凸が、支持体の裏面に残ることがない。」(2頁右上欄10〜18行)
「支持体の合成紙としては、・・・無機微細粉末を0〜25wt%含有するポリオレフイン樹脂フイルムを表面層とし、比表面積が10000cm2/g以上の無機微細粉末を、表面層の含有量より多く含み、延伸により生じるミクロボイドを多数含有するポリオレフイン樹脂フイルムの中芯層、および、無機微細粉末を25〜75重量%含有するポリオレフインの一軸延伸フイルムよりなる裏面層よりなる多層樹脂延伸フイルムであつて、その表面層は、平坦面より突出した突出物の最長長さが50ミクロン以上のものが0.1m2当り10個以下であり、多層樹脂延伸フイルムの32Kg/cm2の応力で押しつけた時の(雰囲気-温度23℃、相対湿度50%)圧縮率が20%〜40%であるポリオレフイン系合成紙が白抜けがなく、印刷面、鉛筆筆記性の面で好ましい。」(3頁左下欄5行〜右下欄5行)
「インク受容層側の多層ポリオレフイン樹脂延伸フイルムの表面層は、・・・無機微細粉末を0〜10重量%未満、好ましくは5〜8重量%含む一軸延伸か2軸延伸の樹脂フイルムである。反対側の裏面層は、同じ組成の樹脂フイルムの一軸延伸物か、鉛筆筆記性を要求される場合は、比表面積が10,000cm2/g以上の無機微細粉末を25〜70重量%含有する一軸延伸の樹脂フイルムである。裏面層の後者の一軸延伸樹脂フイルムは、無機微細粉末を核とした微細な長尺状の空隙(ボイド)を多数有し、表面には微細な亀裂を多数有するものである。」(3頁右下欄7〜18行)
「表面層(B)、裏面層(C)は、一軸方向に延伸されたフイルムであり、表面には微小な凹凸があり、表面平滑度(BEKK INDEX)が500〜15,000秒程度のものである。」(4頁右上欄8〜11行)、
「表面層の無機微細粉末の含量は、JIS P-8120で測定した表面平滑度(ベツク指数)が500〜15,000秒程度のものとなるように選定するのが好ましい。表面層に混合される無機微細粉末は、できるだけ表面層に大きな凸部を作らないものが選ばれ、325メツシユ残が10ppm以下のものが好ましい。粒径は3ミクロン以下のものが好ましい。支持体12の表面層(B)の表面よりの突出物は、その長径lが50ミクロン以上のものが0.1m2当り10個以下となることが熱転写した画像の欠けが実用上問題とならない点で重要である。」(5頁左上欄5〜16行)、
「例 1
(1)メルトインデツクス(MI)の0.8のポリプロピレン80重量%に、平均粒径1.5ミクロンの炭酸カルシウム20重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練後、シート状に押出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得た。このシートを、140℃に加熱後、縦方向に5倍延伸した。
(2)MI4.0のポリプロピレン95重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム5重量%を混合した表面層用の組成物(B)を押出機で溶融混練し、押出したシートを(1)の5倍延伸シートの片面に積層し、(1)の5倍延伸シートの反対面にMI4.0のポリプロピレン60重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム40重量%を混合した裏面層用の組成物(C)を別の押出機で溶融混練し、押出積層し、ついで60℃まで冷却後、162℃まで加熱し、テンターで横方向に7.5倍延伸し、165℃でアニーリング処理し、60℃まで冷却し、耳部をスリツトして3層(B/A/C;肉厚10/30/20ミクロン)構造の合成紙を得た。この合成紙の表面Bのベツク指数は6,800秒であり、支持体としての白色度が94.2%であり、32Kg/cm2の応力に対する圧縮率は26%であつた。」(6頁右下欄12行〜7頁左上欄16行)、
「例 2
(1)メルトインデツクス(MI)の0.8のポリプロピレン80重量%に、平均粒径1.5ミクロンの炭酸カルシウム20重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練後、シート状に押出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得た。このシートを、140℃に加熱後、縦方向に5倍延伸した。
(2)MI4.0g/10分のポリプロピレン97.5重量%に平均粒径0.3μの硫酸バリウム2.5重量%を混合した組成物(B)を押出機で溶融混練し、押出したシートを(1)の5倍延伸シートの片面に積層し、(1)の5倍延伸シートの反対面にMI4.0のポリプロピレン60重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム40重量%を混合した組成物(C)を別の押出機で溶融混練し、押出積層しついで60℃まで冷却後、162℃まで加熱し、テンターで横方向に7.5倍延伸し、165℃でアニーリング処理し、60℃まで冷却し、耳部をスリツトして3層(B/A/C;肉厚20/40/20ミクロン)構造の合成紙を得た。
この合成紙の表面Bのベツク指数は5,700秒であり、支持体としての白色度が96.0%であり圧縮率は23%であつた。」(7頁右上欄1行〜左下欄4行)、
「支持体の製造例
各例で得た表2に示す合成紙(a)の裏面層側に、・・・表2に示す剛性シート(b)を貼着し、更にこの剛性シートの裏面に前記接着剤を塗付し、表2に示す合成紙(c)の表面層側を前記接着剤に貼合し、表2に示す支持体を得た。」(8頁左下欄1〜9行)
「実施例1〜7、比較例1〜2
表2に示す支持体の合成紙(a)の表面層側に、下記組成の画像受容層形成組成物をワイヤーバーコーテイングにより乾燥時の厚さが4μmとなるように塗布し、乾燥させて表2に示す物性の熱転写記録用画像受容シートを得た。」(8頁左下欄10〜15行)、
「各実施例、比較例で作成した画像受容シートと昇華性染料を塗布乾燥した三菱製紙(株)製転写フイルム“TTFシアン”(商品名)を重ね合せ、熱傾斜試験機(東洋精機製Type-HG-100)を使用し、熱板を120℃より10℃かんかくで5点熱傾斜させ0.5Kg/cm2の圧力で2秒間加熱し、転写画像を得た。」(8頁右下欄16行〜9頁左上欄2行行)
これらの記載によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「支持体の表面に昇華性染料を塗布乾燥した転写フイルムから昇華して移行してくる染料及び/又は顔料を受容するための画像受容層を有する熱転写記録用画像受容シートであり、前記支持体が、剛性シートの表裏面に、無機微細粉末を含有するポリオレフイン樹脂フイルムの延伸物よりなる内部に微細なボイドを多数有する合成紙が一体に貼合された積層体であり、合成紙の表面の、平滑度がベツク指数で500〜15,000秒である熱転写記録用画像受容シート。」

2.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証に記載の発明を対比すると、甲第2号証に記載の発明の、「昇華性染料を塗布乾燥した転写フイルム」、「画像受容層」、「熱転写記録用画像受容シート」、「合成紙」及び「合成紙の表面」は、それぞれ本件発明1の「熱転写シート」、「受容層」、「昇華型熱転写シート」、「基材」及び「基材の受容層形成面」に相当し、甲第2号証に記載の発明の「無機微細粉末を含有するポリオレフイン樹脂フイルムの延伸物よりなる内部に微細なボイドを多数有する」構造は、本件発明1における「発泡体構造」に相当するから、両者は、
「基材と、該基材の片面に設けられ熱転写シートから昇華して移行してくる染料及び/又は顔料インキを受容するための受容層を有する被熱転写シートである昇華型被熱転写シート。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:基材の受容層形成面の平滑度が、本件発明1は、王研式透気度平滑度測定機によって測定された平滑度が3140秒から7590秒であるのに対し、甲第2号証記載の発明は、ベツク指数で500〜15,000秒である点。

上記相違点について検討する。
ア.甲第2号証には、平滑度の測定に関して「JIS P-8120で測定した表面平滑度(ベツク指数)が500〜15,000秒程度のものとなるよう」と記載され、例1、2には、平滑度がベツク指数で6,800秒、5,700秒の基材が記載されている。
ここで、「JIS P-8120」についてみると、乙第1号証に示されているようにベック平滑度の測定法ではないから、上記甲第2号証の記載の測定法に誤記があることは明らかである。
しかし、乙第2、3号証に示されるとおりベック平滑度が「JIS P-8119」で規定されていることは周知であるから、甲第2号証の上記の「JIS P-8120で測定した表面平滑度(ベツク指数)が500〜15,000秒程度のものとなるよう」との記載が、基材の受容層形成面の平滑度を、JIS P-8119のベック平滑度測定法で測定した際に500〜15,000秒となる程度とすることを意味していることは容易に理解できる。
さらに甲第2号証には、基材の受容層側表面について、表面層に混合される無機微細粉末は、できるだけ表面層に大きな凸部を作らないものが選ばれること、支持体の表面層の表面よりの突出物は、その長径lが50ミクロン以上のものが0.1m2当り10個以下となることが熱転写した画像の欠けが実用上問題とならない点で重要であることが記載され、表面の凸部が大きい、あるいは凸部の数が多いと画像の欠けが生じることが示唆されており、例1、2のベック指数が5000秒以上であることから、平滑度が高い方が好ましいことも開示されている。

イ.本件発明1は、基材の受容層形成面の平滑度を王研式透気度平滑度試験器で測定しているので、まず、平滑度を王研式透気度平滑度試験器で測定することの容易性について検討する。
乙第4号証には、ベック平滑度測定器について、
a.「ベック平滑度の測定にはベック平滑度試験器が古くから広く慣用されている。よく仕上げた平面円板を一定の力で紙面に押しつけ,平面板と紙面の間に空気を流せば平滑度の悪い者は空気が流れ易いという原理にもとづいてベック平滑度測定器は設計されている。・・・この空気の流れの状況をよく考えてみると,必ずしも空気は平面板と紙面の間の隙間だけを流れるわけではなく,紙を通して流れるものや試験面と反対側の隙間を流れるものがあることが想像される。このような場合にはベックの秒数には紙の平滑度以外の要素が混入して正しい平滑度を示しているということはできない。・・・また、ベックの平滑度試験器は一定量の空気の流れる時間を直接測定するため測定に長時を間要し測定能率が悪い。このため筆者等は平滑度が直示できる圧力降下式平滑度測定器の開発を行なった。」(81頁左欄〜右欄)、と記載されている。
また、圧力降下式平滑度測定器については、
b.「5.圧力降下式平滑度測定器」の項に、定圧室、測圧室、平滑度測定用の同心円環式平面円板を半径R、長さLの細管でつなぎ、定圧室から測圧室に流入する空気と紙と平面円板の間を通って外気に流出する空気量を等しくしておくことによって、測圧室の圧力Pを測定して紙の平滑度を求めるものであること(83頁左欄〜85頁左欄)、
c.「7.ベックの平滑度と漏洩圧力降下量」の項に、圧力降下式平滑度測定器に同心円環式平面円板を用いたときの測圧室の圧力P、定圧室の圧力Pc、Bekkの秒数TBの間には、TB=K’P/Pc-Pの関係が成立すると考えられること(85頁左欄〜86頁左欄)、
d.「K’の決定」の項に、K’の値はいろいろな立場から定めることができ、測定範囲を定めその上下限の比精度を等しくする方法がその一つであること(86頁左欄)、JIS P8119ではベックの平滑度の上下限をそれぞれ2Sおよび1,800Sとしているが、現在ベックの平滑度が1,800秒をこえる紙も少なくないので、上限を5,000秒まで延長してK’を平方根2×5000、すなわち100として、実際の測定器に与えることとしたこと、PcとK’を定めるとTBとPの関係が求められ、自動的にPの値に対するTBが決定され、測定器に目盛りをきざむことができること(86頁右欄)、
e.「圧力降下式平滑度測定器は約20秒以内で真の平滑度・・・が求められる。・・・圧力降下式平滑度測定器は現在、王研式平滑度測定器という名称で市販されている。」(88頁右欄)ことが記載されている。
乙第5号証には、「平滑度及び透気度試験方法第2部王研法解説」に、
f.「b)目盛り定め 水柱マノメーターの指示値(mm)及び王研式平滑度度(秒)及び王研式透気度(秒)との関係は次の式で表される。
TO=K×P/Pe-P
ここに、TO:王研式平滑度度(秒)及び王研式透気度(秒)
K :定数(中央値)(S)
P :測圧室圧力
Pe:定圧室圧力」
c)測定用空気流入オリフィスの形状 本体の3.3水柱式空気調圧器,及び測定用空気流入オリフィスで規定された内径及び長さを持つオリフィスを使用すると,上記の定数Kは,100になる。上記の定数Kは,本来,オリフィスの形状,空気の粘性係数及びベック平滑度測定器で用いる圧力によって自ずと決まる値であるが,実際には,測定ヘッドの形状及び圧力の違いにより,王研式平滑度とベック平滑度が対応しないので,両者が対応するように実験的にオリフィスの形状を決めている。」と記載されている。
乙第6号証には、王研式透気度・平滑度試験器の特長として、
g.「1.JIS方式の透気度・平滑度試験器に比べ50倍以上の短時間で測定が可能です。・・・
3.数万秒の高秒数から1秒前後の低秒数までの透気度・平滑度を正確に測定することができます。4.紙だけでなく、フィルター、高分子フィルム、不織布等さまざまの製品の透気度、平滑度のテストができます。」と記載され、仕様の欄には、測定単位として「平滑度/ベック秒」と記載されている。
このように、王研式透気度平滑度試験器は、ベック平滑度測定器よりも短時間で、かつ正確に平滑度を測定できること、紙以外の基材についても測定できること、さらに王研式透気度平滑度測定器の測定値とベック平滑度の測定値には相関関係があることは、本件出願の前にすでによく知られているところであるから、甲第2号証に記載の発明において、基材の受容層形成面の平滑度を、JISで規定されるベック平滑度測定法に代えて、王研式透気度平滑度測定器により測定することは当業者が容易になしうることである。

ウ.次に、本件発明1の王研式透気度平滑度測定機で測定した平滑度の範囲について検討する。
乙第4号証ないし乙第6号証に示すように、王研式透気度平滑度測定器では、平滑度が測圧室の圧力で評価されるが、ベック平滑度の秒数との間には相関関係があり、両者が対応するように目盛りを秒数で表示している。
もっとも、乙第4、5号証に記載されているように、王研式平滑度の目盛りを決定する定数K’は上下限の比精度が一致するように定めたものであるから、ベック平滑度の測定値が、ただちに王研式平滑度と一致するとすることはできない。被請求人の提出した試験結果(1)、(3)の結果にも、ベック平滑度と王研式平滑度の値は必ずしも一致しないことが示されており、甲第2号証に記載された表面平滑度(ベツク指数)500〜15,000秒が、王研式透気度・平滑度測定器で測定したときに何秒になるかは明らかではない。
しかし、甲第2号証には、画像の欠けが少ない熱転写シートが求められること、そのために、基材の受容層形成面の平滑度を高くすることが示されているのであるから、王研式透気度・平滑度測定器で測定した平滑度について、画像の白抜けのない鮮明な画像の得られる範囲を求めることは、実験に基づいて容易になしうることである。
そして、本件明細書の記載によっても、王研式透気度平滑度測定器で測定した平滑度を特に3140秒から7590秒のものに限定したことに格別の臨界的意義があるとは認められない。

エ.被請求人は、乙第7号証及び試験結果1を提出して、王研式透気度平滑度測定器で測定した平滑度が3140秒、7590秒のものは、JISに準拠した測定法によるベック平滑度が20,000秒以上であった、あるいは測定不能であったことを示し、弁駁書で、「甲第2号証には、『500〜15000秒程度のものとなるように選定するのが好ましい。』と記載されているように、15,000秒以上の平滑度を排除する記載がされている。これに対して、本件特許発明は乙第7号証に示すように、JISで測定されればそれ以上の表面平滑度(ベック指数)の基材とするものであり、甲第2号証・・・では想定しないものである。」と主張している。
しかし、甲第2号証には、ベック平滑度が高すぎると不都合であることは示されておらず、甲第2号証記載の「〜15000秒程度」が、これを超える範囲を排除するような厳密な上限を示すものでないことも明らかである。
また、JISで規定するベック平滑度測定器で精度よく測定できる範囲は1,800秒程度までであり、しかも、この測定法では必ずしも正しい平滑度を示すとはいえない以上、王研式透気度平滑度測定器で測定した平滑度が3140秒以上のものは、JISに準拠した測定法によるベック平滑度が20,000秒以上であると断定することもできないから、被請求人の主張は採用できない。

オ.したがって、本件発明1は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「昇華型熱転写シート」の構成をすべて含み、さらに「基材の受容層非形成面側にさらに少なくとも一層の支持体が積層されている」ものに限定された発明であるが、甲第2号証に記載の発明は、基材の受容層非形成面側に、本件発明2の「支持体」に相当する「剛性シート」を備えたものであるから、本件発明2と甲第2号証記載の発明と対比すると、相違点は、上記(1)に示した相違点のみである。
そして、上記相違点については、上記(1)で検討したとおりであり、本
件発明2は、本件発明1と同様の理由により甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の「昇華型熱転写シート」の構成をすべて含み、さらに「基材がポリプロピレンからなるもの」に限定された発明であるが、甲第2号証には、基材をポリプロピレンとしたものが記載されているから、本件発明3と甲第2号証記載の発明と対比すると、相違点は、上記(1)に示した相違点のみである。
そして、上記相違点については、上記(1)で検討したとおりであり、本件発明3は、本件発明1と同様の理由により甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
昇華型被熱転写シート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材と、該基材の片面に設けられ熱転写シートから昇華して移行してくる染料及び/又は顔料インキを受容するための受容層を有する被熱転写シートであり、前記基材が発泡体構造を有し且つ該基材の少なくとも受容層形成面の、王研式透気度平滑度測定機によって測定された平滑度が3140秒〜7590秒であることを特徴とする昇華型被熱転写シート。
【請求項2】 基材の受容層非形成面側にさらに少なくとも一層の支持体が積層されていることを特徴とする請求項1記載の昇華型被熱転写シート。
【請求項3】 基材がポリプロピレンからなることを特徴とする請求項1又は2記載の昇華型被熱転写シート。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は熱転写シートと組合せて使用され、熱転写シート中の染料及び/又は顔料インキを加熱転写せしめて情報に応じた記録を行うための昇華型被熱転写シートに関する。
〔従来の技術〕
熱転写記録方式はコンピューター、ワードプロセッサー等のプリンターにおける記録方式として広く利用されているが、その様な熱転写記録方式の一つとして、近年ポリエチレンテレフタレート等の基材の表面に昇華性染料を含む熱転写層を設けた熱転写シートと、該染料に対して染着性をもつ被熱転写シートとを組合せて用い、シアン、マゼンタ、イエロー等の重ね記録を行うことにより天然色写真調の画像等を記録する試みもなされており、例えばCRTディスプレイ上の画像を直接記録する場合等に利用されつつある。
このような記録方法に用いられる被熱転写シートとして、従来よりポリエチレンテレフタレート等の耐熱性の高い樹脂や、ポリプロピレン系の非発泡フィルムの両面にポリプロピレン系樹脂よりなる多孔性の紙状層を積層した三層構造の合成紙を基材として用い、これらの片面に受容層を設けた構成のものが知られている。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながらポリエチレンテレフタレート等を基材とする被熱転写シートは基材の高い剛性によってサーマルヘッドとの密着性が悪くなるため転写画像の濃度が低くなったり、ドットの白抜けがおこり、しかも転写装置におけるシート送りがスムーズに行われない場合があり、この結果印字ズレを生じたり、カラー印字のように何回も重ね印字を行う場合には色ズレを生じ、鮮明度の高い転写画像が得られないという欠点があった。また両面に多孔性の紙状層を有する三層構造のポリプロピレン系の合成紙を基材とする被熱転写シートの場合、平滑性及びクッション性が悪くサーマルヘッドとの密着性が悪くなるためドットの白抜けが起こりやすいという問題点があった。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、転写装置におけるシート送りがスムーズに行なわれ、濃度が高く、ドットの白抜けのない鮮明な転写画像を得ることができる昇華型被熱転写シートを提供することを目的とする。
即ち本発明は基材と、該基材の片面に設けられ熱転写シートから昇華して移行してくる染料、および/または顔料インキを受容するための受容層を有し、かつ上記基材が発泡体構造を有し、かつ平滑度が3140秒〜7590秒であり、王研式透気度平滑度測定機によって測定されたものであることを特徴とする昇華型被熱転写シートを要旨とするものである。
本発明の昇華型被熱転写シートにおける基材は発泡体構造を有するものであり、ここでいう発泡体構造とは、その表面及び内部に無数の微細気泡を含有せしめた構造を示し、それゆえ昇華型被熱転写シートのクッション性が高まるという特徴がある。また、微細気泡を含有することにより、基材の厚さ方向の断熱性が高まりその結果、感度が高くなる。さらに本発明においては受容層形成面の平滑度が1000秒以上である平滑性の高い基材を用いる。
ここで平滑度とは、ある面と、完全に平らに磨かれた平面とが一定の圧力下で接触する割合を、その間を空気の漏れる速さで示したものである。紙の平滑度は一般にこの方式に基づくベック平滑度で測定されるが、本発明における平滑度は、ベック平滑度を一様に相関のある、王研式平滑度計によって測定したものである。
本発明においては、基材のクッション性及び平滑性によってサーマルヘッドとの密着性が向上するので印字濃度が高く、さらにドットの白抜けのない鮮明な転写画像を得ることができる。
これに対して、非発泡の基層の両面に多孔性の紙状層を積層したポリプロピレン系の合成紙等では、基層の影響によりクッション性が本発明で用いる基材に比較して劣り、また、表面の平滑度が1000秒以下と平滑性が低いため、該合成紙を基材として得られた被熱転写シートではサーマルヘッドとの密着性が低下し印字濃度が低くドットの白抜けのある鮮明度の低い画像しか得られない。
また、発泡体構造を有する基材でも平滑度1000秒以下特に500秒以下である場合、表面の凹凸の影響でドットの白抜けが起こり鮮明度の低い画像しか得られない。
本発明の基材は必要に応じてカレンダー処理等を行い表面の平滑性を高めることもできる。
以下、本発明の一実施例を図面に基づき説明する。
第1図は本発明昇華型被熱転写シートの一実施態様を示し、1は基材、2は受容層であり、基材1と受容層2との間には必要により中間層3が設けられ、また必要により基材1の受容層非形成面には支持体4、さらに必要があれば支持体5が設けられている。
なお、平滑度の測定は王研式透気度平滑度測定機(旭精工製KY-5型)にて測定した。
基材1は全体が発泡体構造を有している。発泡体構造は、
▲1▼ 熱可塑性樹脂に無機又は有機微粒子を添加して延伸し、この際微粒子周囲に空隙を発生させる方法、
▲2▼ 熱可塑性樹脂に、それと相溶性の悪い高分子又は低分子物質を混合して延伸し、相溶性の悪さを利用して空隙を発生させる方法、
▲3▼ 合成樹脂の有機溶媒溶液をオリフィスから押出し、次いで凝固浴中に導入して脱溶媒して凝固させ、溶媒の離脱による空隙を発生させる方法、
▲4▼ 樹脂を発泡剤とともにオリフィスより押出し発泡させる方法、
等により得られ、▲4▼の方法により製造する場合、気泡径の小さいものが特に好ましい。
基材1の材質としてはポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド(例えば6-ナイロン等)、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリエチレン等があげられるがこれらに限定されるものではない。
基材1の厚さは30〜200μ程度が望ましい。
受容層2の材質としては、従来からこの種の昇華型被熱転写シートの受容層に使用されているものであればどの様なものであっても使用することができ、例えば、下記(a)〜(e)の合成樹脂を単独で、若しくは2種以上混合して使用できる。
(a)エステル結合を有するもの。
ポリエステル樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレンアクリレート樹脂、ビニルトルエンアクリレート樹脂。
(b)ウレタン結合を有するもの。
ポリウレタン樹脂等。
(c)アミド結合を有するもの。
ポリアミド樹脂(ナイロン)。
(d)尿素結合を有するもの。
尿素樹脂等。
(e)その他極性の高い結合を有するもの。
ポリカプロラクトン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等。
あるいは受容層2は飽和ポリエステルと塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体との混合樹脂により構成されてもよい。
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂は、塩化ビニル成分含有率85〜97重量%で、重合度200〜800程度のものが好ましい。又、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体成分のみの共重合体である場合にかぎらず、ビニルアルコール成分、マレイン酸成分等を含むものであってもよい。
更にスチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン、無水マレイン酸共重合体等、スチレン系共重合体、塩ビ-アクリルブロック共重合体にスチレンをグラスト重合させた塩ビ-アクリル-スチレン共重合体等て構成することもできる。また受容層2中には必要により紫外線吸収剤や酸化防止剤、可塑剤、シリコーンオイル等の離型剤を含有させることができる。更に必要に応じて受容層2の表面の一部又は全面にシリコーンオイル等よりなる離型剤層を設けてもよい。離型剤としてはポリエチレンワックス、アミドワックス、テフロンパウダー等の固形ワックス類、弗素系、燐酸エステル系の界面活性剤、シリコーンオイル等が挙げられるがシリコーンオイルが望ましい。
上記シリコーンオイルとしては油状のものも用いることができるが、硬化型のものが好ましい。硬化型のシリコーンオイルとしては、反応硬化型、光硬化型、触媒硬化型等が挙げられるが、反応硬化型のシリコーンオイルが特に望ましい。反応硬化型シリコーンオイルとしては、アミノ変性シリコーンオイルとエポキシ変性シリコーンオイルとを反応硬化させたのもが好ましい。これら硬化型シリコーンオイルの添加量は受容層を構成する樹脂100重量部に対し0.5〜30重量部が好ましい。
又、受容層の表面の一部又は全部に上記離型剤を適当な溶媒に溶解或いは分散させて塗布した後、乾燥させる等によって離型剤層を設ける場合、離型剤層を構成する離型剤としては前記したアミノ変性シリコーンオイルとエポキシ変性シリコーンオイルとの反応硬化物が特に好ましい。離型剤層の厚さは0.01〜5μm、特に0.05〜2μmが好ましい。離型剤層は受容層の表面の一部に設けても、或いは全面に設けても良いが受容層表面の一部に設けた場合、離型剤層の設けられていない部分にはドットインパクト記録、感熱溶融転写記録や鉛筆等による記録を行うことができ、離型剤層の設けられた部分に昇華転写記録を行い、離型剤層の設けられていない部分に他の記録方式による記録を行う等、昇華転写記録方式と他の記録方式とを併せて行うことができる。熱転写シートの熱転写層中又はその表面に離型剤を含有せしめた場合には、受容層には離型剤を用いなくてもよい。又、本発明では基材と受容層との間に中間層を設けることも可能である。
中間層はJIS-K-6301に規定される100%モジュラスが100kg/cm2以下である樹脂を主とするものであり、ここで前記100%モジュラスが100kg/cm2を越えると、剛性が硬すぎるためにこのような樹脂を用いて中間層を形成しても熱転写シートと被熱転写層の印字の際の充分な密着性は保たれない。又、前記100%モジュラスの下限は実際上、0.5kg/cm2程度である。中間層は基材と受容層との接着性改良層をかねても良い。
上記の条件に合致する樹脂としては次のようなものが挙げられる。例えばポリエステル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン樹脂、スチレン系共重合体等の樹脂により構成することができる。中間層3を設けると、このクッション性によって更に印字濃度を高めることができる。
また、本発明においては受容層の白色度を向上して転写画像の鮮明度を更に高めるとともに昇華型被熱転写シート表面に筆記性を付与し、かつ転写された画像の再転写を防止する目的で受容層、中間層、プライマー層などの昇華型被熱転写シートを構成する層の少なくとも一層中に白色顔料および/または螢光増白剤、染料等を添加することもできる。白色顔料を添加することにより、より鮮明度が高く、耐熱性、耐湿性に優れた画像の転写が行い得る。又、受容層、クッション層等の樹脂の積層による樹脂特有の色(黄ばみ)で基材のもつ白色度光沢が損なわれるのを防止することができる。
白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリンクレー等が用いられ、これらは2種以上混合しても用いることができる。白色顔料の添加量は受容層、中間層、プライマー層等を構成する樹脂100重量部に対し5〜50重量部が好ましい。
また、基材と受容層または中間体または支持体との密着力が乏しい場合にはその表面にプライマー処理やコロナ放電処理を施すのが好ましい。
支持体4は、シートの転写装置におけるシートの送行性向上のために必要によって設けるもので、支持体4としては、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系等)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙等、セルロース繊維紙、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリカーボネート等の各種のプラスチックのフィルム又はシート等が使用でき、又、これらの合成樹脂にチタンホワイト等の白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルム或いは発泡させた発泡シート等も使用でき特に限定されない。
支持体4を合成樹脂フィルム、白色合成樹脂フィルム、発泡シート等で構成する場合、基材1と同材質の樹脂により構成しても、異材質の樹脂により構成してもよい。特に好ましくは、支持体4としてセルロース繊維紙を用いる場合である。この場合、発泡体構造を有するプラスチックシートの熱的な不安定さ(伸縮など)をセルロース繊維紙が補い、かつ、感度の高いザラツキ、白抜けの少ない良好な印字画象を得ることができる。又、上記セルロース繊維紙の下面にさらに支持体5として、発泡プラスチックシートを用いると、表裏のバランスがとれ、印字の際の熱カールの少ない昇華型被熱転写シートを得ることができ好ましい。
また、支持体4がアート紙、コート紙等の天然紙であるような場合、空気中の水分が支持体4に含有されて、基材、受容層を含む昇華型被熱転写シートがカールしてしまうことがあるためこれを防止する目的で支持体5をさらに設けることもできる。
支持体4又は支持体5は基材1に対して剥離自在に積層しておけば、転写時には転写装置におけるシートの送行性を向上することができるとともに、転写後には剥離する等の使用法方可能である。支持体4を基材1に対して剥離自在に積層するには両者を弱粘着剤によって貼合せるか、支持体表面に離型処理を施し、基材1の受容層非形成面に強粘着剤、感熱接着剤等を塗布、乾燥させた後、貼り合せる方法が採用でき、後者の場合には支持体を剥離した基材1(受容層には画像がすでに転写されている。)を粘着剤つきラベルとして用いることもできる。
また基材1または支持体4または支持体5には熱転写時の転写装置における位置決め用の検知マークを印刷しておくこともできる。
また、基材1または支持体4または支持体5の裏面には通紙性向上のために例えばアクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂等よりなる滑性層を形成したり、界面活性剤等により帯電防層を形成することができる。滑性層には滑剤を含んでよい。
本発明の受像シートは、基材シートを適宜選択することにより、熱転写記録可能な昇華型被熱転写シート、IDカード等のカード類、ラベル、シール、葉書、荷札等の各種用途に適用することも出来る。
以下、具体的実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
尚、文中、部又は%は特に断りのない限り重量基準である。
実施例1
厚さ50μ、密度0.65g/cm3の;発泡ポリプロピレンフィルム(平滑度3140秒)(東洋紡績(株)製、トヨパールSS、P4256)を基材として、この上に下記組成の受容層形成用組成物をミヤーバーで塗布、乾燥して(乾燥後の塗布量6g/m2)受容層を形成し昇華型被熱転写シートを得た。
受容層形成用組成物
ポリエステル樹脂(バイロン200:東洋紡製) 70重量部
ポリエステル樹脂(バイロン290:東洋紡製) 30重量部
アミノ変性シリコーン(KF-393:信越化学工業製) 5重量部
エポキシ変性シリコーン(X-22-343:信越化学工業製) 5重量部
メチルエチルケトン 350重量部
トルエン 350重量部
一方片面に熱硬化アクリル樹脂からなる耐熱滑性層を設けた厚さ4.5μのポリエステルフィルム(ルミラー:東レ製)を基材とし、この基材の耐熱滑性層を設けた側と反対則の面に下記組成の熱転写層形成用インキ組成物を各々乾燥後の塗布量が1g/m2となるように塗布して熱転写シートを得た。
熱転写層形成用シアンインキ組成物
分散染料(カヤセットブルー714:日本化薬製) 5部
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX-1:積水化学製) 4部
メチルエチルケトン 46部
トルエン 45部
熱転写層形成用マゼンタインキ組成物
分散染料(MS Red G:三井東圧化学製)(ディスパースレッド60)
2.6部
分散染料(Macrolex Violet R:バイエル製)(ディスパースバイオレット26)
1.4部
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX-1:積水化学製) 4.3部
メチルエチルケトン 45部
トルエン 45部
熱転写層形成用イエローインキ組成物
分散染料(Macrolex Yellw 6G:バイエル製)(ディスパースイエロー201)
5.5部
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX-1:積水化学製) 4.5部
メチルエチルケトン 45部
トルエン 45部
この熱転写シートを前記昇華型被熱転写シートとともに用い、ドット密度6ドット/mmのサーマルヘッドを有するカラービデオプリンター:VY-50(日立製作所製)で下記の条件で印字を行なった後、マクベス色農度計RD-918を用いてシアンの反射濃度を測定したところ1.95であった。また印字濃度は印字面全体に亘って均一であり、ドットの抜けも見られず3色ともに印字濃度が高く、ガサツキ、3色の色ズレ、地合いムラのない良好な転写画像が得られた。更にパルス幅を変えてヘッドに印字する電気エネルギーをコントロールすることにより、任意の印字濃度を再現性よく得ることができた。
印字条件
印字速度 :33.3ms/行
送りピッチ :0.166mm
パルス幅 :12.0ms
ヘッド印加電圧 :11.0V
実施例2
発泡体構造を有するポリプロピレンフィルム(東レ製;トレファンBOYP22,厚さ35μ,平滑度7590秒)を基材とし、下記の中間層形成用組成物をミヤバーで塗布乾燥した(乾燥後の塗布量5g/m2)。
中間層形成用組成物
ポリエステル樹脂(バイロン200:東洋紡製) 60部
ポリエステル樹脂(バイロン600:東洋紡製) 40部
溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=1/1) 650部
次いで、上記の如くして形成した中間層の上に下記組成の受容層形成用組成物をミヤーバーで塗布、乾燥し(乾燥後の塗布量5g/m2)、受容層を形成した。
受容層形成用組成物
ポリエステル樹脂(東洋紡製:バイロン200) 70部
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(ユニオンカーバイド製:Vinylite VYHH)
30部
アミノ変性シリコーン(信越化学工業製:KF-393) 7部
エポキシ変性シリコーン(信越化学工業製:X-22-343) 7部
溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=1/1) 700部
更に受容層を形成した基材の受容層非形成面に粘着剤(大日本インキ化学工業(株)製:ファインタックSPS-1002)を塗布、乾燥させ(乾燥後の塗布量約20g/m2)、市販の離型紙の離型処理面に貼合わせて昇華型被熱転写シートとした。
この昇華型被熱転写シートに実施例1と同様の印字を行なった結果、画像濃度も高く、ドットの白抜けのなく、しかも3色の色ズレもなかった。このシートは離型紙を剥離して装飾ラベルとして好適であった。
実施例3
基材を、発泡体構造を有するポリプロピレンフィルム(東洋紡績(株)製トヨパールSS、P4256、厚さ50μ、密度0.65g/cm3、平滑度3140秒)とし、基材の片面に第1の支持体としてコート紙(神崎製紙(株)製ニュートップ、厚さ60μ)を貼着し、さらに前記第1の支持体の基材貼着面の反対面側に基材と同一の発泡体構造を有するポリプロピレンフィルムを第2の支持体として貼着した。片面に実施例1と同様に受容層を設け得た昇華型被熱転写シートを、実施例1と同様にして印字を行った結果印字濃度が高く、ドットの白抜け、三色のずれ、印字カールのない昇華型被熱転写シートを得た。
比較例1
基材を非発泡の白色ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ100μ、密度1.42、平滑度643秒、東レ(株)製:E-20)とした他は実施例1と同様にして得た昇華型被熱転写シートに実施例1と同様にして印字を行なったところ、実施例1に比べて印字濃度が低く、中間調画像のドットの白抜けがあり、また3色の色ズレも認められた。
比較例2
基材を非発泡のポリプロピレンフィルムの両面にポリプロピレン系の樹脂よりなる多孔性の紙状層を積層した合成紙(王子油化(株)製、YUPO FPG150厚さ150μ、密度0.77g/cm3、平滑度326秒)とした他は実施例2と同様にして得た昇華型被熱転写シートに実施例1と同様にして印字を行ったところ、実施例2に比較して印字濃度が低く、中間調画像のドットに白抜けが認められた。
比較例3
基材を発泡性塩化ビニリデンを積層した合成紙(神崎製紙(株)製;厚さ100μ,密度0.86g/cm3、平滑度923秒)とした以外は実施例1と同様に受容層を設け得た昇華型被熱転写シートを実施例1と同様に印字を行った結果、印字濃度が低くドットの白抜けのある、不鮮明な転写画像しか得られなかった。
比較例4
基材を発泡体構造を有するポリプロピレンフィルム(東レ;トレファンBOYP56,厚さ35μ,平滑度470秒(易接着処理面))とした他は実施例2と同様にして得た昇華型被熱転写シートに実施例1と同様に印字を行ったところ、実施例2に比較して画像面の白抜けが多く、特に低濃度印字部のザラつきがひどかった。
〔発明の効果〕
本発明の昇華型被熱転写シートは、基材のクッション性と平滑性によって、転写装置におけるシート送りがスムーズであり、またサーマルヘッドとの密着性が向上するため印字濃度が高く、さらにドットの白抜けのない鮮面な転写画像が得られるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例を示す縦断面図である。
1……基材、2……受容層、3……中間層、4……支持体、5……支持体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-04-13 
出願番号 特願平1-83890
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B41M)
P 1 113・ 113- ZA (B41M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 秋月 美紀子
山口 由木
登録日 1999-06-18 
登録番号 特許第2940928号(P2940928)
発明の名称 昇華型被熱転写シート  
代理人 内田 亘彦  
代理人 青木 健二  
代理人 韮澤 弘  
代理人 菅井 英雄  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 内田 亘彦  
代理人 韮澤 弘  
代理人 米澤 明  
代理人 青木 健二  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 菅井 英雄  
代理人 米澤 明  

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