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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1121043
異議申立番号 異議2003-71387  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-23 
確定日 2004-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3352522号「ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体及び該発泡体の製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3352522号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第3352522号は、平成6年2月9日に出願され、平成14年9月20日にその特許権の設定登録がなされ、その後、東レ株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、それに対し、その指定期間内である平成15年10月14日に、特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、期間経過後に特許権者より上申書が提出され、訂正拒絶理由通知がなされ、それに対し、その指定期間内である平成16年3月24日に意見書とともに手続補正書が提出され、同時に、特許異議申立人に対し審尋がなされ、それに対し回答書が提出され、さらに取消理由通知がなされ、それに対する特許権者からの応答がなかったものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、補正の内容と補正の適否
平成16年3月24日付の手続補正書によると、補正の内容は、訂正請求書によって訂正された特許請求の範囲請求項2における「5.5<A+B<6.5…………(1)」及び「6.0<A×B<7.5…………(2)」を、それぞれ「5.5≦A+B<6.5…………(1)」及び「6.0≦A×B≦7.5…………(2)」とする訂正を削除し、それとともに、上記の訂正に関連して、発明の詳細な説明において訂正された個所をすべて削除しようとするものである。
上記補正は、単に訂正事項を削除するものであるので、訂正請求の要旨を変更するものとは認められず、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第131条第2項の規定に適合するので、上記補正を認める。
イ、訂正の内容
補正された訂正請求書による訂正の内容は次のとおりである。
訂正a:特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行って得たポリオレフィン架橋樹脂発泡体であって、該ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、該分散相の平均面積が1.8μm2以下であることを特徴とするポリオレフィン系架橋樹脂発泡体。」を、
「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行って得たポリオレフィン系架橋樹脂発泡体であって、上記樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度における上記ポリプロピレン系樹脂と上記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度の比が3倍以内であると共に、上記ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、該分散相の平均面積が1.8μm2以下であることを特徴とするポリオレフィン系架橋樹脂発泡体。」と訂正する。
訂正b:明細書の段落【0007】を、
「【課題を解決するための手段】この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行って得たポリオレフィン系架橋樹脂発泡体であって、上記樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度における上記ポリプロピレン系樹脂と上記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度の比が3倍以内であると共に、上記ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、該分散相の平均面積が1.8μm2以下であることを特徴とするものである。」と訂正する。
訂正c:明細書の段落【0020】中の
「上記したとおりの樹脂分散構造のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を得るためには、樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度におけるポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂樹脂の溶融粘度を一致させるか、もしくはより近づけるのがよい。具体的には、混練温度におけるこれらの樹脂の溶融粘度の比を3倍以内にすることが好ましく、より好ましくは2倍以内とする。」を、
「上記したとおりの樹脂分散構造のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を得るためには、樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度におけるポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂樹脂の溶融粘度を、混練温度におけるこれらの樹脂の溶融粘度の比が3倍以内となるように調整し、より好ましくは2倍以内となるように調整する。」と訂正する。
ウ、訂正の適否
訂正aは、特許請求の範囲の請求項1において、「ポリオレフィン架橋樹脂発泡体」を「ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体」と訂正するとともに、「上記樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度における上記ポリプロピレン系樹脂と上記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度の比が3倍以内であると共に」と付け加えるものであり、前者については、他の箇所と同じ表現に訂正するものであるから誤記の訂正に該当し、また、後者については、明細書の段落【0020】に基づいて、混練における条件を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、訂正b及びcは、特許請求の範囲の訂正である訂正aに伴い、発明の詳細な説明において整合性を保つための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、これらの訂正a〜cは、願書に添付した明細書の範囲内において訂正するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ、まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、訂正明細書の請求項1〜3に係る発明
訂正明細書の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行って得たポリオレフィン系架橋樹脂発泡体であって、上記樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度における上記ポリプロピレン系樹脂と上記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度の比が3倍以内であると共に、上記ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、該分散相の平均面積が1.8μm2以下であることを特徴とするポリオレフィン系架橋樹脂発泡体。
【請求項2】 ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に、次式(1)及び(2)を満足する照射量の電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行うことを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を製造する方法。
5.5<A+B<6.5 …………(1)
6.0<A×B<7.5 …………(2)
(但し、Aは多官能モノマーのポリオレフィン系樹脂100重量部に対する混和量:重量部、Bは電離性放射線の照射量:Mradである。)
【請求項3】 請求項2記載のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を製造する方法において、ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂45〜95重量%とポリエチレン系樹脂55〜5重量%とからなり、多官能モノマーがビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはアリル基を分子内に2個以上有する多官能モノマーの一種もしくは二種以上であることを特徴とするポリオレフィン系架橋樹脂発泡体の製造方法。」
イ、本件発明1について
当審では、平成16年6月2日付で、刊行物1:特開昭62-256842号公報(特許異議申立人提出甲第1号証)及び参考資料2:東レ株式会社、ペフ製造部部員、塚田宗暁作成「実験報告書」(特許異議申立人提出の平成16年3月25日付「回答書」添付の甲第3号証)に基づいて、本件発明1について、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり、その特許は取り消すべきものであるとの取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答もなく、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明1の特許は、この理由によって取り消すべきものである。
ロ、本件発明2及び3について
本件発明2及び3については、平成15年8月6日付で、明細書の記載に不備が認められ、特許法第36条第5項第2号の規定に違反するとの取消理由を通知し、それに対し、平成15年10月14日付の訂正請求書の訂正により記載不備が解消したとの意見書が提出されたが、上記訂正は、平成16年3月24日付の補正により削除されており、上記取消理由は解消されていない。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明2及び3の特許は、この理由によって取り消すべきものである。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1は、上記刊行物1に記載された発明であり、本件発明1の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、本件発明2及び3の特許は、特許法第36条第5項第2号の要件を満たさない出願に対して特許されたものである。
したがって、本件発明1〜3についての特許は、拒絶を査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2号の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体及び該発泡体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行って得たポリオレフィン系架橋樹脂発泡体であって、上記樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度における上記ポリプロピレン系樹脂と上記ポリエチレン系樹脂の溶融粘度の比が3倍以内であると共に、上記ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、該分散相の平均面積が1.8μm2以下であることを特徴とするポリオレフィン系架橋樹脂発泡体。
【請求項2】 ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に、次式(1)及び(2)を満足する照射量の電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行うことを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を製造する方法。
5.5<A+B<6.5…………(1)
6.0<A×B<7.5…………(2)
(但し、Aは多官能モノマーのポリオレフィン系樹脂100重量部に対する混和量:重量部、Bは電離性放射線の照射量:Mradである。)
【請求項3】 請求項2記載のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を製造する方法において、ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂45〜95重量%とポリエチレン系樹脂55〜5重量%とからなり、多官能モノマーがビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはアリル基を分子内に2個以上有する多官能モノマーの一種もしくは二種以上であることを特徴とするポリオレフィン系架橋樹脂発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、耐熱性、二次加工性に優れ、特に表皮材等との積層に好適なポリオレフィン系架橋樹脂発泡体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリオレフィン系樹脂の発泡体は、一般的に柔軟性、断熱性に優れており、従来より、天井、ドアー、インストルメントパネル等の車両内装材として用いられている。
これらの内装材は、主にポリオレフィン系樹脂発泡体に、塩化ビニル系樹脂シート、熱可塑性エラストマーシート、布状物、皮革等の表皮材が積層され、真空成形や圧縮成形等の二次加工によって所定の形状に成形されている。
【0003】
この二次加工の際の成形温度は160℃程度となることが多く、また、発泡体の耐熱性、伸び等の物性が不十分であると、発泡体が破断したりし、その結果、表皮材の剥離が起こり、積層体に表面の膨れ、皺等が生じ易かった。
【0004】
このような問題点に関し、ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体の耐熱性を向上させるため、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との混合した樹脂を用いることが試みられており、また、発泡体の好ましい架橋を実現させるため、特定の架橋助剤を選択すること(例えば、特公昭46-38716号公報、特公昭58-57542号公報)、架橋量を特定なものとすること(特公昭63-1977号公報)等の試みがなされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、架橋反応を行わせる際に用いられている架橋助剤は、各樹脂成分に対する相溶性がそれぞれ異なるため、架橋助剤の各樹脂への分散が異なる。そのため、各樹脂成分の架橋度が異なってきて、発泡体中の各樹脂の分散状態を所望のものとすることが困難であった。
その結果、従来得られた発泡体では、ポリエチレンが部分的に連続相となったり、また、ポリエチレンが巨大化したり、不均一な分散となっていた。
【0006】
この発明は、上記の点に鑑み、耐熱性に優れ、高温時での良好な伸びを示し、例えば表皮材等と積層したものの二次加工性のよいポリオレフィン架橋発泡体の製造方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行って得たポリオレフィン系架橋樹脂発泡体であって、上記樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度におけるポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の溶融粘度の比が3倍以内であると共に、上記ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、該分散相の平均面積が1.8μm2以下であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂に多官能モノマー及び有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に、次式(1)及び(2)を満足する照射量の電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行うことにより、上記のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を得る方法である。
5.5<A+B<6.5…………(1)
6.0<A×B<7.5…………(2)
(但し、Aは多官能モノマーのポリオレフィン系樹脂100重量部に対する混和量:重量部、Bは電離性放射線の照射量:Mradである。)
【0009】
また、請求項3記載のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体の製造方法は、ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン系樹脂45〜95重量%とポリエチレン系樹脂55〜5重量%との混合物を用い、これに多官能モノマーとしてビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはアリル基を分子内に2個以上有する多官能モノマーの一種もしくは二種以上と有機系熱分解型発泡剤を混和させてなる樹脂組成物を、有機系熱分解型発泡剤を分解させることなく成形し、この成形された成形体に、電離性放射線を上記と同じ照射量で照射して架橋反応を行わしめ、この架橋された成形体を発泡剤が分解するに十分な高温雰囲気中で発泡反応を行うことにより、上記のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を得る方法である。
【0010】
上記のポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とする共重合体であって、例えば、ポリプロピレン、プロピレンを主成分とするプロピレン-エチレン共重合体、プロピレンを主成分とするプロピレン-プロピレン以外のα-オレフィン共重合体があげられる。プロピレン以外のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等があげられる。
これらのポリプロピレン系樹脂は、メルトインデックスが0.3〜8(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5である。
ポリプロピレン系樹脂のメルトインデックスが0.3未満であると押出が困難となり、8を超えると耐熱性が不十分となる等の問題が生ずるからである。
【0011】
ポリエチレン系樹脂は、エチレン単独重合体、エチレンを主成分とする共重合体であって、例えば ポリエチレン、エチレンを主成分とするエチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル類、酢酸ビニル等との共重合体である。なお、α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等があげられる。
これらのポリエチレン系樹脂は、メルトインデックスが2〜25(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜20である。
ポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが2未満であると、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が悪くなって樹脂の分散構造が所望のものとならず、25を超えると耐熱性が不十分となる等の問題が生ずるからである。
【0012】
この発明においては、ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂とポリエチレン系樹脂とからなるものであるが、ポリプロピレン系樹脂の含有比率が高すぎると、発泡体は必要以上に硬いものとなり、逆に低すぎると発泡体の強度や耐熱性が失われたり、また発泡体中における樹脂の分散状態が所望のものとならないので、ポリプロピレン系樹脂の含有比率が45〜95重量%でポリエチレン系樹脂の含有比率が55〜5重量%であることが必要である。
さらに好ましいのは、ポリプロピレン系樹脂の含有比率が50〜80重量%でポリエチレン系樹脂の含有比率が50〜20重量%である。
【0013】
有機系熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等があげられる。これらの発泡体は単独で用いてもよいし、併用することもできる。
この熱分解型発泡剤の混和量は特に限定されないが、通常ポリオレフィン系樹脂の総量100重量部に対して1〜50重量部である。
【0014】
多官能モノマーとしては、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはアリル基を分子内に2個以上有する多官能モノマーが特に好適に用いられる。
このような多官能モノマーの具体例としては、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、シアノエチルアクリレート、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等があげられる。これらの多官能モノマーは単独で使用される他、二種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
多官能モノマーの混和量は特に限定されないが、通常ポリオレフィン系樹脂の総量100重量部に対して0.5〜30重量部、より好ましくは1〜15重量部である。0.5重量部未満であると発泡させるに十分な架橋度が得られないし、30重量部を超えると、組成物表面へのブリード等の問題が生ずるからである。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂には、得られる発泡体の特性を損なわない範囲に、塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、過酸化ベンゾイルで例示される樹脂架橋のためのラジカル発生剤、フェノール系、リン系、アミン系、硫黄系等の抗酸化剤、金属害防止剤、難燃剤、充填剤、帯電防止剤、顔料等を混和することができる。
【0017】
この発明においては、上記の樹脂組成物を熱分解型発泡剤が分解しない温度で混練し、板状、シート状、管状等所定の形状に成形するが、この成形方法としては押出成形やその他の成形方法があげられる。
樹脂組成物の混練成形装置としては、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール等従来の装置が用いられる。
【0018】
この発明においては、未発泡状態の成形体に対して、電離性放射線を照射して架橋反応を行わせるが、電離性放射線としては、α線、β線、γ線、電子線等があげられる。この電離性放射線の照射線量は、通常1〜20Mradであることが好ましい。より好ましくは1〜6Mradである。照射線量が1Mrad未満であると、架橋度が低すぎて強度が不足したりして十分な発泡倍率の発泡体が得られず、逆に20Mradを超えるような高い線量であると得られる発泡体は必要以上に硬いものとなり、柔軟性が失われるからである。
【0019】
この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を得るのに好ましい架橋条件としては、多官能モノマーの混和量がA(重量部、ポリオレフィン系樹脂の総量100重量部に対して)であるとき、次式(1)及び(2)を満足するような電離性放射線量B(Mrad)を照射する。
5.5<A+B<6.5……………(1)
6.0<A×B<7.5……………(2)
A+Bの値が、5.5以下であると、得られる発泡体の架橋度が不足して十分な耐熱性、強度のものが得られず、6.5以上であると架橋した成形体が必要以上に硬くなるからである。また、A×Bの値が、6.0以下であると得られる発泡体の架橋度が不足して十分な耐熱性、強度のものが得られず、7.5以上であると架橋した成形体が必要以上に硬くなり、発泡体の樹脂の分散構造を所望のものにすることが困難となるからである。
【0020】
上記したとおりの樹脂分散構造のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体を得るためには、樹脂組成物を混練して成形する際の混練温度におけるポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂樹脂の溶融粘度を、混練温度におけるこれらの樹脂の溶融粘度の比が3倍以内となるように調整し、好ましくは2倍以内となるように調整する。ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂樹脂の溶融粘度の比が3倍を超えると、樹脂の分散構造が不均一になり、分散粒子における巨大相の割合が多くなって不適当となるからである。
【0021】
こうして架橋した成形体の発泡は、発泡体を熱分解させることにより発泡させるものであるが、その方法としては、加熱炉に供給して加熱発泡させる方法、加熱ロールにて加熱して発泡させる方法等の常圧下での発泡方法、発泡型内で加熱して発泡させる方法等があげられる。
【0022】
この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体の用途の一つとして、表皮材と積層され、二次加工により所定の形状に成形された、天井、ドアー、インストルメントパネル等の車両内装材があげられる。
この表皮材としては、従来から用いられた表皮材が使用でき、例えば塩化ビニル系樹脂シート、熱可塑性エラストマーシート、天然、人造の布状物、レザー等があげられる。これらの表皮材は、発泡体に接着剤によって接着されたり、熱ラミネートにより熱融着されて積層させられる。この積層の際、発泡体の表面にコロナ放電処理を行う等の表面処理を行い、表皮材との接着性をさらに向上させることができる。
【0023】
【作用】
ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とは互いに非相溶性であり、両者を均一に混合するのは困難であり、これを混練して混練体(アロイ)としたものは、連続相(海相)と非連続相(島相)からなる、いわゆる海島構造、もしくは両相が連続相である海海構造をとる。そして、ポリプロピレン系樹脂はポリエチレン系樹脂に比して高融点であり、高温時の伸び、強度等の物性が優れているため、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との混合樹脂から製した発泡体を、二次加工時の高温で発泡体を延伸させた場合の破断は、主にポリエチレン系樹脂の部分で起こるものと考えられる。
【0024】
この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、その任意の切断面において、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相であって、この分散相の平均面積は1.8μm2以下と、ポリエチレン系樹脂が細かく分散し非連続状態となっており、その結果、混練体(アロイ)の高温時の物性は、主としてポリプロピレン系樹脂樹脂に依存するので良好となる。したがって、得られた発泡体は、二次加工の際の高温時においても連続相のポリプロピレン系樹脂が延伸される結果、破断したりすることがなく、発泡体の膨れ、破れ等が生じない。
【0025】
よって、この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体に表皮材を積層する等した積層体は、大きな剪断力を受ける真空成形や圧縮成形等の二次加工の際にも、二次加工品の表面にふくれが生じたり、表皮材が剥離したりする等の不具合がなく、複雑で深い形状の外観良好なものに二次加工することができる。
【0026】
また、この成形された成形体に、上記したとおりの照射条件で電離性放射線を照射して架橋反応を行わしめることにより、ポリプロピレン系樹脂が連続相、ポリエチレン系樹脂が分散相となり、任意の切断面において、分散相の平均面積が1.8μm2以下となるような発泡体が容易に製造される。
【0027】
【実施例】
以下、この発明の実施例を説明する。
(実施例1)
表1に示すとおり、ポリプロピレン(メルトインデックス0.5)70重量部、ポリエチレン(メルトインデックス18)30重量部に、発泡剤としてアゾジカルボンアミド13重量部、多官能モノマーとしてトリメリット酸トリアリルエステル4.0重量部、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.3重量部及びジラウリルチオプロピオネート0.3重量部、金属害防止剤としてメチルベンゾトリアゾール0.5重量部を混和した樹脂組成物を、二軸押出機を用いて190℃の温度で押出し、厚さ1mmのシートを得た。
【0028】
このシートに、電子線1.5Mradを照射して架橋シートを得た。
この架橋シートを250℃のオーブンに5分間入れ、荷重をかけずに自由発泡させ、見かけ密度0.050g/cm3、厚さ3.2mmの発泡体を得た。
【0029】
得られた発泡体のゲル分率は、表1に示すとおりであった。このゲル分率は架橋度を示すものであり、発泡体の120℃におけるキシレン抽出残分値(%)で示されるが、発泡体0.1g程度を秤取してその気泡を潰し、温度120℃のキシレン50ミリリットル中で24時間保持した後、200メッシュの金網を透過させた残存物の乾燥重量(g)を量り、次式により算出した。
ゲル分率(%)=〔残存物乾燥重量(g)/秤取重量(g)〕×100
【0030】
一方、得られた発泡体をRuO4によって染色し、透過型電子顕微鏡写真撮影を行い、画像解析法によりポリエチレン系樹脂の分散状態を数値化し、分散相の平均面積を求めた。この結果は表1に示すとおりであった。
【0031】
また、発泡体を、オリエンテック社製テンシロン(形式UCD-500)用い、JIS K6767に準拠し、160℃で引っ張り、破断時の最大伸び率(%)を測定した。
【0032】
また、得られた発泡シートの表面にコロナ放電処理を行い、この表面処理面に塩化ビニル樹脂にABS樹脂を混和してなる市販の耐衝撃性タイプの塩化ビニル系樹脂シート(厚さ0.65mm)をポリエステル系接着剤を用いて貼り合わせて積層体を得た。
【0033】
この積層体について、真空成形を行って真空成形性及び外観を評価した。その結果は表1に示すとおりであった。
真空成形性は、遠赤外線ヒーターで積層体の発泡体の表面温度が150〜160℃となるように加熱し、これを円柱状窪み(直径:100mm、深さ:10mmから150mmまで10mm刻み)を持つ金型を用いて真空成形を行い、破断しない最大深さHmmを求め、直径D(100mm)との比(H/D)で表した。このH/D値が大きい程真空成形性がよいことになる。
外観は真空成形したものについて、目視によりヤブレ、フクレ、ヘコミ、表面荒さ等が一箇所でも見られた場合×とし、いずれもない場合を○として評価した。
【0034】
(実施例2、比較例1〜6)
ポリプロピレンとポリエチレンと配合比率、多官能モノマー、電子線の照射線量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂シート、発泡シート、積層体を得た。
得られた発泡体のゲル分率、樹脂の分散状態(分散相平均面積、ポリエチレンが分散相のケースのみ測定)、を実施例1と同様にして測定した。また、得られた積層体の外観、真空成形性の評価を実施例1と同様にして行った。これらの結果は表1に示すとおりであった。
【0035】
【表1】

【0036】
以上の結果から明らかなように、実施例1、2により得られた発泡体を用いた積層体は、H/D(真空成形性)が1.2以上で外観が良好であるのに対し、比較例1〜6の発泡体は、H/D(真空成形性)が1.2未満と劣り、H/Dが0.5以下である比較例3〜6については、いずれの場合も外観不良であった。
【0037】
【発明の効果】
この発明のポリオレフィン系架橋樹脂発泡体は、耐熱性や伸び率等の物性に優れていることから、真空成形性等の二次加工性に優れており、ヤブレ、フクレ、ヘコミ、表面荒さ等のない外観良好な二次加工体が容易に得られる。
また、このポリオレフィン系架橋樹脂発泡体に表皮材が積層体は、160℃程度の高温における深絞り成形が可能となり、種々の形態の製品が提供できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-17 
出願番号 特願平6-15381
審決分類 P 1 651・ 534- ZA (C08J)
P 1 651・ 113- ZA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 佐野 整博
船岡 嘉彦
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3352522号(P3352522)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 ポリオレフィン系架橋樹脂発泡体及び該発泡体の製造方法  

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