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審決分類 |
審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認める。無効としない H02J 審判 一部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 訂正を認める。無効としない H02J 審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正を認める。無効としない H02J 審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正を認める。無効としない H02J 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない H02J |
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管理番号 | 1119980 |
審判番号 | 無効2003-35430 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-07-07 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-10-10 |
確定日 | 2005-06-14 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2667054号発明「誘導電力分配システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)出願日(国際出願日) 平成4年2月5日 (優先権主張 優先日 平成3(1991)年3月26日 (優先権主張国 NZ、優先権主張番号237572) 同 平成3(1991)年7月1日 (優先権主張国 NZ、優先権主張番号238815) 同 平成3(1991)年9月19日 (優先権主張国 NZ、優先権主張番号239862)) 設定登録 平成9年6月27日 特許公報発行日 平成9年10月22日 (登録時の明細書・図面を、以下「訂正前の明細書・図面」という。) (2)特許異議申立 平成10年4月21日と平成10年4月22日 訂正請求書 平成11年2月12日 (以下、「前回訂正請求書」という。) 訂正を認めて維持決定 平成11年7月12日起案(請求項22と28) (「前回訂正請求書」に添付した訂正明細書を以下「特許訂正明細書」という。) (3)無効審判請求 平成15年10月10日 (請求人 神鋼電機株式会社、アシストシンコー株式会社) 請求書副本発送 平成15年11月4日 (送達日 平成15年11月5日) (指定期間 請求書副本発送の日から3ヶ月以内) 訂正請求書 平成16年1月14日 (以下、「本件訂正請求書」という。) (本件訂正請求書に添付した訂正明細書を以下「本件訂正明細書」という。) 答弁書 平成16年2月3日 弁駁書 平成16年3月24日 2.審判請求人の主張の概要 (1)請求の趣旨 請求人は、本件特許第2667054号の請求項22に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の無効審判を請求し、証拠方法として後記(「5.(1)」参照)の書証を提示し、以下の理由により無効にされるべきであると主張している。 (1-1)《無効理由A;訂正要件違反1》 請求項22に係る特許発明(以下、本件特許という)についてなされた訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされていない。したがって本件特許は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項に規定する要件を満たしていない訂正をしたものであるから、同法第123条第1項第8号の規定により、無効とすべきである。 (1-1-1)訂正要件違反1の理由の概要 (ア)本件特許は、前回訂正請求書により、請求項22について、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」との文言を追加する訂正がなされている。 (イ)ここで上記文言のうち、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は」という材料の配設場所に関する記載は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていない。 (ウ)当初明細書19頁22-23行(特許公報9頁17欄11-12行)に、「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」との第1記載がある。 この全ての材料に対応する説明部分は、当初明細書19頁13-21行(特許公報9頁17欄1-10行)の「(10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。側面(10104)は延長部(10106),(10107)により支持部材の取付けに適するようになっており、側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは、リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは図9に関して示すように、隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。」との第2記載である。この第2記載は、図10のうち、可動部であるフェライトコア(10102)を除いた固定部について説明したものである。この固定部のうち、支持部材(10101)は、アルミニウム押出品と材料が特定され、隔離絶縁体(10112)と(10113)は、絶縁体と材料が特定されているが、その他の部分についての材料の言及がない。固定部分のうち残った部材として、支持部材(10114)がある。第1記載は、この残った支持部材(l0ll4)に対して、プラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましいと、説明しているものと理解することができる。 これらの第1記載、第2記載、及び図10の記載には、ピックアップコイルに対向する側に配設される部材の全てが、プラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましいということは記載されているものの、ピックアップコイルの両凹部に対向する面という奥行きを問わない特定面の材料については何らの記載もない。 (エ)当初明細書19頁23行-20頁4行(特許公報9頁17欄12-19行)に、「もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは、数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており、この結果として使用時発生する渦電流が磁束のそれ以上の透過を防ぐ役目をし、従って鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最少にする。」との第3記載がある。 この第3記載は、1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置する鉄材料のアルミニウム被覆の有利性を述べるのであるが、第1記載のように全ての材料をプラスチックのような非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であるものとすることができない例外的な場合のことを述べている。この例外的な記載から、アルミニウムという材料を非導電性材料又は非鉄金属まで拡大し、しかもピックアップコイルの両凹部に対向する面にまで適用範囲を拡張して、対向面を非導電性の材料又は非鉄金属で形成するという形態を当業者は想到することはできない。 仮に、ピックアップコイルの両凹部に対向する面に至る部材まで適用が拡張できるとして、奥側に鉄材料があって、その鉄材料をしゃ蔽するためのアルミニウム被覆を設けるという周知の事項に至るだけである。奥側の材料を問わずに、単にピックアップコイルの両凹部に対向する面に配設される広範囲の材料(非導電性の材料又は非鉄金属)の構成を示唆するものではない。 (オ)そして、当初明細書及び図面に記載のない「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属により形成されている」とすることより、対向する面より奥側に配設される部材の材質を問わないということになり、「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」という当初明細書及び図面に記載範囲を逸脱することになる。 (カ)このように、前回訂正請求書により追加された「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」は、当初明細書及び図面の記載範囲のものではなく、特許法第126条第2項に規定する要件を満たしていない訂正であるから、特許法第123条第1項第8号の規定により、無効とすべきである。 (1-2)《無効理由B;訂正要件違反2》 訂正に係る本件特許は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。したがって本件特許は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たしていない訂正をしたものであるから、平成11年改正前の同法第123条第1項第8号の規定により、無効とすべきである。 (1-2-1)訂正要件違反2の理由の概要 (ア)本件特許は、前回訂正請求書により、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属材料により形成されていること」という構成を付加する。そして、平成12年7月12日付け異議申し立てについての決定13頁において、『請求項22、27および28に係る発明が、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属により形成されている」点で、刊行物1-11記載の発明とは相違する。』として、訂正を認めて特許を維持する決定がなされた。 しかし、第1に、刊行物11(“Some Problems Related to Electric Propulsion”1966.11.1発行,Massachusetts Institute of Technology)(甲第1号証)との構成の対比が正確ではなく、構成の対比を正確に行えば、本件特許と刊行物11との構成の差異はない。また、第2に、誤った効果が参酌されない場合、本件特許には刊行物11と対比して特有の効果もない。従って、本件特許は、刊行物11に記載された発明と同一であって新規性がなく、本件特許の訂正は、独立特許要件を充足せず、認められるべきではない。 (イ)上記第1の点について フェライトは、甲第9号証(「改訂5版 金属便覧」、平成2年丸善株式会社発行)の697頁右欄22-23行の記載によると、「Fe203を主成分とするフェリ磁性酸化物」であり、同甲第9号証の698頁の表10・15によると、フェライトの抵抗率(ρ〔Ω・m〕は、0.05〜2×104の範囲にあり、このような電気抵抗の範囲を有する材料は、甲第10号証(「テクノシステム」第6巻第123頁、平成元年株式会社電気書院発行)によると、導体(10-8〜10-4Ω・m)、半導体(10-4〜104Ω・m)、絶縁体(108〜1016)のうちの、半導体に属する。フェライトは、金属酸化物であって、金属ではなく、本件特許でいう非鉄金属の範囲外であるが、フェライトは、半導体であって、導体ではないので、本件特許の非導電性の材料が、導体以外の半導体及び絶縁体を含むものとすると、フェライトは、非導電性の材料に該当する。 すると、刊行物11のフェライト板は、本件特許でいう非導電性の材料により形成されているとするべきであって、本件特許の「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属材料により形成されていること」という構成と刊行物11との構成には差異はない。 (ウ)上記第2の点について 平成11年2月12日付け特許異議意見書4頁4-14行において、「『-次導電路の…前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属により形成されていることにより、一次導電路の導体が発生する磁界により、添付参考図の如くコア側に磁路が形成され、よってエネルギーロスを防止でき、かつ外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止でき、作業員の安全を確保でき(前記加熱された鉄片による火傷から作業員を守ることができる等)、さらにこの面上に金属体(鉄片など)が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ない、』という優れた効果を有しております。」として、同意見書に参考図を添付し効果を述べている。しかしこれは、非導電性材料と非鉄金属とでは、磁力線の分布が全く異なるものを同一の磁力線分布であるとする点において誤っている。即ち、プラスチックの場合は、空気と同様に電磁的に影響するものでもなく影響されるものでもないので、磁力線はE型コアの開放側に自由放散されるのに対し、アルミニウムの場合は、アルミニウム内の誘導電流による反作用磁力線の効果により、アルミニウムの対向面上の背後には磁力線は透過しないのであって、E型コアの凹部対向面がプラスチックの場合とアルミニウムの場合では磁力線分布が全く異なるものを同一図で示すことは誤りである。 そして、空気と同じであるプラスチックなどの非導電性材料は、磁力線は自由放散するので、該磁力線が鉄片を加熱するという影響を防止することはできず、また面上におかれた金属体(鉄片など)への影響に対してもプラスチックが何の防止効果ももたないことは明らかである。 また、アルミニウムなどの非鉄金属の場合は、コアの両凹部に対向する面上に面に平行な磁力線がむしろ凝集するので「面上に金属体(鉄片など)が置かれたとき」該金属体(鉄片など)は高周波誘導加熱されるのであるから、アルミニウムがその面上の鉄片などの加熱防止効果があるとは言えない。 したがって、上記意見書の上記効果の主張は、根拠が無く誤りである。 (エ)そこで、本件特許の効果を検討する。当初明細書19頁22-23行(特許公報9頁17欄11-12行)の第1記載に、本件発明の「非導電性の材料又は非鉄金属により形成されていること」に対応して、「全ての材料はプラスチックのような非導電性材料かアルミニウムのような非鉄金属であることが好ましい。」と記載されている。 そして、「非導電性の材料」のうち、プラスチックのように絶縁材料であると、材料自体が高周波誘導加熱されることがないため、材料自体が加熱される鉄材などに比較して、そのエネルギーロスを防止でき、「非鉄金属」のうち、アルミニウムのように非磁性良導電体金属であると、誘導電流がアルミニウム内に流れるとしてもその損失は小さいので、材料自体が加熱される程度の大きな鉄材などに比較してエネルギーロスを低減できるのであり、 本件特許は、「非導電性の材料又は非鉄金属」のうち、「プラスチックのような非導電性材料かアルミニウムのような非鉄金属」を選択すると、自ら高周波誘導加熱されることなく、鉄材に比較してエネルギーロスを防止できるか、又は誘導電流による損失が少ないので、鉄材などに比較してエネルギーロスを低減できるという、当業者にとってごく当然の効果を奏するだけである。 (オ)前述したように、刊行物11のフェライトは、金属酸化物であるとともに半導体であるフェライトであって、本件特許の非導電性の材料に該当する。すなわち、本件特許と刊行物11とは構成が一致する。 そして、本件特許が、高周波誘導加熱で発熱しない又は発熱しにくい材料を選択することにより、エネルギーロスを防止又は減少させるという効果を奏するとしても、刊行物11のフェライトも、鉄材料の場合に比較して、高周波誘導加熱で発熱しにくい材料であって、エネルギーロスを減少させるという、同様の効果を奏する。 すなわち、半導体材料であるフェライトは、磁性を有し導電率が低い材料であって、磁路材として良く磁力線を閉じ込めたとしても自らの発熱は少ない材料である。また、フェライトの背後に部分的に鉄材がある場合、その鉄材の加熱を防止する。 (カ)また、どうしても配置しないといけない鉄材料を、特にアルミニウム被覆した場合には、遮蔽されない鉄材料だけの場合よりエネルギーロスが少なくなるという効果を一実施形態が奏するとしても、刊行物11のフェライト板も、その下面に導電接地板が配置されており、この導電導電板により更に下面に位置するかもしれない鉄材料におけるエネルギーロスを最小化している。そして導電接地板の代表例はアルミニウム板である。 (キ)従って、自ら発熱しにくい材料を選定するという本件発明の効果は刊行物11の有する効果と同じであって、鉄材料をアルミニウムで覆ってエネルギーロスを最小化するという一実施形態の効果も刊行物11の有する効果と同じである。 そのため、本件特許と刊行物11は、構成、効果とも同一であって、本件特許に新規性がなく、独立特許要件を充足しない。 (ク)このように、平成11年2月12日付けで提出された訂正請求書により特定される本件特許は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって本件特許は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たしていない訂正をしたものであるから、平成11年改正前の同法第123条第1項第8号の規定により、無効とすべきである。 (1-3)《無効理由C;請求の範囲の記載要件違反1》 本件特許は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分されたものではない。したがって本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に違反するものであり、平成6年改正前の同法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきである。 (1-3-1)訂正要件違反3の理由の概要 (ア)請求項の不明瞭記載について 「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属により形成されている」との規定のうち、「非導電性の材料又は非鉄金属」の規定は、「非導電性の材料」という否定命題と「非鉄金属」という否定命題との論理和集合となっている。否定命題の論理和集合であるため、論理的に周縁のない集合であって、発明の外縁が定まらず、発明が不明確となっている。 非導電性の材料とは、導電性の材料でない材料であるが、その外縁が定まらず、発明が不明確になる。 非鉄金属は、鉄でない金属である。単なる非鉄金属では、鉄以外の金属のどこまでを包含するのかその外縁が定まらず発明が不明確になる。 (イ)必須要件の記載の記載不備について ニッケルやコバルトは非鉄金属であるが、磁性、導電性ともに鉄に近い特性を有するので、高周波磁界中では鉄と同様の被加熱特性を有する。したがって、非鉄金属であるからといって、高周波誘導加熱で自ら発熱しにくいという作用効果を奏するとは言えない。 このように、本件発明でいう非導電性の材料又は非鉄金属の範疇には、高周波誘導加熱で自ら発熱しない又は発熱しにくいという効果を奏することがない材料を含むものであって、発明の目的を達成するため及び発明の効果を奏するために必要不可欠と認められる技術的手段が必須要件項に記載されているとは言えない。 (ウ)以上述べたように、「非導電性の材料又は非鉄金属」の規定は、不明瞭記載であるとともに、発明の目的を達成するため及び発明の効果を奏するために必要不可欠と認められる技術的手段を必須要件項に記載したものではない。したがって、本件特許は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分されたものではなく、本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に違反するものであり、平成6年改正前の同法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきである。 (1-4)《無効理由D;請求の範囲の記載要件違反2》 本件特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号の規定に違反するものであり、平成6年改正前の同法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきである。 (1-4-1)訂正要件違反4の理由の概要 (ア)本件特許は、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」を要件とする。 この要件のうち、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は」という材料の配設場所に関する記載は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていない。 (イ)(1-1-1)で述べたことと同様に、ピックアップコイルに対向する側に配設される材料の全てが、プラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましいということは記載されているものの、ピックアップコイルの両凹部に対向する面という奥行きを問わない特定面の材料については何らの記載もない。 そして、当初明細書及び図面に記載のない「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属により形成されている」とすることより、対向する面より奥側に配設される部材の材質を問わないということになり、「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」という当初明細書及び図面に記載範囲を逸脱することになる。 (ウ)このように、構成要件「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」は、当初明細書及び図面の記載範囲のものではない。特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号の規定に違反するものであり、平成6年改正前の同法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきである。 (1-5)《無効理由E;進歩性なし》 本件特許は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。したがって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。 (1-5-1)訂正要件違反5の理由の概要 (ア)本件特許は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。したがって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。 (イ)請求項22に係る発明(本件特許)と証拠に記載された発明との対比 (イ-1)甲第1号証には、下記の構成が開示されている。 A 電源(Balanced voltage source(平衡電圧供給源)) B 電源に接続された一次導電路(Two-wire transmission line(2-線電送ライン))、 C 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイル(Output winding(出力巻線))を有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有る電気装置(Vehicle(車両))と、を備え、 D 前記一次導電路は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体(Two-wire transmission line,(2線電送ライン))により形成され E 前記電気装置のピックアップコイルのコアをE字状に形成し、前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し、前記一対の導体がそれぞれ、前記コアの両凹部内で、かつそれぞれの凹部の中央付近に位置するように配置され(Induction pickup(誘導ピックアップ))、 F 前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する側に配置された部材は、薄いフェライト板で覆われた導電接地板により形成されていること(薄いFerrite strip(フェライト板)で覆われたConducting ground strip(導電接地板)) G を特徴とする誘導電力分配システム(Induction pickup system(誘導電力分配システム))。 (イ-2)本件特許と甲第1号証の発明を対比すると、 本件特許は、凹部のほぼ中心に一次導電体を配設するのに対して、甲第1号証の発明は、凹部の中央付近に一次導電体を配設するという、配設位置の違いがある(第1相違点)。 また、本件発明は、両凹部に対向する面が、非導電性の材料または非鉄金属であるのに対して、甲第1号証の発明は、薄いフェライト板で覆われた導電接地板とする、両凹部に対向する側の部材が、単体構造か複合構造かの違いがある(第2相違点)。 (イ-3)第1相違点の検討 本件発明の両凹部のほぼ中心は、明細書に明示の記載がなく、図10の図示だけに基づくものである。一方、甲第1号証の両凹部のほぼ中央も、図6-1の図示だけに基づくものである。すなわち、この第1相違点は、程度問題の差にすぎない。このような程度問題の変更は、当業者が必要に応じて適宜行う程度のことにすぎない。 (イ-4)第2相違点の検討 本件特許の「両凹部に対向する面に、非導電性の材料または非鉄金属で形成する」という構成の記載は、開示の範囲を超える部分を含むとともに、不明瞭記載であり、そのままでは対比判断に供することができない。 そこで、「両凹部に対向する面に」は、「両凹部に対向する側に配設される部材に」と、開示の範囲に沿って解釈するとともに、「非導電性の材料または非鉄金属」は、「アルミニウム又はプラスチック」と解釈して、甲第1号証と対比する。 「両凹部に対向する面に」を、「両凹部に対向する側に配設される部材に」と解釈する理由は、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面」に関する記載はなく、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する側に配設される部材」のことしか記載がないからである。 「非導電性の材料または非鉄金属」を、「アルミニウム又はプラスチック」と解釈する理由は、高周波誘導加熱で自ら発熱しない又は発熱しにくい材料であるという効果を奏する材料は、これしか記載がなく、「非導電性の材料又は非鉄金属」では不明確かつ必須構成要件を記載したことにならないからである。 すると、前記第2相違点は、両凹部に対向する側に配設されている部材が、甲第1号証では、薄いフェライト板で覆われた導電接地板であるのに対して、本件特許は「アルミニウム又はプラスチック」とするという、複層構造または単層構造の差となる。なお、導電接地板を形成する導電体には当然にアルミニウムが含まれることは当業者にとって自明のことである。 (1-2-1)(エ)で説明したように、本件特許は、アルミニウム又はプラスチックとすることで、高周波誘導加熱で自ら発熱しない又は発熱しにくく、それにより、エネルギーロスを防止又は低減するという周知の効果を奏するにすぎない。 甲第1号証の導電接地板は、まさにこのような効果を奏するために設けられている。フェライト板の下部材料である導電体は、フェライト板から漏れる磁力線を遮蔽するために設けられていることは、当業者には当然に判ることである。甲第1号証50頁10〜12行に「A conductor under the ferrite provides a low loss ground plane and minimizes the external field of the line.(フェライトの下の導電体は、低損失の接地面を提供し、線路(電送線)の外部場(外部磁場)を最小化する。)」と記載され、フェライトの下の導電体が、ロスの少ない接地面を与え給電線からの外部磁界を最小化する効果が明記されている。 また、甲第1号証50頁7〜10行に「The height of the transmission line above ground is made large enough to minimaize power losses in the ferrite strip when the pickup is not present, ...(ピックアップが存在しない時にフェライト面での電力損失を最小化するのに十分で、線路の特性インピーダンスを最小化するのに十分な高さにされる。)」と記載されているように、フェライト板は一対の導体による磁界の影響を受けない位置に配設されている。 このフェライト板を設ける意義は、E型コアの凹部側に回る磁力線であって、導電体で遮蔽された磁力線をフェライト板を介して密に周回させ、磁路を閉じ込めて自らの発熱を少なくすることにより、エネルギーロスを低減させることにある。この意義は当業者が自明に想到できることである。 以上のことから、甲第1号証においても、導電接地板が低損失の接地面を提供し、線路(電送線路)の外部場(外部磁場)を最小化するものであって、本件特許と同様の効果を奏している。そして、甲第1号証においては、磁路を閉じ込めて自らの発熱を少なくすることにより、エネルギーロスを低減させるために、薄いフェライト板を更に付加している。 本件特許は、エネルギーロスの観点から多少不利になっても、甲第1号証に開示された発明のうちフェライト(板)を省略して、導電体だけで磁力線遮断を行うという簡素化された通常の構成としたものにすぎない。 したがって、本件特許の構成は、甲第1号証に内在している構成であって、甲1号証の記載から当業者が容易に想到できる。 (イ-5)高周波誘導加熱による発熱を減少させるために、アルミニウムなどの導電体で遮蔽する構造は、甲第6号証に示されるように周知のことである。 また、甲第2号証には、リニアモータ駆動の高速列車のための誘導型反作用レールをアルミニウム合金を押出形成して製造する構成が記載されており、甲第8号証には、LIM(リニアモータ)式立体搬送システムにおけるレールにアルミの押出成形品が用いられることが記載されている。 甲第3号証には、U字状のフェライトコアのコア脚部間にピックアップコイルが巻かれるピックアップ組立体の開口部分が対向する面に、カバー45及びベース46を有する絶縁物質のトラックハウジング44が存在する構成が記載されている。甲第4号証は甲第3号証の基になった論文であるが、その659頁図12には、パワートラックの磁力線がベースに対して遮蔽される様子が磁力線解析図として示されている。このような磁力線となるためには、べースはアルミニウムのような導電体板でなければならない。ベースをアルミニウムとし給電線ステーをフェライトした場合の磁力線のシミュレーション図である添付図4の磁力線は、659頁図12の磁力線とほぼ一致する。 また、甲第5号証には、給電線を電波シールド材で覆う技術が開示され、その材料としてアルミや銅が挙げられ.その適用として非接触給電への適用も開示されている。また、甲第7号証の導電路を支持する面は磁気遮蔽等のために非鉄床材で覆われる。 このように、高周波誘導加熱を低減するために磁力線をアルミ等の導電体で遮蔽する構造は周知のことであるから、甲第1号証の「フェライト板で覆われた導電接地板」の構成から、「フェライト板」を省略して「導電接地板板」だけの構成とすることは、ごく普通の構成として当業者が容易に想到できることである。 (ウ)本件特許の特有効果の主張に対して 平成11年2月12日付け特許異議意見書4頁5〜13行において、特許権者は、請求項22に係る発明は、 「A1.-次導電路の導体とピックアップコイルの配置により、ピックアップコイルに効率よく起電力が誘起され、効率よく無接触で給電できるとともに、 A2.前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属により形成されていることにより、一次導電路の導体が発生する磁界により、添付参考図の如くコア側に磁路が形成され、 A2a よってエネルギーロスを防止でき、 A2b かつ外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止でき、作業員の安全を確保でき(前記加熱された鉄片による火傷から作業員を守ることができる等)、 A2c さらにこの面上に金属体(鉄片など)が置かれたときでも-次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ない。」 という効果を奏すると主張する。 i)上記A1効果について 凹部の中心に位置するほど、ピックアップコイルに効率よく起電力が誘起され、効率よく無接触で給電できるという効果は、明細書に記載がなく、単なる図面の配置例に基づくものであるため、当業者が明細書及び図面から想到できる効果ではない。 ii)上記A2効果について 上記A2a効果は、鉄材料をアルミニウムで覆ったときに、得られる効果であって、一実施形態が奏する効果にすぎないのであり、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属で形成されている」という構成から当然に奏する効果ではない。 (1-2-1)(ウ)で述べたとおり、上記効果A2bと上記効果A2cは、明細書及び図面の記載から当業者が推論できない、誤った効果であって、有利な効果として参酌されるべきものではない。 iii)(1-2-1)(エ)で述べたように、本件特許は、磁気の影響を受ける部分に、プラスチックのような特定の非導電性の材料またはアルミニウムのような特定の非鉄金属を選択することにより、高周波誘導加熱で自ら発熱しない又は発熱しにくく、エネルギーロスを防止又は低減させるという当然の効果を奏するだけである。 (エ)以上述べたように、甲第1号証に対する第1相違点及び第2相違点は、当業者が甲第1号証の記載及び甲第2号証乃至甲第8号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に想到できる程度のものにすぎず、本件特許は、甲第1号証ないし甲第8号証から容易に発明できる。 3.審判被請求人の主張の概要 (3-1)無効理由に対して (I)無効理由A、無効理由Cおよび無効理由Dに対して (ア)請求人は、上記無効理由Aおよび無効理由Dにおいて、「『前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること』は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていない」と主張し、無効理由Cにおいて、「『非導電性の材料又は非鉄金属』の規定は、不明瞭記載である」と主張している。 (イ)しかし、被請求人は、本件訂正請求書に添付の請求の範囲において、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」と減縮している。 (ウ)したがって、まず、「非導電性の材料または非鉄金属」に対する請求人の主張、すなわち無効理由Aにおける「当初明細書及び図面の記載範囲を逸脱している」との主張、ならびに無効理由Cにおける 「『非導電性の材料又は非鉄金属』の規定は不明瞭記載である」との主張は、何ら意味を持たない。 (エ)また「『前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、』は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていない」との請求人の主張は認められない。 すなわち、願書に添付した明細書における、 「図10は車両とモノレールシステムの1次導体との関係を示す。」(特許公報第5頁右欄第21,22行目)との記載、 「図l0は、本実施例の実際の1次-空間-2次の関係を断面で示し、本図のスケールは、フェライト製のEビーム(l0l02)の背面に沿って約120mm である。且つ図1の片持梁モノレールもこの断面を基礎としている。」(特許公報第8頁右欄第47〜50行目)との記載、 「(10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミ二ウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。…側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは、リツツ線の2本の平行1次導体である。これらは図9に関して示すように、隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」(特許公報第9頁左欄第1〜12行目)との記載、 「ピックアップコイルのフェライトコア(10102)は、複数のフェライトブロックをE宇形に重ね、中央の軸部にプレート(10117)をボルトで固定したものである。…1次導体(10110)と(10111)からフェライトコアの中央の軸部への電磁結合は前記1次導体がフェライトにより完全に囲まれているので、比較的能率的である。」(特許公報第9頁左欄第20〜33行目)との記載、ならびに図10(車両とモノレールシステムの1次導体との関係を示す図)により、 車両とモノレールシステムの1次導体との関係、すなわち1次一空間-2次の関係において、訂正した請求項22の如く、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」は、明らかである。 このように、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている。 (オ)以上の理由により、請求人が主張する、無効理由A,無効理由Cおよび無効理由Dは成り立たない。 (II)無効理由Bおよび無効理由Eに対して (ア)請求人は、上述したように、無効理由Bにおいて、「本件特許と刊行物11(甲第1号証)との構成の差異はなく、また、誤った効果が参酌されない場合、本件特許には刊行物11と対比して特有の効果もない。従って、本件特許は、刊行物11に記載された発明と同一であって新規性がなく、本件特許の訂正は、独立特許要件を充足せず、認められるべきではない。」と主張し、さらに無効理由Eにおいて、「本件特許発明の甲第1号証に対する第1相違点及び第2相違点は、当業者が甲第1号証の記載及び甲第2号証乃至甲第8号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に想到できる程度のものにすぎず、本件特許は、甲第1号証ないし甲第8号証から容易に発明できる。」と主張している。 (イ)しかし、刊行物11(甲第1号証)は、本件特許と全く相違するシステムであり、主引用例とは成りえない。 すなわち、刊行物11(甲第1号証)には、 「したがって、伝送周波数を可能な限り低く維持しておくために、電力線とピックアップコイルとの間の磁気結合を増強するステップを講じることが望ましい。」(甲第1号証第47頁第1-3行目)、 「寸法例を図6-1に示す。おそらく最も重要な寸法は、ピックアップとフェライト接地板との間の間隔(すなわち図6-2中の「g」)である。この間隔をlcmとするが、この間隔を1/2cmにすれば、電力出力を倍にできる。」(甲第1号証第50頁第16-19行目) 「ピックアップの重さは2[kg/kW]であるが、このピックアップの重さはピックアップと地上側フェライト板との間の間隔をより狭くすること、またはもっと高い伝送周波数を使用することにより減少できる。」(乙第2号証;“Some Problems Related to Electric Propulsion”第56頁第7-10行目;請求人が添付した同文献の甲第1号証には第56頁が付いていないことから、被請求人が乙第2号証として提示する。)と記載され、さらに図面の「図6-1」に示されるピックアップの寸法で、ピックアップの両側の幅寸法とフェライト接地板の厚さが同じ符号e(=lcm)で示され、ピックアップの中央の幅寸法が2eで示されている。 したがって、刊行物11(甲第1号証)では、フェライト接地板を使用して磁束の周回路を密に形成して、電力線とピックアップコイルとの間の磁気結合を増強し、さらにピックアップとフェライト接地板との間の間隔を狭くすることで電力出力を上げるようにしており、よって刊行物11(甲第1号証)は、ピックアップとフェライト接地板は、切り離すことができないシステムであることは明白である。 したがって、請求人の審判請求書における「本件特許は、エネルギーロスの観点から多少不利になっても、甲第1号証に開示された発明のうちフェライトを省略して、導電体だけで磁力線遮断を行うという簡素化された通常の構成としたものにすぎない。」との主張は認められない。 このように、甲第1号証は本件特許と全く相違するシステムであり、先行技術としての地位をもたない。 (ウ)さらに、請求人は、甲第1号証と本件特許とを対比して、甲第1号証には、「C 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイル(Output winding(出力巻線))を有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有る電気装置(Vehicle(車両))と、を備え」という構成が記載されており、この点で本件特許の構成と相違点がないように主張している。 しかし、これは誤りであり、本件特許のピックアップコイルは、「ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも1つのピックアップコイルである」のに対し、甲第1号証にはこのようなことは記載されていない。 甲第1号証において、「図6-2において、Roは線路の特性インピーダンスを、Lはトランスの一次磁化インダクタンスを、Rは1ターンピックアップコイルへの負荷を示す。」(甲第1号証第47頁第16-19行目)と記載され、さらに図6-2の回路図から明らかなように、甲第1号証では、ピックアップコイルは共振回路を構成していない。この点が根本的な相違点を生じさせている(以下、第3相違点と称す)。 (エ)また本件特許は、甲第1号証が有している不具合点を解決しているものともいえる。 i)甲第1号証は次のa,bの不具合点を有している。 a.甲第1号証は、答弁書の添付図1に示すように、「E」状のフェライトコアと薄いフェライト板とにより、磁力線の周回路を形成して多くの起電力がコイルに発生するようにしており、ピックアップとフェライト接地板との間の間隔を電力出力の重要なファクターとしている。フェライト接地板がピックアップのコアの一部としての役割を果たし、フェライト接地板内部を経由した磁路が形成されるため、フェライト接地板とピックアップのコアの距離が磁路の空隙距離になっており、固定側に設置されたフェライト接地板とピックアップの距離が変化すると、電力線とピックアップとの間の磁気結合が大きく変化して電力出力が大きく変化する。 すなわち、甲第1号証では、「ピックアップとフェライト接地板との間の間隔(答弁書の添付図1の「g」)により電力が大きく変化し、ピックアップとフェライト接地板との間の間隔に左右されて大きくなると、十分な電力を得ることができなくなる。」との不具合を有する。 なお、ピックアップに対向してフェライト接地板を配置する構造では、固定側に設置されたフェライト接地板とピックアップのコアの距離が変化すると、勿論、ピックアップコイルの自己インダクタンスは大きく変化する。 b.「約30メートルの車両の長さに基づいて、ピックアップの長さは20メートルである。」との記載から明確なように、ピックアップの大きさを大きくしないと必要な電力を得ることができない。 ii)このような不具合点a,bを、本件特許は解決している。 まず、本件特許では、上述したようにピックアップコアが対向する面から離れてもピックアップコイルの自己インククタンスはほぼ一定であり、さらにピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成していることから、ピックアップコアが対向する面から離れて磁気結合が弱くなっても、安定して十分な電力を得ることができ、本件特許「図10」において、車両の走行時の通常の動作としてピックアップコアの左右方向の動きが、かなりの範囲であったとしても、特にピックアップコアが対向する面からかなり離れても十分な電力を得ることができる。このように、本件特許は、上記甲第1号証の不具合点aを解決している。 また本件特許では、ピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成することから、磁束は効率よく2次電流に変換され、起電力をロスなく負荷に供給でき、よってピックアップコイルの巻数やコアを小さくしても、十分な電力を得ることができる。 実際、「図10のスケールは、フェライト製のEビーム(10102)の背面に沿って約120mm である。」(特許公報第8頁右欄第48〜49行目)との記載に基づく縮尺により、図10のコア(10102)から部材(10114)または支持部材(10101)までの距離は、23mm〜33mmとなり、甲第1号証の2倍以上の間隔となっており、また「ピックアップコイルの全長は模式的に260mm 」との記載により、コア(10102)はかなり小さくなっていることは認識できるものと思料される。 このように、本件特許は甲第1号証が有する不具合点bを解決している。 (オ)以上の検証から、本件特許は刊行物11(甲第1号証)に開示されていない構成を有し、しかも刊行物11が有する不具合点を解決するものであることから、請求人が主張する、無効理由B、すなわち「刊行物11に記載された発明と同一であって新規性がない」との主張は成り立たない。 (カ)請求人は、甲第1号証と本件特許との上記第3相違点について検証を行っていないので、被請求人が、上記第3相違点について検証を試みる。 甲第7号証には、ピックアップコイル70により共振回路が構成されていることが記載されている。 甲第1号証の構成に、上記甲第7号証を組み合せると、甲第1号証の出力巻線に、一次導電路の周波数で共振するコンデンサが接続され、共振回路が形成することが考えられる。 このように甲第1号証の構成に甲第7号証を組み合せて共振回路を形成しても、共振回路を形成する並列コンデンサのキャパシタンスは固定の値であり、固定側に設置されたフェライト接地板とピックアップのコアの距離が変化すると、ピックアップコイルの自己インダクタンスLが大きく変化することから、ピックアップ共振周波数f=1/(2π/√LC)なる方程式を満足させることができず、車両の走行に伴い共振が取れず十分な電力を得る事ができない。よって本件特許のようなピックアップコアの左右方向の動きを、かなりの範囲で許容できない。 また、甲第7号証及び甲第7号証が参照する米国特許第428078号明細書(乙第3号証)では、ピックアップループ30と一対の導体27,29との間隔の変化について何ら認識も考慮もされていない。 したがって、甲第1号証の構成に、上記甲第7号証を組み合せても、本件発明に相当することができず、第3相違点は解消されない。 (キ)以上の理由により、請求人が主張する、無効理由Eは成り立たない。 (3-2)本願発明特有の効果について (ア)本件請求項22に係わる発明は、 「ア.一次導電路の導体とピックアップコイルの配置により、ピックアップコイルに効率よく起電力が誘起され、効率よく無接触で給電できる、 イ.ピックアップコイルのコアに対向する面は、アルミニウムにより形成されていることにより、一次導電路の導体が発生する磁界によりコア側に磁路が形成され、よってエネルギーロスを防止でき、かつ外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止できる、 ウ.車両に揺れ等が発生し、ピックアップコイルのコアとコアの両凹部に対向する面との間隔に変化が生じても、一次導電路により発生してピックアップコイルと交叉する磁束には殆ど影響がなく、十分な電力を得ることができる、」という特有の効果を有している。 (イ)上記本件請求項22に係わる発明の特有の効果ウ.について詳細に説明する。 願書に添付した明細書における、「電気的乗客輸送は多年広く使用されているが、通常の架空導線は、美観、危険、価格、敷設、保守に問題があり、さらに、車両に設けられている集電器(パンタグラフまたは炭素保安器等)はしばしば架空導線より外れて他の交通を混乱さすという問題がある。」(特許公報第2頁右欄第40行目一同頁右欄第44行目)との記載から判るように、走行している車両には揺れや振動が発生することは当業者では周知のことである。 またピックアップコイルのコアをE字状に形成し、このピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をアルミニウムにより形成することにより、請求人提出の審判請求書「添付図3」に示されているように、一次導電路が発生する磁界は主にコア側に磁路を形成し、両凹部に対向する面には磁路を形成しない。すなわち、アルミニウムは空気と同じくらいに磁気抵抗が大きいことから、アルミニウムにより形成されるコアの両凹部に対向する面は、コアの両凹部の開口部分から磁束を引き寄せて磁束が通りやすい道を提供することにならずに、コアの両凹部の開口部分では開口間の最短距離を通るように空気中に磁束が流れる。このような経路を持つ磁路においては、車両に揺れ等が発生し、たとえ固定側に設置された前記両凹部に対向する面と車両側のE宇状コアとの距離が変化しても、磁路中の空気を通過している距離(空隙距離と呼ぶ)は変化しない。従って、磁路中の空隙距離に左右されるピックアップコイルの自己インダクタンスLが変化しにくい、という効果を得る。 一方、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をフェライトなどの磁性体にした場合は、磁気抵抗が小さい事から両凹部に対向する面が磁束の通り道となる。すなわち、自己インダクタンスを左右する磁路中の空隙距離は、コアの先端と対向する面との距離となるので、この距離の変化につれてピックアップコイルの自己インダクタンスLが大きく変化する事になる。 さて、本件特許では、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成して、大きな電力を得ている。この共振回路は、十分な電力を得るための必須条件であり、このためには、ピックアップコイルの自己インダクタンスLと共振回路を形成するコンデンサのキャパシタンスCの双方の値が確定され、ピックアップ共振周波数f=1/(2π√LC)なる方程式を満足する必要があるが、ピックアップコイルの自己インダクタンスLが変化すると、これに伴い同方程式を成立させるために、Cも変化させる必要が発生してしまう。すなわち、車両の走行に伴いピックアップコイルの自己インダクタンスLが変化するシステムでは、Cの値を固定にした場合には、車両の走行に伴い共振が取れず十分な電力を得る事ができない。 本件特許の誘導電力分配システムにおいて、車両を駆動するに十分な電力を受電するのに必須条件である安定な共振を、「E字状コアの両凹部に対向する面をアルミウムとするにより自己インダクタンスLをほぼ一定とすること」で実現している。 以上のように、本件請求項22に係わる発明は、車両に発生する揺れ等により、ピックアップコイルのコアと前記両凹部に対向する面との間隔に変化が発生しても、ピックアップコイルと交叉する磁束には殆ど影響がなく、ピックアップコアが対向する面から離れても十分な電力を得ることができる。 (ウ)なお、請求人は、「アルミニウムなどの非鉄金属の場合は、コアの両凹部に対向する面上に面に平行な磁力線がむしろ凝集するので『面上に金属体(鉄片など)が置かれたとき』該金属体(鉄片など)は高周波誘導加熱されるのであるから、アルミニウムがその面上の鉄片などの加熱防止効果があるとは言えない。したがって特許異議意見書の『一次導電路の…外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止でき、この面上に金属体(鉄片など)が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ない、』という効果の主張は根拠が無く誤りである。」旨主張している。 しかし、特許異議意見書第11頁第8-13行目において、「刊行物11では、コアの両凹部に対向する面をフェライト面としているため、このフェライト面にも磁路が形成されることから、この面上に金属体が置かれると、金属体は一対の導体が発生する磁界の影響を大きく受けるのに対し、本件請求項22に係る発明では、非導電性の材料または非鉄金属により形成される面上に金属体が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少なく、効果が全く相違しております。」と記載している通り、被請求人は、コアの両凹部に対向する面をフェライト面としたときと対比して一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ないと主張しているのであって、この主張は正しい。 乙第1号証のデータから判るように、コアの両凹部に対向する面をアルミニウムとした場合、鉄製のナットを面上のどこの位置においても磁界の鉄製のナットへの影響はほとんど変わらないのに対して、コアの両凹部に対向する面をフェライトとした場合、鉄製のナットがA点(E字状コアの中央の凸部に対向する位置)に位置するときは、「141.1℃」も上昇し、磁界の鉄製のナットへの影響は大きい。 このように乙第1号証により、コアの両凹部に対向する面をアルミニウムとした場合とフェライトとした場合とを対比すると、アルミニウムとした場合、一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ないことが証明される。 (エ)また、請求人は、本件特許のエネルギーロスを防止できるとの効果は甲第6号証より周知の効果の如く主張している。 しかし、甲第6号証は、固定のフレームに発熱による問題が顕在化したときにアルミニウムにより遮蔽することが有効であることを示したものであり、これに対し本件特許は、一次導電路、一次導電路に沿って移動する車両、車両に設けられた凹部を有するピックアップコイルのコア、共振回路等を組み合せて誘導電力分配システムを構成したものである。甲第6号証は、一次導電路に沿って移動する車両のピックアップコイルのコアに対向する面をアルミニウムにしたときのことについて説明したものではない。 従って、甲第6号証は、本件発明の効果を周知の効果の如くに主張する引用文献にはなりえず、請求人の周知の効果の如き主張は認められない。 4.請求人の弁駁書における反論の概要 4.1 訂正事項1及び訂正事項2の訂正要件違反 4.1.1 訂正事項1(「電気装置→車両」)における訂正要件違反 被請求人は、「電気装置」を「車両」に訂正すると共に効果ウを主張することにより、単なる「車両」ではなく、「揺れ等によりコアとコア両凹部の対向面との間隔が変化する車両」に訂正した。この訂正に係る本発明は、「揺れ等によりコアとコア両凹部の対向面との間隔が変わっても、一次導電路により発生してピックアップコイルと交叉する磁束には殆ど影響がなく、十分な電力を得ることができる」という効果ウを奏すると主張した。 しかしながら、コアとコア両凹部の対向面との間隔が変化して非接触給電を行う問題を生じるという意味での車両は、当初明細書又は図面に記載も示唆もされていないと、請求人は主張する。 被請求人は、「電気的乗客輸送は多年広く使用されているが、通常の架空導線は,美観、危険、価格,敷設、保守に問題があり、さらに、車両に設けられている集電器(パンタグラフまたは炭素保安器等)はしばしば架空導線より外れて他の交通を混乱さすという問題がある。」(特許公報第3頁右欄第40〜44行目の記載)を引用し、この記載から、走行している車両には揺れや振動が発生することは当業者にとって周知のことであるとし、当初明細書又は図に記載されていないインダクタンスの変動や電力の受電不能に論を進める。 しかし、前記引用部は、通常の架空導線とパンタグラフ間における走行車両の集電に関する周知の問題点を述べただけであり、振動や、コアとコア両凹部の対向面との間隔変化について述べた肝心の記載は、当初明細書又は図面には全くない。 被請求人のいう車両の揺れや振動が周知であるとしても、振動がコアと-次導電路の距離の変化による問題を生じるとの記載も、当初明細書の何処にも技術課題として挙げられていない。 また常識的にも、明細書の図1や図10のように、一定の断面形状の押出し材を軌道として空中に架橋し、該軌道上を走行する車両は、垂直の重力方向と水平の進行方向に直角方向の2自由度につき軌道と車両の位置関係を強固に拘束するガイド輪を備えているので、軌道の側面の直近に位置する可動コアと軌道面に静置のコア凹部対向面間の距離が、車両の揺れにより変わるとの被請求人の主張は当業者の常識に反する根拠のないものである。 結局、被請求人は、「電気装置」を「車両」に置き換えることにより、 車両は揺れることは周知である → 揺れると、コアとコア両凹部の対向面との間隔変化が発生する → 間隔変化が発生すると、電力の受給能力が変わる。 と展開するが、「車両は揺れる」との前提自体が当初の明細書又は図に記載がないのであるから、到底このような展開が成り立たないことは明らかである。 従って、「揺れ等によりコアとコア両凹部の対向面との間隔が変化する」ことを前提とする車両への訂正は、当初明細書又は図面に記載された範囲内でなければならないという訂正要件に違反しており、訂正自体が認められるべきではない。 4.1.2 訂正事項2(「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」)における訂正要件違反 被請求人は、コア両凹部対向面がアルミニウムにより形成されていると訂正すると共に効果イを主張した。そして、コア両凹部対向面がアルミニウムにより形成されていることは、特許公報第5頁右欄第21,22行目の記載、同第8頁右欄第47〜50行目の記載、同第9頁左欄第1〜12行目の記載、同9頁左欄20〜33行目の記載、並びに図10により、明らかである、と主張した。 しかし、これら記載および被請求人が割愛したその他の記載によっても、コアの両凹部に対向する面がどこに配置される面でありその材料が「アルミニウム」であるという記載もない。 以下、記載内容を検証する意味で、被請求人が引用する上記部分および被請求人が割愛したその他の記載をも含めて以下に列挙する。 第1記載 特許公報第5頁左欄50行目〜右欄1行目 「図1は誘導電力を供給されるモノレールコンベアを示す。」 第2記載 特許公報第5頁右欄第21〜22行目 「図10は車両とモノレールシステムの1次導体との関係を示す。」 第3記載 特許公報第6頁左欄第48行目〜右欄第17行目 「第1の好ましい実施例として中間サイズの500W試作品について詳述する。この試作品は、共振電流を搬送し、切替え電源により励磁される1次ケーブルの傍の図1に示すような片持梁式の軌道に沿って、1台の車両または数台の同様な車両を走行させる車上誘導モータを使用するものである。本システムは大体165メートル以下の軌道長さを有し、500Vオーダの供給電圧と60Aオーダの循環共振電流を有している一方、全1次ケーブルは押出し成形されたプラスチックケース内に密閉されてさらに絶縁されている。かくしてこれは整流子火花がなく、鉱山内のような爆発性雰囲気に対して使用可能である。 図1に於て、(1100)は片持梁式軌道で、これは、水平な支持面(1101)と片側の溝の内部に設けられた1対の平行導体(1102)と(1103)とを有するI断面アルミニュームガーダである。(1104)は車両全体で、支持用と駆動用車輪(1106)と(1107)および駆動モータ(1105)とより形成され、車両用ピックアップコイルは前記駆動モータ(1105)と導体(1102)と(1103)とを隣接しているが、図示はされない(この詳細は例えば図10を参照)。」 第4記載 特許公報第8頁右欄第47〜50行目 「図10は、本実施例の実際の1次-空間-2次の関係を断面で示し、本図のスケールは、フェライト製のEビーム(10102)の背面に沿って約120mmである。且つ図1の片持梁モノレールもこの断面を基礎としている。」 第5記載 特許公報第9頁左欄第1〜10行目 「(10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。側面(10104)は延長部(10106),(10107)により支持部材の取付けに適するようになっており、側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは,リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは図9に関して示すように、隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。」 第6記載 特許公報第9頁左欄第11〜12行目 「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」 第7記載 特許公報第9頁左欄第12〜19行目 「もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは、数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており、この結果として使用時発生する渦電流が磁束のそれ以上の透過を防ぐ役目をし、従って鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最少にする。」 第8記載 特許公報9頁左欄第20〜38行目 「ピックアップコイルのフェライトコア(10102)は、複数のフェライトブロックをE字形に重ね、中央の軸部にプレート(10117)をボルトで固定したものである。中央の軸部は好ましくは20mmの厚さで、且つピックアップコイルの全長は模式的に 260mmである。また、複数のフェライトブロックのうちのどれか1つを積み重ねから取り除いて2次コイルの空冷を考慮することが好ましい。2次コイルには使用中に20Aの循環電流が流れるからである。ピックアップコイル(10115)は1つ以上の任意の附属コイル(10116)と共にフェライトコアの中央の軸部に巻回する。1次導体(10110)と(10111)からフェライトコアの中央の軸部への電磁結合は前記1次導体がフェライトにより完全に囲まれているので、比較的能率的である。車両(図示せず)はフェライト(10102)の左側に存在しており、変化する磁束は実質的にフェライト(10102)の内部に閉じこめられるので、車両をボルト等(たとえ鋳鉄製でも)により直接フェライト(10102)に取り付けてもよい。」 これらの記載によれば、以下のことが明らかである。 ガーダ(1100)又は支持部材(10101)は、アルミニウムである。平行導体(1102,1103)又は平行一次導体(10110,10111)を収容するのはプラスチックケースである。(10112,10113)は隔離絶縁体である。Eビーム(10102)は、フェライト製である。図10において、コアの両凹部に対向する面を形成すると思われる支持部材(10114)と、プレート(10117)は、材質が明記されていない。 このように、以上の第1〜第8記載および図1、図10を詳細に検証しても、「コア両凹部に対向する面」が何処に位置し、どのような材料により形成される面であるか、当初明細書又は図面から明確に確定できない。 なお、付言すれば、材質不特定のプレート(10117)及び支持部材(10114)について、前記第6記載が全ての材料に掛かるのであるならば、支持部材(10114)、プレート(10117)は、プラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属のいずれかと解釈でき、この場合も、アルミニウムに特定できない。 さらに、付言すれば、前記第7記載によれば、支持部材(10114)、プレート(10117)は、アルミニウム被覆された鉄材料であっても良いとの解釈も成立する。 結局、コア両凹部に対向する面の材料が、アルミニウムであると明確に特定できる記載は、当初明細書又は図面の何処にもない。 以上述べたように、当初明細書又は図面には、コア両凹部の対向面を形成するとの部材が何処に位置するか、その部材の材料が何であるかを特定できるように記載されていない。 従って、『前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること』への訂正は、当初明細書又は図面に記載された範囲内でなければならないという訂正要件に違反しており、訂正自体が認められるべきではない。 4.2 本件特許発明の作用効果について 本件特許発明特有の効果として、審判事件答弁書で被請求人が主張した、効果ア、イ、ウは、当初明細書に記載されておらず、当初明細書又は図面の記載から当業者が推論すらできない仮想上の効果であって、本件特許発明に対して一切参酌されるものではない。 4.2.1 効果アについて 「前記一対の導体がそれぞれ、…それぞれの凹部のほぼ中心に位置するように…」との構成は、甲第1号証に開示されているので、効果アを、今回の訂正に関わる本件特許発明の特有の効果とすることはできない。 4.2.2 効果イについて この効果イは、当初明細書に記載がなく、平成16年2月3日付け審判事件答弁書において初めて主張された効果であり、その作用効果の根拠および技術的実質においても信憑性がない。 (1)効果イに関する明細書の記載がないし推論もできない 効果イに関する記載は、前記4.1.2の第7記載として、鉄材の表面をアルミニウムで被覆すれば、鉄材のエネルギーロスを軽減できるとの当業者の常識的知識を開示した部分のみである。このようなアルミニウム被覆による磁界の遮蔽効果とエネルギーロスの低減は甲第6号証「高周波加熱用電子管発振装置の設計と調整」により、公知であることが証されるのであるから、第7記載は発明の根拠にはなり得ないことは明らかである。 その他に、アルミニウムとエネルギーロスの関係を記載した部分は、明細書にはない。また、コア両凹部対向面に置かれた鉄片などが加熱し、作業者が火傷する云々の記載も明細書には一切ない。 このように、コア両凹部対向面をアルミニウムとすることと、その面上に置かれた鉄片などの加熱がないとの作用効果すなわち効果イに関する記載は、明細書に一切ない。 また、鉄材を薄いアルミニウムで被覆すると有利であるとの第7記載は、アルミニウムの上に鉄片を置くようなことを想定した記載ではないから、コア対向面のアルミニウム上に置かれた鉄片の加熱云々との効果を当業者が推論することもできない。 (2)効果イとして被請求人が主張する作用効果は前提を欠き、且つ実質がない そもそも、対向面がアルミニウムであるとの記載、その面上に鉄片が置かれることがあるとの記載、その鉄片が加熱して作業員の安全上問題があるとの記載、いずれも当初明細書及び図面のどこにも記載がないのであるから、効果イは当初明細書及び図面のどこにも前提のない作用効果である。 且つ又、被請求人の主張「・・・作業員の安全を確保でき(前記加熱された鉄片による火傷から作業員を守ることができる等)、さらにこの面上に金属体(鉄片など)が置かれたときでも・・・」(平成11年2月12日付特許異議意見書(甲第16号証)4頁10〜12行目)は、図10を参照すると、アルミニウム製であると特定される軌道(10101)の面上は材質不明の(10114)で覆われているので、ピックアップコイル側の軌道面上に鉄片を置くことなど不可能である。したがい、この主張が架空の想定であり、前提のないことが明らかである。 以上のように、前提がないのであるが、仮に前提があるとしても、その作用効果自体に実質がない。以下、そのことを説明する。 効果イが、対向面がフェライトで形成されている装置(甲第1号証)に対し、区別されるべき発明であるとの主張であれば、その被請求人の主張は失当である。 すなわち、アルミニウムは、内部に渦電流を生じ、その渦電流によるエネルギーロスを生じているのに対し、フェライトは渦電流がほとんどなく、アルミニウムよりもエネルギーロスが小さいから、アルミニウムがフェライトより優れて、エネルギーロスを防止するとは到底言えない。 また、対向面がプラスチックなどの非導電性材料で形成されている装置、あるいはフェライトで形成されている装置(甲第1号証)と比較して、「(磁界中の鉄片の加熱等)を防止できる」との断定的な効果を奏するものではない。 甲第12号証に証するように、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面上に鉄片を配置した場合、この面の材料がプラスチック(非導電性材料)の場合もアルミニウム(非鉄金属)の場合もいずれの場合も、著しく加熱される。プラスチックの場合69.1℃に対し、アルミニウムの場合72.7℃であり、むしろアルミニウムの方が温度は高いのであるから、アルミニウムが「(磁界中の鉄片の加熱等)を防止できる」とは到底言えない。 前記対向面が、フェライトで形成されている場合(甲第1号証)とアルミニウムで形成されている場合(本件訂正発明)との比較は、乙第1号証で被請求人が示したデータを参照できるので、B点に配置された鉄片の温度データを、周囲温度を35℃に置き換えて加算換算すると、アルミニウムの場合も火傷するに十分な温度となる。したがい、アルミニウムといえども鉄片などの加熱を防止して、作業者の安全を確保できるものとは到底言えない。 したがい、アルミニウムが「加熱された鉄片による火傷から作業員を守ることができる」(平成11年2月12日付け特許異議意見書「甲第16号証」 4頁11行目)との被請求人が主張するような作用効果を実質的に奏するとは言えないことが明らかである。 4.2.3 効果ウについて この効果ウは、当初明細書に記載がなく、審判事件答弁書において初めて主張された効果である。 (1)効果ウに関する明細書の記載がないし推論もできない この効果ウは、走行している車両に揺れや振動が発生し、コアとコア両凹部対向面との距離が変化することを前提としている。しかしながら、前記したように、車両の揺れや振動およびそれに伴うコアとコア両凹部対向面との距離の変化に関する記載は、当初明細書および図面には一切ないので効果ウは前提がない。 さらに、コア両凹部対向面をアルミニウムにすると、コアとコア両凹部対向面との距離が変化しても、磁路中の空気を通過する距離(空隙距離)が変化せず、ピックアップコイルの自己インダクタンスLが変化しないと被請求人は主張するが、このような現象に関する記載は、当初明細書および図面には一切ないのでこの点においても効果ウは前提がない。 以上のように、コアとコア両凹部対向面との距離の変化、この変化に伴うピックアップコイルの自己インダクタンスLの変化、いずれも記載がないから、当初明細書及び図面から、当業者がそのようなことを推論するすべもない。 (2)効果ウとして被請求人が主張する作用効果は実質がない 「コアの両凹部に対向する面をアルミニウムにより形成することにより・・・コアの両凹部の開口部分では開口間の最短距離を通るように空気中に磁束が流れる。・・・磁路中の空気を通過している距離(空隙距離)は変化しない。」(平成16年2月3日審判事件答弁書6頁22行〜7頁4行目)、 「車両を駆動するに十分な電力を受電するに・・・『E字状コアの両凹部に対向する面をアルミニウムにするにより自己インダクタンスLをほぼ一定とすること』で実現している」(平成16年2月3日審判事件答弁書7頁22〜25行目)、との被請求人の主張は正しくない。 コア前面空間に何も存在しない場合の自由放散磁束を、アルミニウムの渦電流によって生じる反作用磁束が相殺するというのが実態であり、一般に、アルミニウムの位置により、磁束の相殺程度が変化し、したがいインダクタンスが変化し、したがい受電電力も変化する。アルミニウムの位置によりインダクタンスおよび受電電力が変わる実測データを示した甲15号証によってもこの事実が証される。 (3)甲第1号証と比較して被請求人が主張する本件発明の優位性説明は正しくない (i)甲第1号証に対する被請求人の主張1「甲第1号証は、車両の揺れで電力が変化するのに対し、本件発明は磁気結合が弱くなっても安定して十分な電力を得ることができる。」に対して ピックアップの対向面にE-IコアのIに相当するフェライトを有する甲第1号証の車両は、意図的にピックアップと対向面間距離を増減させるならば、磁束密度が変化し、受電できる電力が変化する。このことは鉄心間にギャップを有する一般のトランスにても同様である。甲第1号証ではそれゆえ前記対向面間距離を重要であるとし、その距離を一定に保持する設計思想を開示している。 したがい、「甲第1号証は、車両の揺れで電力が変化する」との被請求人の断定ともいえる主張は、甲第1号証の距離を一定に保持する設計思想を無視した根拠がない仮想のものである。 また、前述したように、本件発明のアルミニウムといえども、対向面間距離が変化すれば受電電力が変わることは既に甲第15号証で証した。 このような受電電力の変動は好ましくないので、本件発明の場合においても対向面間距離を一定に維持することは重要であり、軌道へのガイド輪とその機構で対向面間距離を一定に維持するよう配慮するのが当業者の周知の常識である。 (ii)甲第1号証に対する被請求人の主張2「甲第1号証と比較して.本件発明は共振回路を有するので、小さい形状のコアで十分な電力を得ることができる。」に対して 被請求人は、ピックアップの電気出力を参酌せず、甲第1号証と本件発明のピックアップの大きさを単純比較するという誤りをおかしている。電気機器の大小を評価するには、単位出力〔kW〕あたりの重量〔kg/kW〕でもって評価するのが当業者の常識である。約2000kWの出力を有する甲第1号証のピックアップは4000kgであり、kwあたり重量は約2〔kg/kW〕である。一方、本件特許のピックアップの重量を図1及び図10から推定することができ約3kgであり、その出力は500Wであるからkw当たり重量は6〔kg/kW〕である。 すなわち、甲第1号証の方が、単位重量あたりの電気出力としては3倍、本件特許のピックアップに対し優れることが明らかであるから、被請求人の主張は失当である。 このように、効果ウは、前記(1)、(2)、(3)に述べたように 前提そのものが当初明細書に記載されておらず、 当初明細書又は図面の記載から当業者が推論できない効果であって、 作用効果に対する被請求人の主張も正しくない。 ので、進歩性等の判断に参酌されないことが明らかである。 4.3 被請求人主張の各無効理由についての再反論 4.3.1 無効理由A(訂正要件違反1)、無効理由C(請求の範囲の記載要件違反1)、無効理由D(請求の範囲の記載要件違反2)について 無効理由A及び無効理由Dは、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料又は非鉄金属で形成されていること」が、当初明細書又は図面に記載されていないというものである。また無効理由Cは、「非導電性の材料又は非鉄金属」では外縁が定まらないとのものである。 被請求人の訂正「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面はアルミニウムで形成されている」は、当初明細書に記載されていない。したがい、コア両凹部対向面をアルミニウムにするとの訂正は、無効理由A及び無効理由Dに該当する。 このことは、4.1.2で既に述べた。 4.3.2 無効理由B(訂正要件違反2)→無効理由B(新規性なし)について この無効理由Bについて、本件特許発明(訂正前)が甲第1号証と実質的に同一であると請求人は審判請求書で主張した。その後、被請求人は請求人の主張に対応して訂正を施した。 訂正後においても、新規性なしの無効理由Bが成立することを請求人は改めて主張する。 本件特許発明(訂正後)と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、 「本件特許発明は、凹部のほぼ中心に一次導電体を配設するのに対して、甲第1号証の発明は、凹部の中央付近に一次導電体を配設するという、配設位置の違いがある(第1相違点)。」 また、「本件特許発明は、コア両凹部に対向する面が、アルミニウムであるのに対して、甲第1号証の発明は、薄いフェライト板で覆われた導電接地板とする、両凹部に対向する側の部材が、単体構造か複合構造かの違いがある(第2相違点)。」 更に、被請求人が主張するように、「本件特許発明は、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルであるのに対して、甲第1号証の発明は、ピックアップトランスを構成する一つのピックアップコイルであるというピックアップコイルの構成の違いがある(第3相違点)。」 しかし、以上の第1〜第3相違点のいずれも、微差、実質同一、周知事項の転用と言える程度の相違点であって、本件特許発明は、甲第1号証と実質的に同一である。以下、各相違点について詳述する。 第1相違点について 本件発明の両凹部のほぼ中心は、明細書に明示の記載がなく、特許公報図10の図示だけに基づくものである。一方、甲第1号証の両凹部のほぼ中央も、図6-1の図示だけに基づくものである。すなわち、この第1相違点は、ほぼ中心もほぼ中央も殆ど変わりない微差であって、両者は実質的に同一である。 第2相違点について 被請求人の主張のように、コア両凹部に対向する面がアルミニウムと特定することは到底できないのであるが、漫然とした当初明細書及び図面から「コア両凹部に対向する面」を敢えて解釈するならば「コア両凹部に対向する側」とでも考えるしかない。 すると、甲第1号証には、コア両凹部に対向する側に薄いフェライト板で覆われた導電接地板が存在する。導電接地板の材質は明記がないが、導電体には典型例としてアルミニウムが含まれる。導電接地板のフェライトが被さっていても,コア両凹部に対向する側に導電接地板が存在する。 本件特許の構成の軌道がアルミニウムであり、その前に介在物としての支持部材(10114))が存在している。同様に、甲第1号証にも、導電接地板(アルミニウムを含む)がその前に介在物としてのフェライト板が存在している。 したがい、第2相違点は事実上存在せず、両者は実質的に同一となる。 第3相違点について ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルを使用する非接触給電システムは、車両分野に限らず周知のものである。甲第7号証、甲第13号証、及び甲第14号証に明らかなように、電気装置や車両の非接触給電システムに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するシステムは周知である。 すなわち、ピックアップトランスを、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するピックアップコイルに変更する第3相違点は、周知慣用技術の転用程度の相違点であって、両者は実質的に同一である。 また被請求人が主張する甲第1号証の前記不具合点a、不具合点bは、効果ウ自体が当初明細書及び図面に記載のない、つまり発明としての前提を欠く主張であるから、不具合点として云々する意義すらないことが明らかである。 更に被請求人は、甲第1号証と甲第7号証の組み合わせと本件特許を比較しその相違を言及しているが、前記したように、効果ウ自体が発明の前提を欠く以上、甲第1号証と甲第7号証の組み合わせと本件特許を比較すること自体、意義のないことが明らかである。 前記したように、「車両」と「共振回路」なる要件を具備する甲第13、14号証が周知であることをもって、本件特許の第3相違点は十分に否定されるのである。 以上説明したように、第1〜第3相違点は、実質同一と言える程度のものであり、両者は実質的に一致し、本件特許発明は、甲第1号証他において実質的に開示され、新規性がない。 4.3.3無効理由E(進歩性なし)について 甲第1号証との対比における、前記第1〜第3相違点は、当業者が容易に想到できる程度の相違点である。 (1)第1相違点について この第1相違点は、「本件特許発明は、凹部のほぼ中心に一次導電体を配設するのに対して、甲第1号証の発明は、凹部の中央付近に-次導電体を配設するという、配設位置の違いがある」というものである。 本件発明の両凹部のほぼ中心は、明細書に明示の記載がなく、特許公報図10の図示だけに基づくものである。一方、甲第1号証の両凹部のほぼ中央も、図6-1の図示だけに基づくものである。すなわち、この第1相違点は、程度問題の差にすぎない。このような程度問題の変更は、当業者が必要に応じて適宜行う程度のことにすぎない。 (2)第2相違点について この第2相違点は、本件発明は、両凹部に対向する面がアルミニウムであるのに対して、甲第1号証の発明は、薄いフェライト板で覆われた導電接地板とする、両凹部に対向する側の部材が、単体構造か複合構造かの違いがあるというものである。なお、導電接地板を形成する導電体には当然にアルミニウムが含まれることは当業者にとって自明のことである。 被請求人は、アルミニウム面とフェライト面との対比において効果ウを主張するが、4.2.3で説明したように、効果ウは参酌されるべきものとして存在しない。また、被請求人は、アルミニウム面とフェライト面との対比において効果イを主張するが、4.2.2で説明したように、効果イは参酌されるべきものとして存在しない。さらに、審判事件答弁書において、被請求人が主張する甲第1号証の不具合点a,bも存在しないことは、効果ウの存在自体を否定する4.2.3の説明より明らかである。 アルミニウムの効果についての検証 当初明細書から読み取ることができるアルミニウムの作用効果を要約すると「コア両凹部対向側にアルミニウム部材が位置するようにすると、軌道側に位置するアルミニウム部材は、軌道側の一次導電路が形成する磁界によって自ら発熱しにくく、このアルミニウム部材の背面にある鉄部材内のピステリシスによる発熱を最小にすることにより、エネルギーロスを最小にする、又は車両側に位置するアルミニウム部材は、コアが形成する磁界によって自ら発熱しにくく、このアルミニウム部材の背面にある鉄部材内のピステリシスによる発熱を最小にすることによりエネルギーロスを最小にするという」という一般的に当業者が周知の効果を読み取ることができるにすぎない。 このようなアルミニウムの周知の一般的作用効果は、以下に示すように甲第1〜8号証にも開示されているのである。 甲第1号証 甲第1号証の導電接地板は、まさにこのような効果を奏するために設けられている。フェライト板の下部材料である導電体は、フェライト板から漏れる磁力線を遮蔽するために設けられていることは、当業者には当然に判ることである。磁力線遮断の意図がないと、わざわざ導電接地板を設ける必要がなく、例えばコンクリートの上に直接フェライト板を設ければよい。甲第1号証第50頁10〜12行目に「A conductor under the ferrite provides a low loss ground plane and minimizes the external field of the line.(フェライトの下の導電体は、低損失の接地面を提供し、線路(電送線路)の外部場(外部磁場)を最小化する。)」と記載されているように、フェライト板の下の導電体が、ロスの少ない接地面を与え、給電線からの外部磁界を最小化する効果が明記されている。また、甲第1号証50頁第7〜10行目に「The height of the transmission line above ground is made large enough to minimaize power losses in the ferrite strip when the pickup is not present, ...(ピックアップが存在しない時にフェライト面での電力損失を最小化するのに十分で、線路の特性インピーダンスを最小化するのに十分な高さにされる。)」と記載されているように、フェライト板は一対の導体による磁界の影響を受けない位置に配設されている。 このフェライト板を設ける意義は、E型コアの凹部側に回る磁力線であって、導電体で遮蔽された磁力線をフェライト板を介して密に周回させ、磁路を閉じ込めて、コアを周回する磁力線を密にし、必要電力の受電効率を向上させることにある。この意義は当業者が自明に想到できることである。なお、フェライトは、E型コアに使われることから判るように、エネルギーロスが非常に小さな材料である。 以上のことから、甲第1号証においても、導電体接地面が低損失の接地面を提供し、線路(電送線路)の外部場(外部磁場)を最小化するものであって、本件特許と同様の効果を奏している。そして、甲第1号証においては、車両側のEコアに加えて、軌道側にIコアに相当する薄いフェライト板を付加し、E-Iコアの形成により、磁路をコア内に閉じ込めて、結合度合いを高め、より多くの電力の受電を可能にしたものである。なお、このE-Iコアの効率が高いことは、甲第1号証の車両では単位kw当たりのピックアップ重量が2kg/kwであるのに対して、本件特許公報に記載の車両では単位kw当たりのピックアップ重量が約6kg/kwとなることからも推定される。 本件特許は、受電効率の観点から多少不利になっても、甲第1号証に開示されたE-IコアのうちIコアに相当するフェライト板を省略して、Eコアだけにし、軌道側は導電体だけにして磁力線遮断を行うという簡素化された通常の構成としたものにすぎない。 したがって、本件特許の構成は、甲第1号証に内在している構成であって、甲第1号証の記載から当業者が容易に想到できる。 甲第6号証 高周波誘導加熱による基体の発熱を減少させるために、アルミニウムなどの導電体で遮蔽する構造は、甲第6号証に示されるように周知のことである。 甲第2号証 リニアモータ駆動の高速列車のための誘導型反作用レールをアルミニウム合金を押出形成して製造する構成が記載されている。 甲第8号証 LIM(リニアモータ)式立体搬送システムにおけるレールにアルミの押出成形品が用いられることが記載されている。 甲第3号証 U字状のフェライトコアのコア脚部間にピックアップコイルが巻かれるピックアップ組立体の開口部分が対向する面は、カバー45及びベース46を有する絶縁物質のトラックハウジング44が存在し、トラックハウジング44は航空機システムに適用され、導体ループのセグメントの閉空間は、浮遊磁界の範囲を最小にする構成が記載されている。航空機システムにおいて、トラックハウジング44が設置される部分はアルミニウム合金であることは自明のことである。 甲第4号証 甲第3号証の基になった論文であるが、その第659頁のFig.12にのような磁力線となるためには、ベースはアルミニウムのような導電体板でなければならないことは自明である。ベースをアルミニウムとし、給電線ステーをフェライトとした場合の添付図4の磁力線は、第659頁Fig.12の磁力線とほぼ一致する。 甲第5号証 給電線を電波シールド材で覆う技術が開示され、その材料としてアルミや銅が挙げられ、その適用として非接触給電への適用も開示されている。 甲第7号証 導電路を支持する面は磁気遮蔽等のために非鉄床材で覆われる。 このように、高周波誘導加熱を低減するために磁力線をアルミ等の導電体で遮蔽する構造は周知のことであるから、甲第1号証のフェライト板で覆われた導電接地板」の構成から、「フェライト板」を省略して「導電接地板板」だけの構成とすることは、ごく普通の構成して当業者が容易に想到できることである。 以上述べたように、甲第1号証に対する第2相違点は、当業者が甲第1号証の記載及び甲第2号証乃至甲第8号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に想到できる程度のものにすぎない。 (3)第3相違点について 共振回路を構成するピックアップコイルによる非接触給電システムは、車両分野に限らず周知のものである。 甲第7号証:航空機内の各座席のエンターテイメントに対する非接触給電で、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルを使用する非接触給電システム。 甲第13号証及び甲第14号証:これらには、車両の非接触給電システムに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルを使用する車両システムが普通のものとして例示される。 以上述べたように、甲第1号証は共振回路を有しないが本件発明は共振回路を有するとの被請求人主張の第3相違点は、第1号証の記載及び甲第7号証、甲第13号証、甲第14号証に示される周知技術に基づいて、ピックアップトランスが共振回路を構成する車両を想到することは、当業者にとって極めて容易なことであるから、本件発明の進歩性を裏付ける相違点にはなり得ない。 ところで、被請求人は、「共振回路を備えた甲第7号証において、ピックアップループ30と一対の導体27、29との間隔の変化について何ら認識も考慮もされていない」と主張するが、これは甲第7号証に対する認識違いである。 甲第7号証には 「一方、相互インダクタンスは、給電線とピックアップコイル間の距離に反比例しており、その距離も大幅に変動する可能性がある。」(甲第7号証訳文2頁29〜31行目)と記載されていることから、ピックアップと一次導電路や対向面(甲第7号証では床面に相当)との距離の変動については被請求人が初めて唱えることではない。 また、ピックアップコイルで共振回路を形成し、必要な受電を可能にすることと、車両のコア両凹部対向面をアルミニウムとして、エネルギーロスを防止することとは、無関係であるところ、被請求人は、これらを無理に結びつけ、本件発明において対向面間距離の変動を許容できるとか主張しているが、前記したようにこのことも既に甲第7号証で触れられた公知のことである。 (4)第1〜3相違点に対するまとめ 以上述べたように、甲第1号証に対する第1〜第3相違点は、当業者が甲第1号証の記載及び、甲第2号証乃至甲第8号証、甲第13号証、甲第14号証の周知技術に基づいて当業者が容易に想到できる程度のものにすぎず、本件特許は、甲第1号証乃至甲第8号証、甲第13号証、甲第14号証から容易に発明できる。 4.4 弁駁書結語 本件特許に関する訂正は認められない。訂正が認められなければ、審判請求書の記載の無効理由A〜Eにより本件特許は無効とされる。仮に訂正が認められても、本件特許は新規性に関する無効理由B、又は進歩性に関する無効理由Eにより本件特許は無効とされる。 5.証拠方法 (1)請求人の提示した証拠方法 <審判請求書> (i)甲第1号証 David C.White、外,“Some Problems Related to Electric Propulsion”,Massachusetts Institute of Technology,1966.11.1発行,表紙,要約,目次,46-51頁,その要部訳文 (ii)甲第2号証 特公昭57-32102号公報 (iii)甲第3号証 特表平1-501195号公報 (iv)甲第4号証 Arthur W.Kelly、外1名,“Power Supply for an Easily Reconfigurable Connectorless Passenger Aircraft Entertainment System”,IEEE,PESC87,650-659頁,その部分訳文 (v)甲第5号証 実開昭61-169403号公報 (vi)甲第6号証 吉村順一,“高周波加熱用電子管発振装置の設計と調整”,誠文堂新光社,昭和42年12月15日発行,表紙,目次,6-7頁,456-460頁,奥付け (vii)甲第7号証 米国特許第4914539号明細書及びその全訳文 (viii)甲第8号証 ”神鋼電機 Vol.31 No.1 1986 通巻108号”,神鋼電機,1986年5月20日発行,表紙,目次,5-9頁,裏表紙 (ix)甲第9号証 日本金属学会編,”改訂5版 金属便覧”,丸善株式会社,平成2年3月31日発行,表紙,目次の抜粋,695-698頁,裏表紙 (x)甲第10号証 斎藤省吾、外3名編,”テクノシステム 第6巻 絶縁材料・導電材料・磁性材料・電線ケーブル”,株式会社電気書院,平成元年11月第1版発行,表紙,目次の抜粋,123-124頁,裏表紙 (xi)甲第11号証 高橋清、外1名監修,”半導体・金属材料用語辞典”,工業調査会,1999年9月20日初版発行,表紙,331,673,896,1030頁,裏表紙 <弁駁書> (xii)甲第12号証 報告書(1)「鉄片加熱実験報告書」 (xiii)甲第13号証 米国特許第4800328号明細書及び明細書要部(第7欄第7〜11行)の翻訳文 (xiv)甲第14号証 ELEKTRIE 34(1980)H.7、表紙、目次、339〜341頁「Transportmittel mitinduktiver Energieubertragung」、及び339〜341頁の翻訳文 (xv)甲第15号証 報告書(2)「ピックアップコイルのコアとコアの両凹部に対向する面との距離によるピックアップコイルの自己インダクタンス、供給電力変化」 (xvi)甲第16号証 被請求人提出に係る平成11年2月12日付特許異議意見書 (2)被請求人の提示した証拠方法 (i)乙第1号証 報告書(E字状コアを有したピックアップコイルを用いる誘導電力分配システムにおける、E字状コアの両凹部に対向する面の材質による該面状に置かれた金属体の発熱状況についての報告書) (ii)乙第2号証 David C.White、外6名,“Some Problems Related to Electric Propulsion”,Massachusetts Institute of Technology,1966.11.1発行,表紙、目次、56頁、および要部翻訳文 (iii)乙第3号証 米国特許第4428078号、および明細書の要部の翻訳文 6.訂正請求の内容 被請求人の求めた訂正の内容は、以下のとおりである。 訂正事項1 請求の範囲の請求項22に「電気装置」とあるのを「車両」と訂正する。 訂正事項2 請求の範囲の請求項22に「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」とあるのを、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」と訂正する。 訂正事項3 請求の範囲の請求項24に「電気装置」とあるのを、「車両」と訂正する。 7.訂正の可否に対する判断 7-1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 7-1-1 訂正事項1について ア.訂正事項1は、請求項22において発明を特定する事項である「電気装置」を、特許訂正明細書1頁第4行-9行(平成10年異議第71922号特許決定公報6頁第9行-12行)の「本発明は、電力を1つ以上の電気装置に・・・に関する。これらの装置は・・・消費物(車両、携帯用家電器具、電気工具、携帯用電気機械、電池充電器または携帯用照明具の如きもの)である。」との記載に基づいて、下位概念である「車両」に限定するものである。したがって、特許請求の範囲の請求項22の減縮を目的とする訂正に該当するものであり、また、願書に添付した明細書(特許訂正明細書)及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲の請求項22を拡張し又は変更するものではない。そして、請求項22を引用する請求項23-27、請求項22を引用する請求項27を更に引用する請求項29においても同様である。 イ.請求人は、訂正事項1について、「被請求人は、『電気装置』を『車両』に訂正することにより、『車両に揺れ等が発生し、ピックアップコイルのコアとコアの両凹部に対向する面との間隔に変化が生じても、一次導電路により発生してピックアップコイルと交叉する磁束には殆ど影響がなく、十分な電力を得ることができる』という効果を奏する旨主張するが、コアとコア両凹部の対向面との間隔が変化して非接触給電上の問題を生じるという意味での車両は、当初明細書又は図面に記載も示唆もされておらず、『車両は揺れる』との前提自体が当初の明細書又は図に記載がないので、『揺れ等によりコアとコア両凹部の対向面との間隔が変化する』ことを前提とする『車両』への訂正は、単なる『車両』ではなく『揺れ等によりコアとコア両凹部の対向面との間隔が変化する車両』への訂正であり、当初明細書又は図面に記載された範囲内でなければならないという訂正要件に違反しており、訂正自体が認められるべきではない。」旨主張している。 しかしながら、訂正事項1は、あくまで「電気装置」を「車両」に限定する訂正を行うだけのものであって、そもそも「揺れ等によりコアとコア両凹部の対向面との間隔が変化する車両」への訂正を行うものではないのであるから、請求人の上記主張は失当である。 7-1-2 訂正事項2について ア.訂正事項2は、請求項22において発明を特定する事項である「非導電性の材料または非鉄金属」を、特許訂正明細書19頁第13行-15行(平成10年異議第71922号特許決定公報12頁第6行-7行)の「(10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。」との記載、特許訂正明細書19頁第22行-23行(平成10年異議第71922号特許決定公報12頁第12行)の「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」との記載、及び第10図に基づいて、非鉄金属の下位概念である「アルミニウム」にするものである。したがって、特許請求の範囲の請求項22の減縮を目的とする訂正に該当するものであり、また、願書に添付した明細書(特許訂正明細書)及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲の請求項22を拡張し又は変更するものではない。そして、請求項22を引用する請求項23-27、請求項22を引用する請求項27を更に引用する請求項29においても同様である。 イ.特許訂正明細書19頁第9行-20頁第19行(平成10年異議第71922号特許決定公報12頁第3行-25行)には、「図10は、本実施例の実際の1次-空間-2次の関係を断面で示し、・・・フェライト製のEビーム(10102)・・・。且つ図1の片持梁モノレールもこの断面を基礎としている。 (10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。・・・側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは、リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは図9に関して示すように、隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。 全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは、数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており、この結果として使用時発生する渦電流が磁束のそれ以上の透過を防ぐ役目をし、従って鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最少にする。 ピックアップコイルのフェライトコア(10102)は、複数のフェライトブロックをE字形に重ね、中央の軸部にプレート(10117)をボルトで固定したものである。・・・ピックアップコイル(10115)は1つ以上の任意の附属コイル(10116)と共にフェライトコアの中央の軸部に巻回する。1次導体(10110)と(10111)からフェライトコアの中央の軸部への電磁結合は前記1次導体がフェライトにより完全に囲まれているので、比較的能率的である。 車両(図示せず)はフェライト(10102)の左側に存在しており、変化する磁束は実質的にフェライト(10102)の内部に閉じこめられるので、・・・」と記載されている。 第10図において、フェライト製のピックアップコイルのコア(10102)はE字状に形成されており、一対の1次導体(10110)、(10111)は、それぞれ、前記コアの両凹部内で、かつそれぞれ凹部のほぼ中心に位置している。 上記の「車両(図示せず)はフェライト(10102)の左側に存在しており、変化する磁束は実質的にフェライト(10102)の内部に閉じこめられるので、・・・」との記載、及び第10図の配置関係からみて、第10図におけるE字状のフェライト製のピックアップコイルのコア(10102)の部分においては、審判請求書の添付図1或いは添付図3のように磁束はコア(10102)の内部に閉じこめられるものであることが明らかである。 なお、上記「ピックアップコイルのフェライトコア(10102)は、複数のフェライトブロックをE字形に重ね、中央の軸部にプレート(10117)を・・・固定したものである。」との記載からみて、プレート(10117)はフェライトコアの一部をなすものであり、フェライトで形成されるものであることが明らかである。 上記「側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは、リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは・・・隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。」との記載、及び第10図より、支持部材(10101)の側面(10105)の側が、一対の1次導体(10110)、(10111)がそれぞれそのほぼ中心に配置されるピックアップコイルのコアの両凹部に対向している。 そして、上記の「その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで・・・全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」との記載、及び第10図の配置関係からみて、第10図における一対の1次導体(10110)、(10111)の右側サイドにおいて、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をアルミニウムにより形成することは、実質的に示されていると解することが適当である。 そしてこのことは、(i)支持部材(10101)の代表的なものがI形断面形状のアルミニウムであることが記載されている点に加え、(ii)第10図において隔離絶縁体(10112)(10113)を支持していている部材である(10114)は、第10図において米国特許商標庁の規定によれば合成樹脂・プラスチックの断面を示す太い斜線と細い斜線の交互の模様で描かれてはいるが、上記「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」との記載からみて、プラスチックにより形成することとアルミニウムにより形成することのそれぞれが実質的に示されていると解することが適当であるという点、(iii)第10図には(10114)を(10101)に固定するボルト状の部材も見られるが、上記「もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは、数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており・・・」との記載からみて、この部材に鉄材料を採用する場合にあっては1次導体側の表面をアルミニウムにより被覆することが示唆されているものである点、とも符合するものである。 以上より、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をアルミニウムにより形成することは、発明の詳細な説明及び図面での開示内容に接した当業者が明らかに理解する事項であり、願書に添付した明細書(特許訂正明細書)及び図面の記載から自明な事項であるので、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」とする訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 なお、発明の詳細な説明及び図面に関しては、平成5年9月22日付けで提出された明細書の翻訳文・図面の翻訳文におけるものに対して、その後の補正・訂正によって何らの修正も加えられていないのであるから、どの時点の願書に添付した明細書及び図面を基準として仮定したとしても、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」とする訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものに該当するものである。 ウ.また、一対の1次導体(10110)、(10111)を支持する(10112)(10113)部材と1次導体を収容するケースは、上記「・・・(10110)と(10111)とは、好ましくは、リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは・・・隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。」との記載と併せ、特許訂正明細書10頁第23行-24行(平成10年異議第71922号特許決定公報9頁第22行-23行)の「全1次ケーブルは押出し形成されたプラスッチックケース内に密閉されてさらに絶縁されている」という記載からみて、プラスチックで形成することが示されている。ここで、プラスチックは、審判請求書第9頁19行ー20行に「空気と同様に電磁的に影響するものでもなく影響されるものでもなく」とあるように、空気と同様に磁束に影響を与えないものであることが当業者に自明である。 そして、一対の1次導体(10110)、(10111)がそれぞれそのほぼ中心に配置されるピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面がアルミニウムにより形成されることにより、(強磁性体であるフェライトコアとは異なり、アルミニウムは常磁性体(非磁性体)であるので、コアの両凹部の開口部間の磁束を引き寄せて磁束が集中的に通りやすい道を提供するということはないのであるから、)審判請求書の添付図1或いは添付図3に記載されたように、コアの両凹部の開口間の空気中を通るように磁束が流れることが明らかである。 エ.請求人は、訂正事項2について、「コア両凹部に対向する面の材料が、アルミニウムであると明確に特定できる記載は、当初明細書又は図面の何処にもない。図10において、コアの両凹部に対向する面を形成すると思われる支持部材(10114)と、プレート(10117)は、材質が明記されていないのであって、詳細な説明の記載及び図1、図10を詳細に検証しても、「コア両凹部に対向する面」が何処に位置し、どのような材料により形成される面であるか、当初明細書又は図面から明確に確定できない。当初明細書又は図面には、コア両凹部の対向面を形成するとの部材が何処に位置するか、その部材の材料が何であるかを特定できるように記載されていない。 従って、『前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること』への訂正は、当初明細書又は図面に記載された範囲内でなければならないという訂正要件に違反しており、訂正自体が認められるべきではない。」旨主張している。 しかしながら、上記ア、イで述べたとおりであって、訂正事項2は適法なものであり、その主張は認められない。 7-1-3 訂正事項3について 訂正事項3は、請求項24において発明を特定する事項である「電気装置」を、訂正事項1と同様に、特許訂正明細書1頁第4行-9行(平成10年異議第71922号特許決定公報6頁第9行-12行)の「本発明は、電力を1つ以上の電気装置に・・・に関する。これらの装置は・・・消費物(車両、携帯用家電器具、電気工具、携帯用電気機械、電池充電器または携帯用照明具の如きもの)である。」との記載に基づいて、下位概念である「車両」に限定するものである。したがって、特許請求の範囲の請求項24の減縮を目的とする訂正に該当するものであり、また、願書に添付した明細書(特許訂正明細書)及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲の請求項24を拡張し又は変更するものではない。 7-2 独立特許要件 訂正事項3は、特許の無効の審判が請求されていない請求項24についての訂正である。また、請求項23-27、29は、無効審判の請求がされていないが、請求項23-27は請求項22を引用して記載され、請求項29は請求項22を引用する請求項27を引用して記載されており、請求項22の訂正に伴い実質的に訂正されている。そこで、訂正後における請求項23-27、29に記載の発明(以下、「本件訂正後請求項23-27発明」という。)が独立特許要件を有するか否かについて検討する。 本件訂正後請求項23-27、29発明は、請求項22を引用するものであるから、9-5で後述したと同じ理由により、甲第1乃至8、13、14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また、他に本件訂正後請求項23-27、29発明を取り消すべき理由を発見しない。 したがって本件訂正後請求項23-27、29発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。 7-3 むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、平成15年改正前特許法第134条第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するものであり、また、上記訂正のうち訂正事項3は平成15年改正前特許法第134条第5項において読み替えて準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合する訂正であるので、上記訂正を認める。 8.訂正発明 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項22に係る発明(以下、「本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)」という。)、請求項23-27、29に係る発明は、本件訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項22、23-27、29に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項22】 高周波電源と、 該高周波電源に接続された一次導電路と、 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の車両であって、 前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイルを有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する車両と、 を備え、 前記一次導電路は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され、 前記車両のピックアップコイルのコアをE字状に形成し、前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し、前記一対の導体がそれぞれ、前記コアの両凹部内で、かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され、 前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること を特徴とする誘導電力分配システム。 【請求項23】 特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 ピックアップコイルは2つのコンデンサとともにピックアップ共振周波数を有する直列共振回路を構成することを特徴とするもの。 【請求項24】 特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記車両は、第2コイルを備え、該第2コイルは前記ピックアップコイルと同一磁気回路を有するコアに巻かれていることを特徴とするもの。 【請求項25】 特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路は、終端にコンデンサを接続したことを特徴とするもの。 【請求項26】 特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記出力負荷に、前記ピックアップコイルにかかる負荷を一定とする相補負荷を接続することを特徴とするもの。 【請求項27】 特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路の導体の少なくとも一部をループ状としたことを特徴とするもの。 【請求項29】 特許請求範囲第27項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路は、終端にコンデンサを接続したことを特徴とするもの。」 9.無効理由に対する判断 9-1 無効理由A;訂正要件違反1について 本件訂正請求により、請求の範囲の請求項22の「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」は「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」と訂正されている。 そして、上記[7-1-2 訂正事項2について イ.]で述べたとおり「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をアルミニウムにより形成することは、発明の詳細な説明及び図面での開示内容に接した当業者が明らかに理解する事項であり、願書に添付した明細書(特許訂正明細書)及び図面の記載から自明な事項であるので、『前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること』とする訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 なお、発明の詳細な説明及び図面に関しては、平成5年9月22日付けで提出された明細書の翻訳文・図面の翻訳文におけるものに対して、その後の補正・訂正によって何らの修正も加えられていないのであるから、どの時点の願書に添付した明細書及び図面を基準として仮定してみても、「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」とする訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものに該当するものである。」のであって、 「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」とする訂正は、訂正前の明細書・図面に記載した事項の範囲内かつ特許訂正明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、請求人の主張する無効理由Aによって請求項22に係る発明の特許を無効にすることはできない。 9-2 無効理由B;訂正要件違反2について 下記9-5(2)で後述のとおり、本件訂正発明1(本件補正後請求項22発明)と甲第1号証発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)では、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されているのに対し、 甲第1号証発明では、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面にフェライト板を設け、該フェライト板の裏には導電接地板が設けられ、前記コアの両凹部に対向する面をフェライトにより形成することにより、前記一次導電路(電送ライン)のそれぞれを取り巻く磁路であって、コア内部を通りフェライト板内部を経由して再びコア内部を通る周状の磁路が形成される点。 (相違点2) 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)におけるピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するのに対し、 甲第1号証発明におけるピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するものとして記載されていない点。 相違点の検討 イ.相違点1について 甲第1号証発明においては、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向して設けたフェライト板を使用して、コアの内部を通りフェライト板内部を経由して再びコア内部を通る磁束の周回路を形成して、磁気結合を得ているのであって、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向して設けたフェライト板自体を磁気回路の一部として利用するものである。他方、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の如くピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面(以下、「対向面」という。)をアルミニウムで形成する場合にあっては、対向面材自体を磁気回路の一部として利用することはできない。両者において、磁気的見地から対向面の機能が異なるものであり、甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略し対向面をアルミニウムで形成するように変更することは、磁気回路における対向面の機能を全く変えてしまうことに他ならないのであって、上記相違点1に係る本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の構成が甲第1号証発明と同一であるとすることはできない。 ロ.相違点2について 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)におけるピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するものであり、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)は、共振回路を利用して電力電送効率を確保するものであることが明らかである。これに対して、甲第1号証に記載のものは、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向して設けたフェライト板を使用して、コアの内部を通りフェライト板内部を経由して再びコア内部を通る磁束の周回路を形成して、磁気結合を得ているものであって、共振回路を利用するものではない。よって、両者は原理的に相違するものであるから、同一であるとすることはできない。 まとめ 以上のとおりであって、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)を甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないのであるから、請求人の主張する無効理由Bによって請求項22に係る発明の特許を無効にすることはできない。 9-3 無効理由C;請求の範囲の記載要件違反1について 本件訂正請求により、請求の範囲の請求項22の「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」は「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」と訂正されている。したがって、「非導電性の材料または非鉄金属」という記載では、発明が不明確であり、また必須要件の記載の不備である旨の請求人の主張は、根拠がない。 9-4 無効理由D;請求の範囲の記載要件違反2について [7-1-2 訂正事項2について イ.]で述べた理由により「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」は、発明の詳細な説明及び図面での開示内容に接した当業者が明らかに理解する事項であり、願書に添付した明細書及び図面の記載から自明な事項であるのであって、「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること」は、発明の詳細な説明の記載が示唆するものであるから、発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。 9-5 無効理由E;進歩性なしについて (1)証拠に記載の発明 請求人の提出した証拠には、以下の発明が記載されているものと認める。 (i)甲第1号証(David C.White、外,“Some Problems Related to Electric Propulsion”,Massachusetts Institute of Technology,1966.11.1発行,46-51頁) (i-1)甲第1号証には、次の事項が記載されている。 ア.「車両用の直線状の誘導電力電送システム」(46頁1行訳文) イ.「図6-1に、誘導ピックアップの設計案を示す。ここで、中央の脚部にピックアップコイルが巻かれた「E」状のフェライトコアを使用している。電送線路の下には薄いフェライト板が設置されて、電送線路のワイヤを取り巻く磁束に対する、ピックアップとこのフェライト板との間の空隙が比較的小さくなるようにしている。電送線路およびピックアップコイルは、従来のトランスで使用されているE-I積層に類似する「E」状のコアとフェライト板とで、トランスを形成している。」(46頁4行-10行訳文) ウ.第48頁図6-1(a)(b)には、 平衡電圧供給源と、該平衡電圧供給源に接続された一対の電送ラインを備え、 一対の電送ラインは、ほぼ平行に敷設され、終端が接続されて形成されており、 誘導ピックアップのE字状のコアにピックアップコイル(出力巻線)を巻回し、一対の電送ラインがそれぞれ、コアの両凹部内でかつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置された構成が記載されている。 また、E字状のコアの両凹部に対向してフェライト板を設け、フェライト板の裏に導電接地板を設けた構成が記載されている。 エ.「図6-1に示すピックアップの設計では、比較的面積が大きく長さが短い磁界空隙を有する。空隙中の磁束密度は非常に低いため、フェライト磁気回路の空隙面積は10%に満たない。高電圧線を使用するためには、電送線路とピックアップとの間には広い間隔が許容される。また、ピックアップの、電送線路に対して横方向の動きを、かなりの範囲で許容できる。グラウンド上の電送線路の高さは、ピックアップが存在しない時にフェライト板での電力損失を最小化するのに十分で、線路の特性インピーダンスを最小化するのに十分な高さにされる。フェライトの下の導電体は、低損失の接地板を提供し、線路の外部場を最小化する。」(48頁1行-12行)と記載されており、フェライト板とE字状のコアとの間の磁気空隙に関して、「比較的面積が大きく長さが短い磁界空隙を有する。」と記載されている。また、導電接地板の機能に関して、「フェライトの下の導電体は、低損失の接地面を提供し、線路(電送線路)の外部場(外部磁場)を最小化する。」と記載されている。 オ.上記イ、ウ、エより、前記誘導ピックアップのE字状のコアの両凹部に対向する面はフェライトで形成され、しかも、誘導ピックアップのE字状のコアとフェライト板とは比較的面積が大きく長さが短い磁界空隙を有するものであるのであって、前記電送ラインのそれぞれを取り巻く磁路は、誘導ピックアップのコア内部を通りフェライト板内部を経由して再びピックアップコイルのコア内部を通る周状の磁路として形成されることが明らかである。 (i-2)以上から、甲第1号証には、 「平衡電圧供給源と、 該平衡電圧供給源に接続された電送ラインと、 前記電送ラインと結合して使用する車両であって、前記電送ラインにより発生する磁界から少なくとも若干の電力を取り出し得るピックアップコイル(出力巻線)を有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な出力負荷を有する車両と、 前記電送ラインは、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され、 前記車両の誘導ピックアップのコアをE字状に形成し、前記コアに前記ピックアップコイル(出力巻線)を巻回し、前記一対の電送ラインがそれぞれ、コアの両凹部内で、かつそれぞれの凹部の中央付近に位置するように配置され、 前記誘導ピックアップのコアの両凹部に対向する面にフェライト板を設け、該フェライト板の裏には導電接地板が設けられ、前記誘導ピックアップのコアの両凹部に対向する面をフェライトにより形成することにより、前記電送ラインのそれぞれを取り巻く磁路であって、誘導ピックアップのコア内部を通りフェライト板内部を経由して再びピックアップコイルのコア内部を通る周状の磁路が形成された、 誘導電力分配システム。」 の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。 (ii)甲第2号証(特公昭57-32102号公報) 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の誘導電力分配システムとは全く関係のない、リニアモータ駆動の高速列車のための誘導型反作用レールがアルミニウム合金を押出形成して製造されることが記載されている。 (iii)甲第3号証(特表平1-501195号公報) (iii-1)甲第3号証には、次の事項が記載されている。 ア.「本発明は、誘導結合された電力系統もしくは装置に関し、そして該電力系統もしくは装置に使用するための送電回線、ピックアップ及び二次調整器回路に関するものである。」(2頁右下欄5-8行) イ.「本発明の1つの特徴は、電源と接続されかつ受信機を含んでいる区域を通して延びる、2つの導体を含んだ二重の一次送電回線であって、各ループは、一方の電源端子と接続される第1のセグメントと、他方の電源端子と接続される第2のセグメントを有し、2つのループの第1のセグメントは、互いに隣接して該区域を通して延び、ループの第2のセグメントは隣接した第1のセグメントのいずれかの側を1つづつ該区域を通して延びるということである。導体ループの第2のセグメントは、導体ループの2つの隣接した第1のセグメントのいずれかの側に1つづつ密接して位置付けられ、そして導体ループの全てのセグメントは、実質的に同一平面にある。小さいループ構成は、漂遊磁界を最小にする。 本発明のもう1つの特徴は、二次ピックアップ組立体が2つの脚を有するU形状のコアを含み、該コア上に二次回路コイルを有し、該U形状のコアの脚は、伝送回線及び二次回路間の信号の誘導結合のために2つの導体ループの第1のセグメントを囲むことである。ピックアップのコアの脚の端部は、送電回線の導体ループのセグメントを超えて延び、そして導体ループの第1のセグメントに隣接したコア素子が二次ピックアップのコア脚の端部間に位置付けられ、2つのエアーギャップを有した磁気回路を形成する。 本発明のさらなる特徴は、中央に導体ループの第1のセグメントを、外側に導体ループの第2のセグメントを分ける2つのみぞを有したトラック状のカバーを送電回線が有するということである。U形状のピックアップの脚は該みぞ内に受けられる。」(2頁右下欄26行-3頁左上欄26行) ウ.「本発明は、旅客航空機に組込まれるものとして示され、かつ説明されるであろう。」(3頁右上欄20-21行) エ.「電源20は、28キロヘルツの交流電力を提供し、そして2つの端子25、26を有している。電源は第1図の送電回線の1つと共に第2図に示されている。各送電回線は、2つの導体ループ38(審決注:29の誤記である)、29を持った二重の一次回路を有する。各導体ループは、第1のセグメント28a、29aを有しており、双方のセグメントは、電源の一方の端子26に接続されている。ループ28、29は、他方の電源端子25と接続される第2のセグメント28b、29bを有している。第1のループ・セグメント28a、29aは、互いに隣接した電力系統によって供給される区域を通して延びる。第2のループ・セグメント28b、29bは、隣接した第1のセグメントから間隔を置かれると共に隣接した第1のセグメントのいずれかの側の1つの区域を通して延びる。4つの回線ループ・セグメントは実質的に同一平面上にあるのが好ましい。」(3頁左下欄22行-右下欄10行) オ.「該二次ピックアップ組立体はフェライト製であって良いU-形状コア33を有している。該U形状コア33は、一次導体(第1のループセグメント28a、29a)を囲む脚34,35、及び複数ターンの2次コイル37が巻かれる中央部分36を有している。第1のセグメント導体28a、29aにはフェライト・バー40が物理的に関連されており、該フェライト・バー40は、コア脚34,35の端部間に位置付けられて磁気回路を完成している。フェライトはもろい(a brittle material)であり、導体、セグメント28aの長さを延びるバー40(点線で示す)は、1/2インチ(one-half inch)程度の長さを有する短い部分(short sections)から作られるのが好ましい。」(3頁右下欄18行-4頁左上欄3行) カ.「送電回線21及びピックアップ組立体31の好ましい物理的な実施例が第3図及び第4図に詳細に示されている。送電回線セグメント28a、29a、28b及び29bは、矩形断面リッツ導体であるのが好ましい。送電回線導体及びフェライト・バー40は、カバー45及びベース46を有する絶縁物質のトラック状ハウジング44を有する。カバー45は上方に延びかつ下方に開いたポケット50、51及び52で区画される2つのみぞ48、49を有する。ベース46は、縦に延びるリブ55、56及び57を有し、それらのリブはそれぞれポケット50、51及び52内に延びる。カバー及びベースは、プラスチック物質でモールドもしくは造形されるか、または押出加工され得る。第1の導体ループ・セグメント28a、28bはフェライト・バー40の上で中央ポケット51内に一緒に置かれる。・・・ピックアップ組立体31はまた、U形状部分59及び補強カバー(ribbed cover)60を有する非導電性ハウジング58を有する。・・・」(4頁左上欄16行-右上欄10行) キ.「ここで開示された航空機システムに対して、トラックハウジング44は、・・・。導体ループのセグメントの閉空間は、漂遊磁界の範囲を最小にする。 ・・・電力トラック44もまたキャビンもしくは客室の床に配置され、座席装着トラック68と平行に延びる。ピックアップ組立体31は、トラックみぞ48、49内に延びる脚65、66でもって座席群に物理的に装着される。」(4頁右上欄15行-左下欄2行) (iii-2)以上から、甲第3号証には、 「28キロヘルツの交流電源20と、 該電源に接続された2つの導体ループ28、29を持った二重の一次送電回線と、 前記一次送電回線の第1のループセグメント28a、29aと二次ピックアップ組立体31を誘導結合して使用する装置であって、 前記一次送電回線の第1のループセグメント28a、29aにより発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得る二次コイル37を有し、且つ該二次コイル37に誘導される電力により駆動可能な少なくとも1つの負荷を有する装置と、 を備え、 前記一次送電回線は、2つの導体ループ28、29を持った二重一次送電回線であって、各ループは、一方の電源端子26と接続される第1のセグメント28a、29aと、他方の電源端子25と接続される第2のセグメント28b、29bを有し、2つのループの第1のセグメント28a、29aは、互いに隣接して該区域を通して延び、ループの第2のセグメント28b、29bは隣接した第1のセグメントのいずれかの側を1つづつ該区域を通して延びるよう形成され、 前記二次ピックアップ組立体31のコア33をU形状に形成し、前記U形状コア33に前記二次コイル37を巻回し、2つの導体ループの第1のセグメント28a、29aが前記U形状コア33の両凹部内で、かつ凹部のほぼ中心に位置するように配置され、 前記二次ピックアップ組立体31のU形状コア33の脚34、35の端部間に、フェライト・バー40が位置付けられて、U形状コア33とフェライト・バー40とにより磁気回路を形成する、 航空機に組込まれる誘導結合された電力系統。」 が記載されていると認められる。 (iv)甲第4号証(Arthur W.Kelly、外1名,“Power Supply for an Easily Reconfigurable Connectorless Passenger Aircraft Entertainment System”,IEEE,PESC87,650-659頁) 甲第3号証と同じ発明者により甲第3号証と同様の電磁気的結合をされた電力供給システムが記載されている。 659頁図12には、一次巻線を取り囲む磁力線を示すパワートラックの磁力線有限要素解析図が示されている。 (v)甲第5号証(実願昭60-49311号(実開昭61-169403号)のマイクロフィルム) 給電線を電波シールド材で覆う技術が開示され、その材料としてアルミや銅が挙げられ、その適用として非接触給電への適用も開示されている。 (vi)甲第6号証(吉村順一,“高周波加熱用電子管発振装置の設計と調整”,誠文堂新光社,昭和42年12月15日発行,6-7頁,456-460頁) 高周波誘導加熱による基体の発熱を減少させるために、アルミニウムなどの導電体で遮蔽することが示されている。 459頁第6〜12行目に、図10.8において、フレーム内にコイルを配置した場合、フレームにおける誘導電流による発熱を防止するために、フレームによるループをなくすため、アングルを切って絶縁棒でつなぐ構成が開示されている。同頁の13〜16行目に、上記記載に関連して、「フレームの側板で高周波電流が流れる部分は主としてアルミニウム合金板が用いられ、電源部などの高周波の流れる恐れがない部分は鉄板を用いる。」と記載されており、高周波電流が流れてはならない収納室としてのフレーム側板に高周波誘導電流が流れて加熱する場合の対策として、アルミニウム合金板が用いられることが示されている。 460頁下から7〜2行目に、「枠組を作る場合組立に使用する止ねじ類には絶対鉄ねじ類を使用しないようにしなければならない。このねじにはポリカーボネートのような絶縁物を用いるとよいが、電力がさほど大きくない場合には硬銅とか黄銅のねじを使用してもよい。よく問題を起こすのはタンクコイルの中に挿入されるグリッドコイルで、これを組み立てるネジは必ず絶縁ネジを使用すべきである。金属ネジは誘導加熱され過熱されて絶縁物を焼損することになるからである。」と記載されており、絶縁物が高周波磁界の中では最も加熱され難く適材であること、硬鋼とか黄鋼の非磁性の電気的良導体金属が次善であること、鉄は最も加熱され,問題があることが示されている。 456頁下から7〜2行に、「高周波に限らず低周波においても電気機器の漏洩磁束は多かれ少なかれフレームに誘導し、うず電流を生じ発熱をともなうものである。ただ電力の小さい場合は分からないし、漏洩磁束も小さいから問題にならないのであって、電力が大きくなるとその発熱量が大きくなるので問題となってくる。しかもこの発熱は高周波になるほど大きくなるものである。これは表皮作用によるものであるからフレームの表面に電気抵抗の少ない金属をはりつけるとか、吹きつけるとかすれば幾分でも発熱を減少させることができる。」と記載されており、通常鋼材が用いられるフレームへの磁束の影響を少なくするために表面に電気抵抗の少ない金属を張り付けることが示されている。 (vii)甲第7号証(米国特許第4914539号明細書) 航空機内の各座席のエンターテイメントに対する非接触給電で、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルを使用する非接触給電システムが記載されている。 また、5欄7-10行(訳文5頁17-20行)には、「給電線68を備える導体は非鉄床材で覆われ、これにより損傷から保護されるが、一方で磁気遮蔽される。」と記載されており、給電線を含む導体を非鉄床材で覆う技術が記載されている 1欄58-61行(訳文2頁29-31行)には、「相互インダクタンスは、給電線とピックアップコイル間の距離に反比例しており、その距離も大幅に変動する可能性がある。」と記載されている。 (viii)甲第8号証(”神鋼電機 Vol.31 No.1 1986 通巻108号”,神鋼電機,1986年5月20日発行,5-9頁) 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の誘導電力分配システムとは全く関係のない、LIM(リニアインダクションモータ)式立体搬送システムのレールにはアルミ押出成形品が用いられることが記載されている。 (ix)甲第13号証(米国特許第4800328号明細書) 車両の非接触給電システムに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルを使用する車両システムが記載されている。 (x)甲第14号証(ELEKTRIE 34(1980)H.7、339〜341頁「Transportmittel mitinduktiver Energieubertragung」) 車両の非接触給電システムに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少なくとも一つのピックアップコイルを使用する車両システムが記載されている。 (2)対比 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)と甲第1号証発明とを対比すると、後者における「平衡電圧供給源」、「電送ライン」、「ピックアップコイル(出力巻線)」、「誘導ピックアップのコア」、「凹部の中央付近」は、それぞれ前者における「高周波電源」、「一次導電路」、「ピックアップコイル」、「ピックアップコイルのコア」、「凹部のほぼ中心」に相当し、 また、後者において(i)「電送ラインと結合して使用する車両」の数は明確ではないが、少なくとも1つはあることは明らかであり、(ii)「電送ラインにより発生する磁界から少なくとも若干の電力を取り出し得るピックアップコイル(出力巻線)」が、少なくとも1つはあることは明らかであり、(iii)「ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な出力負荷」が、少なくとも1つはあることが明らかであるから、 両者は、 「高周波電源と、 該高周波電源に接続された-次導電路と、 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の車両であって、 前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得る少くとも1つのピックアップコイルを有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する車両と、 を備え、 前記一次導電路は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され、 前記車両のピックアップコイルのコアをE字状に形成し、前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し、前記一対の導体がそれぞれ、前記コアの両凹部内で、かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置されている、 誘導電力分配システム。」 の点で一致し、 以下の点で相違する。 (相違点1) 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)では、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されているのに対し、 甲第1号証発明では、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面にフェライト板を設け、該フェライト板の裏には導電接地板が設けられ、前記コアの両凹部に対向する面をフェライトにより形成することにより、前記一次導電路(電送ライン)のそれぞれを取り巻く磁路であって、コア内部を通りフェライト板内部を経由して再びコア内部を通る周状の磁路が形成される点。 (相違点2) 本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)におけるピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するのに対し、 甲第1号証発明におけるピックアップコイルはピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成するものとして記載されていない点。 (3)相違点の検討 α.相違点1について 甲第1号証発明においては、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向して設けたフェライト板を使用して、コアの内部を通りフェライト板内部を経由して再びコア内部を通る磁束の周回路を形成して、磁気結合を得ているのであって、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向して設けたフェライト板自体を磁気回路の一部として利用するものである。他方、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の如くピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面(以下、「対向面」という。)をアルミニウムで形成する場合にあっては、対向面材自体を磁気回路の一部として利用することはできない。両者において、磁気的見地から対向面の機能が異なるものであり、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の如く対向面をアルミニウムで形成することと、甲第1号証発明の如く対向面材自体を磁気回路の一部として利用することとは、原理的に相容れないものである。 したがって、甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略し対向面をアルミニウムで形成するように変更することは、磁気回路における対向面の機能を全く変えてしまうことに他ならず、着想上の阻害要因があると言うべきである。 また、請求人は甲第6号証を提示し、「高周波誘導加熱を低減するために磁力線をアルミニウム等の導電体で遮蔽する構造が周知のことであるから、甲第1号証の『フェライト板で覆われた導電接地板』の構成から、フェライト板を省略して軌道側は『導電接地板』だけの構成とすることは、当業者が容易に想到できることである」旨主張する。しかしながら、磁気回路の一部として利用するフェライトと高周波誘導加熱を低減するために磁力線を遮蔽するアルミニウムとでは、磁気的見地から対向面の機能が異なるのであって、上述のとおり、甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略し対向面をアルミニウムで形成するように変更することは、磁気回路における対向面の機能を変えてしまうことに他ならず、着想上の阻害要因があると言うべきであるので、上記主張は首肯できないものである。 その他、請求人は、甲第2乃至5、7、8号証を提示しているが、 (a)甲第2、8号証に記載のものは、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の誘導電力分配システムとは全く関係のないものである。そして、甲第2号証に記載のリニアモータ駆動の高速列車の誘導型反作用レール及び甲第8号証に記載のLIM(リニアインダクションモータ)式立体搬送システムは、甲第1号証に記載の誘導電力分配システムとは原理の異なるものであり関係のないものであって、甲第2、8号証においてレールにアルミニウムを用いていることが、甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略するということに結びつくものではないことは明らかである。 (b)甲第3、4号証についてみると、(i)甲第3号証に記載のものは、二次ピックアップ組立体のU形状コアの脚の端部間に、フェライト・バーが位置付けられて、U形状コアとフェライト・バーとにより磁気回路を形成するものあり、コアの対向部材であるフェライト・バーを磁気回路の形成に利用する点で、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)のものとは全く異なるものである。甲第4号証に記載のものも同様である。そして、甲第3号証、甲第4号証に記載のものが、甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略するということに結びつくものではないことが明らかである。 (ii)甲第3、4号証に記載のものにおいては、U形状コアに囲まれた一次導体(甲第3号証でいえば第1のループセグメント)を流れる電流により発生する磁気はU形状コアで有効に活用できるものの、U形状コアに囲まれていない一次導体(甲第3号証でいえば第2のループセグメント)を流れる電流により発生する磁気の活用は不十分にならざるを得ないのに対して、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)ではE字状のコアの両凹部内に終端が接続された一次導電路の一対の導体をそれぞれ配置することにより、一次導電路の一対の導体の双方を流れる電流により発生する磁気をE字状のコアで有効に活用できるという技術的特徴があるのであって、請求人の「E字状コアに特定するための技術上の必然性がない」という主張は首肯できないものである。 (c)甲第5、7号証についてみると、甲第5号証に記載の給電線をアルミよりなる電波シールド材で覆う技術及び甲第7号証に記載の給電線を含む導体を非鉄床材で覆う技術は、甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略することとは結びつかないものであることが明らかである。 したがって、上記相違点1に係る本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の構成を甲第1乃至8号証から当業者が容易に想到できたとすることはできない。 β.相違点2について 甲第7号証、甲第13号証、甲第14号証には、共振回路を構成するピックアップコイルによる非接触給電システムが示されており、これによれば、甲第1号証のものをピックアップ共振周波数を有するものとすることが考え得る。しかしながら、[上記α.相違点1について]で検討したとおり、上記相違点1を容易とすることができない以上、相違点2についてその効果等を含めて詳細に容易推考性を検討するまでもなく、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)は甲第1乃至8、13、14号証から容易に発明できたものとすることはできないものである。 (4)まとめ 以上のとおり本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)は甲第1乃至8、13、14号証に記載のものから容易に発明できたものとすることはできないものであるので、請求人の主張する無効理由Eによって請求項22に係る発明の特許を無効にすることはできない。 (5)発明の効果について 請求人は、被請求人が審判事件答弁書で本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)特有の効果として主張した効果ア、イ、ウについて、「当初明細書に記載されておらず、当初明細書又は図面の記載から当業者が推論すらできない仮想上の効果である」等の理由により、進歩性の判断の際に参酌されるべきではない旨主張している。 上記(3)αにおいては、「甲第1号証発明から敢えてフェライト板を省略し対向面をアルミニウムで形成するように変更することは、磁気回路における対向面の機能を全く変えてしまうことに他ならず、着想上の阻害要因があると言うべきである。」ので、「上記相違点1に係る本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)の構成を甲第1乃至8号証から当業者が容易に想到できたとすることはできない」のであり、また、上記(3)βにおいては、「上記相違点1を容易とすることができない以上、相違点2についてその効果等を含めて詳細に容易推考性を検討するまでもなく、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)は甲第1乃至8、13、14号証から容易に発明できたものとすることはできない」のであって、本件訂正発明1(本件訂正後請求項22発明)は、被請求人の主張する特有の効果ア、イ、ウが存在するか否かを考慮するまでもなく、甲第1乃至8、13、14号証に記載のものから容易に発明できたものとすることはできないものである。 したがって、請求人の上記主張の妥当性の如何は、請求項22に係る発明の特許を無効理由Eによって無効にすることができるかどうかを左右するものではない。 10.結論 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項22に係る発明の特許を無効とすることはできない。 又、他に本件特許の請求項22に係る発明の特許を無効とする理由を発見しない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 誘導電力分配システム 【発明の詳細な説明】 発明の分野 本発明は、電力を1つ以上の電気装置に無線誘導手段を介して空間を越えて配電し送電することに関する。これらの装置は大抵の場合、これらが位置する経路または敷地に沿って配設する固定導体から少くとも相当の電力を取り出し得る電力の移動可能または携帯可能な消費物(車両、携帯用家電器具、電気工具、携帯用電気機械、電池充電器または携帯用照明具の如きもの)である。本発明は特に、上記のような固定導体が配設されている径路に沿って移動中または停止する複数の車両の若干またはそのすべてに誘導電力を配電する誘導電力伝送システムに適用し得る。 背景技術 本発明は、多様な状況に適用できるが、その主要な適用は、動力として電力を必要とする車両、特に電動車の方面に期待し得る。 車両誘導技術は、自動倉庫やロボットやコンピュータ制御組立ラインその他に於て重要なものとなっている。電気的乗客輸送は多年広く使用されているが、通常の架空導線は、美観、危険、価格、敷設、保守に問題があり、さらに、車両に設けられている集電器(パンタグラフまたは炭素保安器等)はしばしば架空導線より外れて他の交通を混乱さすという問題がある。また、このような架空導線に接続された車両は互いに追い越すことができない。また。ワイピング接点は、汚れると、十分に動作しなくなる傾向がある。 誘導電力伝送は、火花の危険または不完全接触に関連する機械的問題を排除することにより、パンタグラフやブラシ接触装置に対しては魅力ある代替品を提供するように思われる。しかしながら、先行技術としては電気車両への実用化を提案したものはない。 先行技術 19世紀には、電気(電信)信号を走行鉄道車両等から線路側の導体へ誘導伝達することに関して多数の特許が米国で公告されたが、これらの特許は有効な量のエネルギーの伝達に関するものではなかった。また、高電圧の容量性手段によって電力を伝達するものに関する特許さえもあった(TESLA米国特許第514,972号)。上記の誘導伝達に関連する唯一の歴史的特許は1894年のHUTINとLeBLANCの特許(米国特許第527,857号)で、約3KHzの交流を用いる誘導が提案されている。さらに最近では1974年のOTTOの理論的仕事(ニュージランド特許第167,422号)では、バスのような車両用に、4〜10KHzの範囲で動作する直列共振二次巻線を用いることが提案された。 発明の目的 本発明の目的は、電力の分配と伝達用の改良システムを提供し、または少くとも公衆に有用な選択性を与えることである。 本発明の説明 一つの態様において、本発明はつぎの構成よりなる誘導配電システムを提供するもので、これは、 電源と、 該電源に接続された一次導電経路と、 該一次導電経路と最適に組み合わされて使用される一つ以上の電気装置と、 該装置またはその各々であって、前記一次導電経路から発生される磁界から少くとも相当の電力を取り出し得るものと、 前記装置またはその各々であって、ピックアップ共振振動数を有する共振回路を形成する少くとも一つのピックアップコイルと、前記ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも一つの出力負荷とを有するものとからなる誘導電力配電システムにおいて、 前記装置が前記一次導電経路に、減少した負荷を与えるようなことのないようにするための手段が設けられていることを特徴とするものである。 本発明の一形式において、前記装置またはその各々が前記一次導電経路に低減負荷を存在させることを未然に防止する手段は、前記出力負荷を所定の閾値以上に維持する手段よりなる。 本発明のさらに好ましい一つの形式において、前記装置またはその各々が前記一次導電経路に低減負荷を存在させることを未然に防止する手段は、前記導電経路からピックアップコイルへ伝達される電力を変更する手段よりなる。 該一つ以上の電気装置は移動用または携帯用装置であることが好ましい。 本発明の随意の形式の一つにおいて、前記出力負荷は、一つ以上のバッテリに給電するバッテリ充電器よりなる。 本発明の最も好ましい形式の一つにおいて、本発明は一次導電経路に沿って移動し得る一台以上の車両に関するものである。 他の態様において、本発明は、電源と、該電源に接続される一次導電経路と、該一次導電経路と最適に組み合わされて使用される一台以上の車両であって、前記一次導電経路から発生される磁界から少くとも相当の電力を取り出すことができ、ピックアップ共振振動数を有する共振回路を形成する少くとも一つのピックアップコイル、および前記ピックアップコイルに誘起する電力により駆動可能な少くとも一つの電動機を有するものとから成る誘導電力伝達システムであって、前記一次導電経路からピックアップコイルへ伝達される電力を制御する手段があることを特徴とするシステムを提供する。 好ましくは、前記一次導電経路は一次共振回路よりなる。 好ましくは、該伝達システムは、交流が供給される、一対の離隔してほぼ平行な導体との電磁結合によって得られる電力を、前記一対の平行導体に沿って走行することができる車両上のピックアップコイルに供給する手段を提供し、ここで前記ピックアップコイルは前記平行導体からピックアップコイルへ伝達される交流電力を最大にすべく同調される。 その他の態様において、本発明は、交流が供給される一対の離隔したほぼ平行な導体から、該一対の平行導体に沿って走行することができる車両のピックアップコイルに誘導電力を供給する手段を提供し、ここで前記ピックアップコイルは該平行導体からピックアップコイルへ伝達される交流電力を最大にすべく同調されるとともに該車両上に任意に第二の遮蔽絶縁コイルが該一対の平行導体とピックアップコイルとの間に設けられる。 好ましくは、スイッチを該遮蔽コイル上に設けて、もし該スイッチを投入すると該絶縁コイルは短絡することができて、該一対の平行導体と該ピックアップコイルとの間の結合度合を疎にすることができる。 これに代わるものとして、スイッチを主ピックアップコイル上に設けて、共振電流を主ピックアップコイル中に流さしめたりまたは流れるのを防止してもよい。好ましい配置では、スイッチはピックアップコイル内のコンデンサと並列であって、従ってもしスイッチが投入されるとコンデンサは短絡し得るのでピックアップコイルが確定され、電力結合の度合を疎にする。この実施態様よりも好ましさの劣るさらに別の実施態様では、上記スイッチは該コンデンサと直列になり得て該スイッチが開放されると該共振回路が遮断される。 さらに他の態様においては、本発明は電流/電圧比を適正にするとともに、独特の該固定一次導体の構成および配置を提供する。 特別の態様では、本発明は、比較的電磁放射がなく、電気的に同調可能な共振DC-ACコンバータにより正弦波交流形式の電力の発生を提供する。 さらに他の態様において、本発明は誘導原理と共振二次巻線とにより前記一次導体から車両に有効量の電力を供給する手段を提供する。 また他の態様では、本発明は高周波共振DC-AC電力コンバータを提供する。 好ましくは、電源は、供給電力を50Hzと1MHzとの間の公称周波数の交流に変換する手段よりなり、該変換手段は共振負荷で使用するようになっている。さらに好ましくは、公称周波数が1KHzと50KHzとの間にあり、かつ実施例では一般的に最も好ましい周波数10KHzについて言及する。 また別の態様においては、本発明は誘導ピックアップコイルから電力を変換することができる最大電力AC-DCコンバータを提供する。 なお別の特別な態様においては、本発明は出力コイル電圧を感知して平均コイル電圧が予めセットした閾値以下である間は、電流の瞬間ドレーンを禁止する手段により前記共振二次巻線から最大電力を伝達させる。 本発明の目下の応用は倉庫などのレールに基く貯蔵システムにおいて期待される。本発明を実施するシステムは、従来のコンベヤベルトシステムに対する直接の競争者と見なされるが、低価格や制御融通性および円滑な操作といったいくつかの重要な利点を備えている。なお、それには危険な移動ベルトがなく、かつ露出導体がなく、その火花のない構造および全体が耐水密閉される可能性のある危険な環境内の操作に適している。歩行通行の多い所で安全に使用できる。本発明による貯蔵システムは、レール上を走行する多数(場合によっては数百)の自走車両よりなり、各車両は第1図に示すように、該車両の傍に、 レールに平行に設けられた、高周波で励磁される導電ループから誘導結合を介して車両用電力を取り出すのである。 車両以外への応用としては、通電中の電気導体に直接接触することなく家庭用電気器具あるいは電気機械を励磁することが必要な場合を含む。たとえば、これは写真家のスタジオ内のライトスタンドあるいは手術用の階段教室の装置のような携帯用物体を含み、ここでは該装置を容易に持ち上げることができ、かつ、付属の電気コードなしに即刻機能状態に置くことができるのが望ましい。隠蔽した励磁用導電ループを設備したスイミングプール内に照明を配置することができる。これらの応用ではすべて安全が重要な課題である。 図面 次に本発明の好ましい実施例を附属図面に従って説明する。 総括 図1は誘導電力を供給されるモノレールコンベアを示す。 図2は直線レールを備えた貯蔵システムとして構成された本発明のいくつかの変形例の説明図である。 電源 図3は本発明の共振DC-AC電力コンバータの1例を示す回路図である。 図4は本発明の共振DC-AC電力コンバータ用の限流制御器の1例を示す回路図である。 図5は本発明の共振DC-AC電力コンバータ用の共振制御器の1例を示す回路図である。 図6は本発明の電源または共振DC-AC電力コンバータの他の実施例の原理を示す回路図であって、この回路は隔離出力を有する。 図7はDC-AC電力コンバータの共振周波数が電気指令により如何にして変更されるかを示す。 軌道 図8は異なる長さの軌道を単一のインダクタンス、従って単一の共振周波数に適合させる誘導同調手段を示す略図である。 図9は図8のA-A線による拡大横断面図である。 図10は車両とモノレールシステムの1次導体との関係を示す。 車両 図11は本発明の最大電力AC-DCコンバータの原理を示す回路図である。 図12は本発明の切替え式の電源とコイル制御器AC-DCコンバータの制御回路を示す回路図である。 図13は本発明の最大電力AC-DCコンバータの制御回路を示す回路図である。 図14は図12の回路を簡単にして示す回路図である。 図15は本発明の一実施例に使用するブラッシュレスDCモータ駆動装置の原理を示す回路図である。 図16は送電線と同調ピックアップコイルとの説明図である。 図17は前記送電線と同調回路との間の相互結合の説明図である。 図18は相互結合の効果を示す説明略図である。 図19は附加短絡コイルの効果の説明図である。 図20は軌道に取り付ける制御配線の影響の説明図である。 図21は軌道の1セクションに増加電力を与える手段の説明図である。 図22は分岐軌道または他の補助設備に前記1次誘導ループの電力から電力を与える手段の説明図である。 図23はピックアップコイルのコンデンサと並列のスイッチの説明図である。 図24はピックアップコイルのコンデンサと直列のスイッチの説明図である。 図25は相補型負荷回路の説明図である。 図26はバッテリの充電器の説明図である。 図27は白熱灯照明器具の説明図である。 図28は蛍光灯照明器具の説明図である。 好ましい実施例一般 本明細書に記述する新規な原理は多くの方法で適用でき、共通して固定1次導体から空間を越えて1つ以上の2次ピックアップコイルへ誘導電力転送を行い、その結果、一般に、しかしいつも蓄電池なしとは限らずに電力利用ができる。多くの適用は、車両への原動力の供給に関するものであるが、照明、モータ駆動の他の形式、およびバッテリの充電も行う。 構成は、少くとも1つの共振または非共振1次回路より成るものでもよい。各1次回路は細長いループの形式の1対の平行導体より成り、または開路ループ内の単一導体より成るものでもよい。大抵の場合、前記1次導体は指定径路すなわち車両が使用する軌道に沿って連続して敷設すべきものであるが、(例えば路線バス停留所ごとに1次導体を継続させる、というふうに)1次導体を不連続なものにして、車両に蓄電池を搭載してもよい。 前記軌道は鉄道線路やコンベアベルトまたはモノレールの如き有形構造より成るものでもよく、あるいは、道路または床内に隠蔽した1つ以上の導体から放射する磁界により使用する不可視径路であってもよい。 好ましい動作周波数は大体10〜50KHzの領域内にある。これは特に使用可能な固体スイッチを原因とするいろんな制約、および導体の中を電流が流れるときに失われる電気的エネルギーを原因とするいろんな制約を反映している。しかし本発明による諸原理は50Hz〜1MHzのような甚だ広い範囲に適用できる。試作品は10KHzオーダの動作周波数を持ち且つ150〜500Wを使用可能な電力レベルとして組み立てられた。この電力は500Vで供給され、長さ165メートルの軌道を励磁することができる。 2次ピックアップコイルは好ましくは共振するもので、且つ、特に変化する負荷の場合には出力調整手段か最大電力変換装置か、あるいはさらに限流出力を有する組合わせピックアップコイル分離装置を介して、負荷に接続することが好ましい。これらは、軽負荷ピックアップコイルがその位置を通って電力が伝達されるのを妨げる効果を持っているという理由で、共振と非共振1次導体の両者に当てはまる。 電力レベルを引き上げることによって、ならびに車両またはモータおよびモータ駆動回路の数をふやすことによって、本明細書に記載する新規な概念から逸脱することなしに、上記よりもさらに大規模な設備を架設することもできる。使用し得る電圧に制約がある場合には、長軌道を区分して多数の分離電源からそれぞれ給電されることが好ましい。図2にいくつかの例を示す。 好ましい実施例1 第1の好ましい実施例として中間サイズの500W試作品について詳述する。この試作品は、共振電流を搬送し、切替え電源により励磁される1次ケーブルの傍の図1に示すような片持梁式の軌道に沿って、1台の車両または数台の同様な車両を走行させる車上誘導モータを使用するものである。本システムは大体165メートル以下の軌道長さを有し、500Vオーダの供給電圧と60Aオーダの循環共振電流を有している一方、全1次ケーブルは押出し成形されたプラスチックケース内に密閉されてさらに絶縁されている。かくしてこれは整流子火花がなく、鉱山内のような爆発性雰囲気に対して使用可能である。 図1に於て、(1100)は片持梁式軌道で、これは、水平な支持面(1101)と片側の溝の内部に設けられた1対の平行導体(1102)と(1103)とを有するI断面アルミニュームガーダである。(1104)は車両全体で、支持用と駆動用車輪(1106)と(1107)および駆動モータ(1105)とより形成され、車両用ピックアップコイルは前記駆動モータ(1105)と導体(1102)と(1103)とに隣接しているが、図示はされない(この詳細は例えば図10を参照)。 図2により電力配電システムの実施例をいくつか説明する。第1の実施例(2100)は2台の車両(2101)と(2102)を走行させるシステムを示す。これら車両は、フランジ付車輪により軌道(2103),(2104)上を走行する。1次導体(2105),(2106)の出力および入力ループは、一端がコンデンサ(2107)(これを設けるか設けないかは随意であるが、軌道が比較的長距離にわたる場合には設けることが好ましい。)に、他端がコンデンサ(2108)に接続され、さらに高周波電源である外部原動力により駆動される交流発電機(2109)に接続される。 第2形態(2200)は単一の車両(2201)を示す。この形態は非共振である。その1次導体は数ターンのケーブルより成っていてもよく、逓減変圧器(2203)を介して切替電源(2202)から駆動される。1次導体(2204)内の電流は非正弦波形とするのが適当である。 第3の実施例(2300)も単一の車両(2301)を示す。この実施例は共振回路を用いる。コンデンサ(2303)と絶縁変圧器(2304)の1次コイルの役目をするインダクタンス(2304)より成る同調回路を含む切替え電源(2302)から駆動される。この場合、循環電流が前記コンデンサ(2303)に加えて前記変圧器(2304)内にも存在し、従って、該変圧器は、前記共振回路に供給しまたは取り出す有効電力に加えて1次導体(2305)内を循環する共振電力にも適応し得るVA定格を有する必要がある。前記共振回路内を循環する電流は実質的に正弦波形である。前記システムの1次インダクタはすべての交流電流により駆動し得るが、すべての連想同調回路の平均共振周波数で出力される正弦波電流を使用することが好ましい。正弦波電流は高調波による無線周波放射を最少にすると共に循環電力の従属同調回路への転送の効率を増強する。 第4の好ましい形態(2400)も単一車両について図示する。この形態に於て、コンデンサ(2403)は1次インダクタ(2405)の固有のインダクタンスと共に共振回路を構成すると共に、電源(2402)のすべての他の構成要素の定格は、供給電力に基づいてのみ定めるべきであって、それよりも大きな共振電力に基づいて定める必要はない。前記共振回路内の電力は実質的に正弦波である。図8のように異なる長さの設備の間で一定のインダクタンスを維持するため、電源と軌道との間に追加の誘導子を挿入してもよい。また付加キャパシタンスを長軌道の軌道端に含ませてもよい。前記電源(2402)は軌道(2405)とコンデンサ(2403)の共振周波数に追従する切替え電源より成り、これは次章にて詳述する。 第5の形態は、終端コンデンサを省略する以外は第4形態と似ている。この形態は価格を減少すべく短い軌道長の設備に望ましい。 切替え電源または共振DC-ACコンバータによる高周波DC-AC変換 出力特性 電力を走行車両へ渡す共振システムは、定格値の低い構成要素のためにも高周波で運転するように作られるが、周波数が上昇するにつれて、隣接する導体の渦電流と表皮効果損失は、例えば分散されている1次導体内で上昇する。この渦電流損失と表皮効果損失は効率を低下させ、電磁干渉を生じる。現在入手可能な半導体がどのようなものであるかを考えれば、10KHzという動作周波数は、これを只1つの可能な選択と考えるべきではないが、理にかなった設計数字である。周波数は50KHzまで上昇してもよいが、導体の表皮効果損失はこの周波数より上で比較的重要なものとなる。ある場合には、特に航空業界では、上記のような問題が(例えば空港の地上輸送設備などについて)起こりさえしなければ、航法装置または通信設備に対して滞在的に干渉波となり得る高調波を生じないように、28.5kHzというような特殊な周波数を選択してもよいわけであるが、400Hzの電力が工業規格であるから、これを用いるのが好ましいかも知れない。動作電圧の上限は現今では、コンデンサの定格と半導体の電圧制限との両者により実際には約600Vに制限されている。 本装置の回路は、図3〜図7で説明しており、但し図3〜図5は図2の(2402)に対応する実施例の詳細回路である。また図6、図7は異なる実施例の説明図である。 図3に於て、(3100)はDC電源を示し、この場合、逓降変圧器(3105)を介して400V主電源から給電される三相ブリッジ整流器を示す。該変圧器は、1次導体を電源から電気的に隔離する役目もする。(3L1)と(3L2)とは入力の力率を改善すると共に、高周波セクション(3103)からの伝導妨害に対する保安器の役目をする。(3101)は電力変換器(3Q3)を含むソフトスタート装置であり、さらに(3102)は、従来通り限流制御器(3107)によって制御されるダイオード(3106)および誘導子(3L3)、ならびに電源(3108)を含むコンバータである。LEM装置は供給されたDC電流を感知する。 本システムの1次共振回路は、コンデンサ3C2(これは図7に示す通り周波数調節用の補助コンデンサを含んでいてもよい)と、誘導電力配電用の1次導体と、追加の構成要素として設けることのできるインダクタンスから成る。これらの構成要素のインダクタンスの総量は133マイクロヘンリーであることが好ましい。60Aオーダの循環共振電流は通常前記1次インダクタと電源への接続点と(3C2)とだけを流れ、(3L4)(ここでは数ミリアンペアのAC電流のみが使用中に測定された)には流れないので、この位相分割用変圧器はエアーギャップなしで構成してもよい。またこれは追加電力のDC成分以上は搬送しないので比較的小型にすることができる。共振電流は、切替トランジスタ(3Q1)と(3Q2)のいずれも流れない。但し、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)は軌道の短絡のような故障の初期状態に於ける過渡電流としての循環エネルギーを吸収し得る。 前記コンバータは1次電力を扱う要素として1対の手動式オン/オフスイッチを含んでいるが、共振またはタンク回路へ接続されていることからも明らかなように、実際にはこのコンバータは正弦波交流出力を有するDC-ACコンバータである。これは(入力(301),(302)によって検出される)コンデンサ電圧が0の時に、低インピーダンスの状態から高インピーダンスの状態へ相補的にトランジスタ(3Q1)と(3Q2)とを切替えることにより共振電流を維持する。特別な運転開始や特別な電力低下の場合を除いては、前記切替えコンバータは共振電流に特別な周波数(装置の物理的特性によって定まる上限周波数を除き)をもたせるようなことをしない。これは単に、回路の固有リンギング周波数で動作する従属駆動回路にすぎない。 動作開始と電力低下状態は、制御回路用の電源の予備充電量が、主電源のそれを十分に上回るようにすることによって管理される。従って、軌道内に共振電力が存在する前後に、かつ共振電力制御器が、それ自身が持っている計時機構の動作に基づいて10KHzのパルスを出力する時に、上記の各種制御装置は機能する。 軌道上の負荷は、動作周波数を設計周波数から大きく偏位させ、それによって誘導結合の有効性を減少させることになるので、動作中の共振周波数を同調させるための手段を図7に示すように設けてもよい。主スイッチングトランジスタを(7S1)(7S2)により示す。一連の対をなして且つ好ましくは整合をとったコンデンサを(7Ca),(Ca′),(Cb),(Cb′)および(Cc),(Cc′)で示し、これは付属のソリッドステイトスイッチ(7S20),(S20′),(S21),(S21′)および(S22)(S22′)に印加する制御信号により瞬間的に回路へ挿入したり、回路から切離したりすることができる。明らかに、これらの機器は循環電流の一部分を搬送するもので適当な熱吸収器を持たなければならず、且つ適当な電圧定格を持つ必要がある。尚、図8に、設備時に共振回路を調整するに適した誘導同調配置を示す。 図4に限流制御器を示す。下部(4102)はソフトスタート部であって、限流部は(4101)である。このソフトスタート部に於ては抵抗器(4R11)とコンデンサ(4C4)とが時間遅延を設定する。第1コンパレータ(4103)は、通電を開始した後、(4C4)の充電電荷が、このコンデンサのマイナス側の電極に印加されている10Vの基準電圧を超過する瞬間を決定する。(4103)の出力は図3の装置(3Q3)と一致するゲート(4Q3)に印加される。また上部(4101)は、電流感知装置“LEM”からの信号を入力して増幅し、この信号は約5ボルトの閾値で判断するコンパレータ(4104)へ出力され、コンパレータ(4105)と(4104)とのOR出力によりヒステリシスが与えられるように修整される。また第4コンパレータ(4106)は前記出力を反転して、大きな電流の流れないように、抵抗器(4R15)を介して図3のトランジスタ(3Q4)のゲートへ印加するためのトランジスタ(4Q1),(4Q2)の駆動回路に印加する。 図5に於て、(5100)はインダクタ内の共振電流により生じた電圧の検出用セクションを表わす。このセクションは、2つの入力端子にそれぞれ逆位相の電圧が供給される(LM319)コンパレータの1/2より成り、従ってその出力は、プラス側の入力端子に加えた電圧にマイナス側の入力端子に加えた電圧の逆相成分を加算したものを反映している。(5101)は共振コンデンサ電圧の振幅を決定するためのセクションであり、かつ、(例えばスタートアップ時のように)振幅が小さい段階では、設計中心周波数で内部発生するパルスをセクション(5102)から供給することを可能にするためのセクションを示す。入力信号はダイオード(D3),(D2)により整流されて基準電圧と比較される。もし検出ACが小さすぎると、内部クロック(5102)すなわち2進除数を扱う簡単な小型可変RC発振器が作動する。セクション(5103)は、相補的な位相リンク電流によって1対のゲートドライブ装置ICL(7667)を駆動するゲートである。このゲートドライブ装置は、電力スイッチング・トランジスタすなわち一般にIGBT装置と呼ばれているもの(図3の(Q1),(Q2))を制御する。 1次インダクタケーブル-同調 1次共振回路の誘導部として実際の軌道を使用する場合には、例えば車両のようなモジュールのためのものとして好ましい共振周波数があるので、軌道の共振周波数は実質的に設備間では一定となるべきことが要求される。133マイクロヘンリのインダクタンス値は実際の軌道の長さに無関係であることが好ましい。図8,図9は軌道を特定の共振周波数に同調させるシステムを示す。異なる軌道の長さに影響されないようにするために一組の個別部品としての、またはモジュール構造のインダクタンス(8100)を電源側(8101),(8103)と軌道側(8102),(8104)との間に設ける。これらのインダクタンスのおのおのは、ギャップを有する環状のフェライトコア(9105)であり、磁気飽和を避けるために低透磁率のコアであることが好ましい。このような環状フェライトコアは厚さ40mm、内径20mmおよび外径60mmであることが好ましく、エアギャップ(9106)は0.67mmであることが好ましい。((9108)は支持板である。)個々の環状フェライトコアは、1つの導体(9107)の回りに設けられると、軌道1mと実質的に同じインダクタンスを示す。設置するときに軌道長さを測定して165m以下であれば、軌道長の不足分1メータ当り1つの環状フェライトコアにリッツ線を通すことにより軌道インダクタンスを上昇せしめる。動作時に実際の共振周波数を測定し、且つ共振周波数をその目標値に微細に同調させるために、環状フェライトコアを追加したり、その数を減らしたりする。 1次誘導ループは60Aオーダの10KHzの周波数の大循環交流を搬送してもよい。この高周波電流から放射される誘導エネルギー(磁界)は前記導体内特に磁界内の強磁性材料内に渦電流を生ずる傾向がある。前記1次ループは前記移動車両が使用する径路に沿って配電に使用するもので、表皮効果を減少し且つ特に隣接導体の渦電流損失を減少するために、多重の細い絶縁ワイヤ(一般にリッツ線として知られる)より成るケーブルから、それぞれ成ることが好ましい。市販のリッツ線の好ましい1つのタイプは大体13mmの直径内に40ゲージエナメル銅線の撚線約10,240本より形成される。リッツ線に代るものとして、多重絶縁導体を有するタイプの電話ケーブルを使用してもよい。各ケーブル間の間隔は妥協の産物として定まるものである。もしこれが密接すぎるとその磁界は互に打消し合い、車両のピックアップコイルとの結合が不良となる。反対に、これらが離れすぎると、軌道インダクタンスは大きく上昇して大駆動電圧が必要となり、且つ車両のピックアップコイルに、磁界によってまだ鎖交されていない電流が流れる橋かけ部分が生ずるので、ピックアップコイル損失が不必要に高くなるものである。装置の定格により決定される600Vという実際の限界内では、約200mの軌道を60Aで駆動する。この長さは、図2の(2100)と(2400)に図示するように、前記ケーブル内に第2の直列のコンデンサを配置して、無効電力の発生を極力抑えることにより、およそ2倍にすることができる。 リッツ線(9110)と(9111)は、図9に断面を示す如く杯状断面を持ったプラスチック押出品より成るダクト内に収容してもよい。 図10は、本実施例の実際の1次-空間-2次の関係を断面で示し、本図のスケールは、フェライト製のEビーム(10102)の背面に沿って約120mmである。且つ図1の片持梁モノレールもこの断面を基礎としている。 (10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。側面(10104)は延長部(10106),(10107)により支持部材の取付けに適するようになっており、側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは、リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは図9に関して示すように、隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。 全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは、数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており、この結果として使用時発生する渦電流が磁束のそれ以上の透過を防ぐ役目をし、従って鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最少にする。 ピックアップコイルのフェライトコア(10102)は、複数のフェライトブロックをE字形に重ね、中央の軸部にプレート(10117)をボルトで固定したものである。中央の軸部は好ましくは20mmの厚さで、且つピックアップコイルの全長は模式的に260mmである。また、複数のフェライトブロックのうちのどれか1つを積み重ねから取り除いて2次コイルの空冷を考慮することが好ましい。2次コイルには使用中に20Aの循環電流が流れるからである。ピックアップコイル(10115)は1つ以上の任意の附属コイル(10116)と共にフェライトコアの中央の軸部に巻回する。1次導体(10110)と(10111)からフェライトコアの中央の軸部への電磁結合は前記1次導体がフェライトにより完全に囲まれているので、比較的能率的である。 車両(図示せず)はフェライト(10102)の左側に存在しており、変化する磁束は実質的にフェライト(10102)の内部に閉じこめられるので、車両をボルト等(たとえ鋳鉄製でも)により直接フェライト(10102)に取り付けてもよい。 ピックアップコイルは1台の車両に1つ以上存在するが、これは1次誘導ループの設計周波数で共振する同調回路より成る。好ましくは、該ピックアップコイルはフェライト材より成るコアの中央脚を巻回する多数のリッツ線より成り、該コアは誘導結合の効果を増大する磁束集中機能を与える。共振電流は大電流であり、導体の巻数も多いので、使用時にコイルの付近に高磁界を生じる。好ましくは、共振コンデンサ(共振周波数を調整するために附加コンデンサユニットを用意してもよい)をコイルと並列接続し、コンデンサに整流手段(好ましくは急速電力整流ダイオード)を接続し、整流手段を負荷と直列に接続することである。さらに多くの電力を引き出すことができるので高Qピックアップコイルを有することが望ましいが、コイルのQの増加はその大きさと価格を増加する傾向があるのでその折衷案が必要である。さらに、高Qピックアップコイルは動作周波数の小さな変動に対する同調の問題を提起する。 巻数と、並列接続されるべき共振コンデンサとは、後続の回路と最適の状態で整合をとるのに必要な電圧/電流比を実現するように選択してもよい。図11に示す如く、ピックアップコイル用のコアは1次ループからの磁束の交差を最大にするよう位置している。 第2ピックアップコイルをフェライトコアに取り付けて、主ピックアップコイルを磁束からしゃ蔽する減結合手段として使用してもよい。その動作は制御器に関連して説明する(後述の「同調ピックアップコイルと動作特性」参照)。 さらに補助ピックアップコイルを好ましくは前記主ピックアップコイルと結合しない場所に設け、車上の電気回路を別々に励磁してもよい。 スイッチモード電源の詳細-図12〜図14 スイッチモード制御器の簡単な略図を図14に示す。コイル同調コンデンサ(14112)の電圧は(14114)により整流され、(14121)と(14122)とによりフィルタがかけられてdc電圧を発生する。コンパレータ(14117)はこの電圧を監視し基準電圧(14118)と比較し、もし負荷電力がピックアップコイルから出力できる最大電力より小さいときはコンデンサ電圧が増加する。これによりコンパレータにスイッチ(14113)を投入せしめて有効にピックアップコイルを短絡する。ダイオード(14122)によりdc出力コンデンサの短絡を防止する。この作用の結果、ピックアップコイルから転送した電力は実質的にはゼロである。従って、(14115)のdc電圧は前記コンパレータがスイッチ再開放する点まで減少する。このスイッチングの生ずる割合は該コンパレータと、コンデンサ(14115)の大きさと、負荷電力と最大コイル出力電力との間の差についてのヒステリシスより決定される。 図12にスイッチモード制御器をさらに詳細に示す。 本図面では、ピックアップコイルは(12P1)において端子(1)と(3)との間に接続される。コンデンサ(12CT1),(12CT2)等々(1.1μFの電気容量が得られるようにするには、通常、5個必要である)は、共振コンデンサである。4個の高速回復ダイオード(12D4-D7)より成るブリッジ整流器は、コンデンサ(12C7)と(12C8)のチョーク入力フィルタより成る(12L1)への入力信号を整流する。このDC電力はコネクタ(12P2)の端子(1)と(3)との負荷に供給される。このdc電圧は(12R1)により監視され且つ(12IC1:A)により緩衝される。もしこれが(12REF3)により決定される基準値を超過するときは、コンパレータ(12IC1:B)が、ピックアップコイルを短絡させる役目を持った大電流FET装置(12T1)を導通させる。この切替動作の好ましい割合は通常30Hzである。(12T2)はこのFETに限流保護を与えると共にバリスタ(12V1)は電圧保護を与える。 もし、負荷電力がピックアップコイルから得られる最大値を超過しても、出力電圧は常に(12REF3)で設定した基準値以下でありスイッチ(12T1)は通常オフである。もし、負荷がインバータ駆動交流モータであると、高加速時にこれが起り得る。図12の制御器は、かかる場合に前記インバータにその加速度を減少するよう指示するための光学的結合制御信号を発生することにより最大電力転送を維持する手段を備える。該信号は(12P2)の電圧と、(12REF3)により設定した基準レベルより低くされた三角形搬送波とを比較することにより発生する。該三角形搬送波は(12IC1:D)がこの比較を遂行する間、弛緩発振器(12IC1:C)により発生させられる。光学的絶縁は(12IC2)により与えられる。 かくして、図12の回路は出力電圧を上限と下限との間に維持するようにし、ピックアップコイル内の共振電流を上限以下に維持する。 同調ピックアップコイルと動作特性。 軽負荷車両が、該軽負荷車両よりも1次ループから遠い位置にある他の車両に電力が届くのを妨げるという事態が、特に1次ループが共振状態にあるような設備において起こり得る、ということが判明した。このような事態は、前記軽負荷ピックアップコイルを循環する高レベルの電流が、1次インダクタ内の共振電力と相互作用する結果として起こる。従って、制御器または車両電力コンディショナは、2つの別々の車両機能を結合するものが開発され、すなわち、2つの機能とは、コイル出力電圧がプリセット閾値より上昇するときはいつでもピックアップコイルを離脱または動作不能にする機能と、出力電流ドレインが第2閾値を越えるときはいつでも出力電流を制限する機能である。本システムは、最大電力を扱うものとは異なり、80%以上の変換効率を与えることができるので、好ましい電力制御方法だと言える。 ピックアップコイルの離脱はコイルを1次導体に接近した最適の位置から物理的に離反せしめることにより機械的に行なうことができる。離脱はまた電気的にも行なえる。例えば、電流の流れを中断するために共振回路内の直列スイッチを開放してもよい。調整目的のために繰り返し開放(例えば約20-100Hzで)して目標値を上下する出力電圧を与えてもよい。車両走行制御のためには、上記直列スイッチは、希望する時間が経過する間、開いたままにしておけるものであってもよい。この方法は、該スイッチが2方向スイッチでなければならないという欠点、および、上記直列スイッチが、ピックアップコイルの観測共振電流レベルにおいて2ボルト以上の電圧降下を発生し、多分50〜100Wのロスを生ずるという欠点を有する。第2の選択としては、コンデンサに接続されたスイッチを投入することにより、そしてそれによって共振素子をシステムから切離すことにより、ピックアップコイルを短絡させることが好ましい。この投入スイッチが多くの電流を流さないのは回路がもはや共振ではないからである。それで損失は小となり、とにかく負荷担持モードを害するものではない。前記スイッチの投入時には共振回路の蓄積電荷は小である。もし所望の出力が大電流の低電圧出力であれば、このスイッチが短絡すると、かなりのロスを生ずるので、第3の選択は比較的多くの巻数を有する第2のピックアップコイルを設けることである。このようなコイルを短絡させると、該スイッチを流れる電流は比較的小さい。 誘導ピックアップコイルを使用する車両システムの動作時、モータの要求する出力電力は広範囲に亘って変化する。その結果、電力需要もまた広く変化する。軽負荷の場合には、平行伝送線路に帰還させられるインピーダンスもまた広く変化するので問題が起きる。本例では、1対の平行導体は図16に示すように、送電線と考えなければならない。 図16に於て、Reffはピックアップコイルの同調回路への実効モータ負荷を表わし、これは図13の誘導ピックアップコイルに対応し、もし送電線が電圧源により駆動されると実効相互結合は図17に示す回路により示される。 相互結合Mの効果は等価抵抗を1次側に転送することである。且つこれは図18に示す回路により表わされ、図9において、もしωが大きければ、Mの値が小さくても(すなわち結合係数が小さくても)、電力を伝達する能力は大である。 過負荷モータはReff=無限大に対応し、一方軽負荷モータはReff〜0に対応する。かくして、ω2M2/Reff->00の過負荷の場合、電力は転送されないし、ω2M2/Reff->無限大の軽負荷では平行送電線の電流を維持することはますます困難となる。後者は甚しく望ましくないもので、これは1つの軽負荷車両は同一電線路の他の車両への電力をブロックできるからである。 好ましくは、高周波交流を送電線に供給することで、かかる高周波電流は高周波交流発電機により発生してもよく、さらに好ましくは前記した如くパワー・エレクトロニクス回路により発生してもよい。パワー・エレクトロニクス回路の場合は、発振周波数はループにかかる継続的な無効負荷により決定され、また軽負荷車両の影響は動作周波数を10KHzから数百Hzまでという好ましい周波数範囲から逸脱させるという形で現われる。こうすれば、非同調回路は低(無効)インピーダンスを反映するので、ω2M2/Reff->無限大の問題は解決されるが、非同調性は再び他の車両への電力の流れを制限する。 この問題は、送電線と同調ピックアップコイルとの間の結合の度合を疎にすることによって回避することができる。この解決は、ω2M2/Reffという項は本質的には、只1つの変数-相互インダクタンスであり、2つの磁気回路間の結合係数を意味するところの相互インダクタンスというただ1つの変数しか持っていない、ということを基礎としている。この、通常は一定と考えられている結合係数を小さくすることができれば、相互作用も減らすことができる。 1つの提案としての解決法を図19に示す。付加コイルを送電線とピックアップコイルとの間に配置する。この付加コイルはスイッチ(S)を有し、これを開放すれば付加コイルは何の影響も及ぼさない。しかしスイッチ(19S)が投入されると、この短絡コイルが磁束の交差を防止し、これにより結合が減少し、従ってMが減少する。前記付加コイルの位置決めは大して重要なことではない。この付加コイルは、若干の磁束を捕捉しさえすれば作動する。また、付加コイルは、磁束を捕捉はするものの、インダクタンスへの影響はできるだけ少ないことが特に好ましい。実用的には、これを達成することは困難ではない。スイッチ(19S)は多数の公知のパワー・エレクトロニクス・スイッチのうちの1つであってよい。 動作時、同調回路VTの電圧が監視されて、もし高くなりすぎると回路の負荷が小さくなりすぎるので、スイッチSを入れて電圧を減少させる。電圧VTが低いとスイッチ(S)は開放のままとなる。 この回路は整流器の制御を行うためにやはりVTを使用する過負荷サーキットリーと両立させることができる。 好ましい実施例2-150W形式 この好ましい実施例は小型150W試作品を使用したもので、これは車上ブラッシュレスDCモータを使用して1台または複数台の車両を、10KHzで励磁した1次ケーブルの上に敷設した軌道に沿って移動させるものである。このシステムは整流火花がなく鉱山のような爆発性雰囲気に対しても適応させることができる。 高周波DC-AC電力変換 本装置の電源用回路は図6に略示する。 高周波ケーブル(6101),(6102)に供給する電流は共振モードで動作してほぼ完全に10KHz正弦波形を形成するソリッドステイトスイッチングコンバータ(6100)を用いて発生させる。従って導体から放射される無線周波数干渉は、電力の高調波成分が1%以下と低いので無視しうる。このシステムは空港のような通信の激しい場所で動作するに適している。 本実施例の共振回路は、電源装置内のセンタタップ付きインダクタ(6L1)とコンデンサ(6C1)との内部に含まれている。従ってこれらの構成要素は前記共振電流の強さを支持することができなければならない。誘導導体も同一の周波数で共振することが好ましい。この設計は前記変圧器(6L1)に電気絶縁の役目をさせるものであるので、安全性が重要とされる小型システムに特に適しており、さらに(6Edc)から供給される比較的高い電源電圧を異なる電圧に変圧しなければならない場合にも使用し易い。 軌道に必要な電流逓昇を与え、且つコンバータの動作周波数の負荷変化の影響を最小限度にするために、前記フェライトつぼ型コアの高周波変圧器の巻線比は、2次側に只1つの巻線のみを配置する本実施例で高くなっている。さらに周波数への負荷の影響を最小限度にするために前記高周波同調回路のインピーダンス(Z=√(L1/C1))は意図的に低くされる。しかしながら、Zの値を選択するときには妥協が必要である。Zの値を小さくしすぎると、1次循環電流が大電流となるので効率が悪くなり、C1の電気容量を大きくしなければならなくなるので、コンバータの価格や大きさを増大させる必要が生ずる。1次側変圧器巻線(L1)は、表皮効果による損失を少なくするため、小径の絶縁素線を多数より合わせたもので構成すべきであるが、入力インダクタLsは、本質的にDC電流のみが流れるので通常のソリッド線を巻いて形成することができる。 図6に略示する共振コンバータは、図5に示すような回路を用いて、(6L1)と(6C1)とのリンギング周期である180°おきに2つのスイッチ(6S1),(6S2)を交互にゲートすることにより制御される。もし入力電圧(6Edc)が(起動時に発生するように)一定レベルより低いときは、f=1/√(L1C1)の回路に対する大体の共振周波数で動作する発振器によりゲートは制御される。一旦電圧Edcがこの設定レベルを超過し且つ数ミリ秒が経過すると、固定発振器は発振をやめ、その代りスイッチ(S1),(S2)が、(C1)の電圧零交差を検出するたびに切替わることにより減衰共振周波数でゲートされる。これにより全負荷条件下で(S1)と(S2)とはゼロ電圧でオンオフし、この2つの装置の切替えロスを最少限にする。 2つの電力スイッチ(6S1)と(6S2)をMOSFETsとして示すが、これらは等しくバイポーラトランジスタ、IGBTsまたはGTOs(ゲートターンオフサイリスタ)、または特定業務に必要な電力レベルを取り扱うように設計したその他のソリッドステイトスイッチでもよい。これらのゲートは図5に示したような制御器により駆動される。 図7に関連して述べた容量性同調のためのプロセスはこの種の共振制御器にも適用される。 高周波ケーブル また、本実施例に於て、移動車両の走行径路に沿って電力を配電する高周波ケーブルは、ほぼ平行な1対のケーブルより構成され、それぞれのケーブルは表皮効果と隣接導体の導電ロスとを減少させるために、リッツ線として知られる、多数の細い絶縁ワイヤより構成することが好ましい。市販のリッツ線の好ましい1つの形式は直径約13mm内に40ゲージエナメル銅線の撚線約10,000本を含み、しかも安価なものである。2本のケーブルの間の間隔は大して重要なことではないが、もし接近しすぎておれば磁界は各々打消し合って車両のピックアップコイルへの結合が不良となる。反対に、もし離れすぎていると、ピックアップコイルに、磁界でカットされない電流を流す部分がかなり生ずるので、損失が不必要に大きくなる。加えて、軌道のインダクタンスは増加し、これは所要の電流を循環させるために電圧をさらに加えなければならないことを意味する。この問題は、図2に示すようにケーブルに直列コンデンサを設置して無効電力を減らすことによりある程度緩和し得るが、ケーブルのため、追加の価格と容積が必要になる。 誘導ピックアップコイル このピックアップコイルの1形式は、好ましくは矩形の非鉄金属の巻型に多重撚線を数回巻回して形成する。その幅は高周波ケーブルと大体同一である。該多重撚線は好ましくはリッツ線(前記したような)である。本実施例では、強磁性コアは使用していない。また前記コイルは、コンデンサと並列に接続し、コンデンサの電気容量は、共振回路を構成して該コイルを配電電力の周波数(すなわち10KHz)に同調させるように選択する。より大きな電力を取り出すために、高Qピックアップコイルを備えることが望ましい。また、コイルのQの増加はコイルの大きさと価格とを増加する傾向があるので妥協しなければならない。補助ピックアップコイルが設けられて、最大電力コンバータ用の制御器を電源に接続し、且つ同期させる。 最大電力AC-DCコンバータ もし適当な動力変換ステージを前記最大電力コンバータの後に追加するならば、原則として、誘導モータのようなACモータを含むすべての適切なモータが、トロリーを駆動するのに使用可能である。1つの試作品システムで試験したモータは、安価で軽量という利点のあるブラシレスDC型で、あまり保守を必要とせず、しかも危険な環境での運転に適している。 最大電力AC-DCコンバータを図11に示し、このコンバータのための制御器の詳細を図13に示す。 ピックアップコイルから最大電力を低Q条件ないし中間Q条件のもとで調達するために、図13に略示するバッキングコンバータを使用し、且つ好ましくは無負荷の場合の半分より決して下位でないQを負荷ピックアップコイル(13L2)が有することを確保するように制御される。最大電力を送り出すレベルにピーク電圧(13V1)を維持するように、(13S3)(図14に示す回路のための制御器を切り替える。もしV1(図11)がV1ref(図13)を超過すれば、次に(13C2)の電圧がゼロ交差を通過した時に、機器(13S3)が「オン」となる。もし半サイクル中に(13V1)がV1refを越えないならば次のゼロ交差の時に(13S3)が「オフ」となる。このように半サイクルごとの積分制御を行うことにより、スイッチングロスを最少限にし、且つ放射無線周波数干渉も最小となる。 図13は、(ICL7667)によって構成される出力ドライバー(13102)を介して(11S3)のゲートを駆動し得る制御回路を示し、また(13106)は(13101)で10V出力を発生する補助コイルにより電力を供給される電源装置である。 (13104)は零交差検出器で、検出する高周波電流の位相にロックされる。零交差検出器(13104)の出力をスパイクに変換し、次にD-フリップフロップ回路(13107)を閉じるため、零交差検出器(13104)の出力はパルス整形回路(13105)を通過させられる。電源装置が起動モードの閾値(入力側の時定数を参照)にあることをコンパレータ(13100)が示し、従ってゲート(13108)に制御パルスが入力されている限り、D-フリップフロップ回路(13107)はゲート・ドライバを活性化する。(13103)はコイルの電圧レベルの1次センサであり、(13109)を使用可能ならしめる。 モータ駆動装置 図15はDCを供給できるモータ駆動装置の1形式を示し、これはまた供給電圧15Voに比例する出力トルクを与える(適当な電力変換ステージを最大電力コンバータの後に追加するならば原則としてどんなモータでも、例えば誘導電動機のようなACモータでも、車両駆動用に使用可能である)。試作システムに採用したモータは安価で軽量で保守費が安く、また火花が無く危険な環境での運転にも適しているブラシレスDC形である。モータ・シャフトの回転を減速して有用な駆動トルクを発生させるために減速ギヤボックスを、モータと、車両の車輪との間に介在させる。好ましい実施例では、所定の繰返し周期でモータ転流スイッチ(15S4,S5,S6)に抑止入力を加えてモータ・シャフトの回転数を制御することにより、車両の慣性を制御することができる。速度制御回路は本発明のの範囲を越えるもので従ってこの明細書では触れない。この実施例では、軌道の両端部に簡単なリミットスイッチを備え、モータを逆転させる。 (15101)は電子ブレーキで、モータ巻線をダイオード(15102)を介して互に結合する手段も設けられている。 軌道からの電力制御 車両が行なわなければならない仕事を達成すべき電力を車両上にて制御することが好ましい。しかし、軌道からの制御が有用である場合がある。ゼロ近くで利用可能な電力に対して制御配線を軌道上またはこれと接近して取付けることができ、図21で示すように短絡させることができる。スイッチ(S)が開いておれば効果はない。また投入時には車両は該軌道のこの部分を通過することはできないが、その何れかの側で正規の動作が可能である。 軌道の一部で電力を増加させるには、図21のようにコイルを使用してそれに通電することができる。本図面に於て、コイルは上部に位置する導体により通電される。このコイルを通過するトロリーは軌道電流の2倍の電流(2I)を供給され、これにより2倍の電力レベルで動作することができる。 この方法とその他の簡単な方法で、軌道周囲の簡単なループとコイルとを使用して車両を制御することができる。スイッチ(S)が開いておれば、車両がコイルをカバーするとき出力電圧が上昇するので、図20のように、このコイルは車両を感知するためにも使用することができる。それで、もし必要であればスイッチを投入して車両を正確な地点で停止させることができる。これらの技術の応用として例えば交差点で衝突が起きないように感知コイルを使用して交差点で車両を制御することができる。 変形例 図22は、2次軌道の導体に直接接続され、1次軌道の導体に誘導結合されたピックアップコイルを用いて、1次軌道(2212)から2次軌道(2210,2211)へ、いかにして電力を伝達するかを示している。2次軌道において、異なる電流の強さまたは異なる周波数が必要となった時には、(2213)に示すように追加の電力コンバータを使用してもよい。 図23は、ピックアップコイル(2303)のコンデンサ(2302)と並列のスイッチ(2301)を示す。このスイッチ(2301)を入れると回路が非共振となり、且つ1次コイル(図示せず)とピックアップコイル(2303)との間で授受される電力を減少せしめる。 スイッチ動作を適宜制御することによりピックアップコイルの受け取る電力量を制御することができる。 図24は、スイッチ(2401)がコンデンサ(2402)とインダクタ(2403)とに直列であり、スイッチが開放時に共振電流が流れるのを防止するやや好ましい配置を示す。 図25は、相補型負荷回路である。これは制御器のDC出力を主装置(2503)(電動機のような)に供給する制御器(2502)を有するピックアップコイル(2501)を備える。 相補負荷としての抵抗器(2504)はスイッチ(2505)により制御される。これは、たとえ主機(2503)に軽負荷しかかかっていなくても、ピックアップコイルには常に全負荷がかかるように、抵抗器(2504)をオン状態にしておく時間を制御するパルス幅変調装置となり得る。このような配置は低電力用として有用であるが、1次電源は常時全電力を供給しなければならないので、高電力用には非能率的となる。 図26〜図28は、バッテリ充電器(図26)と白熱灯照明装置(図27)および蛍光灯照明装置(図28)を含む他の変形例を示す。1次導体(2601),(2701),(2801)は、可動装置(2602,2702,2802)に電力を供給する。各可動装置は、供給される電力を充電するため、1次導体に接近したり、1次導体から離れたりすることができる。 前記バッテリ充電器は、前記した車両制御器と同等となし得る制御器(2604)により一定の電流をバッテリ(2603)に与えることができる。 同様に、図27は、バッテリの代わりに白熱灯(2703)を示す。このランプは当該地域の送配線のAC電圧に対応するDC電圧を供給される。それ故に、ニュージランドでは、同国の230VAC電線に適した照明器に使用するため、出力を230Vの直流に設定すればよい。 商用周波のもとで、ランプのインダクタンスによって起ることのある問題を回避するため、白熱電球には直流を供給することが好ましい。照明器具を1次導体に接近させたり、1次導体から離したりすることによってピックアップコイルに供給する電力量を変更することができる。 図28には、ピックアップコイル(2802)に誘起される高周波ACが供給される蛍光灯照明具(2803)を示す。 種々の変形例を本発明の範囲を逸脱することなく下記クレームに記載する如く構成することはできる。 (57)【特許請求の範囲】 1.電源と、 該電源に接続された一次導電路と、 前記一次導電路と結合して使用する2つ以上の電気装置であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイルを有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と、 を備え、 前記電気装置は、電気的に前記一次導電路とピックアップコイルの結合度を部分的に変化させる制御手段を備える ことを特徴とする誘導電力分配システム。 2.特許請求範囲第1項記載の誘導電力分配システムであって、 前記制御手段は、間欠的に一次導電路とピックアップコイルの結合度を変化させる手段を有することを特徴とするもの。 3.特許請求範囲第2項記載の誘導電力分配システムであって、 前記制御手段は、一次導電路とピックアップコイルの結合度が変化されない期間には、共振回路は多くの共振周波数のサイクルを含むように制御することを特徴とするもの。 4.特許請求範囲第1項記載の誘導電力分配システムであって、 前記電気装置は、可動または可搬型装置であることを特徴とするもの。 5.特許請求範囲第1項記載の誘導電力分配システムであって、 前記制御手段は、前記一次導電路とピックアップコイルとの間で授受される電力を変動する手段を備えることを特徴とするもの。 6.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記出力負荷は、1つ以上のバッテリに電力を供給する電池充電器より成ることを特徴にするもの。 7.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路は、前記ピックアップ共振周波数とほぼ同一の一次共振周波数を有する共振回路を備えることを特徴とするもの。 8.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路とピックアップコイルとの間で授受される電力を変動する手段は、前記各電気装置に取付けられていることを特徴とするもの。 9.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路とピックアップコイルとの間で授受される電力を変動する手段は、分離コイルを備え、該分離コイルはこのコイルを開回路と短絡回路に切替えるスイッチを有し、これにより該スイッチが1つの状態から他の状態へ切替えられると、前記一次導電路とピックアップコイルとの間で授受される電力が変動することを特徴とするもの。 10.特許請求範囲第9項記載の誘導電力分配システムであって、 前記分離コイルは、前記一次導電路に近接して取付けられることを特徴とするもの。 11.特許請求範囲第9項記載の誘導電力分配システムであって、 分離コイルが、前記各電気装置に取付けられることを特徴とするもの。 12.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記ピックアップ共振回路は、コンデンサとインダクタを備え、前記一次導電路とピックアップコイルとの間で授受される電力を変動する手段は、該コンデンサと直列に接続され、前記回路を共振回路と開回路に切替えるスイッチを備え、従って該スイッチが開くと、共振電流が前記ピックアップコイルに流れることが妨げられることを特徴とするもの。 13.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路とピックアップコイルとの間で授受される電力を変動する手段は、ピックアップコイルを共振回路と短絡回路に切替える前記ピックアップコイルの両端に設けられるスイッチより成り、従って該コイルが短絡されると、共振電流がピックアップコイルに流れることが妨げられることを特徴とするもの。 14.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記電源は電気的に同調可能であることを特徴とするもの。 15.特許請求範囲第7項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次共振回路と組合わされる電源は、前記一次共振周波数とほぼ同一の周波数の正弦波交流電流を発生することを特徴とするもの。 16.特許請求範囲第15項記載の誘導電力分配システムであって、 前記電源は、少くとも1つのスイッチを有するスイッチングコンバータと、前記共振一次導電路の電力位相を検出する手段と、前記共振一次導電路の位相を検出する手段に接続された前記スイッチを制御する手段を備え、これにより使用時は少くとも1つのスイッチは、位相を前記共振一次導電路内の共振電力の位相にロックするように制御されることを特徴とするもの。 17.特許請求範囲第16項記載の誘導電力分配システムであって、 前記電源は単相電源であり、且つ前記少くとも1つのスイッチは少くとも1対の相補スイッチより成ることを特徴とするもの。 18.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記ピックアップ共振回路は、少くとも1つのコンデンサと少くとも1つのインダクタとを有する直列共振回路であることを特徴とするもの。 19.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記ピックアップ共振回路は、少くとも1つのコンデンサと少くとも1つのインダクタとを有する並列共振回路であることを特徴とするもの。 20.特許請求範囲第19項記載の誘導電力分配システムであって、 前記インダクタは、磁気的に透過可能なコアを有することを特徴とするもの。 21.特許請求範囲第5項記載の誘導電力分配システムであって、 前記電気装置は、車輌、電気器具、電気手工具、電気機械、電池充電器または照明器具を備えるグループから選択されたものであることを特徴とするもの。 22.高周波電源と、 該高周波電源に接続された一次導電路と、 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の車両であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイルを有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する車両と、 を備え、 前記一次導電路は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され、 前記車両のピックアップコイルのコアをE字状に形成し、前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し、前記一対の導体がそれぞれ、前記コアの両凹部内で、かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され、 前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、アルミニウムにより形成されていること を特徴とする誘導電力分配システム。 23.特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 ピックアップコイルは2つのコンデンサとともにピックアップ共振周波数を有する直列共振回路を構成することを特徴とするもの。 24.特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記車両は、第2コイルを備え、該第2コイルは前記ピックアップコイルと同一磁気回路を有するコアに巻かれていることを特徴とするもの。 25.特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路は、終端にコンデンサを接続したことを特徴とするもの。 26.特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記出力負荷に、前記ピックアップコイルにかかる負荷を一定とする相補負荷を接続することを特徴とするもの。 27.特許請求範囲第22項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路の導体の少なくとも一部をループ状としたことを特徴とするもの。 28.高周波電源と、 該高周波電源に接続された一次導電路と、 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイルを有し、且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と、 を備え、 前記一次導電路は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され、 前記電気装置のピックアップコイルを中心のコア全体に渡って複数回、巻回し、前記電気装置のピックアップコイルの中心が前記一対の導体のほぼ中央に位置するように配置された 前記ピックアップコイルのコアに対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること を特徴とする誘導電力分配システム。 29.特許請求範囲第27項記載の誘導電力分配システムであって、 前記一次導電路は、終端にコンデンサを接続したことを特徴とするもの。 30.電源と、 該電源に接続された一次導電路と、 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、少くとも1つの誘導ピックアップ手段を有し、且つ該誘導ピックアップ手段に誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と、 を備え、 少くとも1つの誘導ピックアップ手段はピックアップ共振周波数を有する共振要素を含み、 前記一次導電路から少くとも一つの前記誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段を備えたこと を特徴とする誘導電力分配システム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2004-08-02 |
結審通知日 | 2004-08-04 |
審決日 | 2004-08-23 |
出願番号 | 特願平4-504164 |
審決分類 |
P
1
122・
851-
YA
(H02J)
P 1 122・ 841- YA (H02J) P 1 122・ 831- YA (H02J) P 1 122・ 832- YA (H02J) P 1 122・ 121- YA (H02J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 杉田 恵一 |
特許庁審判長 |
三友 英二 |
特許庁審判官 |
村上 哲 岩本 正義 |
登録日 | 1997-06-27 |
登録番号 | 特許第2667054号(P2667054) |
発明の名称 | 誘導電力分配システム |
復代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 梶 良之 |
代理人 | 梶 良之 |
代理人 | 梅澤 健 |
代理人 | 森本 義弘 |
復代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 森本 義弘 |
復代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 福田 親男 |
代理人 | 梅澤 健 |
復代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 福田 親男 |