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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F |
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管理番号 | 1121046 |
異議申立番号 | 異議2003-71971 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-01-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-08-01 |
確定日 | 2004-11-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3376283号「アクリルゴム系衝撃強度改質剤およびこれを用いた硬質塩化ビニル系樹脂組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3376283号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3376283号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成10年7月14日に特許出願され、平成14年11月29日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 鐘淵化学工業株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年1月5日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1. 訂正の内容 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の 「アクリルゴム(B)とからなる」を、 「アクリルゴム(B)とからなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる、」と訂正する。 訂正事項b 段落【0008】及び【0010】の 「アクリルゴム(B)とからなる」を、 「アクリルゴム(B)とからなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる、」と訂正する。 訂正事項c 段落【0018】の 「重合方法は特に限定されないが、通常の方法としては」を、 「重合方法としては」と訂正する。 訂正事項d 段落【0037】、【0038】、【0039】及び【0040】を削除し、それ以下の段落番号を繰り上げる。 訂正事項e 段落【0041】及び【0043】の「A-9」を「A-8」と、 段落【0044】及び【0046】の「A-10」を「A-9」と、 段落【0047】の「実施例9〜16」を「実施例8〜14」と、「A-1〜10」を「A-1〜9」と、 段落【0051】の「A-9、10」を「A-8、9」と、それぞれ訂正する。 訂正事項f 段落【0052】の表1において、「A-8」の列を削除し、「A-9」を「A-8」に、「A-10」を「A-9」に繰り上げる。 訂正事項g 段落【0053】の表2において、「実施例16」の列を削除し、「実施例9〜15」の番号をそれぞれ1つ繰り上げる。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の明細書の「重合方法は特に限定されないが、通常の方法としては、まず上記アクリルゴム(A)ラテックスを乳化重合により得、そこへアクリルゴム(B)となる単量体を添加し、アクリルゴム(A)ラテックス粒子へ含浸させた後、通常のラジカル重合開始剤を作用させて行う。重合の進行と共にアクリルゴム(A)成分とアクリルゴム(B)成分とのポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムのラテックスが得られる。その、逆でもかまわない。」(段落【0018】)との記載に基づいて、請求項1の「アクリルゴムグラフト共重合体」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項b〜gは、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、対応する発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ガラス転移温度の異なる複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムに1種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、2-エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレートおよびステアリルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を構成成分とするアクリルゴム(A)とn-ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴム(B)とからなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる、アクリルゴム系グラフト共重合体を主成分とするアクリルゴム系衝撃強度改質剤。 【請求項2】 請求項1記載のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムのガラス転移温度が10℃以下に二つ以上あるアクリルゴム系衝撃強度改質剤。 【請求項3】 請求項1記載のアクリルゴム系衝撃強度改質剤と硬質塩化ビニル系樹脂とからなる樹脂組成物。」 4.特許異議の申立てについての判断 4-1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1〜3号証を提出して、概略、次の理由により本件請求項1〜3に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。 (1)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (3)本件特許明細書の記載には不備があるから、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1項及び第2項に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。 4-2.判断 4-2-1.取消理由 当審において、次の(1)及び(2)の取消理由を通知した。引用した刊行物等は以下のとおりである。 (1)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (註:上記4-1.及び4-2-1.の「請求項」とは訂正前のものを指す。) <刊行物等> 刊行物1; 特開平9-2169967号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 刊行物2; 特開昭53-2590号公報(特に、第7頁左上欄) 実験成績証明書1;中西 靖が作成した平成15年7月29日付け実験成績証明書(特許異議申立人が提出した甲第2号証) 4-2-2.刊行物の記載事項 刊行物1の請求項1には、 「アルキルアクリレートまたはポリオルガノシロキサンゴムをベースとしたコアと、ポリアルキルメタクリレートまたはスチレン/アクリロニトリル共重合体をベースにしたシェルとで構成されるコア/シェル型の耐衝撃添加剤において、下記(a)と(b)とで構成されることを特徴とする衝撃添加剤: (a)下記(1)と(2)とからなる架橋したエラストマーのコア:70〜90重量%:(1)下記〔1〕と〔2〕からなり、必要に応じてさらに〔3〕を含む共重合体(I)の核:20〜100重量%、好ましくは20〜90重量%: 〔1〕アルキル基の炭素数が5〜12であるn-アルキルアクリレート、アルキル基の炭素数が2〜12である直鎖または分岐鎖を有するアルキルアクリレートの混合物またはポリオルガノシロキサンゴム、 〔2〕分子内に不飽和基を有し、不飽和基の少なくとも1つはCH2=CH<のビニル基である多官能性架橋剤、 〔3〕分子内に不飽和基を有し、不飽和基の少なくとも1つはCH2=CH-CH2-のアリル基である多官能性グラフト剤、(ここで芯に含まれる多官能性架橋剤と任意成分の多官能性グラフト剤の量は0.05〜5モル%) (2)下記〔4〕と〔5〕より成るの共重合体(II)の表皮:80〜0重量%、好ましくは80〜10重量%: 〔4〕アルキル基の炭素数が4〜12であるn-アルキルアクリレートまたは上記(1)で定義のアルキルアクリレート混合物、 〔5〕分子内に不飽和基を有し、不飽和基の少なくとも1つがCH2=CH-CH2-のアリル基であるグラフト剤、(ここで、表皮に含まれるグラフト剤の量は0.05〜2.5モル%) (b)下記〔6〕、〔7〕または〔8〕で構成され、上記コアにグラフトされたシェル、30〜10重量%: 〔6〕アルキル基の炭素数が1〜4であるポリアルキルメタクリレート、 〔7〕アルキル基の炭素数が1〜4であるアルキルメタクリレートとアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートとのランダム共重合体(アルキルアクリレートの含有量は5〜40モル%)、 〔8〕スチレン/アクリロニトリル共重合体。」(註:「〔1〕」等は原文では丸付き数字)が記載されている。 また、請求項28には、「請求項1〜27にいずれか一項に記載の耐衝撃添加剤を含む熱可塑性ポリマー組成物。」が、請求項30には「熱可塑性ポリマーがポリアルキルメタクリレート、特にポリメチルメタクリレート、過塩素化されていてもよい塩化ビニルのホモポリマー、重合した塩化ビニル成分を少なくとも80重量%含む塩化ビニルとエチレン性不飽和コモノマーとの共重合、1,1-ジクロロエチレンのホモポリマーまたは1,1-ジフルオロエチレンのホモポリマーで構成される群の中から選択される一つまたは複数のポリマーから成る請求項28に記載の組成物。」が記載されている。 さらに、同第8頁第14欄第23行〜第9頁第15欄第17行の実施例8には、n-オクチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体(I)からなる核とn-ブチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体(II)から成る表皮から成る架橋したエラストマーのコアにメチルメタクリレートをグラフトさせて耐衝撃添加剤を製造したことが記載されている。 刊行物2の第7頁左上欄には、重合体組成物のTgを個々の単量体の均質重合体のTgに基づいて計算する方法が、フオツクス〔Bull. Am. Physics Soc. 第1巻第3号123ページ(1956年)〕により記述されていること、及びそのような計算のための均質重合体のTgが例示されている。 4-2-3.対比、判断 (1)本件発明1 上記のとおり刊行物1には、アルキルアクリレート等をベースとしたコアと、ポリアルキルメタクリレート等をベースにしたシェルとで構成されるコア/シェル型の耐衝撃添加剤が記載されており、コアが、(1)〔1〕アルキル基の炭素数が5〜12であるn-アルキルアクリレート、アルキル基の炭素数が2〜12である直鎖または分岐鎖を有するアルキルアクリレートの混合物またはポリオルガノシロキサンゴム、及び〔2〕分子内に不飽和基を有し、不飽和基の少なくとも1つはCH2=CH<のビニル基である多官能性架橋剤、からなる核、並びに、(2)〔4〕アルキル基の炭素数が4〜12であるn-アルキルアクリレートまたは上記(1)で定義のアルキルアクリレート混合物、及び〔5〕分子内に不飽和基を有し、不飽和基の少なくとも1つがCH2=CH-CH2-のアリル基であるグラフト剤、からなる表皮、からなる架橋したエラストマーのコアであることも記載されている。また、刊行物1には、n-オクチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体(I)からなる核とn-ブチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体(II)から成る表皮から成る架橋したエラストマーのコアにメチルメタクリレートをグラフトさせて耐衝撃添加剤を製造した「実施例8」が示されている。 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両発明はともにアクリルゴムを主成分とする衝撃強度改質剤である点で一致しており、刊行物1に記載された発明における「コア」及び「シェル」は、それぞれ本件発明1における「複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム」及び「(グラフト重合されてなる)1種以上のビニル系単量体」に相当するものである。 しかしながら、これらの発明の間には、以下の点で相違が認められる。 (ア)本件発明1においては「ガラス転移温度の異なる複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム」を用いるのに対し、刊行物1には、コアを構成する材料のガラス転移温度について特に規定していない点、 (イ)本件発明1においては「ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム」が「2-エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレートおよびステアリルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を構成成分とするアクリルゴム(A)とn-ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴム(B)とからなる」とされているのに対し、刊行物1には、コアを構成する核と表皮がそれぞれこのような材料の組合せからなることについて記載されていない点、及び、 (ウ)本件発明1における「ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる」ものであるのに対し、刊行物1にはコアの表皮を形成する単量体が核に含浸して重合することについて記載がない点。 そこで、これらの相違点の内、まず(イ)の点についてみると、刊行物1の実施例8には、n-オクチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体(I)からなる核とn-ブチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体(II)から成る表皮から成る架橋したエラストマーのコアにメチルメタクリレートをグラフトさせて耐衝撃添加剤を得る実施例が示されているものの、核を構成するn-オクチルアクリレート/アリルメタクリレート共重合体の成分であるn-オクチルアクリレート及びアリルメタクリレートは本件発明1にアクリルゴム(A)及びアクリルゴム(B)の成分として挙げられた単量体のいずれにも該当しない。特許異議申立人は、刊行物1の実施例8においてn-オクチルアクリレートに換えて2-エチルヘキシルアクリレートを用いても効果上格別の差異がないとする実験データ(実験成績証明書1)を示し、n-オクチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートとが同等のものとして取り扱われることは常識的なことである旨主張しているが、これらの化合物は化学構造を異にし、形成する重合体のガラス転移点も異なる(刊行物2の第7頁左上欄の表参照。)ものであって、グラフト基体としてのアクリルゴムの構成材料として互いに置換し得ることが本件の出願前に当業界で周知であったものと認めるべき根拠も見出せないから、実施例8に、n-オクチルアクリレートを2-エチルヘキシルアクリレートに換えた耐衝撃添加剤が実質的に開示されているものとすることはできない。また、刊行物1のその他の箇所にも、コアを構成する核と表皮を本件発明1の(イ)のような材料の組合せとすることは記載も示唆もされていない。 次に、相違点(ウ)について検討すると、刊行物1には、核を形成させた後に表皮となる単量体を重合させることが記載されているにとどまり、該単量体を核に含浸させて重合することを教示する記載は見出せない。また、特許異議申立人が提出した実験成績証明書1には、訂正前の本件明細書の実施例1を追試して得られた改質剤、及び実施例1においてアクリルゴム(A)のラテックス粒子へアクリルゴム(B)となる単量体を含浸させる工程を経ずに次の工程に進むことにより製造した改質剤の特性を評価したとする実験結果が示されているが、訂正前の本件明細書の実施例1の追試実験と称する実験においては乳化剤の量が大幅に変更されており、適正な追試実験であると認めることはできない。 そして、本件発明1は、これらの構成要件(イ)及び(ウ)により、本件訂正明細書に記載された所定の効果を奏し得たのであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1が刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいうことができない。 (2)本件発明2 本件発明2は本件発明1に係る発明を更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいうことができない。 (3)本件発明3 本件発明3は本件発明1の衝撃強度改質剤と硬質塩化ビニル系樹脂とからなる樹脂組成物の発明であるが、上記したように本件発明1が刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいうことができないのであるから、本件発明1の衝撃強度改質剤を含む樹脂組成物に係る本件発明3も又、同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいうことができない。 4-2-4.その他の特許異議申立理由について 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の記載には下記(i)〜(iii)の不備があるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第36条第6項第1項及び第2項に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである旨の主張もしている。 (i)請求項1の「ガラス転移温度の異なる複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム」という記載からは複数のゴム成分のガラス転移温度がどれだけ異なるのか不明である、 (ii)n-ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴム(B)を含むポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムにn-ブチルアクリレートを重合させた場合、アクリルゴム系グラフト共重合体が得られるとはいえない、及び、 (iii)発明の詳細な説明には、本発明は従来より少量の添加量で耐衝撃性等の良好な成型品を売ることができる旨記載されているが、請求項3には請求項1記載のアクリルゴム系衝撃強度改質剤の使用量が規定されていない。 しかしながら、本件訂正明細書において、(i)ガラス転移温度の差の程度によって請求項1に係る発明の目的の達成如何が左右されるものとは認められず、(ii)n-ブチルアクリレートを含むポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムにn-ブチルアクリレートをグラフト重合させる場合であっても、グラフト基体であるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムにはn-ブチルアクリレート以外の成分が含まれているので、複数成分よりなる重合体、すなわち「共重合体」が得られるものと認められ、更に、(iii)請求項3にアクリルゴム系衝撃強度改質剤の使用量が規定されていないことにより請求項3に係る発明が実施できないとすることはできないから、特許異議申立人の明細書記載不備に関する主張も採用することはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては、本件発明1〜3についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過処置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 アクリルゴム系衝撃強度改質剤およびこれを用いた硬質塩化ビニル系樹脂組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ガラス転移温度の異なる複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムに1種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、2-エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレートおよびステアリルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種を構成成分とするアクリルゴム(A)とn-ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴム(B)とからなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる、アクリルゴム系グラフト共重合体を主成分とするアクリルゴム系衝撃強度改質剤。 【請求項2】 請求項1記載のポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムのガラス転移温度が10℃以下に二つ以上あるアクリルゴム系衝撃強度改質剤。 【請求項3】 請求項1記載のアクリルゴム系衝撃強度改質剤と硬質塩化ビニル系樹脂とからなる樹脂組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、耐候性、特に耐退色性および耐衝撃性に優れたアクリルゴム系衝撃強度改質剤と硬質塩化ビニル系樹脂とからなる樹脂組成物に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 一般に知られているように、塩化ビニル樹脂成型品は耐衝撃性に劣る。この耐衝撃性を改良するために、多くの方法が提案されている。なかでも、ブタジエン系ゴム状重合体にメチルメタクリレートやスチレンあるいはアクリロニトリルなどをグラフト重合させたMBS樹脂が、現在ひろく使用されている。 【0003】 しかし、MBS樹脂を塩化ビニル樹脂と混合して用いると、耐衝撃性は改良されるが、耐候性が悪く、製造された成型品を屋外で使用すると、耐衝撃性が著しく低下するという欠点がある。それ故、現在MBS樹脂の使用が制限されている。 【0004】 この耐候性が低下する主な原因は、MBS樹脂を構成するブタジエン単位の紫外線劣化に基づくものと考えられている。 【0005】 MBS樹脂の耐候性を改良し、かつ、耐衝撃性を付与するため、二重結合を全く含まないアルキル(メタ)アクリレートと架橋剤とからなる架橋アルキル(メタ)アクリレートゴム重合体にメチルメタクリレートやスチレンあるいはアクリロニトリルなどをグラフト重合させた方法が提案されている(特公昭51-28117号公報)。 【0006】 この方法によって得られたアクリル系グラフト共重合体を用いると、製造される成型品の耐候性は優れており耐衝撃性の低下は少ないものの、衝撃強度を発現させるためには多量に添加する必要があり衝撃強度発現性に劣る。特に低温衝撃発現性はMBS樹脂と比較して劣る。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、少量の添加量で、耐衝撃性(特に低温衝撃性)および耐候性の良好な成型品を得ることができる改質剤を得ることにある。 【0008】 本発明の要旨は、ガラス転移温度の異なる複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムに1種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、2-エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレートおよびステアリルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種を構成成分とするアクリルゴム(A)とn-ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴム(B)とからなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる、アクリルゴム系グラフト共重合体を主成分とするアクリルゴム系衝撃強度改質剤およびこれを用いた硬質塩化ビニル系樹脂組成物にある。 【0009】 【発明の実施の形態】 以下本発明を詳細に説明する。 【0010】 本発明のアクリルゴム系衝撃強度改質剤は、ガラス転移温度の異なる複数のゴム成分からなるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムに1種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、2-エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレートおよびステアリルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種を構成成分とするアクリルゴム(A)とn-ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴム(B)とからなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、一方のアクリルゴムのラテックス粒子へもう一方のアクリルゴムとなる単量体を含浸させこれを重合してなる、アクリルゴム系グラフト共重合体を主成分とするものである。 アクリルゴム(A)由来のガラス転移温度はアクリルゴム(B)由来のガラス転移温度より低いことが更に好ましい。 【0011】 ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムにおいては、アルキル(メタ)アクリレート単独あるいは、それらの混合物が用いられる。 【0012】 【0013】 また、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、ガラス転移温度を10℃以下に二つ以上有することが好ましい。 【0014】 【0015】 このポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムにスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、メタクリル基変性シリコーン等の各種のビニル系単量体がなどが少量共重合成分として添加されても構わない。 【0016】 架橋剤(C)としては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多感能メタクリル基変性シリコーンなどのシリコーン等が挙げられる。 【0017】 グラフト交叉剤(G)としては、例えばアリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは架橋剤として用いることもできる。これら架橋剤並びにグラフト交叉剤は単独であるいは2種以上併用して用いられる。これら架橋剤およびグラフト交叉剤の合計の使用量はポリアルキル(メタ)アクリレート成分中0〜20重量%である。 【0018】 重合方法としては、まず上記アクリルゴム(A)ラテックスを乳化重合により得、そこへアクリルゴム(B)となる単量体を添加し、アクリルゴム(A)ラテックス粒子へ含浸させた後、通常のラジカル重合開始剤を作用させて行う。重合の進行と共にアクリルゴム(A)成分とアクリルゴム(B)成分とのポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムのラテックスが得られる。その、逆でもかまわない。 【0019】 2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレートおよびステアリルメタクリレートのうち少なくとも一種が主成分であるアクリルゴム(A)を乳化重合で得る場合、これら単量体は水溶性に乏しいため強制乳化重合法が製造上好ましい。 【0020】 このポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムにグラフト重合させるビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等の各種のビニル系単量体が挙げられ、これらは単独あるいは2種以上組み合わせて用いられる。 【0021】 アクリルゴム系グラフト共重合体における上記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムと上記ビニル系単量体の割合は、このグラフト共重合体の重量を基準にしてポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム5〜95重量%およびビニル系単量体5〜95重量%が好ましく、さらにはポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム25〜90重量%およびビニル系単量体10〜75重量%が好ましい。ビニル系単量体が5重量%未満では樹脂組成物中でのグラフト共重合体の分散性が悪くなり加工性が低下し、また95重量%を超えると衝撃強度発現性が著しく低下する。 【0022】 アクリルゴム系グラフト共重合体は、上記ビニル系単量体をポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムのラテックスに加えラジカル重合技術によって一段であるいは多段で重合させて得られる。アクリルゴム系衝撃強度改質剤はこのグラフト共重合体ラテックスを、硫酸、塩酸などの酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、または硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固し分離、回収することによりが得られる。また、スプレードライ法などの直接乾燥法などでも得られる。 【0023】 上記方法により得たアクリルゴム系衝撃強度改質剤は、硬質塩化ビニル系樹脂(PVC系樹脂)に用いることができる。 【0024】 アクリルゴム系衝撃強度改質剤の配合量は、硬質塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部の範囲が好ましく、さらには1〜20重量部の範囲が好ましい。 本発明の硬質塩化ビニル系樹脂組成物には、また、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂のコンパウンド時、混練時、成形時に、慣用の安定剤、充填剤などを添加することができる。 【0025】 該安定剤としては、例えば三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛などの鉛系安定剤、カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤、アルキル基、エステル基と脂肪酸塩、マレイン酸塩、含硫化物から誘導される有機スズ系安定剤、Ba-Zn系、Ca-Zn系、Ba-Ca-Sn系、Ca-Mg-Sn系、Ca-Zn-Sn系、Pb-Sn系、Pb-Ba-Ca系等の複合金属石けん系安定剤、バリウム、亜鉛などの金属基と2-エチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸などの分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸、ナフテン酸などの脂肪環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体などの芳香族酸といった通常二種以上の有機酸から誘導される金属塩系安定剤、これら安定剤を石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体などの有機溶剤に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、酸化防止剤、プレートアウト防止剤、滑剤等の安定化助剤を配合してなる金属塩液状安定剤等といった金属系安定剤のほか、エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化合物、リンがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基などで置換され、かつプロピレングリコールなどの2価アルコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、などの芳香族化合物を有する有機亜リン酸エステル、BHTや硫黄やメチレン基などで二量体化したビスフェノールなどのヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミンまたはニッケル錯塩の光安定剤、カーボンブラック、ルチル型酸化チタン等の紫外線遮蔽剤、トリメロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの多価アルコール、β-アミノクロトン酸エステル、2-フェニルインドール、ジフェニルチオ尿素、ジシアンジアミドなどの含窒素化合物、ジアルキルチオジプロピオン酸エステルなどの含硫黄化合物、アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β-ジケトンなどのケト化合物、有機珪素化合物、ほう酸エステルなどといった非金属系安定剤が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いられる。 【0026】 充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウムなどの炭酸塩、酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維のような無機質系のもの、ポリアミド等のような有機繊維、シリコーンのような有機質系のもの、木粉のような天然有機物が挙げられる。 【0027】 その他、MBS,ABS,AES,NBR,EVA,塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム系グラフト共重合体、熱可塑性エラストマーなどの衝撃強度改質剤、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体などの加工助剤、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、ピロメットなどの芳香族多塩基酸のアルキルエステル、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジシオノニルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジイソノニルアゼレートなどの脂肪酸多塩基酸のアルキルエステル、トリクレジルフォスフェートなどのリン酸エステル、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸などの多価カルボン酸とエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコールなどの多価アルコールとの分子量600〜8,000程度の重縮合体の末端を一価アルコールまたは一価カルボン酸で封止したものなどのポリエステル系可塑剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸-2-エチルヘキシルなどのエポキシ系可塑剤、塩素化パラフィンなどの可塑剤、流動パラフィン、低分子量ポリエチレンなどの純炭化水素、ハロゲン化炭化水素、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸などの脂肪酸、脂肪酸アミドなどの脂肪酸アミド、グリセリドなどの脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)、金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステルなどのエステル、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体など、これら滑剤、塩素化パラフィン、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、ハロゲン化合物などの難燃剤、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、イミド系共重合体、スチレン・アクリロニトリル系共重合体などの耐熱向上剤、離型剤、結晶核剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、防曇剤、発泡剤、抗菌剤等を添加することができる。 【0028】 また、アクリルゴム系衝撃強度改質剤は硬質塩化ビニル系樹脂に限らず、半硬質、軟質塩化ビニル系樹脂(PVC系樹脂)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのオレフィン系樹脂(オレフィン系樹脂)、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、ABS、ASA、AES、などのスチレン系樹脂(St系樹脂)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル系樹脂(Ac系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂)、ポリアミド系樹脂(PA系樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂(PEs系樹脂)、(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)などのエンジニアリングプラスチックス、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2-ポリブタジエン、トランス1,4-ポリイソプレンなどの熱可塑性エラストマー(TPE)、および、PC/ABSなどのPC系樹脂/St系樹脂アロイ、PVC/ABSなどのPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABSなどのPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PPなどのPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBTなどのPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PEなどのオレフィン系樹脂どうしのアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PAなどのPPE系樹脂アロイ、PVC/PMMAなどのPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイなどのポリマーアロイに用いることができる。 【0029】 アクリルゴム系衝撃強度改質剤をこれら樹脂に添加した樹脂組成物には、また、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂のコンパウンド時、混練時、成形時に、硬質塩化ビニル樹脂組成物に用いられる安定剤、充填剤などを添加することができる。 【0030】 本発明の樹脂組成物を製造するための方法に特に制限はなく、通常の方法が満足に使用できる。しかしながら一般に溶融混合法が望ましい。少量の溶剤の使用も可能であるが、一般に必要ない。装置としては特に押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を例として挙げることができ、これらを回分的または連続的に運転する。成分の混合順は特に限定されない。 【0031】 【実施例】 以下の実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。説明文中の「部」は「重量部」を示す。 【0032】 (実施例1)アクリルゴム系衝撃強度改質剤(A-1)の製造 2-エチルヘキシルアクリレート99部、アリルメタクリレート1部を混合し、(メタ)アクリレート単量体混合物100部を得た。アルケニル琥珀酸ジカリウム塩を1部溶解した蒸留水300部に上記(メタ)アクリレート単量体混合物100部を加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備撹拌した後、ホモジナイザーにより300kg/cm2の圧力で乳化、分散させ、(メタ)アクリレートエマルジョンを得た。この混合液をコンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、窒素置換および混合撹拌しながら加熱し70℃になった時に少量の水に溶解した過硫酸カリウム1部を添加した後70℃で5時間放置し、重合を完結しアクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)を得た。 【0033】 得られたアクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)の重合率は98.5%であり、平均粒子径は0.19μmであった。また、このラテックスをエタノールで凝固乾燥し固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ91.4重量%であった。 【0034】 上記アクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)を120部採取し撹拌機を備えたセパラブルフラスコにいれ、蒸留水205部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、アクリルゴム(B-1)の構成成分であるn-ブチルアクリレート53.9部、アリルメタクリレート1.1部およびtert-ブチルヒドロペルオキシド0.22部の混合液を仕込み30分間撹拌し、この混合液をアクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で2時間保持し重合を完了してポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム(AB-1)のラテックス(ABLx-1)を得た。このラテックスを一部採取し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムの平均粒子径を測定したところ0.24μmであった。また、このラテックスを乾燥し固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ97.3重量%であった。 【0035】 このポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックスに、tert-ブチルヒドロペルオキシド0.06部とメチルメタクリレート15部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムへのグラフト重合を完了した。メチルメタクリレートの重合率は、96.4%であった。得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5重量%の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリルゴム系衝撃強度改質剤(A-1)を98.9部得た。 【0036】 (実施例2〜7)アクリルゴム系衝撃強度改質剤(A-2〜7)の製造 表1に示す仕込み組成以外はA-1と同様の方法でアクリルゴム系衝撃強度改質剤A-2〜7を作製した。 【0037】 (比較例1)アクリル系グラフト共重合体(A-8)の製造 撹拌機を備えたセパラブルフラスコに蒸留水295部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n-ブチルアクリレート83.3部、アリルメタクリレート1.7部およびtert-ブチルヒドロペルオキシド0.4部の混合液を仕込み30分間撹拌し、この混合液をポリオルガノシロキサン粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ、その後内温710℃で2時間保持し重合を完了してポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックスを得た。このラテックスを一部採取し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムの平均粒子径を測定したところ0.22μmであった。また、このラテックスを乾燥し固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ97.3重量%であった。 【0038】 このポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックスに、tert-ブチルヒドロペルオキシド0.06部とメチルメタクリレート15部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムへのグラフト重合を完了した。 【0039】 メチルメタクリレートの重合率は、97.2%であった。得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5重量%の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリル系グラフト共重合体A-8を得た。 【0040】 (比較例2)アクリル系グラフト共重合体(A-9)の製造 撹拌機を備えたセパラブルフラスコに蒸留水295部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、2-エチルヘキシルアクリレート29.7部、n-ブチルアクリレート53.9部、アリルメタクリレート1.4部およびtert-ブチルヒドロペルオキシド0.34部の混合液を仕込み30分間撹拌し、この混合液をポリオルガノシロキサン粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で2時間保持し重合を完了してポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックスを得た。このラテックスを一部採取し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムの平均粒子径を測定したところ0.24μmであった。また、このラテックスを乾燥し固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ98.3重量%であった。 【0041】 このポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックスに、tert-ブチルヒドロペルオキシド0.06部とメチルメタクリレート15部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムへのグラフト重合を完了した。 【0042】 メチルメタクリレートの重合率は、98.1%であった。得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5重量%の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリル系グラフト共重合体A-9を得た。 【0043】 (実施例8〜14、比較例3〜5) 上記実施例および比較例で得られたアクリルゴム系衝撃強度改質剤およびグラフト共重合体A-1〜9の他、商業的に入手可能な三菱レイヨン社製MBS系改質剤’メタブレンC-223’を表2に示す量だけ、下記塩化ビニル樹脂配合に添加し、表2に示す物性評価を行った。 【0044】 なお、ガラス転移点の測定は、得られたサンプルを70部とPMMA30部とともに250℃の25φ単軸押し出し機でペレット化し、200℃設定のプレス機を用い、3mm厚みに調製した板を、およそ幅10mm長さ12mmに切り出し、TA Instruments 社DMA983型により、昇温速度2℃/minの条件で測定した。 【0045】 配合A:塩化ビニル樹脂(重合度700) 100部 ジブチル錫マレート 3.5部 ステアリルアルコール 0.8部 加工助剤メタブレンP-700 0.4部 カーボンブラック 0.5部 改質剤 10部 配合B:塩化ビニル樹脂(重合度1100) 100部 二塩基性亜リン酸鉛 2.5部 二塩基性ステアリン酸鉛 0.7部 ステアリン酸鉛 0.5部 ステアリン酸カルシウム 0.9部 ポリエチレンワックス(分子量2200) 0.1部 炭酸カルシウム 5.0部 加工助剤(メタブレンP-501) 1.0部 カーボンブラック 0.5部 改質剤 10部 アイゾット耐衝撃性は、A配合を190℃に調温した25mmφ単軸押出機により、1/2”×1/4”角棒を押し出し、ASTM D256の方法によって評価した。 【0046】 耐候性は、B配合を関西ロール(株)6インチテストロール機を用いて、200℃、15rpmで5分間混練り後、200℃の金型に6分間はさみ、その後50kg/cm2の圧力を加えながら冷却して得られたシート試験片を、60℃に調温した大日本プラスチックス(株)製アイスーパーUVテスターに8時間かけた後、60℃、95%に調温・調湿した恒温恒湿器に16時間入れる操作を5回繰り返し、シート試験片の外観を目視評価した。 【0047】 一方、アクリル系グラフト共重合体A-8、9は衝撃強度発現性は乏しく、メタブレンC-223は、耐候性試験後の試験片は退色した。 【0048】 【表1】 【0049】 【表2】 【0050】 【発明の効果】 本発明者らは、耐候性、特に耐退色性および耐衝撃性に優れたアクリルゴム系衝撃強度改質剤とそれを用いた硬質塩化ビニル系樹脂組成物を開発した。このような硬質塩化ビニル系樹脂組成物は建材、自動車材、玩具、文房具などの雑貨、さらにはOA機器、家電機器など衝撃性が必要とされる分野に利用されるものである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-11-09 |
出願番号 | 特願平10-198882 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YA
(C08F)
P 1 651・ 121- YA (C08F) P 1 651・ 113- YA (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
石井 あき子 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2002-11-29 |
登録番号 | 特許第3376283号(P3376283) |
権利者 | 三菱レイヨン株式会社 |
発明の名称 | アクリルゴム系衝撃強度改質剤およびこれを用いた硬質塩化ビニル系樹脂組成物 |
代理人 | 秋山 文男 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 渡辺 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 佐木 啓二 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 田中 弘 |